Posts Tagged ‘アワーレート’

【製造業の値上げ交渉】3. 間接費用や販管費も原価に含まれるのだろうか?

 
【製造業の値上げ交渉】2. 我が社の人と設備のアワーレートはいくらなのだろうか?」で人と設備のアワーレートの計算方法を説明しました。

原価を計算するには、各現場の費用に間接製造費用を加えたアワーレート間〈注1〉を計算する必要があります。

では、このアワーレート間はどうやって計算するでしょうか?


〈注1〉本コラムでは、間接製造費用を含んだアワーレートを区別するために、

  • 直接製造費用のみのアワーレート : アワーレート(人)、アワーレート(設備)
  • 間接製造費用を含んだアワーレート : アワーレート間(人)、アワーレート間(設備)

と表記します。
またアワーレートは、直感的に理解しやすいように一桁目を四捨五入しています。(正確さよりもわかりやすさを重視しています。) 実際の計算では正確な数字を使用願います。

 

直接製造費用と間接製造費用

 
工場の費用は、直接製造費用と間接製造費用があります。
 

直接製造費用

 
ある製品を製造するのにどのくらいかかったのかが明確にわかる費用
(これは人の費用と設備の費用があります)
 

間接製造費用

 
どの製品にどのくらいかかったのかが明確にわからない費用
(間接部門の費用や消耗品など、他に工場全体で発生する費用)

図1 直接製造費用と間接製造費用

図1 直接製造費用と間接製造費用

この間接製造費用は意外と多く、原価のかなりの割合を占めます。

そこで各現場のアワーレートは、その現場の直接製造費に間接製造費用を加えて計算したアワーレート間を使用します。そのためには間接製造費用を各現場に分配〈注2〉する必要があります。これはどうすればよいでしょうか?


〈注2〉
これは固定費の配賦とも呼ばれます。本コラムでは難しい会計用語は使用せず、一般的な「分配」と呼びます。

 

間接製造費用の分配

 

間接製造費用の分配は、本コラムは以下のように行います。

  • 間接部門の費用は労務費のみとする。
  • 間接部門の費用は、その部門が関与する現場のみに分配する。
  • 製造経費は間接部門には分配せず、各現場に直接分配する。

これは各現場の直接時間、又は直接製造費用に比例して分配します。
 

分配の考え方

直接製造費用に比例して分配

直接製造費用の大きい現場には、間接製造費用を多く分配します。直接製造費用が大きい現場は、生み出す付加価値が高くたくさん稼ぐはずなので、間接製造費用をたくさん負担してもらう考え方です。

直接製造時間に比例して分配

直接製造時間の大きい現場に間接製造費用を多く分配します。直接製造時間が大きい現場は、工場の資源(リソース)を多く使用し、生み出す付加価値も高いと考え、その分間接製造費用をたくさん負担してもらう考えです。

どちらの分配ルールを採用するかでアワーレート間は変わりますが、どちらが正解ということはないので、自社に合った方法を選択します。
 

アワーレート間の計算

 
アワーレート間(人)、アワーレート間(設備)は、以下の式で計算します。
アワーレート間(人)の計算式

アワーレート間(設備)の計算式
では、架空のモデル企業A社(機械加工)のNC旋盤の現場のアワーレート間を計算します。
 

実際の計算

 
モデル企業A社の詳細は「製造業の値上げ交渉1 個々の製品の原価はいくらなのだろうか?」を参照願います。
 

アワーレート間(人)

 
NC旋盤の現場の人の費用とアワーレート間(人)を図2に示します。

NC旋盤の現場の作業者は4人、4人の人件費の年間合計は1,672万円でした。就業時間と稼働率は4人とも
就業時間 : 2,200時間
稼動率 : 0.8
でした。

図2 NC旋盤の現場の人の費用とアワーレート間(人)

図2 NC旋盤の現場の人の費用とアワーレート間(人)

A社は直接製造費用に比例して間接製造費用を分配しました。その結果、NC旋盤の人の現場の間接製造費用の分配は544万円でした。アワーレート間(人)は

アワーレート間(人)の計算

でした。

NC旋盤の現場は
アワーレート(人) : 2,380円/時間
アワーレート間(人) : 3,150円/時間
間接製造費用を分配したことでアワーレートは770円/時間 高くなりました。
 

アワーレート間(設備)

 
NC旋盤の現場の設備の費用とアワーレート間(設備)を図3に示します。

NC旋盤の現場には4台のNC旋盤があり、実際の償却費、電気代、操業時間、稼働率は4台とも以下の値でした。
実際の償却費 : 100万円
電気代 : 23.2万円
操業時間 : 2,200時間
稼動率 : 0.8

図3 NC旋盤の現場の設備の費用とアワーレート間(設備)

図3 NC旋盤の現場の設備の費用とアワーレート間(設備)

NC旋盤の現場の設備の間接製造費用分配は、544万円でした。

アワーレート間(設備)の計算

NC旋盤の現場
アワーレート(設備) : 700円/時間
アワーレート間(設備) : 1,470円/時間
間接製造費用を分配したことでアワーレートは770円/時間 高くなりました。

実は見積金額を計算するには、販売費及び一般管理費も入れる必要があります。
 

これも必要、販売費及び一般管理費

 
企業で発生する費用のうち、製造に直接関係しない費用が販売費及び一般管理費 (以降、販管費)です。これは以下の二つの費用です。

  • 販売費   : 商品や製品を販売するための費用
  • 一般管理費 : 会社全般の業務の管理活動にかかる費用

図4 販管費の例
図4 販管費の例

工場の人や設備の大半は製造のためのものです。一般管理費といってもその大半は製造のための管理費です。会計上の扱いが異なるため、製造原価と販管費は分けていますが、販管費がなければ工場は成り立ちません。
 

販管費も含めた金額が本当の原価

 
従って製造原価に販管費を加えたものが本当の原価です。会計ではこれを「総原価」と呼びます。本コラムではこれを「販管費込み原価」と呼ぶことにします。

販管費込み原価=製造原価+販管費

最近は中小企業も管理業務が増え、多くの中小企業は販管費が売上高の15~30%を占めています。従って、見積には販管費も入れて、必要な利益が出るような金額にします。
 

先期の決算書から比率を計算

 
それぞれの製品の販管費は、製造原価に一定の比率をかけて計算します。本コラムではこれを「販管費レート」と呼びます。

販管費レートは以下の式で計算します。
販管費レートの計算式

販管費=製造原価×販管費レート 
 

ではA社の実際の販管費レートを計算します。

実際の販管費レートの計算

 
A社の製造原価と販管費は先期の決算書から
製造原価 3億960万円  販管費 7,700万円 
販管費レートの計算

販管費レートは25%でした。

見積金額は、この販管費込み原価に目標利益を加えて計算します。

見積金額=販管費込み原価+目標利益

では目標利益はいくらでしょうか。
 

目標利益

 
目標利益の決め方は企業によってそれぞれのやり方があります。参考までに前年度の営業利益率から計算する方法を紹介します。
 

目標営業利益率から計算する方法

 
先期の営業利益率は以下の式で計算します。
先期の営業利益率の計算式

例えば、先期の営業利益率は3%、今期の目標営業利益率を8%としました。

見積書の目標利益は、図5に示すように販管費込み原価から計算します。そこで販管費込み原価に対する利益率(販管費込み原価利益率)を計算します。

図5 A社の売上高、製造原価、販管費と利益

図5 A社の売上高、製造原価、販管費と利益

販管費込み原価利益率は、以下の式で計算します。
販管費込み原価利益率
 

実際の利益率の計算

 
図5から先期の営業利益率は3%、それを元に今期の目標営業利益率を8%とした場合
販管費込み原価利益率

販管費込み原価利益率は8.7%でした。

目標利益は、販管費込み原価に販管費込み原価利益率をかけて計算します。

目標利益=販管費込み原価×販管費込み原価利益率 

実際にある製品A1製品の見積金額を計算します。
 

A1製品の見積金額の計算

 

A1製品の製造原価は726円でした。

A1製品の見積金額

987円で受注すれば、製造原価、販管費をカバーして、さらに79円の利益が得られます。これを図6に示します。

図6 A1製品の原価の構成

図6 A1製品の原価の構成


 

原価は真実

 
以上の方法で計算した原価は、実際に工場で発生した費用(先期のですが)を元に計算した金額です。従ってこの原価は「真実」といえます。ただし間接製造費用の分配方法などが変われば原価は変わります。つまり真実ですが「唯一の値」ではありません。
 

この金額で受注しなければ目標利益は達成できない

 
製造業は人や設備が生産することで付加価値を生みます。しかし人や設備の生産能力には限りがあります。

当初想定した稼働率で人や設備が1年間生産すれば、目標の売上や利益を達成します。一方想定以上に受注があっても急に生産を増やすことはできません。(外注化すれば売上は増えますが付加価値は多くありません。)

つまり人や設備によって生産量が限られるため、会社が利益を出すにはひとつひとつの製品で利益がなければなりません。

この点が店舗や人を増やさなくても販売量を大きく増やすことができる小売業や卸売業と違う点です。小売業や卸売業は価格を下げて販売が大きく伸びれば利益は増えるからです。
 

さまざまな費用が上昇し原価が高くなっている場合

 
従ってそれぞれの受注で利益があるのか、管理する必要があります。

今日さまざまな費用が上がっています。改めて原価を計算すると赤字になっている製品があるかもしれません。

では、費用が上がると原価はどれだけ高くなるのでしょうか?

これについては以下のコラムを参照願います。

【製造業の値上げ交渉】4. 人件費が上昇すれば原価はどれだけ上がるのだろうか?

【製造業の値上げ交渉】5. 電気代が上昇すれば原価はどれだけ上がるのだろうか?を参照願います。

経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

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【製造業の値上げ交渉】2. 我が社の人と設備のアワーレートはいくらなのだろうか?

 
【製造業の値上げ交渉】1. 個々の製品の原価はいくらなのだろうか?で、製造原価の計算方法を説明しました。

ここでは人や設備のアワーレートの計算方法を説明します。

アワーレートは1時間当たりの費用です。

人のアワーレート「アワーレート(人)」は時給と違うのでしょうか?
 

アワーレート(人)の計算方法

 
違いは稼働率が入っていることです。

アワーレート(人)は、人の年間費用を年間の就業時間と稼働率で割って計算します。
 

人の年間費用

 
会社がその人に支払った費用の年間の合計です。これは賞与や各種手当を含めた年間の総支給額に、会社が負担した社会保険料を加えた額です。
 

年間就業時間

 
残業も含めた勤務時間の年間合計です。

有給を取った場合、その間は生産していない(お金は稼いでいない)ので、有給は年間就業時間には入れません。(有給の分だけ年間就業時間は短くなるため、アワーレートは高くなる。)
 

稼働率

 
就業時間のうち、実際に付加価値を生み出している時間の割合です。

付加価値を生んでいる時間とは、図1の段取時間と生産時間です。

図1に示すように、1日の就業時間の中にはトイレのため離席したり、資材を探しに行ったりなど、付加価値を生み出していない「お金を稼いでいない時間」があります。

図1 直接作業者の1日の例
図1 直接作業者の1日の例

付加価値を生んでいない時間も費用は発生しています。そこでアワーレートを計算する時間は、就業時間から付加価値を生んでいない時間をマイナスします。本コラムはこれを稼働時間と呼びます。

稼働時間は年間就業時間に稼働率をかけて計算します。

稼働率という言葉は様々な意味で使われます。本書では稼働率は「稼働時間を就業時間で割ったもの」とし、以下の式で表します。
稼動率
稼動率は年間で平均して計算します。

これは1日ずっと現場にいる作業者でも80~95%くらいです。これがリーダーの場合は、もっと低くなります。
 

なぜ段取時間は稼働時間か?

 
一般的には段取時間は生産していないため、生産時間と考えません。しかし本コラムは、段取時間は稼働時間と考えます。

その理由は、多品種少量生産の場合、段取費用も見積に入れなければならないからです。段取時間も見積に入っているため、段取時間も「お金を稼いでいる時間」です。

多品種少量生産で段取時間が長い場合、原価に占める段取費用の比率は高くなります。しかもロットの大きさが変われば段取費用が大きく変わります。そのため段取費用を見積に入れ、ロットが変わった場合も原価に反映するようにします。

一方、大量生産で段取の頻度が少なければ、段取費用は見積には入れません。その場合、段取時間は非稼働時間です。

現場では賃金の異なる作業者もいます。賃金が異なればアワーレート(人)も異なります。賃金が高い人がつくった製品は原価も高くなるのでしょうか。
 

人によって賃金が異なる場合

 
アワーレート(人)が高ければ原価も高くなります。賃金が高い人がつくった製品は原価も高くなります。その結果、現場に全く同じ製品で、賃金の高い人が生産した原価の高い製品と、賃金の低い人が生産した原価の低い製品ができてしまいます。

そうなると「誰が、どの製品を製造したのか」を管理しなければなりません。
 

平均アワーレート(人)を計算

 
現実にはそれは困難なので、その現場全体で平均した「平均アワーレート(人)」をその現場のアワーレート(人)とします。

平均アワーレート(人)は以下の式で計算します。
平均アワーレートの計算式

では具体的なアワーレート(人)の値はどれくらいでしょうか。

架空の企業A社(機械加工)のNC旋盤の現場のアワーレート(人)を計算してみます。
 

具体的なアワーレート(人)の計算

 
架空の企業A社のNC旋盤の現場の作業者は、図2のような構成でした。

NC旋盤の現場の構成
図2 NC旋盤の現場の構成

作業者は、A~Dさんまでの4人でした。

賃金は様々で、年間総支給額は、352~528万円と幅がありました。

年間就業時間と稼働率は、計算を簡単にするため、全員以下の値としました。
年間就業時間 : 2,200時間
稼動率 : 0.8

Aさんのアワーレート(人)は

2,000円でした。同様に他の人のアワーレート(人)も計算すると
Aさん : 2,000円/時間
Bさん : 2,000円/時間
Cさん : 2,500円/時間
Dさん : 3,000円/時間
でした。

そこで平均アワーレート(人)を計算します。

年間費用合計は

作業者の年間費用合計=352+352+440+528=1,672 万円

平均アワーレート(人)は
平均アワーレート(人)

平均アワーレート(人)は、2,380円/時間でした。

この2,380円/時間であれば、誰がつくっても同じ原価になります。


注記)
本コラムでは、数字をわかりやすくするためにアワーレートは一桁目を四捨五入しています。実際に計算する際は正確な値を使用願いします。

工場全体で平均アワーレート(人)を計算

 
工場によっては、応援のため現場間で頻繁に人が移動することがあります。そうなると現場の平均アワーレート(人)も頻繁に変わってしまいます。

そのような工場では工場全体の平均アワーレート(人)を使用します。

現場間のアワーレート(人)の差がそれほど大きくなければ、工場全体の平均アワーレート(人)でも問題ありません。大企業でも工場全体の平均アワーレート(人)で原価を計算する場合があります。
 

アワーレート(設備)の計算

 
アワーレート(設備)は、設備の年間費用を設備の稼働時間で割って計算します。
アワーレート(設備)の計算式
 

設備の年間費用

 
設備の年間費用は以下の2つです。

  • 設備の購入費用 → 減価償却費
  • ランニングコス ト→ 動力費、水道光熱費、消耗品、保守費など

ランニングコストは主に電気、ガスなどエネルギー費です。、他にも図3に示すように消耗品、保守費、修理費などがあります。

図3 ランニングコストの例
図3 ランニングコストの例

これらの費用の年間の合計は、決算書 (製造原価報告書) の「製造経費」に示されています。しかしその大半は、どの設備にどのくらいかかったのかは正確にわかりません。そこで間接製造費用として各現場に一定の比率で分配〈注〉します。
もし特定の設備が修理や保守のために多額の費用がかかる場合は、その現場固有の費用とします。


〈注〉
会計では固定費を割り振ることを「配賦」と呼びますが、本コラムは難しい会計用語でなく、一般的な「分配」を使用します。

 

年間操業時間

 
残業時間も含めて設備を動かしている時間の年間の合計です。

設備の場合、人と違って年間で半分しか稼働しない設備もあります。その場合、アワーレート(設備)は高くなります。
 

稼働率

 
年間操業時間の中で実際に付加価値を生み出している時間の割合です。この稼働率の考え方は人と同じです。設備の稼働率は、日報から調べたり、設備のモニターに表示されている場合もあります。わからない場合は、仮に〇%と決めて計算します。

設備に高い設備と安い設備があった場合、高い設備で生産した製品は原価が高いのでしょうか?
 

平均アワーレート(設備)

 
人と同様に設備も費用が異なれば、アワーレート(設備)が異なります。同じ製品でも設備が異なれば原価が異なります。しかし人の場合と同様に「どの設備が、どの製品を製造したのか」管理するのは大変です。

そこで現場の「平均アワーレート(設備)」をその現場のアワーレート(設備)とします。

平均アワーレート(設備)は以下の式で計算します。
平均アワーレート(設備)
 

税法の減価償却費と実際の減価償却費

 
設備の購入費用は、決算書に減価償却費として計上されます。

減価償却費は、

  • 減価償却の方法は定額法と定率法の2種類あり企業が選択
  • 耐用年数は、「法定耐用年数」が税法で決められている

という特徴があります。
 

定率法と定額法

 
定率法と定額法は、以下の違いがあります。

  • 定額法
    購入価格を法定耐用年数で割った金額で、毎年同じ金額を償却
  • 定率法
    毎年簿価の一定割合を減価償却の金額とする、簿価は毎年下がるため減価償却の金額も毎年下がる(途中から一定金額になる)

購入価格1,500万円、法定耐用年数10年の設備を購入した場合の、定率法と定額法の減価償却費を図4に示します。
図4 定率法と定額法の減価償却費
図4 定率法と定額法の減価償却費

定率法の場合、減価償却費は年々減少し、6年目から定額になります。
定額法の場合、減価償却費は10年間一定の金額です。

どちらも法定耐用年数10年を過ぎれば、減価償却費はゼロになります。

定額法と定率法のどちらかにするかは企業が決めます。中小企業は定率法を採用する企業が多いです。
 

法定耐用年数

 
法定耐用年数は設備の種類によって税法で決められています。

しかし設備の使い方や稼働時間が考慮されていないため、法定耐用年数よりも長く使える設備もあれば、法定耐用年数の前に使えなくなる設備もあります。
 

減価償却費でアワーレート(設備)を計算する問題

 
アワーレート(設備)を計算する際、この税法の減価償却費を使用すると以下のようなことが起きます。

定率法では、減価償却費が年々減少する
定率法、定額法のいずれも、法定耐用年数を過ぎれば減価償却費はゼロになる

定率法の場合、減価償却費が年々減少するため、アワーレート(設備)も年々減少します。
また法定耐用年数を過ぎれば減価償却費はゼロになるため、アワーレート(設備)は低くなります。

そうなるとアワーレート(設備)を低くしても利益が出ます。顧客からの値下げ要求が厳しい場合、価格を下げることもできます。

しかし設備はいつか更新時期が来ます。更新すれば新たに減価償却費が発生し、アワーレート(設備)は高くなります。その分値上げしないと見積が低すぎてしまいます。

減価償却費からアワーレート(設備)を計算すると、このような問題が起きます。
 

実際の償却を使用

 
そこで設備の購入費用を実際の耐用年数で均等に割った費用からアワーレート(設備)を計算します(本コラムはこれを「実際の償却費」と呼びます)。大企業の多くは、実際の償却費で減価償却を行っています。(図5)

実際の償却費は、以下の式で計算します。
実際の償却費の計算式

図5では、定額法の減価償却費は年間150万円(法定耐用年数10年)です。しかし本当の耐用年数が15年の場合、実際の償却費は100万円です。

図5 実際の償却費

図5 実際の償却費


図5 実際の償却費
 

実際のアワーレート(設備)の計算

 
A社のNC旋盤の現場を図6に示します。

図6  NC旋盤の現場の設備
図6  NC旋盤の現場の設備

計算を簡単にするため4台とも
購入価格 : 1,500万円
ランニングコスト : 23.2万円
年間操業時間 : 2,200時間
稼働率 : 0.8
実際の耐用年数 : 15年
とします。
 

アワーレート(設備)の計算

 
実際の償却費は
実際の償却費の計算

でした。現場の平均アワーレート(設備)は
現場の平均アワーレート(設備)

700円/時間となり、平均アワーレート(人)2,380円/時間と比べ低い値でした。

製造費用を計算する場合は、アワーレート(人)、アワーレート(設備)に、その現場の間接製造費用を加えたアワーレート間(人)、アワーレート間(設備)を使用します。

アワーレート間(人)、アワーレート間(設備)の計算は
【製造業の値上げ交渉】3. 間接費用や販管費も原価に含まれるのだろうか?」
で説明します。

経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

 
経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

 
 

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【製造業の値上げ交渉】12. 取引先から値上の根拠を求められた。どうすればいいのだろうか?

 
様々な費用が高くなっている今日、製造業も値上げ交渉が避けて通れません。

ところがこれまで「価格引下げ」への対応はありましたが、「値上げ」となると経験がない企業もあります。

そこで値上げ交渉の手順について【製造業の値上げ交渉】10. 値上げ交渉は初めて、どう進めていけばよいのだろうか?で説明しました。

こうして意を決して値上げ交渉に行くと…
 

値上げの根拠を要求

 
取引先から
「根拠となる資料を出してください」
と言われることがあります。根拠とは何でしょうか?
 

なぜ顧客は値上げの根拠を求めるのか?

 
実は顧客が最も気にするのは
「便乗値上げ」
です。

様々なものの値段が上昇しています。値上げはやむを得ないというムードです。

そうかといって仕入先の値上げをそのまま受け入れれば原価が高くなってしまいます。取引先が部品メーカーの場合、今度は取引先が自身の納入先に値上げをお願いしなければなりません。そして

「こういった理由で仕入れ先からの値上げがあったため、納入価格の見直しをお願いします」

とお願いしなければなりません。そのためにも具体的な値上げの根拠が必要です。
 

社内での承認・決済

 
仕入先からの値上げは、取引先の内部で審査し、承認を得なければなりません。例え担当者が「その金額が妥当な金額だ」と思っても上司から

「なぜその金額なのか」

「もっと値上げ金額を引き下げることができないのか」

と指摘されるかもしれません。

なぜその金額なのか?


 

10%値上げ、なぜ10%なのか?

 
例えば
「電気代高騰、材料費上昇のため10%値上げさせてほしい」とお願いします。取引先は

「なぜ10%なのでしょうか?」

「値上げの原因が電気代の上昇ならば、金額はもっと低いのではないか」

と思います。
 

多くの人が気づかない『食品とは値上げの考え方が違う』

 
実は、私たちが普段接している一般消費者向けの商品、例えば食品などの値上げと製造業の値上げとは違うのです。

これらの商品は多額の販売促進費を投じて売上を維持しています。この販売促進費は、商品の価格のかなりの割合を占めます。どの商品もライバル企業があります。ライバル企業が値上げしなければ消費者は他のメーカーの商品を買います。

競合が値上げしなければ…

例えば食パン、皆さんはメーカーにこだわりがありますか?
「絶対にA社の食パンでないといやだ!」
そういう方は少ないのではないでしょうか?

そこでメーカーは消費者に振り向いてもらえるように、広告宣伝やキャンペーンに多額のお金をかけています。もし自社だけが値上げすれば、顧客は安いライバルメーカーの商品を買います。値上げしても市場シェアが低下すれば、売上が低下してしまいます。

これでは本末転倒です。
 

小麦価格が高騰してもパンは高くならない。

 
実際、小麦価格が高騰しても食パンの原価は10%も上がりません。計算してみましたが1円にも満たない金額でした。しかし小麦以外にも原材料、工場の経費、人件費、販売促進費など様々な費用が上がれば、メーカーの利益は減少します。

そこでメーカーは市場シェアを落とさないように値上げはできるだけ我慢します。それでも利益の減少が大きくなればライバルメーカーの動向も踏まえて、消費者に分かりやすい金額に値上げします。
 

異なる製造業の値上げ

 
一方、製造業、特に中小企業の多くはメーカーの下請けです。値上げを我慢したからといって、売上が増えるわけではありません。しかも費用が増加すれば、その分利益が減少します。値上げをしなければ、会社が立ち行かなくなってしまいます。
 

値上げ金額の妥当性を示す資料

 
製造業の値上げ交渉では、取引先に値上げ金額の妥当性を示す資料を提示します。もし電気代の上昇のため値上げするのであれば、10%というキリのいい数字にはなりません。

この値上げ金額の資料の例を、下図に示します。

 値上げ金額の例

値上げ金額の例


こうした値上げ金額の明細があれば、取引先も金額の査定が容易です。そして
「電気代が30%上昇したため、9.6円増加」
と値上げ金額を妥当と感じます。
 

この値上げ金額の詳細については【製造業の値上げ交渉6. 値上金額は見積書にどのように入れればいいのだろうか?を参照願います。
 

ただし値上げの根拠を出す際、実際の原価の明細を出すのは問題があります。ではどうすればよいでしょうか?
 

詳細な原価を求める理由は?

 
なぜ取引先は詳細な資料を求めるのでしょうか?

これは以下の理由が推測されます。

  1. 上司に説明するのに必要
  2. 金額が妥当か査定するために詳しく知りたい
  3. 金額の詳細から値上げ金額を引き下げたい

 

詳細な数字を出しても良い場合

 
結局、詳細な数字を出せば、値上げ金額の引き下げにつながりかねないので、できるだけ出さない方が良いです。取引先が中小企業の費用を理解していないこともあるからです。アワーレートや間接製造費用、販管費について取引先が誤解している場合もあります。

その結果

  • アワーレートが高すぎる。○○円/時間ぐらいが適正でないか
  • 製造時間が長すぎる。もっと短いはずだ
  • 販管費が高すぎる。〇%以下にすべきだ
  • 利益が大きすぎる
    • といった指摘を受けますす。
       

      取引先との信頼関係があり、コストダウン協議のためであれば…

       
      一方、取引先と一緒にコストダウンを協議するには、詳細な原価情報が必要です。「どのような工程で、製造時間はどれくらいか」わからなければコストダウンの協議が進みません。その場合、取引先と信頼関係があれば、詳細に数字を出すことも可能です。

      顧客と協議

      顧客と協議


       

      安く調達するためには

       

      取引先は安く部品を調達したいと思っています。

      当たり前ですが、安く部品を調達するためには、安くつくる必要があります。そのためには作り方を変えなければなりません。

      受注側と発注側が協力して、より安くつくる方法を一緒に考えて取り組む必要があります。その結果、取引先も仕様や公差の見直しが必要になるかもしれません。
       

      100円でつくるものを80円で買おうとしていないか?

       
      安くつくる努力をしないで、交渉で安くしようとすれば
      「100円でつくるものを80円で買おうとする」
      ことになります。

      これは中小企業庁のいう「買いたたき」になってしまいます。
       

      企業によってアワーレートは違う

       
      企業によって、同じ工程でもアワーレートは違います。その原因は、設備や人の違い、減価償却の違い、間接部門の比率、稼働率など様々です。○○工程ならば○○円/時間 と一律では決められません。
       

      この会社毎の違いと適正価格については【製造業の値上げ交渉】7. この製品、いくらが正しいのだろうか?を参照願います。
       

      顧客と計算条件が違う

       
      しかも自社と顧客で計算条件が違うこともあります。例えば、

      【顧客のアワーレート計算】 直接費用のみ、稼働率100%

      【自社のアワーレート計算】 間接製造費用を含む、稼働率80%

      こうなると取引先が計算するアワーレートは低くなります。こちらが提出した資料のアワーレートを見て「こんなに高いわけない!」と思うかもしれません。

      実際は、取引先の工場でも稼働率が下がれば原価は高くなっています。これは原価差異として経理が計算していても、工場の人たちは知らないかもしれません。しかし仕入れ先が見積をつくる時、稼働率100%では実現できない原価になってしまいます。

      同様に間接部門費用、販売費及び一般管理費、利益も企業によって違います。
       

      原価は真実

       
      本コラムで述べる原価の計算方法は、先期の決算書の数値を元にしています。今期の費用が先期とほぼ同じであれば、この原価は「真実」です。

      従って、この見積金額で受注できなければ、製造費用、販管費をカバーして、なおかつ必要な利益を得られません。しかし、この数字を正しく理解するには、それぞれの企業のおかれた背景や中小企業固有の事情を理解する必要があります。

      これについては【製造業の値上げ交渉】13. なぜ取引先はアワーレートが高いというのだろうか?を参照願います。

      経営コラム【製造業の値上げ交渉】の記事は下記リンクを参照願います。

       
      経営コラム【製造業の原価計算と見積】の記事は下記リンクを参照願います。

       
       

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