【品質とコストの改善】中小企業の5S実践のポイント

5S活動とは、製造現場に関わる人の多くが知っている基本で、5Sとは、1) 整理、2) 整頓、3) 清掃、4) 清潔、5)躾 の5つの言葉の頭文字から取っています。

5Sの意味

この言葉は、日常生活で一般的に使用されているため、人によって様々に解釈されています。製造現場の改善活動で使用される5S活動の用語の定義は以下の意味です。

  • 【整理】 「必要なもの」と「必要でないもの」とを分けて必要でないものを捨てること
  • 【整頓】 「必要なもの」をだけを置き場を決めて表示すること
  • 【清掃】 身の回りのものや職場の中をきれいに掃除すること
  • 【清潔】 職場をきれいに保つこと
  • 【躾】 決めたことを必ず守るように徹底すること

特に整理と整頓は、日常使っている用語と意味が違うので注意が必要なため、現場の管理者やリーダーは、用語の意味を全員に理解させるようにします。

【整理】

中小企業の場合、5S活動の最初のハードルが整理です。]

中小企業の整理の課題

多くの現場では、不要品が多くて製造現場の作業スペースが狭くなり、作業者は狭い場所で大変効率の悪い作業をしていることがあります。特に中小企業では、狭い工場に機械を多数設置したために、十分な幅の通路が確保できない場合もあります。

その対策として、整理を行ないスペースを確保することが重要です。整理については、多くの5Sの本にやり方が書いてあります。しかし現実には多くの企業が苦労しています。

捨てるのは簡単ではない

原因は何でしょうか?

実は、中小企業では、【整理】は経営者しかできないのです現場にある不要品とは

  • 毎月購入する多額の材料から発生する端材
  • 手配ミスや顧客の仕様変更でせっかく買ったのに使用されなかった機器
  • 大量に発注がある見込みでまとめ買いした工具や材料

こういうものです。整理とは、これらを「いるもの」と「いらないもの」に分けなることです。しかし多くの社員は、「いらないもの」があっても経営者に尋ねるより、そのまま棚に入れておきます。

これらの廃却の判断は経営者が行なうのですが、まだ資産価値があることや、また使うときがあるかもしれないと思うと、なかなか捨てられません。その結果、製造現場にモノがあふれかえり、生産性が低下します。

これが大企業では「廃却の心理的な痛み」はずっと低く、廃棄許可の書類を出せば済んでしまいます。これが大企業向けに書かれた5Sの本が、中小企業では実行できない理由のひとつです。

捨てられなければ一時保管する

その場合お勧めなのが、一時保管です。まず現在の生産に使用していないものは、全部現場から取り除き、1箇所に集めます。そして、思い切って捨てることができるものは、廃棄します。

そして、まだ使う機会があるかもしれないものは、動作確認や検査を行ない、梱包して別の場所に保管します。その際、保管開始日と保管期限をマジックで書いておきます。そして保管期限までに使う機会がなければ廃棄します。

このやり方は、最初の判定は経営者が行なう必要がありますが、後は「いついつまでに使用しなかったら、捨てる」と決めておけば、社員が捨てることができます。

端材の廃却

また、日々の生産活動で発生する端材などは、置き場所を決め、保管量を決めておかないと、端材がどんどん増えて、現場のスペースを圧縮します。これも保管量を超えたものは、別の場所に置くか、廃棄するかを経営者が決めます。この場合、どういうときに端材を使用するかルールを決めておかないと、端材がなかなか減りません。

多くの作業では、無理に端材を使用すると、作業のリズムがくずれ、作業スピードが低下し、全体の生産性が低下します。作業者が少々時間をかけても、端材を使用し材料費を下げた方が得か、端材は使用せず少しでも生産性の効率化を図った方が得か、見極める必要があります。

【整頓】

整頓とは、「必要なもの」を置き場を決めて表示することです。つまり「置く場所を決める」とともに「表示すること」が必要です。この置くルールに3定があります。

3定

これは以下の3つです。

  • 定位 どこに (置く場所)
  • 定品 何を (置く品物)
  • 定量 どれだけ (置く量)

表示の対象は、日常で良く使用される原材料、製品、又は仕掛品、さらに工具や刃物、治具などです。

3定の優先順位

整頓ができていない場合は、定量は後回しにして、どこに、何を、置くかを明確にして、置き場所に表示します。

大企業の整頓の例を見ると、工具等がすべて整然と壁に掛かっていたり、置き場所がウレタンで工具の形にくり抜かれていたり、素晴らしい例があります。

しかし最初からそれを達成するのは無理がありますので、置き場所や収納場所を決めて、テプラやカンバンで表示するまでとします。そして使い終わったら必ずそこへ戻すように全員に指導します。特に工具や刃物などは、一日の作業が終了した後は必ず正しい位置に戻すように指導します。

定期的なチェックが必要

それでも時間の経過とともに正しい置き場所になかったり、表示と置いてあるものが異なったりします。従って定期的に置き場所の点検を行ない、表示を直したり正しい場所に移動したりします。

この定期的なチェックを怠ると、最初はきれいに置いてあったのが、いつの間にか元に戻ってしまいます。

ルール無視を放置しない【壊れ窓理論】

誰かが工具や製品を正しく置かずに乱雑な状態にしておくと、「忙しいときはルールを破って適当において良い」というメッセージをその品物が発するからです。その結果、他の作業者も次々と置き場所を守らなくなり、形骸化します。

「壊れ窓理論」(ブロークン・ウィンドウズ理論)というものがあり、業務が形骸化する原因の多くは、「壊れ窓理論」で説明できます。「壊れ窓理論」については、以下を参照ください。

ブロークン・ウィンドウズ理論は、米国ルドガーズ大学の刑事司法学者ジョージ・ケリング教授の理論です。ケリング教授は世界中の警察活動を調査・分析して、ブロークン・ウィンドウズ理論に至りました。

これは1969年にスタンフォード大学のフリップ・ジンバルド教授(心理学者)によって行なわれた実験によります。

カリフォルニア州の住宅街に自動車を放置し、

(1)ナンバープレートを外し、ボンネットを空けたままにしたが、最初の1週間は何も無かった。

(2)そこで、フロント・ガラスを壊してみた。すると、すぐにバッテリーが持ち去られ、その後、多くの部品が持ち去られてしまった。

(3)2週間が終わる頃には、落書きが書かれ、ほとんどの窓ガラスが割られ、車は完全に破壊されてしまった。

ケリング教授は、この実験を以下のように理論付けました。

どのステップにおいても『自分だけではない』と言う気持ちを犯罪者に与えており、そのことが以下のステップを徐々に進め犯罪が増加するのです。

(1)落書きが放置されていると、小さな行動にも罪悪感が薄れやすくなる。

(2)軽犯罪が多発し、治安が悪くなる。

(3)この街は、警察の監視がない場所だと判断され、より凶悪な犯罪者が寄り付く。

(4)犯罪がエスカレートし、凶悪事件が発生する。 ニューヨーク市は1980年代からアメリカ有数の犯罪多発都市となっていたが、1994年にジュリアーニ市長は治安回復のために、地下鉄の落書きなど軽微な犯罪を徹底的に取り締まりました。その結果、凶悪犯罪も大幅に減少、治安が回復し、ニューヨークは安心して暮らせる街になったといわれています。

定量

3定のうちで、〈定量〉と、「置き場所のランク」についてです。

3定の中で〈定位〉と〈定品〉が実現できたら、各々の置き場所に最低数量と最大数量を記入し、〈定量〉を目指します。その結果、多すぎたり少なすぎたりすれば、一目で分かるようになります。

これは仕掛品が多すぎたり、生産や出荷の遅れなどの異常が、置き場所の最大数量を超えていることで、容易に分かるようになります。

ただし、このような見える化は、現場の管理者や作業者は嫌がり、理由をつけて反対することがあります。その場合は、管理者が現場のメンバーと良く話し合って、異常がわかることは改善することが目的で有り、決して担当者を責めるわけではないことを納得してもらいます。

また、この〈定量〉も急な受注や欠品で現場が混乱すると守られなくなることがあります。その場合は、混乱が収束した後は、再度〈定量〉を守るように管理者が指導します。

置き場所のランク

もうひとつは、「置き場所のランク」です。実は工場のフロアーは同じようでも、主に物流のアクセスのしやすさから使いやすい場所と、使いにくい場所があります。

例えば、これを一等地から三等地に分類します。すると

通路に面した場所は、物流がしやすく輸送効率が高いため一等地です。

通路から離れていたり、壁際など片側からしかアクセスできない場所は、二等地です。

さらに奥まっていたり、周りを囲まれていてリフトがアクセスできない場所は、三等地です。

整頓して置き場所を決める際も、品物の運びやすさや物流の頻度を考慮して、頻繁に出し入れするものは、一等地に配置します。

実際の中小企業の現場では、一生懸命整理・整頓して空けた場所は三等地で、実は一等地にここ数年使用していない保管品が占拠している、なんて場合があります。その結果、毎回リフトが保管品をよけながら、ジグザグに運転したいたり、保管品のため台車が通れなくて、大回りしていることになったりします。しかも多くの作業者は不便だと思っていても、保管品をどけてください、捨ててください、とは滅多に言いません。その結果、物流に余分な時間がかかり知らぬ間に生産性が低下しています。

こういった点は、現場管理者がよく見て問題に気づく必要があります。このように有効に使用できる場所を優先的に空け、物量効率を高めることが生産の効率化には必要ですが、これは意外と気が付かないポイントでもあります。

清掃・清潔・躾

【清掃】 身の回りのものや職場の中をきれいに掃除すること

【清潔】 職場をきれいに保つこと(清掃した状態を維持すること)、整理・整頓・清潔を維持すること

【躾】 決めたことを必ず守るように徹底すること

清掃

清掃には、1. 日常清掃、2. 清掃点検、3. 清掃保全 があります。

  1. 日常清掃 きれいにする清掃=日常業務に組み込む
  2. 清掃点検 異常を検知する清掃=清掃に点検を組み込む
  3. 清掃保全 故障を防止する清掃=清掃点検業務に保全を組み込む

基本的には、最初に毎日の日常清掃に取組み、日常清掃が定着したら清掃時に設備の異常の検査を組み込みます。さらに定期的に保全と清掃を組み合わせて、日常清掃ではできない部分は時間をかけて清掃するとともに、トラブルの原因となる箇所を異常が発生する前に、対処します。

具体的には、点検・調整したり、消耗部品を交換します。工作機械や自動化設備など大がかりな設備を使用している企業は、この清掃保全は重要です。

設備故障の原因の多くは不十分な清掃

実際、設備の停止が多く、また不良も多く出ている設備を調べたところ、清掃がほとんどされていなかったことがありました。そして設備の不調の原因として、エアーシリンダーの動作が不安定だったので調べたところ、設備に入れる圧縮空気の異物や水分を取り除くフィルターが真っ黒に汚れ、タンクに水がたまっていました。

この場合、週末や月末に時間を決めて3)の清掃保全を行ない、設備を清掃するとともに各部を点検します。また消耗している部分を交換したり、調子の悪いところを調整します。また清掃は、具体的な清掃区域、担当者、清掃時間を決めます。

清掃時間を決めておく

清掃を定着させる上で最も重要なことは、就業時間内に清掃時間を定めて、全員で行なうことです。時間を決めずに作業者の自主性に任せておくと、いつの間にかやらなくなり、もとの汚い現場に戻ってしまいます。また大企業では清掃にもチェックリストを作ったりしていますが、通常の清掃であれば清掃箇所は作業者に任せておいても問題はありません。

ただし、点検も合わせて行なうときは、点検項目はチェックリストを作成しないと、作業者によって点検しない項目が生じてしまいます。また清掃の判断基準に困ったときは、「使う前よりきれいにする」としておけば十分です。

清潔

清潔は、管理者や経営者が常に気を配り、整理・整頓・清潔が甘くなってないか注意します。整理・整頓も一度行なった後は、徐々に崩れていきます。そこで定期的に整理・整頓を行ない、不要品の処分や置き場の表示の見直しを行ないます。棚卸しなどで生産が止まっている機会に行なうようにすれば、定期的にできます。

躾のポイントは、ルールを守ることの大切さを伝えることと、ルールを破った場合は、必ず指摘し原因を問うことです。そして原因が分かった後は、作業者を責めるのではなく、その原因を取り除くようにすることです。

例え小さなルールでも、ルールを破って作業しているのを見過ごせば、いつか大きな不良や事故を起こすかもしれません。従って、管理者や経営者は、小さなルール違反も見過ごさないという意識が必要です。

もう一つ中小企業の躾で重要なことがあります。

トップがルールを守る

それは、経営者も含めた管理者もルールを守るということです。作業者は、仕事をしながらも上司や経営者の行動や言動を実によく見ています。

これぐらいということでも、管理者がルールを守っていないと、作業者はルールを守らなくてもいいというメッセージと受け取り、次第にルールを守らなくなります。これは、以前のブログでお話ししたケリング教授の「壊れ窓理論」でも説明されます。

例えば、工場内着帽の規則に対し、経営者が守らずに無帽で工場内に入ると作業者はそれを見て、人によってはルールを守らなくて良い、と理解します。その結果、急いでいるから、少しの間だから、とルールを守らなくて良い理由を作り、ルールが形骸化します。そして重大な不良や事故が発生します。

【躾】において最も重要なことは、経営者も含めたリーダーが率先してルールを守り、部下の些細なルール違反も見逃さず、指摘することです。(ただし指摘であって、決して怒ることではありません。)

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