インターネット以来の大発明ブロックチェーンその1 ~ビットコインの成り立ちと特徴~

ビットコインに代表される仮想通貨(暗号通貨)は、かつて価格が高騰し、ビットコイン長者が生まれるなど様々な話題を提供しました。

その一方、
「よくわからないもの」
「怖いもの」
というイメージがあります。

一方、仮想通貨に使われているブロックチェーンの技術は、第二インターネットに匹敵する発明といわれています。

このビットコインは、その生まれた背景から、それまでの通貨とは全く違うところを目指していました。
そこで仮想通貨を理解するために「デジタルゴールド」ナサニエル・ホッパー著 を参考にビットコインの成り立ちと特徴を書きました。
 

貨幣の役割と仮想通貨の生まれた背景

貨幣の役割

貨幣、つまりお金には以下の3つの役割があります。

  1. 価値の交換や支払の手段
  2. お金を使うことで全く用途や価値の異なるものを交換することができます。
    またお金を貸し借りすることで、過去や未来の価値を交換することもできます。

  3. 価値の尺度(ものさし)
  4. 価格をつけることでモノやサービスの価値が誰でも同じように理解できます。

  5. 価値の蓄積と保存
  6. 生もののような保存のきかないものも、販売してお金に変えることで、その価値を長期間保存することができます。

 
現代では、個人が生きていくのに必要なものを、自分ですべて手に入れることはできません。自分で手に入れた価値をお金に変えることで、生活に必要な様々なものを手に入れることができます。
 
ところが貨幣は、各国が独自に発行するため、国によってはお金の価値が不安定なため、これらの価値3つの機能が「満たされていない人たち」がいます。

さらにインターネットにより情報が世界中を短時間に駆け巡るようになり、航空運賃も低下したため、人やものが国を超えて移動するようになりました。その結果、海外を相手に事業を行う場合、上記の役割が十分に満たされないことがあります。
 

満たされない人たち

新興国では、自国の脆弱な経済基盤や政府の失策により貨幣価値が不安定で短時間に下落することがあります。これは国際間の信用の低下にもつながり、自国通貨では海外企業との決済もままならないこともあります。
 
日本では、金融機関同士のシステムが連携しているため、異なった銀行同士でも即日決済が行われています。しかし海外では金融機関同士の送金に数日かかることは珍しくありません。

さらに国際送金では、日本でも海外銀行との決済窓口のある金融機関はメガバンク等限られており、他の金融機関はこれらの決済窓口のある金融機関を経由するため、時間がかかり、手数料も高額です。

つまり、海外との取引では、交換や支払の手段として十分とはいいがたい点があります。
 

貨幣価値が不安定な国々

経済政策の失敗などで大幅なインフレに見舞われている国では、貨幣の持つ「価値の保存機能」が極めて脆弱です。年率100%以上のインフレでは、もし資産を自国の通貨で持っていれば、何もしなくても短期間で資産価値はゼロになってしまいます。
 
図1 ジンバブエドルの価値は…
図1 ジンバブエドルの価値は…(Wikipediaより)
 
このような国では、手に入れた富は直ちに貨幣以外の資産に変えなければなりません。例えば金は産出量が限られ、価値が大幅に下がることはなく、しかも容易に換金できるため価値の保存手段としては優れています。

日本のように自国通貨が国際的にも信用され、通貨の発行量も安定し資産が大幅に減る心配のない国では、自国通貨に対し不安を持っている人はいません。しかし日本のように自国通貨が世界的に信用のあるのは先進国の一部で、それ以外の国々では自国通貨は世界で信用されておらず、国民の自国通貨に対する信用も高くありません。さらに自国通貨の価値は、その国の経済状況や政策により左右されます。つまり自分の財産の価値が政治に左右されます。

このような背景から、自分の財産を自国通貨で持つことを嫌がる人たちがいます。

さらに欧米では、国家権力に対する不信から、私的財産に対する制限を嫌悪し、個人の自由・自立を重んじるリバタリアニズムを標榜するリバタリアンと呼ばれる人たちがいます。彼らは個人の財産を貨幣で持てば、その価値は国の通貨発行量により変わるため、これを嫌悪しました。

このような思想から
「中央銀行の呪縛から解き放たれた通貨」
という構想が生まれました。この通貨は、以下の特徴を有しています。

  • 完全な匿名性
  • 限りなく低い取引コスト
  • 簡単な送金

 

ビットコインについて

ビットコインとは、貨幣のような紙幣や硬貨などの実態のない電子的な貨幣です。

一般的な貨幣のように中央銀行が発行せず、ビットコイン財団が管理・運営するオープンソースプログラムにより運用されています。そのため円やドルなどの通貨との交換レートは保証されていません。

このような電子的な貨幣を仮想通貨(又は暗号通貨)と呼ばれます。
 

黎明期

ソフトウェア技術者達の中でリバタリアン的思想を持つ人達が、政府の介入の及ばない貨幣に取り組んでいました。1997年ごろにはそのような貨幣に取り組むオンラインコミュニティがいくつかできて、そのうちのひとつ「サイファーパンク」で、電子貨幣をめぐる様々な取組が試みられていました。

1997年にはアダム・バックがコピー制限を可能にするハッシュキャッシュという技術を発表しました。

1998年には、デジタル通貨「ビットゴールド」「bマネー」がつくられました。

しかし現実の世界に適用しようとすると様々な障害が発生しました。メンバーの間には「デジタル通貨をつくるというのは無理ではないか」というムードになってきました。
図2 ビットコイン黎明期のプレイヤー
図2 ビットコイン黎明期のプレイヤー
 
2008年8月サトシ・ナカモトという人がサイファーパンクの流れを引き継いだコミュニティに9ページの論文を投稿しました。

そこには完全にオープンな環境でも偽造ができない方法が書かれていました。この方法は電子通貨で発生した取引をネットワークに参画するすべてのコンピューターに記録するものです。この記録を承認するには難しい暗号を解かなければならず、一番最初に暗号を解いたものには報酬として、一定額の電子通貨が与えられます。

もし取引を偽造しようとすれば、すべての取引の記録を書き換えなければなりません。そのような手間をかけるぐらいなら、暗号を解いて報酬を得た方が楽です。

この電子通貨をサトシはビットコインと名付けました。
 
2009年1月、この論文を見たプログラマーのハル・フィニーはこの方法がとても気に入り、サトシと共に熱心にこのビットコインのプログラムに取り組みました。

2009年5月ビットコインフォーラムを見たヘルシンキ工科大学のコンピューター「オタク」マルッティ・マルミが、サトシに協力を申し出て、ビットコイン・フォーラムのウェブサイトの管理を行い、ロシア語に翻訳したりしました。

2010年4月リバタリアンの思想を持ちプログラマーのギャビン・アンドレセンは、ビットコインの分散型ソフトウェアとオープンソースに興味を持ちフォーラムに参画しました。そしてサトシ、マルッティ以外にコードに変更できる人になりました。

2010年7月、カリフォルニア大学を中退したジェド・マケーレブは、個人が大容量のファイルをやり取りできるサービスを立上げました。このサービスは大ヒットしましたが著作権に違反しているとして全米レコード協会から訴えられ、マケーレブは和解金を支払い会社を解散しました。その後、ビットコインの記事を読んだマケーレブは、ピッコインの取引所マウントゴックス(Mt.Gox)を開設しました。
 

発展期

2011年3月、ビットコインの認知が広まるにつれ、マウントゴックスの取引量は増大しました。当時マウントゴックスの支払いは、金融機関を介さず、マケーレブのペイパル個人アカウントで行っていました。ビットコインが売れれば売れるほど、マケーレブのペイパル個人アカウントからお金が出ていきますが、入金にはしばらく時間がかかるため、マケーレブの口座からお金がどんどん出ていきました。

これに手を焼いたマケーレブは、ウェブホスティング会社を経営している日本在住で24歳の「オタク」マルク・カルプレスに協力を要請しました。

その後度重なるハッカーの侵入に手を焼いたマケーレブは、マウントゴックスを売却する気になり、マルクにマウントゴックスの購入を打診しました。マルクはマケーレブからマウントゴックスをタダで購入しました。

当時マウントゴックスの顧客数3000人、収益が10万ドルでした。しかし現実世界でビットコインが使えるところはほとんどなく、顧客は興味本位で買っているだけでした。

2011年1月、ヒッピーの両親を持ち、リバタリアンで無政府主義者のサーファー ロス・ウルブリヒトは、違法薬物のような普通のオンライン市場では買えないものを販売するサイトをつくろうと考えました。この闇サイト「シルクロード」は決済手段としてビットコインを使用しました。

一方ビットコインが広まるにつれ、利用者の間でビットコインを買うために銀行送金が煩わしいという声が出ました。ビットコインの取引は10分で完了するのに、マウントゴックスのある日本への送金に丸1日かかるからです。

2012年2月、これを解決するために、ニューヨークの若者チャーリー・シュレムは顧客に代わってマウントゴックスへの送金を行うビットインスタントを創業しました。

こうしてビットコインの売り買いは活発になりましたが、実際の取引の大半は、違法薬物の闇サイトシルクロードが占めていました。

しかしロス・ウルブリヒトは、2013年10月にFBIに逮捕されました。

さらに2014年の1月にはビットインスタントのチャーリー・シュレムが、シルクロードの取引に関わった疑いで逮捕されました。

2013年10月湖南省出身で30歳のファン・シャオユは、中国初のビットコイン取引所BTCチャイナを創設しました。中国系アメリカ人ボビーリーがBTCチャイナの経営に加わりました。ボビーの弟は、グーグルの技術者で仮想通貨ライトコインを開発したチャーリー・リーでした。ボビーはビットコインの決済のために、テンセントとの提携に成功、これにより中国は世界で最も簡単にビットコインが買える国になりました。

「どんなものでも賭け事の対象にしてしまう無類の賭け事好き」な中国人の多くは、国外への資金の移動が制限され、国内しか投資対象がないこともあって、ビットコインに飛びつきしました。中国での取扱量は急激に増大し、短期間で世界最大の取引国になりました。

ところが2013年12月、中国政府は突如ビットコインの取引を全面的に規制しました。これによりビットコインの価格は暴落しました。

2014年2月マルク・カルプレスの経営するマウントゴックスが破綻しました。マルクは度重なるハッキングで喪失したコインを顧客のコインで穴埋めし続けていました。そして遂に事業継続が困難となりました。
 

現在

2014年2月マウントゴックスの破綻で18,280円にまで下落したビットコインは、その後規制や取引所の破綻などに価格が乱高下しながら、2万円台から6万円のあいだを上下していました。

2017年に入ると取引が過熱、2017年1月には110,986円になりました。その後も価格は上昇を続け、2017年12月には2,227,388円と1年間で23倍近い値上がりとなりました。

しかしビットコインが決済に使えるところは微増しているものの、実際の用途はほとんどが投資目的でした。

その一方で、ビットコインから分裂したビットコインXT、ビットコイン・アンリミテッド、ビットコイン・クラシックがリリースされました。種類が増えることは投資対象としては選択肢が増加しましたが、通貨としての利便性は低下しました。
 

図3 ビットコインの価格の変化
図3 ビットコインの価格の変化
 

2008年 10月 サトシ・ナカモトビットコインに関する論文発表
2009年 1月 最初のビットコイン誕生、ハル・フィニー参画
5月 マルッティ・マルミ参画、ロシア語のウェブサイトなど構築、フォーラムが活発に
10月 交換レート1BTC=0.07円
2009年リーマンショック FRBが大手銀行を救済
2010年 4月 ギャビン・アンドレセン(プログラマー)参画
5月 初めてビットコインでピザの代金を支払う(25ドルを10,000BTC)
7月 ジェド・マクレーブがマウントゴックスを立ち上げ、ペイパルでビットコインが購入可能に
2011年 1月 ロス・ウルブリヒトが違法薬物闇サイト「シルクロード」を立上げ
3月 ジェド・マクレーブがマウントゴックスをマルク・カルプレス(日本在住)に売却
交換レート1BTC=74円 サトシがフォーラムから完全に消える
6月 マウントゴックス急成長する。最初のハッキング被害でビットコイン盗難
交換レート1BTC=1,401円ss
2012年 2月 チャーリー・シュレムがビットインスタント創設、エリック・ボーヒーズが出資
5月 エリック・ボーヒーズがビットコインを使った賭博サイト「サトシ・ダイズ」を開設
10月 アルゼンチン出身ウェンセス・カサレスがビットインスタントに投資
11月 最初の半減期採掘報酬50BTC→25BTC
最大の市場はいまだシルクロード
2013年 3月 ビットコイン採掘専用ASICが開発される
バグにより最初のハードフォーク発生
交換レート1BTC=4,597円
キプロス追加危機、ビットコイン価格上昇
6月 エリック・ボーヒーズ「サトシ・ダイズ」を売却
10月 ロス・ウルブリヒトが逮捕「シルクロード」閉鎖
ボビー・リーとファン・シャオユがBTCチャイナを上海で創業
支払はテンセントと提携、中国の取引量が世界最大となり価格が高騰
12月 交換レート1BTC=110,000円
中国政府がビットコインの取り扱いを禁止、取引所が一時的にサービス休止
2014年 1月 チャーリー・シュレム違法取引の疑いで逮捕
中国政府の規制
2月 マウントゴックスが破綻
交換レート1BTC=18,280円
6月 マイナーGhash.ioの採掘力が51%に達し、51%攻撃のリスク
Ghash.io内のマイナーが他のマイニングプールに移ることで危機は回避
交換レート1BTC=60,932円
9月 コインチェックがサービス開始
12月 マイクロソフトがビットコインでの受付を開始
2015年 8月 ビットコインXTが分裂して、フォーク版をリリース
12月 フォーク版ビットコイン・アンリミテッドがリリース
2016年 2月 フォーク版ビットコイン・クラシックがリリース
3月 DMM.comビットコイン決済を開始
7月 2回目の半減期25BTC→12.5BTC
8月 世界最大の取引所bitfinexがハッキングで12万BTC(約69億円)を盗難
2017年 3月 交換レート1BTC=145,790円
4月 日本で仮想通貨法が施行、ビットコインを通過でなく支払い手段の一つと定義
8月 ハードフォークによりビットコイン・キャッシュが誕生
12月 交換レート1BTC=1,942,438円
2018年 1月 即時・手数料無料決済のLightning Networkを利用した初めての物品購入
コインチェックがハッキング被害により580億円盗難される

 
図4 ビットコイン年表
 
こうしてリバタリアン達による政府が関与しない通貨は、何人かの熱心な努力により運営され、違法薬物取引で実際に便利なことが分かりました。

しかしその後は、通貨としてよりも「何かわからないけど将来値上がりするもの」という点が、投資(投機?)対象として、広く買われるようになりました。

さらにアルゼンチンのように自国通貨の暴落に見舞われた国の富裕層などが購入しました。

こうしてビットコインは度重なるハッキングや暴落に見舞われながら今でも取引されています。

このビットコインの技術については「インターネット以来の大発明その2」 ~ビットコインの技術、マイニングとプルーフオブワーク~ を参照願います。
 

本コラムは2019年3月17日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

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