原価と利益の仕組み|製造業のための原価計算・価格・値上げの考え方 | 原価計算システムと原価改善コンサルティングの株式会社アイリンク https://ilink-corp.co.jp 数人の会社から使える原価計算システム「利益まっくす」 Mon, 30 Mar 2026 12:31:19 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.7.5 https://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2021/04/riekimax_logo.png 原価と利益の仕組み|製造業のための原価計算・価格・値上げの考え方 | 原価計算システムと原価改善コンサルティングの株式会社アイリンク https://ilink-corp.co.jp 32 32 チェックリストがミスを防ぐ! ~その効果と適切な使い方~ https://ilink-corp.co.jp/17880.html https://ilink-corp.co.jp/17880.html#respond Wed, 15 Oct 2025 02:05:31 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=17880
【コラムの概要】

人為的なミスであるヒューマンエラーを防ぐために、チェックリストの活用が有効です。複雑な手順を記憶に頼らず確実にするため、航空業界では古くから重大事故の教訓からチェックリストが使われてきました。また、医療現場でも感染防止や手術の安全確保、チーム内のコミュニケーション向上に役立っています。良いチェックリストは、マニュアルとは異なり、致命的な項目に絞り、シンプルで明確な文章で記述し、作業の一時停止点を設けて確実に確認することが重要です。

あっ忘れ物! 
作業ミス!

私たちは普段から多くのヒューマンエラーを起こしています。時にはこれが深刻な不良や重大事故につながります。

どうすればヒューマンエラーを防ぐことができるのでしょうか?

そのヒントは私たちが普段使っているツールにあります。
「チェックリスト」です。

チェックリストはこれまで多くの事故やトラブルを防いできました。
今回はこのチェックリストについて取り上げました。

1. いくつもの悲劇を教訓に

ひとつのミスが重大な事故につながる飛行機の運行、
そこには多くの事故を教訓としてチェックリストの活用が進められてきました。

1). 記憶するには複雑すぎる

1935年アメリカ陸軍は次世代の長距離爆撃機の開発をマーチン社、ダグラス社、ボーイング社に提示し、各社はプランを示しました。
ボーイングのブランは全長31メートル、4基のエンジンを搭載したこれまでにない大型の機体でした。他社よりも高速で長距離を飛行できるモデル299でしたが、試作機が離陸直後に墜落し、2人の乗員が亡くなりました。

原因は「パイロットのミス」、
パイロットはモデル299の複雑な操作に気を取られ、昇降舵と方向舵のロック解除を忘れました。
ある新聞は「一人で飛ばすには大きすぎる飛行機だった」と評しました。

しかし陸軍はあきらめずにモデル299の開発を継続しました。
陸軍の取った解決策は「チェックリスト」でした。
亡くなったパイロットは熟練のテストパイロットでした。これ以上の技量をパイロットに求めるのは現実的ではありませんでした。

図 ボーイング B-17(Wikipediaより)
図 ボーイング B-17(Wikipediaより)

彼らは、ハガキ大のカードに、離陸、飛行、着陸などそれぞれのチェック項目を書きました。
「ドアと窓は閉じられているか」
「昇降舵のロックは解除されているか」
項目は当たり前のことばかりでした。
しかしその効果は絶大でした。試験飛行は成功し、モデル299は「B-17」、別名「空飛ぶ要塞」として正式採用されました。

モデル299は「一人のパイロットが飛ばすには大きすぎる飛行機」ではなかったのですが、

「一人のパイロットが手順を全部記憶するには複雑すぎた」のです。

2). どちらのエンジンに火災が発生したのか

1989年1月8日、ヒースロー空港を出発したブリティッシュミッドランド航空92便(ボーイング737-400型)は、高度8500mの地点で左エンジンが損傷しました。
しかしパイロットは右エンジンの火災と判断し、右エンジンを停止させました。そして緊急着陸のためイーストミッドランズ空港に向かいました。
その結果、着陸態勢中に損傷した左エンジンがついに停止しました。推力を失った機体は地面に激突。乗客118名の内47名が犠牲になりました。

従来の機種は、空調システムの吸気口が右エンジンコンプレッサーにありました。そのため、副操縦士は機内が焦げ臭いことから、右エンジンが損傷したと判断しました。しかしこの新型機(ボーイング737-400型)は、両側のエンジンから空気を取り込むようになっていました。そして火災を起こしたのは左エンジンでした。

客室内から右のエンジンから炎が上がっているのが見えたのですが、そのことを副操縦士は確認しませんでした。

3). 限られた時間だからこそ

飛行機でチェックリストが活用されているのは、限られた時間の中で確実な手順が求められるからです。
「急いでいるからこそ、確実であるべき」
墜落か生還か、生死がかかっている場面で、同じことを何度も繰り返す余裕はありません。

2009年1月15日 ニューヨーク発USエアウェイズ1549便がカナダ雁の群れに遭遇しました。不幸ことにふたつのエンジンがカナダ雁を吸い込んでします、エンジンが停止しました。
しかし機体はハドソン湾に無事不時着、乗客・乗員合わせて155名は無事でした。

図 不時着水したUSエアウェイズ1549便
図 不時着水したUSエアウェイズ1549便
図2 不時着水したUSエアウェイズ1549便  

エンジンが停止してから着水するまでの時間は3分しかありませんでした。しかも着水時の衝撃で後部貨物室ドアが破損しました。そのため機体は1時間後には水没してしまいました。

しかし機内には
エンジン再始動のチェックリスト
不時着水のためのチェックリスト
緊急脱出のチェックリスト
がありました。チェックリストに従い必要な手順を確実に実行できました。
機長は機内に取り残されている人がいないか、機体最後部まで確認した後、最後に機内を出ました。

2. チェックリストとその効果

1). 集中力はあてにならない

切羽詰まった状況では、人間の記憶力と集中力はあてになりません。一つ手順を忘れればすべてが台無しになってしまうような場面で、記憶力に頼るのはとても危険です。
いつ沈むかもしれない機内で、乗客を確実に脱出させる際、その場で正しいやり方を考えている時間はありません。あるいは、ずいぶん前に行った脱出訓練の記憶に頼っていては、大事な手順を飛ばすかもしれません。そんな時、チェックリストがあれば確実に行動できます。

例えば車の運行前点検、令和4年の法改正で、社用車・事業用車の運行前点検が義務付けられました。
では「どこをどう点検するのか」わかるでしょうか? 
運行前点検は、運転免許取得時に誰もが学んだはずです。ですが

「知っていることと」、「正しくできること」の違いはとても大きいのです。

2). 確実のはず?

このチェックリストを使って安全を確実にしているミュージシャンがヴァン・ヘイレンです。彼らの地方巡業には機材を満載した9台のトラックも随行します。しかし地方のステージが機材の重さに耐えられないなどトラブルが多発します。そのため彼らの契約書は電話帳並みに分厚いものです。そこには奇妙な項目があります。

「楽屋にボウル一杯のM&M’sチョコレートを用意すること。ただし、茶色のM&M’sはすべて取り除いておくこと。もし違反があった場合はコンサートを中止し、バンドには報酬を満額支払うこと」

実際、ボーカルのデビッド・リー・ロスはコロラド州のイベントで茶色のM&M’sを見つけて中止しました。ヴァン・ヘイレンのメンバーは、茶色のM&M’sがそれほど嫌いなのでしょうか。

ボーカルのデビッド・リー・ロスは、次のように語っています。

「もし楽屋で茶色のM&M’sを見つけたら、全てを点検しなおすんだ。すると必ず問題が見つかる。」
事実、コロラド州のイベントでは興行主が重量制限を確認しておらず大事故になるところでした。

ボウル一杯のM&M’sチョコレートは彼らに取って危険を知らせる炭鉱のカナリアだったのです。

3). 大事なことに集中できる

チェックリストに頼ると
「チェックリストに従うだけになり、自分で考えなくなる。硬直化する」
と考える人もいます。しかし現実は逆です。チェックリストを使うと
「何をチェックするか」
といった単純なことはチェックリストに任せることができます。そして
「チェックした結果がどうだったか」
といったもっと難しい問題に注意を集中できます。

単発のセスナ機のチェックリストには、飛行中にエンジンが停止した場合のエンジン再始動の方法が6つの手順に凝縮して書かれています。ただし最初の手順は1つだけ、「飛行機を飛ばせ」。 パイロットはエンジンの再始動や原因の分析に一生懸命になり、最も大事なことを忘れてしまいます。それは

「飛行機を操縦すること」

多くのパイロットが問題解決に気を取られて墜落したことをこのチェックリストは伝えています。

4). めったにないことこそ

チェックリストの効果があるからといって、すべての作業でチェックリストを使うようにすれば誰も使わなくなります。日々行う作業は誰でも覚えています。だから作業者はチェックリストの必要性を感じません。

ではどんな時にチェックリストは効果があるのでしょうか。それは、

「これをやらないと重大な結果をもたらすこと」、そして「たまにしかやらないこと」

です。航空機のエンジン再始動は、運行中に一度もそんな場面に遭遇しないパイロットも多くいます。だからこそチェックリストが役に立ちます。

5). ベテランの怠慢

手順を省く誘惑は常に存在します。確認作業の大半は、その結果は問題ありません。だからといって「今回ぐらいやらなくても問題は起きないだろう」といった怠惰が続けば、いつか惨事が起きます。チェックリストは、そういった誘惑に負けないツールでもあります。

そしてリーダーの判断がおかしいと思ったとき、その判断項目がチェックリストにあれば、スタッフは声を上げることもできます。

1977年テネリフェ空港で起きた航空機事故では、KLMオランダ航空の機長は管制塔の指示を勘違いし、離陸許可が出たと思ってしまいました。疑問に思った機関士は「パンアメリカン航空がまだ滑走路にいるのでは?」と機長に聞きましたが、「大丈夫だ」と機長は言い切り離陸を開始しました。その結果、2機のボーイング747は衝突し、583名がなくなるという史上最悪の航空機事故が発生しました。

チェックリストがあれば、機関士は機長を止めることができたかもしれません。

3. もうひとつの命を懸けた現場

飛行機の操縦が1人の人間が記憶するには複雑すぎるのであれば、医療現場も1人の人間が行うにはあまりにも複雑です。外科医アトゥール・ガワンデは、1人の医師が1年に平均何種類の病気を診ているのか調べたところ、
250種類の病気を診断し、300種類の薬を処方し、100種類の検査を行っていた
ことが分かりました。
そのどれもミスがあれば命に関わります。

1). 手を洗わない?

静脈カテーテルの挿入では、挿入時の細菌感染が問題でした。2001年にジョンズ・ホプキンス病院のICU(集中治療室)のピーター・プロノボスト医師は、中心静脈カテーテルの挿入のチェックリストをつくってみました。リストは5つの手順が記載されました。

  1. 石鹸で手を洗う
  2. 患者の皮膚をクロルヘキシジンで殺菌する
  3. 滅菌覆布で患者を覆う
  4. マスク、滅菌ガウン、滅菌手袋をつけ、カテーテルを挿入する
  5. 刺入点をガーゼなどで覆う

1か月観察したところ、1/3以上の患者で1つ以上の手順が省略されていました。そこで医師が1つでも手順を飛ばした場合

カテーテルの挿入を止める権利を看護師に与えました。

その後1年間でカテーテル挿入から10日間の感染率が10%から0%に低下し、カテーテルの感染は15か月間で2件しか起きませんでした。

2). 奇跡の生還

オーストリアの心臓外科医マーカス・テールマン医師は、これまで雪崩や水難事故による心肺停止の患者の蘇生を何度も試みましたが、しかし1人も助けることができませんでした。わずかながら助かる可能性が見えても、必要なものがすべて揃っていることはなく何かが足りませんでした。
そこでレスキュー隊と電話オペレーターにチェックリストを渡し、事故現場に到着する前にチェックリストに従って機器の準備をしてから病院に連絡を入れるよう頼みました。

ある日、3歳の少女が氷の張った池に落ちてしまいました。両親が池の底で彼女を発見したのは30分後、テールマン医師の病院に運び込まれた時には、すでに2時間以上経過し、少女は仮死状態でした。彼女はすぐにICUに運ばれ、人工呼吸器やECMO(体外膜型肺)など幾多の治療を行いました。こうして数千もの手順を経て、2週間後、彼女は退院しました。

専門家が集まり、お互いが協力して行う手術は、複雑で一度に多くのことを行わなければなりません。そのためこれまでも少なからずミスが起きていました。
こういったミスに対してチェックリストを導入した病院がスタッフにアンケートを取りました。その結果、80%のスタッフが「チェックリストは短時間で簡単に使え、手術をより安全にしてくれた」と答えました。
そして「もしあなたが手術を受けるとしたら、その時にチェックリストを使って欲しいと思いますか」という質問には93%がイエスと答えました。
つまり93-80=13%、この人たちは、

自分ではチェックリストは面倒なので使いたくはないが、自分の手術には使って欲しい

と考える人たちでした。

3). コミュニケーション

様々な専門家が協力して行う手術は、大きな病院の中ではメンバーがそれまで全く面識がないこともあります。メンバーの名前も知らない中で、予期せぬ事態が手術中に起きればどうなるのでしょうか。こんな時、チームワークの良し悪しは患者の命に関わるかもしれません。

そのためチェックリストに自己紹介の項目があります。
お互いが名前と担当を言います。手術室で自己紹介なんて奇妙に思うかもしれません。しかし実際、その効果はてきめんでした。手術を終えたスタッフに手術中のコミュニケーションについて評価をしてもらうと、自己紹介をしたチームはコミュニケーション項目が高く評価されました。

そして手術開始前に自己紹介と、この手術についての懸念を話す機会があると、手術中もお互いに問題を提起したり、解決策を出しやすくなることが分かりました。
患者の立場で考えると、麻酔をかけられ開腹された自分の体越しに、手術スタッフが意見交換しているのは、あまりいい気がしないかもしれません。しかしお互いがよそよそしく、しかるべき確認をせず、懸念事項があっても気が付かないふりをされるよりは、はるかに良いのではないでしょうか。

事実、南カリフォルニアの病院ではチェックリストと手術前の話し合いで、塩化カリウムのバイアルと抗生物質のバイアルの取り違えに気づきました。(もし塩化カリウムを投与したら患者は亡くなっていたかもしれません。) また書類の記入ミスで「ソラコスコピー」(胸腔鏡化手術)でなく「ソラコトミー」(開胸術)の準備をしていたことにも気づくことができました。

4. 良いチェックリストの作り方

1). チェックリストはマニュアルではない

チェックリストはマニュアルではありません。マニュアルは必要な手順が全部記載され、往々にして膨大な量になります。また作業中にマニュアルを読むこともありません。
では「なぜマニュアルを作るのか」と言えば、
正しく教えるためです。
マニュアルという基準となる文書から正しい作業を教えます。もし現実の作業内容が違っていればマニュアルを改訂します。

しかしチェックリストは作業中に毎回使用します。毎回使用するだけに内容はシンプルなものでなければなりません。

2). 一時停止点を明確に

いつチェックを行うのか、作業の一時停止点を明確にします。「行動したのち、チェックをするのか」、「チェックリストを見て行動するの」を決めておきます。

そして一時停止点では、行動を一旦停止して確実に確認します。ぱっと見て
「やってあるから大丈夫だろう」では不十分です。
確実に行われていることを確認したから、次の行動に移行しても問題ないのです。
ただしチェックリストが長すぎて、一時停止点が1分~1分半もかかるとチェックリストを邪魔に感じるようになります。そしてチェックリストを使うのを省いてしまいます。そのため、チェックリストの項目は

”キラーアイテム”と呼ばれる、飛ばされると致命的な結果をもたらすもの

に絞ります。心配だからとあれもこれも入れてはいけません。

ボーイングがつくる非常用のチェックリストには、管制塔への連絡などパイロットが行うべきことが書かれていません。それは非常時では管制塔への連絡をパイロットは忘れないことがわかっているからです。

3). 誰でも同じ解釈になりますか?

従ってチェックリストは長すぎず、原則として5~9項目、1枚の紙に書ける程度にします。

また文章はシンプルで明確なもので、誰が読んでも同じ解釈になるものでなければいけません。よく見かけるチェックリストに「○○を確認したか」があります。確認すれば結果はどうでもよいのでしょうか? これでは誰が見ても同じ結果は得られません。確認した結果、問題があるかどうか、結果を適切に判定し記入するようなチェックシートが望ましいでしょう。

図 あいまいさのあるチェックリストと明確なチェックリスト
図 あいまいさのあるチェックリストと明確なチェックリスト

4). テスト!テスト!テスト!

チェックリストはつくれば終わりではありません。実践の場で問題ないか、実際に使ってみて改良が必要です。特に非常時には想定外のことが起こります。チェックリストが思ったように機能しないかもしれません。この非常時用のチェックリストをどうやってテストするのでしょうか。

ボーイングは実機のコックピットさながらの精巧なフライト・シミュレーターで様々な非常事態を再現します。その結果、最初に作ったチェックリストが思ったように機能しかったこともありました。そこから改良に改良を重ねて、必要なことを網羅したシンプルなチェックリストをつくります。

実際には、飛行中にトラブルが起きればパイロットに入る情報は限られています。「警告灯の原因は何なのか」、「どこまで損傷したのか」様々な現象が考えられます。しかし彼らはコックピットで意見を戦わせるよりも、まずチェックリストを手に取ります。それほどチェックリストは信頼されているのです。

5. 100%安全・良品を実現するためにチェックリストの活用

では、このチェックリストの考え方をものづくりに生かして、ミスを防ぎ100%安全・良品を実現することはできるのでしょうか。

1). ダブルチェックは必要ですか?

チェックリストに従ってチェックしたのにもかかわらずチェック漏れが発生しました。チェック漏れの対策は難しいため、やむなくダブルチェックを行うこともあります。しかしこれにはダブルチェックは2つの問題があります。

  • 同じやり方でチェックするため、同じミスを起こす可能性がある
  • 2人が同じチェックをすることで責任が分散し、ひとつひとつのチェックがおろそかになる

こうした問題を避けるため、1回目と2回目でチェックの方法を変えます。検算する場合、1回目は上から検算し、2回目は下から検算します。

あるいは2人がチェックするのであれば、一人が数字を読み上げ一人が数字を確認することで責任の分散を防ぐことができます。

2). チェック機構を入れる

データの集計の多くはエクセルなど表計算ソフトで行います。表計算ソフトだから計算間違えはないはずですが、元々の計算式が違っていたため誤った結果が出ることがあります。表計算ソフトだからと信用せず、チェック機構を組み込みます。例えば、表に入力する場合、図のように行から合計したものと、列から合計したものを表記します。もし違っていれば、表のどこかの値が間違っている可能性があります。

図 縦横で合計した例
図 縦横で合計した例

エクセルで複雑な計算をする場合、関数で一度に計算せず、あえて計算を分けて途中過程の値を表示します。これにより「計算式が正しいか、結果が合っているか」確認が容易になります。

例えば設備Aから設備Dまでの4台の設備の製品毎の特性値を以下の表のように測定しました。設備毎の工程能力指数Cpkを計算したい場合、Cpkの計算式は以下の式で表されます。

図 Cpkの計算式
図 Cpkの計算式

この場合、Cpkの計算式を下のようなエクセル関数をつくれば一度で計算できます。しかし計算式に間違いがあった場合、確認が容易ではありません。

図 Cpkを一度に計算した例
図 Cpkを一度に計算した例

そこで手間がかかりますが、下表のように平均値、標準偏差、かたより係数と順に計算します。

図 段階的にCpkを計算した例
図 段階的にCpkを計算した例

そうすれば途中過程の平均値や標準偏差の値が、ある設備だけが大きければ、Cpkが悪い時もそれが原因だとわかります。

複雑な計算になればなるほど「急がば回れ」です。

3). NG行為は明確ですか?

作業標準書には正しい手順が書かれていますが、やってはいけないことまでは書かれていません。しかし作業者は知らないうちに、やってはいけないことをやってしまうことがあります。そこで作業標準書にやってはいけないことも書いておきます。特に過去に「こうしたら、このような問題が起きた」そういった実例があれば記載します。NG作業とその結果、起きることを書いておけば、

あえてそれをやろうという作業者はいないでしょう。

4). なぜそうしなければならないのか?

1999年9月30日、茨城県那珂郡東海村にある株式会社ジェー・シー・オー(住友金属鉱山の子会社。以下「JCO」)の核燃料加工施設で、原子力発電所の核燃料を製造中に核分裂反応が起きるという臨界事故が発生し、作業員2人が死亡、1名が重傷を負い、667名が被ばくしました。

JCOは作業の効率化のため、国の規定に反した独自のマニュアルを作成していました。さらに当日、被爆した作業員は、そのマニュアルとも違う方法(バケツと沈殿槽と呼ばれる容器で混合する)で核燃料を製造し、核分裂反応を起こしてしまいました。

図 ウラン溶液の製造工程
図 ウラン溶液の製造工程

JCOは、製造しているものが「一歩扱い方を間違えれば核分裂反応を起こす核燃料」で、「どうすれば核分裂反応をおこすのか」、「なぜこのような手順を決めたのか」その理由を作業員に説明していませんでした。

それを知っていれば、このような危険な行為を作業員は行わなかったでしょう。

5). そうしたら、こうなる

核燃料のように見ただけでは危険なものに見えないものは、工場には多く存在しています。化学薬品には触れば化学やけどを起こす危険なものもありますが、見た目は透明な液体にすぎません。
また「稼働している設備の回転部に巻き込まれればどうなるのか」初心者は具体的にイメージできません。

そんな場合、実験して危険を実感してもらう方法があります。化学薬品であれば、「買ってきた鶏肉や豚足に薬品をかけてみる」、設備であれば「稼働している部位に木の棒や豚のスペアリブを入れてみる」などです。

その結果どうなるのか、赤くただれたもも肉や砕け散ったスペアリブを目の前で見れば、保護メガネや手袋もせず化学薬品を扱ったり、稼働中の設備に手を入れようとは思わないでしょう。

6). 失敗は忘れられ、過ちは繰り返される

1955年、雪印乳業北海道八雲工場で停電と機械故障のため、製品の牛乳で食中毒菌が繁殖し、小学生1936人が食中毒になりました。当時の社長 佐藤貢は以下の文を全社員に向けて発信しました。

「当社の事業において唯―人の怠る者があり、責任感に欠ける者がある場合、それが社会的に如何なる重大事件を生じ、社業に致命的影響を与えるものであるかは、今回の問題が何より雄弁にこれを物語っており、われわれは痛切にこれを体験したのである。
(中略)
信用を得るには永年の歳月を要するが、これを失墜するのは実に一瞬である。
(中略)
われわれ全社員がこの問題を徒らに対岸の火災視することなく、各々の尊い反省の資料としてこれを受入れ、全員が一致団結し、真に謙虚な気持をもって愈々技を錬り職務に精励し、誠意と奉仕の精神とをもって、生産者と顧客に接する努力を続けるならば、必ずや従来の信用を取戻すことが出来るばかりでなく、ますます将来発展への契機となることを信じて疑はない。」

全文はこちらから

残念ながらこの教訓はいつしか風化し、2000年に14,780人もの食中毒事件を起こし、雪印乳業は解体されました。

事故や失敗は誰でも思い出したくない出来事です。しかも世代交代で、当時を知る人は徐々に会社にいなくなっていきます。それを風化させないためには、あえて何度でも学ぶ姿勢が必要なのではないでしょうか。

日本航空が2006年にオープンした安全啓発センターには、1985年に御巣鷹山に墜落した123便の機体が展示されて、事故から30年を迎えた2015年には2万人が訪れています。当初、日本航空はフライトレコーダーのみを社員教育用に残し、他は廃棄する予定でした。しかし遺族の強い要望により機体の一部が展示されています。

この機体は何よりも雄弁に事故を物語っています

8). 安心と信頼

安心とは「危険源が存在しない状態」です。現実には、様々な活動の中で危険源が存在しない状態はあり得ません。従って安全を達成するには、「安心はあり得ない」と考えるひつようがあります。「安心はあり得ない」のだから、安全は信頼によって得るしかないのです。

この信頼とは、中谷内 一也によれば、

  • 安全を確保するための”能力”(技術力の評価)
  • 守るべき相手を守ろうという”誠実さ”(真面目さや努力状況の評価)

の双方が必要です。安全を確保するための能力は、チェックリストなどの手法や仕組みで整備しても、

守るべき相手を守ろうという”誠実さ”

がなければ、安全を確保する文化は培われず、チェックリストや仕組みの適切な運用は得られないでしょう。

参考文献

  • 「アナタはなぜチェックリストを使わないのか?」アトゥール・ガワンデ著 (株)晋遊舎
  • 「安全人間工学の理論と技術」小松原明哲 著 丸善
  • 「ANA整備士のこだわり ヒューマンエラーは現場で防ぐ」田口昭彦 著 産経出版
  • 「安全。でも、安心できない…―信頼をめぐる心理学」中谷内 一也 著 ちくま書房

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【品質とコストの改善】段取時間短縮 https://ilink-corp.co.jp/15096.html https://ilink-corp.co.jp/15096.html#respond Tue, 28 Jan 2025 11:37:44 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=15096
このコラムの概要

多品種少量生産では段取替え時間の短縮が重要です。段取替え時間の短縮はビデオ分析、内段取の外段取化などがあります。段取替え時間の目標の設定や標準化も効果があります。マシニングセンタでは工具のパーマネントセットや工具本数の削減があり、実際にドリル加工をエンドミルに変えたことで段取替え時間の削減に成功しました。こういった取り組みは決して難しくないので、中小企業の現場でも実施可能です。

多品種少量生産の生産現場では、直接生産している時間よりも、段取替えの時間の方が長い場合があります。その場合、生産性の改善やコストダウンには、段取替え時間の短縮が効果的です。

段取時間が長いことのデメリット

段取替え時間が長いと、できるだけ段取替え時間の影響を少なくするためにできるだけ大きなロットで生産しようとします。

在庫の増加

顧客の発注単位以上に生産ロットを大きくすると、その分在庫が増えてしまいます。あるいは、1ヶ月の発注の1,000個でも、発注単位は250個で、毎週納入する場合生産ロットが250個であれば、生産した分は全部納入することができます。ところが生産ロットが1,000個であれば750個はすぐに納入することができず、現場に保管されます。これが現場のスペースを圧迫し、生産性を低下させます。

段取替え時間が長いことはデメリットが多く、段取替え時間の短縮は大きな効果を発揮します。

段取時間短縮の進め方

段取替え時間の短縮は、以下のステップで行ないます。

  1. 現状の段取替え時間を測定します。
  2. 段取替え作業を分析します 
    ビデオ撮影で作業を記録し、個々の作業を分解します。
  3. 内段取と外段取に分けます。
    内段取 機械を止めて行なう段取替え作業
    外段取 機械を止めずに加工しながらできる段取替え作業
  4. 内段取で行なわれている作業を外段取で行なうようにします。
  5. 段取作業自体を簡単にします。

段取時間短縮のポイント

例えば工作機械などの加工機械では、実際に取組むポイントとして、

  • 加工治具の取り付けのワンタッチ化やボルトレス化
  • 刃物のパーマネントセット化
  • ワーク毎の加工条件の一覧表や、条件出しの目印
  • 汎用計測器から、通止めゲージへの変更
  • 工具を機械のそばに置いたり、現場の配置を見直すことで、歩行距離の短縮
  • 複数での作業

などがあります。改善により当初75分かかっていた段取替え時間が、6分にまで短縮した例もあります。1日1回段取替えがあった場合、生産性の大幅な向上が実現できます。

具体的な取組例

工作機械

以下は実際に私が体験した工作機械の段取時間短縮の進め方の例です。

  1. ステップ1 目標値の設定
    段取替えの目標時間が決めてないことがあります。作業者は何分で段取替えするのが適正か知らないため、マイペースで段取替えを行っています。その結果、段取替えの早い作業者と遅い作業者で時間の差は2倍近くになっていました。
    そこで特定の製品で良いので、段取替え時間を測定し、目標値を決めます。

  2. ステップ2 作業分析 
    作業者によって時間がばらつく原因に、段取替えのやり方がばらばらな場合があります。
    そこで段取替え早い作業者の作業をビデオ撮影し、「どうやって作業しているか」全員で分析します。
    そして早い作業者のやり方を標準化します。
    金型の交換、工作機械のクランプ治具やバイスの交換、加工条件の調整などは、作業者毎に作業の順序ややり方に違いが出やすい箇所です。

  3. ステップ3 内段取と外段取の分析
    内段取と外段取に分けます。ステップ2で撮影したビデオで見て、外段取にできる作業を洗い出します。

  4. ステップ4 内段取の外段取化
    内段取を外段取にできないか考えます。

    例 マシニングセンタでの多品種少量生産
    マシニングセンタはツールチェンジャーに30本などの工具(刃物)をセットし、加工中は自動で工具を交換します。製品が変わって30本の工具が変わる場合、ツールチェンジャーの工具を交換しなければなりません。工具の交換はツールホルダーを機械から外して、ツールホルダーの工具を交換します。これは時間がかかります。

    そこでツールホルダーを購入して、加工中に次の生産のための工具をツールホルダーにつけておきます。これが内段取の外段取化です。工具をつけておいて、段取替えの際がたくさんあれば、あらかじめらないことがあります。その結果、工具交換の時間が段取替え時間の大半を占めることがあります。工具の数の分だけをツールホルダを用意して、工具をつけたままにすれば(パーマネントセット)大幅な時間短縮ができます。

    一方そこまでツールホルダを購入できない場合は、繰り返し生産する製品については工具だけでも製品の種類毎にまとめて保管すれば、工具を探す時間が短縮できます。
    あるいは工具をホルダにセット作業を、前の製品の生産中に行なうようにすれば(外段取化)、段取替えによる停止時間は大幅に短縮します。

  5. ステップ5 作業改善
    調整・セット時間の短縮
    段取替えでバイスやクランプ治具を交換した場合、適切な位置にすぐにセットできるように、位置決めブロックや位置決めピンを取り付けます。重いバイスは動かすのも大変です。ハンマーでたたいて位置を合わせるだけで何十秒もかかります。位置決めブロックがあれば、短時間に終わります。

    測定時間の短縮
    テスト加工後の測定でノギスやマイクロメーターなどの汎用測定器は時間がかかり、測定ミスも起きます。リピート製品するものは、製品専用に測定ゲージを作っておけば、測定時間は短縮出来、測定ミスもなくなります。
マシニングセンタのパーマネントセット

マシニングセンタなどツールチェンジャー(工具自動交換装置)のある設備は、多品種少量生産ではできるだけ多くの工具がセットできれば、加工する製品が変わっても工具を交換しなくて済みます。しかしツールチェンジャーにセットできる数には限りがあるため、ツールチェンジャーにセットした工具のうちで、何本かはどの製品にも共用の工具として、交換しないようにします。これはパーマネントセットと呼ばれます。

パーマネントセットの工具は常に同じ工具として、ほかの工具を製品によって交換します。その際、多品種少量生産では加工時間を多少犠牲にしても、工具交換の頻度を減らした方が段取時間が短くなり、結果的に生産時間も短くなります。

プレス金型メーカーH社の取組
プレス金型では、多数の穴をあける部品があります。一般的には穴の大きさに応じたドリルを使用します。そのため様々な大きさの穴があると、段取替えで多くのドリルを交換しなければならず段取時間が長くなります。

そこでH社では、加工時間が多少長くなっても、エンドミルで加工することで1本のエンドミルで複数の径の穴を加工できるようにしています。

下表はあるワークを加工する際に従来のドリルで加工した場合とエンドミルで穴加工した場合を比較したものです。

従来エンドミルで穴加工
刃物ドリルエンドミル
本数17本8本
総数25本16本
交換回数13回4回
段取時間2時間22分1時間17分
加工時間6時間33分6時間31分
合計時間8時間55分7時間48分

この例では、ドリル加工とエンドミル加工で加工時間に差はありませんでした。しかし段取時間がおよそ1時間短くなったため、合計時間も1時間近く短縮できました。

段取時間短縮といっても、作業時間を短くする、内段取を外段取化するだけでなく、段取時間と加工時間のバランスに着目すれば、新たな改善点が見つかります。

射出成形の段取時間短縮

樹脂の射出成型の取組のヒントをご紹介します。段取替え時間の短縮の5ステップは、

  1. ステップ0 現状の段取替え時間を測定します。
  2. ステップ1 段取替え作業を分析します。
  3. ステップ2 内段取と外段取に分けます。
  4. ステップ4 内段取で行なわれている作業を外段取で行なうようにします。
  5. ステップ5 段取作業自体を簡単にします。

ですが、実際には、ムダ取りから始めるケースが多いです。

例えば、成型機では、次の生産用の金型の置き場が整理されてなく、作業者が現場を歩き回って探している事があります。金型に識別のラベルを貼り、すぐに分かるようにします。また金型の置き場を、製品の種類毎や発注先毎にするなどのルールを決めてすぐに探せるようにします。また必要な工具がキャビネットなどにしまわれていて、取り出すのに時間がかかる場合があります。

誤った指導が改善の妨げになった例

ある企業では外部から5Sの指導を受けた際に、整理整頓を励行するため、工具を工具キャビネットの中にしまうように指示を受けました。しかし使用頻度が高い工具を遠くのキャビネットにしまうと、歩行距離が長くなり取り出す手間も増えたため、次第に守られなくなりました。

5Sの基本はすぐに使える、すぐに戻せることです。
必要な工具は厳選し、作業場所の近くに置き場所を設けます。またひっかけるなど、すぐに取り出せるようにします。

射出成型の内段取の外段取化

次に内段取の外段取化に取組みます。成型機などでは、金型の予備加熱にかかる時間が最も多くかかります。予備加熱装置を購入して、予備加熱を外段取化すれば段取替え時間は大幅に削減されます。一方費用もかかります。

試し打ち時間の短縮

次に段取替え時間の短縮に効果があるのは、金型交換後の試し打ち時間の短縮です。製品の大きさや形状が変われば、金型温度や材料の射出圧力などの成型条件が変わります。オペレーターは、試し打ちをしてできあがった製品を測定したり、外観を見て、成型条件を調整します。この調整のやり方はオペレーターによって様々なやり方があり、試し打ち時間も異なります。

この調整方法を標準化すれば、試し打ち時間のばらつきを減らすことができ、生産に入ったときの品質を安定させることができます。特に近年は、カケ、ソリ、キズ、バリなどの形状だけでなく、異物やウェルト、シルバーといった外観不良も厳しくなっている場合があります。さらに一度不良を出すと全数検査が必要になってしまうときもあります。一度全数検査になると、それを抜き取り検査に戻すのが容易でありません。

オペレーターによって条件が異なっていた例

ある工場では、成型品質が安定しないため調査したところ、オペレーターによっては、できるだけ早く段取替え作業を済ませたいという気持ちから、金型の昇温が不十分と感じつつも、圧力を高めにして生産を開始していました。ところが生産を開始すると、金型の温度がさらに上昇するため、当初の圧力では高すぎてしまい品質がばらつきます。それをさらに温度や圧力を調整するため、生産中の品質が不安定になっていました。

そこで生産開始する際の温度を決めておくと品質が安定しました。成型機のように温度と圧力のようないくつものパラメーターを変えて調整する設備では、調整方法を作業者に任せておくと、作業者毎のやり方が発生してしまいます。そして基準があいまいとなり、製品を出来映えを見ながら、あちこちのパラメーターを変えてしまい、製品の品質が安定しなくなります。

そこで調整する順序と、判断基準を明確にします。さらに製品毎に調整結果を記録し、リピート生産の際は同じ調整値で行なうようにします。従ってこの部分を改善することで、段取替え時間の短縮だけでなく、製品品質の安定させることもできます。このような取組は、樹脂成型だけでなく同様の設備を使用している現場に取り入れることができます。

生産性の向上には段取時間の短縮

多くの現場では、品種が増えて段取回数が増えています。生産性の向上には段取時間の短縮が大きく効いてきます。その一方、中小企業の現場では、段取作業は属人化し作業者によってばらばらです。そのため作業者によって段取時間にかなり差があります。
この段取作業を関係者で分析し、改善すれば大きな効果が期待できます。これは手が早い人の作業をビデオで撮影して、みんなで見て自分たちとの違いを比べればできます。あるいは上記のような段取時間と加工時間のバランスに着目して、加工時間が多少長くなっても段取時間を短くできるアプローチも有効です。

ぜひこれらをヒントに段取改善を進めていくことをお勧めします。

この記事を書いた人

経営コラム ものづくりの未来と経営

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、技術革新や経営、社会の変革などのテーマを掘り下げ、ニュースからは見えない本質と変化を深堀したコラムです。「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しています。過去のコラムについてはこちらをご参照ください。
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【品質とコストの改善】リードタイム短縮 https://ilink-corp.co.jp/15092.html https://ilink-corp.co.jp/15092.html#respond Tue, 28 Jan 2025 11:10:09 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=15092
【コラムの概要】

本コラムでは、企業が直面する品質とコストの課題を、リードタイム短縮によって解決する方法を解説しています。
リードタイム短縮が単なる時間短縮に留まらず、原価低減や品質向上に大きく貢献することを強調。具体的には、原価計算システムの導入と原価改善コンサルティングを通じて、製造プロセスの無駄を排除し、効率化を図るアプローチを紹介しています。これにより、企業は競争力を高め、持続的な成長を実現できます。

工場では最初に生産計画が立案されます。一般的には生産計画通りに生産するためには日程に若干余裕を持たせます。具体的には「○×工程は次工程の何日前に着工し、何日前に完成させるか」を計画します。

リードタイムが長くなる原因

この時、何か問題があったときの余裕がほしいので「先行日数」を長めにとりがちです。例えば

  • 部品の納期を、必要日よりも前にする。
  • 出庫準備の日程を長くとる。
  • 各工程の所要時間を長めにとる(そのような基準日程を作る)。

いろいろなところで時間に余裕を持って生産を計画します。あまりぎりぎりの日程だと何かあった時納期に遅れるので、担当者は余裕を持ちたいと考えます。日程を守ることは生産管理の重要項目ですから、その気持ちはわかります。

現場の緊張感も低

しかし、余裕のため製造リードタイム(LT)が長くなります。在庫、仕掛品が増加し、余分な資金も必要とします。現場の緊張感も希薄になります。

かといって余裕がゼロでは納期遅れが頻繁に生じるため、この加減が難しいところです。

現場主導ではリードタイム改善は進まない

明らかに言えることは、担当者やその管理者に任せては、余裕をなかなか減らせないことです。その結果、この余裕が少しずつ大きくなり、気が付いたときにはリードタイムは長大になり大量の在庫を抱えてしまいます。

リードタイムや在庫回転日数などの指標を管理していれば異常に気付きますが、こういった指標を管理していない中小企業も多くあります。その場合、経営者や幹部社員が定期的に現場を巡回し、原材料や仕掛品、完成在庫の量を見ておく必要があります。

そしてこれらが増えてきて、作業スペースや通路が狭くなり、作業効率が低下するようであれば、上記の余裕を調べます。材料が入手難になった、外注が多忙で納入が遅れているなど、様々な原因で流れが停滞し、それを防ぐためにあちこちで余裕を増やしている可能性があります。

仕掛品が減少すると

それでは、この余裕が少なくなるとどうなるのでしょうか。

その場合、どこかの工程が遅れるとすぐに問題になります。つまり遅れるという異常を自動的に知らせてくれる警報器の役割を果たします。

これは例えれば水面を下げると、問題のという岩が見えてくることです。

異常がわかったら原因を調査します。例えば、ある工程がよく停止する場合、次の工程の間に仕掛品をたくさん作っておけば、次の工程は止まりません。その結果工程の問題は分からず、現場改善も進みません。

対策しなければならなくなる

しかし仕掛品を減らすと、次の工程が頻繁に止ります。その結果、問題の工程が止まらないように何らかの対策をしなければなりません。

原因は、

  • 部品の精度が悪く検査に合格しない
  • 加工方法に問題があり不良が多い

様々なものがあります。これを改善し、工程が止まらないようにすれば不良が減って品質が向上します。その結果、コストダウンも進みます。これが余裕を減らす最大の利点です。

この活動は現場に自主的に任せるとなかなか進みません。経営者、又は幹部社員が率先して指導する必要があります。実は在庫が増えると、生産量の変動がむしろ激しくなります。これはブルウィップ効果と呼ばれています。

ブルウィップ効果

工場でつくった製品は、最終的には顧客に届けられます。このとき、顧客の需要に変動があると、部品メーカーのようなサプライチェーンの上流は生産量の変動が非常に大きくなります。これは、牛を追い立てる鞭が、手元の動きに比べ先端が大きく動くのに例えて、「ブルウィップ効果」と呼ばれています。

ブルウィップ効果は、部品メーカーと完成品メーカー、小売業者と卸業者などの企業間だけでなく、自社内でも工程の下流に比べ上流では変動が大きくなります。その意味でも、ブルウィップ効果の仕組みを知っておく必要があります。

ブルウィップ効果とは

ブルウィップ効果とは、サプライチェーンの川上事業者になればなるほど、末端の需要動向の変化が増幅されて伝わることをいいます。これは、流通・小売業のサプライチェーンマネジメント(SCM)から出てきた考え方です。

下図のように原材料メーカー ⇒ 部品メーカー ⇒ 完成品メーカー ⇒ 卸売業 ⇒ 小売業というサプライチェーンの中では、小売業のわずかな需要の変動が、上流の原材料メーカーでは大きな変動になっています。

ブルウィップ効果の図
ブルウィップ効果の図

エシェロン在庫

エシェロン在庫とは、自社から見、サプライチェーンの下流に位置する在庫のことをいいます。卸売業者の在庫は、完成品メーカーから見たエシェロン在庫になります。エシェロン在庫は、自社の需要の変動に大きな影響を与えます。

ブルウィップ効果が起こる原因には以下のようなものがあります。

  1. 最終顧客の需要動向が川上に伝わるのが遅い
    発注間隔が長い、需要動向を川上事業者に伝えていない、等の理由で川上事業者に最終顧客の需要動向が遅れて伝わるためです。
  2. 川上事業者は需要変化に対して過剰に反応してしまう
    川上事業者が供給能力が足らずに欠品することを恐れて在庫を余分に持ったり、生産量を余分に引き上げたりすると、過剰在庫となります。その結果、需要が減少したときに最終顧客の需要以上に、需要が減少します。つまり、過剰在庫のためにわずかな需要変化に対して敏感になってしまいます。好景気が大きいほど、この後の不況が大きくなる原因のひとつにブルウィップ効果の影響があります。
  3. リードタイムが長い
    製造リードタイムが長いと、より遠い未来の需要動向を、現在の需要動向から予測しなければなりません。その結果、生産計画や購買計画する不確定要素が高くなります。

ブルウィップ効果を軽減するには

川上事業者が最終顧客の需要動向を早く正確に掴むことです。また、各サプライチェーンの受注から出荷までの時間を短くすることが重要になってきます。そのため、以下のような取り組みがブルウィップ効果低減に有効となります。

  1. SCM体制の構築、サプライチェーンの上流から下流まで、需要動向の情報の伝達を素早くします。SCM(サプライチェーンマネジメント)は、各サプライチェーンの情報の伝達を情報システムで結び、最終顧客の需要動向をリアルタイムに川上事業者へと展開します。
  2. 川下事業を統合する、買収・合併などにより、川上事業者と川下事業者が統合すれば、情報の伝達のスピードアップ、サプライチェーン間の在庫削減が可能になります。例えば原材料メーカーが、完成品を作り、小売までできるようになれば、ブルウィップ効果の影響を減らすことができます。
  3. 生産リードタイムを短縮する、生産リードタイムを短縮することで、より近い将来の需要予測をすればよくなります。その結果、需要予測の精度がUPします。

リードタイム短縮はブルウィップ効果を低減し、生産を平準化させる効果もあります。

供給不足でもブルウィップ効果が起きる

過去に震災やその他様々な要因で供給不足が生じたとき、各サプライチェーンが過剰に反応して、最上流の材料メーカーでは、大量の注文が入りました。そして、その後全く注文がなくなってしまうことがありました。これは、不足すると、今あるものを確保しようと、各社が過剰に購入するためです。そして生産量が減少したときには、大量の在庫消化のために、発注を大幅に減らします。これもブルウィップ効果の例です。

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【品質とコストの改善】中小企業の5S実践のポイント https://ilink-corp.co.jp/15090.html https://ilink-corp.co.jp/15090.html#respond Tue, 28 Jan 2025 10:25:26 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=15090
【コラムの概要】

本コラムでは、中小企業が5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)を実践することで、品質向上とコスト削減を実現する方法を解説しています。5Sが単なる美化活動ではなく、業務効率の改善、不良品の削減、安全性の向上に直結する重要な経営活動であると強調。中小企業特有のリソースや環境を考慮し、段階的な導入や従業員の意識改革の重要性を具体的に示しています。原価計算システムや原価改善コンサルティングと組み合わせることで、5Sの効果を最大化し、企業の競争力強化に繋がります。

5S活動とは、製造現場に関わる人の多くが知っている基本で、5Sとは、1) 整理、2) 整頓、3) 清掃、4) 清潔、5)躾 の5つの言葉の頭文字から取っています。

5Sの意味

この言葉は、日常生活で一般的に使用されているため、人によって様々に解釈されています。製造現場の改善活動で使用される5S活動の用語の定義は以下の意味です。

  • 【整理】 「必要なもの」と「必要でないもの」とを分けて必要でないものを捨てること
  • 【整頓】 「必要なもの」をだけを置き場を決めて表示すること
  • 【清掃】 身の回りのものや職場の中をきれいに掃除すること
  • 【清潔】 職場をきれいに保つこと
  • 【躾】 決めたことを必ず守るように徹底すること

特に整理と整頓は、日常使っている用語と意味が違うので注意が必要なため、現場の管理者やリーダーは、用語の意味を全員に理解させるようにします。

【整理】

中小企業の場合、5S活動の最初のハードルが整理です。]

中小企業の整理の課題

多くの現場では、不要品が多くて製造現場の作業スペースが狭くなり、作業者は狭い場所で大変効率の悪い作業をしていることがあります。特に中小企業では、狭い工場に機械を多数設置したために、十分な幅の通路が確保できない場合もあります。

その対策として、整理を行ないスペースを確保することが重要です。整理については、多くの5Sの本にやり方が書いてあります。しかし現実には多くの企業が苦労しています。

捨てるのは簡単ではない

原因は何でしょうか?

実は、中小企業では、【整理】は経営者しかできないのです現場にある不要品とは

  • 毎月購入する多額の材料から発生する端材
  • 手配ミスや顧客の仕様変更でせっかく買ったのに使用されなかった機器
  • 大量に発注がある見込みでまとめ買いした工具や材料

こういうものです。整理とは、これらを「いるもの」と「いらないもの」に分けなることです。しかし多くの社員は、「いらないもの」があっても経営者に尋ねるより、そのまま棚に入れておきます。

これらの廃却の判断は経営者が行なうのですが、まだ資産価値があることや、また使うときがあるかもしれないと思うと、なかなか捨てられません。その結果、製造現場にモノがあふれかえり、生産性が低下します。

これが大企業では「廃却の心理的な痛み」はずっと低く、廃棄許可の書類を出せば済んでしまいます。これが大企業向けに書かれた5Sの本が、中小企業では実行できない理由のひとつです。

捨てられなければ一時保管する

その場合お勧めなのが、一時保管です。まず現在の生産に使用していないものは、全部現場から取り除き、1箇所に集めます。そして、思い切って捨てることができるものは、廃棄します。

そして、まだ使う機会があるかもしれないものは、動作確認や検査を行ない、梱包して別の場所に保管します。その際、保管開始日と保管期限をマジックで書いておきます。そして保管期限までに使う機会がなければ廃棄します。

このやり方は、最初の判定は経営者が行なう必要がありますが、後は「いついつまでに使用しなかったら、捨てる」と決めておけば、社員が捨てることができます。

端材の廃却

また、日々の生産活動で発生する端材などは、置き場所を決め、保管量を決めておかないと、端材がどんどん増えて、現場のスペースを圧縮します。これも保管量を超えたものは、別の場所に置くか、廃棄するかを経営者が決めます。この場合、どういうときに端材を使用するかルールを決めておかないと、端材がなかなか減りません。

多くの作業では、無理に端材を使用すると、作業のリズムがくずれ、作業スピードが低下し、全体の生産性が低下します。作業者が少々時間をかけても、端材を使用し材料費を下げた方が得か、端材は使用せず少しでも生産性の効率化を図った方が得か、見極める必要があります。

【整頓】

整頓とは、「必要なもの」を置き場を決めて表示することです。つまり「置く場所を決める」とともに「表示すること」が必要です。この置くルールに3定があります。

3定

これは以下の3つです。

  • 定位 どこに (置く場所)
  • 定品 何を (置く品物)
  • 定量 どれだけ (置く量)

表示の対象は、日常で良く使用される原材料、製品、又は仕掛品、さらに工具や刃物、治具などです。

3定の優先順位

整頓ができていない場合は、定量は後回しにして、どこに、何を、置くかを明確にして、置き場所に表示します。

大企業の整頓の例を見ると、工具等がすべて整然と壁に掛かっていたり、置き場所がウレタンで工具の形にくり抜かれていたり、素晴らしい例があります。

しかし最初からそれを達成するのは無理がありますので、置き場所や収納場所を決めて、テプラやカンバンで表示するまでとします。そして使い終わったら必ずそこへ戻すように全員に指導します。特に工具や刃物などは、一日の作業が終了した後は必ず正しい位置に戻すように指導します。

定期的なチェックが必要

それでも時間の経過とともに正しい置き場所になかったり、表示と置いてあるものが異なったりします。従って定期的に置き場所の点検を行ない、表示を直したり正しい場所に移動したりします。

この定期的なチェックを怠ると、最初はきれいに置いてあったのが、いつの間にか元に戻ってしまいます。

ルール無視を放置しない【壊れ窓理論】

誰かが工具や製品を正しく置かずに乱雑な状態にしておくと、「忙しいときはルールを破って適当において良い」というメッセージをその品物が発するからです。その結果、他の作業者も次々と置き場所を守らなくなり、形骸化します。

「壊れ窓理論」(ブロークン・ウィンドウズ理論)というものがあり、業務が形骸化する原因の多くは、「壊れ窓理論」で説明できます。「壊れ窓理論」については、以下を参照ください。

ブロークン・ウィンドウズ理論は、米国ルドガーズ大学の刑事司法学者ジョージ・ケリング教授の理論です。ケリング教授は世界中の警察活動を調査・分析して、ブロークン・ウィンドウズ理論に至りました。

これは1969年にスタンフォード大学のフリップ・ジンバルド教授(心理学者)によって行なわれた実験によります。

カリフォルニア州の住宅街に自動車を放置し、

(1)ナンバープレートを外し、ボンネットを空けたままにしたが、最初の1週間は何も無かった。

(2)そこで、フロント・ガラスを壊してみた。すると、すぐにバッテリーが持ち去られ、その後、多くの部品が持ち去られてしまった。

(3)2週間が終わる頃には、落書きが書かれ、ほとんどの窓ガラスが割られ、車は完全に破壊されてしまった。

ケリング教授は、この実験を以下のように理論付けました。

どのステップにおいても『自分だけではない』と言う気持ちを犯罪者に与えており、そのことが以下のステップを徐々に進め犯罪が増加するのです。

(1)落書きが放置されていると、小さな行動にも罪悪感が薄れやすくなる。

(2)軽犯罪が多発し、治安が悪くなる。

(3)この街は、警察の監視がない場所だと判断され、より凶悪な犯罪者が寄り付く。

(4)犯罪がエスカレートし、凶悪事件が発生する。 ニューヨーク市は1980年代からアメリカ有数の犯罪多発都市となっていたが、1994年にジュリアーニ市長は治安回復のために、地下鉄の落書きなど軽微な犯罪を徹底的に取り締まりました。その結果、凶悪犯罪も大幅に減少、治安が回復し、ニューヨークは安心して暮らせる街になったといわれています。

定量

3定のうちで、〈定量〉と、「置き場所のランク」についてです。

3定の中で〈定位〉と〈定品〉が実現できたら、各々の置き場所に最低数量と最大数量を記入し、〈定量〉を目指します。その結果、多すぎたり少なすぎたりすれば、一目で分かるようになります。

これは仕掛品が多すぎたり、生産や出荷の遅れなどの異常が、置き場所の最大数量を超えていることで、容易に分かるようになります。

ただし、このような見える化は、現場の管理者や作業者は嫌がり、理由をつけて反対することがあります。その場合は、管理者が現場のメンバーと良く話し合って、異常がわかることは改善することが目的で有り、決して担当者を責めるわけではないことを納得してもらいます。

また、この〈定量〉も急な受注や欠品で現場が混乱すると守られなくなることがあります。その場合は、混乱が収束した後は、再度〈定量〉を守るように管理者が指導します。

置き場所のランク

もうひとつは、「置き場所のランク」です。実は工場のフロアーは同じようでも、主に物流のアクセスのしやすさから使いやすい場所と、使いにくい場所があります。

例えば、これを一等地から三等地に分類します。すると

通路に面した場所は、物流がしやすく輸送効率が高いため一等地です。

通路から離れていたり、壁際など片側からしかアクセスできない場所は、二等地です。

さらに奥まっていたり、周りを囲まれていてリフトがアクセスできない場所は、三等地です。

整頓して置き場所を決める際も、品物の運びやすさや物流の頻度を考慮して、頻繁に出し入れするものは、一等地に配置します。

実際の中小企業の現場では、一生懸命整理・整頓して空けた場所は三等地で、実は一等地にここ数年使用していない保管品が占拠している、なんて場合があります。その結果、毎回リフトが保管品をよけながら、ジグザグに運転したいたり、保管品のため台車が通れなくて、大回りしていることになったりします。しかも多くの作業者は不便だと思っていても、保管品をどけてください、捨ててください、とは滅多に言いません。その結果、物流に余分な時間がかかり知らぬ間に生産性が低下しています。

こういった点は、現場管理者がよく見て問題に気づく必要があります。このように有効に使用できる場所を優先的に空け、物量効率を高めることが生産の効率化には必要ですが、これは意外と気が付かないポイントでもあります。

清掃・清潔・躾

【清掃】 身の回りのものや職場の中をきれいに掃除すること

【清潔】 職場をきれいに保つこと(清掃した状態を維持すること)、整理・整頓・清潔を維持すること

【躾】 決めたことを必ず守るように徹底すること

清掃

清掃には、1. 日常清掃、2. 清掃点検、3. 清掃保全 があります。

  1. 日常清掃 きれいにする清掃=日常業務に組み込む
  2. 清掃点検 異常を検知する清掃=清掃に点検を組み込む
  3. 清掃保全 故障を防止する清掃=清掃点検業務に保全を組み込む

基本的には、最初に毎日の日常清掃に取組み、日常清掃が定着したら清掃時に設備の異常の検査を組み込みます。さらに定期的に保全と清掃を組み合わせて、日常清掃ではできない部分は時間をかけて清掃するとともに、トラブルの原因となる箇所を異常が発生する前に、対処します。

具体的には、点検・調整したり、消耗部品を交換します。工作機械や自動化設備など大がかりな設備を使用している企業は、この清掃保全は重要です。

設備故障の原因の多くは不十分な清掃

実際、設備の停止が多く、また不良も多く出ている設備を調べたところ、清掃がほとんどされていなかったことがありました。そして設備の不調の原因として、エアーシリンダーの動作が不安定だったので調べたところ、設備に入れる圧縮空気の異物や水分を取り除くフィルターが真っ黒に汚れ、タンクに水がたまっていました。

この場合、週末や月末に時間を決めて3)の清掃保全を行ない、設備を清掃するとともに各部を点検します。また消耗している部分を交換したり、調子の悪いところを調整します。また清掃は、具体的な清掃区域、担当者、清掃時間を決めます。

清掃時間を決めておく

清掃を定着させる上で最も重要なことは、就業時間内に清掃時間を定めて、全員で行なうことです。時間を決めずに作業者の自主性に任せておくと、いつの間にかやらなくなり、もとの汚い現場に戻ってしまいます。また大企業では清掃にもチェックリストを作ったりしていますが、通常の清掃であれば清掃箇所は作業者に任せておいても問題はありません。

ただし、点検も合わせて行なうときは、点検項目はチェックリストを作成しないと、作業者によって点検しない項目が生じてしまいます。また清掃の判断基準に困ったときは、「使う前よりきれいにする」としておけば十分です。

清潔

清潔は、管理者や経営者が常に気を配り、整理・整頓・清潔が甘くなってないか注意します。整理・整頓も一度行なった後は、徐々に崩れていきます。そこで定期的に整理・整頓を行ない、不要品の処分や置き場の表示の見直しを行ないます。棚卸しなどで生産が止まっている機会に行なうようにすれば、定期的にできます。

躾のポイントは、ルールを守ることの大切さを伝えることと、ルールを破った場合は、必ず指摘し原因を問うことです。そして原因が分かった後は、作業者を責めるのではなく、その原因を取り除くようにすることです。

例え小さなルールでも、ルールを破って作業しているのを見過ごせば、いつか大きな不良や事故を起こすかもしれません。従って、管理者や経営者は、小さなルール違反も見過ごさないという意識が必要です。

もう一つ中小企業の躾で重要なことがあります。

トップがルールを守る

それは、経営者も含めた管理者もルールを守るということです。作業者は、仕事をしながらも上司や経営者の行動や言動を実によく見ています。

これぐらいということでも、管理者がルールを守っていないと、作業者はルールを守らなくてもいいというメッセージと受け取り、次第にルールを守らなくなります。これは、以前のブログでお話ししたケリング教授の「壊れ窓理論」でも説明されます。

例えば、工場内着帽の規則に対し、経営者が守らずに無帽で工場内に入ると作業者はそれを見て、人によってはルールを守らなくて良い、と理解します。その結果、急いでいるから、少しの間だから、とルールを守らなくて良い理由を作り、ルールが形骸化します。そして重大な不良や事故が発生します。

【躾】において最も重要なことは、経営者も含めたリーダーが率先してルールを守り、部下の些細なルール違反も見逃さず、指摘することです。(ただし指摘であって、決して怒ることではありません。)

この記事を書いた人

経営コラム ものづくりの未来と経営

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、技術革新や経営、社会の変革などのテーマを掘り下げ、ニュースからは見えない本質と変化を深堀したコラムです。「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しています。過去のコラムについてはこちらをご参照ください。
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21. 発注先は品質をどのように評価しているのか? https://ilink-corp.co.jp/13407.html https://ilink-corp.co.jp/13407.html#respond Sun, 08 Sep 2024 02:54:39 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=13407
このコラムの概要

本コラムでは、製造業が発注先を価格だけで選ぶリスクに警鐘を鳴らし、品質が企業の最終利益と顧客満足度に与える影響を強調しています。安価な発注先は、不良品や納期遅延、それに伴う再生産コストや信用失墜など、目に見えない多大な損失を生む可能性があります。そのため、発注先選定では、価格だけでなく品質管理体制、技術力、実績などを総合的に評価する不可欠性を説きます。サプライヤーの品質は自社製品に直結するため、厳格な基準を満たせるパートナー選びが重要です。この視点は値上げ交渉にも繋がり、自社が提供する高い品質と信頼性が、単価上昇の正当な理由となることを顧客に理解してもらう上で肝要です。


値上げ交渉は価格が争点です。値上げ金額が高いのかどうか、取引先と議論します。

しかし価格以外に、品質管理などの管理体制も仕入先によって違います。これについては製造業の値上げ交渉23 少し高くても受注3 高い価格を受け入れてもらうには?を参照願います。

ものづくりは価格だけではありません。QCDの3つが良くなければいいものはつくれません。

中でも重要なのは品質です。

理由は、一度不良が起きれば多額の損失が発生するからです。
 

リコールは多額の費用

2023年度の自動車のリコール件数は、国産車169件、輸入車180件、総対象台数は国産車、輸入車合わせて810万台でした。

図 自動車のリコール推移 (国土交通省HPより)

図 自動車のリコール推移 (国土交通省HPより)

食品は2021年度に1453件のリコール(自主回収)がありました。

リコールには多額の費用がかかります。1回で数億円もかかることも珍しくありません。

価格が低くても品質管理の不十分な仕入先に発注すれば、不良品が市場に流出する可能性があります。リコールになれば部品価格の少々の違いは吹き飛んでしまう損失が発生します。
 

他にも発生する費用

リコール費用は、不良品を回収して良品を提供するための費用です。

他にもリコールは、原因調査、対策のための費用(主に人件費)がかかります。対策会議を開けば、それも新たなコストです。実際はこれらの費用は集計していないメーカーもあります。その場合はこれらは見えないコストです。

さらに仕入先自身でも費用が発生します。これは

  • 不良品を廃棄・修正する費用
  • 取引先に行って、回収、選別する費用
  • 代品を作成する費用
  • 不良の原因分析、対策のためのテストや会議の費用
  • 再発防止にかかる費用

このような費用が発生します。

不良品の損失金額は

  • 不良品を廃棄する場合、廃棄した部品の原価
  • 不良品を修正する場合、修正費用

実際は修正費用を集計しないため、修正費用は損失と思っていない工場もあります。

他にも流出防止・再発防止のために、担当者が活動している時間も損失です。

図 不良損失コスト

図 不良損失コスト

仕入先が中小企業の場合、多くはありませんが、大きな不良ではメーカーから損害賠償を請求されることもあります。

自動車メーカーは、部品メーカーが原因でリコールが生じた場合、リコール費用の一部、又は全額を部品メーカーが負担します。

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不良が原因で経営破綻

あるいは不良品が原因で事故が起きれば、メーカーの存続にかかわります。

13,420人が食中毒を起こした旧雪印乳業、異常破裂が原因で死亡事故を起こしたエアバッグのタカタ、いずれも品質問題が原因で会社分割や経営破綻に至りました。

では品質が悪い仕入先とは取引しないで、品質が良い仕入先とだけ取引すればよいのでしょうか。

それが、そう簡単ではないのです。

なぜなら、品質はコストのように定量化できないからです。

不良率を使えば品質は数値化できます。

では不良率が低ければよいかというと、そう簡単ではないのです。それはヒューマンエラーによる突発的な不良もあるからです。

そして不良が発生した後の再発防止も重要です。
 

不良品が市場で発生した場合

不良品が取引先に流出すれば、再発防止と流出防止が必要です。

例えば、寸法、形状などの品質は、10±0.01ミリのように公差で規定されます。製品を測定し、この範囲にあれば合格、外れれば不良です。

検査員のミスで不良品を取引先に納入すれば、その部品を組み込んだ製品は不良品です。

もし取引先が完成品を出荷検査して不良に気づけば出荷されません。

しかし気づかなければ不良品が出荷されてしまいます。しかし誰もそれが不良品であることに気づきません。
 

メーカーの動き

顧客がこの製品を買って、動作不良などが起きれば、販売店に修理(保証期間内なら無償修理)を依頼します。そして製品がメーカーに送られます。そこで部品が不良品であることが分かります。

ここからが大変です。

メーカーは、この部品(不良品)が他の製品にも組み込まれていないか調査します。

そのためには、

  • なぜ仕入先が不良品を製造したのか
  • なぜ仕入先は不良品を出荷したのか

原因を調査します。仕入先と協議して、不良品を製造した原因、検査が見逃した原因を調べます。

そして不良品を組み込んだ製品が、問題を起こした製品のみという確信が持てれば、その製品のみの問題とし、その製品を修理、又は新品と交換します。

図 品質不良処置のフロー

図 品質不良処置のフロー

リコール可否の判断

不良品を組み込んだ製品が他にもある場合は大変です。

使用者がけがをしたり、発火したりするなど問題が深刻であればリコール(自主回収)をします。販売店などを通じて、購入した顧客に連絡して、回収・修理をします。

自動車の場合、リコールは保安基準に適合しなくなるおそれがある問題が対象です。

ということは保安基準に適合すれば、不良品でもリコールにはなりません。

車が調子が悪くなってディーラーに持っていくと、無料で部品を交換してくれることがあります。

これは原因がメーカーでもわかっていて、対策品も用意してあるためです。それでも保安基準に適合しているのでリコールにはならないのです。
 

対象範囲の特定

リコールになった場合、メーカーはリコールの台数をできる限り少なくするため、対象台数を絞り込みます。

仕入先が不良品を製造した原因、あるいは仕入先の検査が不良品を見逃した原因を調査し、それが一定の期間に製造した部品であることを特定します。

図 リコールのフローの例

図 リコールのフローの例

ところが原因が特定の設備や作業者と分かっても、

  • いつ、
  • どの設備で、
  • 誰が製造したのか、

記録がなければ、問題の部品の範囲を限定できません。その結果、対象台数は増えてリコール費用は増加します。
 

トレーサビリティ管理の必要性

そのため、最近では仕入先に、いつ、どの設備を、誰が製造したのか、記録する製造履歴管理(トレーサビリティ管理)を取引先から要求されます。

図 トレーサビリティ管理

図 トレーサビリティ管理

図では

設備1はAさん、設備2はBさんが担当しました。

A2製品の不良の原因はBさんの設定ミスでした。

○月1日から3日 Bさんが作業した設備2の設定ミスが分かりました。その結果、○月1日から3日にかけて設備2が製造した部品が対象になります。

しかしこうした記録がなければ、設備1で製造した部品も対象になってしまいます。

不良は数値化できるのか

 
こうした不良品発生の過程では

仕入先の現場 : 工程内検査 工程内不良率
出荷検査 : 不良率

メーカー : 製品の不良率

こういったデータがあります。

図 仕入先と取引先の不良

図 仕入先と取引先の不良

最近は品質に対する要求が厳しく、メーカーの検査で不良が見つかり、原因が仕入先の部品の場合、大問題になります。

メーカーから仕入先に、不良品を納入した原因の調査と再発防止が求められます。

その際、まずは、なぜ出荷検査が見逃したのかを調査します。

それだけでなく、不良が多ければ見逃しする確率が高くなるため、不良自体を減らすことが求められます。具体的には工程内不良率を調べ、製造工程を改善して工程内不良を減らすように求められます。
 

大量生産での数値化

この時、大量生産では工程能力指数というものが用いられます。

これは製品の特性値が目標値に対してどれだけばらついているかを示す指標で、Cp, Cpkで表します。

Cp, Cpkは測定結果の平均値と標準偏差から以下の式で計算します。

Cp,Cpkの計算

これは測定結果から統計を用いて不良品の発生確率を推測する方法です。

Cpは平均値のずれを無視して、公差範囲に対するデータのばらつきのみを表します。
Cpkは公差の中心に対するデータの平均値の偏りと、公差範囲に対するデータのばらつきを表します。

一般的には平均値の偏りも考慮してCpkで説明します。Cpkの値と発生する不良率を上図に示します。またCpkと工程能力を下表に示します。

表 Cpkと工程能力

Cpkの値ばらつきの幅工程能力検査
1.00±3σ不安定全数検査
1.00~1.33~±4σまあ安定している抜取検査
1.33~1.67~±5σ安定している緩い抜取検査
1.67以上±5σ以上十分安定している無検査

この表よりCpkが1.33以上であれば工程能力は十分なため、抜取検査に移行できることがわかります。

実際にはCpk1.33は公差範囲に対してばらつきは非常に少なく、Cpk1.33を達成するには工程を安定させてばらつきをかなり抑えなければなりません。

仕入先の品質が工程能力のみで評価できれば、Cp, Cpkを比較すれば、仕入先の品質を比較できます。

実際は、そう簡単ではありません。

それは突発的に発生する不良があるからです。その原因は人のミス、ヒューマンエラーです。
 

人のミス、ヒューマンエラーによる不良

現場における人の要素は今でも大きく、例え自動化された設備でも、その設備を設定するのは人です。設備は問題なくても設定をミスすれば、不良品を製造します。

しかも今日の現場は、熟練の正社員以外に、派遣社員、外国人研修生、パート社員などさまざまな人がいます。精密な切削加工品を、日本語で書かれた図面を元に、図面の読み方がわからない外国人が検品していることは珍しくありません。

つまりヒューマンエラーが起きる要素はあちこちにあるのです。

とてもきれいな工場で、手順書やマニュアルも整備され、工程内不良や出荷検査の不良も少なく、品質に問題ないと思えるような工場から、
ある日突然、不良品が入ってきて現場は気づかずに出荷してしまった。
その結果、市場で大きな問題になった、
このようなことを私は品質保証部門にいた時に何度も経験しました。

こういったヒューマンエラーによる不良は、原因は以下の4つです。

  • 正しい作業が決まっていない、ルールがない
  • ルールを守らない
  • ヒューマンエラー
  • 人には向いていない

従って

  • 正しい作業が決めて、ルール化(標準化)する
  • ルールを守る組織にする
  • ヒューマンエラー対策を行い、発生したヒューマンエラーに対し再発防止を徹底する
  • 人には向いていない作業は極力自動化、システム化する

こういったことに地道に取り組まなければなりません。

つまりばらつきを抑えることとヒューマンエラー対策は品質という車の両輪なのです。

図 品質管理とヒューマンエラー対策は車の両輪

図 品質管理とヒューマンエラー対策は車の両輪

精度が高いものは、加工だけでなく、測定の管理も重要

要求精度が高くなれば、高い管理能力も必要です。例えば寸法精度の場合、精度が厳しくなると、温度管理も必要です。なぜなら金属は温度によって伸び縮みするからです。
 

1ミクロンを保証する大変さ

100ミリの鉄は、1℃変わると1ミクロン寸法が変化します。室温が10℃変われば10ミクロン、0.01ミリも変わってしまいます。しかも加工直後の部品は温度が50℃以上になることもあります。こういった温度による寸法の変化も考慮して測定しなければ、1ミクロンの精度の部品はできません。

他にも1ミクロンの寸法精度を保証するには、測定機の誤差も管理しなければなりません。

自社の測定機と取引先の測定機に1ミクロンの誤差があれば、自社では公差ギリギリで良品だったものが、取引先では不良品になることがあります。この1ミクロンは、測定機や測定の仕方によって簡単に変わってしまいます。

つまり1ミクロンを保証するためには

  • 温度管理
  • 高い測定技術(設備、人)
  • 測定のバラツキの管理(機器の校正)

これらが必要です。

図 1ミクロンを保証する大変さ

図 1ミクロンを保証する大変さ

今の工作機械は優秀なので、プログラムを入れればどの会社でも加工できます。しかし、それを測定し、精度を保証するには測定方法や測定機の管理などにレベルの高い管理が必要です。

他にも不良を防ぎ、品質を管理するために重要なのは、変化点を管理することです。
 

不良を防ぐための変化点管理

 
今の生産設備は自動化が進み、スタートボタンを押せばどんどん生産します。

最初に設定をミスすれば不良品を大量に生産してしまいます。

そこで重要なのが、最初の設定時の確認です。こういった変化点を確認する手法には、4M変更管理と3H管理があります。

4Mとは以下の4つのことです。

  • Man (作業者)
  • Machine (設備)
  • Material (材料)
  • Method (製造方法)

頭文字の4つのMから「4M変更管理」と呼ばれます。他にも4Mに製品(Product)を加えて、4M+Pを管理することもあります。

4Mは品質が変化する要素ですが、品質が変化するタイミングは初めて(Hajimete)、変更(Henkou)、久しぶり(Hisashiburi)の3つがあります。3H管理とは、この3つの頭文字をとったものです。
4m変更管理(4M+P)と3H管理を組み合わせれば下表のようなマトリックスができます。

表 変化点管理の例

変化変化のタイミング
項目初めて変更久しぶり
Man
(人)
新人配置転換職場復帰
Machine
(設備)
新規の設備・金型・治具修理・仕様変更長期間使用していない設備
Material
(材料)
新規の材料材料・メーカー変更長期間発注がない材料、長期保管した材料
Method
(方法)
初めての製造・検査・管理の方法製造・検査・管理の方法の変更長期間実施していない方法
Product
(製品)
新製品設計変更長期間製造していない製品

このような変化点では、問題を未然に防ぐために以下の取組を行います。

  • いつもより入念な検査
  • 一時的に抜取から全数検査へ切替
  • 製造工程の入念な確認

品質の高いものづくりは、工場の総合力

このように不良が出ない、品質の高いものづくりを実現するには、不良率や工程能力指数といった指標だけでなく、

  • 正しいやり方を決め、ルール化してルールを守らせる
  • ヒューマンエラー対策を行う
  • 変化点管理など

様々な取組が必要です。

それは一朝一夕ではできません。時間をかけて工場の総合力を高める必要があります。

しかもこの総合力は、大量生産と多品種少量生産で、重視されるものが違います。

品質管理は、品質に関するこのような総合的な能力です。
 

定期的にPR

この工場の総合的な能力は、不良率のような指標では表しきれません。そのため自社の取組を取引先に分かってもらうには、自らPRする必要があります。自社のこういった取組をまとめた資料をつくり取引先に渡してPRします。

自らPRしないと、品質について総合力の高い工場と、そうでない工場は、取引先から見れば同じです。そして価格だけで総合力の低い取引先に発注されてしまいます。

設備保全、人材教育、工程の管理に力を入れて、日々細心の注意を払っても不良は起きます。
価格だけで総合力の低い仕入先に発注すれば、取引先は将来重大な品質不良のリスクを抱えているのです。

その結果、どうなるか、過去の破綻の例が示しています。

原価が上がっている原因に不良の増加

見積では利益があるのに、実際は利益が出ない、以前に比べて利益が減少している、その原因に不良が増えていることがあります。この場合、原因を調べ、原因が顧客の要求にある場合は値上げ交渉が必要です。

こうした原因を追究するためにも、個別製品の原価の把握が必要です。また不良以外にも人件費や経費の上昇が原価上昇の原因の場合もあります。

費用が上昇する今日では、原価は変動するものと考え、変動する原価対応することが必要です。

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発注先のコストダウン活動とは何をしているのか?

品質だけでなく、コスト面での取り組みも評価の対象になります。
発注先がどのようなコストダウン活動を行っているのか、その実態を解説します。

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https://ilink-corp.co.jp/13407.html/feed 0
20. 少し高くても受注できる条件は何か?③ https://ilink-corp.co.jp/13405.html https://ilink-corp.co.jp/13405.html#respond Sun, 08 Sep 2024 02:53:01 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=13405
このコラムの概要

製造業が顧客に高い価格を受け入れてもらうには、製品が提供する「高い価値」を明確に示すことが重要です。単なる価格提示ではなく、顧客の課題解決にどう貢献し、コスト削減や生産性向上、品質安定などの具体的なメリットをデータで提示します。価格以上の「顧客便益」を具体的に説明し、顧客との長期的な信頼関係を築くことで、単なる製品提供者ではなく「ビジネスパートナー」として価値を認めさせることが、高い価格での受注を可能にします。

値上げをお願いすると「値上げするなら他に出す」と言われます。

実際は安くても品質管理に問題があったりして、出すのをためらう仕入先だったりします。あるいは他に出すところが本当はないかもしれません。私の経験でも指値では発注できないこともありました。

この指値については製造業の値上げ交渉22 少し高くても受注2 指値とコストダウンを参照願います。一方取引先にとって値上げを受け入れることは、他の仕入先よりも高い価格を受け入れることにもなります。
 

他社よりも少し高い価格

なぜなら多くの仕入先があれば、そのサプライチェーンの中では値上げした金額よりも安くつくる仕入先があるからです。再び相見積を取って、安いところに発注すれば値上げしなくてすみます。

つまり他の仕入先よりも少し高い自社と「取引した方がよい」という理由が必要です。この取引先の価格が厳しい原因は、厳しい原価管理と指値にあります。
 

指値とは?

各メーカーとも価格競争は厳しく、原価を抑えなければなりません。そのため開発段階から目標原価を管理する原価企画を行います。製品の目標原価を部品単位に展開し、個々の部品の目標価格を決めます。これを指値として仕入先に提示します。この指値は仕入先にとって厳しい価格です。指値でつくれる根拠は取引先にあるのでしょうか。
 

指値の根拠

まだつくったことのない部品の指値は、大抵は過去の類似部品の実績や製品の目標原価から計算されます。(参考 私が過去に行った原価企画では、類似部品の価格を調べてこれを参考に新たに製作する部品の価格をおよそ見積っていました。)

この場合、具体的な製造時間や製造工程を考慮せずに指値を決めていれば、金額に具体的な根拠はありません。また例え製造工程や製造時間から予測原価を概算したとしても、仕入先のアワーレートや管理費、利益はわかりません。

そのため指値が仕入先の原価とは乖離します。
 

原価の7~8割は設計で決まる

実際は原価の7~8割は設計で決まると言われています。ある機能を実現する製品の原価は、設計が決まればおよそ決まります。その結果、原価が高ければ、図面や仕様を見直して、安くつくれる図面や仕様にしなければなりません。そのためにはつくる側と発注する側の双方がアイデアを出し合う必要があります。

図 目標価格の割り付けと目標価格のオーバー

図 目標価格の割り付けと目標価格のオーバー

しかし発注先を選定する部署(例えば 購買)は、図面や仕様を変える権限がありません。それでも安く調達しようとすれば、その図面や仕様でかかる原価よりも低い価格で発注することになります。これは下請法の「買いたたき」になります。
 

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適正価格は企業によって違う

実は原価はどの仕入先も同じではありません。会社の規模やつくり方によって変わるからです。私の経験でも、同じ図面や仕様でも見積価格は仕入先によって違っていました。傾向として規模の大きい会社は原価が高く、規模の小さな会社は原価が低くなります。

図 適正価格の違い

図 適正価格の違い

規模の違いによる原価の違い

規模の大きなA社は、設備が新しく減価償却費も多額です。生産管理や品質管理など間接部門の規模が大きく、その分間接人員の人件費も多くなります。工場の経費も高く、原価に占める間接費用が高くなっています。

対して規模の小さなB社は、大半の設備は償却が終わっています。設備の費用はゼロです。生産管理や品質管理の専任者はおらず、社長以下全員が生産活動に従事しています。規模が小さいため工場の経費も多くありません。

両社を比較すると、A社は、設備の費用や賃金が高いためアワーレートが高くなります。間接費用も大きいため、その分原価も高くなります。

B社は、設備の費用や賃金が低くアワーレートは低くなります。間接費用も小さく、原価は低くなります。

その結果、同じ製品でも見積金額は違います。

これについては【製造業の値上げ交渉】7. この製品、いくらが正しいのだろうか?を参照願います。
 

品質が問われる部品、どちらに出したいですか?

では、ある部品をA社かB社のどちらに出したらよいでしょうか?

これは部品によります。

A社は品質管理や工程管理がしっかりしているので、数が多いものも品質が安定しています。技術的に難しいものも治具や加工方法を工夫して製造します。

B社は昔ながらの職人的なものづくりのため、数が多いものは品質に不安があります。統計的手法を駆使した品質管理や工程能力の把握は困難です。もし不良品が混入すれば、自社で見つけることができず取引先に流出する可能性があります。

従って不良品が流出すれば重大な問題が起きる部品は少々高くてもA社に発注します。もし市場で問題が起きれば、多額の損失が発生し部品単価の違いは吹き飛んでしまいます。

そうなればその仕入先を選定した購買の責任も問われます。

図 企業による原価の違い

図 企業による原価の違い

ポイントはヒューマンエラーの管理

先日、個人的にある部品(小さなカラー)が必要になったため、個人が依頼できる部品発注サイトを使って発注しました。

出来上がった部品は、寸法はOKでしたが、1箇所 面取りが図面指示と異なっていました。図面指示は、C0.1~0.3でしたが、現物はピン角(面取りなし)でした。自分が使う分には問題ないので検収を上げました。

しかしこの部品を企業に納品した場合、これは不良品です。

1個だけつくる場合、その品質は作業者のスキルや注意力に依存します。作業者がどれだけ注意を払って作業するかが重要です。たかが面取りと思われるかもしれません。

しかしたった1箇所の面取りで機械が壊れることもあるのです。

もし企業がこの会社に発注すれば、こうした作業者のミスは、自社の受入検査や現場の担当者が目を光らせて見つけなければなりません。それでも少し安い会社に発注したいでしょうか。

適正価格を説明

例えば、ある部品の適正価格は、
A社700円
C社600円
でした。

取引先は、価格のみを比較し、A社に「700円は高い」と言います。A社は「C社と比較されても…」と思いつつ、自社の価格が「適正」と主張しません。

この100円高い理由は、品質管理や工程管理の体制、最新の設備の投資によるものです。それは安定した品質をもたらします。

そうであればA社はそれを取引先に説明しなければ取引先に伝わりません。

それでも取引先が600円で調達したければ、C社に発注すればよいのです。その結果、不良品が発生しても、それは取引先の選択した結果です。
 

買いたたきは下請法違反

問題は、取引先が600円で、A社に発注しようとする場合です。

600円ではA社は、利益がゼロ、販管費もカバーできない金額です。

これは仕入先に不当に低い価格を強要することになります。しかし取引先はC社の600円の見積を見ているので、600円は不当に低い価格とは思いません。

図 買いたたきに気づかない構造

図 買いたたきに気づかない構造

適正価格をていねいに説明

A社は製造工程と各工程の費用を示し、700円が適正な価格であることを説明します。これは暗に無理に700円を要求すれば「買いたたき」になることを示唆します。

原価の根拠を丁寧に説明し、見積は適切で水増しはないことをわかってもらいます。
 

駆け引きしない方が建設的な話し合いができる

価格交渉では、値下げ要求分を見越して、見積を水増しするなど様々な駆け引きがあります。しかし駆け引きをすれば、交渉はお互いの腹の探り合いになってしまいます。

ものづくりは多数の部品が集まって製品になります。ひとつひとつの部品を製造する仕入先の工夫やアイデアも欠かせません。それにはお互いがアイデアを出し合い、協力しなければなりません。

図 建設的な話し合い

図 建設的な話し合い

そのためには仕入先は原価の理由を説明して、見積金額は適正価格であり水増しはないことを理解してもらいます。その上でもっと安く調達したければ、図面や仕様の変更も含めて安くつくる方法を取引先と協議して、よりよいものづくりを目指すのが望ましい姿です。

信頼関係を作るには、適正な原価と値上げ金額が必要

顧客と建設的な話し合いをするには、自社の適正価格が分かっている必要があります。また値上げ交渉では、製品別の適正な値上げ金額も必要です。

まず自社の正しい姿を知ることが、顧客と交渉するためには必要です。

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発注先は品質をどのように評価しているのか?

受注できる条件の中でも、品質は重要な評価項目です。
発注先がどのように品質を見ているのか、その評価の考え方を解説します。

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19.少し高くても受注できる会社は何をしているのか?② https://ilink-corp.co.jp/13403.html https://ilink-corp.co.jp/13403.html#respond Sun, 08 Sep 2024 02:51:20 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=13403
このコラムの概要

製造業が顧客の指値に応じるには、まず正確な原価計算で対応可能か見極める必要があります。もし指値が原価を下回る場合は、諦めずに徹底したコストダウンを追求します。具体的な策としては、原材料の見直し、工程効率化、設備の稼働率向上などがあります。これらの努力を顧客に示し、信頼関係を築きながら、利益を確保できる最適な価格での受注を目指すことが重要です。

新規の引き合いがあった場合、取引先が発注金額を指定(指値)することがあります。

この場合、指値で受注しなければだめでしょうか。

なぜ取引先は指値をするのでしょうか?

それは開発段階から原価を管理する原価企画を行っているためです。
 

原価企画とは?

今はどのメーカーも競合との価格競争が厳しく、販売価格は高くできません。

そこで利益を出すには、原価を抑えなければなりません。

もし開発が終わって原価を集計し、原価が高すぎれば赤字で販売することになってしまいます。大抵は生産中にコストダウンを行い利益が出るようにします。

しかしあまりに原価が高ければ、生産開始前に再度設計をやり直したり、最悪販売中止になったりします(かつて企業で開発をしていた時、そういった経験をしました)。

そこで多くのメーカーで、図のように目標原価を開発段階で設定する原価企画を行います。

図 原価企画

製品企画の際に市場価格を決めて、それに対する原価、開発費の回収、利益と販売費などの数値計画を立てます。

この目標原価を展開して、購入部品費、社内での組立・加工費、工場経費に展開します。

複雑な製品では、これをさらにユニットごとに展開します。
 

図 目標価格の割り付けと目標価格のオーバー

図 目標価格の割り付けと目標価格のオーバー

もし各ユニットに展開した原価を集計し、目標価格を大幅にオーバーすれば設計の見直しをしなければなりません。

原価の7~8割は設計で決まってしまいます。高く設計してしまった製品を安くつくるのは困難なのです。
 

指値

ここで設定した原価から逆算して、各部品の目標価格を決めます。

これが指値です。

ではどうやって価格を決めるのでしょうか?

実績がある部品は過去の実績価格から決めます。

実績のない部品は、類似部品の過去の価格を参考に推測します。

実際は、製品の目標原価が厳しく、そのため指値も低くなります。

ではその価格で本当につくれるかというと、具体的な根拠はない場合が多いです。取引先でその部品の製造工程まで展開して、各工程の加工時間とアワーレートから指値を決めることは多くありません。

あるいは取引先でコストテーブルが整備されていれば、コストテーブルを元に指値を計算します。

このコストテーブルは、部品の大きさや表面積など、何らかのパラメーターから部品の原価を概算するものです。

しかし概算なのでコストテーブルの金額が実際の原価と合っているとは限りません。部品によっては計算と合わないものもあります。

指値は経営目標

つまり指値は、
「この金額でなければ目標価格で売れない、あるいは目標利益が得られない」
という目標値です。

図 目標価格から指値への展開

図 目標価格から指値への展開

残念ながら原価企画の段階で、近年の様々な費用まで配慮されることは多くありません。製造業では「原価は下げるもの」という考えがあるためです。

そのため新製品を従来の製品より安く販売する、あるいは従来の製品よりも利益を増やそうとすれば指値はどんどん低くなります。

それは現実の原価と乖離します。

本来は低価格で製造するには、低い原価でできるように設計から見直さなければならないのです。
 

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安く調達するには、安くつくる必要

その点、安くつくることについて中国メーカーは優れています(品質の問題はありますが)。

かつて二輪市場が拡大していた中国市場で、ホンダは安価なコピーメーカーに手を焼きました。

そこでホンダは、コピーメーカーの1社 海南新大洲摩托車と提携するという奇策に出ました。

提携後、ホンダが海南新大洲摩托車で見たのは「彼らがホンダも考えられない方法で安くつくっていた」ことでした。中国国内でし烈な価格競争を行うコピーメーカーは、安くつくることに関して多くのノウハウがあったのです。

そこでホンダは、品質面で妥協できない部品のみホンダのサプライヤーの部品に変えさせ、それ以外はコピーメーカーの製品そのままでホンダブランドをつけることを認めました。

その結果、このコピーメーカー製ホンダの二輪車は他のコピーメーカーから市場を奪い取ることに成功しました。さらにこの海南新大洲摩托車のサプライチェーンを活用して、部品を安く調達し、タイやベトナムで安価な二輪車を生産し、市場シェアを拡大しました。タイやベトナムで売れているホンダの二輪車の価格は、日本の半分近い価格です(最近は円安で差は縮まりましたが)。

一方、量産メーカーは生産を開始したから、改善を行ってコストを下げていきます。


注) 生産現場の改善活動は、作業者の自主的な活動として、カイゼン(KAIZEN)と呼ばれるため、一般的な改良を意味する改善とは区別して、以降はカイゼンと記述します。

 

定期的に原価低減を要請する問題

生産開始後も定期的に発注価格マイナス〇%を要求されることもあります。

仕入先もこうした要求が定期的に来ることは分かっているため、生産する中でカイゼン点を探して、コストダウンします。

あるいは、メーカーの全社的なコスト低減活動の一環として、原価低減○%という目標が出されたり、一部の製品のみ市場での価格競争力が低いため、「価格協力」と称して一律○%の価格低下を求められたりします。
 

限られるカイゼンの効果

しかし現実にはカイゼンでできるコストダウンは限られます。

「カイゼンに終わりはない」

と、継続してカイゼンする姿勢は大切です。しかしこれまでもずっとつくってきた製品の原価は、頑張ってカイゼンしても下がる金額はわずかです。

ただし材質や加工方法まで変えれば、原価は大きく下がります。

例えば切削加工からプレスやダイキャストに変える、

金属から樹脂に変えて一体成型する、

このようなカイゼンをすれば原価は大きく下がります。しかしこのような変更は設計変更が必要なため、メーカーと協力して行う必要があり、仕入先だけでは困難です。

しかも定期的な価格引下げには、それ以上大幅な原価低減が必要なのです。
 

実はもっとコストダウンが必要

取引先から価格引き下げ5%の要請があった場合、すべての費用を5%引き下げる必要があります。

しかし原材料は頑張って交渉しても下がりません。そして部品には材料費が原価の50%を占めている場合もあります。

その結果、受注金額が5%低くなった場合、製造費用(製造時間)はもっと下げなければなりません。

例えば、架空のA社のある製品で受注価格が5%低くなった場合の加工時間の短縮を計算します。

この会社は
販管費が製造原価の20%ありました。

材料費 : 500円
製造費用 : 500円
製造原価=材料費+製造費用= 1,000円

受注金額は1,260円でした。

販管費は製造原価の20%なので
販管費=1000×0.2=200 円

その結果、利益は
利益=受注金額-製造原価-販管費

=1260-1000-200=60 円

利益60円は 原価+販管費 の5%でした。

5%価格引下げでも利益が出るようにするには

取引先から5%の価格引き下げの要請がありました。
受注価格=1260×(1-0.05)=1197円

材料費、販管費(比率)、目標利益はそのままとすれば
(販管費+製造原価)=1197-60=1137円

つまり1000円の製造原価を947.5円にしなければ、同じ利益が得られません。

この1,000円のうち材料費500円、材料費は下げられなければ、製造費用のコストダウン目標は

製造費用=製造原価-材料費=947.5-500=447.5円 (-10.5%)

製造費用を500円から447.5円(-10.5%)に引き下げなければなりません。

つまり5%の価格引き下げに対して、同じ利益にするためには10.5%の製造費用削減が必要です。

図 価格引き下げと原価低減

図 価格引き下げと原価低減

もし製造費用を10%下げる、つまり製造時間を10%短縮する具体的な方法がなければ、根拠のない一方的な価格引下げです。
 

低すぎる指値は買いたたきの可能性

このように適切な根拠のない一方的な価格引下げや指値は、下請法違反という見解を国は出しています。

そこでこのような価格引下げの要請があった場合、できる限り要請の文書を保管しておきます。この文書が下請法違反の証拠になります。
 

過剰品質になっていないか?

取引先の目指すのは目標価格の実現です。そのためには本当はつくり方を見直す必要があります。

そこで図面や仕様で過剰な品質になっているところがないか探します。そのようなところが見つかれば取引先と協議します。

「心配だから入れた公差」、「念のために入れた注記」があるかもしれません。その1文が仕入先の生産の効率を引下げ、原価を引き上げているかもしれません。
 

安くても品質リスクのある仕入先と取引しますか?

メーカーの最大の課題は、品質リスクです。市場クレームやリコールになれば多額の費用が発生します。そして市場クレームやリコールには仕入先の部品の品質不良が原因のものもあります。

こういった品質リスクを考えれば、いくら安くてもリスクのある仕入先に発注するでしょうか?

取引先のこのような状況も踏まえ、自社の適正価格を説明して理解を求めます。
 

低すぎる価格

中には高い値段を出せるのに、低い金額を出してしまう場合もあります。

私の経験ですが、ある製品の重要な基幹部品の見積を仕入先に依頼しました。

出てきた見積は、自分の想定よりもかなり低い金額でした。この部品は他ではつくれないため競合はなく、もっと高い金額で発注しました。残念なことに、この仕入先はその後、経営が大幅に悪化してしまいました。

本当にあの値段で利益が出ていたのか、高く売れるチャンスを生かす考えはなかったのか、やるせない気持ちになりました。
 

取引先が原価を誤解

取引先が低い価格を求める原因に仕入先の販管費と利益を誤解していることもあります。これについては○○を参照願います。

指値でどこも受けない

私の経験ですが、原価企画を行い、目標価格を設定して指値を決めても、どこも指値では受けなかったこともありました。

取引先が指値で発注できるかは、低い指値でも受注する仕入先があるかどうかです。

これは取引先のサプライチェーンの規模と仕入先によります。

仕入先に仕事が十分にあれば、低すぎる金額の案件を無理して受注する必要がありません。その結果、どこも指値で受けてくれないことが起きます。

もし金額が低すぎて断った案件が、しばらく経って再び「何とかできないか」と打診されれば、それはどこも指値で受けなかった案件です。その時は強気で指値よりも高い価格で交渉できます。

交渉には、適正な原価と値上げ金額が必要

顧客と建設的な話し合いをするには、自社の適正価格が分かっている必要があります。また値上げ交渉では、製品別の適正な値上げ金額も必要です。

まず自社の正しい姿を知ることが、顧客と交渉するためには必要です。

次に読む

少し高くても受注できる条件は何か?③

個別の取り組みだけでなく、共通する条件があります。
少し高くても受注できるために何が必要なのか、その条件を解説します。

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18. 少し高くても受注できる会社は何が違うのか?① https://ilink-corp.co.jp/13371.html https://ilink-corp.co.jp/13371.html#respond Wed, 28 Aug 2024 00:11:22 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=13371
このコラムの概要

製造業が値上げ後も顧客に選ばれるには、価格競争から脱却し、顧客の全体最適に貢献する提案が重要です。自社の強みを活かし、顧客の内製化や共同開発、製品仕様の見直しを提案することで、品質向上やトータルコスト削減といった複合的なメリットを提供します。これにより、単価の高さ以上に、顧客は提案の価値と信頼性を評価するようになり、選ばれ続ける企業になれます。

【製造業の値上げ交渉】20. 値上げのチャンスとは? で、値上げできる機会とそれの活用について説明しました。

値上げが成功するかどうかは取引先に他の選択肢があるかどうかです。

他の選択肢があれば、取引先は強気で交渉します。

つまり交渉での最大の力は「選択できること」です。
 

競合の情報が重要

取引先は今の仕入先以外に選択肢がなければ、仕入先の価格交渉は有利です。従って他の選択肢、つまり競合の情報が欲しいところです。

では、自社の競合はどこでしょうか?

競合の価格はいくらでしょうか?

これは簡単には分かりませんが、購買の担当者との会話や同業者からの情報などで競合となっている会社の情報を集めます。
 

値上げ交渉では転注の可能性

値上げ交渉の場合、取引先が値上げを受け入れられなければ、他社に転注しなければなりません。しかし、

  • 転注できる仕入先がない
  • 転注すれば品質リスクがある
  • 転注品の評価や検証が必要

であれば、転注するより値上げを受け入れます。

例えば下図のように仕入先が受注金額988円の製品を、88円値上げを要請しました。この値上げ金額は、材料費、外注費、人件費などの経費の上昇分から計算した適正な値上金額です。

しかし取引先は88円の値上げは受け入れがたいため、他の仕入先に見積を取ったところ、ある仕入先は材料費以外は従来と同等として、1021円の見積でした。

ただしこの仕入先に転注すれば、初品確認、初期流動確認など転注に伴う費用が取引先内部で発生します。(ただしこういった内部費用は取引先自身も把握していないことが多いです。)

図 競合と転注

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低すぎる価格の問題

新規の引合では、取引先から希望価格(指値)が出されることもあります。

この指値は低すぎることが多く、指値では赤字になってしまいます。
 

なぜ赤字価格で受注するのか?

ところが指値で受注する競合があると購買から聞かされます。

なぜでしょうか?

同じような設備、同じような時間で製造する場合、それでも低い価格で受注するのは、いくつかの理由が考えられます。

適正価格が低い

企業の規模が小さく、間接費や販管費が低い場合です。

取引先の求める品質管理、納期管理、トレーサビリティ管理などを行うと、間接部門の人数が増え、間接費が高くなります。営業や管理部門の人も必要であれば、販管費も高くなります。

しかし競合が数人の会社で、全員現場で作業すれば間接費や販管費は少なくて済みます。必要な利益が得られる適正価格も低くなり、指値でも利益が出ます。
(この適正価格の違いについては【製造業の値上げ交渉】7. この製品、いくらが正しいのだろうか?を参照願います。)
 

受注が少ないため赤字でも受注

現在、競合は受注が少なく、工場の稼働を維持するため、たとえ赤字でも受注しようとしている場合です。

受注不足で売上が少なければ工場の経費や人件費など固定費が回収できません。そこで今は少しでも固定費を回収するため、赤字の案件でも積極的に受注します。

この場合、売上が増えて固定費が回収できれば、このような儲からない案件はもう受注しません。

もし競合が赤字でも受注しようとして受注した場合、この実績金額は、本来であればどこも受注しようとしない赤字金額です。
 

廃業した会社の案件

中には赤字受注が続き、事業を断念する会社もあります。

そうなると取引先はこの製品をつくってくれる他の仕入先を探します。

知人の経営者に聞きましたが、こうして他から回ってきた案件を取引先から打診された場合、打診された価格の2~3倍の金額でなければ受けられないそうです。

つまり廃業された会社は、値上げできずに赤字を我慢した結果、他社が受けている価格に比べて大幅に低い価格でつくっていたのです。

安値受注競争を避けるには?

価格だけで発注すれば、自社よりも低い見積を出す競合が大抵はあります。そこと競えば安値受注競争になってしまいます。
 

本当に価格だけで決まるのでしょうか?

取引先は本当に最安値の仕入先に発注したいのでしょうか?

ものづくりは価格だけではありません。

購買の仕事は、QCDを総合して最適な部材を調達することです。

そのためには価格だけでなく品質や供給能力も含めて選定しなければなりません。

価格は低いが品質や供給能力に問題がある仕入先に発注すればどうなるのか、経験豊富な購買はわかっています。(ただ価格交渉の場では、価格だけにフォーカスし、そのようなことは決して言いませんが)。
 

そのために必要なこと

そのためには自社は取引先からどのように評価されているのか、自社の強みは何なのか、理解しておく必要があります。
 

SWOT分析では不足

その場合、一般的なSWOT分析では不足する点があります。

SWOT分析は、自社の内部環境(強み、弱み)、外部環境(機会、脅威)を分析するフレームワークです。しかしこのフレームワークには「取引先から見た強みと弱み」がありません。

図 SWOT分析

取引先から見て、

  • 自社はどの点で評価されているのか

競合に対して、

  • 優れている点と劣っている点

を調べます。

これは結構難しいです。
 

技術の洗い出し

例えば「技術力」は

  • 取引先が求める技術
  • 自社の持っている技術
  • 競合が持っている技術

これらを洗い出します。

しかし技術という定性的なものを見えるような形にするのは大変です。

実際は

取引先が求める技術 →取引先から出た図面・仕様

自社の持っている技術 →受注した図面・仕様、断った、あるいは受注できなかった図面・仕様

自社の持っていない技術 →断った、あるいは受注できなかった図面・仕様

競合が持っている技術 →自社が断った、あるいは受注できなかった図面・仕様で競合が受注したもの

これらを洗い出して俯瞰すれば、見えてくる場合もあります。
 

品質の洗い出し

取引先が行うまとめるサプライヤーの評価には、仕入先の不良件数や内容がまとめられ、仕入先のランキングがつくられています。

自分の経験(品証部)では、技術的に難易度が高い部品をつくっている仕入先は不良も多かったです。

対して簡単な部品をつくっている仕入先は不良件数が少なかったです。

しかし不良件数が少ないからと言って、簡単な部品をつくっている仕入先の品質が高いわけではありません。
 

不良件数よりも不良発生後の対処が重要

不良件数が多いことよりも、不良が出た後の対処が問題になりました。

代品の供給や原因分析、再発防止の取組などが仕入先の評価になりました。

不良が出た後の対処が遅く、対策が不十分で不良が再発した仕入先は低い評価でした。

図 不良と品質

品質の評価は定性的

こういった評価は定性的です。何かデータが出てきて、仕入先を順にランキングして決められるものではありません。

価格が高い原因をPR

リコールや自主回収などメーカーは不良品を販売すれば、多額の費用をかけて対処しなければなりません。

そのため品質に対する要求は厳しくなっています。

それに応えるには仕入先は、品質管理、工程管理、納期管理などの体制を整備しなければなりません。間接部門の人員も多くなっています。

その結果、コストは上がり、自社の適正価格は高くなります。

価格だけで比較すれば、数人の会社で全員作業者の会社の方が低くなります。

そこで取引先の要望に応えて上記のような取り組みをしてきた場合、それを簡単な文書にまとめて取引先にPRすることをお勧めします。

言われないことは、取引先はわかりません。

特に購買は価格だけ見ているからです。
 

なぜ品質が高いのか、自身もわからない

私の経験ですが、ある仕入先は品質が高く、不良はめったに出ませんでした。しかし工場に行って工程管理や品質管理を監査しても他の仕入先と大きな違いはありませんでした。

違いは人にありました。

この会社では「不良品かもしれない」と思うと、取引先の品質管理部署に必ず連絡してきました。

「気になる傷があるのですが、これは納品してよいか見て欲しい」と品物を送って来ました。

このようなことは他の仕入先ではありませんでした。

こうした品質に対する姿勢、不安があれば必ず確認するという姿勢が高い品質の原因だったのです。

しかしこれは仕入先自身も気づいていません。このように強みをみつけるのはなかなか難しいようです。
 

内製部門が競合

特殊な設備や工程があるため、競合となる仕入先がない場合があります。

ところが取引先が内製できました。

つまり取引先の内製加工部門が競合だったのです。

これは双方で誤解があります。
 

内製加工の原価は低くなる

取引先は仕入先の見積と内製加工部門の価格を比較します。そして内製加工した方が安くなります。仕入先に
「内製すれば○○円、○○円より高ければ内製する」
と言います。

なぜそうなるのでしょうか?

原因は見積条件が違うためです。

図 内製と外製の比較

内製加工品は社内で取引されるため、外注品のような販管費や利益が含まれません。

(社内販売価格と社外販売価格の違いは【製造業の値上げ交渉】14. なぜ取引先は販管費が高い、利益が多いと言うのだろうか?を参照願います。)

従って見積の基準が違うため、同じ時間、同じ人件費で製造しても外注加工の方が高くなるのです。

なぜなら内製すれば、内製品の価格は製造原価だけです。しかし外注加工品は仕入先の販管費や利益が製造原価にプラスされます。

ただし実際は、仕入先の人件費や工場の経費が取引先よりも低いことが多く、外注化すれば原価が下がることも多いのです。そのため取引先、仕入先のどちらも外注化すれば安くなると誤解します。

しかし理論的には製造原価が同じであれば、外注すれば高くなるのです。
 

内製しない理由

本当に安くつくりたければ、取引先は内製すべきです。

なぜ内製しないのでしょうか?

図 内製による固定費の増加

理由は、内製には人や設備が必要だからです。現在の人や設備で製造できなければ、増員や設備投資が必要です。その結果、固定費が増えます。

人は、派遣社員を活用すれば使えば変動費にできます。しかし設備が足らなければ設備投資を行わなければなりません。その分固定費が増えます。設備が高価であれば資金も必要です。さらに減価償却費が増えて利益が減少します。

しかも設備は一旦導入すれば償却が終わるまではずっと稼働しなければ設備投資を回収できません。製品や技術の変化の激しい今日、償却が終わるまでその製品を生産する保証はありません。

従って取引先は、設備投資や増員が必要な製品は外注化できれば外注化しようとします。

これは言い換えれば、設備投資の必要な部品を外注化することは、設備投資のリスクを外部に移転することです。
 

内製化の課題を理解して交渉

つまり取引先は内製すれば安くても内製するとは限りません。

そこでこのような場合、まずは適正な原価計算を行い、自社の適正価格を計算します。

そして取引先と価格交渉します。

取引先が自社の内製価格を出して「社内なら○○円でできる」と言う場合、自社の適正価格を主張します。

そして、自社に発注しなければ、取引先は設備投資をしてまで内製するのか、それとも「だったら内製する」と言う言葉が本当かどうか、その可能性を見極めます。

適切な判断には、自社の適正価格を知っておく必要

こうした判断を適切な行うには、自社の適正価格が分かっている必要があります。また値上げ交渉では、製品別の適正な値上げ金額も必要です。

まず自社の正しい姿を知ることが、顧客と交渉するためには必要です。

次に読む

少し高くても受注できる会社は何をしているのか?②

少し高くても選ばれる会社には、共通する取り組みがあります。
実際にどのようなことをしているのか、その内容を具体的に解説します。

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12. 値上げはどのタイミングで行うべきか? https://ilink-corp.co.jp/13281.html Sun, 18 Aug 2024 00:09:52 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=13281
このコラムの概要

多くの製造業は値上げをためらいがちですが、戦略的に「値上げのチャンス」を捉えることが重要です。市場が供給不足の時や、自社製品に独自の技術や高い品質といった付加価値がある場合が好機です。また、法改正や社会情勢の変化でコストが増加するタイミングも、値上げの正当な理由となります。正確な原価計算を基に論理的に説明し、「攻めの値上げ」をすることで、収益改善と企業の持続的な成長を実現できます。

材料費、人件費、エネルギー費など様々な費用が上昇し、値上げは避けられません。しかし規模の劣る中小企業が取引先と値上げ交渉するのは困難さが伴います。

そこで国は中小企業を支援すべく様々な施策を打ち出しています。

この国の取組については【製造業の値上げ交渉】】19. 下請法や国のガイドラインを値上げ交渉に活かす方法で説明しました。

2024年には国は仕入先からの適正な値上げを認めないのは「下請法違反」という見解を示しています。

そのため取引先も仕入先からの値上げを認めざるを得ない状況にはなってきています。
 

値上げのチャンスとは?

それでも値上げはなかなか大変です。ところが値上げを認めてもらえる絶好の機会があります。それは

  1. 特急・短納期
  2. 発注先の仕様変更・設計変更
  3. 他社ができないもの

なぜ値上げのチャンスなのか?

それはこのような時は、価格が高くても価格以外の事情が優先されるからです。

ところがこのような機会を活かしきれない企業もあります。

こういった機会があってもそれを活かして値上げしなければ、利益は変わりません。

ではどうすればいいのでしょうか?

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値上げの機会を活かす1 特急・短納期

 
取引先がとても短い納期で依頼することがあります。

このような超短納期でつくるためには、今ある製品を止めて割り込ませたり、残業や休日出勤で対応したりしなければなりません。できればやりたくない仕事です。

図 短納期でつくるためのコストアップ

取引先の事情

こうした場合、取引先には超短納期で手配しなければならない事情があります。例えば

(1) 試作・開発品

開発日程に間に合わせるために、どうしても○日までのこの部品が欲しい
試験・評価中に問題が見つかった。至急対策品をつくって確認したい。

(2) 生産中のトラブル

新機種を立上げ中に問題が発生。至急対策品をつくらないと生産が止まってしまう。
(この対策品は、製品の部品、製造設備の部品、治具や金型の部品など様々)

(3) 市場クレーム

商品が市場で問題を起こした。至急対策品を評価して切り替えなければならない。
あるいは至急対策品に切り替えないと生産が止まったままになっている
 

超短納期では部品コストよりも損失金額がはるかに大きい

特急・短納期を依頼する背景にはこういったことがあります。いずれにしてもこの問題の損失金額は大きく、早く解決しないと損失は膨らむ一方です。

従って最も重要なのは、必要な納期に「良品を確実に入れてもらうこと」です。価格は二の次です。

【私の経験】

週末に問題が分かり、どうしても答えが月曜日までに必要になりました。評価チームは土曜日に出勤することになりました。ところが評価に使う部品の形状に問題があり、修正が必要でした。

金曜日の夜、購買の担当者と一緒に仕入先に行って修正してもらい、形状を確認して土曜日の評価に間に合わせました。

金曜日中に修正できなければ、評価チームが土曜日に出勤しても無駄になってしまいます。さらに評価結果が1日遅れれば工場の生産が1日止まってしまいます。生産を1日止めれば損失金額は何百万円にもなりました。
(これが自動車メーカーでは1日で何億円にもあります。)
 

必要なのは価格よりも…

このような場合、超特急で依頼したものの価格が普段の2倍であっても問題ではありません。問題なのは急いでつくったものが不良品の場合です。

実際、超特急でつくったものを組込みテストした結果、いいデータが取れなかったことがありました。そこで部品を調べたら、寸法が図面公差から外れた不良品でした。仕入先に作り直してもらい、再度評価しました。これで数日時間を失いました。

超特急で1個だけつくる場合、その工程は普段とは違う工程です。うっかりミスしやすいのです。

せっかく急いでつくったのに、不良品であれば、評価にかけた時間が無駄になり、再度作り直すために、時間もかかります。損失はさらに膨らみます。

 図 不良品の場合

図 不良品の場合

だったら高くてもちゃんとしたものをつくってくれるところに頼みたいと思います。
 

購買は背景を知らない場合

超特急で間に合わせるため、仕入先は他の仕事を止めて人手をかけてつくります。当然高くなります。

ところが後日仕入先から請求書が来ると、購買の担当者から私に

「こんなに高い請求書が来たけど、これは合っているのか」

と問い合わせされることがありました。

通常の納期であればあり得ない高い値段でした。

しかし上記の背景を考えれば、納期通りに良品を入れれば、金額は問題なかったのでした。
 

最初に値段を言う

そこで超特急・短納期で受注する際は

「最初に価格を言っておく」

ことです。

図 最初に価格を言う

図 最初に価格を言う

取引先が抱えている問題や損失の大きさを考えれば、部品が少々高くても問題ありません。しかもその納期でつくってくれるところは他にないのです。

しかし価格を言わなければ取引先はこれまでと同じ価格だと思います。そこで最初に値段を言えば後でもめることはありません。

今は下請法があるため価格を明記しなければ取引先は発注できません。従って最初の交渉が重要です。

そこで事前に特急・短納期は、何割増しと決めておきます。そして価格が合わなければ、受注する前に交渉します。特急でつくるのは現場にも負担がかかりますし、他の製品の生産にも影響します。

それでも儲かるような価格にします。

もし低い価格を強要される場合、他の仕入先にやってもらえばいいのです。

しかし中には、取引先の依頼を聞くと「なんとか間に合わせたい」と考え、材料手配やどうやってつくるかを真っ先に考えてしまう仕入先もあります。そして値段の交渉をしないでつくってしまいます。
 

高くなる理由は必要

高い値段をつけた時、

「なぜ通常納期に比べて、これだけ高くなるのか」

取引先から聞かれるかもしれません。その時に理由が言えなければ、取引先の購買も納得しません。理由は、

1個だけつくるために段取時間やプログラム作成時間、準備時間が余分にかかる、

作業者を2人投入など、

取引先が納得すればなんでもよいです。

発注先の仕様変更・設計変更

仕様変更や設計変更で価格が上がる要素があれば、値上げのチャンスです。
 

適度な値上げ

新規に受注する場合、厳しい指値や相見積の競争で受注までに適正価格よりも値下げしたかもしれません。そこで設計変更の機会に少しでも利益を戻したいところです。

そこで上げすぎと思われない程度に値上げをします。その際、「どうしたこの値段になったのか」取引先に聞かれた場合、説明できるようにします。
 

交渉力は選定

価格交渉の最大の力は「選定」です。

取引先は新規に発注する際は相見積を行い、購買は選定という力を駆使して仕入先を競争させ価格を引き下げます。

しかし仕様変更や設計変更が出た時点では、仕入先の選定は終わっています。値上げ金額が高いからといって、仕入先を変えるのは大きなエネルギーが必要です。しかも値上げを認めざるを得ない理由があります。

新規に受注する場合は、相見積で価格を比較されますが、設計変更の値上げは比較する対象がありません。そこで取引先が納得する理由を述べて、上げすぎと思われない程度に値上げすれば、値上げは通る可能性があります。
 

他社ができないもの

価格交渉で発注先が最も交渉力を発揮できるのは、最初の選定の段階です。
 

どこでもできるものは発注側の力が強い

その製品をつくれる仕入先は数多くあり、どの仕入先も供給能力が十分あれば、発注側の力は強くなります。相見積で価格を競わせ、最も安いところに発注できます。

そういった仕入先が少なければ価格競争は弱くなります。もし1社しかできなければ仕入先の価格で発注するしかありません。そこが断れば調達できなくなるからです。

これは技術的にできることに加えて、品質と供給能力も必要です。品質が良くなければ不良品のリスクがあります。供給能力が不十分であれば生産に支障をきたします。
 

ヒントは創意工夫

私の経験では、「他社でできないもの」は長年研究開発した高度な技術でなくてもありました。取引先が困っている課題を一緒に考え工夫して解決すれば、それが他社ができないものになりました。

例えば以下のようなものはつくり方がわからず、仕入先にもアイデアを出してもらって何とか実現しました。

  • 薄い金属と薄いゴムを強固に接合
  • 細いピンと細いパイプの接合
  • うまくクランプできない形状を切削加工

新たな製品を開発する際は、様々な課題が出ます。そこでいろいろとアイデアを出して、テストも行い、解決に協力してくれる仕入先はとてもありがたかったです。

図 他社ができないもの

図 他社ができないもの

大事なところは見せない

大切なことは、創意工夫した「キモ」の部分は取引先に見せないことです。取引先に見せれば、それは他の取引先に伝わります。他社ができないものでなくなってしまいます。
 

2社購買が必要な取引先も

自然災害の多い日本は、1社しかできない部品があると、その1社が災害に遭えば部品の供給が止まってしまいます。

そこで1社が災害に遭っても生産が継続できるように、2社発注の体制を進めている取引先もあります。つまり取引先にとっては「他社ができないもの」があるのは都合が悪いのです。

かといって創意工夫した内容を全く見せなければ、取引先から信頼されなくなってしまいます。そこである程度まで見せて、その技術の肝心の「キモ」となる点は隠します。

このノウハウをどこまで見せて、どこまで秘匿するかは、発注先と仕入先の価格交渉の力関係を決める大切な要素です。
(現実には工夫してうまくできたことは嬉々として取引先に話してしまう経営者もいますが…)
 

一方このような値上のチャンスがいつもあるとは限りません。普段は「値上げするなら他に出す」と脅されます。では取引先は他に選択肢があるのでしょうか?

これについては【製造業の値上げ交渉】21. 少し高くても受注するには1 内製も含めた他の選択肢を参照願います。

値上げのチャンスを生かすには、自社の適正価格を知る必要

値上げのチャンスを生かすには、顧客が妥当と思う値上げ金額にしなければなりません。そのためには自社の適正価格が分かっている必要があります。また値上げ交渉では、製品別の適正な値上げ金額も必要です。

まず自社の正しい姿を知ることが、顧客と交渉するためには必要です。

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なぜ取引先はアワーレートが高いと言うのか?

値上げの話をすると、取引先からアワーレートが高いと言われることがあります。
なぜそのように見られるのか、その理由と考え方を解説します。

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17. 下請法(取適法)やガイドラインは値上げ交渉にどう活かせるのか? https://ilink-corp.co.jp/10858.html https://ilink-corp.co.jp/10858.html#respond Thu, 01 Feb 2024 02:19:35 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=10858
このコラムの概要

製造業が値上げ交渉を行う際、下請法や国のガイドラインを戦略的に活用することが重要です。これらの法規は、中小企業が公正な取引を行うための後ろ盾となります。特に、下請法はコスト増加分の価格転嫁を親事業者に協議するよう求めています。交渉時にこれらの存在を言及することで、自社の正当性を主張し、公正な価格転嫁を実現するための有効な手段となります。

 
製造業の場合、中小企業の取引先が大企業の場合も多く、発注側と受注側、大企業と中小企業という立場の違いから、不利な条件で受注させられることもあります。国はこれを問題と考え、支援策を提供しています。これはどのようなもので、支援策をどう活用すればよいのでしょうか?

国の支援策とその活用方法を説明します。
 

国の支援策

 
国の支援策には以下のようなものがあります。

◆法律
下請代金支払遅延等防止法 (以降、下請法)

◆ガイドライン等
下請適正取引等の推進のためのガイドライン (以降、ガイドライン)
価格交渉ノウハウ・ハンドブック (以降、ハンドブック)

下請法は、発注先がやってはいけない禁止事項が決められ、違反した場合は、公正取引委員会からの勧告や罰金が定められています。

【報告があった場合】

中小企業庁に確認しましたが、もし理不尽な要求や問題のある行動の報告があっても、公正取引委員会は直ちにその企業に調査に入りません。彼らは日頃からこうした情報を収集していて、問題のある報告が多い企業に対し、時機を見て調査に入るそうです。(この調査件数は年間で5,000件を超えます。) 従ってどの仕入先からの報告で調査に入ったのか取引先はわかりません。

一方、ガイドラインには罰則はありませんが、国が考える望ましい取引の事例と、望ましくない取引の事例が具体的に書かれています。従ってガイドラインに抵触するような取引は、取引先に対して「そのような要求はガイドライン抵触しませんか」とやんわりとけん制することができます。

また原材料、エネルギー費用などの上昇を取引価格に転嫁している状況は、国が定期的に大手企業に対し調査を行っています。調査結果は公表され、価格転嫁に消極的な企業は実名が公表されます。その結果、大手企業にも価格転嫁を認める状況になってきています。
 

どのように活用するのか?

 
下請法の違反事例やガイドラインに反する行為は、取引している中小企業が報告しなければわかりません。またこういった問題行為は、取引先企業の方針だけでなく、担当者個人の問題もあります。

実際には理不尽な要求があったから公正取引委員会に報告しても、すぐに是正されるわけではありません。しかしこうした取引先の問題行動を各社が報告し、公正取引委員会が動くことで、理不尽な要求や優先的地位の濫用が減少し、公正な取引の実現に向かいます。

そのためには、取引にかかわる中小企業の関係者は、法律やガイドラインを読んで「どのような要求が下請法やガイドラインに抵触するのか」理解しておく必要があります。つまり下請法やガイドラインは、立場の弱い中小企業が「自らを守るための武器」なのです。

詳細は、国の資料を見ていただくとして、以下に概要とポイントを説明します。

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下請法

 
親事業者<注記>が下請事業者に製造やサービスを委託した時に、親事業者の義務と禁止事項を定めた法律です。

違反すれば、罰金や公正取引委員会の勧告措置が定められています。勧告措置を受けた場合、違反した企業は、社名、違反内容がホームページで公開されます。

この下請法には図1に示すように4つの義務と11の禁止行為が定められています。

図1 下請法の概要



<注記> 親事業者とは
下請法の親事業者と下請事業者は事業者の資本金規模で以下のように定義されます。
注意が必要なのは、資本金が1,000万円を超える場合、中小企業であっても仕入先に対して親事業者になる場合があることです。その場合、自社が仕入先に対して下請法に抵触しないように注意しなければなりません。

図2 親事業者と下請事業者
図2 親事業者と下請事業者



 

下請法のポイント

 
詳細は下請法を読んでいただくとして、実務で問題となりやすい点を説明します。
 

発注書面の交付義務

 
「委託後、直ちに、給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法等の事項を記載した書面を交付する義務」のことです。従って発注は注文書など書面で必ず行い、注文書には発注単価が記入されていなければなりません。

これは良い面と悪い面があります。

◆良い面
単価の取り決めなしで注文を受けて、あとで安い金額とされることを防ぐことができる。受注する時点で単価が低すぎれば交渉できる。

◆悪い面
納期が短いため図面だけFAXで送ってもらって材料の手配をしたい。しかし注文書が発行できないと図面を送ってもらえない。

このように不便な面もありますが、仮単価でも金額が入ると、それが基準になってしまいます。そこでできるだけ金額を決めて受注するようにします。
 

受領拒否の禁止

 
「下請事業者に責任がないにもかかわらず受領を拒むこと」です。

納期を守るために、手配に時間がかかる部材を仕入先の判断で先行手配することがあります。本来は取引先から書面で内示をもらうべきですが、内示の手配数で不足する場合、仕入先が先行手配を上積みします。同様に仕入先が自主的に在庫を持つ場合もあります。

これは順調に受注があればよいのですが、景気が急減速し内示が取り消されると問題になります。

ガイドラインでは

「取引先から『参考情報』として提示された場合でも、それが実際の部材手配や製造着手につながる場合は、事実上の発注とみなされる

と書かれています。実際に大量の部材を抱えてしまった場合、引き取ってもらわないと経営に影響します。しかしこのガイドラインを示して引取りを求めるのはなかなか大変です。

そこで先行手配や在庫を持つ場合、予め先行手配の記録をします。具体的には取引先と打合せし「『参考情報』を元に先行手配をする」という旨の議事録をつくり、取引先のサインをもらいます。もしサインが拒否されれば、先行手配はしない方がいいです。その場合、「リードタイムはこれだけかかるのだから、それ以上の短納期は無理」ということを書面に残します。
 

下請代金の支払遅延の禁止

 
「支払代金を、支払期日までに支払わないこと」です。

最近は月末締の翌月払いの企業も増えて、検収が上がればスムーズに支払われるようになりました。

問題は検収がなかなか上がらない場合です。特に装置や金型は取引先が問題なく生産を立ち上げて検収になります。中には問題の解決に何か月もかかり、それまで検収が上がらないこともあります。

そこで、取引先と契約する際に進捗度に応じて何割かを支払ってもらう方法があります。

例えば、建設業は工事代金が大きく、自社も工事中に業者へ支払いしなければなりません。そのため、こういった方法が一般的です。ただし最後の支払いは、完成・引き渡しが条件です。

このような方法を取れば資金的に楽になりますし、取引先も検収を上げるまで支払いは残るので安心できます。
 

買いたたきの禁止

 
「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」です。

「通常支払われる対価」とは、「その下請事業者の属する取引地域において一般的に支払われる対価」を指します。

「著しく低い下請代金」は解釈によって変わりますが、ガイドライン、ハンドブックによれば、

  • 一方的な指値
  • 一律・一定率での発注価格の減額(コストダウン要請)
  • 材料費・加工費・人件費などのコスト増加を無視した価格据え置き

などが挙げられています。取引先からの定期的な原価低減要請でも、原価低減できるネタがないのに一方的に価格を引き下げれば買いたたきになります。
 

不当なやり直しの禁止

 
「下請事業者に責任がないにもかかわらず、給付の内容を変更させたり、給付をやり直させること」です。

例として合否判定が曖昧な傷や外観について、一方的に「傷があるものは不良だから受け取れない」とされる場合、取引先の事情で手直しを依頼されたが、その費用を支払われない、などです。

下請適正取引等の推進のためのガイドライン

 
親事業者と下請事業者の間の取引において「望ましい事例」と「望ましくない事例」を示すことで、公正な取引を促すことを目指したものです。

ガイドラインは以下の20の業種について、それぞれ作成されています。

(1)素形材
(2)自動車
(3)産業機械・航空機等
(4)繊維
(5)情報通信機器
(6)情報サービス・ソフトウェア
(7)広告
(8)建設業
(9)建材・住宅設備産業
(10)トラック運送業
(11)放送コンテンツ
(12)金属
(13)化学
(14)紙・加工品
(15)印刷
(16)アニメーション制作業
(17)食品製造業
(18)水産物・水産加工品
(19)養殖業
(20)造船業

自社の業種が20に当てはまらない場合も、近い業種のガイドラインを読んでおくことをお薦めします。

例えば、プレス、切削など金属加工の場合、
(2)自動車
(3)産業機械・航空機等
(5)情報通信機器

この3つを印刷して読んでおくことをお薦めします。
(情報通信機器は、受注や書面の交付、支払などがQ&A形式で具体的に書かれているので参考になります。)
 

参考例 自動車のガイドラインの場合


ガイドラインの内容の参考例として、「(2) 自動車」の一部を紹介します。

補給品の価格決め

 
自動車のような大量生産品の場合、現行モデルで使用する部品は毎月一定量が発注されます。しかしそのモデルが販売中止になると、その部品は補給品扱いになり、発注量が大幅に少なくなります。それでも依然と同じ価格で発注されれば単価が合いません。
これについてガイドラインでは

少量の補給品を以前と同じ価格で発注することは下請法の買いたたきに該当する恐れがあると明記しています。

問題は、自動車は部品の共通化が進み、今受注している部品が量産品なのか補給品なのかわかりづらいことです。例えばある車種はモデルチェンジでその部品は使用しなくなったが、ある車種はまだ使用しているため、発注量が1/3になっても発注が定期的に行われることもあります。

そのような場合は、補給品・量産品と区別せずに発注量に応じて価格を設定するように取引先と交渉します。

自動車メーカーによっては、量産終了時に一括買い上げなどの制度があるメーカーもあります。しかし二次以降の下請けに、そういった情報も入ってこないこともあります。その場合は取引先を通じてこういった情報を収集します。
 

型取引の適正化

金型の保管費用

金型費用を一括で支払わず、部品の価格に上乗せして支払う場合、金型は自社の資産です。自社の資産ですが、その部品の発注がなくなっても生産再開の可能性があるため、金型を保管しなければなりません。その場合、金型を無償で保管させることは、ガイドラインでは

下請法の不当な経済上の利益の提供要請に当たる恐れがあると明記されています。

一方、保管費用をもらっても金型が増える一方であれば、保管場所の確保や管理費用が増えていきます。本来、取引先が保管すれば、その後の使用可能性を考えて見切りをつけて廃棄するはずです。そのような金型でも保管費用を払っているからと保管を続けさせられます。

そのような場合、今後も保管する金型は増え続けると考え、保管スペースの費用、管理費用を計算し、保管すれば利益が出る金額を設定します。そして「今後も金型を保管し続ければこれだけかかりますがいいですか」と費用を請求します。支払いが拒否されれば「差し上げます (大抵償却は終わっている) ので取引先で保管してください」とお願いします。

金型図面の提出

金型を納入する際に「保守のために必要だから」と図面を要求される場合があります。図面を提出するかどうかは、取引先が設計費用を払ったかどうかが基準になります。

設計費用を払えば、設計の成果物である図面は取引先の所有物です。

設計費用を払わなければ、金型代は金型に対して支払われただけで、図面は自社の知的財産です。もし図面を要求されれば設計費用を請求します。

設計費用を払わないのに図面も要求する場合、

下請法のかいたたきに該当する恐れがあるとガイドラインに明記されています。

あるいは「メンテナンスのために金型図面が必要」と取引先が言えば、メンテナンス(再研など)に必要な個所だけ、寸法が入った図面を渡します。それ以外の箇所は寸法の入っていない外形図でもメンテナンスは十分できます。もしそれでは不十分だと取引先が言えば、明らかに次回以降の金型を他社でつくらせる意図があります。
 

配送費用の負担

 部品の配送費用が仕入先の負担になっている場合、配送費用があいまいになっていることがあります。しかし定期的な配送便に間に合わず、営業担当者がライトバンで数個納品すれば、余分に配送費用がかかっています。その費用も仕入先の負担です。

あるいは仕入先が有償支給品(材料)を取引先から引取りする場合、納品の帰りの便に積めればよいのですが、積み切れずに別便で引き取りしなければならない場合、余分に費用が発生します。

その場合、自社の配送費用がどのくらい発生しているかを明確にし、その費用が取引先から適切にもらえているか調べます。できれば見積に管理費とは別に配送費用、梱包費用を入れます。そして運賃が上がった場合、値上げ交渉します。

本来は、取引先の都合で別便で納品した場合、追加の配送費用を請求すべきです。現実には難しいことも多く、別便で納品することが多ければ、その分見積の配送費を膨らませてカバーする必要があります。
 

原材料価格、エネルギーコスト、労務費等の価格転嫁

 原材料価格の上昇が発注価格に反映されても、反映されるタイミングが遅ければ、その間利益は少ないままです。また原材料価格以外の費用、エネルギーコスト、副資材、労務費は価格に反映されていない場合もあります。

このような費用が上昇しているにもかかわらず、一方的に従来の価格を要求することは

下請法の買いたたきに相当する恐れがあるとガイドラインに明記されています。

一方ガイドラインによれば「妥当性のある要請であれば値上げを認める」と回答したメーカーもありました。原材料以外のエネルギーコスト、副資材、労務費の上昇による値上げも、要請すれば値上げできる可能性があります。

労務費の上昇(賃上げ)は、これまでは企業の自主的な判断とみなされてきました。しかし最低賃金は年々引き上げられています。さらに物価も上昇しており、一定の賃上げは必要なものと考えられます。これによる原価の上昇は不可抗力として交渉します。
 

取引条件の変更

 品質改善のため工程の変更や検査が増えても当初の価格を求められることがあります。あるいは不良が出たため、工程や検査が追加になることもあります。

不良の場合は、仕入先に問題があることが多く、その費用が請求できません。これは以下のように取組みます。

自社の問題で検査や工程を追加した場合、「どうなれば検査や工程をなくせるのか」予め取引先と打合せしておきます。そして品質を高めてできるだけ早く追加した工程や検査をなくすように現場が努力します。

顧客の要望で検査や工程を追加した場合、その分原価が上昇したことを伝えて、値上げ交渉を行います。それでも価格を据え置くことは

不当に低い価格を強制することになり下請法に抵触します。
 

価格交渉ノウハウ・ハンドブック

 
下請法やガイドラインの内容を要約したものです。取引先と価格交渉を行う際の事前準備のための資料を意図して作成されました。

交渉は準備6割、本番4割とも言われ、本番前にどれだけ準備したかが成否を決めます。

交渉に関係する全員がハンドブックで学習し、どのような要求がガイドラインや下請法に違反するのか理解しておきます。さらにハンドブックが提示するポイントやテクニックを活用します。

以下、ハンドブックにある「こんな取引条件に要注意!」からいくつか紹介します。
 

合理的な説明のない価格低減要請

 量産メーカーで行われる定期的なコストダウン要請、これについてハンドブックでは「発注者が、自社の予算単価・価格のみを基準として、通常支払われる対価に比べて著しく低い取引価格を不当に定めることは、下請法や独占禁止法に違反する恐れがあります。」と書かれています。

ハンドブックには事例として

「今年も5%の単価引き下げを頼むよ」という会話があります。

定期的な5%の単価引き下げも、コストダウンできる根拠がなければ、単なる値下げになってしまい下請法違反の可能性があります。

また「不況時や為替変動時に、協力依頼と称して大幅な価格低減が要求されていませんか」として、こういった価格協力要請も望ましくない取引として挙げられています。
 

大量発注を前提とし単価設定

 
価格交渉の中で

「では、ロットをまとめて発注するので安くしてください」

と言われることがあります。ところがこの約束が実行されず、見積よりも少ないロットで発注されてしまいます。

これについてもハンドブックでは

「大量発注を前提とした見積に基づいて取引単価を設定したにもかかわらず、見積時よりも少ない数量を見積時の予定価格で発注することは、下請法や独占禁止法に違反する恐れがあります。」と書かれています。

あるいは納期に間に合わず分納で入れることもあります。しかし分納が常態化すれば上記の事例に該当します。
 

合理的な理由のない指値発注

 新たな製品の引合があった場合、取引先が指値をする場合があります。この指値についてハンドブックでは

「合理的な説明をせずに、通常支払われる対価に比べて著しく低い取引価格不当に定めることは下請法や独占禁止法に違反する恐れがあります」と書かれています。

実際は相見積なので指値より高ければ失注するかもしれません。

一方、品質・供給量の不十分な仕入先の見積を引合いに出して「A社はいくらで見積が出ている」と指値を迫られる場合もあります。

自社が高ければ本当にA社に発注するのか、見極めた上で、自社の適正価格を提示し、価格の根拠を示して交渉する方法もあります。

できればその際、指値でつくるためには

「どこをどう変えればいいのか」

コストダウンを提案します。そうすれば取引先は

  1. 品質・供給量に問題のあるA社に指値で発注
  2. 品質・供給量は問題ない自社に指値より高く発注
  3. コストダウン提案を受入自社に指値で発注

この3つから選択することになります。

またハンドブックには書面に残すべき内容を提示しています。
 

取引条件に関するルールを書面化した例

 国は価格転嫁に非協力的な企業を公表するなど様々な取組を行っています。そのため取引先の担当者も仕入先の負担になるようなことは言いにくくなっています。

そこで取引先の要求は必ず書面化し、相手のサインをもらうようにします。

口頭では記録が残りませんが、文書にすれば理不尽な要求の記録が残ります。文書化することで理不尽な要求をけん制する効果があります。

以下はハンドブックに挙げられている例です。

  • 原材料費が上昇した時の価格への反映
  • 一次的な価格引下げに際し、元の価格に戻す際のルール・基準
  • 見積の前提の発注数量を明確にし、発注数量が変動した時は、価格を見直す
  • 取引先の都合で設計・仕様・納期の変更があった場合、取引先が追加費用を負担する
  • 運送費は、発着地・納入頻度(回数)などを明確にし、どちらがどれだけ負担するのか明記

これらの記録は契約の一部です。できる限り打合せ当日に記録し、相手のサインをもらっておきます。
(サインするなら、なかったことにしてくれというかもしれません。)
 

社内での勉強会

 国から提示されている内容は多岐にわたります。学習を個人に任せても進みません。そこで主に取引先と交渉する社員が、講師になって社内で勉強会を開きます。今まで挙げた事例には自社に関係がないものもあるかもしれません。そこで内容を厳選して

「自社が顧客と交渉する際に最低限知っておくべき内容」

をまとめてテキストをつくります。これを使って社内で勉強会を開けば、関係する社員全員の交渉力がアップします。もし違反事例があった場合、社内で共有し、中小企業庁に報告できます。

取引は本来は売り手と買い手が、対等の立場で取引条件を話し合い合意して行うものです。現実には限られた顧客と取引している仕入先は、「受注しなければ経営が成り立たたない」という弱い立場にあります。

そこで国は法律の制定やガイドラインの作成を通じて、不利な立場になりやすい下請企業を支援しています。

こういった国の施策を活用して、公平な取引の実現を願っています。

国の法制度を生かすには、適切な値上げ金額が必要

こういた制度を生かして顧客と交渉する際、適切な値上げ金額や製品の適正価格が分かっている必要があります。また値上げ交渉では、製品別の適正な値上げ金額も必要です。

まず自社の正しい姿を知ることが、顧客と交渉するためには必要です。

次に読む

少し高くても受注できる会社は何が違うのか?①

制度やルールだけでなく、実際の発注では選ばれる理由があります。
少し高くても受注できる会社は何が違うのか、そのポイントを解説します。

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