製造業の個別原価計算6 「その見積に販管費、営業利益は入っていますか?」
つくるほど安くなる経験曲線
家電製品やパソコンなどの量産品では、最初の段階は赤字になっていることがあります。
つまり製造原価が受注価格を上回っています。
例えば、ソニーが初めてトランジスタラジオを発売した時、トランジスタの歩留まりは3%、大赤字でした。
それでも多くの企業が発売するのは、他社に先行して量産している間に、原価低減を行い、製造コストを下げることができるからです。
これは経験曲線と呼ばれ、ボストンコンサルティンググループのブルースヘンダーソンが体系化しました。
(それ以前にも、量産することで製造コストは下がることは経験的にわかっていましたが…)

経験曲線
モジュール化により購入品の価格引き下げに注力
ところが最近この構造が変わってきています。
多くの製品は、構成部品のモジュール化が進んでいます。
極端な例では、パソコンなどは最終のメーカーの製造時間はわずかです。
マザーボード、ディスクドライブ、液晶画面などパソコンの構成部品は、それぞれのサプライヤーで製造され、メーカーで短時間に組立てられ、出荷されます。
パソコンの製造原価に占める組立費用は少なく、最も大きい費用は部品の購入価格です。
つまり自社で原価を一生懸命低減しても、製造コストの削減は僅かです。
自動車も同様です。
例えばトヨタ自動車(株)自身の、製造原価に占める自社の費用の割合は8%前後にすぎません。
原価の大半は、購入部品が占めています。
最も購入部品もサプライチェーン全体で見れば、下請けの工場が作っているわけで、自動車全体で見れば、製造コストの多くを占めるのは労務費です。
しかし将来、自動車のモジュール化が進み、パソコンのように巨大なサプライヤーが多くの自動車メーカーに標準化したモジュール部品を供給するようになれば、この構図が変化するかもしれません。
従来はメーカーの要求する個別の仕様に基づいて、トランスミッションやパワーステアリングユニットなどユニット製品をサプライヤーが開発していました。
しかし今後、顧客の要求に対して自動車の性能が十分に高くなって、性能で差別化できなくなると、わずかな違いのためにそれぞれの車種固有のユニット製品を開発するよりも、車種間をまたいで広く共通化したユニットを大量に生産しても十分になります。
そうすればコストが大幅に下がり、他社に価格で差別化できます。
そうなると自動車メーカーの力が低下し、代わってサプライヤーが強い力を持つようになるかもしれません。
このように自動車に限らず、多くのメーカーはコストに占める購入品の割合が増加しているため、コスト削減のためには購入品の買い入れ価格の引き下げが必至です。
経験曲線の効果が出にくくなったものづくり
これらのメーカーに部品を供給する中小企業のものづくりは、人に頼る作業も多く、改善の余地はあります。
量産品の立ち上がりは、最初は時間がかかっていますが、数をこなすにつれて速度を上げたり、固定を集約したりして加工時間を短縮しています。
その一方で、中小企業も製造コストの中で間接費用が増加し、製造原価の割合が少なくなり、従来ほど量産によるコスト削減効果が出なくなってきました。
あるいは最初から改善による原価低減込みで受注し、予定通り原価低減できなければ赤字になってしまうものもあります。
その受注が、利益が出るかどうかの判断
ひとつの方法として、製造原価を材料歩留まり100%、直接労務費ゼロで計算します。
これは究極の改善ができた状態です。
これで利益が出なければ、どれだけ改善しても黒字にはならず、体力を奪われるばかりです。
もし、特定の取引先の受注がこのような状態になっていれば、その取引は考え直す必要があります。
儲かるような見積ですか?
改善すれば黒字になるのであれば、改善に邁進しますが、できれば最初から儲かるように受注したいところです。
そのためには儲かる見積が必要です。
この儲かる見積は、
見積金額=製造原価+販管費+利益
です。
ところが
見積金額=製造原価+粗利
で考える企業があります。
これは問題がひとつあります。
それは本当の利益が見えないことです。
見積に販管費を必ず含める
理由は、この見積だとかろうじて粗利が取れるような受注でも、利益がある気がしてしまうからです。
しかし見積に販管費が入っていなければ赤字です。
事務所の家賃や事務員さんや社長の給料がもらえません。
会社から出ていくお金は、材料費や労務費などの製造原価、そして販管費などです。
対して入ってくるお金は、個々の部品の売上のみですん。
従って、会社の販管費は個々の部品の受注が負担しなければなりません。
製造業は今日、様々な間接業務が増え、販管費の比率は上昇しています。
どの企業でも売上の15~30%はあります。
従って、個々の見積に15~30%の販管費を含める必要があります。
営業利益の考え方
では利益がどのくらいあればよいでしょうか。
製造業では5~10%は欲しいところです。
この営業利益から、借入金の利息など営業外費用と法人税を払い、残りが借入金の返済に充てられます。
その残りが内部留保に回ります。
残った内部留保を蓄えることで自己資本が厚くなります。
そう考えると中小企業は大企業より高い利益率の必要があります。
利益が出る見積
では、そのためにはどのような見積を作ればよいでしょうか。
まず自社の売上高に販管費、営業利益の比率を理解しておくことです。
自社の営業利益率の算出
これは先期の決算書からわかります。
もしあなたの会社が売上1億円、営業利益が500万円であれば、売上高に対する営業利益の比率は5%です。
ただし、この計算方法は、在庫の量が年により大きく変動しない場合に限ります。
在庫が大きく増加すると在庫が負担する固定費が増えて、みかけの製造原価が減少します。
逆に在庫が大きく減少すると在庫が負担する固定費が減って、みかけの製造原価が増加します。
そうなると営業利益の比率が変わってしまうので注意してください。
さらに今期、営業利益を1,000万円にしたいと思えば、見積の利益は10%以上にしなければなりません。
なぜなら大抵は顧客との価格交渉があり、見積の価格通りに受注できることは稀だからです。
自社の販管費比率の算出
それではある製品の製造原価の見積が6,000円だった場合、見積はいくらにすればよいでしょうか。
この場合、自社の販管費がいくらか知る必要があります。
これは先期の決算書から売上高に対する販管費の比率を知ることができます。
例えば、売上高に対する販管費の比率が30%であれば
製造原価 6,000円
販管費 3,000円
営業利益 1,000円
合計 10,000円の見積になります。
この金額は、製造原価に対し、随分大きな金額だと感じるかもしれません。
それだけ、現代の企業は間接費がかかっています。
このように製造原価、販管費、営業利益を理解してお客様と交渉するのと
製造原価6,000円、粗利4,000円として交渉するのでは、
交渉における意気込みが大きく変わります。
実際は、このような大きな販管費や営業利益をお客様は認めてくれないので、見積の中身を調整し、販管費と営業利益を低く見せる必要があります。
これについては別の機会にお伝えします。
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