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中国製品を駆逐したホンダの二輪車戦略

2000年代初頭、アジアの二輪車市場は拡大が続きました。ホンダをはじめとする日本メーカーは、現地生産を拡大し、拡大する市場に対応しますが、中国製の安価なコピーバイクにシェアを奪われていきます。

これに対抗するためにホンダは他社では思ってもみない戦略を採用しました。その結果、東南アジアの市場を中国メーカーから奪回しました。

しかしホンダが成功した背景には戦略以外に製品の特性や市場環境などの要因がありました。このホンダの斬新な戦略と成功の要因について考えます。
 

ローエンド市場からシェアを失う日本

エレクトロニクス製品に代表される日本メーカー

1970年代から90年代にかけて、エレクトロニクス製品に代表される多くの日本企業は、欧米のライバル企業よりも高性能かつ低価格の製品を実現し、欧米に輸出して成長しました。

しかし1990年代以降は、韓国や中国などの企業と価格競争に陥り、市場シェアを失い苦境に陥っています。そこには以下のような共通のパターンが見られます。
 

  1. 中国が経済発展し、魅力的な市場になる
  2. 当初は中国に製品を輸出していた日本企業は中国政府の輸入規制や安価な人件費を求めて中国企業と合弁で中国に工場を建設する
  3. 中国の地場企業が、性能や品質は日本企業に及ばないが低価格の日本製品のコピーをつくり中国国内で販売する
  4. アジアなどの新興国が経済成長し、新興国にこういった製品の市場ができる
  5. 日本企業は新興国に輸出するが、先進国向けに作られた生産は新興国にはとても高価なため、市場になかなか浸透しない
  6. この新興国の市場へ中国企業が日本製品より大幅に安い価格で輸出する
  7. 新興国の市場、特に低価格品の市場が拡大し、中国企業の輸出も増大し、生産量は拡大する
  8. 中国企業のグローバルでの生産量が日本企業を追い越し、生産量が増えたことでさらにコストが下がる
  9. グローバルでの低価格品の市場を占有した中国企業は、品質を徐々に高め、高価格品の市場にも進出する
  10. 高価格品の狭い市場に追いやられた日本企業は生産量が減少し収益性が悪化する
  11. リストラでその事業を売却する

 

この流れで日本企業は、白物家電、メモリなど半導体、パソコン、携帯電話などが競争力を失い、その一部は売却されました。
 

二輪車市場

ところが今でも日本企業が中国企業に対してグローバルで市場の多くを抑えている製品があります。

それが二輪車市場です。

二輪車の市場はアジアなどの新興国の経済成長に伴い大きく伸びました。これに対して日本の二輪車メーカー ホンダ、ヤマハ、スズキは比較的早くから海外展開していました。しかし、2000年代初頭、他の製品と同様に中国製の安価な二輪車がグローバル市場で急増しました。
 

例えば、ベトナムでは2000年から中国製の二輪車が大量に輸入されました。年間の販売台数は200万台に及び、そのうちの約8割を中国製の二輪車が占めました。

ところが2003年以降中国企業のシェアは減少し、日系企業のシェアが増加しました。

 

どうして二輪車は中国製品を駆逐することができたのでしょうか。

二輪車の市場は2000年以降右肩上がりで成長しています。中国、インドネシア、ベトナムの市場の伸びは今後減少しますが、代わってインドや他の新興国の市場が伸び、2025年には7400万台と予想されています。

ただし、主役は、100~150ccの二輪車です。
 

二輪車市場のガラパゴス化

日本の二輪車市場は、新興国や他の先進国とは大きく異なっています。つまり二輪車市場も日本はガラパゴス化しています。

原因は免許制度と車検制度です。

日本の二輪車免許は以下のようになっています。

  • 原付 50cc未満 普通自動車運転免許で可
  • 小型二輪車 125cc未満
  • 中型二輪車 400cc未満 (250cc未満は車検がない)
  • 大型二輪車 制限なし

日本ではわざわざ免許を取ってまで二輪車に乗る人の大半は趣味で二輪車に乗る人です。趣味性の高い二輪車は大型が多く、人気が高いのは排気量の大きな大型の二輪車です。
 
図1 大型二輪車1800cc (Wikipediaより)
図1 大型二輪車1800cc (Wikipediaより)
 

しかし以前は大型二輪車の事故が多かったため、大型二輪車の免許の取得は極めて困難でした。
(指定教習所がなく、各県の運転免許試験場で試験を受けなければならず、その合格率は2~6%という低さでした。)

そのためライダーの多くは自動車教習所で取得できる中型二輪免許でした。その上限は400ccでした。

一方免許と別に、二輪車は排気量により車検制度が異なります。251cc以上の二輪車は車検が義務付けられ、2年ごとに10万円近い費用がかかります。これに対して250cc未満の二輪車は車検がなく維持費が安くなります。
 

図2 中型二輪車250cc (Wikipediaより)
図2 中型二輪車250cc (Wikipediaより)
 

また50cc未満の二輪車は、原付と呼ばれ普通自動車運転免許で乗ることができます。つまり二輪車免許を取る必要がありません。そのため手軽な移動手段として人気があります。
 

図3 原付二輪車50cc (Wikipediaより)
図3 原付二輪車50cc (Wikipediaより)
 

しかし実用的な移動手段としては50ccは非力で、新興国ではもう少し排気量の大きい100cc前後が最もポピュラーです。

日本ではこの100~150ccは、前述の免許制度のために最も人気のないジャンルでした。

ただし近年二輪車に対する排気ガス規制が強化され、50ccでは十分な動力が得られなくなってきたたため、日本でも50ccから100cc前後の排気量に移行しつつあります。

一方生産面では、100ccの二輪車と1000ccの大型バイクは、部品点数が大きく違います。そのため生産工程も異なり、同一の生産ラインでは生産できません。自動車はミニバンとプリウスは同じ生産ラインで混流生産しています。しかし50ccと1000ccの二輪車を混流生産するのは、軽自動車とマイクロバスを同じラインで生産するようなものです。

つまり50ccと1000ccの二輪車は、同じ二輪車ですが、全く別の商品です。
 

日本では二輪車市場はピークの1982年には320万台を超えていました。その後市場は急速に減少し、2016年には33万台とピークの1/10になりました。増加するアジアの新興国に比べ、今日では日本の二輪車市場は世界の中では非常に小さな市場です。
 

新興国での二輪車の発展

 

2015年の世界全体の二輪車市場は5,260万台、そのうち中国、インド、インドネシア、タイの4か国で3,323万台と世界市場の半分以上を占めています。二輪車市場の各メーカーの市場シェアを図4に示します。

図4 インド、インドネシア、タイ、ベトナムのシェア (2015年)

図4 インド、インドネシア、タイ、ベトナムのシェア (2015年)

 

ホンダのアジア市場での営業利益は二輪車事業全体の80%に上り、売上高営業利益率は8.5%になります。(ホンダの四輪車の売上高営業利益率は5%以下) ヤマハもアジア市場での利益が高く、日本メーカーはアジア市場で稼ぐビジネスモデルになっています。
 

新興国のニーズ

趣味性の高い大型二輪車は、エンジンや車体構成が車種ごとに違います。ひとつの車種にも多くのバリエーションがあり、それぞれが全く別の製品です。ところが新興国向けの小型二輪車は、エンジンは125cc、4サイクル単気筒エンジン、車体の構成もほとんど違いがありません。しかし外観デザインとカラーリングはバラエティに富み多くの車種が生まれています。つまり自動車より随分前にプラットフォームが統一化されています。部品の共用化も進み、その点で小型二輪車は、すりあわせ型というよりモジュール型に近い商品です。
 

発展途上国モデル

ホンダのCG125は発展途上国向けに開発されたモデルで、日本では販売されていません。CG125は発展途上国での使われ方を考慮し、日本のモデルにはない特徴があります。
 
図5 ホンダCG125(Wikipediaより)
図5 ホンダCG125(Wikipediaより)
 
例えば、紙製のエアクリーナーエレメントは目詰まりすると顧客が破ってしまうため、オフロードバイクによく使われている発砲ウレタン製を採用しています。目詰まりしたら顧客は洗って再使用します。

また泥やほこりの多い苛酷な環境に耐えられるようにドライブチェーンには強化チェーンを使用し、金属製のカバーでチェーンは覆われています。エンジンは低速トルクを重視し、フレームは2~4人乗りに耐えられるように強度を高めています。このように実用車として高い耐久性と頑丈さを備えています。CG125は途上国モデルのスタンダードモデルとなり、東南アジア、中近東、アフリカなどに広く輸出されました。

このように発展途上国では、二輪車は先進国のようなレジャーの道具ではなく、庶民の唯一の動力付きの交通手段です。そのため多人数乗車や過剰な積載など日本ではは考えられない過酷な使われ方がされます。ホンダはそのような現地のニーズにいち早く対応したことで、市場シェアを高めました。
 

図6 過積載の例(Wikipediaより)
図6 過積載の例(Wikipediaより)
 

では、こういった日本企業に対抗するようになった中国の二輪車メーカーはどのように発展してきたのでしょうか?
 

中国の二輪車メーカー

 

日本メーカーの中国進出

家電製品と同様、日本の二輪車メーカーは1980年代に相次いで中国企業と技術提携を結び中国に進出しました。中国嘉陵工業股分有限公司(以下、嘉陵工業)は1982年からホンダと技術提携を結び、当初は50ccのモペットタイプ、その後はCD70というビジネスバイクを生産しました。生産に必要なダイカストマシンやプレス機、マシニングセンタのような生産設備は日本製を導入しました。高度な技術が必要な金型も日本から購入しました。
 

使用する部品もチェーンのような耐久性が必要なものは日本から輸入しました。当時、中国には満足な品質の部品を作れるサプライヤーがなく、300社以上のサプライヤーの育成や指導もホンダの協力のもとに行われました。
 

他の二輪車メーカーも同様に現地企業と提携し、ヤマハは1984年に中国建設集団を皮切りに1996年までに5社と提携しました。スズキも1985年に中国軽騎工業集団を皮切りに6社、カワサキは1985年から3社と提携しました。
 

サプライヤーの成長と部品の横流し

中国政府は1994年新自動車工業産業政策を公布し、7年後の2001年には100万台生産規模の二輪車メーカーを10社育成する方針を打ち出しました。その一方で1995年頃から交通量の増加や環境問題のため、都市部ではナンバープレート公布が規制されるようになりました。その結果、中国での二輪車の需要は低迷しました。
 

その一方で日本から技術導入した合弁企業は、サプライヤーの育成に注力し部品の国産化を進めました。また中国企業は部品を複数社に発注して競合させる方式をとるため、サプライヤーが急増しました。

ところが1995年以降、中国の二輪車市場の低迷もあり需要以上に部品が製造され、余った部品が市場に流通するようになりました。そして市場にある部品を集め、それを組み立てて完成車として売るコピーメーカーが出現しました。こういったメーカーはパーツを買ってきて組み立てれば簡単に事業が始められ、10台も売れば利益が出るため、参入する企業が次々に現れました。こうして部品の需要が増えれば、そのコピー部品をつくる企業が現れ、質の低いさらに安い部品も出回るようになりました。
 

この1990年代半ば、日系企業の二輪車の価格は20~30万円、対するコピーメーカーの価格は7~10万円でした。収入が低く日系企業の二輪車に手が出ない層は、品質は低くてもコピーメーカーの二輪車を購入しました。
 

その結果、中国国内の二輪車メーカーの数は、2002年には156社に増加しました。2005年には、生産台数100万台以上の二輪車メーカー、大長江、嘉陵摩托、建設、銭江、洛陽北方と5社ありました。
 

コピーメーカーの反乱に対して、中国では知的財産権の保護はどうなっているのでしょうか。
 

知財は無力

知的財産権の侵害には、特許権侵害、意匠権侵害、商標権侵害などがあります。しか、知財侵害を取り締まる地方政府は、地場メーカーを取り締まると地場メーカーからの税収が減少するため取締りに消極的でした。また意匠権侵害で裁判を行っても、意匠侵害の判断は裁判所の判断による点が大きく、裁判は中国の法廷で争われるため日系企業の勝算は極めて低いといえます。明らかに法律違反を立証できるとすれば、商標権侵害ぐらいしかありませんが、コピーメーカーも心得ていて、一見日系メーカーと思わせる、しかし微妙に違う商標を使います。
(例 HOMDA Keweseki SUKIDAなど)
 

コピーメーカーの台頭

こうした中、コピーメーカーからスタートした企業の中には、徐々に力をつけ日系企業との合弁メーカーに生産台数で匹敵する企業も出てきました。後にホンダと提携する新大州もその1社です。これらのメーカーは経営者の積極的な経営姿勢と、部品を徹底的に安く仕入れるルート開拓により、日系企業よりも大幅に低コストの製品を実現しました。そして彼らは都市部でなく地方都市や農村部をターゲットに販売を拡大しました。
 

そして低価格と幅広いバリエーションの製品で市場シェアを広げていきました。低い品質も、顧客の方も値段が半額なら故障してもやむを得ないとおおらかにいう考えるため、大きな問題になりませんでした。こうして1990年代後半には中国は世界最大の二輪車の市場を持ち、世界最大の生産規模を持つ国になりました。一方価格面で不利な合弁の日系二輪車企業はシェアが低下しました。
 

ホンダの失敗

1990年代ホンダは中国で上海汽車、チャイタイグループ、嘉陵工業、広州摩托の4社と提携し、合弁企業を立ち上げました。しかしこういった合弁企業は母体が国有企業のため意思決定のスピードが欠け、製品投入のタイミング遅れ、価格面でもコピーメーカーに勝てずシェアは徐々に低下しました。この中には嘉陵本田のように二輪車から撤退し汎用エンジンに特化したメーカーもありました。
 

ホンダの戦略転換

 

コピーメーカーと手を組む

合弁企業がじりじりと市場シェアを低下させるのを見かねたホンダは、コピーメーカーである海南新大洲摩托車と提携しました。同社は「SUNDIRO」というオリジナルのブランドで、ホンダのCG125のコピー車を生産・販売していました。その規模は60万台/年で、SUNDIROの価格はホンダの半額でした。同社は1990年に株式上場し、その資金で投資しさらに生産を拡大していました。
 

本来であれば海南新大洲はホンダの知的財産を侵害している敵ですが、あえてホンダは同社と提携しました。つまり「自社より圧倒的に安い二輪車を作れるという事実」を受け入れ、そこから学ぶことにしました。海南新大洲にとっても、中国国内ではたとえ大手でも所詮はコピーメーカーであり、将来の中国がWTOに加盟し、海外から競合が安く入るようになれば生き残れないかもしれません。そこでグローバル市場で生き残るためにホンダとの提携を選択しました。そして天津本田摩托を吸収合併して海南新大洲本田摩托有限公司を設立しました。
 

コピーメーカーから学んだもの

この提携によりホンダは、海南新大洲が安くつくることに関して、妥協を許さない徹底したシステムを構築していることを知りました。モデル毎の販売台数を毎日集計し、その台数を元に毎日数量や納期をサプライヤーに提示し、部品を徹底して安く購入する仕組みを作り上げていました。部品のつくり方ひとつとっても従来のホンダでは品質にこだわって考えつかなかったようなつくり方を実現していました。ホンダにとっても安くつくることに関して学ぶべき点は大いにありました。
 

中国製工作機械のレベルも上がり、新大洲本田の新工場では工作機械は中国製、射出成形機は台湾製を使用しています。サプライヤーとの交渉は新大洲のやり方で行い、徹底的にコストを下げています。その中でホンダ流の品質の考え方や作業標準を導入しました。部品は、新大洲のサプライヤーの中でホンダの基準をクリヤした部品だけを受け入れ、性能面や品質面でホンダの基準をクリヤできない部品は純正品に置き換えました。そうすることでコピーメーカーである海南新大洲の製品にホンダブランドをつけることを認めました。こうして海南新大洲の工場は160万台/年の生産能力と日本品質の工場に生まれ変わりました。
 

ホンダは2002年には海南新大洲本田で製造したスクーター「Today」を日本に輸入し、94,800円と10万円を切った価格で販売し大ヒットしました。
 

ダブルブランドの問題

一方でホンダの意図とは異なって新大洲本田はHONDAとSUNDIROのダブルブランドを継続しました。ホンダが欲しくても価格が高くて買えない顧客には、少し安いSUNDIROブランドを売って販売を広げました。新大洲本田はSUNDIROブランドはコピー車でなく、、ホンダと中身は同等であることを顧客に訴え、コピー車という悪いイメージを払拭しました。
 

タイでの現地化の徹底

ホンダは1997年にタイに開発拠点HRS-T(Honda R&D Southeast Asia Co., Ltd.)を設置し、デザイン、設計、テストの現地化を推進しました。特にデザインは国ごとに文化や好みの違いが大きく、現地化のメリットはとても大きいものがありました。

新興国の二輪車は、エンジンやサスペンションなどの基本コンポーネントは同じで外観やカラーリングなどでイメージを変えて、豊富なバリエーションを用意しています。他社との販売競争に打ち勝つには、スピーディにモデルチェンジを行い、新鮮で豊富なラインナップを揃える必要があります。そのためにはデザインや外観設計の現地化は不可欠でした。

一方エンジンは10年に1回程度のサイクルでモデルチェンジを行いますが、開発は日本で行っています。
 

基本的には金型費用が高く、体積が小さい部品、カムシャフト、キックスピンドル、オイルポンプなどは、海外生産の価格が低ければ、海外から輸入するメリットが大きいです。一方外装の樹脂成形部品のように金型費用が安く、体積の大きい部品は、輸送費が高くなるため現地生産に向いています。
 

ベトナムでの勝利

ベトナムは、所得の増加に伴い二輪車市場も急増し、1990年代後半には40~50万台の市場に成長しました。ホンダは1997年ベトナムで現地生産を開始し、排気量の110ccのカブ「スーパードリーム」(1230ドル)を販売しました。スーパードリームは耐久性が高く、高い人気がありましたが、価格が高く庶民にとっては高値の花でした。
 
さらにホンダは都市部向けにスーパードリームのスポーツモデルを発売し、「売れる人に売る」という高価格戦略を取りました。1999年にはホンダは現地生産と日本からの輸入車を合わせてベトナムでは50%強のシェアを占有していました。

図7 スーパードリーム(Wikipediaより)

図7 スーパードリーム(Wikipediaより)

 

ところが2000年に入ると中国国内の二輪車市場が政府の規制のため縮小し、多くの中国のコピーメーカーは市場を求めて海外に輸出しました。こうして急成長するベトナム市場に中国のコピーメーカーが大挙して押し寄せ、ホンダは市場を奪われ市場シェアは9%に低下しました。その一方で市場は急成長し、2000年には175万台、2001年には200万台に達しました。
 

今まで自社がターゲットしていた顧客層の下に、はるかに大きな市場があることにホンダは気づきました。そこでこの市場に向けた低価格モデルを開発して対抗しました。中国のコピーメーカーの製品を調査し、彼らの製品の中でコストと品質の優れた部品はその納入先を調べて、ホンダもそこから部品を調達しました。こういった部品の調査は新大洲本田が行いました。その結果、2002年にホンダがタイで開発した「Wave α」は中国製部品を使って徹底的にコストダウンを行い、667ドルと従来のモデルの1/3の価格を実現しました。

図8 ホンダWaveα(Wikipediaより)

図8 ホンダWave α(Wikipediaより)

Wave αは渋滞が多くスビートが出せないベトナムの交通事象に合わせて、時速80km以上の性能は切り捨てました。さらにベトナムとフィリピンにしか売らないとう思い切った発想でコストを劇的に下げました。その結果、中国メーカーとの価格差は、従来の2.3倍から、1.37倍に縮小しました。2005年時点でのベトナムのワーカーの給料は月に100ドル程度でした。年収に相当する日系メーカーの1200ドルの二輪車は、良いことが分かっていても手が出ませんでした。そこへホンダは高い品質と667ドルと中国コピーメーカーの1.37倍の価格のWaveαを投入し、顧客を自分たちに振り向かせることに成功しました。
 

さにタイの開発拠点を通じて、ベトナム人の好みに合うデザインの製品をシリーズ化し、次々とモデルチェンジを行うことで、商品の魅力を高めて販売力を維持しました。この継続的な新モデルの投入に中国のコピーメーカーは対抗できず、中国のコピーメーカーのシェアは低下しました。
 

ベトナム政府の規制

また政府の規制もホンダには追い風になりました。2002年には輸入総量規制により、関税が引き上げられました。現地生産がメインの日系メーカーに対し、輸出に頼る中国のコピーメーカーには逆風となりました。
 

2003年にはさらに規制が強化され、1人1台までしか登録できず、ハノイ中心区では新規の登録が禁止されました。二輪車は高価な財産でしかも生活必需品のため
「どうせ1台しか買えないのならば品質の良いものを買おう」
と日系企業を選択する顧客が増えました。
 
また中国製バイクの事故や品質不良に関する報道も、顧客が安価な中国製コピーバイクから離れる原因になりました。実際、中国製コピーバイクはあまりにも故障が多く、修理費用や下取り価格の低さを考えれば、少々高くても日本製バイクを買った方が得なことに人々は気づきました。
 

二輪車市場の特徴とホンダの戦略

 

ローエンド市場から逃げるわけにはいかなかった

東南アジアの二輪車市場は、先進国のように大型バイクの市場が存在せず、市場の厚みが薄いという特徴がありました。先進国のように大型バイクの市場が十分にあれば、日本企業は低価格品市場を中国メーカーに明け渡し、利幅の大きいハイエンド製品の市場に逃げる戦略を取ることができたかもしれません。

かつてホンダがアメリカに進出した時、ホンダの主力製品ドリーム350cc、250ccは、性能面でハーレーダビッドソンやトライアンフなど欧米の二輪車メーカーに勝てませんでした。その中で、ホンダはスーパーカブ、次にオフロードバイクといった小型バイクの市場からアメリカ市場に参入しました。

対してハーレーダビッドソンやトライアンフなどは小型バイクの市場は放棄し、大型バイクに集中しました。そして最後はその大型バイクの市場も日本メーカーに奪われました。

しかし東南アジア市場では、ハイエンドといっても同じ125ccです。低価格品市場から逃げることは、市場を放棄することを意味しました。
 

中国企業が低価格品市場を発見した

日本メーカーは従来の高品質を維持したままベトナムに進出したため、ベトナム人にとっては高価な商品でした。そして、より低い価格帯にもっと大きな顧客が潜在していることに気づきませんでした。ところが中国コピーメーカーが大挙押し寄せ市場が急拡大したことで、低価格品市場の膨大な顧客の存在が分かりました。そこでホンダは中国製コピーバイクと自社製品との価格差が大きくなりすぎないように一定の範囲内にして、しかも顧客が品質の差を認めてくれる差の価格を設定しました。さらに100~150ccの狭い範囲にローエンドからハイエンドまで豊富なバリエーションでフルラインを揃えました。
 

顧客自身もも2000年代後半になると、価格以外にも品質や機能、デザインを求めるようになりました。ホンダは、それに応える魅力的な製品を市場に次々と投入しました。
 

敵からも学ぶ

ホンダは新大洲と提携することで、新大洲のネットワークを使って膨大な数のサプライヤーを調べ、中国での部品の調達価格を徹底的に調査しました。さらに日系の系列サプライヤーでもコストが合わなければ現地サプライヤーに切り替えました。中国にあるホンダ関連の日系サプライヤーの約半数は2002年にはコストが合わないため、新大洲本田の開発に参加できませんでした。またホンダは部品のつくり方も新大洲から学び、新興国市場には過剰と思われる機能は落としました。
 

品質の悪さが顕著に出る製品

新興国市場で顧客が中国コピーメーカーの約1.4倍というホンダの価格を受け入れたのは、二輪車が品質の差が顕著に出る製品だからです。彼らにとって二輪車は日常生活に不可欠なもので、しかも日々使用することで消耗するため、品質の悪さは顕著に現れます。故障し立往生すれば、非常に不快な思いをし、修理にお金もかかります。そんな目に何度も遭えば、次は彼らは1.4倍のプレミアム価格は高くないと思うようになります。中でもホンダのスーパーカブの耐久性は極めて高く、日本ではエンジンとオイルさえ入れておけば、一生壊れないという「伝説」もあります。
 

これが家電製品やパソコンは、品質が悪くても買ってすぐに壊れることは稀です。品質の悪い製品は大抵は1年くらい過ぎたあたりで壊れ始めます。しかしその頃にはなぜ壊れたのか、品質が悪いのか、使い方の問題なのか、たまたまハズレだったのか見わけがつきません。また壊れても二輪車のように立往生することもないので壊れても二輪車ほど大きな痛みは感じません。つまり品質の悪さが目立ちにくい製品です。
 

環境規制の強化

東南アジアでは苦戦している中国コピーメーカーですが、中国市場では日系メーカーを押しのけ市場を独占しています。他にもアフリカなどの新興国で市場に浸透しています。その一方、現存する中国メーカー112社のうち開発能力のあるメーカーは1割程度しかありません。
 
もし今後各国で二輪車の排ガス規制が強化されると、それに対応した二輪車を開発しなければなりません。そうなるとコピーメーカーは生き残ることが厳しくなるかもしれません。

それとも排ガス規制のデバイスまでコピーするのでしょうか。
 

本コラムは2018年1月21日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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競争戦略としての価格戦争と、そのメカニズム

価格を下げると売れる?

 

伝統的な経済学では、商品の価格と需要は、「価格と需要曲線」で表されます。商品の価格が低下すれば、需要は増加します。つまり販売量を増やしたければ、価格を下げれば良いのです。この原理に従い、多くの商店、スーパーマーケット、量販店は値下げを行い、競争します。
 
図1 価格と需要曲線
図1 価格と需要曲線

 

安売り雑貨店

1878年フランクWウールワースは、ニューヨーク州ユーティカに安売り雑貨店をオープンしました。当時ヨーロッパではアメリカより大量生産の体制が整い手ごろな日用品を安く大量生産出来ました。ウールワースは、アメリカ製よりも質は良くないが安くて見栄えがする掘り出し物を探しては、アメリカに送り大儲けしました。

人々がたくさん買ってくれるためには、丈夫で長持ちするものより、安くて見栄えが良く、それでいてすぐに壊れるものが求められました。ウールワースは、以下のように安売りの核心を掴んでいました。

「日用品は価格が価値に勝る」

そのうちヨーロッパの製造工程を研究してアメリカの業者に教えて、アメリカに大量生産技術を導入し、さらに安い仕入先をつくりました。
 

ディスカウントストア

1950年代、大型店や値下げに関する規制が緩和されると、大型の安売りチェーン店が台頭しました。多くの人は休日郊外のディスカウントストアに車で出かけ、大型のショッピングカートに「お買い得」と思われるものを次から次へと放り込みました。

そうして大型のディスカウントストアは、ますます力をつけてきました。食品や日用雑貨のメーカーは、ディスカウントストアが「ノー」といえば、直ちに生産は半減し、従業員の給料にも困ることになってしまうほどでした。

 

安売りは低所得者にとって福音?

さらに近年2000年のITバブル崩壊、2008年のリーマンショックなどにより貧しいアメリカ人の収入は低下しました。

2003年にアメリカ人が衣料品にかけた金額は、親の世代に比べ32%減少、家電にかけた金額は52%、食料品にかけた金額は18%減少しました。

 
図2 アメリカのディスカウントストア

図2 アメリカのディスカウントストア (wikipediaより)
 

しかしそれ以上に住宅ローンの支払額は76%、健康保険が74%、税金が25%増加しました。そして保育費は親の世代にはゼロだったものが、シングルマザーには重くのしかかるようになりました。

現代のアメリカの中流家庭、しかも共働きの家庭は、収入の4分の3を固定費に費やしています。ローンや保険に半分以上の収入をつぎ込み、残ったお金で食品や衣料品をやりくりしています。

 

グローバルでの価格競争

農産物、補助金

アメリカに代表される現代の工場式の大規模農業は、非常に高い効率で安価に農産物を生産しています。その結果、1974年から2005年にかけて食料価格は3分の1に下がりました。その原因に多額の農業補助金があります。

アメリカ農務省は、1995年から2006年にかけて、約1770億ドルの農業補助金を交付しました。しかし農業補助金の4分の3は、10%の大規模農家や農業法人に集中しています。アーカンソー州のライスランド社は世界最大の精米販売業者です。アメリカ全土で生産される穀物の3分の1を扱い、ヨーロッパ、中東、中南米へ輸出しています。同社は1995年から2006年にかけて、5億ドルの補助金を受けました。

そのためアメリカの独立型の家族経営の農家は、その大半が今では農業を断念しています。一部の農家は、有機栽培穀物や特選品へと多角化し、生き残りを図っています。またより付加価値の高い上質なチーズや燻製肉などの事業に取り組む農家もあります。
 

図3 大規模な稲作

図3 大規模な稲作
 

しかし開発途上国の農家には、アメリカの穀物に大規模農家や農業法人の安い穀物と張り合う術はありません。

西半球の最貧国ハイチは、1995年IMFとアメリカの圧力に屈して輸入米の関税を35%から3%に下げました。その結果、米の輸入は150%増加し、ハイチの農家は競争力を失いました。かつて米を輸出していたハイチは米の輸入国になり、農民は土地を捨て都市に移り、都市はスラム化しました。また一部はアメリカへ渡りました。

こうしたこともあってアメリカの移民、2007年には3,700万人に上りました。

 

工業製品の価格競争

汎用品の工業製品は多くの製造工程を人の手に頼っています。その面では、大規模化した農業よりも人件費の比率が高い産業です。その結果、安い商品を求める企業は、生産拠点を新興国に移していきます。

 

規模の経済

その一方、製造工程が高度に自動化した製品は、人件費より設備の費用(減価償却費)の割合が高くなっています。いかに設備を止めることなく稼働させるかが重要です。そして設備の稼働率が上がれば、生産コストは下がります。またより大型で効率の高い設備の方が生産コストはより下がります。

この二つの条件にから、自動化した設備を使って生産する企業は、できる限り規模の大きな工場を建て、大量に製品を供給し高い稼働率を目指します。そして販売量を増やすため、価格をさらに引き下げます。こうして市場シェアトップの企業はますます生産量が増えシェアが拡大し利益も増えます。そして二番手以下はどんどん引き離されていきます。

 

価格戦争

チャイナプライス

アメリカのマーケティング専門家は価格戦争は最後の手段だと考えていました。「フォーチュン」誌の古い記事には、
「価格戦争が何の役に立つのか? 何の役にも立たない」と述べています。

しかし、こういったマーケティングの教科書は中国にはないようです。多くのアメリカ企業は、市場価格より大幅に低いチャイナプライスで怒涛の如く押し寄せる中国製品に辟易していました。

アメリカの価格設定の専門家は、アメリカ企業に脅威を与えている中国企業に対して
「10%いや、20%、なぜ彼らはその程度の価格の引き下げに留められないのか。そうすれば彼らは価格優位を維持出来るし、もっと大きな利益を上げられるのに」と言っています。

従来の欧米のマーケティングの考え方では、価格戦争を戦略的に活用する発想はなく、それを専門に研究することもありませんでした。チャイナプライスは、意図的な戦略でなく、低価格の商品が先進国市場に流れ込んだことによって結果的に生じたものと考えられていました。

 

価格戦争は意図的に行われる

中国において、ビジネスとは戦いです。戦略(strategy)に相当する中国語「战略(Zhànlüè)」は、「戦闘計画」「戦闘戦略」という意味を示します。ビジネスは勝つか負けるかであり、勝つための手段には中国では「価格戦争」も含まれます。そして中国では価格戦争に勝利することは「将軍」として称賛されることです。

実際、中国では何百もの企業が価格戦争を仕掛け、価格を大幅に引き下げる戦略で競合をふるい落としてきました。そしてその中から世界的なリーダー企業が成長しました。

 
1995年中国市場のパソコントップ3は、IBM、コンパック、ヒューレット・パッカードでしたが、3年後の1998年には、トップ5は全て価格戦争で勝ち上がってきた中国企業になりました。

1999年中国市場の携帯電話は、モトローラ、ノキアなど外国企業が支配し、中国企業は5%に満たしませんでした。2003年には、激しい価格戦争を経て、中国ブランドが市場の50%以上を手にしました。

2005年には、創業から10年の自動車メーカー、チェリー(奇端汽車)が数度にわたって価格戦争を展開し、中国市場のシェア4位になりました。

 

価格戦争の理論

この価格競争の理論が増分損益分岐点分析(IBEA)です。これを用いれば価格引き下げを行った時、どれだけ販売数量が増加すれば価格引き下げ前と同等以上の利益が得られるか分かります。これは以下の式で表されます。

 ∆q : 損益分岐点となる売上数量増分率
 ∆p : 価格の引き下げ率
 cm : 限界利益率(価格引き下げ前)
 ∆c : 価格引き下げによる限界費用低下率

 

  • ∆p:価格引き下げ率(%)
  • 今までよりも価格を引き下げる割合
    ∆pが30%であれば、今までより30%価格を引き下げることです。

  • ∆q:損益分岐点となる売上数量増分率
  • 価格を∆p(%)引き下げた場合、どれだけ売上が増えれば利益がでるかを示す値(%)
    ∆pが30%、∆qが50%の場合、価格を30%引き下げた時、売り上げが50%以上増加すれば利益が出る、つまり赤字にならないで済みます。

  • cm:貢献利益率

管理会計で用いられる指標で、会社で発生する費用を以下の2つに分けます。
・変動率
 売上が増えるに従い、増える費用
 例)材料費、外注費など
・固定費
 売り上げの増減に関わらず、一定の費用
 例)人件費、設備の費用(減価償却費など)、工場の維持費、事務所の費用など

実際は人件費は生産量が増えれば残業のため増えます。また、電気代などは使用量に関わらず毎月一定額払う固定部分と、使用量に応じて金額が変わる従量課金部分があります。これらの費用は、固定部分と変動部分の割合からどちらかに分類します。

  •  限界利益
  • 売上高から変動費を引いたものです。限界利益が固定費よりも少なければ赤字となり、会社の存続が危ぶまれます。

    限界利益=売上高-変動費
     

  • 貢献利益
  • 限界利益から直接固定費を引いたものです

  • 直接固定費
  •  固定費の中で、売上の増減に直接影響する費用で、広告宣伝費などの販促費用や接待交際費などがあります。

  • 間接固定費
  •  直接固定費以外の固定費です。
    貢献利益=売上高-変動率-直接固定費

  • 貢献利益率

貢献利益率=貢献利益/売上高

 
図4 変動費と固定費、貢献利益
図4 変動費と固定費、貢献利益
 

製造業などで、販促費用や接待交際費が多くない場合は

限界利益率=貢献利益率

  • ∆c:価格引き下げによる限界費用低下率

限界費用とは、生産量を小さく一単位だけ増加させたときの、総費用の増加分です。経済学では、費用曲線を微分して算出します。企業の利潤が最大化するのは、限界費用と限界利益が一致する生産量です。
 
価格引き下げにより生産量が増大すれば、1製品当たりの費用は減少します。
この現象の程度を表したものが、限界費用低下率です。
 
図5 限界費用低下率
図5 限界費用低下率
 

生産量Q₁のときの限界費用C₁

C₁=Δh₁/∆q

生産量Q₂のときの限界費用C₂

C₂=Δh₂/∆q

限界費用低下率∆C


 

生産量が増加するに従い、限界費用が減少すれば、限界費用低下率はプラスになり、生産量が増加するに従い、限界費用が増加すれば限界費用低下率はマイナスになります。

30%値下げした際、利益を増やすためにはどのくらい数量が増えれば良いかを表1に示します。ここで売上数量増分率∆qが小さければ、販売量がわずかに増えるだけで利益が増えます。

つまり価格戦争が起きやすくなります。
 
表1 価格を引き下げた時に必要な売上数量の増加分

ケース1 ケース2 ケース3
∆p : 価格の引き下げ率 25% 25% 25%
cm : 貢献利益率 50% 40% 30%
∆c : 限界費用低下率 40% 30% 20%
∆q : 売上数量増分率 21% 21% 58%

 

このような業界として、民生用電子機器、家電、パソコン、携帯電話、通信機器、ケーブルテレビ、自動車などがあります。これらの業界は、当初利益率が高かったために起きました。

この式をモデルケースに当てはめて考えてみます。
 

【ケース1 】設備主体の事業(半導体など)
ケース1は半導体のように設備が主体となって、生産する企業です。
この企業の売上と費用の構成を表2に示します。
 

表2 ケース1の現状の売上と費用と利益   単位 万円(以下、同じ)

 売上  30,000
材料費 労務費 減価償却費 販管費 営業利益
3,000 6,000 8,000 6,000 7,000
製造原価 17,000

 

表3 限界利益、限界利益率、限界費用

限界利益 限界利益率 限界費用
27,000 90% 2,500

 
この企業が、設備投資を行い2倍の生産能力を獲得し、販売量を増やすために25%値下げしました。どれだけ販売量を増加すれば利益が出せるか計算します。
 

表4 ケース1の生産量の増加に伴う費用の増加

生産量(万個) 材料費 労務費(変動) 労務費(固定) 減価償却費
1,000 1,000 1,000 3,000 7,000
2,000 2,000 2,000 3,000 7,500
3,000 3,000 3,000 3,000 8,000 現状
4,000 4,000 4,000 3,000 13,600
5,000 5,000 5,000 3,000 13,800
6,000 6,000 6,000 3,000 14,000 投資後

 
ここで労務費は、工場を維持するための固定的な人員と、製造のための変動的な人員に分けて考えます。

また設備は3000万個を超えると、1ライン増設するため大幅に増加します。

生産量の増加に比例して、材料費は増加します。労務費は生産量の増加に比例する変動部分と、比例しない固定部分に分けてまとめました。

一方、生産量が現状より多くなると、もう1ライン設備投資が必要となり、減価償却費が大きく増えます。

生産量が2倍になった場合の売上と費用の構成を表5に示します。
 

表5 ケース1の投資後の売上と費用と利益

 売上  40,000 (2×30,000×0.75)
材料費 労務費 減価償却費 販管費 営業利益
6,000 9,000 14,000 8,000 8,000
製造原価 29,000

 

表6 限界利益、限界利益率、限界費用

限界利益 限界利益率 限界費用 限界費用低下率
39,000 86.7% 2,200 0.1

 

表7 販売数量の増加計算結果

1(1-cm)∆c 1.33%
値下げ∆p 25%
販売数量増加 38%

 

表3、表6から貢献利益率と、限界費用低下率が計算できます。
その結果、価格を25%引き下げた場合、販売数量を38%以上増加すれば、利益が増加することがわかりました。
 

【ケース2 】組立主体の事業(家電製品、自動車など)
自社の工場は組立が主体で部品は協力会社からしている場合、製造原価の大半が購入品となります。購入品の生産数が多い程、製造コストが低下する場合、こういった組立主体の事業で価格を25%引き下げたときに必要な売上数量の増加を計算します。
 

表8 ケース2の現状の売上と費用と利益    単位 万円(以下、同じ)

 売上  30,000
材料費 労務費 減価償却費 販管費 営業利益
11,500 4,000 1,400 6,000 7,100
製造原価 16,900

 

表9 限界利益、限界利益率、限界費用

限界利益 限界費用
51.7% 3,700

 

表10 ケース2の生産量の増加に伴う費用の増加

生産量 材料費 労務費(変動) 労務費(固定) 減価償却費
100 6,000 1,000 1,000 1,000
200 9,000 2,000 1,000 1,200
300 11,500 3,000 1,000 1,400 現状
400 13,500 4,000 1,000 1,600
500 15,000 5,000 1,000 1,800
600 16,000 6,000 1,000 2,000 投資後

 

材料費(購入品)は生産量の増加に伴い、コストの上昇は低くなります。一方、労務費は組立主体のため変動部分が多く、生産量の増加に伴い増加します。

設備の割合は高くないので、減価償却費は増加しますが、割合はケース1ほど高くありません。

この結果、生産量が2倍になった場合の売上と費用の構成を表11に示します。
 

表11 ケース2の投資後の売上と費用と利益

 売上  45,000 (2×30,000×0.75)
材料費 労務費 減価償却費 販管費 営業利益
16,000 7,000 2,000 8,000 12,000
製造原価 25,000

 

表12 限界利益、限界利益率、限界費用

限界利益 限界費用 限界費用低下率
51% 2,200 0.4

 

表13 販売数量の増加

(1-cm)∆c 19.6%
値下げ∆p 25%
販売数量増加 12%

 

この結果から、組立主体の企業でも購入部品のコストが生産量の増加により大きく下がれば、価格戦争を起こすメリットが出てきます。

一方中国企業にとっては、先進国市場は自社の低コスト生産能力を活かし、自社に有利な為替レートという条件もあり、利益率の高い魅力的な市場に映ります。従って価格を大幅に下げて積極的に市場シェアを拡大する戦略は効果的です。

 

価格戦争が起きやすい条件

規模の経済性が高い産業
多く生産すれば、それだけコストが下がり、利益が増える産業です。半導体や素材製品など固定費の割合が高い製品が該当します。反面自動車は、自動車メーカーから見れば、自社製造コストより購入部品の原価の方が圧倒的に高く、自動車メーカー自身は過剰生産になりにくいです。

製品の差別化が少ない産業
顧客がブランドスイッチに抵抗なく、価格が低ければ容易に買ってくれる産業です。特にその産業の製品が標準化され、技術革新や品質改善の余地がほとんどなくった時に価格競争が起きやすくなります。

 
市場が成長する段階で、価格引き下げにより需要が拡大する見込みがある場合、競合を退けることができなくても価格戦争を仕掛けることがあります。価格戦争に需要が拡大すれば自社のシェアが拡大するからです。また市場シェアの小さい企業の方が価格戦争を始めやすい傾向があります。

さらに設備型の製造業では、設備稼働率を維持したいという要求から薄利多売に走る傾向にあります。

一方いずれ中国市場でも製品が成熟し市場の成長の余地がなくなると、価格戦争の効果は下がり、中国での価格戦争は減少すると予測されます。

 

中国企業の価格戦争の例

競争戦略として価格戦争を選択した中国企業は、入念に準備して、競合に反撃する機械を与えず、不意打ちをかけます。以下に2社の価格戦争を紹介します。

チャンホンのカラーテレビ

1996年当時の中国では地方政府の支援を受けた大小合わせて130社ものカラーテレビメーカーがありました。そのほとんどが年間販売台数12万台未満でした。そのなかでチャンホンは、二番手メーカーの二倍以上の生産規模を持つ中国最大のテレビメーカーでした。
 
一方、大きな規模の中国市場に、海外のテレビメーカーが相次いで進出してきました。又テレビの輸入関税が引き下げられたこともあり、早晩中国のテレビメーカーは外国のメーカーに席巻されると思われていました。チャンホンのCEO ニイ・ルンフォンは、様々な戦略を比較検討した結果、価格戦争という結論に達しました。
 
これにより小規模な国内のテレビメーカーは、値下げにより収益力が低下するか、価格を維持してシェアを失うか、選択を迫られます。海外のテレビメーカーは、プレミアム価格を維持すれば、市場シェアは低下します。価格を追随すれば、利益は減少し、プレミアムというブランド価値を損ないます。
 
またチャンホンには有利な条件がそろっていました。中央政府は地方政府に財政引き締めを図っていて、地方の小規模テレビメーカーを支援する力が削がれていました。チャンホンは17の製造ラインを1個所に集約した効率の良い工場があり、多くの主要なテレビ部品を自社で調達可能でした。

同社の利益率は20%に達し、他のテレビメーカーを引き離していました。さらに同社は100万台近い在庫を抱えており、在庫費用29億元にあえいでいましたが、それは一方で十分な弾丸が装填されていることを意味していました。さらに1996年は、中国のカラーテレビ市場がまだまだ大きく成長する段階でした。
 
詳細な分析の結果、価格を10%引き下げれば、海外メーカーとの価格差は30%に拡大し、彼らを追い落とし、さらに国内のテレビメーカーを赤字にできるはずでした。それでもチャンホンの利益率は20%でしたので、10%の引き下げても十分に利益が残りました。

1996年3月チャンホンは、17インチから29インチまでの全てのカラーテレビを8~18%値下げすると発表しました。国内の小規模メーカーは不意を打たれて激怒しましたが、すぐに価格を引き下げ出来る体制にないため、状況を静観しました。

市場リーダーのソニーとパナソニックは、正攻法である、価格でなく機能と品質に力を入れました。それは成熟市場では正しい選択でしたが、急速に成長する中国市場には誤った判断でした。

中国メーカーの中には、チャンホンの値下げに追従したメーカーもありました。しかし生産規模と供給能力が不足し、わずかな製品しか値下げできませんでした。
 
価格戦争開始3ヶ月後、総合的な市場シェアは16%から31%に上昇しました。特に25インチテレビでは、20%から45%と大幅に伸びました。

その結果1996年初頭には、海外ブランドのシェアが64%を占めていたのに対し、1997年には、中国のテレビブランドのトップ10のうち、8つが中国ブランドになり、残っていた海外ブランド パナソニックとフィリップスのシェアはどちらも市場の5%以下でした。
 

電子レンジメーカー ギャランツの例

1996年中国最大の電子レンジメーカーのひとつギャランツは、競合ワールプール・シアファと共に25%のシェアを獲得していました。当時の市場は約100万台でしたが、家庭における普及率は2%しかありませんでした。電子レンジの利益率は30~40%と極めて高く、電子レンジメーカーの数は116社に増えていました。

慎重に戦略を検討した結果、ギャランツは価格戦争を決定しました。

成長段階にある中国市場は価格を引き下げれば販売台数を2倍にできると予想しました。価格戦争により効率の悪い小規模の企業を退陣させることで、高い利益率にひかれてこれ以上競合の参入を食い止めることができると予測されました。さらに販売台数の大幅な増加により生産コストが下がり、十分な利益を出すことが見込めました。
 
そのためには入念に計画し実行しました。価格戦争の2か月前には生産ラインを24時間稼働させ、十分な在庫を用意しました。そして販売の閑散期の8月、ライバルの不意を衝いて、一部は40%、平均で20%の価格引き下げを発表しました。
 
この攻撃は成功し、販売台数は200%増加し、平均コストは50%低下しました。純利益は価格引き下げ後にむしろ増加し、市場シェアは25%から34%に拡大しました。

その後ギャランツは4度にわたって価格戦争を仕掛け、2003年には電子レンジは、上位3社が市場の90%以上を支配するようになりました。
 

ホンダの価格戦争

HY戦争

1981年ボストンコンサルティンググループ(以降、BCG)日本支社の堀紘一氏の最初の大型コンサルティング案件がホンダでした。

ホンダの経営学とは、「ビジネスは勝負事だ」でした。
「勝負事である以上喧嘩と同じで、やるからには絶対勝たなければならない、喧嘩の場合、当然、出血や骨折は覚悟の上である。逆に言えば、出血や骨折がいやなら喧嘩などしてはいけない。」
 
当時、原付ブームに乗って二輪車市場が急速に成長していました。業界2位のヤマハは1位の座を狙って積極的に攻勢をかけていました。

図6,7 HY戦争で火花を散らしたパッソルとタクト
図6,7 HY戦争で火花を散らしたパッソルとタクト

図6,7 HY戦争で火花を散らしたパッソルとタクト (wikipediaより)
 

危機感を抱いたホンダは、BCGの堀氏にヤマハを叩き潰す戦略を構築させました。ホンダの二代目社長 河島喜好氏の命令は以下のものでした。

  • ヤマハを無配に転落させる。
  • 今後10年間はホンダの尻尾を踏むのも怖くて何もできない会社にする。
  • そのために多少の無茶も厭わないし、金に糸目はつけない。

 
そして様々な戦略を次々に実行しました。新車を52種類一度に投入したり、自転車が3万円した当時、50ccのスーパーカブを19,800円と自転車より安く売ったりもしました。

1982年に入りヤマハは勢いを失い、1983年になると過剰設備と余剰在庫で企業存続の危機となりました。4月の決算では、経常利益144億円減の2億円、特別損失のため総利益がマイナス160億円になりました。1984年度は、経常利益200億円の赤字を見込み、社長以下役員9人は退任または降格となりました。
 

競合をふるい落とした価格戦争

1953年、国内の一二輪車メーカーのホンダは1年間で総額4.5億円の設備投資を行いました。これは当時のトヨタ、日産よりも多い金額でした。本田宗一郎氏は、このお金で海外の高性能な工作機械を次々と購入しました。

当時、設計課長だった河島喜好は、輸入工作機械購入決定のいきさつを、こう語っています。
 

「前略 はっきり言っておきますが、ホンダの工場はいわゆる生産工場ではなくて、組立工場だったのです。

部品メーカーからほとんどの部品を買ってきて、それを組み立ててオートバイをつくっていたんです。ギヤ1個さえ社内ではつくれない。あるのは組立ラインと塗装ラインだけ。溶接すら外注でした。

かろうじて内作していたのは、カムシャフト、クランクシャフト、シリンダーなどのエンジン部品で、それは全部品の20%にも満たなかった。

ここで、本田と藤澤の経営者としての先見の明が、決断を下したのです。

デフレ不況が去って、E型が売れて、一時期の危機こそ乗り越えたが、このままでは大きな成長は望めない。しかも戦前の古い工作機械でつくった部品を買って使っているようでは、世界のホンダになれるわけがない。

お二人は、ホンダを、生産工場を持った会社にする決意をした。何が何でも最新鋭の工作機械を買おうと。それで、4億5000万円分の外貨申請を出したのです」

 

ダイキャスト
「入社間もない1950年の夏で、ダイキャストに関連してでした。『砂型でアルミ部品をつくるより、ダイキャストでつくったほうがどれほどいいのか、どういう点で勝っているか、ちゃんと説明できれば、通産省が補助金を40万円出すと言っている。だから、リポートを急いで書け』と、突然命じられました。

そこで、とにかく砂型との優劣やコストを比較してみた。そりゃ大量生産の部品をつくるのならダイキャストがいい。でも、ホンダは、これに見合うほど製品をつくっていない。月に100台か、せいぜいが200台です。最低でも1000台、1万台ぐらいつくるのでなければ、コストが合いません。困ってしまって『どう計算しても砂型が有利でダイキャストが不利です。書けません』と言ったんです」。

計算が緻密だったせいか、本田は、白井の返事に怒り出しもせず、珍しく諄々(じゅんじゅん)と説きました。

「『現実は、そうだよ。職人が1個ずつ砂型でつくった方が今んところ手っとり早いし、安い。

けどなぁ、日本の将来は工業立国しか手がないんだ。世界を相手の商売となったら、1番大事なのは量産性のあること、部品が均質であることだ。だからウチはつらいのを承知で、最初っからダイキャストでやってる。そこに力点を置いて書け』と。

正直言って、吹けば飛ぶような町工場の社長です。

当時大企業の社長でも口にしない”世界を相手に”なんてことを、本気で言ってるんです。びっくりしながらも、この人はただの職人あがりの技術者じゃないと思った。スケールが違うぞ、と。リポートは、言われた通りに書きました。」

 
多額の借入金と、1954年景気の減速とドリーム号のトラブル、スクーター ジュノウの販売不振により、ホンダは深刻な経営危機に陥りました。

しかし1955年からの神武景気で息を吹き返し、市場が再び成長に転じた1957年、

ホンダは増産体制を整えて20%の価格引き下げを行いました。

対抗するメーカーは、商品企画と開発が遅れ、さらに大手メーカーの価格に対応するために高品質で勝負しようとすれば値上げせざるを得なくなりました。

これにより国内生産台数が第1位になりました。

競合メーカーは、価格競争からやむなく値下げをしていった結果、粗製乱造となりました。

性能、外観、部品精度など目に見えて低下し、これがユーザーの信用の低下を招きました。

1957年には名古屋を代表するメーカーでキャブトンのみづほ自動車製作所(犬山市)が倒産。

1958年にはトヨモーターで一世を風靡した株式会社トヨモータース(刈谷市)も社内整理に入りました。
 

本コラムは2017年4月16日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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現在の交渉環境

  • 部品メーカー間の競争激化

2000年以降、この環境が大きく変化しました。
 
大手企業の海外への工場移転、家電などの競争激化により、国内のものづくりの市場は縮小しました。
自動車など一部の業界では、まだ活況ですが、下請けへの発注が減少している業界は少なくありません。主要取引先が海外へ移転して仕事がなくなり、他の業界へ果敢に売り込みをかけている企業も多くあります。
 
近年は海外の中小企業も力をつけてきて、海外調達も増えてきました。このように部品メーカー間の競争は激しくなっています。
 

  • 購入品のコストダウンに注力

近年、部品の外部委託が進み、大手企業の自社製造部門が製品原価に占める割合は減少しており、多くの部品は下請けの中小企業でつくられています。
 
利益を増やすためには、カイゼンで自社のわずかな工数を削減するより、部品の購入価格を下げた方が効果的です。また購買などの間接部門から経営者まで、現場経験のないものづくりの知識のない人が多くなりました。
 
部品の適正価格がいくらか分からず、関心は対前年比で製造原価がいくら下がったかです。そして購買担当者に「全体で何パーセントコストダウン」などの目標を与え管理に熱を上げています。
 

従来は、下請け企業はどんぶりで出した見積に対して、「~円まけろ!」という要求と交渉すれば良かったのでした。
今は、「いくらで発注します。それがいやなら他へ出します。」という厳しい条件になりました。
そして厳しい価格を受けざるを得なくなり、赤字受注が増え、会社の体力が低下し、最終的に廃業を選択する企業もあります。
 

  • 交渉の余地がないのか

では価格交渉の余地はないのでしょうか。

その価格を受けなければ、仕事はなくなるのでしょうか。
 
実は多くの購買担当者は適正価格がわかりません。ノルマとして目標のパーセントのコストダウンを行っているだけです。

では断ったら購買に他の選択肢はあるのでしょうか?
 
これは自ら情報を収集しないとわかりません。ひょっとすると「この価格で他に発注する会社」はないかもしれません。
 

  • 中小企業にも必要なタフネゴシエーター

従来、依頼された仕事を優れた品質で行っていれば、利益が出ていたかもしれません。
しかし今後は顧客の要求する価格で受注し続けると、事業が継続できなくなります。
 
自社の利益を守るために、強力な交渉力を持つ必要があります。
つまり厳しい環境を乗り切るために、中小企業もタフネゴシエーターにならなければなりません。
 
日露戦争では、日本海海戦に勝利した日本は、アメリカの仲介でロシアと和平交渉を行いました。しかし局地的な戦闘で勝利したものの、国内の弾薬は在庫が尽きていました。武器を購入しようにも外貨がなく、信用の低い日本の国債はどこも引き受けてくれないような状況でした。(そのために高橋是清がアメリカやカナダの富豪にお願いしに行ったほどでした。)戦争継続が事実上不可能な中での大国ロシアとの和平交渉は極めて厳しく、この交渉をまとめ上げた、この時の外務大臣 小村寿太郎はまさにタフネゴシエーターでした。
図1 日露和平交渉を行ったタフネゴシエーター 小村寿太郎(Wikipediaより)
図1 日露和平交渉を行ったタフネゴシエーター 小村寿太郎(Wikipediaより)
 

交渉の分類

 
「交渉」は、その時の状況や目的に応じて、「二重考慮モデル」というフレームワークを使い、「交渉相手との重要度」と「交渉成果の重要度」という軸から4つに分類できます。
 
図2 交渉の分類
図2 交渉の分類
 

  1. 現状維持、無活動
  2. 【重要な取引ではないため、敢えて交渉に臨まない】

    現状維持・無活動型とは、交渉に関わるエネルギーに比べ、得られるメリットが少ない、結果がそれほど重要でないなどの理由のため、交渉しない方が良いと判断する場合です。
    又は、交渉相手に誠実さがなく、道徳心に欠け、論理的な交渉ができない場合も、建設的な交渉にはならないため、交渉しないことを選択すべきです。
     

  3. 利益重視、闘争型交渉
  4. 【当該交渉による利益を重視し、闘争で利を勝ち取る】
     

  5. 関係重視、譲歩・従順型交渉
  6. 【相手との関係性を重視し、譲歩によって合意を得る】

    (2)と(3)は対照的なケースですが、重視しているポイントと、さほど重視していないポイントがはっきりとしている点では同じです。どちらも重視している点に偏りがちな傾向があります。
     

  7. 戦略的関係、問題解決型交渉に持ち込む!
  8. 【双方の問題を解決し、Win-Winの成果を追求する】

    関係性と利益の両立を目指す交渉です。安易に考えれば(2)と(3)になってしまうような場面でも、粘り強くWin-Winとなるような条件を探らなければなりません。時には新たな解決方法を創造しなければならないこともあります。

 

古典的な交渉術とB to Bでの有効性

 

交渉術とは、説得術

今まで交渉とは、上記(2)の利益重視、闘争型交渉であり、主な活動は相手に対する説得でした。お互いの主張がぶつかり合い、どちらかが譲歩するまで続けられます。
 
例えば、国家間の争いごとの外交交渉は、時として戦争にもなります。

「戦争は、武器を使ってやる外交であり、外交は、武器を使わないでやる戦争である」と塩野七生氏は語っています。
 
図3 ポツダム会談(Wikipediaより)
図3 ポツダム会談(Wikipediaより)
 
 外交交渉とは、利害のぶつかる2国間での話し合いであり、(2)の利益重視、闘争型交渉です。相手を従わせるには、時として戦争という武力手段に訴えることもあります。そのため、外交交渉を有利に進めるためには強い軍事力が欠かせません。
 

  • 世の中に出回る説得の技術

ビジネスで相手を従わせるにはどのような方法があるのでしょうか?
 
相手を説得するのは、心理的な技術による戦いです。相手の技術が高ければ不利になりますし、低ければ丸め込むことができます。そしてこの技術は、自ら学び実践することで磨き上げられます。

事前に訓練しなければ、海千山千の交渉の達人を相手に、対等に交渉することはできません。
 

アメリカの国防総省やIBM、メリルリンチなどを指導するスーパーネゴシエーターのジム・キャンプは、「NO!という言葉を上手に使いこなす」ことで、交渉において望む結果が得られると言います。

「NO」を正しく用いることで、交渉相手は自分から勝手に譲歩するようになるからです。
 

  • 相手をねじ伏せる説得の技術
  1. 先に話しかけて、会話の主導権を握る
  2. 挨拶や会話の最初は自分から切り出し、主導権を取ります。
    グレン・ワイズフェルド博士の分析では、言葉かけは必ず強い人間から弱い人間という方向でした。ほめ言葉の91%、指示の85%、非難の84%は、強い人間から弱い人間に流れていました。
     

  3. 相手の発言に割り込み、会話の主導権を握る
  4. 相手の発言の最中、「ちょっといいですか」とか「すみません。○○とはどういう意味ですか。」と割り込んでいきます。エチケット違反ですが、割り込んでいくことで自分の立場が上であることを誇示します。
     

  5. 自分の椅子だけ高くする
  6. 目線の高さは力関係を表します。裁判官、昔の王、学校の先生が一段高いところにいるのは、相手に対してパワーを示すのに役立っています。
     
    会話力、表現力、自社の競争力などが同じ場合、どちらが勝つかは運やその日の気分、意気込みによってがらりと変わります。そのため椅子の高さが心理的な有利さとなり、結果が変わります。
    高さ調整式の椅子であれば、椅子を高くして交渉に臨みます。さらに背筋を伸ばすだけでも目線の高さは変わります。
     
    図4 裁判官も高いところに
    図4 裁判官も高いところに
     

  7. あいづちを打たずに居心地を悪くさせる
  8. じっと相手の目を見つめているのに、全くあいづちをしないで話を聞くことは、相手を心理的に追い詰めます。「なぜ、この人はあいづちをしてくれないのだろう」と不安になり、相手の話に自信を失わせ、気持ちを動揺させます。
     
    国家存亡のかった外交交渉では、ブラフ(はったり)、ウソなどあらゆる手段が取られます。まさに外交とは、武器を使わない戦争とも言えます。

 

イエスかノーかの二分法

 
「まずは、20%コスト削減をお願いします。」

「20%は無理です。」

「いえ、20%です。20%を受け入れるか、降りるかです。」
 
二分法は、このように問題をイエスかノーかに単純化して、判断を迫る交渉のテクニックです。担当者は非常に強いプレッシャーを受け、提案を受け入れるか否かを判断しなければなりません。

多くの提案は100%満足できるものではないのですが、二分法で迫られると、意識がそこに集中してしまい、他の選択肢を考えられなくなります。
 

  • 郵政民営化を争点にした小泉劇場

2005年の衆議院選挙は、小泉首相が郵政民営化の是非を問う選挙でした。自民党でも反対する議員には、小泉首相が対立候補(刺客)を送り込むという徹底さでした。
 
この方法は、問題を単純化してしまい、郵政民営化の中身はほとんど争点になりませんでした。
 
図5 郵政民営化という二分法(Wikipediaより)
図5 郵政民営化という二分法(Wikipediaより)
 

  • 二分法への対処

このように二分法で迫られると、他の代替案をだすことができなくなります。
そこで交渉相手から二分法で迫られたら

「それはどういう意味ですか?」

「あなたの提案の中でわからないところがあるので教えて欲しいのですが」

と質問して切り返します。
 
すくに結論を出さずに

「自分としてもこの重要な問題にはすぐに答えを出すことができません」

と言って逃げます。
 

駆け引きの技術

  • 交渉における駆け引き

多くの交渉では、少しでも有利な条件になるように様々な駆け引きが行われます。譲歩は少しずつ行い、さらに譲歩する際には相手に見返りを求めます。

海外では、わざと相手に揺さぶりをかけて、相手が驚いて譲歩するようであれば、駆け引きが通用する相手と判断して、更に揺さぶりをかけてきます。
 

  1. ブラフ
  2. 「ブラフ」とは「ハッタリ」の意味です。
     
    お客さんの予算を「10万円ぐらい」と予想します。

    相手の予算額の1.3倍ぐらい上乗せし、「13万円でいかがですか」とふっかけます。
     
    マーケティング・コンサルタントの佐藤昌弘氏の経験によれば、予算に対して、1.3倍までは検討の範疇に入り、1.7倍を超えると完全に対象外になるそうです。1.3倍までは、心理的に許容できる金額と言えるかもしれません。
     
    図7 はったりを見破られ……
    図7 はったりを見破られ……
     

  3. アンカリング(最初に提案する)
  4. 最初にこちらから有利な条件を提示して、それを元に交渉を展開するのがアンカリングというテクニックです。
     
    1000円のものを安く買う時に、最初に買い手が500円しか予算がないと強く主張すると、売り手は500円から如何にして1,000円に近づけるか考えます。つまり500円にアンカリングされたわけです。
     

  5. オプション販売
  6. 高い買い物では、相対的に安いオプションに対する抵抗は下がります。
     
    例えば、4,000万円の住宅を購入した時に、

    「せっかくですから床暖房も入れたらいかがですか?」

    と勧められると、価格は気になりますが特に交渉することなく、

    「あっ、お願いします」となってしまいます。
     

  7. 高価格品を最初に見ると…
  8. 高給な時計や宝飾品のお店で入口にある素敵な商品がお値打ちな価格で展示されていました。ちょっと気になって入ってみると、中にはより魅力的な商品が沢山あります。奥は、最高級の高価な商品がありますがとても手が出ません。
     
    そして順にお手頃な品を見ていくと、入り口よりも高価ですが、最高級品よりもはるかに安く、無理をすれば手が届きそうなものが、30%オフになっています。

    「これなら手が届く」

     こうして入口にあった商品の何倍もの価格のものを買って帰ります。

 
一時期キャンピングカーがブームになった時、キャンピングカーショーに行ったことがあります。キッチンや二段ベッドのついた豪華なキャンピングカーは500~800万円もします。そこでシンプルなキャンピングカーが400万円でありました。
 
「安い」と感じます。
しかし400万円と言えば、結構な高級車が買える値段です。感覚が変わってしまったことを経験しました。
 
図8 400万は安い?
図8 400万は安い?
 

バーター取引(交換条件)

 
交渉は、一方的にこちらの主張を重ねて相手に譲歩を迫ってもうまく行きません。多くの場合、こちらが譲歩することで、相手の譲歩を引き出し、交渉をまとめます。あるいは、双方が譲歩できる条件を出して交換条件とします。
 
これをバーター取引と言います。
 
バーター取引は、芸能界では、事務所が売れっ子タレントを出演させる代わりに、これから売り出す新人の出番を求めたりして、盛んにおこなわれています。
 
このバーター取引が成立するためには、交換する条件が等価であることが必要です。本来違うものを交換条件にしてしまうと後日問題が起きます。
 
その背景として、とりあえず合意しておけば後で問題が起きても何とかなるだろうという甘い考えも影響しています。

かつてのような企業間の取引が、取引というよりパートナーシップであった時代は、うまく行ったかもしれませんが、今日ではお互いがすべきことを全て書面で残しておく必要があります。実際改めて文書にすると、このバーター取引が危険なものであることが分かります。
 
本来は、お互いが譲歩することでどちらの利益にもなるような条件を交換します。そう考えると交換できる条件は意外と少ないものです。
 

代表的な交渉戦術

 

  • グッド・コップ、バッド・コップ

グッド・コップ、バッド・コップ(Good Guy – Bad Guy Routine、もしくは、Good Cop Bad Cop)は、2人でチームを組み、敵対的な態度を示す役と同情的な態度を示す役を演じ、交渉相手を揺さぶる戦術です。
 
相手がバッド・コップ役に敵意を抱き、グッド・コップ役に好意を抱くように仕向けます。バッド・コップ役は徹底して厳しい態度を取り、強圧的な言葉で責めるのに対し、グッド・コップ役は交渉相手をかばい、バッド・コップに反対します。
 
相手はグッド・コップ役を味方と勘違いし、グッド・コップ役の条件が、実際以上に魅力的に見えてしまい、グッド・コップの提案を受け入れます。
 

  • ドア・イン・ザ・フェイス

人間は、相手から出された要求を断るとき、何となく罪悪感を感じます。
 
ドア・イン・ザ・フェイス(Door in the Face)はこれを利用し、最初に相手が承諾しないと思われる厳しい条件を提示し、相手に拒否させます。

次に、少し譲歩した条件を提示して、相手に合意を求めます。これは、予想外の条件を出して相手の心理を揺さぶり、要求条件に対する冷静な判断力を奪うことが目的です。
 
最初に提示された予想外の条件に惑わされず、何が相手の本当の要求かを冷静に判断することが重要です。
 

  • フットインザドア

フット・イン・ザ・ドア(Foot in the Door)は、ドア・イン・ザ・フェイスと逆の心理を利用した戦術です。
 
最初に相手が取るに足らないと思うような要求を提示し、小さなイエスを引き出します。そして徐々に大きな要求にエスカレートさせます。要求が徐々に引き上げられ、最後の段階で初めて「しまった」と気づきます。
 
最初の要求が小さいと思わず受け入れてしまいますが、次から次に大きい要求を受けても、最初にイエスと言ってしまっているため途中からは断りづらくなります。
 
相手の要求が大きいか小さいかではなく、要求の内容を考えて応じるべきかどうかを冷静に判断します。途中で気がついた場合は、冷静に「以降の要求は一切応じない」と宣言します。
 
図9 フットインザドア
図9 フットインザドア
 

  • ニブリング

ニブリング(Nibbling おねだり)とは、いったん合意に到達した直後を狙って、相手に追加条件を提示し、相手にのませてしまうものです。 
交渉が合意に達したときには、気が緩み油断しやすく、できるだけ合意を維持したいという心理を利用しています。

この戦術を用いる際は、相手の不意をついたり、相手を意図的に褒めた後。追加条件を出し、自分が出した要求が取るに足らないことをさりげなく強調して合意を引き出そうとします。
 
この戦術を受けないためには、交渉相手の前では合意に到達したと思ってもまだ交渉中であり、緊張感を維持して相手に対応するようにします。

そして合意後の追加条件は、基本的には受け入れないとし、交渉の条件はすべて交渉の中で決めるのを基本原則とします。
 
図10 スターリンが多用(Wikipediaより)
図10 スターリンが多用(Wikipediaより)
 

  • タイム・プレッシャー

「遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。帰りのご予定は?」。
海外などで相手と交渉する場合、よくある雑談です。しかし、この雑談の中に、タイム・プレッシャー(Time Pressure)を与えるための質問が潜んでいることがあります。
 
タイム・プレッシャー戦術とは、会話から相手のデッドライン(時間的制約)を探り出し、締め切りの効果を利用した戦術です。
 
デッドラインを利用して、空港の出発便の2時間前ぎりぎりになって、本格的な条件交渉を始めたりします。あるいは合意したと思っていた条件を急に変更することもあります。デッドラインが気になって冷静な判断ができず、安易に合意してしまいます。
 
これを避けるためには、不要な情報を明かさないようにし、デッドラインは目標と考え、延長戦の選択肢を準備しておきます。
 

ハーバード流交渉術

今から30数年前、ハーバード大学のロジャー・フィッシャー、ウィリアム・ユーリー、ブルース・パットンが「ハーバード流交渉術 必ず『望む結果』を引き出せる!」を著しました。
 
当時、交渉は勝つか負けるかであり、長引く訴訟、ストライキ、各地の政治的対立が起きていました。

ハーバード流交渉術の利益に基づくアプローチは、Win-Win交渉術として支持を集めました。
 

人と問題を切り離す

「相手の心をコントロールする」
 
 交渉においては、「問題」と「人の関係」が一体化してしまい、感情的になり解決を難しくしています。相互の認識の確認し、お互いに話の聞ける環境を作ることが重要です。
 
 認識へ対処するには、相手の事実認識に対し誠実に向き合います。感情へ対処するには、相手の立場になり、相手の立場からメリットを考えます。

意思疎通へ対処するには、どのような認識を持っているのか、どのような感情を抱いているのか、把握するためにきちんと聞きます。
 

利益に着目する

自分の利益を主張するときは強い態度でも構いません。ただし「間違っていたらご指摘ください」と断り、相手の言い分にも耳を傾けます。
 

互いに利益のある選択肢を考える

お互いに利益のある選択肢を考える際に、以下の4つの要因が阻害となることがあります。
 

  1. アイデアの切り捨て
  2. 交渉の場ではユニークなアイデアが出にくく、相手の問題点を探そうとする批判意識が働いてしまいます。
     

  3. 単独の答えを探してしまう
  4. 多くの人は、交渉でアイデアを出そうという発想でなく、条件の差を埋めることに囚われ、選択肢を広げるべきとは考えていません。

    一つの回答に辿り着こうとすると、多くの可能性の中から一番良いものを選べなくなります。
     

  5. パイの大きさが固定だという思い込み
  6. 交渉の対象になっているものを奪い合うしかないと、双方が思い込んでしまいます。
     

  7. 相手の問題は相手が解決すべきだという考え
  8. お互い自分の利益にしか関心がなく、交渉では相手側の言い分を認めたくないと考えてしまいがちです。

 
 交渉の成否は、自分の望んでいる結果(意思決定)を相手側に認めさせるかどうかにかかっています。
 
できるだけ、相手がそのような決断をしやすいように配慮します。そのためには交渉者の立場を考えて行動します。交渉相手の視点で問題を眺め、意思決定者を見極め、背後にいる人を説得するための材料を渡します。
 

客観的基準に基づく解決にこだわる

 解決策を考える際に、双方が納得できる客観的な基準に基づくようにします。
 
つまり利益やメリットを議論する際にお互いが何をものさしにして議論するのか、明らかにしておくことです。

そしてそのものさしは、客観的で双方が納得できるものでなくてはなりません。
 
交渉に入る前に、この基準について突っ込んだ議論を行い、合意を得ておくことが重要です。
 

BATNAを用意する

BATNAとは、Best Alternative To a Negotiated Agreementの略で、「交渉に合意することに次ぐ、最善の選択肢」という意味です。
 
つまり「交渉が決裂したときに、自分が取れる最善の選択肢」のことです。
 
たとえば受託開発の引き合いがあった場合、BATNAとしては、以下のようなものが考えられます。

  • 他の案件を探す
  • 自主サービスの開発を行なう
  • 状況によっては、業態転換する、廃業する

 
このBATNAを決めておくことで、交渉に合意するかどうか、冷静な判断ができます。BATNAよりも少しでも条件が良ければ、交渉はWinとなり成果があったことになります。
 
条件がBATNAより悪ければ、交渉を打ち切り、BATNAを採用します。その結果、感情的にならず冷静に交渉をまとめることができます。
 

  • 交渉結果5つのオプション

図11に交渉結果の5つのオプションを示します。
 
図11 交渉結果のオプション
図11 交渉結果のオプション
 
交渉の結果としてあるべき姿は、Win-WInのシチュエーションです。逆に最も避けたいのは結論を先延ばしにしたり、お互いが妥協して交渉を終える状況です。
 
妥協というのは一見良いように見えますが、お互いにとってより大きな価値を生むWin-Winシチュエーションを逃してしまっているという状況なので、Lose-Loseという位置づけになります。
 
また、相手を完全に打ち負かしてしまうWin-Loseという状況は一時的にはプラスになりますが、相手との長期的な関係を考えると避けたい結果です。
 

  • ハーバード流交渉術の問題

この利益に基づくアプローチは従来のハード型戦略へのアンチテーゼとして、「Win-Win交渉術」として絶大な支持を集めました。
 
ハーバード流交渉術は、交渉において一定の立場に固執するのではなく、問題を深く掘り下げ、根底にあるお互いの利益に基づいて落としどころを探っていくことを提示しました。
 
また、価格にこだわって敵対的な交渉を続けるよりも、価格以外のアフターサービスやその商品が顧客の目的に合っているかどうか、使用条件や使用環境とのコーディネートなど価格以外の価値に目を向けさせ、敵対的な交渉を双方にメリットのあるものに変えることができました。
 
また相手との長期的な関係を構築できるメリットもハーバード交渉術では述べています。
 
あくまで強引な値引きを求める攻撃的な交渉は、見知らぬ相手との一度きりの交渉ではうまく行くかもしれません。しかし一度コテンパンにやられた人間は二度と同じ人間と交渉しようとは思いません。
 
このモデルによって交渉人は「相手の取り分が増えれば、自分の取り分が減る」という観念からも解放されました。
 
このハーバード流交渉術は多くの研究がされましたが、その基本的な枠組みは、双方の利害、選択肢、置かれた状況、関係は不変であるという暗黙の前提に依っていました。
 

  • 戦場の霧

戦場の霧(せんじょうのきり、英: fog of war)とは、プロシアの軍人・軍事学者のクラウゼヴィッツによって定義された言葉で、作戦・戦闘において指揮官から見た不確定要素を言います。
 
実際の戦場は、相手の位置がわからない中で部隊を進めていきます。突然あらぬ方向から攻撃を受けたり、時として味方の攻撃(同士討ち)すらあります。限られた情報の中で相手の居場所や戦力を判断し、部隊の対処を決めなければなりません。
 
図12 戦場では限定的な情報しかなく
図12 戦場では限定的な情報しかなく
 

同様に実際の交渉は、大学での学術研究のように結果がわかった中での分析でなく、相手の考え、出方が分からない中で行わなければなりません。全体を俯瞰できる図はなく、相手の求めている利益も分かりません。

さらに時間の経過と共に交渉のプロセスは刻々と変化しています。
 

  • 利益の霧

交渉を始めるまで、自分の利害がどのようなものかわからないことも多いのです。
交渉が予想外の展開を見せた時、予想とは異なる利益を検討しなければなりません。
 
家を買う場合、家の価値は買う人により変わります。
最初は良いと思っていた家が、子供の教育環境を考慮した結果、良くない家になるかもしれません。

見晴らしのよい高台は、年を取った時には、街へ買い物に行くときに重労働になるかもしれません。

さらにローンと現金、保証付きと保証なし、これらが複雑に組合せた案件を客観的に評価できるでしょうか?
 
図13 様々な条件が組み合わさり
図13 様々な条件が組み合わさり
 
つまり、どちらが自分にとって利益が高いかは、それぞれの事情、考え方により変わります。
 
利益は流動的なものであり、交渉をうまく行うためには、状況により変わる利益に対し、柔軟に対応しなければなりません。

そして柔軟であろうとするほど、交渉戦略や意思決定は複雑になります。

「カオスを味方につけろ」

「ただし、自分の道は見失うな」
 

  • BATNAのあいまいさ

利益があいまいであれば、BATNAは分かりにくくなります。
 
今交渉している案件は、魅力がそれほどないのか、交渉を決裂してBATNAを採用するのか、それともBATNAはもっと魅力がないのか、これは交渉の進展により変わります。
 

  • 何を望んでいるのか

経験豊富な不動産の営業は、顧客が本当は何を望んでいるのか、自分が分かっていないことをよく知っています。
 
ある営業の女性は、顧客の要望に真摯に耳を傾けた後、まるで違う物件を見せます。一件目を見せる時、彼女は家の中を歩きながら、顧客がどんな反応を示すか、注意深く見守ります。顧客が本当に望んでいるものが何かを見極めるためです。
 
不動産にはこんな格言があります。

「買い手はウソをつく」

「ただし、わざとウソをつくのではない。みんな自分の本当の気持ちを分かっていないのだ。」
 

交渉とはカオス

このように考えると、実戦での望ましい交渉は、徹底的に相手に譲歩させるハード型交渉ではなく、ハーバード流のWin-Win型交渉でもありません。
 
先の見えない中で、双方が満足する結果をカオスの中から探し当てるようなプロセスです。
 

事前調査の重要性

ビジネスにおいて、交渉の事前準備の本質は、交渉にならないような状況をつくることです。
 
例えば価格交渉では、価格交渉にならないような状況にしてしまうことです。

アップルのMacBookを買い来る顧客は、アップルのディスカウントが低いと言って交渉しません。アップルは「もっと安いパソコンをお求めでしたら、他のメーカーをご検討ください。」と言うでしょう。
 
痛くない注射針の開発で有名となった岡野工業は、金型が数千万円から1億円するそうです。しかも値引きには応じません。
 
現実には、そのような状況は作ることができず、交渉を行うことになります。

しかし交渉にはタイミングが重要です。そこで以下の3点を判断します。
 
● 交渉をすべきか
● タイミングは今か
● 全てをかけるべきか
 
そして、交渉を取り巻く条件、背景を整理します。
 
✧ 最も重要なことは何か
✧ 妥協できる点は何か
✧ 自らのBATNAは
✧ 相手の希望価格はどう推測するか
✧ 顧客の他の選択肢は何か
 
価格交渉において、重要なことは価格以外の条件を洗い出すことです。ともすれば営業担当は価格にばかり目が行きがちですが、顧客にとっては判断要因の1つにすぎません。
 
しかし価格以外の要因も売り手が積極的に訴えなければ、顧客は気付きません。
 
高級リゾートクラブや高級ブランドバッグの宣伝は、製品の機能はほとんど訴えていません。高級感、リッチさなどのイメージを伝えています。
 
これは主に顧客の感情に訴えています。

商品の購入を決定するのは、感情です。

高級品では、顧客の感情が動くのは機能や原価ではありません。
 
顧客は何を重視しているのか。それを明確にしてリストアップすることが事前準備の中では重要です。購買の決定要因が価格だけであれば、実は価格交渉の余地はほとんどありません。

自社よりも安いところがあれば、自動的にそちらに決まります。交渉できるということは、顧客は価格以外に評価している点があるということです。
 

決定するのは感情

相手にイエスと言ってもらうためには相手に良い感情を持ってもらう必要があります。
 
B to Bでは長期的な取引が多く、一時の交渉で強引に相手にイエスと言わせても、その後の継続的な取引に支障となります。
 
交渉の場で己の感情に支配されないために、交渉の場では普段より自らの感情が高ぶっていることに注意します。

それは、我々は物事をありのままにみるのではなく、見たいように見ることも原因です。
 
今事実と思っていることは、自らがそうあって欲しいということを思っているだけかもしれません。

そして相手は、この事実を別の意味として捉えているかもしれません。
 
従って、自らの感情にゆだねるのではなく、冷静に相手の感情を推し量ります。そして相手の感情がこちらの望む気持ちになるにはどのような提案、解決策を提示すれば良いのか考えます。

欲しい結果を求めるのではなく、相手の感情をコントロールすることに力を注ぎます。
 
それには粘り強さと楽観的な見方が必要です。そして交渉の場面で変化する状況、あいまいさ、不確実性、リスクに動じず、適切に対処するようにします。
 

イエスのタイミング

交渉が佳境に入ると、いつイエスを言うかを考えなければなりません。
 
相手も十分交渉し納得がいった段階にも関わらず、さらに譲歩を引き出そうとして交渉を続けると、結果的にすべてを失うこともあります。
 

  • 交渉における創造力

交渉において創造力が必要な場面は、状況が変化し、予定していた解決策が使えなかったり、お互いの主張が平行線をたどり、新たな解決策が必要な場合です。
 
このような場面では、用意した方法にこだわらず、臨機応変な対応が求められます。
 
重要なのは、こちらの考えよりもまず相手に注意を払うことです。アクティブリスニングの上をいくような注意深い観察と聞き取ります。
 
その結果、相手を変えるべきタイミング、自分が変わるべきタイミングがつかめるようになります。
 
そして自らが取る主体的な行動は、質問することです。積極的に質問し、状況を打開できるようなアイデアを生み出すヒントを探します。この時に、事前にしっかりと計画が立てられていると、見えていない点が容易にわかります。
 
「計画に価値はない」

「計画立案がすべてだ」

ノルマンディー上陸作戦の最高司令官アイゼンハワーの言葉です。

しっかりとした計画を立案することで、目的が明確化し、潜在的な障害が明らかになります。それにより可能性が見えてきます。
 
実際の交渉では、不確実性の霧、未知の要素、状況変化により、予測通りにはなりません。冷静に観察し、柔軟に対応します。
 

  • アメリカ海兵隊の基本原則

「先を考えようとするほども計画の有効性は低くなる。

だから先を考えるときほど、ち密になり過ぎないように注意すべきだ。

先を考える目的は、有効な計画を立てることより、将来取りうる行動の基礎を整えておくことにある。事象が目前に迫り、実際に有効な行動を取れる状況になった時、すでに状況評価やアプローチの仕方が定まっているようにすることだ。」
 

  • ボスニアのナンバープレート

1995年に停戦合意した旧ユーゴスラビアのボスニアとセルビアにはまだ憎悪の渦が渦巻いていました。狙撃兵はセルビアのキリル文字がついたナンバープレートを見ると発砲しました。ボスニア政府は、セルビアのキリル文字を採用する気は全くなく、セルビア政府もアルファベットを使うボスニア方式を受け入れる気はありませんでした。交渉は暗礁に乗り上げていました。
 
アメリカの外交官リチャード・ホルブルックはどちらも譲歩しない案を考え出しました。二つのアルファベットに共通する10文字だけを使用するのです。
図14 キリル文字、ホルブルック氏の解決策
図14 キリル文字、ホルブルック氏の解決策
 

本コラムは2016年10月16日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

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なぜ高くても買ってしまうのか?行動経済学から読み解く

今までの経済学とは?

経済学とは?

 
行動経済学を考える前に、そもそも経済学とはどのような学問でしょうか。
経済学者は、世の中の経済やお金の動きが分かるのでしょうか。
 

  • 経済学の語源

 
経済学とは、英語のPolitical Economyの日本語訳です。
その意味は、経世済民 つまり「世の中を経めて、民を済う」という中国の故事から来ています。
つまり、国の財政や国富の管理が目的です。
 

経済学とは、市場活動、つまり売ったり買ったりする活動を分析し、お金の動きや企業の行動を解明することで、国家や企業活動に役立てることを目的としています。
そのために、個人がどのような行動を取るのか、解明しようとしたのがミクロ経済学です。これを国家レベルで解明したのが、マクロ経済学と言えます。
 

ここでの解明するとは、数式化することです。
数式化することで、例えば、国家予算をいくら増やせば国民の経済活動がどう変わるのかを予測できます。
 

つまり経済学は、数学です。
数学が苦手だからと文系を志望して経済学部に入ったら、いきなり数式がいっぱい出てきて苦労した方は多いのではないでしょうか。
しかし、個人では性格や考え方が異なり、その行動は同一ではありません。
 

そこで経済学では、現実を単純化します。
 

経済学の基本競争モデル

 
経済学では、以下のような単純なモデルを想定します。
 

  • 個人や企業は取引する商品、サービスの品質や価格に関する情報をすべて持っている。
  • 個人の消費行動や企業の生産活動は市場取引を通じてのみ、他の個人や企業に影響を及ぼす。
  • 全ての商品について、それを購入したものだけが便益を受ける事ができる。

 

これを完全競争市場と言います。そして、ここでは、一物一価の法則が保たれます。
この完全競争市場では、
 

  • 個人は、効用を最大にする
  • 企業は利潤を最大にする

 
という行動を取ります。
 
ここでの効用とは、その商品から得られる価値、満足度のことです。
今風にいえば、コスパを最大にするという意味です。利潤は利益と考えて良いです。
 

ホモエコノミカス

 
1980年代、主流となったシカゴ学派(新古典派)は、経済活動のモデルとして、ホモエコノミカスというものを仮定しました。これは

  • 全ての財の質と価格を比較し、効用を最大化する。
  • 他人のことは気にしない。
  • 感情を持たない。
  • お金、財、サービスには執着するが、他の欲望(性欲、名誉欲)には淡泊

 
というものです。
何か、欧米の金融業を思わせる設定です。
 

このような前提条件で考えられたのが、図1の市場均衡のメカニズムです。
 
図1 市場均衡メカニズム
図1 市場均衡メカニズム
 

ある製品の供給が不足すれば、価格は指示用価格からP1に上昇します。その結果、企業は生産量を増やします。そして価格は矢印の方向に低下し、市場価格に収束します。
需要が減少すれば、逆の作用が起きます。
 
この市場メカニズムは良くできていて、多くの商品は需要と供給に応じて、生産量と価格のバランスが取れます。
これを国が計画的に行ったのが社会主義国ですが、ご存知のように需要と供給のバランスがうまく取れませんでした。
 

実は日本でも国が関与したためにうまくいかない例はあります。
バターは国内の畜産農家を保護するために国が輸入量を決めて、計画的に輸入しています。ところが国内の生乳の生産量と輸入量のアンバランスのため、近年は絶えず品不足となり、バターの価格は常に高止まりしています。これは供給不足により生産者(ここでは国)が過剰に利益を得ている状態で、生産者余剰と呼びます。
 

ただし、このような市場経済でも、外部からの影響により均衡点が移動することがあります。これを外部性と呼びます。
 

負の外部性

 
例えば、企業が汚染物質を違法に排出するなど本来行わなければならない環境対策を手抜きした場合、企業はその分コストが下がり、利潤が増加します。
 

しかし、社会全体では、公害という損失を被ります。これが負の外部性です。
あるいは、国が補助金を出せば、企業の利潤はその分増加します。これが正の外部性です。
 

図2では、この製品は製造過程で必要な環境対策を行わなかったため、大きさx分だけ社会全体で費用が増加します。
企業はその費用を負担しないので利潤が増えますが、社会全体では生産量が減少し、均衡点がA点からB点へシフトします。
 

図2 負の外部性の影響

図2 負の外部性の影響
 

一方、社会全体といってもこれは日本の中での議論です。グローバル経済の今日、この外部性が国境を越えて移動します。発展途上国で環境を破壊して低コストで生産しても、それを消費する先進国はなんら痛みを感じません。

従って均衡点はシフトせず、むしろコストが下がれば下がるほど、生産量は増加します。
その結果、発展途上国の環境はますます破壊されます。
 

情報の非対称性

現実には、お互いが情報をすべて持っているような市場はありません。
情報の非対称性は、多くのビジネスで存在します。
 

【レモン市場】

中古車の販売では、売り手は商品の欠陥を良く知っています。しかし買い手はそのことを良く知らず、結果的に欠陥のある商品を買わされてしまいます。
そのため、中古車市場では、買い手は常に欠陥のある品質の低い商品が出ると思ってしまいます。そして品質の良い商品に高い価格をつけても売れません。その結果、中古車市場は品質の悪い商品ばかりになってしまいます。これをレモン市場と呼びます。
 

【逆選択】

自動車保険は、事故を起こさないドライバーにとって高すぎると感じます。その結果、安全なドライバーは保険に入らなくなります。
一方、乱暴な運転をするドライバーは、保険に入ることで安心して乱暴な運転を続けます。そのようなドライバーは事故を起こす率が高く、保険を利用する可能性が高くなります。
本来保険に入って欲しい安全なドライバーは、保険に入らなくなり、入って欲しくない乱暴な運転のドライバーが保険に入るようになります。これを逆選択と言います。
 

ちなみに私は、免許を取って36年になりますが、今まで一度も車両保険に入ったことがありません。車両保険は、事故を滅多に起こさないドライバーには高すぎます。36年の間、何度かボディをこすりましたが、修理代の合計は、車両保険に比べると微々たるものでした。
 

経済学では、このような非合理な行動を数式に表すことはできませんでした。
 

マネタリズムの提唱者 ミルトンフリードマンはこう言っています。
「非合理な人間や企業は自然淘汰される」
「導かれた結論が現実を説明できれば、前提が奇怪でも可」
その結果、非合理な点は無視して、現実を説明できる理論であればよかったのです。
 

経済学の限界

ところが、それまでの経済学のモデルでは説明できないことが、20世紀に入り起きるようになりました。
 

従来の経済学で説明できないこと

 
【失業】

マクロ経済学では、賃金がどんどん下がれば、どこかで仕事が見つかるはずです。
しかし、現実には働きたくても、仕事がない人たちがいます。
 

【株価のアノマリー(市場における非合理な例外事象)】

時期により、なぜ株価に高低があるのでしょうか。

  • なぜ、12月は安くて、1月になると高くなるのか。
  • なぜ、火曜日は低くて水曜日は高いのか。
  • なぜ、株式分割をすると株価が上昇するのか。

 
【財政政策】

ケインズは、需要不足で不景気の時、積極的財政政策によりお金をばらまくことで景気が良くなると提言しました。
実際に、1930年代の世界恐慌では、日本は当時の大蔵大臣 高橋是清の積極的な財政出動により、先進国の中でいち早く不況から回復しました。
 

では、なぜ需要不足のときお金をばらまくと景気が良くなるのでしょうか。
その原資は税金です。合理的に考えれば、財政政策は将来の増税であり、それを考えるとお金を使わないはずです。
 

限定合理的経済人

 
実際には、人々は「合理的な経済人」ではなく、「限定合理的な経済人」と考えられます。
 
ケインズは、人はすべて合理的な判断をするわけでなく、将来の期待感があると積極的に行動すると説き、これを
「アニマルスピリッツ=起業家精神」
と言いました。
しかし「将来の不確実な収益を期待する」という感情は合理的に説明できませんでした。
 
今までの経済学は、現実には起きている非合理な判断を無視したモデルで経済モデルをつくり、将来を予測しています。
どこに飛んでいくのか分からない鉄砲で、的に向かって狙っても、当たるのでしょうか。
 

図3
図3 的に当たるのでしょうか
 

行動経済学とは?

 
ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーの二人の心理学者は、人間の行動は経済学の前提にあるような合理的な判断に基づくものではない点に注目しました。
 

非合理的な判断1 確率の評価のずれ

 
人は、リスク、つまり確率について、同じの評価をしません。

  • 痛みはすごく嫌いますが、メリットは過小評価します。

 
図4 痛みを避ける例
図4 痛みを避ける例
 

図4のように4,000円が当たる確率80%のくじAと、3,000円が必ず当たるくじBでは、圧倒的にくじBが選ばれます。
期待値で比較すると、くじAの方が高いので、たくさん引けば、くじAの方が収益は高いのです。

  • 小さい確率の差は、過少評価します。

 
図5 小さい確率の差の例
図5 小さい確率の差の例

 
4,000円が当たる確率20%のくじCと、3,200円が当たる確率25%のくじDでは、くじCの方が多く選ばれます。しかし、どちらのくじの期待値も800円です。たくさん引けば、収益性は同じです。
つまり宝くじは1等1億円より、3億円の方が売れるわけです。
 

これを図式化したのが図6の確率加重関数です。人の主観的な判断は、確率35%を境に変わります。
35%以下の場合、発生する事象を過大評価します。例えば、10%しか起きないことを、18%と感じます。35%を超えると、過小評価します。90%の確率なのに74%と感じます。
 
図6 確率加重関数
図6 確率加重関数

 
確率加重関数を数式で表すと以下のようになります。
 
図7 確率加重関数 数式
 
このような確率に対する主観の違いは、株式投資などの経済活動に影響します。
 

限界効用逓減説

 
人は金額が小さな場合の違いは大きく感じ、大きな金額の違いは小さく感じます。
年収300万円の人が、100万円年収が増えればとても喜びますが、年収2000万円の人が、100万円年収が増えても、喜びはそれほど大きくありません。
 
図8 年収による賃金アップの効果
図8 年収による賃金アップの効果

 

喜び、つまり効用は量が増えるのに従って、低減します。これを限界効用逓減説と言い、図9のような特性を示します。
 
図9 効用逓減曲線

図9 効用逓減曲線

 

双曲割引モデル

 
経済学でいう割引とは、預金の利息や投資の収益率のことです。つまり、手元に100万円あれば、それは預金や投資により、10年後には100万円よりも増えます。
 

例えば、100万円を5%の投資収益率で運用すれば、10年後には162万円になります。逆に、10年後に162万円の価値をもたらす投資商品は、10年間の投資の収益を差し引くと、今は100万円の価値と考える必要があります。
これが割引率です。
 

伝統的な経済学では、人が感じる割引率は、実際の値と一致します。
10年後に162万円の投資商品の価値は、
8年後では、147万円
5年後では、127万円
3年後では、115万円
1年後では、105万円
です。
 

図10 双曲割引曲線
 
図10 双曲割引曲線

 
実際は、人は遠い未来の価値より、すぐ近くの価値を高く評価します。つまり、10年後の162万円より、3年後の115万円に魅力を感じるのです。

これは動物を対象とした行動科学の実験でも、同様の結果が得られています。少ない頻度でたくさんのエサがもらえるより、1回の量が少なくても、たくさんの頻度でもらえる方を好みます。これを表したものが図9の曲線です。
 

プロスペクト理論

 
主観と客観の確率を表した確率関数の式と、限界効用逓減の式を組合せたも宇のが、カーネマンがノーベル賞を受賞したプロスペクト理論です。これは図11のようになります。
 
図11 プロスペクト理論の価値関数
図11 プロスペクト理論の価値関数
 

プロスペクト理論では、参照点を境に、人は損失に対しては危険愛好的であり、利得に対しては危険回避的な行動を取ります。
そして損失の方が利得よりも、2.25~2.5倍のインパクトがあります。
 

利得局面
 
図12 利得局面の危機回避的選択

図12 利得局面の危機回避的選択

 
多くの人は、条件Bを選択します。つまり利得局面では人は危険回避的になります。
 

損失局面
 
図13 損失局面の危険選好的選択

図13 損失局面の危険選好的選択

 
ところが損失局面では多くの人は条件Cを選択します。つまり、損失局面では人は危険愛好的になります宇。その結果、プロスペクト理論における価値観数の曲線は、図10のようなS字曲線になります。
 
この価値観数は、トヴェルスキーとカーネマンの研究により、以下の式で表されます。 

図14 価値関数
 
プロスペクト理論は、人の非合理な行動を数式化し、モデル化できるようにした点で画期的でした。
将来的には、「どのような政策を取れば、景気がどう変わるのか」、「バブルを発生しないようにできるのか」予測が実現できるかもしれません。
問題は、この参照点、どこからが利得と感じ、どこからが損失と感じるかという境界が、個人や個人の置かれた状況により変化することです。
 

これが「参照点からの変化」です。
 

例えば、スーパーでガムだけを買う時、様々なガムを比べて価格と商品が一番気に入った物を選びます。
ところが、肉や野菜など多くの食材を買ってレジの前に並んだ時、レジ前の棚に置いてあるガムには、抵抗感なく手が伸びます。
その際、他のガムと価格や特徴をしっかりと比較することなく、選んでいます。
これは2000円から3000円の商品を購入する際には、あと100円追加しても出費の痛みを感じなくなっているからです。0円→100円の痛みは大きく感じますが、3000円→3100円の痛みはあまり大きく感じられないのです。
同様に自動車を買う場合、家を買う場合も、オプションで選択するものの価格には、あまり気にしなくなります。
 

行動経済学の今後

 

今はまだ行動経済学は、心理宇学的なアプローチで個人の行動を解き明かすレベルです。いずれマクロ経済学の中に行動経済学が組み込まれ、より現実的なマクロ経済学となり、その時点で行動経済学というジャンルは消滅すると考えられています。
 

一方多くの行動経済学の文献は、まだ個人の行動の分析が主体です。これには心理学的アプローチや、セールスマンの経験からのアプローチとも重なります。この個々のアプローチについては、別の機会に紹介します。
 

偏った行動、ヒューリスティックスについて

 

ここでは、行動経済学の代表的なアプローチのひとつ、ヒューリスティックスについてご紹介します。このヒューリスティックスとは、小さい確率を過大評価することです。
分かりやすく言えば、
「滅多に起きないことを気にする」
ことです。
その結果、人は非合理な決定をします。
 

なぜ、ヒューリスティックスが生じるのか
それは、人は限られた時間の中で直感的に意思決定する際に
「思考の近道(ショートカット)」をするからです。
 

ヒューリスティックスには以下の3種類があります。

  1. 代表性ヒューリスティックス
  2. 想起(利用可能性)ヒューリスティックス
  3. アンカーヒューリスティックス(係留ヒューリスティックス)

 

代表性ヒューリスティックス

 
判断する際にあるポイントだけを見て、それがすべてを代表すると考えることです。
例えば、宝くじ売り場で「この売り場で1等3億円が出ました!」という張り紙を見ると、多くの人はここで買えば当たるのかもしれないと思います。
あるいは、少年が起こした殺人事件の記事を新聞で読んで、最近は少年の凶悪犯罪が増えていると思うことです。 

実際は、少年犯罪は減少していて1990年代は、1960年代の1/5になっています。
 
図15 少年による刑法犯等
図15 少年による刑法犯等 検挙人員・人口比の推移
(平成29年版 犯罪白書より)
 

想起(利用可能性)ヒューリスティックス

 
想起ヒューリスティックスとは、想起しやすい、つまり心に浮かびやすい事象を過大に評価して判断することです。
例えば、青魚を食べると頭が良くなるというテレビCMを頻繁に見た結果、スーパーで無意識のうちに魚を買ってしまうことです。
 

例 飛行機は落ちるから怖い。
実際は、1年間10万人あたりの死者数で見ると
【航空事故】0.0097人
【交通事故】3.2人
【熱中症】1.4人
【他殺】0.27人
【自殺】21.9人
 
図16 飛行機は落ちるから怖い?
(トルコ航空1951便墜落事故、Wikipediaより)
 
飛行機は、自動車で移動するより安全なことが分かります。しかし、自動車事故は、日常発生しているため、ニュースになりにくく報道されないのに対し、飛行機事故は大々的に報道されます。また飛行機事故の場合、多くの大半の乗客が亡くなるケースが多く、そのため飛行機は怖いというイメージが作られます。
 

アンカーヒューリスティックス (係留ヒューリスティックス、確証ヒューリスティックス)

 
アンカーヒューリスティックスは、最初に与えられた情報、初期情報が判断の基準となり、それ以降の情報収集なども都合の良いものになる傾向があるという人間の心理特性を指します。
 

【アンカーヒューリスティックスの心理学実験】

被験者に100、1,000、10,000という数字の入ったカードを一枚だけ引いてもらい、ボールペンの価格を予想してもらうという心理学実験が行われました。

  • 小さな数字を引いた人は低い価格を予想する。
  • 大きな数字を引いた人は高い価格を予想する。

こういった傾向が見られました。
 

またボールペンの品質も評価すると、

  • 小さな数字を引いた人は書き味が悪い。
  • 大きい数字を引いた人は高級感がある。

といった意見が多く出ました。
関係のないカードの数字が、人の判断に大きな影響を与えたことが分かります。
 

本コラムは2016年6月19日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

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価格の決定方法と価格戦略

1 価格決定方法

 

価格設定の基本的な方法は、以下の三つに分類されます。

  • コスト基準型
  • 競争基準型
  • マーケティング戦略基準型

 

価格決定方法

価格決定方法


 

(1) コスト基準型価格設定

製造コストを基準に価格を設定する方法です。

投資の回収や利益計算が容易な方法で、多くの企業が採用しています。

しかし、この方法は、ものの本質的な価値や市場ニーズ、競合との関係が価格に反映されにくい欠点があります。
 

① コスト・プラス法

製造コスト、販売管理コストに利益を加えて価格を設定する方法です。

価格=製造原価+販売費及び一般管理費+利益

設備投資や開発費がある場合は、製品の発売から終了までのトータルでの販売量を設定し、個々の製品に分配します。

ただし、発売から終了までの期間が長い場合は、回収期間も長くなるので、その場合は期間を区切って、その間の製品に負担させます。
 

(マークアップ法)

小売や代理店の場合はマークアップ法が使われます。マークアップ法は、上記の製造原価が仕入原価に代わります。

価格=仕入原価+販売費及び一般管理費+利益

② 目標利益法(損益分岐点法)

製造原価と販売費及び一般管理費を、変動費と固定費に分解し、損益分岐点を求めます。

この損益分岐点から、必要な利益を加えて価格を決定する方法です。

販売数量に対する利益の関係が明確になるため、利益管理が容易になります。

その反面、費用を変動費と固定費に分解する直接原価計算を行う必要があります。

(決算書で行う原価計算は、変動費と固定費を分けない全部原価計算です。)
 

設備投資や開発費がある場合、その分を固定費に加えます。

製品の発売から終了までのトータルでの販売量を設定し、損益分岐点を計算します。
 

(2) 競争基準型価格設定

競合他社が設定した価格を基準に価格決定を行う方法です。

すでに市場で認知されている価格を適用するため、顧客に受け入れられやすい特徴があります。
 

① 市場価格追随法

すでに市場にある競合商品を基準に、その上下の価格を設定する方法です。

市場調査は不要で簡便な方法です。

この場合、自社の製品が他社と差別化ができれば、他社よりも高く価格設定できます。

しかし、際立った違いがなく競争力が低いと、他社よりも安く設定しなければなりません。
 

② プライス・リーダー追随法

その業界で、シェアが高く価格に対して大きな影響力を持つリーダー的な企業が存在する場合、その企業の価格に合わせて価格を決定せざるを得ません。

その場合の価格設定方法です。

こういったリーダー企業は、市場影響力が高く、価格に関する顧客の信頼も高いため、リーダー企業とあまり大きな価格差を設定するのは困難です。
 

一方、価格の変動に対し柔軟な市場である場合、価格を下げれば販売量が増加します。

リーダー企業より価格を下げれば販売量は増加しますが、リーダー企業より低コストで製造できないと、リーダー企業との価格競争で敗北します。

一般的には、リーダー企業は販売量も多くコスト対応力もあるので、安易な価格競争は危険です。

このように先駆者企業が存在する市場の場合、いかに差別化できるか、よりコストダウンできるかが、勝負を決します。
 

③ 慣習価格法

もう数年、数十年と売られている伝統的な価格帯が存在する場合、今まで売られていた価格を基準にする方法です。

例えば、ペットボトル飲料は150円、ラーメンは800円前後で長い間売られてきました。

そのため価格に対する顧客の意識もそうなっています。

そこで、大きく異なる価格で販売するのは、顧客に新たな意識付けが必要であり、リスクがあります。
 

一般的には、こうした慣習価格がある場合、その価格帯よりも安く販売しても販売数が伸びない傾向があります。

つまり150円のペットボトル飲料を、自社だけが140円に値下げしても他社の製品から自社の製品に変わる顧客が多くないということです。

これは顧客の価格感覚が鈍感になっていて安く買いたいという意欲が高くないためです。

このような慣習価格が存在する市場では、むしろ高品質な製品を高く売る方が成功する確率が高くなります。
 

(3) マーケティング戦略基準型プライシング

どのようにマーケティングするかというマーケティング戦略を軸にして最適価格を確定します。

その最適価格で必要な利益が得られるようにコストダウンを行っていく価格設定方法です。

全く新しい製品で市場がまだ出来上がっていない場合、顧客が望む最適価格が分かりません。

そこでどれだけ最適な価格を設定できるかどうかは、その後の市場シェアを獲得するための重要な要素です。

そこで提供する製品に対し、顧客はいくらまでなら喜んで支払ってくれるかという基準で最適価格を設定します。
 

① 価格差別化法

個々の顧客が払っても良いと思う価格に合わせて、顧客ごとに価格を設定する方法です。

同一商品・サービスでも複数の価格を設定します。

例えば、予約を入れる時期により価格が変わる航空運賃体系や、学生や教員へのパソコンソフトのアカデミックパック提供などがあります。
 

② 名声価格法(プレミアムプライシング)

複数価格帯を用意し、価格に敏感な顧客に対しては安いプランを、価格に対し鈍感な顧客には高いプランを選んでもらう価格設定方法です。

例えば、通常プランとプレミアムプランを用意し、プレミアムプランには通常プランよりも特別なサービスや付属品を提供します。

またバッグや服飾、アクセサリーなどのブランド商品は、「価格が高いから良い商品である」と顧客が思うため、より高い価格を設定することで品質や高い価値を訴えることができます。

別名 威光価格法とも呼ばれています。
 

2 価格の決定要素

 

(1) 経済学の需要曲線は本当?

需要と供給曲線

図2は経済学の需要曲線です。価格が高くなると数量は減少し、価格が下がると数量は増加します。

しかし現実には価格を下げても売り上げは増えなかったり、価格を上げた方がむしろ売上が増えたりします。

どうしてでしょうか。

需要曲線

需要曲線

 

原因は経済学がモデルとしている市場が完全市場だからです。

完全市場では、商品の供給は滞りなく行われ、商品の情報は買い手も売り手も同じように持っています。

顧客は商品を買うことで、最も高い満足が得られるように(効用を最大化する)、手元のお金を最適に分配する合理的な行動をします。

経済学は、このモデルに基づいて市場の動きや貨幣の作用を研究しています。
 

現実に考えれば、このような市場が限られています。

商品の供給は断続的であり、商品不足による価格高騰は頻繁に起きています。

またこのモデルには、顧客の感情が含まれていません。

そして顧客は「自分が本当はいくらまでなら払っても良いと思うのか」顧客自身も分からないこともあります。

現実の購買決定は、限られた情報の中で、その時の感情により行なわれています。
 

(2) 価格に鈍感な範囲(グーテンベルグ仮説)

顧客が商品に関して熟知し、しかも一定の価格感を持っている場合は、価格が変動しても売り上げがほとんど変わらない価格帯があります。

これをグーテンベルグ仮説と言います。

グーテンベルグ仮説

グーテンベルグ仮説


 

この仮説によると、一定の価格帯においては、価格の上昇に反比例して売り上げが減少する一般的な反応が起きません。

そして価格が上昇しても売上高は変わりません。

従ってこの価格帯の中で一番高い価格を設定できれば、利益は最大になります。

現在、このグーテンベルグ仮説を元にさまざまなマーケティング手法や販促手法が研究されています。
 

3 市場調査による価格決定方法

 

経済学通り、販売量と価格が反比例するのであれば、求める販売量に従って価格は決まります。

現実には、価格には慣習価格のため価格を下げても販売量が増加しないことがあります。

あるいは名声価格のように価格が高いことが品質の高さやブランド価値を示し、価格を上げても売り上げは増えることがあります。

あるいは、グーテンベルグの仮説にあるように、価格が上下しても販売量が変わらない価格帯が存在します。

そのため、販売量×価格、つまり売上を最大化する価格を探すことは、極めて重要です。

そのための市場調査の方法とて、コンジョイント分析とPSM法があります。
 

(1) コンジョイント分析 属性分析

コンジョイント分析は、1980年代にアメリカで急速に発展して、多くの企業で活用されている価格調査方法です。

顧客が商品を選択する場合、様々な要素が影響します。

例えば自動車では、色、大きさ、デザイン、内装、ネーミングなど様々な要素があります。

しかもそれらは互いに影響し合っていることもあります。

その場合、どのような製品が売れるのか、それぞれの要素の影響度を調べて、最も売れる製品を企画したいところです。

しかし、製品の様々な要素を並べてアンケートをつくり、

個々の顧客に

「色は?」

「かたちは?」

「大きさは?」

と調査するのは非常に時間がかかり、しかも個々の要因の関連までは分かりません。
 

そこでコンジョイント分析では、調査したい製品の仮想のイメージ(製品コンセプト)をつくります。

この仮想イメージは、調べたい複数の属性から構成され、この仮想イメージを顧客に買いたい順に並べ替えてもらいます。
 
 
例えば、自動車の場合、ボディの色、価格、スタイル、排気量、内装などの属性を組合せたカードを作成し、顧客に好みの順にカードを並べてもらいます。

その際、カードの組合せを少なくするために、直行表という統計的手法を用います。

顧客の選んだカードの順所を分析することで、どのようなものが顧客に好まれるか、またどの要素の影響が大きいか分かります。

ここで大切なのは、調査する要素(属性)と要素の中身(属性水準)が適切でないと結果が意味のないものになってしまうことです。

この属性と属性水準の決定には、知識と経験が必要です。
 

属性と属性水準

属性と属性水準


 

コンジョイント分析の例

コンジョイント分析の例


 

この例では、顧客が重視するのは価格と乗車人数であり、排気量はほとんど影響しないことが分かります。

価格は250万円を超えると効用値(満足度)が下がるため、売れ筋のグレードを250万円に設定します。

また乗車人数は、5人より6人、6人より7人の方が、満足度が高くなるため、売れ筋の価格帯には、必ず7人乗りのグレードを設けます。

一方排気量は顧客の商品選択にはほとんど影響しないため、エンジンのグレードは2000ccだけにすれば、生産効率が高くなります。
 

このように分析することで、最適な商品構成や色やグレードごとの割合を出すことができます。

また価格や機能などをどのように組み合わせれば顧客から好まれるか推定できます。
 

ただしコンジョイント分析では、広告、プロモーションや流通チャネルの影響は入っていません。

実際には、商品によっては広告やプロモーションの影響は大きいため、結果がこの通りにならないこともあります。
 
  

(2) PSM法

「PSM(Price Sensitivity Measurement(価格感度測定))法」は、顧客が求める価格のうち、

「最高価格」

「最低品質保証価格」

「妥協価格」

「理想価格」

を導き、適正価格を分析する手法です。
 

PSM法では、調査したい商品の価格を低いものから高いものまで順に並べて、顧客に以下の4つの質問を行い、それぞれ該当する価格を選んでもらいます。

(質問1) いくらだと、あまりにも安いので品質が不安だと感じ始めますか。

(質問2) いくらだと、品質に不安はなく安いと感じますか。

(質問3) いくらだと、その品質故、買う価値があるけど高いと感じ始めますか。

(質問4) いくらだと、あまりにも高いので品質が良いにも関わらず、買う価値がないと感じますか。
 

結果をグラフ化します。

「質問1 あまりにも安いので品質が不安だと感じる価格」から、その価格以下では買わない顧客の比率が分かります。
 

質問1のグラフ

質問1のグラフ


 

「質問2 品質に不安はなく安いと感じる価格」から、その価格以下であれば買う顧客の比率が分かります。
 

質問2のグラフ

質問2のグラフ


 

「質問3 その品質故、買う価値があるけど高いと感じる価格」から、その価格以下であれば買う顧客の比率が分かります。
 

質問3のグラフ

質問3のグラフ


 

「質問4 あまりにも高いので品質が良いにも関わらず、買う価値がないと感じる価格」から、これ以上高いと買わない顧客の比率が分かります。
 

質問4のグラフ

質問4のグラフ


 

PSM法では、この質問1~4の曲線をひとつのグラフに表します。

PSM法のグラフ

PSM法のグラフ


 

PMC(Point of Marginal Cheapness)は、「安すぎる」と思う人と「安くない」と思う人が同数の点で、安さの限界点を示します。

PME(Point of Marginal Expensiveness)は、「高すぎる」と思う人と「高くない」と思う人が同数の点で高さの限界点を示します。

PMCとPMEで挟まれる範囲が受容価格範囲です。

このような市場調査により、顧客心理によるもの、慣習価格や名声価格の影響、そしてグーテンベルグ仮説による価格に鈍感な範囲も含んで、適切な価格範囲を決定できます。

このPSM法は、トイレタリー業界(シャンプーなど)の日用品、ウィスキー、自動車などに幅広く用いられています。
 

(3) 改良版PSM法

アメリカのモンロー氏(1990年)は、PSM法の4つの質問のうち、

(質問1) いくらだと、あまりにも安いので品質が不安だと感じ始めますか?

(質問4) いくらだと、あまりにも高いので品質が良いにも関わらず、買う価値がないと感じますか?

しかPSMは利用しておらず、

しかも本当は「受け入れない」ではなく、

「受け入れる」を知る必要があること指摘しました。

30%の人が「高いので買う価値がない」と感じた場合、残りの70%は「高いが購入する価値がある」と感じています。

モンロー氏はこちらの情報の方が重要と考えました。

そこで質問1と質問4の回答結果の累積比率から1を引くことで、「受け入れる」を求めたのがモンロー氏の改良版PSM法です。

この累積比率から1を引くのは、曲線を上下対象に反転することで簡単に作成できます。
 

質問1のグラフの反転

質問1のグラフの反転


 

これにより、安すぎて買わない人から、安くても買う人たちの範囲が分かります。

同様に質問4についてもグラフを反転します。
 

質問4のグラフの反転

質問4のグラフの反転


 

このグラフと、質問2、3のグラフを重ね合わせます。
 

改良PSM法のグラフ

改良PSM法のグラフ

これは従来のPSMの「受け入れない」で調査した範囲に対し、「受け入れる」で求めた範囲になります。
この範囲の最も高い価格がプレミアム上限価格であり、最も低い価格がバリュー下限価格です。
この方法で範囲を求めると、従来のPSM法より価格範囲が広くなります。
 

多くの価格設定で誤ってしまうのは、

価格=製造原価+販売費及び一般管理費+利益

にこだわって、価格を低く設定してしまうことです。

特に形のないサービスは、製造原価を根拠にすると非常に低い価格設定になります。

しかし価格が高いことは、品質が高いことでもあります。

価格を上げても顧客は減少せず、売上は増加、しかもサービスの質も向上するという好循環が生まれます。
 

ある会社では価格調査の結果、今まで提供していたサービスは価格を1.7倍にしたところで売上が最大化することが判明しました。

同社は価格を引き上げることで利益は大幅に増加しました。

一方、それを超えると売り上げは急激に低下することも分かり、価格設定の難しさが分かりました。
 

(4) アンケート 価格調査

コンジョイント分析やPSM法は、顧客がその商品を理解していて価格が分かれば、買うかどうか意思決定できる場合に使用される方法です。

しかし今までにない全く新しい商品の場合、そもそも顧客は買うかどうか、価値があるかどうかですら、分りません。

そのような場合、手間と時間はかかりますが、テスト販売を行い、価格決定する方法があります。
 

ソニーが初めて世の中にCDプレーヤーを発売した時、ソニーは31ヶ月に15機種を市場に投入したのです。

最初に5~6機種発売して、ある機種が売れたらその機種をベースにさらに何機種かを発売しました。

こうして顧客が買いたいと思う機能と価格の最適値を探し出しました。

非常に時間とコストのかかる方法ですが、同社は適切な価格設定がその後の販売と利益に大きく影響することから、このような実際の販売により価格を調査する方法を取りました。
 

4 高く売るための方法 バンドリング

 

(1) プリンターが好調な理由

パソコンのメーカーは利益が出ずに苦戦していますが、キヤノン、セイコーエプソン、リコー、ブラザー工業などパソコンの周辺機器メーカーの業績は好調です。

その違いは、パソコンは売ってしまえば、それ以上お金は入って来ませんが、プリンターは売ってからもインクやトナーで収益が得られるからです。

むしろインクやトナーを売るために、プリンターやコピー機を売っています。

パソコンは、性能に差がなくなり他社と差別化するのが困難になっています。

しかしインクやトナーは、顧客から指名買いされ価格競争を避けられます。
 

これをバンドリング戦略と呼びます。

このバンドリングとは束ねるという意味で、複数の事業活動を束ねることで他社より優位になる戦略です。

このバンドリング戦略は、機器の販売と販売後のサービスのいずれを主な収益源とするかにより、戦略が変わります。

プリンターやかみそりは、販売後の消耗品で利益を上げる戦略です。

純正の消耗品は自社しか供給できないため、独占状態となります。
 

ただし、原価に対してあまりに高い価格を設定すると、サードパーティと呼ばれる海賊版の製造業者が現れます。

あるいは新興国では、プリンターに大容量のタンクをつなぐ独自の改造が相次いでいます。

そこでセイコーエプソンは、不正改造に対抗するため、ついに新興国向けに大容量タンクのプリンターの販売を始めました。

これは従来のプリンターを安く売ってインクで儲けるビジネスからの転換を意味しています。
 

同様にバンドリング戦略で成功しているのは、GEのジェットエンジンが有名です。

ジェットエンジンは定期的に部品を交換しなければならず、この保守部品がGEの収益源となっています。

同様にエレベーターも、販売後の保守点検で利益を上げており、三菱電機や日立製作所は、サービス部門が高収益部門となっています。
 

また大型のコピー機も機械を売るのではなく、コピーを売っています。コピー機のレンタル料は安価にしてコピー1枚の使用量で収益を上げています。

同様に携帯電話は、端末を安価に販売し、通話料で収益を上げています。
 

もうひとつのパターンは、機器の販売を収益源とし、販売後のサービスを、機器の購入するときの決め手とするものです。

自動車は、販売後のサービスの利益は高くありませんが、サービスが良いことで、その販売店で購入する動機となっています。

風呂釜メーカーのノーリツは、修理のために日本全国にサービスマンを展開し、充実したサービスが販売促進になっています。
 

このように商品やサービスを組合せることのメリットは、単純に比較できなくなることです。

エプソンとキヤノンのプリンターのどちらがお得でしょうか。

これはプリンター本体の価格だけでなく、インクカートリッジの価格とインクの容量から、ランニングコストを算出して、トータルでコストを比較しなければなりません。

これは容易ではありません。
 

このバンドリング戦略は中小企業にも応用できます。

製造した製品を問屋へ直接発送する製造と配送のバンドリング、

製造の中でも加工と組み立てのバンドリング、

加工と表面処理のバンドリングなど様々な組合せが考えられます。

特に今日、大手メーカーは自社の調達コストを削減するため、複数の工程をまとめる提案には積極的に応じています。

一方受注側とっては、複数の工程をバンドリングすることで、個々の製造原価を顧客から見えにくくする事ができます。
 

5 価格戦略の崩壊

このような市場調査に基づく価格決定は、ある程度価格が安定していることを前提にしています。

しかし例えば液晶テレビの価格は、2006年から2008年の間に1/3にまで下落しました。

このような急激な変化に対しては、市場の変化、競合の価格の引き下げを監視して、それにスピーディーに対応する必要があります。

参考文献

「なぜ、日本人はモノを買わないのか?」 野村総合研究所 著 東洋経済新報社

「心理マーケティングで『付加価値』を高める技術」 山下貴史 著 ぜんにち出版(株)

「日本一わかりやすい価格決定戦略」 上田隆穂 著 明日香出版社

「価格の心理学」 リー・コードウェル 著 日本実業出版社

「一瞬でキャッシュを生む価格戦略プロジェクト」 神田昌典 監修 主藤孝司 著 ダイヤモンド社

 

 

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