▼ 値上げ交渉のコラムまとめ
製造業の値上げ交渉について、原価計算から交渉までの考え方をコラムでまとめています。
製造業の値上げ交渉コラムまとめ(全27コラム)
取引先の中には仕入先の集約を行うところがあります。
これは間接部門の人員を減らすために、例えば、これまで300社あった仕入先を100社に減らすことです。
その際に、仕入先を選別する指標となるのが、
仕入先の評価結果です。
仕入先の評価
多くの取引先は、仕入先を定期的に評価しています。
例えば、かつてのISO9001には仕入先の評価がありました。そのためISOの認証を取得すれば、仕入先の評価は必須でした。
他にも仕入先を評価する理由は
- 評価結果の良くない仕入先に改善を促す
- QCDに関して仕入先を評価し、評価の低い仕入先は入れ替える
などの目的があります。
仕入先の集約
また前述したように仕入先の数を減らして、購買業務を簡素化する場合もあります。そのため仕入先を評価し、評価結果の低い仕入先との取引を打ち切ります。
しかし仕入先数を減らせば、必要な部材が調達できません。そこで実際は直接取引する仕入先を減らして、減らされた仕入先は、他の直接取引する仕入先から仕事をもらうように調整します。

仕入先の集約
間に1社入るデメリット
そうなると今までは直接取引していた会社は、同じ製品を受注するのに、間に1社入ることになります。これは以下のデメリットがあります。
- 間の1社に管理費を払うため、利益が減少
- 受注までに時間がかかる
- 受注内容の確認に時間がかかり、1社経由するため伝達ミスが起きる
- 取引先から直接情報が入らなくなる。どの機種のどこに使用している部品かわからないため、VE提案がしにくくなる
これが多重下請け構造(サプライチェーンの階層が深くなる)の問題です。
下請けは高くなる
サプライチェーンの階層が深くなるほど、間の会社が管理費や利益を取ります。そのため本来は理論上は原価は高くなります。それが高くならないのは、その分仕入先に低い価格を要求するからです。
例えば、4次下請けが製造する場合、発注先の目標価格が1,000円の部品があったとします。
- 一次下請けは自社の管理費と利益の合計10%を引いて、909円で二次下請けに発注します。
- 二次下請けは自社の管理費と利益の合計10%を引いて、826円で三次下請けに発注します。
- 三次下請けは自社の管理費と利益の合計10%を引いて、751円で四次下請けに発注します。
- 四次下請けは、751円で製造し、利益を出さなければ会社は持続できません。
四次下請けは、発注先や一次~三次下請けに比べて、賃金が低い、設備投資が低く工場の経費も低いなど安くつくれる理由はあります。
しかし一次下請けが909円かかってつくる部品を751円でつくらなければならない四次下請けの会社は、品質を保証するために必要な工程管理や品質管理、トレーサビリティ管理までできるでしょうか。

多重下請けの構造
直接取引を継続するためには高い評価を受ける
このように間に1社入ることのデメリットは大きいため、できる限りメーカーと直接取引するようにします。
そしてサプライチェーンの上位にいるようにします。
それには取引先から高い評価を取らなければなりません。
では仕入先の評価では、どのようなことが評価されるのでしょうか。
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取引先の評価内容
仕入先の評価項目の例です。ここでは8項目を上げました。(これは取引先によって変わります)。
- 経営
- 技術力
- 生産体制と納期管理
- 品質
- 調達力とコスト対応力
- 環境・法令対応

図 評価項目
実際は仕入先を評価する際、定量化できない特徴や要素もあります。そのため、ある指標から一律に評価するのは無理があります。
逆に品質が良くても指標が悪ければ取引先の評価は低くなってしまいます。
そこで取引先の評価内容と指標を調べて、その指標だけは高い評価になるようにします。
以下に各評価項目の具体的な評価内容の例を示します。
1.経営
主に決算書(損益計算書、貸借対照表)から行う財務分析です。
財務分析は主に以下の指標をみます。
この指標を良くするには、決算書を良くするしかありません。ただし経営状態に問題がなくても決算書が良くない場合があります。
例えば
- 設備投資をしたため減価償却が増えて営業利益が赤字
- 債務超過でも借入金の多くが役員借入金
このような場合、その旨を取引先に伝えます。
他にも中小企業経営は決算書だけでは経営状況を判断できないことも多く、取引先は誤解することがあります。決算書が悪くても経営上は問題なければ、その内容を説明します。
事業承継
最近は経営者や社員の高齢化に伴い、事業継続のリスクも評価項目にある場合があります。
中小企業の場合、経営者や中堅社員がいなければ会社が回らないことも多く、経営者や中堅社員の高齢化は経営上のリスクです。
そのため取引先の中には、経営者が高齢でしかも後継者がいない場合、そこに発注している部品は他に別の1社にも発注するように決めているところがあります。
すでに後継者が決まっていれば取引先に伝えます。また中堅社員の若返りを図ります。

図 経営
2.技術力
ものづくりでは重要な要素ですが、定量化は難しいです。
例えば、技術力が高ければ
- 精度・品質・コストの優れたものをつくれる
- 取引先の課題を自社で考案・工夫して解決策を提案
- 自社で設備や治具、金型を改良できる。そのためこれらを内製している
こういったことができます。しかしこういった特徴は、取引先の担当者も詳しくは把握していないことも多いのです。
そこで適正に評価してもらうためには
- 自社がどのように技術があり
- 取引にどのようなメリットがあるのか
自社の技術力を棚卸して、それを資料にまとめてPRします。
3.生産体制と納期管理
生産体制
生産体制で重要なのは供給力です。
- 計画の変動に対し追従できるか
- どこまで増産に対応できるか
自社の供給力を把握しておきます。これには自社の外注対応も含まれます。
時には生産の変動に対応するため、自社で在庫を持たなければならないこともあります。
管理体制の要求
取引先からトレーサビリティ管理を要求された場合、工程管理やトレーサビリティ管理の体制も必要です。

図 トレーサビリティ管理
納期管理
納期通りに部品を納めるのが基本ですが、現実には
- 取引先の計画の変更
- 資材の遅れ
- 元々無理な数を納期を言われた
- 無理な品質を要求され不良が多く数が揃わない
- 設備の故障やミスによる不良など自社の問題
などの理由で納期が遅れます。
その際に「どのくらい遅れるのか」適切な回答が求められます。やむを得ない理由で納品が明日になっても、それを確実に守らなければ取引先の生産に支障が出ます。
そこで適切な納期回答と回答した納期を守るためには、「その製品が今どの工程にあるのか」を適切に把握しなければなりません。
しかも現場で数多くの製品を製造すれば、管理すべき製品も多く、生産管理や工程管理の仕組みが必要です。
特に「工程が多い」、「途中に外注加工がある」といった製品は納期の問題が起きやすい製品です。
納期管理については、納期変更や生産の遅れに対し、正確な納期回答ができ、それが確実に守られる体制が求められます。
4.品質管理
品質はとても重要なので、仕入先の評価とは別に品質だけで監査を行う取引先もあります。
この品質監査では、
- 取引先への流出不良件数
- 流出不良に対する再発防止策とその実施状況
- 仕入先の社内での不良数とその対策
などが監査されます。
大量生産の場合、不良数、不良率に加えて工程能力指数も確認されることもあります。
実際は不良のないものづくりには、以下の2点が重要です。
- ばらつきの管理
- ミス防止
① ばらつきの管理
品質(特性値)のばらつきが大きければ、規格外の製品が増えます。全数良品を保証するには全数検査をしなければなりません。しかし人による検査は見逃しのリスクがあるため万全でありません。
そこで不良品をゼロにするには、ばらつきを抑えてすべて良品になるようにします。このばらつきは工程能力指数から計算できます。
② ミスを防ぐ
もう一つがミス防止です。
ばらつきを抑えても、作業者がうっかりミスをすれば不良品ができます。そこでミスの出ないものづくりも必要です。
あるいは正しい作業が決まってなくて、作業者によってやり方が違っていたり、正しい作業が決まっているのに作業者が守らなかったりすることもあります。
そこで取引先は
- 正しい作業、やってはいけない作業が決まっている(手順書やマニュアルの整備)
- 作業者は手順書やルールを守っている
- 見間違いや作業忘れなどミスを起こしにくいやり方になっている
- 画像検査やバーコードでの検品などシステム化でミスを防ぐ仕組み
これらを監査します。

図 品質管理
実際は、品質(Q)、コスト(C)、納期(D)は、相互に関係します。図のように
品質が悪ければ
- 不良が増えて、不良による損失のため、コストが上がる
- 不良が多ければ、数が足らなくなり、納期が間に合わなくなる
納期に間に合わないと
- あわててつくるため、ミスが起きて品質が悪くなる
- 遅れているものを優先するなど、計画通りに生産できず、現場が混乱して生産効率が低下し、コストが高くなる
このように品質が悪ければ、コスト、納期も悪くなり、納期に間に合わなければ、品質、コストも悪くなります。取引先もそのような視点で評価します。そこQCDの3項目とも良い評価になるようにします。

図 QCDは相互に関係する
5.調達力とコスト対応力
仕入先が材料など部材を自社で調達する場合、仕入先の購買の能力も重要です。
調達・購買
これは
- 価格
- 納期管理
この2点です。
仕入先の規模が小さければ、購入する量も少ないため、価格交渉力が弱くなります。取引先が買えば1,000円の材料を仕入先が買えば1,030円になることもあります。
それでは結果的に取引先が高い材料を買っていることになります。そこで取引先は
- 仕入先が相見積を取るなどして適切な価格で購入しているか
- 取引先が材料メーカーと直接交渉して安く調達するようにできないか
- 取引先が調達して支給できないか
このような点を検討します。
また自社が購入する材料や購入部品の納期は、自社の担当者がどのように納期管理をしているのか、仕入先の評価で確認されます。
原価計算の基礎から原価管理、値上げまでを体系的に整理したページはこちらをご覧ください。
原価計算・値上げの考え方をまとめて読む(無料)
コスト対応力
より低コストで製造するためにどのような努力や取り組みをしているかが確認されます。
大量生産では、取引先は定期的な価格引下げを求めてきます。そこで生産中に改善点を見つけてコストダウンに取り組まなければなりません。
取引先はコストダウン活動がどのように行われているかを確認します。加えて発注価格が定期的な価格引下げでどのように下がったかを確認します(改善できる点は少なく、実質的な値下げになってしまっていることも多いのですが)。
仕入先から図面や仕様の変更を伴ったVE提案の実績も評価されます。取引先の設計者が頑固だったり、リスクに対し敏感だったりして、VE提案の多くが不採用になることも多いのですが、例え不採用になってもVE提案の件数は評価されます。

図 コストダウン提案
6.環境・法令
最近は環境・法令も重視されます。
これは以下の4つです。
- 情報セキュリティー体制
- 法令遵守
- BCP体制
- 低炭素社会への取組

図 環境・法令
① 情報セキュリティー体制
仕入先のコンピューターがウイルスに感染すれば、時には取引先のシステムまでダウンして重大な被害が発生します。今日ではEDIなどで取引先と仕入先で密に情報を共有しているため、仕入先の問題は取引先にまで波及します。
そのため、取引先は仕入先の情報セキュリティー体制を確認します。これは評価というより、問題点を見つけて改善を促す活動です。従って指摘事項があれば早急に対応します。
② 法令順守
仕入先が法に背いて不正なことをすれば、取引先にも悪い評判が立ちます。大手スポーツ用品やアパレルメーカーは新興国に低価格で発注した際、新興国の劣悪な労働環境や児童労働の原因になっていると非難されました。日本でも技能実習生に最低賃金を下回って長時間労働させた企業が問題になりました。
そこで労働法規に従って適正な時間や賃金を守ります。
環境法規に違反すれば、社会問題にもなります。排水、排気、振動、騒音が規制に適合しているか確認されます。
③ BCP体制
仕入先が突然生産できなくなれば、部品の供給が止まり取引先も生産できなくなります。日本は自然災害が多く、過去にも地震で仕入先が生産を停止したことがありました。
そこで取引先は地震、洪水、津波などの自然災害が起きた場合の仕入先の対応を確認します。もし災害が発生した場合、何日ぐらいで復旧可能か確認します。
- 低地で水害に合う可能性が高い
- 山間の沢筋で土砂崩れの危険性がある
- 沿岸部で津波の危険性がある
こういった立地は自然災害のリスクが高いと判断されます。
取引先の中には、こういった供給リスクに備えて、ひとつの製品の仕入先を2社以上にするところもあります。
④ 低炭素化社会(カーボンニュートラル)への取組
国は「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること(カーボンニュートラル)」を目指すと宣言しました。これを実現するには、様々な製品を製造するメーカーも二酸化炭素排出量を削減しなければなりません。
例えば自動車では原価の8割は仕入部品です。いくら自動車メーカーが二酸化炭素排出量の削減に努めても、仕入先の部品メーカーも二酸化炭素排出量を削減しなければ、国の目標は達成できません。
そのため取引先によっては、仕入先にも二酸化炭素排出量の削減を求めます。しかし二酸化炭素排出量を削減するには、よりエネルギー消費の少ない設備に代えるなど投資が必要です。
今のところ必達のような厳しい目標ではありませんが、今後は国の意向によって厳しくなる可能性もあります。
まとめ
以上、取引先が仕入先を評価する内容について説明しました。注意点を以下にまとめました。
- 経営
経営に問題なくても決算書が良くない場合、取引先に説明(取引先はそこで読み取れない)
経営者・社員の高齢化は経営リスクと取られるため対策 - 技術力
技術力はこちらからPRしなければ取引先はわからないため、自社が創意工夫している点を文書にして渡す
- 生産体制と納期管理
外注先も含めて自社の生産能力を把握、また工程管理やトレーサビリティ管理も求められることもある
生産が遅れても納期が適切に回答でき、それを達成できる仕組み - 品質
過去の不良のデータと再発防止の記録を確認
実際はばらつき管理とミス防止が重要 - 調達とコスト対応力
価格と納期管理
定期的な原価低減の実績を評価
VE提案は採用されなくても出せば評価が上がる - 環境・法令対応
情報セキュリティー体制の構築
法令遵守とBCPの構築
取引先が仕入先の集約化を進めている場合、取引先の評価を高めておかないと残れない可能性があります。
実際の評価内容は取引先によって異なりますが、上記を参考にして取引先の評価を高めておくことをお勧めします。
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