社会の変革 | 原価計算システムと原価改善コンサルティングの株式会社アイリンク https://ilink-corp.co.jp 数人の会社から使える原価計算システム「利益まっくす」 Sat, 06 Sep 2025 06:15:58 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.7.4 https://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2021/04/riekimax_logo.png 社会の変革 | 原価計算システムと原価改善コンサルティングの株式会社アイリンク https://ilink-corp.co.jp 32 32 なぜ経済は成長し続けたのか?これからどうなるのか?その3 ~格差の拡大とイノベーション~ https://ilink-corp.co.jp/17137.html https://ilink-corp.co.jp/17137.html#respond Wed, 06 Aug 2025 06:22:17 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=17137
【コラムの概要】

経済学者ゴードンは、20世紀の経済成長は特別な期間であり、今後は低成長が続くと主張。製造業の自動化やアウトソーシングで中間層の仕事が減少し、格差が拡大していると指摘します。また、IT革命は生産性向上に限界があり、AIが仕事を破壊しても新たな雇用を生み出していないため、政府の関与が不可欠だと論じています。

『アメリカ経済 成長の終焉』の著者であるロバート・J・ゴードンは、20世紀の100年間、経済が大きく成長したのは特別な期間であり、今後はこれまでのような成長は望めないと主張します。

なぜ20世紀の100年が特別な期間だったのかについては、「なぜ経済は成長し続けたのか?これからどうなるのか?その1」で、イギリスの産業革命とアメリカの工業化、戦後のアメリカの黄金期について述べました。

また、「なぜ経済は成長し続けたのか?これからどうなるのか?その2」では、新興国が貧しいままである理由や、日本が先進国の仲間入りができた理由について述べました。

今回は、これからどうなっていくのか、格差の拡大とIT・AIの寄与について述べます。

格差の拡大

生産性が向上すれば製品の価格は低下し、より多くの人が多くの商品を手に入れることができます。こうして消費は拡大し、経済は成長します。そして、多額の資本を製造設備に投入すれば能率は上がり、生産性は大幅に向上します。工場で働く人の賃金も上げることができます。

サービス業の賃金の伸び悩み

製造業の賃金が上がれば、それはサービス業の賃金にも影響します。発展途上の低賃金国では、中間層(中流の家庭)でもメイド、門番、運転手など、さまざまなサービスをする人を雇っています。30年前、中国に旅行に行った際、空港のトイレに「トイレットペーパーを渡す係」がいました。それだけのことで人を雇えるほど、当時の中国は賃金が安かったのです。

しかし、経済が成長し賃金が高くなれば、こうしたサービスの価格は相対的に高くなります。賃金が上がれば、相対的に製品の価格は安くなる一方、修理などのサービスは高くなります。こうして経済が成長すれば、壊れた電化製品は修理するより新しく買った方が安くなります。

こうした現象を経済学者ウィリアム・ボウモルは、サービス業の「コスト病」と呼びました。なぜなら、多くのサービス業は生み出す価値が変わっていないからです。ウェイトレスの生み出す価値は、1870年と1970年で同じです。しかし、賃金は大きく違います。ウェイトレスが生み出す価値は変わらなくても、ウェイトレスをやめて他の仕事に就いたときに生み出す価値は違うからです。だから、製造業の賃金が上がれば、ウェイトレスの賃金も上げなければ誰もウェイトレスをやらなくなります。しかし、生み出す価値は変わらないため、雇用主はできるだけ賃金を抑えようとします。

その結果、サービス業は常に賃金に下方圧力がかかります。また、サービス業の多くは労働組合がないか、あっても非常に力が弱いため、労働者は賃金の交渉力がありません。こうした理由から、サービス業の賃金は多くの国で横ばい、もしくは低下しています。

格差の拡大

そして、多くの先進国で雇用が増加しているのはサービス業です。先進国では製造業の雇用が減少し、その受け皿がサービス業です。その結果、ウェイトレスや美容師だけでなく、役所、教育、医療・介護など、あらゆるサービス業で賃金が伸び悩んでいます。

どこが労働力を吸収するのか

一方、世界の人口は増加し続けています。過去30年で世界の労働人口は10億人増加しました。これから30年でさらに10億人増加すると予想されます。この労働力をどうやって吸収するのかが大きな課題です。

製造業は自動化が進み、多くの工程を機械やロボットが行っています。自動車工場でボディをプレスし、溶接するのは自動プレス機や溶接ロボットです。人が主役となるのは最後の組立工程ぐらいです。

こうした工場で働く社員の多くが、生産計画や生産設備を考える事務職(ホワイトカラー)です。ホワイトカラーが高い賃金を得る一方で、かつて中間層を構成していた工場労働者の職は少なくなっています。

アウトソーシングと格差の拡大

格差が拡大するもうひとつの原因は、企業がコア業務以外をアウトソーシングするようになったことです。

「会社はなんのために存在するのか」について、ロナルド・コースは、「市場を通じてすべてやろうとすると手間がかかりすぎるようになったときに会社が組織される」と述べました。

それぞれの仕事を外部の人間に頼むと、仕事をうまくやってもらうための調整作業(取引コスト)がかかります。そのため、すべてを社外に委託すると、調整作業が多すぎて非効率になります。社員を雇用して自発的に仕事をするようにすれば、この取引コストが削減できます。

ただし、その仕事がずっとあればよいのですが、仕事のある時とない時があれば、社員を雇用すると問題があります。仕事のない時、社員を他の仕事に回さなければならないからです。変化の激しい今日、ある仕事がずっとあるとは限りません。しかも、インターネットにより外部に依頼する手間は少なくなり、外部に依頼する取引コストは低くなりました。こうして、仕事の外部への委託や派遣社員が増加しました。アウトソーシング先の社員や派遣社員は賃金が低いことが多く、格差拡大の原因になりました。

アメリカの課題

このサービス業の賃金下方圧力は、アメリカの格差を拡大させています。それは製造業の衰退と関係しています。

黄金時代の終焉とラストベルト

1950年〜1970年のアメリカの黄金時代は、第二次世界大戦中の高圧経済と、その後の高賃金による活発な設備投資によるものでした。1970年代以降、石油ショックもあってアメリカの製造業は苦境に陥ります。

ひとつは、第二次世界大戦中に政府の資金で大規模な投資をした設備が老朽化したことです。また、日本のような新興国が力をつけてきたため、競争力が低下しました。また、復員軍人の大学教育無償化のような教育補助がなくなり、教育の格差が拡大しました。しかも、アメリカは国家が予算を地方に配分するのではなく、地方自治体が独自に予算を獲得します。そのため、豊かな地域とそうでない地域でも、行政サービスや教育に格差が生じました。

格差の拡大

また、戦時中は軍需生産のため、多くの労働者(その多くは黒人)が南部から北部の工業地帯に移住しました。しかし、1980年代に入り、北部の工業地帯の製造業が衰退すると、それに代わる新たな雇用が生み出せませんでした。

アメリカの黄金時代である1948年から1972年の間、所得下位90%の実質所得の伸びは上位10%を上回りました。そのため、格差が縮小しました。それが一転して、1972年から2013年の間は下位90%の所得の伸びはマイナスに転じ、格差は拡大しました。

しかも、1950年から2010年の60年間に、シカゴは25.5%、クリーヴランドは56.1%、デトロイトは62.7%も人口が減少しました。これは、2001年以降、アメリカの製造業の雇用が600万人も減少したためでした。しかも、2009年から2013年の景気回復期に戻った人は60万人に過ぎず、その賃金は2001年より低い水準でした。

こうした格差の拡大によって、大半のアメリカ人はもう豊かではなくなっています。アメリカとフランスで比較すると、所得上位1%を除けば、残りの99%の世帯の所得の伸びは、アメリカよりもフランスの方がはるかに多いのです。

公的債務の上昇

日本では巨額の国の借金(公的債務)が話題になっています。しかし、アメリカも政府債務が上昇しています。議会予算局(CBO)の予想では、2038年には政府債務はGDPの100%に達します。図はアメリカの政府債務総額の推移(2001年〜2025年)を示すグラフです。右肩上がりで一貫して増加していることが分かります。

また、民間企業の設備投資も減少しています。資本ストックに対する純投資の比率は、1950年から2007年の間は平均3.2%です。しかし、2000年以降は低迷し、2013年は1.3%でした。アメリカ全体で見れば、生産性を高めるための必要な投資が行われていないのです。

アメリカの政府債務総額の推移
アメリカの政府債務の対GDP比

日本の課題

では、少子高齢化が進む日本の課題は何でしょうか。

この少子高齢化は、若年者の割合が減少する「少子化」と、高齢者の割合が相対的に増加する「高齢化」が同時に進行していることです。これによって、日本はさまざまな問題に直面しています。

少子高齢化

具体的には以下の問題があります。

  • 働き手の減少や消費の低迷により、経済成長が鈍化し、経済が低迷する
  • 高齢者の医療や介護、年金などの社会保障費が増加し、現役世代や国家の財政に重くのしかかる
  • 若者や女性が都市部に流出し、地方の人口減少、地域社会の衰退

起きなかったシニア消費

2007年には団塊の世代が定年を迎えることで、シニア消費が活発になることが予想されました。しかし、現実にはシニア消費は盛り上がらず、高齢化の進展とともに消費は低迷しています。

多くの日本人は年金生活に入ると、収入が限られることから消費を控えます。この点は、死ぬまでに財産を使い切るイタリアの老人たちと違います。多くの日本人にとって、お金が入ってくるから使うのであって、貯金を切り崩す生活は不安でしかありません。だから、少子高齢化は消費の低迷と経済の縮小をもたらします。

そこで期待されるのは、高齢者の労働参加やイノベーションです。

  • サービス業など低賃金化が進む中、収入を増やすために女性などこれまで働いていなかった層も働くようになりました。また、年金だけで不十分な高齢者の就業も増えています。こうした労働市場に加わる人が増えれば、経済は成長します。こうした人たちは、収入の分消費も増えます。
  • 技術革新やイノベーションを促進することで、生産性向上や新たな製品・市場が生まれることが期待されます。
  • 外国人労働者や留学生の受け入れは、少子高齢化の日本では労働人口が増加し、経済成長につながります。

従って、少子高齢化でも経済成長するためには、イノベーションが重要であるといわれています。本当にイノベーションは成長をもたらすのでしょうか。

イノベーションへの期待

ロバート・J・ゴードンのいう「1870年から1970年までの100年が特別な世紀」だったこの時代、電気、蒸気機関、自動車の発明は、私たちに物質的な豊かさをもたらしました。そして、生活や社会は大きく変わりました。鉄道や自動車は物流を大きく変えました。紡績の機械化により生産性を飛躍的に向上させ、安価になった綿製品が世界中に輸出されました。つまり、技術革新により、人々の賃金が増加するとともに消費が大きく増加しました。そして、こうした機械化を促したのは、イギリスやアメリカの高賃金でした。

TFPとイノベーション

鉄道や紡績の機械化などの新たな技術は、設備投資(資本)に対する効率を高めます。この経済成長は以下の式で表されます。

GDP増加率 = 労働投入量の増加率 + 資本投入量の増加率 + それ以外の要素の増加率(TFP)

ここで

  • 労働投入量の増加とは、国の人口の増加を指し
  • 資本投入量の増加とは、設備投資を指します

一方、人口や設備投資は変わらなくても、産出量(GDP)は増加します。これは技術革新があったためです。これをTFP(全要素生産性)、またはソロー残差と呼びます。

アメリカは、大戦中の大幅な設備投資の貯金が戦後の黄金時代を築きました。日本も戦後は荒廃した国土を立て直すために社会資本の整備に多額の税金を投入しました。しかし、1980年以降は設備投資は減少しています。しかし、設備投資の増加がなくても、技術革新があればGDPは増加します。この技術革新とはイノベーションです。

アメリカのTFPの伸び(成長率)について、ゴードン氏は次のように述べています。

  • 1920年〜1970年:1.89%
  • 1970年〜1994年:0.57%
  • 1994年〜2004年:1.21%
  • 2004年〜2014年:0.40%

つまり、技術革新による成長は、1920年〜1970年の間は経済成長をもたらしましたが、1970年〜1994年は大きく減速しました。1994年〜はITの発達で再び成長しましたが、2004年以降は減速したのです。

IT革命の果実の終焉

なぜIT革命の果実が2000年代前半に終焉を迎えたのでしょうか。 このIT革命についてソローは、「コンピューターは至るところで目にするが、生産性統計には見当たらない」と言います。つまり、コンピューターは食べられないし、どこかに連れていってくれません。1990年に読んでいた雑誌は、2020年にはスマートフォンになりました。しかし、読んでいる内容に変わりはありません。

ICT技術の進歩によって、物流、在庫管理、社内の業務(基幹システム)などは変わり、効率は改善され、これまで以上に多様な商品を短期間に提供できるようになりました。こうした経済効果は、1990年代のICT革命でほぼ出尽くしました。 一方、セルフレジやATMなど、これまで人が行っていた業務が無人化されました。飲食店ではタッチパネルによる注文が一般的になってきました。しかし、これによる生産性向上は、人件費の削減に限られています。今後、飲食店などサービス業でもロボットやAIが導入されても、だからといって顧客が2倍に増えたり、2倍の料理を注文するわけではないのです。

IT技術の進歩の鈍化

そして、ICT技術自体も頭打ちになってきました。これまで半導体の集積度は「ムーアの法則」に従い、2年間で2倍に増加してきました。

ムーアの法則と半導体のトランジスタ数

2010年以降、トランジスタの数の増加率はムーアの法則を下回るようになりました。(それでも増加しているので、半導体の性能自体は向上していますが)また、コンピューターの速度を表すクロックスピードは2003年以降変化していません。理由は、これ以上高速・高性能なコンピューターに対するニーズが減少し、多額の資金を投じて開発するメリットが弱くなっているからです。

AIは価値を生み出さない

このように、第二次産業革命のような大きな経済成長をもたらすイノベーションは、今のところ見当たりません。先進国は今後も低成長が続くと考えられます。その一方、新興国は工業化と輸出による成長モデルに乗り切れず、先進国に追いつけずに終わる可能性があります。

ITによる社会の変化に関して

  • 技術楽観派は、人の仕事はAIに代わり雇用が破壊される。その一方で、生産性が大きく伸びると考えます
  • 技術悲観派は、AIによる急激な雇用の破壊は起きる。その一方で、破壊される雇用と同様に新たな雇用は生まれる。しかし、生産性の伸びは低下すると考えます

今のところ、AIは新たな雇用を生み出すより、雇用を破壊する傾向が出ているようです。オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授は論文「雇用の未来」で、アメリカの雇用のうち、47%が今後10年~20年以内にコンピューター化(AIやロボットによる自動化)されるリスクが高いと述べました。そこで代替リスクの高い職業として、定型的な作業の職種、事務員、レジ係、運転手、警備員、製造業の単純作業などが挙げられました。現実には、むしろ代替リスクが低いとみられていた創造性を必要とする職業、プログラマー、デザイナー、ライター、電話オペレーターなどがAIによって仕事を奪われています。しかも、奪われた仕事に代わるような雇用をAIは生み出していません。

アメリカの失業率は、2009年10%だったものが2016年には5%まで低下しました。しかし、労働生産性の伸びは2015年までの5年間で0.3%と低いままでした。労働生産性は時間当たりの生み出す付加価値なので、賃金が上がらなければ伸びは限られます。

問題は、良質で安定的な中間レベルの仕事が消えていったことです。ITの進歩やグローバル化の影響もあって、誰でもできる仕事は増えています。しかし、その賃金は低下しています。これが格差の拡大につながっています。

政府の役割

こうした状況を企業が変えるのは困難で、政府の役割が重要です。ロバート・J・ゴードン氏は以下のように主張します。

賃上げ

雇用主の力が強く、非正規雇用が多いサービス業は賃金が常に低いところに留め置かれます。だから、賃金の引き上げには政府による強制力が必要です。一般には最低賃金を引き上げれば失業率が増加すると言われます。しかし、労働需要があれば高い賃金でも雇用します。実際、最低賃金の引き上げが失業率を上げる兆候は見られません。

格差の縮小

このような環境では、格差は放置すれば拡大します。これを縮小するには、政府の関与が不可欠です。

例えば、累進課税のような所得税の税率の累進性を高めて、高所得者への課税を強化することです。

また、最低賃金を引き上げれば、企業は省人化・自動化を促進します。これは生産性をさらに高めます。しかし、サービス業ではロボット化による人の削減効果は低いため、雇用の減少は抑えられますが、それでも社会全体の雇用は減少します。そのため、政府による失業対策が必要です。失業者を政府が雇用したり、失業保険や休業補償を行ったりします。給付コストを抑えるために、全員に一律支給するベーシックインカムという方法もあります。

参考文献

『アメリカ経済 成長の終焉』ロバート・J・ゴードン著(日経BP社)
『資本主義が嫌いな人のための経済学』ジョセフ・ヒース著(NTT出版)
『なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか』ロバート・C・アレン著(NTT出版)
『新自由主義の暴走』ビンヤミン アッペルバウム著(早川書房)
『デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか』ライアン エイヴェント著(東洋経済新報社)

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なぜ経済は成長し続けたのか?これからどうなるのか?その2 ~貧しい国々の問題とアジアの発展~ https://ilink-corp.co.jp/15851.html https://ilink-corp.co.jp/15851.html#respond Sun, 20 Apr 2025 06:07:08 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=15851
このコラムの概要

発展途上国の貧困の原因は、私有財産制度や支配者の不在、植民地化と部族間の対立、豊富な鉱物資源に依存したため工業化が進まないなどがあります。対して日本を含むアジアの国々は政府主導による「ビッグプッシュ型工業化」により製造業を中心に経済成長を遂げました。
日本では政府主導による「富国強兵」政策によりインフラ整備と教育の充実が図られ、政府の介入で産業が育成されました。また高度経済成長期の需要の高まりが経済成長を支えましたが、バブル崩壊により低成長時代に突入しました。前回、高賃金がイギリス、アメリカの設備投資を誘引し、それが生産性の向上を実現し、イギリス、アメリカは世界屈指の工業国になりました。
では発展途上国はなぜ貧しいままなのでしょうか?

なぜアフリカが貧しいままなのか?

ヨーロッパやアメリカに比べ、新興国はなぜこうした発展の道筋に至らないのか、西アフリカの歴史を振り返ってみます。

農耕文明ができなかった

アフリカが貧しいのは、アフリカに農耕文明がなかったためです。1500年の時点で、農耕文明があったのは、西ヨーロッパ、中東、インドの一部、中国、そして日本のみでした。農耕文明には、私有財産制度と支配者の権力と徴税、そして社会体制が必須でした。さらに農耕文明を維持するためには、生産性の高い農業や商業を必要とし、そのためには読み書きや貨幣も必要としました。

原因は広大な土地と高い死亡率

アフリカは8世紀までの間にバナナ、ヤムイモ、タロイモ、豆などの作物がアジアからもたらされ、16世紀にはアメリカ大陸からトウモロコシ、落花生、タバコなどが入りました。こうして定住農村化し、出生率は上昇しました。しかし熱帯病のため死亡率は高く、人口は低いまま、中東、インドの一部、中国でしたなどのように増えませんでした。人口は低く、広大な土地は誰でも利用可能なため、土地の私有財産や土地の支配者の争いもありませんでした。皮肉なことに大規模な争いがなかったため、支配体制を基礎とする農耕文明に至らなかったのです。アフリカでは部族社会以上の大きな社会集団にはなりませんでした。

アフリカ人を引き付けたもの

こうしたアフリカの部族社会にヨーロッパ人がやってきました。彼らの持ってきた綿布、工芸品、そして銃などの武器にアフリカの人々は引き付けられました。そしてこういった商品を手に入れるために、金を採掘したり、ヤシの木を育ててヤシ油を搾ったりしました。

アフリカ人の手で行われた奴隷貿易

その後もっと手っ取り早い方法があることに気が付きました。奴隷です。元々アフリカでは強い部族が弱い部族を捕らえて奴隷とする文化がありました。そこで沿岸の部族は、こぞって他の部族を襲撃し捕らえた人々をヨーロッパ人に売り渡しました。こうして1500年から1850年の間に1千万人以上のアフリカ人が捕らえられて新大陸、あるいはアジアへと売られていきました。

部族間の対立を激化させた植民地政策

こうしたアフリカの部族たちは19世紀に入るとヨーロッパの国々の植民地にされます。ヨーロッパの宗主国は植民地を一部の部族に統治させました。これは同じアフリカ人の中で支配する層と支配される層の対立を生み、部族間の対立を助長しました。しかもアフリカの失業と低賃金は兵士の調達を容易にしました。こうした地域紛争が経済の発展を阻害し、低賃金化を一層進める悪循環に陥りました。

農産物の価格下落による貧困の助長と教育への障害

かつて奴隷、鉱物資源以外、アフリカの主要産品であったヤシ油は、アジアの国々がヤシ油に参入したため価格が下落しました。チョコレート原料のカカオもアフリカ各国が生産を拡大することで価格が下落しました。しかも国家は農民から低い価格で強制的に買い上げ農民はずっと貧困のままでした。ヤシ油の生産には圧搾などの加工が必要ですが、低賃金のアフリカでは機械化しても効果がないという「技術の罠」に陥っていたのです。低賃金でしかも不十分な教育のため生産は非効率でした。内陸部では物流コストも高く、企業同士のネットワークが不十分なため、たとえ製造業を立地してもアジアの国々には太刀打ちできなかったのです。

新興国のジレンマ

後述の日本は政府主導による「ビッグプッシュ型工業化」で先進国仲間入りをしました。これを見た韓国、台湾、中国が続きました。しかし国民1人当たりのGDPが先進国並みの豊かな国になるためには、新興国は先進国を上回る経済成長が長期間必要です。

それを実現する唯一の方法は、工業化を進め製造業を盛んにして輸出を拡大することです。これによって外貨の獲得と国内での再投資、雇用の拡大、賃金の上昇が実現します。しかし製造業が発展するには、単独企業でなく多くの企業のサプライチェーンが必要です。

早すぎる脱工業化のリスク

しかし国際的な物流網やサプライチェーンが発展し、様々なものがグローバルに調達できるようになったため、自国のサプライチェーンが構築される前に、すでに工業化のピークを迎える懸念が出てきました。経済学者ダニ・ロドリックはこれを「早すぎる脱工業化」と呼びました。

国際的な物流の発展と物流コスト減少により、「ベトナムで作った部品を中国で組立、それをメキシコの工場で自動車にする」こうしたことが日常的に行われています。ベトナムは部品の製造のみで、サプライチェーンの一部を担うにすぎません。そうこうするうちにベトナムの賃金が上昇すれば、企業は工場は他の低賃金国に移動します。これでは新興国は先進国に追いつくための経済成長が持続できません。

先進国に追いつく前に成長が鈍化

韓国の総付加価値における製造業の割合は1988年にピークに達しました。1人当たりのGDPは1万ドル、当時のアメリカの半分程度でした。インドネシアは2002年にピークに達し、その時の1人当たりのGDPは6,000ドル、インドは2008年にピークに到達し、1人当たりのGDPは3,000ドルでした。これらの国々は今後は製造業以外の産業で先進国に追いつくだけの経済成長を成し遂げなければなりません。しかし製造業以外の産業でこれだけの経済成長を実現できるでしょうか。

なぜ日本は先進国の仲間入りができたのか?

ではなぜ日本はいち早く先進国の仲間入りができたのでしょうか?

江戸時代の商業の発達と教育の需要

江戸時代を通じて日本の賃金は低く、資本を投じて生産性を高める意欲はありませんでした。幕末の江戸を訪れたヨーロッパ人は、なぜ馬車を使わないのか疑問に思いました。その理由は当時の江戸には低賃金で荷物を運ぶ人足に事欠かなかったのです。

当時農業の生産性を高める方法は、労働投入量を増やして、米の収穫後に小麦、綿、桑、菜種などを収穫することでした。一方周りが海に囲まれた日本は海運が発達しました。こうして安定した物流が実現し商業が発展しました。商業は読み書きの需要を高め、多くの子供が寺子屋で学びました。その結果、江戸時代の成人男性の識字率は50%を超え、世界トップクラスでした。

富国強兵政策

列強の脅威の中で船出した明治政府は「富国強兵」をスローガンに欧米諸国に追いつくことが第一の目的でした。そこで工業化を実現するため、内国税を撤廃し鉄道網を整備して単一の全国市場を創出しました。初等教育を義務化することで教育を浸透させました。

欧米の技術を日本向けに改良

一方近代的な銀行制度の確立には時間がかかりました。しかも不平等条約のため関税で国内産業を保護することもできませんでした。そこで政府自らがベンチャー資本家となり、直接経済に介入し、多くの官営工場が設立されました。設備は欧米から導入されましたが、それは低賃金の日本には高すぎました。そこで低賃金の日本で採算がとれるように欧米の技術を作り変えました。築地製糸場ではヨーロッパ式の機械を木製に作り変え、動力は蒸気機関でなく人力にした「諏訪式座繰機」が使われ、これは国内に広く普及しました。

図7 諏訪式座繰機(農林水産省HPより)

ミュール紡績機の代わりに地元の大工がつくることのできる「ガラ紡」が使われ、昼夜2交代で操業しました。

図8 ガラ紡績機5台を運転する 愛知県岡崎市の工場(Wikipediaより)

こうして資本を節約し、労働を増やすことで日本の綿紡績は20世紀には世界で最も安価になりました。

独り立ちするまでは補助金で支えた

1905年に官営八幡製鉄所が創業しました。しかし利益が出るようになるまで補助金が必要でした。その後第一次世界大戦でヨーロッパの造船需要が増大し、特需に沸きました。工業化を進み、1人あたりのGDPは大きく成長しました。大企業の賃金も上昇しましたが、農村や零細企業の賃金は低いままでした。

戦後の高度成長期

第二次世界大戦で軍事産業に重点を置いた工業生産は大きく破壊され、企業は解体されました。戦後、国は西洋との格差を縮めるため政府が主導する「ビッグプッシュ型工業化」を推進しました。かつてのような欧米の近代技術を日本の実情に合わせる資本節約型でなく、近代的な資本集約型を採用、1970年代には投資率が国民所得の1/3に達しました。こうして急速に資本ストックが整備され、日本は短期間に高賃金経済に転換しました。

国主導の鉄鋼業界の再編

鉄鋼業は代表的な資本集約型の産業です。戦前は最大でも八幡製鉄所の180万トン、アメリカよりも規模が小さく、低賃金の日本でも鉄はアメリカやヨーロッパよりも高価でした。通産省の指導により日本製鉄と八幡製鉄所の合併など鉄鋼業界が再編されました。鉄鋼業界の効率の高い最小生産規模は当時700万トンになっていましたが、新しくつくられた日本の製鉄所はこの規模を超えたため、効率でアメリカの製鉄所を超えていました。鉄鋼メーカーも積極的に設備投資や技術革新を行った結果、1975年には日本は最も安価で高品質な鉄を年間で1億トン以上生産しました。こうした鉄の1/3は輸出され、これがアメリカの鉄鋼業に大きなダメージを与えました。

高賃金でも低コストを実現

こうした鉄の利用先に自動車産業がありました。1960年代、日本はモータリゼーションが活況となって自動車の生産は拡大しました。日本の自動車メーカーは大規模な設備投資を行い、プレス加工から塗装、組立てまで一貫生産できる工場をつくりました。こうした工場では年間80万台の規模があり、高度に資本集約的な生産で高賃金でも低価格の自動車をつくれました。

一方で国内消費は、年功序列賃金、終身雇用など日本独自の慣行により、大企業の社員は賃金が増加し、これが住宅、自動車などの消費を押し上げました。さらに1960~1970年代高度成長期には経済の拡大に労働力の供給が追い付かず、人手不足から賃金が上昇しました。これにより大企業と中小零細企業の賃金格差が縮小しました。

バブル崩壊と低成長

日本の好景気は1991年の不動産と株のバブル崩壊で終わりを告げ、長いデフレの時代に入りました。ただしバブル崩壊はきっかけに過ぎません。低成長の真の原因は高度成長を可能にした条件がなくなったためでした。それは欧米との以下の3つの格差によるものでした。

  • 労働者1人当たりの資本
  • 労働者1人当たりの教育費
  • 労働者1人当たりの生産性

 この格差は1990年代までに解消されました。日本は欧米各国と同じになり、以降は欧米各国の技術進歩に伴う成長と同じ水準、毎年1~2%でしか成長できませんでした。

参考文献

「アメリカ経済 成長の終焉」ロバート・J・ゴードン著 日経BP社

「資本主義が嫌いな人のための経済学」ジョセフ・ヒース著 NTT出版

「なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか」ロバート・C・アレン著 NTT出版

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なぜ経済は成長し続けたのか?これからどうなるのか?その1 ~イギリスとアメリカの経済成長の原動力~ https://ilink-corp.co.jp/15827.html https://ilink-corp.co.jp/15827.html#respond Fri, 21 Mar 2025 09:06:26 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=15827
概要

イギリスが19世紀に世界最大の経済大国になったのは、科学技術の進歩に加えて、高賃金と豊富な石炭があったためでした。これにより紡績の自動化や蒸気機関が発展しました。19世紀後半にはアメリカも賃金が上昇し機械化が進展しました。第二次世界大戦では軍需生産に多額の投資が行われ、これが戦後は消費の増加や民間製品へ転換され、1950年代以降の経済成長になりました。しかし1960年以降は、製品やサービスの質は向上しましたが生活に劇的な変化はあまり見られなくなりました。

輝ける大英帝国の原動力

イギリスは19世紀の産業革命によって世界最大の経済大国になりました。当時、イギリスのGDPは世界の20%を占めていました。なぜイギリスはそのような大国になったのでしょうか。

科学技術の進歩

イギリスで産業革命が起きたひとつの原因は高度な科学技術があったからです。ロバート・ボイル、ロバート・フックやアイザック・ニュートンなどの科学者が数学、化学、物理で最先端の研究を行っていました。

しかしこうした科学技術があっただけでは、イノベーションを起こすことはできません。イギリスが産業革命の主役となったのは、他にも理由がありました。

高い賃金と紡績の関係

17世紀、綿製品は中国とインドが最大の産地でした。そこでつくられた綿製品はヨーロッパに送られ、ヨーロッパではそれまで主流だった亜麻織物や毛織物に綿製品が取って代わりました。綿糸は細いほど時間がかかるため、賃金の高いイギリスでインド製品と競合できたのは太糸の綿製品だけでした。

18世紀にはリチャード・アークライトが紡績の自動化に取り組みました。そして1760年代にはジェイムズ・ハーグリーヴズがジェニー紡績機を開発しました。さらにクロンプトンのミュール紡績機は、より細糸の自動化に成功し、細糸の低コストの製品が可能になりました。ただし当時紡績機を動かす動力は水車でした。そのため工場は川のある所にしか建てられませんでした。

この機械化した工場は当初は赤字でした。しかし粘り強く機械を改良した結果、低賃金のインドと価格で競争できるようになりました。1780年代アークライト型の工場がイギリスは約150ありました。対してフランスは4、インドは0でした。イギリスではアークライト型の紡績工場の収益率は40%もあり、投資しても十分な見返りがありました。こうしてイギリスでは工場の機械化が進みました。

図1 アークライト型紡績機

実はイギリスが高賃金だった原因は、伝染病の流行で人口が減少したためでした。対するフランスは人口が多く十分な労働力がありました。そのため機械化は採算が合わなかったのです。こうして綿工業はイギリス最大の工業部門になり、1830年にはGDPの8%を占めるまでになりました。

炭鉱と蒸気機関

1685年フランス人ドゥニ・パパンが世界最初の蒸気機関を試作しました。1712年にはトマス・ニューコメンがこれを実用的な装置として完成させました。この蒸気機関は当時炭鉱で排水ポンプとして使われました。売れないくず炭が豊富にあった炭鉱では燃料には事欠かなかったからです。

図2 ニューコメンの蒸気機関

こうして使われ始めた蒸気機関をジェイムズ・ワットらが改良を重ねました。19世紀の終わりには、同じ馬力を得るのに必要な石炭の消費量は当初の1/44にまで減少しました。こうして少ない石炭で動くようになった蒸気機関は経済的な動力源になりました。そして紡績工場で水力に代わって広く使われるようになりました。

紡績機も蒸気機関もできた当初、性能は低く、綿織物は人でつくつた方が、工場の動力は水車の方が優れていました。それを改良し続けたのは、綿織物は高賃金のイギリスは低賃金のインドに勝てなかったこと、蒸気機関は炭鉱の排水ポンプという用途があったためでした。

鉄道への応用

蒸気で動力が取り出せれば、次には蒸気で動く乗り物が考えられます。しかし重い蒸気機関は、舗装されてない悪路を走ることはできません。その一方鉱山や製鉄所は、鉱石や石炭を運ぶためにレールを引き、貨車を馬が引っ張っていました。

ウェールズのペナダレン製鉄所で1804年最初の蒸気機関車が使われました。蒸気機関車はその後改良されていき、1830年最初の一般用の鉄道リヴァプール・マンチェスター鉄道が開通しました。20年後の1850年には鉄道の総延長は1万キロメートル、1880年には2万5千キロメールになっていました。

図3 最初の旅客鉄道 リヴァプール・マンチェスター鉄道

蒸気船の誕生

一方蒸気機関の船舶への応用は、当初から世界各国で取り組まれました。1774年には最初の蒸気船がフランスで作られ、1807年にはアメリカのハドソン川で定期運航が始まりました。その後、蒸気機関が進歩し石炭の消費量が少なくなるに従い、遠距離航路で運用できるようになりました。それでも中国からイギリスへの航路は19世紀末までは帆船が使われていました。

誕生から100年間は経済への貢献はわずか

ニューコメンが蒸気機関を発明してから100年経った1800年ですら、蒸気機関のイギリス経済への貢献はわずかなものでした。しかし19世紀にはいると蒸気機関は広く使われるようになりました。この時期イギリスの労働生産性の伸びの50%は蒸気機関によるものでした。

アメリカの発展

今では世界屈指の工業国であるアメリカも19世紀には工業化でイギリスに及びませんでした。なぜアメリカの工業が発展したのでしょうか?

標準化と機械化

18 世紀当時、最先端機器のひとつが銃でした。この銃の部品はやすりなどの手作業で製造していました。部品同士の互換性はなく、戦場で部品が1つ壊れればその銃はもう使えませんでした。

ブランの互換性を持たせた製造方法

1760 年代、銃が火縄(マッチロック 式)から火打ち式(フリントロック式)に変わった頃、フランスのオノレ・ブランは、戦場で発火装置が壊れても交換できるように発火装置に“互換性”を持たせることを考えました。試行錯誤の末、ブランは発火装置の互換性を実現しました。しかしフランスでは職人の強い反対に遭い、互換性を持った銃の製造は普及しませんでした。

互換性に注目したトーマス・ジェファーソン

1785 年、(後のアメリカ大統領となる)トーマス・ジェファーソンはパリの銃工場を訪れました。そこで互換性を持たせたブランの製造方法を見ました。イギリスとの独立戦争が迫っていたアメリカは銃を大量に必要としていました。

アメリカン・システムで高い品質と生産性を実現

1774 年、ジェファーソンはアメリカのスプリングフィールドに銃を製造する工廠を設立しました。この工廠ではブランの製造方法で部品同士に互換性を持たせました。加えてフライス盤、ならい旋盤、水力式プレスなどの工作機械を開発し、品質の安定と高い生産性を実現しました。

この互換性を持った「標準化された製品」を大量生産する「アメリカン・システム」は、その後ミシンや自転車などの工業製品の製造に用いられ、アメリカの製品が世界中で求められる原動力になりました。

ロンドン万博でヨーロッパから注目

1851年ロンドン博覧会で、ヨーロッパの人々から辺境の地と思われていたアメリカから、芝刈り機など数々の機械や拳銃などの工業製品が展示されました。サミュエル・コルトの拳銃は、部品同士完全な互換性があり、バラバラにして他の拳銃と部品を替えても復元できたため、ヨーロッパで高い関心を集めました。

人手不足と高賃金

イギリスの例でわかるように、賃金が高ければ機械化への意欲が高まります。設備投資が行われ、資本集約的な生産になります。これがさらなる高賃金を引き起こします。こうして19世紀から20世紀初頭にかけて、イギリス、アメリカの生産性は高くなり、1人当たりのGDPは大きく増加しました。対して日本、韓国などアジアの国々は1950年以降活発な設備投資を追い風に1人当たりのGDPが大きく増加し、2000年代にはアメリカ、イギリスに肩を並べるまでになりました。

表 各国の一人当たりのGDPの変化 単位 : ドル

1820年1870年1913年1950年1973年1990年2010年
イギリス1,7063,1905,1306,93911,11618,71436,120
アメリカ1,2572,4455,3019,56116,68923,21448,112
日本6697371,3871,92611,43925,26842,831
韓国5766589458542,8249,74529,745
シンガポール6881,0251,3872,2928,72224,16162,792
中国6005305524399782,0167,569
インド5335336736198531,3593,176

貧しい国が貧しい原因

逆に貧しい国が貧しいままなのは、賃金が低いためです。賃金が低ければ設備投資をするよりも人が行った方が低コストです。そのため設備投資が行われず、生産性は上がりません。

高賃金がアメリカの生産性を高めた

19世紀後半人手不足だったアメリカはイギリスよりも賃金が高くなりました。広大な国土のアメリカはまだまだ人が足りていなかったのです。1890年代ジェイムズ・ヘンリー・ノースロップは高度に自動化した自動織機を発明しました。高度に自動化された織機は賃金の高いアメリカでは十分な利益を上げましたが、イギリスでは高すぎ普及しませんでした。

発明大国アメリカ

19世紀から20世紀にかけて、アメリカ人発明家の活躍も際立っていました。トーマス・エジソン、ライト兄弟、他にもモールス信号を発明したサミュエル・モールス、電気を発明したグラハム・ベル、草刈り機を発明したサイラス・マコーミックなど、優れた個人発明家がイノベーションをけん引しました。

アメリカに優れた発明家が多かった原因にアメリカの特許制度がありました。ヨーロッパと違いアメリカの特許制度は発明者の権利が強く守られていました。

イギリスでは発明内容の詳細な公開が義務付けられ、特許料も発明の5%に抑えられていました。対するアメリカでは発明者はライセンス供与による特許技術の売買が広く行われていました。そのためたとえ資本がなくても特許を元に資金を集めて事業を起こすことができました。

これにより1860年から1880年にかけて特許件数は急増し、その後1940年頃まで特許件数は高止まりしていました。

自動車大国アメリカ

ダイムラーが発明したガソリンエンジンで動く車は、ヘンリーフォードの大量生産システムにより劇的にコストを下げました。1910年人々の移動や物流は主に馬車でした。それが1910年から1930年の20年間で自動車が馬車にとって代わりました。馬糞が点々と残る泥の道が舗装した道路に代わり、1929年には世界の自動車登録台数の90%がアメリカでした。

変わるアメリカ人の生活

移動の自由度が拡大したことでアメリカ人の生活は大きく変わりました。

① 都市間の鉄道の開設で物流が大きく改善されました。

② 都市内の移動は鉄道馬車から電気鉄道へと急速に移行しました。1904年にはすでにニューヨークで地下鉄が走っていました。

③ 自動車が普及したため、人々は職場から離れた郊外に家を買うようになりました。そして休日には 遠く離れた店に買い物に行くようになりました。

アメリカの黄金時代

こうして世界で最も進歩した工業国となったアメリカは1950年代から1960年代にかけて、その黄金時代を迎えました。その一因は戦争にありました。

戦時中の高圧経済

第二次世界大戦は国を挙げての総力戦でした。そのためアメリカ政府は軍需生産の拡大に大量の資金を投じ、政府の資金で各地に工場が建てられました。ミシガン州フォードの工場では5万人が働き、最盛期には1か月で432機のB-24爆撃機が作られました。戦時下の愛国心のため労働者の意欲は高く、労働者は効率が上がることなら、どんどん提案しまし、工場は高い生産性を実現しました。カイザーの造船所でつくられた戦時輸送船は、当初1隻に8か月と見込まれていた期間が、数週間に短縮されました。最短では4日で完成しました。こうした軍需生産と輸出の拡大による経済の急速な成長を、アメリカの経済学者 アルヴィン・ハンセンは「高圧経済」と呼びました。

戦後、軍需生産は急速に減少しましたが、多くの軍需工場はいち早く民需製品に転換しました。戦時中、消費を我慢した国民の消費(繰延需要)への欲求は高く、さらにヨーロッパは生産設備が破壊されたため、アメリカ製品の格好の輸出先となりました。

一方政府は戦時中に導入した所得税や消費税などの課税制度を戦後も維持しました。高い税収を背景に財政支出も高水準を維持しました。さらに連邦準備制度(FRB)が金利を低く抑え、民間の投資や消費を促進しました。これら一連の政策によりアメリカは1950年代から1960年代にかけて高い経済成長率を維持したのです。

大躍進と高圧縮

このアメリカの黄金時代「大躍進(グレート・リープ)」は、格差の縮小「大圧縮(グレート・コンプレッション)」をもたらしました。政府は復員軍人の大学教育を無償化、多くの若者が高等教育を受けました。加えて労働運動の高まりもあって賃金が上昇、これが設備投資を拡大させました。こうした設備投資の拡大と生産性の向上は商品の価格を低下させ、それがさらに消費を拡大する好循環が生まれました。

豊かな生活

アメリカ人の生活を1900年、1960年、2000年を下記の表で比較しました。1900年から1960年の間に、第二次産業革命により自動車、冷暖房、テレビ、ラジオなど様々な製品やサービスが現れました。これにより人々の生活は大きく変わりました。

一方1960年から2000年にかけては、製品やサービスの質は向上したものの、生活を大きく変えるような製品は多くありません。2000年以降スマートフォンが出現し、私たちの生活は大きく変わりました。しかしスマートフォンによるGDPへの直接的な影響は限られています。

表 1900年、1960年、2000年の生活の違い

1900年1960年2000年
移動手段馬、鉄道馬車自動車自動車・飛行機
住居戸建(冷暖房なし、薪、井戸)戸建(冷暖房、ガスレンジ、水道)
食事肉、野菜を自宅で調理プラス 多様な加工食品格差(貧困層の肥満)
娯楽・通信劇場(富裕層、都市)テレビ、ラジオ、映画プラス 携帯・ネット
健康37%が感染症で死ぬ死因の60%が三大慢性病

一方1900年から1960年の間の人々の生活の変化の中にもGDPに現れないものもあります。例えば

  • 冷蔵貨物列車がつくられ新鮮な肉類が手に入るようになった
  • 自動車が馬に代わり都市の糞尿問題が解決した
  • 1890年には22%だった乳幼児死亡率が1950年には1%にまで減少
  • 上下水道が完備され、水汲みや排水を捨てに行かなくてよくなった上、コレラなど感染症の危険が減少

つまり1870年から1970年までの100年間の発展は、GDPの大きさで評価すれば、過小評価してしまいます。実際はこの100年間、金銭的な変化に加えて質的な変化も伴っていました。人々にもっと大きな豊かさをもたらしたのです。

情報通信(IT)革命は豊かさをもたらしたのか?

情報通信技術の発展は、企業の生産性向上や新しいビジネスなど、様々な変化をもたらしました。例えば1990年代の米国経済では、ITを中心とした設備投資の拡大が長期的な成長の要因と言われています。これは産業革命に匹敵する変化として「IT革命」と呼ばれました。

本当にICT革命は豊かさをもたらしたのでしょうか。これについては、別の機会にお伝えします。

参考文献

「アメリカ経済 成長の終焉」ロバート・J・ゴードン著 日経BP社

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社会の変革 https://ilink-corp.co.jp/11916.html https://ilink-corp.co.jp/11916.html#respond Tue, 27 Feb 2024 02:11:16 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=11916 技術だけでなく、人口、国家、金融など様々な面でも変化が起きています。

ここではそういった社会面での変革を取り上げました。

(タイトルをクリックすると記事に移動します。)

社会環境と制度

「SDGsの真実1」~環境だけじゃない。17の目標と温暖化対策の目標~

持続可能な開発、低炭素化社会の実現、などSDGsに関して、様々なキーワードが報道されています。しかしSDGsと言われてもピンと来ない方も多いのではないでしょうか?ではSDGsとはどんなものなのでしょうか?実は、環境問題は背景に政治的、思想的な対立があり、一筋縄ではいきません。しかも二酸化炭素排出削減は、EVや太陽光発電よりももっと大きな問題があるのに、それについてはほとんど報道されていません。そこで地球温暖化と二酸化炭素排出量の関係はあるのか?二酸化炭素排出量削減に本当に必要なことは何か?SDGsと環境問題の本質について2回に分けて考えました。1回目はSDGsの17の目標についてです。

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「SDGsの真実2」~温暖化に対する様々な意見と温暖化対策の難しさ~

持続可能な開発、低炭素化社会の実現、などSDGsについての2回目は、地球温暖化に関する議論と、発電、自動車以外の二酸化炭素排出問題についてです。

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企業は階層型の組織をつくり「上司と部下」の関係で仕事をマネジメントします。しかしこういった従来のマネジメントはうまく行っているとは言い難く、上司と部下のコミュニケーションは不十分、パワハラの問題、部下の意欲の低下と退職など多くの問題が起きています。この従来の組織に対し「管理をしない」ティール組織が話題になっています。はたしてティール組織は未来の組織なのか、一過性のものなのか。フレデリック・ラルーチ著「ティール組織」から組織と管理について考えます。

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「思想の対立か、パラダイムの転換か?」 ~脚光を浴びるベーシックインカム

ベーシックインカムは、社会保障として国民1人1人に毎月定額の現金を支給する政策です。この思想は17世紀から既にありましたが、最近になって海外でも様々な学者や団体が導入を提唱しています。ひとつには年金や生活保護などの社会保障制度は行政コストが非常にかかるため、むしろ一律給付の方が効率的だという考えです。さらに非正規雇用など不安定な生活に置かれた人々に安心を提供し、起業に失敗しても生活できるため起業が活発になるといわれています。今提唱されているベーシックインカムはどのような制度で、経済的に成立するのか?その結果社会はどうなるのか?ベーシックインカムについて考えました。

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「中国経済の誤解 ~学ぶべきマクロ経済コントロールと今後の課題~ その2

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「中国経済の誤解 ~学ぶべきマクロ経済コントロールと今後の課題~ その2 https://ilink-corp.co.jp/8834.html https://ilink-corp.co.jp/8834.html#respond Sat, 02 Sep 2023 23:16:56 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8834
【コラムの概要】

中国経済は、リーマンショックや不動産バブル、株価暴落など数々の危機を経験。強力な政府主導で対策を打ち、乗り越えてきた。しかし、今後は内需拡大とサービス業発展が課題。債務増大、米中貿易戦争、戦争リスクも抱える中、ソフトランディングできるかが世界経済に大きな影響を与える。

今や中国は世界第二位の経済大国、中国経済の世界に対する影響とてもは大きいです。

加えて日本やアジアの国々はグローバルなサプライチェーンの中で中国と密接な関係があります。中国経済失敗のリスクは計り知れないでしょう。

ところが中国に対する正しい情報は意外にありません。マスコミから出てくる情報は、人日の注目を集めるためにある面をだけを強調しています。

中国経済はこれまで何度もピンチになりながら、苦境を乗り切ってきました。一部の評論家は「悪い一面」だけ切り取って「中国経済が崩壊する」と主張していました。実際はどうでしょうか。

そこでトーマス・オーリック著「中国経済の謎 ~なぜバブルははじけないのか~」を参考に、中立的な視点でこれまでの中国の政治・経済の取組と今後について、2回にわたり述べます。

「中国経済の誤解 ~学ぶべきマクロ経済コントロールと今後の課題~ その1では、中国の政治機構の特徴、そして毛沢東の死後から、改革開放政策に至る過程と、発生した問題について述べました。

ここでは、習近平体制での経済政策と、これからの課題について説明します。
 

中国経済の発展 その2

2008年リーマンショック

「世界の工場」中国はこれまで輸出に大きく依存していました。しかし2桁成長が続いていた経済成長はリーマンショックで鈍化しました。2009年1~3月期は6.5%、2007年の14.2%の半分以下でした。輸出は初のマイナス16%という厳しい数字が出て「非常事態」となりました。

これに対し、2008年11月中国はG20で4兆元(59兆円)の経済対策(内需拡大策)を発表し、世界を驚かせました。しかし実態は、中央政府1.18兆元、地方政府負担1.3兆元、銀行融資1.5兆元でした。

経済対策の多くがインフラ投資でした。

インフラ投資は現金給付に比べ、将来にわたって長く社会の役に立ちます。また生産拡大に寄与します。更にこの非常事態を脱するため、他にもなりふり構わず政策を総動員しました。例えば輸出企業の消費税(中国では増値税)還付率引き上げ、輸出関税の見直し、さらに大規模な利下げを実施しました。

激しい不況(ショック)には、思い切った財政政策が必要で、小出しにすれば不況が長期化することを、彼らは日本などから学んだのです。一方で欧米各国も相次いで利下げを行ったため、海外からのホットマネーの流入が懸念されていました。
 

2009年 超金融緩和 貸出額9.5兆元

6月に経済指標が改善し資産バブルのリスクが出てきましたが、緩和は継続されました。

  • 経済刺激策で最も避けるべきなのは途中で投げ出すことであり、元日本銀行の速水優氏のように落とし穴に陥ることである(バブル崩壊時の景気対策が中途半端に終わった例)
  • 経済を加熱させることの難度は、経済を冷え込ませるよりも高い

中国はこのように考え、個人消費の拡大策として自動車取得減税や、農村への家電普及策「家電下郷」を実施、13%の補助金を導入しました。
 

2009年不動産市場の過熱

一方中国の生産能力はすでに過剰になっていました。これ以上の設備投資の大幅な拡大は困難でした。そのため余剰な資金は不動産市場に流入しました。不動産ブームが中国全土に広がりました。

中国では投資信託など個人向け金融商品はまだ普及していませんでした。また株は価格が乱高下するため、素人は手を出すのを躊躇しました。これに対し、不動産は所有することに夢がありました。しかも個人の投資先としても魅力がありました。政府としても輸出が減少する中、不動産投資の増大は国内成長の下支えが期待できました。

しか不動産市場が加熱すると中国政府は早めに手を打ちました。

2010年4月には人民銀行が金融引き締めに転じ、10項目からなる不動産価格抑制策を施行しました。住宅価格は急落、北京と上海では70%も下落しました。株価も急落し、2010年7月には時価総額の25%が消失しました。

2010年6月、人民元のドルペッグ制が撤廃されたことで、ホットマネーが大量に流入し物価が上昇しました。そこで2010年10月人民銀行は0.25%利上げしました。それでも2011年3月には消費者物価数は5%を超えました。

2012年には欧州の債務危機で輸出が落ち込みました。工業生産、個人消費、投資すべてが落ち込んだため、再び景気刺激策に回帰しました。景気刺激策をやめたもうひとつの理由は、景気刺激策をやめたことで成長が鈍化したためです。つまり景気刺激策をやめるタイミングは非常に難しいのです。

この年、政治体制に大きな変化がありました。
 

2012年11月習近平 総書記就任

総書記に就任した習近平氏は、就任直後から徹底した腐敗退治を行いました。腐敗摘発チーム「虎もハエも叩く」が党最高幹部から下級官吏までくまなく摘発しました。こうして習近平氏は党内に恐怖政治を敷き、権力基盤を確固たるものにしました。一方で腐敗した地方政府ほど成長が遅かったことも判明しました。腐敗は成長の足かせだったのです。

 

図3 習近平
図3 習近平 (Wikipedia


 

2014年5月、習近平は「新常態」を宣言しました。中国はこれまでの二けた成長を断念し、年7~8%の成長の持続を目標としました。

一方、今度は株式市場が過熱し始めました。
 

2015年7月 上海株価指数 3週間で3割下落 11兆元が消失

2007年以降、上海と香港の株式市場での相互乗り入れがありました。こうして国境を超える資本の流れができました

海外からの資本の流入で上海株は上昇を続けました。これに多くの中国人が引き付けられました。多くの株取引の未経験者が株を購入、借金で株を購入する信用取引も増加しました。まさに日本のバブルの様相を呈し始めました。

そこで2015年7月中国証券監督管理委員会は、株式ブローカーが投資家に貸せる金額に上限を設ける方針を示唆しました。これをきっかけに株価が暴落し、11兆元が消失しました。
 

2015年8月 人民元切り下げ1.08%から、大規模な資本逃避

輸出が減少し、しかも上海と香港の株式市場での相互乗り入れによる資本が流出した中国では、人民元は実力よりも割高になっていました。市場は人民元を売り、下げ圧力をかけていましたが、これを人民銀行が買い支えていました。そして2015年8月になってようやく人民銀行は人民元を切り下げ1.08%としました。

これをきっかけに、さらに人民元は下がると予想した市場は、中国の株式市場から大規模な資本逃避を始めました。2016年1月には上海総合指数はピークの1/2に減少し、18兆元が消失しました。ただし企業も家計も資金の運用手段として株式は多くなかったため、株価の暴落による家計や企業活動への影響は限定的でした。
 

サプライサイド改革の実施

2016年1月人民日報は中国でよくつかわれる数字を取り混ぜた記事で「四つの落ち込みと一つの上昇」を開設しました。
4つの落ち込みととは

経済成長の落ち込み
工業品価格の落ち込み
企業利益の落ち込み
財政収入の落ち込み

ひとつの上昇とは「経済リスクの上昇」でした。

これに対し政府は介入を強化し、サプライサイドの改革を実行しました。

大企業の合併を進め、過剰な生産能力に陥っていた工場を閉鎖しました。これにより供給過剰が是正され企業の利益が増加しました。またこれにより雇用が減少したため、公共投資を増加する財政刺激策を行い雇用を吸収しました。人民銀行が2兆元の資金を供給し、スラム街を一掃して住人に住宅ローンを提供しマンションを買うように仕向けました。 

この供給過剰是正策で、

2015年4月に太陽光発電パネル大手保定天威が国有企業初の倒産をしました。

2016年遼寧省の国有企業の東北特殊鋼集団が倒産、負債総額は72億元でした。

過剰債務企業の債務総額は2016年で118兆元(GDPの160%)に上りました。
 

2016年マクロプルーデンス評価とデレバレッジ

こうした政策により、銀行はシャドーバンクを経由した迂回融資で過剰な融資をするのが難しくなりました。加えて銀行は自己資本比率を高めるように圧力をかけられたため、不良債権の処分を推進しました。さらに財務基盤が脆弱な銀行に対しては地方政府が圧力をかけて合併させ、強制的な不良債権の処分をさせた上で公的資金を注入しました。こうして銀行のシャドーバンクに対する融資は2018年半ばにはマイナスに転じました。

実は地方政府が過剰債務に陥った原因は、公共事業の資金を1年以内の短期借入で調達していたためでした。そこでこれを低金利の地方債(5年物)に借り換えさせて返済の負担を低減しました。こうして成長を減速させることなく、貸出のペースを落としてレバレッジの拡大を止めて、リスクを回避したのです。
 

2015年 中国製造2025年 国が主導で技術開発

10の重点分野を定めロードマップを提示し、これに合わせて地方政府も独自に計画を策定し補助金を支給しました。

 

図4 中国製造2025のロードマップ
図4 中国製造2025のロードマップ


 

表 重点10産業・23分野

次世代情報技術①IC・専用設備
②情報通信設備
③OS・産業ソフト
④スマートさ位増のコアとなる情報設備
CNC工作機械・ロボット①CNC工作機械・基板製造設備
②ロボット
航空・宇宙装備①航空機
②航空エンジン
③航空機載設備・システム
④宇宙関連設備(運搬ロケット、衛星など)
海洋エンジニアリング・ハイテク船舶1分野。
製品としては、海洋資源探索、開発設備、
ハイテク船舶、大型低速船舶用エンジンなど
先進軌道交通設備1分野。
製品としては、中国基準の高速鉄道、
中低速リニアなど
省エネ・新エネ自動車①省エネ自動車
②新エネ自動車
③コネクテッドカー
電力設備①発電設備
②送変電設備
農業設備1分野。
製品としては、自動化、情報化、
スマート化した農業機械など
新素材①先進基盤素材
②コア戦略素材
③先端新素材
バイオ医療
高性能医療機器
①バイオ医薬
②高性能医療機器

出典:中国製造2025重点領域技術創新路線図
 

当初は外国の技術をリバースエンジニアリングし、その後は国産化比率を高める計画です。国産化比率は2020年までに主要部品の40%、2025年までに70%に引き上げる計画です。

そのための研究開発投資は、2017年は中国は4440億ドル、アメリカ4830億ドルに肩を並べています。対するEU3660億ドル、日本は1730億ドル(19.1兆円)でした。
 

図5 主要国における研究開発費総額の推移
実質額 (2015年基準、OECD購買力平価換算) 出所:科学技術・学術政策研究所HP
図5 主要国における研究開発費総額の推移
実質額 (2015年基準、OECD購買力平価換算) 出所:科学技術・学術政策研究所HP


 

2017年7月5年に一度の全国金融工作会議

習近平氏は、国有企業の過剰債務の削減(デレバレッジ)を最優先させるように強く指示しました。リーマンショック以降の経済対策で過剰になった債務と膨らんだバランスシートにより、金融システム崩壊のリスクが高まっていました。金融システムの崩壊とそれに続く不況は、社会を不安に陥れ、政治の混乱につながるためでした。

2016年5月人民日報は「天まで伸びる木はない」という記事を掲載しました。「高いレバレッジは不可避的に高いリスクをもたらす。きちんと管理しなければシステム的な金融危機を引き起こし、不況をもたらすだろう」と報じました。
 

中国経済の特徴と世界への影響

この中国経済はどのような特徴があるのでしょうか。
 

高い貯蓄率

改革前の中国ではゆりかごから墓場までの手厚い福祉で「鉄飯碗」と呼ばれました。しかし改革開放により企業の民営化が推進し、社会保障制度が脆弱化しました。加えて一人っ子政策のため、両親の老後の不安が増大しました。子供に頼れなくなった両親は老後のために貯蓄に励みました。また一人っ子政策は最も消費の多い子育て世代の消費が減少します。それもあって中国の貯蓄率は高く、その分消費が弱くなります。

2007年にはGDPの51%が貯蓄されました。この巨額の貯蓄を賄うには莫大な輸出か、莫大な投資が必要です。一方、まだ高い経済成長中の中国では、貯蓄にはインフレ率以上のリターン(収益)が必要です。しかし銀行預金金利は低く、銀行に預金しても価値は目減りしてしまいます。
 

多額の外貨

一方中国自身も貿易黒字が積み上がっていました。外貨残高は1兆,000億ドルに上り、外貨の安全でリターンの高い投資先として多くのアメリカ国債を購入しています。実はこれがアメリカの長期金利に影響していたのです。

FRBベン・バーナンキ議長は、あまりにも長い間金利が低かったため、2004年から金融引き締めに転じました。短期金利は2004年の1%から2006年には5.52%に引き上げられました。しかし長期金利は4.7%から5.2%とわずかしか上がりませんでした。当初はなぜ長期金利が上がらないのかわかりませんでした。

原因は、中国がアメリカ国債を大量に買っていたためでした。
 

過剰設備と不良債権

地方政府にとって地方の雇用の安定と経済の安定化はとても重要です。そのため景気が悪化すれば地方の国有企業に設備投資を促します。地方政府と国有企業は一体化しているため、必要な資金は地方政府が保証し国有銀行から調達します。しかも貯蓄過剰の中国は、国有銀行に潤沢な資金があります。しかも国有銀行は絶対につぶれないと誰もが信じているため審査は甘くなっていました。

こうして国有企業には過剰な設備が積み上がります。もし国有企業の経営が悪化すれば、融資はたちどころに不良債権化します。そのため国有企業の過剰設備の問題に対して共産党も再三通達を出しています。しかし「上に政策あれば、下に対策あり」という国のため改善されていません。
 

為替操作

中国は急激な円高で輸出競争力が一気に低下した日本の失敗を学びました。それもあって為替は市場に自由にさせません。その基本スタンスは以下のものです。

  • 自主性 外圧でなくあくまで中国自身の判断で人民元レートを決定
  • 管理可能性 現行の管理変動相場制を維持
  • 斬新性 急激な切上げは意図していない

中国にとって為替の問題は、国際問題以上に国内問題なのです。

輸出品の多くが価格競争力を武器とした労働集約品です。しかも賃金や原材料価格の上昇という要因にもさらされています。もし人民元の切上げが行われれば輸出は大打撃を受けます。

2010年中国商務部は、南部の輸出企業を中心に人民元が3%上昇すると輸出にどれだけ影響が出るか試算しました。その結果、輸出型企業の収益は30~50%も低下し、大打撃を受けることが判明しました。

2010年6月中国政府は人民元レートの弾力化を発表しました。しかし3か月経っても1~2%しか上昇しませんでした。
 

シャドーバンク

銀行が信用力の低い企業に融資する場合、その融資には相応の引当金を積まなければなりません。このように貸付にコストがかかるため、信用力の低い企業は正規の融資先としてなかなか計上できません。もしその企業の経営が悪化すれば不良債権になってしまうからです。

かといってこういった企業への融資を止めれば破綻してしまいます。そうなればこれまでに融資したお金が回収不能になってしまいます。そこで銀行でなく、シャドーバンク(信託会社や資産運用会社)を介して信用力の低い企業に融資を継続します。そして銀行はシャドーバンクへの資金供給は、シャドーバンクが発行した証券を買って、証券に対する投資として計上します。こうすれば銀行はコストをかけずに経営が悪化した企業を融資で支えることができます。また、企業も融資を受けられます。

しかしこれはリスクの高い企業に融資しているのに銀行は必要な引当金を積んでいないことになります。もし融資が焦げ付けば銀行の経営も一気に悪化します。このシャドー融資の総額は2010年には2兆8千億元でしたが、2016年には27兆元にまで膨らみました。
これは「中国版サブプライムローン」です。

アメリカのサブプライムローンは、2006年に合計2兆4千億ドル、GDPの17%に達しました。これに対し中国のシャドーバンクの負債総額は27兆元、GDPの86%です。それでもユーロ圏の270%、イギリスの263%、アメリカの145%よりは低い状況です。
 

マクロプルーデンス評価

2013年には中国経済全体の負債はGDPの2倍以上に拡大しました。しかも銀行やシャドーバンクは短期資金で借りて長期資産に投資するという運用のミスマッチが起きていました。リーマンショック前の欧米で起きた急激な融資の伸びと短期資金への依存と同じ構図です。

そこで人民銀行は季節的に短期資金が不足する6月、あえて資金の供給を停止しました。市場はパニックを起こし、銀行は資金をため込むために貸し渋りをしました。株価は急激に下落しました。

短期金利が28%という記録的な数値となった6月20日、人民銀行は短期資金の供給を開始し、パニックは収まりました。

つまり人民銀行は「短期で借りて長期で貸す」という無鉄砲な融資を行うシャドーバンクに警告を発したのです。しかしその代償は高くつきました。

かつてニューヨーク連銀の初代総裁ベンジャミン・ストロングは

「国内経済で何か起こるたびに、我々は親の役割を果たさなくてはならないのか?」

「我々には多くの子供ができるだろう。その一人が悪さをしただけなのに、全員にお仕置きをしなければならないのか?」「信用業務には(規制対象を)選択するプロセスがないことだ」と述べました。
 

デレバレッジ(収入に対する負債比率を下げること)のため、人民銀行は2016年に「マクロプルーデンス評価」を導入しました。具体的には各金融機関の貸し出しや財務内容を評価し、格付けを行いました。

格付けの高い銀行は、準備預金の利息を高くし、事業活動の自由度も与えられます。

対して、格付けの低い銀行は、準備預金の利息を下げられ、事業活動にも様々な規制が加わります。

これにより金融システム全体のリスク管理を図りました。つまり「多くの子供の一人が悪さをしただけなのに、全員にお仕置きをしなければならない」というジレンマを解決しました。

金融システム全体のリスク管理は、リーマンショックの後、アメリカの金融安定監視費用議会、欧州システム理事会、イングランド銀行の金融行政委員会などが取組みました。しかしマクロプルーデンス評価のような包括的なツールを開発し、各銀行を明確に差別化して金融システムの安定を脅かすようなリスクに取り組んだのは、人民銀行が初めてでした。
 

これからの中国と世界経済

このようにこれまでにも中国は数々の経済危機がありました。これを巧みに乗り切ることができたのは、日本や韓国といった先例があったためでした。適切な対処を怠ればどんな結果になるのか、彼らはわかっていたのです。そのため、行うべきことをためらわずに実行できました。

しかも中国には、それを実行できる強力な指導力と国の強制力がありました。さらに政権中央部の政策立案者も類い稀な独創性と柔軟性を発揮しました。

今までは答えが分かっていた試験でした。解き方さえ間違わなければ合格点は取れました。

これまで中国の成長は、製造業が牽引するモデル、そしてカギは投資と輸出でした。しかしこれからは違います。
 

今後は個人消費の増加による内需拡大 「投資と輸出と消費」

中国の高官自身も
「我々は多くのマクロコントロールの経験を積んできたが、個人消費の拡大策についてはノウハウがない。」
「現金を配るのは意味がない。アメリカ人はウォルマートに行くかもしれないが、中国人は銀行に行く」

と述べています。

課題は遅れているサービス業の発展です。また米中貿易戦争もあり頭打ちになりつつある経済成長です。また今後は戦争の影響も懸念されます。

しかも例え中国製造2025により先端分野における製造強国となっても、先端分野の雇用創出効果はかつての重工業に比べ高くありません。さらに債務は拡大し続けGDP比で250%を超え、先進国並みになっています。つまり借金は先進国並みで収入は新興国並みが現在の中国です。
 

図6 世界の政府総債務残高(対GDP比)ランキング
出典 : 世界経済のネタ帳 (ecodb.net) IMF - World Economic Outlook Databases (2023年4月版)
図6 世界の政府総債務残高(対GDP比)ランキング
出典 : 世界経済のネタ帳 (ecodb.net) IMF – World Economic Outlook Databases (2023年4月版)
図7 世界の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング
出典 : 世界経済のネタ帳 (ecodb.net)IMF - World Economic Outlook Databases (2023年4月版)
図7 世界の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング
出典 : 世界経済のネタ帳 (ecodb.net)IMF – World Economic Outlook Databases (2023年4月版)


 

このような課題が山積みの中国経済は、「大幅な減速をすることなくソフトランディングできるかどうか」は、指導者と政策立案者にかかっています。

リーマンショックでは、サブプライム問題に直接関係のない日本もアメリカの消費減退で多大な影響を受けました。2021年の世界のGDPに占める中国の比率は18%、世界の経済成長に対する中国の寄与度は30%にも達しています。もし中国の景気が減速すれば世界中に影響が出ます。

中国の需要が1%減少すれば世界のGDPは0.25%減少します。もし中国で危機が起こり、需要がマイナス9%になれば、世界のGDPは2.25%減少し不況の崖っぷちに立たされてしまうでしょう。

アジアに目を向ければ、中国の需要が1%減少すれば韓国のGDPは0.35%減ります。もし中国の需要がマイナス9%になれば、韓国は激しい不況に陥ります。中国と関係の深い日本も無傷ではいられません。しかも中国経済は巨大になりすぎて、どの国も支えることができません。

約100年前の世界恐慌では、オーストリアで通貨危機が起きた時、ドイツの力を削ぎたかったフランスは通貨危機を煽りました。フランスの望み通りオーストリアの通貨危機はドイツに飛び火し、ドイツにも通貨危機が起きました。しかしフランスの予想外なことに、これはドイツに多額の債権を持っていたイギリス経済に打撃を与えました。つまりオーストリア、ドイツ、イギリスは、同じロープで括られた登山者であり、1人が落ちれば他の2人も無事では済みませんでした。そして通貨危機に端を発した世界恐慌はナチスの台頭を引き起こしたのです。
 

図8 1本のザイルにつながった登山者かも
図8 1本のザイルにつながった登山者かも


 

世界各国の指導者に、中国という巨人と自国が複雑に結びついたロープが見えているのでしょうか。
 

参考文献

「中国経済の謎 ~なぜバブルははじけないのか~」トーマス・オーリック著 ダイヤモンド社
「チャイナ・インパクト」柴田聡 著 中央公論新社
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、技術革新や経営、社会の変革などのテーマを掘り下げ、ニュースからは見えない本質と変化を深堀したコラムです。「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しています。過去のコラムについてはこちらをご参照ください。
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「中国経済の誤解 ~学ぶべきマクロ経済コントロールと今後の課題~ その1 https://ilink-corp.co.jp/8755.html https://ilink-corp.co.jp/8755.html#respond Thu, 20 Jul 2023 05:54:39 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8755
【コラムの概要】

中国は共産党独裁ながら「少数の指導者の合議」でスピーディーに意思決定。金融・財政・税制を統合し、強力な国家発展改革委員会や国有銀行を通じて経済を統制。日本のバブル崩壊やアジア通貨危機などの他国の失敗から学び、経済安定を最優先してきた。

今や中国は世界第二位の経済大国、中国経済の世界に対する影響とてもは大きいです。

加えて日本やアジアの国々はグローバルなサプライチェーンの中で中国と密接な関係があります。中国経済失敗のリスクは計り知れないでしょう。

ところが中国に対する正しい情報は意外にありません。マスコミから出てくる情報は、人日の注目を集めるためにある面をだけを強調しています。

中国経済はこれまで何度もピンチになりながら、苦境を乗り切ってきました。一部の評論家は「悪い一面」だけ切り取って「中国経済が崩壊する」と主張していました。実際はどうでしょうか。

そこでトーマス・オーリック著「中国経済の謎 ~なぜバブルははじけないのか~」を参考に、中立的な視点でこれまでの中国の政治・経済の取組と今後について、2回にわたり述べます。
 

中国の政治機構の特徴

「中国は共産党独裁だが、独裁者ではない」

共産党の権限が非常に強く、欧米など民主主義国家ではできないことも短時間に実行できます。その意思決定は「少数の指導者の合議」です。独裁者のように一人で決めているわけではありません。

その点、アメリカや日本など民主主義国家でも、選挙で選ばれた首相や大統領が強い権限を持ち、意思決定をします。

そのリーダーの判断は正しいのでしょうか。

中国の場合「国務院」が非常に強い権限を持っています。その国務院の10人のメンバーで行われる「常務会議」で重要な意思決定がされます。10人が同意すれば実行できるため、意思決定はスピーディーです。

対して日本は全閣僚をメンバーとして閣議が週2回行われます。しかし全会一致がルールで1人でも反対すれば政府決定できません。

一方中国の閣僚は人数が多すぎる(図1参照)ため、常務会議に参加しません。そのため中国の大臣は政治家というより官僚に近い存在です。
 

図1 国務院組織
図1 国務院組織


 

方針の違い

「国家が指導し、企業は国の指導に従う」

という仕組みが国の統治構造の中に組み込まれています。例えば商業銀行法にも「国家の指導」という条文が存在します。「商業銀行は、国民経済及び社会の発展の必要に基づき、国の産業政策の指導の下に貸付業務を営む」と規定されています。
 

政経一体のシステム

中央銀行(人民銀行)は政府の一機関です。欧米のような中央銀行の独立性が保たれていません。そのため税制の変更に法律の改正が不要で(日本は法律の改正が必要)、極めて短い間に税制を変更できます。そのため金融政策と税制改正を政府決定だけで実施できます。金融政策、財政政策、税制を組み合わせて経済をコントロールすることができ、政策の自由度が日本よりも高いのです。
 

強力な役所

日本にはない強い権限を持った「国家発展改革委員会」があります。この委員会は、短期から中長期の経済計画や産業政策、エネルギー政策、物価管理まで担う経済全般にわたる総合的な企画調整機能を持つ機関です。この国家発展改革委員会がリーマンショックの時、4兆元の内需拡大策を取りまとめました。
 

地方政府の力

中国の政治機構の特徴として、地方政府の力がとても強いことが挙げられます。この地方政府は、税収、雇用、地方経済の運営を任されています。一極集中の日本は東京がGDPの19%を占め巨大な経済圏を構成しています。対して中国は北京のGDPに占める比率は3%にすぎません。

中国の各地方には有力な国有企業があります。彼らは地方政府と結びつき、地方の雇用を担っています。地方経済が減速すれば、国有企業は設備投資を増やして地域の経済を活性化させます。地方政府にとって国有企業は、成長、雇用、収賄の源泉です。

一方日本は公共事業は国や自治体が主体となって行いますが、中国ではインフラ整備などの公共事業は収益事業です。そのため第三セクターのような事業会社「地方融資平台(地方融資プラットフォーム)」を設立して行います。
 

国有銀行の存在

中国では銀行の金利は自由化されておらず、金利は何%のスプレッドと決まっています。これまで経済が成長し物価が上昇していた中国では、預金金利が物価上昇率よりも低い場合、資産の目減りを避けるため人々は預金より有利な投資先を探します。

一方、国有銀行は国がバックにあるため、倒産することはありません。その結果、融資審査が甘くなります。景気が減速すると、地方政府からは景気対策のため、採算性の低い国有企業にも設備投資のために融資するように圧力がかかります。これが不良債権の温床になっています。
 

他国の経済政策の失敗

中国にとって幸いなことに、中国が経済成長を遂げる中で様々な問題に直面した時、日本、韓国をはじめとした多くの国で、失敗事例「教科書」があったことです。
 

経済成長の定石

経済的に貧しい発展途上国は、海外からの投資だけでは経済成長はできません。海外から投資を受け工場を建てても、自国にはそこまでの規模の市場がないからです。そこで必要なのは輸出です

海外から投資を受けた工場が製品をつくり、それを輸出すれば多額のお金が国に入ってきます。そのお金を投資に回せばつさらに成長します。こうして成長の歯車が回り始めます。アフリカなど資源があっても貧しい国は、投資による製造業の発展と輸出の歯車が回っていないのです。

一方、成長の歯車が回り始めると海外からお金がどんどん入ってきて賃金が上昇します。これに伴い物価も上がります。この経済成長している国の最大の課題はインフレです。賃金の上昇よりもインフレが高いと、豊かになっている過程にも関わらず人々の生活が苦しくなります。人々の不満がたまって、これが社会不安の引き金となります。
 

日本のバブル崩壊

日本は1985年のプラザ合意で急激に円高が進行しました。これによる景気後退に対処するため、日銀は公定歩合を引き下げました。これにより過剰に流動したお金が株と不動産に向かいました。
「土地の値段は下がらない」
という土地神話があった当時の日本は、銀行は土地を担保に採算性の低い案件まで過剰に融資しました。担保至上主義の銀行は土地があればどんどん貸しました。こうして借りたお金が株価を押し上げました。

日本はこの加熱した経済を冷やすのが遅れました。やうやく大蔵省が総量規制を実施した時にはバブル崩壊というハードランディングになってしまいました。急激な信用収縮が発生しました。土地の値段が大幅に下がり、担保価値は急減し銀行は多額の不良債権を抱えました。

しかしこの時、多くの人々にあったのは、乱脈融資を行った銀行に対する怨嗟の声でした。
「なぜ税金で銀行を救うのか」
及び腰になった大蔵省、政府は金融機関への公的資金の注入が後手にまわりました。景気が急速に悪化した日本経済に対し、財政出動は不十分でこれが不況を長期化させました。こうして日本は失われた20年へ突入しました。
 

図2 バブル崩壊で不景気に
図2 バブル崩壊で不景気に


 

このバブル崩壊はもうひとつ大きな出来事のきっかけになりました。長年続いた自民党政権が下野したのです。

つまり宴はほどほどのところで冷や水を浴びせるべきでした。そして、もし不景気に入ったときは、やるべきことを(公的資金注入、経済対策、ゾンビ企業の退出)躊躇すれば、代償はとても大きいのです。経済の失敗は政治を不安定化させてしまいます。

中国の政策決定者は、経済運営に失敗すれば現体制が揺らぎかねないことを学んだのです。

また彼らは国内市場を安易に外資に開放すればどうなるかも学びました。
 

アジア通貨危機

1990年代、海外からホットマネーが流入し、タイ、インドネシア、韓国などアジアの国々は好景気に沸きました。しかし血縁者を優先する縁故資本主義、巨大財閥が見栄を張るためのプロジェクトに投資するなど、成長のための投資ではない非効率な投資も多くありました。こうして好景気の陰で隠れ不良債権が膨らんでいました。

この時アメリカのヘッジファンドは、アジア諸国の中央銀行が過大に評価されていることに気づきました。そして彼らは「自国通貨を買い支えることはできない」と踏んで大規模な空売りを仕掛けました。1997年5月ヘッジファンドに空売りを仕掛けられたタイバーツは急落し、タイから大規模な資本逃避が発生しました。こうして外貨が枯渇し海外との決済資金が不足したたタイは、8月にIMFの救済を受けました。これは10月にはインドネシア、11月には韓国にも飛び火し、IMFの救済を受けました。

こうしてIMFの管理下に入ると緊縮財政を取らざるを得ません。これにより激しい不況になりました。韓国は通貨ウォンが暴落した中で、IMFの要求により資本市場を外国に開放させられました。その結果、韓国の名門企業が海外から安く買い叩かれました。今でも多くの韓国企業が海外のファンドの傘下に入っています。

このアジア通貨危機でインドネシアは20年以上続いたスハルト政権が退陣、韓国では野党の金大中政権が誕生しました。

中国は、アジア通貨危機から国の資本勘定の解放(自国の金融市場と国際金融市場を隔てる壁の撤廃)は慎重にしなければならないことを学びました。朱鎔基は「国の資本勘定を時期尚早に開放すれば、その国の経済を破壊する恐れがある」と警告しました。
 

リーマンショック

2000年代、低金利、金余りが長期にわたり、欧米の銀行は利幅の高い投資先を求めていました。アメリカでは、世界恐慌の教訓から銀行の証券取引は禁じられていました。(グラス・スティーガル法) 2000年代銀行はこれを骨抜きにし証券取引に参入しました。あふれたマネーは不動産に向かいました。「無収入」「無職」「無資産」の層をターゲットにしたニンジャローンを連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)、連邦住宅抵当貸付公社(フレディマック)が証券化して、投資商品として各国の金融機関に販売しました。

利回りの高い投資商品を求めている金融機関は、レバレッジの大きくかかったリスクの高い商品と気づかずに購入しました。アメリカの住宅会社は、支払い能力の低い人たちに将来住宅価格が上がる前提で住宅を売りまくりました。宴は彼らがローンを払えなくなった時に瓦解しました。世界中で猛烈な信用収縮が発生しました。リーマンショックです。
 

政権の安定に経済の安定が不可欠

中国共産党が重視するのは党が政権を安定して維持することです。そのためには社会・経済の安定が最も重要です。そのため大衆の不満が募りやすい「雇用」「物価」の動向を常に注視し警戒しています。

  • 経済が過熱しバブルが起きるとどうなるのか
  • 金余りの時、大量のホットマネーが入ってくるとどうなるのか
  • バブルの加熱を避けるには、いつ宴に冷水をかけたらいいのか
  • もしバブルがはじけたらどうすればいいのか

目の前で起きたバブルとその後の深刻な不景気を中国は冷静に分析し、対処方法を学びました。 

中国経済の発展 その1

1976年 毛沢東の死

毛沢東時代、毛沢東は文化大革命など政治闘争に終始し、経済派発展しませんでした。

毛沢東の死後、華国鋒首相は毛路線を継承しました。

中国は貧しいままで、華国鋒路線は2年間で失敗しました。
 

1978年 鄧小平

後を引き継いだ鄧小平は改革開放路線に舵を切りました。経済特区を設立し外資を呼び込み、商業銀行(四大銀行)を設立して融資を拡大しました。そして景気が拡大しました。
 

1988年 保守派の巻き返し

1988年8月の価格統制撤廃をきっかけに急速な物価上昇が起こりました。そこで保守的な計画経済派は、価格統制の再導入、投資の抑制という緊縮財政を実施しました。

その結果
「手術は成功したが、患者は死んだ」
状態となりました。

深刻な不況と大量の失業者が出て、経済成長は1988年の11.3%から1989年には4.9%へと落ち込むハードランディングとなりました。民衆の不満がたまり民主化を求める運動が激化し、1989年天安門事件が発生。そこで言論統制の強化がなされました。

過熱した景気にバケツの冷水をいきなりぶっかければ、不況と社会不安が生じることを彼らは学習したのです。
 

1992年 鄧小平 南巡講話

保守派の台頭で不利となった鄧小平は、1992年1月武漢、長沙、深圳、珠海を視察する南巡講話を行いました。「深圳の発展は経済特区を設置する政策が正しかった証拠」として、改革再開にむけてPRしました。政府の統制が取り払われました。地方政府は新たな投資を加速させ、1990年3.9%だった経済成長は1991年には9.2%、1992年には14.3%へと加速しました。
 

1989年ソ連崩壊

1989年ソ連が崩壊しました。これに対し鄧小平氏は
ゴルバチョフはバカだ。政治改革(グラスノチ)と経済改革(ペレストロイカ)を両方やろうとして、どちらもコントロールできなくなり、両方失った」
と述べています。
 

1989年 江沢民とWTO加盟

1989年鄧小平に代わり江沢民が国家主席になり、2001年にはWTOに加盟したことで輸出が急増しました。中国には4つの強みがありました。

  1. 安い人件費
  2. 通貨安
  3. 安い土地
  4. 安い資金調達コスト

 

一方、WTO加盟により圧倒的に低い人件費の中国で作られる製品が世界市場にあふれ出ました。これは先進国の雇用を直撃しました。MITのダレン・アシモグル教授は1999~2011年に中国との競争で失われたアメリカの雇用は200~240万人に上るとと推定しています。

通貨安(安い人民元)に対し、2005年5月アメリカは中国を為替操作国に指定すると脅し、人民元を切上げなければ大幅な追加関税を導入する法案を可決しました。

2005年7月中国は人民元をドルペッグ制から管理変動相場制に移行し人民元を切上げました。しかし切上げ幅はわずか2%でした。プラザ合意による急激な円高で輸出主導経済に終止符を打たれた日本の例から、彼らは学んでいたのです。
 

1995年インフレの抑え込みに成功

過熱する経済とともに物価上昇も加速し、1994年には20%強上昇しました。そこで朱鎔基首相は緩やかに融資と投資を減らすソフトランディングを実施しました。

朱鎔基首相は「中国の人民のためにソフトランディングをもたらす重要性を、我々は十分理解している。…成長が急減速すると、社会の安定が打撃を受ける。社会の安定が打撃を受ければ、改革を始められない」と述べました。

こうしてインフレは抑え込まれ、1996年の初めまで物価上昇率は1桁台に戻りました。
 

国有銀行に資本注入

1990年代から国有銀行の不良債権は増加していました。そこで1999年に不良債権処理会社「金融資産管理公司(AMC)」を設立し、国有銀行の不良債権を買い取りました。

それでも2002年中国四大銀行の不良債権比率は26.1%もありました。日本は金融危機の際も主要行の不良債権比率が最高8.4%だったことと比べれば、国有銀行の危機的状況に変わりはありませんでした。債務超過に陥っていた四大国有銀行に対し、金融システム健全化のため、四行だけでも800億ドル(日本の金融危機の資本注入の2/3の金額)の公的資金を注入しました。その結果、国有銀行の財務は健全化し四大国有銀行は上場することができました。
 

2002年 胡錦涛

2002年江沢民に代わり胡錦涛が国家主席になりました。しかし胡錦涛体制は集団指導体制が強く意思決定に時間がかかりました。

一方、胡錦涛は改革開放による成長で顕著になった格差に対し、より包摂的な発展モデルを目指しました。それまで中国の社会保障制度は「ゆりかごから墓場まで」国家が面倒をみてくれ「鉄飯碗」と呼ばれていました。これが改革開放の結果、弱体化したため補強しました。
 

このように中国は自国の経済成長と政治の安定に苦慮しながら、経済を巧みにコントロールしてきました。

こうした他国の失敗による学習がリーマンショックの時、世界を驚愕させた4兆元の経済政策になったのです。

中国経済のその後の発展と今後の課題については、別のラムでお伝えします。

参考文献

「中国経済の謎 ~なぜバブルははじけないのか~」トーマス・オーリック著 ダイヤモンド社
「チャイナ・インパクト」柴田聡 著 中央公論新社
 

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政府債務がどれだけ増えても破綻しない? 話題の『現代貨幣理論』MMTを考える その2 https://ilink-corp.co.jp/8558.html https://ilink-corp.co.jp/8558.html#respond Tue, 09 May 2023 04:30:06 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8558
【コラムの概要】

MMTは「自国通貨建ての借金は破綻しない」と主張するが、批判派はハイパーインフレリスクや、市中通貨回収の困難さを指摘。増税の必要性やポンジーゲーム的財政運営の非現実性も挙げられる。金融経済の肥大化と実体経済への影響も議論の的。


日本の財政赤字は約1200兆円、GDPの2倍以上になります。これは先進国の中では突出した金額です。

これに対し、ニューヨーク州立大ステファニー・ケルトン教授は
「国(もしくは政府、以降政府)が
自国通貨建ての借金(国債)をいくら増やしても財政は破綻(はたん)しないし、ハイパーインフレにならないように制御も可能
なので、
経済成長が不足であれば政府は借金を増やしてでも積極的に財政出動すべき」
と主張しました。

彼女の理論「現代貨幣理論 (Modern Monetary Theory : MMT) 」は従来の経済学の常識を覆す一方、従来の主流派経済学者からは激しい反発を受けています。

果たしてMMTは正しいのでしょうか?

政府債務がどれだけ増えても破綻しない? 話題の『現代貨幣理論』MMTを考える その1では、MMTの特徴とMMTが提言する政策について述べました。

今回はMMTの反対意見についてまとめました。
 

MMTへの批判

2019年1月にアメリカの下院議員オカシオ・コルテス氏が財政政策の財源の理論的背景としてMMTを述べ、それ以降アメリカではMMTに関する論争が活発化しました。そしてMMTに対する批判的な意見が続出しました。

  • 「赤字が問題にならないという考えは全く誤っていると思う」FRB議長ジェローム・パウエル
  • 「MMTを全く支持する気になれない」ウォーレン・バフェット
  • 「ブードゥー経済学」元米財務長官 ローレンス・サマーズ

ではMMTの何が問題なのでしょうか、MMTへの批判を以下にまとめました。
 

「永遠には続かない」いずれ超均衡予算が必要

従来の経済理論でも、例え中央銀行が国債を引き受け(財政ファイナンス)、貨幣供給量を大きく増やしても、すぐにインフレになることはなく、政府支出を増やすことは問題ありません。しかし過大な財政支出を続ければ、インフレになります。

実はMMTも、政府支出をいくら増やしてもデフォルトにならないが、
インフレにならない
とは言っていません。

そしてハイパーインフレになった国 (例えばドイツやハンガリー、戦後の日本など) でも政府は財政破綻していません。
政府の財政破綻とハイパーインフレは、全く別の減少なのです。

MMT派は
いくら財政破綻しないからといって際限もなく通貨を発行すればハイパーインフレになるのはわかっているから、
そんなことはするはずがない
と主張します。

では、「際限もなく」とはどれくらいで、現実にどこまで通貨を発行しても問題ないのかはMMTは示しません。

図13 ハイパーインフレは起きる?
図13 ハイパーインフレは起きる?

MMTでは、「円の信認が失われるのは日本の徴税システムが機能不全に陥った時だ」と主張します。

しかし財政赤字を続けて市中にばらまいたお金は、どこかで適正な量にしなければなりません。
そこで市中の通貨を回収してマネタリーベースが減少すれば、多額の日銀の通貨発行損が発生し、巨額の歳入減少が生じます。その結果、超縮小予算にせざるえず、ひどい不景気になります。しかし永遠にお金を増やし続けることはできず、いつかは回収しなければ経済は持続しません。お金を刷り続ければ、その回収も考えなければならいのです。出かけたのはいいのですが、「家に帰ってくるまでが遠足」なのです。
 

現在の日本の政府債務は、対GDP比が2.4倍(2018年)、先進国では突出しています。そして歴史を遡れば、19世紀のイギリスは英仏戦争で負債がかさんで、政府債務の対GDP比は2.6倍になりました。しかし幸いなことに、その後、輝ける大英帝国の時代が到来しました。産業革命やインドなど植民地からの富の集積により、休息に経済成長し債務の圧縮に成功しました。

逆にイギリス以外の国で多額の債務から
「ハイパーインフレやデフォルトなしに」生還した国
はありません。
 

それでもハイパーインフレは起きる

確かにMMTの主張するように財政赤字を続けてもデフォルトしません。しかし放置すればハイパーインフレはいつか起きます。MMT推進派は
「政府は通貨発行権と徴税権を持っている」
「納税のために貨幣は必要」
「貨幣は法貨なので受取は拒否できない」
などから貨幣の価値がとめどなく下がることはないので

「ハイパーインフレは起きない」
と主張します。

現実には、人々は貨幣の受取は拒否できませんが、貨幣をずっと持っていなければならない義務はありません。

貨幣の価値が下がりはじめれば、人々は少しでも資産の減少を防ぐために、預金や現金を現物と交換し始めます。(今なら、外貨や仮想通貨という選択肢もあります。) 「円が危ない」と感じて人々が一斉に行えば、円の価値は暴落、物価は高騰します。つまり激しいインフレ (円の取付け騒ぎ) に見舞われます。
世界恐慌の前に起きたマルクの暴落はまさにそれでした。

この財政赤字とインフレの関係は、地下に蓄積された地震のエネルギーに似ています。ある日「紛争」「天災」「石油ショック」のような変化 (ゆれ) が起きると、人々の間でインフレ予想が広がります。そして一斉に預金を引き出してものを買い始めます。インフレ率は急上昇します。さらに「円は危ない」と思えば外貨や金などの実物資産を買い始めます。そして
ハイパーインフレが起きます。

その時、巨額の増税でインフレを止めることは、過去の歴史を振り返ってみても不可能です。最後は1920年代のドイツや終戦後の日本のように、新紙幣を発行して旧紙幣を使用不能にして市中の貨幣を急減させるしか手段はありません。
 

一方、ベネズエラやジンバブエのハイパーインフレは、物価の上昇に対して政府が価格を統制したために起きたものでした。価格を統制したことで、コストを価格に転嫁できず生産者の倒産が続出し、生産体制が崩壊したことがきっかけでした。1920年代のドイツのハイパーインフレも戦争による生産設備の喪失と供給不足、加えて第一次世界大戦での巨額の賠償金が引き金になりました。

現在の日本ではそのようなことはありません。しかしハイパーインフレは、銀行の取り付け騒ぎのようなものです。人々のちょっとしたマインドで起こり得るものです。そして市場における人々の行動は、時として予測不能なものなのです。
しかもハイパーインフレになっても、ハイパーインフレと分かるまでにタイムラグがあります。
タイムラグのため、その時になって、あわてて金融引締めに転換しても手遅れなのです。

では、それを防ぐ手立てはあるのでしょうか。
 

《市中に溢れた貨幣を回収する方法》
早稲田大学教授で元日銀の岩村充氏は、市中に溢れた貨幣を回収する方法として「条件付き変動金利永久国債の日銀引受」を提言しました。これは

  • 政府は市場金利連動型の変動金利永久国債を日銀引受により発行
  • 日銀は政府と協議することなく、この国債を市中に売却できる
  • 政府はこの国債の日銀保有分をいつでも額面で償還できる(市場価格で買入、消却できる)
  • 政府は発行済み国債を保有者の同意を得て変動金利永久国債に転換できる

というものです。

つまり国債を償還不要の永久債に替えて、徐々に国債を償還して貨幣を回収する方法です。
「お金を刷る」のは簡単だけど「刷ったお金を戻す」のは大変
なのです。

 

「租税が貨幣を動かす」には増税が必要

MMTは「納税のために貨幣が必要なので貨幣価値は下がらない」と主張します。しかし貨幣の価値を維持するためには、貨幣供給量が増加した際は、それに見合うだけの増税が必要です。そうしなければ貨幣が増えても、そこまでの貨幣は必要ないため、結局貨幣価値が下がります。

しかし増税は国民の反発が大きく容易ではありません。その結果、貨幣が増えれば、余った貨幣が他のものに変わり、貨幣価値の低下、つまりインフレが起きます。
 

ポンジーゲームの財政運営は非現実的

国債の累積発行額が巨額になっている日本は、財政の持続可能性はどれくらいなのでしょうか。

毎年の政府の予算制約式

PBの現在価値 + 通貨発行益の現在価値 + 公債残高

例え国債の償還期限が来ても返済しないで、新たに元本と利子を合わせた国債を発行すれば、財政赤字を永遠に続けることができます。これはポンジーゲーム(ネズミ講)と呼ばれ、危険なゲームです。

日本はGDPがマイナス、自然利子率もマイナスなので低金利が当面続きます。そのためポンジーゲームが続けられる気がします。

しかしこれは財政赤字ギャンブルです。多くの国民がまずいと思い始めると、ある日突然金利が上がり始めます。つまり高血圧のように「全く症状がないのにある日突然血管がバースト」して命を落とすのです。
 

企業収支を変えない限り、政府支出の赤字は続く

図4に示すように日本は、1995年以降企業収支の黒字が続き、家計部門も黒字です。そのため、政府は多額の財政支出をして大幅な赤字を出してバランスを維持してきました。今後も企業が投資をしないで黒字を継続し、家計も支出を減らして貯蓄を増やそうとすれば、需要不足が続き経済は低迷します。そのため政府はさらに支出を増やして経済を支えようとします。

しかしいずれ家計の貯蓄率は頭打ちになり減少します。そうなれば国際収支が赤字になる可能性があります。これにより円安になれば、海外への資本逃避が起きる危険性があります。資本逃避が起きれば急激な円安が起きて物価が上昇し、インフレになります。
 

前出の岩村教授の物価水準の財政理論 FTPL(Fiscal Theory of Price Level)では

財政政策が豊かさをもたらすには、この分母が拡大しなければなりません。財政政策で支出しても富を増やさなければインフレになります。そしてハイパーインフレは分母が限りなくゼロに近づくことです。
 

対外債務のある国はできない

日本は巨額の対外純資産を持ち、対外債務の多くは自国通貨建てです。そのため海外の投資家のことを気にする必要はありません。

しかし対外債務の多い国は海外からの投資も多くあります。海外投資家はリスクが高まった時の逃げ足が速いので注意が必要です。財政政策を続けて政府債務が巨額になれば、デフォルトのリスクが高まります。そして何かをきっかけに海外投資家が逃げ出します。この時、その国の通貨をドルに替えます。これによりドル高と自国通貨安が起きて、輸入価格が急上昇しひどいインフレになります。また海外のドル建て債務を返済するためには自国通貨をドルに替えなければなりません。そこでドルが値上がりすると、さらに負担が大きくなります。
 

経済学理論への素朴な疑問

経済学の理論では、貨幣供給量の増加や財政支出は実体経済へ反映されることになっています。しかし金融経済は実体経済のおよそ100倍の規模があります。つまり市中にいくらお金を増やしても、実体経済の貨幣需要が弱ければ金融経済に吸収されてしまいます。

実際1990年代アメリカの不況対策として市中に増えたお金が2000年のITバブルを引き起こしまた。そして2000年のITバブル崩壊後の景気対策のお金が次のバブルを引き起こしリーマンショックが起きました。

金融経済は図14のようにレバレッジがかかっているため、少ないお金で多額の資金を運用します。運用がうまくいっている間は金融市場全体が大きな収益を生み実体経済にも反映されます。しかし資金運用で収益が得られるのはファンドや富裕層に限られます。高額品の消費は増えても消費全体を底上げするには至りません。その結果、実体経済では企業の設備投資や賃上げは低調で乗数効果は限定的です。

図14 金融経済と実体経済
図14 金融経済と実体経済

一方、金融市場の拡大は、ある種のバブルです。いつか崩壊します。そして実体経済への資金供給を弱まらせて失業や倒産を引き起こします。失業や倒産を防ぐため政府はさらに財政支出を行い、これが次のバブルの予兆になります。

そう考えるとMMT派、従来の経済学者も、経済政策の効果は金融市場も含めて評価すべきです。さらに財政政策や金融政策が効果を出すためには肥大化した金融市場も何とかすべきであると思うのですが。
 

実際、財政政策にしても金融政策にしても政府が動かせる市場は限られ、実体経済の一部であり、市中のお金の一部です。
もし実体経済が大きく落ち込めば、財政政策や金融政策は実体経済を変えるほどの力はありません。

実体経済は過去から現在まで同じではありません。常に構造的な変化を起こし、それにより生産と消費活動が変わり、企業収益や賃金、消費に影響を与えます。

図15 実体経済の変化と財政・金融政策
図15 実体経済の変化と財政・金融政策

経済学は実体経済のこうした構造変化は無視して、結果として生じるお金というマクロ的な指標を財政政策や金融政策で変えようとしているのではないでしょうか。

原因に手をつけず、結果だけを変えようと途中過程のパラメーターだけを調整しているのではないでしょうか。

そもそも財政政策や金融政策は不況と好況(インフレ)に対する処方箋です。日本はこの失われた25年の間、好景気もありました。ところが25年間財政支出を拡大し続けています。

図16 景気循環
図16 景気循環

経済学の理論は短期的な景気対策であり、長期的な成長不足の問題は別の処方箋が必要なはずです。それには実体経済の構造的な問題は避けて通れません。ケインズが見ていた頃の実体経済と現在の実体経済の構造は同じでしょうか。

これに関して、社会の構造変化を指摘した経済学者にトマ・ピケティ氏がいます。お金が金融市場に流れる原因は、トマ・ピケティが「21世紀の資本」で指摘した
「g<r という不都合な真実」
です。これは
経済成長率(g) < 資本収益率(r)
というものです。資産運用で得る利益の方が、実体経済で得る利益より大きいことを示しています。そのため富裕層はより豊かに、貧困層はより貧しくなり格差が拡大します。

また「g<r 」であれば、実体経済に投資するよりも金融市場に投資した方がより高い利益が得られます。
 

実際、これまでの歴史の中で、「g>r」だった期間は1900年から2000年の100年でした。それ以前は「g<r 」のため、富める者はますます富み、貧しき者はますます貧しくなるという格差が拡大する時代でした。そして2000年以降は再びgとrが逆転しました。このgとrの関係と財政政策、金融政策の効果を図17に示します。

図17  gとrの関係と財政政策、金融政策の効果
図17  gとrの関係と財政政策、金融政策の効果


 

以上、2回に分けてMMTの特徴と賛成派、反対派の意見をまとめました。

これまで見てきたようにMMTの基本的な考え方は、主流派経済学とはかなり異なっています。

しかし実際の貨幣現象の説明や提言は、現在各国で取り組んでいることと大きな違いはありません。そして景気回復が弱ければ、財政支出を続けるべきとしています。しかし財政支出を際限なく続ければ、どうなるかは明言しません。「そんなことは起きるはずがない」としています。

しかしリーマンショックは「確率的には起きるはずがない」ことが起きたのですが…
 

MMTを理解する上で必要な経済学用語の解説は、政府債務がどれだけ増えても破綻しない? 話題の『現代貨幣理論』MMTを考える その1の最後にあります。
 

参考文献

「MMTのポイントがよくわかる本」中野 明 著 秀和システム
「MMT『現代貨幣理論』がよくわかる本」望月 慎 著 秀和システム
「MMTによる令和『新』経済論」藤井 聡 著 晶文社
「国家・企業・通貨」岩村 充 著 新潮社
「MMT 現代貨幣理論入門」L・ランダル・レイ 著 東洋経済新報社
 

 

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「SDGsの真実2」~温暖化に対する様々な意見と温暖化対策の難しさ~ https://ilink-corp.co.jp/8459.html https://ilink-corp.co.jp/8459.html#respond Thu, 23 Feb 2023 11:26:22 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8459
【コラムの概要】

本コラムでは、現代のものづくりにおいて、かつての成功体験が通用しない「ゲームのルールの変化」が起きていると指摘しています。特にコモディティ化が進展し、製品が高性能になっても利益に繋がりにくくなっている現状を解説。
かつては「良いものを作れば売れる」という前提があったものの、現在の市場では、製品の差別化が難しく、価格競争に陥りやすい状況にあります。コラムでは、日本の製造業が直面するこの問題に対し、新たな戦略的思考が必要であることを示唆しています。量産が得意だった日本の製造業が、このコモディティ化の波の中でいかに価値を生み出していくかが問われています。

前回、SDGsの取り組みについて説明しました。
「SDGsの真実1」~環境だけじゃない。17の目標と温暖化対策の目標~はこちらをご参照ください。
 

地球温暖化に対し割れる意見

地球温暖化対策はSDGsの17の目標のうちその1テーマにしか過ぎません。しかし経済活動、社会生活に与える影響は他の16テーマと比べて極めて大きいものがあります。しかもその根拠は「地球温暖化」という科学的に完全に解明されているとは言えないものです。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)(注)の報告書は誇張されている」と考える専門家もいます。

図1 地球温暖化とその原因に対する考え
図1 地球温暖化とその原因に対する考え
 

注) IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change : 気候変動に関する政府間パネル)
国際連合環境計画と世界気象機関が1988年に共同で設立。地球温暖化に関する科学的知見の集約と評価が主要業務。地球温暖化に関する「評価報告書」を発行している。本来は世界気象機関(WMO)の一機関で国際連合の気候変動枠組条約とは関係のない組織であったが、条約の交渉にIPCC報告書が活用されたこと、また、条約の実施にあたり科学的調査を行う専門機関の設立が遅れたことから、国際的な地球温暖化問題への対応策を科学的に裏付ける組織として、間接的に大きな影響力を持っている。(Wikipediaより)
 

IPCCによる温暖化と日本の対応

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2018年10月に「1.5℃特別報告書」を発行し、2030年から2050年までの間に1.5度気温が上昇する可能性が高い(ワーストシナリオ) と発表しました。さらにIPCC第5次評価報告書は、今後二酸化炭素排出量を削減できなければ2100年には気球の平均気温は2.6~4.8度上昇する可能性が高い(ワーストシナリオ)と述べました。

温室効果ガスによる地球温暖化は、将来の気候変動に大きな影響をもたらす可能性があります。そして人々や生態系に対し広範囲に深刻な影響が生じる可能性があります。
 

図2は世界の平均地表気温の変化を予測したものです。温暖化の大部分は二酸化炭素の累積排出量によるものとされ、今後21世紀の間、地表気温は上昇すると予測されます。

図2 世界平均地上気温の変化 (出典 環境省ホームページ)
図2 世界平均地上気温の変化 (出典 環境省ホームページ)
 

地球温暖化が進むと多くの地域で熱波が頻繁に、しかも長く発生します。また、集中豪雨のような極端な降雨がより頻繁に発生するようになります。

そうした気候変動の影響は、例え温室効果ガスの排出が停止しても何百年も持続します。

図3 1850~900年を基準とした気温上昇の変化 (出典 環境省ホームページ)
図3 1850~900年を基準とした気温上昇の変化 (出典 環境省ホームページ)
 

各国の首脳は、2030年を目標年とする貢献(NDC)のさらなる引き上げや、2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロ、石炭火力発電のフェードアウトなどについて言及しています。日本では菅総理大臣が「地球規模の課題の解決に大きく踏み出します」と述べ、2030年には2013年比で温室効果ガスを46%削減する目標を表明しました。

図4 我が国の温室効果ガス削減の中期目標と長期目標の推移 (出典 環境省ホームページ)
図4 我が国の温室効果ガス削減の中期目標と長期目標の推移 (出典 環境省ホームページ)
 

温暖化反対派の中には「このまま温暖化が進めば破滅的な未来になる」と警告します。

では地球温暖化は、これまで地球が経験したことのない温度でしょうか?
 

二酸化炭素濃度上昇と地球温暖化は初めてではない

実は気温の測定するようになったのは最近のことです。

1850年頃から温度計による観測が行われ、信頼できる気温が記録されるようになりました。

データから、1910年から1945年、1976年から2000年の間に大規模な温暖化が起こったことがわかっています。

図5 計測器による地球表層の気温データ (Wikipediaより)
図5 計測器による地球表層の気温データ (Wikipediaより)

それ以前の気温の記録は、木の年輪の幅やサンゴの成長線、氷床コアの同位体などから得られます。

この手法により北半球でのヤンガードライアス期(1000年間続いた寒冷期)終了以降のデータが得られました。これによると完新世の1万年の期間のうち最も暖かい時期は、気温が20世よりも高いことが分かりました。

図6 過去1万2000年の気候変化 (Wikipediaより)
図6 過去1万2000年の気候変化 (Wikipediaより)
右が現在。横軸の単位は1000年前
 

さらに南極ボストークの氷床コアの調査から、42万年前まで遡った記録が得られています。またEPICAコアからは80万年前まで掘削・解析が進みました。

これらのデータによると、地球の平均気温が今より3度以上高い期間が複数回あったと推定されます。

図7 南極の2地点で復元された気温と、
氷床体積の地球規模での変動曲線 (Wikipediaより)
図7 南極の2地点で復元された気温と、
氷床体積の地球規模での変動曲線 (Wikipediaより)
右が現在。横軸の単位は1000年前

温暖化派と懐疑派

今後、地球が温暖化しても、その温度は地球が直面する初めての温度ではありません。中世期は今よりも暖かく二酸化炭素も多かったのです。これが巨大な恐竜やその食物となる植物の活発な生育を促しました。

また図3から二酸化炭素濃度は、一定以上増えてもそれ以上気温は上昇せず均衡することがわかります。温暖化反対派の「このまま二酸化炭素排出量が増加すれば『ディッピングポイント(臨界点) 』を超える」という主張に科学的な根拠はありません。この点で「過去にない危機的状況」「環境や健康に大きな懸念」と煽るメディアの姿勢は疑問があります。

ただし、過去の地球温暖化は何千年もかけてゆっくりと変化しました。それが今回はわずか数十年の間に平均気温が1度近く上昇しています。この急激な変化に動物や植物は対応できず、絶滅する種が出るかもしれません。
 

一方地球温暖化は、人為的な二酸化炭素排出が本当に原因かどうかという問題があります。これについては賛成派、懐疑派の激しい議論が交わされています。フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』にも「地球温暖化に対する懐疑論」があり、様々な考え方が示されています。

2009年にはイーストアングリア大学気候研究所のメールがハッキングされ、論文の改ざんをにおわせる記述が流出しました。(クライメートゲート事件) 改ざんの事実は否定されましたが「ネイチャー」に載った(現代になって急激に温度が上昇したとする)「ホッケースティック曲線」は、IPCC第4次評価報告書には使用されなくなり、中世に温暖期(中世気候異常)があったことが明記されました

こういった学術分野の研究は、新たな事実が発見される度に旧来の学説が覆され、激しい議論になります。地球温暖化の問題は、実験で確かめることができないため、観測データの地道な積み重ねから結論を導かなければなりません。そして今後も新たな事実が見つかれば、これまでの学説が覆される可能性もあります。科学の進歩には、こうした多様な研究と健全な議論が不可欠なのです。

地球が温暖化しているのかどうか、その原因は、人為的な二酸化炭素排出がどうかは非常に重要な問題です。なぜなら、二酸化炭素排出量削減は、多くの国に経済的な損失と経済成長の阻害と言う痛みを強いるからです。

しかも空気に国境はありません。一部の国が多額のコストをかけて二酸化炭素排出量を削減しても、他の国が大量に二酸化炭素を排出すれば、一部の国の努力は効果がありません。
 

一方、野心的な温暖化対策を推進するヨーロッパの国々は、地球温暖化を「決まったこと」と考えています。その影響もありヨーロッパの国々の政策や発表は、現状を無視した誇大なものになる傾向があります。

また一部の環境保護団体は、異なる見解を断固として排除する「環境原理主義」の様相を呈しています。2014年にイギリスBBCが「最近の異常気象は人間起源の気候変動が原因か」というラジオ番組を放送した結果、環境団体から「出演者は気候変動対策を否定している。科学者でもない者を番組に出演させるな」という抗議が殺到しました。一部には中世の異端審問の様な状況になっています。

このヨーロッパの動向に対し日本のメディアは「欧州は温暖化対策の優等生であり、欧州に学ぶべき」と迎合的な報道を行っています。

本来は温室効果ガス削減のための政策は、冷静に様々な方法を議論する必要があります。SDGsの17のテーマに示されるように世界には様々な課題があり、各国の事情も異なっています。その上で温暖化対策にどの程度のリソースを割くべきなのか、どの程度のコストを許容するのか、SDGsの他のテーマとの兼ね合いや各国の事情も考慮して、総括的に国際間で話し合わなければなりません。

地球温暖化対策は、複数の答が存在する社会科学的な政策論の問題なのです。

なぜなら二酸化炭素排出量削減とは、経済成長をあきらめることになるからです。

なぜそうなるのか、産業別の二酸化炭素排出量を見てみます。
 

CO₂排出量削減に必要なこと

二酸化炭素の排出量が大きい産業

図8 部門別・業種別にみた我が国のCO₂排出量(2019年度)(出典 環境省資料より著者作成)
図8 部門別・業種別にみた我が国のCO₂排出量(2019年度)(出典 環境省資料より著者作成)

図8は、2019年度における我が国の二酸化炭素排出量を部門別・業種別に見たものです。左の円グラフは部門別のCO₂排出量で、全体の35%を「産業部門」が占めていることが分かります。

その産業部門の二酸化炭素排出量は、鉄鋼業界が40%を占め、2番目の化学工業に3倍の差をつけています。2019年度の鉄鋼業界の二酸化炭素排出量(間接排出)は約1億5500万トンでした。つまり低炭素化社会の実現には、鉄鋼業界の二酸化炭素排出削減が不可欠です。

産業部門の中でも、鉄鋼、化学工業は生産時のエネルギー使用量が多く、二酸化炭素の排出も多くなっています。そして鉄鋼などの生産が活発なのは、中国、韓国、日本などアジアの国々です。アメリカやヨーロッパなど先進国は、中国や日本が二酸化炭素を排出してつくった製品を買っています。二酸化炭素排出量を削減するには、コストをかけて二酸化炭素を排出しない生産をするか(技術的に難しい)、生産を縮小しなければなりません。その影響は、アメリカやヨーロッパなど先進国にも及びます。
 

私たちが消費する様々な商品は、企業が多くのエネルギーを使用して生産したものです。さらに流通や販売活動でも二酸化炭素は消費します。つまり二酸化炭素の排出は、生産と消費活動そのものです。

ところが二酸化炭素排出量削減というと、私たちは太陽光発電や電機自動車の問題と考えています。決してそうではなく、個人の消費の問題です。

しかも商品は生産時だけでなく、廃棄の際も焼却炉で燃やされ、二酸化炭素を排出します。

これはリサイクルすれば解決するのでしょうか。
 

リサイクルでは解決しない

現在、プラスチックのリサイクルの大半はサーマルリサイクル、つまり燃料として燃やしています。中でも一部の質の高いプラスチックは、ペレットに加工されて製鉄所の燃料になります。一方質の良くないプラスチックは自治体や廃棄物処理業者が焼却処分します。

つまりマテリアルリサイクルを実現しない限り、プラスチックや化学繊維を製造すれば最後には二酸化炭素を排出して熱になるのです。

図9 我が国における物質フロー(2018年度)(環境省ホームページより)
図9 我が国における物質フロー(2018年度)(環境省ホームページより)
注:含水等:廃棄物等の含水等(汚泥、家畜ふん尿、し尿、廃酸、廃アルカリ)及び経済活動に伴う土砂等の随伴投入(工業、建設業、上水道業の汚泥及び鉱業の鉱さい)

図9で我が国における物質のフローを示しました。二酸化炭素排出削減のためには、生産プロセスにおける二酸化炭素排出量を削減するとともに、最終処分で廃棄されるものを減らすことが必要です。
ただし、プラスチックはリサイクルされたものが回収業者に引き渡されればリサイクルしたものと扱われます。実際はその中で海外に輸出される、または廃棄されるものもあります。
 

経済成長に伴い今後排出量は増加

しかも二酸化炭素排出削減どころか、今後も経済成長に伴い、二酸化炭素の排出はまだまだ増えるのです。

なぜなら新興国の人口は増加し、GDPも増加するからです。GDPの増加に伴い、二酸化炭素の排出も増えます。図10に2050年GDP予測と人口のデータを示しました。

図10 2050年のGDP順位出典:2019年のGDP、2020年の人口(国連統計)
図10 2050年のGDP順位
出典:2019年のGDP、2020年の人口(国連統計)
2050年のGDP(Pwc調査レポート「世界の経済秩序は2050年までにどう変化するのか?」)

2050年の世界の人口は97億人、現在の1.24倍と予想されています。これに伴いGDPも増加します。これまでは開発途上国だった国が人口増加と共に経済も成長します。GDP4兆ドル以上の国は、欧米に加えて、インドネシア、ブラジル、メキシコ、サウジアラビア、ナイジェリア、エジプト、パキスタンが加わります。

そこで現在の各国のGDP当たりの二酸化炭素排出量を元に、2050年の二酸化炭素排出量を私の方で計算したものを図11に示します。

図11 各国のGDP当たりの二酸化炭素排出量から換算した2050年の二酸化炭素排出量
図11 各国のGDP当たりの二酸化炭素排出量から換算した2050年の二酸化炭素排出量
 

GDPに対する二酸化炭素排出量を現状と同じとすると、

2050年の二酸化炭素排出量は2020年の約4倍

にもなります。もし現状と同程度の二酸化炭素排出量に抑えるには、

GDP当たりの二酸化炭素排出量を現在の1/4にしなければなりません。

それでも現在と同等の二酸化炭素が排出されるのです。

一方2019年のGDP当たりの二酸化炭素排出量は国によって大きな違いがあります。これはその国の産業構造が

  • 製造業主体か、サービス業主体か
  • 製造業の中でも鉄鋼、化学の比率が高いかどうか

で変わります。ただしそれを抜きにしてもイラン、ベトナム、ロシア、サウジアラビアなどは、GDP当たりの二酸化炭素排出量が高いため、改善の余地は大きいでしょう。
 

開発途上国の声

コロラド大学の気象学者ロジャー・ピールキ・ジュニア教授は、欧米の環境保護団体を「途上国を貧困のままにおこうとする『グリーン(緑)帝国主義』の活動家だ」と批判しました。

「グローバル開発センターの報告によれば、1000億円をつぎ込むサヘル地域(サハラ砂漠南部)の再生可能エネルギー事業は、3000万の住民に電気を送ることができます。しかし、同じ1000億円で天然ガス火力発電をしたら、9000万の住民に送電できます」

インド政府は国連の二酸化炭素削減に反発して、2009年に国連にこう申し入れました。

「国民の40%が電気を使えない現在、二酸化炭素排出削減に努めよとは、無慈悲というものだろう」

途上国の開発を願って活動する南アフリカの作家レオン・ルーは、以下のように発言しています。
「第三世界は、先進国がやったのと同じことをしていい。天然資源を活用して都市を作り、湿地帯を住宅地に変え、木材の生産・利用を進め、鉱物資源を掘り、天然資源を利用する。

先進国を豊かにしたそんな政策が、いま貧困国には閉ざされているのだ」

 

環境活動家のビル・マッキベン氏は、貧困国は「化石資源時代を通らず、一足飛びに再生可能エネルギー時代になるべきだ」と主張します。そして太陽光や風力など再生可能エネルギーが「持続可能な開発」に役立つと言います。本当にそうでしょうか。

エネルギー関連の活動家スティーブ・ミロイ氏は「通信の分野であれば、電話線の時代無しに携帯電話時代を迎えた貧困国もある。しかしエネルギーだと、化石資源の時代無しにはすまない。

火力のバックアップがなければ無風の夜に電気は来ない。

また、再生可能エネルギーの電気は高いので、先進国なら莫大な補助金を使って運用できる。しかし貧困国にはそんなお金はない」
と述べています。

環境論の始祖、かつては温暖化の恐怖を煽ったジェームス・ラブロック氏は「持続可能な開発」を戯言と斬り捨てます。今では

「私たちは、よくも考えずに再生可能エネルギーに走った。絶望的に非効率だし悪趣味、とりわけ風力は許しがたい」

と発言しています。実は電力が安定して供給されている先進国の人々は問題がわかりません。しかし新興国の脆弱な電力インフラは、しばしば停電を起こします。停電しないまでも電圧が不安定な国も多く、そうした不安定な電源では先進国の製品や装置は正しく動作しません。外国資本の工場すら誘致できないのです。ジェームス氏は

「フラフラ電源でも構わない用途ならローカル電源として役に立つ。だが、基盤電源の補佐役でしかない風力をどしどし建てる欧州のやり方は、極悪の蛮行として人類史に残る」

と指摘しています。
 

低炭素製鉄とCO2貯留と回収技術

それでは、産業界で最も二酸化炭素排出量の多い鉄鋼業界ではどのような取組がされているのでしょうか。

鉄鋼メーカーは、以下のようなCO₂排出量削減の取組を行っています。

  • 高炉の割合を減らして、スクラップを溶かす電炉製鉄の比率を増やす
  • 高炉でのプロセスに水素還元方法を導入
  • 発生した二酸化炭素を分離・回収する

国際エネルギー機関(IEA)は、製造工程のCO2排出量が実質ゼロとなる「グリーンスチール」の市場が、2050年時点では約5億トンになり、2070年には生産される鉄鋼のほとんどが、グリーンスチールにかわると予測しています。
 

環境への負荷を抑えるなら、鉄鉱石から鉄をつくるよりも、スクラップを活用すればよいです。しかし鉄鋼は自動車や各種インフラ、電子電気機器などの需要が2050年以降も大きく、それを十分に満たすだけのスクラップはありません。従って高炉による製鉄は将来も不可欠です。

日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所の高炉3社と、日鉄エンジニアリングがNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)委託事業として行う「COURSE50」が取組んでいるのが、この水素還元法と二酸化炭素の分離回収の2つの技術です。2016年には日本製鉄・君津製鉄所に小型試験高炉を建設し、実証試験を進めてきました。
 

水素還元法

高炉内に水素を吹き込むことで水素還元の比率を増やして二酸化炭素を削減します。さらに、炉に入れるコークスを必要最小限度に抑え、製鉄過程で発生する水素以外に、外部からも水素を取り入れて投入量を大幅に増やし、より大規模な水素還元を行います。

製鉄方法には、「高炉法」のほかに「直接還元法」という方法もあります。直接還元法は、天然ガスを使用して鉄鉱石を固体のまま還元し、そのあとで電炉に移して溶解をおこなう方法です。コークスを使わないため、高炉よりもCO2の発生を低く抑えることができます。海外では天然ガスを用いた直接製鉄法(鉄鉱石から固体還元鉄を直接製造する方法)がすでに稼動しています。
 

二酸化炭素の分離回収

化学吸収法とは、「吸収塔」でアミン等のアルカリ性水溶液(吸収液)とCO2含有ガスとを接触させ、吸収液にCO2を選択的に吸収させた後、「再生塔」で吸収液を加熱して、高純度のCO2を分離・回収する技術です。

化学吸収法は、常圧のガスから大量のCO2を分離・回収するのに適していますが、これまで製鉄プロセスへの応用した実績がなく、新吸収液の開発やプロセスの最適化により、これまでの方法よりCO2分離・回収に要するエネルギーが約40%低い方法を実現しました。

さらに物理吸着法を製鉄プロセスに組み込み、高炉ガスから二酸化炭素を分離吸着して二酸化炭素回収率≧80% 、または二酸化炭素濃度≧90%を達成しました。

注) 「CCS」とは、「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、日本語では「二酸化炭素回収・貯留」技術と呼ばれます。発電所や化学工場などから排出されたCO2を、ほかの気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入するというものです。
「CCUS」は、「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略で、分離・貯留したCO2を利用しようというものです。たとえば米国では、CO2を古い油田に注入することで、油田に残った原油を圧力で押し出しつつ、CO2を地中に貯留するというCCUSがおこなわれており、全体ではCO2削減が実現できるほか、石油の増産にもつながるとして、ビジネスになっています。

図17 CCSの流れ

最も冷静な議論が必要な課題なのに、冷静な議論ができていない

 
地球温暖化の問題は過去の省エネと違い、日本だけが努力しても効果はありません。世界中で協調して取り組まなければなりません。これは二酸化炭素排出削減にかかるコストと経済成長の問題なのです。SDGsの他のテーマも合わせて、今後どのように進めていくのか、各国が冷静に議論を行い協調して取り組む必要があります。加えて途上国の負担するコストや成長の阻害をどうするのかも考えなければなりません。

残念ながらこうした問題に対し、今ある技術でどこまで二酸化炭素排出量を抑えられるのか、数値目標ばかり先行して冷静な議論が進みません。菅政権の46%削減にしてもどこまで技術的な裏付けがあるのか不明です。

リスクマネジメントの世界では、ある問題事象に対し対策費用が過大であれば、その問題を受け入れる選択もあります。

地球温暖化のリスクは、対策可能なのか、受入ざるを得ないのか、冷静が議論が求められます。
 

参考文献

「環境問題のウソとホントがわかる本」杉本裕明 著 大和書房
「図解SDGs入門」 村上芽 著 日本経済新聞出版
「異常気象と地球温暖化」鬼頭昭雄 著 岩波新書
「地球温暖化の不都合な真実」マーク・モラノ 著 日本評論社
「地球温暖化 そのメカニズムと不確実性」日本気象協会 朝倉書店
「SDGsとは何か 世界を変える17のSDGs目標」安藤 顯 著 三和書籍
「不都合な真実」アル・ゴア 著 ランダムハウス講談社
 

本コラムは「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。

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「SDGsの真実1」~環境だけじゃない。17の目標と温暖化対策の目標~ https://ilink-corp.co.jp/8448.html https://ilink-corp.co.jp/8448.html#respond Thu, 23 Feb 2023 11:25:55 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8448
【コラムの概要】

本コラムでは、SDGs(持続可能な開発目標)が、環境問題だけでなく多岐にわたる17の目標から構成されることを解説しています。
SDGsは、2030年までに達成を目指す国際社会共通の目標であり、「貧困をなくす」や「飢餓をゼロに」といった社会・経済的課題から、「クリーンな水と衛生」「エネルギーをみんなに」といったインフラ整備、さらに「働きがいも経済成長も」のような経済発展に関する目標まで、幅広い分野を網羅しています。特に、地球温暖化対策を示す目標13「気候変動に具体的な対策を」もその一つとして存在しますが、SDGs全体としては、環境問題のみならず、より包括的な持続可能な社会の実現を目指すものであることを明確に示しています。企業活動がSDGsの多様な目標にどのように貢献できるかを考えるきっかけを提供する内容です。

SDGsとは

SDGsという言葉を報道などで耳にする機会が増えています。「SDGs登録制度」を設けている県もあり、国はSDGs達成に向けた取組を行っている企業を増やし、SDGsの普及を目指しています。

では、SDGsとはどのような取組なのでしょうか。

私たちは何をすればいいのでしょうか。

SDGsを環境問題と思っている人もいます。しかしSDGsは環境だけではありません。しかもSDGsの中には、矛盾する内容もあるのです。

このSDGsについて、詳しく調べました。
(本コラムは、未来戦略ワークショップのテキストから作成しました。)

図1 SDGs 17の目標
図1 SDGs 17の目標
 

SDGsの成り立ち

SDGs(Sustainable Development Goals)とは

「持続可能な開発目標」

のことです。2016年から2030年までの15年間で世界が達成すべき

17の目標と169のターゲット

で構成されています。

このSDGsは、これまでの【MDGs(ミレニアム開発目標)】と、【リオ+20(国連持続可能な開発会議)】という2つの大きな流れが融合し、作られました。
 

【MDGs】
MDGsは、2000年9月の国連ミレニアム・サミットで採択された【国連ミレニアム宣言】と、1990年代に国際会議やサミットで採択された【国際開発目標】を統合したものです。以下の8つのゴールが設定されました。

1 極度の貧困と飢餓の撲滅
2 初等教育の完全普及の達成
3 ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上
4 幼児死亡率の削減
5 妊産婦の健康の改善
6 HIV/エイズ、マラリア、そのほかの疾病の蔓延の防止
7 環境の持続可能性確保
8 開発のためのグローバルなパートナーシップの推進

そのテーマ、「経済成長を通じて貧困を削減する」ものです。その結果、極度の貧困に苦しむ人々の割合は、1990年には世界の人口の36%だったものが、2015年には12%(3分の1)まで減少しました。これにより10億人以上が極度の貧困から脱し、子供の死亡率は半分以下に減少しました。

こうして一定の目標は達成しましたが、その一方で格差の拡大、特に女性、子供、障害者、高齢者、難民など立場の弱い人たちへの格差がクローズアップされています。
 

【リオ+20】
1992年にブラジル・リオデジャネイロで開催された「国連環境開発会議」(地球サミット)では、「環境と開発に関するリオ宣言」が採択されました。

さらにその行動計画「アジェンダ21」が採択され、気候変動枠組条約や生物多様性条約の署名が行われました。

その20年後、2012年6月に開催された「国連持続可能な開発会議」(リオ+20)では、グリーン経済への移行、「持続可能な開発」のための新たな枠組みの議論が行われました。そして「我々の求める未来」がまとめられました。この議論がMDGsと統合され、SDGsになりました。
 

SDGs 17の目標

SDGsには、17の目標と169のターゲットがあります。全部紹介するのは大変なので、169のターゲットの要点のみ解説します。
(詳細は、末尾の参考文献やSDGsの解説本を参照してください。


1.貧困をなくそう
あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ

 

《ターゲットの概要》
2030年までに

  • 極度の貧困(1日1.25ドル未満で生活)をなくす
  • 極度の貧困以外でも貧困状態にある人を半減させる
  • 貧困層への《社会保障制度、権利(財産・相続、金融サービスを受ける権利)》を確保する
  • 病気、失業、災害など予期せぬ事態に対する個人の強靱性(レジリエンス)を強化する。そのために途上国支援や開発投資を促進する

 

表1 日本の貧困率の推移

199120032006
相対的
貧困率(%)
13.514.915.7
中央値
(万円)
270260254
貧困値
(万円)
135135127
200920122015
相対的
貧困率(%)
16.016.115.6
中央値
(万円)
250244245
貧困値
(万円)
125122122

 

表2 世界の地域別貧困率の変化

【1990】

貧困率(%)貧困層の人数(百万人)
東アジア
太平洋地域
60.23965.9
ラテンアメリカ
カリブ海地域
15.8471.21
南アジア地域44.58505.02
サブサハラ
アフリカ地域
54.28276.08
途上国全体42.011840.47
世界全体34.821840.47

【2013】

貧困率(%)貧困層の人数(百万人)
東アジア
太平洋地域
3.5471.02
ラテンアメリカ
カリブ海地域
5.4033.59
南アジア地域15.09256.24
サブサハラ
アフリカ地域
40.99388.72
途上国全体12.55766.01
世界全体10.67766.01

 
1990年に比べ世界全体の貧困率は大きく改善されました。特に東アジア、南アジアの貧困率の改善は大きく、世界全体でも貧困者数は2013年には766万人と1990年の半数以下になりました。

その一方アフリカ地域の貧困率は2014年でも40%もあり、大きな問題となっています。


2.飢餓をゼロに
飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 国際間の種子の適正管理と、野生種の遺伝的多様性の維持

 

2030年までに

  • 飢餓の撲滅と5歳未満の子供の栄養不良を解消
  • 小規模食料生産者の生産性及び所得倍増
  • 災害への適応能力を高め、土壌を改善し強靭(レジリエント)な農業を実践

 

その他

  • 開発途上国の農村インフラ投資の拡大、農産物輸出補助金を撤廃し貿易制限や歪みを是正、食料市場及びデリバティブ市場への規制

 

表3 熱量消費量(単位 kCal/人・日)

20012009
日本27462723
インド24872321
フィリピン23722580
アメリカ37663688
イタリア36803627
ギリシア37543611
スーダン22882326

1日のカロリー摂取量でみると、アメリカ、イタリアなど先進国は過剰摂取、対してインド、スーダンなどは2,500kcalを下回り、生存に必要な最低限のエネルギーしかありません。これは先の貧困問題とも関係しています。
 

表4 主要各国の自給率(2009年 単位 %)

穀類野菜類肉類
日本23.283.256.1
中国103.4101.897.4
アメリカ124.892.3113.4
イギリス101.043.468.0
オランダ19.8302.9187.7
ドイツ124.133.4114.4
フランス174.162.6100.5
ロシア128.976.872.0
オーストラリア242.387.8162.7

穀物は広い土地を必要とし、収穫量に比べ金額は低いため、国土の狭い国では生産量は多くありません。一方野菜や果物は、狭い土地でも収穫でき金額も高いため、日本でも自給率は高く、オランダは野菜の多くを輸出しています。

国により国土や経済力が違うため、農産物の生産性は国により異なります。関税を完全に撤廃したり、先進国が輸出補助金で農産物の輸出を促進したりすれば、生産性の低い国の農業は壊滅的な打撃を受けます。
 


3.すべての人に健康と福祉を
あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 交通事故による死傷者を半減

 

2030年までに

  • 妊産婦の死亡率を出生10万人当たり70人未満
  • 新生児死亡率を出生1,000件中12件以下、5歳以下死亡率を出生1,000件中25件以下
  • 新生児及び5歳未満児の予防可能な死亡を根絶
  • エイズ、結核、マラリアなどの伝染病を根絶
  • 非感染性疾患による若年死亡率を3分の1減少、精神保健及び福祉を促進
  • 性と生殖に関する保健サービスを全ての人々が利用可能に
  • 有害化学物質、大気、水質及び土壌汚染による死亡や疾病を大幅に減少

 

その他

  • 全ての人々に質の高い保健サービスや安全で安価な必須医薬品とワクチンの利用を実現
  • 薬物乱用やアルコール依存症の予防や治療の強化
  • 全ての国々でたばこの規制の強化
  • 開発途上国の感染性及び非感染性疾患のワクチン及び医薬品の研究開発を支援
  • 開発途上国において保健人材の採用、能力開発・訓練及び定着の大幅な拡大
  • 全ての国々の国家・世界規模な健康危険因子の早期警告と管理能力を強化
図2 自殺死亡率の国別比較 (出所 : OECD)
図2 自殺死亡率の国別比較 (出所 : OECD)


今回の新型コロナウイルス感染症は、一旦感染症が拡大すれば被害を免れる国はないことを示しました。感染症の予防と撲滅は人類共通の課題です。

その一方、不十分な衛生環境や不十分な予防接種のため、先進国では抑えられている結核やマラリヤなどの病気が新興国では問題となっています。安全な飲み水の確保など衛生環境の整備や予防接種などの充実が新興国にも必要です。

一方先進国では、若年者の自殺は大きな問題です。日本は人口10万人当たりの自殺死亡率は15.2人と世界でも高い数字です。

日本の15~39歳の死因の第1位(2019年)は自殺です。G7の中で若者の死因の第1位が「自殺」なのは日本だけで、これは社会問題となっています。
 


4.質の高い教育をみんなに
すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 職業訓練、情報通信技術(ICT)、技術・工学・科学プログラムなど高等教育の奨学金の件数を全世界で大幅に増加

2030年までに

  • 全ての子供が、無償かつ質の高い初等教育及び中等教育を修了できる
  • 全ての子供が、乳幼児の発達・ケア及び就学前教育を受け、初等教育を受ける準備が整う
  • 全ての人々が、質の高い技術・職業教育及び高等教育(大学)を受けることが可能
  • 技術的・職業的スキルを習得し、仕事や起業に必要な技能を備えた若者を大幅に増加
  • 教育におけるジェンダー格差を無くす。障害者、先住民など脆弱層も教育や職業訓練受けることが可能
  • 全ての若者及び大多数の成人が、読み書き及び基本的計算能力を身に付けられる
  • 質の高い教員の数を大幅に増加

 

その他

  • 子供、障害及びジェンダーに配慮した安全で非暴力的な教育施設を提供

 

表5 初等教育修了率(2014年 単位 %)

男子女子
欧・米・日本99.699.4
南アジア91.592.0
アフリカ(サブサハラ)72.068.0

先進国では99%の子供が基本的な読み書きを習得する初等教育を受けています。しかしアフリカでは約70%、つまり3割の子供が初等教育を受けていません。

読み書きができないことが、職業選択を制限し、貧困から抜け出せない原因となっています。
 


5.ジェンダー平等を実現しよう
ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る

 

《ターゲットの概要》

  • 女性及び女児に対するあらゆる差別を撤廃
  • 人身売買や性的搾取などあらゆる形態の暴力を排除
  • 早期結婚、強制結婚及び女性器切除など有害な慣行を撤廃
  • 無報酬の育児・介護や家事労働を評価
  • 政治、経済などあらゆるレベルで公平な女性の参画の機会を確保
  • 女性に対し、所有権、土地、財産など経済的資源の権利を与えるための改革に着手
  • 女性の能力強化促進のため、ICTをはじめとする技術の活用
  • ジェンダー平等の促進のための政策や法規を導入・強化

 


6.安全な水とトイレを世界中に
すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する

 

《ターゲットの概要》
2030年までに

  • 全ての人々の安全で安価な飲料水へのアクセスを達成
  • 全ての人々の適切な下水施設へのアクセスを達成、野外での排泄をなくす
  • 排水の浄化と汚染の減少により水質を改善
  • 淡水の持続可能な供給を確保、水不足に悩む人々の数を大幅に減少
  • 国境を越えた協力を含む、統合水資源管理を実施
  • 山地、森林、河川を含む生態系の保護・回復を行う
  • 開発途上国における水と衛生分野の国際協力と能力構築支援を拡大

 

表6 世界の降水量、水資源量、取水量の関係
(単位 降水量mm/年 1人当り水資源量&1人当り取水量立方メートル/人、年)

降水量1人当たり水資源量1人当たり取水量
世界平均7807800560
日本15603030680
サウジアラビア300720
インド10801700580
フランス7603000570
インドネシア26801450380

世界の一人当たりの水資源量は、地域によって大きく異なります。世界平均では7,800立方メートル/年ですが、利用できない地域の工数もあるため、国別では日本は3,030立方メートル/年で世界で96位です。

農業や工業などに必要な水資源量は、1,700立方メートル/年とされ、これに満たない国が世界では55カ国もあります。
 


7.エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する

 

《ターゲットの概要》
2030年までに

  • 安価かつ信頼できるエネルギーサービスを利用可能
  • 世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大
  • 世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増
  • エネルギー効率向上のための国際協力の強化、エネルギー技術への投資を促進
  • 開発途上国の全ての人々に持続可能なエネルギーサービスを供給できるようにインフラ拡大と技術向上

 

表7 世界の1人当り消費エネルギー(単位 kg/年)
(総務省統計局の資料 2013年)

199920082009
世界全体135814931465
アジア72110421077
アメリカ797368666486
南アメリカ86510291004
ヨーロッパ285332313018
アフリカ347356353
オセアニア426940984108
日本366532103003

 


8.働きがいも経済成長も
すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 就労、就学及び職業訓練のいずれも行っていない若者の割合を大幅に減らす

 

2025年までに

  • 児童兵士の募集と使用を含むあらゆる形態の児童労働を撲滅

2030年までに

  • 持続可能な消費と生産に関する10年計画に従い経済成長と環境悪化の分断を図る
  • 若者や障害者を含む全ての男女の、完全な雇用及び人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成
  • 持続可能な観光業を促進する政策を立案し実施

 

その他

  • 強制労働を根絶
  • 移住労働者など不安定な雇用形態の労働者の権利を保護
  • 一人当たり経済成長率を持続、後発開発途上国は少なくとも年率7%の成長率
  • 多様化、イノベーションを通じた高いレベルの生産性を達成
  • 開発重視型の政策を促進するとともに、中小零細企業の設立や成長を奨励する
  • 国内の金融機関の能力を強化し、全ての人々の金融サービスへのアクセスを促進・拡大
  • 開発途上国に対する貿易の援助を拡大

 


9.産業の技術革新の基礎を作ろう
強靭なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、技術革新の拡大を図る

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 開発途上国において普遍的かつ安価なインターネットアクセスを提供

 

2030年までに

  • 雇用及びGDPに占める産業セクターの割合を大幅に増加。後発開発途上国については同割合を倍増
  • 資源利用効率の向上とクリーン技術及びインフラ改良により持続可能性を向上
  • イノベーションを促進させることや100万人当たりの研究開発従事者数を大幅に増加させ、科学研究を促進し、技術能力を向上

 

その他

  • 質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを開発
  • 開発途上国における小規模の製造業その他の企業への金融サービスへの利用可能性を拡大
  • アフリカ諸国への金融・テクノロジー・技術の支援強化を通じて、インフラ開発を促進
  • 産業の多様化や商品への付加価値創造などを通じて、開発途上国の技術開発、研究及びイノベーションを支援

 


10.人や国の不平等をなくそう
国内および国家間の格差を是正する

 

《ターゲットの概要》
2030年までに

  • 各国の所得下位40%の所得成長率の国内平均を上回る数値を達成
  • 年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教に関わりなく、能力強化を促進
  • 移住労働者による送金コストを3%未満に引き下げ、コストが5%を越える送金経路を撤廃

 

その他

  • 差別的な法律、政策及び慣行の撤廃、並びに適切な関連法規、政策などを通じて、機会均等を確保し、成果の不平等を是正
  • 税制、賃金、社会保障政策をはじめとする政策を導入し、平等の拡大
  • 世界金融市場と金融機関に対する規制とモニタリング
  • 国際経済・金融制度の意思決定に開発途上国の参加や発言力の拡大
  • 秩序のとれた、安全で規則的かつ責任ある移住や流動性を促進
  • 世界貿易機関(WTO)協定に従い、開発途上国に対する特別かつ異なる待遇の原則を実施
  • 政府開発援助(ODA)及び海外直接投資を含む資金の流入を促進

 


11.住み続けられる街づくりを
都市と人間の居住地を包摂的、安全、強靭かつ持続可能にする

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施

 

2030年までに

  • 安全かつ安価な住宅へのアクセスを確保しスラムを改善
  • 全ての人々に、安全かつ安価で持続可能な輸送システムを提供
  • 都市化を促進し、全ての国々が持続可能な人間居住計画・管理能力を強化
  • 世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する
  • 水関連災害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減
  • 都市の一人当たりの環境上の悪影響を軽減
  • 人々に安全で利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供

 

その他

  • 開発計画を通じて、都市部、都市周辺部及び農村部間の良好なつながりを支援
  • 財政的及び技術的な支援などを通じて、後発開発途上国の持続可能かつ強靱(レジリエント)な建造物の整備を支援

 


12.つくる責任つかう責任
持続可能な消費と生産のパターンを確保する

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減

 

2030年までに

  • 人々が持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つ
  • 天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成
  • 世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させる
  • 廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減

 

その他

  • 持続可能な消費と生産に関する10年計画(10YFP)を実施し全ての国々が対策を講じる
  • 大企業や多国籍企業などは持続可能な取り組みを導入し、持続可能性に関する情報を定期報告に盛り込むよう奨励
  • 持続可能な公共調達の慣行を促進
  • 開発途上国に対し持続可能な消費・生産形態の促進のため科学的・技術的能力の強化を支援
  • 持続可能な観光業に対して開発がもたらす影響を測定する手法を開発・導入

 


13.気候変動に具体的な対策を
気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 開発途上国のニーズに対応するため年間1,000億ドルを共同で動員するUNFCCCのコミットメントを実施し、速やかに資本を投入して緑の気候基金を本格始動させる

 

その他

  • 気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化
  • 気候変動対策を国別の政策、戦略及び計画に盛り込む
  • 気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する

※国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が、気候変動への世界的対応について交渉を行う一義的な国際的、政府間対話の場であると認識している。

表8 主な国・地域の温室効果ガス削減目標

削減比率と期限備考
日本2013年比 2030年までに26%2050年に80%削減を閣議決定
アメリカ2005年比 2030年までに26~28%2017年6月にパリ協定離脱
推移目標も取り消し
EU1990年比 2030年までに40% 
中国2005年比 2030年までに60~65%GDP当りのCO₂排出量
インド2005年比 2030年までに33~35%GDP当りのCO₂排出量

 


14.海の豊かさを守ろう
海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 強靱性(レジリエンス)の強化などによる持続的な管理と保護を行い、海洋及び沿岸の生態系の回復のための取組を行う
  • 漁獲を効果的に規制し、過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業及び破壊的な漁業慣行を終了
  • 国内法及び国際法に則り、少なくとも沿岸域及び海域の10パーセントを保全
  • 過剰漁獲能力や過剰漁獲につながる漁業補助金を禁止し、違法・無報告・無規制(IUU)漁業につながる補助金を撤廃

 

2025年までに

  • 海洋ごみや富栄養化を含むあらゆる種類の海洋汚染を防止し大幅に削減

 

2030年までに

  • 漁業、水産養殖及び観光の持続可能な管理などを通じ、後発開発途上国の海洋資源の持続的な利用による経済的便益を増大

 

その他

  • 海洋酸性化の影響を最小限化し、対処する
  • 水産資源を、実現可能な最短期間で少なくとも各資源の生物学的特性によって定められる最大持続生産量のレベルまで回復させる
  • 開発途上国に対する適切かつ効果的な待遇が、世界貿易機関(WTO)漁業補助金交渉の不可分の要素であるべきことを認識した上で、海洋の健全性の改善と、開発途上国の開発における海洋生物多様性の寄与向上のために、科学的知識の増進、研究能力の向上、及び海洋技術の移転を行う
  • 小規模・沿岸零細漁業者に対し、海洋資源及び市場へのアクセスを提供する
  • 海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)に反映されている国際法を実施することにより、海洋及び海洋資源の保全及び持続可能な利用を強化する

 


15.陸の豊かさも守ろう
陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 森林、湿地、山地及び乾燥地をはじめとする陸域生態系と内陸淡水生態系の保全、回復及び持続可能な利用を確保
  • 森林減少を阻止し、劣化した森林を回復し、世界全体で新規植林及び再植林を大幅に増加
  • 外来種の侵入を防止し、これらによる陸域・海洋生態系への影響を大幅に減少させるための対策を導入
  • 生態系と生物多様性の価値を、国や地方の計画策定、開発プロセス及び貧困削減のための戦略及び会計に組み込む
  • 絶滅危惧種を保護し、絶滅防止するための緊急かつ意味のある対策を講じる

 

2030年までに

  • 砂漠化に対処し、砂漠化、干ばつ及び洪水の影響を受けた土地などの劣化した土地と土壌を回復
  • 生物多様性を含む山地生態系の保全を確実に行う

 

その他

  • 国際合意に基づき、遺伝資源への適切なアクセスを推進
  • 保護の対象となっている動植物種の密猟及び違法取引を撲滅するための緊急対策を講じる
  • 生物多様性と生態系の保全と持続的な利用のために、あらゆる資金源からの資金の動員及び大幅な増額を行う
  • 保全や再植林を含む持続可能な森林経営を推進するため、持続可能な森林経営のための資金の調達と開発途上国への十分なインセンティブ付与のための資源を動員
  • 地域コミュニティ経済能力を高め、密猟及び違法な取引を防ぐための支援を強化

 


16.平和と公正をすべての人に
持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する

 

《ターゲットの概要》
2030年までに

  • 違法な資金及び武器の取引を大幅に減少させ、あらゆる形態の組織犯罪を根絶
  • 全ての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供

 

その他

  • 全ての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少
  • 子供に対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅
  • 国家及び国際的な法の支配を促進し、全ての人々に司法への平等なアクセスを提供
  • あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少
  • 有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展
  • 対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定を確保
  • グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化
  • 国内法規及び国際協定に従い、情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障
  • 特に開発途上国において、暴力の防止とテロリズム・犯罪の撲滅に関する能力構築のため、国際協力などを通じて関連国家機関を強化
  • 持続可能な開発のための非差別的な法規及び政策を推進、実施

 


17.パートナーシップで目標を達成しよう
持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

 

《ターゲットの概要》
【資金】

  • 課税及び徴税能力の向上、国内資源の動員を強化
  • 先進国は、開発途上国に対するODAをGNI比0.7%に、後発開発途上国に対するODAをGNI比0.15~0.20%という目標を完全に実施する。少なくともGNI比0.20%のODAを後発開発途上国に供与するという目標を奨励
  • 複数の財源から、開発途上国のための追加的資金源を動員
  • 必要に応じた負債による資金調達、債務救済及び債務再編の促進を目的とした政策により、開発途上国の長期的な債務の持続可能性の実現を支援し、重債務貧困国(HIPC)の対外債務への対応により債務リスクを軽減する
  • 後発開発途上国のための投資促進枠組みを導入及び実施する

 

【技術】

  • 科学技術イノベーション(STI)及びこれらへのアクセスに関する南北協力、南南協力及び地域的・国際的な三角協力を向上
  • 開発途上国に対し、譲許的・特恵的条件などの相互に合意した有利な条件の下で、環境に配慮した技術の開発、移転、普及及び拡散を促進
  • 2017年までに、後発開発途上国のための技術バンク及び科学技術イノベーション能力構築メカニズムを運用し、情報通信技術(ICT)をはじめとする実現技術の利用を強化

 

【キャパシティ・ビルディング】

  • 開発途上国における持続可能な開発目標を実施するための効果的かつ的をしぼった国際的な支援を強化

 

【貿易】

  • WTOの下での普遍的でルールに基づいた、公平な貿易体制を促進
  • 開発途上国による輸出を大幅に増加させ、特に2020年までに世界の輸出に占める後発開発途上国のシェアを倍増
  • 世界貿易機関(WTO)の決定に矛盾しない形で、全ての後発開発途上国に対し、永続的な無税・無枠の市場アクセスを適時実施

 

【体制面】

  • 政策協調や政策の首尾一貫性などを通じて、世界的なマクロ経済の安定を促進
  • 持続可能な開発のための政策の一貫性を強化する
  • 貧困撲滅と持続可能な開発のため政策の確立・実施にあたっては、各国の政策空間及びリーダーシップを尊重

 

【マルチステークホルダー・パートナーシップ】

  • 全ての国々、特に開発途上国での持続可能な開発目標の達成を支援すべく、知識、専門的知見、技術及び資金源を動員、共有するマルチステークホルダー・パートナーシップによって補完しつつ、持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップを強化する
  • さまざまなパートナーシップの経験や資源戦略を基にした、効果的な公的、官民、市民社会のパートナーシップを奨励・推進する

 

【データ、モニタリング、説明責任】

  • 2020年までに、開発途上国に対する能力構築支援を強化し、所得、性別、年齢、人種、民族、居住資格、障害、地理的位置及びその他各国事情に関連する特性別の質が高く、タイムリーかつ信頼性のある非集計型データの入手可能性を向上させる
  • 2030年までに、持続可能な開発の進捗状況を測るGDP以外の尺度を開発する既存の取組を更に前進させ、開発途上国における統計に関する能力構築を支援する

 

環境だけでなく、世界が直面する様々な問題への取組

このようにSDGsは、環境だけでなく世界が直面している様々な問題を解決するための取組を低減しています。

その一方、経済発展と環境のように相反するテーマもあります。その中で、どのように折り合いをつけてそれぞれの問題を解決するのか、それには各国の知恵と、世界での協調が不可欠です。
 

地球温暖化とパリ協定

パリ協定

パリ協定とは、2015年にパリで開かれた「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で合意された、温室効果ガス削減に関する国際的取り決めのことです。
パリ協定では、次のような世界共通の長期目標を掲げています。

  • 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
  • できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる

日本も批准手続きを経て、パリ協定の締結国となりました。この国際的な枠組みの下、主要排出国が排出削減に取り組むよう国際社会を主導し、地球温暖化対策と経済成長の両立を目指すとしています。

最大の二酸化炭素排出国アメリカは、ドナルド・トランプ米大統領が2017年6月にパリ協定から離脱を宣言し、2020年11月4日に正式離脱しました。その後、バイデン大統領に変わった2021年2月19日正式に復帰しました。
 

パリ協定が画期的といわれる2つのポイント

パリ協定は歴史的に重要な取組で、特に画期的な点は、途上国を含む全ての参加国に、排出削減の努力を求めたことです。

京都議定書では、排出量削減の法的義務は先進国のみ課せられました。しかし2016年の温室効果ガス排出の国別シェアは、中国が23.2%で1位、米国が13.6%で2位、EUが10.0%で3位、インドが5.1%でロシアと並んで同率4位です。日本の温室効果ガス排出量シェアは2.7%で8位です。

図3 世界のエネルギー起源Co²排出量(2018年)に占めるG20諸国の割合 (環境省ホームページより)
図3 世界のエネルギー起源Co²排出量(2018年)に占めるG20諸国の割合 (環境省ホームページより)

パリ協定では、途上国を含む全ての参加国と地域に、2020年以降の「温室効果ガス削減・抑制目標」を定めることを求めています。加えて、長期的な「低排出発展戦略」を作成することも求められています。

一方パリ協定は、各国が自主的に取り組むことが求められています。この自主的な取組はこれまでの国際交渉で日本が提唱してきたものです。その結果、各国が自国の国情を織り込み、削減・抑制目標を自主的に策定することが認められました。
 

日本の削減目標とビジネスへの影響

日本では、中期目標として、2030年度の温室効果ガスの排出を2013年度の水準から26%削減することが目標として定められました。「この目標は低いのではないか」という声もありますが、各国が自主的に定めた目標は基準年度や指標などがバラバラなので比較するには注意が必要です。表9は主要排出国の削減・抑制目標を比較したものです。日本の数値は一見低いように見えて、かなり高い目標だと分かります。

図4 各国の二酸化炭素排出削減目標(出典)主要国の約束草案(温室効果ガスの排出削減目標)の比較(経済産業省 作成)
図4 各国の二酸化炭素排出削減目標
(出典)主要国の約束草案(温室効果ガスの排出削減目標)の比較(経済産業省 作成)

・日本は2013年と比べた場合の数値、米国は2005年と比べた場合の数値、EUは1990年と比べた場合の数値を削減目標として提出
・比較する年度を「2013年」に合わせて数値を比べてみると、日本の目標は高いことが分かる
 

経済と両立しながら低排出型社会を目指す

経済産業省はこうした野心的な目標を達成するため、再生可能エネルギー(再エネ)の導入量を増やすなど低排出なエネルギーミックスの推進と、エネルギー効率化を追求しています。政府の2030年のエネルギーミックスは、再エネを22~24%、原子力を22~20%とするなどの電源構成を見通しています。

図5 エネルギーミックスにおける2030年の電源構成(出典)長期エネルギー需給見通し(経済産業省 作成)
図5 エネルギーミックスにおける2030年の電源構成
(出典)長期エネルギー需給見通し(経済産業省 作成)


 

地球温暖化対策はSDGsの17の目標のうちその1テーマにしか過ぎません。

しかし経済活動、社会生活に与える影響は他の16テーマと比べて極めて大きいものがあります。

ところがその根拠は「地球温暖化」という科学的に完全に解明されているとは言えない現象です。実際、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)(注)の報告書は誇張されていると考える専門家もいます。

なにより現在の地球温暖化の議論には重大な問題があります。

これについては、別の経営コラムでお伝えします。
 

参考文献

「環境問題のウソとホントがわかる本」杉本裕明 著 大和書房
「図解SDGs入門」 村上芽 著 日本経済新聞出版
「異常気象と地球温暖化」鬼頭昭雄 著 岩波新書
「地球温暖化の不都合な真実」マーク・モラノ 著 日本評論社
「地球温暖化 そのメカニズムと不確実性」日本気象協会 朝倉書店
「SDGsとは何か 世界を変える17のSDGs目標」安藤 顯 著 三和書籍
「不都合な真実」アル・ゴア 著 ランダムハウス講談社
 

本コラムは「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。

経営コラム ものづくりの未来と経営

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、技術革新や経営、社会の変革などのテーマを掘り下げ、ニュースからは見えない本質と変化を深堀したコラムです。「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しています。過去のコラムについてはこちらをご参照ください。
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政府債務がどれだけ増えても破綻しない? 話題の『現代貨幣理論』MMTを考える その1 https://ilink-corp.co.jp/8349.html https://ilink-corp.co.jp/8349.html#respond Thu, 09 Feb 2023 14:09:54 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8349
【コラムの概要】

現代貨幣理論(MMT)は、自国通貨を発行できる政府は財政赤字を増やしても破綻せず、インフレにならない限り積極的に財政支出すべきだと主張する。従来の経済学とは異なり、税は財源でなく通貨流通の仕組みと考える。賛成派は就業保証プログラムなどを提唱する一方、反対派は理論の脆弱性を指摘し、激しい議論が続いている。

 

日本の財政赤字は約1200兆円、GDPの2倍以上になり先進国の中では突出した金額です。

その一方で、日本はアベノミクスによる異次元の金融緩和を行ってもデフレを解消できず、2%のインフレ目標はいまだに達成できていません。(執筆時2022年)

それもあって「積極的な財政支出」を求める政治家もいます。そのような背景から2021年11月、政府は18歳以下に一人10万円の支給を検討しました。

財源は大丈夫でしょうか。

これに対し、ニューヨーク州立大ステファニー・ケルトン教授は
国(もしくは政府、以降政府)が
「自国通貨建ての借金(国債)をいくら増やしても財政は破綻(はたん)しないし、ハイパーインフレにならないように制御も可能」

なので、「経済成長が不足であれば政府は借金を増やしてでも積極的に財政出動すべき」

と主張しました。

彼女の理論「現代貨幣理論 (Modern Monetary Theory : MMT) 」は従来の経済学の常識とは大きく異なり、主流派経済学者からは激しい反発を受けています。

果たしてMMTは正しいのでしょうか?

政務債務の対GDP比が先進国中最悪の日本は、将来問題ないのでしょうか。

MMTの賛成派と反対派の意見をまとめました。
 

MMTとは?

現代貨幣理論の代表的な主張をまとめると、以下の3つのことがあげられます。

  • 自国通貨を発行できる政府は、財政赤字を拡大しても債務不履行にはならない
  • だから財政赤字でも政府はインフレが起きない範囲で財政支出を行うべき
  • なぜなら税は財源ではない。通貨を流通させる仕組みだからである

このMMTの主張を図1にまとめました。
 

図1 MMTの主な主張
図1 MMTの主な主張

MMTは、「税は政府の収入」という従来の考えを覆しました。そして「財政赤字を拡大しても債務不履行になることはないから、財政支出を拡大し景気を浮揚させるべき」と、従来とは全く異なる考えを主張し、大きな話題になりました。

アメリカでは、民主党の大統領候補サンダース上院議員や下院議員のオカシオ・コルテス氏がMMTを強く支持し、そこから広く知られました。日本の政界では、西田昌司参院議員(自民党)などが、早くからMMTを取り上げました。

MMTが大きな議論を巻き起こしたのは、貨幣や負債について、従来とは異なった新たな考えを示したこと、そして従来の経済学(新古典派)が提言してきた政策の矛盾点を突いたことです。さらに雇用や政策についても新たな提言をしました。

一方、経済理論としてMMTの主張には脆弱な点もあります。その点を反対派から批判されています。

注) MMTとリフレ派
MMT、リフレ派と積極財政派は、現在の日本の財政が危機的な状況でないという見解は同じですが、以下の主張が異なっています。

  • リフレ派 財政政策に否定的、量的緩和(金融政策)を主張
  • MMT  金融政策に否定的、総需要拡大でなく的を絞った財政政策を主張
  • 積極財政派 金融政策に否定的、総需要拡大を目指す財政政策を主張


 

現金通貨の理解

《租税貨幣論》

なぜ、ただの紙切れの貨幣に価値があるのでしょうか。

MMTは、「貨幣とは政府が国民・企業に渡す債務証書」と考えます。政府は、国民・企業から財やサービスを購入し、その対価として貨幣(債務証書)を渡します。国民・企業は、納税として一定額の貨幣(債務証書)を政府に渡します。

貨幣は借用証書なので、先に納税する必要はありません。政府が先に支出して、国民・企業に貨幣(借用証書)を渡し、後から納税してもらえばよいのです。これをスペンディングファーストと呼びます。

つまり、これまで考えられていたように、政府が支出をする際、税金を財源とする必要はありません。
必要なときに必要なだけ、お金を刷ればよいのです。
貨幣の発行に税収が必要ないことは、FRBのバーナンキ議長も認めています。以下はバーナンキ議長の発言です。

「税金で集めたお金ではありません。(中略) 銀行に貸出をするために、私たちはコンピューターを使って、銀行がFRBに持っている口座の残高を書き換えているだけです。」

図2 貨幣を動かす手段
図2 貨幣を動かす手段

だからといってMMTは、税は必要ない(無税)とは言っていません。税には以下の役割があるからです。

  • 物価の自動調整

税率を変えることで、物価が調整できます。

  • 悪い行動の抑制(CO2排出、公害、喫煙)

CO2排出、公害、喫煙など社会に対しマイナスの行動を、法律で罰する代わりに、税率を高めることで抑制できます。

  • 富の再配分

所得税の累進税率などで、富裕層から貧困層に富を再分配します。

  • 政府のコストの直接賦課

道路整備のためのガソリン税のように、特定の目的に応じて税を徴収しコストを使用者に負担させます

一方、MMTは、社会にマイナスの影響をもたらす租税を「悪税」と呼び、反対しています。

  • 生活水準の引き上げに逆行
  • 逆進性 (低所得者ほど厳しい)
  • 現在の税制は景気に連動しない → インフレ率連動型消費税を提言

 

実は、お金の実体は紙幣ではありません。

日本のマネーストックM2は約1,000兆円ですが、紙幣や硬貨などの「お金」は100兆円に過ぎません。他の900兆円は、銀行預金などコンピューター上の数字です。そして企業間の支払いとは、実体はA社の銀行口座からB社の銀行口座に、数字を移動することです。

つまり元手(紙幣)は必要ありません。

同様に政府(中央銀行)がお金を発行する場合、A銀行の日銀当座預金口座に数字を書き込むだけです。これを
「万年筆マネー (キースロークマネー) 」
と呼びます。

貨幣は、政府の債務証書なので、民間部門が黒字になり貨幣を蓄積すれば、政府は赤字になります。従って財政赤字は決して悪いことでなく
「デフレ下では、政府の財政は持続的に赤字に偏らなければならない」
とMMTは考えます。

図3 民間と政府の赤字
図3 民間と政府の赤字

逆にインフレになれば、税収を増やして政府の財政を黒字にします。そこでMMTは、

国内民間部門収支 + 政府部門収支 + 海外部門収支 = 0

と考えます。これは以下のように表すことができます。

(貯蓄-投資) + (租税-政府購入) + (輸入-輸出) = 0
 

実際、日本は図4に示すように1995年以降、企業と家計収支は黒字、海外部門(経常収支)も黒字です。これと対比して政府は赤字です。

好景気になって民間借入支出が増えれば、政府部門は黒字になります。好景気で民間借入支出が増えれば、後述の信用創造により「結果として」貨幣量が増えます。不景気になって民間借入支出が減れば「結果として」貨幣量が減少します。そして徴税により貨幣は消滅します。

従来は「貨幣量が増えたら好景気、貨幣量が減ったら不景気」と考え、不景気には貨幣量を増やせばよいと考えました。これは因果関係が逆です。

図4 政府、家計、民間の収支の推移
図4 政府、家計、民間の収支の推移

この「国、銀行、企業・家計」の債務は、図5のようなピラミッド構造になっています。

図5 負債ピラミッド
図5 負債ピラミッド

企業がお金を借りて、そのお金を使えば、そのお金がさらにお金を生むのです。これが信用創造です。

銀行は元手がなくても、借り手の口座に数字を書き込むことで、お金を生むことができます。そこで必要なのは、誰かの借入です。借入があればお金を創造できます。そしてマネーストックが拡大します。

例えば、誰かが銀行に100万円預金すれば、銀行は準備預金10万円(なくても可、その場合、日銀から借りる銀行与信を利用)を引いた残り90万円を企業A社に貸出します。

90万円を借りたA社は、物品をB社から購入します。そしてB社に代金90万円支払います。

その結果、B社の口座に90万円が書き込まれ、銀行は、この90万円から準備預金9万円を引いた81万円をC社に貸し出します。

これを繰り返すことで
100万円の預金は何倍ものお金を生みます。
これを信用創造と言います。

ただしBIS規制があるため、国際取引をする銀行は、8%以上の自己資本比率がです。国内取引のみの銀行でも、金融庁の規制により自己資本比率4%以上が必要です。

一方、政府が国債を発行して民間に直接投資しても、同様に民間企業の預金口座残高が増加し、信用創造によりマネーストックが拡大します。

図6 信用創造1
図6 信用創造1
図7 銀行の仕組み
図7 銀行の仕組み
図8 信用創造2
図8 信用創造2

MMT派は、積極的に財政支出をするために
中央銀行が国債を直接購入する財政ファイナンスでも構わない
と考えます。(財政ファイナンスは日本では財政法で原則禁止)

財政ファイナンスで政府が発行した国債を中央銀行が直接買い取るのなら国債も不要です。

そこで図9のように政府と中央銀行は統合できると考えます。
(ただし、現在は国債には金利を調整する役割もあります。中央銀行が国債の売買することで(売りオペ、買いオペ)金利を操作しています。)

図9 政府と中央銀行の統合
図9 政府と中央銀行の統合

機能的財政論

これまで
「日本は、政府が赤字になっても民間が貯蓄超過、貿易収支が黒字のため、財政破綻しない」
と考えられていました。しかしMMTは
「主権通貨国は、どれだけ財政赤字になっても、自国通貨建ての債務に関してデフォルトすることはない」
と主張します。

実は「国債がデフォルトしない」
ことは財務省も認めています。

外国の債権格付け会社3社が日本国債の評価を下げた際に、財務省は「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」という公式意見書を格付け会社に送っているのです。

なぜ国債がデフォルトしないのでしょうか。

それは日本など主権通貨国は、国債の返済期限が来た時にお金が足りなければ、自らお金を刷ればよいからです。しかし発展途上国で自国通貨の信用が低い国は、米ドルとの連動制(為替相場を固定)を取っています。そのため自国通貨を発行するには、発行する金額と同等の米ドル(外貨)が必要です。そのため自由に通貨を発行できないのです。

以上のことからMMTは、赤字国債発行を伴う財政支出を
「税収が多いか少ないか」、「累積財政赤字が多い少ないか」
で判断するのは間違っていると考えます。

財政支出は
「不況かインフレか」、「完全雇用か不完全雇用か」
で判断すべきと考えます。
 

《インフレ率を基準に財政支出》
MMTでは、
「経済が停滞すれば財政支出を増加させて政府が自ら需要をつくるべき」
と考えます。その場合の政府支出(財政赤字)は、少なくとも
「経済が停滞してしまう程度以上」
として、上限は
「過剰インフレにならない程度」
までとします。その基準は
インフレ率
です。

従来の経済学(新古典派)は、景気対策は金融政策を主とし、財政政策の効果は否定していました。従来は経済が過熱すれば、インフレを抑えるために金利を引き上げます。しかしMMTは、金利を引き上げれば政府の利払い費も上昇するため、民間への資金供給も増えます。そしてインフレを高めてしまうと考えます。

そのためインフレ率を引き下げるには、金利より「消費税増税、国債発行減少、政府支出減少」により、直接需要を冷やすべきと考えます。言い換えれば、増税や政府支出減少で市中のお金を政府が回収することです。そして市中の貨幣循環量を調整します。

一方
「インフレが怖いからデフレの方がまし」
という意見もあります。しかし、自国のデフレを放置すれば、世界の中でその国は相対的に貧しくなってしまいます。 (日本がまさにそうです。) MMTは、政府の累積赤字や現在の財政状態にかかわらず、不況であれば赤字国債を発行して財政支出を拡大し、デフレを防ぐべきと考えます。
 

《自動調整機構を組み込む》
しかし政府が景気の動向を見て財政支出の拡大や縮小を決定するという裁量的な政策は、以下のような問題がありました。

  • 後手に回りがち
  • 必要な層に届きづらい
  • 規模が不適切になりがち

そのためうまくいっているとは言い難い状況です。
 

そこで政府は景気の変動にかかわらず、社会が必要する支出を継続して行い、インフレ率の調整は、
経済の状況に応じて自動的に変化する調整機構(ビルトインスタビライザー)
を組み込みます。

このビルトインスタビライザーとは、具体的には、
高額所得者の税率を引き上げ、低額所得者の税率を引き下げて「所得税の累進性」を高くします。
累進性が高ければ、デフレで所得が下がれば税率も下がり、結果的に減税になります。減税になれば、人々の可処分所得が増えます。これは貨幣循環量を増大させ景気が刺激されます。

インフレになれば所得が増えるので所得税の税率が上がり、結果的に増税されます。貨幣循環量は減少し、景気が沈静化します。法人税も景気によって、0~20%自動的に変化するような制度にして、景気によって税率を変化させます。
 

MMT学派の政策提言

主流派経済学(新古典派)では、不況で景気を刺激するために財政支出を行えば、政府支出が増大することでハイパーインフレの恐れがあると考えます。そこで不況の際は金融政策で金利を下げて貨幣供給量を増やし、景気を刺激すべきだと考えます。

現実には、日本をはじめとする先進国は、金利をゼロにしても投資や消費は伸びません。(流動性の罠) ケインズは、不況の時は金融政策よりも財政政策を取るべきで、政府が積極的に公共事業に投資すれば景気を刺激できると主張しました。

この主流派経済学、ケインズ派、MMTの考え方の違いを図10に示します。

図10 MMTのポジショニング
図10 MMTのポジショニング

日本は、1995年以降政策金利はゼロです。(ゼロ金利政策)

それにも関わらずマネタリーベースは増えず、GDPの伸びも停滞しています。そこで2000年以降は財政支出を拡大しました。

実はアメリカや中国などの財政支出の伸び率は日本よりも高いのです。そして財政支出の伸び率とGDPの伸び率には明らかな相関がみられます。

ケインズが指摘するは資本主義の根本的欠陥は

  • 慢性的な失業
  • 過度の不平等

です。

ワシントン大学の経済学部教授ハイマン・ミンスキーは、これに

  • 不安定性

を加えました。

図11 MMT派の指摘する金利政策の問題
図11 MMT派の指摘する金利政策の問題

こういった資本主義の根本的な欠陥を解決するために、MMTでは様々な政策提言を行っています。
 

財政支出とインフレの調整

これまでは赤字国債を大量に発行すれば、急激なインフレ(ハイパーインフレ)が起きると考えられていました。さらに過大な支出のため税収が不足すれば、将来増税して回収しなければならないと考えていました。

それは、政府が税収以上に支出するのは、今貯蓄している人のお金や金融資産を将来はく奪することになるからです。しかしMMTでは、これは最初の仮定が正しくないと考えます。
累積赤字が過度に大きいのなら現時点ですでにインフレになっているはず
だからです。
そこで緊縮財政を行えば、経済全体への投資不足が負の遺産となって、将来にマイナスの影響を与えます。だからMMTは「税収」でなく「インフレ率」に基づいて財政支出を調整すべきだと考えます。
 

就業賃金保証プログラム

一方、財政政策は的を絞って支出をすべきです。(ワイズスペンディング)
例えば
ジョブギャランティ(就業保証)で完全雇用を実現する
のが理想と言えるでしょう。

MMT派のビル・ミッチェル氏は、市場経済下で自ずと調整される失業率「自然失業率」について、
「失業は個人の問題ではなく、政府や会社といった組織の方策の失敗が影響している」
と主張します。そして物価の安定とともに完全雇用の回復は実行可能であり、財政拡大主義に基づいてジョブギャランティを行えば完全雇用は実現できることを示唆しています。

図12 ジョブギャランティ
図12 ジョブギャランティ

ビル・ミッチェル氏のジョブギャランティは、オーストラリアの羊毛管理制度にヒントにした「労働力のバッファ・ストック」という考えです。オーストラリアは、羊毛が市場で過剰になった場合、政府が際限なく羊毛を買い取りストックします。そして市場で羊毛が不足すれば、政府は羊毛を市場に放出して価格の安定化を図ります。

同様にジョブギャランティは、不況の場合は政府が失業者に仕事を出して労働力をストックします。好況になれば、民間部門がジョブギャランティ以上の賃金で雇用するようになります。そのため労働者は政府から民間部門へ自然に移動します。こうすることで景気対策と同時に、失業によって労働者の意欲やスキルが低下したり、労働力が陳腐化したりすることを防ぎます。

現在行われている景気浮揚を目的とした財政政策は、必ずしも雇用の増加につながっていません。場合によっては格差の拡大や不平等なインフレの原因になります。ジョブギャランティは、ベストではありませんが、下記の最低限の対策はできます。

  • 失業しても労働者の生活の最低水準の底抜けを防ぐ
  • 非自発的失業者を迅速に救済する
  • 労働力の一時保全と復帰を支える

 

《ベーシックインカムとジョブギャランティ》
ベーシックインカムとは、最低限所得保障の一種で、政府がすべての国民に対して一定の現金を支給する政策です。これに対しビル・ミッチェル氏は以下の反対意見を述べています。

  • 政府が失業や完全雇用保証に対し責任を持たなくなる
  • 自動的な経済調整機構がない
  • インフレ発生時に失業を増やして物価下降圧力をかけるという現在の問題点が放置される
  • 失業しても生活できることで雇用による社会的アイデンティティや自尊心、社会的ネットワークが得られない

ベーシックインカムが生活保障のみに焦点を当て、労働と収入を切り離すのに対し、ジョブギャランティは労働を必須とすることで「価値ある仕事とは何か」「生産性のある仕事とは何か」を問い直すものといえるでしょう。
 

日本への提言

日本は2014年の消費税増税、財政支出削減という緊縮財政により、貨幣供給量が減少しデフレが加速しました。MMT推進派の京都大学大学院教授 藤井聡氏によれば「日本は今の政策を反転すべき」と言います。

  • 反・緊縮
  • 反・グローバル化
  • 反・構造改革

まずプライマリーバランスの目標を撤廃し、消費税を減税して貨幣供給量を増やします。さらに積極的な財政政策で需要を拡大します。

段階的な法人税の強化(累進課税)でビルトインスタビライザーを構築します。外国人の流入を規制し、財政支出で政府が支出したお金を外国人労働者が海外に持ち去るのを防ぎます。同様に資本の海外への移動を規制します。
 

では、このMMTに対し、どのような反対意見があるのでしょうか?

これについては、「政府債務がどれだけ増えても破綻しない? 話題の『現代貨幣理論』MMTを考える その2」でお伝えします。

経済学用語の解説

ここでは、MMTの理解に必要な経済学用語の説明を述べます。
 

モズラーの名刺説

お金持ちのモズラー氏は、三人の子どもたちに手伝いをさせるため、皿洗いや庭の掃き掃除などの手伝いをしたら、名刺をあげることにしました。さらに「名刺を納めないとこの家から追い出すぞ」と脅して、月末にその名刺を30枚渡すことを義務付けました。その結果、子供たちは手伝いをするようになりました。子供にとって何の価値もない名刺が、月末に30枚渡す義務が生じたことで、価値あるものに変わりました。

図18 モズラーの名刺説
図18 モズラーの名刺説

同様に政府は、公共事業など政府支出を先に行い、その後、徴税します。ただの紙切れの貨幣に価値があるのは、貨幣で納税しなければならないからです。
 

信用創造

「信用創造」とは、銀行が、預金を元手に貸付をして見かけ上の預金を増やして、さらに貸付を行うことです。銀行は預かったお金から、現金を引き出すお客さんに備え一定額(準備預金)を残して、残りを別の顧客に貸付します。そのお金を相手の口座に入金することで口座預金は増えます。

図19 信用創造 その1
図19 信用創造 その1
図20 信用創造 その2
図20 信用創造 その2

新たに増えた預金から準備預金を除いた額が貸付されます。

図21 信用創造 その3

図21 信用創造

これが繰り返されて、元の預金の何倍もの貸付が行われます。
(準備預金をどのくらいにするかは、日本銀行によって決められます。)
 

乗数効果

需要を増加させたときに、増加させた額よりも国民所得がより多く増えることです。

企業や政府が投資を増やす → 国民所得が増加する → 消費が増える → 国民所得が増える → さらに消費が増える・・・
という効果を意味します。

家計の可処分所得が1単位(たとえば1万円)増加したとき、β(限界消費性向)を消費し、(1-β)を貯蓄したとします。(0≦β≦1)。
(ここで1-βは限界貯蓄性向)

全家計の可処分所得の合計がX円増加すると、家計はβX円だけ消費に回します。βX円は企業の収入となり、給料として再び各家計に入ります。すると家計はこのβX円のβ割のβ2X円を消費に回します。β2X円は企業経由で再び家計に入り、家計はそのβ割にあたるβ3X円を消費に回します。これが繰り返され総消費は以下の式に表されます。

すなわち、最初に行われた投資Xの1/(1-β)倍分だけ消費が拡大します。
例えば
β=0.9  1/(1-β)=10
10倍消費が拡大します。 1/(1-β)(=10)が乗数であるため、乗数効果と呼ばれます。
 

マネーストックとマネタリーベース

  • マネーストック

日本銀行を含む金融機関全体から供給される通貨の総量で、企業、個人などが保有する通貨量の残高「通貨残高」。

  • マネタリーベース

「日銀が供給する通貨の総量」です。具体的には、市中に出回っている流通現金(日本銀行券発行高と貨幣流通高、つまりお札と硬貨)と、日銀当座預金(民間銀行が日銀に保有している当座預金)の合計値。
マネタリーベース=「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」

  • 信用乗数

マネタリーベースに対するマネーストックの比率を表すことができます。

マネーストック=信用乗数×マネタリーベース
この式から「日銀がマネタリーベースを増やせば、その信用乗数倍マネーストックが増える」、つまり「日銀が銀行への資金供給を増やせば、銀行から企業への融資も増える」と示されます。
 

財政ファイナンス

中央銀行(日本では日銀)が、政府発行の国債を直接引き受ける(買う)ことです。日本の法律では、借換債を除き財政ファイナンスは原則禁止されています。アベノミクスの量的緩和は、民間銀行が保有する国債を日銀が直接引き受けるもので、これは間接的な財政ファイナンスとなります。
 

流動性の罠

金融緩和により金利が一定水準以下に低下した時、投機的動機のため貨幣需要が無限大になり、金融政策が効力を失うことです。つまり金利水準が極めて低ければ、金融緩和を行っても景気は回復しません。

金融緩和を行うと金利が低下して民間投資や消費が増加します。しかし、金利がゼロ%近くまで低下すると、消費や投資よりも貨幣保有が選好されます。そのため、銀行に資金が滞留して企業や個人に資金が流れず、設備投資や個人消費が増えません。こうなると利下げによる景気刺激策は効果がなく、量的緩和やマイナス金利、大規模な財政政策などが発動されます。

縦軸を利子率、横軸を国民所得とし、財市場と貨幣市場の均衡を分析する「IS-LMモデル」では、「流動性の罠」はLM曲線が利子率の下限で水平となる状態です。この時、金融政策は均衡点の国民所得を変化させることができません。財政政策は水平となったLM曲線上でIS曲線を右に動かすため、均衡点の国民所得は増大します。

不況で金利が低くなれば、自由に使えるお金を手許に置きたい流動性選好が大きくなり、リスクを背負って投資に回そうとは考えなくなります。

図22 金融緩和後のIS-LMグラフ
図22 金融緩和後のIS-LMグラフ

ケインズは不況のときには、有効需要(消費+投資+政府支出+純輸出)の中で企業の投資Iがいちばん落ち込むため、それを回復させるには金融緩和でマネーの量を増やして金利を下げて、利子率が利潤率より低くするべきと提言しています。これにより投資のハードルが下がります。

図23 金利と投資
図23 金利と投資

それでも流動性選好が強く投資が増えないときは、財政赤字になってでも政府支出で有効需要を増大させるべきとケインズは説いています。金融政策でマネタリーベースを量的緩和で増やしても、企業が銀行からお金を借りようとしないため、市中に供給されず無駄に積みあがる(ブタ積みになる)だけだからです。

ただし財政政策で直接市中にお金を供給しても、企業の投資が増えず、お金が循環しないという可能性もあります。

図24 流動性の罠に陥った時のIS-LM
図24 流動性の罠に陥った時のIS-LM

ニューケインジアンのポール・クルーグマンは、ただ単純な金融緩和や財政出動をやるのではなく、インフレ予想や、中央銀行が長期に渡って金利を抑え込むコミットメントが必要と言っています。
 

リカードの中立命題(等価定理)

財政赤字の穴埋めに公債の発行が増えた場合、その負担は将来の増税になると考えられます。公債の利子率と民間資金の割引率が同じであれば、生涯所得は変わりません。そのため人々は、将来の増税を見越して現在の消費を少なくします。これは現在世代が将来の税負担と同じ効果を、節約という形で行うことです。従って将来世代の負担が重くなるということはありません。

このリカードの中立命題は、全ての人間は常に経済合理性のみに従って動くという合理的期待形成仮説をもとに立てられています。現実に人々がそのように動くとは限らず、人々が将来の増税に備えることなく減税分を消費に回してしまう可能性もあります。経済学者の浜田宏一氏は「誰もが子や孫を持っているわけではないし、国民全員が子や孫の事を考えて合理的に行動するとは限らない」と述べています。
 

合理的期待形成仮説 (合理的期待仮説)

「人々が利用可能なあらゆる情報を用いて合理的に予想するとき,期待値に関しては正しい予想ができる」という前提に立つ学説です。1970年代米国ではケインジアンの財政金融政策に対し、「人々は政府この説は前提として「人々は皆市場についての正確な知識をもっている」としていて、これは現実から乖離していると批判されています。
 

自然利子率

景気が緩和状態でも引き締められた状態でもない中立状態での実質利子率のことを「自然利子率」と呼びます。実質利子率は中長期的には潜在的成長利率に類似します。つまり金利がお金の利子率に対し、自然利子率はモノ(物価)の利子率です。例えば10年後にはガソリンの供給量が現在の2倍になっていると人々が予想すれば、現在ガソリン1リットルを使う権利は10年後のガソリン2リットルを使う権利に相当します。この現在と将来のモノの交換比率が自然利子率です。

図25 自然利子率の推計例(引用元 日銀HP)
図25 自然利子率の推計例(引用元 日銀HP)

金融政策が景気を過熱するか冷やすかは、金利を自然利子率より低くするか、高くするかで決まります。自然利子率の低下はデフレ下の日本で1990年から低下し、その後は回復していません。これはデフレの日本固有の減少と思われていましたが、2010年代のアメリカでも発生しました。今では先進国に共通する現象です。
 

基軸通貨

「主たる国際通貨」の意味ですが明確な定義はありません。この国際通貨とは、国際的な取引・決済に使われる通貨のことで、現在、基軸通貨はドルです。海外との取引(外国為替)で問題となるなのは、為替レートの変動です。企業は先物予約などを使って、そのリスクをヘッジします。しかし国際通貨・基軸通貨は自国の通貨がそのまま使えるため(為替変動リスクがゼロ)、リスクヘッジの必要がありません。

基軸通貨の最大のメリットは、貿易赤字でも自国通貨で払えることです。手持ちの外貨がなくても新たにお金を刷ればよいのです。
貿易黒字で生まれた外貨は、現金のままでは価値が低下するため、その国の国債に替えます。アメリカに対し多額の貿易黒字がある中国は、ドルと米国債を約4兆ドル保有しています。このドルが基軸通貨のアメリカのメリットには、以下のようなものがあります。

  • ドル以外の資産(外貨など)で対外債務を決済する必要がない
  • ドル建てで経常収支赤字の支払いができる
  • 世界に対して低利で対外債務を拡大できる
  • 政府は米財務省証券の発行によって低利で対外借り入れができる
  • 金融機関はドルが国際通貨として利用されるため国際的に優位である(建値通貨に関わるレント)

 

参考文献

「MMTのポイントがよくわかる本」中野 明 著 秀和システム
「MMT『現代貨幣理論』がよくわかる本」望月 慎 著 秀和システム
「MMTによる令和『新』経済論」藤井 聡 著 晶文社
「国家・企業・通貨」岩村 充 著 新潮社
「MMT 現代貨幣理論入門」L・ランダル・レイ 著 東洋経済新報社
 

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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