多品種少量生産では段取替え時間の短縮が重要です。段取替え時間の短縮はビデオ分析、内段取の外段取化などがあります。段取替え時間の目標の設定や標準化も効果があります。マシニングセンタでは工具のパーマネントセットや工具本数の削減があり、実際にドリル加工をエンドミルに変えたことで段取替え時間の削減に成功しました。こういった取り組みは決して難しくないので、中小企業の現場でも実施可能です。
多品種少量生産の生産現場では、直接生産している時間よりも、段取替えの時間の方が長い場合があります。その場合、生産性の改善やコストダウンには、段取替え時間の短縮が効果的です。
段取時間が長いことのデメリット
段取替え時間が長いと、できるだけ段取替え時間の影響を少なくするためにできるだけ大きなロットで生産しようとします。
在庫の増加
顧客の発注単位以上に生産ロットを大きくすると、その分在庫が増えてしまいます。あるいは、1ヶ月の発注の1,000個でも、発注単位は250個で、毎週納入する場合生産ロットが250個であれば、生産した分は全部納入することができます。ところが生産ロットが1,000個であれば750個はすぐに納入することができず、現場に保管されます。これが現場のスペースを圧迫し、生産性を低下させます。
段取替え時間が長いことはデメリットが多く、段取替え時間の短縮は大きな効果を発揮します。
段取時間短縮の進め方
段取替え時間の短縮は、以下のステップで行ないます。
- 現状の段取替え時間を測定します。
- 段取替え作業を分析します
ビデオ撮影で作業を記録し、個々の作業を分解します。 - 内段取と外段取に分けます。
内段取 機械を止めて行なう段取替え作業
外段取 機械を止めずに加工しながらできる段取替え作業 - 内段取で行なわれている作業を外段取で行なうようにします。
- 段取作業自体を簡単にします。
段取時間短縮のポイント
例えば工作機械などの加工機械では、実際に取組むポイントとして、
- 加工治具の取り付けのワンタッチ化やボルトレス化
- 刃物のパーマネントセット化
- ワーク毎の加工条件の一覧表や、条件出しの目印
- 汎用計測器から、通止めゲージへの変更
- 工具を機械のそばに置いたり、現場の配置を見直すことで、歩行距離の短縮
- 複数での作業
などがあります。改善により当初75分かかっていた段取替え時間が、6分にまで短縮した例もあります。1日1回段取替えがあった場合、生産性の大幅な向上が実現できます。
具体的な取組例
工作機械
以下は実際に私が体験した工作機械の段取時間短縮の進め方の例です。
- ステップ1 目標値の設定
段取替えの目標時間が決めてないことがあります。作業者は何分で段取替えするのが適正か知らないため、マイペースで段取替えを行っています。その結果、段取替えの早い作業者と遅い作業者で時間の差は2倍近くになっていました。
そこで特定の製品で良いので、段取替え時間を測定し、目標値を決めます。 - ステップ2 作業分析
作業者によって時間がばらつく原因に、段取替えのやり方がばらばらな場合があります。
そこで段取替え早い作業者の作業をビデオ撮影し、「どうやって作業しているか」全員で分析します。
そして早い作業者のやり方を標準化します。
金型の交換、工作機械のクランプ治具やバイスの交換、加工条件の調整などは、作業者毎に作業の順序ややり方に違いが出やすい箇所です。 - ステップ3 内段取と外段取の分析
内段取と外段取に分けます。ステップ2で撮影したビデオで見て、外段取にできる作業を洗い出します。 - ステップ4 内段取の外段取化
内段取を外段取にできないか考えます。
例 マシニングセンタでの多品種少量生産
マシニングセンタはツールチェンジャーに30本などの工具(刃物)をセットし、加工中は自動で工具を交換します。製品が変わって30本の工具が変わる場合、ツールチェンジャーの工具を交換しなければなりません。工具の交換はツールホルダーを機械から外して、ツールホルダーの工具を交換します。これは時間がかかります。
そこでツールホルダーを購入して、加工中に次の生産のための工具をツールホルダーにつけておきます。これが内段取の外段取化です。工具をつけておいて、段取替えの際がたくさんあれば、あらかじめらないことがあります。その結果、工具交換の時間が段取替え時間の大半を占めることがあります。工具の数の分だけをツールホルダを用意して、工具をつけたままにすれば(パーマネントセット)大幅な時間短縮ができます。
一方そこまでツールホルダを購入できない場合は、繰り返し生産する製品については工具だけでも製品の種類毎にまとめて保管すれば、工具を探す時間が短縮できます。
あるいは工具をホルダにセット作業を、前の製品の生産中に行なうようにすれば(外段取化)、段取替えによる停止時間は大幅に短縮します。 - ステップ5 作業改善
調整・セット時間の短縮
段取替えでバイスやクランプ治具を交換した場合、適切な位置にすぐにセットできるように、位置決めブロックや位置決めピンを取り付けます。重いバイスは動かすのも大変です。ハンマーでたたいて位置を合わせるだけで何十秒もかかります。位置決めブロックがあれば、短時間に終わります。
測定時間の短縮
テスト加工後の測定でノギスやマイクロメーターなどの汎用測定器は時間がかかり、測定ミスも起きます。リピート製品するものは、製品専用に測定ゲージを作っておけば、測定時間は短縮出来、測定ミスもなくなります。
マシニングセンタのパーマネントセット
マシニングセンタなどツールチェンジャー(工具自動交換装置)のある設備は、多品種少量生産ではできるだけ多くの工具がセットできれば、加工する製品が変わっても工具を交換しなくて済みます。しかしツールチェンジャーにセットできる数には限りがあるため、ツールチェンジャーにセットした工具のうちで、何本かはどの製品にも共用の工具として、交換しないようにします。これはパーマネントセットと呼ばれます。
パーマネントセットの工具は常に同じ工具として、ほかの工具を製品によって交換します。その際、多品種少量生産では加工時間を多少犠牲にしても、工具交換の頻度を減らした方が段取時間が短くなり、結果的に生産時間も短くなります。
プレス金型メーカーH社の取組
プレス金型では、多数の穴をあける部品があります。一般的には穴の大きさに応じたドリルを使用します。そのため様々な大きさの穴があると、段取替えで多くのドリルを交換しなければならず段取時間が長くなります。
そこでH社では、加工時間が多少長くなっても、エンドミルで加工することで1本のエンドミルで複数の径の穴を加工できるようにしています。
下表はあるワークを加工する際に従来のドリルで加工した場合とエンドミルで穴加工した場合を比較したものです。
従来 | エンドミルで穴加工 | |
刃物 | ドリル | エンドミル |
本数 | 17本 | 8本 |
総数 | 25本 | 16本 |
交換回数 | 13回 | 4回 |
段取時間 | 2時間22分 | 1時間17分 |
加工時間 | 6時間33分 | 6時間31分 |
合計時間 | 8時間55分 | 7時間48分 |
この例では、ドリル加工とエンドミル加工で加工時間に差はありませんでした。しかし段取時間がおよそ1時間短くなったため、合計時間も1時間近く短縮できました。
段取時間短縮といっても、作業時間を短くする、内段取を外段取化するだけでなく、段取時間と加工時間のバランスに着目すれば、新たな改善点が見つかります。
射出成形の段取時間短縮
樹脂の射出成型の取組のヒントをご紹介します。段取替え時間の短縮の5ステップは、
- ステップ0 現状の段取替え時間を測定します。
- ステップ1 段取替え作業を分析します。
- ステップ2 内段取と外段取に分けます。
- ステップ4 内段取で行なわれている作業を外段取で行なうようにします。
- ステップ5 段取作業自体を簡単にします。
ですが、実際には、ムダ取りから始めるケースが多いです。
例えば、成型機では、次の生産用の金型の置き場が整理されてなく、作業者が現場を歩き回って探している事があります。金型に識別のラベルを貼り、すぐに分かるようにします。また金型の置き場を、製品の種類毎や発注先毎にするなどのルールを決めてすぐに探せるようにします。また必要な工具がキャビネットなどにしまわれていて、取り出すのに時間がかかる場合があります。
誤った指導が改善の妨げになった例
ある企業では外部から5Sの指導を受けた際に、整理整頓を励行するため、工具を工具キャビネットの中にしまうように指示を受けました。しかし使用頻度が高い工具を遠くのキャビネットにしまうと、歩行距離が長くなり取り出す手間も増えたため、次第に守られなくなりました。
5Sの基本はすぐに使える、すぐに戻せることです。
必要な工具は厳選し、作業場所の近くに置き場所を設けます。またひっかけるなど、すぐに取り出せるようにします。
射出成型の内段取の外段取化
次に内段取の外段取化に取組みます。成型機などでは、金型の予備加熱にかかる時間が最も多くかかります。予備加熱装置を購入して、予備加熱を外段取化すれば段取替え時間は大幅に削減されます。一方費用もかかります。
試し打ち時間の短縮
次に段取替え時間の短縮に効果があるのは、金型交換後の試し打ち時間の短縮です。製品の大きさや形状が変われば、金型温度や材料の射出圧力などの成型条件が変わります。オペレーターは、試し打ちをしてできあがった製品を測定したり、外観を見て、成型条件を調整します。この調整のやり方はオペレーターによって様々なやり方があり、試し打ち時間も異なります。
この調整方法を標準化すれば、試し打ち時間のばらつきを減らすことができ、生産に入ったときの品質を安定させることができます。特に近年は、カケ、ソリ、キズ、バリなどの形状だけでなく、異物やウェルト、シルバーといった外観不良も厳しくなっている場合があります。さらに一度不良を出すと全数検査が必要になってしまうときもあります。一度全数検査になると、それを抜き取り検査に戻すのが容易でありません。
オペレーターによって条件が異なっていた例
ある工場では、成型品質が安定しないため調査したところ、オペレーターによっては、できるだけ早く段取替え作業を済ませたいという気持ちから、金型の昇温が不十分と感じつつも、圧力を高めにして生産を開始していました。ところが生産を開始すると、金型の温度がさらに上昇するため、当初の圧力では高すぎてしまい品質がばらつきます。それをさらに温度や圧力を調整するため、生産中の品質が不安定になっていました。
そこで生産開始する際の温度を決めておくと品質が安定しました。成型機のように温度と圧力のようないくつものパラメーターを変えて調整する設備では、調整方法を作業者に任せておくと、作業者毎のやり方が発生してしまいます。そして基準があいまいとなり、製品を出来映えを見ながら、あちこちのパラメーターを変えてしまい、製品の品質が安定しなくなります。
そこで調整する順序と、判断基準を明確にします。さらに製品毎に調整結果を記録し、リピート生産の際は同じ調整値で行なうようにします。従ってこの部分を改善することで、段取替え時間の短縮だけでなく、製品品質の安定させることもできます。このような取組は、樹脂成型だけでなく同様の設備を使用している現場に取り入れることができます。
生産性の向上には段取時間の短縮
多くの現場では、品種が増えて段取回数が増えています。生産性の向上には段取時間の短縮が大きく効いてきます。その一方、中小企業の現場では、段取作業は属人化し作業者によってばらばらです。そのため作業者によって段取時間にかなり差があります。
この段取作業を関係者で分析し、改善すれば大きな効果が期待できます。これは手が早い人の作業をビデオで撮影して、みんなで見て自分たちとの違いを比べればできます。あるいは上記のような段取時間と加工時間のバランスに着目して、加工時間が多少長くなっても段取時間を短くできるアプローチも有効です。
ぜひこれらをヒントに段取改善を進めていくことをお勧めします。
経営コラム ものづくりの未来と経営
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