6. 担当者が値上げを断る本当の理由とその対策

このコラムの概要

値上げをお願いしても、なぜ担当者はなかなか動いてくれないのでしょうか。
その理由は、担当者のやる気ではなく、立場や社内の仕組みにあります。
本コラムでは、担当者が値上げに応じられない理由と、交渉を進めるために必要な考え方と対応を解説します。

 
値上げ分は見積書にどう反映させればよいのか?で示した方法で値上げ資料を作為し、取引先に値上げをお願いしました。ところが

  • 「話をしても取り合ってくれない、話題をそらされてしまう」
  • 「値上げ資料を持って行こうとすると会ってくれない」

このような場合があります。これにはふたつ理由が考えられます。

  • 会社の方針として仕入先からの値上げを断るようにしている
  • 担当者個人が値上げ交渉を避けている

これはどういうことでしょうか?

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値上げを受け入れれば、自分たちが値上げ交渉しなければならない

 
例えば、図1のような階層構造のサプライチェーンになっている場合です。

図1 サプライチェーンの値上げ

例えば、自社が図1の二次下請の場合、原材料や光熱費の値上げは断ることはできません。値上げを断れば原材料を売ってくれないため、交渉の余地はありません。

そこで取引先の一次下請に値上げをお願いします。

取引先が値上げを受け入れた場合、
 

取引先は値上げを受入

 
この場合、取引先は自社の納入先(メーカー)に値上げ交渉をしなければなりません。これはかなり厳しい交渉になります。

経済産業省の「自動車産業適正取引ガイドライン」には、ティア1など下請け部品メーカー(といっても大企業)が顧客の自動車メーカーに対し、
「仕入価格の上昇を価格転嫁ができない」、
「値上げすると次のサプライヤー選定に影響すると言われた」
という事例が載っています。

こういった背景が顧客が仕入先からの値上げを拒否する一因です。

一方取引先が自社の値上げを拒否した場合、
 

取引先(一次下請けメーカー)は値上げを拒否

 
仕入先の値上げを拒否すれば、原価の上昇は限定的です。納入先(メーカー)と値上げ交渉をしなくて済むかもしれません。

このような構造があるため取引先は、できるだけ仕入先からの値上げ交渉を避けるのかもしれません。取引先がこのような対応を組織的に行っていれば、交渉でこれを変えるのは困難です。

この場合は、中小企業庁(下請かけこみ寺)や公正取引委員会にこういった事例を報告します。これを躊躇される方もいますが、発注側と受注側には力関係に差があります。それを1社で変えるのは困難です。そのために国もいろいろと動いているため、これを活用します。

担当者個人の問題の場合

 
あるいは企業は値上げ交渉を受け入れる体制ですが、担当者が動いてくれない場合があります。原因は

  • 購買は値下交渉をする部署で、値上げは担当者の成果にならない
  • 値上げは他の部署との折衝も必要なので面倒
  • 他の仕事で忙しい

などが考えられます。
 

担当者がスムーズに動ける資料

 例えば、仕入先から値上げの要請があれば、担当者は仕入先からの資料を上司、そして他の部署に回して社内の手続きを行います。例を図2に示します。

図2 値上げの決済の流れ

仕入先からの値上げ資料に金額しかなかったり、値上げの理由があいまいであれば、担当者は上司から修正を指示されます。担当者は仕入先に修正をお願いし、仕入先から修正した資料がくれば上司の決裁を受けます。

決裁された資料は、原価管理部署に送られ、そこで再び決済されます。そこで修正依頼があれば、書類は購買部に戻され担当者は仕入先に修正を依頼します。値上げ資料の内容が不十分だと、購買の担当者はこの処理に振り回されてしまいます。他に急ぎの仕事があれば、値上げは後回しになります。

従って値上げ資料は金額の明細や根拠を明記し、担当者はそのまま関係部署に回すことができるような資料にします。そこで値上げ資料は最初に担当者に見てもらい、不十分な点は指摘してもらいます。そしてできる限り取引先の内部でスムーズに決済されるような資料にします。

それでも忙しければ、値上げのような緊急性の低い仕事は後回しになってしまいます。そこで何度か電話したり、直接会って進捗を聞くなどして督促します。さらに担当者の上司にお願いする方法もあります。

どうしたら担当者と良好な関係を築くことができるのか?

 
値上げ交渉のような面倒な仕事を優先してやってもらうには、担当者との人間関係も重要です。人間関係が良好であれば、担当者へのお願いもしやすくなります。では、どうすれば担当者と良好な関係を築くことができるのでしょうか?

担当者もいろいろな人がいるので正解はありませんが、ひとつの方法として値上げ交渉以外の業務で、担当者がスムーズに仕事ができるようにできる限り協力することがあります。例えば納期遅れや不良品の対応です。
 

納期遅れ

 
私が購買の仕事を見ていて思ったのは、「多くの時間を納期確認と督促に費やしている」ことでした。

納期遅れの報告は、本来は仕入先が行うことです。しかし仕入先の中には納期に遅れても連絡しないため、担当者はあちこちの仕入先に電話していました。

例えば、2社の仕入先、A社とB社があります。

A社は納期に間に合わない時、納期の2日前に担当者に「納期に間に合わないこと、予定日が〇日になること」を伝えました。担当者は生産管理にその部品は納期に間に合わず、〇日になることを伝えて、現場の予定を変えてもらいました。

B社も納期に遅れましたがB社から連絡はありませんでした。納期を過ぎたので担当者が連絡すると、納期に間に合わず、納入予定が〇日になると言いました。しかしその予定日も守れませんでした。納期に部品が入らないため担当者は生産管理や現場から文句を言われました。さらに二度目の納期も守れなかったため、現場から一層厳しく非難されました。

担当者は、どちらの仕入先に好感を持つのかは言うまでもないと思います。

図3 納期遅れの対応

他にも担当者が他の部署から非難されることがあります。それは仕入先が不良品を納入した時です。
 

不良品の対処

 
納入した製品が不良品であれば、早急に問題を解決するように様々な部署が動きます。この時、取引先がスムーズに問題を解決できるようにできる限り協力します。例えば

  1. 呼ばれたらすぐに取引先の工場に行く
  2. 在庫の選別や代品が必要な場合は、直ちに動く
  3. 原因がわからない不良の場合、問題解決のために調査やテストに全面的に協力する
  4. 取引先から求められれば、速やかに報告書を提出する

不良品は、購買だけでなく、製造、品質保証などの部署も関係します。そこで取引先が早く問題を解決できるように全面的に協力すれば、購買の担当者の負担も少なくなります。特に在庫の選別や代品の製作に時間がかかると、生産の再開が遅くなり、担当者は他の部署から厳しく言われます。

《私の経験》
 不良を出したことよりも、不良を出した後の対処が「仕入先の評価」に大きく影響しました。難易度の高い部品を作る仕入先は、その分不良品も出ました。しかし不良件数が多くても、対処が迅速であれば評価は悪くありませんでした。
 転注の大きな原因は発生した問題の対処が悪かったことでした。技術的に複雑な部品は、仕入先とメーカーが協力して取り組まなければ問題は解決しません。そこで自社の立場を主張し、問題解決に協力的でない仕入先は転注されました。

本コラムでもたびたび紹介した国の支援とは具体的にどのようなものでしょうか?

これについては下請法(取適法)やガイドラインは値上げ交渉にどう活かせるのか?を参照願います。

値上げ交渉を円滑に進めるには適正な値上げ金額が必要

その上で、顧客と円滑に値上げ交渉を行うには、適切な値上げ金額と適正価格が分かっている必要があります。また値上げ交渉では、製品別の適正な値上げ金額も必要です。

まず自社の正しい姿を知ることが、顧客と交渉するためには必要です。

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担当者が値上げに応じない理由が分かれば、次は「交渉をどう進めるのか」「どのように説得するのか」を具体的に確認することが重要です。

値上げ交渉では、相手の立場を理解するだけでなく、自社の原価と適正価格を正しく把握しておくことが重要です。
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