製造業の個別原価計算 | 原価計算システムと原価改善コンサルティングの株式会社アイリンク https://ilink-corp.co.jp 数人の会社から使える原価計算システム「利益まっくす」 Wed, 28 Feb 2024 06:36:36 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.5.3 https://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2021/04/riekimax_logo.png 製造業の個別原価計算 | 原価計算システムと原価改善コンサルティングの株式会社アイリンク https://ilink-corp.co.jp 32 32 製造業の個別原価計算 38 設備のランニングコストの計算~ https://ilink-corp.co.jp/8028.html https://ilink-corp.co.jp/8028.html#respond Tue, 27 Sep 2022 13:13:13 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8028 No related posts. ]]> 個別原価の計算に必要な「設備のアワーレート」は以下の式で計算します。

式1
式1

ここで減価償却費については以下の経営コラムで詳しく書きました。

製造業の個別原価計算 8 「減価償却費とアワーレートの関係」

では、ランニングコストとは、どのような費用でどうやって計算するのでしょうか?
 

ランニングコストの計算

 
ランニングコストとは、設備を稼働させる際に発生する費用です。例えば電気代など光熱費です。

原価計算で使用する設備のアワーレートを計算する際、設備毎にランニングコストが大きく違っていれば、アワーレートの計算でランニングコストも計算します。

逆に設備毎にランニングコストが違っていても、

設備毎のランニングコストの違いがアワーレートの値に影響しない程度であれば、設備毎にランニングコストを計算しても仕方ない

ということです。

例えば、ある工場の設備(マシニングセンタ)のアワーレートが909円/時間の場合、
設備の電気代の違いによるアワーレートの差が1円/時間以下であれば、
わざわざ設備毎に電気代を計算しても意味はありません。
(アワーレートの大きさによっては10円/時間でも問題にならない場合もあります。)
 

設備のランニングコストとは?

では、具体的には設備のランニングコストはどのような費用があるのでしょうか?

これは設備によって異なります。
例として、工作機械・射出成形機・プレス機などの製造設備では

  • 電気代、水道代、刃物・ワイヤー(放電)・砥石など工具代、潤滑油・クーラントなど
  • 設備の保守契約料や損害保険料(設備が保険に入っていれば)など

他に溶接機。熱処理炉などでは

  • ガス代

メッキなど表面処理では

  • 処理液代

他にも設備によって固有の費用があります。
 

どの設備がどれだけ消費したのか、正確にはわからない

これらの費用は消費した分だけ、定期的に請求が来ます。大抵は工場で一括請求されるので、どの設備の分でどれだけ請求されているのか分かりません。

つまり電気代などのランニングコストの設備毎の正確な金額は

「実はわからない」

のです。

そもそも設備毎の原価の違いを細かく計算しなかった企業では、ランニングコストをアワーレートの計算に入れていませんでした。

ところが最近はランニングコストの計算が重要になってきました。
 

値上げ交渉に必要なランニングコスト計算

それは最近の情勢の変化により電気代や他の資材価格が高騰し、値上げ交渉が不可欠になったからです。

電気代など費用が増加すれば、その分利益は減少します。

値上げしなければ会社が赤字になってしまうかもしれません。

しかし顧客に光熱費や資材価格の上昇を理由に値上げをお願いしても、具体的な根拠を求められます。

しかしこれまでランニングコストをアワーレート計算に入れていない場合、ランニングコストが上昇しても、

原価がいくら上昇したのか、数字を示すことができません。

実際に値上げしたいけど根拠を具体的に示すことができずに断念した企業もあるようです。

逆に具体的な根拠を数字で示すことができれば、値上げできる可能性があるのです。
 

値上げ目的のランニングコスト計算

この場合、ランニングコストを計算する目的が異なります。

ランニングコストが上昇したことでアワーレートがいくら上昇したか計算します。そして上昇したアワーレートから個別原価を計算し、必要な値上げ金額を計算します。
 

例えば、電気代が20%上昇した場合、設備のアワーレートが
909円/時間 → 921円/時間 (+22円/時間)
に上昇しました。

その結果A1製品の総費用(製造原価+販管費)は
994円 → 996.8円 (+2.8円)
に増加しました。

2.8円の原価上昇は大きいので顧客と価格交渉します。

これがプレスや樹脂成形では、0.01円単位で見積金額を計算します。この場合0.01円単位で値上げを計算します。

それ以下の小さな違いであれば、手間をかけても値上げの対象にならないので無視します。
 

ランニングコストの違いの計算

ではどうやってランニングコストの違いを計算するのでしょうか?
 

図1 計算方法は?

図1 計算方法は?

設備のアワーレートとランニングコスト

設備のアワーレートとランニングコストの計算をするために、
架空のモデル企業 A社(切削加工)の
設備(マシニングセンタ)を取り上げます。

設備のアワーレートは前述したように以下の式で計算します。

式2
式2

この設備の減価償却費、年間操業時間、稼働率を以下に示します。
減価償却費 140万円
電気代 184,000円
年間操業時間 2,200時間
稼働率 0.8

ランニングコストは電気代のみとします。電気代を以下に示します。
年間電気代 184,000円

設備のアワーレートは

式3
式3
でした。実際の個別原価の計算では、このアワーレートに人件費と間接費用が加わります。そのためもっと高くなります。

ここで電気代が20%上昇すれば
年間電気代 184,000円 → 220,800円 (+36,800円)
上昇します。

設備のアワーレートは

式4
式4

つまり22円/時間増加します。
 

電気代の計算

この設備のアワーレートの計算では、設備1台の年間の電気代の値が必要です。

これは簡単にはわかりません。前述のように工場全体で一括請求されるからです。そこで以下の2つの方法があります。

  1. 実際の消費電力を測定して、それを元に年間の電気代を推測する
  2. 設備の定格から消費電力を仮に計算して、それを電気代とする

個々の設備が毎月の消費電力の積算を表示してくれればよいのですが、現実にはそのような設備は多くはありません。

1は実際に運転している設備の一定期間の消費電力を、積算電力計を使って測定する方法です。ただし消費電力は設備の運転状況によって変わり、設備の運転状況は加工する製品によって変わります。そのため測定値はある製品を加工している時の消費電力です。

2はそれも大変な場合、設備の定格から推測する方法です。
これは以下の方法で行います。

例えばA社のマシニングセンタは以下の仕様でした。

3相200V
定格 12.45kVA

消費電力P(kW)は以下の式で計算します。

式5
式5

ここでV×I×√3=定格 (kVA)

力率 工作機械0.6~0.95、3相モーター0.8~0.85、ヒーター・白熱灯 1.0
負荷率 運転中のモーターにかかる負荷の割合0.5~0.9

ここで力率と負荷率が以下の値とします。
力率 0.7
負荷率 0.6

この時の消費電力は
P = 定格×力率×負荷率 = 12.45 × 0.7 × 0.6 = 5.229 kW

ここから年間消費電力は
操業時間 2200時間 稼働率0.8 より
稼働時間
= 操業時間 × 稼働率 = 2200 × 0.8 = 1760時間

年間消費電力(kWh)
= 消費電力 × 稼働時間 = 5.229 × 1760 = 9,200 kWh

1kWh当たりの電気代 20円/kWhとすると年間の電気代は

年間電気代
= 1kWh当たり電気代 × 年間消費電力 = 20 × 9,200 = 184,000円
 

検算が重要

最後にこの方法で計算した電気代を検算します。

電気の使用量の多い設備の電気代を合計し、工場の年間の電気代と比較します。

合計が工場の年間の電気代より高過ぎたり、低過ぎたりする場合は、稼働時間や負荷率が違っている可能性があるため調整します。
 

結局、自分たちで決める

いずれにしても正確な値は「わからない」のですから、ある前提条件のもとで工場全体の電気代を各設備に適切に割り振ればよいです。

前述の1.2.いずれの方法でも、実際の消費電力を年間を通して把握することはできないので「あるルールのもとに計算した値」であることに変わりはありません。

そのルールのもとで電気代が上昇すれば、それによる原価の影響を計算し、値上げ交渉すればよいです。
 

実際の価格の上昇

では、A社 A1製品を例に、電気代の上昇による原価の上昇を計算します。

A1製品
材料費300円
製造費用544.5円
従って製造原価は
300 + 545 = 844.5円 でした。
 

図2 製造費用の内訳

図2 製造費用の内訳

製造費用の内訳は
設備のアワーレート 909円/時間
人と設備、間接費も併せたアワーレート 4,950円/時間
製造時間 0.11時間
製造費用 4,950 × 0.11 = 544.5円

設備だけのアワーレートは909円/時間ですが、
オペレーターの費用、工場の間接費用も含めたアワーレートは4,950円/時間でした。
 

販管費
他に工場には、製造原価以外の事務や営業担当の人件費など「販売費および一般管理費(以降 販管費)」もあります。

この販管費は製造原価に一定の比率をかけて計算します。
A社の比率は17.7%でした。

A1製品の販管費
844.5 × 0.177=149.5円

A1製品の総費用(製造原価+販管費)
844.5 + 149.5 = 994円

受注金額1,080円の場合、
利益=1,080 - 994 = 86円
になります。
 

電気代上昇の結果

電気代が上昇した結果、
設備のアワーレートは909円/時間から933円/時間と
22円/時間増加しました。
これによりA1製品の原価どのように変わったのでしょうか?

アワーレートが増加したA製品
工場の間接費用も含めたアワーレート
4,950 → 4,972円/時間

製造費用
4,972 × 0.11 = 546.9円
増加
546.9 - 544.5 = 2.4円

製造原価
546.9 + 300 = 846.9円

販管費
846.9 × 0.177 = 149.9円

総費用(製造原価+販管費)
846.9 + 149.9 = 996.8円 (+2.8円)

受注金額1,080円の場合、
利益 = 1,080 - 996.8 = 83.2円 (マイナス2.8円)
となります。

図3 アワーレートが増加した製造費用の内訳

図3 アワーレートが増加した製造費用の内訳

電気代20%の上昇は、A1製品の場合、1個あたり2.8円の費用の増加でした。

しかしA社の電気代が年間2,000万円の場合、
20%の電気代の上昇は400万円の費用の増加です。

個々の製品で

2.8円に相当する金額を値上げしなければ、年間では400万円の利益を失うのです。

 

費用の例

このように考えれば値上げの影響の大きい費用のみ計算すればよいです。
例えば、

  • 電機、ガスなどの光熱費
  • 処理用のガス、処理液などの製造プロセスで使用する薬剤など
  • 潤滑油、クーラントなど設備の保守に使用するもの
  • 刃物、砥石、ワイヤーなど加工で使用する工具類

これらの内で金額の大きいものを個々に計算して原価への影響を計算します。あるいは個々の金額は大きくなくても、まとめればある程度の金額になる場合、まとめた金額を計算します。

最近、原料、光熱費の上昇からその分の値上げは認める顧客も増えてきています。しかし値上げ金額の明確な根拠を求められます。その場合、このような方法で計算すれば、明確な根拠を示すことができます。
(細かく見れば、消費電力などは自社でルールを決めて計算しているのですが、そこまで追及されることはありません。またここに計算した金額の合計が工場全体の金額と比較して適正であれば問題にはなりません。)
 

続けられる範囲で

今まで述べた計算は、あれもこれもと細かくやれば、とても手間がかかります。

理論上は影響する金額でも値上げ交渉の材料にならない小さな金額のものは、手間をかけて計算してもメリットがありません。

最初は全体像を把握するために、ある程度細かく計算しても、必要な費用が絞り込めれば、それだけ計算すればよいです。

その代わり、定期的に継続して計算して、値上げが必要であればタイミングを計って値上げ交渉することを継続すべきです。
 

図4 値上げ交渉には継続が必要

図4 値上げ交渉には継続が必要


 

こういった製造業の値上げ金額の計算と値上げ交渉のポイントについては下記リンクを参照願います。

 

他にも製造業の原価計算の考え方と見積、損失の見える化については下記リンクを参照願います。

 
 

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製造業の個別原価計算 37 値上げ交渉と国の支援策 https://ilink-corp.co.jp/7745.html https://ilink-corp.co.jp/7745.html#respond Fri, 29 Apr 2022 02:39:12 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=7745 No related posts. ]]> 原材料や光熱費の上昇は利益を大きく減少させます。こうした中企業が存続するには値上げは不可欠です。

しかし顧客はなかなか値上げを受け入れてくれません。この値上げ交渉に必要なポイントについて「中小企業の原価計算と見積 値上げ交渉のポイント1 顧客の弱点とは?」で、B to Bで必要な価格以外の要因や顧客の課題、それらをうまく使って値上げ交渉を進めるポイントについて説明しました。
 

一方、中小の下請事業者が低い価格を強要される問題は、国も問題視していて法律の他、国もいろいろな情報を提供しています。

法律(下請法)は伝家の宝刀なので簡単には抜けませんが、こういった情報を知っていれば顧客の担当者にプレッシャーをかけることはできます。

図1 下請けからの提案を受け入れてもらうためには

図1 下請けからの提案を受け入れてもらうためには


 

では、国の支援策にはどんなものがあり、どんな使い方ができるのか、国の支援策を武器にする方法を説明します。
 

国の支援策

下請法

下請代金支払遅延等防止法(通称 下請法)は、下請け業者が「支払の遅延」や「代金の引き下げ」といった不利益を被った場合、禁止行為や罰則が定められています。
 

中小企業・小規模事業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブック(以降、価格交渉ハンドブック)

価格交渉事例集です。
法令違反となる取引行為や親事業者とうまく交渉するための価格交渉ノウハウ等を記載したハンドブックと価格交渉の事例集です。

図2 価格交渉

図2 価格交渉


 

下請適正取引等の推進のためのガイドライン

下請事業者と親事業者との間で、適正な下請取引が行われるように国が策定したガイドラインです。望ましい取引事例(ベストプラクティス)や、下請代金法等で問題となり得る取引事例等が具体的に記載してあります。
 

下請法のポイント

図3 下請法の仕組み

図3 下請法の仕組み


 

親事業者の義務

下請取引の公正化及び下請事業者の利益保護のため,親事業者には次の4つの義務があります。
 

1.書面の交付義務
発注の際は,直ちに書面を交付する、その書面には納入場所、金額、支払期日などを明記すること。

2.支払期日を定める義務
下請代金の支払期日は、物品を受領後60日以内に定めること。

3.書類の作成・保存義務
下請取引の内容を記載した書類を作成し,2年間保存すること。

4.遅延利息の支払義務
支払が遅延した場合は日数に応じ未払金額に年率14.6%を乗じた額の遅延利息を支払うこと。
 

親事業者の禁止行為

次の11項目の禁止事項が親事業者に課せられます。下請事業者の了解を得ていても,これらの規定に触れれば下請法違反になります。
 

1.受領拒否
下請事業者に責任がないのに、注文した物品の受領を拒むこと。

2.下請代金の支払遅延
物品の定められた支払期日まで(受領後60日以内のこと)に支払わないこと。

3.下請代金の減額
発注時に決定した下請代金を「下請事業者の責に帰すべき理由」がないにもかかわらず発注後に減額すること。

4.返品
下請事業者に責任がある場合,受領後速やかに不良品を返品するのは問題ない。しかし,それ以外でも受領後に返品すること。

5.買いたたき
類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること。

6.購入・利用強制
親事業者が指定する製品や原材料を強制的に購入させたり、サービスを強制的に利用させること。

7.報復措置
下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由として、その下請事業者に対して,取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること。

8.有償支給原材料等の対価の早期決済
有償で支給した原材料等の対価を,その原材料等を使用した製品の下請代金の支払期日より早い時期に支払わせたり、下請代金から相殺すること。

9.割引困難な手形の交付
一般の金融機関で割引を受けることが困難な手形で支払うこと。

10.不当な経済上の利益の提供要請
下請事業者に金銭,役務その他の経済上の利益を提供させること。(例 受注内容にない検品など)

11.不当な給付内容の変更及び不当なやり直し
下請事業者に責任がないのに,費用を負担せずに発注の取消、若しくは発注内容の変更を行い、又は受領後にやり直しをさせること。
 

国の対応

公正取引委員会や中小企業庁は、下請取引が公正に行われているか、親事業者、下請事業者に対して書面調査を行っています。中小企業庁から定期的に送られてくるアンケートがそうです。このアンケートに問題事例を報告すると、中小企業庁からヒアリングがある場合があります。また必要があれば、取引記録の調査や立入検査も行っています。
 

下請法で禁止されている行為をしていると判断された場合、

  • 禁止行為の取りやめ
  • 原状回復
  • 再発防止措置

などを求める勧告を受けます。勧告を受けた親事業者は「改善報告書」を提出しなければなりません。
 

勧告に従わなかった場合は、独占禁止法に基づく「排除措置命令」や「課徴金納付命令」が出されます。

勧告を受けると、勧告の内容に従うかどうかに関わらず、企業名、違反内容、勧告内容が公表され、下請法に違反したことが広く世間に知られることになります。

違反事例を公開している公正取引委員会のホームページがあります。ぜひ参考にしてください。
公正取引委員会違反事例
 

中小企業庁に違反事例を報告すると、自社が報告したことがばれるのではないか

中小企業庁によれば、違反事例の報告があったからといって、すぐに取引記録の調査や立入検査は行わないそうです。こういった報告事例が何件もある企業は、時期を見て取引記録の調査や立入検査を行うそうです。従ってどの下請事業者が報告したか、親事業者にはわからないので報復を受ける可能性は低いです。
 

親事業者のダメージは?

自社の資材調達部門が公正取引委員会の立入検査を受け、下請法違反の指摘を受けて、ホームページで公表されることは、親事業者にとってとても恥ずべきことです。親事業者の経営者から購買部門の部門長が責を受けたり、人事評価に影響が出る可能性もあります。従って彼らに購買部門にとってダメージは小さくありません。(下請法違反を推奨しているような経営者がいれば別ですが。)
 

中小企業、小規模事業者のための価格交渉ハンドブック

法令違反となる取引行為や親事業者とうまく交渉するための価格交渉ノウハウなどを記載したものです。中小企業・小規模事業者が取引条件を改善するための参考となるために作成されました。

下請法にある11項目の禁止行為をより具体的に記載してあります。
 

例 合理的な説明のない価格低減要請

発注者が、自社の予算単価・価格のみを基準として、通常支払われる対価に比べ著しく低い取引価格を不当に定めることは下請法違反になります。 

例 (抜粋)

  • 不況時や為替変動時に、協力依頼として大幅な価格低減を要求
  • 品質が異なる安価な海外製品を引き合いに出して、取引価格引き下げを要求
  • 発注者は改善等の協力が全くないのに、受注者の努力によるコスト削減効果を一方的に取引対価へ反映させる

 

例 原材料価格、エネルギーコスト、労務費などの上昇の取引価格への反映

原材料価格、エネルギーコスト、労務費などの上昇や、環境や安全面での規制対応に伴うコスト増であるにもかかわらず、不当に従来の取引価格で納入させた場合、下請法や独占禁止法に違反するおそれがあります。
 

例 (抜粋)

  • 自社の企業努力では吸収しきれないコスト増分の転嫁を発注者に求めたにもかかわらず、取引価格が据え置かれている

 

例 大量発注を前提とした単価設定

大量発注を前提とした見積りに基づいて取引単価を設定したにもかかわらず、見積り時よりも少ない数量を見積り時の予定単価で発注することは、下請法や独占禁止法に違反するおそれがあります。
 

例 合理的な理由のない指値発注

合理的な説明をせずに、通常支払われる対価に比べ著しく低い取引価格を不当に定めることは、下請法や独占禁止法に違反するおそれがあります。
 

例 発注者が負担すべきコストの受注者負担

発注者の都合で取引条件が変更され、それに伴いコストの増加が生じたにもかかわらず、受注者にそのコストを不当に負担させることは、下請法や独占禁止法に違反するおそれがあります。
 

例 (抜粋)

  • 発注者の都合により、一括納品から分割納品へ変更し、製品の運賃負担が増したにもかかわらず、従来と同様の下請代金

 

例 事後的な仕様変更・工程追加に要する費用の受注者負担

発注者が、自己の都合で発注内容を変更したにもかかわらず、当該発注内容の変更のために受注者が要した費用を全額負担しないなど、受注者の利益を不当に害することは、下請法や独占禁止法に違反するおそれが
 

価格交渉3つのポイント

そこで中小企業が望ましい取引を行うための価格交渉のノウハウとして、以下の3つのポイントを記載されています。
 

価格根拠を上手に伝える

コストに関する客観的なデータを提示します。

原材料価格、エネルギーコスト、労務費などの値上がりに伴うコストの上昇分を価格に転嫁し、合理的な製品価格を設定します。
品質や返品の対応などの条件を加味し、品質に応じた対価を保証されるようにします。
 

取引条件に関するルールを決める

不利な条件下で取引が行われないよう、取引条件に関するルールを策定し、価格設定方法などについて発注者側と合意を取っておきます。
 

  • 原材料価格、エネルギーコスト、労務費などの値上がりに伴うコストの上昇分を価格に転嫁し、合理的な製品価格を設定する
  • 不況時や為替変動時において、一時的に引き下げた取引価格を元の価格に戻す
  • 見積価格の前提となる発注数量を明確にし、発注数量が一定水準以上変動した場合は、単価を再設定する旨を見積書に記載する
  • 製品の運送経費について、発着地・納入頻度(回数)などを明確に提示した上で、発注者が負担する輸送料率をあらかじめ見積書に記載する

 

取り決めたルールや交渉経緯を書面に残す

取引条件に関するルールを発注者と取り決めた際には、 その「日時」「場所」「担当者(自社・取引先双方)」「方法(対面・電話など)」を書面(議事録など)に記載します。
 

以上、中小企業、小規模事業者のための価格交渉ハンドブックより抜粋しました。

この「中小企業、小規模事業者のための価格交渉ハンドブック」は、下請事業者が事前に交渉場面で言われることを理解し対応策を立てるために作成されました。経営コラム「中小企業の原価計算と見積 値上げ交渉のポイント1 顧客の弱点とは?」でも述べたように、交渉を有利に進めるために事前のリハーサルは重要です。こういったハンドブックを活用して交渉のリハーサルを行うことをお勧めします。
 

下請適正取引等の推進のためのガイドライン

以下の19の分野について、それぞれ具体的なガイドライン(pdf)が無料で公開されています。

表 ガイドラインの19分野


 

以下にガイドラインの一部から紹介します。
 

自動車産業適正取引ガイドライン

問題となる事例~自動車産業~

原材料価格、エネルギーコスト、労務費等の価格転嫁

原材料価格、エネルギーコスト(燃料費、電気料金)、労務費等の値上がりや、環境保護等のための規制強化に伴うコスト増が取引先から認められず、従来の価格の納入を要求される事例を紹介します。
 

下請事業者は、電気・ガス料金の上昇が企業努力で吸収できる範囲を超えたので、その上昇分値上げしたいと発注先に求めても「自社の納入先が転嫁を認めない」、「前例がない」、「他社からはそのような相談がない」、「1社を認めると他も認めなければならない」、「値上げ分は定期コストダウンと相殺する」などの理由を挙げて価格を据え置かれてしまいました。
 

これに対しガイドラインでは、望ましい取引慣行として、

  • 原材料価格、エネルギーコスト(燃料費、電気料金)、労務費等の値上がりや、環境保護等のための規制の強化に伴うコスト増のため、今後の価格の動向も踏まえて、明確な算出根拠を基に、製品単価は合理的に設定することが望ましい
  • 算定方法は、双方が十分に協議を行い、あらかじめ合意するのが望ましい
  • 合意がない項目は、外的要因によるコスト増加が「経営努力の範囲内で対応可能なものであるか慎重に検討し」、経営努力を超えるものは、適切に転嫁できるように発注先、受注先で十分に協議を行うことが望ましい

などの対応が提示されています。
 

一方的な原価低減率の提示

「○年後までに製品コスト○%減」という自動車メーカーとの協議を経て定めた自己の目標を循に、発注先の一次部材メーカー(ティア1)は、半年毎に加工費の○%の原価低減を要求し、受注先の下請事業者と十分な協議をすることなく、一方的に発注価格を決定しました。
(現実には発注価格の決定は、双方の合意の元にされていますが、この価格でなければ転注するといわれ、受け入れざるえない状況なってしまうため、ガイドラインに抵触したと言い難いのですが。)
 

上記の望ましい取引慣行として、以下が提示されています。

  • 発注価格は、品質や返品の対応などの条件を加味し、発注先、受注先が十分に協議を行い、合理的な価格を設定することが望ましい

 

他にも様々な問題事例と国の考える望ましい姿が示されているため、自動車部品以外の企業も一読することをお勧めします。
 

食品製造業・小売業の適正取引推進ガイドライン

食品製造業や小売業には、小規模な事業者も多く、その多くは地域での商品の提供や雇用を担っています。一方、長年の取引慣行という理由で、法令違反のおそれのある取引を行っている例もあり、ガイドラインは、日配品で日持ちがせず、特売の対象になりやすい豆腐・油揚製造業を対象に実態調査を行いました。
それを元に問題となる取引事例と望ましい取引慣行をガイドラインにまとめました。
 

問題となり得る事例~豆腐・油揚製造業~

包材(フィルム等)の費用負担

小売業者側が数か月先までの分のPB商品の製造を委託し、これを踏まえて製造業者が発注を受けた数量分の包装フィルムを一括で購入したものの、当該PB商品の販売不振により小売業者から突然発注の一部取消しを告げられました。残存分のフィルムについては再利用の見込みもないため、製造業者から小売業者に対してフィルムの購入に要した費用を含む製造業者が要した費用の負担を求めましたが、受け入れてもらえませんでした。

委託事業者が受託事業者に対して、受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、受託事業者が要した費用を負担することなく発注を取り消すことは、下請法第4条第2項第4号
の「不当な給付内容の変更及び不当なやり直し」に該当するおそれがあります。
 

上記の望ましい取引慣行として、以下が提示されています。

  • 小売業者が、使用予定の包材(フィルム等)の一括調達を含む発注を行っていたのであれば、当該包材の費用は、製造業者が印刷業者等へ発注又は購入を行った時点で速やかに製造業者へ一括して支払われることが望ましい

 

原材料価格や労務費の上昇時の取引価格改定

問題となり得る事例には以下のようなものがあります。

  • 平均価格の数十%以上もの大幅な原材料価格高騰に当たり、資料を基に値上げ要請をしたが、販売価格を一方的に据え置かれた
  • 小売業者の要望により、商品の仕様において割安な輸入品から国産品に原材料が変更になったものの、価格は一方的に据え置かれた
  • 急な発注量の増加に対応するため深夜操業を余儀なくされ、コストが上昇したが、それが適切に反映されない価格を一方的に押しつけられた

 

ガイドラインを武器として活用

このように下請適正取引等の推進のためのガイドラインは、それぞれの業界において、問題となる取引事例や望ましい取引慣行などが具体的に書かれています。
発注する側、受注する側のいずれも自社の業界の下請適正取引等の推進のためのガイドラインを読んでおくことをお勧めします。
 

実際はガイドラインに違反したからといって下請法のように強制的な指導や勧告があるわけではありませんが、顧客との交渉の場面でガイドラインに違反していることをやんわりと指摘して、交渉を有利に持っていく道具にはなります。
 

多くの場合、値上げを認めず、一層のコストダウンを強要するのは、取引先の方針以外に取引先の担当者の資質によるものが大きいからです。彼らにとって低い価格で発注できれば自分の成績になる反面、自分が起因となって下請法違反で会社が立ち入り検査を受ける事態になれば大きなダメージを受けます。実際の交渉場面では、これまでの事例にあるような好ましくないケースがあるかもしれません。

下請事業者は、こういったガイドラインやハンドブックを勉強しておけば、交渉場面でこれは「好ましくないケース」に該当し下請法に違反する可能性があることをやんわりと指摘することで、交渉を有利にできる可能性があります。
 

一方、ガイドラインでも指摘しているように、原材料や人件費の上昇を取引価格に転嫁するためには、具体的にどれだけ上昇したのか、金額で示す必要があります。

そのためには個別原価の仕組みが不可欠です。
 

こういった製造業の値上げ金額の計算と値上げ交渉のポイントについては下記リンクを参照願います。

 

他にも製造業の原価計算の考え方と見積、損失の見える化については下記リンクを参照願います。

 
 

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製造業の個別原価計算 36 値上げ交渉のポイントと進め方 https://ilink-corp.co.jp/7735.html https://ilink-corp.co.jp/7735.html#respond Fri, 29 Apr 2022 01:42:13 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=7735 No related posts. ]]> 「中小企業の原価計算と見積 原材料、人件費の上昇と製造原価への影響」で述べたように、原材料や光熱費の上昇は、利益を大きく減少させます。利益の出ない低い価格を強要され、設備の更新や採用ができず、廃業する企業もあります。
 

従って企業が存続するためには値上げは不可欠です。

しかし値上げを要請しても顧客は値上げをなかなか受け入れてくれません。
 

どうすれば値上げ交渉がうまくいくのでしょうか?

値上げ交渉に必要なポイントについて説明します。
 

顧客の窓口(購買部)の問題

値上げ交渉をする相手は、多くの場合顧客の購買担当です。彼らは、工場が使用する原材料や部品を適切なQCD(品質、価格、納期)で購入するのが仕事です。
 

仕様の決定権がない

ところが購入するものの仕様を決めるのは彼らではないことも多いです。設計など技術が決めます。そのため購買担当が品質について細かく関与できない、その結果、調達する部品の仕様や作り方もよくわからないことがあります。

本来はより良いものを適正な価格で購入しようとすれば、仕様まで踏み込んで議論しなければなりません。なぜなら仕様が変われば価格も大きく変わるからです。
 

そしてどうしても価格を下げたければ仕様を見直す必要がありますが、購買の担当者は仕様に関し決定権がないため、仕様の見直しはその都度技術部門にお伺いを立てなければなりません。

その結果、彼らが重視するのは価格と納期(あるいは供給能力)です。その結果、どうしても相見積をとってできるだけ価格を下げようとします。
 

適正価格に対する誤解

相見積をとれば一番低い価格がわかり、それが適正価格という誤解があります。
 

しかし製造業は固定費の比率の高い業種です。例えばその顧客の下請け(以降、協力会社と呼びます。)のグループをサプライチェーンと呼び、そのサプライチェーン内で閑散期にある企業は工場の稼働率を上げるために赤字でも受注します。そのサプライチェーンの中で、時期によりそれぞれ別の会社が閑散期に入り、赤字受注をすれば、実績価格は赤字価格ばかりになります。あるいはそのサプライチェーンに新たな企業が参入する場合、とにかく取引をしたいので通常よりも低い価格を提示することがあります。

図1 繁忙状況により変わる受注金額

図1 繁忙状況により変わる受注金額


 

顧客は過去に実績があるのだからできるはずと考えますが、その実績価格が本当に利益を含んだ価格なのか、赤字受注価格なのか、そこまでは顧客はわかりません。
 

コストテーブルを基準とする問題

購買担当は見積が適正かどうか、見積査定を行います。現場の経験が豊富な購買担当者は図面を見ればおよその価格を推定できます。

しかし現場経験のない購買担当者は図面を見ても、どのように工程で製造されるのかわからず、価格は想像できません。そこでその部品の大きさ、重量などの特徴と過去の実績価格と相関があれば、大きさや重量から見積価格を計算することができます。これがコストテーブルです。

図2 コストテーブルが合わない範囲の例

図2 コストテーブルが合わない範囲の例


 

コストテーブルのパラメーターには、長さや面積、体積、重量、部品点数など様々なものがあります。顧客の中にはこのコストテーブルを重視し、適切にコストテーブルを作成すれば確実に見積査定はできると考える人もいます。
 

コストテーブルは代替特性

しかしコストテーブルは、あくまでその部品や製品の代表特性から価格を推定するツールです。代表特性と価格との相関がなくなる場合は、適正な価格はわかりません。

例えば鋳物は重量(kg単価)がコストテーブルとしてよく使われます。しかし大型で薄肉の鋳物は、手間がかかる割に重量が少ないため、kg単価で計算すれば価格が合わなくなります。(私も前職で非常に薄肉の鋳物を設計したことがありますが、値段が合わないと協力会社の人から泣かれました。)
 

メンテナンスの問題

また実績価格は年々変化します。加工方法や加工機械も進歩します。そのためコストテーブルは常にメンテナンスが必要です。しかしできるだけ正確な良いものを作ろうと担当者が頑張ってつくったコストテーブルほど、内容が複雑でメンテナンスに手間がかかり、担当者が移動すると誰も引き継げず、形骸化します。
 

また実績価格が曲者で、前述のように閑散期のため仕方なく赤字で受注した場合、他の利益の高い製品と抱き合わせで受注するので赤字で受注した場合があれば、実績価格は赤字価格が並んでしまいます。
 

自動見積の誤解

一方、この見積査定に時間がかかるため、これを人工知能(AI)で行う動きがあります。生産財メーカーのミスミは3Dデータを送れば、AIが自動的に見積を行い、無料で金額を教えてくれるサービス「メビー」を提供しています。

これによりある部品の価格は、形状が決まれば必然的に決まると考える人が増えるかもしれません。
 

会社が違えば原価は変わる

実際は同じ形状の部品でも、工場によって加工物のセットの仕方、刃物の選定で原価は違います。加工時間も異なり同じ価格にはなりません。
 

ただし多品種少量生産や単品生産では、へたをすると加工時間より見積時間の方が長くなってしまうため、多少甘めの見積でも短時間に計算できれば、その方が経済的にもメリットがあります。ミスミは元々金型部品など多品種少量生産や単品部品の製造から始まったため、そのような考え方になったと思われます。

(前職で治具を設計した時も、1個だけ作るのであれば、わざわざ図面を書いて発注するよりも、ミスミの標準部品を使用した方が安かった経験があります。ただし量産する製品は施策の際はミスミを使用しても、利用さんに入るとすべて見積を取りなおしていました。)
 

従って、多品種少量生産や単品生産では、「メビー」の価格参考になりますが、量産部品の場合は個別に見積を取った方がより低い価格になると思います。
 

大企業の中小企業経営に対する理解不足

現在、中小企業も損失や環境マネジメントシステムの管理や気密情報管理など様々な間接業務があり、製造以外の人員が増えています。これは製造間接費や販管費が増加しています。しかし顧客の見積査定の販管費や利益が低く、中小企業の経営の実態と合わないという問題があります。

図3 中小企業の販管費と利益

図3 中小企業の販管費と利益


 

私がこれまで多くの中小企業の決算を見たところ、製造業の販管費は製造原価に対して15~30%でした。つまり製造原価が1,000円の場合、販管費として150~300円を乗せなければ赤字になってしまいます。
 

また中小企業は売上規模が低いため、必要な利益を確保しようとすれば、利益率も高めになります。例えば、売上高2億円の場合、利益率10%でも営業利益2,000万円、そこから借入金の利息など営業外費用を引いて経常利益が1,500万円だったとします。そこから法人税を引いた残りの金額から、借入金の返済を行います。そう考えれば10%の利益率は決して高すぎないことがわかります。
 

対して顧客が大企業の場合、顧客の利益率はそこまで高くないことがあります。そうなると協力会社が製造原価に必要な販管費や利益を加えた場合、その見積は販管費や利益が多すぎるということになってしまいます。
 

実は顧客は正しい原価がわかっていない

またこういった誤解の原因のひとつに顧客の大企業が、原価を工場の製造原価しか見ていない場合もあります。顧客が事業部制をとっていて、事業部間、工場間で内製加工部品を取引する場合、そこには販管費(この場合本社経費)を入れません。ですから工場原価1,000円の部品は1,000円でできると購買担当は考えてしまいます。
 

しかし本社費用が40%発生していれば、1,000円の部品を社外に販売する場合は、1,400円にする必要があります。そして協力会社から購入する価格は、自社でいえば本社費用を含んだ1,400円なのです。

図4 事業部内取引と外販の違い

図4 事業部内取引と外販の違い


 

見積を作文せざるを得ない

こうした条件があるため、協力会社が取引先に出す見積は、本当の販管費や利益が書けません。しかし顧客の要求する販管費や利益では赤字になってしまうため、製造原価を作文(水増し)せざるを得ません。

図5 見積書と実際の製造原価

図5 見積書と実際の製造原価


 

これが価格交渉やコストダウンの打ち合わせで本当の工程、製造時間が言えない原因になります。
 

本来は「いくら販管費が必要なのか」、「いくら利益を取るのか確保するのか」は、協力会社の経営の問題です。購買担当はそこには踏み込まず、製造工程についてはオープンに話し合い「いかに少ない時間で製造できるか」そこに両者が協力すべきだと思うのですが。
 

コストダウンの誤解

最初は製造に時間がかかっていても経験を重ねるにつれて製造時間が短縮される現象を「経験曲線」と呼ばれます。量産メーカーによっては、最初は赤字でも生産を継続する間にコストが下がり利益が出るようになります。

図6 経験曲線

図6 経験曲線


 

例えばソニーが初めてトランジスタラジオを販売したとき、トランジスタを量産するメーカーはまだなく、ソニー自らトランジスタを量産しました。当初の歩留まりは非常に悪かったのですが、歩留まりが3%(100個中97個が不良)になったとき、社長の井深大氏は量産にGOサインを出しました。3%まで上がれば、後はどんどん良くできると直感したからです。
 

つまり新しい工法、製造プロセスは経験曲線が働き、製造している間にコストが下がります。多くのメーカーが協力会社に対し、定期的な値下げを要求するのは、生産している間に経験曲線、あるいは改善により製造時間を短縮し、コストダウンを図ることを要求しているからです。
 

しかしこれまでと同じ作り方の部品の場合、これまでさんざん改善を行ってきたため、改善できる余地はあまりありません。つまり定期的な値下げを要求された場合、改善によるコストダウンでなく、実質的な値下げになってしまいます。

こういった背景の中、顧客に対し値上げ交渉を行うのは容易ではありません。
 

価格交渉のポイント

値上げ幅の決定

まず計画を立てます。
重要なのは、これまでに上昇した価格分だけでよいのか、今回値上げした後、次回の値上げ交渉がいつになるかです。

それが1年後であれば、今後1年間の原材料価格の上昇分を見込んで値上げしなければ、これから原材料価格が上昇するとまた利益が減ってしまいます。

図7 値上げ金額の決定

図7 値上げ金額の決定


 

また原材料価格の上昇や製造費用が上昇すれば、販管費も比例して高くなります。ただし製造原価が上昇したため販管費も高くなるということは顧客からはなかなか理解が得られません。その場合販管費の上昇分製造原価を水増しするか、今回は実際に増加した分のみ価格を改定し、販管費の増加分は断念するか、この方針も必要です。

図8 販管費の値上げの問題

図8 販管費の値上げの問題


 

対象製品の決定

また値上げする対象製品を選定します。値上げすると場合によっては顧客はほかの協力会社に転注するリスクがあります。転注された結果、売上が大きく下がれば経営に大きなダメージを与えます。

表 値上げする製品の選定
表 値上げする製品の選定
 

この表からA3製品は赤字額が大きく、限界利益の合計は少ないため、値上げした結果失注しても経営のインパクトは少ないため、A3製品を優先して値上げします。
また顧客によっても対応が変わります。そういった点を考えて、最初にどの顧客のどの製品から値上げするのか、その顧客の製品はどれだけ値上げするのか、計画を立てます。
 

値上げのステップ

値上げは顧客にとっても大きな影響があるため、いきなり文書を提出したりせず、最初は顧客の担当者に何度か口頭で伝えます。その上で値上げの根拠と金額を明記した文書をつくり渡します。顧客の中でも値上げについては様々な人が関係するため、いちいち担当者が説明しなくてよいように文書を渡します。また回答については期限を切ってお願いします。
 

  1. 口頭で意思を伝える
  2. 値上げの文章を作成
  3. 回答期限を切って渡す
  4. 回答を求める

 

競合の情報収集

顧客は自社の値上げを受け入れない場合、他にどんな選択肢があるのか、競合の情報を収集します。競合は値上げをするのか、そもそも競合の価格は安いのか、品質や供給能力に問題はないのか、情報を収集し、転注のリスクを調べます。
 

一般的に品質、コスト、納期(供給能力)のいずれも競合よりも上回っている企業は多くありません。価格が安くても品質に問題があったり、供給能力に問題があったりします。したがって顧客はコストを優先して品質に問題がある企業に発注するか、品質を重視してコストが少し高い企業に発注するか悩むことになります。

図9 競合の情報

図9 競合の情報


 

実際は品質で大きな問題が起きれば、部品が少しぐらい安くその結果増えた利益は、品質問題に対策する費用で吹き飛んでしまいます。自動車では品質問題が原因でリコールになればさらに多額の費用が掛かります。
 

転注も含めて変更は大変

多くの製品は開発から発売に至るまでに、多くの試験やチェックを行います。そして試験結果を社内で協議し、販売しても大丈夫か審査します。これを設計審査(DR デザインレビュー)と呼びます。機能的に重要な部品は、製造メーカーや材質を変更した場合、品質に問題ないか評価を行います。場合によっては、再度設計審査DR)を行うこともあります。

注) DR(design Review) 設計審査
開発の各段階で設計結果が設計要求を満足していることを確認し、次の段階に進めるかを審査すること

 

あるいは半導体製造装置では、最初に審査。承認した仕様から許可なく変更してはならないという要求(Copy Exactly)というものもあります。そうなると転注や変更そのものが許可されない場合もあります。

図10 商品企画から量産までのプロセスの例

図10 商品企画から量産までのプロセスの例


 

このように顧客の立場で考えれば、転注は非常に手間のかかる作業です。しかも転注すれば品質不良のリスクもあります。そのような背景があれば、値上げの原因は原材料価格の上昇など不可避なもので、値上げ幅も許容できれば値上げを認める可能性があります。
 

価格交渉のポイント1 リハーサル

価格交渉を行う人が百戦錬磨の交渉の経験があればこれは必要ありません。

そうでなければ価格交渉本番の前に自社でリハーサルをすることはとても効果があります。
 

交渉では、価格について妥当性を議論し、双方が満足する解決策を見つけることです。顧客は価格の妥当性に対し様々な質問をします。そして価格を下げるように説得します。それに対し、こちらはその都度合理的な理由を挙げなければなりません。

交渉に慣れていない場合、まず相手の意見や質問を正しく理解し、それに対し適切な反論を考えて、それから説明しなければなりません。しかしとっさに反論が浮かばなければ相手に押し切られてしまいます。
 

そこで事前に社内でリハーサルを行い、自社の社員に顧客の役になってもらい、顧客になりきって様々な要求や質問をしてもらいます。

そうすれば本番では落ち着いて反論できます。交渉で顧客が出すと思われる質問や説得はあらかじめリストアップします。それを相手役の人に顧客になりきって説得してもらいます。
 

表 過去に価格交渉で出た説得

説得 対抗策
品質などでダメ出しする
予算がない
競合は○○で受けると言っている
なぜ安くできないのか、論理的に理由を聞く
御社しか発注しないので、この価格にしてほしい
部長が○円にしろと言っている

 

この方法の良い点は、リストにないことを交渉本番で言われた場合、会社に戻ってからリストに付け加えることができる点です。これを継続すれば、顧客から初めて言われることがなくなります。あらゆる説得が事前にリハーサル済みとなるため、本番では冷静に説明することができます。交渉が不慣れな社員でも、リハーサルを行うことで優秀な交渉担当者と同等の働きができるようになります。
 

価格交渉のポイント2 代案の提示

価格交渉のもう一つのポイントは、価格以外の解決策(代案)を提示することです。価格だけを焦点として交渉すれば、その価格を受け入れるか、受け入れないかの二者択一になります。値上げを受け入れることは、顧客にとっては相手に説得された「敗北」です。しかしそこで値上げ以外の選択肢、代案が示されれば、顧客にとって交渉は説得から選択に変わります。

図11 代案の効果

図11 代案の効果


 

例えば

  • 厳しすぎる品質基準を緩和する
  • より低コストで製造できる工程に変えてもらう
  • 原材料を支給してもらう、あるいは支給から自社調達に代えてもらう

などです。この場合、代案はコストが下がるような具体的な提案が必要です。
 

具体的な数字で示す

歩留まりが向上すれば原価はどれだけ下がるのか、工程を変更することで原価どれだけ下がるのか、具体的な数字で示す必要があります。
 

そのためにも個別原価の仕組みが必要です。

この下請事業者が低い価格を強要される問題は、国も問題視していて経済産業省が様々な資料を提供しています。

また下請代金支払遅延等防止法(通称 下請法)は、下請け業者が「支払の遅延」や「代金の引き下げ」といった不利益を被った場合、禁止行為や罰則が定められています。
 

こういった製造業の値上げ金額の計算と値上げ交渉のポイントについては下記リンクを参照願います。

 

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https://ilink-corp.co.jp/7735.html/feed 0
製造業の個別原価計算 35 原材料、人件費の上昇と原価への影響 https://ilink-corp.co.jp/7717.html https://ilink-corp.co.jp/7717.html#respond Wed, 27 Apr 2022 03:12:10 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=7717 No related posts. ]]> 原材料や人件費など製造業の原価は、近年上昇しています。
鋼材など資源やエネルギーが世界経済の成長に伴い需要が増加し、それに対し供給が不足し価格が上昇するからです。石油のように産油国の供給調整と投機マネーの流入のため価格が大きく変動するものもあります。
 

1年間では大幅な上昇

その結果、鋼材価格は下図に示すように1年間で40%も上昇しました。

図1 鋼材価格の推移

図1 鋼材価格の推移


 

原油価格は1バレル116ドルと2008年以来の高値になりました。一方、長期的な傾向を見ても、2005年以降1バレル25ドルを切ることはほとんどなくなりました。つまり以前のような価格は期待できそうにありません。

図2 原油価格の推移

図2 原油価格の推移


 

木材は海外の旺盛な需要のため相場が上昇し、日本が買い負けし入手不足になる「ウッドショック」が起きました。
 

人件費も国の最低賃金の引き上げに伴い上昇しています。

最低賃金は10年間で26%上昇しました。
図3 愛知県の最低賃金の推移

図3 愛知県の最低賃金の推移

このような原料、光熱費、人件費の上昇は製造原価を引き上げます。その結果、まず自社が使用している原材料や包材などの資材価格が上昇しています。加えてコロナ渦のため世界中の工場の稼働が低下し供給不足が生じました。供給不足は半導体や電子機器だけでなく、電線やコネクタのようなものまで入手困難になりました。
 

こうなると価格が高くても手に入るだけましとなってしまいます。そして高い価格で買わざるを得ません。
 

値上げを認めない会社があると

これがサプライチェーン全体に大きな影響を及ぼしています。図のように最初に原料や資材の価格が上昇します。これは2次下請けの製品の原価を上昇させます。その結果、2次下請けメーカーは値上げをしなければ採算が取れません。2次下請けメーカーが値上げすれば、次は1次下請けメーカーと順次価格は上昇するはずです。
 

しかし1次下請けメーカーと2次下請けメーカーの間に強い支配関係があり、

2次下請けメーカーの値上げを1次下請けメーカーが認めなければ、2次下請けメーカーの経営は苦しくなります。

図4 サプライチェーンでの値上げ


 

部品メーカーと最終商品メーカーの違い

この原材料価格の上昇と値上げの関係は、部品メーカーと最終商品メーカーでは違います。
なぜなら

最終商品メーカーの場合は、自社が値上げしても競合が値上げしなければ、販売量が減少し市場シェアを落としてしまうからです。

食料品や日用品など消費者が価格に敏感な商品で、この傾向は顕著に出ます。

逆に販売量を落とすより、たとえ原価の上昇により1個の利益が少なくなっても販売量が維持できれば、結果的に全体の利益の減少は抑えることができます。
 

販売量の維持を優先

マスコミは

「企業努力で値上げを吸収しきれず食料品や日用品が値上げ」

と報道します。実際はシェアを維持するために利益率の低下を我慢してきた企業が、耐えられず値上げしたのが正解で、企業努力で値上げを吸収できていたわけではありません。

この「企業努力で値上げを吸収」の誤解が、中小企業が取引先に値上げを要求しても受け入れられない原因の一つです。

 

部品メーカーの販売量は発注先の需要で決まる

最終商品メーカーと異なり、下請けの部品メーカーは高い市場シェアがあるわけでないため、値上げをしなければ会社全体の利益が減少します。しかも元々利益率が低い場合が多く、原材料費の上昇は利益を圧迫します。
 

この原価と利益の関係は下図のようになっています。
ここでは架空のモデル企業として「金属切削加工A社」を想定します。
 

原価と利益の関係

このA社のA1製品を例に、原価と利益の関係を説明します。

図5 製造原価の構成

図5 製造原価の構成


 

製造費用

A1製品は材料費300円、製造費用545円、従って製造原価は845円でした。

内訳
マシニングセンタ加工 段取時間1時間 加工時間0.1時間 ロット100個
アワーレート(人) 3,295円/時間 アワーレート(設備) 1,657円/時間
人の製造費用 363円 設備の製造費用 182円 合計545円

製造費用545円には、作業者の人件費や生産に使われた設備の費用、他に間接部門の人件費や工場の製造経費が含まれます。
 

販管費

他に工場には、製造原価以外の事務職や営業担当の人件費など「販売費および一般管理費(以降 販管費)」もあります。
この販管費は製造原価に一定の比率をかけて計算します。
A1製品の販管費は150円でした。

従ってA1製品を製造するのにかかった費用は、
製造原価845円に販管費150円を加えた995円です。
 

もし1,080円で受注した場合、
利益は1,080円から995円を引いた
85円です。
 

値下げは利益が大幅に減少

つまりA1製品を納入して入ってくるお金1,080円のうち、
995円は実際にかかった費用です。

利益として残るお金は85円しかありません。

顧客が発注価格を1,040円に下げれば、
利益は約半分の45円になってしまいます。
 

小売業と製造業で異なる販管費の考え方

ただし販管費の考え方は、小売業と製造業(特に部品メーカー)は異なります。
 

小売業は先に挙げた最終商品メーカーと同様、
価格を下げれば販売量が大きく増やすことができます。
従って製造業のように原価の一定の比率を販管費と考えるよりも、
会社全体の粗利(売価から仕入金額引いた金額)の合計金額で考えます。
粗利の合計が販管費を上回れば、利益が出るからです。
 

しかし製造業は工場の生産能力で生産量が決まってしまいます。しかも部品メーカーは価格を下げても受注量は大きく増えません。従ってどの製品も一定の比率で販管費が含まれていると考え、それでも利益が出るような価格で受注します。
 

材料など費用の上昇による原価への影響

材料価格の上昇

このA1製品で材料費が20%上昇し360円になったとします。

図6 材料費が上がった場合

図6 材料費が上がった場合


 

その結果、製造原価も60円増加し
905円になります。
販管費も製造原価に比例するので、
10円増加します。
 

その結果、製造費用合計は1,065円になります。

受注価格が1,080円であれば、80円の利益が15円と、大幅に減少します。
 

材料費以外の費用の増加はわかりにくい

このように材料費の上昇は、材料費が単独の費目となっているためわかりやすいです。

しかし人件費や光熱費は製造費用の一部になっています。人件費がいくら増加したら、製造原価がどれだけ増加するか、簡単に分かりません。
 

これを計算するには、製造原価に個々の人件費や光熱費を組み込んだ個別原価の仕組みが必要です。

同様に製品を顧客に配送する輸送費が上昇した場合も、販管費に輸送費を個別に組み込んだ仕組みが必要です。

図7 費用の増加と原価への影響

図7 費用の増加と原価への影響


 

利益まっくすの活用~利益まっくすは人件費や光熱費の上昇でアワーレートが変わる

弊社の個別原価計算の仕組み「利益まっくす」は、決算書の労務費、製造経費からアワーレートを計算し個別原価を計算する仕組みです。
そのため決算書の労務費や光熱費が上昇した場合も個々の製品の製造原価がどれだけ上昇したのか簡単に計算できます。
 

切削加工 A社の例

そこでA1製品を例に、人件費、電気代、輸送費が上昇した場合の原価を示します。
 

A1製品の製造費用は以下のように計算しました。
ここでアワーレート(人)、アワーレート(設備)は、間接部門の人件費や工場の製造経費が含まれています。

マシニングセンタ加工 段取時間1時間 加工時間0.1時間 ロット100個
アワーレート(人) 3,295円/時間 アワーレート(設備) 1,657円/時間
人の製造費用 363円 設備の製造費用 182円 合計545円
 

人件費が3%上昇

人件費が3%上昇した場合、A社の人件費は年間で537万円増加しました。
 

その結果、アワーレート(人)、アワーレート(設備)は以下のように増加しました。
アワーレート(人) 3,382円/時間(+87円/時間) 
アワーレート(設備) 1,668円/時間 (+11円/時間)
 

その結果、製造費用は
人の製造費用 372円 設備の製造費用 183円 合計555円(+10円)
10円増加しました。

販管費は151円、1円増加し、合わせて11円増加しました。
元々85円だった利益は74円、11円減少しました。

図8 人件費3%増加による原価の影響

図8 人件費3%増加による原価の影響


 

会社全体で人件費3%の上昇は、A1製品では11円の原価の上昇です。11円はそれほど大きくないように見えるかもしれません。しかし11円値上げしなければ、年間では537万円もの利益を失います。
 

電気代が20%増加

同様に電気代が20%上昇した場合、A社は260万円年間で費用が増加しました。
 

A1製品を製造する設備の電気代(ランニングコスト)も増加し、アワーレート(設備)は上昇します。またそれ以外の工場で使用する電気代も増加するため、工場の製造経費(間接費用)も増加します。その結果、アワーレート(人)、アワーレート(設備)は
アワーレート(人) 3,310円/時間(+15円/時間) 
アワーレート(設備) 1,692円/時間 (+35円/時間)
 

その結果、製造費用は
人の製造費用 364円 設備の製造費用 186円 合計550円(+5円)
5円増加しました。

販管費は150円と変わらず、費用の増加は5円でした。

図9 電気代20%増加による原価の影響

図9 電気代20%増加による原価の影響


 

5円は低い金額ですが5円値上げしなければ、年間で260万円の利益がなくなってしまいます。

このように人件費や光熱費の上昇は個々の製品の原価で見ればわずかな金額です。しかしこのわずかな金額を値上げしなければ、工場全体では年間で大きな利益を失います。
 

輸送費が上昇した場合

一方輸送費は、製品毎に計算していないこともあります。また発送も、場合によってチャーター便だったり混載便だったりします。あるいは自社で輸送する場合もあります。

この場合、まず仮に条件をチャーター便、あるいは混載便と決めます。その条件で1個当たりの輸送費を下図のように計算します。

図10 製品1個の運賃の計算

図10 製品1個の運賃の計算


 

チャーター代が4万円→6万円と50%上昇した場合
1個当たりの運賃40円→60円 (+20円)
 

見積で輸送費は販管費の中にまとめて記載しないで、輸送費だけ別の項目で記載します。そうしておけば輸送費が上昇したとき、値上げ交渉が容易になります。

自社で輸送する場合は、社内の製造工程と同様に人のアワーレートから人の費用を計算し、トラックの償却費・燃料費と輸送距離から設備の費用を計算します。人の費用と設備の費用から輸送費を計算し、見積に記載します。
 

このように光熱費や輸送費の上昇は、個々の製品では大きな金額ではありません。しかし年間では大きな金額になり、そのため利益は大きく減少します。そのため値上げは不可欠です。

プレス加工や樹脂成形加工は、原価の増加はもっと小さな金額になります。
 

プレス加工B社の例

B社 B1製品で、人件費、電気代、輸送費が上昇した場合の原価を示します。

B1製品の製造費用は以下のように計算しました。
ここでアワーレート(人)、アワーレート(設備)は、間接部門の人件費や工場の製造経費が含まれています。
 

段取時間1時間 加工時間0.8秒 (0.0002時間) ロット3,000個
アワーレート(人) 2,896円/時間 
アワーレート(設備) 段取1,283円/時間 加工1,929円/時間
材料費11.1円
段取費用 0.70円 加工費用 0.43円 合計1.13円
販管費1.45円
受注金額14.5円 利益0.82円

図11 プレス加工B1製品の製造原価と利益

図11 プレス加工B1製品の製造原価と利益


 

人件費が3%上昇

人件費が3%上昇した場合、年間ではB社の人件費は397万円増加します。その結果、アワーレート(人)、アワーレート(設備)は以下のように増加しました。
アワーレート(人) 2,974円/時間(+78円) 
アワーレート(設備) 段取1,307円/時間(+24円/時間) 加工1,963円/時間(+34円/時間)
 

その結果、製造費用は
段取費用 0.71円 加工費用 0.44円 合計1.15円(+0.02円)
0.02円増加しました。販管費は変わらず、費用合計は0.02円増加しました。

図12 人件費3%増加による原価の影響

図12 人件費3%増加による原価の影響


 

人件費3%の上昇はB1製品で見れば、0.02円というわずかな原価の上昇です。しかしこの0.02円値上げしなければ、年間では397万円の利益を失います。
 

電気代が20%増加

同様に電気代が20%上昇した場合、A社は年間で380万円費用が増加しました。

A1製品を製造する設備の電気代(ランニングコスト)も増加し、アワーレート(設備)が上昇します。またそれ以外の工場で使用する電気代も増加するため、工場の製造経費(間接費用)も増加します。その結果、アワーレート(人)、アワーレート(設備)は以下のように増加しました。
 

アワーレート(人) 2,917円/時間(+21円) 
アワーレート(設備) 段取1,314円/時間(+31円/時間) 加工1,981円/時間(+52円/時間)
 

その結果、製造費用は
段取費用 0.71円 加工費用 0.44円 合計1.15円(+0.02円)

従って電気代20%増加によるB1製品の原価の上昇は、人件費3%増加と同じ0.02円でした。
 

樹脂成型加工C社の例

C1製品の製造費用は以下のように計算しました。
ここでアワーレート(人)、アワーレート(設備)は、間接部門の人件費や工場の製造経費が含まれています。
 

段取時間1時間 加工時間60秒 (0.0167時間) ロット3,000個
アワーレート(人) 2,586円/時間 
アワーレート(設備) 段取685円/時間 加工1,021円/時間
材料費30.9円
段取費用 1.09円 加工費用 17.02円 合計18.11円
販管費5.77円
受注金額57円 利益2.22円

図13 樹脂成形加工C1製品の製造原価と利益

図13 樹脂成形加工C1製品の製造原価と利益


 

人件費が3%上昇

人件費が3%上昇した場合、年間ではC社の人件費は397万円増加します。
その結果、アワーレート(人)、アワーレート(設備)は以下のように増加しました。
 

アワーレート(人) 2,659円/時間(+73円) 
アワーレート(設備) 段取696円/時間(+11円/時間) 加工1,038円/時間(+17円/時間)
 

その結果、製造費用は
段取費用 1.12円 加工費用 17.29円 合計18.41円(+0.3円)
0.3円増加しました。販管費は0.03円増加し、費用合計は0.33円増加しました。

図14 人件費3%増加による原価の影響

図14 人件費3%増加による原価の影響


 

人件費3%の上昇はB1製品で見れば、0.33円というわずかな原価の上昇です。しかしこの0.33円値上げしなければ、年間では397万円もの利益を失うのです。
 

電気代が20%増加

同様に電気代が20%上昇した場合、A社は年間で380万円費用が増加しました。

A1製品を製造する設備の電気代(ランニングコスト)も増加し、アワーレート(設備)が上昇します。またそれ以外の工場で使用する電気代も増加するため、工場の製造経費(間接費用)も増加します。その結果、アワーレート(人)、アワーレート(設備)は以下のように増加しました。
 

アワーレート(人) 2,590円/時間(+4円) 
アワーレート(設備) 段取699円/時間(+14円/時間) 加工1,039円/時間(+18円/時間)

段取費用 1.10円 加工費用 17.32円 合計18.42円
 

その結果、製造費用は18.42円、0.31円増加しました。販管費は0.03円増加し、費用合計は0.34円増加しました。
 

値上げができなければ稼ぐ力が徐々に低下

このように計算すれば原材料、光熱費、人件費の上昇による値上げを適切に計算し、顧客に説明できます。
もし値上げをしなければ、こういった原価の上昇は利益の減少となり、企業の稼ぐ力を徐々に奪ってきます。
 

廃業した企業の案件の見積は3倍

昨今製造業の経営者からよく聞くのは、取引先から廃業した会社の製品の製造を依頼されることが増えたことです。受注が増えるのはありがたいことですが、顧客が提示する価格がとても低くて驚くそうです。提示価格の2倍、いや3倍の価格でなければとても受注できないといいます。

図15 廃業した会社の製品の価格

図15 廃業した会社の製品の価格


 

これは廃業された会社がそれまで値上げできず、我慢して生産している間に価格が市場価格からかけ離れてしまったことを示しています。そして値上げできなかったために、必要な利益が得られず設備の更新もできないため、廃業を決断されたものと思われます。
 

値上げを受け入れない取引先

このように原材料や光熱費の価格上昇を算出し、顧客が値上げを受け入れてくれれば問題ありません。しかし多くの場合、「価格引き下げはあっても値上げはとんでもない」と言われてしまいます。

この場合、どうしたらよいのでしょうか?

こういった製造業の値上げ金額の計算と値上げ交渉のポイントについては下記リンクを参照願います。

 

他にも製造業の原価計算の考え方と見積、損失の見える化については下記リンクを参照願います。

 
 

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製造業の個別原価計算 34 標準時間と余裕時間 https://ilink-corp.co.jp/7642.html https://ilink-corp.co.jp/7642.html#respond Wed, 06 Apr 2022 03:18:13 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=7642 No related posts. ]]> ある製品の見積を計算する際、その製品がどれだけの時間で製造できるか、時間の情報が必要です。

これが標準時間です。
 

標準作業と正味時間

大量生産や多品種少量生産でもリピート生産する製品は、作業手順(あるいは加工方法)は決まっています。この決まった手順、つまり標準作業で製造すれば、その時の理想的な時間、つまりあるべき時間が決まります。

これが正味時間です。

つまり正味時間とは、

標準的なスキルの作業者が
作業手順書に決められた作業手順で

作業した時の時間です。(正味時間を主体作業と付帯作業に分ける場合もあります。)

製造工程に段取と加工があれば、それぞれ正味時間があります。

では初めて製造する製品の正味時間はどうやって決めたらよいでしょうか?
 

正味時間の決定方法

正味時間の決め方は以下の5つがあります。

  1. 熟練者の経験でエイヤッと決める方法
  2. 過去の実績、類似製品や作業の結果から類推する方法
  3. 直接時間研究 ストップウォッチなどで直接測定、レイティングで標準速度に補正する方法
  4. PTS法(既定時間標準法 Predetermined Time Standards ) 要素作業に分解してあらかじめ決まった要素作業時間から構成する方法
  5. 標準時間資料法 コストテーブルのように製品のパラメーターから概算する方法、例えば表面積や輪郭長さなどから時間を計算する方法

 

大量生産でひとつの製品を何度も生産する場合は、時間をかけて③あるいは④でできるだけ正確に決めます。

多品種少量生産は、正味時間の決定にそんなに時間をかけられないため、一般的には①か②で行います。この場合、精度はある程度犠牲になります。そこで決めた正味時間に対して、実際の製造時間を記録して比較します。違いが大きければ決め方を修正します。

できれば将来は⑤の方法で、実績時間を元に表面積や輪郭長さなどのパラメーターから時間を算出できるようにすれば、熟練者でなくても正味時間を正しく算出できます。
 

この①~⑤までの方法の中で、④のPTSとはどのような方法でしょうか?
 

PTS法(既定時間標準法 Predetermined Time Standards )

PTS法は標準時間を決める際に、作業を各身体動作に分解します。そして予め決めた身体動作の時間から標準時間を構成します。従って実際に作業をしないので生産開始前でも標準時間を決めることができます。ただしこの方法を活用するには専門の教育を受ける必要があります。
 

PTS法にはWF法、MTM法、MODAPTS法(モダプツ法)などがあり、基準となる作業スピードが違います。作業スピードの目安として歩行スピードを比較すると

WF法1.67m/秒
MTM法1.33m/秒
MODAPTS法1.11m/秒

です。
 

一般的には、

WF法のスピードはかなり速く体力的にも厳しいスピードです。自動車産業などで使われることが多いようです。

MTM法のスピードはWF法ほどきつくなく、組立作業などに使われます。

MODAPTS法は、上記2つと比べるとゆっくりと感じ、正確さ、丁寧さを求められる作業に使われます。
 

標準時間の決め方

標準時間は、正味時間に余裕時間を加えて決めます。

標準時間 = 正味時間 + 余裕時間

余裕時間 : 標準作業以外で発生する作業などの時間
余裕時間は正味時間に余裕率をかけて計算します。
余裕時間 = 正味時間 × 余裕率

余裕率の決め方

実際の時間は突発的な作業や前工程の遅れ、疲れなどで正味時間より長くなります。そこで正味時間に余裕時間を加えて標準時間を決定します。
余裕率は以下の式で計算します。

余裕率 = 作業余裕 + 職場余裕 + 人的余裕 + 疲労余裕

余裕時間の内容と余裕率を下表に示します。
 

作業余裕

余裕率(%) 内容
3~5 必要だが偶発的に
発生する作業
工具交換、
材料補給、調整、
切粉BOXの交換

 

職場余裕

余裕率(%) 内容
3~5 前工程、後工程による手待ち、
遅れ、偶発的なトラブル
手待ち、材料切れ、清掃、
作業指導、やりそこない、
点検、日報記入など

 

人的余裕

余裕率(%) 内容
2~5 生理的欲求に
よるもの
トイレ、水飲み、
汗拭き

 

疲労余裕

余裕率(%) 内容
重作業20~30
中作業10~20
軽作業5~10
疲労による遅れ、
作業量の減少
重筋作業、
高温など環境が悪い場合の
作業スピード低下

 

例えば
正味時間 0.5時間
作業余裕 4%
職場余裕 4%
人的余裕 4%
疲労余裕 8%
の時
 

余裕率 =作業余裕 + 職場余裕 + 人的余裕 + 疲労余裕= 4 + 4 + 4 + 8 = 20 %
余裕時間= 正味時間 × 余裕率 = 0.5 × 0.2 = 0.1時間
標準時間= 正味時間 + 余裕時間 = 0.5 + 0.1 = 0.6時間

 
図1 正味時間と余裕時間

図1 正味時間と余裕時間

標準時間を目標時間としてはいけない

余裕時間の中身、工具交換、材料補給などの作業余裕、手待ち、材料切れなどは、どれも改善すべき時間です。しかし標準時間を目標時間にすれば、作業者は常に目標時間をクリヤできます。

そうなると改善すべき点が見つかりません。

問題を見えるようにして改善を推進するためには、目標時間を正味時間、あるいは正味時間プラスアルファとします。

そして「なぜ目標時間でできないのか?」を追求し改善点を見つけます。
 

この例では、
正味時間0.5時間、余裕時間0.1時間、
標準時間0.6時間
でした。

10個生産する場合、標準時間では6時間です。
しかし6時間は作業者が確実に達成できる時間です。

そこで目標時間を正味時間プラスαとして0.52時間とします。
10個生産する場合は5.2時間です。

実際に生産して達成できなけれ「どうすれば達成できるか」改善すべき点を探します。
 

生産計画、個別原価の時間は確実に達成できる時間

一方、生産計画や個別原価の計算は標準時間を使用します。

もし失敗やトラブルが頻発し標準時間より長くなっていれば、その時間を使用します。そうしないと達成できない生産計画、最初から赤字の見積ができてしまいます。
 

初めて生産する場合、時間は長くかかる

初めて生産する場合、以下の理由から時間は長くなります。

  • 作業に慣れていないため作業速度が低い
  • 効率的な工具や部材の配置になっていないため、時間が長くなる
  • 作業中に想定外の問題が発生する

しかし経験を重ねるにしたがって、時間は短くなります。これを経験曲線と言います。

図2 経験曲線

図2 経験曲線

実際は、赤い曲線のように漸近的に減少せず、増えたり下がったりしながら減少します。
 

作業ペースを作り出す

設備が自動的に製造する現場では、作業スピードの維持はそれほど難しくありません。

あるいは大量生産でベルトコンベアを使用する場合、作業スピードはベルトコンベアの速度で決まります。
 

一方、人が主体となって製造している現場は、作業スピードの維持は人に任されています。そのため時間の経過とともに、その作業者のやりやすいペースになってしまいます。

そこで作業スピードを上げるために、人の前後の工程に設備を入れて設備で強制的に作業ペースを作り出したりします。

あるいは作業の流れを断ち切るような動きがあれば。それを取り除きます。

組立作業の場合、座って作業していると、離れた部材を取りに行くとき、椅子から立ち上がって移動するため、リズムが断ち切れます。また椅子から立ち上がる動作も時間がかかります。これを立ち作業に変えれば、部材を取りに数歩歩くとき作業の流れが中断されず、作業のリズムが生まれます。

担当する現場の作業にきびきびとした動きがない、作業にリズム感がない場合、立ち作業に変えると改善する場合があります。
 

また加工や組立などの作業は標準時間が決められていても、段取時間は標準時間を決めていないことがあります。あるいは見積は標準時間を計算しても、作業者に段取時間の目標値を指示していないこともあります。

しかし目標値がなければ段取時間を短縮しようとする動機が生まれません。現状の段取作業が早いのか、遅いのかもわかりません。

その場合、段取時間の目標値を決めて、作業者に目標値を達成するように意識してもらいます。段取時間は製品の種類が変わっても大きく変わらないため、目標値の設定は比較的容易です。
 

こういった製造業の原価計算の考え方と見積、損失の見える化については下記リンクを参照願います。

 

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製造業の個別原価計算 33 稼働率と可動率 https://ilink-corp.co.jp/7636.html https://ilink-corp.co.jp/7636.html#respond Wed, 06 Apr 2022 01:37:50 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=7636 No related posts. ]]> 製造業は、人も設備も実際に製造している時間だけが「お金を生んでいる時間」です。
下図に示すように朝礼や会議などはどれだけやっても生産量は増えない、つまり「お金を生まない時間」です。

図1 お金を生んでいる時間とお金を生まない時間

図1 お金を生んでいる時間とお金を生まない時間


 

稼働率とは?

図2 稼働率の計算例

図2 稼働率の計算例

稼働率は、就業時間に対するお金を生んでいる時間(稼働時間)の比率です。
図のように1日8時間のうち稼働時間が7時間であれば稼働率は87.5%です。
 

量産工場で、朝礼もなく始業と同時にベルトコンベアが動き出し、終業と同時にベルトコンベアが止まれば稼働率は100%近くになります。それでも生産中のトラブルでベルトコンベアが止まれば、停止時間の分、稼働率は下がります。
 

終業時間中に昼礼や最後の清掃を行ったり、ベルトコンベアがなく主に作業者のペースで仕事をする現場では、稼働率は低くなります。
 

稼働率が高ければ、人や設備がお金を生んでいる時間は多くなり、生産性は高くなります。そして原価は低くなります。そのため大量生産や設備が主体の工場では、稼働率は工場の生産性を図る重要な指標です。
現場の管理者は常に「高い稼働率を維持する」ように努力しています。
 

稼働時間内でも遅れや停止ロスが発生

稼働時間中、設備や人が止まることなく生産できれば良いのですが、実際は設備のトラブルや不良発生、作業者が部材を取りに行ったりするため、生産が中断します。下図の例では、1日でこの中断時間が0.25時間ありました。
 

さらに作業スピードもばらつきがあります。設備は比較的一定のスピードで生産しますが、人は疲れたりするとスピードが落ちます。下図の例ではこのスピードの低下による作業の遅れが0.25時間ありました。

稼働時間から遅れと停止ロスを引いた正味稼働時間は6.5時間でした。

図3 遅れと停止ロスの影響

図3 遅れと停止ロスの影響

その結果、1個の生産時間が0.2時間の製品は、稼働時間7時間の場合35個できる計算ですが、実際はこの遅れと停止ロスのため、1日の生産量は32.5個でした。
この場合の就業時間に対する正味稼働時間の稼働率は81.3%でした。
(ここではこれを仮に稼働率2と呼ぶことにします。)
その結果実際の稼働率は81.3%でした。従って工場の生産性を高めるためには、管理者は稼働時間だけでなく、稼働時間内の遅れや停止ロスも管理しなければなりません。
 

稼働率でなく可動率

一方受注が少なく、1日のうちで4時間分の生産計画しかない場合、下図のように稼働率2は43.8%と大幅に低くなります。そこで管理者は残りの3時間は受注がなくても在庫を生産して稼働率を高めようとします。しかし余分に在庫を生産しても在庫がすぐに売れると限らず、過剰在庫の原因となります。過剰在庫は資金繰りを悪化させ、時には倒産の原因になります。
 

稼働率を管理指標とするとこのような問題が生じるため、稼働率でなく、可動率(べきどうりつ)を管理すべきと言われることがあります。

図4 稼働率と可動率

図4 稼働率と可動率

上図の場合、1日の計画時間(稼働時間)は4時間でした。そのため遅れや停止ロスを考慮した正味稼働時間から計算した稼働率は43.8%でした。
一方計画時間に対する正味稼働時間の比率、可動率は87.5%でした。従って管理者は計画時間内で人や設備が遅れや停止ロスなく生産するように管理し、その日の予定生産量に達すれば、直ちに生産を止めます。
 

可動率100%でもお金を生んでいないことに変わりはない

「現場を管理する」という観点では、これで問題はありません。

しかし可動率100%でも生産していない時間「お金を生んでいない」ことに違いはありません。

人も設備も生産している時間だけがお金を生んでいるのです。従って原価の視点では重要なのは稼働率です。
だからといって売れない製品(在庫)を生産してもお金は増えません。お金を増やすためには、工場の稼働率が高くなるように受注量、あるいは販売量を増やします。つまり工場の稼働率を高めるのは、営業の仕事です。
 

過剰生産は生産管理の問題

現実にはロット生産や多品種少量生産の工場では、どの製品をどけだけ生産するかは生産管理が発行した製造指図書に基づいて行われます。従って現場の管理者が稼働率を上げるために勝手に在庫を生産することはないはずです。(製造指図書を無視して勝手に生産していれば、そのこと自体が大きな問題ですが。)

人や設備が効率よく生産できているか管理する指標として可動率は有効ですが、工場の収益性は稼働率で管理しなければなりません。
 

現場の先食いの問題

ただし部材がすでに出庫され現場にあると、製造指図書が出ていないのに現場が勝手に生産することがあります。特に部分的に組み立てるサブアッシーのような工程は、製造指図書を無視して、サブアッシーを始めてしまいます。
 

作業者にとって苦痛なのは「仕事がない」ことです。でも目の前に出庫された部品があり、これはたぶん来月使うだろうと考えるので、その分を先に作り始めます。これを「先食い」と呼ぶ現場もあります。

あるいは一部の部品の納入が遅れていて生産できない時、できるところまで「先食い」します。作業スピードはゆっくりで後から遅れた部品が入ると、重複作業が発生します。あるいは先食いした部品を使うときは、生産から時間がたっているため、一度検査が必要になったりと余分に手間がかかります。

このように先食いはいいことがないので、受注がなければ手を出さないようにすべきですが、管理者自身が作業者を遊ばせておくことをためらうため、なかなかなくなりません。
 

設備総合効率とは?

稼働率や可動率は遅れや停止ロスを加味した指標です。これに品質も加味したものに設備総合効率(Overall Equipment Effectiveness, OEE)があります。
 

設備総合効率の定義

これは公益社団法人 日本プラントメンテナンス協会によって開発・提唱されたもので、設備が設計上の効率に対して、不良ロスも考慮して実際にどれだけ稼働しているか定量化したものです。以下の指標から計算します。
 

ローディング:就業時間に対する計画時間の比率
性能:設備の遅れを含んだ時間(正味稼働時間1)に対する計画上の時間(正味稼働時間2)の比率
品質:計画上の時間(正味稼働時間2)に対する不良ロスを除いた時間(有効稼働時間)の比率

総合設備効率(OEE) : 計画時間に対す有効稼働時間の比率
(総合設備効率=可動率×性能×品質)
 

設備機器総合有効生産力とは?

設備機器総合有効生産力(Total Effective Equipment Performance、TEEP)
: 就業時間に対する有効稼働時間の比率
(設備機器総合有効生産力=ローディング×OEE)
 

設備がいくら稼働していても不良を大量に生産してしまえば生産性は上がりません。OEEは不良も加味しているため、生産性だけでなく品質も考慮して設備を管理する必要があります。

またいくらOEEが高くても、受注が少なく計画時間が短ければ工場の売上は少なく利益が出ません。そこで計画時間の比率も含めたTEEPを管理することで工場の稼ぐ力を維持するようにします。

図5 正味稼働時間1,2と有効稼働時間

図5 正味稼働時間1,2と有効稼働時間

この例では正味時間1と正味時間2から

遅れ、停止ロス、不良を考慮した設備の効率は90%でした。

ローディングは87.5%なので、設備機器総合有効生産能力(TEEP)は78.7%でした。
 

慣れない場合、設備総合効率はお勧めしない

化学製品などのプラントのように連続生産する設備の評価には設備総合効率はいいかもしれませんが、このような指標に慣れていない場合、個人的にはお勧めしません。
理由は、品質と生産性という異なる指標が一つの指標にまとめられているからです。
品質と生産性が相互に関係してトレードオフになっているような設備は、両方を見ながら管理しなければなりません。
 

実際は品質と生産性は、現場での取り組み方が違います。それを設備総合効率というひとつの指標にしてしまうと、今設備総合効率が低いのは品質が問題なのか、生産性が問題なのか、管理者が混乱するからです。
 

お勧めなのは2つに分けてしまうことです。

原価と生産性 : 稼働率を高く維持する。(ただし余分な在庫は生産しない)
品質 : 不良率を下げる

不良による出来高のマイナス、原価の上昇は、生産計画や原価計算で補正します。
 

量産で重要なライン総合効率とは?

設備総合効率とよく似た指標にライン総合効率があります。
 

工程分割による効率低下

例えば下図のように大量生産の現場で、1個の製品を6台の設備に工程を分割して生産します。加工時間は1台で加工すれば136秒でした。
6台に均等に工程を分割すれば、1台当たり22.67秒です。(製品の着脱時間は無視)
しかしそのように都合よく加工工程を分割できないため、実際は下図のようになりました。

図6 4人の製造ラインの場合

図6 4人の製造ラインの場合

この時、各工程の製品1個の製造時間が各行程のサイクルタイムです。
サイクルタイム
1工程 20秒
2工程 21秒
3工程 22秒
4工程 26秒
5工程 24秒
6工程 23秒
 

この6工程をつないでライン生産した場合、ライン全体のサイクルタイムをタクトタイムと呼びます。
この場合タクトタイムはサイクルタイムの一番長い4工程の26秒になります。
 

それぞれの工程のサイクルタイムの合計136秒に対し、タクトタイム26秒が6工程あるため、ライン全体の製造時間の合計は

26秒×6=156秒

ライン全体の生産効率、つまりライン総合効率は、ライン全体の製造時間の合計156秒に対する、それぞれの工程のサイクルタイムの合計136秒の比率です。
この場合、図に示すようにライン総合効率は88.5%です。
つまり工程分割して製造ラインを構成した場合、各工程のサイクルタイムがすべて一致することはないため、ある程度の効率の低下が生じるということです。
 

ラインバランスの調整

この例では各工程のサイクルタイムは20~26秒なので、各工程のバランス(ラインバランス)を取るためには、4工程の加工内容を3秒減らし、1工程の加工内容を3秒増やします。現実には、3秒だけ加工を増やすのは難しいので、サイクルタイムが短いラインのラインバランスを調整するのは難しいです。
 

これが下図のように3工程ずつ集約し、2台の機械で加工する場合、4工程の加工を5秒分、最初の設備に移動することは比較的やりやすいです。
5秒分1台目の機械に移動した場合、ライン総合効率は図の示すように98.6%に向上します。

図7 2人の製造ラインの場合

図7 2人の製造ラインの場合

 

ライン総合効率も原価

当然ですが、ライン総合効率が88.5%の場合、生産時間の11.5%はお金を生んでいない時間です。従ってライン生産の場合、原価計算に稼働率だけでなく、ライン総合効率も加味する必要があります。
 

こういった製造業の原価計算の考え方と見積、損失の見える化については下記リンクを参照願います。

 

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製造業の個別原価計算 32 人のアワーレート その2 派遣社員、間接作業者と稼働率 https://ilink-corp.co.jp/7564.html https://ilink-corp.co.jp/7564.html#respond Wed, 09 Mar 2022 02:45:45 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=7564 No related posts. ]]> 現場で人が1時間作業した時の費用 アワーレート(人)の計算方法を「中小企業の原価計算と見積  人のアワーレートはいくらなのだろうか?」で説明しました。

ここでは、その続きとして現場の派遣社員、間接作業者の費用と稼働率について説明します。
 

派遣社員や請負外注はどうなるのか?

現場に派遣社員や請負外注もいて、社員と同様に製造を行っていることがあります。
 

決算書の費目が外注費や委託費でも労務費と同等

彼らの費用は決算書では、労務費でなく外注費や委託費など別の費目になっていることがあります。この場合、社員と同様に製造を行っていれば、その現場の費用に含めてアワーレートを計算します。

問題は、社員と異なり就業時間が正確にはわからない場合があることです。また外注費の費目の中に、外注加工費も含まれていて、工場内で作業した請負外注の費用が正確にはわからないこともあります。

原価の視点で見れば、派遣社員も請負外注も社員と同じです。

従って各現場の派遣社員や請負外注の、人件費総額と個々の作業者の就業時間を記録します。できれば社内で作業する請負外注の外注費と、社外へ依頼する外注加工費は、費目を分けておくことをお勧めします。

図1 決算書の費目を分ける

間接作業者の費用

アワーレートを計算するのは、実際に製品を製造する組立作業者や設備のオペレーターのみです。しかし工場には、物流、資材調達、生産管理、受入検査など直接製造には関与しないが工場には不可欠な人たちがします。

彼らの費用はどうなるのでしょうか?
 

現場の間接作業者

機械加工、組立など直接製造する現場でも、製造の前準備をしたり、製造の記録を取ったりといった作業をする人たちがします。彼らは1時間作業しても、その分何か付加価値が生まれるわけではありません。
 

彼らの費用はその現場の間接製造費用とします。

あるいはその現場の管理者が全く現場の作業を行わず、管理業務のみであれば彼もその現場の間接製造費用です。従ってアワーレートの計算式は以下のようになります。

従って、

間接作業者や管理者が増員されれば、その現場のアワーレートは高くなります。

A社 現場1 機械加工の現場に間接作業者が1名いる場合

モデル企業A社 現場1 機械加工の現場は、下図のように設備が4台、作業者が4名でした。
この場合、作業者4名のみの場合のアワーレート(人)は経営コラム「中小企業の原価計算と見積  人のアワーレートはいくらなのだろうか?」で計算したように
アワーレート(人) 2,375円
でした。
 

この現場に材料の用意や製品の搬送、加工治具の準備など補助的な作業を行うパート社員が1名いました。
このパート社員は間接作業者でその労務費は、現場1の間接製造費用になります。

図2 A社 現場1


間接作業者も含めた現場1のアワーレート(人)は

現場1 機械加工 の間接作業者も含めた労務費と就業時間

労務費(万円) 就業時間(時間) 稼働率 稼働時間(時間)
352 2,200 0.8 1,760
352 2,200 0.8 1,760
440 2,200 0.8 1,760
528 2,200 0.8 1,760
パート 115.2 1,200
合計 1,787.2 8,800 7,040

 

間接作業者の労務費はアワーレート(人)の計算に追加しますが、間接作業者の時間は稼働時間に含まれません。その結果

労務費合計 1,787.2万円 稼働時間 7,040時間

間接作業者を含まない場合は、2,375円/時間だったので、間接作業者を含めるとアワーレート(人)は165円/時間 増加しました。
 

間接部門の労務費

生産管理、品質管理、資材管理など直接製造を行わず間接的な業務を行う部門もあります。これらの部門の労務費は、間接製造費用として各現場に分配します。この間接製造費用の分配は別のコラムでご説明します。


分配と配賦、賦課
このコラムでは、費用を割り振ることを「分配」という一般的な言葉で説明しています。会計の本を読むと、この割り振ることを「配賦」としています。この配賦も辞書では「割り当てること」です。会計では「配賦」のほかに「賦課」という言葉もあります。これは以下のような意味です。
配賦 製造原価を算出する際に、間接費を何らかの基準(配賦基準)を用いて振り分けること
賦課 製造原価を算出する際に、「何に」「どれだけ」使ったのかがわかる直接費を振り分けること
というように意味を使い分けていて、「直接費は賦課して、間接費は配賦する」と言います。本コラムは会計に詳しくない人を対象にしているため、定義の難しい会計用語を用いずに一般的な用語を極力使用しています。

 

間接作業者の増加と直接作業の間接作業化

一方、自動化の進んだ現在の工場は、かつてのように作業者が自ら機械を操作する、あるいは自ら手を動かして製造する、といったかつてのような直接作業者の仕事の割合は少なくなっています。

順送プレスや樹脂成形加工の工場では、段取など一部の作業は作業者が自ら行い、機械が生産を開始すれば作業者は様々な間接的な業務を行います。

(参考文献1)の調査によれば、上場企業200社のうち労務費全体の中で直接作業者の労務費の比率が50%以下の企業が28%でした。また直接作業者と間接作業者の区別をつけずにすべて間接作業者としていた企業も10.5%ありました。

このように工場の労務費に占める間接製造費用の比率が高くなれば、原価は各製品に分配される間接製造費用の大きさによって大きく変わります。ただ間接製造費用の分配は、各製品の製造時間や製造費用に比例して行うため、正確な原価を出すためには各製品の製造時間や製造費用の把握は重要です。
 

アワーレート(人)の稼働率の影響

アワーレート(人)の計算は分母に稼働率が入っています。その結果、稼働率によってアワーレート(人)が変わります。

ヒマな年は翌年のアワーレートが高くなる

例えば、現場1 機械加工の現場の稼働率は、一昨年は0.8 (80%)でしたが、先期は0.7に低下した場合、アワーレート(人)は

現場1 機械加工 稼働率が0.7に低下した場合

労務費(万円) 就業時間(時間) 稼働率 稼働時間(時間)
352 2,200 0.7 1,540
352 2,200 0.7 1,540
440 2,200 0.7 1,540
528 2,200 0.7 1,540
パート 115.2 1,200
合計 1,787.2 8,800 6,160

 

間接作業者の労務費はアワーレート(人)の計算に追加しますが、間接作業者の時間は稼働時間に含まれません。その結果

労務費合計 1,787.2万円 稼働時間 6,160時間

稼働率0.8のアワーレート(人)は、2,540円/時間だったので、稼働率が0.7に低下したことでアワーレート(人)は360円/時間 増加しました。
 

従ってアワーレート(人)を計算する際

1年全体で受注が少なく、工場の稼働率が低かった場合、翌年のアワーレートは高くなります。

この場合は以下の2つの考え方があります。
 

アワーレートは高くしない(稼働率はそれ以前の値を使用)

ただでさえ受注が少ないのにアワーレートを高くすれば、さらに受注がしにくくなるため、稼働率はそれ以前の値を使用しアワーレートは高くしないでおきます。
受注が少ないことが問題なので、積極的に営業活動を行って受注を増やし、工場の稼働率を上げます。
 

アワーレートを高くする

時にはあえて稼働率を低くする場合があります。例えば特急対応を主とする場合、急な依頼に対応できるように人や設備の稼働率をあまり高くできません。自社の事業がこういった分野に「転換」した場合、稼働率は低くなりアワーレートは高くなります。その分、見積も高くして、特急対応を打ち出して高い値段で受注できるようにします。
 

1年の中でもヒマな時はアワーレートを高くして利益を出すべきではないか

「1年の中でもヒマな時もあれば忙しい時もある。ヒマな時はアワーレートが高くなっているのだから、アワーレートを高くして利益を出すべきできないか」
いや
「ヒマな時は受注が少ないのだから、見積を低くしてでも受注して少しでも固定費を回収すべき」
このような考えもあります。

私は

アワーレートや見積価格は「事業活動の基準となる数値」なので、大幅な増員や設備投資で環境が大きく変わらない限り「年間で固定すべき」

と考えます。

その上でヒマな時は
「工場の稼働率を上げるためにどこまで赤字で受注するか」
を判断します。
受注価格の決定は経営そのものです。原価は経営判断に必要な情報を提供するツールと考えます。

ツールはぶれずに正しい情報を伝えます。

受注の意思決定する時に「どこまで赤字で受注するか」を判断します。
 

業務量が増えたので増員する予定、アワーレートは変わるのか?

増員しても稼働率が変わらなければ、アワーレートは変わりません
 

新人は最初フル稼働しない

増員して労務費が増えてもアワーレートは変わりません。
実際、新人は最初の頃は他の社員と同様の出来高が出ないので、最初はアワーレートが高くなります。慣れてきて他の作業者と同じ出来高になればアワーレートは同じになります。

注意が必要なのは、先に述べたように「一見働いているように見えて、『稼いでいない』時がある」ことです。

機械は止まっていれば稼いでいないことがわかります。

ところが人の場合は、本人も「遊んではいけない」と思い何か仕事をします。見た目には働いているように見えますが、「加工する」、「組立てる」といった付加価値を生み出す仕事でなければ「稼いで」いません。

現場の整理をしたり、白線を引いたりといった作業は、必要かどうかは別として、付加価値は生んでいません。増員した作業者がそのような作業を行っていれば稼働率は低下しています。
 

稼働率を使うと計算が煩雑なので入れないで計算したい

稼働率は算出が大変で、例えばサンプルを測定して80%と決めても、1年間そうなっているのか不安です。稼働率を使わない方が楽な気がします。
 

稼働率を使わないと計算がより煩雑になる

稼働率を使わなければ、人のアワーレートを算出は楽になります。そして稼働率を入れない分、アワーレートは低くなります。これは非稼働時間が除かれたためです。では非稼働時間の費用はどこに行ってしまうのでしょうか?

この非稼働時間も見積に反映させないとその分見積が安くなってしまいます。そこで各作業者の非稼働時間を集計して、この時間の費用を間接製造費用に加えます。そして他の間接製造費用と一緒に各現場に分配します。

図3 非稼働時間を間接製造費用に加える

そのためには

個々の作業者の非稼働時間を記録する必要があり、却って計算が煩雑になります。

稼働率は現場の管理者になじみやすい指標です。日常管理者は稼働率を意識して、稼働率を高めるように現場を管理する方が分かりやすいです。

(参考1)
「現場で使える原価計算」 清水孝 著 中央経済社
 

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製造業の個別原価計算 31 不良の損失金額はどのように計算するのか? https://ilink-corp.co.jp/7498.html https://ilink-corp.co.jp/7498.html#respond Wed, 23 Feb 2022 01:50:20 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=7498 No related posts. ]]> トヨタ生産方式では、不良は最大のムダと言われています。

当たり前ですが、使えないものを生産していては利益は出ません。

不良を減らすために現場は常に努力をしているのですが、現実には不良は中々なくなりません。
 

不良の原因には様々なものがあります。

例えば

  • 作業者のミス
  • 製造工程の能力不足
  • 顧客の要求に元々無理があった

 
等があります。

では不良によっていくらくらい損失が発生しているのでしょうか?

不良の重大さを理解し、早急に対策するためにも、不良の損失を、金額で把握することはとても重要です。
 

【大量生産の不良】

大量生産と多品種少量生産では、不良に対する考え方が違います。

大量生産は「不良がある」ことが前提です。

大量生産では不良の発生は避けられません。現代の工場は品質がとても高くなっていますが、それでも不良がゼロではありません。

つまり大量生産は、不良品が一定量発生するため不良による損失コストを製造原価に組み込みます。

ただし不良率が非常に小さくなれば、損失金額は無視できます。
 

例えば、ある部品メーカーがある部品を受注価格65円、月産30,000個を受注しました。

部品の製造原価50円、販管費10円、営業利益は5円 (15万円/月) でした。
 

不良率0.2%の場合

不良は60個

不良品を廃棄する場合、不良品1個の損失金額は50円(製造原価)

1ヶ月の不良による損失金額
= 1個の損失金額 × 1ヶ月の不良の数 = 60×50 = 3,000円

従って真の利益は

真の利益
= 1ヶ月の利益 - 1ヶ月の損失金額 = 150,000-3,000 = 147,000 円
 

損失金額も含めた部品1個の製造原価は

製造原価
= (1 + 不良率) × 製造原価 = (1+0.002)×50 = 50.1 円

部品1個の利益
= 売価 - 製造原価 - 販管費 = 65-50.1-10 = 4.9 円

4.9円です。
 

不良率2%の場合

製造工程に問題が発生し不良率が0.2%から2%に上昇しました。

その結果不良数は

不良600個

不良による損失金額
= 1個の損失金額 × 1ヶ月の不良の数 = 600×50= 30,000 円

真の利益
= 1ヶ月の利益 - 1ヶ月の損失金額 = 150,000-30,000 = 120,000 円

真の製造原価
= (1 + 不良率 )× 製造原価 = (1+0.02)×50 = 51 円

となります。
 

従って部品1個の利益は

部品1個の利益
= 売価 - 製造原価 - 販管費 = 65-51-10 = 4 円

4円となり、営業利益が20%マイナスしました。
 

この不良率と損失金額、利益を下表に示します。
 

不良率と損失金額     単位 円

不良率 不良数 損失金額/月 不良込原価 利益
0% 0 0 50.0 5
0.2% 60 3,000 50.1 4.9
2% 600 30,000 51.0 4

 

不良率が0.2から2%と10倍になれば、担当者は当然対策をします。

しかし時には対策がうまく行かない時があります。いつまでも生産を止めるわけにもいかず、高い不良率のまま、生産を再開します。

本来は解決できるまで生産を再開すべきではありませんが、部品メーカーの場合、不良の原因に設計や仕様の問題があれば、いくら現場が努力しても解決できません。

そのため、やむなく高い不良率でも生産を行います。

この場合、毎月15万円の利益が、3万円マイナスして12万円になってしまいます。しかも現場は、そのうち2%の不良に慣れてきます。

それを防ぐために不良を損失金額(万円)で表し、深刻な問題ということを関係者で共有します。

そして当面は高い不良率で生産しても放置せず、日程を決めて解決に取り組みます。
 

【多品種少量生産の不良】

一方、多品種少量生産では生産数が少く「不良は出ない前提」です。

不良が発生すれば、不良は大きな損失になります。

しかし多品種少量生産でも人のミスなど様々な原因で不良は発生します。

そこで大量生産と同様に不良を放置せず確実に対策するために、不良の損失金額を計算します。

多品種少量生産でも、本当は「不良が発生した時点で直ちに対策すべき」ですが、納期に追われていると、現場は不良品を手直しして納期に間に合わせることを優先します。(決して良いことではありませんが…)

しかし出荷すると、不良の対策がおざなりになってしまいます。これを避けるために不良損失を金額で評価します。
 

不良品の種類とその対処

不良が発生した場合、不良品がそのまま使える場合と、修正して使用する場合、不良品を廃棄して再作成する場合の3つがあります。

下図に不良品の対処の分類を示します。
 

 図1 不良品の対処と損失コスト

図1 不良品の対処と損失コスト

不良品がそのまま使える場合

軽微な不良は顧客にお願いしてそのまま納入することもあります。軽微な不良で機能に影響がなければ、顧客も納期を優先して、そのまま使用します。

その場合、顧客は文書で「特別採用 (特採) 」を申請するように求めます。不良品をそのまま納入する場合でも特採の申請や顧客との打合せにかかった時間は損失コストです。この金額を記録します。
 

不良品を修正して使う場合

不良品を修正して使う場合、修正のため新たに製造指図書を発行します。新たに発行された製造指図書に記録された工数が損失金額になります。

一方、新たに製造指図書を発行しない場合、修正にかかった時間を現在の製造指図書に記録し、後日集計します。
 

不良品が使えない場合

不良品が使えない場合、以下の処置があります。
 

【①納入数を減らす】

不良の分、納入数を減らします。

この場合は完成数が減るため実質の製造費用は増加します。この時、使えない製品を廃棄する場合と、材料を再利用する場合があります。
 

  • 材料を再利用できる場合
  • 例えば樹脂の射出成形は不良品を粉砕して再利用できます。その場合は不良による損失は不良品の製造費用のみです。

  • 材料を再利用できない場合

材料が再利用できない場合、損失金額はそれまでの製造費用と材料費です。
 

【②再作成する】

再作成のため製造指図書を発行した場合、製造指図書に再作成にかかった材料費や工数を記録します。それを集計すれば損失金額がわかります。

製造指図書を発行しない場合、再作成にかかった工数と材料費を現在の製造指図書に記録します。
 

修正にかかる費用

不良品の修正にかかる費用は、どの工程で修正するかによって変わります。下図に不良の発覚時点と修正、再作成費用の例を示します。
 

図2 製造工程と不良

図2 製造工程と不良

この図では

  1. 工程1で2個不良が発生、再度工程1を通して修正
  2. 工程2で1個不良が発生、製造指図書を発行して再作成
  3. 出荷検査で2個不良が発生、別工程3(平面研削)で修正して使用

の3つの場合がありました。
 

1. 工程途中で発覚、修正

工程1終了後、工程内検査で2個の不良が見つかりました。そこで2個は工程1の加工を再度行って修正しました。
 

製造指図書に工程1の実績数を102個と記録し、理由として「2個NGのため再度工程1を通過」と記入します。

不良の発生が工程1の途中であれば、本来は途中までの時間が損失金額になります。しかし実際は工程の途中で不良となるケースは少なく、不良の発生時点まで記録するのは大変なので、全て工程1が完了したものとします。
 

2. 工程途中で発覚、再作成

工程2の工程内検査で1個不良が見つかり、修正できないため再作成しました。新たに製造指図書を発行し、再作成の材料費、製造費用を記録します。損失金額は廃棄された1個の材料費と工程1から工程2までの製造費用です。
 

原価計算の本では「廃棄する場合、スクラップとして価値があれば金額分相殺する」と書いてあります。しかし実際は大きな金額でなければ無視しても構いません。
 

3. 最終検査で発覚、別工程で修正

また最終検査で1個不良が見つかり、別工程で修正しました。修正は従来の製造工程とは異なる工程(工程3)で行いました。そのため製造指図書を発行しました。
 

実際の不良損失の計算

実際の不良の損失金額の計算を、架空の機械加工A社、樹脂成形加工B社、プレス加工C社について具体的な数値を入れて計算します。
 

廃棄する場合

A社はマシニングセンタ、NC旋盤など工作機械で金属を加工し、部品を製造する企業です。また部品加工以外に自社で加工した部品及び社外へ手配した部品を社内で組み立てる組立製品も製造しています。
 

図3  A社の組織と設備、人員の構成

図3 A社の組織と設備、人員の構成

A社のA3製品は社内がマシニングセンタ、NC旋盤、平面研削盤、ワイヤーカット放電加工、出荷検査(全数検査)、社外が熱処理と合計6つの工程があります。A3製品の各工程の製造費用を下表に示します。
 

表 A3製品の製造原価     単位 円

順序 工程 通常工程
製造費用
材料費 10,000
マシニングセンタ 7,100
NC旋盤 3,300
熱処理(外注) 1,600
平面研削盤 3,600
ワイヤーカット 7,200
出荷検査 900
合計 33,700

 

表 平面研削盤で不良を発見、廃棄した場合  単位 円

順序 工程 不良発生
(平面研削盤で発覚、廃棄)
材料費 10,000
マシニングセンタ 7,100
NC旋盤 3,300
熱処理(外注) 1,600
平面研削盤 3,600
ワイヤーカット 0
出荷検査 0
合計 25,600

 

A3製品が出荷検査で不良が判明し、修正できずに廃棄する場合、損失金額は製造原価の33,700円です。
 

工程の途中で廃棄する場合

工程の途中で不良品が見つかり廃棄する場合は、損失金額は材料費プラス、その工程までの製造費用です。

例えば4番目の平面研削盤の工程で不良になり廃棄しました。損失金額は材料費プラス マシニングセンタから平面研削盤までの製造費用になります。
 

厳密には平面研削盤の工程のどこで失敗したかにより平面研削盤の工程の製造費用は変わりますが、実際にはそこまで細かく集計できないため、平面研削盤の工程は完了したものとします。
 

修正する場合

出荷検査で不良が判明し、別工程(平面研削盤)で修正しました。損失金額は修正費用になります。この時の修正費用を下表に示します。
 

表 平面研削盤の修正費用     単位 円

段取時間 段取費用 加工時間 加工費用 合計
1 7,000 1 7,000 14,000

 

修正は1個だけの加工になるため、段取費用の比率が高くなります。そのためロット生産に比べて製造費用が高くなります。
 

A3製品100個の損失金額

機械加工A社のA3製品100個について、以下のような不良が発生しました。この場合の損失金額と原価を計算します。
 

  • 1工程マシニングセンタで1個不良発生、材料は再利用可能(再度1工程から加工)
  • 2工程NC旋盤で1個不良発生、廃棄
  • 6工程出荷検査で1個不良発生、平面研削盤で修正。(段取1時間、加工1時間)

 

損失金額と原価を下表に示します。
 

1工程マシニングセンタでの不良1個の損失金額

1工程の製造費用のみ

A3製品生産中に再度加工した場合

製造費用 7,100円 
 

2工程NC旋盤で1個不良が発生し、廃棄した場合の損失金額

材料費 10,000円

1工程の製造費用 7,100円

2工程の製造費用 3,300円

損失金額合計 20,400円
 

出荷検査で1個不良が発生し、平面研削盤で修正した場合

段取費用 7,000円

加工費用 7,000円

損失金額合計 14,000円
 

表 A1製品の不良と損失金額     単位 円
表 A1製品の不良と損失金額
 

正常工程(不良ゼロ)の場合の製造原価33,700円

損失金額を加味した製造原価は34,115円

不良による損失のため製造原価は415円増加しました。

A3製品は材料費が1万円と高価なため、廃棄すると大きな損失が発生します。

また別工程で修正した場合、段取費用の比率が高いため損失金額が大きくなります。
 

余分につくるコスト

不良のため廃棄すると再びその分を1から加工しなければならず、納期に間に合わなくなります。また後から1個だけ製造するのは、段取の費用が高くなるため原価が上昇します。
 

そこで不良を見込んで予め余分に製造することがあります。この後もリピートで受注することが確実であれば、余分につくった製品は次回に出荷できます。ただしリピート受注がなかったり、最後の注文の場合は出荷されないため損失になります。
 

例えば100個ロットの受注に対して101個製造すれば、製造原価は1.01倍になります。A3製品の場合

製造原価 = 33700 × 1.01 = 34,037 円

製造原価の増加 = 34037-33700 = 335 円

337円原価が高くなります。

余分につくった場合、その後リピート受注があった時に在庫数を調べて生産数を調整しないと、いつまでも余分につくり過大な在庫を抱えてしまいます。
 

樹脂成形B社の損失金額と原価

B社は射出成形機で樹脂製品を製造する企業です。製品は複数の大手メーカーに納入しています。B社の組織と設備、人員の構成を下図に示します。シフトは2直の昼夜勤務で設備は24時間稼働しています。
 

図4  B社の組織と設備、人員の構成

図4 B社の組織と設備、人員の構成

樹脂成形品B1製品の不良率は0.3%でした。不良品は粉砕して再利用します。ロット8,000個の場合の損失金額を計算します。

B1製品の材料費 35円

B1製品の製造費用 13円

損失金額(1個) 13円

不良数合計 = ロット数 × 不良率 = 8000×0.003 = 24 個

損失金額合計 = 不良数 × 損失金額(1個) = 24×13 = 312 円
 

表 B1製品の正常工程費用   単位 円

正常工程費用
単価 合計
材料費 35 280,000
製造費用 13 104,000
合計 48 384,000

 

表 B1製品の損失金額   単位 円

材料費 0(再利用)
製造費用 312
合計 312
損失金額込みの製造原価 384,312
1個当たりの製造原価 48.04
不良損失による1個当たりの原価上昇分 0.04

 

材料が再利用できる場合は不良による原価の上昇は0.04円と大きくありません。そのため不良に対する現場の意識が希薄になり、不良が増加しても現場は気にせず生産していることがあります。

不良率が3%に上昇した場合はどうなるでしょうか。
 

不良数 = ロット数 × 不良率 = 8000×0.03 = 240 個

損失金額合計 = 不良数 × 損失金額(1個) = 240×13 = 3,120 円
 

表 B1製品の正常工程の費用   単位 円

正常工程費用
単価 合計
材料費 35 280,000
製造費用 13 104,000
合計 48 384,000

 

表 B1製品の損失金額   単位 円

材料費 0(再利用)
製造費用 3,120
合計 3,120
損失金額込みの製造原価 387,120
1個当たりの製造原価 48.39
不良損失による1個当たりの原価上昇分 0.4

 

受注金額が57円の場合、B1製品の利益は3円でした。しかし不良率3%では利益は2.6円になります。不良率が3%になると品質は不安定で常時不良が発生しています。早急に対策すべきですが、原価の上昇は0.4円、生産性の低下も3%のため、見過ごされてしまいます。
 

このように材料が再利用できる場合は、不良が放置される可能性があるため、管理者は不良率を監視し、問題があれば早急に手を打たなければなりません。
 

プレス加工C社の損失金額と原価

C社はプレス加工で金属部品を製造する企業です。製品は複数の大手メーカーに納入しています。C社の組織と設備、人員の構成を下図に示します。シフトは2直の昼夜勤務で設備は24時間稼働しています。
 

図5  C社の組織と設備、人員の構成

図5 C社の組織と設備、人員の構成

プレス加工の不良は、材料は再利用できず材料費も高いため、不良は大きな損失になります。下表にプレス加工C社 C1製品5,000個の不良と損失金額を示します。

そこでC1製品 ロット5,000個、不良率0.3%の場合の損失金額を計算します。
 

C1製品の材料費 30円

B1製品の製造費用 1.7円

損失金額(1個) 31.7円

損失数合計 = ロット数 × 不良率 = 5000×0.003 = 15 個

損失金額合計 = 損失金額(1個) × 不良数 = 31.7×15 = 475.5 円
 

表 C1製品の正常工程  単位 円

正常工程
単価 合計
材料費 30 150,000
製造費用 1.7 8,500
合計 31.7 158,500

 

表 C1製品の損失金額  単位 円

廃棄15個
材料費 450
製造費用 25.5
合計 475.5
損失金額込みの製造原価 158,975.5
1個当たりの製造原価 31.8
不良損失による1個当たりの原価上昇分 0.1

 

不良率0.3%では製造費用は0.1円増加し、利益も0.1円減少しました。受注金額37円の場合、利益が2.3円、0.1円の利益減少は4.3%の減少です。

では不良率が3%に増加した場合はどうでしょうか。
 

C1製品の材料費 30円

B1製品の製造費用 1.7円

損失金額(1個) 31.7円

損失数合計 = ロット数 × 不良率 = 5000×0.03 = 150 個

損失金額合計 = 損失金額(1個) × 不良数 = 31.7×150 = 4,755 円
 

表 C1製品の正常工程  単位 円

正常工程
単価 合計
材料費 30 150,000
製造費用 1.7 8,500
合計 31.7 158,500

 

表 C1製品の損失金額   単位 円

廃棄150個
材料費 4,500
製造費用 255
合計 4,755
損失金額込みの製造原価 163,255
1個当たりの製造原価 32.7
不良損失による1個当たりの原価上昇分 1

 

不良率3%で製造費用は1円増加し、利益も1円減少しました。受注金額37円の場合の利益が2.3円、1円の利益の減少は43%の利益の減少です。
 

一方、プレス加工の場合、不良品はスクラップとして引き取られます。スクラップ単価を15円/kg、製品重量0.1kgのとき、スクラップ費用は

スクラップ費用
= 製品重量 × 不良数 × スクラップ単価 = 0.1×150×15 = 30 円

損失金額は4,755円なので、スクラップ費用を考慮した場合の損失金額は4,725円と0.6%減少します。それほど大きな金額ではないので無視してかまいません。
 

評価よりも対策

このようにすれば不良による損失は金額で定量的に評価できます。

財務会計では不良による損失 (仕損費) は、仕掛品、または完成品に仕損費として計上し、製造原価に組み込みます。不良品の個数と発生した工程が記録されていれば、仕損費として計上できます。
 

実際には「その期やその月の不良損失がいくらか」よりも、

不良が発生した時点での的確な状況把握とスピーディーな対策が

最も重要です。
 

加えてロットごとの不良率と損失金額を監視して、それらが悪化するようであれば直ちに手を打ちます。

不良を減らせば確実に利益は増えます。

 

しかし、それには具体的なアクションが伴っている必要があります。アクションが何もなくても不良が減ることもあります。しかしそれはたまたま減っているだけです。何か要因が変化すれば、また増えます。

製造現場では発生する不良の原因は様々です。これに対しその都度、真の原因を突き止めて確実に対策をしなければなりません。時には自社だけでなく、顧客にも協力してもらわないと解決できないことがあります。
 

例えば

  1. 製造プロセスが不安定
  2. 製品の設計品質が不安定
  3. 製造工程、検査工程のミス
  4. 顧客との見解・考え方に相違があるため不良となる

 
このような原因で発生する不良は、製造の担当者だけでは解決できません。
 

特に(4)などは上司、顧客も巻き込んで取り組む必要があります。こういったやっかいな問題を解決するためにも、不良による損失を金額で定量的に評価することは重要です。
 

こういった製造業の原価計算の考え方と見積、損失の見える化については下記リンクを参照願います。

 

他にも製造業の値上げ金額の計算と値上げ交渉のポイントについては下記リンクを参照願います。

 
 

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あるいは設計だけでなく、試作や評価などの開発を行ってから、生産するものもあります。
 

これについてはどう考えたらよいでしょうか?
 

設計・開発費の考え方

設計・開発費の扱いに大きな影響があるのが、開発要素と生産量です。
 

開発の要素

今までない全く新しい製品、新しい技術や材料・製造方法であれば、製品を完成させるまでに時間がかかります。その分費用も高くなります。開発要素が多ければ、設計だけでなく、試作や評価も必要になるため、それらの費用もかかります。
 

加えて「未知の要素」が多いと、完成までの時間が不確実になります。1か月でできると思っていたものが2年かかってしまうこともあります。極端な例では高分子化学などの新しい材料の開発では10年以上かかるものもあります。
 

一方新しく作るものでも、全ての要素が過去に経験のあるものであれば、不確実さは低くなります。想定した期間内で設計できるため、費用も管理しやすいです。またこういった製品は試作や評価も必要ない場合が多いです。例えば衣類や食品の新製品は、今までと同じ材料や製造方法であれば、予定通りに製品が完成し量産に入れます。
 

生産量

多額の設計・開発費用がかかっても、その製品が大量に生産、販売されれば、製品が生み出す利益で設計・開発費用を賄うことができます。製品の原価に対し、設計・開発費用の割合は低いため、計画よりも設計・開発費用が増加しても軽微な影響にとどまります。例えば、VTR、DVDなどは長い開発期間と開発費がかかりました。しかし技術が完成し製品化されれば、今までにない製品なので多くの顧客が購入し、多額の利益が得られました。
 

逆に生産量が少なければ、設計・開発費用の影響は顕著に表れます。特に「一品物」と呼ばれる毎回設計しなければならない製品は、設計費用が増えれば、全て原価の増加になります。
 

開発要素と生産量の関係

この開発要素と生産量によって、設計・開発費に対する扱いが変わってきます。この開発要素と生産量の関係を図1に示します。
 

図1 開発費と生産量の関係

図1 開発費と生産量の関係


 

【開発要素 高い】【生産量 大】

発売前のVTRやDVDのように世の中にこれまでなく、技術開発に時間がかかる場合です。開発費は高額になりますが、生産量も多いため、回収は容易です。
 

自動車は毎回新しい製品を開発し開発費も高額ですが、新しい技術要素はそれほど多くなく開発は計画通りに行われます。一方生産量は非常に多いため、1台当たりの開発費は高くありません。
 

【開発要素 低い】【生産量 大】

衣類や食品などで、これまで同じ材料や製造方法で製造する場合です。開発費は低く、生産量は多いため、開発費は無視できます。
 

【開発要素 高い】【生産量 少ない】

顧客の要望に基づいて、技術的な難易度の高い製品を製造する場合です。高度な製造設備、航空・宇宙の製品などが該当します。開発は原価と考え、適切な金額をもらわないと赤字になってしまいます。一方開発要素が高ければ、費用の不確実さも高く、当初の見積通りにできなければ赤字になってしまいます。
 

実際、開発要素はそれほど高くないが、全て新規設計する製品も多く、工場内の搬送装置や製造装置の多く(専用機と呼ばれています)はこれに該当します。開発・設計費用は原価と考え、適切な金額を見積に入れなければなりません。ただし開発要素が少なくても、新規に設計するため、予想外のトラブルや設計ミスで設計・開発費用が増加することもあります。
 

【開発要素 低い】【生産量 少ない】

オーダーメイドの洋服、注文住宅などが該当します。設計費用は見積に含まれます。不確実さは低く、当初の予定通りにできます。
 

開発の段階

全く新しい技術や製品を開発する場合、製品の設計に取りかかる前に、必要な要素技術の開発をすることもあります。要素技術の開発を行い、技術が完成してから、販売する製品の設計・開発に取りかかります。この場合、図2に示すような段階を経て製品化されます。
 

図2 研究開発費と開発費

図2 研究開発費と開発費


 

研究開発

大きな開発テーマでは、最初から製品をつくるようなことはせず、必要な要素技術をまず先に開発します。
 

実験機(通称 ベンチテストやテストベンチ)を作って新しい技術を確認します。「必要な性能が得られるか」、「性能は安定しているか」を確認し、ここで製品化が困難と判断すれば開発は中止します。
 

実際に販売する製品をつくるには外観も含めて全ての機能が完成していなければなりません。それには多くの時間と費用がかかります。その前に簡単なテストベンチをつくり、必要な技術や機能かを確認します。こうすれば、その技術が実現可能かどうか早く確認できます。失敗しても早く次の方法を考えることができ、結果的に開発は早くなります。
 

図2では、研究開発の結果、テーマ1は失敗し、テーマ2は研究開発は成功したが他の事情で製品化は断念しました。テーマ3は製品化することになり、新製品Cの開発がスタートします。
 

製品開発

技術的に製品化の見通しが立てば、発売までのスケジュールを決めて製品開発を行います。試作機を設計・製造し、その評価を行います。製品によっては、試作を何段階も行ったり、評価品を顧客に渡してフィールドテストを行ったりします。この場合、製品を設計。評価するだけでなく、製造原価、生産体制、販売体制、アフターサービスまでの体制を構築します。
 

製品発売後

標準品を生産する場合、製品を発売後は設計・開発の費用はかからないはずです。しかし実際は販売後も発生する不具合の対応や製造上の問題の対応などで一定の費用が発生することも多いようです。
 

また標準品でも製品の一部を顧客の要望に応じて変更する製品もあり、この場合は発売後も設計には一定の負荷がかかります。
 

開発費・研究開発費の計上

この開発にかかる費用は財務会計と税法では異なります。
 

財務会計 研究開発費

「研究開発費等に係る会計基準」によれば、「研究」「開発」は以下のように定義されています。
 

【研究】

新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探究
 

【開発】
  • 新しい製品・サービス・生産方法の計画や設計
  • 既存の製品等を著しく改良するための計画や設計、そのために研究の成果やその他の知識を具体化すること

 

この研究や開発で発生した費用が研究開発費です。研究開発費は発生した期に費用(一般管理費)として処理します。
 

なお、企業会計原則は上場企業や大企業に適用されるもので、中小企業は従わなくても問題ありません。
 

税法 試験研究費と開発費

税法では「試験研究費」と「開発費」が以下のように定められています。
 

【試験研究費】税額控除の対象

製品の製造、技術の改良や考案、発明に係る試験研究に要する一定の費用が対象で、これには人件費も含まれます。企業会計原則にある「新しい」は税法では必須ではありません。
試験研究費は一般管理費、又は製造原価として発生した期に費用として処理します。
この試験研究費は税額控除の対象になります。税額控除を受けるためにはそれぞれの試験研究テーマで発生した費用を他の費用と分けて管理しなければなりません。
 

【開発費】繰延資産化が可能

「開発費」は新たな技術や新たな経営組織の採用、資源の開発、又は市場の開拓のために特別に支出する費用です。企業会計原則にある「著しい」は税法の開発費では必須でないため、企業会計原則よりハードルは低くなっています。
 

この開発費は繰延資産にすることが可能です。製品が発売される前の開発段階では、製品はまだ収益を生まないため、それまでに開発にかかった費用を回収できません。そこで開発費は「将来の期間に影響する特定の費用」として貸借対照表に繰延資産として計上し、その期の費用(損益計算書)から除外することができます。その結果、製品を開発している期は開発費が発生しますが、その期の費用にならないため、その分キャッシュフローがマイナスします。(つまり現金が少なくなります。) 
 

開発費は製品を発売後、製品を販売している期間に合理的に分配して回収します。この期間は企業が決めることができ、開発費を繰延資産とするかどうかも企業自身で決めることができます。
 

開発費の繰延資産化は税法では認められていますが、「研究開発費等に係る会計基準」にはないため大企業では行われません。
 

表1に研究開発費、試験研究費、開発費の違いをまとめました。
 

表1 研究開発費、試験研究費、開発費の違い

研究開発費
(企業会計)
【研究】
新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探究
【開発】
・新しい製品・サービス・生産方法の計画や設計
・既存の製品等を著しく改良するための計画や設計、そのために研究の成果やその他の知識を具体化すること
試験研究費
(税法)
製品の製造、技術の改良や考案、発明に係る試験研究に要する一定の費用(「新しい」は必須でない)
開発費
(税法)
新たな技術や新たな経営組織の採用、資源の開発、又は市場の開拓のために特別に支出する費用(「著しい」は必須でない)

 

研究開発費・開発費の考え方

このように研究開発費、試験研究費、開発費は企業会計と税法での扱いが異なるため、わかりにくくなっています。これは下記のように考えることができます。
 

研究開発

大きな開発テーマでは、必要な要素技術のみを先に開発します。
 

これは企業会計の「研究開発費」、財務会計の「試験研究費」とします。この費用は、「研究開発費」又は「試験研究費」として発生した期の費用として処理します。
 

これは特定の製品で発生する費用でなく、企業が成長発展するための無形の投資になります。従って毎期予算を組んで一定額を研究開発に投入します。
 

試験研究費として税額控除を受ける場合は、他の費用と明確に区別して管理します。
 

開発費

実際に販売する製品の開発にかかる費用です。開発費は開発した製品を発売後、その製品が一定期間生み出した収益で回収します。開発費が多く、製品の販売量が少なければ開発費の回収ができなくなります。そうならないように開発費のコントロールと予定した販売量の達成に力を入れます。
 

ただ開発費の回収は机上での計算のみです。実際に発売前の製品の開発の費用を、「発売後の未来」から持ってくることはできません。では発売後に回収する開発費の意味は何でしょうか?
 

これは次の製品の開発の原資です。
製品が予定した量売れず開発費が回収できなければ、次の製品を開発するための原資がありません。この状態が続けば製品を開発できず、企業は衰退します。
 

一方中小企業は開発費を繰延資産化することもできます。開発中の製品は費用が発生しますが、発売前なので売上はゼロです。そのためその期は赤字になることもあります。そこで開発費として繰延資産化し、製品を発売後、費用計上すれば赤字を避けることができます。この場合の開発費は設備投資に似ています。ただ繰延資産化すれば設備投資と同様に現実のお金の動きと損益計算に乖離が生じます。実際のお金の動きはキャッシュフローと計算書を見ないと分からなくなるので注意します。
 

開発費の繰延資産化の例

A社は新製品を開発しました。その期は新製品を発売できないため、開発費として繰延資産にしました。表2にA社の決算書の一部を示します。
 

表2 A社決算書(一部抜粋) 単位 : 万円
 表2 A社決算書(一部抜粋)
 

製品開発時

A社の製造部門がかかった費用は4億6,000万円でした。その中に新製品の開発費1,500万円がありました。
 

この開発費は繰延資産(開発費)として損益計算書からマイナスし、貸借対照表に無形固定資産(開発費)として計上しました。
 

その結果、損益計算書の製造原価は4億4,500万円になり、営業利益は5,000万円になりました。
 

実際にかかった費用よりも1,500円製造原価が少なくなり、その分利益は増えました。
 

この1,500万円の支出は損益計算書には計上されないため、キャッシュフローは1,500万円マイナスになります。(現金が1,500万円少なくなる。)
 

製品発売後

翌年、新製品を発売したため、先期の開発費1,500万円を費用として計上しました。(表3)
この開発費は損益計算書の営業外費用に計上されます。(A4製品の開発費は翌期に全額償却するものとします)
 

1,500万円の費用はかかっていないのに営業外費用に1,500万円計上されるため、キャッシュフローは1,500万円プラスになります。(現金が1,500万円増える。)
 

表3 A社の翌期の決算書 単位 : 万円
表3 A社の翌期の決算書 単位 : 万円
 

開発費の繰延資産化は固定資産の取得に似ている

 
このように製品を発売前に発生する開発費は「開発費」として繰延資産化すれば、会計上も開発費の回収を適切に処理できます。

ただし、これは税法では認められていますが、会社法では認められていないため、上場企業など大企業ではできません。

一方開発費を繰延資産化すれば、費用の発生とお金の動きがずれるためキャッシュフローはわかりにくくなります。

この開発費の繰延資産化は固定資産の取得に似ています。

従って開発費を繰延資産化した場合は、固定資産の取得と同様に資金繰りに問題が生じないようにキャッシュフローを押さえておく必要があります。

一方、自社で開発テーマを持たず、顧客からの要望に応えることで新たな技術やノウハウを蓄積する会社もあります。その場合の失敗や後戻り費用はある意味で開発費です。
 

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製造業の個別原価計算 29「販売費及び一般管理費を原価の中でどう考えるか?」 https://ilink-corp.co.jp/7123.html https://ilink-corp.co.jp/7123.html#respond Thu, 23 Sep 2021 11:21:37 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=7123 No related posts. ]]> 製造業の場合、費用は製造原価と販売費及び一般管理費 (以降、販管費)があります。

製造原価は製品を製造する際に発生した費用で、材料費、労務費、その他経費(減価償却費、電力料、賃借料、修繕料など)などです。

販管費は商品や製品を販売するための費用(販売費)と会社全般の業務の管理活動にかかる費用(一般管理費)です。

この販管費はどのように考え方らよいでしようか?

個別原価での販管費について考えました。
 

販管費はどのような費用か?

 

一般的には以下の費用は販売費及び一般管理費に計上されます。

【人に関する費用】

役員報酬

(製造部門以外の人の)賃金、社会保険料

福利厚生費
 

【営業・事務に関する費用】

広告宣伝費

旅費交通費

事務用品費

荷造運賃
 

【その他製造原価にならない費用】

(工場以外の)水道光熱費

(工場以外の)消耗品費

(工場以外の)リース料、減価償却費

(工場以外の)租税公課

(工場以外の)雑費

その他の費用
 

この販管費は、販売費と一般管理費を合計したものです。

このうち一般管理費は上記の事務の費用やその他製造原価に含まれない費用です。しかしこれらの費用の大半が工場で働く人や工場や設備を維持するための費用で、工場には不可欠なものです。

従って財務会計上は製造原価と販管費は異なるものですが、販管費も製造に必要な費用と考えます。
 

販管費も見積に入れるべき

 

見積をつくる際に、製造原価に必要な売上総利益(粗利)を足して計算する企業もあります。
そして「粗利が〇%以上あるから儲かる」と判断します。

実際は粗利から販管費を引いたものが営業利益です。

営業利益がマイナスであれば赤字です。

最近は中小企業でも様々な管理業務が増えて、そのための人材を増えています。その結果販管費も増大し、売上高の15~30%を占めています。

従って常に販管費を意識して、受注金額から製造原価と販管費を引いて、必要な営業利益が確保できるようにします。この費用構造を図に示します。
 

製造原価と販管費

製造原価と販管費


 

販管費レートの計算

 

では個別原価の販管費はどのように計算すればよいでしょうか?

販管費は間接製造費用と同様に「どの製品にどれだけかかっているのかわからない費用」です。

そこで先期の決算書から製造原価に対する販管費の比率(販管費レート)を計算します。

個別原価の販管費は、その製品の製造原価に販管費レートをかけて計算します。

販管費計算の例

販管費と見積計算の例を示します。

ある製品は
材料費200円
製造費用1,000
販管費レート20%
でした。

販管費は

販管費=(200 + 1,000)×0.2 = 240円

販管費込み原価=200+1,000+240=1,440円

目標見積原価利益率14%
の場合

目標利益=1,440×0.14=201.6≒200円

見積価格=1,440+200=1,640円

見積価格は1,640円になります。
 

製造原価、販管費と見積価格

製造原価、販管費と見積価格


 

売上が減少すると販管費が高くなる

 

製造業は固定費の比率の高い事業です。

従って固定費を管理し、固定費に合わせて売上を最大化する必要があります。

その点、販管費は大半が固定費です。

前述した販管費の個々の費用は、売上が減少しても短期間では減りません。(長期的には減らすことは可能ですが。)

従って、現在の販管費で実現できる最も高い売上を達成するように、受注と生産を頑張ります。もし売上が少なくなると、売上に対し販管費の比率が高くなり、販管費レートが上昇します。その結果、見積が高くなります。

例えば売上が減少して販管費レートが20%→25%になれば

販管費=(200 + 1,000)×0.25 =300円

販管費込み原価=200+1,000+300=1,500円

目標見積原価利益率14%
の場合

目標利益=1,500×0.14=210円

見積価格=1,500+210=1,710円

見積価格は1,710円になり、70円高くなります。
 

売上が減少すると

売上が減少すると


 

購入品と内製品の販管費は同じでよいか?

 

小売業の場合、どの商品も問屋さんから仕入れて販売します。従って商品ごとの販管費の比率は同じです。

製造業で、小売業のように外部から購入して顧客に納入する製品と、材料のみ購入し自社で内製加工して納入する製品があった場合、同じ販管費レートで良いでしょうか?

購入品と内製品の社内の管理の手間を比較すると

《購入品》

発注、納品・受入、検収、支払
 

《内製加工品》

材料発注、納品・受入、検収、支払

社内生産計画・進捗管理、製造、検査、出荷
 

社内での製造工程の分、関係する部署が多くなります。その分一般管理費も増えます。

つまり
事務所に社員・パートが8名いる場合、購入品だけなら2人で十分だが、工場に80人いるから、あと6名が必要なのです。

そうなると、購入品に対して販管費レート20%は高いということになります。その場合は、購入品と内製品の販管費レートを変えます。
 

購入品と内製品の比率が異なる場合

 

例えば以下のA1製品とA2製品の製造原価はどちらも1,200円です。しかしA1製品は材料費200円、製造費用1,000円に対し、A2製品は材料費1,000円、製造費用200円です。

同じ販管費レート20%であれば、販管費はどちらも240円です。しかし先の考え方から、A2製品は製造費用が200円と少なく、人や設備をA1製品ほど使用していないため、販管費は低いはずです。

そこで今回は
購入品の販管費レート10%
内製品の販管費レート30%
として計算しました。

これは販管費レートを計算する際に、購入品と内製品を分ければ計算できます。ただしどちらをどのくらい多くするかは正解がありません。トライ&エラーで決めていきます。

この例では

【A1製品】

材料費200円
製造費用1,000
販管費レート(購入品) 10%
販管費レート(内製品) 30%

販管費=200×0.1 + 1,000×0.3 =320円

販管費込み原価=200+1,000+320=1,520円

目標見積原価利益率14%

目標利益=1,520×0.14=212.8≒210円

見積価格=1,520+210=1,730円
 

【A2製品】

材料費1,000円
製造費用200
販管費レート(購入品) 10%
販管費レート(内製品) 30%

販管費=1,000×0.1 + 200×0.3 =160円

販管費込み原価=200+1,000+160=1,360円

目標見積原価利益率14%

目標利益=1,360×0.14=190.4≒190円

見積価格=1,360+190=1,550円
 

見積価格はA1製品1,730円、A2製品1,550円になります。

同じ販管費レート20%の場合、A1製品、A2製品どちらも1,640円なので、販管費レートを変えることで購入品と内製品の比率の違いが見積価格に反映されました。
 

購入品と内製品の比率が異なる場合

購入品と内製品の比率が異なる場合


 

購入品の販管費を認めない取引先の場合

 

販管費は販売に限らず企業活動で必然的に発生する費用です。これがなくては工場を運営できないため、その費用は当然見積に組み込まなければなりません。

ところが取引先によっては購入品の販管費を認めないところもあります。

「付加価値を生む製造費用は販管費や利益を認めるが、右から左に流すだけの購入品は販管費や利益は認めない」という考えのようです。
(それを言われると商社や卸は成り立たなくなってしまうのですが…。)

もし購入品に販管費を入れなければ見積はどうなるのでしょうか?
 

この場合、購入品にかかっていた販管費の回収も全て内製品から行うことになります。従って、製造原価の中で購入品の金額が50%、つまり半分が購入品の場合、
販管費レート(購入品) 0%
販管費レート(内製品) 40%
になります。

その結果
A1製品、A2製品の価格は

【A1製品】

材料費200円
製造費用1,000
販管費レート(購入品) 0%
販管費レート(内製品) 40%

販管費=200×0 + 1,000×0.4 =400円

販管費込み原価=200+1,000+400=1,600円

目標見積原価利益率14%

目標利益=1,600×0.14=224≒220円

見積価格=1,600+220=1,820円
 

【A2製品】

材料費1,000円
製造費用200
販管費レート(購入品) 0%
販管費レート(内製品) 40%

販管費=1,000×0 + 200×0.4 =80円

販管費込み原価=200+1,000+80 =1,280円

目標見積原価利益率14%

目標利益=1,280×0.14=179.2≒180円

見積価格=1,280+180=1,460円

見積価格はA1製品1,820円、A2製品1,460円になります。
 

購入品の販管費を認めない場合

購入品の販管費を認めない場合


 

顧客がこのような指示をすれば、内製品の比率の高い製品は固定費の回収(販管費)が大きくなり、購入品の比率の高い製品は固定費の回収が少なくなります。

おそらくどの企業もA2製品の受注を嫌がると思います。
 

営業費用が異なる場合の販管費レート

 

販管費には営業費用も含まれます。

もし同じ製品でも営業費用が大きく変わる場合は、価格はどうなるのでしょうか?

例えば、ある製品を一部はOEM製品として顧客に納入し、一部は自社商品として販売する場合です。

この場合、BtoBは、営業担当者は少なく、他に販促費用がかかりません。

しかし自社商品は、営業担当者の人数が多く、取引先が全国にあれば旅費などの経費もかさみます。またカタログやパンフレットの製作、専用ホームページの作成など広告宣伝の費用もかかります。インターネットによる直販も行っていれば受注受付や発送などの費用もかかります。
 

事業によって異なる販管費

事業によって異なる販管費


 

この場合、同じ販管費レートだとBtoBに対しては販管費が過大となります。

そこで図に示すように、製造原価と販管費をそれぞれの事業で分けて、販管費レートを別々に計算します。実際は製造原価や販管費をBtoBと自社商品で分けて集計するのは困難なので、生産台数に応じて分配します。図にA社の例を示します。

この例ではB事業が自社商品です。自社商品は広告宣伝のため費用が多くかかるため、販管費レートは40%になりました。

A1製品がA事業とB事業で取り扱った場合の価格を計算します。

A事業のA1製品の価格 (販管費レート20%) 1,640円

【A2製品】

材料費200円
製造費用1,000
販管費レート 40%

販管費=(200 + 1,000)×0.4 =480円

販管費込み原価=200+1,000+480=1,680円

目標見積原価利益率14%

目標利益=1,680×0.14=235.2≒240円

見積価格=1,680+240=1,920円

見積価格はA1製品1,640円、A2製品1,920円になります。

実際は自社商品の場合は利益率も高くしますので、価格はもっと高くなります。
 

事業によって異なる販管費

事業によって異なる販管費


 

自社で販売するのは、営業体制の構築や広告宣伝、販売ツールの整備など大変な手間と時間がかかりますが、販売という大きな付加価値を生むプロセスを自社に取り込むため、利益率は高くなります。
(逆に自社で販売する場合、それぐらいの高い利益率にならなければ自社で販売するメリットがありません。)
 

NB品とOEM品

 

自社で販売すれば利益率が高くなるが、自社では十分な量が販売できない場合、製品の一部はOEM製品としてBtoBで販売する方法もあります。

取引先の規模が大きければ、取扱量も多く、高い稼働率で工場を動かせます。

その上、その製品の一部を自社製品として販売すれば、OEMでのボリューム効果から低コストが得られ、製品の競争力が高くなります。

これは自社商品化できる製品を持っている企業で同業者と協力関係にある場合、使える戦略です。ただしOEMはあまり多くなりすぎないように注意しないと、OEMが主となって、OEM先の下請企業になってしまいます。

またこの戦略を取るためには自社で製品を開発できる必要があります。そのためには商品企画、デザイン、試作、評価などの体制も必要です。そして取引先から言われたものを生産するのでなく、自分たちが開発した商品を取引先に提案して、OEMとして採用してもらいます。その際、自社製品として販売する旨を了承してもらいます。

このOEMの活用は販売力が弱い企業が自社商品を立ち上げる際に、工場を安定稼働させるために使える方法です。
 

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