組織と人材 | 原価計算システムと原価改善コンサルティングの株式会社アイリンク https://ilink-corp.co.jp 数人の会社から使える原価計算システム「利益まっくす」 Wed, 24 Apr 2024 23:00:14 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.5.3 https://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2021/04/riekimax_logo.png 組織と人材 | 原価計算システムと原価改善コンサルティングの株式会社アイリンク https://ilink-corp.co.jp 32 32 行動を支配する8つの要素その2 ~人を動かす方法の実践~ https://ilink-corp.co.jp/11908.html https://ilink-corp.co.jp/11908.html#respond Mon, 26 Feb 2024 10:35:05 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=11908 No related posts. ]]>  

顧客との交渉で8つの要素を活用する

 

では、この8つの要素は顧客との交渉にどのように活用できるのでしょうか。

この活用については、様々なセールス・テクニックの本に書かれています。ここでは顧客との交渉に焦点を当ててまとめました。
 

返報性の原理

 

様々な贈り物

相手から無償でもらうことは心理的な負担(借り)です。接待やお歳暮は返報性の原理をうまく活用したものです。しかし今では仕入れ先からの贈り物や接待が規制されている会社もあります。顧客も警戒心を持っているため贈り物や接待は難しくなっています。

一方、新製品の開発などは、顧客からテストや試作を頼まれることがあります。これも接待やお歳暮と同じ効果があります。「これだけ試作してくれたから、そこに出そう」となるわけです。

仕入先も試作やテストを行えば費用がかかります。しかし試作やテスト費用を支払うためには稟議書など特別な手続きが必要な会社もあります。そんな時、無償でやってくれれば顧客はとても助かります。

ここで大切なことは、無償でも見積は出すことです。つまり顧客に「いくらの仕事を無償でやったのか」金額を意識させることです。その金額が大きいほど、顧客の心に大きな借りが生まれます。

あるいは自社で開発した新しい製造方法をPRする場合、顧客にサンプルを渡すのも良い方法です。技術者の中にはこういったサンプルを大切にする人が多くいます。このサンプルは、顧客の引き出しの中に何年も入っていて、サンプルをつくった会社のことを顧客に思い出させます。
 

最初は譲歩する

交渉の場合、最初に自分から譲歩すれば、顧客に返報性の原理が作用します。相手がこれだけ譲歩したのだから、相応の譲歩をしなければならない雰囲気になります。こちらも暗に「こちらがこれだけ譲歩したのだから…」と圧力をかけます。逆に相手が先に譲歩すれば、こちらが同様の圧力を受けます。
 

一貫性の法則

交渉の際、取引条件は必ず仕様書や議事録に記録します。仕様書や議事録に書いたことは「決まったこと」として、その方向に議論を導く「一貫性の法則」が働きます。記録しなければ、話し合った内容をお互いが自分に都合の良いように解釈してしまいます。

また顧客が「今日決めよう」と言えば「例え不利な条件でも今日決めなければならない」という一貫性の法則が働きます。その場合「今日決めよう」と言われても、結果が自分たちに不利ならば「私の一存では決められません」と保留します。

従って、こういった交渉はトップ以外のNO.2以下が行った方が有利です。もし不利な条件を押し付けられた時「これは持ち帰って上司と相談します」と結論を保留できるからです。
 

好意をもってもらうようにする

相手に好意を持ってもらうのはセールスの基本的なテクニックです。これが交渉結果を左右する場合もあります。そこで基本的なテクニックを身につけておきます。

テクニックの例

  • 会話は相手の目を見て、目線を合わせる。時々大きくうなずいて相手の話に同意を示す。
  • 相手は役職や社名でなく、名前で呼ぶ。「○○さんは…」を毎回会話に入れるだけで相手の好感が高まる。
  • できる限り相手の情報を入手し、相手との共通点を探す。初対面では、趣味、出身地、出身校、誕生日や干支などを聞き出して、共通点を探しそれを強調する。
  • 接点を増やす。資料を渡すときはできる限り手渡しをする。メールで連絡した場合も電話をかける。会った後もお礼のメールを送る。季節のあいさつハガキを送る。
  • 誠実さを訴求する。自分たちにとって不利なことでも、最初に正直に顧客に伝える。そうすれば顧客は誠実だと感じ信頼を得られる。
  • お世辞を練習する。お世辞は普段言いなれていないと、とっさに出ない。そこで普段から練習しておく。多少不自然になっても相手は決して悪い気はしない。

 

権威づける

 

専門家の活用

議論が技術になる場合、自社の技術者を連れて行けば、発言の重みが変わります。その際、「○○課のリーダーで経験○○年の○○さんです」と紹介すれば、より強く権威付けされます。
 

自信なさげな専門家

ある調査によれば「○○についてはこうです」と自信たっぷりに話す専門家より、「確かなことは言えませんが、○○のデータを見る限り、私の経験では○○であると思われます」と、不安な点も正直に話す専門家の方が高い信頼が得られました。自社の技術者を連れていく場合も技術者にはこのような伝え方をさせます。
 

外部の権威を活用

自社で取ったデータよりも県の工業試験所など公設試験所のデータの方が顧客の信頼は高くなります。公設試験所の試験費用は比較的安く、顧客の信頼を得るためと考えれば、費用対効果は高いです。
 

注目してももらう

 

質問する

「○○について不満な点は何ですか?」と質問すれば、顧客は不満な点を頭の中で探します。そして意識は不満な点に向かいます。つまり顧客に注目してほしい点、重要だと思って欲しい点を質問して、そこに注意を向けてもらいます。
 

理由を言ってお願いする

コピー待ちの列に「先にコピー取らせてもらえませんか?」とだけ頼むよりも「先にコピー取らせてもらえませんか? コピーを取らなければいけないので」と理由を言った方が、先に取らせてくれる人が増えたという心理学の実験があります。

そこで「ぜひこれを受注させてください」と、その点だけお願いするよりも「前回の○○は失注しました。今回の○○も失注すれば会社が非常に厳しい状況になるため、これだけはぜひ受注させてください」と理由を言えば説得力が増します。
 

言葉を選ぶ

あるシステム会社は「コスト」「価格」という言葉は顧客に損失やマイナスのイメージを抱かせるため、代わりに「購入」「投資」という言葉に言い替えています。製造業であれば「コスト」より「原価」の方がマイナスイメージは低くなります。
 

後から反論する

交渉では最初に出した意見よりも後から出した反論の方が強く印象に残ります。そこでできるだけ最初は相手に条件を提示してもらい、後から反論すれば印象が強くなります。
 

コントラストを活かす

 

対比

メリットだけでなく、メリットとデメリットを両方上げて対比すればメリットがより強調されます。あるいは長所の代わりにその裏返しの短所を強調することで、誠実さと短所の反対の長所を印象付けることができます。

「不格好なのは見た目だけです」

広告代理店DDB(ドイル・ディーン・バーンバック)社のこのコピーにより、フルサイズの大型車が主流の1960年代のアメリカで、フォルクスワーゲン ビートルを大ヒットさせました。

図8 フォルクスワーゲン ビートル

図8 フォルクスワーゲン ビートル


 

より上位の、値段の高い提案を足す

顧客の要求が厳しい場合、自社の提案がより妥当な価格に見えるようにするには、さらに費用のかかる、しかし性能的にはより高い提案を付け加え、そちらを強く推します。これによりこれまでの提案の価格は打倒に感じられます。
 

8つの要素の活用 社員を動かす

 

中小企業は大企業に比べ人材を採用は苦戦します。一方で業務に対する能力は、中小企業の新入社員と大企業の新入社員に大きな差はありません。(まだ業務に就いていないので当然ですが) ところがその後の業務経験と教育によって次第に差が広がります。

中小企業の場合、長期的な社員の能力向上は、主に業務を通じて教育するOJTになります。OJTでは、先輩達が今までやってきた仕事はできるようになります。しかしそれ以上に伸びるのは困難です。むしろ担当した業務だけを長年行うことで、新しいことを学ばずその仕事に固執します。(「タコツボ化する」)

しかしこれまでと同じ業務を繰り返していては、競合との競争に勝つことはできません。現状の殻を打ち破り、組織が進歩するためには、仕事のやり方を改善する必要があります。加えて新しいことを学ぶ必要もあります。しかしタコツボ化した社員に「ああしろ、こうしろ」と言っても言うことを聞きません。このような場合、人を望む方に動かすために、以下の8つの要素が活用できます。
 

下準備をする

業務のやり方を変え、新しいことを学習するには、その前提を整える必要があります。「なぜ、変えなければならないのか」という問いに対する答えです。つまり8つの要素を活用する前の「プリ・スエージョン(下準備)」が必要なのです。

経営者は、企業が今後も発展するために「会社をこう変えたい」「社員にこうなってほしい」という希望があるはずです。これを社員に浸透させるために以下のようなアクションを起こします。

  • 組織をこう変えたいというビジョンを文書化し、社員に何度も語りかける
  • 社員にこうなってほしいという姿を質問の形にして、何度も社員に投げかける
    「○○を実現するためには、仕事のやり方をどのように変えるべきだろうか」
    「新しい仕事のやり方ができるようにするためには、どのような能力が必要だろうか」

 

これは答えを言わせるのでなく、質問することで社員にやるべきことや身に着けるべき能力を自ら意識させることです。こうして質問を繰り返して課題を意識させることは、社員が自ら動くようになるための下準備です。
 

一貫性の法則で積極性を引き出す

社員が自ら1年間、業務上取り組むべきこと、自らの能力を高めるためにやるべきことを紙に書かせます。それを数か月ごとにフォローします。紙に書くことで一貫性の法則が働き、自主的に行うようになります。

これは目標管理制度と同じです。ただし目標管理制度には問題があります。

それは目標管理が評価と結びついていることです。そのため目標を達成できなければ評価が下がります。そうなると無難な目標しか書きません。評価と切り離して、人材育成のツールに限定すれば一貫性の法則という強力な作用を活用できます。

成果主義は社員の業績を評価し優劣をつけて待遇に格差をつけます。しかし業績は担当社員の努力だけではどうにもならないこともあります。さらに行き過ぎた成果主義は、社員の不正を引き起こします。

仕事の成果は、顧客や競合など外部との関係、他部門の高度などもあり、自分が完全にコントロールできません。しかし自らの行動はコントロールできます。

「どのように仕事のやり方を変えたのか」「どのようにスキルアップに取り組んだのか」こうした行動を各社員に公表させます。これは具体的でごまかしはききません。また目に見えてわかるため、他の社員も公平に見ることができます。
 

返報性の原理で継続させる

成果主義では目標を達成すれば報酬が得られます。この報酬は一時的な満足感は得られますが、長期にわたって強いインセンティブは働きません。なぜなら目標が達成できそうもなければ報酬をあきらめればよいからです。一方、完全歩合制のセールスマンのように達成しなければ生活に支障をきたすような場合、社員間の協力はぎくしゃくし、成果の偽装も起きます。

そこで報酬は後でなく、先に渡します。そうすれば返報性の原理が働き、目標に取り組む強いインセンティブになります。つまり社員が目標を設定すれば、それに対して報酬を先に支払うのです。しかも1年後、目標を達成できなくても返すことは許されません。

社員は「ラッキー」と思うでしょうか。

いえ「返報性の原理」が働き、とても気持ち悪く感じます。他の社員が決めたことを実行し目標を達成していれば、なおさらそう感じます。

ここまでやるのは行き過ぎと感じる場合、資格取得など外部教育で「返報性の原理」を活用する方法もあります。資格の取得や教育終了で報奨金を出すのでなく、最初に取組んだ時点で報奨金を出すのです。最初に報奨金を受け取り途中でやめれば、返報性の原理から社員は気持ち悪く感じます。これが取組を継続するインセンティブになります。
 

社会的証明でスキルアップする

社会的証明には良い面と悪い面があります。
 

【良い面】(良いことは全員)

研修やスキルアップは、新入社員や高齢社員も含めて全員で行います。その内容は人によって異なるかもしれませんが、スキルアップをやることに対して例外を作りません。進捗や達成度は全員に公開します。

集団意識の強い日本では、組織の中で自分一人だけやらないのはとても居心地悪いのです。ただしスキルや能力は個人差があるため、カリキュラムはいくつか用意して、本人が選択します。これにより一貫性の原理が働きます。
 

【悪い面】(悪いことには目を光らせる)

服装の乱れ、標準作業の無視、安全ルールからの逸脱などを放置すれば、「ルールを無視してもよい」という悪い社会的証明になります。放置すれば重大な事故や不良が起きかねません。そのため些細な違反も必ず指摘します。

ただし強く叱る必要はありません。悪いことは本人も分かっているからです。「悪いことをすれば必ず指摘される」という文化ができれば、「ルール無視は見過されない」という良い社会的証明になります。
 

嫌われ役をつくって規律を高める

一度決めたルールも時間の経過とともに徐々に守られなくなります。ルールを維持するには、誰かが嫌われ役になって違反したものに対し指摘しなければなりません。

時にはあえてルールを守らずに、それを自己主張と考える社員もいるかもしれません。しかも本人に理由を聞いてもはっきりと言いません。このような場合「良い警官、悪い警官」の手法が使えます。悪い警官役の社員がルール無視した社員を厳しく叱責します。良い警官役の社員が「君が本当はまじめで、仕事もしっかりとやっている」と本人の力を認め共感を示します。その後で「どうして○○のルールを守らないんだ」と質問します。
 

ジグソー教室で協力関係を強化する

新しい仕事に取り組むとき、あるいは研修などでジグソー教室の技法を使えば社員間の協力を高めることができます。

新しい仕事の場合、分野の異なる様々なメンバーを集めて、一つのテーマに取組むようにします。この場合、お互いが協力しなければ目的は達成できません。一定期間お互いが協力して仕事をすることで、お互いのことがよくわかり、好感が高まります。これはその後の円滑な組織運営に効果を発揮します。

研修でもそれぞれの自分の専門分野の内容を他のメンバーに教え合うようにします。お互いが先生になるため、お互いに好感と尊敬が生まれます。

例えば、生産管理の担当が生産管理を、品質管理の担当が品質管理を、他の部署のメンバーに教えます。できれば、グループをつくりお互いが協力しないと達成できないような課題をつくって研修をすると効果的です。一見ムダな研修に見えますが、お互いの業務の理解が深まり、横の連携が強化され、ローテーションも容易になります。
 

参考文献

「影響力の武器」ロバート・B・チャルディーニ 著 誠信書房
「影響力の武器 実践編」ロバート・B・チャルディーニ 著 誠信書房
「影響力の武器 戦略編」ロバート・B・チャルディーニ 著 誠信書房
「プリ・スエージョン」ロバート・B・チャルディーニ 著 誠信書房

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「なぜこれを買ったのだろうか」

そこには第三者の承認への誘導が働いているのです。
 

この承諾誘導は様々なセールスのテクニックとして紹介されています。そして人が承諾誘導に反応してしまうのは、脳が無意識に決定してしまうからです。

逆にこのメカニズムをうまく使えば社員教育やスキルアップに活用できます。社員が積極的に困難な課題に取り組んだり、自らスキルアップに取り組むようにできるのです。

そこで今回は私たちの行動を支配する8つの要素と、社員育成への活用について考えます。
 

なぜ人はだまされるのか

 

なぜ人はだまされるのでしょうか?

それは、人には思慮深いだまされにくい自分と、直感的で簡単にだまされる自分がいるからです。
 

システム1とシステム2

行動経済学では、私たちの脳が意思決定を行う際、無意識に2つのシステムを使い分けていると考えます。これがシステム1とシステム2で、

  • システム1 速い思考
  • システム2 遅い思考

とも呼ばれています。
 

システム1で判断

システム1は、これまでの経験を元に感覚的、直感的な判断です。対してシステム2は、直観に頼らないで論理的、理性的な思考に基づく判断です。

システム1は私たちが祖先から受け継いだ認知・判断システムです。私たちの祖先は常に危険な野生動物に襲われる環境で狩猟採取生活を営んできました。そこでは素早く敵や獲物を判断し行動しなければ生き延びられませんでした。

図1 旧石器時代の人びと(兵庫県立考古博物館)(Wikipediaより)

図1 旧石器時代の人びと(兵庫県立考古博物館)(Wikipediaより)

そのため私たちの祖先は、直感(本能)と経験に基づいて素早く判断するシステム1に頼って生きてきました。
 

システム2で判断

一方、今日の複雑化した社会では、様々な条件を考慮してじっくりと考えなければならない場合があります。その場合、私たちは直感に頼らず、論理的にじっくりと考えるシステム2で判断します。

しかし脳は考える時に非常に多くのエネルギーを消費します。システム2は大量のエネルギーを消費するため、私たちはできればシステム2でなく、システム1で判断しようとします。

そしてトップセールスマン、詐欺師など私たちを洗脳しようとする人たちは、システム1の特徴を巧みに生かして、私たちの判断を誘導するのです。
 

「カチ・サー」意思決定が自動的に操られる

七面鳥の母鳥はひな鳥の「ピーピー」という鳴き声に反応して、ひな鳥を世話します。ひな鳥が「ピーピー」と泣かなければ無視します。

この七面鳥の天敵は毛長イタチです。毛長イタチのぬいぐるみが近づくと母鳥はひなを守ろうと鋭い鳴き声を上げて威嚇します。

ところがこのぬいぐるみにテープレコーダーを埋め込み、ひな鳥のピーピーという鳴き声を流すと、それまで攻撃していたぬいぐるみを、ひな鳥だと思って自分の翼の下に抱き込んでしまうのです。しかしテープを止めると再び攻撃をします。

つまりひな鳥のピーピーは母鳥が母親の行動を開始する「引き金特徴」なのです。

「カチ」でシステム1が起動

ピーピーという引き金特徴が現れると、母鳥の行動のテープが再生されます。「カチ」とボタンを押すことでテープレコーダーは再生を始め、「サー」とテープが回り、あらかじめ持っている母鳥の行動パターンが再生されるのです。

図2 ヒヨコと野生の七面鳥(Wikipediaより)

図2 ヒヨコと野生の七面鳥(Wikipediaより)


 

この行動パターンのテープは私たちも持っています。それがシステム1なのです。

トップセールスマンや詐欺師は、どうすれば私たちのテープレコーダーが「カチ」と押されて、「サー」と意思決定が「自動操縦」されるのかがわかっています。

では、私たちのシステム1の行動パターンにはどのようなものがあるのでしょうか。
 

行動を支配する8つの要素

 

私たちの行動を支配するシステム1は、大きく分けて8つの要素があります。
 

① 返報性

私たちは、人から何かをもらったら、もらいっぱなしにするのはとても気持ちが悪いのです。何かお返しをしないと気が済まないのです。つまり「ギブ・アンド・テイク」です。
 

返報性の原理

例えば、お葬式の香典に対する香典返しなどです。このもらったら何かお返しをしないと気が済まない「返報性の原理」は、私たちに強力に作用します。そのため承諾誘導の手段としては極めて強力な方法です。

従って相手から何かをもらった「借り」があれば、相手から何か要求された時にたとえ不利な条件でも断ることができません。例えば、食品売り場での試食がそうです。多くの人は試食すれば店員のお薦めを断れずに商品を買います。
 

返報性の原理には逆らえない

この返報性は極めて強力に作用するため、国の命運を決める外交交渉から、日用品の販売まで実に様々な場面で使われています。例えば以下のようなものです。

  • 無料試供品の提供
  • 無料点検 (消火器や火災報知器、住宅の耐震、老朽化、給油時のエンジンルーム)
  • レストランの食後のキャンディー(チップの額が増える)

 

妥協の効果「ドア・イン・ザ・フェイス」

販売や交渉の場面で、最初に相手が受け入れられないような要求をして相手に拒否させます。次に最初の要求から譲歩して要求をすると、相手は拒否できず受け入れます。

実は最初の要求(高額な商品やサービスやとても受け入れられない内容)は、はったりなのです。狙いは、最初の条件を拒否したことで「借り」があると顧客に思わせ、次の要求を受け入れることで借りを返した気持ちにさせることです。

返報性の原理は非常に強力なため、この原理を知っていても罠にかかるのを抗うのは困難です。

そこでこういった販売に直面した場合は無料のものは受け取らないことです。日本のことわざにもあります。「タダほど高いものはない」と。

図3 ドア・イン・ザ・フェイス

図3 ドア・イン・ザ・フェイス


 

② 一貫性

自分が言ったこと、決めたことを守ろうとすることです。英語には責任を伴う約束を指すコミットメント(commitment)という言葉があります。

実は本人が意識していなくても、約束を口にした以上、約束を実行しなければ、「言ったこととやることの一貫性が保たれず」とても苦痛なのです。

システム1が一貫性を維持する

「言ったこと」を実行しようとするのはシステム1です。「言ったこと」を実行すれば、それについてこれ以上考える必要はありません。しかし実行しなければ、できなかった理由をあれこれ考え、自分を納得させなければなりません。
 

アメリカの思想家エマソンは「愚かな首尾一貫性は、偏狭な心に住む小鬼である」と言いました。

つまり「『前言を翻すのは格好悪い』といった執着にとらわれると、自由に考えられなくなる。偉大な思想家は過去の自分に縛られない」と説きました。

一貫性は「言ったこと」よりも「やったこと」に対しより強力に作用します。人は「自分がやったことは正しい」と思いたいのです。

例えば競馬場では馬券を買うと、馬券を買った馬が勝つ確率がより高く予想することが、カナダの心理学者が発見しました。「買ったからには、勝つに違いない」というわけです。

しかも言うよりも書く方が一貫性はより強く働きます。これがセールスの場面で使われます。
 

ローボールテクニック (別名 「フット・イン・ザ・ドア」)

ローボールテクニックとは、最初は相手が承諾しやすい条件を出して相手の承諾を得ます。そして徐々に相手に不利な条件を提示し、それを承諾させる手法です。条件をボールに見立て「低いボールから投げる」という意味でこう呼ばれています。

相手は最初にイエスと言うと、イエスと言ったことに対して一貫性を保とうとします。そのため条件が悪くなっても、ノーとはなかなか言いません。

例えば、店頭にあるバーゲン品が気に入って、それを買うつもりで店の中に入ったのに、店内で高額な商品を薦められて買ってしまいます。これは高額な商品という不利な条件に変わっても、最初の「買う決意を変えたくなかった」という一貫性のためです。

契約書に名前を書かせれば勝ち

アメリカでの自動車セールスのポイントは、とにかく顧客に椅子に座ってもらい、契約書に住所と名前を書かせることです。顧客は買う意思を表明しています。その後から条件を変えればいいのです。

チャルディーニ氏はある販売店にセールス訓練生のふりをして紛れ込みました。その販売店は最初に、顧客に「魅力的な他店よりも低い価格」を提示します。そして購入契約書やリース契約書に顧客がサインした後、顧客に計算上のミスがあったと伝えます。

あと400ドルが必要だと。

すでに買うつもりで契約書にサインした顧客にとって、追加の400ドルは出せない金額ではありません。その結果、価格は最初提示された魅力的な価格でなく、他店と同様の「平凡な価格」になってしまいます。

あるいは最初は下取り車にとても高い値段をつけておき、後で上司が「こんな値段では下取りできない」と言います。そして販売員は顧客に400ドル上乗せするようにお願いします。

図4 フット・イン・ザ・ドア

図4 フット・イン・ザ・ドア


 

しごき・いじめ

運動部の新入部員への厳しい練習 通称「しごき」、あるいは心理的に受け入れがたく、しかも意味のないことを強制する「いじめ」、これにはどんな意味があるのでしょうか。

実はつらく苦しいことをさせられた人ほど「こんなに苦しいのだから、それに見合ったものがあるはず」という一貫性が強く働きます。そしてチームの構成員としての忠誠心(チームワーク)が高まります。

この「しごき」は効果がある練習の必要はなく、単につらく苦しければよいのです。

未開部族社会の成人の儀礼やアメリカの高校・大学のフラタニティ(男子学生社交団体)の儀式も同様です。フラタニティへの加入儀式には、山奥に一人で置いてかれて凍死してしまった例や、砂浜に穴を掘らされ中に横たわるように命令されたところ、穴が崩れて窒息死してしまった例など、残酷な儀式による死者も起きています。
 

報酬や圧力よりも一貫性

ジョナサン・フリードマンは、7歳から9歳の男の子に、強く脅せば言うことを聞かせられることができるか実験しました。

22人の男の子の前に5つのおもちゃを与え、その中で高価な電池で動くロボットだけは

「絶対に遊んではいけない」「もし遊んだらすごく怒るからね。

と言い聞かせました。罰を受けることもにおわせました。

その後部屋にいる男の子たちを隠れて観察したところ、脅しを受けた男の子の内20人はロボットでは遊びませんでした。6週間後、今度は一人ずつ5つのおもちゃのある部屋に入れて観察したところ、今度は77%の男の子が禁止されたロボットのおもちゃで遊びました。

今度は、フリードマンは別の男の子たちに脅しは一切しないで

「ロボットで遊ぶのは悪いことだから

という理由を伝えてロボットで遊ばないように警告しました。

6週間後、同様に一人ずつ5つのおもちゃのある部屋に入った男の子たちを観察したところ、ロボットのおもちゃで遊んだ子は33%でした。

何が違ったのでしょうか?
 

1番目のグループでは「遊んではいけない」という脅しによって、責任は外から与えられました。

対して2番目のグループは「ロボットで遊ぶのは悪いこと」という警告によって、男の子たちは自分たちの責任と思ったのです。

その結果、男の子たちは遊ばないという一貫性に従って行動したのです。
 

③ 社会的証明

他人が正しいというものは正しい

私たちは判断の際に他者の行動を参考にします。そして私たちま日常は、自分で判断しなければならないものが多くあります。例えば、買い物は多くの商品を自分で判断し選ばなければなりません。

ひとつひとつの商品に対しシステム2を発動し、商品の価格、量、機能を比較して決断すればとても疲れます。そこでシステム1の出番です。「売れている商品は良い商品」とシステム1が自動的に判断します。

そこでお店は店頭で商品を山積みにして「売れている」というイメージを演出します。さらにポップに「売れています」「大人気」と書きます。他にも「繁盛しているように」偽の客であるサクラを入れたります。募金箱には最初からお金を入れておきます。

図5 みんな買っている

図5 みんな買っている


 

バンドワゴン効果

大勢が支持しているものを支持する心理的効果を指し、アメリカの経済学者ハーヴェイ・ライベンシュタインによって提唱されました。バンドワゴンとはパレードの先頭にいる楽隊車のことです。その後ろに行列ができることからバンドワゴン効果と名付けられました。

例として、流行に乗りたい心理、友達が持っているものと同じものを欲しがる子供の心理が挙げられます。
 

ウェルテル効果

自殺の報道に影響されて、報道の後自殺が増えることです。

ウェルテルとはゲーテの『若きウェルテルの悩み』で最後に自殺した主人公の名前です。『若きウェルテルの悩み』の出版後、これに影響された若者達が彼と同じ方法で自殺したことが起源です。日本でも1986年アイドル歌手の岡田有希子が18歳で飛び降り自殺をすると、その後30名の若者が高所から飛び降りて自殺しました。
 

割れ窓理論

軽微な犯罪を徹底的に取り締まることで、凶悪犯罪を抑止できるとする理論です。アメリカの犯罪学者ジョージ・ケリングが考案しました。

「建物の窓が壊れているのを放置すれば誰も注意を払っていないという象徴になり、やがて他の窓もまもなく全て壊される」

という考え方が元になっています。

逆に社会的証明を誤って使うと

「多くの人が望ましくないことを行っている」

という誤ったメッセージを人々に発信してしまいます。
 

例えば、アメリカの化石の森の公園で、看板に「これまでに公園を訪れた多くの人が化石木を持ち出したため、化石の森の環境が変わってしまいました」と書いたところ、ネガティブな社会的証明の効果で、ますます多くの人が化石木を持ち出しました。持ち出した量は看板を立てなかったときの3倍にもなりました。

ところが別の看板に「公園から化石木を持ち出すのはやめてください。化石の森の環境を守るためです」と書いたところ、持ち出すのは減りました。
 

④ 好意

何か頼まれるとき、嫌いな人から頼まれるよりも、好きな人から頼まれる方が受け入れやすいものです。また知らない人から頼まれるよりも、知っている人から頼まれる方が受け入れやすくなります。

この好意を持っている人と知っている人は似た作用をします。そしてトップセールスマンや詐欺師はこの好意を巧みに操ります。
 

好意を持つ要因
【外見】

私たちは外見の良い人は、「才能、親切心、誠実さ、知性を兼ね備えている」と自動的に判断します。裁判でもかわいい女の子やハンサムな男性は、そうでない人に比べて刑が軽くなる傾向があります。「こんなかわいい子があんなひどいことをするわけがない」と陪審員は思います。本当はそうでなかったとしても。
 

【類似性】

人は自分と似ている点があれば好ましく思います。この似ている点は、生年月日、出身地、大学、趣味、好きな球団など多岐にわたります。

アメリカでは車のセールスマンは、顧客の下取り車を調べている間に自分と顧客の類似点を探すように訓練されます。トランクにキャンプ道具があれば、自分もキャンプが好きだといい、ゴルフボールがあれば、ゴルフの話をします。こうして優秀なセールスマンは短い間に顧客と親密な関係を築き「○○店から買った」のでなく「○○さんから買った」と顧客が感じるようにします。

リック・ファン・パーレンの研究ではウェイターが注文を客の言葉通りに繰り返すとチップが増えることが確認されました。ある調査ではそれだけでチップが70%も増えたのです。単に客の注文を繰り返すだけで、類似性が強まり親近感が生まれました。
 

【お世辞】

世界で最も偉大なセールスマンとしてギネスブックにも載っているジョー・ジラードは、1968年から15年間トップの販売記録を打ち立てました。(その後は執筆や講演を行いセールスからは引退しました。) 

彼の秘訣は、1万3千人以上の顧客に毎月挨拶状を送ったことです。挨拶状には「あなたが好きです」と印刷されていました。このカードが毎月送られると、印刷され機械的に送られたカードでも顧客はジョー・ジラードに好意を感じたのでした。

日本でも手書きのハガキを見込み客に定期的に送って成果を上げているセールスマンがいます。手書きのハガキを受け取った人は、印刷したハガキよりもより好意を感じました。
 

お世辞(称賛)についてミネソタ大学で行われた興味深い研究があります。

最も効果的な称賛は、最初はあまり良いことは言わず、徐々に高まる称賛を何気なく本人に聞かせる方法です。その結果、最初から自分に良い表価を聞かされるよりも、評価者にずっと強い好意を感じました。
 

【接触と協同】

人は何度も会っていると好意が生まれます。これは「ザイアンス効果」と呼ばれます。

この効果は会って会話するだけより、握手などの身体的接触もあった方がより効果があります。選挙で政治家が多くの人と握手をするのも、この効果を狙っているからです。
 

ザイアンス効果 (単純接触効果)

繰り返し接すると好意や印象が高まる効果で、アメリカの心理学者ロバート・ザイアンスが提唱しました。はじめのうちは興味がなくても何度も見たり、聞いたりするうちに好感を持つようになります。

ザイアンス効果の例として、よく会う人や、何度も聞いている音楽などがあります。この効果は、図形や、漢字、衣服、味やにおいなど様々なものにも生じます。広告もこのザイアンス効果を狙ったものです。

より親密な関係をつくる方法として、協同で何かを行う方法があります。
 

学校では、授業は教師が子供たちに教え、教師に指された子供が答えます。こういった関係では、子供同士は良い成績を取るためのライバルです。子供たち同士で協力することはないため、お互いの好意が高まることはありません。

そこでエリオット・アロンソンたちは「ジグソー教室」と呼ばれる方法を、テキサス州とカリフォルニア州で開発しました。これはチームに分かれた生徒たちが試験に向けて勉強します。その際、生徒たちは合格のために必要な情報のうち、それぞれが異なった一部の情報しか与えられません。従って生徒たちはお互いに教えあい、協力しなければ合格できません。良い成績を取るためにはチームのメンバーすべての力が必要です。

この場合、生徒は敵でなく味方同士になります。「ジグソー教室」を行った結果、人種間の友情は深まり偏見も少なくなりました。少数人種の子の自尊心は高まり、成績も向上しました。また白人の生徒の自尊心や好感度も向上し、テストの成績も従来の方法よりも良くなりました。
 

グッドコップ・バッドコップ (良い警官・悪い警官)

尋問に使用される心理学的な戦術で、良い警官役と悪い警官役の2人で行います。「悪い警官」は容疑者に対し、乱暴な言葉や侮辱的な発言、脅迫などを行い、容疑者が強い反感を持つようにします。

その後「良い警官」が容疑者へ理解を示し容疑者への共感を演出します。さらに容疑者を「悪い警官」からかばうようにします。容疑者は悪い警官への畏怖と嫌悪から良い警官を信頼し、良い警官に色々な情報を話すようになります。
 

⑤ 権威

役職、専門性、資格など様々な権威があると人はそれに盲従してしまいます。この権威には以下のようなものがあります。

  • 医師、弁護士、機長、大学教授のような職業(国家資格のあるものとないもの)、肩書
  • 社長、部長など職務上の立場
  • 白衣、スーツ、僧衣、制服(警官、パイロット)などのような服装
  • 車など装飾品「ベンツ=お金持ち」など

 

スタンレー・ミルグラムの服従実験

エール大学の心理学者スタンレー・ミルグラムが「人は権威に盲従するかどうか」を実証するために行った実験です。この実験は被験者を教師役と生徒役に分け、教師役は生徒役に問題を出します。もし解答が間違っていれば教師役は生徒役に電気ショックを与えるように権威ある博士から指示されます。

図6 スタンレー・ミルグラムの服従実験(Wikipediaより)

図6 スタンレー・ミルグラムの服従実験(Wikipediaより)


 

電気ショックの強さは、間違いの数に伴い段階的に強くするように決められました。実際は、生徒役はサクラの役者で電気は流されませんでした。そして電圧が高くなるほど生徒役は痛みを大げさに訴える演技をして被験者の教師役の反応を調べました。

その結果、たまりかねて実験を中止する教師役も出ました。しかしそれでも被験者の65%が、最大電圧450ボルトまで博士に指示されるまま生徒役に加えました。

被験者は権威ある博士の指示に盲従することを示しました。この実験でミルグラムは、人はたとえ良心の呵責があっても、権威者の指図があればそれに従うことを示しました。
 

機長症候群

過去の飛行機事故では、機長の誤った判断を他のクルーが指摘できず重大な事故が起きてしまいました。そこからリーダーの誤った意見に押し切られて他のメンバーが反論できないことを指します。

上司や権威がある人、大きな成果を上げた人の判断は間違っていないと思い込むことが原因です。特にリーダーが絶対的な権力を持つ場合、機長症候群が起きやすくなります。
 

⑥ 希少性

いつでも手に入るものと比べ、今しか手に入らないものの価値は高くなります。

日本でのオリンピック(2021年東京オリンピック)、2025年の大阪の万博(55年前に行った人は別として)などは一生に一度の機会です。個人でも結婚式(その後離婚、再婚があるかもしれませんが)、自分の葬式(本人はもう見ることはできませんが)は、二度とありません。人はこういったものに大金をかけることを厭いません。

そこでセールスでは様々な方法で希少性つくります。例えば季節限定、数量限定などです。「今日まで50%OFF」であれば、顧客は50%OFFのお得を手にできるのか今日しかないと思います。例え来月また50%OFFのセールがあったとしても。

ビンテージカーの価値は、もう新車では手に入らないからです。これまで手に入っていたものでも、もう手に入らないとわかると急に価値が高くなります。
 

大失敗に終わったニューコーク

1985年コカ・コーラ社はペプシコーラに対抗するため甘みの強いニューコークを発売しました。コカ・コーラ社の失敗は、この時従来のコカ・コーラを販売中止にしたことです。その結果顧客から「昔の味を返せ」と抗議が殺到しました。そして3か月後には以前のコカ・コーラをコカ・コーラ・クラシックとして再発売する羽目になってしまいました。ところが猛烈な抗議をした人ですら、ブラインドテストでは以前のコカ・コーラとニューコークの違いは判らなかったのです。

なぜこうなったのでしょうか?
 

原因はこれまで手に入っていたものが手に入らなくなったからです。

これは個人的なコントロールの喪失に対する抵抗感「心理的リアクタンス」によるものです。この心理的リアクタンスは、コロナ禍でのトイレットペーパーの争奪や、両家の反対で燃え上がったロミオとジュリエットの愛など様々な場面で人々に影響を与えます。逆に当たり前になれば欲しくなくなります。

銃規制に揺れるアメリカで、ジョージア州のケニソーは1982年6月ケニソーに住む成人はすべて銃と弾薬を所持しなければならないという法律を制定しました。しかも違反者には200ドルの罰金を課しました。ところがこの法律に従って銃を買ったのは数人でした。みんなが持っている当たり前のものには価値が感じられなくなったのです。
 

⑦ 注目させる

私たちは日常生活で重要だと思うものには注意を向けます。その結果、システム1は逆に「注意を向けたものは重要なもの」だと判定します。

優秀なセールスマンは売り込みの前に、顧客に「重要と思って欲しいこと」に注目するように仕向けます。具体的には、質問をすることで、それまで顧客が意識していなかった「満たされなかった問題」に意識を向けさせます。例えば「○○について不満はありますか?」

これはセールスマンが顧客の不満を知るための質問ではありません。顧客に○○の不満な点に意識を向けさせるための質問です。そうすることで、これからセールスする商品の良さを顧客がより強く感じるための「プリ・スエージョン (下準備)」なのです。

講演会では、巧みな講演者は特に大事な箇所であえて小さな声で、聴衆が耳を澄ませて集中しなければ聞き取れないくらいの声で語りかけます。

集中することで聴衆はそれがとても重要なことだと思うのです。
 

ツァイガルニク効果

ドイツの心理学者クルト・レヴィンは「人は欲求によって目標指向的に行動するとき緊張感が生じ、行動は持続する。しかし目標が達成されると緊張感は解消する」と考えました。

心理学者ブリューマ・ゼイガルニクは実験を行い

「完了していない課題の記憶は、完了した課題の記憶に比べ想起されやすい」

ことを示しました。これは「ツァイガルニク効果」と呼ばれています。

テレビ番組ではクイズの答えやドラマのクライマックスの前に「続きはCMの後で」とCMを挟むのは、CMに入ると視聴者を離れるのを防ぐためです。授業でも最初に「なぜ○○なのか?その理由は後で説明します」と言い、その答えを授業の最後に言えば、生徒は最後まで集中して聞きます。

期限内に必ず原稿が完成する著者がいました。その秘訣は、原稿を書くときに「必ず章や節の途中で終わること」でした。これを応用すれば、重要な仕事を遅れないようにするために「前もって少し手をつけておく」という方法があります。ツァイガルニク効果により、いつも気に留めるため、忘れなくなります。
 

⑧ コントラスト

「最初に見たもの」と「次に見たもの」の違い、このコントラストにより商品や提案が魅力的なものに見えます。ある不動産会社は新しい顧客を連れて家を見て回る時、最初に必ずひどい物件を見せます。これは売るためでなく見せるための物件です。そうするとその後見て回る家がどれも魅力的な物件に感じられます。

逆に最初に価値の高い高額な商品を買うと、次に金額の低い商品を見ても金額の違いに気を留めなくなります。洋服店では、顧客が最初に高い商品を買うように店員に指導します。最初に数万円のスーツを買えば、一緒に買うシャツやベルトの金額は大した金額に感じなくなるからです。

つまり最初に顧客に提示される条件は、その後の意思決定の重要な基準になるのです。これを使って顧客を誘導する方法があります。
 

アンカリング

認知バイアスの一種で、最初に示される値や条件(アンカー)によってその後の判断が歪められることです。その結果、判断は最初に示される値や条件に近づきます。

例えば「国連加盟国のうちアフリカの国の割合はいくらか」と質問します。その時、質問の前に「65%よりも大きいか小さいか」と尋ねると中央値は45%になりました。しかし「10%よりも大きいか小さいか」と尋ねると中央値25%と大きく変わりました。

このアンカリングの効果は、日常の様々な判断に影響します。ある店舗では、これまでの商品の陳列に、それよりも高額な商品を1点追加しました。それだけで今までの商品がたくさん売れるようになりました。高額な商品が加わったことで、今までの商品がお値打ちに見えるようになったのです。
 

採用など様々な場面で行われる面接、最初に面接を受ける場合と後で面接を受ける場合のどちらが有利でしょうか。

最初に受けた方が、まだ面接官の評価基準が定まっていないので評価が甘くなるという説があります。

実際に実験したところ、後に面接を受けた方が有利になるという結果が出ました。これは最初の方の面接者の印象が面接を重ねるに従って薄れていくのに対し、後の方が強い印象を残せるからです。

図7 面接のテクニックは…

図7 面接のテクニックは…


 

では、これを自社のビジネスや教育に(良い意味で)どのように活用できるのでしょうか。これについては別の機会にお伝えします。

参考文献

「影響力の武器」ロバート・B・チャルディーニ 著 誠信書房
「影響力の武器 実践編」ロバート・B・チャルディーニ 著 誠信書房
「影響力の武器 戦略編」ロバート・B・チャルディーニ 著 誠信書房
「プリ・スエージョン」ロバート・B・チャルディーニ 著 誠信書房

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

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企業の組織と日本の共同体文化の問題 その2~欧米型の組織論と共同体文化の衝突~ https://ilink-corp.co.jp/8972.html https://ilink-corp.co.jp/8972.html#respond Tue, 24 Oct 2023 04:31:26 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8972

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ところがこの組織と、古来からの日本の共同体文化は相反するものがあります。これが日本の組織の問題の根源です。

それはどのようなものでしょうか?

山本七平氏の「指導者の条件」を参考に、組織論と日本の共同体文化の衝突について述べます。
 

組織文化と日本人の共同体文化

価値観

企業は「何らかの事業目的のために集まって活動する集団」です。

そして事業の目的、目的の遂行に必要な価値観やビジョン、そして行動原則が大抵の企業にはあります。

こういった概念は経営理念、社是、ミッション、基本となる価値観、行動原則などに明文化されます。

図1 事業目的遂行のための価値観

図1 事業目的遂行のための価値観


 

非公式組織

一方組織には階層構造の公式なメンバーのつながりだけでなく、メンバー相互の非公式なつながり (社会的ネットワーク)もあります。この社会的ネットワークは、組織以外の活動によって自然発生的に生まれ、この社会的ネットワークによって組織のメンバーの行動が変わります。

図2 リーダーとメンバーの非公式ネットワーク

図2 リーダーとメンバーの非公式ネットワーク


 

【結束型ネットワーク】

例えば図2 グループAは、リーダーとメンバー相互に親密な関係が構築され、高い信頼が生まれています。こうしたネットワークの密度が高い状態は、メンバー間の親密さが高まり、情報の共有や互いの協力が得られやすくなっています。

一方グループ内のつながりが強すぎて外部に対して閉鎖的になったり、見方や考え方が偏るリスクがあります。

一方グループBは、メンバー相互の関係が希薄で集団としてのまとまりを欠きます。知識の共有や互いの協力が得られにくい状態です。

グループCは、一部のメンバー間のつながりが強くなっています。集団としてのまとまりを欠く一方、つながりの強いメンバー同士がリーダーに従わず独自に行動するリスクがあります。
 

【橋渡し型ネットワーク】

結束型ネットワークに対し、公式的なつながりのないメンバー同士が非公式なつながりを持つのが橋渡し型ネットワークです。

例えば趣味の活動や社内のプロジェクト活動などの行事を通じて非公式な関係が構築されます。そして組織の枠を超えて情報が伝達されます。結束型ネットワークの強いつながりに比べて、弱いつながりですが公式なルートでは得られない情報が手に入ります。そのため、他の部門の活動を自部門に取り入れるなど思わぬ効果を生むことがあります。

図3 橋渡し型ネットワーク

図3 橋渡し型ネットワーク


 

伝統的共同体

日本の組織のルーツは、農村社会の共同体です。

山本氏によれば、日本の農村社会、その後の荘園制度や武士団などの集団は、純粋な血縁集団や地縁社会ではありませんでした。擬制の血縁原則であり、機能集団でした。そのため、例え地位があっても共同体の中での役割を果たさず機能していない人は特権が認められませんでした。

例えば鎌倉時代 北条氏の百箇条の家訓に荘園内部の経営原則が記されています。そこには「自分の父親と同年代のものはすべて父親と同様に敬い、自分と同年代のものはすべて兄弟として扱う」と記されています。共同体の中で擬制の血縁集団を構成し、それを秩序原則としたのです。

この共同体は、階級がなく各人の能力に応じて地位が上下する機能集団でした。日本の共同体は、この機能原則の集団のため、

「共同体の中である役割を果たしているという精神的な満足がないと日本人は働かない。

つまり純粋な経済原則だけでは働かない」と山本氏は指摘します。
 

そして戦後、農村共同体が崩壊した際、農村共同体に代わって企業が共同体の役割を果たしました。近代にはどの国も農村共同体が崩壊し、農村共同体が雇用契約に置き換わり契約社会へと発展しました。

ところが日本は、契約社会が発展する前に企業が農村共同体に置き換わったという世界でも珍しい例でした。

それが可能だったのは、日本社会が元来地縁社会や血縁社会でなく、機能原則しかない社会だったからです。機能原則しかない社会なので下の者が上に者に反抗する下克上が起きるのです。

このような経緯から日本においては、会社は構成員が所属する社会であり共同体です。従って雇用は必然的に終身雇用になります。そして解雇は共同体からの退出すなわち「勘当」です。定年や出向を含めて退職すれば社員は大きなショックを受けます。この点で解雇が「雇用契約の解除」を意味する欧米と根本的に異なります。
 

世間

伝統的な農村社会では、共同体は擬制の血縁集団であり疑似的な家族でした。共同体の中では価値観は共有され、互いの信頼関係が保たれていました。これが日本人の考える「世間」です。
 

日本人はこの

世間を意識する時、相手への思いやりや礼儀をわきまえます。

対して他の共同体は世間の外です。

かつて他の農村社会とは、水利権を主張して激しく争い、戦いになることもありました。この世間の外に対し、日本人は概してわがままで冷酷です。アジアからの実習生に対し、労働法規を無視して過酷な仕事をさせていた経営者がいました。彼にとって実習生はよそ者であり、世間の外だったのです。
 

やり過ごし

官僚制の元、指示命令は一元化され、上司の指示は部下によって確実に実行されます。

ところが現実の組織では、上司の指示がすべて確実に実行されているわけではありません。上司の指示を部下が放置する「やり過ごし」が起きています。

東京大学教授 高橋伸夫氏は、このやり過ごしをゴミ箱モデルで説明しました。ゴミ箱は組織に問題が投げ込まれる場です。例えば定例会議などです。このゴミ箱に問題が入った時

  • 参加者のエネルギーが十分あれば参加者は問題解決に取り組む
  • 参加者が集まっていないときに問題が投げ込まれれば、問題は見過される
  • 問題に対して参加者のエネルギーが不十分な時、問題は無視される (やり過ごす)

往々にして企業の開発部門や、個人ても能力がある社員には、処理能力を超える業務が入ってきます。全部は対処できません。そこで上記の原則に従って、組織やメンバーは問題をやり過ごして対処します。
 

日本型共同体組織の欠点

日本の組織は、擬制の血縁集団がベースになっています。そのため意思決定は全員一致が原則です。かつて農村社会や武家社会では、リーダーが指示してもメンバーの合意がなければ指示は実行されませんでした。

こういった組織を山本氏は「一揆」と呼びました。一揆ではメンバーの利害が最も重要です。かつて一向一揆では、領民である寺社の僧侶が領主の守護を追い払い、何十年も僧侶が自治を行いました。実は戦国大名も一揆連合で、ピラミッド組織ではありませんでした。リーダーの大名が命令しても、メンバーの家臣が談合し、時には主君の大名の命令をはねつけることもあったのです。

現在の日本企業もこの一揆の構造です。何かを意思決定する場合、管理職を中心にとことん議論し全員の同意を取りつけます。同意を得るまでに時間はかかりますが、同意が得られれば全員が協力してスピーディに実行されます。一方全員が同意して決めたことなので、

決定は誰の責任でもありません。

強いていえば責任は全員に分散されます。
 

こういった一揆に基づく集団主義の特徴は
各集団が我先に自己主張をするため、

攻撃する状況では大きな成果が出ます。

かつの電卓戦争では次々に新しい技術が生まれ各社競って新製品を開発しました。そのような状況では、目的は明確で各社とも一致団結して新製品を短期間に矢継ぎ早に市場に投入しました。

ところが形成が悪くなって撤退しなければならなくなると、

こういった集団は

撤退が苦手です。

軍隊の場合、撤退する際は少数の部隊を殿(しんがり)としておいて起き、殿が戦っている間に主力が撤退します。ところがこういった「一揆」集団は「自分たちだけがワリを食うのは嫌だ」と誰も殿をやろうとしません。

企業においても早く不採算部門を閉鎖すれば損失を抑えることができるのに、閉鎖が決定できず、ずるずると損失を出してしまいます。あげくに倒産することすらあります。
 

リーダーシップと共同体文化

 
集団を統率するリーダーによって、集団は変わります。このリーダーの姿勢「リーダーシップ」は経営組織論の中で述べられています。一方日本の集団の場合、リーダーシップも日本独自のものになっています。

それはどのようなものでしょうか?

まずは経営組織論のリーダーシップについて以下に述べます。

リーダーシップとは?

リーダーシップとは、指導者としての能力・力量・統率力を指します。これは

「自己の理念や価値観に基づいて、魅力ある目標を設定し、またその実現体制を構築し、人々の意欲を高め成長させながら、課題や障害を解決する行動」

と定義されます。

リーダーシップの中でリーダーの資質や人格は古くから注目されました。リーダーが先天的に持つ資質や才能は、リーダーシップの質に影響します。

これに対し経営ではマネジメントという言葉もあります。ではリーダーシップとマネジメントはどのように違うのでしょうか。

リーダーシップとマネジメントの違いを表1に示します。

表1 リーダーシップとマネジメントの違い

リーダーシップ マネジメント
課題 変化の推進 複雑性への対処
実現への取組 進路を設定
人々の連携を図る
モチベーションとインスピレーションの喚起
計画立案と予算の策定
組織編成と人員配置
コントロールと問題解決

これを比較するとマネジメントは技術的要素が大きく、これは習得可能なものです。対してリーダーシップには能力的要素が大きく、個人の資質や才能が大きく影響します。
 

コンティジェンシー理論

状況に応じてリーダーシップのスタイルを変化させるという考え方です。フィドラーは、リーダーのタイプを大きく二つに分けています。

人間関係志向リーダー

 苦手タイプともうまくやっていく

職務(タスク)志向リーダー

 苦手にタイプとうまくやっていくことよりも職務を優先

図4 リーダーシップのスタイルトワーク

図4 リーダーシップのスタイルトワーク


 

フィドラーは組織が置かれた状況によってどちらのリーダーがより成果をあげるのか調査しました。環境について以下の3つを取り上げました。

  1. リーダーが支持されているか
  2. 仕事が構造化されているか
  3. リーダーに権限が与えられているか

その結果、環境がリーダーに

  • とても良い(1.支持されており、2.構造化されており、3.権限がある)場合
  • とても悪い(1.支持されておらず、2.構造化もされておらず、3.権限もない)場合

「職務(タスク)志向」のリーダーが高い成果を上げました
 

  • その中間の良いとも悪いともいえない環境に置かれた場合

「人間関係志向」のリーダーが高い成果を上げました。
 

つまり

どのような状況でも通用する唯一最善なリーダーはいない

ことが証明されました。

一方このリーダーシップ論は、欧米の組織の組織論が前提です。一揆をベースとする日本の共同体組織では、リーダーはメンバーの意向を無視して、独自に意思決定することは困難です。
 

ポリティクス

ポリティクスとは、経営組織論において、正式なルートや指示命令以外で組織内部に影響力を行使することです。影響力を行使する方法は以下の2種類があります。

【正式な手段】

  • 権限に基づく指示命令や合理的な説得

【ポリティクス】

  • 将来の利益提供や過去の貸しを主張
  • 不利な結果をほのめかすなど交換条件の提示
  • 上位の権威者からの非公式な支持
  • 情報の漏洩や隠ぺい
  • 会議の議題や参加者を自分に有利に替える
図5 影響力を行使する

図5 影響力を行使する

メンバーがポリティクスを行使する目的は

  1. 組織に有益な取組が上司の誤った判断で中止されるため
  2. 個人的な評価を高めるため
  3. 自部門の利益を守るために他部門のプロジェクトを中止させる

などです。

こうしたポリティクスが生じるのは、公式な調整では調整がうまくいかなかったり、メンバーが自分の利益のために有利に導こうとしたりするからです。特に成果主義や「業績の低い下位10%の社員は退職させるアップオアアウト」などの制度を取っている組織では、メンバーは自身の存続をかけて様々な働きかけをします。

一方日本企業には「根回し」という文化があります。これも非公式な影響力の行使となるためポリティクスと言えます。

一揆を基本とする組織では会議は全員一致が原則なので、会議の場で反対意見が出ると結論は保留されます。関係者は早く結論を出して業務を進めなければなりません。そのために会議の前に反対意見のある部門のリーダー、時には出席者全員と個別に事前打合せして、予め合意を取りつけておきます。
 

コンフリクト

コンフリクトは、複数の組織や部門の利害の対立です。

コンフリクトには

  • 職務上の調整の困難さから生じる職務コンフリクト
  • 人間慣例の衝突「反りが合わない」関係性コンフリクト

の2種類があります。
 

コンフリクトの原因は

  • 当事者間が相互依存関係にあるため、お互いが有利に事を運ぼうとする
  • 資源の希少性から優先権を得ようとする
  • 役割や責任にあいまいさがあるため、お互いに押し付けあう

などがあります。

コンフリクトには業務上避けられないものもあります。

例えばメーカーの営業、製造、品証は自部門の最適解が他部門の最適解にならないことがあり、コンフリクトが生じます。

顧客から注文の入っている製品が納期に間に合いそうもない場合

【営業】「製造」には無理をしても納期に間に合わせてほしい 

【製造】 現在の工程では間に合わない。「品証」が許可すれば一部検査を省略して間に合わせることができる

【品証】 検査を省略すれば不良品を納める可能性があるため許可できない

こうして3者の喧々諤々の議論になります。

なお、この例では品証は品質の最後の砦として検査省略は許可してはいけません。
 

日本型組織におけるリーダーシップ

日本企業の場合、組織の本質は共同体です。

共同体では一揆、つまり

メンバーの同意がなければ組織は動きません。

組織を束ねるには、メンバーの意見を取りまとめて合意に導くような調整型で世話人型のリーダーが必要です。

しかも共同体の中での上下関係は、必ずしも地位の上下でありません。組織上は顧問や相談役の年配者が純然たる影響力を持っていることもあります。このような閉ざされた共同体をマネジメントするには、共同体の人間関係や文化をよく知っている必要があります。これは外部の人間には容易ではありません。経営が思わしくない時、他社から経営者を招聘して立て直そうとしてもうまくいかない原因がここにあります。
 

かつての自然発生的な村落共同体の場合、一番の目的は共同体の存続です。そして稲作のようにこれまで培ってきたことを今後も滞りなく行うには、人の和を重視します。メンバーは共同体の構成員としての自覚があるため、細かな規則や契約は必要ありません。このような共同体では、欧米のような強いリーダーシップはむしろ有害です。

共同体の存続が最大の目標なので、欧米の組織のようなリーダーの指示の元、目的に応じて組織を解体・再編する、目標を達成したらリーダーは交代し次の目的に合致する組織に再編する、このような発想はありません。

本来、組織が成果を上げるには、明確な目標を設定しそれをメンバーに周知しなければなりません。ところが日本では政治家でも明確な目標を提示するリーダーは限られています。その一因は、日本の組織には有能な参謀(スタッフ)がいないことと、リーダーがそれを使いこなしていないことです。

政治学者モスカによれば、リーダーは攻略型と政略型の2種類があります。

政略型がリーダーになると、指揮権を行使し組織をまとめる力が弱いため、リーダーシップを発揮できません。

一方攻略型のリーダーは、リーダー単独では有効な政策がないため目標が設定でず、リーダーシップを発揮できません。

例えば、創生期のホンダの本田宗一郎と藤沢武夫のような、攻略型のリーダーが政略型のリーダーを参謀として使いこなす組織が理想と言えるでしょう。

このような日本の組織、社会には様々な不条理(問題)があります。
 

集団の中の序列

この日本の組織、社会の不条理な点について、2022年7月戦史・紛争史研究家の山崎雅弘氏と思想家の内田樹氏が対談しました。

山崎氏は「日本の組織は、支配層や上層部の利益が全体の利益になると思わせ、自分たちに都合のいいように人々を従わせている。その結果、SNSの発言を見ても、職場環境や雇用問題について、会社に雇われている側なのに経営者の目線で語る人が少なくない」と言います。
 

これについて内田氏は学校教育の問題を取り上げました。

「何をしたいのか?」より「何をすればほめてもらえるのか」を考えるように教育されている。学校は、先生の出した問題に対し、子どもが答えを書き先生が採点する。その採点が子供の評価となる。そのため子どもたちは「よい点をもらうことが自己実現の方法」と信じている。

しかし相手が問題を出して、自分が答えて、それを採点されるのは、典型的な権力関係です。もし自分が相手より優位に立ちたい場合は、先に相手に質問しなければなりません。武道ではこれを「後手に回る」と言います。そして「後手に回れば必ず敗ける」と内田氏は言います。

山崎氏
なぜ日本の組織は「非効率」で「非倫理的」なのか、それは社会の価値観が反映されている。海外では雇用主と従業員は対等と考え、自分の権利が政府や雇用主に侵害されれば誰もが「自分の権利をちゃんと保障しろ」と主張する。

内田氏
感染症内科の岩田健太郎先生は、エボラ出血熱のときシエラレオネで医療チームに参加しました。「国境なき医師団」とかWHOとか、世界中から来ている混成チームでは、まず問われるのが「おまえは何できるんだ?」だそうです。隔離病室を作れる、感染症の手順を知っている…、自己申告に従って役割分担をする。

日本で最初に聞かれるのは「おまえは何者だ」、医師か看護師か聞かれ、出身大学・医局・卒後年数を聞かれる。つまり誰に対しては敬語を使うのか、上下関係をまず確認する。

コロナによるクラスターが発生した「ダイヤモンド・プリンセス号」に岩田先生が入った時に優先されたのは「誰が一番偉いのか」、あの場では橋本岳という当時の厚生労働副大臣。でも政治家なので感染症のことは知らない。

そこで岩田先生は「やり方が間違っているから、やり直しなさい」と専門家としてアドバイスしましたが、これは「下の人間が上の人間に指示を出す」と捉えられ、これは日本では禁忌なので「出て行け」と言われる。(朱記は筆者)

 

これからの組織を考える

このように組織論における組織の役割と、日本型共同体とは乖離があります。

では、これからはどのような組織が必要なのでしょうか?
 

共同体の解体と帰属意識の希薄化

日本型共同体が成立するためには、共同体の構成員がずっと組織内部にいる必要があります。

構成員にとって共同体からの退出は勘当です。これは構成員のアイデンティティの喪失にもなります。これまで終身雇用が維持できていた時代、構成員は共同体の一員という意識が維持されていました。

しかしバブル崩壊後、非正規雇用の増大や高齢社員のリストラの結果、構成員の「共同体の一員」という意識は解体されつつあります。しかも現在、組織には様々な人がいます。組織に対してそれぞれ異なった意識を持っています。

  1. 正社員として雇用され共同体の構成員の自覚を持っている (多くは中高年)
  2. 共同体を信じていない。しかし追い出されれば経済的に困窮するため、指示には無条件に従う(多くは若者)
  3. 派遣社員として長期間組織で働いているが共同体の一員とは思っていない

 

それぞれの立場によって以下のように行動します。

1.は一揆のメンバーで共同体の価値観に従い行動します。その点でストレスは少ないです。

2.は共同体を信じておらず、押し付けられた価値観を受け入れられません。しかし一揆に反抗すれば不利になることが分かっているため、指示には無条件で従います。その一方で過剰な仕事をやり過ごすことができず、時には体調を崩してしまいます。

3.の派遣社員は価値観を共有できず疎外感を感じています。指示命令には無条件に従うが、それ以上のことはしません。
 

権限と圧力

組織のメンバーがこういった価値観を持つ中で、達成困難な目標が上から与えられればどうなるでしょうか。

2.3.の構成員にとってそれは単なる指示命令でなく、一揆からの無言の圧力となってきます。
 

終身雇用が困難に

今日テレワークが広まり、中にはオフィスを持たない会社もあります。そういった会社は、社員の「共同体の一員としての意識」は希薄化します。

一方、若年人材は不足し、しかも国から70歳まで雇用延長を求められています。そこで企業は中高年を戦力として活用する必要に迫られています。

経営環境は変化し、業務内容も変わってきます。しかし人の能力は簡単には変わりません。特に中高年の場合、訓練により新たな能力を獲得するのは容易ではありません。そうなると中高年の教育訓練の費用対効果は低く、場合によっては既存社員を訓練するよりも専門人材を新たに雇用した方が安上がりです。
 

例えば機械設計は、ドラフターから二次元CAD、二次元CADから三次元CADへ変わりました。中高年の設計者が二次元CADや三次元CADに対応するのは再訓練で可能です。しかし設計者にグラフィックデザインやホームページ制作を教育するのであれば、教育するより外部の専門人材に依頼した方が安上がりです。

もし自社の事業環境が変化して機械設計の業務がゼロになり、グラフィックデザインとホームページ制作の仕事だけになれば中高年の設計者の仕事はなくなってしまいます。このように将来業務内容や必要なスキルが変化すれば、1社が同じ人間を50年雇用し続けるのは困難です。

このように考えると、今後も企業が日本型の共同体であり続けるのは難しくなってきます。

かといって社会、文化が全く異なる欧米型の組織も日本社会にはなじみません。

これからの組織

今後はこれまでの

共同体意識の共有はない

前提で21世紀型の組織をつくる必要があるでしょう。

そのためには以下の課題を解決する必要があります。

  • 一揆に変わる意思決定の仕組み、そしてメンバーが決定に従う仕組み
  • 共同体意識がない時の組織への貢献意欲を引き出す方法
  • 多様な人たちを取りまとめ、成果を上げるリーダー
  • テレワークなどでメンバーの関係性が希薄になっても組織運営や企画・発想できる仕組み
  • 50年間を雇用し続けられない場合、副業などによる生活の安定
  • 中高年の共同体意識の変革、教育訓練を継続する意識

今後は

新しい21世紀型組織を持った企業が従来の共同体文化の企業と静かに入れ替わっていく

かもしれません。
 

参考文献

「はじめての経営組織論」高尾義明 著 有斐閣ストゥディア
「指導者の条件」山本七平 著 文藝春秋
 

 

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企業の組織と日本の共同体文化の問題 その1~組織の種類と特徴、組織の問題とは?~ https://ilink-corp.co.jp/8956.html https://ilink-corp.co.jp/8956.html#respond Tue, 24 Oct 2023 04:30:47 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8956

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頻発する企業不祥事や法令違反、時には社会問題になり、企業には多大な損害が生じます。そこで多くの企業がコンプライアンス遵守に取組んでいます。それでも不祥事は後を絶ちません。

なぜでしょうか?

図1 なくならない不祥事

図1 なくならない不祥事

コンプライアンスの遵守と強化とは、管理と統制の強化です。これは企業の建前の部分です。

一方企業は、組織体であり、また同時に人の集団でもあります。そこには

日本社会特有の共同体文化

があります。

この日本の共同体文化は、社員の行動にどのように影響し、それにより組織はどのように変質したのでしょうか?

山本七平氏(以降 山本氏)の「指導者の条件」にある日本の共同体文化と、経営組織論を対比して、

組織とは何か、

そして

日本の組織の問題点

について考えました。
 

組織とは何か?その目的は?

企業組織の目的、形態、特徴を探求したのが経営組織論です。

経営組織論では、組織とはどのようなもので、その目的や特徴について述べています。

では組織とは何でしょうか?
 

組織とは?

「組織と管理」の著者で組織経営論の大家 チェスター・バーナードによれば
組織とは、「意識的に調整された2人、またはそれ以上の人々の活動や諸力のシステム」です。

この「意識的な調整」とは組織のメンバーがリーダーの指示の元、お互いの行動を調整して目的を達成しようとすることです。

また「組織はシステム」です。お互いが役割分担して、相互に影響しあいながら目的を達成します。

言い換えれば、システムは仕組みのことです。この仕組みに人やモノは含まれません。

システムがちゃんと機能すれば、誰に代わっても(能力が同じであれば)組織の能力は変わらないという考えです。
 

この組織の3要素としてバーナードは

  • 共通目的 同じ目的意識で取り組む
  • コミュニケーション
  • 貢献意欲 助け合いつつ組織に貢献したいという気持ち

を挙げています。

このどれか一つが欠けても組織は健全に機能しなくなります。

経営組織論では組織をこのようにシステムと考えます。

実際の組織は、人の集まりであり、つまり共同体です。

共同体はどういった人で構成されるかによって大きく変わります。
 

組織の目的

ではなぜ組織が生まれたのでしょうか?

経営組織論から離れ「なぜ人は集団をつくるのか」を考えてみます。

人が集団になるのは、集団の方が都合がよいからです。古代の狩猟採取社会では、一人で狩りをするより、何人が協力した方が大きな獲物が捕れます。

その後、定住して農業を営むようになると、農作業はお互いの協力がなければ成り立ちません。

つまり集団の目的は、狩猟や農業など活動の効率化です。

もう一つの側面は安全です。部族間の紛争など太古から集団同士の争いはありました。単独では襲われても集団ならば簡単には襲われません。安全のために人は集団化しました。その一方、集団化すれば武力は強くなります。その結果、他の部族を襲うこともありました。
 

企業経営では組織の共通目的は事業です。個々の企業の事業内容は定款に書かれています。もし定款にない事業を行う場合は定款を変更します。

あるいは組織の目的や目指す姿が経営理念やミッションとして明文化されていることもあります。一方定款や経営理念として明文化されていなくても、組織には固有の共通目的があります。

それは何でしょうか?

企業の目的は

「組織の存続」

です。

定款に書かれた事業が本当に組織の目的であれば、その事業が困難になれば組織を解散するはずです。しかし多くの企業は新たな事業に移行して存続しようと努力します。つまり目的は事業でないのです。
 

なぜ組織化するのか?分業について

人が集団になるのは、活動の効率化や安全のためです。

人が組織化するのは、もう一つの目的があります。それが分業です。

分業して役割分担すれば、個々のメンバーは専門的な能力をより高めることができます。古代社会でも大工、機織り職人、猟師などひとつの仕事に特化することで、人は専門能力を高めました。
 

分業のメリットは

  • 専門的な仕事に専念できる
  • 専念することで短期間に習熟できる
  • 専念することで効率化、低コスト化を実現

です。
 

一方デメリットもあります。

  • 分業した業務同士の調整が必要
  • 専門以外のことが分かなくなる
  • 仕事が単純化しモチベーションが下がる

などです。
 

分業化することで業務間の調整が必要になります。それには管理者が必要です。

では実際の組織にはどのようなものがあるのでしょうか?
 

組織の種類と特徴

組織の種類と特徴について経営組織論から説明します。
 

フラット型組織

図2のように一人のリーダーの指揮下にメンバーが並列でいる組織です。

各メンバーはリーダーから直接指示を受けます。メンバー相互の調整はリーダーが行います。小さい会社の多くはフラット型組織です。

フラット型組織には以下の特徴があります。

【利点】

  • メンバーはリーダーから直接指示を受けるため、指示の伝達が早い
  • リーダーは各メンバーを直接管理するため、きめ細かくスピーディに管理できる
  • リーダーがメンバー間の調整を直接行うため、メンバーの仕事の最適な割当が可能

 

【欠点】

  • メンバーが多くなるとリーダーの管理が不十分になる
  • 統制の幅(スパンオブコントロール)の問題
  • メンバーの業務が分業化・専門化すると、専門性の不足するリーダーは管理が不十分になる

図2 フラット型組織

図2 フラット型組織


 

ピラミッド型組織 (ライン組織)

メンバーが多くなると、フラット型組織ではリーダーがメンバーを十分に管理できなくなり、業務の効率が低下します。

そこで組織を階層化し、部下を直接管理する複数のリーダーを上位のリーダーが管理するビラミット型組織へ移行します。

ピラミッド型組織の階層化には、

  • メンバーの増加による管理の階層化 垂直的分化
  • 業務の分化(専門化)による階層化 水平的分化

の2種類があります。
 

実際には企業は、係(グループ)→課→部 という階層構造を取ります。水平的分化、つまり部門化(専門化)の例は

  • 機能に基づく部門化(専門化)
  • 製品・サービスに基づく部門化
  • 顧客別の部門化
  • 地域別の部門化

があります。

あるいは

  • 製造部門は「機能に基づく部門化」
  • 製造部門の中で設計は「製品・サービスに基づく部門化」
  • 営業は「顧客別の部門化」あるいは「地域別の部門化」

など、部によって異なる要素で分けることもあります。

図3 ピラミッド型組織

図3 ピラミッド型組織

代表的なピラミッド型組織は軍隊です。軍隊は指示命令の徹底が必須です。ピラミッド型組織はトップの指示が一元化されて末端にまで伝わります。

一方軍隊には様々な専門能力が必要です。そのため組織を機能別にも分け、専門能力の育成と管理を行います。

図4は日本陸軍の歩兵師団の組織です。1師団には歩兵連隊3個、砲兵部隊の他に、輸送中隊、偵察中隊、通信中隊、工兵中隊、衛生中隊などがあります。

 図4 日本陸軍の歩兵師団の組織

図4 日本陸軍の歩兵師団の組織


 

ピラミッド型組織の特徴
【利点】

  • 適切な人数の部下を管理するため、リーダーはメンバーの適切な管理と・統制が可能
  • 管理を階層化することで、トップの方針・命令を確実に末端に伝えられる
  • 末端のメンバーの情報は階層を通じてトップに確実に伝えられる
  • 組織を機能別、製品別、顧客別、地域別に分けることで、それぞれの業務に特化して遂行が可能

 

【欠点】

  • 各部門を機能別、製品別、顧客別、地域別に分けるために、部門間で利害が対立した場合、調整はトップが行わなければならない
  • 各部門が自部門の業績の最適化を目指すため部分最適に陥る
  • メンバーは専門的な業務に特化するため、他の業務への対応力が低下
  • 現場の情報がトップに伝えわるまでに何人ものリーダーを経るため伝達に時間がかかり、情報が正確に伝わらない
  • 部門間にまたがる業務や、どの部門にも該当しない業務が適切に遂行されない

 

「職能別組織」や「機能別組織」は、ピラミッド型組織を職能別、機能別に階層化したものです。

例えば多くの企業は開発、製造、販売などの機能別に組織を構成します。(実際の部門は、開発、設計、製造、生産管理、資材、品質保証、営業など)

実際は製品開発、製造・販売に対し、開発、営業、製造ではそれぞれの利害が異なります。そこで対立が生じた場合は、調整は組織のトップの役割です。(日本の企業では、部門間の対立は部門間の話し合いで調整されます。)

こうしたピラミッド型組織は中央集権的な組織です。そのため製品の種類や事業の多角化が進むと、トップの負担が増加し意思決定のスピードが低下します。
 

ライン・アンド・スタッフ組織

ピラミッド型組織では、人員を階層的に管理して適正な管理と命令の一元化を図っています。一方各部門にそれぞれ専任者を置くよりも、会社全体で共通の専任者が担当した方が効率の良い業務があります。

例えば、労務管理や人事など総務、経理、ISO事務局や標準化などです。経営企画など経営者により近い業務も各部門から切り離した方がより広い視点で業務を遂行できます。

そこでこれらの部門をピラミッド型の組織(ライン)から切り離し本社直轄の部門とします。これをスタッフ部門と呼び、こういった組織をライン・アンド・スタッフ組織と言います。特に後述の事業部制をとった場合、各事業部に総務や経理を設けると、各事業部間で重複する業務が多く非効率です。またスタッフ部門の業務は収益を生まないため、事業部として独立させるのは不自然です。そのため事業部とは別に本社直轄の組織とします。
 

あるいは新規事業のプロジェクトチームなども、開発の初期段階では事業化の見通しが立っていないため、事業部でなくスタッフ部門の中に設けます。そうすれば収益性は問われずに一定の予算枠の中で研究開発を行うことができます。そして事業化の目途が立てば、プロジェクトチームごと事業部門に移管します。

図5 ライン・アンド・スタッフ組織

図5 ライン・アンド・スタッフ組織


 

【利点】

  • 専任者が会社全体で業務を行うため、効率が高い
  • 人事、経理などを会社全体でひとつの部署が行うため、やり方が統一される

 

【欠点】

  • 各部門の業務と場所的にも業務的にも切り離されるため、各部門の求めるものと異なる業務を行う可能性がある
  • 収益をもたらさない業務は費用対効果があいまいで、業務が肥大化する

 

軍隊の場合スタッフは参謀部です。欧米の軍隊は、優秀なスタッフを参謀部に集めて優れた作戦を複数立案します。司令官はそのうちのどの作戦かを選択します。現場はその作戦をひたすら忠実に実行します。スタッフに優秀な人材がいれば、現場の人間は優秀である必要はないという考え方です。

ところが同じ軍隊でも日本の軍隊はこれを嫌います。自分に関係がないことでも全部知っていなければ気が済まないのです。山本氏はフィリピンの戦場にいましたが、中国戦線の命令の写しがフィリピンにも来ていました。そのためある司令部が敵に奪われると陸軍全部の作戦が分かってしまいました。

こういった特徴は今の企業でもあります。日本では、入社したての新入社員でも会社の前途を憂い心配します。

これが欧米企業では、会社の前途はスタッフが考えればいい問題で、新入社員は自分には関係ないと考えます。新入社員は自分の担当したラインの仕事だけ専念すればよいと思います。
 

事業部制組織

製品の種類が増えたり事業が多角化すると、ピラミッド型組織では部門間の調整業務が増大します。トップの負担が増えて意思決定のスピードが低下します。

そこで事業毎に事業部をつくり、事業部毎に開発、製造、販売などの機能を持たせます。これにより部門間の利害関係は事業部内で調整できるようになりトップの負担は減少し、意思決定のスピードが早くなります。売上と費用を事業部毎に集計することで、各事業の収益性・採算性も明確になります。

この事業部制は1920年にアメリカのデュポン、続いてゼネラルモータースが導入しました。日本では1933年に松下電器産業が導入しました。現在でも異なる事業や特徴が異なる製品を持つ企業の多くは事業部制を取っています。

実際は、製造は製品毎の事業部でも、販売はひとつの事業部にする場合もあります。どこを事業部として分けて、どこを共通部門にするかは企業により違いがあります。
 

【利点】

  • 事業部毎に収支が明確になり、事業の収益性を適切に評価できる
  • 事業毎に適切な組織にすることができ、組織構成を最適化できる
  • 事業部のトップに責任と権限が委譲されるため、意思決定のスピードが早くなる
  • トップの調整業務・負担が減少する

 

【欠点】

  • 各事業部に販売、開発、製造の部門があるため、部門が重複し効率性が低下
  • 事業部毎に独自のやり方が生まれる
  • 事業部の収益性を追求した結果他の事業部と利害が対立する場合、部分最適に陥る

 

マトリックス組織

事業部制の課題として、事業部毎に製造、開発、販売の機能があるため、事業部独自のやり方が生まれるなど、会社全体では業務が非効率になる点があります。そこで会社全体で製造、開発、販売などを統括するリーダーを決めて、事業部を横断して管理する方法が生まれました。これがマトリックス組織です。

マトリックス組織では、各部門の業務は統括リーダーによって最適化されます。その一方、組織のメンバーは事業部と統括リーダーの二人の上司から指示を受けるため、命令の一元化が保たれません。その結果、混乱が生じやすく、マトリックス組織を採用している企業は多くありません。

一方、ピラミッド組織(あるいは事業部制)の企業でも、各部門からメンバーを集めてプロジェクトチームを作ることがあります。この場合、プロジェクト業務はプロジェクトリーダーの指示で遂行しますが、それ以外の業務はこれまでのラインのリーダーの指示で遂行します。これもある意味マトリックス組織と言えます。

図6 マトリックス組織

図6 マトリックス組織


 

カンパニー制

カンパニー制は、事業部制の独立採算を進めて、人事、経理などスタッフ部門の機能もすべてカンパニー内に持ち、人材、資金調達などもカンパニー内で意思決定できるようにしたものです。その点で後述の分社化に近いのですが、対外的にはひとつの会社である点が分社化と異なります。

各カンパニーが一つの疑似的な会社として、事業運営、投資や資金調達、人材採用を意思決定できます。そのためカンパニーのリーダーは、事業部のリーダーよりも意思決定の裁量範囲が広く、意思決定のスピードも早くできます。このカンパニー制は、ソニー、トヨタ自動車、みずほ銀行など企業が採用しています。

一方で、NEC、富士ゼロックスなどは一度導入したカンパニー制を廃止しました。

図7 カンパニー制

図7 カンパニー制


 

カンパニー制の特徴

【利点】

  • 投資、資金調達、人材など事業部ではスタッフ部門の業務もカンパニー内で意思決定できるため、意思決定のスピードが早く、経営環境の変化に応じて柔軟に対応できる
  • カンパニー毎にバランスシートをつくることで損益だけでなく、資産にまで踏み込んで事業を評価できる
  • カンパニー内ですべて調達できるため完全独立採算となり、収益性や責任が事業部制よりも明確になる
  • カンパニーのリーダーはカンパニーを経営することで経営的視点を持つことができる

 

【欠点】

  • 各カンパニーに人事や経理などがあるため、会社全体で見れば重複する部門が増え、間接費用が増加する
  • 事業部制よりも各カンパニーの独立性が強くなるため、カンパニー間での情報交換、技術やノウハウの共有が弱くなる
  • 短期的には収益を生まない事業をスタッフ部門として事業部から切り離すことができないため、短期的な利益追求に陥る可能性がある

 

分社化

カンパニー制をさら発展させ、事業毎に完全に別会社にして、本社機能は持ち株会社(ホールディングカンパニー)とする方法です。各子会社は、人材、資金を独自に意思決定し、経営状況を評価できます。分社化は1997年純粋持株会社が解禁されたことから広まりました。かつては赤字を子会社に移転して本社の決算をよく見せることも行われていました。しかし現在は、業績は子会社も含めた連結決算で評価されるため、そのような手法はなくなりました。この分社化の特徴を以下に示します。

図8 分社化

図8 分社化


 

【利点】

  • 事業毎に独立した会社のため、経営資源の配分の最適化、意思決定の迅速化が可能になる
  • カンパニー制と異なり、財務諸表を外部に提出するため、公正な業績評価が可能
  • 事業買収や売却が容易になり、環境の変化に応じた事業再編がスピードアップ
  • 子会社毎に賃金水準を変えることができるので、事業に応じた人件費の最適化が可能

 

【欠点】

  • 連結財務諸表の作成や子会社の会計監査など管理業務が増大
  • 子会社間の移動は、出向や転籍になり人事交流が進まなくなる
  • 事業間の交流やコミュニケーションが減少
  • 子会社毎に独自の企業文化が生まれ、グループの求心力が低下

株式会社を設立する際の最低資本金が引き下げられたことで、会社の設立が容易になりました。そのため、中小企業でも事業によって複数の会社を設立し、分社化している企業も多くあります。
 

官僚制

官僚制組織とも言われるため、組織形態の一つのように見えますが、組織としてはピラミッド型組織です。

官僚制 (bureaucracy)はピラミッド型の階層型のシステムで以下の特徴があります。

  • 規則に基づく運営
  • トップダウンの指揮命令系統と命令の一元化
  • 組織への貢献度に応じた昇進や報償
  • 分業による専門分野への分化

 

こういった特徴は行政機関だけでなく、企業や他の団体にも広く見られます。組織が大きくなると、トップの指示が末端にまで浸透するには階層型の組織が必要です。中国では秦の時代からすでに官僚制度がありました。

近代の官僚制はドイツの社会学者マックス・ヴェーバーにより研究されました。ヴェーバーによれば官僚制の元では、メンバーは合理的な規則と役割を体系的に割り当てられて行動します。

そして以下の原則に従います。

  • 権限の原則
  • 階層の原則
  • 専門性の原則
  • 文書主義

 

ヴェーバーは、
「官僚制は合理的な機能を有し、優れた機械のような優れた点がある」
と主張しました。

ただし個人の自由が抑圧される点や組織が巨大になると統制が困難になるなど、

官僚制のマイナス面も指摘しています。

このマイナス面については、アメリカの社会学者ロバート・キング・マートンが

「官僚制の逆機能」

について指摘しました。

この官僚制の逆機能とは

  • 規則万能(例: 規則に無いから出来ないという杓子定規の対応)
  • 責任回避・自己保身(事なかれ主義
  • 秘密主義
  • 前例主義による保守的傾向
  • 画一的傾向
  • 権威主義的傾向(例: 役所窓口などでの冷淡で横柄な対応)
  • 繁文縟礼(はんぶんじょくれい)(例: 膨大な処理済文書の保管を専門とする部署が存在すること)
  • セクショナリズム(例: 縦割り政治、専門外管轄外の業務を避けようとするなどの閉鎖的傾向)

などです。
 

一般にはこれらは官僚主義と呼ばれています。

その特徴は

  • 先例がないからできない
  • 規則にないため判断を避ける
  • 些細な書類の不備で拒絶する
  • 書類の作成自体が目的化する
  • 自分の部署以外の仕事はやらない

などですが、これらは民間企業にも見られ「大企業病」と呼ばれています。
 

官僚制の文書主義や権限の原則は、欧米の企業組織の骨格です。欧米では、これらはち密に体系化されています。その代表的なものがISOなどのマネジメントシステムです。ISOは、規格の最初に「責任と権限を明確にする」ことを要求しています。

この責任と権限の明確化は、契約を基本とする欧米社会の文化です。

山本氏は

「欧米人は契約がないと何もできない。

宗教も神と人間の契約、つまり個人が神と契約を結ぶ。」

と述べています。

かつての欧米人の考えには「他人も同じ宗教を信仰し神と契約を結んでいるから信頼できる」というものがありました。そして「自分たちの信仰する神と契約を結んでいない異教徒は何をするのかわからず信頼できない」というものでした。(今は違っていますが)。
 

ところが日本人は

契約という概念を非常に嫌います。

取引の際、契約を持ち出すと「私が信頼できないのか」とかみつかれます。日本社会は契約の概念が希薄なため、日本では官僚制においても文書化は十分ではありません。

ここまで経営組織論に基づき様々な組織の形態と特徴について述べました。

このように組織は、様々な形態とそれぞれ特徴があります。
 

ところがこの組織と、日本の古来からの共同体文化は、相反するものがあります。

これが企業不祥事など日本の組織の問題の根源にあるのです。

それはどのようなものでしょうか?

これについては、次の経営コラムでお伝えします。

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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]]>
https://ilink-corp.co.jp/8956.html/feed 0
「若者の価値観とやる気を引き出すには?」 ~適応できないのは若者なのか、シニア世代なのか?~ https://ilink-corp.co.jp/8679.html https://ilink-corp.co.jp/8679.html#respond Mon, 29 May 2023 01:46:03 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8679 No related posts. ]]> 若手社員がこれまでのやり方では育成が進まないという課題に対して、これまで、

第17回「ゆとり世代の特徴と若者のモチベーションを上げる方法」
第30回「ゆとり世代の特徴と誤解」
第31回「ゆとり教育社員への処方箋」
第41回「今までのやり方が通じない!現代若者考」
第53回「モチベーションとやり抜く力『GRIT』」
第75回「『生まれ』か『育ち』か、若者育成の課題」

等で取り上げました。
今回はニートや不登校の特徴から、社会の変化と若者の価値観の変化を取り上げました。
 

これまで取り上げた若手社員の課題と解決方法

これまでベテラン社員と若手社員の違いを取り上げ、経営者、管理者の視点から若手社員の課題と解決方法取り上げた書籍を参考に、彼らを育成する方法を考えてきました。
 

若手社員の課題

「これまでの常識が通じない」と言われる若手社員の特徴として、以下のようなものが挙げられます。

  1. 指示待ち
    •  言われたことしかやらない
    •  自分の席でなければ電話が鳴っても取らない
    •  自分の担当でなければ気を効かせて動こうとしない
  2. 低いコミュニケーション能力
    •  メール1つで急に休む
    •  友達にLINEで送るようなメールを顧客に送る
    •  電話が怖い、取ろうとしない
    •  社内の行事に参加しない、上司の飲み会の誘いを断るなど社外での交流をしない
  3. 管理職・リーダーになることを避ける
    •  自ら管理職・リーダーになろうとしない
    •  リーダーになることのメリットとデメリットを比較し、デメリットが多ければ断る
  4. リスクを取らず積極性がない
    •  目立つことを避ける
    •  失敗した場合のリスクを考えて自分から積極的に手を上げない
  5. 成長志向と根拠のない自信
    •  仕事を指示しても、それがどんなスキルになるのか聞くなどスキルにこだわる
    •  本人ができると言うからやらせてみたら、期日になってもできていない
    •  遅れるという報告もない
  6. メンタルが弱くパニックになる
    •  仕事の優先順付けができず複数の仕事を与えるとパニックになる
    •  叱られたり、仕事で失敗すると心が折れて休職してしまう

図1 パニックになってしまう

図1 パニックになってしまう


 

なぜこのようなことが起きるのでしょうか。その背景には、彼らが受けてきた学校教育や、それまでの社会経験が関係しています。

【学校教育】
多くの子供たちは、結果重視、効率重視の学校生活が求められます。子供たちはいかに少ない労力でよい成績を取るかを常に考えて、コストパフォーマンスを重視する学校生活を送っています。失敗は極力避けるため、失敗経験がなく失敗に対する耐性がありません。

【社会集団での経験】
学校のクラスの人間関係、また友人との関係は極めて同質性が高い集団です。少しでも他人と違ったり、目立ってしまうと思わぬ攻撃を仲間から受けます。そうならないためには、目立てないことが一番です。

また親も子供が失敗しないように先回りして手を回します。そのため学校以外の家庭でも失敗体験がなく、チャレンジもしません。(親がさせない) そのため自信の元となる成功体験がありません。
 

これまで取り上げた解決方法

こういった若者たちの特徴を認めた上で、彼らを組織内で短期間に戦力化する方法は以下のような解決策があります。

  1. 社会人としての基礎教育
    •  電話の応答はできないことを前提に社内で訓練する、そこで電話応答の台本を使って練習する
    •  言葉遣いや敬語の練習
    •  メールの書き方も一から指導
  2. スキルの明文化とキャリアパス
    •  年数に応じて身に着けるべきスキルや資格を紙に書いて渡す
    •  将来のキャリアパスを示し、経験を積むことでどのように成長するのかイメージさせる
    •  スキルや資格を評価や目標管理制度とリンクさせ、努力した結果が反映されるようにする
  3. 自主性を高める
    •  取得する資格やスキルは、ある程度までは本人に選択させる、これらより責任と自覚を促す
  4. 公正な評価
    •  従来の上司の評価だけでなく、同僚や部下からの評価など360度評価を取り入れる
    •  本人が納得できる評価制度にする

図2 若者を戦力化する

図2 若者を戦力化する


 

これはあくまで企業や組織は今までと同じで、問題を解決するには「若者たちを組織に合わせて戦力化しよう」という考えです。
しかし、これは正しいのでしょうか。
社会そのものが変化しつつある昨今、今の若者の特徴は社会の変化の結果なのかもしれません。

社会が変化しつつあるのに、組織や仕事のやり方を変えずに、若者をそれに合わせようとするのは、川の流れに逆らって泳いでいるようなことになっていないでしょうか。
 

ニート・不登校に見る社会の変化と価値観の転換

今起きている価値観の変化が、今の若者達の特徴の原因かもしれません。それならば彼らの価値観や考え方を理解することで、価値観の変化をつかむことができるかもしれません。

その極端な例として、ニートや不登校の若者について考えます。
 

20世紀型上昇志向

高度成長期に子供時代を過ごし、バブル崩壊以前1992年までの価値観を持った人たちの特徴を「20世紀型上昇志向」と呼びます。
すべては仕事優先で、仕事の質も重要ですが、それよりも量が重視され、たくさん働くことが求められた時代では、会社と個人は一体化していました。

これは子供には
「会社優先であくせく働く父親は幸せそうに見えない」
と映りました。

一方、消費文化は1970年代以降、比較的新たに出てきた考えです。作れば売れる時代は、古いものは捨てて新しいものを買うことが良いこととされました。これは消費を活性化し経済を成長させました。
1980年代は人と違うもの、人より高いものを持つことが満足感を高めました。消費社会から降りることは負け組を意味しました。
 

21世紀型の価値観

今の若者たちの価値観、特にニートの人たちの価値観を「21世紀型進化系人間」と呼びます。

これからは
「子供が親よりも貧しくなる世代」
と言われています。

そんな世代の子供たちから見て、親たちの世代や会社人間は幸せそうに見えません。もちろん彼らは、自分の親が1980年代の消費社会に生きた時代も知りません。
今、大企業ですら定年までの雇用を保証していません。若者たちは「会社は人生を保証してくれない」と考えています。
 

21世紀型進化系人間の彼らにとっては「仲間・働き・役立ち」を三本柱の人生として捉え、仕事は人生の1/3でいいと思っています。彼らは「自分の好きなことを仕事にしている人はほんの一握りだ」ということが分かっています。そのため、仕事は「一番嫌でない仕事でなければいい」と考えています。

高度成長期は、インフレによりお金の価値を下がり、一方賃金が年々上がっていきました。そのため貯蓄よりも消費の方が理にかなっていました。
しかしデフレの今、逆にお金の価値が上がっていきます。消費はマイナスであり、節約・貯蓄の方がメリットは大きくなります。そのため若者たちは節約をゲーム感覚で楽しみます。節約をして貧乏を乗り切るには知恵も必要です。節約には知的な楽しみもあります。

その結果、お金がないことに対し切実感や後ろめたさがありません。お金に対する価値観が違ってきています。
同様に働かないことにも後ろめたさがありません。20世紀型のがつがつとしたパッションは皆無で「競争から降りたあくせくしない生き方」がニートの特徴なのです。
 

この勝ち負けから降りる生き方が21世紀型の価値観の特徴です。

逆に今日の女性から見ると、
彼らは

  • 一緒にいると背伸びせずありのままでいられる
  • 細やかな気配りをしてくれてとてもやさしい

と評価されます。

高度成長期に求められた男性像とは全く違うタイプが好まれる時代です。
今や、フルタイムで働き、それでも仕事も結婚も子育てもしたい女性は、男性に経済力よりも人間性や癒しを求めます。こういった女性とニートのカップルは相性が良く、男性を養うことに抵抗感がない女性も現れています。
 

例1 癒しを必要とする職場とニートの相性1 リハビリ現場の管理者

高齢者のリハビリはすぐに成果が出るとは限らず、先が見えない中で地道に取り組まなければなりません。そこに従来の価値観の管理者が成果を出そうと頑張るとスタッフや患者は疲れてしまいます。ある施設ではそのために組織がぎくしゃくしていました。そこで、その管理者の代わりに元ニートが管理者として入りました。やる気のないおっとりとした雰囲気がリハビリ現場には合っていて、スタッフや患者も馴染んでいました。

例2 震災ボランティア

復興で被災した人たちにとって復興は長期戦です。しかも被災のショックも大きく気持ちも沈みがちになります。そこにやる気満々の団塊世代ボランティアが入ったところ、被災者のリズム感が合わず被災者が疲れていました。「手伝ってくれるのはありがたいのですが…」
むしろニートの「頑張らない、おっとりとした態度」の方が被災者にはありがたく感じられました。
 

何事も的確に判断し仕事をバリバリこなす、いわゆる「仕事のできる人」は、同じように仕事ができるタイプの女性にとっては「一緒にいると疲れる存在」です。ニートは仕事の結果は人より劣り、社会的にも成功していません。しかし彼らの持っている、今まではかっこ悪いとされていた「癒し」という特徴は、時代が変わったため、求められるようになりました。
 

コミュニケーションの断絶

20世紀型価値観と21世紀型価値観の2つは、価値観が全く違います。そのため、分かり合うのは困難です。特に家族、中でも親子で20世紀型価値観と21世紀型価値観がぶつかると解決は難しくなります。これが親子の問題の本質かもしれません。

親のコミュニケーション能力に問題があり、自分の価値観にこだわるあまり、子供の価値観を理解しようとしません。子供は親が楽しそうじゃないのを見て育っています。「親はエライと思う。だけど自分はあんなふうになりたくない」と思っています。

図3 親子問題の本質は?

図3 親子問題の本質は?


 

ただし若者自身も20世紀型価値観と21世紀型価値観の間で心は揺れ動いています。一部のニートのように達観できません。
格差問題の本質は、経済問題でなく価値観の違いの問題でもあります。その点を踏まえて社会が対策する必要があります。問題はお金だけではないのです。

実は社会は

物質的な豊かさから、心の豊かさのステージへと

大きく流れを変えています。
 

見えない管理と息苦しさ、閉ざされた世界

会社

学校で息がつまるような人間関係を過ごしてきた若者にとって、価値観の違う様々な人と付き合わなければならない会社は、それだけでひどく疲れる場所です。そこに1日8時間いること自体が大きな苦痛です。

一方、20世紀型価値観の人にとって、会社は自己のアイデンティティの一部であり、自尊心を満足させる場所です。特に家庭での存在感が希薄な人には唯一の居場所です。
 

一方、職場は表立っては厳格に管理されているわけではありませんが、成果主義の浸透や日常業務までITで管理されるなど、暗黙裡の管理が進んでいます。閉ざされた世界であり、いろいろな面で「理由なき服従」を強いています。
この理由なき服従とは、「従わなければ罰せられる可能性がほとんどなくても従順に従っている」という状態のことです。そうなってしまう理由は、

  • 罰せられるとダメージが極めて大きく(新卒一括採用と転職市場が弱い)
  • 罰する者の内面には不透明性がある(人事の不透明性)

からです。
 

若者たちは息を殺して組織で日々を過ごしていることを経営者や管理者は気づいていません。弾が入っていないかもしれないが、それでもこめかみに銃口を突き付けられて、自ら進んで十分な能力を発揮できるのでしょうか。

図4 組織の中で常に突き付けられている拳銃

図4 組織の中で常に突き付けられている拳銃


 

ここから外れることはできないという恐怖、窒息寸前の職場で、彼らは「会社なんていつでもやめてやると思わなければ頭がおかしくなる」と感じてしまいます。しかも監視は日々強くなり、どんどん不自由になって、正しいことしか許されない職場になっています。
 

学校

学校は閉ざされた世界です。その中で毎年教師の心無い言葉のために不登校になる子供たちが絶えません。あるいは目立つとクラスメートから執拗な攻撃を受けてしまいます。子供たちにとって教室は地雷原なのです。

調査によれば、学校は気おくれがして居心地が悪いと答えた子供は17.8%(5人に1人)にも上りました。神経をすり減らす友人関係、友達同士の仲良しごっこは、自分を縛り付ける牢獄だと子供たちは感じています。5人に1人は、見えない銃を突きつけられて学校生活を送っているのです。
大人から見ても、子供たちの世界は実に奇妙でわかりにくく複雑な世界なのです。
 

家庭

子供のことを心配するあまり、些細なことにも口を出すなど、親の呪縛が蔓延しています。子供の就職先も親が決める時代です。
イタリア人心理学者は日本人の親は子供に飛び立て、飛び立てと言いながらいざとなると
「子供の足首をつかんで離さない」
と言いました。

その原因は「子供のため」という親の呪縛です。うわべは子供の意思を尊重していると言いながら、暗黙の親の意思が子供を縛り付けているのです。
 

「良かれ」と思って愛情から出る言葉には歯止めが利きません。
むしろ他人の親切の方が相手を追い詰めないのです。
「愛は負けるが、親切は勝つ」……精神科医 斎藤環氏はこう述べました。
 

層であれば20世紀型価値観の親は、子供と「分かり合えない」という前提から始めた方が良いかもしれません。
早く親が子供から離れて、親の人生を生き始めると子供は変わり、引きこもりから抜け出せます。ひきこもり・ニートを支援するNPO法人ニュー・スタートでは、ひきこもっている若者に対し、スタッフ「レンタルお姉さん」が繰り返し訪問します。そして若者を家から出して、ニュー・スタートの寮に住まわせます。若者は親元を離れ、1人暮らしから、アルバイト、自立へと移行できます。
 

労働環境の変化

仕事がつまらない時代

自動化、IT化が進みで労働は誰でもできる仕事に変わりつつあります。労働はコモディティ化し、この人でなければできないという特別な仕事はなくなりつつあります。仕事をしても人に役立っているという実感が得られなくなっています。
ある家庭は父親が銀行員で、親の意向で子供も銀行員になりました。その結果、子供は荒れ、毎朝母親を殴ってからでないと出社しなくなりました。父親は、今の銀行の仕事は変わり、昔のようなやりがいのある仕事ではなくなったと嘆いています。
 

疲弊する日常、あるフリーターの1日

9時にシフトに入りランチ用のサンドイッチをひたすらつくります。12時になるとランチタイムで大忙しとなり、そのあとランチの片づけ、休憩のあと少し働いて6時間、6千円の稼ぎになります。帰るとくたくたに疲れて夜まで眠りこけ、夕飯、テレビ、シャワーを浴びれば1日が終わります。時給千円の仕事で特にスキルが身につくこともなく、疲弊する日常に疲れ果て、自信を失い、投げやりになっていきます。こうして日々を重ねる間に、そこから抜け出す気力も、努力する時間も奪われていきます。
 

一度落ちると這い上がれない社会

新卒一括採用の弊害

フリーターの不安定な暮らしや、非正規雇用でワーキングプアに陥る若者の報道などを見て、若者は安定を求めて就活に力を入れます。多くの若者は安定を最優先して大企業や公務員を志望します。しかし中には高望みしすぎて不採用が続き、心が折れてしまう若者もいます。
フリーター、派遣社員の置かれる厳しい状況から、フリーター=負け組、正社員=勝ち組という認識です。

しかし無理をして就職しても厳しいノルマや評価で続かなくなれば、仕事が続かず引きこもりになります。また人員に余裕のない企業は、入社直後からどんどん仕事を与えていきます。
新入社員に過大な業務をさせて長時間残業の挙句、過労で自殺したD社の新入社員Tさん、冷静に考えれば、入社1年目専門知識の限られた新入社員に長時間残業させて、どのようなメリットがあるのでしょうか。
 

実は過大な業務をさせる目的は、以下のいずれかです。

  • ひたすら長時間働けば成果が出るように仕事がシステム化されており、成果が出るようになっている
  • 過大な負荷は体育会系のしごき(いじめ)と同じで、目的は上司に逆らえない従順な社員にすること

 

正社員が続かず引きこもりになると

ひきこもりの体験者によれば、
「ひきこもりは苦しく、土の中に「生き埋め」にされているようで息ができないつらさがある」
そうです。焼かれるような熱さも感じる人もいます。「何とかしたいけど、どうすることもできない」のでもがき苦しんでいる状態です。

図5 引きこもりの状態

図5 引きこもりの状態


 

ひきこもりは生きるエネルギーが枯渇した状態です。生きるエネルギーの源は、安心感、共感、心地よさなどポジティブな感情です。これは少しずつしかたまりません。しかも一度ネガティブなことが起きるとたまったエネルギーが吐き出されてしまいます。

子供たちはもともとエネルギーが多くない上、それまでの家族、学校、会社などとのかかわりの中から、生きるエネルギーを枯渇させられてしまうことが、この原因です。

図6 ポジティブな時とネガティブな時

図6 ポジティブな時とネガティブな時


 

セーフティネットがないことが若者を臆病に

財政学者 神野直彦氏は
「新自由主義者たちはセーフティネットを取り外した上でサーカスの団員たちに綱渡りをしろと言っているようなものだ。セーフティネットがあると彼らはさぼり始め、まじめに演技をしなくなるだろうと主張する。しかし、実際にセーフティネットを外したら、彼らはまじめに演技をするが、命を失うのが怖くて、アクロバットを演じなくなってしまった。」と述べています。
 

現代に対して当てはめて考えれば、低調な起業の問題があります。
日本は、内需は低迷し、企業は冒険的な試みが減少し、低成長に陥っています。国は起業を増やすために様々な取組をしています。しかし失敗した時のセーフティネットがありません。起業して失敗すれば、債務の個人保証(連帯保証人)しているため自己破産しなければいけません。国が本気で起業を増やすなら、このセーフティネットの構築が不可欠です。

若者の正社員志向は強く、しかも社会のセーフティネットがないため、彼らは会社の中で意欲があってもチャレンジできません。失敗して一度フリーターになったら二度と正社員になれないからです。フリーターの貧困、派遣切りなどの社会問題は連日報道されています。そんな状況で、やっと大企業に就職した彼らに、思い切った仕事をしろというのは酷ではないでしょうか。

消費に浮かれていたかつての大学生に比べ、今の大学生は真面目で仕事のやりがいについても考えています。しかし正社員から外れることの怖さからやりがいを追い求めることをためらっています。
 

自己実現を求める

一方、真面目に自己啓発に励む若者たちも多くいます。しかし仕事と自己実現が重なると働きすぎるワーカホリックになります。「本当はひどい仕事を楽しいと思い込むことを酩酊 」と表現します。その酩酊に入れば、全能感でむしろ心地よくなります。そうして若者がブラック企業で酷使されます。しかしそんなハードな日々が続けば、最後には仕事を続けられなくなり、ひきこもることになります。

幻想の中で酩酊して、自分の置かれている厳しい状況から目をそらす、これを政治学者 姜尚中は「ココロ主義」と呼びます。これは内向き志向で、外の世界との関係は断ち切られています。ココロ主義に救いを求めれば、それを満たしてくれる自己啓発本やセミナーに手を出してしまいます。これは「諦念」であり隠れた「自殺願望」でもあります。

ココロ主義の酩酊から抜け出すには、ブラックな会社をやめ、みっともなくていいからコンビニでバイトしてでも生き延びることが必要です。自分の心を呪縛から解き放って、自らの知性で世界と対峙しなければいけません。
 

子供の自主性を重んじるゆとり教育もあり、若者たちは自分のやりたいことを指向します。
かつて多くの若者は自分探しをしてきました。大学を中退したり職を転々としたり……かつて若者は30歳くらいまでは、やりたいこと探し・自分探しでさまよっていても良い存在でした。しかし新卒一括採用の日本はこれを許さなくなっています。しかも大学や民間企業のキャリア教育はこの問題を解決しません。多くの企業は中途採用に対し低く評価しています。
 

親よりも豊かになれない世代

派遣労働者225万人

派遣社員の大幅な増加は、正社員、終身雇用が生んだいびつな社会です。正社員の雇用を守るため、不足する人員は派遣社員でカバーするからです。
これはアメリカが先行して始めた制度で、1970年代に一般事務を派遣社員に切り替えました。しかし派遣社員から正社員の明確な道筋がないのは日本もアメリカも同じです。

不況になると真っ先に仕事を失い、生活が困窮しますが、これに対し社会のセーフティネットが不十分です。派遣社員やフリーターの身分は不安定で、この不安から自暴自棄になった一部の若者が凶悪犯罪を起こしてしまいます。これを防ぐには警備やパトロールを強化するのでなく、セーフティネットを厚くして、不安を和らげることが重要です。その役割として生活保護制度はあまりに貧弱です。

図7 若者の不安

図7 若者の不安


 

自己責任論の問題

人々の「普通に頑張ればなんとかなるはずだ」という思い込みが若者を追い詰めます。就業できないのは「努力が足らない」という前提だからです。そして努力を促すために国は就労支援に多額の予算を投じています。
しかし遺伝的な要因や家庭環境など、本人ではどうにもならないことも多くあります。
 

「働かざるもの食うべからず」
この文言は、本来はレーニンが新約聖書を引き合いに、

労働者を搾取しているブルジョアを批判するため

に使われた言葉です。

しかし今では働けない人を批判するために使われてしまっています。
実は、お金がないためにいやいや働き、十分な収入が得られない人ほど「働かざるもの食うべからず」「ニート死ね」と批判します。
 

この頑張ればなんとかなるという考え方は「団塊の世代ががむしゃらに働いて日本が豊かになった」というところから来ています。実はこれは幻想です。高度成長は、たまたま日本に1億の人口による安価な労働力があり、欧米の先端技術を導入し、他国と海を隔てた地理的要因から紛争がないなどの要因が重なった結果なのです。
 

社会の変化に適応できないのはどちらか

変えるべきは若者か、会社・組織か?

子供はいつの時代も最先端で、社会の変化を示しています。
ある作業をニートに頼んだら「仕事になるから嫌です」と労働を拒否しました。つまり
無償でやるのは楽しいが報酬が生まれると楽しくないから拒否する
という価値観です。
 

ニートの価値観

「仕事なんて命に比べたらどうでもいい。人間は仕事のために生きているわけじゃないし、仕事なんて人生を豊かするための手段に過ぎない」
つまり、仕事をすることで多くを失い人生がつまらなくなるのであれば仕事をしなくてもいいと考えています。
それには「いろんなことを諦めなければならないが、それは構わない」とも思っています。まさに

「会社中心の社会の終わり」です。

 

一方、ニートにも必要な向上心があります。それは
「先にある楽しみなことに向けて自分で何かを行動する力」で、これがあれば楽しく過ごせます。

楽しみが全くないとひたすら憂鬱になります。そうなると、そこから逃れるために、酒を飲む、自殺するなど、自暴自棄になっていきます。

こういった価値観の若者たちと共存するのに必要なのはなんでしようか。
変えるべきは若者でしょうか、組織でしょうか。
 

仕事は変化し、20世紀型の労働は減少、こういった作業はロボットやITが行うようになりました。労働時間も減少し、長時間会社に縛り付ける必要はなくなります。その分収入も減るかもしれませんが、そもそもこれまでのホワイトカラーの長時間労働は、生産性はそれほど高くありません。

ある経営者は、命令(指示)すれば、人は動くと考えます。正しく指示すれば成果が得られると思っています。だから社員を「一度自衛隊に入れろ」という発想が出ます。欲しいのは指示・命令を忠実にこなすロボットのような人材です。だから何も知らない若者を一から教育して自社の文化に染め上げる新卒一括採用にこだわります。

しかしこれからの時代は、横並びでライバルと同じことをしていては生き残れなくなっていきます。グーグルは「卓越した人材」に「卓越した成果」を求めます。
上司の指示に部下が心から応答できず、「つべこべ言わずやれっ!」と罵られ、しかも失敗すればフリーターに転落する恐怖を背負わされた若者たちに「卓越した成果」は出せるのでしょうか?
21世紀型価値観が主流になるのであれば、彼らに合わせた組織、仕事の進め方にした方が生産性は上がるのではないでしょうか。
 

イタリア型の幸福感

【イタリア人「遊ぶために仕事をする」】

イタリア人は、仕事のために私生活を犠牲にしない気質と言われています。
財布をすられたあるイタリア人は「本当にお金が必要な人が持っていったんだからいいだろう」と言いました。

イタリア人は「自分が凡人であることを知る偉大な国民」といわれています。であれば、自己実現や酩酊とは無縁でいられます。
イタリアの諺に「神様以外、人間はみな障害者」というものがあります。人間は長所と短所を兼ね備えた出来損ない同士、だから仕事に完璧を求めず、もっといい加減でもいいとさえ思っています。力を抜いて生きることが必要かもしれません。

図8 時々は力を抜いて仕事をしてみる

図8 時々は力を抜いて仕事をしてみる


 

【働かなくても生きていていい】

都会では午前中から居酒屋で酒飲んでいる中年男性が多く存在しています。「ぶらぶらしている大人は結構たくさんいる」と感じるほどです。
本当は、人は働かなくても生きていていいのです。

役に立たないことをしている人が増えれば、世界はもっと豊かになります。

ダーウィンは裕福な家の生まれで終生父親の遺産で生活し働く必要がありませんでした。
 

創作活動では作家の死後、作品が広く知られることも多くあります。アメリカの小説家エドガー・アラン・ポーは、作品自体は雑誌や文芸批評で当時評価されていましたが、生前作家としてはほとんど評価されませんでした。しかもバクチ狂いで女性関係のトラブルが絶えず、昼間から泥酔して仕事に来ないなどの多くの問題を起こしていました。

「変身」「城」などシュールな作品で知られるフランツ・カフカも、保健局に勤めながら執筆を続けていました。生前に出版した7冊はそれほど売れず、40歳でこの世を去りました。作品が広く知られたのは死後でした。

ある人の遺したものが本当に優れたものかどうか、我々自身もわからないのです。
 

「働くこと」は「他人の役に立つこと」と考えれば、お金を稼がなくても他人の役に立てば、それは労働です。実際、実用的なものばかりだと息が詰まってしまいます。無駄に見えるものも必要なのです。
無駄がたくさんあり、世界が多様で混沌であれば、その中から今までにないものが生まれます。プログラマの場合、怠惰は美徳です。プログラマの三大美徳は怠惰、短気、傲慢だそうです。

生きる意味を失っているニートたちにNPO法人ニュー・スタートの二神氏は

  • 自立なんかする必要ない
  • 他人にもたれあって生きろ
  • 人生に目的なんか必要ない。ただの人として楽しく生きろ

と説いています。

  • 自分の能力を発揮してバリバリやる

このような自己中心的考え方は、組織の中で軋轢を生みます。下手をすると組織を自分の都合よいものに変えてしまい、大きな問題を起こしてしまいます。

  • 自分はそんなに大したことはできないかもしれないけれど、そういう自分も安心できる場所があったらいいな

そういう人が多数いる社会は間違いなく今よりも豊かな社会です。むしろ社会がこれを受け入れられるかどうかが大きな問題です。
 

参考文献

「ニートがひらく幸福社会ニッポン」二神能基 著 赤石書店
「ハタチの原点」 阿部真大 著 筑摩書房
「ニートの歩き方」pha(ファ) 著 技術評論社
「半径1メートルの想像力」 山崎鎮親 著 旬報社
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多くの人は、当たり前のように「空気を読み」、指示されなくても「空気」に従い行います。

時には、これが企業不祥事やパワハラの一因になります。

この空気の正体は何でしょうか。

「組織に存在する『空気』とは何か?その1」~空気による支配と誤った意思決定を考える~ では、空気が支配する前提と組織における同調圧力、そして空気に水を差す行為について、述べました。

ここでは、空気をもたらす文化的背景と、空気の弊害、空気を打破する方法について考えました。
 

空気を生み出す背景

空気をつくりだす我々日本人の文化の根底には、どのようなものがあるのでしょうか?

その背景は何でしょうか?
 

日本社会と日本教

「空気の研究」の著者 山本七平氏は「無宗教の日本では、その集団内のみ通じる日本教のようなものがある」と述べています。その根底には「人間は、自分がこうすれば相手もこうするものだ」という信仰があります。キリスト教徒が神に従うとすれば、日本人は「世間」「人さま」に従うのです。

これは日本人に普遍的なもので、日本教ともいえます。ただしこの世間は自分が所属する集団内に限定されます。

この日本教は、農村集団や工業社会で都合がよいものでした。しかし軍隊のように戦争に勝つことが目的の組織では勝利よりも組織内の人間関係の方が重視され、面子や前例主義がはびこるというデメリットがあります。それでも日本は、海に囲まれ他国から侵略されることが少ないため、こうした組織運営でもやっていけました。
 

これが中東や西欧のような国同士が地続きでつながり、絶えず争い、滅ぼしたり滅ぼされたりする日常の世界では、そうはいきません。意思決定は「自らの集団と構成員の存続をかけたもの」だからです。かつての中東や西欧で、国の意思決定をその場の「空気」で決めていれば、とっくに滅ぼされています。

また日本は国土の17%しか農地がなく、降雨量は豊富ですが地形が急峻なため、ため池などで水を貯め、水路を張り巡らさなければ稲作ができません。こういったことから江戸時代まで田は各自のものでなく、村の共同所有物でした。こういった共同体では、村人相互の協力がなければ社会が成り立ちません。秩序を乱せば村八分にされますが、農村社会で村八分にされれば餓死してしまいます。

この村落は疑似家族ともいえる強力なコミュニティです。逆に他者には冷淡でした。よそ者を排除する文化が今も残る地方もあります。ある地域では、そこに移住して3代を経っても「よそから来た人」と呼ばれます。
 

こういった閉鎖的な集団の特徴として、集団の中だけで通じる言葉があります。集団固有の言葉を理解できて初めて仲間として受け入れられるのです。今でも企業では、他では通じない我が社固有の社語があります。この社語を使いこなせて初めて仲間と認められます。
 

平等と横並び文化

江戸時代以前は、身分制度はなく人々は平等でした。しかしそれでは統治するのに不便なため、徳川幕府は士農工商の制度を制定しで身分を固定しました。

実は徳川幕府が統治する範囲は全国の1/4に過ぎず、他は各藩が統治していました。各藩は独自の軍隊を持ち徴税を行いました。このように幕府の地位は不安定なため、徳川幕府は、身分制度で権力を武士に集中する一方、富は商人に集中させ、幕府に抵抗する各藩には富と権力が一緒にならないようにしました。

幕府内部でも特定の家臣に権力が集中しないように、地位の高い老中は石高が低く(富が少なく)、その選出は譜代大名から月番制で行われました。一方地位は低いが実務力が必要な与力、同心などは、石高が高く(富が多く)なっていました。彼らも月番制でお互いがお互いをチェックする仕組みになっていました。
 

このように徳川幕府は「名誉価値」「権力価値」「富価値」の3つに力を分散し、日本型デモクラシーと呼べるようなシステムで統治しました。このような仕組みは、海外からの侵略がなく、「国を挙げて生きるか死ぬかという決断の必要がない時代」はうまくいったのです。
 

空気をつくるもの

空気=ムード

と考えれば、このムードをつくるのはマスコミです。

マスコミが取り上げる言葉が空気をつくります。そして言葉は、現実を固定化します。

例えば「満州は日本の生命線」と言えば、満州から撤退できなくなります。言葉は異論を封じ、他の選択肢を排除してしまいます。

日露戦争の時、日本海海戦、旅順陥落の結果を受けて外務大臣の小村寿太郎は渡米しロシアとの講和条約に臨みました。当時新聞は日本は「戦争に勝った」と報道しました。先の日清戦争で清から多額の賠償金を認めさせた経験もあり、ロシアからも賠償金が取れるような報道をしました。
 

現実は、日露戦争は局地的な勝利でしかなく、ロシアは負けたと思っていませんでした。必要ならば、さらに大軍を派遣できました。対して、日本はそもそも戦争に必要な資材を外国から買うための外貨が少なく、高橋是清がロックフェラー財団に日本の国債を引き受けてもらいやっと外貨を確保できました。それもすでに尽きてしまい、前線では大砲の弾も底をついていたのです。その中でのロシアとの和平交渉は、かなりタフなものでした。賠償金など望むべくもなかったのです。

しかし誤った報道の戦勝ムードで盛り上がった国民は、賠償金が取れないと分かったため、暴動が起きました。

図4 日比谷の決起集会(Wikipediaより)

図4 日比谷の決起集会(Wikipediaより)

集団だと狂暴化する日本人

多くの日本人は、欧米人のように神との関係における「絶対的正義」を持ちません。そのため倫理規範が、その場の状況に応じて変わります(状況倫理) 。加えて社会全体に共通する社会正義もないため、閉ざされた集団では欧米と比べいじめや強い暴力が起きやすいのです。これは日本陸海軍の新兵への暴力や運動部のしごきなどにみられます。最近でも入国管理局で不法滞在者に対し、人権を無視した行為が話題になりました。

日本の集団が人権を無視したいじめや暴力に陥るのは、下記の3点が当てはまる場合です。

  • 集団が隔離され、共同体の前提(空気)が管理されていない
  • リーダーからお墨付きを得た
  • 共同体間で共有されるべき社会的正義がない

軍隊は、この3点がすべて当てはまります。アメリカや韓国の軍隊でも新兵は容赦なくいじめや暴力にさらされますが、日本軍の暴力は凄惨でした。

山口盈文氏は、昭和19年14歳で満蒙開拓少年義勇軍として満州に渡りました。そこで日本軍に徴用され、日本軍に加わりました。そこで見たのは、仲間内でのひどいリンチでした。ある兵士は木につるされ、さんざんリンチを受けたため死んでしまいました。
山口氏のいた八路軍では、同僚に対するリンチはありませんでした。氏の著作「僕は八路軍の少年兵だった」には、山口氏の見た日本軍と八路軍の対比が書かれています。
 

組織における空気の問題

不祥事が頻発する

終身雇用と年功序列賃金制度のため転職が容易でなく、同質な集団の日本企業には、空気がもたらす強い同調圧力があります。経営者が無理な目標を設定しても「できない」とは言えません。そしてつじつまを合わせるために、法規制を違反したりデータを改ざんしたりします。こうして組織は自ら不祥事を起こしてしまいます。

図5 起きてしまう不祥事

事業部に高い目標を立てさせ、達成できないと「チャレンジ!」と強要され、粉飾決算に走った東芝、経営層がライバルを下回る燃費を認めずデータを改ざんした三菱自動車、不正なソフトウェアを組み込んだフォルクスワーゲン、45分車検を達成するため、法令に背いて点検項目を省略したトヨタの販売店など、快挙にいとまがありません。
 

空気が誤った意思決定を導く

空気で意思決定する問題は、

うまくいかなかった時の代替案がない

ことです。

順調な時は良いのですが、一度うまくいかなくなると、どうしていいのか分からなくなります。

高山の頂上や崖から飛び降り、急斜面を滑走するエキストリームスキーヤー、彼らは命知らずの無謀な連中に見えます。しかし彼らは崖から飛び降りる時も

  • 「うまくいった場合どうするか」プランAと、
  • 「思った通りに行かず失敗した場合どうするか」プランB

を必ず持っています。

新型コロナウイルス感染症では、ニュージーランド政府は感染のステージに応じて、段階的にどのように対策をするのか事前に決めていました。一方日本では緊急事態宣言以上の感染防止策を検討されず、必要な法整備も不十分でした。
 

空気による決定は無責任

リーダーには、空気をつかって自分に有利な決定に導くタイプもいます。議論の中で「あれもダメ」「これもダメ」と反対して、議論の空気を自分に有利な方向に誘導するのです。
そして現実の一部を隠蔽し、ある種の前提を掲げて、自分に都合の良い結論に誘導します。しかし

決定を下したのは空気であり、責任者はいません。

そして健全な法に従った方法はわきに押しやられてしまいます。これが企業不祥事となります。多くは組織的に行われるため、誰かが「こんなことをすれば大変なことになる」と思っても、それを言えない空気ができています。
 

情報不足が空気をつくる

正しい意思決定には、現場からの十分な情報が不可欠です。ところがかつて日本のリーダー達は、現場の情報をないがしろにしていました。そのため情報不足から誤った意思決定を行いました。
 

日本陸軍は、伝統的にソ連を仮想敵国としていました。戦術の研究や兵士の訓練で想定していたのは満州やモンゴルの平原でした。その陸軍が新兵教育の訓練教程での敵をソ連からアメリカに変更したのは、開戦から2年近く経った1943年8月でした。それまで陸軍は南方のジャングルでの戦闘を想定した教育を全く行っていませんでした。
 

陸軍士官としてフィリピンの戦場にいた山本七平氏の陣地の前に大陸から派遣された1個師団が上陸しました。砲兵隊の指揮官が山本氏に「馬を徴用したいがどこかにいないか」と聞きました。フィリピンでは暑さに弱い馬は飼われてなく、農耕に使われるのは水牛だけでした。水牛は定期的に水に浸けないと暑さで死んでしまうため砲車を引くのは無理でした。砲兵たちは熱帯のフィリピンで人力で砲車を牽くしかありませんでした。

日本は、占領したフィリピン統治でも失敗しました。厳格なカトリック教徒の多いフィリピンでは、人前で怒鳴ったり殴つたりすることは彼らの自尊心をひどく傷つけます。こうしてもともとは反米だったフィリピン人を反日にしてしまいました。彼らは抗日ゲリラを陰で支援しました。
 

日本軍のリーダーには、現場をあまり見なかったリーダーが多かったようです。戦後、山本氏が会った連隊長は、自分の部隊で日夜リンチが行われていたことを全く知りませんでした。あれだけ凄惨なリンチが毎夜行われていたのだから、兵舎を回っていれば顔を腫らした兵隊などが見つかるはずでした。連隊長は部隊内を歩き回って自分の目で見ようとはしなかったのです。

本部で作戦を立ててい高級参謀も現場をわかっていませんでした。フィリピンではある師団は、米軍の上陸直前に急に作戦が変更され移動命令を受けました。せっかく構築した陣地を捨て、パレテ峠への移動を命じられた師団は、移動中に空から米軍の攻撃を受けて大損害を出しました。
 

連合軍総司令官のアイゼンハワー大将は、総司令官にもかかわらず現場をこまめに見て回りました。そして兵士に規定通りキャンディーやタバコが支給されているかまで気を配りました。指揮官は、自分に任された組織の実情を常に把握していなければならないと考えていました。階級社会の欧米では、支配階級たるリーダーは、配下の部下や組織を適切に管理して、最大の成果を上げなければならないという考えが浸透していました。

しかし平等社会だった日本では、そういった支配階級の意識を持った人材がいない上に、こうしたリーダーとしての教育も不十分でした。
 

責任感の欠如と組織の存続が目的になる

空気で物事を決定すれば責任をとる者はいません。失敗しても責任を問われません。そのため日本軍は強い組織に欠かせない信賞必罰がありませんでした。これは勝つことが最大の使命である軍隊にとって致命的でした。

第二次大戦のソ連軍では厳しい信賞必罰が常識でした。スターリンから全権を委任されていた司令官ゲオルギー・ジューコフは、ある師団の前進速度が不十分だったため、師団長を即解任し懲罰大隊へ送りました。
 

しかし日本軍はリーダーが作戦に失敗しても降格がありませんでした。そして海軍兵学校の卒業序列(ハンモックナンバーと呼ばれ除隊するまでついて回る)に従って昇進しました。最後の海軍大将となった井上成美氏は戦闘では失敗ばかりでした。逆にガダルカナル戦で駆逐艦隊を指揮して米軍と渡り合い、アメリカ軍からも恐れられていた田中頼三少将は、ガダルカナル戦の途中で後方へ移動させられました。日本軍では、アメリカ軍も一目置く勇気と決断力のあるリーダーは、同僚の昇進など内部事情で第一線を離れ、勉強はできるが指揮能力の低いリーダーが部隊を指揮していたのです。
 

昭和19年陸軍は、米軍のフィリピン攻略を前に兵力の大幅な増強を計画しました。そして台湾から多数の兵士を送りました。しかし彼らの乗った輸送船の多くがアメリカ軍の潜水艦に沈められ、犠牲者は10万人にも上りました。

この輸送船でフィリピンに渡った山本七平氏は、立つこともできない天井の低い船室に、畳1枚のスペースに5名が押し込まれた状況について、人間に対しここまで過酷な仕打ちはないとまで語っていました。その多くがアメリカの潜水艦に沈められ、山本氏はこれを自動殺人装置と呼びました。

実はこれを計画した陸軍自身「3割着けば成功」と考えていました。7割は喪失する前提でした。たとえ無事についたても、銃も弾薬もなく、できるのは米軍の空襲や砲撃の中でジャングルの中を逃げまどうだけでした。そして多くの兵士が餓死しました。

すでに陸軍は現実感を失い、効果も考えず、ただ決まったことを行っているにすぎませんでした。

 

日本の組織に存在する空気の弊害

日本の終身雇用や年功序列賃金制度は、内部に強固な空気を醸成します。しかも新卒一括採用のため転職は容易でなく、多くの社員は不満があっても組織にとどまります。こうした組織は空気に逆らうことを許さない「出る杭は打たれる」集団になってしまいます。

図6 出る杭は打たれる日本の社会

図6 出る杭は打たれる日本の社会

こういった集団は保守的で変化には逆らう傾向があります。これまでのバブル崩壊や、リーマンショックのような変化に対し、金融円滑化法、雇用調整助成金、政府金融(日本政策金融公庫、商工組合中央金庫)、信用保証協会など国は多くの救済措置を提供しました。これにより倒産を減らして社会の混乱を防いだ一方、非効率な企業を延命し変化を抑えてきました。

しかし、こういった従来の日本型福祉社会は限界に達しようとしているかもしれません。変化を抑圧しても社会の潜在的な変化はなくなっていないからです。むしろ変化を抑えたことでバブル崩壊のような破局的な悲劇が発生してしまうかもしれません。
 

「ブラックスワン」の著者ナシム・ニコラス・タレブはこういった日本人の習性を「小さなボラリティ(変動)を避けようとして大きな破滅を招く」と評しました。さらに

「日本人は小さな失敗を厳しく罰するので、人々は小さくてよく起こる失敗を減らし、大きくて稀な失敗を無視する」

と述べています。
 

空気を打破する方法

空気を打破する方法として鈴木博毅氏は以下の4つの方法を提唱しています。

  1. 空気の相対化
  2. 劇場の破壊
  3. 思考の自由
  4. 根本主義

 

「空気の相対化」とは、隠れた前提を見抜くことです。空気がもたらす前提には、組織を主導するものにとって都合の悪いことが隠れていることがあります。「大和を敵に拿捕されないために3,700人の命を犠牲にする」、「命令できない特攻を作戦化する」、こういった前提を具現化すれば、正しい結論が見えてきます。

「劇場の破壊」とは、閉鎖された組織、空間を破壊することです。閉鎖された空間で醸成された空気は、強い同調圧力になります。その空間を開放し、課題を公開します。そして外部からの自由闊達な議論を行います。あるいは自分がこういった閉鎖的な集団から抜けます。

「思考の自由」とは、思考を束縛するしがらみを断ち切ることです。過去の延長線上でなく自由に考えます。

インテルの元CEOアンディグローブは、半導体メモリー事業が不振に陥った時「僕らがお払い箱になって、取締役会が新しいCEOを連れてきたら、そいつは何をするだろう」と考えメモリー事業からの撤退を決断しました。

「根本主義」とは、最も譲れないことは何か、その1点にフォーカスすることです。そうすることである種の前提や前例からの縛りから考えを解き放つことができます。
 

【この状況で何ができるかを考え、空気を打破した美濃部少佐】
大戦中、海軍の美濃部少佐は芙蓉部隊を指揮して沖縄の米軍へ夜間攻撃を続けました。そして特攻を拒否し続けました。彼は水上偵察機の乗組員が高い夜間飛行能力を持っていることに着目し、終戦まで特攻でなく、夜間に通常攻撃をすることを主張しました。『特攻拒否の異色集団彗星夜襲隊』渡辺洋二著には以下のように書かれています。
 

<以下一部引用>
航空参謀「次期沖縄作戦には、教育部隊を閉鎖して練習機を含め全員特攻編成とします。訓練に使用しうる燃料は一人あて月15時間しかないのです。」
美濃部「フィリピンでは敵は300機の直衛戦闘機を配備しました。こんども同じでしょう。劣速の練習機まで駆り出しても、十重二十重のグラマンの防御陣を突破することは不可能です。特攻のかけ声ばかりでは勝てるとは思えません」
航空参謀「必死尽忠の士が空をおおって進撃するとき、何者がこれをさえぎるか!第一線の少壮士官がなにを言うか!」
中略
美濃部「ここに居合わす方々は指揮官、幕僚であって、みずから突入する人がいません。必死尽忠と言葉は勇ましいことをおっしゃるが、敵の弾幕をどれだけくぐったというのです?失礼ながら私は、回数だけでも皆さんの誰よりも多く突入してきました。今の戦局にあなた方指揮官みずからが死を賭しておいでなのか?」
「飛行機の不足を特攻戦法の理由の一つにあげておられるが、先の機動部隊来襲のおり、分散擬装を怠って列線に並べたまま、いたずらに焼かれた部隊が多いではないですか。また、燃料不足で訓練が思うにまかせず、搭乗員の練度低下を理由の一つにしておいでだが、指導上の創意工夫が足りないのではないですか。私のところでは、飛行時間200時間の零戦操縦員も、みな夜間洋上進撃が可能です。全員が死を覚悟で教育し、教育されれば、敵戦闘機群のなかにあえなく落とされるようなことなく、敵に肉薄し死出の旅路を飾れます」
中略
美濃部「劣速の練習機が昼間に何千機進撃しようと、グラマンにかかってはバッタのごとく落とされます。2,000機の練習機を特攻に駆り出す前に赤トンボまで出して成算があるというのなら、ここにいらっしゃる方々が、それに乗って攻撃してみるといいでしょう。私が零戦一機で全部、撃ち落としてみせます!」

この会話に空気を打破し現実の問題を解決する思考方法のヒントがあるのではないでしょうか。
 

【空気よりカネ勘定】
空気の作り出す前提の多くには、一部の者にとって不都合な現実があります。それを美辞麗句で覆うことで現実を見えなくするのです。見たくない現実を直視し、誤った判断を避けるためには、感情に惑わされず冷静にカネ勘定・損得判断をすることです。

  • 敵になんの打撃も与えることなく、3,700人の命と戦艦を失うことの損得
  • 敵戦闘機の大群に、未熟なパイロットの乗った旧式機の特攻を出すことの損得
  • 原発の事故の発生確率と被害金額、原発の発電コストと使用済み燃料の処理コストと将来の廃炉費用

こういった問題の発生確率と、生じる損失を経済的に評価するのがリスクマネジメントです。つまりリスクをコントロールする手法です。
 

【感情を切り離さなければ正しい判断はできない】
こうした冷静な意思決定を阻害するのは感情です。今までにかかった費用、努力(いわゆる埋没費用(サンクコスト))に固執してしまいます。

先の戦争は310万人(軍人・軍属が230万人、民間人が80万人)の方が亡くなりました。その9割は1944年以降の戦争末期でした。1944年2月米軍のフィリピン上陸を前に近衛文麿は天皇に早期終戦を主張(近衛奏上文)しました。しかし天皇は「もう一度戦果を上げてからではないと難しい」と拒否しました。すでに戦況を好転できる材料はありませんでした。しかし無条件降伏以外アメリカとの講和はなく、無条件降伏を受け入れる感情的な素地は、まだ国民や軍にはありませんでした。

1945年8月9日に広島に原爆が投下され、ソ連が参戦した後に開かれた御前会議でも、陸軍は本土決戦を主張していました。この時点で重臣の賛否は半々でした。本来「戦争は外交の一手段」なのですが、戦争終結のシナリオがないまま始めてしまった戦争に対し、現実感を喪失した当時のリーダーに損得判断は不可能でした。
 

空気が固定化されると他の選択肢は見えなってしまいます。そうなると問題解決力が低下します。

そして現実を無視して、前提通りに進めようとする強硬派が幅を利かせます。

その背後で問題は進行し肥大していきます。問題はある時破綻し大きな悲劇になります。ようやく前提が間違っていたことに強硬派は気づきますが、もうどうすることもできません。冷静な解決策を失って「やぶれかぶれ」になります。赤とんぼで特攻を行うと言った海軍首脳、本土決戦を主張した陸軍がそうでした。
 

そうならないようにするためには、この空気の打破をしなければいけません。それは正しい理論とデータから論理的に結論を導くことです。この

「厳粛な事実」

には精神論の入る余地はありません。

本来ものづくりに関わる技術者は、こういった考え方は持っています。正しい論理に従えば、赤とんぼがグラマンから撃墜されるのは逃れられないし、戦艦大和は沖縄にたどり着けません。その事実を認めたうえで、最善の方法を模索すれば、美濃部少佐のように特攻以外の方法も出てきます。これが思考停止の呪縛から逃れ、知性を回復させる方法です。
 

ただし空気や水は過去から現在までの結果です。未来を切り開こうとする時、空気も水もないかもしれません。革新的な企業は、空気も水も気に留めず「そんなことは無理だ」と言われたことを実行してきました。

空気を破り水の呪縛を解き放つために、山本氏は

「『これより先に行くな』というタブーを打ち破り未来へと大胆に進むことが大切」

と述べています。
 

参考文献

「『空気』の研究」 山本七平 著 文藝春秋
「『超』入門 空気の研究」 鈴木博毅 著 ダイヤモンド社
「『空気』の構造」 池田信夫 著 白水社
「慮人日記」小松真一 著 ちくま学芸文庫
「下級将校の見た帝国陸軍」 山本七平 著 朝日新聞社
「日本人と組織」 山本七平 著 角川ワンテーマ
「特攻拒否の異色集団彗星夜襲隊」 渡辺洋二著 光人社NF文庫

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「空気を読む」を辞書で引くと

「『その場の雰囲気を察すること、暗黙のうちに要求されていることを把握して履行すること』などを意味する表現」

とあります。(実用日本語表現辞典より)
 私たちの多くは、この「空気を読む」ということを当たり前のように行い、空気を読まない人はネガティブな意味で「KY」と呼ばれます。

我々は指示されないことでも「空気」に従い進んで行ってしまいます。時にはこれが企業不祥事やパワハラの一因にもなります。

この空気の正体は、何でしょうか。

そして

空気はなぜ存在するのか、

どうしたら空気を打破できるのか

考えました。
 

戦前から日本を支配した空気

1945年4月沖縄に上陸した米軍を攻撃すべく、戦艦大和は片道分の燃料しか積まずに出撃しました。当時、戦艦といえども航空機の援護なしでは、アメリカ軍の艦載機の攻撃に耐えることはできませんでした。つまり、この作戦は100%失敗する作戦でした。大和を擁する第二艦隊司令官 伊藤整一中将は、この作戦に強く反対しました。しかし最終的に彼が命令に従った根拠は「空気」でした。

図1 米軍機の攻撃を受ける戦艦大和 (Wikipediaより)

図1 米軍機の攻撃を受ける戦艦大和 (Wikipediaより)

1944年10月関行男大尉率いる24名の最初の神風特別攻撃隊が、レイテ沖のアメリカの護衛空母群を攻撃し、空母「セント・ロー」は沈没しました。この特攻作戦を主導した大西瀧治郎中将は、終戦後、特攻作戦の責任を取って割腹自殺しました。この特攻作戦は大西中将が発案したように戦史に書かれています。しかし、当時の海軍は、すでに軍令部の主導で人間魚雷「回天」、人間爆弾「桜花」など体当りを前提とした特攻兵器を開発していました。

「体当り攻撃」は海軍の既定路線だった

のです。しかし海軍は、100%生還の見込みのない自殺攻撃の命令を出すことはできませんでした。特攻は、あくまで隊員の志願でなければいけませんでした。そして

隊員たちが「志願」したのも空気

でした。この空気について「空気の研究」の著者 山本七平氏は

「『空気』とはまことに多くの絶対権をもった妖怪である。(中略)こうなると統計も資料も分析も、またそれに類する科学的手段や論理的論証も、一切は無駄であって、そういうものをいかに精緻に組み立てておいても、いざというときは、それらが一切消しとんで、すべてが『空気』に決定されるかも知れぬ。」

と述べています。
そして

「もし日本が、再び破滅へと突入していくなら、それを突入させていくものは戦艦大和の場合の如く『空気』であり、破滅の後にもし名目的責任者がその理由を問われたら、同じように『あのときは、ああせざるを得なかった』と答えるであろう」

と語りました。
 

図2 山本七平氏(Wikipediaより)

図2 在りし日の山本七平氏(Wikipediaより)


 

空気とは何か

それでは、「空気」とは一体何なのでしょうか。

この空気は、「『超』入門 空気の研究」の著者 鈴木博毅氏によれば、

「空気はある種の前提」

です。この前提が
「この境界からはみ出すな」
という強い圧力をかけて「場の空気」をつくります。では「場の空気」とは何でしょうか。

場の空気とはWikipediaによれば、

「日本における、その場の様子や社会的雰囲気を表す言葉。とくにコミュニケーションの場において、対人関係や社会集団の状況における情緒的関係や力関係、利害関係など言語では明示的に表現されていない(もしくは表現が忌避されている)関係性の諸要素のことなどを示す日本語の慣用句である。近年の日本社会においては、いわゆる「KY語」と称する俗語が流行語となって以来、様々な意味を込めて用いられるようになっている。」
(Wikipediaより)

「場の空気」は具体的な言葉になっていない場合も多く、戦艦大和の場合
「このまま日本が敗戦すれば、大和はアメリカに接収され、自沈させられる。そんな恥をさらすことはできない」
という前提でした。論理的、経済的に考えれば、効果のない作戦で3700名の命を失うより、自沈した方が損失は軽微なのですが。(しかもこの作戦で大和以外に、軽巡洋艦矢作と駆逐艦5隻も失いました。)

こうした暗黙の前提は、

人々の現実への理解や行動を規制し、他の選択肢を奪います。

そして空気が組織を支配すると、組織のメンバーは、命じられていなくても「空気 = 前提」に従い行動します。しかもこの前提は絶対化されているため、反論は許されません。
 

それを象徴する言葉が

「やるしかない」「他に道はない」

です。もしリーダーがこう言い始めたら危険な兆候かもしれません。なぜなら、こうして前提は、他の選択肢を排除し、不都合な真実を隠蔽してしまうからです。
 

鴻上 尚史氏の著作「不死身の特攻兵」で、陸軍の飛行兵 佐々木友次氏は、特攻に9回出撃して9回生還しました。なぜ特攻に出撃して生きて帰ってきたのでしょうか?
 
飛行機が爆弾を抱いて船に体当たりしても、爆弾の速度は低く、爆弾は甲板を貫通できないため、致命傷を与えることはできないのです。途中で爆弾を切り離して落下させた方が爆弾の速度が速くなり相手に大きなダメージを与えることができます。つまり通常の急降下爆撃の方が効果は高かったのです。

そこで佐々木氏の上官 岩本隊長は、密に爆弾を切り離す装置を特攻機に追加し、佐々木氏をはじめとした部下に、特攻で出撃しても爆弾を切り離して急降下爆撃を行い、帰ってくるように指導しました。しかし残念ながら岩本隊長は、移動中に敵の戦闘機に襲われ戦死してしまいました。

新たな上官の下、佐々木氏は特攻に出撃しました。そして爆弾を投下し敵の船に命中させ、大打撃を与えた後、機体は不時着しました。佐々木氏が帰ってきたとき、送り出した上官にとって

これは、前提から外れた不都合なこと

でした。佐々木にはすでに戦死の公報も出ていました。

上官にとっては、敵に打撃を与え戦果を挙げることは、問題ではなかったのです。特攻に行った者が死んでいないことが問題でした。

上官は、佐々木氏に対し厳しい叱責をしました。

「きさま、それほど命が惜しいのか、腰抜けめ!」
中略
「明日にでも出撃したら絶対に帰ってくるな。必ず死んで来い」

「不死身の特攻兵」で、上官の言葉はこのように書かれています。
 

このように「前提」は、集団にとって都合の悪いことを隠し、前提に従わない者に対し、嫌がらせをはじめとした徹底的な攻撃・圧力を加えます。これが

空気がもたらす同調圧力です。

山本氏は、これを「臨在感的把握」と呼びました。臨在感について前述の鈴木博毅氏は「臨在感は、因果関係の推察が、恐れや救済などの感情と結びついたものだ」と述べています。つまり、日本人は問題が起きた時、

感情に強く影響されて過剰に反応する

のです。こういった反応は欧米にも見られますが、日本人は顕著に表れます。
 

例えば、BSE問題(牛海綿状脳症)が起きた時もそうでした。ヨーロッパで発症した人は、発症した牛の脳を食べた人でした。発症した牛の肉を食べて発症した事例は、一切ありませんでした。

しかし日本では「牛肉が怖い」という空気が生まれました。感染した牛が見つかる度にマスコミは大々的に報道し、人々は牛肉の消費を控えました。2001年に農林水産省は、食用牛の全頭検査まで導入しました。
 

この臨在感を掌握すれば、日本の大衆の意思をコントロールできてしまいます。戦前、読売、毎日など大手の新聞は、日中戦争の記事を勇ましく書き、国民は熱狂しました。毎日新聞の記者は、ある兵士の中国での百人斬りの記事を掲載しました。実は記事は、記者が勝手に創作したものでした。しかし記事に名前を載せられた兵士は、戦後、戦犯として処刑されました。

バブル崩壊後、マスコミは、銀行の過剰融資や証券会社の損失補填を非難しました。この空気は、国が銀行へ公的資金を投入する判断の遅れにつながり、失われた20年の一因にもなりました。本来は、いち早く公的資金を投入し、企業への資金供給の円滑化を図るべきでした。しかし、バブルを引き起こした金融機関に対する公的資金の投入は、それを許さない空気になっていました。
 

空気のプラス面とマイナス面

一方、この空気は、プラスの面もあります。
 

【プラス面】

  • 決定に時間がかかるが、空気で決定すれば反論は封じられ、集団で行動する
  • 日本企業は決定までは時間がかかりますが、方針が決定すれば、全員が協力して迅速に取り組みます。対してアメリカのGMは、トップが方針を決定しても、エンジン部門、シャーシー部門がそれぞれの主張を繰り返すため、開発がなかなか進みません。 

  • 意思決定がボトムアップで行われる
  • ボトムアップなので、空気に従ってメンバー全員が一致して行動します。

 

【マイナス面】

  • 思考停止状態になり、他の選択肢が考えられなくなる
  • 真実を歪曲する
  • もともと相対的な事象を絶対化することは、ある意味まやかしです。嘘が生まれ、現実が見えなくなります。例えば国は「原発は絶対安全」と言います。しかしどんなプラントでもリスクはゼロではありえません。「絶対安全」なものは世の中には存在しないのです。それを絶対安全と言ってしまったため、小さなリスクや問題も公表できなくなってしまいました。

  • タテマエで物事が進む
  • 山本七平氏が部隊に配属されて驚いたのは、タテマエと実態の乖離でした。1師団3個連隊、1個連隊3個大隊のはずの師団構成は、1個連隊が欠(つまり2個連隊しかない)、しかも1個連隊の中でも1個大隊が欠でした。つまりタテマエの上では師団(3個連隊、9個大隊)であっても、実際は(2個連隊、4個大隊)と、タテマエの半分以下、戦力は大幅に低かったのです。困ったのは、タテマエ上は1個師団なので、作戦はそれを前提に立てられてしまうことでした。

  • 誤った意思決定
  • 「可能か不可能か」「是か非か」の区別がなくなる。その結果、たとえ不可能なことでも、「やるべき」「やるしかない」と邁進する。

  • 強い同調圧力、異論は許さない
  • かつてのような工業製品を大量生産する組織は、空気による支配は都合がよいものでした。高度成長期は、これまでの延長線上で技術も進歩していきました。自社もライバル企業も同じ方向を向き、より良い製品を、より安く、ひたすらつくれば良かったのです。

 

結論を支配

前提を変えれば結果が変わります。

「世界を変えた14の密約」ジャック・ペレッティ著によれば、生命保険会社にいた統計家ルイ・ダブリンは、1945年初めてBMI(Body Mass Index)別名「ボディマス指数」を作成しました。このBMIは、体重と身長から計算され、肥満度を表します。現在、BMIは国際的な指標として用いられています。実はこのBMIは、ダブリンが25歳前後の人たちのデータから

理想的な体重を、全員に勝手に当てはめたもの

でした。

その結果、アメリカ人の半数は「太りすぎ」か「肥満」になりました。これにより多くの人の生命保険料は高くなりました。これにより生命保険会社に多額の保険料をもたらしたのです。しかも

たった1枚の数表だけで
 図3 肥満大国のアメリカ人

図3 肥満大国のアメリカ人

しかもBMIはアメリカ人の間に肥満パニックを起こしました。そして巨大なダイエット産業をも創出しました。
 

慶應義塾大学の清水勝彦教授は著書「その前提が間違いです」で

「『前提』こそが結論を支配する」

と述べました。

例えばケンブリッジ大学のハジュン・チャン氏は、トリクルダウン理論について以下のように述べています。

「理論的には、トリクルダウンはそれほどバカバカしい考え方ではありません。ですが、現実的には裏付けがないんです。アメリカでもイギリスでも国家歳入における投資の割合は減り続けています。経済成長も下がっています。だから証拠がないんですよ。」

しかし各国の政府は、トリクルダウン理論を何ら検証せずに、富裕層を豊かにする政策を実施しました。その結果、貧困層が増加し、貧富の差は急拡大しました。
 

空気といじめ、パワハラの関係

日本社会には、欧米社会のような神を絶対的な基準とした「絶対的な正義、あるいは倫理観」がありません。同じ行為でも、その場の状況によって、許されたり、許されなかったりします。山本氏は、これを「状況倫理」と呼びました。

例えば、お腹が空いて死にそうな人がパンを盗んで食べた場合、欧米では、そのような状況でも、窃盗の罪は同じです。神の許しがない限り、その人は一生罪を背負って生きなければなりません。対して日本は、この場合多くの人が罪を許します。そして当人も罪の意識が消えていきます。つまり状況に応じて「情」で判断するのです。

これが時には悪い方に作用します。これがパワハラ、セクハラ原因になるからです。

例えば、指導者が指導のためと称して行う暴力や暴言です。どんな感情を持っていても、暴力や暴言を行ったことに変わりはありません。しかし、こういった指導者は、これを正しいことと思っています。こういった人達に共通するのは

自分と異なる存在、他者への理解が浅い点

です。そして日本人の多くにこの傾向があります。そして「自分にとって良いことは、相手にとっても良いこと」と考えて行動します。山本氏の著作には、寒い冬に「かわいそうだから」とひよこにお湯を飲ませ、死なせてしまった人の話が書かれています。人間にとってお湯は良いものですが、ひよこには有害だったのです。
 

空気に水を差す行為

この空気が真実を歪曲して、その場のムードで行動する人たちに対し、現実を突き付けるのが

「水を差す」

行為です。山本氏は

「ある一言が『水を差す』と、一瞬にしてその場の『空気』が崩壊するわけだが、その場合の『水』は通常、最も具体的な目前の障害を意味し、それを口にすることによって、即座に人々を現実にもどすことを意味している。」(「空気の研究」より引用)

と述べました。つまり「水」は現実を土台にした前提です。

しかし、水を差しても空気が消えないことがあります。なぜなら、空気の背後には、本当の動機が隠れているからです。この隠れた動機を言葉にして、表に出さければ空気は消えません。
 

なぜ戦艦大和は、100%見込みのない作戦に行かなければならなかったのでしょうか。本当の動機は

大和が残ったまま敗戦となり、敵に拿捕されるのは絶対に避けたい

ということでした。しかし、そのため3,700人の命を犠牲にするとは言えません。これが空気の正体でした。
 

隠れた動機があるかぎり、真実で空気に水を差しても、精神論で反撃されます。戦時中、B29に向かって、竹やりを突き立てて落とすマネをする訓練をしていました。「竹やりでB29を落とせるわけがない」と空気に水を差しても「何を言うか、この非国民」と言われてしまいます。「尊い努力」という言葉が、「竹やりでB29を落とせるわけがない」という現実を凌駕するのです。

空気に水を差す人に対し、非国民という言葉を投げつけて、B29に対し無力な自分たちという現実を覆い隠しました。そして空気に水を差す相手には「けしからんやつ」といじめたり、仲間外れにしました。このように集団の中で、ひとり空気に水を差せば、いじめに遭います。それに耐えるには、強い信念と忍耐が必要です。多くの人にとっては、おかしいと思っても空気に従った方が楽なのです。
 

この空気をつくり出す日本人の根底にあるものは、何でしょうか?

そして、これを打破するにはどうしたらよいでしょうか・

続きは、「組織に存在する『空気』とは何か?その1」で述べます。
(その2は、2023年3月25日頃投稿予定です。)

参考文献

「『空気』の研究」 山本七平 著 文藝春秋
「『超』入門 空気の研究」 鈴木博毅 著 ダイヤモンド社
「『空気』の構造」 池田信夫 著 白水社
「慮人日記」小松真一 著 ちくま学芸文庫
「下級将校の見た帝国陸軍」 山本七平 著 朝日新聞社
「日本人と組織」 山本七平 著 角川ワンテーマ
「特攻拒否の異色集団彗星夜襲隊」 渡辺洋二著 光人社NF文庫

 
 

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その後、作業の要点を説明し、実際に作業者にやってもらい観察します。

その結果、不十分な点もしっかり指導しました。もう大丈夫と思ったら不良が出ました。調べると指導した通りにやっていませんでした。
 

あれほど丁寧に指導し、わからない時のために手順書も渡したのに、

なぜ教えたとおりにやらないのでしょうか?

多くの現場でこういった問題が起きています。教えた通りにできないのは

レベルが低いからでしょうか?

その結果、大量不良や悲惨な事故も起きています。
 

「なぜ教えて通りにできないのか?その原因は何なのか?」

「教えはず」と「分かったつもり」についてその原因を掘り下げます。
 

「分かったつもり」で生じる問題

 

自分たちの扱っているものの危険を知らなかった

自分たちが行う作業の注意すべき点や作業に潜む危険が分かっていない。

そして作業ミスや不注意が大事故を起こします。
 

1999 年9月30日城県那珂郡東海村の株式会社ジェー・シー・オー(住友金属鉱山の子会社。以下「JCO」)の核燃料加工施設で、高濃度ウラン燃料の製造中に臨界事故(核分裂連鎖反応 : これは原子炉内部と同じ状態です。)が発生しました。この事故で作業員3名が重度の被曝をし、内 2 名が死亡しました。これは日本の原子力産業が起こした初の臨界事故で、最初の死亡事故でした。
 

同工場は高速増殖実験炉「常陽」で使用するウラン235濃度18.8%の高濃縮ウランを製造していました。その製造工程は、国(科学技術庁)の認可を受けた方法で行うことが義務づけられていました。このウラン溶液は一定量を超えると臨界反応を起こす恐れがありました。そこで溶解塔で硝酸とウラン溶液を混合した後、専用容器に小分けして再溶解し、均質化する方法が採られました。

しかしJCOは作業効率を上げるために、ステンレス製のバケツで混合した後、細⻑い貯塔に移して均質化し、容器に小分けしていました。これは違反行為ですが、貯塔が細⻑いため一度に入れても臨界を起こす可能性はい方法でした。

ところが事故当日、作業を効率化するため、ステンレス製のバケツで混合し、沈殿槽に投入したのです。この沈殿槽は貯塔と異なりずんぐりした形状でした。そのため構造的に中性子が容器から出にくく、しかも外側に冷却水が入った二重構造になっていました。中性子は水の層で反射するため、中性子の反応が連鎖して核分裂反応が起きてしまいました。
 

この事故については、専門家が調査を行い、事故報告書が作成されました。この報告書の中でマニュアルの勝手な変更や、作業変更に対するずさんな管理が挙げられていました。

しかし、そもそも作業員は自分たちが扱っている原料が一定量を超えれば臨界を起こす極めて危険なものだったことが分かっていたのでしょうか?そして臨界とはどのようなもので、どうすれば臨界を起こすのかわかっていたのでしょうか?

そのことを理解していれば、上司の許可なく勝手に作業方法を変えなかったかもしれません。
 

図1 ウラン溶液の製造工程

図1 ウラン溶液の製造工程


 

一方こういったこの事故を防ぐためには、正しい知識を持っていれば十分でしょうか?
 

分かっていないのに分かったつもりになっている

1946 年アメリカの核研究施設ロスアラモス研究所で物理学者のルイス・スローティーンは、プルトニウムの性質を調べる実験をしていました。

半球状のベリリウムの間にプルトニウム塊を置いて、二つのベリリウムの距離を縮めていき、反応を調べていました。この実験では二つのベリリウムが接近しすぎると、プルトニウムから出た中性子線がベリリウムに反射し、さらに中性子線が出て連鎖反応が起きてしまいます。
 

スローティーンは核分裂反応に詳しい物理学者でした。にもかかわらず彼が採った方法は、二つのベリリウムがくっつかないように、間にマイナスドライバーを入れておくというものでした。

そして不幸なことにマイナスドライバーが手から滑り落ち、二つのベリリウムはくっついてしまいました。実験室の8人は大量の中性子線を浴び、スローティーンは9日後に亡くなりました。

他にもっと安全な方法はあったのに、なぜスローティーンはこの方法を採ったのでしょうか?
スローティーンはこの実験の仕組みを本当はわかっていなかったのに

「分かったつもりになっていた」

のではないでしょうか?
 

説明深度の錯覚

認知心理学者フランク・カイルは被験者に次の質問をしました。

  1. あなたはファスナーの仕組みをどれだけ理解しているか、7段階評価で答えてください。
  2. ファスナーがどのような仕組みで動くのか、できるだけ詳細に説明してください。
  3. 大抵の人は2番目の質問に答えられませんでした。そこで再度

  4. あなたはファスナーの仕組みをどれだけ理解しているか、7段階評価で答えてください。

この質問を聞かれると、最初の時より7段階評価は低くなりました。
 

フランク・カイルはファスナーだけでなく、ピアノの鍵盤、水洗トイレ、シリンダー錠など様々なものについて調べました。その結果、大抵の人は説明できるほどの知識を持っていないことが分かりました。にもかかわらず「分かっている」と思い込む「説明深度の錯覚」が起きていました。

つまり「わかっていない」のに「わかっている」と思い込んでいるのです。

 

分かっていないことの悲劇

今日では様々な単純労働を外国人の技能実習生が支えています。彼らの労働災害は年間500 件に上り、日本人労働者と比べ比率が高く、痛ましい死亡事故も起きています。

  • 技能実習生Aは、解体用機械のアタッチメントの上で溶接作業をしていたところ、解体用機械のブームが上昇し、梁との間に挟まれた。(H28年11月)
  • 技能実習生Cは、労働者Dと2人でプレス加工作業をしていたところ、Cが金型内に頭を入れていた時にDがプレスを起動させ、Cが挟まれた。(H29年4月)

彼らは本当に危険があることが分かっていても、このような作業をしたのでしょうか?
 

理解するとは?

 

理解は概念の変換作用

私たちは相手に何かを説明する時に、伝えたい内容を言葉で相手に伝えます。私たちは、相手はその言葉を聞いて、伝えたい内容を理解すると思っています。実際はこちらの意図とは違う内容に受け取ったり、こちらが言っていないことを聞いたと思ったりします。なぜこのようなことが起きるのでしょうか?

それはコミュニケーションの過程でいくつもの変換過程を経ているからです。
図2にコミュニケーションの過程で生じる変換プロセスを示します。
 

図2 コミュニケーションのプロセス

図2 コミュニケーションのプロセス


 

話し手が「相手に伝えたいこと」は「ある概念」です。例えば作業の力加減や感情です。これらは言葉では完全に表すことができません。しかし相手に伝えるには、この概念を言葉に変換(言語化)しなければなりません。そしてこの変換の過程で内容が変わってしまいます。

例えば作業手順を相手に伝える場合、作業内容を手順ごとに分解して、相手に伝えやすい形にします。(記号化) これをメッセージとして言語化して、話したり文書にしたりして相手に伝えます。この伝達過程でも、話し方や話す場の雰囲気などによって伝える内容が変化します。

相手は受け取った言語情報をメッセージとして理解します。このメッセージを解読し、自分の頭の中で概念を復元します。こうして相手の頭の中で復元した概念が、話し手の頭の中の概念と同じであれば、正しく伝わったのです。

このように考えると、完全なコミュニケーションがどれだけ大変なのかわかります。
 

このようにコミュニケーションの過程では、伝える側、受け取る側の双方に変換プロセスがあります。変換プロセスの結果は、それぞれの考え方、技量、経験、知識によって大きく変わってしまいます。

またメッセージは、伝える際の環境や伝え方にも影響されます。厳粛な雰囲気の教会で聞く牧師さんの説教は、参加者は重々しく受け止めます。しかし全く同じ話でも、にぎやかな宴会の最中であれば誰も聞いていません。
 

理解は身体性を伴う

体を動かすような作業を伝える場合、言葉だけでは相手は正しく理解できません。正しく理解するには、説明を聞いた後で実際に体を動かしてやってみなければなりません。そして「説明通りにできたかどうか」確認します。自分ではわからない場合、他の人に正しくできたかどうか見てもらいます。そして「どこができていなかったか」フィードバックしてもらいます。
 

共通の背景を獲得するには時間がかかる

相手の言葉を理解するには、考え方、技量、経験、知識が影響します。外国人との会話で相手の言ったことを十分に理解するには外国語の理解だけでは不十分です。言葉は理解できても言葉の意味する内容が分からなければ理解できないからです。それには相手と同じ経験が必要なこともあります。

例えばオーストラリアの人から「朝食にはベジマイトが欠かせない」と言われても、ベジマイト自体を知らなければどんな味かわかりません。あるいはベジマイトは知っていても食べたことがなければ、おいしいかどうかわかりません。(私は食べたことがありますがダメでした) 。

どうやらベジマイトをおいしいと感じるには子供の頃から食べてきた経験が必要なようです。同様に納豆も大人になって初めて食べた人には苦手な人も多いようです。
 

図3 ベジマイト(Wikipediaより)

図3 ベジマイト(Wikipediaより)


 

同様にスポーツも、始めたばかりの初心者は指導者のアドバイスが理解できないのです。

例えば、クロールを初めて習った時、指導者が
「息継ぎは体全体を傾けて素早く息を吸えば簡単にできる」
「手は入水したらひじを立てて、素早く水をキャッチする」
と言ったとしても、言葉は理解できても、その言葉が示す動きはわからないのです。

このように「理解」するためには、背景にある知識や経験、身体の使い方や時には文化への理解が必要なのです。
 

人は物事を単純化する

私たちが日常直面する多くの事柄は、様々な要素が重なっています。そのため単純ではありません。例えば、その日の夕飯のメニューを決めようとしても、家族のその日の予定、冷蔵庫の食材、前日の献立、家族の嗜好など様々な要素があります。かといってそのすべてを考慮して最適な答えを出そうとすれば、大変な労力と時間がかかります。

そこで私たちは重要でない要素は削ぎ落して単純化して判断します。例えば「昨日はハンバーグだったから、今日は魚」と決定します。
 

同様に経験したことを記憶する際も、情報を削ぎ落して単純化して記憶します。単純化することで記憶しやすく、思い出す(検索する)のも容易になるからです。しかし単純化のプロセスは人によって異なります。そのため同じ事柄を経験しても、自分と他人が記憶している内容が違っていても不思議ではありません。単純化の過程が違っているからです。
 

因果関係と物語

人は、相手の話を聞く時、最初の言葉を聞いたら、次に来る言葉を推測して聞いています。相手の先を読んでいるから、会話のスピードが速くても理解できるのです。そして話を聞きながら、次に来る言葉を予測するには、聞き手と話し手の間に共通する背景知識(あるいは文脈)が必要です。

共通する背景知識、文脈が全くなければ、言葉を聞いても次に来る内容を推測できないため、理解は難しくなります。
 

例えば以下の会話は、お互いが会話の文脈が分かっているから、成立します。

⺟親 : これはなあに、
子供 : うさぎさん、
⺟親 : そう、ぴょんぴょんしてるね

ひとつひとつの文は、単体では意味がわかりません。読み手は文脈に従って意味を解釈し、一貫性のある内容としてとらえています。つまり会話の中からお互いが意味のある物語をつくっているのです。
 

会話では聞いた言葉から相手の次の言葉を推測しながら聞くことで、言葉同士の因果関係が見えてきます。この因果関係がひとつの物語になります。

意味のない言葉の羅列は記憶できませんが、物語は容易に記憶できるのです。

逆にいくら指導者が熱心に説明しても、わからない言葉や背景知識が不十分で聞き手の中で物語ができなければ記憶に残らないのです。
 

思い込みが正しい理解の邪魔をする

この物語(文脈)は、私たちが目の前で起きていることを理解する時も必要です。その人の物語にないことは、目の前で起きていても気づかないのです。もしその兆候が顕著に表れても、現実にそれが起きるまではわからないのです。
 

1941 年 12 月 8 日、日本がアメリカ オアフ島の真珠湾を攻撃しました。その際、攻撃の兆候を知らせる情報はアメリカに集まっていました。
「日本海軍が急に暗号を変えた」
「機動部隊の行方が 11 月から分からなくなっている」
これらの情報を総合すれば、日本が近いうちに大規模な軍事行動を起こすことは明らかでした。

しかしアメリカには、

日本の機動部隊が遠路太平洋を航海して真珠湾を攻撃する物語

はありませんでした。従って攻撃目標が真珠湾であることを示す情報があっても気づきませんでした。
 

このように人は自らの物語にないことは無視します。そのため多くの人はバックアッププランを持ちません。例えば新規事業や設備投資が失敗した場合、どのようにリカバリーするのか

失敗することは物語にないため考えられないのです。しかし現実には必ずうまくいくとは限りません。

うまくいかなかった時の対処方法を事前に考えておくことはとても重要です。

 

エキストリーム・スキーヤーのケビン・アンドリュースはこのように語っています。
山頂からのクリフ・ジャンプをする場合、A案、B案の二つを必ず用意する。A案は成功した場合、B案は失敗した場合

B案がないと、生きて帰れないからね

 

今までの教え方

 

マニュアルを読めばできる

多くの人は新人に仕事の手順を書いたマニュアルを渡せば、それを読んで仕事はちゃんとできると考えます。しかしマニュアルは作業内容を文書や図で示したものにすぎず、必要なことがすべて書かれているわけではありません。

作業者はマニュアルの「文章」から「どのように行動すべきか」という概念を頭の中でつくります。しかしマニュアルの文章を理解しても、文章を正しい行動に変換するには作業の背景の知識が必要です。この知識が不足すれば、マニュアルを読んでも誤った理解や行動になってしまいます。
 

教えたことを相手は理解する

そこでマニュアルを読むだけでなく、口頭で要点を伝え、実際にやっている姿を見て誤りがあればそれを訂正すれば正しい作業を習得できると指導者は考えます。

確かに直接指導すれば、誤った行動は修正されます。ただし指導内容を十分理解するためには、指導者と同じレベルの背景の知識が必要です。知識が少なければ教えたことを十分に理解できません。さらに理解が不十分だと、知識は断片的で相互に関連していません。つまりしっかりとした物語ができないため、短期間に忘れてしまいます。
 

自分と同じように考える、自分と同じように気づく

指導を受けて、実際に作業を行っている時、ミスやトラブルが起きることがあります。「指導者は丁寧に指導したから相手は、ミスやトラブルに気づいてくれる」と期待します。しかし「何が正しくて、何がダメなのか」指導を受けても、その背景にある知識が十分になければ、教えられたことから少しでも違っていればもう判断できません。
「こんなのは見ればダメなことがわかるだろう」
と指導した側は言いますが、それを作業を始めたばかりの人に期待しても無理があります。
 

図4 指導者と同じように気づくのは…

図4 指導者と同じように気づくのは…


 

相手に自発的に考えさせれば訓練効果は高まる

高いモチベーションを持って取り組んでもらうには、一方的に指導するティーチングでなく、質問を投げかけて相手に自発的に考えてもらうコーチングを行うべきという考え方があります。しかし自発的に考えるためには、その仕事に対して一定の背景知識を持ち、作業における物語を理解する必要があるのです。
 

教えられる側の闇と教える側の認識

初めてその職場に入った人は、その職場での仕事に関する情報が極めて少ない状態です。その状態で仕事のやり方を教えても、教えられたことを十分に理解できません。しかもマニュアルはその仕事に関して限られた情報しかないため、マニュアルに書いてないことはその都度自分で考えたり人から聞かなくてはなりません。
 

これは図5に示すような自分の仕事しか見えない視野の狭い状態です。こうしたわからないことが多く不安を感じて仕事をしている中で「やってはいけないミス」「気をつけなければならないポイント」がいくつもあります。

仕事を始めてある程度の期間が過ぎると、様々なことが見えてきます。視界が広がり、やってはいけないことや注意すべき点に関する情報が、関連性をもって把握できるようになります。情報が単独でなく相互に関連することで、物語ができて理解も深まります。

熟練者は、やってはいけないことや注意すべき点以外の様々な情報をもっています。相互の情報は関連付けられ、全体がひとつの物語を形成します。この状態になれば、その仕事に関して重要なことや重要でないことがわかり、現場で起きたことに対して適切に判断できます。
 

図5 初心者の闇

図5 初心者の闇


 

理解するために必要なこと

このように指導する側は、指導したことで適切な作業が行われることを期待します。しかし実際は、教えたことは完全には伝わらず、しかも相手は十分に理解していないため様々な問題が起きています。これを防ぐためには、どのような工夫が必要でしょうか?
 

背景知識の学習

新しくその職場に来た人は、その会社や工場の仕事に関する背景知識がありません。その状態で、作業の手順だけを教えても相手は十分に理解できません。その結果、習得に時間がかかり、作業中に発生する問題や異常に気付きません。
 

そこで

作業手順の指導と併せて、必要な背景知識を伝えます。

仕事の手順だけでなく、仕事がうまくいったときの姿、成功イメージを伝えます。さらに今から教える内容の全体像を伝えます。

さらにその仕事に関係する情報、顧客の要求、製品であれば市場での使われ方も伝えます。

そして、その仕事の前後工程や、関係する人や部門も伝えます。こうして自分が全体のどの位置にいて、これから行う仕事がどのような意味を持つのか、仕事の背景知識を伝えます。
 

相手が消化できる量

しかし人が一度に理解できる量は限りがあります。なぜなら指導を受けた内容をそれぞれ同士を相互に関連付けて、物語をつくらなければならないからです。しかし短時間に大量の内容を教えれば、受けた側は物語を構築できません。単なる断片的な知識の羅列となってしまいます。そしてすぐに忘れてしまいます。

そのため

一度に教える量は、相手が吸収できる量にとどめます。

そうなると一度に必要な情報を全て伝えられないので、何回かに分けて段階的に伝えます。こうすれば呑み込みの早い一部の人だけは習得できるけど、他の人はしっかりと習得できないということはなくなります。
 

図6 食べきれない量を渡されても…

図6 食べきれない量を渡されても…


 

もし指導者の説明が⻑々と続いてとても時間がかかる場合は、一度に習得させようとする分量が多いためです。1日で内容を全て盛り込もうとするため、説明は長くなって聞いている方は全てを理解できなくなります。この場合、1回の説明は相手が一度に吸収できる量にとどめます。そして、1度説明した後、実際に作業を行って指導内容を頭の中で体系化させます。それから次の内容を説明します。
 

TWI教え方の4段階

TWIとは、Training(訓練)Within Industry(企業内の)for supervisors(監督者のための)の頭文字をとったもので、チャールズ・R・アレンがヨハン・フリードリヒ・ヘルバルトの4 段階教授法と職業分析を適用したOJT(On-the-Job Training)を元に開発しました。

第二次世界大戦当時、米国で広められ、日本には第二次世界大戦後,占領軍によりもたらされました。その後、労働省(現在の厚生労働省)によって広まりました。

現在は日本産業訓練協会(日産訓)や都道府県職業能力開発協会などで行われており、トヨタ自動車も取り入れています。
 

TWIでは仕事の教え方を4段階に分けます。

  1. 習う準備をさせる
  2. 気楽にさせ、作業の説明を行い、その知識を確認し、覚えたい気持ちにさせる

  3. 作業を説明する
  4. 主なステップを言って聞かせ、やって見せ、急所を強調する

  5. やらせてみる
  6. やらせてみて、間違いを直す。その作業をわかったと分かるまで確かめる

  7. 教えたあとをみる

教えた後を確認し、質問するように仕向け、独り立ちさせる。

このように段階的に教えることで、指導を受ける側が指導内容を十分に咀嚼することができ、教えたあとは正しくできているか確認することで確実にできるようにします。このTWIのプロセスは、背景知識の習得スピードに合わせた指導ともいえます。
 

最初は見るべきところも教える

十分な背景知識がなければ、現物を見てもどこに問題があるのか気づきません。経験を重ねて仕事に対する知識や理解が深くなり、背景知識が十分になれば、現物を見て問題点を見つけることができます。しかしそれまでは「どこを見るべきか、どんなものが出たら不良なのか」見るべきポイントと見るべき内容を伝えます。「こんなものは見ればわかる」は新人には通用しません。
 

背景知識の進化に合わせて何度も指導

仕事ができるようになれば背景知識が増えています。背景知識が増えれば、今まで気づかなかったことも気づくようになります。この段階で、よりレベルの高い内容を指導します。 例えば、それまでは問題を発見したら手を止めて報告するようにしていました。しかし問題の原因と対策を指導し、問題を発見したら原因を究明して対策案を考えます。

こうして相手の背景知識の進化に合わせて何度か指導することで、観察力が高まり、気づきの幅が広がります。これはスポーツで技量が向上すれば、より高度な練習を行うことに通じます。
 

図7 徐々に高度な練習を…

図7 徐々に高度な練習を…


 

フィードバックと評価

人は自分のことはわからないものです。指導を受けた結果、自分一人で仕事ができるようになれば、その結果、自分が今どのくらいのレベルなのかを本人に伝えます。なぜなら人は自分のことを過大評価するからです。適切な評価がなければ「自分は仕事ができる」と思い込んでそれ以上進歩しなくなります。

特に自信過剰なタイプは、十分にできていなくても「自分はできている」と思い込んでいます。指導者はその人の能力や成果をできる限り定量的、かつ客観的に評価します。そしてデータと共に本人に知らせます。
 

こうしたフィードバックがさらに成⻑を促します。例えば、仕事の優先順位をつけられるようになるためには、与えられた仕事のTo Doリストとスケジュール表をつくらせます。そしてTo Doリストに従って仕事をスケジュール表に記入し優先順位を決めさせます。指導者は結果を確認し、優先順位が違っていれば修正させます。このように紙に書けば、指導者が確認することができ優先順位のつけ方を指導できます。
 

できる人は「できない人をできるように」できない

身体的な作業や技能は、

本人ができない時は、できる時のことが全く想像できません。

一方できるようになれば、できなかった時のことは忘れてしまいます。つまり

できる人は、できない人に「どうすればできるようになるのか」指導するのは難しいです。

むしろ新人教育では、新人が間違えたり、習得に苦労した点を集め、「どうやって新人ができるようになったのか」ヒアリングして、「できるようになる方法」を調査した方が、効果的な教育カリキュラムになります。
 

失敗への対応

うまくいかなかった時、失敗した時、どのように指導したらよいでしょうか?

その対応が悪ければ、その後も間違った行動をしてしまいます。
 

人のせいにする

失敗を人のせいにする理由は以下のふたつが考えられます。

  1. 自らの責任と認めれば組織内の立場が不利になるため、失敗の原因が自らにあっても頑として認めない。
  2. 本当に失敗の原因は自分にないと思っている。

 

前者の場合は、原因は担当者の責任を追及する組織の問題なので、これを解決しない限りなくなりません。一方、本来は正しい原因が分かっていても、「責任は自分にない」という主張を繰り返していると、責任が自分にある場合でも本当に自分のせいでないと思うようになってしまいます。その結果、問題の原因を正しく突き止められなくなります。従ってこういった姿勢は改める費用があります。

後者の場合、「自分は失敗しないという物語にとらわれて本当のことが見えなくなっている」あるいは「問題と原因の正しい因果関係がつかめない」のいずれかです。
どちらにしても失敗の正しい原因がつかめず、適切な対処や再発防止ができません。発生した問題とその原因を的確につかめるように教育します。
 

ケアレスミスが多い

原因のひとつは、背景知識や物語が不十分なため、注意が十分に行き届かず、ミスが起きてしまうことです。「どのようなところでミスが起きるのか」よくわかっていないため、必要なところを確認せずミスがあればそのままになってしまいます。

経験を積むまでは、確認すべきポイントを具体的に示します。

経験を積んで十分な背景知識を獲得すれば、確認すべき点もわかるようになります。

二つ目の原因は元々の作業手順が、ミスが起きやすい手順の場合です。この場合は、手順そのものを見直して、ミスが起きなく異様なやり方に変えなければなりません。
 

手を抜く

原因のひとつは作業の中で優先すべきことがわかっていないためです。ものづくりでは正しいは最も優先すべきことです。それでも手を抜いて正しい手順で行わないのは「時間を短くする」、「自分が楽になる」など他のことを優先するからです。またその結果どのような結果をもたらされるのか、なぜ正しい手順を変えてはいけないのかが分かっていないからです。従ってそのことを組織のメンバーに十分に伝えます。

あるいは与えた仕事が単純作業のため「やらされ感が強く、意欲が低下している」ためです。単純作業だから手を抜いていいということはありませんが、本人のやる気と注意力を高めるためにはあまりにも単調な単純作業は避けるようにします。
 

悪い報告が来ない

何が悪い報告なのか、悪い報告はどのようなタイミングで上げなければならないのか、これは組織により異なります。

新人には、「悪い報告とは何か」「それはいつ上司に報告するのか」具体的に伝えます。
 

組織の中で理解に必要な文脈が変わっていないか

組織は目標を決めてそれを達成するために努力します。しかし常に目標が達成できるとは限りません。目標が達成できない時、何を優先すべきか、それは組織の背景の知識や文化に依存します。

組織のリーダーが目標の難易度を無視して、何が何でも達成するように強要すれば、何かを犠牲にして目標を達成します。これが昨今の企業不祥事の原因ではないでしょうか。
 

組織の目標達成は重要です。しかし物理的に期限までに達成できない場合、

リーダーは、できないことを認めなければなりません。

それが認められなかった時、燃費の測定値を改ざんや、不正な排気ガス処理をするエンジン制御プログラム、必要な手順を省いた車検が行われるのではないでしょうか。その結果がもたらすものは、僅かな数値の向上よりもはるかに甚大な被害になるのですが。
 

重要なことは、他の何を差し置いても優先する姿勢が、組織のリーダーには必要です。

アメリカの航空⺟艦で訓練のため、艦載機が次々に発進しました。その後、格納庫の整備係はレンチが 1 本見つからないことに気が付きました。上司に報告したところ、直ちに艦⻑に情報が届き、艦⻑は以下の指示を出しました。

  • 訓練は即停止、艦載機は安全のため地上の基地に着陸
  • 全員でレンチを探す
  • 報告した整備士は表彰

こういった組織文化、背景知識の元では、不正は起きないのではないでしょうか?」
 

参考文献
「知ってるつもり 無知の科学」スティーブン・スローマン、フィリップ・ファーンバック著 早川書房
「仕事の教え方」 関根雅泰 著 日本能率協会マネジメントセンター
「教え方の教科書」 古川裕倫 著 スバル舎

 

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

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経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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『生まれ』か『育ち』か、若者育成の課題 https://ilink-corp.co.jp/8062.html https://ilink-corp.co.jp/8062.html#respond Fri, 07 Oct 2022 13:56:43 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8062 No related posts. ]]> 世界最高水準のメジャーリーグで165キロのストレートで三振を奪い、その裏で137メートルの特大ホームランを放つ。どちらか一つでも大変なことを一人でやってしまうのが大谷翔平選手。それは天賦の才と誰もが思ってしまいます。まあ身長や体格は本人の努力ではどうにもならない点はあります。

では将棋の藤井聡太棋士はどうでしょうか。中学生が並み居る大人の有段者に破竹の連勝を重ねると「天才だ」と思ってしまいます。
 

一方、育児書には「人は誰もが無垢の心で生まれ、その後の育て方で全てが決まる」と書かれています。そうなると子供が社会で成功しなかったのは親の育て方が悪かったことになります。

この生まれた時、「心は空白の石板(Blank Straight)」という概念は、ユダヤ・キリスト教の基本的な考え方です。(ちなみに世論調査でもアメリカで聖書の創成記を信じている人は76%、聖書に書かれている奇跡は実際にあったと信じている人が79%、自分は死後も何らかのかたちで存在するという人が67%を占めています。対してダーウィンの進化論を信じている人は15%しかいません。)
 

この「生まれか、育ちか」の問題にジュディス・リッチ・ハリス氏は、1998年に出版した「子育ての大誤解」で従来の定説をくつがえし、子育てにおける親の役割が限定的であることを述べて大きな議論を巻き起こしました。その一方、「ブランク・ストレート説」を信じている人たちも、大谷翔平選手や藤井聡太棋士の能力は天賦の才と考えます。また黒人は白人に比べIQが低いと信じている人も多くいます。この生まれか、育ちかについて考え、若者たちを育成する真の方法について考えます。
 

「生まれ」派の主張

進化論から行動遺伝学へ

ダーウィンが、『種の起源』を出版したことに刺激を受け、いとこフランシス・ゴルトンは遺伝の問題を統計学で解決しようと思い立ち、こころが遺伝や環境によってどのように影響されるのかを明らかにする行動遺伝学を創設しました。具体的にはすべてのDNAを共有する一卵性双生児の違いを比較しました。

行動遺伝学に照らすと、母と子どもの幼児期の関係が将来に決定的な影響を与えるという心理学の考え方は疑わしいです。2000年にバージニア大学出身の心理学者エリック・タークハイマー氏が発表した「3原則」では
第1原則 ヒトの行動特性はすべて遺伝的である
第2原則 同じ家族で育てられた影響は遺伝子の影響より小さい
第3原則 複雑なヒトの行動特性のばらつきのかなりの部分が遺伝子や家族では説明できない
と、示されています。
 

行動遺伝学では心を「遺伝+共有環境+非共有環境」で説明しています。共有環境は「家族が共有し、家族のメンバーに類似性をもたらす」環境で、非共有環境は「家族で共有せず一人ひとりを独自にさせる」環境です。遺伝とともに個性を生み出すとされています。

ここでは、思考・学習・感情の潜在力は「すべて」受精卵のDNAの情報に含まれるとしています。その根拠として、統合失調症(精神分裂病)、自閉症、言語障害、双極性障害など認知や情動に関する障害は、二卵性双生児よりも一卵性双生児の方が、子供が二人とも障害になる確率が高いからです。

また一卵性双生児は考え方や感じ方がよく似ており、生まれて直後に引き離され別々の環境で育った一卵性双生児を成人してから対面調査すると、話し方やしぐさ、嗜好も同じだったという結果があります。
 

人間の本性

ハーバード大学心理学教授スティーブン・ピンカーは行動遺伝学の視点から、人間の本性に存在する暴力性、攻撃性を指摘し、心は空白の石板であるという「ブランク・ストレート説」に強く反対しました。

生物進化の観点から、人間の心理を考える進化心理学を考えてみます。
人間の祖先であるチンパンジーは極めて好戦的で、他のグループのオスを襲いなぶり殺します。一方、未開の地に住む狩猟採集民族は「高貴な野蛮人」というイメージに反して実際は極めて好戦的で、民族間戦争での男性の死亡率がとても高いことで知られています。

人類学者キャロル・エンバーによれば狩猟採集社会の90%は戦争を経験しており、64%は2年に一度戦争をしています。それも儀式的でなく、できれば相手を皆殺しにし、捕虜を拷問し、戦勝の記念に相手の体の一部を切り取ったり食べたりするものです。
「私たち人間の本性の中でも、動物の先駆者から最も直接的に受け継いでいる本性が、集団殺戮=ジェノサイドのです」と、アメリカ合衆国の進化生物学者であるジャレド・ダイアモンド氏はこう述べています。
 

これは現代人には引き継がれていないのでしょうか。1954年オクラホマ州立大学の研究チームが、22人の少年を2つのグループに分け、1週間は別々に行動させ、その後別のグループの存在を知らせます。すると少年たちは相手のグループとの直接対決を望みました。グループ対抗の競技を行うと少年たちは敵愾心を燃やし、競技をして負けると真剣に悔しがりました。さらに負けたチームが勝ったチームのキャビンを襲いました。こうして競技中の中傷合戦から殴り合い、さらに石の投げ合いと本格的な抗争に発展しました。
 

統合失調症などの精神障害が遺伝子の作用で避けられないものとすれば、一部の異常な行動(サイコパス)も同様なのでしょうか。彼らは、外観上は普通ですが、著しい罪悪感の欠如、衝動的、虚言癖などがあります。

1970年代、殺人犯の本を執筆中のノーマン・メイラーは、アボットという殺人犯の手記から、彼は知的で優れた作家、思想家だと判定して仮釈放を申請しました。アボットは文学関係のテレビのインタビューを受けるような知的な人物でしたが、2週間後にウェイターと口論になりウェイターを刺し殺してしまいました。サイコパスは知的に優れ、魅力的な場合もあり、このように知識人が騙される例もあります。

コメディアンであるリチャード・プライヤーは、アリゾナ州刑務所で殺人を犯した犯罪者に対し、「なぜその家にいた人を皆殺しにしたのか」と尋ねたところ、「家にいたから」という答えが返ってきました。
「自分でもどうにもならないんだ。でも2年たったら仮出所できる」……
暴力傾向のある人は、衝動的で多動、知能が低く注意欠陥で更に反抗的な気質がありますが、サイコバスは酷薄で良心を持たず、特徴が低年齢で現れて生涯続くことや、多分に遺伝的であると分かっています。
 

アメリカ南部は暴力の発生率が高い

ミシガン大学で心理学の実験が行われました。スタッフが廊下で、キャビネットの引き出しを開けてファイルを整理しているところを被験者が通ります。その直後、スタッフが「ばかやろう」低くつぶやくと、北部出身の学生は笑って済ませましたが、南部出身の学生は顔色を変えました。検査するとストレスホルモン(コルチゾル)の値が上昇していました。
 

知能の数値化

1869年フランシス・ゴルトンは「遺伝的天才」で、才能豊かな人は生物学的にすぐれた性質に「生まれついた」にすぎないと主張しました。しかし当時はこの優れた性質を計測する方法がありませんでした。

1904年イギリスの心理学者スピアマンは、様々な知的能力として一般的能力(g : general intelligence)が存在するとし、これを様々な種類の検査を組み合わせれば検出可能と考えました。このgは先天的に決定され、訓練によって引き上げることはできないと考えました。

1916年スタンフォード大学のルイス・ターマンはgを検査することで生まれつきの知能IQを測定できるツールを考案しました。現在は児童用知能検査「WISC」と成人用知能検査「WAIS」が広く用いられています。児童用知能検査WISCではIQテスト結果の精神年齢を実年齢で割って計算します。例えば10歳の子が12歳相当の結果であれば、12/10×100=120となり、8歳相当の年齢であれば8/10×100=80となります。アメリカではIQ100であれば普通の高校を卒業し、115であれば大学を卒業後よりよい職に就き、85であれば高校を中退する可能性が高い、と判断されます。
 

表 成人用知能検査「WAIS」

群指数 下位検査 内容
全検査IQ 言語性検査 言語理解 知識 学校で習うような人名・地理・古典・歴史など
例)「日本の首都はどこですか?」
類似 2つ以上の物事・概念の間に存在する類似性について
例)「りんごと梨はどのようなところが似ていますか?」
単語 単語や語彙の豊富さを問う
例)「ギターとはなんですか?」
理解 社会や経済の常識や日常生活の知識
例)「一石二鳥という諺はどのような意味ですか?」
作動記録 算数 基礎的な計算問題
例)「1ドルで45セント切手を何枚買えますか?」
数唱 数字列を記憶して、出された指示に従い数字を答える
順唱例)「1-2-3」、逆唱例)「3-2-1」
語音整列 読み上げられる数字と仮名の組み合わせを聞き、
数字を昇順に、仮名を五十音順に並べる
動作性検査 知覚統合 積木模様 積木で手本通りの模様を作る
行列推理 行列の欠けた部分に当てはまる選択肢を選ぶ
絵画完成 不完全な絵画の欠如部分を指摘する
処理速度 符号 記号とセットになっている数字を記憶して、
数字に合った記号を選択する
記号探し 記号グループの中に見本と同じ記号があるか判断する
絵画配列 時間的連続性と物語的相関性を持つ複数の絵画を正しく並べ替える
組み合わせ 複数の紙片を利用してひとつの意味のある形態や模様を作り出す

表のWAIS-Ⅲは1997年に発表された。全検査IQは言語性IQと動作性IQの合計で表され、それぞれ群指数と呼ばれるカテゴリがある。
絵画配列、組合せはどの群指数にも含まれない。

 

このIQテストは2種類の知能を測定できます。

  • 流動性知能
  • 抽象的な問題を解く能力で、記憶、注意、抑制などの能力が求められる

  • 結晶性知能

主に知識
 

流動性知能は20代をピークに下降するのに対し、結晶性知能はかなり年を取るまで上昇します。結果的にIQは言語能力、論理=数学能力、空間的能力を測定するのみで、創造性や感情的知能は測定されません。

このIQスコアの測定は陸軍が徴兵検査に活用するなど、アメリカ社会で広く使用されました。これにより知能は努力で勝ちえたものでなく、天から与えられたものになりました。実際は、IQは辺境の地など文化的に孤立した地域では低い結果が出ます。IQは環境が要求すれば上昇します。
 

一方、1981年ニュージーランドの心理学者ジェームズ・フリンは、100年以上にわたり測定されたIQスコアを調査したところ、数値が年々上昇し、10年毎に3ポイント上昇していると発見しました。これをフリン効果と呼びます。

実はIQスコアの特定の分野だけが上昇していました。一般知識や数学は差がありませんでしたが、抽象的論理の分野では著しく向上していました。1900年当時、人々は目の前の具体的な問題解決が大半で抽象的な概念を扱う経験がありませんでしたが、今日では様々な理論が一般人にもなじみ、抽象的な概念を取扱うことが増えたためと考えられます。
 

優生思想

こういった知能、認知、情動が遺伝で決まるのであれば、最初から危険な因子を持った人物を排除すれば安全な社会が実現できる、という思想を優生思想と呼びます。IQが遺伝的であれば、高いIQの遺伝子を優先的に育成し、低いIQの遺伝子を除外すれば良いのではないか、と優生思想では考えられますが、それを実際に調査した人物がいます。

1920年代アメリカの心理学者ルイス・ターマンは、IQの高い子供たちを調査する「天才遺伝子研究」を行いました。結果、IQの高い子供たちの集団からノーベル賞受賞者は一人も出ず、調査対象者のうちターマンに集団に入る資格がないとされた二人がノーベル賞を受賞しました。
 

親よりも仲間

ジュディス・リッチ・ハリスは著書「子育ての大誤解」の中で親は重要でないと述べ、大論争を巻き起こしました。アメリカへ移民してきた両親から生まれた子供は、日常生活を送る学校や遊び友達との会話を英語で行います。それにより英語の力はぐんぐん上達しますが、家庭の中でしか話さない母国語の力は伸びません。中国からアメリカに移民した両親の子供は、中国語を話すことができても、漢字を知らないため字を書けません。
 

ではチンパンジーのように知能の高い生物を人間と同じように教育すれば、人間のように話すことができるのでしょうか。

1931年心理学者ウィンスロップ・ケロッグ教授は、自分の息子ドナルド10か月とグァという10か月のチンパンジーを分け隔てなく育てました。グァは洋服を着て、幼児用の食器を使い、人間の幼児の生活に順応しました。二人は本当の兄弟のように仲良く育ちました。むしろ様々な動作の理解はグァの方が早く、ドナルドは人のマネをするのが優れていました。新しいおもちゃや遊び方を見つけるのはいつもグァで、それをドナルドはマネをしていました。ドナルドはチンパンジー語をいくつか覚えましたが、19か月の人間の子供なら50以上の単語を発するはずが、覚えたのはたった3語でした。チンパンジーを訓練して人間のように育てるつもりが、チンパンジーが息子をサルのように調教してしまった結果となりました。
 

図1 チンパンジーの子供のように…?

図1 チンパンジーの子供のように…?

人間の赤ちゃんにあってチンパンジーにないもの、それは心理学者が「心の理論」と呼ぶものでした。他者との関係性、共感する力、これらは多くの子供の場合、母親との関係により構築されます。
 

子育て神話の誤り

核家族で子供は両親の元で愛情豊かに育てられるというのはごく最近の感覚で、かつては親の死が頻繁にありえました。今はシングルマザーの家庭や離婚が頻繁にあります。子供は、家庭での文化よりも仲間同士の価値観に従い、仲間同士の中で最適な行動をとるようになりました。それが社会のルールに逸脱していても。
 

社会化は大人が子供に施すものでなく、子供たちが自分自身に施すものです。しかし、人の本性に関するものや、認知、判断の個性は遺伝によるものがあり、これは避けることができません。

これまで人類が生き延びてきたのは、仲間との集団行動があったからで、その集団内では自分の利益よりも時として他者の利益を優先する利他的な行動を取ってきました。そしてこの集団にとって最大の脅威は他の野生動物でなく、他の人間の集団でした。
 

「育ち」派の主張

遺伝子の影響は限定的

遺伝子はタンパク質の生成を命令するもので、遺伝子の指示により様々なたんぱく質がつくられます。では、同じたんぱく質であれば同じ人間、同じ性質が生まれるかというと、そうではありません。同じ材料でケーキを作っても調理方法が違えば全く別のケーキになってしまいます。
 

最近の研究では、遺伝子は2万2千個のボリュームつまみと電源スイッチのようなものだと分かっています。他の遺伝子や環境からの働きかけにより、いつでもボリュームは上下し、スイッチはオンオフします。この遺伝子と環境の相互作用は「G(gene)×E(environment)」プロセスと呼ばれます。

例えば、身長は遺伝子の影響を強く受けますが、環境の影響も大きいとされています。1957年スタンフォード大学のウィリアム・ウォルター・グルーリックは、同じ時期にカリフォルニア州で育った日本人の子供と日本で育った日本人の子供の身長を計測し、比較しました。すると、カリフォルニア州で育った子供の方が、平均身長が5インチ(約13センチ)高かったことを発見しました。遺伝子は外部の世界と交互作用を行い、唯一無二の結果を生み出しています。
 

藤井聡太棋士をつくる

スポーツは体の条件があるため、小さなときから英才教育をしてもトップレベルになるとは限らないですが、スポーツ以外なら小さなときから英才教育をすれば、トップレベルになることができるのでしょうか。
 

どんな子供でも正しい育て方をすれば天才になれるという結論に至ったハンガリーの心理学者ラズロ・ポルガーは、3人の娘をチェスのトッププレイヤーにすることに挑戦しました。十分な時間をチェスに充てるため、子供たちは学校通わせず、自宅で教育しました。しかし、いきなりハードな特訓をしたわけでなく、最初は子供の周りにチェス盤や駒があり、子供が興味を持って触れるようにしました。

その後、簡単なルールを教えて最初は親が遊び相手になりました。徐々に本格的な練習に移行し、5歳の時には熱心な練習をすでに数百時間行っていました。そこで子供に自己規律、努力、成果を大切にすることを教えました。3人の子供たちは熱心に練習しましたが、それは同時に楽しみでもあったとのちに述べています。「チェス盤を前にとても長い時間を過ごしましたが、とても好きだったので課題とは思いませんでした。」
 

その結果、長女スーザンは、4歳でトーナメントに初勝利、15歳で女性チェス世界ランク1位、その後女性プレイヤーとして初めてグランドマスターになりました。
次女ソフィアも女性チェスプレイヤーの世界ランキングで6位になりました。
三女ユディットは、15歳で当時世界最年少のグランドマスターになり、以降今日に至るまで女性チェスプレイヤーの世界ランク1位を獲得し続けています。
 

図2 ユディット・ボルカ― (Wikipediaより)

図2 ユディット・ボルカ― (Wikipediaより)


 

黒人は本当に頭が悪いのか?

心理学者リチャード・ヘアンシュタインと政治学者のチャールズ・マレーは、著書「The Bell Curve」の中で、遺伝により黒人のIQは白人よりも低いと主張しました。こういった遺伝論者の根拠は黒人と白人の脳の大きさの違いなどを引き合いに出しますが、いずれも間接的な証拠で決定的なものはありません。しかしこういった見解はアメリカ社会で差別を助長しており、求人に対しても白人なら採用されるが、黒人は採用されないことは珍しくありません。
 

黒人のIQが低い原因は、経済的に恵まれず十分な教育を受けさせられないことや、両親も十分な教育を受けていないため教育の価値が分からない、黒人家庭の所得は白人家庭の67%、資産は12%にすぎず、経済的なリスクにさらされている点などが挙げられます。また黒人の子供たちのコミュニティでは勉強ができることは白人のようで「かっこ悪い」ことであり、勉強ができる子も努力しなくなってしまいます。
 

対して中国や韓国などアジア系のアメリカ人の子供はSAT(大学能力評価試験)の成績が高く、白人と比べ同じ程度のIQでもアジア人の子供の方がSATのスコアは高い結果でした。これは、中国が2000年以上の歴史のある科挙の試験など伝統的に学力を重視する文化と、努力することを重視する価値観があり、良い成績は勉強の結果と考えることが影響しています。対してヨーロッパ系アメリカ人は、成績は生まれ持った才能や良い教師に恵まれることだと考えています。
 

努力は身体さえも変える

ロンドンでタクシー運転手の免許を取得するためには複雑に入り組んだロンドンの道路を全て把握しなければならず、世界一難しい試験ともいわれています。さら道路を知っているだけではだめで、目的地まで最も効率よく行ける道順を見つけなければなりません。その結果、ロンドンのタクシー運転手は膨大な記憶量と運転技術が求められます。

2000年にロンドン大学の神経科学者イレーナ・マグワイヤーの研究によると、タクシー運転手16人の脳をMRIで測定した結果、記憶をつかさどる海馬の部分が他の人に比べて大きくなっていることが判明しました。アスリートがトレーニングで筋肉を増やすように、ロンドンのタクシー運転手はトレーニングで脳の一部を増やしていたことになります。
 

図3 ロンドンのタクシー (Wikipediaより)

図3 ロンドンのタクシー (Wikipediaより)


 

これは、身体にはホメオスタシス(恒常性)があり、体に負荷がかかってバランスが崩れれば、それを元に戻そうと各機関が働くからと考えられています。いつもと違う激しい負荷がかかれば、これまでのシステムでは対応できず普段とは違う遺伝子を招集します。この遺伝子は負荷のかかった事態に適合するために、細胞内の様々なスイッチを入れたり切ったりします。こうして新たな状態に適合するからだがつくられます。
 

1万時間の真実

フロリダ州立大学教授アンダース・エリクソンは、ベルリン芸術大学の生徒の中から、Sランク、Aランク、Bランクの生徒各10人の7日間の日常を調査し、練習時間の違いを調べました。3つのグループとも個人練習を重要と考えていて、練習は非常に消耗するため十分な睡眠を取っていました。唯一の違いは、一人の練習時間の合計時間でした。

18歳までの練習時間の合計はAランクの学生5300時間に対してSランクの学生は7410時間でした。特に差が大きかったのは、勉強や友達との遊びなどやりたいことが多い8歳から12歳までの期間でした。一方、ベルリンフィルで活躍する中年のバイオリニストも18歳になるまでに平均7336時間、Sランクの学生と同等の練習をしていました。
 

2008年マルコム・グラッドウェルが「天才!成功する人々の法則」で達人の域に達するには1万時間の練習が必要という「1万時間の法則」を述べました。1万時間はある程度正しいのですが、漫然と1万時間練習しても達人の域に達しません。具体的な目標に向けた限界的練習でなければならないとされています。
 

1万時間の練習で得られる知識

1996年2月10日チェスの世界チャンピオン ガルリ・カスパロフとIBMのコンピューター ディープ・ブルーが対戦し、3勝1敗2引き分けで勝利しました。毎秒1億手以上計算するコンピューターが3手先までしか読めないカスパロフに敗北したことになり、「人類の頭脳は最強のコンピューターに勝利した」と報道されました。ディープ・ブルーは毎秒1億手以上計算する「才能」はありましたが、チェスの達人が持っていた知識、様々な局面でどのような手を打つのか、攻めと守りのバランスなどの戦術や戦略がありませんでした。
 

図4 ガルリ・カスパロフ (Wikipediaより)

図4 ガルリ・カスパロフ (Wikipediaより)


 

1997年5月3日カスパロフとディープ・ブルーは再び対戦しました。結果は1勝2敗3引き分けで、僅差でしたが初めて人類はコンピューターに敗北した日となりました。前回と違いディープ・ブルーには強い味方がいました。チェスのグランドマスター ジョエル・ベンジャミンがディープ・ブルーに過去100年のグランドマスターたちのプレーなど膨大なデータベースを教えたためでした。
 

目的を持った練習

自分の能力を高めるためには練習を漫然と行っていては効果がありません。明確な目的をもって集中して行う「目的のある練習」が必要になります。
はっきりとした具体的な目標は以下の3点が挙げられます。

  • 短時間で集中する
  • 結果に対するフィードバックは必ず行う
  • 居心地の良い領域(コンフォートゾーン)から飛び出す

 

はっきりとした具体的な目標とは

1回の練習ごとに計測できる具体的な目標を設定します。さらにその目標を達成する練習は、集中できるように部分部分に分解して行います。

  • 短時間で集中する
  • 長時間は集中できない、集中するためには時間を区切る
  • 結果に対するフィードバックは必ず行う

などを意識的に行います。
どこができていいて、どこができていなかったのか、具体的なフィードバックを受けて修正しなくてはいけません。
 

居心地の良い領域(コンフォートゾーン)から飛び出すこと

自分ができるレベルで繰り返し行っても技術は向上しません。むしろ下手になっている可能性があります。ギリギリでできない程度の厳しい練習を行い、自らコンフォートゾーンから脱出しなければ、次のレベルに達することはできません。
 

壁に当たったら

別の方向から攻めてみましょう。この時、コーチや指導者の存在が役に立ちます。本人では気づかない別のアプローチを指摘してもらえます。
バイオリン教師のドロシー・ディレイは、教え子が音楽祭で演奏する曲をもっと速く弾きたいと言った時にメトロノームを用意しました。最初はメトロノームを生徒が十分弾けるペースにセットしますが、徐々にメトロノームのスピードを上げていき、生徒が完璧に弾きこなしたらさらにスピードを上げて、目標のスピードを実現させました。
 

実践的な訓練「トップガン」

1968年ベトナム戦争で、海軍はミグ戦闘機を乗りこなす北ベトナム軍のパイロットとのドッグファイトを繰り広げましたが、結果は芳しくありませんでした。ミグ戦闘機2機を打ち落とすのに自軍の戦闘機を1機失っていたからです。
 

対策のため、海軍戦闘機戦術教育プログラム通称「トップガン」が開始され、各部隊の優秀な戦闘機乗りを訓練生として招集しました。教官として海軍のトップパイロットが配属され、対戦相手のミグ戦闘機役を務めました。訓練はミサイルや銃弾を発射しない点以外は実戦さながらの激しいドッグファイトでした。
 

図5 戦闘機訓練

図5 戦闘機訓練


 

当初、訓練生は教官にコテンパンにやられてしまいます。空から降りた後、教官は訓練生に「飛んでいる時に何に気づいたのか」「その時どうしたのか」「他にどんな選択肢があったのか」などと質問をして、時にはフィルムやレーダーの記録を使ってドッグファイトで起きたことを説明しました。そして「どこを変えればいいか、どんなことを考えるべきか」アドバイスをしました。
 

こうしてドッグファイトの課題に気づいた訓練生は、質問を投げかけることで教えられたことが自然に身に付き、翌日の訓練に反映できるようになります。繰り返すうちに、自らで状況に的確に対応できるようになっていきました。この訓練生が戦争の舞台に戻り、更に部下のパイロットを訓練することで、終戦直前には自軍の戦闘機1機失うのに対しミグ戦闘機12.5機を打ち落とすまでになりました。対してトップガンの訓練をしなかった空軍の戦果は、依然として奮わないままでした。
 

スポーツでの目的性訓練

卓球の全英チャンピオンでシドニーオリンピックにも出場したマシュー・サイドは、19歳の時、近くに越してきた中国の優れた卓球選手「陳新華」のコーチを受けました。

陳はボールをバケツに入れ、マシューに向けて様々な角度から様々な速度で次々とボールを打ち、マシューにレシーブさせました。それもマシューが拾えるか、拾えないかというギリギリのところに。これによりマシューのスピード、予測能力、敏捷性、タイミングの限界は徐々に向上しました。その能力をより向上させるため、卓球台も1.5倍に広げ、さらに素早い動きを求めました。マシューは5年間で飛躍的に能力が向上し世界ランキングも上昇しました。

さらにあらゆるボールに対して全く同じ打ち方を習得するように指示を受け、2ヶ月の間それに取り組みました。これはフィードバックの仕組みをつくることになり、彼の調子が悪くなった時にフォアハンドの打ち方を見ればどこが悪かったのか、直ちにわかるようになりました。
 

NBAのセンター ジョン・アミーチは、ペンシルバニア州立大学時代、相手チームを6人にして常に2人からマークされて練習しました。ブラジルのサッカー界はフットサル出身の選手が多く在籍します。フットサルはコートが狭く、人が密集するため、素早い判断、完璧なパス、ボールコントロールが要求されます。しかも1試合でボールに触れる回数が通常のサッカーよりも多いので、練習量も自然と多くなります。このように、スポーツでの目的性訓練、つまりコンフォートゾーンから抜け出すための限界的練習は、様々な状況に合わせた方法があります。
 

才能に頼るとダメになる

1978年スタンフォード大学教授のキャロル・ドゥエックは、小学校5,6年生150人に知性に対するアンケートを行い、「知性は遺伝子に備わっている」と考える子供と「知性は努力が変えられる」と考える子供に分けました。彼らにいくつかの問題を出したところ、最初のグループは難しい問題になると「僕はあまり利口じゃないから」とそれまではうまく解けていたのにも関わらず、そこで投げ出してしまいました。

後のグループは失敗を何のせいにもせず、失敗したことに焦点を合わせずに問題を解き続けました。その結果、より高度なやり方で問題にチャレンジし、数人は問題を解くことができました。この調査では、問題に取り組む姿勢が大きな差となりました。
 

1997年マッキンゼーは「ウォー・フォー・タレント(人材育成競争)」という報告書を発表しました。ビジネスで成功と失敗を分けるのは専門分野の知識より論理的思考能力であること、これは元々備わっていた才能によることを解説しました。

テキサス州の総合エネルギー取引会社エンロンは、マッキンゼーに多額のコンサルタントフィーを払い、マッキンゼーの才能信仰にのめり込んでいきました。こうしてエンロンは最高のビジネススクールから才能のある人材を集め大きな権限を持たせました。この才能を崇拝する文化により、社員は常に非凡な才能があるように振舞わなければならず、才能のない人間に見られることを非常に恐れました。その結果、失敗は隠されてしまい、巨額の不正経理・不正取引による粉飾決算が明るみに出て、2001年12月に破綻しました。
 

アクティブ・ラーニングの可能性

3人の研究者 ルイス・デロリエ、エレン・シェル―、カール・ワイマンは、ブリティッシュ・コロンビア大学の1年生の物理学の授業で、従来の講義形式とアクティブ・ラーニングとを比較しました。
 

図6 アクティブ・ラーニング

図6 アクティブ・ラーニング


 

アクティブ・ラーニングのクラスでは、限界的練習を応用し、より積極的に学生に考えさせました。授業前に学生に教科書の課題部分を読ませ、パソコンで小テストを行います。小テストのレベルは講義よりやや高くし、学生に考えさせる部分もありました。授業では小グループ単位で問題について討議し、教師が学生の質問に答え、議論に耳を傾けました。

その後、理解度を測るため小テストを行ったところ、伝統的な授業を受けた学生の正答率が41%に対し、アクティブ・ラーニングのクラスの正答率は74%でした。しかもアクティブ・ラーニングを担当したのは指導経験のない大学院生とポスドク生でした。
 

社会人はどんどんダメになる

プロスポーツや将棋、音楽など個人の能力が重要な職業では、限界的練習により技術を高めることが重視されています。
しかし、なぜセールスや企画、開発、製造などのビジネスでは、各々の能力を高めようしないのでしょうか。
これまでは、以下の誤解が存在しました。

  • 能力は遺伝的特徴(才能)により決まる
  • 仕事の出来る人はできる、できない人は訓練してもできないのか?

  • 継続すれば徐々に上達する
  •  目的を持って仕事をしなければ、むしろ低下するのではないか?

  • 努力すれば上達する
  •  「営業は頑張れば数字を上げられる」、いや正しく努力しなければ数字は上がらないのではないか?
     誰か「正しい努力」を教えているのか?

 

特に社歴の長い社員は、それまで経験した実務から離れ、管理業務に就くことが多くあります。管理業務に必要なスキルは何か、そのスキルを身につけるためにはどのような訓練が必要か、必要なスキルが身に就いたかどうか、どのように判断するのか、これらを備えるための適切な仕組みがなければ、優秀な作業者が管理能力のないまま管理者となり、組織全体の能力が低下してしまいます。
 

こういった問題には、研修やセミナーは効果がありません。

トロント大学のディブ・デービスは、医師の技能を改善するための研修、セミナー、シンポジウム、医療ツアーなどを調査しました。その結果、最も効果が高かったのはロールプレイ、ディスカッションなどインタラクティブな訓練で、講義中心の研修は最も効果が低いと分かりました。
 

  1. 対策例 社内
  2. 社内での会議で報告する報告者のプレゼンに対し、全員がフィードバックを行うようにします。報告者のプレゼンを改善するなど、仕事をしながら学習することができます。

  3. 対策例 トップガン流練習法
  4. 実際のドッグファイトで遭遇しそうな状況を模したプログラムをつくり、その中で何度も練習し、フィードバックを受けられるようにします。

  5. マネジャーのトップガン
  6. 実際にマネジャーが遭遇する様々な問題、課題を模したプログラムをつくり、研修で問題や課題を解決し、模擬指導します。そして、そのフィードバックを受けられるようにします。

  7. セールスのトップガン

研修で自社のセールスに必要な知識、手法を学習します。その後、実際に教官と一緒に顧客にセールスに行き、フィードバックを受けられるようにします。
 

自らをコンフォートゾーンの外に置く限界的練習は、精神的に大変きついため、時間を短くし、レベルは徐々に上げていくようにします。そうすることでだんだんときつさが和らいで、練習を完遂できるようになります。

自分がレベルアップしていくことが分かるようにするのも、練習を継続させるためには非常に効果的です。レベルアップしていることが分かれば、モチベーションが高くなります。仕事のスキルがどれだけ上がったか、限界的練習を努力した結果どうなったか等、誰でも分かる仕組みが必要です。
 

湧いてくる疑問

ここまでの議論には5つの異なった性質の違いがあります。

  1. 種としての人間と、他の動物の違い(共通点) 
    例 チンパンジーや他の動物との比較

  2. 集団
  3. 人の集団とその構成員として、他の集団との違い
    例 民族、国家、部族、時代による文化や価値観の違い

  4. 生物としての個人の違い1
  5. 身長、体重など身体的な特徴、適応性障害、自閉症、サヴァン症候群など

  6. 生物としての個人の違い2
  7. ジェンダー、セクシュアリティ、パーソナリティ、サイコパスなど心の問題

  8. 人として後天的に習得するもの

価値観、忍耐強さ、前向きさ、実直さ、誠実さなど
 

このうちで①~④は人が変えようと思っても変えられない性質です。②は変えることは可能ですが、すぐに個人で変えられるものではありません。

しかし⑤は本人次第で変えられます。

個人が成功するために必要な能力は、③④なのか、⑤なのか、それによりその後の行動は大きく変わります。
また企業・組織に必要な能力も、③④なのか、⑤なのか、それにより企業・組織の人材開発も全く変わってきます。そして⑤であるとすれば、その開発はスポーツなどに比べれば、ほとんどされていないと言えるのではないでしょうか。
 

参考文献

「子育ての大誤解」 ジュディス・リッチ・ハリス 著 早川書房
「人間の本性を考える (上・中・下)」スティーブン・ピンカー 著 日本放送出版協会
「天才を考察する」 デイヴィッド・シェンク 著 早川書房
「非才」 マシュー・サイド 著 柏書房
「頭のでき」 リチャード・E・ニスベット 著 ダイヤモンド社
「超一流になるのは才能か努力か?」 アンダース・エリクソン 著 文芸春秋
「なぜ人類のIQは上がり続けているのか?」ジェームズ・R・フリン著 太田出版

 

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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これからの企業はどんな組織、どんな人材が必要だろうか?その3 https://ilink-corp.co.jp/7408.html https://ilink-corp.co.jp/7408.html#respond Wed, 26 Jan 2022 01:12:14 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=7408 No related posts. ]]> これまで日本企業は、終身雇用、年功序列賃金に代表されるように、企業が共同体として目標に向かって邁進することで成果を上げてきました。

しかし今日事業環境は大きく変化し、これまでとは異なったやり方が求められるようになってきました。そうなると社内で経験を積んだ人材が大きな成果を上げることは限りません。

急速に進歩するITによって事業環境が大きく変化する今日、これまでと同じような組織や人材に対する考え方でよいでしょうか?

これに対し、グーグルやアマゾンに代表される新興のテクノロジー企業(以降、テクノロジー企業)は、それまでとは異なった人材採用や企業文化・組織を採っています。
 

図1 組織・人材マネジメントの変化

図1 組織・人材マネジメントの変化


 

「これからの企業はどんな組織、どんな人材が必要だろうか?その1 ~グーグル、アマゾンと日本企業の比較~」では、テクノロジー企業が求める傑出した人材と、採用活動について述べました。

また

「これからの企業はどんな組織、どんな人材が必要だろうか?その2」では、傑出した人材を活用するための組織、企業文化を日本企業と比較して述べました。

今回は、傑出した人材の育成と評価について日本企業と比較して述べます。
 

テクノロジー企業の社員のやる気と能力を高める方法

テクノロジー企業が採用を重視するのは、傑出した人材の能力は、入社後の教育で高めることが難しいからです。それでもグーグルは入社後の教育プログラムがあります。

訓練より採用

テクノロジー企業が求める傑出した人材は、ランクの高い学校を出た人材でなく、

高い創造性と意欲を持ったスマートクリエイティブ

です。彼らは様々なことに関心を持ち、

自ら課題を見つけ、学び成長する「ラーニングアニマル」

でもあります。
 

そうじゃない人材を採用後に教育訓練を重ねても、傑出した人材に変わるのは困難です。そのためテクノロジー企業は教育より採用に力を入れています。これについてラリーペイジは以下のように語っています。
 

経営者をしていて意外だったのは、プロジェクトチームにとんでもない野心を抱かせるのは、とても難しいということだ。どうやらたいていの人は型破りな発想をするような教育を受けていないらしい。現実世界の現象から出発し、何ができるか見定めようともしないで、最初から無理だと決めてかかる。

グーグルが自律的思考の持ち主を採用し、壮大な目標を設定するためにあらゆる手を尽くすのはこのためだ。

適切な人材と壮大な夢がそろえば、大抵の夢は現実になる。たとえ失敗しても、きっと重要な学びがあるはずだ。

そしてたいていの会社はこれまでやってきたことを継続し、多少の斬新的な変化を加えるだけで満足している。だが、斬新的なアプローチではいずれ時代に取り残される。とくにテクノロジーの世界では斬新的な変化ではなく、革命的な変化が起こりやすいからだ。だから将来に向けて、あえて大胆な賭けに出なければならない。

グーグルが自動運転車や気球を使ったインターネット構築といった、一見すると荒唐無稽な事業に投資するのはこうした理由からだ。

いまでは考えられないが、ぼくらがグーグル・マップを始めたときも、すべての道路の写真を含む世界地図をつくるという計画は不可能という見方が大勢を占めていた。

過去が未来の参考になるとすれば、こんにちの大胆な賭けは数年も経てばそれほど突飛な試みには思えなくなるだろう。

 

ボトムアップ

傑出した人材を厳選して採用するテクノロジー企業ですが、それでも期待する成果を出せない社員もいます。

グーグルは、仕事の成果が下位5パーセントに属する社員には、この状況を伝え自らの能力を高めることを求めます。実は、上位5%に属する社員の能力を教育によって高めるのは容易ではありません。しかし下位5パーセントに属する社員の能力を教育によって引き上げることは十分可能なのです。つまり「できない社員こそ積極的に教育している」のです。

その教育方法は、同じ課題を何度も繰り返し与えるやり方です。

反復と集中によってその社員の特定の能力を引き上げます。

(これはプロスポーツ選手の練習と同じです。)
その結果、能力が向上し高い成果を出せるようになります。講師にはその業務に対し十分な能力を持った社内の人材を充てます。講師も教えることで自らの能力を高めることができます。
 

日本企業の企業文化と社員のモチベーション

これに対し、年功序列賃金と終身雇用を前提とした日本企業は、テクノロジー企業とは異なる企業文化があります。これが社員のモチベーションにも影響します。

ぶら下がり社員

年功序列賃金の場合、勤務年数が長くなると仕事の成果よりも報酬が上回るようになります。従って例え低い評価でも転職せず会社に残った方が収入は高くなります。(むしろ年齢が高くなれば転職自体が難しい。)

そのため賃金に見合った十分な成果が出せなくても組織に残るために、表面上はやる気を見せます。有給休暇も取らずに、長時間働いて周りにやる気や努力している姿を示します。あるいは人目につくところで仕事の成果を訴え、自らの評価を高めようとします。こうして成果が低くても、

やる気や努力を示して高い賃金を維持する「ぶら下がる社員」

が増えてきます。
 

前向きでない社員

日本企業の社員のやる気を調査した結果、「自ら何かに取り組む前向きなやる気」は欧米に比べて少ないことがわかりました。日本企業の社員のモチベーションは「やった方が良い仕事、やらなければならないからやる仕事」など、どちらかといえば消極的なものが多くを占めていました。
 

成果主義と能力と主義

本来の成果主義は、仕事の成果に応じて対価を払う仕組みです。成果が多い社員は報酬が高く、成果が少ない社員は報酬も低くなります。その点で成果主義は公平な制度です。

しかし多くの日本企業の成果主義制度は、合理的な基準で成果を定量的に評価せず、やる気や努力などの情意項目を加味しています。そのため評価者の見方や感情も結果に大きく影響します。
 

この成果主義に対して能力主義というものがあります。この能力は、目的の達成に貢献する職務遂行能力(職能)です。しかし「能力」の評価は難しく、実際に評価する際は、顕在能力(営業成績等の具体的な業績)に加えて、潜在能力(周りの期待)、知識、態度(性格・意欲)、経験などを加味して総合的に評価します。

日本企業の人事考課制度の多くがこのようになっています。そしてこういった評価では、あらゆる面でバランスの取れた人材の評価が高く、例え特定の分野で突出した能力があっても潜在能力、知識、態度、経験が低ければ低い評価になります。

激変する事業環境の変化に対応するのに

正解のない問題に取り組むのにバランスの取れた秀才ばかりで良いのだろうか

という気もします。実際に企業の人事考課表を見ても、努力している、積極的に、誠実に、といった定性的な記述も多く、これは評価者の見方や考え方(さらに好き嫌い)で大きく変わってしまいます。

さらに中高年になると、加齢によって能力が低下するという先入観もあります。しかし実際は頭脳労働は加齢による能力低下は少なく、学術研究などでは高い成果を上げる高齢の研究者もいます。従って真の能力主義であれば中高年は若い社員よりも高い戦力なのです。しかし

年功序列による高い賃金が中高年の活用の場を奪う

結果になってしまっています。
 

革新的な取組のできる人材

「これからの企業はどんな組織、どんな人材が必要だろうか?その1 、その2」で述べたように日本企業は、比較的均質な秀才の集団です。しかし事業環境が大きく変化する今日、企業がイノベーションを起こすには飛びぬけた発想や能力を持った人材が必要です。

しかしこういった人材は、他の面の能力は極めて低いことがあります。エジソン、アインシュタイン、チャーチルなどは、学校時代は落ちこぼれや劣等生でした。他にも優れた科学者や芸術家には、異常性が高く社会に適応できない人も多くいます。

ある面で傑出した能力があっても、社会的に不適応であれば、学校教育の段階でこぼれ落ちてしまいます。そのため就職活動の市場にそもそも出てきません。
 

テクノロジー企業の評価制度

こういったテクノロジー企業はどういった評価制度なのでしょうか?
 

報酬と評価を切り離す

テクノロジー企業において傑出した人材は、一般社員の何十倍もの成果をもたらします。そのためトップレベルの成果を上げた社員にはトップレベルの報酬が支払われます。

一方、人事評価制度は、社員の能力を伸ばすために運用されます。そこで社員の能力を伸ばすための評価制度と、報酬を決定するための制度は切り離すべきなのです。

これまで多くの企業の業績管理は、規則に基づく官僚的な手続きになってしまっています。その目的は業績の改善よりも社員の管理です。そのため社員からもマネジャーからも嫌われます。

例えばジェネラル・エレクトリック(GE) やマイクロソフトは、業績下位数パーセントに属する社員は解雇されます。ランク&ヤンク(昇進と解雇)という厳しい制度です。

これは社員にとっては「誰かが昇進すれば誰かが辞めさせられる」というゼロサム構造です。

その結果、社員同士の足の引っ張り合いが起きます。
図6 社員のランク付け

図6 社員のランク付け

そこでグーグルは従来の人事考課制度を廃止してOKRを導入しました。
 

格差の大きい報酬

グーグルの報酬四つの原則

  1. 報酬は不公平に
  2. グーグルの計算では、上位5%のプログラマーは平均的なプログラマーより23,000ドル、上位0.3%のプログラマーは平均的なプログラマーより50万ドルも多くの価値を創出します。そのためそれに見合った報酬を与えます。優秀な社員に与えられるストックオプションが100万ドル、またそれ以上の1万ドルのこともあります。

  3. 報酬ではなく成果をたたえる
  4. 愛を伝え合う環境づくり
  5. 社員が1人1回175ドルまでのボーナスを社員に支給できる仕組みがあり、社員が自分たちの業務に貢献した社員にギフトを送ることができます。

  6. 思慮深い失敗に報いる
  7. 例えプロジェクトが失敗に終わっても、担当者が責任を取るなど差別的な処遇を受けることはありません。やるべきことを間違えれば、当事者がどれだけ努力しても失敗におります。大事なのは失敗を責めるのでなく、その失敗を次にどう生かすかです。

 

周りからのフィードバックを生かす

グーグルでは部下の能力向上のために、同僚や上司からの積極的なフィードバックを推奨しています。本人に対して改善してほしい点、改めてほしい行動を積極的に本人に伝えます。この成長のためのフィードバックは、人事評価とは切り離されています。
 

アマゾンでは360度評価を取り入れ、直属の上司に加え同僚や部下、仕事で関係した社内の他の部署の担当者など様々な関係者からのフィードバックが評価に加味されます。評価を依頼された側は、逆に評価を頼むこともあるために真剣に評価します。
 

グーグルは前述のように業績管理をやめてOKRに切り替えました(OKRは目標管理のことで、詳しくは後述します)。3か月毎に会社の OKRを設定します。社員は会社のOKRの方向に合うように自分のOKRを設定します。CEOをはじめとして全社員のOKRを自社のイントラネットで見ることができます。お互い何を目標としているか知ることで、スムーズなコミュニケーションと高い協力関係が得られます。

実際グーグルはOKRを導入したことで業績が改善されました。OKRは目標と成長のためのフィートバックであり、報酬の査定とは切り離されています。
 

360 度評価はアマゾンでも取り入れられています。直属の上司に加えて、同僚、部下や仕事で関係した社内の他の部署の担当者などから、360度のフィードバックが加味されます
 

1対1のミーティング

インテル、グーグル、ネットフリックス、アマゾンなどでは上司と部下との1対1のミーティングを重視しています。 アマゾンでは一週間に一回30分程度の1on1 (ワンオンワン) と呼ばれる部下との定例ミーティングを行うことが義務になっています。

このように1対1のミーティングを重視するのは、大勢の前ではなかなか人は問題を打ち明けないからです。1対1のミーティングになって初めて部下の深刻な問題を聞いたということもあります。

コミュニケーションや情報の流れを良くするには、部下とのクローズな中で1対1のミーティングが不可欠です。

図7 1対1のミーティング

図7 1対1のミーティング


 

海外から導入された評価制度

元々成果主義は欧米の手法であり、コンサル会社などが欧米でのシステムや手法を導入することで、成果主義の他にもMBO、OKR、360度評価などが日本企業に導入されています。一方欧米企業と日本企業では、企業文化が異なるため欧米の手法を導入することで想定外の問題が起きることもあります。
 

【MBO (Management By Objectives】
日本でも行われている目標管理制度で、社員は1年毎に業績目標を決め、1年後に達成度を評価します。目標設定は本人と直属の上司で行い、達成度の評価も本人と上司が行います 。目標は業務上の成果が目標になることが多く、そのため達成度は100%が求められます。しかも多くの会社ではMBOの達成度は「昇進や報酬」に影響します。
 

【OKR (Objective and Key Results) 】
OKRも目標管理制度と同様に最初に目標を設定し、期間終了後に結果を評価します。
MBOとの違いは、
・目標設定と評価が四半期ごとに行われる
・頑張っても達成度が60%とか70%にしかならない高い目標を設定する
ことです。
そうすることでこれまで以上の高い成果を引き出すことを狙います。このOKRはインテル、グーグルなどが採用しています。OKRは達成度が明確にできる必要があり、以下に示すSMARTな目標でなければなりません。

  • 具体的 (Specific)
  • 誰でもわかる、明確で具体的な目標

  • 測定可能 (Measurable)
  • 目標の達成度は数値化、定量化され誰でも判断できる

  • 達成可能 (Achievable)
  • 目標は現実的で達成可能である

  • 経営目標に関連した (Related)
  • 経営目標に関連した組織にとって達成する意味のある目標

  • 期限がある (Time-bound)
  • いつまでに達成するのか、期限が設定されている

 

目標の達成は、個人だけでなくチーム及び会社組織全体に影響が及ぶこともあります。そうなると目標の達成は個人の力だけではできないため、目標達成と報酬は切り離して考えます。
OKRを効果的に運用するには、適切な評価と改善のためのフィードバックが不可欠です。これには1対1の面談も含まれます。
 

【360 度評価】
アメリカの企業で採用されている人事評価の方法で、上司以外にも他のマネジャーや同僚などの関係者が1人の評価を行って評価の公平性を高める方法です。日本でも公平性を高めるために導入する企業が増えています。部下が上司を評価したり、他の上司が評価することで今まで得られなかった情報が得られ、より公平な評価が実現します。

日本企業で360度評価を導入している企業は20%、かつて導入していたが今はやめている企業が17.7% ( 日本の人事部人事白書2018より)
 

360 度評価のデメリットとして、上司が部下から評価されるため、部下に対し厳しい態度がとれなくなる点があります。
あるいはお互いが良い評価になるように事前に談合したり、気に入らない特定の社員に対し結託して低い評価をつけたりといった不正の問題もあります。

一方、日本では社員をスペシャリストでなくゼネラリストとして能力を評価する傾向があります。そのため360度評価で、多くの社員から低い評価がついてしまった場合、挽回は困難です。(ゼネラリストとしての多面的な能力は簡単には向上しないため)
「人としてダメ」と烙印を押されたことになり、低い評価がついた社員のモチベーションは大幅に低くなります。

このように360度評価に限らず評価制度の問題点は、例え意欲が高い社員でもネガティブな評価がつくと、自己評価が下がってしまいモチベーションも低下してしまう点です。
 

日本企業の成果主義の失敗

成果主義はバブル崩壊後多くの企業に導入され、現在も多くの企業で使われています。しかし成果の比重を少なくするなどして制度を年功的なものに戻している企業もあります。その原因を以下に挙げます。

  • 成果を定量的に測定できず、そのため情意項目が多く、恣意的になっている
  • 賃金の引き下げは容易でないため、業績を的確に賃金に反映できない
  • 閉ざされた社会では誰かに高い評価をつければ誰かが低い評価をつけられるというゼロサム構造になってしまうため、社員同士で足の引っ張り合いが起きてしまう
  • 目標に対する達成度が評価となるため100%の達成度になるように低い目標を設定する

 

従来の人事評価制度は、評価が賃金の査定と昇進の両方に影響するため、評価が低いと給与だけでなく社内の地位や立場にも影響します。しかも評価項目に定量的な項目以外に、努力や姿勢いった情意項目もあるため、例え成果が十分でも頑張っている姿も見せなければ良い評価が得られません。
 

頑張っている姿を評価することは、グーグルは

目的よりもプロセスを重視するとずる賢い社員がシステム抜け目なく利用する余地が生じる

と考えています。実際同社では査定の時期が近づくと

「いかに自分が頑張っているか」

を上司に訴求する社員がいました。
 

人事評価のコンサルタントや人事評価システムの会社は、「適切な評価をおこなうことで組織の成果を高め、社員のやる気を高める」と主張します。しかし人事評価は社員のやる気を本当に高めるでしょうか?
 

本人が努力すれば評価が上がり、努力が少なければ評価が下がれば、モチベーションになります。人がSNSで記事や写真を投稿するのも、注目される記事や写真を上げれば「いいね」やフォロワー数が増えるからです。

努力すれば人事考課は上がるのでしょうか。人事考課が今まで述べたような仕事の成果だけでなく能力まで含んでいる場合、能力は短期間では上がらない(正確には同僚を超えない)と考えます。

そうであれば適切な評価は社員のやる気を引き出すでしょうか?

 

そう考えると能力と昇進(地位)と報酬(成果)は分けた方がよいかもしれません。

図8 昇進と報酬を分ける

図8 昇進と報酬を分ける

頑張っているはマチガイ

日本電産の永守会長は、テレビのインタビューで「今までのやり方に対し大反省をしている」と語っていました。新型コロナウイルスのためテレワークを推進したところ、大きな成果を出す社員がいました。会社に行かないことで時間が多く取れるようになり、今までより多くの電話を顧客にかけることができて受注が増えました。

永守会長は今までは会社での「社員の頑張りを高く評価」していましたが、今後は頑張りよりも結果を重視するような評価に変えると語っていました。
 

給料まで自分で決める会社

情報処理システムの製作・販売を行っている中国のある会社は、営業マンが自分の勤務時間や給与を自分で決めます。営業マンひとりの毎年の売上から仕入、自分の給与、経費などを引いた残りが利益になる仕組みです。給与を高く設定して目標の売上を伸ばす社員もいれば、低い給与で目標の売上を下げる社員もあります。同社では、多くの社員がこの制度に満足し定着率も高いそうです。
 

テレワークでの評価

新型コロナウイルスのため多くの企業がテレワークを導入しました。テレワークでは上司は社員の仕事ぶりを直接見ることができません。今まで評価していた「頑張っているかどうか」がわかりにくくなりました。これは今まで仕事の成果物を定量的に評価する仕組みがなかったことも原因です。
 

アメリカでは在宅勤務やテレワークを取り入れている企業は、2013年は58%でしたが2017年には62%に増加しました。常時在宅で勤務するフル在宅勤務の割合も2013年の20%に対し、2017年は23%になりました。(全米人材マネジメント協会 SHRM の調査)
 

アメリカのオートマティックという会社は57カ国に600人以上の従業員がいますが、全員がフル在宅勤務で働いています。日本でも東京のシステム開発会社ソニックガーデンは、社員のフル在宅勤務を認めていましたが、2016年にはオフィスを撤廃し全社員リモートワークに切り替えました。
 

その一方で、2013年にはアメリカのヤフーが、2017年にはIBMが在宅勤務を禁止しました。またグーグルでは社員はオフィスで顔を合わせて仕事をすべきという考えです。
 

一般的な在宅勤務の問題点は

  • 上司は部下の働きぶりがわからない、また成果に気づきにくい
  • オフィスのように部下の働きぶりを見ることができないため、仕事の過程を評価しにくい
  • 上司や同僚に簡単に相談できないため生産性が低下
  • 聞くことに時間と労力がかかるため、聞けばわかることが聞けずに生産性や仕事の質が低下する

 

他に勤務時間管理の問題や仕事とプライベート時間の区別の問題などがあります。

またフル在宅勤務になると、

  • チームメンバーとの人間関係の構築
  • 社員の育成や教育

の問題も生じてきます。
 

むしろテレワークは、これまで会社という共同体の中で仕事をしてきた社員の意識が希薄になります。そして結果よりも頑張りを認めてきた今までの評価が困難になります。

また多くの部下に指示をしたり、会議で結論を出したりすることは、上司の承認欲求を満足させましたが、テレワークではそれも希薄になります。頑張りや人間関係、社内政治といった衣がなくなり、本当の成果が評価されます。

部下の育成も丁寧な指導や細かなフォローはできず、部下自身も自立することが必要です。そういった点でテレワークを推進するには、今までの企業文化を大きく変える必要があります。
 

若者たちの承認欲求を高める

現在の若者は

「会社のため」や「組織のため」

という意識は希薄です。

しかし自分がやっていることを認められたいという気持ちは強く持っています。

その点SNSを見ても若者は強い承認欲求わ持っています。職場でも努力してやる気を見せます。そこで彼らに

「自分が認められるために何をしなければいけないのか」

目標を適切に設定することが重要です。
 

「自分のため」を指導する

青山学院大学の原監督は選手に対し、主語を「チームの為に」と言わずに「君にとって」として指導しています。

「こういう練習をして、こういう選手になった方が社会人になってからもマラソンを続けるという意味では、君にとって良いはずだ。チームにとってじゃない。君にとって良いんだ」

こう話して本人も納得すれば、彼らは頑張ります。
 

日本ハムファイターズの栗山監督は「僕はもうチームの優勝を目標に掲げるのをやめた」と語っています。「選手個人の最高の成長をゴールに考えている」とそうすると選手たちも「ああ、監督は俺のことをちゃんと考えてくれているな」と理解して頑張るようになります。その結果がチームの優勝だと栗山監督は考えています。
 

健全な野心を持たせる

Adobe の共同経営者ウォーノック氏はインタビューで次のように語っています。

「プログラマーというのはたいてい市場をあっと言わせるのを楽しみに働いているんですよ。こいつはすごい!100万人もの人間が俺の書いたコードを使うぞ!って」
(世界を動かす巨人たちより)
 

その意味では過去に偉大な業績をあげた人たちには野心家が少なくありません。そしてこういった健全な野心が良質な努力となり偉大な業績を生み出します。「認められたい」という若者の気持ちをうまく努力に繋げば優れた業績を実現できます。

近年の日本の若いアスリート達が世界でトップクラスの成績を収めています。彼らは、スポーツの世界で自分の努力が適切に認められれば、他の楽しみは一切顧みず惜しみない努力を長年継続します。

そこで優れた指導者は、彼らのそういった面をうまく引き出して、自然と努力するスタイルを作り上げています。

はたして企業はこういった若者たちの努力を仕事に結びつけることができているでしょうか?

ひょっとするとヒントはテクノロジー企業の取組にあるのかもしれません。

 
 

参考文献

「私たちの働き方とマネジメント」 エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ 著 日本経済新聞出版社

「ワーク・ルールズ!」 ラズロ・ボック 著 東洋経済新報社

「アマゾンの絶対思考」 星健一 著 扶桑社

「ネットフリックスの最強の人事戦略」 パティ・マッコード 著 光文社

「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」 アンドリュー・S・クローブ 著 日経BP社

「ホンネで動かす組織論」太田肇 著 ちくま新書

「外向きサラリーマンのすすめ」 太田肇 著 朝日新聞社

「選別主義を超えて」 太田肇 著 中公新書

「虚妄の成果主義」 高橋伸夫 著 日経BP社

「できる社員は『やり過ごす』」 高橋伸夫 著 文芸春秋
 

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