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中小企業の視点から考えるトヨタ生産方式の光と影
トヨタ自動車株式会社 (以降、トヨタ) の生産の仕組み「トヨタ生産方式」(Toyota Production System : TPS)は、かんばん方式など独自の手法で知られトヨタの強さの要因といわれています。
「TPSを導入すれば、コストは下がり生産性は増加する」
と自動車や自動車部品メーカーだけでなく、他の業界や行政機関などもTPSを導入しました。
ではTPSを導入すれば、他の業界でも生産性は増加するのでしょうか?
TPSの解説書には多く成功事例が掲載されています。そしてTPSの導入が失敗した企業は、「トップの決意が不十分」「従業員の改善意欲が乏しい」などが原因とされています。
そこで伊原亮司氏の著作などを参考にTPSの成立過程から振り返り「TPSの本質は何か」、そして中小企業にとってTPSのメリットとデメリットについて考えました。
トヨタ生産方式 (TPS)
トヨタの創業者 豊田喜一郎氏は、自動車の生産は「必要な時」に「必要なもの」を「必要な量」だけ生産する「ジャスト・イン・タイム」であるべきと考えました。これを大野耐一氏 (元トヨタ副社長)が具現化したものがTPSです。TPSの代表的な考え方がジャスト・イン・タイム、自働化、7つのムダです。
ジャスト・イン・タイム
ジャスト・イン・タイム (Just In Time : JIT)は、「必要な時」に「必要なもの」を「必要な量」だけ生産する方式です。
それ以前の1950年代のトヨタは、トラックを日産40台生産する会社でした。(トヨペット クラウン発売前) このトラックは需要予測に基づいて計画を立てて生産していました。しかし需要予測は外れることが多く、工場には大量に在庫が発生し、そのため経営が悪化しました。
そこで需要に合わせて「必要な時」に「必要なもの」を「必要な量」だけ生産するJITが考えられました。ただしJITは工程内の在庫(仕掛品)はゼロではありません。工程内には必要最低限の下図の製品(仕掛品)は存在します。JITを実現するためには、以下の5つの手法が採られています。
① 工程の流れ化
各工程の設備の時間を揃えて、工程の開始と完了を同期させます。(同期化)
生産量の変化に柔軟に対応できるように作業者は複数の工程を担当できるようにします。(多能工化)
設備は工程順にレイアウトし、工程順に製品が流れるようにライン化します。
② 小ロット生産化
必要なものを必要なだけ生産するために最小のロット(理想は1個)で生産できるようにします。
生産ロットが小さい場合、品種の切替時間 (段取時間) が長いと生産性は低下します。そのため段取時間の短縮を行います。
③ タクトタイム作業
作業は最適な作業方法を決めて、統一し (標準化)、全員が守ります。(標準作業)
標準作業の時間(タクトタイム)を設定し、その時間で生産します。
④ 少人化
生産量に応じて最も少ない人数で生産するため、生産ラインの人数は固定しません。
生産量が少ない時はラインの人数を減らして、一人当たりの生産性を高く保ちます。
⑤ 後工程引き取り方式
生産計画に基づく従来の生産方法は、後工程の状況に係わらず前工程は計画通りに生産します。(押込み生産) かんばん方式 (後工程引き取り方式) は後工程が使用した分だけ生産します。
かんばん方式とは?
下図でかんばん方式の説明をします。
![かんばんの説明](https://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2022/08/zu_kanban-1024x562.png)
かんばんの説明
【後工程】
① 後工程は部品をラインに投入し、その際引き取りかんばんを外します。
② 運搬係は、引き取りかんばんを前工程に持っていきます。
③ 運搬係は前工程で引き取りかんばんの数だけ部品を台車に積み後工程へ運びます。その際、積んだ部品の数の分、前工程の仕掛かんばんを外します。
【前工程】
① 前工程は仕掛かんばんの数だけ生産します。
こうして後工程が使用した分だけ前工程は生産します。一方前工程がかんばんに従い生産している間、前工程と後工程の間には、後工程が生産を続けられる数の仕掛品 (生産途中の在庫) が必要です。後工程引き取り方式は一定量の在庫が不可欠です。
対して生産計画に基づく生産方式(押込み生産)では仕掛品は必要ありません。ただし押込み生産では需要予測が外れれば大量の在庫が発生します。
⑥ 前提条件 平準化
JITを実現するは、需要が常に一定でなければなりません。毎月の生産量が大きく変動すれば、必要なかんばんの枚数が大きく変動します。生産ラインでは欠品や過剰な仕掛品が生じます。円滑な工程の流れも阻害されます。
TPSの解説書でも「TPSの導入には生産の平準化が必要」と書かれています。しかし平準化する方法は書かれていません。
なぜなら現実には生産の平準化は困難だからです。
自働化
TPSの自働化は「働」の文字を使用します。自働化とは設備に異常が起きたら設備が自ら止まることです。
従来は大量生産では高い生産性を保つために設備は極力止めないようにするのが基本でした。そして大量生産では不良は一定数発生するため、これを検査で取り除きます。
TPSでは、設備が自ら不良を検出し、不良が発生したら直ちに止まるような設備にします。豊田佐吉が発明したG型自動織機は、横糸が切れた時に自動的に停止し不良品をつくらないようにしていました。自働化はこれが起源と言われています。
① 品質は工程で造り込む
「自働化」により、設備が常に良品を製造すれば、不良の損失や不良の手直しがなくなります。検査で品質を保証するのでなく「自働化」により品質を工程で造り込みます。
② 省人化
設備が異常の際に自動的に止まれば、設備の稼働中に作業者が設備についている必要がありません。人と設備の仕事を分離し、人は設備から離れ、より付加価値の高い仕事をします。これが省人化です。
7つのムダ
TPSでは、付加価値を生まない作業を「ムダ」と称して徹底的に排除します。このムダには以下の7つがあります。
① 作りすぎのムダ
必要以上に作れば仕掛品や在庫が増えます。今すぐ使わないものは「手が空いて」いても作りません。
② 手待ちのムダ
手待ちとは、部品や材料の不足、設備の故障、指示が出ていないなどで作業者が待っている状態です。ただ待っていても人件費は発生しているからです。
③ 運搬のムダ
材料や仕掛品をいくら運んでも付加価値は増えません。
④ 加工そのもののムダ
加工は価値を生み出す作業です。だからといって放置せず「本当に必要最小限になっているか」「いっそのこと加工をなくすことはできないか」常に疑問を持つようにします。
⑤ 在庫のムダ
過剰な在庫はその間資金が寝てしまい資金不足に陥ります。しかも保管費用もかかります。トヨタは50年争議(後述)で過剰な在庫により深刻な経営危機に陥りました。さらに在庫は時間の経過とともに陳腐化します。陳腐化して売れなくなれば廃棄することになります。
⑥ 動作のムダ
生産中に手や足をたくさん動かしたり、あちこち歩いても付加価値は増えません。むしろ「動かないで生産できないか」工程や設備の配置を工夫します。
⑦ 不良をつくるムダ
いくら手間をかけて作っても不良品では使えず廃棄されます。たとえ使えても作り直しや修正、選別などの費用がかかります。
以上がTPSの主な手法や考え方です。TPSの解説書の大半がこういった手法やその運用の解説です。
しかしこうした手法は他の業界でも効果的なのでしょうか?
TPSが達成しようとする世界はなんなのか、TPSの成立過程に遡ってみます。
トヨタ生産方式の成立過程
戦後、1950年トヨタはまだ乗用車を生産してなく、トラックを日産40台生産するのみでした。(初代クラウンの発売は1955年)
在庫で経営が悪化したトヨタ
戦後間もない1949年、政府は激しいインフレに対処するため超緊縮予算を取りました。これにより深刻な不況 (ドッジ不況)に陥ります。トヨタを筆頭にトヨタグループ各社の経営は悪化し、賃金引き下げや人員整理をめぐり激しい労働争議 (50年争議) が起きました。
当時のトヨタはトラックを需要予測に基づき「見込み」で生産していました。月の初めは部品が十分に揃わず、組立途中のトラックが工場にあふれていました。月末にはそれまでの遅れを取り戻そうとスピードを上げて追い込み生産しました。
しかしドッジ不況でトラックが売れなくなると、在庫は工場にあふれ、資金繰りに窮して経営は悪化しました。豊田喜一郎氏は、この経験からトヨタの目指す姿として
「需要予測に基づく計画生産でなく、売れた分だけつくるJIT」
と考えるようになりました。
大野氏らによる現場の解体
トヨタの拳母工場の機械工場長だった大野耐一氏はかつて豊田紡織の技術者でした。豊田紡織では、1人の作業者が20台の自動織機を担当していました。それをヒントに拳母工場の機械加工現場で工作機械の自動化を推進しました。従来1人1台担当していた旋盤など工作機械を1人で複数台担当する多台持ちに変え、生産性は大幅に向上しました。
これは今はNC工作機械が主流なので、ボタンを押せばしばらくは自動で加工します。しかし当時は自動と言っても油圧の機械なので、今の機械ほど長く自動で加工できません。その短い時間に別の機械での作業を行うため、綿密な時間配分と正確な作業が求められたと思われます。実際に現場の反発は強く、50年争議では多台持ちの「大野ライン」が労働者から激しく批判されました。
これは、その後大野氏がJIT実現のため、かんばん方式を導入する際にも現場から強い抵抗がありました。こうした現場の抵抗に対して、大野氏はかつての自分の直属の部下、中でも中学卒業後トヨタに入社した養成工と呼ばれた若い社員たちを中心として、自分の考えを浸透させていきました。
そして大野氏は、機械工場長からトヨタ全体にTPSを推進する立場になると、自分が直接指導した若い大卒社員たちを現場に派遣してTPSを浸透させました。大野氏が手を焼いたのは、作業者はかんばんがなくても手が空いたら生産してしまうことでした。
余分な在庫を持たないことを徹底するために、大野氏とその部下たちは、時にはパワハラともいえるような強い言動で現場を強引に改革していきました。(この大野氏の番頭と言われたのが厳しい指導で知られた鈴村喜久男氏でした。作業者は、工場に鈴村氏が視察に来ることが分かると一斉に余分な仕掛品を隠したそうです。
こうした強引なトップダウンの甲斐あってTPSが現場に根付くようになると、現場は標準作業を守るようになり、もうつくりだめはしなくなりました。その後大野氏の後を引き継いだ人たちは、現場で怒鳴ったりすることはなくなりました。大野氏がこのような労力をかけてトップダウンでなければTPSが浸透しなかったのは、当時現場にはたたき上げの職人気質の作業者が多く、今までのやり方を変えさせることが容易でなかったからです。
大野氏の考える能率
かんばん方式は大野氏がアメリカのスーパーマーケットをヒントに考えたと言われています。しかし作家の山本七平氏が大野氏にインタビューしたところ、かんばん方式を考案した本当の理由を語っていました。この時のインタビューは山本七平氏の著書「指導者の条件」に記載されています。
これによると、山本氏が「どういう発想からあのかんばん方式をつくられたのですか?」という質問に対して大野氏は以下のように答えています。(以下「指導者の条件」より引用)
戦後、アメリカの経営学がどっと日本に入って来ましたが、アメリカの経営学は「働かない人間を働かすにはどうしたらいいか、働かせるためにいかなる組織を作るべきか」が主眼になっている。それには第一工程の能率を上げれば、否応なしに第二工程、第三工程にその能率が押されていくので、最初のところでもつとも能率を上げれば最終的に能率が上がる——という形になるのだそうです。
中略 そのとおりトヨタも最初はやっていたのだそうですが、どうもうまく行かない。うまくいっているようだけれども、どうもおかしい。そこで工場に入ってよく見ると、「人ベンの付いている人間と人ベンのついていない人間とがいる」ということを言われるのです。
どういうことかといいますと、「働く」という字から人ベンを取りますと「動く」になります。働いている人間とただ動いている人間がいるという意味です。
そこで大野氏は、動いている人間は価値を生み出していないので他へ移動させたいのですが、この区別が難しいのです。なぜなら、人はあちこちに移動するため、今まで働いていた人間が、次の瞬間にはただ動いているということが起きていました。そこで(以下「指導者の条件」より引用)
「仕事がない人間は動いちゃいけない、その人間は壁の前で立っていろ」という命令も出された。それは本人が悪いのではなくて、係長ないし課長の責任であるから、遠慮なく立ってくれと言ったのだそうですが、日本人は絶対に他人が働いているときに何もしないで立っていることはできなかったそうです。いかに副社長の命令であろうとできない、どんなに言っても、一揆的連帯感から動いてしまうので、いろいろ考えた結果、最後に「各工場はあらゆる方法で最高の能率を上げよ、そしてできた部品は絶対に持ち出してはならない」と命令したそうです。
ですから一時は最終ラインが止まってしまうわけですが、そこで「必要な分だけ前の工程に取りに行け、必要以上は絶対に取って来てはならん」と各工場の連携を遮断したのだそうです。そうしますと、ある部署は部品が余るのです。だんだん滞貨が溜まって自分のいる場所さえなくなった。そこは人間が余っている証拠で、適当に調整を取りながら誰かが「動き人間」になっていたことが分かったのです。
またある部署は最高の能率を上げても部品が余らないといったように、いろいろな現象が現れた。できた製品を次の工程が必要な分以外出させない、ということで、「働き人間」と「動き人間」の数量化ができたわけです。工場というのは困ったもので、いつでも人員が足らないことばかり言ってくる、どんなにしても人員が余っているとは言わなかったが、こうした方法で初めてそれが分かった。そこで「お前のところは人員が余っている、これだけよそへ回せ」という措置をした。カンバン方式の初めはそれだけだと言われるんです。
これが大野氏がかんばん方式を着想した理由のようです。そしてこれを実行するには各現場が最大の能率を発揮しなければ意味がありません。これが過酷ともいえるトヨタの現場の思想的背景にあると考えられます。
そして人員を減らすことに大野氏がここまで執念を燃やしたのは、50年争議で全社員の1/3に相当する2,146人を解雇せざるを得なかったという経験があったからだと思います。
TPSの目指す姿
こうして大野氏たちがTPSを推し進めていった背景には、当時のトヨタと欧米の自動車メーカーとの圧倒的な規模の違いがありました。1955年にトヨペット・クラウンを発売したトヨタの年間生産台数は、乗用車とトラック合わせて4万6千台でした。対してフォードは当時すでに年間200万台を生産していました。当時トヨタは今よりもはるかに多品種少量生産でした。この時代にTPSはつくられたのです。
① TPSの目的と成立条件
こうしてTPSの成立の経緯から、TPSの目指す姿が見えてきます。
【TPSの目的】
在庫を持たず売れた分だけ、つくる
多品種の製品の効率よく生産する。
【成立条件】
受注の平準化 (毎月決まった量の生産)
② 受注の平準化
実は受注を平準化できるのは以下の要因があるからです。
◆お客を待たせることができる◆
自動車は高額でしかも顧客の趣味嗜好が強く反映される商品です。顧客は気に入ったモデルを入手するために納車が半年先でも待ちます。ですから自動車メーカーはどれだけ受注残が増えても生産能力を簡単には変えません。
ところが他の多くの商品では顧客はそこまで待ってくれません。夏の暑い日にエアコンを買いに行って、気に入ったモデルがあっても納期が3か月先なら他のモデルを買います。その点で自動車は特殊な商品なのです。 (誰もこの違いを指摘しないのは不思議ですが。)
◆売り切る力がある◆
しかもトヨタは全国屈指のディーラー網と強力な販売力があります。そのため他のメーカーと比べて販売量が安定しています。それでも販売が不足すれば、ディーラーに割り当てたり、販売奨励金(値引きの原資)を出して売り切ることができます。しかし車種が少なく、販売網もトヨタほど強くない自動車メーカーでは、トヨタのようには受注を平準化できません。
つまりTPSの本に書いてある「まずは生産量を平準化して」という前提は、製品や市場、販売力に影響されるため、実現は困難な条件なのです。
現場の実情
では、TPSの現場の実情はどのようなものでしょうか。
岐阜大学 准教授 伊原亮司氏は、かつてトヨタの現場で期間社員として働いたことがあり、その経験を「トヨタの労働現場」という本に著しています。
熟練不要な作業
伊原氏によれば、トヨタの現場では作業者の多くが期間社員や派遣社員でした。そして作業に特別な技能は必要ありませんでした。最近は期間社員に加えて派遣社員も増え、生産ラインでは約半数が派遣社員という工場もあります。
「ものづくりは人づくり」と言うコンサルタントもいますが、生産ラインで中心となって働いている彼らは、人づくりの「人」に含まれているのでしょうか?
では熟練が不要かというとそうではありません。厳しいタクトタイム内で作業するには、ものを置く位置、手の位置、動作を最適にしなければ間に合わないからです。高い労働強度と作業に慣れ、時間内にできるようになるまで1か月ほどかかったそうです。そして慣れると何も考えずに作業が出来るようになります。そうなると作業が単純な分、時間が経つのが遅く1日が長くなります。
長期間続けられない作業
作業は簡単でも労働強度は極めて高く、伊原氏が担当した作業は、1サイクル30秒、歩行は1日2万歩(15~17km相当)になりました。製品の箱は10~20kg、これを1日に何十回と持ち上げるため、手や腰に大きな負担がかかりました。作業者の大半は30歳以下でしたが、途中で続けられなくなって退職する期間社員も多くいました。
現場は多くの若い期間社員や派遣社員が順に入れ替わることで、労働強度の高い現場を維持しています。一方、現場の正社員は、年齢が高くなり高い労働強度に耐えられなくなれば間接業務に移動します。
形式化するカイゼン
現場の作業者が自ら作業の問題点を改善する「カイゼン」は日本企業の強さと言われています。トヨタではQCサークルは全員が参加します。残業手当も支払われます。しかし伊原氏は「1日の労働の疲労が激しく、とてもアイデアを出す気にならない」と述べています。それでも正社員の人たちは自らの評価もあるので提案を行っていました。
QCサークルと別に現場に専任の改善チームが来ます。彼らは作業を観察して余裕があればその現場から人を減らします。労働負荷はさらに高まり、時間はタクトタイムに間に合わなくなります。そうした環境下で作業者は、タクトタイムに間に合わせる方法を必死で考えます。
そのため人を抜かれないように改善チームが来ると作業者は意図的に速度を落とすこともありました。
品質について
このように労働強度の高い現場は、作業者が作業に十分に注意を払うことができません。実際に現場では不注意による作業ミスも起きていました。伊原氏の担当ラインは「人を活かす」ために意図的に自働化のレベルを落としセンサーも減らしていたこともあって、作業ミスによる不良品が後工程に流出しました。
一方表向きは標準作業の遵守を言われていましたが、実際の現場ではタクトタイムに間に合わせるために自分独自のやり方を早く身に着けることが求められました。実際に時間のかかる部品はかんばんを無視してつくりだめするなどして間に合わせていました。
トヨタだからできる?
このように労働強度の高い現場は、若い人を期間社員として常に補充できるから成り立っています。しかし中小企業は、現場の作業者は正社員も多く定年まで現場で働きます。しかも若い人を採用するのも容易でないため、トヨタのような高い労働強度を強いるのは困難です。労働強度を上げすぎれば高齢者はついていけず若い社員はいやになって退職します。
カイゼンは、このように高い労働強度の中で、時間に間に合わせるためにアイデアを出させています。そのためそこまで作業者に高い負荷をかけられない中小企業の現場ではトヨタのようなカイゼンは困難です。
また中小企業の多くは、人件費の抑制と人材確保のため、外国人研修生や外国人の派遣社員を活用しています。彼らは若く、技能の習得は早い反面、言葉の問題で十分なコミュニケーションが取れません。そのため作業の細かな注意点やカン・コツが適切に伝わっていない問題があります。実際中小企業の現場では、コミュニケーション不足による不良や事故も起きています。
TPSの広がり
トヨタは国内工場へTPSが定着すると、海外工場や下請けメーカーにTPSを展開しました。
海外工場や部品メーカーへの展開
海外工場へのTPSの展開は、文化や労働慣行の異なるため困難を伴いました。北米のケンタッキー工場は時間をかけてTPSを定着させましたが、イギリスやフランスの工場は、TPSの定着は北米に及びませんでした。
トヨタの一次下請メーカーは1967年の関東自工が導入したのを皮切りに順次TPS導入を行いました。1970年からは下請企業との取引にもかんばんが使われるようになりました。これは一次下請メーカーの生産システムもTPSに変える必要が生じたため、その初期には大野氏、鈴村氏が直接指導にあたりました。こうしてTPSが定着すると一次下請メーカーの生産性は向上しました。
一次下請メーカーに定着したTPSは、一次下請メーカーの協力会を通じて二次下請メーカーに展開されました。一次下請メーカーがTPSに則ってかんばんで生産するようなると、二次下請メーカーもそれに倣って生産する必要が生じたからです。
二次下請メーカーで生産された部品は1日に複数便出るトラックに積まれて一次下請メーカーに送られます。一次下請メーカーでその日に組み立てられ、トラックに積まれて翌日にはトヨタの生産ラインに投入されます。
この仕組みが順調に回るには、二次下請メーカーからトヨタまで、不良や設備の故障がなく、滞りなく生産できなければなりません。そのためには継続的なカイゼンが求められ、必要であればトヨタから人材が送り込まれます。こうしてTPSの仕組みの中で滞りなく順調に生産ができれば、下請企業は多くはないけど安定した利益が得られます。
TPSコンサルタント
日本企業の中でもトヨタが売上、利益率とも際立ってくると、その秘訣としてTPSが知られるようになりました。そして企業にTPSを指導する方たちが増えました。このTPSのコンサルタントは3つに分類できます。
① トヨタ、又はトヨタのグループ会社で直接TPSに従事したグループ
② 書籍や研修を通じてTPSを学んだグループ
③ TPSを独自に解釈してオリジナルな手法に発展させたグループ
例 リーン生産方式(ジェームズ・P・ウォマック)
欧米や中国企業は、TPSを①②の指導者から学ぶより、③のリーン生産システムとして学ぶことが多いようです。かんばん、自働化など固有の手法のみが取り上げられ、システムとして体系化して理解するのが難しいTPSよりも、システムとして体系化されたウォマック氏らのリーン生産システムの方が彼らには理解しやすい点もありました。
また①②の指導内容は様々で、トヨタのやり方に忠実に従う指導者もあれば、TPSをより発展させセル生産などを指導する指導者もいます。いずれの指導者も
「トヨタのやり方は正しく、TPSを正しく実行すればムダが減り生産性は向上する」
ことに疑いは持っていません。
しかしTPSの目指すところは
「在庫を持たず売れた分だけつくる」
「多品種の製品の効率よく生産する」
ことです。そしてTPSが成立するためには
「受注の平準化」
が不可欠です。
トヨタ生産方式と海外の自動車メーカー
マサチューセッツ工科大学(MIT)教授のジェームズ・P・ウォマックは、アメリカの自動車メーカー、部品メーカー、政府からの資金で日米の自動車メーカーの開発、生産、販売まで幅広く特徴と競争力を分析しました。その結果、トヨタの生産方式を「リーン生産方式」と呼び、その特徴をまとめました。そして日本メーカーの「リーン」な仕事のやり方は、生産だけでなく、開発や販売にも見られ、日本企業の強さの秘訣となっていることを示しました。
1980年初頭の欧米の自動車メーカーは、日本と比較してモデルサイクルが10年と長く、車種は少なく、日本より大きい生産規模でした。そのため高価な大型の設備を使用し、できるだけ生産効率を高める考えでした。そのためには「設備を止めずに」生産を続けることが必要で、時には多くの欠陥のある車ができていました。完成品置き場には欠陥を手直しするために大勢の作業者がいました。当時のアメリカやヨーロッパの自動車工場は工場面積の20%、製造時間の25%がこうした欠陥の修正に費やされていました。
使用する部品はすべてGMやフォードの技術者で設計され、部品は厳密に仕様と価格が決められていました。サプライヤは競合より少しでも安ければ受注できました。こういった敵対的なメーカーとサプライヤの関係に対し、トヨタではトヨタと一次サプライヤの関係は協力的でした。トヨタは必要な機能や価格、仕様を決定するだけで、詳細な設計はサプライヤが行っていました。その結果トヨタはGMやフォードに比べて大幅に少ない設計者で開発していました。
仕掛品を徹底的に少なくするTPSは、不良が発生すれば直ちに原因を突き止めて対策します。しかしGMはプレスの金型交換に1日かかり、工場には遠方から貨車で運ばれたボディのプレス部品が大量に在庫されていました。もし不良が見つかればその対処には気が遠くなるような作業と時間が必要でした。
GMやフォードの大量生産体制は販売にも影響しました。メーカーは、需要とは無関係にディーラーに「計画通り」に生産した車を「押し込み」ます。大量に車を仕入れたディーラーは広大な敷地に車をストックし、訪れた顧客に少しでも利益が上がる車をなんとかして売ろうとします。歩合制のセールスマンは、少しでも高く売ろうと、顧客に対しあの手この手でより利益の高い車やオプションを強引に売り込みました。かくして多くのアメリカ人にとって自動車ディーラーは「一番行きたくない場所の一つ」となってしまいました。
こういった大量の在庫販売は、在庫があるために需要が変動しても生産調整が遅れるので、むしろ生産量を大きく変動させます。日米の自動車メーカーの生産台数の変動を比較すると、アメリカの自動車メーカーは日本メーカーよりも大きく変動していました。
そのためアメリカの自動車メーカーは景気の変動に応じて頻繁にレイオフを行っています。(ただしレイオフ中は失業給付があり、生産量が戻れば復職できるため、日本の人員整理とは異なります。)
対して日本では顧客は自分の欲しい車の色やグレードを選ぶと、ディーラーはメーカーに注文を入れます。2週間後には顧客の元に注文した仕様の車が届けられます。これは完成車の在庫がないだけでなく、生産工程の仕掛品も極めて少ないためです。(2020年以降は新型コロナの影響で納期が非常に長くなっていますが。) 一方日本メーカーも海外に輸出する際は、国内のような対応はできず、売れ筋を絞って見込み生産しています。
このようにTPSは販売の仕方も大きく変えました。
日本郵政の問題
2002年郵便事業の民営化に先立ち、日本郵政公社は副総裁に元トヨタ常務の高橋俊裕氏を迎え、郵便事業改革の目玉としてTPSの導入を決定しました。モデル事業所として埼玉県の越谷郵便局が選ばれ、トヨタから人材が送りこまれ、2003年にはカイゼン活動は全国の郵便局に展開されました。日本郵政公社の生田総裁はカイゼンによる生産性向上で職員28万人を1万7千人削減すると発表しました。
実際はカイゼンで工数が削減される前に人員削減が先行しました。職員の負荷は増大し、事故や過労による休職、サービス残業、自爆営業など多くの問題が発生しました。様々な問題が起きた後、2006年には越谷局のカイゼンは有名無実と化しました。
大野氏はトップダウンで強制的にトヨタの現場を解体しTPSを定着させました。その後の世代はすでにTPSが定着した現場をカイゼンしました。日本郵政にTPSを導入した人々は日本郵政という巨大の組織の現場を解体するという意識はあったのでしょうか。そして生産の平準化を前提としたTPSという処方箋は、季節や日により変動する郵便事業に対して正しかったのでしょうか。
中小企業にとってのTPS
実はトヨタ系列の下請部品メーカーにとってもTPSの浸透と徹底は容易ではありませんでした。
TPSの徹底の困難さ
そしてTPSが徹底されない時、指導する側は
「トップの決意が不十分」
「リーダーの取組姿勢」
「不十分なカイゼン意欲」
と精神論を原因にします。
しかしトヨタでも大野氏らが強権を発動して現場を解体し、今までのやり方を強引に変えてきました。1か月に数回訪れる社外の人間が、例え大野氏のように怒鳴り圧力をかけたとしても中小企業の現場を解体できるでしょうか。
トヨタでは最も作業の早い人の時間をタクトタイムに設定します。作業者は強制的にタクトタイムで作業をさせられ、無理を強いられることでカイゼンのアイデアを引き出します。その一方でカイゼンチームは現場を観察して、人を減らします。トヨタでこうした無理を引き受けるのは、変更に反対できない期間社員や派遣社員です。しかし中小企業の現場には多くのベテラン社員がいて、無理を強いれば強く反発します。
TPSが機能するためには生産の平準化が必須条件です。そしてトヨタでは二次下請け、三次下請も部品の発注は平準化されています。例えば内装部品は、同一車種であってもグレードや色によって非常に多くの種類があります。二次、三次の下請に発注される部品は、比較的量が少なく品種が多く手間のかかる部品もあります。それでも発注量が安定しているので、下請企業はかんばんに従い効率よく生産できます。これはトヨタが生産の平準化を最優先している結果です。
同じ自動車メーカーでも車種が少なく販売力の劣るメーカーは、生産の平準化が不十分なため下請けへの発注は大きく変動します。
奪われる体力
トヨタはこれまで下請企業の提案によりコストダウンした場合は、価格は1年据え置かれ、その間のコストダウンは下請企業の利益になります。受注側と発注側の双方でアイデアを出してコストダウンをした場合は、コストダウンの果実(利益)は双方で均等に分け合います。しかし最近の単価切り下げの圧力は強く、サプライチェーンの末端まで考えると、こういった紳士協定がどこまで遵守されているのかは不明です。
トヨタは1994年には円高緊急対策として3年間で15%のコストダウンを目標としました。2000年から3年間で30%、2005年から3年間で15%、2009年から再び30%を目標にしました。もし1994年から同じ部品を2009年まで生産した場合、価格は85%×70%×85%×70%=35%、1994年の35%、15年間で65%のコストダウンが必要になる計算です。もし製造方法を変える、材質を変えるといった改善で65%のコストダウンができなければ、実質的には値下げの強要になってしまいます。
強いコストダウン圧力のため下請部品メーカーは人件費の削減を進めました。作業者を正社員から派遣社員、外国人研修生へと切り替えてきました。それでもわずかしか利益が残らなければ、下請企業の体力は徐々に奪われていきます。利益が少なければ、設備の更新や人材の採用もできません。リーマンショックのような不況が起きれば当座の資金確保のため借入を行います。その後は返済の負担が重くのしかかります。
トヨタの仕事しかできない会社へ
TPSはトヨタの車づくりに最適化したシステムです。トヨタから安定した受注がある下請企業は、TPSの導入により在庫は減少し生産性は向上します。トヨタのコストダウンは厳しく大きな利益は望めませんが、それでも安定した利益が持続します。
こうしてTPSが浸透した工場は、それゆえ他の業界に適応できなくなります。あるいは適応しようとすると相応のコストがかかります。TPSの浸透しているトヨタ系列の二次、三次の下請け部品メーカーは、完成品在庫は半日程度、1日4便のトラックがその日に運んだ部品は、翌日には一次下請け、その翌日にはトヨタで完成車に取り付けられます。
しかしトヨタ以外の自動車メーカーは、受注がトヨタほど平準化されていないため、指示納入という形で日々の生産数が大きく変動します。そのため納期に間に合わせるためにはある程度の在庫が必要でした。
他の業種へのTPSの展開
他の業種では自動車のようにお客を待たせることができる商品は限られています。大抵は需要に合わせて増産、減産を繰り返します。こうした業界に平準化を前提としたかんばんを導入すれば現場は大混乱になります。そして「TPSはもういいや」となります。
また「誰でもできる仕事」を高い労働強度で作業者に強要できない業種もあります。また受注の変動を吸収するために、ある程度人の余裕が必要なこともあります。品種が多くて、しかも不良を自動的に検出の仕組みがなければ、不良を出さないように作業者には高い注意力が必要です。こういった現場で作業者に厳しいタクトタイムを強要すれば、品質問題が多発します。
日本郵政公社は、量が変動する郵便物に柔軟に対応するため人の余裕をどのように想定していたのでしょうか?改善チームが観察し時間測定で決定した現場の人員は、量の変動も含めて適正だったのでしょうか?
本コラムは未来戦略ワークショップのテキストから作成しました。
参考文献
「ムダのカイゼン、カイゼンのムダ」 伊原亮司 著 こぶし書房
「トヨタの労働現場」 伊原亮司 著 桜井書店
「リーン生産方式が世界の自動車産業をこう変える」ジェームズ・P・ウォマック 他 経済界
「指導者の条件」山本七平 著 文芸春秋
経営コラム ものづくりの未来と経営
人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中
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「家電から自動車へ、中国企業の競争戦略」 ~戦略的市場攻略と異質競争の徹底~
2017年には、年間販売台数2,888万台と世界最大の自動車市場となった中国、生産台数も2017年は2,901万台と世界一です。では、中国の自動車メーカーはどのようなメーカーがあり、彼らはどのような戦略で事業を拡大してきたのでしょうか。
中国企業の特徴と競争戦略について考えます。
中国自動車メーカーとその特徴
中国の自動車メーカーはその成り立ちと規模から3つのグループに分けられます。
- 第一グループ
- 第二グループ
- 第三グループ
国有自動車メーカーを母体としてビッグスリー 年間生産台数200万台以上
上海汽車、東風汽車、第一汽車
年間生産台数 100~200万台の中位グループ
長安汽車、北京汽車、広州汽車
年間生産台数100万台以下の地方メーカー
奇瑞汽車、吉利汽車、長城汽車、比亜迪汽車(BYD)
![図1 中国企業と外資との関係](https://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2021/03/zu01-1024x837.png)
図1 中国企業と外資との関係
第一グループ
上海汽車 (SAIC MOTOR)
地方政府が所有する国有企業で中国最大の自動車完成車メーカーで2017年度の販売台数は691万台、中国での市場シェアは23%です。提携先はVW、GM、ボルボです。販売台数は、上海VWが206万台、上海GMが199万台です。従来は自社ブランドの販売は消極的でしたが、近年は「栄威」などの販売台数が52.2万台と大幅に伸び、自主ブランドの比率が高まっています。2017年の輸出は17万台で中国自動車メーカーのトップでした。
![図2 2016年中国国有六大自動車集団の販売台数順位](https://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2021/03/zu02.png)
図2 2016年中国国有六大自動車集団の販売台数順位
東風汽車(ドンファンモーター)
1969年に湖北省十堰で建設された「第二汽車製造廠」を前身とした国有企業で、現在はプジョー・シトロエン、ルノー、日産、ホンダと合弁しています。販売台数は2016年は428万台で市場シェアは14.5%です。一方自社ブランドの販売は振るわず課題となっています。
第一汽車(ファーストオート)
東風汽車、長安汽車と並び、中央政府傘下の三大国有自動車企業の一つで中国自動車業界の老舗です。販売台数は2016年は315万台で、内訳は一汽VWが190万台、一汽トヨタが66万台です。一方自社ブランドの販売は振るいません。計画経済時代の官僚主義的な面が強く残っています。
第二グループ
長安汽車(チョウアンオート)
前身は150年の歴史を持つ中国最大の兵器工場で1953年に自動車の製造に参入し「長江」というブランドのジープの生産を開始しました。販売台数は2016年は305万台で、フォード、マツダ、プジョー・シトロエン、スズキと提携しています。一方自社ブランドにも力を入れ、112万台を販売しました。EVに力を入れ2020年には24万台/年を生産する計画です。
北京汽車(ペキンオート)
1958年に北京で設立された歴史のあるメーカーで、現代とダイムラーと提携し、2016年の販売台数は285万台です。EVの販売に力を入れ2017年のEVの販売台数は10万台、EVのシェアは24%です。また燃料電池車の開発にも取り組んでいます。
![図3 2017年中国市場新エネルギー車販売上位メーカー
(出所:第一電動汽車網)](https://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2021/03/zu03.png)
図3 2017年中国市場新エネルギー車販売上位メーカー
(出所:第一電動汽車網)
広州汽車(グアンジョウオート)
1997年6月に広州の自動車関連企業がまとめられ、2005年に広州市で今日の形の企業として設立された地方政府傘下の大手企業です。提携先はホンダ、トヨタ、三菱、フィアット・クライスラー、日野です。2016年の販売台数は185万台で市場シェアは7%です。EV、プライグインハイブリッドや自社ブランドにも力を入れています。
第三グループ
吉利汽車 (Geely Automobile)
浙江省出身の李書福氏が1980年代に金属加工業として創業し、1990年代にオートバイ生産に参入し、1990年代半ばには20万台規模のメーカーに成長しました。1998年に自動車の生産に参入しましたが、外資とは提携せず、最初はダイハツ シャレードのコピーを生産していましたが自社ブランドの成長とともに規模を拡大し、2016年の販売台数は80万代、それが2017年には130万台と急成長を遂げています。当初は天津トヨタからエンジンを購入していましたが、安価な地場メーカーに切り替えるなど価格競争力を重視しています。
奇瑞汽車 (Chery Automobile)
安徽省の投資会社が出資して、スペインSEATの工場設備を買い取って設立された自動車メーカーで、一時期上海汽車集団に属していましたが2004年に独立しました。2017年の販売台数は67万台です。
中国最大の自動車メーカーは上海汽車ですが、その台数のほとんどが外資との合弁です。そのため、メーカー別の生産台数のランキングでは、上海汽車の生産台数はフォルクスワーゲンとGMにカウントされます。中国の第一グループ、第二グループのメーカーは自社ブランドの割合が少なく、自社ブランドの構築や製品開発力に弱い点があります。表1に中国メーカーの生産台数とブランドの内訳を示しました。
一方第三グループは自社ブランド主体であり、中国市場が大きいため、国内で7位以下でもある程度の規模があります。図4に外資ブランドの生産台数を除外した自社ブランドの生産台数の大きさ順に並べたものを示します。またマツダ、スバル、三菱など生産台数の少ない日本メーカーを比較のために入れました。こうしてみると、外資ブランドを除けば、中国メーカーの実力は日本の規模の小さい自動車メーカーと同等と考えられます。
表1 2017年中国メーカーのブランド別の販売台数
メーカー | 台数 | ブランド | 台数 |
上海汽車 | 691 | VW | 206 |
GM | 404 | ||
自社他 | 81 | ||
東風汽車 | 412 | ニッサン | 111 |
ホンダ | 72 | ||
PSA | 37 | ||
ルノー | 7 | ||
自社他 | 181 | ||
第一汽車 | 334 | VW | 190 |
トヨタ | 66 | ||
自社他 | 78 | ||
長安汽車 | 287 | フォード | 82 |
マツダ | 19 | ||
自社他 | 186 | ||
北京汽車 | 251 | 現代 | 80 |
ダイムラー | 41 | ||
自社 | 130 | ||
広州汽車 | 200 | ホンダ | 70 |
トヨタ | 45 | ||
三菱 | 10 | ||
自社他 | 75 | ||
吉利控股 | 130 | ||
長城汽車 | 107 | ||
華晨汽車 | 74 | ||
奇瑞汽車 | 67 |
![図4 2017年中国メーカーの自社ブランド(商用車を含む)
の販売台数](https://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2021/03/zu04-1024x836.png)
図4 2017年中国メーカーの自社ブランド(商用車を含む)
の販売台数
自動車産業の特徴
政府の保護
自動車産業は車体、エンジン、タイヤなど幅広い製品から構成され、そのすそ野は非常に広く、1国の経済に非常に大きな影響を与えます。そのため、各国とも自国の自動車産業を育成するために外資の参入規制など保護政策を取っています。日本も1950年代は海外メーカーの輸入に対し規制をかけ、当時は競争力のなかった国内メーカーを保護していました。
中国も同様に外資単独での進出は認めず、進出は出資比率50%の合弁が条件です。また外国からの輸入には規制がかけられています。同様の保護政策は他の国も同様で、比較的市場規模の大きいロシアやブラジルなども海外メーカーに対して関税の引き上げや一定量の国産化の要求を行っています。そのため海外進出を図る中国メーカーは完成車輸出からノックダウン生産へと転換を図っています。
自動車生産の特徴
自動車は完成車メーカーにとって、原価の構成のうち、人件費は8%前後に過ぎず、原価の約80%は購入部品や素材です。つまり車体生産に関しては、人件費の安い国で生産するメリットはそれほど大きくありません。
一方原価の80%を占める部品の原価は部品メーカーの人件費によって決まるため、部品メーカーも含めて人件費の安い国で生産すれば、完成車の価格は安くなります。
生産拠点としての中国は、今までは豊富な労働力と安い人件費による低コストが魅力でした。一方生産設備は、中国製の価格は日本製の1/3程ですが、従来は性能が低く、自動車の製造に必要な大型プレス機、大型射出成形機、ロボット、ピストンリング研削盤などは日本製を使用する必要がありました。また素材も、高張力鋼板、亜鉛メッキ鋼板、ばね用鋼などの金属や、ポリカーボネートなど一部の樹脂は中国国内で良質なものの入手が困難でした。(2005年) ただし、素材に関しては現在はかなり改善されているようです。
サプライヤーとの関係
自動車の開発には、ランプ、メーター、シートなど様々な部品の開発も必要です。自動車メーカーは、部品メーカーに対して設計コンペなどを行い、サプライヤーを選定します。選定されたサプライヤーは自社が開発費を負担して部品を開発し、車体メーカーに納入します。ただし金型の費用は部品の価格に上乗せして車体メーカーが負担します。同様にこの部品メーカーに部品を納入する協力会社は、自社で部品の製造方法や治工具を工夫して量産体制をつくります。そして一旦サプライヤーが決まると、そのモデルの生産中は、車体メーカーは部品メーカーを変えることはありません。
中国の自動車メーカーはサプライヤーとの契約は通常1年で、基本的には2社以上の複数購買で、その調達価格は競争入札で決定します。また契約期間の途中でも調達比率を変えたり契約を打ち切ったりします。オートバイメーカーはもっと極端で各サプライヤーから購入する比率を1、2か月に1回変更します。これにより極めて低コストでの製造を実現しました。中国の二輪市場ではホンダはコスト面でコピーメーカーに勝てず、コピーメーカーと手を組むことになりました。
日本の部品メーカーは車体メーカーの採用が決まれば、発注は保証され転注のリスクもないので、安心して開発費をかけて部品を開発できます。対して中国の部品メーカーは常に転注のリスクがある半面、部品メーカー自体あまり開発投資に費用をかけません。また転注されても他の車体メーカーが買ってくれるため複数発注もそれほど問題としていません。
結果、中国市場では様々な車体メーカーの部品が市場にあり、それらを組み合わせれば低コストで自動車をつくることができます。さらに吉利の車は、顧客は吉利エンジンと天津トヨタのエンジンを選ぶことができます。その意味で、中国市場においては、自動車はすり合わせ製品でなく、疑似モジュラー製品と呼べるものです。
![図5 部品メーカーの競争と開発への関与の関係](https://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2021/03/zu05-1024x732.png)
図5 部品メーカーの競争と開発への関与の関係
模倣問題
中国においては特許、意匠など知的財産権は軽視されています。自動車においては、当初、国有企業の間では開発の成果は無償で移転されていたことも背景にあります。また外国企業との合弁を行わない独立系の自動車メーカーは、当初は自社で開発するほどの技術力を持たないため、海外メーカーを模倣し低価格で販売することで、高価な外資系の車に手が出ない層を顧客に取り込んで発展しました。その点でこれまでの中国市場は品質は良いが高価な外資系の車か、低価格だが品質もそれなりの地場メーカーの市場しかなく、その中間の価格帯はありませんでした。
一方合弁メーカーも頻繁にサプライヤーを変えるために、これらのサプライヤーの高品質な部品を地場メーカーも入手することができ、模倣メーカーといえども一部には本家と同じ部品を使うこともあります。その上で、低品質や低いブランド力を補うだけの低価格を実現するために、過剰な品質を排除し、中国の顧客のニーズに合った車を作っています。
中国メーカーの輸出と海外進出
中国自動車メーカーの輸出は、2005年には16万台に達し、輸出台数が輸入台数を初めて上回りました。その後2年間で年々倍増し、2007年には112万台に達しました。しかしリーマンショックにより急減しましたが、その後回復し、2018年も104万台でした。
中国政府の政策
中国政府は1990年代末から輸出の促進と中国企業の海外進出や投資を促す「走出去」方針を打ち出し、2002年の共産党大会で国家戦略の1つに位置付けられました。その結果、輸出や海外進出に加えて、中国企業が外国企業を買収し、技術やブランド力を補完する事も行われています。2010年には吉利汽車はボルボを買収し、2017年にはイギリスの名門ロータスを傘下に持つマレーシアの自動車メーカープロトンを買収しました。
海外進出する中国メーカー
中国の自動車メーカーは、3つのグループに分かれ、異なった背景があります。
- 第一グループ
- 第二グループ
- 第三グループ
国有自働車メーカーを母体としてビッグスリー 年間生産台数200万台以上
上海汽車、東風汽車、第一汽車
年間生産台数 100~200万台の中位グループ
長安汽車、北京汽車、広州汽車
年間生産台数100万台以下の地方メーカー
奇瑞汽車、吉利汽車、長城汽車、比亜迪汽車(BYD)
この中で第一グループのビッグスリーは、巨大な国内市場において十分なシェアがあり、生産規模も大きく十分な利益があります。中央政府、地方政府からの支援もあり、官僚的な体質から海外進出には消極的です。また主力商品が海外メーカーとの合弁車種のため、輸出は合弁先のメーカーとの関係から困難という課題もあります。
第二グループの長安汽車、北京汽車、広州汽車も中国国内に一定のシェアを確保しているため、「機会があれば進出するが、積極的には進出しない」というスタンスです。
第三グループの奇瑞汽車、吉利汽車、長城汽車、比亜迪汽車(BYD)は、模倣からスタートした地方メーカーが多く、外資と合弁している大手メーカーほどの技術力がなく、品質もそれほど高くありません。一方ビッグスリーなど政府の庇護下にあるメーカーに対して、第三グループの企業は、中国市場で成長しようとしても政府の規制ため容易でなく、海外に市場を求めざるを得ませんでした。一方過剰な品質を廃し、徹底した低価格は新興国のニーズに応えるものでした。
こうして第三グループのメーカーは新興国市場、特に世界の強豪自動車メーカーが見落とした市場に焦点を当てて輸出を開始しました。
中国自動車メーカーの立地戦略
立正大学教授 苑志佳氏によると、中国自動車メーカーは、市場を4つのタイプに分けて戦略を立てていると述べています。
【サボテン市場】 (北欧市場)
〈丈夫で鑑賞性が高いが触ると針に刺される〉
- 参入ハードルが高いのに市場の潜在発展力が小さい
- 法的規制が厳しく安全や環境基準も厳しいので今の中国企業にはハードルが高すぎる
【フグ市場】 (アメリカ、ヨーロッパ、日本)
〈絶品の食材だが、処理を誤ると毒を食べてしまう〉
- 参入のハードルは高いが、市場の潜在力もかなり高い
- 将来攻略したいが、現時点での参入はかなり困難を伴う
【竹の子市場】 (アフリカ、南米、東南アジアの途上国)
〈素材はおいしいが旬が短い〉
- 参入ハードルは低いが、市場規模も小さい
【ジャガイモ市場】 (ブラジル、ロシア、インドなどBRICs)
〈安価でカロリーが取れる〉
- 参入ハードルが低く、市場の潜在的成長性が高い
- 中国市場に類似しており、まずここを攻略する
表3 中国自動車メーカーの海外進出
長城汽車 | 吉利汽車 | ||
2006年 | ロシア | 2004年 | ガーナ |
2006年 | ベネズエラ | 2005年 | マレーシア |
2008年 | インドネシア | 2006年 | ウクライナ |
2008年 | ウクライナ | 2006年 | メキシコ |
2009年 | ベトナム | 2006年 | ロシア |
2010年 | フィリピン | 2012年 | ウルグアイ |
2011年 | セネガル | 2013年 | エジプト |
2011年 | マレーシア | ||
2012年 | ブルガリア | ||
2012年 | イラン | ||
奇瑞汽車 | 力帆汽車 | ||
2003年 | イラン | 2002年 | ベトナム |
2004年 | ガーナ | 2007年 | ロシア |
2004年 | ロシア | 2010年 | エチオピア |
2005年 | ウクライナ | 2010年 | アゼルバイジャン |
2005年 | エジプト | 2010年 | ウルグアイ |
2006年 | インドネシア | 2010年 | イラク |
2007年 | アルゼンチン | ||
2008年 | マレーシア | ||
2009年 | ウルグアイ | ||
2010年 | ブラジル | ||
江淮汽車 | |||
2011年 | ブラジル |
そして最初は輸出から始めて市場が拡大すれば、ノックダウン生産に移行し、台数が増え、輸入規制などを受けるようになれば現地進出に切り替える戦略です。しかし現在海外進出に踏み切った中国企業の多くは、ノックダウン生産や委託生産方式が多く、本格的な現地生産のようなリスクを取らない戦略です。そして現地生産を行う場合は、より大きな市場を攻略するための足掛かりとして行っています。例えば、奇瑞汽車はアルゼンチン企業Socma者と合弁でウルグアイに合弁事業を立ち上げましたが、それはブラジル、アルゼンチンなど巨大な南米市場への足掛かりとするためでした。
異質競争を徹底する中国企業
中国企業が海外進出する場合、自社の技術力や商品力を競合と比較・検討して、競合が有利となるような場を避けて、別の場で競争する異質戦略を徹底しています。自動車の場合、現時点では先進国市場で日本や欧米の自動車メーカーと競争すれば勝ち目はないと認識しています。そして先進国の自動車メーカーが苦手とする、あるいはマークしていない新興国市場を攻略しています。
そのような市場は、中国市場の顧客のニーズに合わせた商品、つまり乗り心地や燃費などの性能ではかなわないが、見た目が良く、そこそこ使えて、圧倒的に価格が低いという特徴を生かして、先進国メーカーの自動車を買えない層を取り込んでいます。
家電製品では、こうして見た目が良い二流品を生産している間に、自社の生産技術や製品の要素技術が進歩し、見た目が良い1.5流品になりました。しかも先進国の製品は価格に見合った付加価値を加えることができず、性能は良いが価格も高く、しかも使わない機能ばかりの製品になってしまいました。そうして価格の違いと製品の価値の違いの差が逆転した時、日本製品は先進国市場ですら、シェアを失いました。
これは、最初は競合になりえない性能の低い製品が、次第に性能を高めて、対してより上のクラスの製品の性能が顧客のニーズを追い越してしまい、価格に見合った価値を提供できなくなり、敗者となってしまう状態です。これは上のクラスのメーカーがより良い製品を作ろうとすればするほど、敗因となってしまうイノベーションのジレンマです。
日本企業の戦略
中国企業の戦略的な提携1 ホンダ
1990年代ホンダは中国で上海汽車、チャイタイグループ、嘉陵工業、広州摩托の4社と提携し、合弁企業を立ち上げました。しかし母体が国有企業の合弁企業は、意思決定にスピードが欠け、価格面でもコピーメーカーに勝てずシェアは徐々に低下しました。見かねたホンダは、ホンダのCG125のコピー車を生産している海南新大洲摩托車と提携しました。同社はオリジナルブランド「SUNDIRO」も持ち、合わせて60万台/年を生産していました。このSUNDIROの価格はホンダの半額でした。
自社の知的財産を侵害する敵の海南新大洲と組むことで、ホンダは、安くつくることに関して、妥協を許さない徹底したシステムを学びました。海南新大洲は、モデル毎の販売台数を毎日集計し、その台数を元に毎回数量や納期をサプライヤーに提示するなど、徹底的に安く購入する仕組みを作り上げていました。部品のつくり方も品質にこだわるホンダでは考えつかないようなつくり方をしていました。
工作機械も中国製のレベルが上がったため、新大洲本田の新工場は、工作機械は中国製、射出成形機は台湾製です。サプライヤーとの交渉は新大洲のやり方を導入し、その中でホンダの品質の考え方や作業標準を導入しました。部品は、新大洲のサプライヤーの中からホンダ基準をクリアした部品だけを受け入れ、性能面や品質面でホンダ基準をクリアできない部品は純正品に置き換えました。そして新大洲の製品にホンダブランドをつけること認めました。新大洲の工場は、160万台/年の生産能力と日本品質の工場に変わりました。
2002年にはスクーター「Today」を製造し、日本に輸入、94,800円で販売し大ヒットしました。
中国企業の戦略的な提携2 ダイキン
ダイキンは、インバータ型が主流の日本のエアコン市場でシェア1位です。このインバータ技術は30年以上も前に開発された技術ですが、海外、特に家庭用エアコンでは価格が高いため、ハイエンド市場で一部出回っている程度でした。つまり日本のガラパゴス市場で育った技術・製品でした。
1994年にダイキンはインバータ型エアコンで中国の家庭用エアコン市場に参入しましたが、低価格なノン・インバータ型エアコンが主流の中国では苦戦していました。そこでダイキンは単独での攻略を断念し、中国企業と中国政府に協力する事にしました。
当時中国の家庭用電力消費の大半はエアコンでした。急増する電力需要とそれに伴う原油など資源の輸入の急増が課題であった当時の中国では、エアコンの消費電力削減は大きな課題でした。中国政府は省エネ推進策を打ち出し、高効率型エアコンの普及を推進、低効率なノンインバータ型エアコンの販売停止や高効率機種への販売補助金支給などの政策を打ちました。しかしインバータ技術は当時日本独自の技術で、中国企業である格力などにはありませんでした。ダイキンは、省エネにはインバータ技術が有用であることを中国政府に働きかけました。
そして2008年に中国最大のエアコンメーカー 格力と業務提携し、2009年には合弁会社を設立しました。そして格力の部品調達力・生産力のスケールメリットを活かし、低価格なインバータ型エアコンの製造ノウハウを獲得し、大幅なコスト削減を実現しました。
これにより2008年度6%程度だった中国のインバーターエアコンの普及率は、2013年には60%にまで膨らみました。ダイキンは1%未満のシェアだった中国の家庭用エアコン市場で10%以上のシェアを獲得しました(2012年)。ダイキンの2013年度の中国事業は2875億円(その8割は業務用)と、ダイキンの空調事業の18%を占め、利益率も20%と空調事業全体(約9%)を大きく上回っています。中国の一部の消費者の間には、「格力製のエアコンでも中には『ダイキンが入っている』」と言われ、評価されています。
ダイキンの2014年度の日本向け160万台のうち、90万台を滋賀工場、45万台を格力に委託生産し、25万台を蘇州工場で生産する計画です。2013年度は滋賀工場が95万台、格力への委託が75万台で格力への委託が減少したのは円安により一部製品の生産を国内に変えたためでした。
これに対して以下のような意見が日本のマスコミや産業界からありました。
「ダイキンが取った選択でいくつかの疑問が存在する。まず、なぜダイキンは単独で展開する道を選ばなかったのか。中国政府が省エネ化を推進したことでインバータ型エアコンが普及することは見えており、インバータ技術を持たない格力電器等の中国勢に変わってトップシェアをとるチャンスがあったはずである。
2つ目の疑問は、なぜ格力電器との提携でコア技術であるインバータ技術を提供してしまったのか、である。成熟した技術とはいえ、インバータ技術はダイキンにとってコア技術である。そのコア技術を格力に提供してしまったことで技術を流出させてしまった、という懸念はある。」(ITメディアより)
これについては中国企業との提携はダイキン内部でもかなり議論があったようです。しかし現実に世界のエアコン市場は年間7.7億台、その23%を格力、17%を美的が抑えています。(2015年) 格力だけで年間1.7億台を生産しています。対して日本の国内市場は900万台しかなく、それをダイキン、パナソニック、富士通ゼネラル、東芝、日立、三菱電機の6社で分け合っています。もしダイキンがやらなければ、他のメーカーが格力や美的にインバータ技術を供与するかもしれません。その方が、ダイキンにとっては、はるかに脅威でした。
![図6 世界のエアコンメーカーのシェア](https://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2021/03/zu06-1024x770.png)
図6 世界のエアコンメーカーのシェア
中国自動車市場は、まだ早朝期
2018年11月4日から8日まで、中国の深圳と湖南省株洲市を訪問しました。
![図7 深圳の街並み](https://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2021/03/zu07-1024x768.jpg)
図7 深圳の街並み
本格的な大衆車の普及はこれから
深圳、株洲市を訪問して感じたのは、高級車が日本以上に多いことでした。これは日本でいえば、まだ車が庶民にとって高価な時代と考えられます。つまり、大衆車市場はこれからです。2,888万台という数に圧倒されますが、日本の車の所有台数は1,000万台、人口比で考えれば10人に1台です。中国が日本並みになれば、車の数は1.3億台、年間販売台数5,000万台になります。
一方それだけの車を走らせる道路や駐車場のキャパがなく、車の所有や乗り入れが規制されているため、日本のようにモータリゼーションが急速に進展するかどうか不明です。もし日本のように大衆車の普及段階に入れば第三グループの低コストな車が大きなシェアを取ることも考えられます。
![図8 EVタクシー](https://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2021/03/zu08-1024x738.png)
図8 EVタクシー
しかし中国自動車市場は急ブレーキ
ここに至って好調な中国自動車市場は急減速し、2018年9月から10月は2か月連続で2桁のマイナス成長を記録しています。これには米中貿易摩擦に端を発した中国株価の低迷や景気の減速が影響し販売店の在庫水準も警戒水準50%を超えて10月には60%以上に達しました。
この影響で外資と提携せずブランド力の弱い第三グループのメーカーが苦境に陥っています。この苦境から脱するためにEVへの注力を高めたり、政府へ補助金や減税などの購入支援の要請も行っています。今後は、工場の稼働率を維持し在庫を減らすために大幅な値引き販売に走る可能性もあります。
このように自社ブランドが苦戦する原因は、大衆車市場が十分に形成されておらず、自動車の購入は富裕層であり、価格よりもブランド価値に重きをおくためと考えられます。さらに都市部ではナンバーの取得の制約が多く、所得に多額の費用が掛かるため、中国ブランドの価格と外資メーカーの価格の差が問題にならない点もあります。そして株価の低迷や景気減速による富裕層の所得の減少が自動車販売に直結したためと考えられます。
一方、かつて中国では、家電などではこういった環境の変化に際し、中堅メーカーが価格戦争を仕掛け、中小メーカーを淘汰し、寡占化した歴史があります。こうして美的やハイアールは中国のトップ企業に上り詰め、世界へと飛躍していきました。独自商品が弱い第一、第二グループの自動車メーカーは海外販売に制約があり、また巨大な国内市場があるために、海外へ打って出る必然性がありません。一定の規模がなければ生き残れない自動車業界では、第三グループの中から独自商品を持ち、新興国市場やBRICS市場で力をつけた企業が、第二、第三の格力や美的にならないとも限りません。
技術はいずれコモディティ化する
優れた日本の技術とマスコミではよく報道されます。しかし技術は必ず流出し、自社だけで秘匿することはできません。特許を取れば技術内容は公開され、競合は特許の明細書を読み、その特許に抵触せず、その技術を凌駕する方法を考えます。また技術は製造設備や素材メーカー、顧客など様々なルートを通じても伝搬します。
第一画期的な発明の歴史を振り返ると、そのような発明は同時期に同じ発明をした人が何人もいます。つまり「誰も考えていないアイデア」はおそらく存在しません。コカ・コーラのレシピは問題不出ですが、ペプシをはじめとして他のメーカーもコーラを作っています。つまり厳重に管理しても自分たちだけで独占することは不可能です。
それでも技術で他社を凌駕し、トップランナーであり続けるには、技術開発を継続し、他社よりも常に前に進み続けるしかありません。そのためには優れた研究開発ができる人材、体制とそのための投資が必要です。また売り上げ規模の少ない企業が幅広い分野に製品を展開すれば、技術でトップに立つことはできません。狭い日本市場のみで事業を展開していれば投入する研究開発費も少なくなり、グローバルで事業を展開している企業とは差がついてしまうでしょう。
参考文献
「中国自動車企業の海外進出パターンと戦略」苑 志佳
「中国進出 日本自動車企業の戦略課題」井上 隆一郎
経営コラム ものづくりの未来と経営
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中国製品を駆逐したホンダの二輪車戦略
2000年代初頭、アジアの二輪車市場は拡大が続きました。ホンダをはじめとする日本メーカーは、現地生産を拡大し、拡大する市場に対応しますが、中国製の安価なコピーバイクにシェアを奪われていきます。
これに対抗するためにホンダは他社では思ってもみない戦略を採用しました。その結果、東南アジアの市場を中国メーカーから奪回しました。
しかしホンダが成功した背景には戦略以外に製品の特性や市場環境などの要因がありました。このホンダの斬新な戦略と成功の要因について考えます。
ローエンド市場からシェアを失う日本
エレクトロニクス製品に代表される日本メーカー
1970年代から90年代にかけて、エレクトロニクス製品に代表される多くの日本企業は、欧米のライバル企業よりも高性能かつ低価格の製品を実現し、欧米に輸出して成長しました。
しかし1990年代以降は、韓国や中国などの企業と価格競争に陥り、市場シェアを失い苦境に陥っています。そこには以下のような共通のパターンが見られます。
- 中国が経済発展し、魅力的な市場になる
- 当初は中国に製品を輸出していた日本企業は中国政府の輸入規制や安価な人件費を求めて中国企業と合弁で中国に工場を建設する
- 中国の地場企業が、性能や品質は日本企業に及ばないが低価格の日本製品のコピーをつくり中国国内で販売する
- アジアなどの新興国が経済成長し、新興国にこういった製品の市場ができる
- 日本企業は新興国に輸出するが、先進国向けに作られた生産は新興国にはとても高価なため、市場になかなか浸透しない
- この新興国の市場へ中国企業が日本製品より大幅に安い価格で輸出する
- 新興国の市場、特に低価格品の市場が拡大し、中国企業の輸出も増大し、生産量は拡大する
- 中国企業のグローバルでの生産量が日本企業を追い越し、生産量が増えたことでさらにコストが下がる
- グローバルでの低価格品の市場を占有した中国企業は、品質を徐々に高め、高価格品の市場にも進出する
- 高価格品の狭い市場に追いやられた日本企業は生産量が減少し収益性が悪化する
- リストラでその事業を売却する
この流れで日本企業は、白物家電、メモリなど半導体、パソコン、携帯電話などが競争力を失い、その一部は売却されました。
二輪車市場
ところが今でも日本企業が中国企業に対してグローバルで市場の多くを抑えている製品があります。
それが二輪車市場です。
二輪車の市場はアジアなどの新興国の経済成長に伴い大きく伸びました。これに対して日本の二輪車メーカー ホンダ、ヤマハ、スズキは比較的早くから海外展開していました。しかし、2000年代初頭、他の製品と同様に中国製の安価な二輪車がグローバル市場で急増しました。
例えば、ベトナムでは2000年から中国製の二輪車が大量に輸入されました。年間の販売台数は200万台に及び、そのうちの約8割を中国製の二輪車が占めました。
ところが2003年以降中国企業のシェアは減少し、日系企業のシェアが増加しました。
どうして二輪車は中国製品を駆逐することができたのでしょうか。
二輪車の市場は2000年以降右肩上がりで成長しています。中国、インドネシア、ベトナムの市場の伸びは今後減少しますが、代わってインドや他の新興国の市場が伸び、2025年には7400万台と予想されています。
ただし、主役は、100~150ccの二輪車です。
二輪車市場のガラパゴス化
日本の二輪車市場は、新興国や他の先進国とは大きく異なっています。つまり二輪車市場も日本はガラパゴス化しています。
原因は免許制度と車検制度です。
日本の二輪車免許は以下のようになっています。
- 原付 50cc未満 普通自動車運転免許で可
- 小型二輪車 125cc未満
- 中型二輪車 400cc未満 (250cc未満は車検がない)
- 大型二輪車 制限なし
日本ではわざわざ免許を取ってまで二輪車に乗る人の大半は趣味で二輪車に乗る人です。趣味性の高い二輪車は大型が多く、人気が高いのは排気量の大きな大型の二輪車です。
図1 大型二輪車1800cc (Wikipediaより)
しかし以前は大型二輪車の事故が多かったため、大型二輪車の免許の取得は極めて困難でした。
(指定教習所がなく、各県の運転免許試験場で試験を受けなければならず、その合格率は2~6%という低さでした。)
そのためライダーの多くは自動車教習所で取得できる中型二輪免許でした。その上限は400ccでした。
一方免許と別に、二輪車は排気量により車検制度が異なります。251cc以上の二輪車は車検が義務付けられ、2年ごとに10万円近い費用がかかります。これに対して250cc未満の二輪車は車検がなく維持費が安くなります。
図2 中型二輪車250cc (Wikipediaより)
また50cc未満の二輪車は、原付と呼ばれ普通自動車運転免許で乗ることができます。つまり二輪車免許を取る必要がありません。そのため手軽な移動手段として人気があります。
図3 原付二輪車50cc (Wikipediaより)
しかし実用的な移動手段としては50ccは非力で、新興国ではもう少し排気量の大きい100cc前後が最もポピュラーです。
日本ではこの100~150ccは、前述の免許制度のために最も人気のないジャンルでした。
ただし近年二輪車に対する排気ガス規制が強化され、50ccでは十分な動力が得られなくなってきたたため、日本でも50ccから100cc前後の排気量に移行しつつあります。
一方生産面では、100ccの二輪車と1000ccの大型バイクは、部品点数が大きく違います。そのため生産工程も異なり、同一の生産ラインでは生産できません。自動車はミニバンとプリウスは同じ生産ラインで混流生産しています。しかし50ccと1000ccの二輪車を混流生産するのは、軽自動車とマイクロバスを同じラインで生産するようなものです。
つまり50ccと1000ccの二輪車は、同じ二輪車ですが、全く別の商品です。
日本では二輪車市場はピークの1982年には320万台を超えていました。その後市場は急速に減少し、2016年には33万台とピークの1/10になりました。増加するアジアの新興国に比べ、今日では日本の二輪車市場は世界の中では非常に小さな市場です。
新興国での二輪車の発展
2015年の世界全体の二輪車市場は5,260万台、そのうち中国、インド、インドネシア、タイの4か国で3,323万台と世界市場の半分以上を占めています。二輪車市場の各メーカーの市場シェアを図4に示します。
図4 インド、インドネシア、タイ、ベトナムのシェア (2015年)
ホンダのアジア市場での営業利益は二輪車事業全体の80%に上り、売上高営業利益率は8.5%になります。(ホンダの四輪車の売上高営業利益率は5%以下) ヤマハもアジア市場での利益が高く、日本メーカーはアジア市場で稼ぐビジネスモデルになっています。
新興国のニーズ
趣味性の高い大型二輪車は、エンジンや車体構成が車種ごとに違います。ひとつの車種にも多くのバリエーションがあり、それぞれが全く別の製品です。ところが新興国向けの小型二輪車は、エンジンは125cc、4サイクル単気筒エンジン、車体の構成もほとんど違いがありません。しかし外観デザインとカラーリングはバラエティに富み多くの車種が生まれています。つまり自動車より随分前にプラットフォームが統一化されています。部品の共用化も進み、その点で小型二輪車は、すりあわせ型というよりモジュール型に近い商品です。
発展途上国モデル
ホンダのCG125は発展途上国向けに開発されたモデルで、日本では販売されていません。CG125は発展途上国での使われ方を考慮し、日本のモデルにはない特徴があります。
図5 ホンダCG125(Wikipediaより)
例えば、紙製のエアクリーナーエレメントは目詰まりすると顧客が破ってしまうため、オフロードバイクによく使われている発砲ウレタン製を採用しています。目詰まりしたら顧客は洗って再使用します。
また泥やほこりの多い苛酷な環境に耐えられるようにドライブチェーンには強化チェーンを使用し、金属製のカバーでチェーンは覆われています。エンジンは低速トルクを重視し、フレームは2~4人乗りに耐えられるように強度を高めています。このように実用車として高い耐久性と頑丈さを備えています。CG125は途上国モデルのスタンダードモデルとなり、東南アジア、中近東、アフリカなどに広く輸出されました。
このように発展途上国では、二輪車は先進国のようなレジャーの道具ではなく、庶民の唯一の動力付きの交通手段です。そのため多人数乗車や過剰な積載など日本ではは考えられない過酷な使われ方がされます。ホンダはそのような現地のニーズにいち早く対応したことで、市場シェアを高めました。
図6 過積載の例(Wikipediaより)
では、こういった日本企業に対抗するようになった中国の二輪車メーカーはどのように発展してきたのでしょうか?
中国の二輪車メーカー
日本メーカーの中国進出
家電製品と同様、日本の二輪車メーカーは1980年代に相次いで中国企業と技術提携を結び中国に進出しました。中国嘉陵工業股分有限公司(以下、嘉陵工業)は1982年からホンダと技術提携を結び、当初は50ccのモペットタイプ、その後はCD70というビジネスバイクを生産しました。生産に必要なダイカストマシンやプレス機、マシニングセンタのような生産設備は日本製を導入しました。高度な技術が必要な金型も日本から購入しました。
使用する部品もチェーンのような耐久性が必要なものは日本から輸入しました。当時、中国には満足な品質の部品を作れるサプライヤーがなく、300社以上のサプライヤーの育成や指導もホンダの協力のもとに行われました。
他の二輪車メーカーも同様に現地企業と提携し、ヤマハは1984年に中国建設集団を皮切りに1996年までに5社と提携しました。スズキも1985年に中国軽騎工業集団を皮切りに6社、カワサキは1985年から3社と提携しました。
サプライヤーの成長と部品の横流し
中国政府は1994年新自動車工業産業政策を公布し、7年後の2001年には100万台生産規模の二輪車メーカーを10社育成する方針を打ち出しました。その一方で1995年頃から交通量の増加や環境問題のため、都市部ではナンバープレート公布が規制されるようになりました。その結果、中国での二輪車の需要は低迷しました。
その一方で日本から技術導入した合弁企業は、サプライヤーの育成に注力し部品の国産化を進めました。また中国企業は部品を複数社に発注して競合させる方式をとるため、サプライヤーが急増しました。
ところが1995年以降、中国の二輪車市場の低迷もあり需要以上に部品が製造され、余った部品が市場に流通するようになりました。そして市場にある部品を集め、それを組み立てて完成車として売るコピーメーカーが出現しました。こういったメーカーはパーツを買ってきて組み立てれば簡単に事業が始められ、10台も売れば利益が出るため、参入する企業が次々に現れました。こうして部品の需要が増えれば、そのコピー部品をつくる企業が現れ、質の低いさらに安い部品も出回るようになりました。
この1990年代半ば、日系企業の二輪車の価格は20~30万円、対するコピーメーカーの価格は7~10万円でした。収入が低く日系企業の二輪車に手が出ない層は、品質は低くてもコピーメーカーの二輪車を購入しました。
その結果、中国国内の二輪車メーカーの数は、2002年には156社に増加しました。2005年には、生産台数100万台以上の二輪車メーカー、大長江、嘉陵摩托、建設、銭江、洛陽北方と5社ありました。
コピーメーカーの反乱に対して、中国では知的財産権の保護はどうなっているのでしょうか。
知財は無力
知的財産権の侵害には、特許権侵害、意匠権侵害、商標権侵害などがあります。しか、知財侵害を取り締まる地方政府は、地場メーカーを取り締まると地場メーカーからの税収が減少するため取締りに消極的でした。また意匠権侵害で裁判を行っても、意匠侵害の判断は裁判所の判断による点が大きく、裁判は中国の法廷で争われるため日系企業の勝算は極めて低いといえます。明らかに法律違反を立証できるとすれば、商標権侵害ぐらいしかありませんが、コピーメーカーも心得ていて、一見日系メーカーと思わせる、しかし微妙に違う商標を使います。
(例 HOMDA Keweseki SUKIDAなど)
コピーメーカーの台頭
こうした中、コピーメーカーからスタートした企業の中には、徐々に力をつけ日系企業との合弁メーカーに生産台数で匹敵する企業も出てきました。後にホンダと提携する新大州もその1社です。これらのメーカーは経営者の積極的な経営姿勢と、部品を徹底的に安く仕入れるルート開拓により、日系企業よりも大幅に低コストの製品を実現しました。そして彼らは都市部でなく地方都市や農村部をターゲットに販売を拡大しました。
そして低価格と幅広いバリエーションの製品で市場シェアを広げていきました。低い品質も、顧客の方も値段が半額なら故障してもやむを得ないとおおらかにいう考えるため、大きな問題になりませんでした。こうして1990年代後半には中国は世界最大の二輪車の市場を持ち、世界最大の生産規模を持つ国になりました。一方価格面で不利な合弁の日系二輪車企業はシェアが低下しました。
ホンダの失敗
1990年代ホンダは中国で上海汽車、チャイタイグループ、嘉陵工業、広州摩托の4社と提携し、合弁企業を立ち上げました。しかしこういった合弁企業は母体が国有企業のため意思決定のスピードが欠け、製品投入のタイミング遅れ、価格面でもコピーメーカーに勝てずシェアは徐々に低下しました。この中には嘉陵本田のように二輪車から撤退し汎用エンジンに特化したメーカーもありました。
ホンダの戦略転換
コピーメーカーと手を組む
合弁企業がじりじりと市場シェアを低下させるのを見かねたホンダは、コピーメーカーである海南新大洲摩托車と提携しました。同社は「SUNDIRO」というオリジナルのブランドで、ホンダのCG125のコピー車を生産・販売していました。その規模は60万台/年で、SUNDIROの価格はホンダの半額でした。同社は1990年に株式上場し、その資金で投資しさらに生産を拡大していました。
本来であれば海南新大洲はホンダの知的財産を侵害している敵ですが、あえてホンダは同社と提携しました。つまり「自社より圧倒的に安い二輪車を作れるという事実」を受け入れ、そこから学ぶことにしました。海南新大洲にとっても、中国国内ではたとえ大手でも所詮はコピーメーカーであり、将来の中国がWTOに加盟し、海外から競合が安く入るようになれば生き残れないかもしれません。そこでグローバル市場で生き残るためにホンダとの提携を選択しました。そして天津本田摩托を吸収合併して海南新大洲本田摩托有限公司を設立しました。
コピーメーカーから学んだもの
この提携によりホンダは、海南新大洲が安くつくることに関して、妥協を許さない徹底したシステムを構築していることを知りました。モデル毎の販売台数を毎日集計し、その台数を元に毎日数量や納期をサプライヤーに提示し、部品を徹底して安く購入する仕組みを作り上げていました。部品のつくり方ひとつとっても従来のホンダでは品質にこだわって考えつかなかったようなつくり方を実現していました。ホンダにとっても安くつくることに関して学ぶべき点は大いにありました。
中国製工作機械のレベルも上がり、新大洲本田の新工場では工作機械は中国製、射出成形機は台湾製を使用しています。サプライヤーとの交渉は新大洲のやり方で行い、徹底的にコストを下げています。その中でホンダ流の品質の考え方や作業標準を導入しました。部品は、新大洲のサプライヤーの中でホンダの基準をクリヤした部品だけを受け入れ、性能面や品質面でホンダの基準をクリヤできない部品は純正品に置き換えました。そうすることでコピーメーカーである海南新大洲の製品にホンダブランドをつけることを認めました。こうして海南新大洲の工場は160万台/年の生産能力と日本品質の工場に生まれ変わりました。
ホンダは2002年には海南新大洲本田で製造したスクーター「Today」を日本に輸入し、94,800円と10万円を切った価格で販売し大ヒットしました。
ダブルブランドの問題
一方でホンダの意図とは異なって新大洲本田はHONDAとSUNDIROのダブルブランドを継続しました。ホンダが欲しくても価格が高くて買えない顧客には、少し安いSUNDIROブランドを売って販売を広げました。新大洲本田はSUNDIROブランドはコピー車でなく、、ホンダと中身は同等であることを顧客に訴え、コピー車という悪いイメージを払拭しました。
タイでの現地化の徹底
ホンダは1997年にタイに開発拠点HRS-T(Honda R&D Southeast Asia Co., Ltd.)を設置し、デザイン、設計、テストの現地化を推進しました。特にデザインは国ごとに文化や好みの違いが大きく、現地化のメリットはとても大きいものがありました。
新興国の二輪車は、エンジンやサスペンションなどの基本コンポーネントは同じで外観やカラーリングなどでイメージを変えて、豊富なバリエーションを用意しています。他社との販売競争に打ち勝つには、スピーディにモデルチェンジを行い、新鮮で豊富なラインナップを揃える必要があります。そのためにはデザインや外観設計の現地化は不可欠でした。
一方エンジンは10年に1回程度のサイクルでモデルチェンジを行いますが、開発は日本で行っています。
基本的には金型費用が高く、体積が小さい部品、カムシャフト、キックスピンドル、オイルポンプなどは、海外生産の価格が低ければ、海外から輸入するメリットが大きいです。一方外装の樹脂成形部品のように金型費用が安く、体積の大きい部品は、輸送費が高くなるため現地生産に向いています。
ベトナムでの勝利
ベトナムは、所得の増加に伴い二輪車市場も急増し、1990年代後半には40~50万台の市場に成長しました。ホンダは1997年ベトナムで現地生産を開始し、排気量の110ccのカブ「スーパードリーム」(1230ドル)を販売しました。スーパードリームは耐久性が高く、高い人気がありましたが、価格が高く庶民にとっては高値の花でした。
さらにホンダは都市部向けにスーパードリームのスポーツモデルを発売し、「売れる人に売る」という高価格戦略を取りました。1999年にはホンダは現地生産と日本からの輸入車を合わせてベトナムでは50%強のシェアを占有していました。
図7 スーパードリーム(Wikipediaより)
ところが2000年に入ると中国国内の二輪車市場が政府の規制のため縮小し、多くの中国のコピーメーカーは市場を求めて海外に輸出しました。こうして急成長するベトナム市場に中国のコピーメーカーが大挙して押し寄せ、ホンダは市場を奪われ市場シェアは9%に低下しました。その一方で市場は急成長し、2000年には175万台、2001年には200万台に達しました。
今まで自社がターゲットしていた顧客層の下に、はるかに大きな市場があることにホンダは気づきました。そこでこの市場に向けた低価格モデルを開発して対抗しました。中国のコピーメーカーの製品を調査し、彼らの製品の中でコストと品質の優れた部品はその納入先を調べて、ホンダもそこから部品を調達しました。こういった部品の調査は新大洲本田が行いました。その結果、2002年にホンダがタイで開発した「Wave α」は中国製部品を使って徹底的にコストダウンを行い、667ドルと従来のモデルの1/3の価格を実現しました。
図8 ホンダWave α(Wikipediaより)
Wave αは渋滞が多くスビートが出せないベトナムの交通事象に合わせて、時速80km以上の性能は切り捨てました。さらにベトナムとフィリピンにしか売らないとう思い切った発想でコストを劇的に下げました。その結果、中国メーカーとの価格差は、従来の2.3倍から、1.37倍に縮小しました。2005年時点でのベトナムのワーカーの給料は月に100ドル程度でした。年収に相当する日系メーカーの1200ドルの二輪車は、良いことが分かっていても手が出ませんでした。そこへホンダは高い品質と667ドルと中国コピーメーカーの1.37倍の価格のWaveαを投入し、顧客を自分たちに振り向かせることに成功しました。
さにタイの開発拠点を通じて、ベトナム人の好みに合うデザインの製品をシリーズ化し、次々とモデルチェンジを行うことで、商品の魅力を高めて販売力を維持しました。この継続的な新モデルの投入に中国のコピーメーカーは対抗できず、中国のコピーメーカーのシェアは低下しました。
ベトナム政府の規制
また政府の規制もホンダには追い風になりました。2002年には輸入総量規制により、関税が引き上げられました。現地生産がメインの日系メーカーに対し、輸出に頼る中国のコピーメーカーには逆風となりました。
2003年にはさらに規制が強化され、1人1台までしか登録できず、ハノイ中心区では新規の登録が禁止されました。二輪車は高価な財産でしかも生活必需品のため
「どうせ1台しか買えないのならば品質の良いものを買おう」
と日系企業を選択する顧客が増えました。
また中国製バイクの事故や品質不良に関する報道も、顧客が安価な中国製コピーバイクから離れる原因になりました。実際、中国製コピーバイクはあまりにも故障が多く、修理費用や下取り価格の低さを考えれば、少々高くても日本製バイクを買った方が得なことに人々は気づきました。
二輪車市場の特徴とホンダの戦略
ローエンド市場から逃げるわけにはいかなかった
東南アジアの二輪車市場は、先進国のように大型バイクの市場が存在せず、市場の厚みが薄いという特徴がありました。先進国のように大型バイクの市場が十分にあれば、日本企業は低価格品市場を中国メーカーに明け渡し、利幅の大きいハイエンド製品の市場に逃げる戦略を取ることができたかもしれません。
かつてホンダがアメリカに進出した時、ホンダの主力製品ドリーム350cc、250ccは、性能面でハーレーダビッドソンやトライアンフなど欧米の二輪車メーカーに勝てませんでした。その中で、ホンダはスーパーカブ、次にオフロードバイクといった小型バイクの市場からアメリカ市場に参入しました。
対してハーレーダビッドソンやトライアンフなどは小型バイクの市場は放棄し、大型バイクに集中しました。そして最後はその大型バイクの市場も日本メーカーに奪われました。
しかし東南アジア市場では、ハイエンドといっても同じ125ccです。低価格品市場から逃げることは、市場を放棄することを意味しました。
中国企業が低価格品市場を発見した
日本メーカーは従来の高品質を維持したままベトナムに進出したため、ベトナム人にとっては高価な商品でした。そして、より低い価格帯にもっと大きな顧客が潜在していることに気づきませんでした。ところが中国コピーメーカーが大挙押し寄せ市場が急拡大したことで、低価格品市場の膨大な顧客の存在が分かりました。そこでホンダは中国製コピーバイクと自社製品との価格差が大きくなりすぎないように一定の範囲内にして、しかも顧客が品質の差を認めてくれる差の価格を設定しました。さらに100~150ccの狭い範囲にローエンドからハイエンドまで豊富なバリエーションでフルラインを揃えました。
顧客自身もも2000年代後半になると、価格以外にも品質や機能、デザインを求めるようになりました。ホンダは、それに応える魅力的な製品を市場に次々と投入しました。
敵からも学ぶ
ホンダは新大洲と提携することで、新大洲のネットワークを使って膨大な数のサプライヤーを調べ、中国での部品の調達価格を徹底的に調査しました。さらに日系の系列サプライヤーでもコストが合わなければ現地サプライヤーに切り替えました。中国にあるホンダ関連の日系サプライヤーの約半数は2002年にはコストが合わないため、新大洲本田の開発に参加できませんでした。またホンダは部品のつくり方も新大洲から学び、新興国市場には過剰と思われる機能は落としました。
品質の悪さが顕著に出る製品
新興国市場で顧客が中国コピーメーカーの約1.4倍というホンダの価格を受け入れたのは、二輪車が品質の差が顕著に出る製品だからです。彼らにとって二輪車は日常生活に不可欠なもので、しかも日々使用することで消耗するため、品質の悪さは顕著に現れます。故障し立往生すれば、非常に不快な思いをし、修理にお金もかかります。そんな目に何度も遭えば、次は彼らは1.4倍のプレミアム価格は高くないと思うようになります。中でもホンダのスーパーカブの耐久性は極めて高く、日本ではエンジンとオイルさえ入れておけば、一生壊れないという「伝説」もあります。
これが家電製品やパソコンは、品質が悪くても買ってすぐに壊れることは稀です。品質の悪い製品は大抵は1年くらい過ぎたあたりで壊れ始めます。しかしその頃にはなぜ壊れたのか、品質が悪いのか、使い方の問題なのか、たまたまハズレだったのか見わけがつきません。また壊れても二輪車のように立往生することもないので壊れても二輪車ほど大きな痛みは感じません。つまり品質の悪さが目立ちにくい製品です。
環境規制の強化
東南アジアでは苦戦している中国コピーメーカーですが、中国市場では日系メーカーを押しのけ市場を独占しています。他にもアフリカなどの新興国で市場に浸透しています。その一方、現存する中国メーカー112社のうち開発能力のあるメーカーは1割程度しかありません。
もし今後各国で二輪車の排ガス規制が強化されると、それに対応した二輪車を開発しなければなりません。そうなるとコピーメーカーは生き残ることが厳しくなるかもしれません。
それとも排ガス規制のデバイスまでコピーするのでしょうか。
本コラムは2018年1月21日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
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ものづくりにおけるヒューマンエラーの原因と対策
不良・事故の原因
手順を守ったかどうか
ものづくりにおいて人間のウッカリミスやヒューマンエラーは、時に重大な事故や多額の損失を引き起こしています。問題が起きるたびに、原因の是正や再発防止に取組み、次は全く別の原因で発生します。こうして対策はモグラたたきになってしまい、終わりません。
不良や事故の原因は、図に示すように4つに分類できます。
図1 不良(事故)の発生原因
- 決められた手順を守っても起こる不良(事故)
- 決められた手順を守らなかったために起こる不良
不良(事故)には、決められた手順を守って確実に作業したのにも関わらず、起きてしまうものがあります。
【原因1製品設計の不良】
元々、製品の設計に問題があれば、求められる結果(精度や機能など)が実現できません。この場合は後工程がどれだけ努力しても、製品設計を変更しない限り、不良は解決しません。
【原因2工程設計の不良】
製品設計に問題はなくても、製造方法や作業方法、つまり工程設計に問題がある場合です。
例えば「コストダウンのために本来研削加工をすべきところを切削加工で仕上げた」、「プレスでなければ出せない精度だが、ロットが少ないため金型を製作するとコストが高くなる。そのため板金加工で製造した」などです。
製品設計は、工程設計と密接に関係しています。製品を開発する際は、製品設計と工程設計は密にコミュニケーションを取って、その製品に最適な工程設計をする必要があります。
コミュニケーションに問題があり、工程能力を超えた部品を設計したり、目標とする機能を実現するには不十分な設計るのに、部品精度を上げることで解決しようとすることがあります。そして、工程設計に負担をかけます。
往々にしてこのような問題の解決は莫大な時間と労力がかかっています。
故意に守らなかった場合と、守ろうとしていたのだけれど、うっかりして守らなかった場合があります。
【原因3 故意に守らなかった】
故意に手順を守らなかった場合も、ヒューマンエラーに分類されることがあります。しかしこの場合は、当事者がルールを守ろうとしない限り問題は解決しません。
多くの場合、ルールを守りたくない、あるいは守れない理由があります。
そこで、当事者から理由を聞き取って調査します。
例えばルールを守らず、安全スイッチを無効にして作業している機械は、安全スイッチが効いていると、
- 著しく作業性が悪い
- 安全カバーを閉めなければならないために内部が確認できない
などの理由が判明します。
この場合は、安全スイッチが効いていても作業性が悪化しないように作業の仕方を改善したり、安全カバーを閉めても内部が確認できるように窓やカメラモニターを取り付けて対処します。
【原因4 手順を守ろうとしたのに守っていなかった】
当人は守ろうと努力をしていて、しかもほとんどは的確に作業しています。
にもかかわらず、ごくたまに発生するミスが大きな問題を起こします。
このような本人の意思に反して、うっかり行ってしまうミスを、ここではヒューマンエラーと呼びます。
人はミスをする生き物
ヒューマンエラーを完全になくすのが難しいのは、人は本来ミスをする生き物だからです。
偉大な発見や発明の多くは、ミスや失敗から生まれています。従って全て悪と決めつけることもできません。かといってヒューマンエラーを許容していては、一つのミスが大きな事故や損失をもたらしてしまいます。
人はミスをする生き物?
- コンピューター化、多重化でミスゼロに
- 大量生産では、システム化とポカヨケ
- 多品種少量生産ではヒューマンエラー対策
- ピッキングする部品をランプが点灯して知らせる。
- 部品をピッキングする際にバーコードやRFIDで照合する。
- 間違いやすい品番の表示に色を付け、手順書の部品の表記も同じ色にする。
- 品番の表示だけでなく、品名や使用部位も表記する。
- 間違いやすい似通った部品は隣り合って置かない。
- 毎回新しい作業では
- 正確に聞き取っていない
- 正確に理解していない
- 確実に相手に伝わるように文書や掲示板など伝える方法を改善する
- 相手に伝わっているか確認する(確認会話)
- 分らない時に気軽に聞ける環境に改善する
- 誤って認識してしまう原因は、
- 忘れる
- 記憶が変質するという記憶の問題
- 差が小さくて見落としてしまう
- 周りの情報が多すぎて誤認識する
- メモやホワイトボード、パソコンやタッチパネルなどの他のものに記録する
- 見間違いや見落としが少なくなるように対象物の表記を大きくする
- 周りの余分な情報を減らして惑わされないようにする
- 判断プロセスが複雑
- 認知的不協和のためやり方が感覚と異なる
- 思い込みや先入観により直感による判断が間違う
- 複雑な作業を同時に行う
- 複数の作業を同時に行わない
- 判断は必ず二択にする
- 動作の方向と習慣を一致させる
- 思い込みや先入観を事前に排除する
- スリップ
- 故意
- できない
- 集中力が低下
- 心離れなど一瞬不注意となる
- 似ているために間違う
- 重要なことや目立つことに注意を奪われミスする
- 習慣化した動作が顔を出す
- 集中力が低下しないようにわざと手間をかけさせる
- 心離れが起きるタイミングで注意喚起する
- 違いを大きくする
- 大事なことが最後になるようにする
- 指差呼称を行う
- 実力・能力を過大評価している
- リスクを取り過ぎている
- 実力を測定して安全マージンを確認する
- 安全マージンの必要性を教育する
- 権威による圧力を受けて本当のことが言えない
- 急いでしまう
- 手順が不合理
- 作業の意味を理解していないため問題ないと自ら判断する
- 適切な判断をするように圧力をかけない
- 合理的な手順に変更する
- 急がせない
- 作業の本当の意味を理解させる
- チェックリストの項目を実際に確認せずにレ点を記入する
- チェックリストがあっても使わない
- 人が行う作業は全て間違える
- 人が行う検査は全て見落とす
- 人が覚えることは全て忘れる
- 生産性の向上
- 熟練の技能の見える化
- 開発の効率化
- より高度なサービス
- 生産性が向上 (時間当たりの生産量が増加)
- 品質が向上 (不良が減少、又は今までできないものができるようになる)
- ドイツ インダストリー4.0
- アメリカ インダストリアル・インターネット(GE)
- IoE(Internet of Everything)シスコシステムズ
- 中国 中国製造2025(中国版インダストリー4.0)
- 日本 共生自律分散制御システム(日立製作所)
- 富士通 スマートなものづくり
- 三菱電機 e-F@ctory
- 日本電気 次世代ものづくりソリューション NEC Industrial IoT
- 東芝 次世代ものづくりソリューション Meister
- ハードディスク、メモリ容量によるデータサイズの制約
- 通信回線の速度によるデータ量の制約
- データを分析するコンピューターの処理能力の制約
- データを収集する機器のコストの制約
- サイバーフィジカルシステムと人工知能、機械学習
- IoTとビッグデータ解析
- 標準化(OPCとORiN)
- 統一されたアクセス方法とデータ表現を提供
- 変数だけでなくファイルのアクセスが可能
- ロボットを始めとする各種機器に容易に適用可能
- ORiN を適用するために装置の改造は不要
- XML データを介した他システムとの連携が可能
- 特別な対応無しにインターネット経由でのアクセスが可能
実は、ヒューマンエラーを完全になくすことは、可能です。
人がヒューマンエラーの原因ですから、コンピューターにより自動化・無人化し、人による作業を極力排除し、さらにシステムを多重化すればミスを完全になくす事ができます。
仮に1個所でエラーが発生しても、システムは多重化されているため正常に動作します。こうすればミスのない仕組みも不可能ではありません。
非常にコストのかかる方法ですが、宇宙開発のようにコストをかけてでも確実に実行することが求められる分野では行われている方法です。
現実には、ミスの発生する頻度とミスが起きた時の損失費用から、経済的に見合ったヒューマンエラー対策が行われます。同じものを大量につくる大量生産では、コストをかけてもヒューマンエラーを防止する価値は十分あります。
この中でポカヨケは、比較的低コストでヒューマンエラーを防止する良い方法です。
多品種少量生産では、製品の形状が毎回全く変わってしまうこともあります。この場合、毎回新しいポカヨケを設計しなければならず費用対効果を考えると現実的でありません。
その場合、コストをあまりかけずに効果のある対策が必要です。これをヒューマンエラー対策と呼びます。
図 ポカヨケとヒューマンエラー対策
ヒューマンエラー対策は、ポカヨケのように完全にヒューマンエラーを防ぐことはできません。しかし、今までの何もしない状態よりは、発生確率を下げる事ができます。しかもポカヨケよりコストがかからず、様々な製品に対応できます。
例えば、複数の部品をピッキングする場合、
【ポカヨケやシステム化】
製品が頻繁に変わる場合は、製品に合わせた仕組みの構築が必要になります。
【ヒューマンエラー対策】
こうすることでコストがあまりかからず発生確率を下げることができます。費用対効果を考慮して、最適なやり方、仕組みを構築します。
毎回全く新しい製品の場合、作業者には高い能力が求められます。このような場合、不良を減らすのに作業者の能力向上が必要です。
従って、1度に数個しか流れない製品でAさんはミスなく行うが、Bさんはミスが多発する場合、原因は、ヒューマンエラーなのか、Bさんの能力の問題なのか、この点を見極める必要があります。
ヒューマンエラーの分類
ヒューマンエラー対策のためには、その発生原因を理解する必要があります。人が作業を行う場合には、認知→判断→行動のプロセスを経ます。
このそれぞれにヒューマンエラーが起こることがあります。
図 ヒューマンエラーの分類
以下に個々のヒューマンエラーの原因と対策を述べます。
認知
認知段階でのヒューマンエラーには、無知・理解してない場合と、事実を誤って認識する場合があります。
【1】無知・理解してない
原因として、伝えることの難しさがあります。
口頭では、伝えた内容を相手が
このような場合は少なくありません。
図 的確に伝えることは難しい
これは伝える立場、聞く立場それぞれの感情や考えが入り、バイアスがかかってしまうためです。また言葉だけでの伝達は、伝えられる情報には限りがあります。
十分に伝わっていないとき、聞き手も何がわからないかわかりません。
そのため、質問もできません。
【対策】
などがあります。
【2】誤認識
などがあります。
【対策】
作業途中の状況を記憶に頼らないように、
などがあります。
判断
情報は正しく認識したが、誤った判断をする原因は、
などがあります。
【対策】
などがあります。
行動
行動によるヒューマンエラーは、
の3つのパターンがあります。
【1】スリップ
本人は正しい動作をしようと思っているにもかかわらず、間違った動作をしてしまうことです。
原因は、
などがあります。
【対策】
などです。
図 色分けをしてわかりやすく
【2】できない
本人はできると思っているのに、できない場合です。原因は、
などがあります。
【対策】
作業には、ミスが起きても問題が発生しないように安全マージンが取ってあります。
などがあります。
【3】故意
自ら不適切な行為を選択する場合です。現実には様々な理由により、本人は望んでいなくても自ら不適切な行為を行うことがあります。
原因は、
などがあります。
【対策】
などがあります。
ヒューマンエラーを事前に防ぐ仕組み
ヒューマンエラーを防ぐために以下のような取組があります。
フールプルーフ
操作や取り扱いを誤っても事故にならない、あるいは、間違った操作や危険な取り扱いができない構造や操作体系に、設計しておくことです。
その前提には「人は間違える」「分かっている人だけが使うわけではない」があり、その場合も事故が起きたり、作業者を危険な目に合わせたり、設備が故障しないように設計します。
例として、ギアがパーキングに入っていないと始動しない自動車や左右のボタンを同時に押さないと起動しないプレス機などがあります。
フェイルセーフ
部品の破損や操作ミスをした場合、異常は出るが、できるかぎり安全な状態になるように設計することです。故障や誤操作は起きるという前提で、そうなった時に、自動的に安全な状態に導くように制御や動作、構造を設計しておきます。
例えば、倒れると自動的に消化する石油ストーブや停電・故障すると遮断機が降りて停止する踏切などがフェイルセーフの設計の例です。
フェイルソフト
事故や故障が発生したとき、問題の個所を部分的に停止したり切り離したりして、機能が不十分ながらも運転を継続できるように設計することです。
故障が起きることを前提にして、問題の個所を止めたり、切り離したりして他の機能への影響が波及しにくい構造にして、機能を落としても運転を継続するような仕組みや考え方です。
例えば、旅客機はエンジンに火災が発生した場合、そのエンジンへの燃料の供給を遮断して、残ったエンジンの運転を続けて飛行を続けることができます。
フォールトトレランス
一部が故障・停止しても予備の装置に切り替えて、正常に運転できるように設計することです。
事故や故障が起きることを前提として、重要な機能は複数の機器を用意したり、1個所が交渉しても他へは波及しないようにして、事故や故障が起きてもシステム全体の性能や機能を落とさずに運転を継続できる仕組みや考え方です。
例えば、電源装置を2組用意して、1つの電源が故障しても使用し続けることができるコンピューターや、停電しても自動的に発電機に切り替わって電力を供給するビルなどが、フォールトトレランスな設計の例です。
一方、どんなトラブルでも稼働し続けるようなシステムは、費用が膨大になり、経済的に合いません。そこで継続できる機能や持続時間を限定する(病院やビルの非常用発電機の燃料は数日分のみ備蓄する。)、あるいは機能や性能の低下を許容します。
FMEA (Failure Mode and Effects Analysis:故障モードと影響解析)
製品や工程の設計段階で、事前に発生する可能性のある故障を予測し、その影響を事前に評価します。そしてその影響の大きさに応じて事前に対策を行い、問題の未然防止を図る方法です。図10は、設計FMEAの例です。
FTA (Fault Tree Analysis:故障の木解析)
信頼性や安全性に関し発生する問題や現象を抽出し、それを引き起こす要因を順に展開し、その因果関係をツリー状の図に表し、発生経路や発生要因、発生確率を解析し、対策する方法です。
FMEAが、全体の構成要素から個別の故障モードに展開して、発生する問題を挙げて、それが全体に及ぼす影響を分析するのに対し、FTAは、発生すると重大な影響がある事故や故障を最初に抽出し、その発生要因を展開していく方法です。
FTAは、発生した問題をその要因に展開する必要があり、それには問題発生メカニズムに対する豊富な知識と問題解決力が必要です。このスキルが不足していると課題解決に使えるFT図が作成できません。
実際には原因を解明しただけでは不十分で、解決するための具体的な取組も必要です。そのためにはFTAのスキルだけでなく、様々な問題と発生原因意の知識、それを解決する技法や予防策に対する知識が必要です。
またこのFT図をつくることで、FMEAにおける故障モード予測に活かせる知識も得られます。
DR デザインレビュー(Design Review)
設計の成果物、結果に対して、目的とする機能や性能を達成するか、コストは適正か、また安全性、信頼性、操作性が適正か、生産性、保全性、廃棄での問題、法規制に対する適合など様々な項目を審査し、問題点を抽出し、対策することで問題の発生を未然に防止することです。
DRは、設計審査の訳ですが、単に設計だけにとどまらず、商品企画から製品設計を経て生産準備、販売サービスに至る各段階まで含みます。
DRと設計検証/設計の妥当性確認の関係
設計検証とは、設計の各段階において、その時点での設計結果が設計に要求されていることを満足しているかどうか確認することです。
妥当性確認とは、最終的に設計の結果として得られた製品や工程が、要求されている内容も含めて顧客のニーズを満たすかどうか、確認することです。
図 DR,設計検証と妥当性確認
設計検証は、製作する製品の仕様が、最初の要求仕様を確実に満たしているかどうか、設計の各段階で確認することです。
一方顧客の求めることは、仕様に明記されているもの以外に様々なものがあります。そのため顧客の使用状況を想定し、仕様に明記されている内容以外にも製品は問題ないかどうか確かめる必要があります。
これが妥当性確認で、実機試作品による試験や製品の据付・試運転などにより妥当性確認を行います。
ここでDRは、設計から据付までの各段階で設計検証や設計の妥当性確認の結果を確認し、次の段階に進んで良いかどうか判定するものです。
チェックリスト ( check list)
何かをするときに「必要になるモノ」や「必要になる行動」を一覧表にしたもので、確認項目と「〇」「×」、「ㇾ」などの判定があります。漏れなく確認する事ができるので、漏れなく安全に作業を開始したり、必要なものを確実に集めたり、必要な項目を確実に終了したりする場合などに用いられます。
チェックリストに従って確認すれば漏れなく行う事ができるのにもかかわらず、
など運用上の問題により、チェックリストがあっても事故や不良の発生が後を絶ちません。
図 ヒューマンエラー発見のためのチェックリスト
ヒューマンエラー対策事例
ヒューマンエラー対策で重要なポイントは、以下の3点です。
100%良品が必要であれば、完全にミスをしない作業、又は人の作業+確認作業が必要です。しかし、現実には確認作業は、必ず見落としがあります。そのため、さらにチェック機構が必要になり、全ての製品を100%良品保証するためには、かなりコストがかかります。
つまり現実には、ある程度のミスを許容して、ものづくりをしているのが現実です。しかし、ミスがプロジェクトに重大な影響を与える場合は、多額の費用をかけても確実な作業を作り込むことも必要です。
現実的なヒューマンエラー対策は、費用対効果を考慮して、一定のリスクを許容することです。ヒューマンエラー対策にコストをかけすぎ費用対効果が合わなくなれば、収益性が低下し事業の存続ができなくなります。かといって、タカタの例のように想定外のミスにより甚大な被害を顧客に与え、巨額の損害賠償を請求されれば、事業の存続が不可能になります。
従ってヒューマンエラー対策は、その前段階としてリスクマネジメントが必要です。
人間のウッカリミス、ヒューマンエラーについてもっと詳しく知りたい方は、こちらをご参照願います。
経営コラム ものづくりの未来と経営
人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中
ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?
未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?
経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。
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インダストリー4.0はものづくりを変えるのか? その2
最近脚光を浴びているインダストリー4.0とスマートファクトリー、
経営コラム76号では「過去からのものづくりの変化とインダストリー4.0を取り巻く要素」について解説しました。
今回はインダストリー4.0の活用事例について述べました。
インダストリー4.0の実例
インダストリー4.0の実際の活用は、大別すると
などです。
生産性の向上
ムダのない管理の行き届いたように見える工場でも、設備や人の配置を細かく見てみると、機械の空き時間や作業者の手待ち時間があることがあります。
実際には、今の工場はつくるものの品種や生産量が変動するため、それぞれの時点で最適な設備や人の配置が変化します。
そのためベテランの管理者でも、変化する状況に応じて空き時間が全くないような設備や人の配置を行うことは容易ではありません。
しかしサイバーフィジカルシステムを用いて、コンピューターの中にあるバーチャルな生産ラインであれば短時間に何度も構成を変更して最適な設備や人の配置を決めることができます。
それを積み重ねれば、最初から最適な配置がわかるようになります。
さらに複数の工場で発生するデータを一緒に解析すれば、工場間でのばらつきも考慮して最適化できます。
また今まで個々の設備の使用条件は、熟練の管理者が最適な条件に調整していますが、複数の工場で発生するデータを解析することで、より最適な条件を導く事ができます。
オムロンの取り組み
オムロンは、富士通と共同でIoT技術を用いて、自社の実装ラインで発生するデータを集計し、實相ライン全体を見える化しました。
設備単体での稼働時間、停止時間では見えなかった設備間のロスを、ライン全体で稼働時間をチャート化することで見える化しました。
これを解析し、製品の流れを改善することで生産性を30%向上させました。
富士通ものづくりナビゲーションシステム
富士通では、工場のものづくりをナビゲーションするシステムとして開発 / 製造データから統計モデル、設計モデルをつくり、そのモデルから製造状態の予測に取組んでいます。
そして予測される品質、加工費、リードタイム、機能、性能マージンなどが、設計値とどれくらい開いているかを数値化し、開発・製造現場にフィードバックします。
これにより、製造現場と開発現場の双方の改善を促進し、改善の横展開を高速化します。
Nobilia(ノビリア)の1個づくり
ドイツのNobilia(ノビリア)は欧州最大のキッチンメーカーで、毎日2600セット、年間58万セットの高級キッチンを生産し、その全てが特注仕様です。
これらを人件費の高いドイツ・ウェストファリア地方で生産しています。
在庫された加工済み部品からERP・MESが注文ごとに必要な部品をピッキングし、個体識別用のRFIDタグやバーコードを付けます。
全ての部品にIDがあるため、その部品が、どの顧客から注文を受けたキッチンの、どこに収まる部品で、いつどこに届けられる必要があるのか、を部品ごとに把握できます。
その結果、組み立て工程のリアルタイムでの最適化と、不具合発生時の個別の原因究明を効率良く行うことができます。
ノビリアでは、自社の生産方式を「Manufacturing by Wire」と呼んでいます。
後工程で全部品にIDを持たせ、工程を自動的に組み替えています。
従業員2500人で売上高は1300億円に近く、従業員1人当たりの売上高5200万円はインテルとほぼ同額という高い競争力があります。
熟練技術の見える化と人の作業のアシスト
IoTやAI技術を用いて、熟練作業者の動きを見える化し、熟練作業者でなければできなかったことを未熟な作業者でもできるような取り組みが行われています。
例えば、熟練作業員の効率的で無駄のない動きを、熟練作業員に持たせたGPSの位置情報や、ライブカメラの情報、身体に取り付けたセンサーから取り込んだ身体の動き方などから分析します。
そして多くの熟練作業員の動きを収集し、最も効率的な動きを導き出し、これを新人作業者に指導して生産性を向上する取組が行われています。
NTT東日本のIoTの取り組み
東日本電信電話(NTT東日本)は、3000以上の局舎のネットワーク機器を日々管理しています。
保守作業では、作業者は指示書を携えていきますが、数百数千の機器、ケーブルから、対象の指示書を探すのに時間がかかりました。
また全ての機器やケーブルには番号が振ってありますが、数が多いために特定に時間を要していました。
音声で遠隔オペレーターと連携しながら作業を進めていますが、空調などの騒音のため、音声が聞こえないという問題がありました。
そこでエプソンのスマートグラスを導入し、ハンズフリーでの作業、双方向の音声通信を実現しました。
さらに作業者の視野内にある機器を、遠隔地のオペレーターが画面で確認することで作業効率を高め、また作業位置までの誘導がスムーズになりました。
監視端末の画面上で機器を丸で囲むと、現地作業者には、オーバーレイ表示された図形が見えます。
その結果指示が確実に伝わるようになりました。
開発の効率化
富士通の取り組み
仮想大部屋会議
各部門や各技術の専門家が集まって最適な製品を実現する「摺り合わせ型開発」は日本のものづくりの強さの源泉と言われています。
一方一か所に関係者が集まるために、移動距離や時間の制約のため、タイムリーに会議を行うことができず開発期間が長くなりました。
そこで仮想 / 現実のあらゆる情報を手元に集約・可視化し、仮想と現実を融合し、離れた場の雰囲気を感じる仮想大部屋会議に富士通では取り組んでいます。
必要な時、必要な所に自らの分身をテレポーテーションする感覚で、開発リードタイムを大幅に短縮することを目指しています。
設計/検証の自動化
過去の設計事例や試行錯誤の結果を蓄積し、機械学習を活用して、新たに設計したものに対して、その結果をコンピューター上で予測します。
機械学習により設計ミスを事前に発見し、つくる前に設計結果を修正することで、設計ミスの抑制と試作・修正の工数を低減します。
薬品サンプルのスマートグラス活用
前田建設工業株式会社 技術研究所は、年間約500件の現場から、土壌や地下水のサンプルの分析を行っています。
この分析が終わらないと契約や工事が進まないため、1日も早く結果を出す必要がありました。
分析に用いる薬品は150種類以上で、うち毒劇物が7割を占めています。
毒劇物は分析に入る前に製品安全データシート(MSDS)の確認が必要でした。
MSDSは分厚いバインダーに閉じられページをめくって検索していました。
そこでスマートグラスを活用して、薬品棚にある薬品を見ると、薬品瓶に貼った「QRコード」をカメラが認識し、MSDSのデータを自動的にスマートグラスに映すようにしました。
薬品瓶を手に取る前にどのような保護処置が必要なのかが分かり、保護めがねなどを装着できるようになり分析時間が大幅に短縮しました。
より高度なサービス
全てのセンサーや機器をインターネットに接続することで、実際の製品の使用状況や摩耗の程度を検知して、早期に保守をすることができます。
工業製品には、メーカーが「寿命」としている時期がありますが、必ずしも全ての機器が「寿命」の時期に正確に故障する訳ではありません。
「寿命」を遙か超えて使える場合もあります。
そこで大量のデータを分析して寿命を正確に予測します。
まだ使えるものを最後まで使い切ればコスト削減になります。
また保守だけでなく、設備や機器の稼働状態を監視することで、ムダを発見したり、効率の良い使い方を提案するなど新たなサービスが生まれています。
GEのサービス
ジェネラルエレクトリック社(GE)は、インダストリアル・ネットワーク事業を展開し、航空機(エンジン)、発電所(タービン)、医療機器などをネットワークで結び、ビッグデータを活用してより効率的な使い方やコスト削減を提案してきました。
顧客に対してエネルギー生産性を年率1%改善することをコミットして、顧客に提案しています。
例えば、ジェットエンジンに組み込んだセンサーのデータと、その時の気候や整備状態、機体に関するデータを解析し、空港への進入路やエンジンの出力の調整をエアアジア社に助言しました。
その結果、エアアジア社は燃料を節約でき、1000万ドル/年のコストを削減しました。
あるいは風力発電機に組み込んだセンサーから送られる温度、湿度、風速、風向などのデータを分析し、その時の気象条件に最適な羽根の角度に調整しました。
その結果、発電量は最大5%増え、利益が20%増加しました。
コマツの取り組み
KOMTRAX
建設機械大手のコマツは、建設機械に搭載されたGPSや各種センサーから、個々の建設機械の状態を収集します。
収集するデータは、車両の位置情報、車両の稼働時間、作業内容、燃料の残量、エンジンの負荷などです。
これらの情報は、ユーザーや販売代理店に提供されます。
これらの情報から、建設機械が、エンジンを切らずに休憩してないか、エンジンをかけた時間分の仕事をきちんと作業したかをチェックしています。
また、盗難した場合には、GPSで場所を特定し、遠隔操作で作業を止めることもできます。
部品交換のタイミングは、使用される環境で異なりますが、これも適切に指示します。
KOMTRAX
ICT建機「スマートコンストラクション」
ドローンを使用して、10~15分の間に数センチピッチで工事現場の測量を行い、1日後には現場の詳細な三次元データが完成します。
施工完成図から作成した完成後の三次元データと比較し、施工すべき範囲や土量を正確に算出します。
この施工データは、ICT建機に転送され、現場では正確に施工できます。
さらに熟練オペレーターのノウハウも数値化して搭載しているため、初心者でも熟練者並みの仕事ができます。
さらに油圧ショベルにステレオカメラを搭載し、手作業や他社の建機で施工したところもモデルに取り込むことができます。
このシステムを2015年2月から提供し、現在1000か所の工事現場で活用されています。
インダストリー4.0での疑問
インダストリー4.0の目的は?
IoTやスマートファクトリーはあくまで手段であり、目的はこれを使ってどのようなものづくりをするかです。
インダストリー4.0について、多くの人が実感できないのは、どのように変わるのかがはっきりとしていないことです。
確かに個々の技術や人工知能、機械学習などの情報は手に入ります。
しかしそれを活用して、ものづくりの変わった姿が実感できません。
実はメリットは二つしかありません。
この二つのいずれかが実現しなければ、投資を回収できません。
そしてインダストリー4.0はドイツ政府の主導で始まり、それにシステムベンダーが乗っかった状態になっています。
実際のドイツの事例を見ると、1個づくり、多品種少量生産は、インダストリー4.0でなくても、日本では今までの工場でもある程度までは実現しています。
かつて大々的にPRされ、今は使われなくなってしまったCIM(Computer Integrated Manufacturing)やFMS(Flexible Manufacturing System)の二の舞ではないかという懸念が生じます。
CIMやFMSはコンピューターのよる中央制御型のシステムでした。
しかし実際の現場では予想できないトラブルや遅れが生じ、中央で制御しきれない点が生じました。
一方トヨタのカンバン方式は、工程の進捗に合わせて、後工程が前工程に取りに行くことで自律的な運用を可能にしています。
その結果、少ない在庫量で効率的な生産を実現しています。
インダストリー4.0でドイツが生産性向上したわけではない
いくつかの記事やレポートは、ドイツの労働生産性が高く、日本に比べてGDPの成長率が高いことを訴えていて、それを間接的にインダストリー4.0と結び付けて論じています。
しかし実際には現在のドイツはインダストリー4.0の成果は出てなく、これから生産性を高めようとしている状態です。
日本企業の設備投資が少ないことと労働生産性が低いことの関係
経済産業省は、日本企業の設備投資が低調で設備が老朽化していることが、日本の労働生産性が低い原因と考えています。
しかし国内市場の拡大がこれ以上望めず、工場の海外展開が進行している企業にとって、国内に設備投資をしないことは合理的な判断ではないかという気がします。
![日本の設備ビンテージ問題](http://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2017/09/nihonnosetubibintehji-1.png)
日本の設備ビンテージ問題
今後大量生産品ビジネスで日本が新興国メーカーとコスト競争で優位に立つことは容易ではありません。
ドイツでは、すでに大量生産型ビジネスから、高付加価値型のビジネスに展開しつつあります。
日本企業もミドルクラス以下の大量生産品(家電、コンピューター、自動車など)は、中国など新興国に明け渡し、新たな高付加価値型に事業を転換する時期ではないでしょうか。
故障予知が故障増加しないか
データ収集のために大量にセンサーをつけた場合、装置全体の信頼性は低下します。
センサーの数が10個になると、下図のように信頼性は1個の場合の10乗、100個になると100乗になります。これは、ルッサーの法則と呼ばれています。
(ルッサーはドイツの航空技術者でアメリカのアポロ計画でも信頼性の向上に非常に大きな貢献をしました。)
![ルッサーの法則](http://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2017/09/russahnohousoku.png)
ルッサーの法則
多くのセンサーを付ける場合、センサー自体の信頼性を高めておかないと、このセンサーが装置の信頼性を低下させかねません。
1個づくりが主流になるのか?
商品が成熟化すると、顧客の個々の要望に応じてカスタマイズする取組が行われます。
一時期は自動車でも10種類以上の内装の組合せが選べるモデルがありました。
しかし実際は特定の色の組合せが売れました。
実は、あまりに種類が多いと顧客は選べなくなるという心理があります。
「完全に顧客の好みに応じて作ります」
と言われても、
「ではお勧めの組合せを教えてください」
となってしまいます。
それは住宅のような商品でもその傾向があります。
逆に洋服や靴のような個人の体形にからむものは、1個づくりは大いにメリットがあります。
未来の工場は1個づくりに向かうのでしょうか。
本コラムは2016年4月21日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
経営コラム ものづくりの未来と経営
人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中
ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?
未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?
経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。
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インダストリー4.0はものづくりを変えるのか? その1
インダストリー4.0とは?
インダストリー1.0 産業革命
18世紀の終わりに起きた産業革命は、蒸気機関の発達により、動力を利用してものづくりを行い生産性が飛躍的に向上しました。
![](http://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2017/09/central_pacific_railroad.png)
central_pacific_railroad
毛織物の生産性は、手工業の時代に比べ飛躍的に高まり、大量の衣類が安く提供され、人々の暮らしは豊かになりました。
その過程の中で、資金を持った人々は工場を経営し、収入を増やし、新たな中産階級、つまり資本家が誕生しました。
![](http://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2017/09/Illustration_of_power_loom_weaving.png)
Illustration_of_power_loom_weavin
一方当時の工場の労働環境は、劣悪で安全面も不十分でした。そのため事故や長時間労働など様々な問題がありました。
労働者の賃金は低く、新たな格差が生まれるという負の側面もありました。
インダストリー2.0
ワットの蒸気機関の発明から110年経った1879年エジソンが電球を発明しました。
これにより大規模な電力の需要が生まれ、発電施設と送電網の整備が始まりました。
そして電力網の整備により電気エネルギーが安定して供給されるようになりました。
同時に科学技術の発達により、様々な工業製品が大量生産されるようになりました。
20世紀初頭、ヘンリーフォードは、ベルトコンベアを使用した大量生産システムを生み出しました。
安価に大量生産することで、自動車は広く普及しました。
この大量生産システムは、戦後も、家電製品等様々な分野で生かされました。
インダストリー3.0
1980年代に入ると、コンピューターの発達により生産設備や製造ラインの高度な制御が可能になりました。
そして産業用ロボットやNC工作機械が発達し、組立てや加工の無人化が実現しました。
あるいはリレー回路で行っていた設備の制御は、コンピューターを活用したPLC(Programmable Logic Controller)に置き換わることでプログラムプの変更が容易になりました。
![](http://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2017/09/Mitsubishi-A_series_PLC-300x180.png)
Mitsubishi A_series_PLC
これらのロボットやNC工作機械を活用して、完全に無人の製造ラインや、様々種類の製品を自動で製造する設備ができるようになりました。
コンピューターによる多品種少量生産システムFMS(Flexible Manufacturing System)やコンピューターによる統合生産システムCIM(Computer Integrated System)が開発されました。
![](http://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2017/09/FlexiblesFertigungssystem.png)
FlexiblesFertigungssystem
しかし大規模なFMSシステムは、需要の変動や製品の大きさの変化など環境の変化に弱いという欠点があり、その後大きくは発展しませんでした。
GMのCIMによる無人化工場、ヤマザキ マザックの24時間無人のFMsラインなども他社には広がりませんでした。
一方で自動車の組み立てラインなどは、多品種混流生産が進み、1台1台車種や色の違うモデルが生産されるようになりました。
そのため部品や製品の流れはコンピューターにより高度に制御されています。ある意味CIMの発展形とも言えます。
GMの失敗
1980年代、アメリカのGMは400億ドルを投じて17工場にCIMを中心とした自動化を行いました。
コンピューター化された「かんばん方式」により、開発から生産まで迅速かつ柔軟な連携を行い、受注生産の対応と在庫の縮小を目指しました。
しかし計画していたように進みませんでした。
自動化されたハイテク工場はしばしば大きなトラブルに見舞われ、多大な資金を投じたロボットは正常に動きませんでした。
原因はエレクトリック・データ・システムズ社のコンピューターソフトの開発が遅れ、最新鋭のロボットが有効に機能しなかったためでした。
その背景には、自動化に伴う現場の変化を配慮せずに、コンピューターの専門家の主導で自動化を急いだという問題がありました。
溶接、組み立て、塗装などそれぞれの工程には、性格の異なるソフトが必要でした。
しかもこれらの工程に一貫性を持たせるのは大きな困難を伴いました。
事前に予知できない異常がどこかの工程で起こった場合、他の工程への影響を防止し、異常に対する迅速に対応することは、コンピューターや記号化されたソフトだけに依存すると、むしろ危険であることが分かりました。
インダストリー4.0
インダストリー4.0のカギは、人工知能による高度な生産管理です。
インターネットを使って、あらゆるセンサーや機器から逐一情報を収集することで、今まで考えられない大量のデータを収集することが可能になりました。
このデータを、人工知能を使って分析すれば、熟練の管理者以上に高度できめ細かな管理が実現します。
その上、各機器間同士も相互に通信することで、設備間での最適化を行います。
各設備の稼働を最適化することで、エネルギー消費を最小化したり、今までのものづくりでは困難な1個1個完全に異なる個別生産を実現します。
![](http://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2017/09/Illustration-of-Industry-4.0.png)
Illustration of Industry 4.0
ドイツでの取組
このインダストリー4.0は、2006年からドイツ政府が推進してきた「高度技術戦略」により生まれました。
その目的は、ものづくりの革新的な研究によりイノベーションを生み出しドイツの高い競争力を堅持することにあります。
「高度技術戦略 2020年に向けた実行計画」には、「気候・エネルギー」「健康・食品」「モビリティ」「セキュリティ」「通信」の5つの重点分野があり、10~15年先を見据えた中期的な目標が掲げられています。
ドイツがものづくりのリーダーの地位を維持するためには、目標達成が必須条件と考えメルケル首相自らが活動を推進しています。
スマートファクトリーやスマートホームなどに思い切った予算を振り分け、2025年までに4250億ユーロの経済的付加価値を生み出す計画です。
さらにICT及びデジタル化の力で、5年間で+18%の労働生産性向上を実現すると考えています。
(2015年4月ハノーバーメッセにて、ベックマイヤー政務次官)
各国で異なる呼び名
このインダストリー4.0は、国やメーカー毎に異なる呼び方をしており、混乱しやすいので注意が必要です。
また呼び方が異なると、その機能も異なります。
今までの工場管理とスマートファクトリーの背景
ここで改めて最新の工場のシステムを見ると以下のようになっています。
実作業
設備、加工機械や人が、それぞれ計画に従って製造します。
設備や加工機械は、モーター、エアーシリンダー、油圧シリンダーなどの駆動機器と、センサー、カメラなどが組み合わさり、組立や加工を行います。
これらの駆動機器やセンサー、カメラなどは、PLC(Programmable Logic Controller)、専用のコントローラやパソコンなどにより制御されます。
工程計画や工程管理
「個々の設備や人をどのように配置し、どのような製品をいつ生産するのか」という生産計画は、従来は高度なスキルを持った生産管理の担当者が行っていました。
しかし工程が複雑化し、生産品種も増えると、人による管理は限界に達し、工程管理システム(MES : Manufacturing Execution System)を導入する企業が増えてきました。
![工場管理のシステムの階層](http://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2017/09/ERP-MES.png)
工場管理のシステムの階層
このMESとは、工場管理者レベルの業務を支援するシステムです。
生産計画に基づいて、個々の製造設備に何を、いつ、どれくらい製造するか指示したり、その実績を集計したりします。
近年はその管理サイクルが日刻みから、時間、又は分刻みと細かくなっています。
MESが生まれた背景に製造機械のインテリジェント化があります。
PLCの発達により様々な設備が柔軟な制御や通信インターフェースを持つようになりました。
これにより、それまで点状に孤立した機械を、協調して制御できるようになりました。
一方、それぞれの工場は固有の特徴があるため、どの産業にもフィットするような汎用型パッケージ商品はなかなか現れませんでした。
近年は、多くの製造業で、誰が、いつ、何を製造したか、製造履歴の管理(トレーサビリティ管理)が必要になってきました。
そのため、バーコードや端末での入力を行うようになりました。
このMESには、生産完了をリアルタイムで管理するPOP(Point of Production)や各工程の計画を行う生産スケジューラなども含まれます。
生産管理、資材管理
販売予測や受注実績に基づき、生産計画が立てられ、資材発注や納期管理が行われます。
従来は、各企業が自社専用のシステムを使って行っていました。
近年は生産計画、販売、在庫管理、購買などを統合したERP(Enterprise Resource Planning)を導入するケースが増えています。
ERPには、実績に基づき個々の製品の原価の計算や、生産計画に基づき自動的に資材を発注する機能(MRP)も含まれることがあります。
制約された条件から、「潤沢な世界」へ
今まで、様々なデータを活用する際に以下の制約がありました。
しかし、近年これらの制約は大幅に小さくなり、従来は不可能であった大量のデータを扱うことができるようになりました。
「制約された世界」から「潤沢な世界」に移行しつつあります。
「潤沢な世界」のカギ クラウド・コンピュータティング
クラウド・コンピュータティングにより、誰もがスーパーコンピューターの性能を自由に使える時代になりました。
グーグルは、100万台以上のサーバーを分散処理することで、膨大な演算を高速で実行しています。
そのグーグルのGmailなどのサービスは、今は誰もが無料で利用出ます。
そしてグーグルは膨大なGmailのデータを蓄積し自社で分析しています。
これは技術の進歩によりハードディスクやSSDなどの記憶装置のコストがどんどん下がってきたからです。
またスマートフォンの普及に伴い、データ通信量はどんどん増えています。
それを支えるために通信速度は速くなり、今やデータ通信の際、データの大きさを気にすることはなくなってきました。
潤沢な世界では、情報をいちいち選別せず、収集できる情報はすべて集めて、強力なコンピューターを使って分析することができます。
ビッグデータと検索技術
従来は、データベースに蓄えたデータを分析していました。
データベースは予めデータの構造を設計し、その構造に従ってデータを格納します。
分析は格納したデータから必要な要素を抽出して行います。
そのためデータベースをつくる際、最初のデータ構造の設計が重要です。
後からデータを追加すると、場合によってはデータベースの再構築になることもあります。
クラウド・コンピューティングによる強力なデータ処理能力と検索技術の進歩により、ランダムに収納された構造化されていないデータから、様々な特徴や共通点を抽出できるようになりました。
これがビッグデータ解析技術です。
その結果、今まで価値がないと思われた情報も膨大な数を分析することで、役に立つ情報を導き出せるようになりました。
グーグルなどの検索エンジンがインターネットで検索する技術も同様です。
検索エンジンは、キーワードに関連する膨大なWEBページの中で、最も有益なページを順番に表示します。
IoTと、Ipv6
近年全ての機器をインターネットに接続するIoTが脚光を浴びています。
実は、従来も制御機器やコントローラはLANで接続されていましたし、機器によってはインターネットにもつながっていました。
現在のIoT技術がそれらと異なるのは、全ての機器が固有のIDを持つことです。
これによりあらゆる機器の情報を世界中から集めることが可能になりました。
これはIpv6の普及によるものです。
インターネット上のコンピューターの番地(IPアドレス)は、従来はIpv4でした。
Ipv4は32ビットで43億種類ありました。
しかし世界中のコンピューターの数の増加に比べ十分でなく、IPアドレスの枯渇が問題でした。
そこで、128ビットのIpv6が普及しました。
これにより全ての機器をインターネットに接続し、固有の番地を割り振ることができるようになりました。
![IPv4とIPv6](http://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2017/09/IPv6.png)
IPv4とIPv6
スマートファクトリーとは
では、スマートファクトリーとは、どのような工場でしょうか。
ひと言でいうと、人工知能により高度に最適化された工場のことです。
では、今までの工場との具体的な違いは何でしょうか。
そのキーワードは、3つあります。
サイバーフィジカルシステムと人工知能、機械学習
手元のデータを解説すれば、ビッグデータ解析はできます。
そして分析結果を元に製造条件を変えるとどのように変化するのか、予測できればより正確な工程のチューニングができます。
そこで、コンピューター上に仮想の工場のモデルをつくり、工程条件を変更して結果をシミュレーションします。
この仮想工場のモデルがサイバーフィジカルシステムです。
![スマートファクトリーのシステム](http://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2017/09/industry4.0.png)
スマートファクトリーのシステム
コンピューター上でシミュレーションするために、短時間で何度も条件を変更する事ができ、シミュレーション上で最適解を見つける事ができます。
シミュレーションと最適条件を見つける作業に、人工知能による機械学習が使われます。
IoTとビッグデータ解析
センサー、モーターなどの全ての機器に固有のIPアドレスをつけて、インターネットにつなぎます。
各機器で起きたことは、全てインターネットを経由して蓄積されます。
これを、ビッグデータ解析技術を用いて分析することで、今までベテランの管理者でも気づかなかった特徴や、きめ細かな工程管理を実現します。
標準化(OPCとORiN)
多くの機器がネットワーク上で接続される際に重要なのは、インターフェースの共通化です。
ドイツでのインダストリー4.0でも、標準化が最大の課題となっています。
これについて、以下の3つの取組があります。
1. OPC(OPC-UA)
現在、ERPやMESなどの上位システムと、PLCやパソコンなど設備を制御している機器とデータ通信を行う場合、通信のやり方が各社バラバラなため、それぞれのメーカーに合わせてアプリケーションを開発しなければなりません。
そこでシステムと制御機器の通信ソフトの標準化の取組としてOPCがあります。
異なるメーカーの制御機器同士の通信は、異なる国の言語を話すようなものです。
そのためPLCと上位システムを接続する際は、それぞれ固有の翻訳を行う必要がありました。
しかしOPCという共通言語に対応していれば、どんな制御機器や上位システムも自由に通信ができます。
OPC-UAは、マイクロソフトが開発したプロセス制御向け規格のOLE/ COM/ DCOMから発展したものです。
応答性は劣るものの、セキュリティーレベルが高くプラットフォームに依存しないでメーカーやOSを問わず、柔軟に通信ができるという特徴があります。
OPCを使うと、さまざまな上位システムとPLC等のFA機器を簡単に接続することができ、装置毎に使用するシーケンサメーカが違う場合でも、OPCに準拠したインターフェースで、上位システムを構築すれば修正せずに使用できます。
2. ORiN
以前は、センサーやモーターと、PLCなどコントローラとの接続は、直接配線するアナログ接続でした。
今日では、高度なセンサーやモーターの中には、LANでデータ通信を行うものが増えてきました。
あるいは配線を減らすために、センサーの近くに通信ターミナルを設け、通信ターミナルとセンサーは直接配線し、通信ターミナルとコントローラは、LAN等で通信することも増えてきました。
この通信方式は、PROFINET、EtherCAT、EtherNet/IP、CC-Link、MECHATROLINKなど様々な方式があります。
例え通信方式が同一でも、メーカーが異なると通信するデータの定義が異なりPLCやコントローラのプログラムを変えなければならないという問題がありました。
そこで1999年度からNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の3ヵ年プロジェクトとして,日本ロボット工業会のオープンロボットネットワークインタフェース開発専門委員会から生まれたのが、日本初のFAインターフェースの標準規格ORiNです。
ORiNの特長は、次の通りです。
ORiNに準拠した機器を使用することで、開発したプログラムは、どのセンサーを使用しても、機器の内部状態値の取得,ロギングデータの取得,動作指令などを行う事ができます。
従来.これらプログラムの開発は,機器固有の通信手段を使用するため、機器構成に依存した『一品物』となってしまい、異なる機器構成のラインへの適用には多大な労力が必要でした。
また,開発工数の増大は信頼性や保守性の低下を招いていました。
それに対して,ORiNを用いたプログラムは、機器構成に依存しない『汎用品』となり、コスト,開発期間を短縮し,高い信頼性と保守性の獲得が可能となりました。
以上がインダストリー4.0、及びスマートファクトリーの概要と技術です。
では、これが実際のものづくりにどのように活用されているのか、
これについては次の経営コラム「インダストリー4.0はものづくりを変えるのか? その2」でご紹介します。
本コラムは2016年4月21日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
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