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発明を守る方法と、権利を守る戦い その2 知財により優位を維持した例

発明を守る方法と、権利を守る戦い その1 特許とは何か、本当に知財を守れるのかで、特許、実用新案、商標の特徴と現在の特許制度の問題点について述べました。

現在の特許制度は、先進国の大企業が互いに技術開発を競っている状況に適した制度です。その場合、大抵は双方が多数の特許を権利化し、互いの特許を侵害し合っている状態となっていて、クロスライセンス契約により侵害の程度によりライセンス料を払っています。

これに対して、特許の権利を持つが事業を営んでいない場合、相手は一方的に特許を侵害している状態となり、訴訟は不利になります。近年はこういった特許を買って、メーカー相手に訴訟を起こすパテントトロールという人たちもいます。

一方、画期的な技術を開発しても、同時期に他の企業も開発していることも多く、双方がクロスライセンス契約する中で技術が拡散していきます。近年は日本企業が新製品を開発しても、後発の韓国、中国メーカーがより低価格の製品を市場に大量に投入し、結果的に市場を奪われるケースが多くあります。
 

世界市場で技術やノウハウを守る戦い

 
画期的な技術を開発しても、製品が市場に広がる過程でクロスライセンスや設備を通じて技術が流出し、日本メーカーはその優位性を失いました。半導体や液晶テレビ、DVDプレーヤーなどは、日本が多くの技術を開発したにも関わらず、現在は日本以外のメーカーが主に製造しています。
 
その中で、自社の技術やノウハウを戦略的に守り、利益を確保している2社の例をご紹介します。
 

三菱化学のDVD技術

DVDは日本がその大半の技術を開発し、特許の95%を日本企業が押えていました。しかし日本企業のシェアは下がり、今では家電製品売り場で日本製のDVDプレーヤーはほとんどありません。(最近はDVDプレーヤー自体をあまり見ませんが)
 
しかし日本企業が特許を押さえ、他国のメーカーがDVDプレーヤーを製造するには ライセンス料を払う必要があり日本製より高くなるはずです。なぜ日本メーカーより安い価格で売られているのでしょうか。

 

DVDプレーヤーのカギとなる技術は、ピックアップヘッドとディスク(メディア)です。海外メーカーは日本メーカーからピックアップヘッドを購入し、自社で開発したディスクドライブと制御基板をオリジナルデザインの筐体に組み込んでDVDプレーヤーを製造しています。つまりDVDプレーヤーは、モジュール型のものづくりです。
 
図5 DVDプレーヤーの内部(Wikipediaより)

図5 DVDプレーヤーの内部(Wikipediaより)
 

そしてピックアップヘッドなどのモジュール部品メーカーは、モジュール部品メーカー同士でし烈な争いをしています。競合に勝つためには、少しでも多く販売してコストを削減しなければなりません。そのため中国や台湾メーカーにも積極的に販売します。

そして中国や台湾の企業は、人件費が安く開発や管理などの間接部門が少ないため、元々の製造コストが低く、日本メーカーより低価格なDVDプレーヤーを大量に生産し、市場を席巻しました。
 
DVDメディアもかつては日本メーカーが市場を席巻していました。
「こんな難しいものアジアではできない」といわれていましたが、装置メーカーが設備一式を供給することで、アジアのメーカーが一斉に参入し価格競争に陥りました。
 
その結果、DVDメディアメーカーの三菱化学メディアは累積損失が1000億円になっていました。
 
【三菱化学メディア 製造から素材販売へ】
そこで同社はビジネスモデルを転換して利益の改善を図りました。まずDVDメディアの自社生産は中止し、台湾メーカーとパートナーを組んで生産を委託しました。
 
そして台湾メーカーが生産したDVDを三菱化学のブランドで販売しました。また技術のない新興国の企業には、製造レシピなどの製造基盤も販売しました。
 
三菱化学は、DVDメディアの記録層を構成する素材のAZO色素を自社で開発していました。高品質のDVDを製造するためには、AZO色素が不可欠でした。

まずAZO色素単体では販売せず、装置と合わせてセットで販売しました。さらにAZO色素を使用した時の製造条件を、レシピとして新興国に提供しました。さらに国際標準に働きかけ、DVDの互換性の基準にAZO色素を使ったものを組み込みました。

その結果、他の色素材料を使って製造した場合は、互換性を保証するための検証が必要になりました。そこで多くのDVDメディアメーカーはそのような手間を避け、AZO色素を使用しました。

つまり三菱化学は、AZO色素と設備をセットにしてブラックボックス化する反面、メディアの生産はオープンにしたのです。そしてメディアメーカーは、DVDメディアの生産に余力があれば、三菱化学のライバル企業にもDVDメディアを売ることを認めました。

その結果、AZO色素の販売が増え、三菱化学の利益が増える仕組みになりました。その2年後には同社の売上高営業利益率は15%に達しました。
 

日亜化学の知財戦略

【青色LEDの開発】
1993年日亜化学工業株式会社(以下、日亜化学)は、窒化ガリウムを用いて世界で初めて青色LEDを開発しました。この日亜化学は、四国の徳島県で蛍光灯やTVブラウン管の蛍光発光体をつくっている従業員350人、売上高170億円の中堅企業でした。
 
LEDは消費電力が非常に小さく寿命が長いことから、それまでも動作表示ランプなどに使用されていました。しかし赤と黄緑色しかありませんでした。青色ができればRGBの三原色が揃い、カラー照明ができます。そのため青色LEDの開発は世界中の企業や研究者が取り組んでいました。しかし次元は困難をきわめ、今世紀中の実用化は無理とまでいわれていました。
 
その青色LEDを四国の中小企業 日亜化学が実用化しました。青色LEDができれば、その補色の緑色と赤を組合せれば、白色をつくることができます。
 
【青色LEDから白色LEDへ】
しかし純粋な緑色発行する蛍光体の開発は困難を極めました。日亜化学は、あらゆる蛍光体を試してようやくYAG(Yttrium Aluminum Garnet)系蛍光体にたどり着きました。そして1996年世界に先駆けて白色LEDを発売しました。
今日では白色LEDの世界市場は4,782億円(2012年)に上ります。また使用用途も照明向けが年々増加しています。
 
図6 白色LED照明の世界市場(Wikipediaより)

図6 白色LED照明の世界市場(Wikipediaより)

 

今日では、白熱電球や蛍光灯に変わり広く使用されている白色LEDも、発売当初はオーディオなどの液晶表示のバックライト光源として売れる程度でした。白色LEDを使用することで液晶表示がカラーになるからです。それが携帯電話の普及に伴い、携帯電話の液晶のバックライト光源として急速に市場が拡大しました。
 

【市場が急激に拡大】
白色LEDの市場は大きく成長し、同社の売上高は、1995年から2005年までの10年間で10倍以上増加しました。
 
同社にとって幸運だったのは、最初から大きな市場があったわけではなく、白色LEDというイノベーションにより、カラー液晶や照明など新たな市場が形成され、それに伴い同社が成長できたことでした。もし最初から大きな市場があった場合、大手が積極的に参入して市場を奪われていた可能性もあります。
 
2018年の日亜化学のLEDの売上高は、24億ドルで世界シェア1位です。対して同時期に白色LEDの開発に成功した豊田合成のLEDの売上高は1.4億ドルで世界シェアは8位です。世界シェア2位以下には、ドイツのオスラム、アメリカのクリーなど日亜化学と同時期に白色LEDの開発に成功したメーカーの他に韓国や台湾の後発メーカーがあります。
 
日亜化学が激しい競争を勝ち抜いてシェア1位を維持しているのは同社の周到な戦略の結果でした。
 

【日亜化学の周到な戦略】
同社は、かつて市場の拡大期にそれに対応した多額の投資をためらって韓国勢に敗北した日本のDRAMから学びました。そしてイノベーションが繰り返される事業分野では、市場の拡大に対応した積極的な供給能力の増強が最も重要と考えました。そして白色LEDの発売当初から売上高の10%以上という台湾や中国企業に見られる果敢な設備投資を行いました。
 
その上で、いくら特許で技術を囲い込んでもいずれ競合メーカーがライセンス供与すると予想しました。そして白色LEDを安価に製造するメーカーが多数出現し価格競争に陥ると考えました。そこで市場の成長に合わせて、同社は3段階の戦略を立案しました。
 

  • 第一段階 黎明期

まだ白色LEDが市場に出回らず貴重で付加価値の高い黎明期は、技術を囲い込み、高い利益を上げて、その利益を研究開発と設備投資に投入しました。

具体的には、自社内で特許を保有し、ライセンスは供与しない、そしてダイス(半導体チップ単体)販売は行わず、パッケージ製品として自社で販売しました。大手にライセンスを供与しライセンス料で儲けるよりも、市場を独占しできる限り大きな利益を上げることを目指しました。
 
一方で同社は積極的に特許出願すると同時に豊田合成やアメリカの競合クリー等に対して、特許侵害訴訟を起こしました。四国の一中小企業の日亜化学が豊田合成に対して40件もの侵害訴訟を起こしました。その狙いは他の競合に対して日亜化学は怖い会社と思わせ、市場参入を思いとどまらせることを狙ったものでした。
 

  • 第二段階 市場拡大期

携帯電話の爆発的な普及により白色LEDの市場は急速に拡大し、需要を自社だけではまかないきれなくなってきました。アメリカのクリーやドイツのオスラムなど日亜化学と異なる方式で白色LEDを製造する企業が現れ、これらの企業が台湾や韓国メーカーにライセンス供与し、台湾や韓国で大量生産するようになりました。
 
この段階で日亜化学は、市場を独占することが困難になったと判断し、各社とクロスライセンスを締結しました。
 

  • 第三段階 普及期

白色LEDが携帯電話のバックライトから、液晶テレビ、自動車のヘッドランプ、照明器具へと用途が広がり、市場は急速に拡大しました。
 
図7 普及するLED照明
図7 普及するLED照明
 
その結果、価格競争が激しくなり、高性能なハイエンド製品でも年率10~20%のペースで市場価格が下落するようになりました。
 
その結果、携帯電話のテンキーや玩具など品質の要求されないものには台湾、韓国メーカー、携帯電話のバックライトや液晶テレビなど高輝度と均一性が要求される箇所に日亜化学が使われました。しかしこれも台湾、韓国メーカーの技術力が向上し、携帯電や液晶テレビにも使用されるようになりました。
 

  • 研究開発の強化

そこで日亜化学は、研究開発を強化しLEDの発光効率を高めて自動車のヘッドライトや工場の天井用照明など、より高付加価値な製品を開発しました。

さらに白色LEDの後の製品として、ハイパワー紫外光LED、車載用LD(レーザダイオード)の開発を強化し、産業機械やプロジェクター用、車載用など付加価値の高い分野の開発に取り組みました。
 
日亜化学の売上高は、2013年には3,096億円(連結)になりました。しかしLED市場は2009年から2016年にかけて約2倍近く拡大したため、日亜化学のシェアは2008年の19%から、2010年には15%に低下しました。しかし事業の主力を利益の低い普及品から高付加価値品にシフトすることで、利益を維持するとともに、世界シェアでトップを維持しています。
 
対して競合の豊田合成のLED事業の売上高は、2012年度の550億円から2014年度に約400億円に低下し、2016年には佐賀工場(佐賀県武雄市)での生産を終了しました。
 
多くの日本企業は、画期的な製品を開発してもグローバルでの技術流出を防ぐことができず、短期間で事業価値を失いました。日亜化学は、事前にそれを見越し、逆算して経営戦略や知財戦略を構築、一見無謀とも思える投資を行い、リーダー企業としての存在感を維持することに成功しました。
 

本コラムは2017年2月15日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

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経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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インターネット以来の大発明、ブロックチェーンその3 ~フィンテックとスマートコントラクト~

前回のブログで、ビットコインの歴史とその技術的特徴と課題について説明しました。ビットコインのブロックチェーン技術の特徴は、
 
【長所】

  • 完全にオープンでありながら改ざん不可能なセキュリティの高さ
  • すべての取引が記録され、それを誰でも見ることができる
  • P2P方式で、管理主体が不要なため、事故やトラブルに強い
  • 供給量が制限され、価値が低下しないため、通貨としての機能を持つ

【短所】

  • システムを維持しセキュリティを確保するためのマイニングが非常な努力を必要とする。マイナーへのインセンティブとマイナーの協力がなくなるとシステムを維持できない
  • 承認作業に時間がかかるため、即時処理には向かない
  • すべての取引を毎回記録するため、データのチェックと転送の頻度が高く、そのためシステムの維持コストが高い
  • ユーザー主体のシステムの為、全ユーザーにアップデートを強制できない。そのためアップデートは下位互換を強制される
  • 最初に設計したデータベースからシステムを拡大するのが困難

というものでした。
 

ビットコインからの分派とブロックチェーン技術

ビットコインからのハードフォーク

ブロックチェーンは、それぞれのブロックがそれまでの取引を記録し、個々のブロックを連結することですべての取引が記録され、すべてのブロックに個々の取引内容が記録されます。その一方、同時に二つのブロックが生成されると、ブロックの連結が分岐してしまいます。
 
以前の仕組みと互換性を保ったまま分岐することをソフトフォーク、互換性を失って分岐することをハードフォークといいます。ハードフォークが起きると、どちらか一方は別のブックチェーンとなります。
 
ビットコインの誕生後、何度もハードフォークが発生し、新たなビットコインがつくられました。
以下にビットコインからハードフォークした仮想通貨を示します。
 
図1 ハードフォーク
図1 ハードフォーク

 
【ビットコイン・キャッシュ】
2017年8月ハードフォーク
ブロックサイズが32MB(ビットコインは8MB)あるため、大量の取引データを一度処理でき、ビットコインより送金コストが低く送金時間が短縮できます。
 
【ビットコイン・ゴールド】
2017年11月ハードフォーク
ジャック・リャオ氏がビットコインマイナーの分散化とハッシュ関数のシステムを変更する目的でハードフォーク
 
【ビットコイン・ダイヤモンド】
2017年11月ハードフォーク。
総発行枚数がビットコインの10倍の2億1,000万枚、ブロックサイズを8MBに設定することで送金遅延とマイニングを分散化
 
【スーパー・ビットコイン】
2017年12月ハードフォーク
ブロックサイズが8MBで、スマートコントラクト、ライトニングネットワーク、ゼロ知識証明を導入した仮想通貨
 
他にもライトニングビットコイン、ビットコインゴッド、ビットコインブライベートなどたくさんあります。
 

その他の仮想通貨

仮想通貨は、ビットコインとビットコイン以外のアルトコインに大別され、アルトコインは、2018年時点で世界に2000種類以上あります。毎日のように、新しい通貨が誕生する一方で、人気がなくなったり問題が生じて消えていく通貨もあります。アルトコインにはほとんど価値がない詐欺のようなコインもあり、またセキュリティや取引承認の仕組みに脆弱性を抱えているコインもあります。
 
このように数多くのアルトコインがあるのはICO(Initial Coin Offering)が活発化したことが原因です。ICOとは、資金を調達したい企業が、独自の仮想通貨を発行し、投資家に販売し資金調達を行うことです。各企業が独自仕様の仮想通貨を発行したことでアルトコインの種類が増加しました。
 
代表的なアルトコイン
【リップル(XRP)】
時価総額が大きいメジャーなアルトコインで、リップル社という管理者が存在します。そのため決済スピードがビットコインよりも速いという特徴があります。
 
【ライトコイン(LTC)】
ビットコインに次いで2番目に世に出た仮想通貨で、ビットコインのソースコードを利用しているため、ビットコインと似ている点が多く、マイニングの仕組みもあります。違いはブロックの生成が2.5分間隔のため取引承認スピードが早い点です。
 
【イーサリアム(ETH)】
イーサリアムはプロジェクトの名称で、通貨の名称はイーサです。ブロックチェーン上にサブプログラムを書き込む「スマートコントラクト」の機能があります。これは一定の条件を満たすと自動的に通貨を発行する機能などで、保険契約や不動産売買などに活用できます。
 
【ネム(XEM)】
ネムはプロジェクトの名称で、仮想通貨の正式名称はゼム(XEM)です。しかし仮想通貨名称としてネムも多く使われています。取引の認証は「一定のネムを保有している」などシステムを支える重要度(Importance)によって参加できる仕組みです。ビットコインのPoW(プルーフオブワーク)に対し、PoI(プルーフオブインポータンス)と呼ばれています。
 

ブロックチェーン技術とは?

インターネットと同じくらい革新的な発明といわれていますが、このブロックチェーン技術はビットコインの誕生から進化した3つの段階があります。

  • ブロックチェーン1.0
  •  
    ビットコインなど通貨への適用

  • ブロックチェーン2.0
  •  
    通貨以外の金融分野へ適用(株式・ローン・クラウドファンディング・デリバティブなど)

  • ブロックチェーン3.0
  •  
    金融以外の分野への適用

 
図2 ブロックチェーン1.0~3.0
図2 ブロックチェーン1.0~3.0

 

このブロックチェーンはどのような特徴があるのでしょうか
 
《ブロックチェーンのメリット》

  • 改ざんがされにくい
  • ビットコインの例からわかるように改ざんには非常に強い仕組みです。それでも51%攻撃のような弱点は存在します。

  • 運用コストが安い
  • P2Pで集中管理型のサーバーを持たないため、運用コストが非常に低く送金手数料が低くできます。一方ビットコインでは承認の為膨大なコンピューターパワーを消費するプルーフオブワーク(PoW)という仕組みを用いています。そのためシステム全体で見れば運用コストが低いとは言い切れません。送金手数料もビットコインでは高騰しています。

  • 信頼システムの構築
  • 改ざんに強い点から信頼できる仕組みです。

 
《ブロックチェーンのデメリット》

  • 1秒あたりの取引できる数が少ない
  • ビットコインは取引の承認作業は10分間隔で行われています。最終的に取引が確定するのは、その後2ブロックが承認された後となるため、30分かかります。

  • 手数料が高い取引が優先的に記録される
  • ビットコインでは送金手数料の高い取引が優先されるため、早く手続きを完了しようとすれば手数料を高く設定しなければならず結果的に送金コストが高くなります。

  • 法整備が整いきれていない
  • 新しい技術だけに法整備が整ってなく、各国の法律に抵触するかどうかかが定かでありません。

  • データの肥大化よる、管理のしにくさ
  •  
    全ての取引をブロックチェーンに記録するため、時間の経過とともにデータ量が増大します。すでにピッコインは1TBを超えました。

 

ブロックチェーン技術は以下のルールで運営されます。

  • データベース内にあるデータと矛盾しているデータは追加できない
  • データベースにはデータを追加することしかできず、データベース内にあるデータは変更できない
  • データベース内のデータは、そのデータの所有者と結びついている
  • データベースは複製できる。また常に利用可能な状態にある
  • データベースを複製できるため、利用者全員が「今、最も正しいデータベースはこれだ」と合意する仕組みがないといけない
  • データベースを管理する中央機関がない

 
このブロックチェーンをデータベースとしてみた場合、データを管理する中央機関がないため、後からデータを追加・変更できないという問題があります。そのためデータの形式や記録のフォーマットなどは最初から完全なものを作り上げなければなりません。一方データベースの開発では後から変更することは珍しくなく、そうならないようにするためには開発に長い時間がかかります。
 
毎回データを上書きするため、データ転送、データの上書きが頻繁に発生します。システム全体の通信コストや通信インフラなどの維持費用が高くなります。
 
また中央機関がないため、管理者不在でも「今最も正しいデータベースはこれだ」という仕組みを構築し、悪意あるデータが紛れ込まないようにしなければなりません。また誰かが問題あるデータを入力したり、悪意あるユーザーを退出させるのも用意はありません。
 
管理する中央機関がないということはアップデートを強制できず、システムの改良が進まない弊害もあります。
 
このような特徴から「完全にオープンなパブリックチェーン」は、後々のアップグレードが不要でずっと同じ使われ方をするものに向いています。その点で通貨はパブリックチェーンに向いています。しかしデータベースとして使う場合は、管理する中央機関がない点が運用上様々な弊害となります。そこで取引の承認を限られたメンバーで行うプライベートチェーンが増えています。
 
【パブリックチェーン】

  • 不特定多数による承認作業が取引の正当性の根拠となるため、特定の個人の恣意による操作や改ざんが困難
  • 一方取引の承認に時間がかかり、取引の数も制約がある

 
【プライベートチェーン】

  • 取引の承認は一部のノードに限られ、予め管理主体によって指定されています。管理主体が存在している点でも「中央集権化」したブロックチェーンといえます。
  • 取引の承認をあらかじめ指定した信頼性が高い少数のノードで行うため、迅速な取引承認が可能で、正しい情報を記録するためのPoWのようなインセンティブも不要です。
  • 管理主体があるため、情報の公開範囲を指定するなどの管理ができます。このような特徴があるため、既存の金融機関などの業務を効率化するために活用されています。

 
図3 パブリックチェーンとプライベートチェーン
図3 パブリックチェーンとプライベートチェーン

 

DAO

DAO(Distributed Autonomous Organization)は、スマートコントラクトを応用する自律分散型組織のことで、経営が自動化され、市場参加者が仲介企業を介さずに他の参加者と連携することができます。
 
DAOの概念を図4に示します。組織としては、経営者がいる組織といない組織、労働者がいる組織と労働者がいない組織に分かれます。この中で、経営者がいて労働者がいる組織が伝統的な株式会社であり、経営者がいて労働者がいない組織がロボットを使う会社です。
 
経営者がいなくて労働者がいる組織がDAO(自律分散型組織)、そして、それが株式会社であれば自律分散型企業DAC(Distributed Autonomous Corporation)になります。
 
さらに、経営者がいない、かつ労働者がいない組織は、経営をブロックチェーンによって自動化され、しかもロボットも使うことで、AIによる完全自動企業となります。

 
図4 DAOの概念
図4 DAOの概念

 

【The DAO事件】
イーサリアム上に構築された自律型投資ファンドThe DAOのシステムにバグがあり、ハッカーに5千万ドル相当の仮想通貨「イーサ」が盗難に遭った事件です。原因はThe DAO側のコードに問題があったためです。しかしこれによりイーサリアムはハードフォークしました。
 
DAOの例としてコロニー(Colony)があります。これはフリーランスで働く人々がプロジェクトごとに直接協働することができるクラウドソーシングのプラットフォームです。提案と投票により意思決定を行い、貢献度に応じて評価します。
 

既存銀行の参入

銀行間決済、海外送金の課題

AさんがBさんにお金を送る場合、国内の銀行口座を使って送金するときは図6のようになります。

  1. Aさんが〇〇銀行の口座からBさんの△△銀行の口座へ1万円振り込む手続きをします。
  2. 〇〇銀行から△△銀行と日本銀行に「△△銀行へ1万円移動」という【メッセージ】を送信します
  3. 日本銀行は[〇〇銀行の口座から△△銀行の口座へ 1万円の振替]を行います
  4. 「Bさんの口座へ1万円を移動」というメッセージを受け取った△△銀行が、Bさんの口座へ着金処理します
  5. Bさんが△△銀行の口座に記入すると、「〇〇銀行のAさんの口座から1万円が入金」というデータが記録されます

 
図5 国内の送金の仕組み

図5 国内の送金の仕組み

 
つまり送金とはお金が実際に動くわけではなく、このような情報のやりとりのことです。そして間には日本銀行が介在しています。日本では銀行、信用金庫、信用組合などのすべての金融機関がオンラインでつながっていて、即日処理できます。これが「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」です。
 
海外送金の場合は、日銀のような世界の中央銀行がないため、各国ごとに大きな銀行が口座を開き、電子信号のやりとりを行っています。この電子信号のやり取りは海外送金ネットワーク「SWIFT」を用いて行われます。
 
また国際送金では、銀行は日本円、USドルも、ユーロなどの通貨が必要です。そのため国際決済を行う銀行は莫大な備蓄資金(ノストロ資金)を用意しています。
 
このノストロ資金を用意し中央銀行のような役割をする銀行を「コルレス銀行」といい、日本では三菱UFJ銀行がほぼ独占しています。
 
例えば日本にいるCさんが海外(アメリカ)のDさんに送金する場合

  1. CさんがZ銀行で国際送金の手続きを行います
  2. Z銀行から日本のコルレス銀行(三菱UFJ銀行)へ、「◯円を送金」という送金メッセージが送付します。
  3. 送金メッセージを受け取った三菱UFJ銀行は、米ドルの主なコルレス銀行(仮にシティバンク)へ送金メッセージを送付します
  4. [シティバンクが三菱UFJに開設しているJPY口座(各通貨のコルレス契約をしているノストロ口座)]へ三菱UFJ銀行がJPYを入金します
  5. シティバンクは、[三菱UFJがシティバンクに開設しているUSD口座(ノストロ口座)]からUSDを出金します
  6. シティバンクの口座からW銀行の口座へ、アメリカ独自の資金移動方法でUSDを振替ます
  7. 送金メッセージ受け取ったW銀行がDさんの口座へ、◯ドルの着金処理されます

 
図6 海外送金の仕組み
図6 海外送金の仕組み

 

この海外送金は、次のような問題があります。

  • 手数料が高い
  • それぞれの国の銀行は、独自の決済システムを使用しているため、その差を埋めるために人手の作業が発生し手数料が非常に高くなります。またコルレス銀行自体が少ないため競争原理が働かない点も手数料が高い原因です。また為替変動の影響を受けるとともに為替手数料もかかります。

  • 時間がかかる
  • いくつもの中継銀行を経由するため時差の問題や銀行の営業日時の問題もあり時間がかかります。また多くの人間の手を介すため、送金ミスの可能性もあります。一度送金が失敗すると1週間以上かかることもあります。

  • 手数料の不透明性
  • 多様なルートを通るため、途中で手数料が引かれてもわかりません。銀行へ着金したら入金金額が請求書よりも少ないことが起きます。

  • 送金状況の不透明性
  • 送金到着がいつになるかわからず、規制などのため中継地点で引っかかっても把握できません。

 
楽天銀行の場合、日本円を送金する費用は、4,750円かかります。

送金手数料
750円
受取人負担 外貨で送金 追加手数料:なし 手数料合計
750円
円貨で送金
追加手数料:円貨送金手数料:3,000円
手数料合計
3,750円
送金人負担
1,000円
外貨で送金 手数料追加:なし 手数料合計
1,750円
円貨で送金
追加手数料:円貨送金手数料:3,000円
手数料合計
4,750円

 

新興国の金融サービス

ケニアでは2007年から始まった個人向け送金システム「エムペサ」が広く普及し、2013年には国民の半数以上が利用しています。その背景には当時のケニアは銀行の支店が少なく、しかも口座開設にあたり厳しく個人認証を求め、口座開設費用もかかりました。
 
しかし識字率が低く、住民管理が行き届いていない地方では、個人認証も容易でなく、銀行口座を持てない人が多くいました。しかも都市への出稼ぎが増え、多額の現金を送るニーズがありました。
 

2000年代初め、英国ボーダフォンの社員が携帯電話を使って送金するサービスを考えました。ATMの発達したイギリスではニーズはないと判断されましたが、引き続いて同社の社会事業部門で検討されていました。そして2003年に開発途上国向けのマイクロファイナンスとして、ボーダフォン傘下のサファリコムで事業を開始しました。
 
当初はマイクロファイナンスとして計画されたエムペサは、個人間の送金にも便利なことが分かりました。そこで同社は現金を受け渡しするエージェントの育成に力を入れ、エムペサはケニアで急速に普及しました。

 
図7 エムペサの仕組み
図7 エムペサの仕組み

 

キャッシュレス化の進展著しい中国では、アリペイやテンセントの電子マネーサービスが広く普及しています。その理由は、中国では銀行サービスの普及率が低いことと、偽札が出回り現金での高額の支払いが大変なことがあります。加えて上記のモバイル決済は手数料が非常に安いため広く普及しました。
 
ただし中国は国家情報法があり、国が個人の情報を自由に監視・検閲できます。中国では体制に批判的な意見を言えばSNSのアカウントは停止され、モバイル決済も利用停止になるという面もあります。
 

リップル

シリコンバレーのRipple Labs, Inc.(リップル社)によって開発・運営され、リップルネットワークを通じてあらゆる資産価値をやり取りできる「グローバルな価値移動のための分散型台帳ネットワーク」を目指しています。Googleが出資しており、みずほフィナンシャルグループやSBIホールディングスがリップルを用いて実証実験を行っています。
 
このリップルはユーザーから資産を預かるとIOU(I owe you=借りている)というデジタル借用証書を発行します。ユーザーは、IOUをリップルネットワーク上のゲートウェイで所有権を移転します。そしてリップルネットワーク上のIOU取引は、信頼性の高い限られた数のノードで承認されるため取引承認は数秒で完了します。
 
この仕組みをプルーフオブコンセンサス(Proof of Concensus、PoC)と呼びます。
これにより効率的な国際取引を実現しました。日本で発行したIOUをリップルネットワークを介して取引し、そのIOUをアメリカで直ちに交換することができます。
 
一方ブロックチェーンはIOU保有残高や所有権を担保しても、IOUと資産の交換を保証するのはゲートウェイです。そのためゲートウェイの信頼性によっては資産の交換が担保されないというカウンターパーティリスク(契約の不履行)があります。カウンターパーティリスクを軽減するには、ゲートウェイを銀行など信頼性の高い機関に開設する必要があります。そこでリップルは大手金融機関とアライアンスを進めています。
 

中央銀行の参入

ケインズと金融政策

1930年代の世界恐慌の時、金利をどんどん引き下げて金融緩和しても、金利が無ゼロまで下がりきってそれ以上金融緩和が効かなくなるという状態になりました。これを「流動性の罠」と呼びます。これに対しケインズは政府の積極的な財政出動により景気を刺激する財政政策を主張しました。この財政政策は長らく景気対策の主流となりました。
 
しかし1970年代、アメリカで不況とインフレが同時に起きるスタグフレーションが発生しました。これに対し財政政策では効果を発揮しませんでした。実は戦後しばらくの間流動性の罠に陥らなかったのは、アメリカをはじめとした先進国で技術革新が常に起き、生産性の向上と市場の拡大が起きていたためでもありました。つまり旺盛な資金需要があるため、金融緩和が限界に行きつく可能性がなかったのです。
 

流動性の罠の復活

この流動性の罠がクローズアップされたのがバブル崩壊後の日本でした。バブル崩壊後日銀は1パーセントを切る水準まで金利を下げましたが、その効果は限られ手詰まりの状況になりました。経済学者ポール・クルーグマンは、ゼロ金利政策をデフレ懸念が払しょくするまでやり続けるよう提言します。
 
この日銀の金融緩和が効果を発揮しないことに対し、中央銀行が積極的に貨幣供給量を増やせばデフレから脱却できると主張する人たちがいました。現日銀総裁の黒田氏をはじめとするリフレ派の人たちです。こうして安倍政権下で日銀は貨幣供給量を2倍にして2%の物価上昇を2年で実現するという政策を打ち出しました。

 
日本はバブル景気とその崩壊という極端な状況を体験したため、その後20年間を失われた20年と呼び、ここからいかに脱却するかが最大の関心事でした。しかしドイツやアメリカと日本のGDP成長率を比較すると、現在日本が置かれた状況が決して特殊でないことが分かります。
 
デフレは自国市場の飽和と人口減少、海外への工場の移転という状況の中で必然の結果でした。これは先進国が成長の限界に到達したことを示しています。そしてこのようなデフレ下では、流動性の罠に陥り金利をゼロにしても消費が活発にならないことを今の日本は示しています。
 
実は日本はデフレ下でも景気は拡大していたのです。2002年から2008年まで日本は戦後最大の景気拡大期でした。しかし多くの人がそれを実感できなかったのは格差の拡大があったためでした。平均的な労働者の賃金は景気拡大期であっても下降し、これは日本もアメリカでも同様でした。今後、景気停滞期に入ると短い水準調整的なインフレが起きる可能性があります。
 
図8 景気の変動
図8 景気の変動

 

ゲゼルマネー

金利をゼロにまで下げても消費が停滞しているのは、現金が通貨であると同時に保有コストゼロの資産でもあるからです。将来の豊かさが実感できない時、人々はお金を使わずに貯めようとします。このような時、景気刺激策として20世紀初頭のドイツの経済学者シルビオ・ゲゼルは、紙幣にマイナスの金利をつけることを提唱しました。具体的には保有期間に応じたスタンプを購入し、紙幣にスタンプを押さなければ使えなくなるお金で、これがゲゼルマネーです。
 
そうなるとお金の価値がどんどん低下するため、紙幣を受け取った人は早く使うようになります。このゲゼルマネーは、その信奉者が1920年代後半にオーストリアとドイツで地域内通貨として実施しましたが、政府により禁止され、その後長らく日の目を見ることはありませんでした。
 
現在各国の中央銀行の間で再びゲゼルマネーが検討されています。金利はすでにゼロ金利にまで下がり、これ以上の金融政策は効果がなく、財政赤字の為財政政策にも限りある今日、図8のような景気後退局面で打てる政策が限られています。そこでゲゼルマネーを導入し、短期的に現金にマイナス金利をつければ、消費を活発にして効果的な景気刺激策が実現します。
 

フィンテックで変わる金融サービス

ソーシャルレンディング

レンディングクラブはネット上で「お金を貸したい人」と「借りたい人」を結びつけるサービス」です。ローンの申し込みをしてきた借り手の信用リスクを様々なデータからAランク(金利7.51%)からGランク(金利25.13%)までランク付けします。貸し手は25ドル単位で指定のランクへ融資します。
融資が返却されれば、金利から回収不能に備えた引当金と手数料を引いた残りを受け取ります。借り手はクレジットカードでの融資よりも低い金利で借りることができます。
 
図9 レンディングクラブの仕組み
図9 レンディングクラブの仕組み

 

日本のソーシャルレンディングmaneo(マネオ)は、2008年10月にサービスを開始し、当初は個人と個人をつなぐP2Pレンディング(ピートゥーピーレンディング)でしたが、十分に普及せず貸し倒れも発生したため、2011年に個人から法人をつなぐソーシャルレンディングへ変わりました。
これまでに5,000件以上、貸出実績は1,000億円以上です。ファンドの平均利回りは約6.9%でした。一方2018年12月には、ガイアファンディング向けの全ファンド20億円で延滞が発生しました。
 

少額送金

【トランスファーワイズ】
ターベット・ヒンリンクスとクリスト・カールマンという2人のエストニア人が創業した企業で海外送金を1回行う代わりに、2回の国内送金を行うことで海外送金を実現し、海外送金の手数料を大幅に下げることができました。これは図のようにイギリスからドイツに送金したい人とドイツからイギリスに送金したい人をマッチングし、それぞれトランスファーワイズの口座を経由することで、1回の海外送金を2回の国内送金で済ませてしまう方法です。
 
これにより、為替レートや海外送金の手数料が不要となり、通常の海外送金の1/8の費用で可能になりました。
 
図10 トランスファーワイズの仕組み
図10 トランスファーワイズの仕組み

 

マイクロペイメント

仮想通貨や電子マネーの利点は送金コストが非常に安いことです。従来のクレジットカード決済では3~10%、また1回の決済金額は100円以上などの制約があります。小規模事業者では10%近くかかることと、少額の支払いはクレジットカードは手数料が大きくなってしまいます。これを電子マネーや仮想通貨にすることで、従来は成り立たなかった少額の決済が可能になります。
 
例えば、デリバティブやオプションは、リスクをヘッジするための金融商品ですが、どちらかを予測する賭けの面があります。この賭けを少額で広く募集すれば大勢の人の予測結果を売るビジネスができます。またマイクロペイメントは少額の寄付や支援も可能にします。
 
【再生エネルギーの小口販売】
デジタルグリッド株式会社は自社で開発したコントローラにより家庭で発電した電気を電力系統に非同期接続することで電力システムの電圧・周波数同期制約から解放し、自由に再生電力を供給できるシステムを開発しました。
 
これによりローカルに地域間、あるいは建物同士で再生電力を売買できるようになります。また、その取引記録にブロックチェーンを活用しています。同社の提供するプラットフォーム上で電力の売りと買いをマッチングし、その記録をブロックチェーンに行います。同社は東京ガス、京セラ、三菱商事、住友商事、清水建設、日立製作所、古河電気工業、ソニーなどから合計7億円の出資を受けています。
 
図11 交流電力網の非同期連携の仕組み
図11 交流電力網の非同期連携の仕組み
図11 交流電力網の非同期連携の仕組み
図11 交流電力網の非同期連携の仕組み

 

PFMサービス

【デジタルエージェンシー(ネオバンク)】
自身は銀行免許を持たず、顧客が直接利用するサービスを開発し、実際の資金の移動は既存の銀行口座を使用するサービスです。
 
提供するサービスは取引履歴のリアルタイムでの確認や現在使用可能な金額の表示(将来発生する引き落としも考慮)、クレジットカードを利用していて口座残高が不足しそうな時に警告を出す機能や、貯蓄支援機能などがあります。また格安の海外送金なども提供するものもあります。
 
このようにユーザーが直接利用するサービスを提供し、口座の保持やデビッドカードは既存の金融機関を利用する点で、通信事業者のMVNO(仮想移動体通信事業者)に近いビジネスモデルです。
 
【デジタル専業証券】
アメリカのロビンフッドは、スマートフォンアプリ専用の証券会社で手数料無料の特徴があります。ロビンフッドは信用取引の際に発生する金利と顧客の預かり資産から生じる金利で稼ぐビジネスモデルです。
 

金融機関の土管化と、リープフロッグ

フィンテックにより様々な金融サービスが出現しましたが、その多くは顧客が直接利用するところで徹底的に顧客の使いやすさを考えたサービスを提供しています。
 
その一方、口座の管理や銀行間の送金などは既存の銀行を活用しています。これは銀行はコストをかけて口座の管理や送金業務を行いながら、付加価値の高いサービスはフィンテック企業が行うことになります。
 
既存の通信事業者がインフラに留まり付加価値の高いサービスはMVNOやIT企業が行う土管化と同じ現象が起きる可能性があります。
 
一方これまで述べたフィンテックが日本で発展しなかった原因は、日本ではATMをはじめとした豊富な金融サービスが提供されていることと、紙幣が十分に使用されていることが原因です。しかし世界中を見渡せば、高度な金融サービスが受けられ、自国通貨が信頼できる国は先進国に限られています。
 
発展途上国では

  • 銀行口座を持っていない、あるいは持てない
  • 銀行やATMが十分にない
  • 偽札が横行し紙幣が信用できない。また治安が悪くて現金を持ちたくない
  • 自国の経済力が弱く、自国通貨が海外では通用しない。自国通貨が暴落する。

という国は少なくありません。
 
そんな中で彼らは、都市や海外に出稼ぎに行き、あるいは移住し、地域や国をまたいでお金をやり取りする必要に迫られています。彼らの問題を解決するために、エムペサのような進んだ金融サービスが今後も新興国から生まれる可能性が十分あります。
 
また一部の国では、金融を管理することで国民を管理することに活用しています。
紙幣とは非常に匿名性の高い決済手段です。
これを電子マネー化すれば誰がいつ、何か買ったのか、克明にわかります。そしてキャッシュレス化した社会では、アカウントを停止するだけで社会生活が成り立たなくなります。
 

最後に 誰が金融のグーグルになるのか?

以下のような理由から今後私たちの生活において、投資や保険を含めた金融商品が非常に身近なものになると予想されます。

  • 海外取引の増加により、貨幣の選択が増える。一部は日本円で所有するが、一部は仮想通貨、一部は外貨で所有する
  • 少額での投資やソーシャルレンディングにより資金の運用手段が多様化
  • 使った分だけかかる保険など様々な保険商品が提供される、あるいはリスクヘッジのための保険商品が増える

 

その結果、今までのように財布と通帳を見ているだけでは、資産がどのくらいで、今月いくら使ったらよいのか、簡単には分からなくなります。そこでお金の管理、利用金額のアドバイス、貯蓄のアドバイスを行うAIを活用した高度なPFMが不可欠になります。
 
これはグーグルがインターネットの入り口である検索エンジンが抑えたことで個人の思考、好みを手に入れたように、高度なPFMを抑えれば、個人の購買から資産までの情報を手に入れることになります。これはまさに金融のグーグルであり、グーグル以上の企業価値となるかもしれません。

 
前回までのブログは、
インターネット以来の大発明、ブロックチェーンその1~ビットコインの成り立ちと特徴~
 
インターネット以来の大発明その2 ~ビットコインの技術、マイニングとプルーフオブワーク~
こちらからご覧ください。
 

本コラムは2019年4月21日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

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経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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インターネット以来の大発明その2 ~ビットコインの技術、マイニングとプルーフオブワーク~

インターネット以来の大発明その1はこちら
 
インターネット以来の大発明その1で、ビットコインの成り立ちについて書きました。ビットコインは政府の規制に縛られない自由な電子マネーという思想から生まれました。
 
このビットコインが用いたブロックチェーン技術は、インターネット以来の大発明と言われています。

これはどのような技術なのか?

暗号化技術という難しい話を、できる限りわかりやすく書いてみました。
 

ビットコインの技術とは?

決済システム

我々が個人間で送金する場合、金融機関は決済システムの一つです。例えば、図のようにAさんがBさんに10,000円送金する場合、実際に移動するのは金額の情報です。

AさんがC銀行に「D銀行のBさんの口座に10,000円送金する」ように依頼します。するとC銀行はAさんの口座の10,000円をD銀行のBさんの口座に移動するように依頼します。そしてBさんの口座の残高が10,000円増加します。

C銀行とD銀行の間では1日の間に多くのお金が送金されています。一日の終わりに最終的な金額の差をそれぞれの銀行間で移動して決済が完了します。
 
ビットコインを使えば、ブロックチェーン技術を用いて、世界中どこでも「インターネットがつながっていれば」、短時間に極めて低い手数料で送金ができます。その意味ではビットコインは、決済システムの1種です。日本の仮想通貨法では支払い手段と定義しました。
 
図1 従来の銀行間の送金
図1 従来の銀行間の送金
 

公開鍵と暗号鍵

ビットコインの口座は誰でも開設できます。ビットコインの秘密鍵は乱数発生器から生成した英数字で、これをビットコインプログラムに通すと公開鍵がつくられ、これがビットコインアドレスになります。

このように秘密鍵から公開鍵を作りますが、公開鍵からは秘密鍵が何かは分かりません。もし秘密鍵が他人に知られてしまうと、ビットコインアドレスが乗っ取られるので、絶対に他人に知られないように管理します。
 
AさんがBさんにビットコインを0.01BTC(約1万円)送金する場合、まずAさんのアドレスと0.01BTC送金するという情報を自分の秘密鍵で暗号化し、Bさんに送信します。この暗号化を電子署名すると言います。

受け取ったBさんは、この情報をAさんの公開鍵を使って復号します。Aさんの公開鍵で開くことができれば、確かにAさんからのものだということが分かります。ここまでの操作で、BさんはAさんの秘密鍵を知らなくてもできるという点が重要です。
 
図2 秘密鍵と公開鍵の仕組み
図2 秘密鍵と公開鍵の仕組み
 

ハッシュ関数

ビットコインで使われるハッシュ関数とは、次のような特徴を持った関数です。

  • 入力の文字列に対して、決まった固定長の文字列を出力
  • 入力の文字列が一文字でも違えば、出力の文字列は全く違ったものになる
  • 出力の文字列から入力の文字列を逆算することはできない
  • 入力の文字列の長さが変わっても、出力の文字列の長さは変わらない

 
図3 ハッシュ関数の特徴
図3 ハッシュ関数の特徴

P2Pネットワーク

ビットコインは、全体を管理するサーバーのないP2Pネットワーク(Peer to Peer)です。これはネットワークにつながっているコンピューター同士が個々に情報を交換する方式です。
 
図4 ピアトウピア・ネットワーク値は…
図4 ピアトウピア・ネットワーク値は…
 
先の例でAさんからBさんに0.01BTC送金したという情報は、ネットワークにつながっているすべてのコンピューター(ノードと呼ばれる)に送られます。すべての取引は、すべてのコンピューターにも送られ、取引は誰でも見ることができますが、それぞれのビットコインアドレスが誰であるかは分かりません。

今、ビットコインのプログラムをインストールすると、2009年から続いたすべての取引データ(元帳 何十ギガバイト)が送られてきます。
 

プルーフオブワークとマイニング

10分間ごとに取引記録をまとめたものをブロックと呼びます。ビットコインでは、この新しいブロックを承認するためには、誰よりも早く問題を解かなければなりません。これがプルーフオブワーク(Proof of Work)です。これはハッシュ関数と呼ばれる関数を用います。この関数は、入力した文字列に対して、異なる文字列を返す関数です。しかし答えの文字列からは入力した文字列が絶対にわからないようになっています。また入力した文字列が異なれば必ず異なる文字列を返すような関数です。
 
ビットコインは、取引記録を承認するために、取引履歴にある値を加えたものをハッシュ関数にかけて、得られたハッシュ値の先頭に0が一定数並ぶことを求めています。

ここで正解(0が一定数並ぶ)になるようなある値をナンス値と呼びます。
 
実際は、前ブロックのハッシュ値と前ブロックのナンス値、任意のナンス値、この3つを加えてハッシュ関数にかけます。そして出てきた結果、最初の〇桁が0となれば、そのナンス値が正解です。

これを誰よりも早く見つけた人が勝者です。

敗者は勝者のナンス値が正しいかを検証します。そのため、不正ができない仕組みになっています。このナンス値を探すには、総当たり戦でしらみつぶしに行うしか方法がありません。これはマイニングと呼ばれています。
 
図5 Proof of Workの仕組み
図5 Proof of Workの仕組み
 
マイニングは一定時間で完了するように難易度が調整されています。現在は競争が非常に激しくなってきて、工場のような場所で多数のコンピューターを稼働させており(発掘プール)、電気代の安い中国などが中心となっています。そして複数の発掘プールが共同でマイニングを行っています。
 
このようにマイニングは大量の計算を高速で行わなければならないので、大量のコンピュータと電力を消費します。ただし、マイニングの計算自体は、まったく意味がありません。
 
図6 実際のブロックのデータ構造
図6 実際のブロックのデータ構造
 
図7 マイニングツールの変化
図7 マイニングツールの変化
 
図8 マイニング・プールの仕組み
図8 マイニング・プールの仕組み
 
このマイニングの勝者は、12.5BTC(2019年6月のレートで、1570万円)のビットコインの獲得と送金手数料を得ることができます。そして得られたナンス値を加えた新しいブロックがすべての元帳に追加されます。

ビットコインの送金は、マイニングの勝者が送金手数料の高いものを選ぶことができます。一方、送金手数料が低い取引は、いつまでたっても承認されないため、ビットコインのルールでは、新規ページには一定量の特別なスペースを用意して置き、一定時間が経過しても承認されずに陳腐化しそうな取引を必ず埋めるように定めてあります。

つまり手数料を少なくすれば、時間はかかりますが必ず送金される仕組みになっています。
 
ビットコインの総発行量は2,100万BTCと予め決まっています。そしてマイニングのインセンティブは4年ごとに半減するように設計されています。2017年には25BTCから12.5BTCに半減しました。一方ビットコインが増えるに従い送金も増えるため、今後マイニングのインセンティブは、新規に獲得するコインより送金手数料に移行すると考えられています。
 

51%攻撃

ビットコインでは、マイニングで51%の投票権を獲得すればブロックを承認できます。つまり不正を働いてビットコインを獲得したければ、現在採掘している全プレイヤーの51%以上の計算能力を獲得すれば可能になります。2013年3月の時点で1秒間に3,500億回以上のハッシュ関数の総当たり戦が行われており、その51%以上1785億回以上の計算能力が必要です。これは1組織で実現できる規模ではなくなっています。
 
図9 マイナーの比率(2019年3月)
図9 マイナーの比率(2019年3月)
 

ハードフォーク

このマイナーの競争は、時として二人の勝者が生まれ、それぞれ異なったブロックを承認してしまうことが起きます。そうすると同じブロックで内容の異なるものが発生してしまいます。この場合はブロックの数が多い方を正しいとするというルールが決められています。
 
過去には偶発するトラブルにより2つのブロックが承認され、そこから新しいブロックチェーンが生まれました。これがハードフォークです。

あるいは、それまでの仕様では制約があるため、ハードフォークを行い新しい仕様のブロックチェーンを生成することがあります。

ビットコインは1ブロックのサイズが1MBのため、記録できる取引内容に制限がありました。これを解決するため、1ブロックのサイズを8MBにしたビットコインキャッシュが、2017年8月にビットコインからハードフォークしました。
 
図10 ハードフォークの原理
図10 ハードフォークの原理
 
図11 ビットコインキャッシュ
図11 ビットコインキャッシュ
 

ブロックチェーンとは?

ブロックチェーンとは、それぞれの取引を記録した元帳を連結して運用することです。この場合、今まで述べた暗号化やハッシュ関数を用いたマイニングの仕組み、P2Pネットワークも含めて呼ばれることが多いようです。
 
ビットコインはブロックチェーンを用いた暗号通貨のひとつです。

ビットコインの特徴は、完全にオープンなシステムでありながら、改ざんできない仕組みであることです。Mt.Goxの破綻などビットコインをめぐる問題は度々起きています。しかしビットコインの仕組みがハッキングされたことは今まで一度もなく、改ざんも起きていません。

ほとんどの問題は、ビットコイン取引所がハッキングされてビットコインが盗まれたものです。

銀行に何度か泥棒が入ってお金を盗まれましたが、偽札は一度も作られていない、ということです。問題は銀行であり、お金に問題はありません。つまりビットコイン自体のセキュリティに問題は起きていません。
 
ビットコインのブロックチェーン技術の特徴は、
 
【長所】

  • 完全にオープンでありながら改ざん不可能なセキュリティの高さ
  • すべての取引が記録され、それを誰でも見ることができる
  • P2P方式で、管理主体が不要なため、事故やトラブルに強い
  • 供給量が制限され、価値が低下しないため、通貨としての機能を持つ

 
【短所】

  • システムを維持しセキュリティを確保するためのマイニングが非常な努力を必要とする。マイナーへのインセンティブとマイナーの協力がなくなるとシステムを維持できない
  • 承認作業に時間がかかるため、即時処理には向かない
  • すべての取引を毎回記録するため、データのチェックと転送の頻度が高く、そのためシステムの維持コストが高い
  • ユーザー主体のシステムの為、全ユーザーにアップデートを強制できない。そのためアップデートは下位互換を強制される
  • 最初に設計したデータベースからシステムを拡大するのが困難

 
このようにビットコインは、サーバーのような管理主体がない分散型のシステムで、完全にオープンでありながら改ざんできない点で極めて優れたブロックチェーン技術です。

しかし、ビットコインの仕組みを維持するため、発行量の制限や、全く意味のない計算に大量のコンピュータと電力を使用するなど課題もあります。

ただし、ビットコインは「政府に管理されない電子マネーを自由に発行する」というパンドラの箱を開けました。これにより金融の世界は大きく変わる可能性があります。

 
 

前の記事はこちらをご参照ください。
インターネット以来の大発明その1~ビットコインの成り立ちと特徴~
 

本コラムは2019年3月19日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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インターネット以来の大発明ブロックチェーンその1 ~ビットコインの成り立ちと特徴~

ビットコインに代表される仮想通貨(暗号通貨)は、かつて価格が高騰し、ビットコイン長者が生まれるなど様々な話題を提供しました。

その一方、
「よくわからないもの」
「怖いもの」
というイメージがあります。

一方、仮想通貨に使われているブロックチェーンの技術は、第二インターネットに匹敵する発明といわれています。

このビットコインは、その生まれた背景から、それまでの通貨とは全く違うところを目指していました。
そこで仮想通貨を理解するために「デジタルゴールド」ナサニエル・ホッパー著 を参考にビットコインの成り立ちと特徴を書きました。
 

貨幣の役割と仮想通貨の生まれた背景

貨幣の役割

貨幣、つまりお金には以下の3つの役割があります。

  1. 価値の交換や支払の手段
  2. お金を使うことで全く用途や価値の異なるものを交換することができます。
    またお金を貸し借りすることで、過去や未来の価値を交換することもできます。

  3. 価値の尺度(ものさし)
  4. 価格をつけることでモノやサービスの価値が誰でも同じように理解できます。

  5. 価値の蓄積と保存
  6. 生もののような保存のきかないものも、販売してお金に変えることで、その価値を長期間保存することができます。

 
現代では、個人が生きていくのに必要なものを、自分ですべて手に入れることはできません。自分で手に入れた価値をお金に変えることで、生活に必要な様々なものを手に入れることができます。
 
ところが貨幣は、各国が独自に発行するため、国によってはお金の価値が不安定なため、これらの価値3つの機能が「満たされていない人たち」がいます。

さらにインターネットにより情報が世界中を短時間に駆け巡るようになり、航空運賃も低下したため、人やものが国を超えて移動するようになりました。その結果、海外を相手に事業を行う場合、上記の役割が十分に満たされないことがあります。
 

満たされない人たち

新興国では、自国の脆弱な経済基盤や政府の失策により貨幣価値が不安定で短時間に下落することがあります。これは国際間の信用の低下にもつながり、自国通貨では海外企業との決済もままならないこともあります。
 
日本では、金融機関同士のシステムが連携しているため、異なった銀行同士でも即日決済が行われています。しかし海外では金融機関同士の送金に数日かかることは珍しくありません。

さらに国際送金では、日本でも海外銀行との決済窓口のある金融機関はメガバンク等限られており、他の金融機関はこれらの決済窓口のある金融機関を経由するため、時間がかかり、手数料も高額です。

つまり、海外との取引では、交換や支払の手段として十分とはいいがたい点があります。
 

貨幣価値が不安定な国々

経済政策の失敗などで大幅なインフレに見舞われている国では、貨幣の持つ「価値の保存機能」が極めて脆弱です。年率100%以上のインフレでは、もし資産を自国の通貨で持っていれば、何もしなくても短期間で資産価値はゼロになってしまいます。
 
図1 ジンバブエドルの価値は…
図1 ジンバブエドルの価値は…(Wikipediaより)
 
このような国では、手に入れた富は直ちに貨幣以外の資産に変えなければなりません。例えば金は産出量が限られ、価値が大幅に下がることはなく、しかも容易に換金できるため価値の保存手段としては優れています。

日本のように自国通貨が国際的にも信用され、通貨の発行量も安定し資産が大幅に減る心配のない国では、自国通貨に対し不安を持っている人はいません。しかし日本のように自国通貨が世界的に信用のあるのは先進国の一部で、それ以外の国々では自国通貨は世界で信用されておらず、国民の自国通貨に対する信用も高くありません。さらに自国通貨の価値は、その国の経済状況や政策により左右されます。つまり自分の財産の価値が政治に左右されます。

このような背景から、自分の財産を自国通貨で持つことを嫌がる人たちがいます。

さらに欧米では、国家権力に対する不信から、私的財産に対する制限を嫌悪し、個人の自由・自立を重んじるリバタリアニズムを標榜するリバタリアンと呼ばれる人たちがいます。彼らは個人の財産を貨幣で持てば、その価値は国の通貨発行量により変わるため、これを嫌悪しました。

このような思想から
「中央銀行の呪縛から解き放たれた通貨」
という構想が生まれました。この通貨は、以下の特徴を有しています。

  • 完全な匿名性
  • 限りなく低い取引コスト
  • 簡単な送金

 

ビットコインについて

ビットコインとは、貨幣のような紙幣や硬貨などの実態のない電子的な貨幣です。

一般的な貨幣のように中央銀行が発行せず、ビットコイン財団が管理・運営するオープンソースプログラムにより運用されています。そのため円やドルなどの通貨との交換レートは保証されていません。

このような電子的な貨幣を仮想通貨(又は暗号通貨)と呼ばれます。
 

黎明期

ソフトウェア技術者達の中でリバタリアン的思想を持つ人達が、政府の介入の及ばない貨幣に取り組んでいました。1997年ごろにはそのような貨幣に取り組むオンラインコミュニティがいくつかできて、そのうちのひとつ「サイファーパンク」で、電子貨幣をめぐる様々な取組が試みられていました。

1997年にはアダム・バックがコピー制限を可能にするハッシュキャッシュという技術を発表しました。

1998年には、デジタル通貨「ビットゴールド」「bマネー」がつくられました。

しかし現実の世界に適用しようとすると様々な障害が発生しました。メンバーの間には「デジタル通貨をつくるというのは無理ではないか」というムードになってきました。
図2 ビットコイン黎明期のプレイヤー
図2 ビットコイン黎明期のプレイヤー
 
2008年8月サトシ・ナカモトという人がサイファーパンクの流れを引き継いだコミュニティに9ページの論文を投稿しました。

そこには完全にオープンな環境でも偽造ができない方法が書かれていました。この方法は電子通貨で発生した取引をネットワークに参画するすべてのコンピューターに記録するものです。この記録を承認するには難しい暗号を解かなければならず、一番最初に暗号を解いたものには報酬として、一定額の電子通貨が与えられます。

もし取引を偽造しようとすれば、すべての取引の記録を書き換えなければなりません。そのような手間をかけるぐらいなら、暗号を解いて報酬を得た方が楽です。

この電子通貨をサトシはビットコインと名付けました。
 
2009年1月、この論文を見たプログラマーのハル・フィニーはこの方法がとても気に入り、サトシと共に熱心にこのビットコインのプログラムに取り組みました。

2009年5月ビットコインフォーラムを見たヘルシンキ工科大学のコンピューター「オタク」マルッティ・マルミが、サトシに協力を申し出て、ビットコイン・フォーラムのウェブサイトの管理を行い、ロシア語に翻訳したりしました。

2010年4月リバタリアンの思想を持ちプログラマーのギャビン・アンドレセンは、ビットコインの分散型ソフトウェアとオープンソースに興味を持ちフォーラムに参画しました。そしてサトシ、マルッティ以外にコードに変更できる人になりました。

2010年7月、カリフォルニア大学を中退したジェド・マケーレブは、個人が大容量のファイルをやり取りできるサービスを立上げました。このサービスは大ヒットしましたが著作権に違反しているとして全米レコード協会から訴えられ、マケーレブは和解金を支払い会社を解散しました。その後、ビットコインの記事を読んだマケーレブは、ピッコインの取引所マウントゴックス(Mt.Gox)を開設しました。
 

発展期

2011年3月、ビットコインの認知が広まるにつれ、マウントゴックスの取引量は増大しました。当時マウントゴックスの支払いは、金融機関を介さず、マケーレブのペイパル個人アカウントで行っていました。ビットコインが売れれば売れるほど、マケーレブのペイパル個人アカウントからお金が出ていきますが、入金にはしばらく時間がかかるため、マケーレブの口座からお金がどんどん出ていきました。

これに手を焼いたマケーレブは、ウェブホスティング会社を経営している日本在住で24歳の「オタク」マルク・カルプレスに協力を要請しました。

その後度重なるハッカーの侵入に手を焼いたマケーレブは、マウントゴックスを売却する気になり、マルクにマウントゴックスの購入を打診しました。マルクはマケーレブからマウントゴックスをタダで購入しました。

当時マウントゴックスの顧客数3000人、収益が10万ドルでした。しかし現実世界でビットコインが使えるところはほとんどなく、顧客は興味本位で買っているだけでした。

2011年1月、ヒッピーの両親を持ち、リバタリアンで無政府主義者のサーファー ロス・ウルブリヒトは、違法薬物のような普通のオンライン市場では買えないものを販売するサイトをつくろうと考えました。この闇サイト「シルクロード」は決済手段としてビットコインを使用しました。

一方ビットコインが広まるにつれ、利用者の間でビットコインを買うために銀行送金が煩わしいという声が出ました。ビットコインの取引は10分で完了するのに、マウントゴックスのある日本への送金に丸1日かかるからです。

2012年2月、これを解決するために、ニューヨークの若者チャーリー・シュレムは顧客に代わってマウントゴックスへの送金を行うビットインスタントを創業しました。

こうしてビットコインの売り買いは活発になりましたが、実際の取引の大半は、違法薬物の闇サイトシルクロードが占めていました。

しかしロス・ウルブリヒトは、2013年10月にFBIに逮捕されました。

さらに2014年の1月にはビットインスタントのチャーリー・シュレムが、シルクロードの取引に関わった疑いで逮捕されました。

2013年10月湖南省出身で30歳のファン・シャオユは、中国初のビットコイン取引所BTCチャイナを創設しました。中国系アメリカ人ボビーリーがBTCチャイナの経営に加わりました。ボビーの弟は、グーグルの技術者で仮想通貨ライトコインを開発したチャーリー・リーでした。ボビーはビットコインの決済のために、テンセントとの提携に成功、これにより中国は世界で最も簡単にビットコインが買える国になりました。

「どんなものでも賭け事の対象にしてしまう無類の賭け事好き」な中国人の多くは、国外への資金の移動が制限され、国内しか投資対象がないこともあって、ビットコインに飛びつきしました。中国での取扱量は急激に増大し、短期間で世界最大の取引国になりました。

ところが2013年12月、中国政府は突如ビットコインの取引を全面的に規制しました。これによりビットコインの価格は暴落しました。

2014年2月マルク・カルプレスの経営するマウントゴックスが破綻しました。マルクは度重なるハッキングで喪失したコインを顧客のコインで穴埋めし続けていました。そして遂に事業継続が困難となりました。
 

現在

2014年2月マウントゴックスの破綻で18,280円にまで下落したビットコインは、その後規制や取引所の破綻などに価格が乱高下しながら、2万円台から6万円のあいだを上下していました。

2017年に入ると取引が過熱、2017年1月には110,986円になりました。その後も価格は上昇を続け、2017年12月には2,227,388円と1年間で23倍近い値上がりとなりました。

しかしビットコインが決済に使えるところは微増しているものの、実際の用途はほとんどが投資目的でした。

その一方で、ビットコインから分裂したビットコインXT、ビットコイン・アンリミテッド、ビットコイン・クラシックがリリースされました。種類が増えることは投資対象としては選択肢が増加しましたが、通貨としての利便性は低下しました。
 

図3 ビットコインの価格の変化
図3 ビットコインの価格の変化
 

2008年 10月 サトシ・ナカモトビットコインに関する論文発表
2009年 1月 最初のビットコイン誕生、ハル・フィニー参画
5月 マルッティ・マルミ参画、ロシア語のウェブサイトなど構築、フォーラムが活発に
10月 交換レート1BTC=0.07円
2009年リーマンショック FRBが大手銀行を救済
2010年 4月 ギャビン・アンドレセン(プログラマー)参画
5月 初めてビットコインでピザの代金を支払う(25ドルを10,000BTC)
7月 ジェド・マクレーブがマウントゴックスを立ち上げ、ペイパルでビットコインが購入可能に
2011年 1月 ロス・ウルブリヒトが違法薬物闇サイト「シルクロード」を立上げ
3月 ジェド・マクレーブがマウントゴックスをマルク・カルプレス(日本在住)に売却
交換レート1BTC=74円 サトシがフォーラムから完全に消える
6月 マウントゴックス急成長する。最初のハッキング被害でビットコイン盗難
交換レート1BTC=1,401円ss
2012年 2月 チャーリー・シュレムがビットインスタント創設、エリック・ボーヒーズが出資
5月 エリック・ボーヒーズがビットコインを使った賭博サイト「サトシ・ダイズ」を開設
10月 アルゼンチン出身ウェンセス・カサレスがビットインスタントに投資
11月 最初の半減期採掘報酬50BTC→25BTC
最大の市場はいまだシルクロード
2013年 3月 ビットコイン採掘専用ASICが開発される
バグにより最初のハードフォーク発生
交換レート1BTC=4,597円
キプロス追加危機、ビットコイン価格上昇
6月 エリック・ボーヒーズ「サトシ・ダイズ」を売却
10月 ロス・ウルブリヒトが逮捕「シルクロード」閉鎖
ボビー・リーとファン・シャオユがBTCチャイナを上海で創業
支払はテンセントと提携、中国の取引量が世界最大となり価格が高騰
12月 交換レート1BTC=110,000円
中国政府がビットコインの取り扱いを禁止、取引所が一時的にサービス休止
2014年 1月 チャーリー・シュレム違法取引の疑いで逮捕
中国政府の規制
2月 マウントゴックスが破綻
交換レート1BTC=18,280円
6月 マイナーGhash.ioの採掘力が51%に達し、51%攻撃のリスク
Ghash.io内のマイナーが他のマイニングプールに移ることで危機は回避
交換レート1BTC=60,932円
9月 コインチェックがサービス開始
12月 マイクロソフトがビットコインでの受付を開始
2015年 8月 ビットコインXTが分裂して、フォーク版をリリース
12月 フォーク版ビットコイン・アンリミテッドがリリース
2016年 2月 フォーク版ビットコイン・クラシックがリリース
3月 DMM.comビットコイン決済を開始
7月 2回目の半減期25BTC→12.5BTC
8月 世界最大の取引所bitfinexがハッキングで12万BTC(約69億円)を盗難
2017年 3月 交換レート1BTC=145,790円
4月 日本で仮想通貨法が施行、ビットコインを通過でなく支払い手段の一つと定義
8月 ハードフォークによりビットコイン・キャッシュが誕生
12月 交換レート1BTC=1,942,438円
2018年 1月 即時・手数料無料決済のLightning Networkを利用した初めての物品購入
コインチェックがハッキング被害により580億円盗難される

 
図4 ビットコイン年表
 
こうしてリバタリアン達による政府が関与しない通貨は、何人かの熱心な努力により運営され、違法薬物取引で実際に便利なことが分かりました。

しかしその後は、通貨としてよりも「何かわからないけど将来値上がりするもの」という点が、投資(投機?)対象として、広く買われるようになりました。

さらにアルゼンチンのように自国通貨の暴落に見舞われた国の富裕層などが購入しました。

こうしてビットコインは度重なるハッキングや暴落に見舞われながら今でも取引されています。

このビットコインの技術については「インターネット以来の大発明その2」 ~ビットコインの技術、マイニングとプルーフオブワーク~ を参照願います。
 

本コラムは2019年3月17日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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過去のイノベーションとデジタル時代のイノベーションについて ~まとめコラム~

中小企業、製造業の今後の経営を考える上でイノベーションが重要なのは、自社がイノベーションを起こすという意味ではありません。

イノベーションにより今までの市場が急激になくなってしまうことがあるからです。
その結果、自社の主要取引先の事業が減少すれば、自社の存続にかかわることもあります。
 

そこで弊社では、

ブログ 製造業の経営革新 ~30年先を見渡す経営~
経営勉強会 未来戦略ワークショップ

などで度々イノベーションを取り上げています。

そこで本コラムでは、それまでの記事をまとめて、イノベーションとは何か、日本企業のイノベーションの例、画期的なアイデアとそれを実現する方法、そしてイノベーターを脅かす模倣者の戦略などについて述べます。
 

絶好調だった時に感じた危機感

 

10万分の1グラムの歯車で有名な愛知県の樹研工業株式会社は、創業者の松浦会長が東北に出張に行った際、新幹線の隣に座った外国人から携帯電話事業のことを聞きました。まだバブル崩壊前、日本の電機メーカーが絶好調だった頃です。

携帯電話をきっかけに欧米の家電業界に興味を持った松浦会長は、現在欧米の家電メーカーがどうなっているのか調べました。

その結果、RCA、GE、フィリップスなど名だたる電機メーカーが続々と家電から手を引いていることが分かりました。すでに家電は人件費の安い新興国へ生産拠点を移していたし、そもそも大企業が儲かる商売でなくなっていました。
 

かつての名門 RCA(ウイキペディアより)

かつての名門 RCA(ウイキペディアより)


 

当時、樹研工業の顧客の大半が家電などの弱電メーカーでした。危機を感じた松浦会長は、時計の駆動部に使う小型のプラスチック部品のサンプルを展示会に出展しました。これが功を奏して、時計メーカーからの受注が増えて、家電の比率を減らすことができました。

その後、急激な円高により家電メーカーは一斉に工場を海外に移転、家電の下請けの中小企業は大幅な受注減少に見舞われました。

間一髪で樹研工業は間に合いました。

1980年代の急激な円高は、多くの日本企業が海外に工場を移転し、国内産業の空洞化が急速に進行しました。
 

過去の事業環境の変化

 

このような産業構造の変化は過去にも何度もありました。

戦後、日本が成長するためにはまず鉄鋼、化学、発電などのインフラの充実が不可欠でした。そのため、重工業、化学工業の振興が国策として進められました。

工作機械の名門 池貝鉄工

工作機械の名門池貝鉄工(現在、株式会社池貝)は、発電所などの大型部品を切削加工する機械を得意としていました。しかし産業の主流が、重工業から自動車や家電などに代わったことと、コンピューターを使ったNC工作機械への転換に乗り遅れ、経営が悪化し、2001年に東京地方裁判所に民事再生を申請しました。
 

池貝鉄工所 第1号旋盤 (ウイキペディアより)

池貝鉄工所 第1号旋盤 (ウイキペディアより)


 

一方、近年はデジタル技術の発達により、既存製品が短期間で市場を奪われるケースがあります。

その顕著な例が、カメラのデジタル化です。

本業消失の危機 富士フイルム

1975年コダックが世界で初めて実現したデジタルカメラは、ソニーが1981年に「マビカ」を発売、1994年にはカシオが「QV10」を6万5千円で発売するなど、各メーカーが開発に取り組んでいました。

しかし画質はフィルカメラに及ばず、価格も高価なため普及は限定的でした。写真フイルムの分野でコダックと世界を2分していた富士フイルムの社内でも、

「デジタルカメラは、フィルカメラには及ばない」

「フイルムはあと10年持つのではないか」

といった楽観論がありました。

しかし1999年から市場は急速にデジタルカメラに置き換わっていきました。この急激な変化に、富士フイルムはなんとか対応し、事業分野の転換に成功しました。
 

変化への対応について、池貝鉄工と富士フイルムについては、以下のブログに書きました。

「変化への対応 工作機械の名門 株式会社池貝の変遷と富士フイルムを襲ったデジタル化」
 

<h3>ゲームのルールが変わる危機

 

一方、ビジネスのルールが変わると今まで強みとしてきたものが生かせず、苦境に陥ることがあります。

1970年代のオイルショックによりガソリン価格が上昇し、アメリカでは車はそれまでのパワーと大きさから、燃費へと顧客が重視する点が変わりました。

これにより燃費のすぐれた日本車の輸入が急拡大しました。

ゲームのルールが変わる、コモディティ化

同様にゲームのルールが変わる例として「コモディティ化」があります。

コモディティ化が起きると、性能において商品を差別化することが難しくなり、価格競争が激化します。
 

オーバーシューティング


 

コモディティ化は、液晶テレビ、パソコン、そしてスマートフォンにも起きています。

このコモディティ化について、以下のブログに書きました。

「ゲームのルールが変わる、コモディティ化」

コモディティ化で生じる価格競争の激化「価格戦争」

一方、最初からキャッチアップ戦略を取る中国企業は価格という武器を積極的に生かして戦いを挑んできます。これは価格競争でなく、「価格戦争」と呼ぶべきものです。

この中国企業の価格戦争については、以下のブログに書きました。

「薄型テレビ、半導体…、負けるべくして負けている!! 価格戦争という戦いを知らない日本企業」

周到に用意された日本の価格戦争の例

この価格戦争は、過去には日本でも起きています。それは周到に用意されたものでした。

二輪車市場シェア2位、万全の財務体質のトーハツがなぜ短期間に苦境に陥ったのか、以下のブログに書きました。

「なぜ、万全の財務体質のトーハツが倒産し、ホンダが飛躍したのか?」

自動車はコモディティ化するか

一方、自動車がコモディティ化しないのは、自動車はオーナーのステータスを表すからです。その点で自動車はロレックスなどの腕時計と同じ要素があります。

つまり機能だけでなく、ブランド価値の要素があります。

しかしこれが自動運転かつカーシェアが主流になれば、どうなるでしょうか。

この自動運転とコモディティ化について、以下のブログに書きました。

「自動車は本当にコモディティ化するのか、その時、日本の自動車メーカーに競争力はあるのか?」
 

イノベーションのジレンマ

 

コモディティ化する最大の原因は技術の進歩です。

技術の進歩により、製品の性能が顧客のニーズを「追い越してしまう」と、性能で差別化できなくなります。

そのうち、現在の製品よりも性能の低い、それまではライバルたり得なかった製品でも顧客にとって使えるようになります。こうして、それまではライバルみなされなかった製品が強力なライバルとなり、既存の企業を追い落としていきます。

これがイノベーションのジレンマです。
 

持続的な改良と破壊的技術

持続的な改良と破壊的技術


 

このイノベーションとは何か、その本質について、以下のブログに書きました。

「イノベーションの本質とイノベーションを起こす方法を考える」

ローエンド製品の破壊的イノベーション ホンダのアメリカ進出

このイノベーションのケーススタディとして挙げられるのが、ホンダの二輪車のアメリカ進出です。当初持って行った250cc、350ccの二輪車は、ハイウェイの発達したアメリカで、長時間の高速走行に耐えられずオイル漏れが頻発し、販売は不振でした。

このとき現地の駐在員が日常の足代わりに使っていたスーパーカブが現地のバイヤーの目に留まります。

そしてスーパーカブがティーンエージャーや大学生の足として好評でホンダは窮地を脱しました。

このホンダのアメリカ進出については以下のブログで触れました。

「危機がなければ、イノベーションは起きない?「成功の罠」から抜け出す方法」

ローエンド製品の破壊的イノベーション 日産の例

日産は1960年代アメリカに進出します。同時期トヨタはクラウンをアメリカに輸出しましたが、評判が悪くアメリカから引き揚げていました。

日産が輸出したダットサン210は非力でトラブルが続き、アメリカでのビジネスは苦戦しました。これを救ったのが小型トラックでした。日産の小型トラックは、アメリカの自動車メーカーにとって破壊的イノベーションとなりました。今でもダットサン・トラックはアメリカでは広く認知されています。

この日産の北米でのイノベーションについて、以下のブログに書きました。

「『フェアレディZの父』片山豊氏の北米事業は破壊的イノベーションだった」
 

イノベーターと画期的なアイデア

 

一方、イノベーションを起こすには、やはり画期的なアイデアも必要です。

アイデアを生み出す力は、ある程度は訓練によって培うことができます。逆に言えばトレーニングしなければ、どんな優秀な人でもアイデアを生み出すことは困難です。

そして今まで画期的なアイデアを生み出してきたイノベーターたちは、意外なことに取り組んでいました。

この偉大なイノベーターが取り組んできた方法について、以下のブログに書きました。

「ひらめきを生むには?偉大なイノベーターが取り組んできた方法」

アイデアだけでない、イノベーターに必要なもの

一方で偉大な発明やイノベーターはひらめいたアイデアを実現するまでに非常な苦労をしています。

ジェームズ・ダイソンはサイクロン掃除機を完成させるのに5,000回以上の試作を行いました。優れたアイデアを実現するためには、熱意と努力が不可欠です。

この偉大な発明家の努力と、珍発明に終わってしまったアイデアについて、以下のブログに書きました。

「アイデアだけでない!発明の成功と失敗を分けたもの」
 

イノベーションは不要、模倣者の戦略

 

一方、多大な努力をつぎ込んで画期的な製品を開発しても、後発企業にキャッチアップされ、市場を奪われてしまうこともあります。むしろ本当に追いつく実力のある企業は、先頭に立って進むより、追いかけることを戦略とることもあります。

松下電器(現 パナソニック)の創業者 松下幸之助氏は、

「うちはソニーという研究所が東京にありましてなあ、ソニーさんがね、何か新しいものをやってね、こらええなとなったら、われわれはそれからやりゃあいい」

と語っていました。

このイノベーターと模倣者の戦略について以下のブログに書きました。

「イノベーターの敗北、真の勝者は模倣者か?」

 

累々と横たわるイノベーションの亡骸、それでもイノベーションから目を離さない

 

これまでにiPhoneのように画期的な製品が市場を一気に変えてしまう場合もあれば、このスマートフォンが既存の市場、例えばポータブル・カーナビ市場を消滅させてしまう場合もあります。

その一方でワンセグTVのように優れた技術・商品を開発しても、思ったように市場が広がらないこともあります。

振り返れば、モトローラの衛星電話イリジウム、アメリカのネットスーパーWebvan、そして一時は企業も出店したりして盛り上がった仮想世界のゲーム「Second Life」など、様々な製品やサービスの亡骸が死屍累々と横たわっています。
 

ネットスーパーwebvanの配送車(ウィキペディアより)

ネットスーパーwebvanの配送車(ウィキペディアより)


 

そしてGAFAと呼ばれるプラットフォーマーも決して安泰ではありません。

グーグルの検索エンジンは、何か調べようとするとアフィリエイト目的のサイトが上位に上がってきて使いやすいとは言えません。学術関係の人は、海外の別の検索エンジンを使うようです。グーグルでさえ将来本当に優れた検索エンジンに席巻されるかもしれません。

それはデジタルの世界ではごく短期間に起こるかもしれません。

今後はより一層、短期間に新商品や新サービスが生まれ、市場が大きく変わる可能性があります。

従って、常に市場や技術の動向に注目し、市場の変化の傾向をいち早く捉えて、自社に影響するようなことがあれば何らかの用意をする必要があります。
 

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

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デジタル時代のマーケット

破壊的な攻撃者は予想外のところからやって来る

ベルカーブからシャーク・フィンへ
 
デジタル技術の進展により、新市場開拓と普及の速度が急速に早くなっています。
その理由は

  • 多くの機能をコンピューターで実現できるようになり、実現するまでの時間が急速に短くなった
  • SNSなどの普及により、人々に知られるまでの時間が急速に短くなった

などです。
 

その結果、従来は徐々に市場に浸透し、なだらかに減退するベルカーブから、瞬時に立ち上がり、急速に衰退するシャーク・フィン・カーブに変わってきました。
 
図1 シャーク・フィン・カーブ
 
図1 シャーク・フィン・カーブ
 
マイクロソフトは2010年に家庭用ゲーム機Xbox360用モーションセンサー「キネクト」を発売しました。キネクトは、ゲーム中にプレイヤーの動作、音声、顔を認識することで、全く新しいゲーム体験を提供しました。 
キネクトは発売わずか60日間で80万台を売り上げる大ヒットになり、発売後1年間で2,400万台を売り上げました。しかし発売から半年しなうちに売上は急減し、発売から10か月で使命を終えました。
 

最高益を出した数年後に破たんした「ピンボールマシン」

このように急速に市場が立ち上がる今日、攻撃者は予想もつかないところにいることがあります。 
アメリカでは、ゲームセンター用に長年ピンボールマシンが人気でした。ピンボールマシンは、それぞれの台のわずかな癖を読み取って、「エキストラボール」を稼いだり「リプレイ」を獲得したりします。このからだを使って技術を競う点が大人には好評でした。
 
1980年代アーケードゲーム場の繁栄と共に売上は増加し、1993年には、ピンボールマシンメーカーは13万台を販売し、最高値を記録しました。
 
図2 ピンボール(ウィキペディアより)
図2 ピンボール(ウィキペディアより)
 

ビデオゲーム機の攻撃
 
1970年代アタリ社は、アーケード用の卓球ビデオゲーム「ポン」を発売、好評を博しました。1978年タイトーは「スペースインベーダー」を発売、若者たちは熱狂しました。
 
アーケードにビデオゲームの置き場が徐々に増えていきましたが、ピンボールマシンの設計者ロジャー・C・シャープは、1977年に「ピンボールがビデオゲームにやられるはずがない」と書いています。
家庭用ビデオゲーム機は、任天堂やセガが新型のゲーム機を次々に発売し市場は拡大していました。しかしまだハイエンドのアーケードビデオゲーム機やピンボールマシンと張り合えると誰も予想しませんでした。
 

図3 スペースインベーダー(ウィキペディアより)
 
図3 スペースインベーダー(ウィキペディアより)
 

図4  任天堂スーパーファミコン(ウィキペディアより)
 
図4  任天堂スーパーファミコン(ウィキペディアより)
 

ピンボールマシンを焼き尽くした者
 
1994年ソニーは、当時の業務用コンピューターをしのぐ処理能力を持ったの128ビット・マイクロプロセッサはを備えたプレイステーションを発売しました。「自宅にアーケードビデオゲーム機が欲しい」という若者の夢をついにかなえました。ソニーはとうとう大勢の心を惹きつける「暗号を解読」したのです。 

プレイステーションの爆発的ヒットは、アーケードの急速な閉鎖を引き起こしました。プレイステーションの発売から5年後にピンボールマシンの販売は1/10にまで低下しました。
 

図5 ソニー・プレイステーション(ウィキペディアより)
 
図5 ソニー・プレイステーション(ウィキペディアより)
 
そして一度市場を専有しても次々と新たな競合が出現し、市場は短期間に奪われてしまいます。任天堂はスーパーファミコンで獲得した市場を守り続けるために、NINTENDO64、ゲームキューブ、Wiiと次々に新製品を投入しました。
 

電話機に破壊されたカーナビ

一時は巨大なマーケットであったカーナビゲーションは、スマートフォンにカーナビ機能を実装できるようになって市場を奪われました。
 
特にポータブル型カーナビの影響は大きく、2008年から2012年までの4年間にトムトムの売上は50%に、ガーミンのカーナビと携帯用GPSの売上は4割に減少しました。無料で使えるグーグルマップの登場により、1年半で独立型GPS機器のメーカーは市場の85%を失いました。
 
グーグルの元CEOエリック・シュミットはこう語っています。
「もちろん、私たちは無料が好きだ。消費者も無料が好きだから」
 

GDPでは測れない。お金にならない膨大な価値

 
デジタルの世界はコピーにコストはかかりません。流通コストも限りなくゼロです。その結果、膨大な量のデジタルコンテンツが作成されています。これらは、価値はないのでしょうか。
 

音楽市場は拡大している

日本の音楽市場は、1998年のピークの6000億円から、2014年には3000億円弱にまで低下しています。しかし、日本人が音楽を聴かないかというと決してそうではありません。約3000億円分の音楽サービスは無料サービスに移行したのです。しかし、こうした無料サービスの価値は市場に現れません。
 
実は今の若者はかつてよりはるかに多くの音楽をスマートフォンに入れて持ち歩いています。ミネソタ大学のジョエル・ワルドフォーゲルが行った調査によると、過去10年間で音楽のクオリティは上がったと言います。つまり音楽自体に価値があると考えれば、音楽市場は拡大しています。
 
ただお金を払う人が減少し、市場調査には現れなくなっているのです。
 

世界と日本の音楽事情
 
今、世界全体の音楽市場が大きな成長を見せていますが、実は日本だけがそこから取り残されています。
国際レコード産業連盟(IFPI)の発表によると、2017年のグローバルな音楽市場は前年に比べて8.1%増加し、約173億ドルとなりました。
過去10年で最高額です。
 
特に活況を呈しているのが世界1位の市場規模を持つアメリカです。
イギリスも好況で、どちらもおよそ20年ぶりとなる高い成長率を示しています。
ヨーロッパ主要国ではドイツが微減となっていますが、その他は軒並み拡大傾向。ブラジルなど南米各国も急激な成長を見せ、中国、韓国、インドなどアジア諸国にもデジタル音楽市場が勃興しています。
 
グローバルな音楽市場の成長を牽引しているのはApple Musicなど音楽ストリーミング配信サービスです。この分野の売り上げ高は前年比41%増、世界全体の音楽市場の38%を占めています。
 

図6 全米音楽市場に占めるストリーミング割合
 
図6 全米音楽市場に占めるストリーミング割合
 
一方、日本の音楽市場は前年比3%減。
ストリーミング市場のシェアは全体の9%程に留まり、日本では「売れない」と言われ続けるCDがいまだに市場の主軸を占めていることも落ち込みの原因です。
 
図7 音楽ソフトの売り上げ
 
図7 音楽ソフトの売り上げ
 
ストリーミング配信の普及が世界各国の音楽市場の回復に結びついた背景の一つに、再生回数に応じた売り上げをアーティストやレーベルに配分していることが挙げられます。
 
ヒットの基準は「買われた回数」から「聴かれた回数」となり、再生回数に応じた収益はビッグデータを活用して、アーティストの楽曲のリスナー数や属性がフィードバックとして得られるようになりました。ストリーミング配信のみで着実に収益を得るアーティストも増えストリーミング配信で得た情報をもとに、リスナーにアーティストのライブの情報を配信することで、ライブの集客が確実に増加し、ライブエンターテイメント市場が活況に沸きました。
 
しかし、米国に次いで音楽市場世界2位の日本では、いまだにCDが主軸です。この日本特有の消費行動はガラパゴス症候群の一つとされ、海外のメディアは「超高齢化社会となった日本では、音楽ファンも高齢化した結果、未だにCDを買い続ける傾向にあるのではないか」と注目しています。

とはいえど日本のストリーミングサービス市場の現状は拡大傾向にあるため、遅かれ早かれCD市場と逆転するだろうと言われています。
 
【主要国の2017年の音楽市場】
アメリカ:86億2000万ドル(約9064億円、前年比16.5%増)
日本:2893億円(前年比3.0%減)
ドイツ:15億8800万ユーロ(約2100億円、前年比0.3%減)
イギリス:8億3940万ポンド(約1276億円、前年比10.6%増)
フランス:5億8300万ユーロ(約772億円、前年比3.9%増)
 

デジタル革命は、GDPに影響しない

音楽同様、出版業界も転換点を迎えています。紙の本の販売は年々減少し、多くの出版社が不振にあえいでいます。その原因として、今では多くの一般の人々が、かつては雑誌で提供していたお店、商品や料理の情報やレビューをインターネットで発表していることがあげられます。
 
そのため人々は、情報を得るためにわざわざ雑誌を買うことがなくなりました。雑誌の評論や商品レビューは、商品を提供したメーカーや企業に配慮して批判的な記事が少なく、インターネットの個人のレビューの方が役に立ったりします。
 
かつては車や趣味のものを買うときには、人々は雑誌の記事を熱心に読んでから買っていました。かわりに今では、スマートフォンで検索し、一般の人の書いた歯に衣を着せないレビューを読んでから買います。この一般の人のレビューは無料なので、その価値は市場に現れません。
 

優れたコンテンツにお金が集中

多くの人がインターネットに情報を提供するようになった結果、質の低いコンテンツも増えました。その結果、優れたコンテンツには人気が集中するようになりました。
有名ミュージシャンの曲には、有料のダウンロード、動画視聴など多くのアクセスが集まります。そこに多くのお金が集まる一方、平凡なコンテンツ、人気のないミュージシャンはアクセスが集まりません。
 
一方で、良質なコンテンツであれば、無名の素人でもネットを通じて注目を浴びることができ、人気のないプロが素人に負けてしまうことも起きます。そしてインターネット上の記事や動画は、多くの人が好むものに人気が集中します。多くの人が見ることで、さらに人気が高まるという循環が生まれます。これがスーパースター経済です。
 

スーパースター経済

こりスーパースター経済は、図のようなべき乗則の分布になり、一部のスーパースターが圧倒的に多くの人気(アクセス、利用)を集めます。
 
一方、得意分野に特化した人たちは、右端の方に広く分布するロングテールとなります。今までは誰もアクセスできなかったニッチな分野の専門家にも人々がアクセスするようになり、一定量の需要が生まれました。
 

図8 ロングテール
 
図8 ロングテール
 
このスーパースター経済は

  • デジタル化 (限界費用が限りなく低い)
  • 通信、輸送技術の発達 (デジタルデータはできりなくタダに近い費用で運ばれる)
  • ネットワーク効果 (利用者が増えるほど、性能が向上、利便性が向上)

が要因です。
 
デジタル化によりコンテンツの制作と流通のコストが非常に低下し、限界費用が限りなく低くなりました。その結果誰でもコンテンツを製作、発信できるようになりました。
 
安価な高速通信技術の進歩により、コンテンツは非常に安価に非常に多くの人に配信できるようになりました。そして、利用者が増えるほど、サービスの性能や利便性が向上するネットワーク効果が強くなっています。
 

拡大する格差

このようなスーパースター経済では、格差が二極化していきます。このスーパースターは学歴とは関係ありません。高学歴の人たちでも、場合によっては二極化した下位のグループに入ることもあります。
 

所得格差の拡大

図12に示すように、アメリカでは一人当たりのGDPは増加していますが、所得の中央値は、2009年以降低下しています。その最大の理由は、未熟練労働者の賃金の落ち込みによるものであり、格差が拡大していることを示しています。 

図9 アメリカの一人当たりGDPと所得中央値の推移
 
図9 アメリカの一人当たりGDPと所得中央値の推移
 

デジタル技術の普及により、今後はコンピューターに仕事を奪われる労働者が増えるといわれています。
 
例えばアメリカでは所得の確定申告は、従来は多くの人がH&Rブロックのような企業に依頼していました。しかし今では多くの人がターボタックスのようなソフトウェアサービスを利用しています。
このようなソフトを開発するのは、数十人でできます。そのソフトウェアで数百万人の確定申告が完了します。そして今まで確定申告サービスを仕事にしていた人たちは、失業することになります。
 
一方、ターボタックスのような新たなサービスを生み出すには、コンピューターではできない創造性が必要です。
そのようなスキルを持った高スキル労働者は今でも供給不足であり、その賃金は高くなっています。対して単純作業や単純労働の賃金は低下しています。
 
このような動きから、より良い賃金を求めてより高学歴を目指す若者が増えてきました。
 
図10 アメリカの生産性と労働者の実質賃金
 
図10 アメリカの生産性と労働者の実質賃金

 
その結果、高い賃金を得る高スキル労働者の勝ち組と、低賃金で定型的な業務を行う労働者に二極化していきます。
 

雇用なき景気回復の正体

企業がIT投資を行い業務の効率化を進めることで定型的な業務は減少していきます。その反面、高スキル労働者の仕事は増えます。
例えば、アパレル企業がデジタル技術を活用して最新のトレンドに対応できる多品種少量生産を確立すれば、最新のトレンドに対応できるデザイナーの需要が高まります。
 
エリック、ティム・ブレスナハンらの共同研究によれば、IT投資1ドルにつき、補完的な投資(組織資本、教育・研究、雇用、業務プロセス再設計など)10ドルが誘発されます。その結果、注文入力など多くの定型業務が自動化され、判断やスキルを必要とする高度な業務が残ります。
 
一方その効果が現れるまでには、通常5~7年かかります。その間、高スキル労働者の需要は増加し、定型業務を行う労働者は必要なくなります。しかし好景気の時は人員削減が容易でないため、そのまま雇用を続け、景気が後退した時に大幅な削減を行います。そして景気が回復しても雇用を増やしません。
これが雇用なき景気回復の実態です。
 
例えば、ジェモビッチ、シューが1980年代、1990年代、2000年代を比較したところ、定型的な労働(現金出納係、窓口係など非肉体的労働と、オペレーター、作業者など肉体労働)のいずれも需要が減少し、減少ペースが加速していることが判明しました。
 
減少ペースは、1981~1991年5.6%減、1991~2000年6.6%減、2001~2011年11%減となっていました。
反面、非定型的な労働はどの時期も増加しました。
 

図11 堅調な仕事と激減する仕事
 
図11 堅調な仕事と激減する仕事
 

コンピューターに置き換えできない仕事

コンピューターの得意な仕事と不得意な仕事を考えると、高学歴でなくても、非定型かつロボットやコンピューターが苦手な仕事は、今後も需要が見込まれます。半面、モラベックのパラドクスは依然存在します。それは単純な仕事だけれどコンピューターに任せるには大変すぎて、経済的に合わない仕事です。
 
例えば、コック、美容師、庭師などです。また看護や介護なども補助的にコンピューターやロボットが導入されるかもしれませんが、完全にロボットするには、開発コストと運用コストがかかり過ぎます。
 
一方人口減少局面に入った日本は、高齢者市場を除けば、例えば学習塾、スイミングスクールやブライダル市場などは、市場そのものが縮小しています。そのため競争が激化し、価格低下が起きていきます。
 
また今後モノや人の移動コストが低下し、海外からの就労規制が緩和されると、日本国内でも海外の人件費の安い人材との競争にさらされます。日本も制度上は移民を規制していますが、研修生などの制度で多くの外国人が就労し経済を支えています。
 
実はテクノロジーの進化により定型業務、単純労働は減少し、労働者の収入は減少しています。その反面低賃金の単純労働は担い手が少なく、移民に依存する国も少なくありません。
 
近年、ヨーロッパやアメリカで起きている政変の元凶には、社会、テクノロジーの進化による労働市場の変化を移民問題にすり替えている面もあります。
 

コンテナ物流の進化

コンテナ物流が発達し、海外からの輸入コストは大幅に減少しました。
例えば、中国の上海から東京都内までのコンテナ1本(船の運賃から保険・通関・コンテナをトレーラーで運ぶ費用を含む)の料金は、
 
20フィートコンテナ(33㎥) 20万円強
40フィートコンテナ(67㎥) 約23万円
です。
 
例えば10cm角の商品の場合、20フィートコンテナで3万3千個、40フィートコンテナで6万7千個です。従って、輸送費は、20フィートコンテナで1個6円、40フィートコンテナで1個3.4円になります。(ただし、商社の輸入手続きの費用として手数料が商品価格の1割程度かかります。)
 
図12 コンテナ船(ウィキペディアより)
 
図12 コンテナ船(ウィキペディアより)
 

その結果、今後製造拠点が変化していきます。
かつて企業は、低い人件費を求めて、海外へ進出しました。その後、海外の市場が存在感を増すと、市場の近くで生産するために現地に工場を移転しました。
 
今後、物流コストがさらに低下すれば、コスト、品質、納期、需要地、その他の条件を考慮し、最適な地域で生産することになります。その他の条件には、税金や規制、政情不安なども含まれます。
 
例えば、化学工場は日本では廃液の処理コストが高く、製造コストが上がる場合、その化学製品だけ規制の緩い国で生産し、その部品を中国に集めて製造し、最終検査は日本で行い出荷することも起きてきます。
 

ムーアの法則はどこまで続くのか

ムーアの法則「集積回路の実装密度は18カ月ごとに2倍になる」
により、コンピューターは指数関数で進歩し、社会に大きな変革をもたらしました。
 

図13 ムーアの法則
 
図13 ムーアの法則
 

クライダーの法則

磁気記憶装置の性能当たりの価格は、毎年40%ずつ指数的に下がっています。かつてシーゲイトで最高技術責任者を務めたマーク・クライダーは、これはコンピューターが進歩を止めても、記憶装置は進歩し続ける主張し、「クライダーの法則」と呼ばれています。
 
他にも通信の毎秒ギガビット当たりのコスト、太陽光発電のコスト、DNAの配列決定と合成の塩基対当たりのコストも指数関数的に低下しているといわれています。
 

また作家のレイ・カーツワイルは、1000ドルで可能な毎秒の計算回数を調べたところ、ムーアの法則のような指数関数的増加は、半導体誕生以前のリレー、真空管の時代から適用できることを立証しました。
 

収穫加速の法則
 
一つの重要な発明は他の発明と結び付き、次の重要な発明の登場までの期間を短縮し、イノベーションの速度を加速することにより、科学技術は直線グラフ的ではなく指数関数的に進歩するという経験則である。
 
カーツワイルの唱えた収穫加速の法則は、
「秩序が指数関数的に成長すると、時間は指数関数的に速くなる、つまり、新たに大きな出来事が起きるまでの時間間隔は、時間の経過とともに短くなる。」
というものです。
これはエントロピー増大の法則を考慮にいれたもので、宇宙の秩序増大に関する法則性を射程に入れたものです。
 
また収穫加速の法則は、生命進化のプロセスにも適用されており、DNAの成立、生殖という発明、発明を作る発明としての人間の誕生などを一元的に捉え、ムーアの法則によって示されたような秩序を増大させる技術革新はトランジスタ製造技術の枠を超えて継続するという主張を展開しています。
 
一方で、石器や冶金など、重要なテクノロジーが含まれておらず、コンピュータの発明とパーソナルコンピュータの発明のように、質的な違いが小さい近年のテクノロジーをパラダイムとして選択しており、現代に近づくにつれて技術開発が加速するという結論を示すため、恣意的にパラダイムを選んでいると批判されています。
また、人類による言語の発展のように、時間的に広がりのある事象を単一の時点で表現していることにも批判があります。
 
図14 カーツワイルの法則(ウィキペディアより)
 
図14 カーツワイルの法則(ウィキペディアより)
 

どうして、指数関数的に進歩するのか

  • 人類がそれを望んだから
  • 技術の進歩は、それ自体が目的化するから

 
もしそうだとすれば、指数関数的増加は止まることなく続きます。
 
半導体の微細化は、もうすぐ配線の幅が原子1個の大きさに近づくと言われています。そうなったらムーアの法則は終焉を迎えると言われています。
しかし過去の例から考えると、また新たなブレイクスルーが生まれ、進化が加速するのではないでしょうか。
 

未来のものづくり アンドロイドの思考実験

 
未来の社会を考えるために以下の思考実験を行います。

「もし、人と同じように動くことができるアンドロイドができたらどうなるのか」
 

  • 限りなく安く、休まず働き続けるとしたら
  • そのようなアンドロイドが工場や農場で働いたら

 
そうなると工業製品の価格は大幅に低下します。高品質で安価なものが今以上に容易に手に入るようになります。
 
製造に関して人件費の制約はなくなります。世界中どこでも人件費は同じになるので、価格の差は、光熱費、材料代、間接コストの違いだけになります。
農産物の価格も低下します。
農産物の価格の差は、土地など資産、設備にかかる費用と、日照条件などによる収穫量の差になります。
 
一方でこのアンドロイドをいかに効率よく動かすか、そのノウハウが極めて重要になります。
 

今でもできる高度なアンドロイド
 
手を失った人のために、腕の表面の筋電位で動く義手があります。このような技術を活かせば、5本の指が自在に動くロボットは難しくありません。
 
筋肉は、脳から命令として発せられる微弱な電気的刺激を受け止めることによって収縮します。発生する電位は微弱ですが、体表面でも検知ができ、この「表面筋電位」で筋電義手を動かします。
内蔵されたモーターにより、ものを掴む・離すという動作(把持)ができ、擬似的に本人の意思で動く手が再現できます。
 
「筋電義手で「つかむ」夢 キャッチボールもお手伝いも」
 

 
「ターミネーターの様なハイテク義手を持つ人」
 

 
このような社会で労働の価値はどうなるでしょうか。
 
例えば、アンドロイドは工場の生産や農産物の収穫には効果的ですが、美容師やコックはアンドロイドは補助しかできません。
そうなると工場の仕事にあぶれた人たちが美容師やコックになろうとして、美容師やコックの仕事は奪い合いになり賃金は低下します。対して特別な技術を持ったカリスマ美容師やカリスマコックなどのスーパースターはますます人気が高まり、彼らの収入はさらに高くなります。
 
多様な能力開発が必要
 
このような社会では、アンドロイドができるようなことはアンドロイドがやるようになります。今までの社会は、多くの人々に定型的な決まった仕事を確実にこなすことを求めてきました。しかしこのような仕事はコンピューターやアンドロイドでできるようになります。
 
しかし定型的な仕事は人間の能力の一部でしかありません。今までは事務作業や製造など定型的な仕事に対して能力の高い人たちが評価されてきました。ミスが多いなど定型的な仕事の能力が低い人たちの評価は高くありませんでした。
 
しかし今後そのような単純労働や定型的な業務はアンドロイドやコンピューターに置き換わっていきます、そうなった時、人に求められる能力は大きく変わります。その時、多様な能力を持つ多様な人材をどのように育て、社会の発展に活かすかが求められます。それには学校教育から変革が必要になると思います。
 
【イノベーションについてのまとめ】
イノベーションとは何か、日本企業のイノベーションの例、画期的なアイデアとそれを実現する方法、そしてイノベーターを脅かす模倣者の戦略など、今までのコラムを
「過去のイノベーションとデジタル時代のイノベーションについて」
にまとめました。良かったら、こちらもご参照ください。
 

本コラムは2016年12月16日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

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経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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コンピューターの課題と不得意分野

コンピューターの得意分野と不得意分野

コンピューターの飛躍的な進歩により、今私たちが手にしているスマートフォンは、20年前のスーパーコンピューターと同じ能力を持っています。動画をストリーミング再生したり、リアルタイムで現在地を表示したり、写真の画像を手直しするなど、以前のパソコンでは想像もできなかったことができるようになりました。
 
それでも依然として、コンピューターが得意なこと、不得意なことはあります。
 

【得意なこと】

  • 一定のルールやアルゴリズムがあること
  • 入力に対し、答えが定まっていること

 
【苦手なこと】

  • ルールやアルゴリズムが常に変わるもの
  • 入力に対し、出力が定まらないもの

 
以前は扱えるデータ量やプロセッサの演算能力に制約があったため、たとえルールやアルゴリズムがあっても実現できないことがありました。それがコンピューターの演算速度の向上やメモリ容量の拡大、通信速度の向上により、実現できるようになりました。それでもコンピューターが苦手なことがあります。
 

コンピューターが苦手なことは、相変わらず苦手

 
それは、パターン認識など、あいまいなものを識別することです。

人間はスーパーの陳列棚にあるりんごと桃から、りんごだけをかごに入れることは、3歳児でもできます。
しかしコンピューターが、他の果物もある中からりんごの特徴を抽出して、識別するのは容易ではありません。様々な大きさ、色、置き方の異なるりんごと桃から、リンゴの特徴を識別しなければならないからです。
 
図1 この中からりんごを選ぶのは…
図1 この中からりんごを選ぶのは…

 
モラベックのパラドクス
実は人間の知能をコンピューターに置き換える際、高度な推論よりも、感覚運動スキルの方が多くの計算資源を必要とします。これは1980年代以降、人工知能 (AI)を研究する過程でわかってきて、
「モラベックのパラドクス」
と呼ばれています。
 
モラベックは

「コンピューターに知能テストを受けさせたり、チェッカーをプレイさせたりするよりも、
1歳児レベルの知覚と運動のスキルを与える方が遥かに難しいか、
あるいは不可能である」

と記しています。
 
図2 1歳児にも負けるコンピューター
図2 1歳児にも負けるコンピューター
 

言語学者で認知心理学者のスティーブン・ピンカーは、

「35年に及ぶAI研究で判明したのは
『難しい問題は容易』で『容易な問題が難しい』
ということである。

我々が当然なものとみなしている4歳児の身体的能力、すなわち顔を識別したり、鉛筆を持ち上げたり、部屋を歩き回ったり、質問に答えたりといったこと(をAIで実現すること)は、かつてないほど難しい工学上の問題を解決することになる。

(中略)

新世代の知的機械が登場したとき、職を失う危険があるのは証券アナリストや石油化学技師や仮釈放決定委員会のメンバーなどになるだろう。庭師や受付係や料理人といった職業は当分の間安泰である。」

と、述べています。
 
図3 証券アナリスト
図3 証券アナリスト
図4 料理人
図4 料理人
図5 植木職人
図5 植木職人
 
マービン・ミンスキーは、
最も解明が難しい人間のスキルは「無意識」だ
としています。

「一般に我々は、我々の精神が最も得意なことについて最も気付いていない。」

「我々は完璧に働く複雑な過程よりも、うまく機能しない簡単な過程の方をよく知っている」

としています。
 

 

ロボット開発の大きな課題 SLAM問題

SLAM問題(Simultaneous Location and Mapping)とは、
コンピューターにとって自己位置推定と周囲環境のマッピングを同時に行うことが容易でないことです。
 
ロボットが目的地まで安全かつ正確に走行するためには、
周囲の地図を生成するのと同時に、その地図上で自己位置を推定する必要があります。
この地図生成と自己位置を同時に行う問題をSLAM問題と呼び、ロボット分野の基礎的な問題の一つです。
 
SLAM問題の応用として、自律走行車や環境再構築などがあります。これを実現するためには、物体識別、分類、動物体追跡、パターン認識と機械学習、フィルタリング、全体最適化、記憶と検索、圧縮と復元などの個々の技術を高め、それを高度に融合する必要があります。
 

このSLAM問題は、
「内界センサーだけでなく、外界センサーの情報も利用して自己位置推定を行う」
ことです。
 
人間が移動するときは、以下のようにして位置を把握します。

  • 視覚情報:目から得た色情報と、二つの眼の情報の関連性から導き出した幾何学的情報(物や環境の色と形)
  • 慣性力情報:三半規管から、回転の加速度や速度の検知(どれだけ自分が回転しているのか)
  • 重力センサー:三半規管や、その他もろもろの感覚器官の情報から、自分がどのような姿勢をしているのか検知。
  • 触覚センサー:人間の皮膚には、何かに触れたことや、触った物体の材質などを検知します。
  • その他センサー:以上のような人間の感覚のほかに、人間には聴覚や、嗅覚、そして味覚などの感覚器が存在しています。

 
従来SLAM技術が確立するまでは、内界センサーのみを使用した自己位置推定がメインでした。人間でいうところの目を瞑って歩きながら、自分の歩幅とかのみで、自分の位置を推定している状態でした。
現在は、各種センサーにより外界情報の取得と、これを自己位置推定に反映することで、精度は大きく向上しました。
 

苦手を克服し始めたコンピューター

こうしたコンピューターの苦手なことには、翻訳、音声認識、車の運転なども含まれます。しかし、多くの方は疑問に思います。
 
「翻訳、音声認識、運転も

『もうできているか』『近い将来実用化される』

のではないか」
 
そう、今までできなかったことができるようになってきています。それがビッグデータ解析技術と機械学習です。
 

ビッグデータ解析技術 結果が分かれば理由はいらない

従来データ分析は、データベース(リレーショナルデータベース)の構築が不可欠でした。最初に「それぞれの項目にはどのような数値を入れるのか」といったデータの入れ物を詳細に設計します。そしてデータの関連性を分析します。
 
つまり事前に「こうなるであろう」という推測をして、それには「どのようなデータが必要なのか」あらかじめ決めておかなければ分析できませんでした。後からデータを追加しようとすると、データベースを大きく改造しなければならず大変な手間がかかりました。またデータを入れる入れ物の大きさにも制約があったので、データの数が多い場合は、サンプリングを行いデータの数を少なくする必要がありました。
 
ところがビッグデータ解析では、以下の点で従来のデータベースによる解析とは大きく異なります。

  • 全てのデータを扱う(N=全部)
  • 量があれば、精度は重要でない(量は質を凌駕する)
  • 理由はいらない (因果関係から相関関係へ)
  • 予め分析の仕方やデータの構成をしっかり決めてなくても、とにかくデータを集めておけば、後から様々な切り口で分析できます。分析の結果、理由は「分からないけど結果としてこうなっている」ということがわかれば、十分に役立つという考え方です。
     
    図6 従来データ解析とビッグデータ
    図6 従来データ解析とビッグデータ
     

    有名な事例としては、ビールと紙おむつの事例があります。
    アメリカのある小売りチェーンが購買データを分析したところ、夕方紙おむつを買う顧客は同時にビールも買うことが多いことが分かりました。そこで紙おむつ売り場の横にビールを置いて売上を増やすことができました。これは従来の顧客の行動を想定した方法ではわからなかったことです。
    現在では、アマゾンで商品を購入すると「この商品を買った方は、こんな商品も買っています」というリコメンデッド機能がありますが、これもビッグデータ解析の結果です。
     
    その結果、2012年の時点で、処理が可能なデータサイズはエクサバイトのオーダーでした。例えば、ゲノミクス、気象学、複雑な物理シミュレーション、生物調査および環境調査や、インターネット検索、金融などでは、このように膨大なデータを扱う分野があります。
     
    そのため、全世界での1人当たりの情報容量は、1980年代以降40か月ごとに倍増し、2012年の時点で1日あたり250京(2.5×1018)バイトのデータが作成されていました。そしてビッグデータの解析のために、数百台、ときには数千台のサーバ上で動く大規模な並列処理ソフトウェアが使われています。今後、IoTの進展によりセンターやカメラが増加するとためデータ量はさらに増加します。
     

    潤沢な世界

    2000年に、全世界で記録された情報の中でデジタルデータは25%でした。それが2007年には、281エクサバイト(10の18乗)のデータが記録・伝達 (このうち7%がアナログデータ)されています。
     
    図7 データ量の増加
    図7 データ量の増加
     

    全てのデータを扱う(N=全部)

    従来は測定できるデータも解析できるコンピューターの能力にも限りがあるため、多くの現象はサンプルを抽出して、それを解析していました。
    ビッグデータでは、全てのデータ、数億個かそれ以上のデータを相関分析することで、理由は分からないけど確率の高い因果関係を見つけます。
     
    常識にとらわれない発見で売り上げ増加 (Zの法則を打ち破ったダイドードリンコ)
    小売業界では「Zの法則」といって、陳列棚、新聞広告などを見る消費者の視点は、上段左側から右へ移動し、次に下段左側へ移動して右へ移動する、つまり視点がZ字のように移動するという法則があります。従って、上段左側に売れる商品、利益が出る商品を置く事が常識でした。
     
    ダイドードリンコは、全ての自動販売機に視点を認識するセンサーを取り付け調査しました。その結果、自動販売機の場合は、視線は下段に集まることが分かりました。そこで主力の缶コーヒーのブレンドシリーズを下段に配置したところ、売り上げは前年比1.2%増になりました。
     
    これまでは例え分析しても「仮説」「検証」のプロセスがありませんでした。それがセンサーとビッグデータ解析により検証した結果、Zの法則が必ずしも最適でなかったことがわかったのです。
    このように理論がなくても現実に即した手法を見つけることができるのが、ビッグデータ分析の強みです。

     
    図8 売れ筋は下だった
    図8 売れ筋は下だった
     

    量があれば、精度は重要でない(量は質を凌駕する)

    コンピューターによる翻訳は、コンピューターができた頃から多くの研究者が取り組んできました。「将来はコンピューターにより同時通訳できる」と期待されていましたが、なかなか実現しませんでした。
     
    機械翻訳の問題

    • 1954年IBM

    250の言葉のペアと6つの文法ルールを適用して、60のロシア語の文章を英語に翻訳することに成功しました。しかしルールを教えるだけでなく、膨大な例外を教えなくてはならない点が課題となって、実用になりませんでした。
     

    • 1990年IBM 言葉の一致に統計的確率を導入

    IBMのプロジェクト「キャンディード」は、カナダ議会の議事録(英語とフランス語で正確に翻訳されている)を10年分、約300万センテンスをコンピューターに記憶させ、それを元に自動翻訳の開発に取組みました。しかし満足な結果が得られずプロジェクトは中止しました。
     

    • 圧倒的な数を背景にしたグーグル翻訳

    2006年グーグルは、WEB上にある数十億の翻訳したページを解析し、自動翻訳の開発に取組みました。現在グーグル翻訳は、同時に90か国の言語に翻訳することができます。
    その翻訳は正確とは言い難く、評価は人により異なります。まだ翻訳というより、なんとか意味は理解できるというレベルです。しかし世界90か国語に短時間に翻訳するのは、どんなに優れた人でもできません。
     
    例えば、ある会社のウェブサイトを翻訳してみました。
     
    【英語サイト】
    Our aim is not only to increase ties between the three regions and share our accumulated parts machining know-how globally, but also to bring together the best multitasking machines and 5-axis machining centers, the best machining technology, and the best people to propose premium solutions for our customers.
     
    【英文サイトのグーグル翻訳】
    3つの地域の結びつきを強め、蓄積された部品加工のノウハウを世界規模で共有するだけでなく、最高のマルチタスク加工機と5軸マシニングセンタ、最高の加工技術、そして提案する最高の人々を結集させることも目的です。お客様のためのプレミアムソリューション。
     
    【オリジナル日本語】
    日本・北米・欧州の主要3拠点のつながりを高め、蓄積した部品加工のノウハウをグローバルに共有し、最高の複合加工機・5軸制御マシニングセンタ、最高の加工技術、最高のスタッフを揃えてお客様へプレミアムなソリューションを提案して参ります。
     
    この翻訳を何とか使えると思うか、全くダメと思うかは使う人の考え方次第だと思います。ただ、これがロシア語、タイ語、アラビア語となった場合、どうでしょうか。
     

    「シンプルなモデルと膨大なデータの組合せは、データ量がわずかで手が込んだモデルを凌駕する。」
    ピーター・ノービィグ グーグルの人工知能の第一人者

    八百長試合はあったのか
    「ヤバい経済学」の著者 スティーブン・レビット氏は、日本の大相撲の過去11年分6万4,000番の取組を分析しました。その結果、千秋楽で勝ち越しがかかった一番では、力士が勝つ確率が25%高くなることが分かりました。
     
    勝ち越しするかどうかは、力士にとって収入・地位に大きく影響します。もし、勝ち越しがかかった力士と、もう勝ち越しを決めている力士が千秋楽で対戦した場合、どうなるのか、それをビッグデータは示しています。
     

    進歩を感覚的に理解できない「ムーアの法則」

    このコンピューターの進歩を予見したのが「ムーアの法則」です。
    「集積回路の実装密度は18カ月ごとに2倍になる」

     
    これは、1965年にインテル共同創業者のゴードン・ムーア氏が唱えたもので、時間とともに集積回路は高密度化し、高性能化、高速化と共に低価格化します。そのスピードは、18カ月で2倍、つまり3年ごとに4倍、15年で1024倍の容量になります。
    そして進化のスピードは、1965年から2017年に至るおよそ50年間、その通りになりました。
    この指数関数は図のように対数目盛で表すと、直線になります。
     
    図9 指数関数
    図9 指数関数
     

    人間は、この指数関数的増加には、感覚的に対応できません。
    なぜなら指数関数は、後半はものすごく急激に増加するからです。
    「進歩が加速する」
    という状況に感覚がついていかなくなります。
     
    一方、材料、電池、加工方法など形ある製品の進歩は、地道な研究開発の結果です。これは指数関数的にならず、リニア(線形的)に変化します。同様に同じ電気でもアナログ回路の進歩も線形です。
     
    つまり、電池やエンジン、その集合体の自動車などの進歩は、

    リニアな地道な進歩

    です。
    しかし、そこに組み込まれる制御システムやコンピューターは、

    予測できないような急激な進化(指数関数的)

    をします。
     

    自ら賢くなる機械学習

     

    ねこを猫と認識

    このコンピューター技術の進歩に大きく貢献しているのが、機械学習です。
    機械学習とは、データから反復的に学習し、そこに潜むパターンを見つけ出すことです。 学習した結果を新たなデータにあてはめることで、パターンに従って結果を予測することができます。
     
    つまり、入力に対して、結果が1対1で決まるようなコンピューターのシステムでは、目標値を決めておけば、結果が目標値に近づくように、自らアルゴリズムを修正します。その結果、経験すればするほど、アルゴリズムの精度が高まり、正確な答えが出るようになります。
     
    例えば、ねこを見て、ねこであることを認識するのは、コンピューターには苦手なことでした。そこで機械学習では、大量のねこの画像を読み込ませ、ねこの特徴を抽出します。そして画像データからねこを判定する推論モデルをつくります。
     
    次に実際に未知の画像を識別して、推論結果が間違っていれば、その結果をフィードバックして、推論モデルを修正します。その結果、認識を増やせば増やすほど推論モデルは正確になります。
     
    図10 機械学習の仕組み
    図10 機械学習の仕組み
     

    この機械学習とビッグデータ解析技術の組み合わせにより、言語、画像、音声などのコンピューターの苦手なことができるようになってきました。
     
    正解さえわかっていれば、大量のデータをどんどん処理して答えを調べて間違いを修正します。これを膨大な回数繰り返せば、どんどん精度が高くなります。そして高性能化した現代のコンピューターにとって大量のデータを短時間に処理することは、極めて容易なことです。
    例え、その回数が数億から数兆回だったとしても…。
     
    このビッグデータ解析と機械学習により、今まで苦手と考えられていた翻訳、音声認識ができるようになり、自動運転も将来可能になってきたのです。
     

    人並みに働くことができるか、アマゾン・ピッキング・チャレンジ

    アマゾンは、ロボット開発コンテスト「Amazon Picking Challenge(APC)」を開催し、より効率的に作業できるロボットの開発を奨励しています。いずれは自社でそのロボットを採用し、商品出荷作業のさらなる効率化を目指しています。
     
    このAPC 2016は、2016年7月にドイツで開催され、世界中から16のチーム、そのうち日本からはAA-Team(東京大学)、C2M(中部大学、中京大学、三菱電機の混成チーム)、チームK(東京大学JSK)、PFN(Preferred Networks)の4チームが参加し、オランダのチーム・デルフトが優勝しました。
     
    チーム・デルフトは、深層学習を採用し準備期間中に50の異なったアングルの画像のデータベースを作りました。現場に来るまでに、ロボットに学習させておいたのです。
     
    チーム・デルフトのメンバーは、他のチームは深層学習技術を使わないと予想していました。なぜなら、深層学習にはまだ予期できない部分もあり、リスクが高かったからです。実際には、日本のPFNと接戦になりましたが、勝利しました。その結果、これからはロボットにも深層学習技術の導入が盛んになると予想されます。
     
    【深層学習 (ディープラーニング) 】
    ディープラーニングは、機械学習の1種でニューラルネットワーク技術を活用して、特徴点を階層的に学習します。この点で従来の機械学習と異なります。
     
    これは1990年代に進められた脳、特に視覚野の研究成果によるものです。このニューラルネットワークのアルゴリズムでは、画像などの情報を第1層からより深い階層へ伝達する過程で、各層で学習が繰り返されます。ディープラーニングでは、各層での特徴点を自動で抽出することで、パターン認識精度が飛躍的に向上しました。
     
    これはAI研究に関する大きなブレイクスルーとなり、学習方法に関する技術的な革新と言われています。2012年には、Googleの開発したグーグル・ブレインが、猫の画像を見て、猫と認識することに成功しました。
     

    自動作曲 ヒット曲の傾向を分析して、最もヒットしやすいメロディを作成

    明治大学教授の嵯峨山茂樹先生は、開発したAI作曲ソフト「オルフェウス」を使い、1950~60年代、1970年代、1980年代、1990年代、2000年代、2010年代それぞれの「平均的な曲」を作曲しました。これはNHK総合テレビ「データなび」で放送されました。
     
    「オルフェウス」は、歌詞のイントネーションを解析し、イントネーションに合わせて自動でメロディをつくり、合成音声で出力しました。
     

    参考記事『未来の紅白歌合戦は、人工知能が作ったヒット曲だらけになる?』
    http://www.gizmodo.jp/2015/12/orpheus.html
     

    気づかない理由 生産性革命は遅れてやってくる

     

    こういったイノベーションは、最初に革新的な技術が誕生してから数十年後に遅れて爆発します。なぜなら画期的な技術に周辺の技術や環境が追いつかないからです。
     
    18世紀初頭より、ニューコメンやワットにより蒸気機関が発明・改良されましたが、蒸気機関により生産性が急激に増加したのは19世紀に入ってからでした。
    次の大きなイノベーションは、電力の供給と内燃機関の発明でした。電気は1890年代にはアメリカの工場に導入されましたが、それから20年間、労働生産性は大きく向上しませんでした。

    なぜ20年間労働生産性は向上しなかったのか?
     
    ポール・デービッドは、電化が始まった当初のアメリカの工場を調べた結果、工場のレイアウトに問題があることを発見しました。蒸気機関の時代の工場のレイアウトは、動力の伝達距離を最小にするため、機械を極力動力源である蒸気機関の近くに配置していました。そのため生産性の向上に限りがありました。
     

    それから30年近く経って、当初の技師長が引退すると、工場は平屋建てになり、ものの流れに沿った現代と同様のレイアウトになり生産性は大きく向上しました。
     

    コンピューターの世界も、最初のコンピューター「ENIAC」は1945年に登場しました。しかし、多くの企業がITに投資し生産性が飛躍的に向上したのは、インターネットが生まれた爆発的に普及した1990年代以降でした。
     
    つまり革新的な技術が誕生しても当初はその変化は大きくなく、その後の急激な変革が予想できないのです。
     

    パラドクスを打ち破る

     
    このようなビッグデータ解析、機械学習、処理能力の指数関数的向上などのコンピューター技術の進歩により、今までコンピューターが苦手としていたことができるようになってきました。

    その結果、一部では、モラベックのパラドクスを打ち破りつつあります。この変化が今後、ロボットにも起きるでしょう。
     
    「ロボット市場はもうすぐ爆発的に成長すると確信している」

    レミ・エルアゼイン テキサスインストルメンツ
     

    Rethink Robotics社 バクスター

    Rethink Roboticsは、掃除ロボット「ルンバ」の産みの親であるロドニー・ブルックスが新たに設立した会社です。このバクスターの最大の特徴は、作業の指示の与え方にあります。難しいプログラミングは一切不要で、バクスターの手を取って導いてやることで、作業の手順を教えることができます。
     
    価格は、2万2000ドル(230万円程度)と安く従来の産業ロボットのようにスピードは速くありません。しかし、人と一緒に作業することができ、しかも人と違って疲れません。
    以下のURLは、ロドニー・ブルックスがバクスターについて語ったTEDトークです。これからロボットがどのような方向に進むべきか興味深い意見を述べています。
     
    「ロドニー・ブルックス なぜ、私たちはロボットに頼ることになるのか」
     

    図11 Rethink RoboticsのSawyerとBaxterの共同ロボット(ウィキペディアより)
    図11 Rethink RoboticsのSawyerとBaxterの共同ロボット
    (ウィキペディアより)
     

    アマゾン Kivaロボット

    アマゾンによって2012年に買収され、アマゾンの倉庫テクノロジに組み込まれました。アマゾンは、米国内に50以上の施設を保有し、10の倉庫で計1万5000体のKivaロボットが稼働しています。
     
    以下は、アマゾンのKivaロボットの動画です。
     

     

    図12 アマゾンのKIVAロボット(ウィキペディアより)
    図12 アマゾンのKIVAロボット(ウィキペディアより)
     

    デンソーウェーブ COBOTTA

    デンソーウェーブは、コラボレーションロボット「COBOTTA(コボッタ)」を2017年に発売しました。
     
    COBOTTAは、「人との協働」「簡単インテグレーション」「卓上アプリケーションに適した性能」をコンセプトに、人と一緒に小物部品を扱う作業を想定しています。重量は3.8kg、可搬重量は0.5kg、価格は、120~150万円です。
    協働ロボットとして安全性を確保し、安全柵やライトカーテンなどは不要です。
     
    簡単に扱えるように専用ペンダントなどではなく、実際にアームを持ちながら動作をすることで動きを覚えます。ユーザーインターフェースや軌道計画に関連するアプリケーション部分はオープン化し、ユーザーがある程度まで自由に開発できます。同社は今後「三品(食品・薬品・化粧品)業界などでの採用も目指しています。
     
    以下は、COBOTTAのPR動画です。
     

     

    ロボット開発者のためのロボット

    PR2は、ロボットのソフトウェア開発者、研究者のために作られたオープンなプラットフォームのロボットです。
     
    従来ロボット開発者は、まずハードウェアを作ってからでないとコードを実装できませんでした。
    PR2を使えば、ソフトウェアの専門家がすぐにロボットに新しい機能を開発できます。 
    以下はPR2ロボットのPR動画です。
     

     

    奥さんの代わり? 全自動洗濯物折り畳み機

    セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズは、全自動衣類折り畳み機「/laundroid 1(ランドロイドワン)」を2019年春に発売を開始すると発表しました。
     
    当初は出荷を2017年度中としていました。しかし、ツルツルした素材やごわごわした素材など特定の衣類に対しロボットアームがうまくつかめないことが判明したため、ロボットアームの全面改良を行いました。そのため発売が2年延期されました。価格は185万円~の想定です。
     
    人工知能を用いた画像解析と、ロボット技術を組み合わせて、ランダムに放り込まれたシャツ、ズボン、スカート、タオルの4種を認識し、1枚ずつ畳んで収納します。折りたたみ時間は、1枚につき5〜10分です。衣類を家族別に仕分けすることもできます。
     
    セブンドリーマーズの社長 阪根氏はメーカーで世の中にないものをつくりたいという想いで、洗濯物を全自動で折り畳める機械のプロジェクトを2005年に立上げました。2007年にはロボット工学を研究する大学と共同研究を行い、柔らかな衣類をたたむ技術を開発しました。さらにAIと画像認識技術の進歩により、ランダムに積まれた依頼を識別で切るようになりました。

    しかし認識制度を95%まで高めるためには膨大な教示データが必要で25万枚もの衣類の学習が必要でした。こうして世界にまだない洗濯物を自動で折りたたむ機械が誕生しました。
     
    追記

    ランドロイド社は2019年4月23日東京地裁に自己破産を申請しました。

    【イノベーションについてのまとめ】

    イノベーションとは何か、日本企業のイノベーションの例、画期的なアイデアとそれを実現する方法、そしてイノベーターを脅かす模倣者の戦略など、今までのコラムを
    「過去のイノベーションとデジタル時代のイノベーションについて」
    にまとめました。良かったら、こちらもご参照ください。
     

    本コラムは2016年11月20日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
     

    経営コラム ものづくりの未来と経営

    人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

    ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

    未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

    経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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    イノベーターの敗北、真の勝者は模倣者か?

    なぜたびたびイノベーションを取り上げるのか?

     

    中小企業経営に対するイノベーションのインパクト

    この経営コラムでも、イノベーションについていろいろと記事を書いてきました。理由は、大きなイノベーションが起こると、それまで広くつくられてきた製品が一気に変わってしまうからです。

    これは自社製品を持たず、メーカーに部品や設備を納入する下請け企業には大きな影響があります。時には売上の大半を占める企業の製品がイノベーションの波にのまれ消えてしまい、自社の売上が激減することもあります。
     

    愛知県豊橋市のプラスチック成形の中小企業 樹研工業の松浦社長は、たまたま新幹線で乗り合わせたエリクソンの社員が日本の東北に部品を買い付けに行っていることを知ります。そして日本ではまだ珍しかった携帯電話が世界的に広まっていることを知りました。それをきっかけに調べたところ、欧米ではゼニス、RCAなど名だたる家電メーカーがことごとく、家電から撤退していることを知ります。
     

    受注の大半を家電メーカーに依存していた樹研工業の松浦社長は、将来大きな危機が来ることを予感しました。そこで小型で精密な樹脂成形技術の開発に取り組み、10万分の1グラムの歯車を試作し、展示会に出展しました。これをきっかけに時計メーカーと取引を開始し、家電の売上比率は減少しました。その直後、国内の家電メーカーは円高のため大挙して工場を海外へ移転し、廃業する下請けの中小企業も出ました。同社の事業転換は、会社の存続にギリギリ間に合いました。
     

    かつて世界を席巻した日本の半導体、日本の独自開発で特許のほとんどを押さえていたDVD、世界的な発明といわれた青色LED、これらの製品の現在の主要メーカーはどこでしょうか?

    では、自動車はどうでしょうか?他業種、他社からのイノベーションによりシェアを失うことはないのでしょうか?

    私たちは、松浦社長のように常にアンテナの感度を高くして、来る変化を見逃さないようにする必要があるのではないでしょうか?
     

    企業が生き残るのに本当にイノベーションが必要?

     

    近年、イノベーションの重要性が強く叫ばれています。大企業は、

    「生き残るためには新たなチャレンジに取り組みイノベーションを起こさなければならない」

    と言われています。

    日本では国が2007年に長期戦略指針として「イノベーション25」を策定しました。

    欧米でも同様で、

    「イノベーションか、死か」

    とまでいわれています。
     

    イノベーション理論は「後出しじゃんけん」ではないか?

    では、本当にイノベーションを起こした企業が発展し、生き残っているのでしょうか?
    後述するように画期的なイノベーションを起こした企業が後発企業に市場を奪われた例は少なくありません。そう考えると、多くの書籍や経営学の論説は、成功した結果に後から理論を当てはめた「後出しじゃんけん」になっていないでしょうか?
     

    • 日本はすり合わせ型ものづくりに強い

    パソコンのように個々に互換性のある製品を組合せて完成する「モジュール型製品」に対し、デジタルカメラのように画像センサーと画像処理回路などを高度に微調整(すり合わせ)しなければならない「すり合わせ型製品」は、すりあわせに高度な技術が必要なため、日本は優位といわれていました。その「すり合わせ型製品」のデジカメ、中でもコンパクトデジカメは、スマートフォンに市場を奪われ、価格競争が激化し、日本はシェアを急速に落としました。では「すり合わせ型製品」の自動車はどうでしょうか?
     

    • 技術開発で先行し、技術を特許で守れば勝てる?

    DVDは日本が独自開発した技術で、主要特許の大半を日本が押えています。しかし日本製のDVDプレーヤーは今やほとんどありません。
     

    • 専門家の誤謬

    破壊的イノベーションの理論を打ち立てたクリステンセン氏は、2007年iPhoneが登場した際、次のように評しました。

    「私の理論でいくと、アップルはiPhoneで成功しない。彼らは同じ産業の既存のプレーヤー同士の異常なまでに競合するということが動機になっているにすぎない。それでは本当に破壊的とは言えない。歴史を見る限り、成功の可能性は限られている。」

    クリステンセン氏でさえ、iPhoneの破壊的な要素に気がつきませんでした。
     

    クリステンセン氏も気づかなかったiPhoneの破壊的な点は、外出先でもどこでも手軽にインターネットを使えるようにしたことです。これをタッチパネルという新しいユーザー・インターフェースで実現しました。そしてご承知のように「どこでもインターネットを使える」ことで、私たちの生活は激変しました。
     

    クリステンセン氏のようにイノベーションを研究している専門家でさえ誤るとしたら、誰が画期的な製品や革新的な技術を見出すのでしょうか?
     

    イノベーションは会社や上司から理解されない

    イノベーションは「革新的であるがゆえに、誰もそれが革新的なことが分からない」という一面があります。

    そのため、多くのイノベーターたちは、上司から認められることなく、あるいはこっそりと隠れて(通称 闇研)何年も革新的な技術やアイデアを開発してきました。
     

    • VHSビデオを開発したビクターの高野氏は、開発費の削減を迫る本社の目をごまかすために、水増しした販売予測や事業計画を作って予算をつなぎとめました。
    • カメラ事業からコピー機事業に軸足を移しつつあった小西六写真工業で、オートフォーカスカメラの研究を続けた百瀬氏は、とうとう研究費も失いました。それでも百瀬氏の上司は、隠れ蓑となる研究テーマを彼に与え、会社には内密で研究費を捻出し、研究を続けさせました。そして彼の研究は「ジャスピンコニカ」として大成功を収めました。

     

    このように革新的な製品や技術を生み出したイノベーター達は、その研究を続けるのに大変な苦労をしました。
     

    冷ややかな反応だった初代ウォークマンのマスコミ発表

    たとえ製品化しても、革新的な製品はそれを受け入れる市場がありません。そのため市場を創るところから始めなければなりません。
     
    ソニーが最初にウォークマンを発売した時、発表会での反応は散々でした。それまで歩きながら音楽を聞く習慣がなかったため、記者たちもこの製品をどう評価してよいのかわかりませんでした。顧客の反応も悪く、発売後1か月はほとんど売れませんでした。

    そこでソニーは、販売員にウォークマンを持たせて、ヘッドフォンで音楽を聞きながら東京の繁華街を歩いてPRしました。そして発売して2か月ほど経ったころ、若者たちの間で「音楽を聴きながら歩くのがかっこいい」という流れができて爆発的ヒットしました。
     

    イノベーションよりイミテーション

     

    それなら自らイノベーションを起こさずに「イノベーターが切り開いた道をあとからついていった方が良い」かもしれません。

    現実にイノベーター達が大変な苦労をして開拓した市場の多くは、後から参入した模倣者に奪われています。
     

    マネシタ電器

    この模倣戦略を徹底していたのが、かつての松下電器(現在のパナソニック)です。

    創業者の松下氏は、ランチェスター戦略も学んでいました。このランチェスター戦略は、シェア1位の企業は常に2位以下の企業に気を配り、彼らが新たな製品を開発したら間髪を入れず対抗製品を出して1位の座を守ります。松下氏も常々社員に「しっかりまねしているか」と激励していたそうです。
     

    松下氏は、
    「うちはソニーという研究所が東京にありましてなあ、ソニーさんがね、何か新しいものをやってね、こらええなとなったら、われわれはそれからやりゃあいい」
    と語っていました。
     

    マネをするにも技術がいる

    多くの日本企業もかつては模倣者でした。戦後から高度成長期にかけて、技術では欧米に後れを取っていた日本企業は、まず欧米の技術を導入し、製品をマネしました。ただ、例え原理や技術が分かっても、実現するためには多くの苦労がありました。マネをするにも技術が必要でした。
     

    トランジスタの製法から開発したソニー

    ソニーは、トランジスタラジオを開発するために、米国ウェスタンエレクトリック社からトランジスタの特許を巨費を投じて買いました。つまり技術を買ったわけです。
    しかし、トランジスタの製造方法の情報はわずかしかありませんでした。トランジスタは各社で製造に取り組み始めたばかりで、量産技術は確立していませんでした。ソニーは特許は買ったものの、製造は自前で量産技術を開発し、ラジオをつくることを決意します。
     

    ソニー創業者のひとり、井深大氏は以下のように語っています。

    「トランジスタの歩留まりが100個のうち5個になったとき、ラジオの生産に踏み切った。当たり前の企業家だったらこんな無茶な計画は立てるわけがない。しかし、歩留まりは必ず向上する目算があったので、私は思い切って決断した。
    もしあのとき、アメリカでものになってからとか、欧州の数字を見てからこれに従ってなどと考えていたとしたら、日本がトランジスタラジオ王国になっていたかどうかは甚だ疑わしく、今日のソニーもあり得なかっただろうし、この無謀は貴重な無謀だったと考えている。」

    このように相当大きなリスクを取った上の決断でした。

    そしてソニーがトランジスタラジオを発売し、大ヒットすると、直ちに国内メーカーが追随し激しい競争となります。一度できることが分かれば、「できることが分かっていることにチャレンジする」のは容易だからです。
     
    評論家の大宅壮一氏は週刊誌に以下の記事を書きました。

    「トランジスタでは、ソニーがトップメーカーであったが、現在ではここでも東芝がトップに立ち、生産高はソニーの2倍半近くに達している。つまり、儲かると分かれば必要な資金をどしどし投じられるところに東芝の強みがあるわけで、何のことはない、ソニーは、東芝のためにモルモット的役割を果たしたことになる」

    これがソニーモルモット論です。
     

    ソニー製 トランジスタラジオ1号機

    図1 ソニー製 トランジスタラジオ1号機(Wikipediaより)
     

    これに対し井深氏は、
     

    「私どもの電子工業では常に新しいことを、どのように製品に結び付けていくかということが、一つの大きな仕事であり、常に変化していくものを追いかけていくというのは、当たり前である。
    決まった仕事を、決まったようにやるということは、時代遅れと考えなくてはならない。ゼロから出発して、産業と成りうるものが、いくらでも転がっているのだ。これはつまり商品化に対するモルモット精神を上手に生かしていけば、いくらでも新しい仕事ができてくるということだ。
    トランジスタについても、アメリカをはじめとしてヨーロッパ各国が、消費者用のラジオなどに見向きもしなかった時に、ソニーを先頭に、たくさんの日本の製造業者がこのラジオの製造に乗り出した。これが今日、日本のメーカーのラジオが世界の市場で圧倒的な強さを示すようになった一番大きな原因である。これが即ち、消費者に対して種々の商品をこしらえるモルモット精神の勝利である」

    とし、さらに

    「トランジスタの使い道は、まだまだ私たちの生活の周りにたくさん残っているのではないか。それを一つひとつ開拓して、商品にしていくのがモルモット精神だとすると、モルモット精神もまた良きかなと言わざるを得ないのではないか」

    と語っています。
    1960年、井深の藍綬褒章受章を祝って、社員は井深氏に“モルモット”の像を贈りました。
     

    ところが、21世紀に入りイノベーターがモルモットで終わり、模倣者が勝利する例が増えてきました。
     

    模倣者の利点

    模倣者はイノベーターに比べて以下の点で有利です。
     

    1. イノベーターが大変な労力をかけて新製品を顧客に認知させ、時には新たに創り出した市場にただ乗り(フリーライド)できる。
    2. すでに完成した技術をコピーするため研究開発費を節約できる。この研究開発費には、イノベーターが商品を当てるために費やした数々の失敗も含まれる。
    3. すでに市場があり、顧客に認知されているのでマーケティング費用も節約できる。
    4. ベータマックス対VHSのような覇権争いに巻き込まれることもなく、市場を制覇した陣営に最初から加わることができる。
    5. イノベーターの製品の欠点が分かっているので、最初からより優れた製品を提供できる。
    6. イノベーターは成功体験があるため自信過剰に陥り、顧客の声をよく聞き改良することをないがしろにすることがあるが、模倣者は商品の良さや使い勝手でイノベーターを凌駕しなければならないため、そのような自己満足に陥ることがない。

     
    実際、松下電器の例でみても、ソニーの後追いで出した製品は、ソニーにない機能や利点を備えていて、使いやすかった記憶があります。
    (私が流行り物は人より遅れて手に入れるタイプだったために、余計そう感じるかもしれません。)
     

    模倣者の成功例

    カルフォルニア州に本拠地を置く液晶テレビメーカー、ビジオ社は、60万ドルの資本金で立上げ、現在はアメリカ市場でサムソンと匹敵するシェアを確保しています。
     

    同社は研究開発や製造に投資しておらず、株主である台湾のOEMメーカーと契約してコストコ、ウォルマート傘下の大規模小売店を通じて販売しています。

    大規模小売店のネットワークを活用して競合企業より安く売ることで優位性を得ています。
     

    アップルはイノベーターか?

    「アップルは革新的」というイメージを抱いている人は多いと思います。しかし実はアップルから生まれた技術は多くはありません。その点、多くの技術を自前で開発したソニーとは好対照です。スティーブ・ジョブズ自身

    「次の革命を起こそうとするな。スマートで手頃な消費者商品を作り出せば、それでいい」

    と語っています。

    実際、革新的なパーソナルコンピューターだったマッキントッシュは、その技術の大半はアップルで発明されたものでありませんでした。ビジュアル・インターフェースやマウスは、ゼロックスのパロアルト研究所を訪問した時に見たものから着想しました。その後パロアルト研究所から数人の研究者を雇い入れています。
     

    つまりアップルはアッセンブリーイミテーションの達人であり、自社のアイデアと外部の技術を縫い合わせて、エレガントなソフトウェアとスタイリッシュなデザインをまとわせることに強みがありました。

    そういった点で、アップルは技術のオーケストレーター、あるいはインテグレーターだったのです。
     

    どこまでが模倣で、どこまでがイノベーションか?

    アップルのように「既に世の中にあるものを使って新たな製品やサービスを生み出すこと」は模倣と定義すれば、全てのイノベーションは模倣となってしまいます。
     

    トヨタ自動車のカンバン方式は、同社の大野氏がアメリカのスーパーマーケットを視察した時にヒントを得ました。言い換えればスーパーマーケットのやり方を生産工場に持ち込んだだけです。しかしそれが決して簡単でないことは、多くの企業がカンバン方式を導入して挫折した点から容易に推察できます。
     

    セオドアレビットは、イノベーションの定義として

    「世の中の初めての試みである」
    ことと共に
    「その業界や市場にとって、初めての試みである」

    ことを挙げています。

    このように模倣もイノベーションと考えれば、模倣とイノベーションの境界はあいまいになってきます。
     

    模倣スピードの拡大

     

    さらに近年は模倣のスピードが加速し、イノベーターの先行者利益が極めて小さくなってきています。
     

    後発医薬品の例

    1990年代初め、カルシウム拮抗薬「カルディゼム」は特許が切れてから、後発医薬品に市場の8割を奪われるまでに5年かかりました。しかしその10年後に開発した降圧剤「カルデゥラ」は、特許が切れてから9ヶ月で後発医薬品に市場の8割を奪われました。そしてイーライリリーの抗うつ薬「プロザック」は、特許が切れてからわずか2ヶ月で市場を後発医薬品に明け渡しています。
     

    このように模倣のスピードは以下の表のように早まっています。
     
    表 模倣の広まる期間

    1877年~1930年 平均23.1年
    1930年~1939年 平均9.6年
    1940年~ 平均4.9年

     
    表 模倣者が市場に参入するまでの期間

    1961年 20年
    1981年 4年
    1985年 1~1.5年

     

    後発者が市場を奪ったPDA市場の例

    PDA(携帯情報端末)市場は、アップル、シャープ、タンディ、カシオが先行し、その1年後にIBM、モトローラ、ソニー、ベルサウスが参入しました。しかし残ったのは、リサーチインモーション(RIM)、パームコンピューターでした。

    リサーチインモーションは現在ブラックベリー・リミテッドと社名を変え、日本ではNTTドコモの3G及びGSMネットワークを直結し、企業向けソリューションとしてメールや自動車の車載システムなどの事業を提供しています。
     

    模倣の容易性 デジタル化とモジュール化

    様々な機能が水平分業化されたことで、従来は大企業でなければできなかった製品が零細企業でも容易にできるようになりました。
     

    例1

     パソコンはマザーボードと電源、増設ボード、ディスクドライブを組合せれば個人でも製作できるようになりました。デザインやインストールするソフトに特徴を持たせれば、容易に新しい製品ができます。
     

    例2 

    携帯電話も無線集積回路、RISCチップ、アプリケーションソフトにモジュール化されているため、サードパーティモジュールを組合せて、中国のメーカーが新規参入し、中国市場の半分以上のシェアを獲得しました。
     

    新興国プレーヤーの増加

    中国などの新興国では、メーカーになって「一発当てる」ことを目指して多くの中小零細企業が切磋琢磨しています。彼らは「80%の確率で失敗するが、80回はトライする」といわれる粘り強さでチャレンジしています。

    その理由の一つとして、先進国の製品が新興国の需要を取り込み切れていないため、空白の市場があるからです。先進国の製品は価格が高すぎ、新興国の需要を満たすことができません。機能を減らし、品質を落としてでも、価格を1/2、1/3にすれば、膨大な新興国の市場のニーズを満たすことができますが、今までの企業文化、新興国市場へのウェイトから、そのような製品を提供しません。一方新興国のメーカーは、もともとブランド力がなく、価格しか訴求すべき点がないため、徹底した低価格路線を貫きます。
     

    法的保護の低下

    国をまたいで競争するため、他国での自社の知財を保護しきれない問題があります。特許を出願しても、模倣コストを増加させる効果は、エレクトロニクス7%、化学20%、医薬品30%程度しかなく、模倣を遅らせる効果は限られています。
     

    他国で特許を申請しても異議申し立てを受けて権利化できなかったり、特許を分析して迂回方法を発明したりします。さらに模倣者がその特許に手を加えて新たな特許を出願します。

    新興国では裁判所も自国の企業に有利な判決を下すことがあり、例え特許を取得しても権利を守り切れないこともあります。
     

    模倣のポイント

    何を模倣し、何を模倣しないか、その選択は極めて重要です。
     

    破綻したスカイバス航空

    アメリカ オハイオ州コロンバスを本拠としていた超格安航空会社(LCC)スカイバス航空は、開業から1年で経営破綻しました。サウスウェスト航空やジェットブルー航空の優れた顧客サービスと、ライアンエアー航空の徹底したコスト削減の両方を取る戦略で、論理的に成り立たない複数の要素を模倣しようとしたためでした。
     

    模倣する際の注意点

    1. 車輪を再発明しようとしない
      既にあるものや使い道がほとんどないものを発明するには、膨大な時間と労力がかかる。
      オリジナリティにこだわらず、すでにある技術や製品を活かしてより良いものを作ることに努力すべき。
    2.  

    3. 類人猿に従え
      生物的に決して強くない類人猿が今日まで生き残っているのは模倣能力があるからである。模倣は高度な能力であることを理解して、企業の模倣スキルを高める。
    4.  

    5. すぐに頭に浮かぶものを集めるな
      自社の専門分野以外も広く探索し、小さな企業だけでなく失敗した企業にも目を向ける。そして巷のイノベーターにも注意する。イノベーターのいるところ必ず模倣者もいる。
    6.  

    7. 物事の脈略(ストーリー)を読み取れ
      ある環境でうまく行っているものがほかでもうまく行くとは限らない。模倣する対象の脈略(誰に、何を、どのようにというストーリー)を理解し、異なる対象には、どのようなストーリーが適しているかよく吟味する。
    8.  

    9. ピースを正しく合わせろ
      ストーリーを正しく理解したうえで、必要な要素を分解して、適切に組み合わせること。
    10.  

    11. より価値の高い新製品をつくれ
      安い、質が良いだけでなく、より低コストでの製造なども模倣能力には必要である。

     
     

    模倣からイノベーションを守る

     

    日本企業の例 キャノン

    同社は、創業間もない頃は設計の極意を会得するため、ライカなど海外の名機と呼ばれるものを隅から隅までデッドコピーしました。デッドコピーすることで、開発した人の設計思想を深く理解し、自分の中に取り込むことができます。そして、一流のものほど単純で美しいことに気づきました。
    さらに同社は、コピー機事業で王者ゼロックスに立ち向かった時は、ゼロックスの中核特許を一字一句丸写ししました。そうすると良い特許には優れた製品設計と同様の美しさがあり、簡潔明瞭でありながら、適用範囲が広く、競合は簡単に突破できないようになっていました。
    こうした学習の結果、同社は競合を困らせる手厚い特許を申請できました。こうしてコピー機市場は、主要特許がゼロックスとキャノンに押えられてしまい、他のメーカーは作っても高額なライセンス料をキヤノンとゼロックスに払わなければならないため、低い利益になってしまいました。 

    画期的な製品を開発しても模倣者に市場を奪われることもあります。
    あなたの取引先の業界には、今後どのようなイノベーションが起きるのでしょうか?
    そして勝者はイノベーターか、それたも模倣者でしょうか?
     
    (参考)
    「コピーキャット 模倣者こそがイノベーションを起こす」 オーデッド・シェンカー 著 東洋経済
     

    【イノベーションについてのまとめ】

    イノベーションとは何か、日本企業のイノベーションの例、画期的なアイデアとそれを実現する方法、そしてイノベーターを脅かす模倣者の戦略など、今までのコラムを
    「過去のイノベーションとデジタル時代のイノベーションについて」
    にまとめました。良かったら、こちらもご参照ください。
     

    本コラムは2016年7月17日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
     

    経営コラム ものづくりの未来と経営

    人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

    ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

    未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

    経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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    EVの時代は本当に来るのか?二次電池の進化とEVを取り巻く環境

    今後EVは主役となりうるのか

     
    フランス、イギリスは、2040年以降ガソリン車とディーゼル車の販売を禁止すると表明、オランダとノルウェーはさらに早く2025年までに販売を禁止すると表明しました。

    また中国は2019年には新エネルギー車(EV、もしくはPHV)を10%にするという目標を掲げました。
     
    このように2017年に入り世界各国でEVへのシフトが起き、ここに至って各自動車メーカーは本格的にEVの量産、販売に取り組み始めました。
     

    EVの特徴

     
    では、EVはどのような性能でガソリン車とどう違うのでしょうか。

    三菱のiMiEVとガソリン車のアイの比較を以下の表に示します。
     
    ガソリンエンジンと電気モーター比較
     
    iMiEVのリチウムイオン電池は重量エネルギー密度が100Wh/kgのため、160kgのバッテリーを積んでも航続距離は180kmです。
    ガソリンの重量エネルギー密度は12kWh/kgと電池の約8分の1のため、180kmを走るのにガソリンは8.9L(6.7kg)で済みます。
     
    一方ランニングコストを比較すると、iMiEVは満充電の電気代は386円でランニングコストは2.41円/kmになります。 (電気代を従量電灯B 1kWh24.13円で計算) 
     
    ガソリンエンジンは、燃費20km/L、ガソリン代を150円/Lとすれば、7.5円/kmとなり、EVの3倍近いランニングコストになります。(ただしガソリンの価格には税金が68円含まれ、税金を引くと4.1円/kmとEVの1.7倍に下がります。)
     
    充電時の電力消費は3A・1kWなので、100Vでは15Aになります。

    利用者の多くは深夜電力で充電するため、例え各家庭で15A電力消費が増加しても既存の電力インフラでまかなえます。むしろ夜間の電力消費が増えることで、電気使用量が平準化し、発電設備の稼働率が向上するため電力会社には都合が良いです。
     
    一方、EVの課題は空調です。

    真夏にエアコンを使用すると電気を20~30%余分に消費し、走行距離が2/3に低下します。ホンダでは、ペルチェ素子を使用してシートの冷却や暖房を行い、エアコンの電力消費量を削減する試みが行われています。
     
    一方CO2の排出量は、ガソリンエンジン車の効率が15%程度に対し、EVの効率は80%以上です。ウェルトゥホイール(原油から実走行までのエネルギー効率)で比較しても、EVが25%、エンジン車が13%と大きな差があります。
     
    従ってEVに転換することで二酸化炭素の排出量は大幅に削減可能されます。
     

    駆動装置としての優位性

     
    自動車の駆動源として、電気モーターはガソリンエンジンよりも優れた特性を持っています。図は、三菱アイのガソリンエンジンと電気モーターの回転数とトルク特性です。
     
    ガソリンエンジンと電気モーター回転数とトルク特性

     
    タイヤを回転させる力の強さは発生するトルクで決まります。
    しかしガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどの内燃機関は、発進時のようにエンジンの回転の低い時はトルクが低いのです。
     
    そのためマニュアルミッションでは半クラッチでエンジンの回転を上げたり、オートマチックミッションではトルクコンバーターで駆動力をスリップさせてエンジンの回転を上げ、発進に必要なトルクを得ています。
     
    またガソリンエンジンはモーターに比べて大きなトルクを発生する回転数の範囲が狭いため、走行中にトランスミッションで減速比を変えて、低速から高速まで対応しています。

    その反面、エンジンの回転数を上げるとトルクも急激に増加し、ドライバーに高揚感をもたらす加速をします。これを積極的に感じるようにした車がスポーツカーです。
     
    対して、モーターは0回転の時に最もトルクが大きく、回転数が上昇するに従いトルクが低下します。またトルクを発生する回転数の範囲も広いため、トランスミッションを使わずに幅広い速度範囲に対応できます。
     
    また停止から力強くしかも滑らかに加速します。
     
    新幹線は停止からスムーズに加速しますが、あのような滑らかな加速感が得られます。

    その代わり、スポーツカーのような高揚感あふれるドラマチックな加速感は皆無です。
     

    電池の進歩によっては、エンジンは葬られる?

     
    このようにモーターは移動体の駆動源としては理想的な特徴を持っています。そのため動力の供給に問題がない電車は、すべてモーター駆動です。
     
    しかし自動車には電力供給の問題があり、これがEVの普及の障害となっています。
     

    電池について

     
    電池は電気を蓄えるもので、大抵は持ち運ぶことができ、移動中や移動先で電気を供給します。他には一時的に大電力を蓄える定置型の電池もあります。
     
    この電池には充電できない一次電池と、放電した後、充電することで再び電気を蓄えることができる二次電池があります。
     
    電池は持ち運ぶために対して軽く小さいことが求められます。

    EVの場合は、電池の重量が車体重量の20%になる場合もあります。

    そこで電池の重量当たりのエネルギー量の向上が最大の課題です。
     

    一次電池の分類と構造

    一次電池は以下の表に示すような種類があります。
     

     
    マンガン電池の原理
    図 マンガン電池の原理

    一般的なマンガン電池では、正極(プラス極)に二酸化マンガン、負極(マイナス極)に亜鉛を使用し、その間を電解液(塩化亜鉛(ZnCl2)+塩化アンモニウム(NH4Cl)の溶液)で満たし、間をセパレーターと呼ばれる膜で仕切ります。

    電解液の水素は電子と水素イオンH+に分解され、負極には電子が蓄積します。(酸化反応)
     
    この状態で正極と負極を電線でつなぐと、電子は負極から正極へ移動します。

    正極で、電子は水素イオンと二酸化マンガンと結合して水酸化マンガン(MnOOH)になります。(還元反応)
     
    二酸化マンガンの消耗と共に電圧が低下し、いずれ寿命がきます。
     

    燃料電池 
     
    燃料電池は水素などを充填し、水素と酸素の化学反応で発電します。この燃料電池も一方向の反応なので、一次電池の一種です。
     
    ただし、水素を供給し続ければ連続発電ができますので、「発電機」でもあります。燃料電池の詳細は後述します。
     

    二次電池

     
    二次電池は、放電は一次電池と同様に、負極が酸化、正極が還元反応を行います。

    一方充電により負極が還元、正極が酸化と逆の反応をします。これにより再び電気を蓄えることができます。
     

    ① 二次電池(鉛電池)の原理

    鉛電池は正極に二酸化鉛、負極に海綿状の鉛、電解液に希硫酸を用いた二次電池です。
     
    鉛電池の原理 
    鉛電池の原理 
    【放電】
    負極板の鉛が硫酸と反応し、鉛は持っている電子を手放し、硫酸とくっつきます。(酸化) 

    電解液内では、硫酸が鉛とくっつくため硫酸濃度は下がり水素が過剰な状態になります。正極板の二酸化鉛(酸素+鉛)は、電解液中の硫酸と反応して硫酸鉛になります。負極では鉛に手放された電子がたまります。

    正極と負極をつなぐと、負極の電子は正極に移動します。

    電解液中で過剰になっていた水素は正極板で電子を受け取り、水素原子になります。正極板で硫酸鉛が生成され、手放されていた酸素が電解液中の水素原子とくっつき水になります。(還元)
     
    【充電】
    充電により正極板に付着した硫酸鉛が、電解液中の水と反応して酸化鉛に変化します。その際、硫酸と水素を電解液中に放出します。

    このとき水素から電子が引き剥がされ、正極から負極に向かって電子が移動します。

    負極板の硫酸鉛は、正極から流れ込んだ電子を取り込んで鉛に変化し、硫酸を電解液中に放出します。両極板から放出された硫酸と、正極板から放出された水素が結合して希硫酸になります。
     

    ② 各種二次電池の特徴
     
    以下の表に主要二次電池の性能比較を示します。
     
    表 主要二次電池の性能比較
     
    以下に各種二次電池の特徴を述べます。
     
    【鉛電池の特徴】
    鉛電池は正極に二酸化鉛、負極に海綿状の鉛、電解液に希硫酸を用いた二次電池です。

    1セルで2ボルトと、他の二次電池に比べ電圧は比較的高く、電極材料も安価な鉛のため広く使用されています。

    しかしエネルギー密度が他の二次電池に比べ低いため、大型で重くなります。

    また電解液に希硫酸を使うため、電解液が漏洩すると危険が伴います。

    過放電により容量が低下(サルフェーション)するため、こまめに充電し過放電を避けたほうが長く性能を維持できます。
     
    【ニッケルカドミウム電池】
    正極に酸化水酸化ニッケル、負極にカドミウム、電解液に水酸化カリウム水溶液(KOH)を用いたアルカリ蓄電池でニッカド電池とも呼ばれています。

    モーターなどの高出力用途に適した出力特性の反面、自然放電が大きいため、時計のように長期間稼働する機器には向いていません。

    また使い始めから放電終止直前までは電圧、電流ともに安定していますが、放電終了直前から急激に電圧が下がるという特性があります。
     

    ニッケルカドミウム電池の原理
     
    ニッケルカドミウム電池の原理
     
    【ニッケル水素電池】
    正極にニッケル酸化化合物、負極に水素または水素化合物を用い、電解液に水酸化カリウム水溶液 (KOH) などを用いた二次電池です。
     
    ニッケル水素電池の原理 
    ニッケル水素電池の原理
     
    長所

    • ニッケルカドミウム電池の約2.5倍の容量
    • 材料にカドミウムを使用せず環境への影響が少ない
    • アルカリ、マンガン、ニッカド電池より内部抵抗が低く、大電流でも高電圧を維持できる。
    • リチウムイオン充電池のような爆発の危険性が少ない。
    • 有害なカドミウムを含まないため環境負荷が低い。
    • 自己放電が少なく長期間使用できる。

     
    短所

    • 過放電に弱く、完全に放電してしまうと電池を傷めてしまう。
    • 加熱時や過放電時に引火性の水素ガスを発生する。
    • ニッケルを含有するためにリチウムイオン電池より重い。

     
    ニッケル水素電池は、携帯機器では容量の大きなリチウムイオン電池への置換えが進みました。

    一方トヨタ自動車などのハイブリッドカー用の電池に採用され、量産されています。
     

    【リチウムイオン電池】
    正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行う二次電池で、正極にリチウム遷移金属複合酸化物、負極に炭素材料、電解質に有機溶媒などの非水電解質を用いたものが代表的ものです
     
    リチウムイオン電池の原理
     
    リチウムイオン電池の原理
     
    長所

    • 実用化されている二次電池の中で最もエネルギー密度が高く、重量エネルギー密度は、ニッケル水素電池の2倍です。
    • 電圧が3.6-3.7 Vと高く、高い電圧が必要な場合でも直列につなぐ電池の使用本数を減らすことができ軽く小さくできます。
    • 浅い充電と放電を繰り返すことで電池自体の容量が減ってしまう現象(メモリー効果)がないため、いつでも継ぎ足し充電ができます。
    • 自然に放電する自己放電がニッカド電池やニッケル水素電池の5分の1と優れています。
    • 充電/放電効率が80%-90% と高く、電力貯蔵用途にも適しています。
    • 他にも、寿命が長い、高速充電が可能、大電流放電が可能、使用温度範囲が広いという特長があります。

     
    短所

    • 過充電により、正極側の発熱し、負極側の金属リチウムの析出により、回路がショートし最悪の場合は破裂・発火してしまいます。そのため充電は極めて高い精度(数十 mVのレベル)の電圧制御が必要です。
    • さらに、有機溶剤の電解液が揮発し、発火事故を起こす恐れもあります。短絡は外力が加わることで電池内部が発生する場合もあり、衝撃に対する保護も必要です。

     
    リチウム電池の世界市場規模は、2009年の250億円から2014年には2兆2500億円に急増し、2019年には2009年の400~500倍になる推定されています。
     

    ③ リチウムについて
    リチウム(Lithium、元素記号:Li)は、銀白色のやわらかい金属で金属類の中で最も比重が軽い金属です。

    反応性が非常に高く、空気中でも窒素と容易に反応して窒化リチウム(LiN3)なります。水と反応すると激しく燃焼するため、保管は油やナフサ、アルゴンなどの中で行います。

    強い腐食性・炎症性を持ち、人体に有害なため取扱いには十分な注意が必要です。

    リチウムは地球上に広く分布し、海水には総量で2300億トンものとリチウムがあると推定されています。

    一方反応性が高いため単体としては存在せず、水分蒸発量の多い塩湖には凝縮されたリチウムの鉱床があります。

    ボリビアのウユニ塩湖は、全世界の鉱石リチウムの約半分540万トンが埋蔵され、次いでチリのアタカマ塩湖に300万トンが埋蔵されています。

    国別ではチリ、ボリビア、オーストラリア、アルゼンチン、中国などに多く埋蔵されています。

    ボリビアのウユニ湖
    図 ボリビアのウユニ湖(Wikipediaより)
     

    リチウムイオン電池の安全性

     
    リチウムイオン電池は過充電による発熱、内部回路の短絡などにより異常発熱が生じ発火に至ることがあります。
     
    ① 過去のリチウムイオン電池の熱暴走
     
    2006年6月、デル社製のノートパソコンが突如発火・炎上しました。

    その原因はパソコンに搭載されたリチウムイオン電池とされました。

    メーカーのソニーエナジーデバイスの調査の結果、原因は製造時に金属粉が混入し、内部でショートが発生したためでした。そしてソニーは1000万個をリコールし、費用は500億円にのぼりました。
     

    2013年1月、ボストン・ローガン空港でボーイング787型機に搭載されたGSユアサ製リチウムイオンバッテリーが発火しました。

    さらに同月に香川県上空を飛行中のボーイング787においても、機内で発煙を知らせる表示とともに異臭がしたため、緊急着陸しました。

    事故原因として、搭載された電池セルの内部でショートが発生し熱暴走となって発熱・発煙したためでした。
     
    ② リチウムイオン電池の発熱・発火事故の原因
     
    リチウムイオン電池の発熱・発火・発煙等の事故の原因は、
    (1) 電池本体の不良に起因するもの
    (2) 電池の充放電を制御する回路または装置の不良に起因するもの
    の大きく2つがあります。
     

    (1) 電池本体の不良に起因する原因としては、
     

    • 電池の生産時に金属粉等の異物が混入し、これが電極間のショートを引き起こして事故を起こすケース
    • リチウムポリマー電池のようにフィルム状のやわらかい筐体を持つタイプの電池、または硬い筐体の電池でも強い衝撃を受けたときなどに、筐体が変形して電極が接触してショートし、事故を起こすケース

    の2つがあります。
     

    (2) 電池の制御回路・装置の不良に起因する原因としては、
     

    • 制御回路・装置が何らかの原因により破損し、回路・装置がショートして事故を起こすケース
    • 制御回路・装置が何らかの原因により正常に機能しなくなり、電池の過充電・過放電等の状態を引き起こして電池が発熱・発火するケース

    の2つがあります。
     
    ⑤ リチウムイオン電池のバッテリーマネジメントシステム(BMS)
     
    セルを直列・並列接続して必要とする電圧・容量のバッテリーを構成する場合、複数のセルの充放電を制御する機能が必要となります。
    この制御機能をバッテリーマネジメントシステム(Battery Management System / BMS)またはバッテリーマネジメントユニット(Battery Management Unit / BMU)といいます。

    BMSには以下のような機能があります。

    1. 各電池セルの電圧、電流、温度等を測定する測定機能
    2. 測定したデータを表示する表示機能
    3. 充放電間に各電池セルに流れる電流を調節し、各セルの電圧を一定に保つバランス機能
    4. 充放電間にあらかじめ設定した電圧、電流、温度等の上限値・下限値を超えた場合、エラー信号を発し、または充放電機器を停止するエラー機能

     

    次世代電池

     

    固体リチウムイオン電池

     
    リチウムイオン電池の負極をカーボンから金属リチウムにすることで理論容量が大幅に増加しエネルギー密度を高めることができます。

    しかし金属リチウムは活性が高く電解液との副反応が生じやすいため、従来のリチウムイオン電池で負極を金属リチウムにするのは困難でした。

    そこで電解質を固体電解質にした全固体電池が開発されています。

    固体電解質にすることで、電荷だけを運びマイナスイオンが動かないため熱の問題から解放され、また薄く多層化できるためコンパクトにすることができます。
     

    固体リチウムイオン電池

    固体リチウムイオン電池


    【構造】
    半導体と同様の薄膜製造プロセスを用いる薄膜型と、微粒子を積層するバルク型があります。

    バルク型は負極の金属リチウムの粒子を固体電解質でコーティングし積層します。
     
    【性能】
    金属リチウムを用いることで従来のリチウムイオン電池の1.6倍の重量エネルギー密度が実現できます。

    また寿命も5~10倍になることが期待されています。
     
    【課題】
    課題は、電気伝導性の高い固体電解質の開発と、正極、負極と電解質の接触界面での抵抗の削減があります。
     
    トヨタ自動車は2020年代前半には実車に搭載する計画で開発しています。

    一方TDKは、2017年11月にチップタイプの固体電池を開発し、2018年4月発売の予定と発表しました。大きさ4.5×3.2ミリ、容量は100マイクロアンペアです。
     

    リチウム空気電池

     
    全固体電池の次の世代の電池として期待されているのが空気電池です。

    リチウム空気電池は、負極側に金属リチウム、正極側に空気極を用いる電池です。正極物質が空気と軽いため、重量当たりのエネルギー密度はリチウムイオン電池の3倍以上になります。
     
    リチウム空気電池の原理 
    リチウム空気電池の原理
     
    【構造】
    負極は全固体電池と同様に金属リチウムを用い、正極に炭素に触媒を塗布し、触媒を介して酸素とリチウムが反応して酸化リチウムが生成されます。
     
    【性能】
    理論的にはリチウムイオン電池の15倍もの容量が可能です。
     
    【課題】
    酸化リチウムが触媒上に蓄積して放電が止まる問題があります。

    また充電時に過酸化リチウムの分解電圧が高いため、充電電圧が4.4Vと高いという問題もあります。
     
    2009年に産業技術総合研究所(産総研)は、負極(金属リチウム)側に有機電解液、正極(空気)側に水性電解液を用い、間を固体電解質で仕切る固体電池を開発しました。

    これによりリチウムイオンのみを通過させ、固体物質を通過させないことで、生成した酸化リチウムの固体が正極にこびりつく問題を解決しました。

    この電池は放電が終わったのち、水性電解液を入れ替え、負極の金属リチウムをカセット方式にして交換すれば、短時間で再使用できます。つまり二次電池というより燃料電池のような使い方ができます。
     

    物質・材料研究機構 エネルギー・環境材料研究拠点は、正極にカーボンナノチューブを使用して過酸化リチウムの問題を解決することに取り組んでいます。
     

    アルミニウム空気電池

     
    負極にアルミニウム、正極に空気極を用いた電池です。

    負極活物質であるアルミニウムは正極(空気極)で酸素と結び付き放電します。その際生成する酸化アルミニウムや水酸化アルミニウムが正極に蓄積するため、電気化学反応が阻害され充電の障害となります。
     
    そこでトヨタ自動車は、アルミニウム空気電池を充電できない一次電池として活用することを検討しています。

    EVに搭載したアルミニウム空気電池を乾電池のようにガソリンスタンドで交換します。

    アメリカのAlcoa社とイスラエルPhinergy社は、2014年6月、アルミニウム空気電池の電気自動車をカナダのサーキットで公開し、実走しました。

    電池の重量は約50kgで1600kmの航続距離です。アルミニウム1kg当たり最大8kWhの電力を発生します。
     

    富士色素は2017年6月、アルミニウム空気電池の空気極側に、窒化チタンもしくは炭化チタンを用いることで酸化アルミニウムの生成が抑制されることを発表しました。

    これにより空気極側の副生成物を抑制でき、アルミニウム空気電池の二次電池化へのめどがつきました。

    実際に電解液にイオン液体系を、正極に窒化チタンや炭化チタンを用いたアルミニウム空気電池を作成し、安定的に充電・放電ができることを確認しました。
     

    大容量キャパシタ

     
    キャパシタ、つまりコンデンサも電気を貯めたり、放電したりすることができます。

    一般的に電子回路に用いられるキャパシタは容量も限られているため、それほど長時間モーターを動かすことはできません。しかし今後はこのキャパシタの容量を大きくして二次電池の代わりに使用することが検討されています。
     
    キャパシタは他の二次電池に比べて短時間に大電力を蓄えたり、放出したりできる長所があります。このキャパシタの長所を生かして、他の二次電池とは違った使い方が考えられています。
     
    【蓄電用途】
    大容量のキャパシタでも内部抵抗は数mΩ程度と低く、損失が少ない、発熱しにくいという特長があります。

    そこで瞬間的に大電力が必要な用途に、1000W/kgを超える大容量のキャパシタの活用が考えられています。あるいは充放電を頻繁に繰り返す用途や、安全性や温度特性の高さを要求される用途の活用が検討されています。
     
    【二次電池との組合せ】
    エネルギー密度に優れる電池とパワー密度に優れる大容量キャパシタを組み合わせて、それぞれの欠点を補います。

    図のようにEVは携帯電話と異なり、バッテリーに対して短時間に充電や放電が要求され、非常に過酷な条件になっています。

    そこで大容量のキャパシタを搭載して発進や加速時に大電力が必要な場合はキャパシタからの電力で補い、通常はバッテリーからの電力で走行します。すでにマツザのアテンザにはブレーキの回生エネルギーの回収のために大容量のキャパシタが装備されています。 

    図 携帯電話とEVのバッテリーの使われ方
     
    携帯電話とEVのバッテリーの使われ方

     
    【二次電池の代わりに使用】
    キャパシタは重量当たりのエネルギー量(重量エネルギー密度)が電池の10倍近くあり、小型軽量な電源として活用できます。

    そこで短時間に大電力を蓄えて、それを放出して走行し、次の場所で短時間に充電するという使い方が考えられています。

    例えば、無人搬送車や路線バスなどは、走行する経路が決まっていて、どこかで必ず停止するため、停止した際にキャパシタに急速充電を行い、次の停止場所まで走行するような運用ができます。
     

    上海では、大容量キャパシタを用いた電気バスが2006年から商用運転されています。

    従来トロリーバスが運行していた路線に導入し、各バス停に充電ポイントを用意します。乗客の乗降時間の間の30秒の充電で5km以上走行できます。

    このキャパシタは高性能カーボン材を採用し、リチウムイオン電池に比べ安全性が高く、100万回以上の充電・放電が可能です。
     

    他の電力貯蔵、発電技術

     

    NAS電池

     
    【構造】
    負極物資にナトリウム、正極物質に硫黄、固体電解質にナトリウムイオンを通すセラミックを使った電池です。

    正極物質の硫黄を溶融状態にするためには運転時には温度を300℃にまで上げる必要があります。

    そこで真空断熱容器に入れてヒーターで加熱して使用します。

    【性能】
    エネルギー密度は鉛電池の3倍ですが、自己放電がしにくく長寿命で充放電効率が高いという特長があります。

    【課題】
    ナトリウムや硫黄という燃えやすい材料を使っているため、安全性が課題です。このNAS電池は大電力貯蔵用として日本碍子が実用化しています。

    【NAS電池の火災】
    2011年9月、三菱マテリアルの筑波製作所に設置されていた日本碍子製NAS電池が発火しました。

    電極にナトリウムを使っているため水を掛けると爆発する恐れがあり、消火活動が困難を極め鎮火までに2週間を要しました。
    日本ガイシは事故原因の究明と再発防止策の発表まで9か月近くを要し、その間生産・販売は停止しました。
     

    燃料電池

     
    燃料電池は、水素などの負極の活物質と空気中の酸素等を正極の活物質として反応させて発電する装置です。

    燃料電池は化学反応を利用して発電するため、内燃機関のように燃焼した熱エネルギーを運動エネルギーとして取り出すような変換がないため、発電効率が高く、騒音や振動が少ない特徴があります。

    電気化学反応と電解質の種類によって以下の方式があります。
     

    ① 固体高分子形燃料電池(PEFC, Polymer Electrolyte Fuel Cell)
     
    イオン交換膜を挟んで正極に酸化剤、負極に還元剤(燃料)を供給し発電します。

    起動が早く、運転温度は80-100℃と低いという特徴があります。水素を燃料に用いる場合は、触媒に高価な白金が必要です。そして燃料中に一酸化炭素が存在すると、触媒の白金が劣化する問題があります。

    室温で動作することと小型軽量化が可能なため、携帯機器、燃料電池自動車などへの応用が取り組まれています。

    触媒として使用される白金の使用量を減らしコストを下げることと、電解質として使用されるフッ素系イオン交換樹脂の耐久性の向上が課題です。一方発電効率は30-40%程と燃料電池としては比較的低いです。
     

    ② りん酸形燃料電池(PAFC, Phosphoric Acid Fuel Cell)
     
    電解質としてリン酸(H3PO4)水溶液をセパレーターに含浸させて用いる燃料電池です。

    動作温度は200℃、発電効率は約40%です。白金を触媒としているため、固体高分子形燃料電池と同様に白金の劣化の問題があります。

    工場、ビルなどに設置するコジェネレーションシステムとして100~200kWパッケージの製品がすでに市場に投入され、4万時間以上の運転寿命を達成しています。
     

    ③ 固体酸化物型(SOFC, Solid Oxide Fuel Cell)
     

    最も高温(通常700~1000℃)で稼働し、最も高い発電効率(45~65%)の燃料電池です。

    電極、電解質含め発電素子は全て固体で構成され、高温で化学反応が行われるため、白金などの触媒は不要です。

    高温で稼働するため水蒸気改質処理により都市ガスや天然ガスを用いることができます。

    排熱の温度が高いため、排気ガスでタービンを回して二次発電をしたり、コジェネーションシステムとして熱効率を上げることができます。

    1000℃という高温は強度や耐久性に問題が生じるため、稼働温度を下げる取組が行われています。また運転には必要な温度まで昇温が必要なので、本体に大きな熱ひずみを発生させることなく、急速起動・停止運転を行うことが課題です。
     

    NEDOが助成し、2011年6月から実証実験を開始した日立造船の発した業務・産業用固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、総合エネルギー効率において、業界トップクラスの90%(発電効率50%、熱回収効率40%)を達成しました。

    このSOFCは都市ガスを改質して得た水素を燃料とし、低騒音・低振動・CO2排出量削減の面で高い環境性が実現できます。
     
    2005年末、大阪ガスと京セラは定格発電効率45%を超える1kW小型SOFCを発表しました。

    これは動作温度を従来の1,000℃から700℃まで下げられるようになったためです。また大型機に比べて小型機の方が開発サイクルを短くできるため完成度を高めやすいという狙いがありました。

    大型機の場合、開発から試験、改良までの1サイクルに数年を要しますが、小型の1~0.7kWクラスであれば、半年のサイクルで回すため改良のスピードが早くなります。

    この実証研究にはトヨタ自動車とアイシン精機も参画しました。

    その成果を基に、家庭用SOFCコジェネレーションシステム「エネファームtype S」を2012年4月販売しました。発電効率は46.5%で、家庭用燃料電池においては世界最高水準です。
     

    ④ 溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)
     

    MCFCは運転温度が600℃と高いため、蒸気タービンなどの複合発電が可能です。

    高効率化に適しており、石炭ガス化ガスも使用できることから、大規模発電プラントに向いています。

    オンサイト用、分散配置用、集中配置用など広範囲に適用できる特徴を有しています。さらに、高温作動であるため、貴金属触媒が不要で、電池内で発生した熱と蒸気を利用して天然ガスなどの改質(内部改質)することでシステムが簡素化します。

    日本ではムーンライト計画にて1981年からの第一期で10キロワット級スタックの開発に成功し、1993年からの第二期では1000キロワット級のパイロットプラント(外部改質方式)と200キロワット級プラント(内部改質方式)がそれぞれ、中部電力(株)川越発電所内と関西電力(株)尼崎燃料電池発電所内に設置されました。

    2000年からの第三期では、産業用コージェネ向けの300キロワット級の加圧小型システム(送電端発電効率48%目標)の開発が進められてきました。

    中部電力は愛・地球博で会場のレストランから発生する生ゴミを原料に、メタン発酵設備でバイオガスを作り、このガスを燃料として発電するMCFCシステムを導入しました。1日に排出される4.8トンの生ごみから250kWの発電を行いました。
     

    ⑤ 燃料電池の性能比較
    以下の表に燃料電池の性能比較を示します。
     
    燃料電池の性能比較1
     
    燃料電池の性能比較2
     

    非接触給電技術

     
     
    バッテリーの電気に頼らず止まった時に非接触で給電することで、航続距離を伸ばす方法が検討されています。

    実用化に向けた技術基準の策定も進んでおり、総務省は車両側へのワイヤレス給電システム搭載率が2020年に20%、2030年に50%に達すると予測、海外需要はその20倍程度を見込んでいます。
     
    この非接触給電は1880年にニコラ・テスラが発見した電磁誘導の原理がベースになっていて、代表的なシステムには、2006年に米ベンチャー企業「ワイトリシティ社」が開発した「磁界共鳴方式」と、日本の「ビー・アンド・プラス社」が開発した「電磁誘導方式」の2つがあります。

    現在、実用化研究の主流は「磁界共鳴方式」で、スマートフォンなどの小型機器の充電に用いられている「電磁誘導」方式に比べ、電力の伝送距離が長く、送電効率が良い等の優位点があります。
     

    インホイールモーターで走行中の非接触給電

     
    日本精工(NSK)は2017年4月、東京大学や東洋電機製造と共同で、送電コイルを設置した道路からインホイールモーターに無線で給電して走行することに成功しました。

    給電デバイスをホイール側に取り付けることで、道路の凹凸に対しても常に一定の距離を保ち、しかも従来よりも間隔を狭くすることで高い効率で安定した給電が可能になります。またインホイールモーターの内部にリチウムイオンキャパシタを内蔵することで、頻繁な充放電に対応しました。

    この技術により、高速道路で走行中の給電のみで走行したり、市街地の信号のある交差点付近で給電することでEVの航続距離の短さを補うことができます。
     

    クアルコム社の非接触給電システム

     
    2017年1月、東京ビッグサイトの「オートモーティブ ワールド2017」で、クアルコム社は新型の非接触(ワイヤレス)式給電システムを発表しました。

    同社はニュージーランドの非接触式充電システムのベンチャー企業「HALO(ヘイロ) IPT」を買収し、電気自動車用のワイヤレス給電システムの分野に進出しています。

    クアルコム HALOのワイヤレス給電システムは2012年にルノーのEV「フルーエンス」に採用され、2014年には日産リーフの実証実験用に提供されています。

    また2014年からはフォーミュラEのセーフティカーのBMW i8に同社のワイヤレス給電が採用されています。

    2017年1月の東京ビッグサイトでクアルコムHALOが発表したワイヤレス給電システムは、2個の磁石を使用した独自の巻線を採用し、車載ユニットの大幅な軽量化を実現しました。また給電中は強い電磁波を使用するため、給電装置が金属片などを検知した場合は自動的に通電を停止するシステムを採用しました。
     

    IHIの非接触給電システム

     
    IHIは2011年にワイトリシティ社と「磁界共鳴方式」の実用化に向けた共同研究を行い、駐車場に設置した送電システム上に車両の受電装置が近付くと、回路に電流が流れて自動的に充電が開始されるシステムを開発しました。

    2012年には、三井ホームと戸建住宅でのEV, PHVの非接触給電の研究を始め、2019年頃の実用化を目指しています。

    これは15〜20cmの距離をおいて設置された2つのコイルを通じて最大3.3kWの送電が可能で、20cm程度ずれて車を停めても効率が大きく低下せず、約8時間でEVを満充電にすることができます。
     

    バス・トラック向けにワイヤレス給電

     
    東芝は早稲田大学理工学術院教授の紙屋雄史氏と共同で「EVバス早期普及に向けた充電設備を乗用車と共有するワイヤレス充電バスの実証研究」をANAの拠点がある川崎市川崎区のキングスカイフロント地区内の路線や、同地区と羽田空港周辺を結ぶ路線などで行う計画です。

    同社の「磁界共鳴方式」の非接触充電システムは地上に置いた大きさ60×40cmの送電コイルから、車両底部に搭載した受電コイルまでの距離が垂直方向で17cm離れても充電でき、バスの高い車高に対応すると共に、ワゴン車にも適用可能です。

    左右方向の位置ずれの許容範囲は「電磁誘導方式」の15cmに対して約1.7倍の25cmを実現しており、受電モジュール間の位置ずれの許容範囲が広くとれるのが特徴です。

    今回の実証実験では国際標準化の進む周波数に対応した充電システムを用いることで、EVバスとEV乗用車のシステム共通化についても検証の予定です。
     

    電池駆動の将来

     
    結局、バッテリーが小さく安価になれば、EV化に対する障害はほとんどなくなります。その観点で二次電池の進化と性能を表5にまとめました。
     
    二次電池の種類とEVの性能1
     
    二次電池の種類とEVの性能2
     
    二次電池の種類とEVの性能3
     
    ガソリンは重量当たりのエネルギー密度は非常に高いのですが、ガソリンを動力に変換する効率がバッテリーに比べ低く、ガソリンから動力を取り出すためにはエンジンやトランスミッションなどの重量物が必要です。

    例えば表5のように総重量1.1トンのガソリン車のコンパクトカーでは満タンでの航続距離は600km前後です。同様の性能をリチウムイオンバッテリーで実現すれば、368kgのバッテリーを積んで1.4トンの車になります。(それと比べるとリーフは重いのですが)
     

    トヨタ自動車が2020年代に投入を予定している全固体電池では、重量エネルギー密度が1.6倍になり、航続距離を同じ600kmとすれば1.26トンの車になります。

    さらに次世代のリチウム空気電池を使えば、バッテリー重量71kg、車重1.1トンでガソリン車と遜色なくなります。
     

    複数の技術の組合せが解になる

     
    一方、大半の人が一日に100km以下しか走らない中で、600kmもの航続距離が必要かどうかという議論もあります。ただし航続距離がギリギリで常に電欠の不安を感じて走るのは嫌だと思います。

    そこで例えば、レストランやショッピングセンター、サービスエリアで車が止まっているときに少しずつ自動的に充電すれば航続距離は伸ばすことができます。

    その場合、短時間に大電力を取り込むために二次電池に加えて大容量キャパシタも必要かもしれません。

    あるいは、アルミニウム空気電池のように充電はしないで、ガソリンスタンドで新しい電池と交換する方法が取られるかもしれません。

    つまり二次電池、大容量キャパシタ、非接触給電システムなど複数の技術を組み合わせて使う必要が出てきます。
     

    コストが最も重要

     
    結局バッテリーの性能がいくら上がっても、コストが下がらなければEVの普及は望めないでしょう。

    逆にコストさえ下がれば現状のリチウムイオン電池でもEVは急速に普及する可能性があります。

    電池の大量生産技術とコストダウン、あるいはリチウムのような希少金属を使わない電池の開発が重要になってきます。

    一方でリチウムイオン電池の安全性はまだ完全ではなく、この点の技術開発も重要です。
     

    EVの時代は当分来ない

     
    このように二次電池に関する技術を調べると、ユーザーがガソリンエンジンとそん色ない性能を手にするためには、次世代の次の世代、リチウム空気電池の登場まで待たなければなりません。

    それもコストが今のリチウムイオン電池よりはるかに安くなればという前提です。

    それまではEVに乗るということは、ガソリン車に比べて、重く航続距離が短い車に乗るということです。

    とはいえど、中国のように国策として、EVを推進すれば事情が変わってきます。

    EVの課題はメーカーだけでなく、道路、充電設備、バッテリーの交換など社会インフラの整備が必要です。こうした社会インフラの整備、EVの優遇使用とガソリン車へのペナルティ、これらの制度がうまく機能すれば、その国はいち早くEV大国になるでしょう。
     

    一方でEVが大量に普及すれば、大量に発電所をつくらなければ電気を供給しきれないという意見もあります。

    これに対して、前述のように多くのEVが夜間に充電することで既存のインフラで充分に賄うことができるという意見があります。

    あるいは小規模な燃料電池を大量生産して各地に分散する方法もあります。

    前述のようにSOFCやMCFCのような燃料電池は、蒸気タービンを組み合わせたコンバインドサイクルにより火力発電所(最高でも60%以下)より高い85%以上の効率が実現できます。

    1000キロワットクラスの燃料電池発電プラントをビルの屋上や地下に設置して近隣の電気を賄えば、現在の発電所のように遠隔地から長い距離を送電しなく済みます。

    あるいは各家庭に燃料電池と二次電池を組合せて設置すれば、電力消費が少ない時は燃料電池のみでまかない、電力消費が増えれば二次電池から供給し、自己完結できます。また燃料電機から温水も供給されます。

    この二次電池には古くなったEVの電池を使うこともできます。
     

    全く新しい乗り物、小型EVが従来の車を駆逐する?

     
    電池の性能が向上すれば、大型、高速、長距離を移動するものも電動化できます。

    かつて鉛電池の時代は、電池で動かせるものはゴルフカート、無人搬送車(AGV)、フォークリフトなどでした。これらは、低速、小型、短時間であったためでした。ニッカド電池、リチウムイオン電池などが登場して、自転車、スクーター、ドローンなどが電動化されました。

    一方、それでもトラックやバスを長距離走らせるには電池は力不足です。表6にコムス、リーフ、バスのバッテリー重量を示します。
     
    コムス、リーフ、バスのバッテリー重量
     
    もしリチウムイオン電池を使えばコムスは、より100kgも軽くなり高性能な乗り物になります。

    一方バスは、まだ長距離を電池で動かすには電池が大きすぎます。将来電池がさらに高性能になればまた変わりますが、現状ではバスやトラックなどは燃料電池の方が合理的なシステムになります。

    燃料電池も前述のSOFCであれば白金を使わない上に燃料もメタノールや天然ガスが使えます。既存のインフラで対応できるため、小型化し量産によりコストが下がれば可能性は高いと思います。
     
    現在の小型EVは、高性能なガソリン車を所有している人たちから見れば、「買いたい」ものではないかもしれません。

    しかし、カーシェアや自動運転と組み合わせれば、手軽な移動手段として車を持てない層にまで広がるかもしれません。

    そうなったときには、今の技術でもEVが既存のガソリン車の市場を奪っていくかもしれません。

    かつて、オフコンがパソコンに、ハーレーダビッドソンがホンダに、ゼロックスのコピー機がキャノンの小型コピー機に市場を奪われたように。

     
    現在、この分野では非常に多くの企業、研究機関が次世代電池や電池材料の研究にしのぎを削っています。

    イノベーションはプレイヤーが多いほど加速します。これから様々なイノベーションが生まれると思います。

    そして、従来のエンジンは少数になり、新たなシステムがとって代わるのではないでしょうか。
     
    参考文献
     
    「自動車用リチウムイオン電池」金村 聖志/編著 日刊工業新聞社

    化学 2012年7月号
     
    オーム 2016年5月号

     

    本コラムは2017年12月17日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
     

    経営コラム ものづくりの未来と経営

    人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

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    インダストリー4.0はものづくりを変えるのか? その2

    最近脚光を浴びているインダストリー4.0とスマートファクトリー、

    経営コラム76号では「過去からのものづくりの変化とインダストリー4.0を取り巻く要素」について解説しました。

    インダストリー4.0はものづくりを変えるのか? その1

    今回はインダストリー4.0の活用事例について述べました。
     

    インダストリー4.0の実例

     

    インダストリー4.0の実際の活用は、大別すると

    • 生産性の向上
    • 熟練の技能の見える化
    • 開発の効率化
    • より高度なサービス
    • などです。
       

      生産性の向上

       

      ムダのない管理の行き届いたように見える工場でも、設備や人の配置を細かく見てみると、機械の空き時間や作業者の手待ち時間があることがあります。

      実際には、今の工場はつくるものの品種や生産量が変動するため、それぞれの時点で最適な設備や人の配置が変化します。

      そのためベテランの管理者でも、変化する状況に応じて空き時間が全くないような設備や人の配置を行うことは容易ではありません。
       

      しかしサイバーフィジカルシステムを用いて、コンピューターの中にあるバーチャルな生産ラインであれば短時間に何度も構成を変更して最適な設備や人の配置を決めることができます。

      それを積み重ねれば、最初から最適な配置がわかるようになります。

      さらに複数の工場で発生するデータを一緒に解析すれば、工場間でのばらつきも考慮して最適化できます。
       

      また今まで個々の設備の使用条件は、熟練の管理者が最適な条件に調整していますが、複数の工場で発生するデータを解析することで、より最適な条件を導く事ができます。
       

      オムロンの取り組み

       

      オムロンは、富士通と共同でIoT技術を用いて、自社の実装ラインで発生するデータを集計し、實相ライン全体を見える化しました。

      設備単体での稼働時間、停止時間では見えなかった設備間のロスを、ライン全体で稼働時間をチャート化することで見える化しました。

      これを解析し、製品の流れを改善することで生産性を30%向上させました。

      製造現場でのビッグデータ活用
       

      富士通ものづくりナビゲーションシステム

       

      富士通では、工場のものづくりをナビゲーションするシステムとして開発 / 製造データから統計モデル、設計モデルをつくり、そのモデルから製造状態の予測に取組んでいます。
       

      そして予測される品質、加工費、リードタイム、機能、性能マージンなどが、設計値とどれくらい開いているかを数値化し、開発・製造現場にフィードバックします。

      これにより、製造現場と開発現場の双方の改善を促進し、改善の横展開を高速化します。

      富士通の次世代ものづくりソリューションの例
       

      Nobilia(ノビリア)の1個づくり

       

      ドイツのNobilia(ノビリア)は欧州最大のキッチンメーカーで、毎日2600セット、年間58万セットの高級キッチンを生産し、その全てが特注仕様です。

      これらを人件費の高いドイツ・ウェストファリア地方で生産しています。

      Nobilia(ノビリア)
       

      在庫された加工済み部品からERP・MESが注文ごとに必要な部品をピッキングし、個体識別用のRFIDタグやバーコードを付けます。

      全ての部品にIDがあるため、その部品が、どの顧客から注文を受けたキッチンの、どこに収まる部品で、いつどこに届けられる必要があるのか、を部品ごとに把握できます。

      その結果、組み立て工程のリアルタイムでの最適化と、不具合発生時の個別の原因究明を効率良く行うことができます。

      Nobilia(ノビリア)の工場動画
       

      ノビリアでは、自社の生産方式を「Manufacturing by Wire」と呼んでいます。

      後工程で全部品にIDを持たせ、工程を自動的に組み替えています。

      従業員2500人で売上高は1300億円に近く、従業員1人当たりの売上高5200万円はインテルとほぼ同額という高い競争力があります。
       

      熟練技術の見える化と人の作業のアシスト

       

      IoTやAI技術を用いて、熟練作業者の動きを見える化し、熟練作業者でなければできなかったことを未熟な作業者でもできるような取り組みが行われています。

      例えば、熟練作業員の効率的で無駄のない動きを、熟練作業員に持たせたGPSの位置情報や、ライブカメラの情報、身体に取り付けたセンサーから取り込んだ身体の動き方などから分析します。

      そして多くの熟練作業員の動きを収集し、最も効率的な動きを導き出し、これを新人作業者に指導して生産性を向上する取組が行われています。
       

      NTT東日本のIoTの取り組み

       

      東日本電信電話(NTT東日本)は、3000以上の局舎のネットワーク機器を日々管理しています。

      保守作業では、作業者は指示書を携えていきますが、数百数千の機器、ケーブルから、対象の指示書を探すのに時間がかかりました。

      また全ての機器やケーブルには番号が振ってありますが、数が多いために特定に時間を要していました。

      音声で遠隔オペレーターと連携しながら作業を進めていますが、空調などの騒音のため、音声が聞こえないという問題がありました。
       

      そこでエプソンのスマートグラスを導入し、ハンズフリーでの作業、双方向の音声通信を実現しました。

      さらに作業者の視野内にある機器を、遠隔地のオペレーターが画面で確認することで作業効率を高め、また作業位置までの誘導がスムーズになりました。

      監視端末の画面上で機器を丸で囲むと、現地作業者には、オーバーレイ表示された図形が見えます。

      その結果指示が確実に伝わるようになりました。

      業務用スマートグラス導入推進事例 東日本電信電話株式会社
       

      開発の効率化

       

      富士通の取り組み

       

      仮想大部屋会議

      各部門や各技術の専門家が集まって最適な製品を実現する「摺り合わせ型開発」は日本のものづくりの強さの源泉と言われています。

      一方一か所に関係者が集まるために、移動距離や時間の制約のため、タイムリーに会議を行うことができず開発期間が長くなりました。

      そこで仮想 / 現実のあらゆる情報を手元に集約・可視化し、仮想と現実を融合し、離れた場の雰囲気を感じる仮想大部屋会議に富士通では取り組んでいます。

      必要な時、必要な所に自らの分身をテレポーテーションする感覚で、開発リードタイムを大幅に短縮することを目指しています。

      設計/検証の自動化

      過去の設計事例や試行錯誤の結果を蓄積し、機械学習を活用して、新たに設計したものに対して、その結果をコンピューター上で予測します。

      機械学習により設計ミスを事前に発見し、つくる前に設計結果を修正することで、設計ミスの抑制と試作・修正の工数を低減します。
       

      薬品サンプルのスマートグラス活用

       

      前田建設工業株式会社 技術研究所は、年間約500件の現場から、土壌や地下水のサンプルの分析を行っています。

      この分析が終わらないと契約や工事が進まないため、1日も早く結果を出す必要がありました。
       

      分析に用いる薬品は150種類以上で、うち毒劇物が7割を占めています。

      毒劇物は分析に入る前に製品安全データシート(MSDS)の確認が必要でした。

      MSDSは分厚いバインダーに閉じられページをめくって検索していました。
       

      そこでスマートグラスを活用して、薬品棚にある薬品を見ると、薬品瓶に貼った「QRコード」をカメラが認識し、MSDSのデータを自動的にスマートグラスに映すようにしました。

      薬品瓶を手に取る前にどのような保護処置が必要なのかが分かり、保護めがねなどを装着できるようになり分析時間が大幅に短縮しました。
       

      より高度なサービス

       

      全てのセンサーや機器をインターネットに接続することで、実際の製品の使用状況や摩耗の程度を検知して、早期に保守をすることができます。

      工業製品には、メーカーが「寿命」としている時期がありますが、必ずしも全ての機器が「寿命」の時期に正確に故障する訳ではありません。

      「寿命」を遙か超えて使える場合もあります。

      そこで大量のデータを分析して寿命を正確に予測します。

      まだ使えるものを最後まで使い切ればコスト削減になります。

      また保守だけでなく、設備や機器の稼働状態を監視することで、ムダを発見したり、効率の良い使い方を提案するなど新たなサービスが生まれています。
       

      GEのサービス

       

      ジェネラルエレクトリック社(GE)は、インダストリアル・ネットワーク事業を展開し、航空機(エンジン)、発電所(タービン)、医療機器などをネットワークで結び、ビッグデータを活用してより効率的な使い方やコスト削減を提案してきました。

      顧客に対してエネルギー生産性を年率1%改善することをコミットして、顧客に提案しています。

      例えば、ジェットエンジンに組み込んだセンサーのデータと、その時の気候や整備状態、機体に関するデータを解析し、空港への進入路やエンジンの出力の調整をエアアジア社に助言しました。

      その結果、エアアジア社は燃料を節約でき、1000万ドル/年のコストを削減しました。
       

      あるいは風力発電機に組み込んだセンサーから送られる温度、湿度、風速、風向などのデータを分析し、その時の気象条件に最適な羽根の角度に調整しました。

      その結果、発電量は最大5%増え、利益が20%増加しました。
       

      コマツの取り組み

       

      KOMTRAX
       
      建設機械大手のコマツは、建設機械に搭載されたGPSや各種センサーから、個々の建設機械の状態を収集します。

      収集するデータは、車両の位置情報、車両の稼働時間、作業内容、燃料の残量、エンジンの負荷などです。
      これらの情報は、ユーザーや販売代理店に提供されます。
       

      これらの情報から、建設機械が、エンジンを切らずに休憩してないか、エンジンをかけた時間分の仕事をきちんと作業したかをチェックしています。

      また、盗難した場合には、GPSで場所を特定し、遠隔操作で作業を止めることもできます。

      部品交換のタイミングは、使用される環境で異なりますが、これも適切に指示します。

      KOMTRAX
       

      ICT建機「スマートコンストラクション」
       
      ドローンを使用して、10~15分の間に数センチピッチで工事現場の測量を行い、1日後には現場の詳細な三次元データが完成します。

      施工完成図から作成した完成後の三次元データと比較し、施工すべき範囲や土量を正確に算出します。

      この施工データは、ICT建機に転送され、現場では正確に施工できます。

      さらに熟練オペレーターのノウハウも数値化して搭載しているため、初心者でも熟練者並みの仕事ができます。

      さらに油圧ショベルにステレオカメラを搭載し、手作業や他社の建機で施工したところもモデルに取り込むことができます。

      このシステムを2015年2月から提供し、現在1000か所の工事現場で活用されています。

       SMART CONSTRUCTION
       

      スマートコンストラクション動画館
       

      インダストリー4.0での疑問

       

      インダストリー4.0の目的は?

       

      IoTやスマートファクトリーはあくまで手段であり、目的はこれを使ってどのようなものづくりをするかです。

      インダストリー4.0について、多くの人が実感できないのは、どのように変わるのかがはっきりとしていないことです。

      確かに個々の技術や人工知能、機械学習などの情報は手に入ります。

      しかしそれを活用して、ものづくりの変わった姿が実感できません。

      実はメリットは二つしかありません。
       

      • 生産性が向上 (時間当たりの生産量が増加)
      • 品質が向上 (不良が減少、又は今までできないものができるようになる)

      この二つのいずれかが実現しなければ、投資を回収できません。
       

      そしてインダストリー4.0はドイツ政府の主導で始まり、それにシステムベンダーが乗っかった状態になっています。

      実際のドイツの事例を見ると、1個づくり、多品種少量生産は、インダストリー4.0でなくても、日本では今までの工場でもある程度までは実現しています。
       

      かつて大々的にPRされ、今は使われなくなってしまったCIM(Computer Integrated Manufacturing)やFMS(Flexible Manufacturing System)の二の舞ではないかという懸念が生じます。

      CIMやFMSはコンピューターのよる中央制御型のシステムでした。

      しかし実際の現場では予想できないトラブルや遅れが生じ、中央で制御しきれない点が生じました。
       

      一方トヨタのカンバン方式は、工程の進捗に合わせて、後工程が前工程に取りに行くことで自律的な運用を可能にしています。

      その結果、少ない在庫量で効率的な生産を実現しています。
       

      インダストリー4.0でドイツが生産性向上したわけではない

       

      いくつかの記事やレポートは、ドイツの労働生産性が高く、日本に比べてGDPの成長率が高いことを訴えていて、それを間接的にインダストリー4.0と結び付けて論じています。

      しかし実際には現在のドイツはインダストリー4.0の成果は出てなく、これから生産性を高めようとしている状態です。
       

      日本企業の設備投資が少ないことと労働生産性が低いことの関係

       

      経済産業省は、日本企業の設備投資が低調で設備が老朽化していることが、日本の労働生産性が低い原因と考えています。

      しかし国内市場の拡大がこれ以上望めず、工場の海外展開が進行している企業にとって、国内に設備投資をしないことは合理的な判断ではないかという気がします。
       

      日本の設備ビンテージ問題

      日本の設備ビンテージ問題


       

      今後大量生産品ビジネスで日本が新興国メーカーとコスト競争で優位に立つことは容易ではありません。

      ドイツでは、すでに大量生産型ビジネスから、高付加価値型のビジネスに展開しつつあります。

      日本企業もミドルクラス以下の大量生産品(家電、コンピューター、自動車など)は、中国など新興国に明け渡し、新たな高付加価値型に事業を転換する時期ではないでしょうか。
       

      故障予知が故障増加しないか

       

      データ収集のために大量にセンサーをつけた場合、装置全体の信頼性は低下します。

      センサーの数が10個になると、下図のように信頼性は1個の場合の10乗、100個になると100乗になります。これは、ルッサーの法則と呼ばれています。

      (ルッサーはドイツの航空技術者でアメリカのアポロ計画でも信頼性の向上に非常に大きな貢献をしました。)
       

      ルッサーの法則

      ルッサーの法則


       

      多くのセンサーを付ける場合、センサー自体の信頼性を高めておかないと、このセンサーが装置の信頼性を低下させかねません。
       

      1個づくりが主流になるのか?

       

      商品が成熟化すると、顧客の個々の要望に応じてカスタマイズする取組が行われます。

      一時期は自動車でも10種類以上の内装の組合せが選べるモデルがありました。

      しかし実際は特定の色の組合せが売れました。
       

      実は、あまりに種類が多いと顧客は選べなくなるという心理があります。

      「完全に顧客の好みに応じて作ります」

      と言われても、

      「ではお勧めの組合せを教えてください」

      となってしまいます。

      それは住宅のような商品でもその傾向があります。
       

      逆に洋服や靴のような個人の体形にからむものは、1個づくりは大いにメリットがあります。

      未来の工場は1個づくりに向かうのでしょうか。
       

      本コラムは2016年4月21日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
       

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      未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

      経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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      書籍「中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!」日刊工業新聞社

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