【品質とコストの改善】リードタイム短縮

工場では最初に生産計画が立案されます。一般的には生産計画通りに生産するためには日程に若干余裕を持たせます。具体的には「○×工程は次工程の何日前に着工し、何日前に完成させるか」を計画します。

リードタイムが長くなる原因

この時、何か問題があったときの余裕がほしいので「先行日数」を長めにとりがちです。例えば

  • 部品の納期を、必要日よりも前にする。
  • 出庫準備の日程を長くとる。
  • 各工程の所要時間を長めにとる(そのような基準日程を作る)。

いろいろなところで時間に余裕を持って生産を計画します。あまりぎりぎりの日程だと何かあった時納期に遅れるので、担当者は余裕を持ちたいと考えます。日程を守ることは生産管理の重要項目ですから、その気持ちはわかります。

現場の緊張感も低

しかし、余裕のため製造リードタイム(LT)が長くなります。在庫、仕掛品が増加し、余分な資金も必要とします。現場の緊張感も希薄になります。

かといって余裕がゼロでは納期遅れが頻繁に生じるため、この加減が難しいところです。

現場主導ではリードタイム改善は進まない

明らかに言えることは、担当者やその管理者に任せては、余裕をなかなか減らせないことです。その結果、この余裕が少しずつ大きくなり、気が付いたときにはリードタイムは長大になり大量の在庫を抱えてしまいます。

リードタイムや在庫回転日数などの指標を管理していれば異常に気付きますが、こういった指標を管理していない中小企業も多くあります。その場合、経営者や幹部社員が定期的に現場を巡回し、原材料や仕掛品、完成在庫の量を見ておく必要があります。

そしてこれらが増えてきて、作業スペースや通路が狭くなり、作業効率が低下するようであれば、上記の余裕を調べます。材料が入手難になった、外注が多忙で納入が遅れているなど、様々な原因で流れが停滞し、それを防ぐためにあちこちで余裕を増やしている可能性があります。

仕掛品が減少すると

それでは、この余裕が少なくなるとどうなるのでしょうか。

その場合、どこかの工程が遅れるとすぐに問題になります。つまり遅れるという異常を自動的に知らせてくれる警報器の役割を果たします。

これは例えれば水面を下げると、問題のという岩が見えてくることです。

異常がわかったら原因を調査します。例えば、ある工程がよく停止する場合、次の工程の間に仕掛品をたくさん作っておけば、次の工程は止まりません。その結果工程の問題は分からず、現場改善も進みません。

対策しなければならなくなる

しかし仕掛品を減らすと、次の工程が頻繁に止ります。その結果、問題の工程が止まらないように何らかの対策をしなければなりません。

原因は、

  • 部品の精度が悪く検査に合格しない
  • 加工方法に問題があり不良が多い

様々なものがあります。これを改善し、工程が止まらないようにすれば不良が減って品質が向上します。その結果、コストダウンも進みます。これが余裕を減らす最大の利点です。

この活動は現場に自主的に任せるとなかなか進みません。経営者、又は幹部社員が率先して指導する必要があります。実は在庫が増えると、生産量の変動がむしろ激しくなります。これはブルウィップ効果と呼ばれています。

ブルウィップ効果

工場でつくった製品は、最終的には顧客に届けられます。このとき、顧客の需要に変動があると、部品メーカーのようなサプライチェーンの上流は生産量の変動が非常に大きくなります。これは、牛を追い立てる鞭が、手元の動きに比べ先端が大きく動くのに例えて、「ブルウィップ効果」と呼ばれています。

ブルウィップ効果は、部品メーカーと完成品メーカー、小売業者と卸業者などの企業間だけでなく、自社内でも工程の下流に比べ上流では変動が大きくなります。その意味でも、ブルウィップ効果の仕組みを知っておく必要があります。

ブルウィップ効果とは

ブルウィップ効果とは、サプライチェーンの川上事業者になればなるほど、末端の需要動向の変化が増幅されて伝わることをいいます。これは、流通・小売業のサプライチェーンマネジメント(SCM)から出てきた考え方です。

下図のように原材料メーカー ⇒ 部品メーカー ⇒ 完成品メーカー ⇒ 卸売業 ⇒ 小売業というサプライチェーンの中では、小売業のわずかな需要の変動が、上流の原材料メーカーでは大きな変動になっています。

ブルウィップ効果の図
ブルウィップ効果の図

エシェロン在庫

エシェロン在庫とは、自社から見、サプライチェーンの下流に位置する在庫のことをいいます。卸売業者の在庫は、完成品メーカーから見たエシェロン在庫になります。エシェロン在庫は、自社の需要の変動に大きな影響を与えます。

ブルウィップ効果が起こる原因には以下のようなものがあります。

  1. 最終顧客の需要動向が川上に伝わるのが遅い
    発注間隔が長い、需要動向を川上事業者に伝えていない、等の理由で川上事業者に最終顧客の需要動向が遅れて伝わるためです。
  2. 川上事業者は需要変化に対して過剰に反応してしまう
    川上事業者が供給能力が足らずに欠品することを恐れて在庫を余分に持ったり、生産量を余分に引き上げたりすると、過剰在庫となります。その結果、需要が減少したときに最終顧客の需要以上に、需要が減少します。つまり、過剰在庫のためにわずかな需要変化に対して敏感になってしまいます。好景気が大きいほど、この後の不況が大きくなる原因のひとつにブルウィップ効果の影響があります。
  3. リードタイムが長い
    製造リードタイムが長いと、より遠い未来の需要動向を、現在の需要動向から予測しなければなりません。その結果、生産計画や購買計画する不確定要素が高くなります。

ブルウィップ効果を軽減するには

川上事業者が最終顧客の需要動向を早く正確に掴むことです。また、各サプライチェーンの受注から出荷までの時間を短くすることが重要になってきます。そのため、以下のような取り組みがブルウィップ効果低減に有効となります。

  1. SCM体制の構築、サプライチェーンの上流から下流まで、需要動向の情報の伝達を素早くします。SCM(サプライチェーンマネジメント)は、各サプライチェーンの情報の伝達を情報システムで結び、最終顧客の需要動向をリアルタイムに川上事業者へと展開します。
  2. 川下事業を統合する、買収・合併などにより、川上事業者と川下事業者が統合すれば、情報の伝達のスピードアップ、サプライチェーン間の在庫削減が可能になります。例えば原材料メーカーが、完成品を作り、小売までできるようになれば、ブルウィップ効果の影響を減らすことができます。
  3. 生産リードタイムを短縮する、生産リードタイムを短縮することで、より近い将来の需要予測をすればよくなります。その結果、需要予測の精度がUPします。

リードタイム短縮はブルウィップ効果を低減し、生産を平準化させる効果もあります。

供給不足でもブルウィップ効果が起きる

過去に震災やその他様々な要因で供給不足が生じたとき、各サプライチェーンが過剰に反応して、最上流の材料メーカーでは、大量の注文が入りました。そして、その後全く注文がなくなってしまうことがありました。これは、不足すると、今あるものを確保しようと、各社が過剰に購入するためです。そして生産量が減少したときには、大量の在庫消化のために、発注を大幅に減らします。これもブルウィップ効果の例です。

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