【製造業の値上げ交渉】25. 発注先のコストダウン活動 購入品と加工品の違い

▼ 値上げ交渉のコラムまとめ
製造業の値上げ交渉について、原価計算から交渉までの考え方をコラムでまとめています。

製造業の値上げ交渉コラムまとめ(全27コラム)

取引先が値上げをできるだけ抑えようとするのは、値上げを認めればコストが上がるからです。

それは、これまで行ってきたコストダウンとは真逆です。

では、なぜ取引先はコストダウンを強く要求するのでしょうか?
 

コストダウンを要求する背景

 

取引先がコストダウンを強く要求するのは、上場企業は常に利益を上げ続けるように圧力がかかっているからです。

近年は上場企業の株主に、保険会社、銀行、年金基金など機関投資家が増えています。彼らは運用した資金が常に増え続けることを求めます。そのためには株価の持続的な上昇が必要で、そのためには企業の業績が常に良くなっていく必要があります。

私たちが投資信託商品の成績を比較して、より運用成績の良い商品を選ぶことが上場企業の業績への圧力になっているのです。

しかし日本では市場の拡大はこれ以上望めず、画期的な新製品でもなければ売上を大きく増やすのは困難です。それでも利益を増やそうとすればコストを下げるしかありません
 

経営目標からコストダウン目標へ

メーカーは年間の経営計画から利益目標を立てます。そこからコストダウン目標が決定されます。

私は会社員時代、購買の経験はありませんが、購買に同行してコストダウン交渉に立ち会ったことがありました。

購買の提示した大幅なコストダウン目標を聞いた仕入先の役員は、顔色を変えて「それは我々に死ねということですか」と言い、その場の空気が凍ったのは今でも覚えています。

では購買はどうやってコストダウンを交渉するのでしょうか。
 

購買のコストダウン交渉

 

個人でものを買う場合、安く買うためには奥のお店を回って一番安いところを探します。

買う側の権限は、どこで買うかという「選択」です。

例えば○○円で買いたいものがあって、お店に行って「○○円に安くしてください」とお願いします。しかしお店がもっと高い値段で売っていれば「その値段では無理です。他で買ってください」と言われてしまいます。

取引先がものを調達する場合も、取引先に「どれだけ選択肢があるか」がとても重要です。

しかも量産品の場合、最初の選定がとても重要です。

後から安い仕入先が見つかっても、仕入先を変更するのは簡単ではないこともあるからです。

最初の選択が重要

それは仕入先を変更した場合、品質に問題がないか評価しなければならないからです。

さらに購入品の場合、互換性がなくなることもあります。

図 最初の選択が重要

図 最初の選択が重要

例えば、ある部品を調達するために3社に見積を依頼しました。

目標価格は850円でした。

当初の見積金額は、A社1,000円、B社950円、C社900円でした。

そこで各社と打合せし、納入条件や仕様を交渉して、B社に880円で決定しました。

量産開始後、定期コストダウンで875円になりました。その際、C社が860円で提案しました。

C社に発注すれば、15円下がります。しかし仕入先を変えるため、改めてC社の部品を評価しなければなりません。それでも評価では問題が見つからず、転注後に問題が発覚することもあります(実際そういったことを何度も経験しました。)。


注)
私の経験では上記のようなプロセスで仕入先が選定されていましたが、取引先や業界によっては「目標価格は絶対」「定期コストダウンはもっと厳しい」こともあります。

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そこで最初の発注先の選定でより安く調達するためには、多くの仕入先があって取引先は十分な選択肢を持つ必要があります。

一方新たな仕入先と取引を始めるのは手間がかかります。

特に複雑な部品の場合です。

新規の仕入先と取引を始めるには

私の経験ですが、ある部品は仕入先が1社しかありませんでした。

この部品は、こちらの決めた仕様に従って設計します。設計には特殊な技術が必要なため、他には仕入先がありませんでした。

ある日、あいさつに来た商社の方が、自社が取り扱っている製品の一覧を見せてくれました。

その中に先ほどの部品もありました。そこでこの商社を経由して仕入先を1社増やしました。

こう書くと簡単ですが、実際は大変でした。

  • 新たな仕入先との打ち合わせ
  • 仕入先の工場見学と品質管理状況の確認
  • さらに既存の仕入先との相見積

これを今やっている開発の仕事にプラスして行わなければならなかったのです。

そのため新しい仕入先の開拓に消極的な設計者も多かったです。

ただこの部品は、もう少し安く調達できないかという問題意識がありました。そのため手間と時間をかける気になりました。

仕入先を増やした結果、部品の価格はそれまでの1/2以下に下がりました。
(設計費の負担割合の見直しなども行いましたが。)

他にもより安く調達するために「選択」の権限を購買に渡したこともありました。
 

「選択」を購買に渡す

これまでは使用する機器(購入品)の選定は、設計者が行っていました。設計者は購買と協力して選定した機器の見積を取ります。しかしすでに「選択」は終わっているため、購買が交渉しても価格は下がりませんでした。

そこである機種を開発する際、ある機器に関してはその機種で使用しているすべての機器の選定を購買に任せました。

具体的には、その機種で使用している機器を、あるメーカーの製品でリストアップします。そして購買には「同等品であれば、どこのメーカーでも構わない」という条件で最安値を「選択」するように依頼しました。

このように「選択」を設計から購買に渡した結果、大幅に低い金額で購入することができました(今ではどのメーカーでも当たり前のことかもしれませんが)。

しかしこのようなことができたのは、メーカーの「標準製品」だからでした。

メーカー品と外注加工品の違い

なぜならメーカーの標準製品の価格には、製造原価以外に営業や販促費用、代理店の経費など様々な費用が含まれているからです。

だから大幅な値引きをしても、その機種で使用する機器を全部受注して大きな売上が何年も継続すれば、大きなメリットがあります。

このように規模が大きく購入量も大きいメーカーでは、標準製品は安く調達できます。
 

後からは変えられない

その代わり、こういった機器は一度選定すると、後から変えるのは困難です。そのメーカーの機器に合わせて性能をつくり込んでしまうからです。もしメーカーを変更すれば、変更したメーカーの機器を使用して検証しなければなりません。

しかも途中で変更すれば保守部品の互換性がなくなります。保守のために顧客から注文があった場合、どちらのメーカーを使っているのか確認しなければなりません。

だからコストダウンのために後からメーカーを変更するのは困難なので、最初の選定がとても重要です。

値上げの根拠を正しく提示するには、見積や実績原価といった基礎的な原価の考え方を押さえておくことが重要です。
原価計算の基礎から原価管理、値上げまaでを体系的に整理したページはこちらをご覧ください。
原価計算・値上げの考え方をまとめて読む(無料)

購入品と異なる加工品の価格交渉

ところが外注加工品は条件が全く異なります。

外注加工品の原価は、図に示すように材料費、製造費用、販管費と、どれも仕入先で実際に発生する費用です(本コラムでは販管費も必要な費用と考えます。これについては○○を参照願います)。

図 購入品と加工品の違い

図 購入品と加工品の違い

それ以下の値段にすれば、必要な費用をカバーできない赤字金額です(仕入先原価よりもうんと高い値段をつけていれば別ですが)。
 

購入品と同じ手法で値下げを求めれば「買いたたき」

経営目標〇%コストダウンなど厳しいコストダウンがあれば、各部品の目標価格(指値)は厳しい金額になります。原価割れした赤字価格になっているかもしれません。

もし取引先の担当者が、前述の購入品の値下げ交渉と加工部品の値下げ交渉を同じと考えていれば、先に述べたような手法で「選択」の力を行使して、価格の引き下げや指値での受注を求めるかもしれません。

しかし購入品(メーカーの標準製品)と加工部品品では、原価の比率が違います。先に述べたように購入品は長期的に大量に受注が見込めれば、安く受注することもできます。しかし加工部品の場合、長期的に大量に受注しても赤字価格で受注すれば経営が成り立ちません。

この誤解があるため、価格交渉の中で

  • 利益は削れる
  • 固定費は削れる

と考える取引先もあるようです。

しかし仕入先は、利益も固定費もなければ事業が継続できません。加工品を安く調達するには、安くつくるしか方法はないのです。
 

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