値上げをお願いすると「値上げするなら他に発注する」と取引先から言われました。
本当に他社へ切り替えるのでしょうか。
この発注先を他社に切り替えることを「転注」と呼びます。
実際には、転注には取引先にも大きなコストやリスクがあります。
実は転注は、転注する側にも、転注される側にも大きな負担があります。
本コラムは、転注の原因と転注によって取引先に生じるコストとリスク、そして簡単に転注されないための取組について解説します。
1. 転注とは何か?なぜ転注するのか?
2. 転注すると言われたら、どうすればいいのか?
3. なぜ転注は簡単ではないのか?
4. 取引先の転注のコストと転注のリスク
5. 簡単に転注されないためにはどうすればよいのか?
値上げ交渉のまとめサイト
このテーマ以外にも交渉の進め方や取引先への説得について、以下のまとめサイトから参照いただけます。
値上げ交渉・価格交渉の進め方まとめ ~価格の根拠の伝え方と取引先への対応を解説~
1.転注とは何か?なぜ転注するのか?
転注とは?
転注(てんちゅう)とは、これまでの発注先を他に切り替えることで、量産品のように定期的に発注するものに対して使われる言葉です。
なぜ転注するのか?(転注の原因)
一般的には転注が行われる原因として以下のようなものがあります。
- コスト削減
- 現状の仕入先の生産能力不足
- 品質や納期の改善
- リスク分散(複数社発注)
この中で1~3は、現状の仕入先に不満があり、別の仕入先が品質・コスト・納期がより優れているため、切り替えることです。
一方、リスク分散は、昨今のBCP(事業継続計画)の中の取組です。
仕入先が1社の場合、災害でその仕入先から調達できず、仕入先の復旧が長期間になれば、自社の生産に大きな支障をきたします。そこで1つの部品は必ず2社以上に発注するように取り組んでいる企業もあります。
品質問題は即座に転注される
この中で多いのは現在の仕入先で品質問題が発生し、その解決が進まない場合です。その結果、取引先にも多額の損害が発生します。
このようなことがあれば即座に他の品質の良い仕入先に転注されます。
この時に取引先が重視するのは、品質問題が起きたことよりもその後仕入先の対応です。
つまり値上げ交渉では「転注する」と言われても、価格だけで転注を決める企業ばかりではないのです。
2. 転注すると言われたら、どうすればいいのか?
では、値上げ交渉で取引先から「値上げするなら他に転注する」と言われた場合、どうすればよいでしょうか?
大事なことは、慌てて値上げを引っ込めないことです。
これは価格交渉で「こんなに高いなら買わない」と同じ意味です。
とりあえずそう言って、相手の譲歩を引き出すためのテクニックの場合もあります。
なぜなら転注は、後述するように取引先にも多くのコストが発生する上、不良のリスクもあるからです。
ただし、本当に転注するかどうかは、値上げ金額にもよります。
とても受け入れられない値上げ金額であれば、取引先も転注を本気で考えます。
また、取引先によって転注しやすい会社と、そうでない会社があります。これについては後で説明します。
なぜ「こんなに高いなら買わない」と言われて交渉が止まってしまうのか。自社の交渉の担当者の課題についてはこちらから
なぜ値上げは担当者任せにすると値上げが進まないのか?
3. なぜ転注は簡単ではないのか?
取引先の本音は「転注したくない」
転注すれば仕入先の調査、評価、検証など多くの仕事が発生します。
そのため購買担当者も、本来は簡単に転注したいわけではありません。
転注が容易な製品とそうでない製品の違い
転注が容易な製品と、そうでない製品の違いは何でしょうか。
転注が容易な製品とは?
以下のような製品です。
- 図面や仕様書があればどこでもつくれる(図面に書いてないカン・コツは必要ない)
- 他にも品質や供給能力に問題ない取引先がある
- 仕入先が変わっても評価や検証が不要な部品
一方、転注には思わぬ落とし穴があります。
転注すると品質問題が起きることがある
図面や仕様書にないカン・コツは、取引先も知らないことがあるためです。
なぜなら図面や仕様書通りにつくっても不良が出るからです。その場合、現場はいろいろと工夫します。工程を増やしたり専用の治具をつくったりします。しかしそれを取引先には報告しません。
《私の経験》
(機械メーカーで、設計、品質保証に24年間従事しました。)
寸法公差が厳しい部品があり、表面処理(アルマイト)もありました。そのため表面処理の膜厚のばらつきで公差内に入らないものもありました。
その仕入先はアルマイト後、表面をわずかに研削して寸法公差に入れていました。
当時、設計だった私はアルマイトの表面を研削するのは思いつきませんでした。私がそれを知ったのは随分後でした。
当然ですが図面に研削指示はありませんでした。
現場が独自に工夫していることは意外とあります。中には仕入先の管理者も知らないこともあります。
こういった製品を転注すれば現場で行っていたカン・コツが転注先には伝わらず不良品が入ってきます。
賃上げによっていくら値上げしなければならないのか、具体的な値上げ金額の計算はこちらから
人件費が上がると原価はいくら上がるのか?
4. 転注のコストと転注のリスク
転注すれば、発注マスタの変更など事務的な作業に加えて、以下の活動が必要です。
- 変化点管理(初期流動監視)
- 検証・評価
転注後は変化点管理が必要
仕入先が変わったことで品質が変わっている可能性があります。
ものづくりは図面や仕様書にないカン・コツが必要な場合もあります。
そこでこうした変化点で重点的に管理するのが「変化点管理」です。
変化点管理1 4M変更管理
4M変更管理とは以下の4つのMの変化を管理することです。
- Man (作業者)
- Machine (設備)
- Material (材料)
- Method (製造方法)
初期流動監視
変化点で起きる問題を早期に発見するために、初期流動監視などを行います。初期流動監視の例として、以下のものがあります。
- いつもより入念な検査
- 一時的に抜取から全数検査へ切替
- 製造工程の入念な確認
転注した結果、初期流動監視を行えば、こういったコストも発生します。
製品によっては、こうした確認だけでなく、評価・検証をやり直すこともあります。
評価・検証を再度行う場合
量産品は、開発の各段階で検証・評価を行う
新製品の開発では、開発の各段階で、機能・性能・安全性・耐久性・品質に問題がないか評価します。
仕入先が変わっても評価・検証が必要な部品もあります。
重要管理部品では転注できない場合もある
自動車の場合、機能や安全性に重大な影響がある部品は重要管理部品に指定しされます。
重要管理部品で設計変更や仕入先の変更があれば、評価・検証が必要で、実機でのテストや耐久試験まで行うこともあります。
こういった評価・検証のコストも転注に関わるコストです。
重要管理部品の中には仕入先の変更ができない場合もあります
転注が容易でない製品
従って以下のような製品の転注は容易ではありません。
- 図面や仕様書以外にカン・コツが必要な製品
- 品質や供給能力に問題のない取引先がない
- 仕入先が変われば評価や検証が必要
- 過去に不良やトラブルが起きた製品
なぜなら転注すれば、不良品の流出など品質問題が起きる可能性があるからです。そして品質問題が起きれば、多額の損失が発生します。
過去に不良やトラブルが起きた製品の転注のリスク
また過去に過去に不良やトラブルが起きた製品の転注は高いリスクがあります。
それは不良やトラブルが起きれば、これまでの仕入先は取引先と協力して原因の究明と再発防止を行い、仕入先は不良が二度と起きないように再発防止策を徹底しています。
しかし転注先には不良の経験はありません。そのため、再発防止の重要性を理解できず、そのため再発防止策が徹底されないことがあります。そうなれば再び不良が起きてしまいます。
供給能力の問題
価格や品質以外に供給能力が問題になることもあります。
転注先に十分な供給能力がなければ、納期遅れや欠品が起きます。
最悪の場合、現場が止まります。
また生産能力が不十分なため納期に追われいるとミスを起こしやすくなります。不良品が納入されるかもしれません。
価格が高いため、転注するのは購買の判断です。
しかし、そのために品質問題や供給不足が起きれば購買の責任になります。
生産ラインが止まったり、不良品が市場に流出すれば、購買は生産部門から非難されます。
他にも仕入先が変わると検証や申請が必要なことがあります。
転注先の管理体制は十分か?
また、例え低い金額でつくる仕入先があっても、その仕入先の管理体制が不十分であれば、転注は高いリスクがあります。例えば
- 手順書が整備されてなく工程管理が不十分
- 十分な計測機器がなく品質管理が不十分
- 進捗管理の担当者も不足し納期管理が不十分
このような仕入先に転注すればどうなるか、購買経験の長い人はわかっています。
取引先で品質問題が起きればどれだけの影響があるのか、取引先の品質リスクについてはこちらから
発注先は品質をどう考えているのか?品質リスクと選ばれる条件
5. 簡単に転注されないためにはどうすればよいのか?
そこで簡単に転注されないためのポイントは
- 上げすぎない値上げ金額
- 品質を重視、不良問題への迅速な対応
- 取引先からの評価を高める
- ブラックボックス化
です。
転注されないための4つのポイント
値上げ金額を上げすぎない
30%の値上げをお願いすれば、取引先も他の仕入先を探します。
大幅な値上げは、取引先の事業にも影響を与えるからです。
賃上げや経費の上昇による値上げ金額は、それほど大きな金額にならない場合も多いです。
自社の適正な値上げ金額を計算し、その金額が適正であることを示す資料と共に交渉すれば、「だったらよそに出す」という可能性は低いのです。
十分な品質管理体制と、不良が起きた時の迅速な対応
品質管理が十分で、品質が安心できる仕入先であれば、適切な値上げ金額であれば、転注される確率は高くありません。
まして転注先の品質管理体制が十分でなければ、例え見積が低くても、怖くて転注できません。
取引先からの評価を高める
定期的に仕入先の評価を行う取引先もあります。
この評価が低ければ、将来整理する仕入先の対象に入ってしまいます。
自社の評価はどうなのか、評価を高めるためには何が必要なのか担当者から情報を引き出して対策します。
ブラックボックス化
製品の工程の中で自社でしかできない工程、自社しかわからないノウハウがあり、工程がブラックボックス化した製品は怖くて転注できません。
そのためには他社が簡単に再現できない独自の加工技術やノウハウを持つことです。
以前、企業で設計をしていた頃、加工技術に詳しく頻繁に相談していた仕入先A社がありました。
A社の技術者と相談して設計した部品もありました。
退職後、A社とライバル関係のB社の営業の方と会うことがあり、B社の方が「A社に発注されている部品の転注が購買から相談されたが、どこにノウハウが潜んでいるかわからず、 下手に手を出すと不良を出しそうで、怖くて手が出せない」ということでした。
それでも転注する取引先とは?
それでもすぐに転注する会社もあります。
そういった会社の特徴は
- 購買が外注管理と価格管理と別れていて、価格管理の担当は価格しか見てない
- 外注費削減の方針のため、担当者は外注費を下げることばかり求められている
こうした取引先は、前述のような取り組みもなかなか効果が出ません。
そのような場合、残念ながら他の取引先を開拓しこうした取引先の割合を減らすことが望ましいです。
仕入先の評価を高めるにはどうすればいいのか?仕入先の評価方法とその対応はこちらから
仕入先はどう評価されるのか?選ばれる会社の基準とその対応
6. 転注の可能性を見極め、粘り強く交渉
こういった情報を集めれば、今交渉している製品が転注が容易な製品なのか、容易でない製品なのか、見極められます。
転注が容易でない製品なら、取引先の「値上げするなら転注する」という言葉の実現性は高くないかもしれません。
「転注する」と言われても、取引先にとって本当に転注できる製品なのかを冷静に見極め、自社の適正価格を根拠として交渉することが重要です。
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