社会の変化 | 原価計算システムと原価改善コンサルティングの株式会社アイリンク https://ilink-corp.co.jp 数人の会社から使える原価計算システム「利益まっくす」 Sat, 06 Sep 2025 06:44:40 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.7.4 https://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2021/04/riekimax_logo.png 社会の変化 | 原価計算システムと原価改善コンサルティングの株式会社アイリンク https://ilink-corp.co.jp 32 32 企業不祥事と組織の問題 その6 ~組織文化とリーダーの問題~ https://ilink-corp.co.jp/15888.html https://ilink-corp.co.jp/15888.html#respond Mon, 14 Apr 2025 03:28:53 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=15888
概要

企業不祥事と組織の問題 その3で日野自動車の排ガス・燃費不正問題、その4で三菱自動車の燃費不正問題を取り上げました。これらに共通するのは不正以外に方法がないところまで担当者を追い込んだ組織と管理者の問題でした。第三者委員会の報告書には従業員アンケートの結果、そこには無理な目標やできないとは言えない企業風土がありました。内向き組織の組織や現場を顧みないリーダーがどんな結果を招くのか、過去には挑戦戦争のマッカーサー元帥もそうでした。

企業不祥事にについて、以下のコラムで取り上げました。

コンプライアンスと内部統制について、「企業不祥事と組織の問題 その1 ~コンプライアンスと内部統制~

技術者に求められる倫理観と組織の問題について「企業不祥事と組織の問題 その2~工学倫理と問題を起こす組織~」

日野自動車で起きた排気ガス・燃費不正問題について第三者委員会の調査報告書から、「企業不祥事と組織の問題 その3 ~日野自動車の排気ガス、燃費不正~」

三菱自動車の燃費不正問題について、第三者委員会の調査報告書から企業不祥事と組織の問題 その4 ~三菱自動車の燃費不正~

スバル・日産の完成車検査不正について、第三者委員会の調査報告書から企業不祥事と組織の問題 その5 ~スバル・日産の完成検査不正~

組織の問題について、日野自動車、三菱自動車の不正問題の第三者委員会の報告書では従業員アンケートの結果を掲載しています。社員が自社をどのように見ていたのでしょうか。

リーダーの問題について取り上げました。

社員は組織をどう見ていたのか

日野自動車の従業員アンケートの結果

日野自動車特別調査委員会は従業員9,232名にアンケートを行い、2,084通(22.6%)の回答を得ました。その中のいくつか抜粋します。

  • そもそも遅延している開発計画をさらに短縮させ、NOと言わせない開発プロセス
  • 計画段階で課題が曖昧なまま工数を検討させ、実際に課題が出てきても追加変更が発生しても元の日程のまま作業に突っ込む
  • 開発・評価が十分な時間がなく、うまくいく前提の日程しか組まれていない
  • 様々な国に向けて多くのモデルを開発、国ごとに法規制が異なるため開発リソースが不十分
  • 法規に適合する性能があるか、認定試験に十分な設備があるか、十分に検討せず、実車試験を開始してから問題が表面化
  • 現在の開発リソースではやりきれない製品ラインナップ
  • 万年赤字の製品や地域があるのに進出したことが評価され、天体は「進出を決めた上司の顔に泥を塗り、失敗を認めることになる」ため良しとしない
  • 仕切り会議フェーズは移行管理項目100%が移行条件で問題が残ったままでは次のフェーズに移行できないはずが、「条件付き移行可」で進めていた
  • マネージャーの能力・知識や自分の仕事をマネジメントできてなくても、上のいうことに素直に従うイエスマンが昇格する
  • 「問題解決ができない」「日程を守れない」と報告すると「こいつは能力が低い」と評価されてしまう
  • 「できない」と報告しても「どうしてできないんだ説明しろ」と言われてしまい、できないことを説明するのが難しく、できない状況を説明する時間がもったいないので業務を優先してしまう
  • 達成不可能な目標を精神論で乗り越えた社員が評価される風土がある
  • 見かけ上の成果を上げた社員が評価され、その後同様の影響力を行使するという悪循環
  • 組織改革をが続き組織の分裂や統合により従来の組織で対応していた役割が引き継がれずに三遊間が生まれる
  • 自分たちのやってきたことは正しいと思い込んでいる人たちにより変革が進まない
  • 今まで問題なかったのになぜ変えなきゃいけないんだ」「俺の言うことを否定するのか」など恫喝とも取れる態度で接する傾向がある
  • 経営層が決定を下すまでの情報収集や資料作成に必要以上に時間がかかる
  • 権限移譲が進んでおらずなんでも上の方にまでもっていく必要があるため、社長や役員へ報告・相談を行う、そこで何か一言コメントしなければならないと思った上の人がコメントするとそれが宿題になって雪だるま式に仕事が増える
  • 問題が発覚して日程に間に合わなければ担当者が開発状況を管理する部署の前で説明させられ責任を取らせる「お立ち台

アンケートの結果から、困難な目標や日程に対し、管理者は担当者をサポートするどころか、叱責して追い詰めるばかりで、具体的な解決策を提示になかった様子が伺えます。

三菱自動車の社内アンケートと社員へのヒアリング結果

特別調査委員会は2026年三菱自動車の開発本部及びMAEの社員4500人にアンケートを行い、849通の回答を得ました。主な意見を以下に示します。

  • プロジェクトの途中で営業部門からの意見で自動車のコンセプトや使用、場合によってはプラットフォームやエンジンの使用まで変更になることがある
  • MMCにおけるとりまとめは一般的なマネジメントではなく形式的な集約作業に過ぎず、取りまとめをしている者は、案件の実務を担当者に丸投げしている、また責任も担当者に押し付けている
  • エキスパートや担当部長が、開発目標の達成が困難である旨の相談に対して聞く耳を持たず「とにかく目標を達成しろ。やり方はお前らが考えろ」としか言わないため、相談しようという気になれない
  • 部署の上の人は部門の上の人に対してイエスマンの状態、下の者は無理だと思っていても上の人が更に上に「やれます」と言っているため、上に行っても無理なことが分かっているから言いに行けるところがない
  • 開発の現場を本社経営陣が把握していないと感じ、今まで開発現場の意見が上がっているはずだが、改善される様子はなく、開発現場では諦めに似た空気も出ている
  • 経営幹部が見て回っているところがなく、少しでも時間をかけて自分の目で確かめる行動をしてほしい
  • 過去の不祥事の際にそれに対する総括が社員に示されていない

図9 正しい情報が上がってこない

2011年に従業員に対して行ったコンプライアンスアンケートの結果、コンプライアンス問題としてアンケートに記載されていたことには以下のものがありました。

  • 競合他社がやっているとはいえ、燃費を上げるために実用上かけ離れたことをやること
  • 無謀な超短期日程、少ない人員で開発した自動車は極めて品質が悪い
  • リコール問題を起こす前と状況が似ており、再びリコール問題が起きるのではと危惧している
  • 虚偽方向などいまだに存在する
  • 納期を守るための偽造データの作成

また2009年から2015年にかけて行われた性能実験及び認証部における技術倫理問題検討会では以下の指摘がありました

  • 根本にある考え方=減点主義、事なかれ主義(自部門の責任ではないことを示したい)、コスト優先になっている(損費を減らしたい意識)
  • 悪い話は早く報告する姿勢を求められながらも、実際に報告すると怒られる→この体質改善が必要。不具合報告をした人が損をする体質を改善するべき
  • 技術的裏付け(試験結果も含む)なく妄想レベルでハードが決定される
  • 開発キックオフの時の技術構想が不十分(このシステム、開発期間で各規制、目標を達成できるか)
  • 開発キックオフ時の技術構想案についてできそうにないと感じても、できないことの証明がうまくできない
  • 検討のための時間を確保するのが難しい(別機種を開発している)ことも一因

技術開発の現場ではうまくいかないことや失敗は常に起きます。それを一人で解決するのは限りがあります。

多くの企業はこうした困難に対し、様々な部署や人が協力して克服しました。それがお互いに背を向けて自分の問題だけ見ていれば、組織の力が発揮できません。

過去にリコール隠しというコンプライアンス違反があった同社は、コンプライアンスに対するアンケートや企業倫理問題検討会を実施してきましたが。そこでは今回の不祥事の原因となるような問題も報告されていました。しかしこうした組織や管理者の問題は改善されませんでした。

組織とリーダーの問題

これまで見てきた日野自動車、三菱自動車、日産、スバルで起きた問題は、それぞれ企業固有の問題でしょうか。これらの問題は、経営陣や幹部社員が現場や社員を置き去りにして、業績や生産性を追求した結果、必然的に発生したものではないでしょうか。

そうならばこうした不祥事は、どこの企業でも起きるのではないでしょうか。

十分な検討や技術的な裏付けの元、目標が設定されていたか?

日野自動車、三菱自動車では、経営陣が技術的な知見に照らして実現可能性を再考することなく、担当部門や担当者に目標実現のプレッシャーを強くかけました。その結果、担当者を不正しか方法がない状況に追い込まれました。その背景に実力以上の製品ラインナップや開発期間の短縮がありました。そしてこうしたことが常態化したため、現場は疲弊し声を上げることもなくなっていました。

現場の疲弊は経営者にまで伝わっていたか?

完成車検査制度や惰行法による排ガス測定は、当時の自社のリソースから見れば無理な状況でした。にもかかわらず現場だけで解決しようとして、法規から逸脱してしまいました。スバルや日産の不正は、わずか数十人の完成検査員の不足が原因です。もし不正の影響の大きさ、発覚した場合の損失金額を考えれば、少なくとも経営者ならばいくらでも手を打つことができた問題でした。しかし経営者は問題を適切に把握できていませんでした。そして問題は現場から経営者に伝わらず、発覚して初めて経営者は知りました。その原因に以下の2つの要素が考えられます。

内向き組織と現場を見ないリーダー

内向き組織

日本社会はムラ社会といわれます。そして企業もムラ社会であると同時に、企業内部の組織もムラ社会を形成します。ムラの中では、ムラ(組織)を守ることが優先されます。時には会社全体の利益よりもムラが優先されます。例えばスバルでは老朽化した設備の更新は経営陣に訴えられず、現場が工夫して何とかしようとします。その結果が不適切な検査でした。

三菱自動車の性能実験部は、会社の中で、自分たちのムラの立場でもできないと言えませんでした。その結果楽観的な回答を経営陣にしていました。

こうした価値観の中に、こうした結果からもたらされる“性能の出ていない車”を買う顧客のことはあったのでしょうか。

現場・現実を見ないリーダー

製品全体を取りまとめるプロジェクト責任者が「担当した製品がどのようなもので、試験評価の結果がどうなっているのか」関心を持つのは当然です。評価は担当部署が行うとしても、評価状況を実際に見て、評価の担当者から直接話を聞き、情報を得るのはリーダーとして必要なことです。

それは職制を通じて上がってくる情報には様々なフィルターがかかっているからです。自分の目で見たことと、報告される情報を突き合わせて、初めて適切な判断ができるのではないでしょうか。

頑張ればできることと、頑張ってもできないことの区別

「できない」という報告をリーダーはどう理解したのでしょうか。燃費や排ガス性能にはトレードオフの要素があります。それでもチューニングによって改善できる余地はあるかもしれません。しかしそれは頑張ってできるのか、その判断は容易ではありません。それでも物理的な制約を超えて、「できない」ことが「できる」ようになりません。どれだけ頑張っても、船は空を飛べないし、飛行機は水に潜ることはできないのです。燃費に不利なスクエアストロークのエンジンで、他社のロングストロークのエンジンと同等の燃費性能を出すの、現実には可能だったのでしょうか。不可能を強要したのであれば、担当者に残された手段は不正しかありません。

戦場を一度しか訪れなかった将軍

官僚組織ではリーダーには部下から情報が自然と集まってきます。それに対し個々に指示を下せばリーダーの仕事はできます。しかし部下の報告だけで行う判断と、自ら現場を訪れ、現場の空気感に触れた判断は異なります。

北朝鮮の金日成が突如38度線を越えて始まった朝鮮戦争で国連軍を指揮したのはGHQのダグラス・マッカーサーでした。彼はずっと東京のGHQ本部で指揮を執り、朝鮮半島の戦場を訪れたのは1度だけ、しかも日帰りでした。彼には、夏服しか支給されず、氷点下の冬の朝鮮半島で戦うアメリカ兵のつらさをわかっていたのでしょうか。

朝鮮戦争では、突如北朝鮮軍の侵攻を受けた韓国軍は総崩れとなり国連軍(実態はアメリカ軍)も釜山にまで追い詰められました。しかしその後の仁川上陸作戦をきっかけに国連軍は反攻に転じ、北進を続けた国連軍はトルーマン大統領の意に反して中国国境付近まで進軍しました。この時、中国の周恩来首相はアメリカに「これ以上の進軍は許さない」と警告しました。しかし側近はマッカーサーの機嫌を損なうことを恐れ都合のいい情報しか報告せず、マッカーサーも中国の介入はないという思い込みがありました。そのため中国軍の行動を知らせる情報が入っても、よもや中国が参戦するとは思いませんでした。

11月1日彭徳懐が率いる30万人の中国軍が突如攻撃を開始、国連軍は多大な損害を出しました。国連軍は38度線まで後退し、マッカーサーはトルーマン大統領に原爆の使用許可を求めるほどうろたえました。

コールセンターの異常さを見た社長

花王のエコナクッキングオイル(以降エコナ)は特定保健用食品の許可を得たこともあり、年間売上が200億円、他社にはない強力な商品でした。グリシドールという物質には発がん性がありますが、エコナに含まれるグリシドール脂肪酸エステルは全く別の物質です。そしてグリシドール脂肪酸エステルがグリシドールになるという科学的な根拠はありません。

ところが2009年消費者団体が「エコナ=発がん性」と主張したことで、エコナの発売停止とトクホの取り消しを求める運動を展開しました。マスコミもこれを大きく取り上げました。花王はエコナの販売を自粛し、安全性の説明を続けましたが、報道は更に過熱しました。

花王の尾崎社長は、自らコールセンターに行って、電話が鳴りっぱなしの現場を見ました。「大量の電話がきて、その状態が続くのは異常なことだと。電話の中身はさまざまだったが、社員がかかりきりになるような事態は経営者として続けさせるわけにはいかない。いったん撤退して事を収め、そのうえで再出発しようと決めた。

…社長として安全かどうかという議論よりも、まずこの流れを止めないと会社の存続にもかかわると判断した。」

もし尾崎社長がコールセンターを訪れていなかったら、判断はどうなったのでしょうか。

参考文献

「調査報告書」2022年8月1日日野自動車(株)特別調査委員会
三菱自動車「燃費不正問題に関する調査報告書」 2016年8月1日特別調査委員会
日産自動車「調査報告書」2017年11月17日西村あさひ法律事務所
スバル「完成車検査の実態に関する調査報告書」2017年12月19日長島・大野・常松法律事務所
「それでも企業不祥事が起こる理由」國廣正 著 日本経済新聞社
「ザ・コールデスト・ウィンター」デビッド・ハルバースタム 著 文藝春秋

この記事を書いた人

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企業不祥事と組織の問題 その5 ~スバル・日産の完成検査不正~ https://ilink-corp.co.jp/15727.html https://ilink-corp.co.jp/15727.html#respond Mon, 10 Feb 2025 05:11:08 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=15727
このコラムの概要

国が定める基準に適合していることを国に代わってメーカーが行う「完成検査」で、日産は完成検査員の資格のない者が完成検査を行っていました。同様のことがスバルでも行われていました。さらにスバルでは燃費・排気ガス抜き取り検査において測定データ書き換えも行われていました。なぜこのようことが起きたのか、その背景には余裕のない人員配置とそれを解決するため現場が創意工夫する文化がありました

これまで日野自動車、三菱自動車の燃費不正問題を取り上げました。しかし問題は開発現場だけでなく、製造現場でも起きていました。高い現場力を誇る日本の工場で何が起きていたのでしょうか?

スバル、日産の完成検査不正を取り上げました。

完成検査とは

自動車の場合、本来は新車であっても1台1台の車のブレーキなど走行性能や排気ガスなど環境性能が、国が定める基準を満たしているかを陸運局の検査場に持ち込んで検査を受けなければいけません。


しかし日々生産される車を1台1台検査場に持ち込んで検査するのは大変なので、メーカーが国が定める保安基準や品質基準に適合していることを工場で検査することで検査場の検査を受けたことにしています。これが形式指定制度で、メーカーが行う検査が「完成検査」です。この検査内容は車検に準じて国が定めています。

この完成検査を行う検査員の資格については、「完成検査に従事する検査員は当該検査に必要な知識、及び技能を有する者のうちあらかじめ指名された者であること」と国は定めています。つまり検査員の資格、技量はメーカーが決めることができます。

ところが日産、スバルの工場は自分たちが決めた完成検査員の資格を持っていない作業者に完成検査をさせる不正行為を行っていました。

日産の不正行為

2017年9月18日、国土交通省は日産車体の湘南工場を抜き打ちで立ち入り検査しました。その結果、完成検査員の資格のない者が完成検査を行っていたことが発覚しました。9月29日、日産の国内6工場で、無資格者が完成検査を行っていたことが判明しました。


2017年10月、2014年1月6日から2017年9月19日に製造された38車種、約116万台(スズキや三菱自動車などのOEMも含め)をリコールすることを発表しました。その費用は約250億円と推測されます。

日産の完成検査員の資格

日産の規定では、検査員になるには以下の条件が設けられていました。

  • 従業員(嘱託、期間従業員を含む)
  • 次のいずれか
    (1) 高校、短大、高専、大学、職業訓練校で機械、あるいは自動車の構造に関する学科を履修した者)
    (2) 3級以上の自動車整備士
    (3) 完成検査担当課長が行う講習を受け、理解度試験で80点以上
  • 下表に示す補助検査業務に従事し基礎的技能を有していると完成検査担当課長が認めた者
区分テスター検査最終検査排出ガス検査車両試験
経験期間2か月1か月6か月6か月

補助検査業務期間中は、補助検査員は単独で完成検査はできないため、完成検査員の付き添いが必要です。また補助検査員は完成検査表にも記入できません。完成検査表に押印する印鑑(完検印)は、完成検査員のみに渡される仕組みでした。

不正検査の実態

2016年8月、日産はノートの生産を日産九州から追浜工場に移管しました。それに伴い追浜工場の操業を昼のみから昼夜二交代に変更しました。これにより人員が不足したため、期間従業員を多数雇用し補助検査員にしました。補助検査員に完成検査員の完検印を貸与し、単独で完成検査を行わせていました。


この補助検査員が完成検査を行う行為は日産では1990年頃からありました。しかし国土交通省や日産本社の内部監査の際は、完成検査員のみを完成検査ラインに配置してこのことを隠蔽していました。つまり現場の管理者は、補助検査員単独で完成検査を行うことは不正とわかっていました。しかしこのことは品質課長以上の役職者は全く知りませんでした。品質保証部長や品質保証課長は日々の業務を係長以下の現場の社員に任せ、現場の実情をよく把握していませんでした。


同様に栃木工場、日産九州、日産湘南でも補助検査員による完成車検査は常態化していました。

原因

実際の現場は完成検査員が十分におらず、習熟した補助検査員が完成検査を行わなければ完成検査ラインは回らなくなっていました。ラインの人員配置はギリギリで、完成検査員が補助検査員に付き添って指導するゆとりもありませんでした。一方検査工程に習熟していれば、完成検査は適切に行われているため、資格がなくても問題ないという考えが現場にありました。


こうした要因として日産では工場の自立性を重んじ、一人一人の作業者の創意工夫を評価する文化がありました。現場は与えられた人員で、目標を達成するために自ら考え様々な工夫をしました。これが補助検査員が完成車検査を行う原因のひとつでした。その際、「これが法規違反になるのかどうか」、そして「どのような影響を及ぼすのか」を深く考えることはありませんでした。

スバルの不正行為

2017年の日産の完成車不正検査を受けて、スバルでも社内で調査した結果、日産と同様の事例が本社工場、矢島工場であったことが分かり、10月に公表しました。そして12車種25万台がリコールとなり、その費用は250億円に達しました。

スバルの完成検査員の資格

スバルの規定では、完成検査院は以下の条件が設けられていました。

  • 正社員、期間従業員、派遣社員
  • 下記のいずれか
    2級整備士 かつ完成検査の補助業務2か月以上
    3級整備士 かつ完成検査の補助業務3か月以上
    自動車の構造等に関する80時間講習受講 かつ完成検査補助業務6か月以上
  • 登用前教育を合計24時間トレーナーから受ける
  • 修了試験の結果が80点以上である

スバルの完成検査員の規定では、整備士資格がない場合、補助検査員の育成には6か月もの間、完成検査員が付き添わなければならず、日産よりも現場の負担の大きいものでした。

不正問題の経緯

現実には、登用前の補助検査員が単独で完成検査を行い、検査印は完成検査員から借りて押印していました。しかし国土交通省や社内の監査には、正規の完成検査員のみが検査を行っていると報告しました。この問題に対して、スバルは外部調査チームが調査を行い、調査報告書を2017年12月19日に国土交通省に報告しました。


ところが2017年12月に燃費・排気ガス抜き取り検査において測定データ書き換えの疑いが見つかりました。再度社内で調査を行い、2018年4月27日に調査報告書を国土交通省に提出しました。


しかし2018年5月には国土交通省の立入検査において、燃費・排気ガス抜き取り検査でエラーが発生した測定値を有効としていた疑いが発覚しました。再び調査を行い2018年9月28日に国道交通省に調査報告書を提出しました。


その後も2018年10月の国道交通省による立入検査で、完成検査工程で不適切な検査が行われていたことが判明し、2018年11月5日国土交通省に報告しました。


その結果、合計4回にわたり不正や不適切な検査が見つかりました。これによる累計リコール台数は53万台に上り、リコール費用の合計も320億円以上となりました。

発覚した不正

排ガス・燃費測定時に発生したエラーのデータを書き換えなかった

燃費・排ガス測定は、完成車を抜き取ってシャシダイナモ上で既定のモードで運転して排ガス・燃費を測定します。その際JC08モードで規定された走行から逸脱した時間(トレランスエラー)が2秒を超えると検査はやり直しになります。やり直しにならないように、測定データの逸脱時間が2秒を超えた場合ゼロに書き換えていました。


理由は検査をやり直すとその車の走行距離が50kmを超えてしまうからです。走行距離が50kmを超えてしまうとスバルの社内規定では新車として販売できなくなります。そのため検査のやり直しとなると別の車を抜き取って再試験しなければなりませんでした。そのため再試験は時間がかかり、その月の車両抜き取り計画も達成できなくなります。しかもこのトレランスエラーの原因には、試験での運転ミスや運転の技量不足もありました。だからこうした現場のミスが指摘されるのを避けたかったこともありました。

測定環境の湿度を規定値に書き換え

燃費・排ガス測定環境は、温度25±5℃、湿度が30~75%と定められています。しかし湿度が規定を外れた場合、数値を規定以内の値に書き換えていました。原因は、測定室が古く、冬場は湿度が規定値より下回るためでした。

ブレーキ検査での不正

後輪ブレーキ制動力の検査中にハンドブレーキを引いたり、規定以上の踏力で踏んで、規定値に入るように操作しました。またハンドブレーキの検査では後輪ブレーキを踏んだり、規定以上の力でハンドブレーキを引いて検査結果を規定値に入れていました。ただし国の保安基準で定めるブレーキ検査は、実際の走行状態からブレーキをかけて停止して制動距離を測定します。そのため、今回の不正は国の保安基準には違反していませんでした。


一方タイヤの切れ角を検査する舵角検査は、完成検査工程の一部です。しかしテスタの値が合格にならない場合、手で車体やタイヤを押して規格内に入るようにしたり、逆に最大舵角が検査規格より大きい場合、ハンドルを戻して規格内にしたりしていました。

その他

他にもスピードメーター検査、サイドスリップ検査などで不適切な検査方法が行われていました。

原因

第三者委員会の調査報告書は以下を原因として挙げました。

余力のない検査工程
  • ライン上の全数検査の場合、ピッチタイム(タクトタイム)内で必要な項目を検査しなければならない。そのため不安な個所があっても再確認できない。
  • 完成検査員は法規制の変更に合わせて検査工程の見直しなどの事務作業も担当していた。そのため業務負担が増大していた。
  • 本社工場の試験棟が老朽化し、温度や湿度が規定値に入らなかった。
  • ブレーキテスタが老朽化し、正常な車体でも異常となった。
不適切な行為を防止するシステムが弱い
  • 排ガス・燃費測定データは容易に書き換えできた。
  • 不適切な行為があった場合、それを事後検証するプロセスが不十分だった。
  • 現場の実務者が、設備の能力不足など工程能力を改善する必要を上位管理者に伝えていなかった。
その他
  • 検査員は規則を遵守する意識が乏しい。
  • 完成検査制度を適切に理解していない。
  • 作業のやり方や作業者の教育が現場任せになっていて、不適切な作業も「以前からこうやっている」と疑問を持たない。
  • 完成検査業務に対する経営陣の認識、および関与が不十分だった。

現場力がコンプライアンス違反を招く

欧米の工場は作業者はマニュアルに忠実に従って作業することが求められます。作業者が自らやり方を創意工夫することは基本的には許されません。対して日本の工場は作業者が率先して創意工夫し改善することが求められます。作業者にそれだけの裁量が与えられていますが、勝手に変えていいわけではありません。上司や生産技術などの部署と相談して改善することになっています。

上司より強い作業者

実際の現場は日々変化しています。材料、環境の変化に応じて日々製造条件を調整しています。この時どこまでが作業者の権限で変えてよく、どこまでが上司の決裁が必要なのか、あいまいなことがあります。


また上司が他の部署から移動して、現場についてはベテランの作業者の方が上司よりも詳しいことがあります。上司は自分がわからないことをベテランに聞くこともたびたびあります。そうなるとベテランの作業者の意見が通る現場になります。確かにベテランの作業者は豊富な経験があります。しかしそれはこれまでの法規制や安全規制の中での経験です。そのやり方はこれまでは問題なくても、これからは問題になるかもしれません。

忙しい、間に合わない

そうした中で、人員削減、生産性向上など、これまで以上に現場に負荷がかかっています。その結果、何かを犠牲にしなければ計画通りにできず、その犠牲になるのは検査や確認なとです。「これまで問題なかった」「検査で問題が見つかったことはない」こうした経験から、「忙しい・間に合わない」状況に陥ると、検査や確認が省略されます。あるいは不合格品を無理やり修正して合格品にしてしまいます。これが常態化すると少しぐらい規定から外れてても問題ないといった考えに至ります。

不正を防ぐ組織と人

こうしたベテランの過信は他の業界でも大きな事故や問題が起きています。こうした問題を防ぐためにはトップが「コストや納期よりも重視すべきこと」を明確にし、それを守る組織と人の育成が必要です。

参考文献

日産自動車「調査報告書」2017年11月17日西村あさひ法律事務所
スバル「完成車検査の実態に関する調査報告書」2017年12月19日長島・大野・常松法律事務所

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「労働生産性向上と人材教育 その2」 ~企業が業績を高めるために必要な人材の確保と教育とは?~ https://ilink-corp.co.jp/13126.html https://ilink-corp.co.jp/13126.html#respond Fri, 21 Jun 2024 10:58:12 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=13126
【コラムの概要】

労働生産性向上だけではGDPは増えず、縮小する国内市場と高齢化が課題。イノベーションには企業の高齢化を乗り越え、社員の自律性や学習意欲を高める「ラーニング・ソサエティ」が不可欠だ。

低成長が続く日本は、再び成長するためには労働生産性を高めなければならないと言われています。

そのため、国も労働生産性を高めるべく様々な努力をしています。

では労働生産性が高まればGDPを増加するのでしょうか?

これについては、「労働生産性向上と人材教育 その1 ~労働生産性とは?マクロとミクロの視点~」で、内閣情報調査室 前田氏の「TFP(全要素生産性)に関する一試論」を説明しました。

これによれば労働生産性が向上すれば、国全体ではTFP(全要素生産性)の増加として現れます。しかしTFPが増加しても、需要が増えなければGDPは増加しないのです。

そして日本は需要を増やすことが難しくなっています。それは以下の理由からです。
 

市場が縮小

 
日本のGDPの75%は国内の民間消費だからです。

日本は民間需要(国内需要)が73.1%、公的支出が26.0%、輸出から輸入を引いた外需は0.9%しかありません。

図 2023年のGDPの内訳
図 2023年のGDPの内訳(内閣府ホームページ 国民経済計算より著者作図)

注)以下の通り計算して作成
民間 (公的) の消費と投資 =
民間 (政府) 最終消費支出 + 総固定資本形成 民間 (公的) + 在庫変動 民間 (公的)
この民間需要、特に個人消費は、ほとんど増加していません。図は家計消費の成長率を示しています。

これを見ると2014年の消費税増税8%、2019年の消費税増税10%で個人消費を大きく落ち込みました。

家計最終消費支出の推移
図 家計最終消費支出の推移(内閣府ホームページ 国民経済計算より著者作図)


 

高齢化でさらに縮小

 
日本の場合、問題は人口の減少以上に年齢構成の変化していることです。65歳以上の高齢者が増加し、高齢化比率が急速に高まっています。
 

 図 年齢区分別人口の割合の推移
図 年齢区分別人口の割合の推移

消費者として考えると、高齢者が増加し年金生活者の割合が増えればれば、消費はさらに減少します。なぜなら年金生活者は節約志向が強くなるからです。
 

年金生活者の強い節約志向

年金生活は収入が増える見込みはありません。そのため貯えがあっても、将来貯えが尽きる不安から積極的に消費しません。

そうして80代になると今度は活動範囲が狭くなります。消費する機会が減少します。

日本人はセロトニン(トランスポーター遺伝子S型)という不安遺伝子の保有率が82.25%と世界一高い民族です。(アジア人の平均は70~80%です)

対してヨーロッパ人の不安遺伝子の保有率は40~45%です。それもあって年金も貯えも全部使い切って人生を満喫して一生を終える人も多くいます。しかし多くの日本人には、このイタリアの陽気な老婦人のような暮らし方は無理です。

結局、団塊の世代が引退した2017年以降、期待されたシニア消費の波はやってきませんでした。
 

不安遺伝子は若者消費にも影響

この不安遺伝子のため、若者もお金を使わなくなっています。

非正規雇用が増え、正社員の賃金上昇も低く、将来収入が増え豊かになると実感できません。しかも少子高齢化の加速は、年金制度への不安となり、貯蓄志向を高めます。その結果、総務省「全国消費実態調査」によれば、30代未満の単身所得世代の平均貯蓄額は、男性が1989年の138万円から190万円、女性が132万円から149万円に増加しました。

国が将来も不安のない年金制度を構築し、企業は社員に安定した賃上げを続ければ、若者の消費は増え、GDPは増加するのでしょうか?

問題はGDPの増加にはTFPの増加が必要です。TFPが増加するためにはイノベーション(技術の進歩)が必要です。ところが企業がイノベーションを生みにくくなっているのです。

不安遺伝子が強く、高齢化で節約志向が高まる日本は、そのままでは消費は伸びず、経済は縮小してしまいます。

 

企業自身も高齢化

 
それは企業の従業員の高齢化比率が上昇することで、企業自身も高齢化するからです。

東京商工リサーチの2013年の調査結果によると、上場企業2318社の従業員の平均年齢は40.2歳です。年齢分布が均等であれば、企業の中堅社員は30~50代、60代でも戦力です。中間管理職が実務を担う「名ばかり管理職化」が多くの企業で進んでいます。今では管理業務のみ行う管理職はわずかで、大半が実務を行っています。
 

図 企業の従業員の平均年齢
図 企業の従業員の平均年齢

この社員の年齢の上昇は、企業に以下のような影響を与えます。
 

① リスクを取らない

新事業、新製品は失敗のリスクが伴います。失敗して経歴に傷がつき社内の立場が悪くなることを考えれば、リスクを取って新技術・新製品に取組むよりも、取り組まない方がメリットは大きいと考えます。そのためリスクがあるようなプロジェクトは様々な理由を挙げて反対します。
 

② 新しい価値観、手法を受け入れない

中高年社員にとって、これまでの経験や価値観はアイデンティティの一部です。新しい考え方や価値観、技術や手法はそれを否定するものです。そのため受け入れがたいのです。
 

③ 決定を先延ばしにする

事業活動では、時には時間が成否を決定します。有望な事業でも決定が遅れれば失敗することもあります。しかし彼らは経験があるために、いろいろと不安な点に気が付きます。そのため決定を先送りにします。一方海外の積極的な企業は、早く取組んで早く結果を出すことを重視します。ダメなら早く修正して完成度を高めれればよいのです。

失敗の責任は問わない

アマゾンのジェフ・ペゾズは、早く実験し、早く結果を出すことを常に部下に求めます。だから失敗しても担当者は責任を問われません。

1日で新規事業が決済

中国のIT企業テンセントは、朝4時30分にオーナーの馬氏が思いついたアイデアをメールすると、10時にCEO、10時30分に副社長が意見を述べ、12時には本部長が決済します。15時には企画書が完成し、22時にはその製品の開発期間とリリース次期が馬氏に報告されます。24時間以内に新事業のプロジェクトが走り出します。

グローバル企業と競争するには、このような目まぐるしいスピードで意思決定が求められます。高齢化した日本企業がこのようなスピードに対抗できるでしょうか。

実はアマゾンやテンセントのようなIT企業が成長しても、かつてのようなGDPの成長は来ないのです。

業が高齢化し、イノベーションが起こせなくなった日本では、従来の企業に代わるスピード感のある企業が必要なのです。

 

むしろ今までの100年間が特別な期間だった

 
なぜならこれま出が異常だったからです。

ロバート・ゴードンは著書「アメリカ経済 成長の終焉」で「1870年からの100年がむしろ特別な期間だった」と述べています。

この100年の間、蒸気機関、電気、内燃機関、電気通信、化学工業など多くの革新的な技術が実用化され、生産性は急速に向上しました。しかし、「このような劇的な生産性向上はもう起きない」とゴードンは考えます。

その一方、ムーアの法則に従えば、半導体の進歩はこれからも続きます。情報通信技術の革新スピードは持続します。しかし情報通信技術はこれまでの産業のような雇用や消費の増大をもたらしません。グーグルの検索エンジンは、グーグルを時価総額2兆ドル(300兆円!)の企業に押し上げました。しかしグーグルの社員はたった10万人です。鉄鋼、造船、自動車、電気などのかつての産業に比べはるかに少ない雇用です。

つまりイノベーションを起こし、労働生産性を高めても、かつてのようなGDPの成長は望めないのです。
 

GDPは今の経済活動を表していない

 
そもそも経済の金銭消費のみを対象とするGDPは現在の価値を適切に表していないという考えもあります。

個人がSNSで挙げた情報は多くの人に有益な情報を提供しています。動画に投稿したダンスや音楽は、多くの人を楽しませています。しかし、そこに金銭が介在しないためGDPには何ら影響しません。ボランティアによる社会貢献活動が社会にプラスの価値を提供しても、GDPには影響がないのです。

しかしこういった活動がある社会とない社会では、暮らしやすさ、豊かさが全然違います。

その点で、日本のサービス業も優れたサービスがお金に十分に変わっていない分野です。
 

サービス業だから生産性が低い

 
日本の労働生産性が低いことについて、特にサービス業の労働生産性の低さが指摘されています。国もサービス業の生産性向上を課題としています。

サービス業の平均年収は飲食業108万円、理容・美容業125万円しかありません。業務を改善し、時間当たりのサービスを増やせば、サービス業の労働生産性は向上するのでしょうか。
 

効率化では労働生産性は上がらない

経営コラム「労働生産性向上と人材教育 その1 ~労働生産性とは?マクロとミクロの視点~」で計算したように、単に時間当たりの出来高を増やしても付加価値は増えません。

付加価値を増やすには、生産性を高めるだけでなく、販売量を増やすか、値上げが必要だからです。

しかし市場が縮小する日本は、販売量を増やすのは困難です。いくら割引を宣伝をしても床屋さんに行く回数は2倍になりません。そうなると値上しかありません。しかし高齢者の比率が高ければそれも難しいのです。高齢者は節約志向が高く、値上げすれば、安いところに変わってしまいます。

医療・介護・福祉の分野はどうでしょうか。これらの分野は報酬を国が決めています。国が報酬を引き上げない限り付加価値は増えません。料金は国が払うため、どこを利用しても同じ費用なので差別化しにくい分野です。そこで労働生産性を上げるためには、今までと同じ仕事をより少ない人数で短時間にこなすしかありません。これでは現場は過酷になるばかりです。

では、付加価値を高める方法は他にないのでしょうか?
 

年間500種の新製品

工業製品の場合、独自の工夫をして他社と違うより良いものをつくれば他社より高くても売れます。付加価値は増大し労働生産性は向上します。

岐阜県の電設部品メーカー未来工業は、残業ゼロ、年間休日140日、加えて有給取得率も高い会社です。それでいて営業利益率は常に10%以上の優良企業です。

同社は「常に考える」をスローガンに掲げ、付加価値の高いアイデア製品づくりに努力しています。新製品は毎年500点以上出しています。これがどれほど大変な事か、製品開発に関わった人ならお判りいただけると思います。

労働生産性を高めるのは効率性の追求ではありません。より高く売れる商品やサービスをつくることです。それが少子高齢化で高くても良い商品が市場で受け入れられなくなっているのが問題なのです。

未来工業の製品の顧客は、電気工事会社です。彼らは使いやすい良いものがあれば高く買ってくれます。では一般の消費者に提供する製品やサービスはどうすればよいでしょうか。

ヒントは時計です。世界の時計のシェアはスイスが50%を占めています。その多くがロレックスやカルティエなどの高級時計メーカーです。高額な時計は高い付加価値を生み、スイスの労働生産性を高めています。

サービス業も富裕層向けの商品やサービスを充実すればより高い付加価値を生むことができます。

労働生産性を高めるのは効率性を追求し勤勉に働くことではありません。

そもそも日本人は昔から勤勉だったわけではありません。昔の日本人は働かなかったのです。
 

昔の日本人は働かなかった

 
江戸時代まで、日本人には労働と日常の区別がありませんでした。時間の単位は1刻(およそ2時間)、しかも不定時法のため、夏と冬で1刻の長さが変わりました。「いつまでに、どれだけの仕事をしなければならない」というのはなかったのです。1859年に来日した駐日スイス領事ルドルフ・リンダウは、火鉢の周りでおしゃべりをしながらだらだらと過ごす日本人を見て「矯正不可能な怠惰」と言いました。

その日本も工場は西洋式の「テイラーの科学的管理方法」を導入し、効率性を追求しています。オフィスでも時間にしばられて働いています。時間に対し自分の裁量がないことが労働を苦痛なものにしています。ベルトコンベアーに沿って流れてくる製品に1分ごとに同じ作業を繰り返す仕事に喜びはありません。作業者の唯一の楽しみは、終業のベルが鳴って、この苦痛から解放されることです。

実は今の日本人の勤勉さは、和を重視する文化と集団の圧力によるものでした。だから個人の会社に対するエンゲージメント(組織への貢献意欲、愛着心)は高くありません。
 

エンゲージメントの低い現代の日本人

 
日本企業の社員は、長時間労働やサービス残業も厭わない「まじめで勤勉」というイメージが世界中で広まっています。実は仕事への充実感・達成感は高くないという結果が出ています。

アメリカの調査会社ギャラップ社の2017年の調査によれば、エンゲージメントの強い社員の割合が日本は6%で、139カ国中132位でした。同様にオランダの総合人材サービス ランスタッド社の2019年の調査でも、「仕事に対して満足」と回答した割合が日本は42%と、34カ国中最下位でした。逆に「仕事に不満」と回答した割合は21%で1位でした。

図 仕事に不満がある日本
図 仕事に不満がある日本


 

こうした原因について、ビジネス誌では以下の要因を挙げています。

  • 賃金が上がっていない
  • ルールが多すぎる
  • 意思決定がスピードを欠きストレスになる
  • 経営陣と現場とのコミュニケーション不足
  • 多様性・柔軟性に乏しくワークライフバランスへの配慮に欠ける
  • 業績評価で適切なフィードバックが行われていない

最もな感じがしますが、本当にそうでしょうか。上記の6項目を改善すれば、個人の組織に対する貢献意欲は高まるのでしょうか。
 

同じ仕事を続けることでやりがいを失う

これに対してマーケティング 評論家のルディー・和子氏は、なぜ日本人の貢献意欲が低いのか、これに対しユニークな意見を述べています。

それは「飽きるから」です。

実際、企業の業務はルーティン業務も多く、ホワイトカラーでも単調な業務をかなりの量こなさなければなりません。終身雇用制の元では社員は一生同じ会社に勤務します。組織内の移動も少なければ、何十年も同じ仕事をすることになります。その結果、仕事に飽きてしまいます。飽きたためにやりがいや充実感を感じなくなってしまうのです。

実際、アメリカでの過去10年間の生産性低下は、和子氏は離職率の低下を原因として挙げています。アメリカ人も同じ会社に留まって仕事に飽きると彼女は言います。日本も、異動による一時的な生産性低下が無視できないため、配置転換がとても少ない、あるいは全くない中小企業も多くあります。そのため入社してからひとつの部署に10年以上いる社員もいます。また仕事に飽きた若い社員は、転職してしまいます。

もし社員の貢献意欲が低い理由が、ビジネス書の指摘通りであれば、それを解決するには昇給や人事制度など様々な取り組みが必要です。しかし、ただ飽きてしまうのであれば、対策はもっと容易です。

移動すればいいのです。

一方上場企業は常に利益を出し続けるように株式市場から圧力を受けています。経営者は株価を持続的に上げなければならないのです。
 

イノベーションが起きない中、大企業が利益を増やすには

企業が高齢化し、新製品・新技術などに及び腰な時、付加価値を増やすにはどうしたらよいでしょうか。

具体的に売上は以下の式で計算されます。

売上=材料費+労務費+経費+利益

そこで付加価値を高めるために効果が高いのは、

  • 労務費の削減
  • 材料費の削減

の2つです。
 

労務費の削減

労務費を下げれば利益は増えます。しかし賃金は下げられないので、
賃金の高い中高年をリストラし若い社員と入れ替える
正社員から派遣社員に切り替え
などを行います。派遣社員にすれば生産量の変動に応じて人数を調整でき、労務費を変動費とすることができます。
 

材料費の削減

材料費(外部購入費用)を下げれば、利益は増えます。例えば自動車メーカーの場合、原価に占める外部購入費用の割合は80%もあります。工場の改善よりも購入部品の値下げの方が利益を増やす効果は高いのです。この購入部品には下請が製造する部品も含まれます。

労務費の削減や材料費の削減は、利益を上げるための王道です。しかしこれを継続してもイノベーションは起きず、社員のやる気も低くなるだけです。

目先のコスト削減でなく、社員のやる気を高め、アイデアを引き出す取り組みが必要なのです。

 

労働の質の向上

「労働生産性向上と人材教育 その1 ~労働生産性とは?マクロとミクロの視点~」で述べたように、労働生産性を高めるには

  1. 値上げ
  2. 製造時間短縮
  3. 販売量増加

の3つがあります。

例えば未来工業は、年間500種もの新製品を出すことで、製品の付加価値を高めています。こうした価値の高い製品や技術の実現は、社員の自主的な取り組み、高い意欲、問題解決力が必要です。つまり社員の労働の質を高める必要があります。

ところが日本企業の社員の仕事に対するエンゲージメントは高くありません。では、どうすればよいでしょうか。

ヒントは意外にも戦時中のGMにありました。
 

生産性が高かったGM

GM、フォード、クライスラーといったアメリカのビッグスリーの工場の労働者は、全米自動車労働組合(UAW)に所属しています。彼らにとって、仕事は収入を得るための手段にすぎず、できる限り楽をしたいと考えます。そのため担当の仕事以外はやりません。デトロイトをやめた職人気質の労働者は「デトロイト中の空気がよどんでいる。仕事のある者さえ失業者のようだ」とまで言いました。

ところがGMの工場の社員がやる気に満ち、労働者が多くの改善提案を出した時期があったのです。

それは第二次世界大戦中のことでした。

第二次世界大戦中、GMは大量の兵器の製造を請け負いました。しかし兵器の製造に習熟した工員はおらず、素人を大勢工場につれてくるしかありませんでした。そこで管理者は作業を細かく分解し、手順書には「なぜその作業をやらなければならないか」まで書きました。管理者は作業者を信頼し、作業スピードは作業者に任せました。

銃を製造する工場では、新人が銃の部品を製造できるようになると、新人を射撃場につれていきました。そして正確に加工した部品の銃を撃たせた後、雑に加工した部品に変えた銃を撃たせて、部品の違いをわからせました。

爆撃機の部品を製造していた工場は、本物の爆撃機を工場に展示しました。工員たちは自分たちの仕事がどこに使われ、それがこの戦争にどれだけ貢献するかが実感できました。仕事への意欲が高まり作業効率は向上しました。

工員がより良いやり方を提案する制度も実施され、40万人の工員から、11万5千件の提案が出ました。しかもそのうちの1/4が採用されました。

残念なことは、これだけ生産性の高かった工場が、戦後は前述した退廃した工場に変わってしまったのです。

上記を反面教師とすれば、社員の意欲を高める取り組みはビジネス誌のようなことをしなくても実現できるのではないでしょうか。

一方技術が進歩すれば、社員の能力が不足します。そこで継続的な能力開発が必要になってきます。

 

ラーニングの重要性

GMの工場では、非熟練者でも仕事の意義や目的を伝えることで、意欲を高めて高い生産性を実現しました。その一方、生産性を高めるには、意欲だけでなく能力も重要です。

ノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者ジョセフ・E・スティグリッツは、著書「生産性を向上させる社会」の中で、『今日では国の成功を決める要因は、人や研究への投資であり、ラーニング(学習)が重要だ』と主張しました。

デビッド・リチャードの比較優位説では、国同士相対的に低いコストで製造できるものにお互いが特化し、貿易で生産物を交換すれば双方の国が大きな利益が得られます。

スティグリッツはこれを静学的比較優位と呼び、これに対し、より重要なのは知識と学習によるイノベーションであり、これを動学的比較優位と呼びました。そしてこういった学習を主体とする社会をラーニング・ソサエティ<注記>と呼びました

これからはどの年齢でも継続的に学習と能力開発の機会があり、自ら学習する社会がイノベーションを増やして、その国の経済を活性化させると述べました。
 

<注記>
ラーニング・ソサエティとは、アメリカのロバート・M・ハッチンスが1968年に著した「ザ・ラーニング・ソサエティ」で書かれた言葉で、国民の生涯学習が普及した社会を指します。ハッチンスは、未来には自由時間が労働時間を上回り、自由時間には自己実現を図るような学習が重要と考えました。対してスティグリッツのラーニング・ソサエティのラーニングは仕事の中における学習を指しています。

 

スティグリッツのラーニング・ソサエティ

この学習に関して、スティグリッツはお手本(ベストプラクティス)から学ぶことの重要性を説きました。

国の経済が発展するためには、新たな価値を生み出すことが必要で、スティグリッツは以下の3つを挙げました。

  1. ベストプラクティスを学ぶ
  2. ベストプラクティスから改善し生産性を高める
  3. 新たな製品や事業を創出する

 

① ベストプラクティスに学ぶ

1940年代から1980年代の間、多くの社会主義国は、自由主義国よりも高い貯蓄率と投資率を維持していました。教育投資も積極的に行いました。それにもかかわらず産出量は自由主義国の1/2以下でした。その原因はベストプラクティスに学ばずイノベーションが起きなかったからです。

先進国と発展途上国でも知識に大きな差があります。そこで発展途上国は先進国からベストプラクティス(知識)を導入し、工業化を促進しました。中国が成功した要因は、多くの外資系企業を呼び込み、積極的に知識を吸収して工業化を促進したためでした。

スティグリッツは貿易規制により、自国の産業を保護する「幼稚経済保護論」も提唱しました。発展途上国は当初は自国の工業が弱いので、貿易規制で自国の産業を保護して工業化を促進し、経済成長と生活水準の向上を実現することを推奨しました。
 

② ベストプラクティスの改善

さらにスティグリッツはこうして手にしたベストプラクティスを改善すれば、さらなる生産性向上が実現できるとしました。

アメリカの製造業は1970年代から1980年代前半、1980年代後半から1990年代、この2つの期間で年間成長率が0.9から2.9%に上昇しました。これは他の国よりも1.9%も高かったのです。スティグリッツは、これは業務管理の改善やTQC(全社的品質管理)の導入などの学習強化によるものだと主張します。

対して1995年~2001年もアメリカの生産性は日本やヨーロッパを上回りました。しかしこれは資本蓄積、教育の改善、公式な研究開発投資とは無関係と言います。
 

③ 新たな製品や事業を創出する環境

技術の進歩に伴い必要な知識も変わります。そのため常に新たな学習が必要です。しかし知識を生産し伝搬する点で市場は必ずしも効率的ではありません。そこで知識の生産や研究開発分野は政府が支援する必要があります。

図 新たな学習が必要
図 新たな学習が必要


 

学習により獲得した新たな知識は、ある製品から他の分野の製品へと伝搬し、社会に大きな影響をもたらします。こういった知識の取引は、市場メカニズムというより、むしろ研究者同士のプレゼント交換のような形なのです。
 

この学習を促進するためには以下のポイントがあります。

  • 学習能力 若いほど学習能力は高い「老犬に新しい芸は教え込めない」
  • 知識へのアクセス 「私がかなたを見渡せたのだとしたら、それは巨人の肩の上に立っていたからです」アイザック・ニュートン
  • 学習のための触媒 アイデアは反応を促進、学ぶための刺激が触媒となる
  • 思考方法 創造的思考を作り出すための認識フレーム
  • 触媒作用を引き起こす人との接触 知識は人との接触によって広がる
  • 知識の伝達につながるような人との接触

 

技術の進歩に適応し、常に新たな知識を獲得してイノベーションを起こすには、上記のような取組を促進し、学習する社会(ラーニング・ソサエティ)の実現が重要です。

スティグリッツは人や組織が継続的に能力を高めアイデアを共創することが重要で、知識を生み出し広げるには、政府の役割の重要性を説きました。

こういった学習に関して、最近「人的資本経営」という取組が注目されています。
 

人的資本経営の取組

 
労働生産性向上の本質は、生産活動の効率化ではなく付加価値の向上であり、新製品・新事業の促進、つまりイノベーションです。

そのためには新製品・新事業を促進する人材が必要です。そのため人材教育の重要性は高くなっています。加えて定年の延長もあり社員の年齢構成は変化しています。これからは中高年社員も戦力とする必要があります。ところが彼らのスキルは新たな業務や最新のIT技術に適応しない場合があります。

しかも単純作業、事務作業は非正規雇用が担当するようになり、正社員は企画・管理など今まで以上に高度な業務スキルが求められます。またテレワークなど新たな仕事のやり方も出てきて、これまでとは異なる業務スキルも必要になってきます。その結果、従来のOJTを主体とした人材教育では不十分になってきました。
 

そこで従来の組織構成員としての人材ではなく、設備や技術と同様に社員を資本と考え、教育を資本への投資とする「人的資本経営」という考え方が提起されています。

経済産業省は、企業経営者、投資家、コンサルティング会社などにより「人的資本経営に向けた検討会」を開催し、2020年に「人材版伊藤レポート」、2022年には「人材版伊藤レポート2.0」を発表しました。

人材版伊藤レポート2.0には以下のような項目が提唱されています。

視点

  1. 経営戦略と人材戦略の連携
  2. 現状とあるべき姿のギャップの把握

 

人材戦略の要素

  • 動的な人材ポートフォリオ
  • 知・経験の多様性と包括
  • リスキル・学びなおし(デジタル、創造性)
  • 従業員エンゲージメント

 

ただしこのレポートは、大企業を想定しているため課題や方針については詳細ですが、具体的な教育や育成の記述は少なく抽象的なものになっています。

残念ながらスティグリッツの提唱する「ラーニング・ソサエティ」という継続的に学習し、アイデアを交換することでこれまでにない発想を生みイノベーションを創出する考えが、「人的資本経営」では人事と教育、そして高齢者のリスキルになってしまいました。

見えない未来に必要な能力を自ら考え、選び学習することが必要です。そうして生まれた知識を一時政府が保護し熟成して世に出すことで、次々とイノベーションが生まれる社会がラーニング・ソサエティと考えます。

そのストーリーの中で、中高年が能力を発揮するために必要なスキルを身に着ける必要があるのです。

最後にGDPの成長と生産性向上、人的資本の関連性を下図に示します。
 

図 人的資本の関連性
図 人的資本の関連性


 

参考文献

「生産性を上昇させる社会」 ジョセフ・E・スティグリッツ 著 東洋経済新報社
「企業とは何か」 P・F・ドラッカー 著 ダイヤモンド社
「TFP(全要素生産性)に関する一試論」 前田 泰伸 著 内閣情報調査室レポート
「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」経済産業省
 

この記事を書いた人

経営コラム ものづくりの未来と経営

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労働生産性向上と人材教育 その1 ~なぜ労働生産性の向上が必要なのか?~ https://ilink-corp.co.jp/13105.html https://ilink-corp.co.jp/13105.html#respond Fri, 21 Jun 2024 10:53:47 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=13105
【コラムの概要】

日本は低成長を脱するため、イノベーションによる労働生産性向上が不可欠とされています。労働生産性にはマクロとミクロの視点があり、特にTFP(全要素生産性)の向上が重要です。TFPは資本・労働・経営の質、外部環境で決まり、需要増とセットでGDP成長に繋がります。

バブル崩壊後、日本は低成長が続き、海外と比べて日本は相対的に貧しくなっています。

日本が成長するには、労働生産性を高めなければならない、それにはイノベーションが必要と言われています。

つまり

イノベーション→労働生産性向上→GDP成長

というわけです。

しかし、こう言われ10年以上経過しましたが、大きなイノベーションは生まれず、アベノミクスの第三の矢は実現していません。

図 日本のGDPの増加と増加率
図 日本のGDPの増加と増加率


 

一方、企業も生産性を高め、より大きな付加価値を生まなければ賃金を上げられません。賃金が上がらなければ、個人消費は低迷したままで景気も良くなりません。

どちらも労働生産性の向上がカギです。

この労働生産性はどのようなものなのでしょうか。

 

労働生産性とは

 
生産性は、アウトプットをインプットで割ったものです。

労働生産性とは

「労働の成果(アウトプット)」を「労働量(インプット)」で割った

「労働者1人あたりが生み出すアウトプットの指標」です。

実は労働生産性は、

日本、アメリカといった国レベルで比較するマクロ的な視点の労働生産性と、

各企業の時間当たりの生産性といったミクロ的な視点の労働生産性

のふたつがあります。
 

日本の労働生産性 (マクロ的視点)

 
マクロ的な視点の労働生産性は、GDP(国の踏み出した価値の合計)を就業者数で割って計算します。

ここでGDPは国内で生み出したものやサービスの付加価値の合計で、以下の式で表します。

このGDPは、国内で生産して消費した「ものやサービス」と「海外に輸出したもの」の合計から、「海外から輸入したもの」を引いたものです。

その中で、マクロ的視点の労働生産性は、国民一人が平均してどれだけのGDPを生み出したのかを示します。

一方でGDP(実質GDP)は、1人あたりの労働生産性から以下の式で計算します。

日本がGDPを上げるには、「働く人を増やす」、「1人が生み出す価値を高める」のいずれかが必要です。
 

一方、ロバート・ソローの経済成長理論によれば、GDPの増加は、以下の3つの要因があります。

労働投入量の増加は、国の人口の増加を指します。

資本投入量の増加は設備投資を指します。

ところが人口や設備投資が増えなくても、産出量(GDP)は増加します。

それは技術革新があるからです。技術が進歩し、設備の性能が向上し、仕事のやり方も改善されれば、同じ労働投入量、同じ設備投資金額でも産出量は増えます。

これをTFP(全要素生産性)、またはソロー残差と呼びます。

日本のように今後は人口増加や、高度成長期のような大規模な設備投資が期待できなくても、技術革新があればGDPは増加します。

先に述べたイノベーションとは、この技術革新を指します。
 

TFP(全要素生産性)について

 
安倍政権が2015年に立案した「日本再興戦略」には「生産性革命」が謳われています。これはTFPの上昇を目指しています。

アベノミクスでも、第三の矢としてイノベーションの創出が掲げられています。にもかかわらず日本のTFPの上昇率は高くありません。

どうすればTFPが向上するのでしょうか。

図 日本のTFP(出所 日本生産性本部「生産性データベース」より作成)
図 日本のTFP(出所 日本生産性本部「生産性データベース」より作成)

内閣情報調査室 前田氏による「TFP(全要素生産性)に関する一試論」によるとTFPを高める要素として、

  • 資本の質
  • 労働の質
  • 経営の質
  • 外部経営環境等

の4つを挙げています。
 
これはどのような内容でしょうか。
 

(1) 資本の質を高める

これはより高性能な生産設備を導入することです。

その結果、投入量に対する生産量が増大します。他にも省エネ性能の高い設備を導入すれば、より少ないエネルギー(費用)で同じ生産量を達成できるため、資本の質を高めます。

またブランドのような無形資産があれば、同じ製品でもより高く売れます。そのためこのブランドも資本の質です。厚生労働省の「平成28年版 労働経済の分析」では高級なブランドが多く無形資産装備率が上昇している国ほどTFP上昇率が高い傾向がありました。

例えばロレックスなど高級腕時計は、価格の高さがステータスとなり、多額の付加価値を生みだしています。今日時計はスイスの主要産業のひとつで、スイスは世界の時計のシェアの50%を占めています。

この無形資産には、OFF-JTのような教育による人的資本形成も含まれます。
 

(2) 労働の質を高める

より能力の高い労働者を雇用して、時間当たりの生産量が増加すればTFPは上昇します。

これは製造業の場合、労働者が頑張って製造して生産量を増やすという20世紀的な考え方より、より高いスキルの労働者を雇用して、自動化を推進してより高度な製品を生産し、生産量を増やすという考え方です。

一方サービス業では、より近いホスピタビリテイの労働者を雇用すれば、質の高いサービスが提供でき付加価値を高めることができます。あるいはレベルの高い接客によってリピーターが増えれば、長期的にはTFPの増加につながります。

また博士号など高度な知識を持つ人材が、新技術や新製品を開発すればTFPは上昇します。

社員への能力開発投資とTFPの関係は、内閣府「平成29年度 年次経済財政報告」によれば、企業が能力開発費を1%増加した結果、TFPは0.03%の増加があったことが報告されています。

またワークライフバランスを実現し、女性、高齢者、外国人など社員の多様性が広がれば、TFPが増加する可能性があります。
 

(3) 経営の質を高める

経営者の経営能力が高くなれば、企業が生み出す付加価値が増えてTFPが上昇します。

この付加価値の増大は革新的な製品やサービスだけでなく、物流や流通、マーケティング、管理など業務のさまざまな面(ビジネスプロセス)を強化・改善しても実現します。経営の質は、こういったビジネスプロセスの改革も含んでいます。
 

(4) 外部経営環境等の影響

企業の立地や政府の施策も、TFPの上昇に影響します。

特定の地域に産業が集積することで、優れた労働者が集まるとともに企業間の連携が強化され、新技術の波及効果が高まります。政府の規制緩和が新しい産業を生み出すこともあります。あるいは優れた技術を持つ外国企業が日本に進出すれば技術やノウハウが日本に移転されます。

こういったTFPの上昇はGDPにどのような影響を及ぼすのでしょうか。

前田氏のシミュレーションによると下記の3つの結果が示されました。
 

① 現状のままTFPが3%と大幅に上昇した場合 (需要は変わらない)
  • 供給が増加しても需要は変わらないため、デフレが悪化する
  • 実質GDPは横ばい、物価は下落し、失業率は増加する

この試算からイノベーションが起きて供給が増えても、需要が増えなければ

  • デフレが悪化
  • 賃金が下がり失業も増える
  • GDPは変わらず、国の財政も変わらない

という結果になりました。
 

② TFP3%の上昇とともに輸出が大きく増加した場合

(輸出には外国人観光客の国内消費、インバウンド需要も含まれる。)

  • 供給の増加に応じて需要も増加し、物価と賃金は上昇し、財政収支は改善する
  • 実質GDPは増加、物価は若干上昇、失業率は変わらず、財政収支は黒字化

この試算からイノベーションが起きて、かつ輸出やインバウンドが増加して需要が増えれば

  • 物価が上がり、デフレ脱却
  • 賃金が上がり、それでも失業率は変わらない
  • GDPは上昇し、国の財政は改善される

という結果になりました。
 

③ TFP3%の上昇とともに公共投資を増加した場合
  • 乗数効果が輸出よりも大きいため、輸出よりも成長は大きいが財政は急速に悪化する
  • 実質GDPは増加、物価は若干上昇、失業率は若干改善するが、財政収支は大幅に悪化する

この試算から、イノベーションが起きても輸出も国内需要も増えないため、公共投資で補った場合

  • 輸出よりも乗数効果が高いため、デフレは改善される
  • 賃金はやや上がり、失業もやや減る
  • 国の財政は大幅に悪化する

という結果になりました。
 

イノベーションが起きても需要が増えなければ、デフレが続く

 
このシミュレーションからわかることは、TFPの上昇はあくまで供給側の指標ということです。

需要側の問題を解決しなければ、技術革新はさらなるデフレを誘発するということです。

一方、実際の経済活動において、TFPの上昇がどのような製品や技術により達成されるのかは、よくわかっていません。しかも実際の経済活動は、様々な人々の消費行動など複雑な要因があります。上記のようなシミュレーション通りにならない可能性もあります。
 

企業の労働生産性 (ミクロレベル)

 
企業の労働生産性も基本的な考え方は同じです。企業の場合、1人当たりの労働生産性の他、時間当たりの労働生産性も使用されます。

企業の生み出す付加価値は、売上から材料費など外部から購入した金額(変動費)を引いたものです。

付加価値=売上-外部購入費用=売上-変動費
 

企業で発生する費用は、

  • 外部購入費用 (変動費) : 材料費、外注費、他の資材など
  • 社内で発生する費用 (固定費) : 労務費、会社の経費(工場の経費、販管費)

があります。そこで利益は以下の式で表されます。

利益=売上-費用=売上-変動費-固定費=付加価値-固定費

1人当たりの労働生産性は、この付加価値を就業者数で割ったものです。

時間当たりの労働生産性は、この付加価値を就業者全員の就業時間の合計で割ったものです。

 

改善は付加価値を高めるのか?

上記の式を具体的な企業の数字に落とし込むと、意外なことがわかります。「改善は付加価値を高めるとは限らない」のです。

なぜでしょうか。
 

企業の労働生産性を具体的な数字で検証してみます。

モデル企業A社は、1人のみの会社です。この会社は製品A1(価格1,500円 年間販売量1万個)のみを生産しています。

A社

  • 売上 1,500万円
  • 材料費(外部費用) 500万円
  • 付加価値額 1,000万円

付加価値額1,000万円に対して、A社は賃金600万円、
会社の経費は200万円なので、これを引いて200万円の利益がありました。

A社の労働時間は2,000時間なので、
1時間当たりの付加価値(時間当たり労働生産性)は5,000円/時間でした。
 

材料価格が20%上昇しました。

  • 売上 1,500万円(変化なし)
  • 外部費用 500万円→700万円(200万円増加)
  • 付加価値 1,000万円→800万円(200万円減少)

時間当たりの労働生産性は4,000円/時間に減少します。
利益は0円です。
 

そこで利益回復のため以下の3つの手段を検討します。

  1. 値上
  2. 製造時間短縮
  3. 販売量増加

 

1. 値上げ

値上げをすれば、売上は1700万円に増加します。
付加価値は1,000万円に回復し、利益も200万円になります。

時間当たりの労働生産性は5,000円/時間に戻ります。
 

2. 製造時間短縮

A1製品の製造時間は0.2時間なので、これを0.16時間にして20%短縮します。

しかし売上、外部費用は変わらないため、付加価値は800万円のままです。

1万個の製造に必要な労働時間は1,600時間に減少しますが、その分賃金を下げなければ利益は200万円になりません。

ただし労働時間を短縮すれば、時間当たりの労働生産性は5,000円/時間に戻ります。
 

3. 販売量増加

販売量を1.25倍増加させます。
外部費用も1.25倍の875万円、労働時間も1.25倍の2500時間になります。

ただし賃金は変わらないとします。

その結果、付加価値は1,000万円に回復し、利益は200万円になります。

ただし時間当たりの労働生産性は4,000円/時間に低下します。
 

つまり原材料の上昇などで付加価値が減少した場合、以前の利益を維持するには値上げか、販売量の増加などで付加価値を回復することが必要です。

改善で製造時間を短縮しても、販売量が増加しなければ利益は回復しません。
(生産量に応じて労働時間と賃金が変動できれば別ですが。)

労務費が固定費であれば、材料価格の上昇などで付加価値が減少した場合、時間短縮などの改善では利益を維持できません。

受注を増やすか、値上げするか、付加価値を増やすか、いずれかの方法を取る必要があります。

人口減少など市場の縮小に直面する日本も同様です。
 

計算の詳細は以下に記載します。(ご関心のない方は飛ばしてください。)

参考 計算の詳細

製品A1
売価  1,500円
年間販売量 1万個
年間売上  1,500万円

利益=1500-500-600-200=200 万円
付加価値=1500-500=1000 万円
年間労働時間 2,000時間、1人なので、1人当たりの労働生産性=1000万円
1時間当たりの労働生産性=1000×104/2000=5000円/時間

年間で1万個生産なので
1個の生産時間=2000/10000=0.5時間
A1製品の原価
材料費500円
労務費600円
経費200円

1個の利益=1500-500-600-200=200円
1個の生産時間=2000/10000=0.2時間

【材料価格が20%上昇】
材料価格が40%上昇し、年間では500万円→700万円に増加

● 価格がそのままの場合
付加価値=1500-700=800 万円 200万円減少
利益=1500-700-600-200=0 円

利益はゼロ円になる。労働生産性は
1時間当たりの労働生産性=800×104/2000=4000円/時間
4,000円/時間に減少する。

● 値上 1500円→1700円
付加価値=1700-700=1000 万円
利益=1700-700-600-200=200 万円

利益は200万円と変わらない。

● 原価低減
製造時間を20%短縮、製造時間0.2時間→0.16時間
労務費600円→480円
計算上の原価=700+480+200=1,380円
利益=1500-1380=120円

しかし年間での販売量は1万個で同じ場合、売上1500万円は変わらないため
付加価値=1500-700=800 万円

付加価値は200万円減少し、利益はゼロになる。

● 販売量増加
販売量を1.25倍増加、1万個→12,500個
売上=1500×1.25=1,875万円
材料費=700×1.25=875万円

労務費600万円は変わらないものとする。ただし労働時間は1.25倍となり
労働時間=2000×1.25=2500時間
利益=1875-875-600-200=200円

1時間当たりの労働生産性=1000×104/2500=4000円/時間
材料費が上昇し、1個当たりの利益はゼロになる。

労務費が固定費で変わらない場合、売上を1.25倍にすれば付加価値は増加し利益は200万円になる。
 

なぜ国は労働生産性向上に力を入れるのか?

GDPが成長すれば、年々経済規模が大きくなります。雇用は安定し、家計収入は増加、生活も安定します。税収が増加し政府債務も減少します。従って国家の安定と国民生活の安定にはGDPの成長が不可欠と国は考えます。

GDPを成長させるためには以下の方法があります。

  • 就労者数の増加

今から出生率を上げても、生まれた子供が生産活動に貢献するのは20年以上先です。すぐに効果が出るのは移民の増加です。

  • 労働生産性向上

就労者数が増えなくても一人当たりの生み出す付加価値が増えればGDPは増加します。これは労働生産性の向上に他なりません。 

このような背景から、国は日本の労働生産性を高めるべく努力をしています。ところがなかなか効果が出ません。なぜ日本の労働生産性は低いままなのでしょうか。

続きは別のコラムで紹介します。

参考文献

「なぜ日本の会社は生産性が低いのか?」 熊野英生 著 文春新書
「勤勉な国の悲しい生産性」 ルディー和子 著 日本実業出版社
 

この記事を書いた人

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社会の変革 https://ilink-corp.co.jp/11916.html https://ilink-corp.co.jp/11916.html#respond Tue, 27 Feb 2024 02:11:16 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=11916 技術だけでなく、人口、国家、金融など様々な面でも変化が起きています。

ここではそういった社会面での変革を取り上げました。

(タイトルをクリックすると記事に移動します。)

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今回の衆院選では多くの候補者や政党が積極的に財政出動して景気浮揚を訴えました。しかし財政は大丈夫でしょうか?そこで「財政は問題ない」とした拠り所が「自国通貨を発行できる国はいくら財政赤字を拡大してもデフォルトしない」というMMT(現代貨幣理論)です。MMTはステファニー・ケルトン教授が提唱し、下院議員のオカシオ・コルテス氏が積極的な財政政策の根拠として主張し、日本でも西田昌司参院議員(自民党)などが取り上げました。一方従来の経済学者から「ブードゥ―経済学」とまで言われ、激しく批判されています。MMTの主張は本当なのか?MMT推進派と反対派、双方の主張を取り上げました。1回目はMMTの主張です。

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「中国経済の誤解 ~学ぶべきマクロ経済コントロールと今後の課題~ その2 https://ilink-corp.co.jp/8834.html https://ilink-corp.co.jp/8834.html#respond Sat, 02 Sep 2023 23:16:56 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8834
【コラムの概要】

中国経済は、リーマンショックや不動産バブル、株価暴落など数々の危機を経験。強力な政府主導で対策を打ち、乗り越えてきた。しかし、今後は内需拡大とサービス業発展が課題。債務増大、米中貿易戦争、戦争リスクも抱える中、ソフトランディングできるかが世界経済に大きな影響を与える。

今や中国は世界第二位の経済大国、中国経済の世界に対する影響とてもは大きいです。

加えて日本やアジアの国々はグローバルなサプライチェーンの中で中国と密接な関係があります。中国経済失敗のリスクは計り知れないでしょう。

ところが中国に対する正しい情報は意外にありません。マスコミから出てくる情報は、人日の注目を集めるためにある面をだけを強調しています。

中国経済はこれまで何度もピンチになりながら、苦境を乗り切ってきました。一部の評論家は「悪い一面」だけ切り取って「中国経済が崩壊する」と主張していました。実際はどうでしょうか。

そこでトーマス・オーリック著「中国経済の謎 ~なぜバブルははじけないのか~」を参考に、中立的な視点でこれまでの中国の政治・経済の取組と今後について、2回にわたり述べます。

「中国経済の誤解 ~学ぶべきマクロ経済コントロールと今後の課題~ その1では、中国の政治機構の特徴、そして毛沢東の死後から、改革開放政策に至る過程と、発生した問題について述べました。

ここでは、習近平体制での経済政策と、これからの課題について説明します。
 

中国経済の発展 その2

2008年リーマンショック

「世界の工場」中国はこれまで輸出に大きく依存していました。しかし2桁成長が続いていた経済成長はリーマンショックで鈍化しました。2009年1~3月期は6.5%、2007年の14.2%の半分以下でした。輸出は初のマイナス16%という厳しい数字が出て「非常事態」となりました。

これに対し、2008年11月中国はG20で4兆元(59兆円)の経済対策(内需拡大策)を発表し、世界を驚かせました。しかし実態は、中央政府1.18兆元、地方政府負担1.3兆元、銀行融資1.5兆元でした。

経済対策の多くがインフラ投資でした。

インフラ投資は現金給付に比べ、将来にわたって長く社会の役に立ちます。また生産拡大に寄与します。更にこの非常事態を脱するため、他にもなりふり構わず政策を総動員しました。例えば輸出企業の消費税(中国では増値税)還付率引き上げ、輸出関税の見直し、さらに大規模な利下げを実施しました。

激しい不況(ショック)には、思い切った財政政策が必要で、小出しにすれば不況が長期化することを、彼らは日本などから学んだのです。一方で欧米各国も相次いで利下げを行ったため、海外からのホットマネーの流入が懸念されていました。
 

2009年 超金融緩和 貸出額9.5兆元

6月に経済指標が改善し資産バブルのリスクが出てきましたが、緩和は継続されました。

  • 経済刺激策で最も避けるべきなのは途中で投げ出すことであり、元日本銀行の速水優氏のように落とし穴に陥ることである(バブル崩壊時の景気対策が中途半端に終わった例)
  • 経済を加熱させることの難度は、経済を冷え込ませるよりも高い

中国はこのように考え、個人消費の拡大策として自動車取得減税や、農村への家電普及策「家電下郷」を実施、13%の補助金を導入しました。
 

2009年不動産市場の過熱

一方中国の生産能力はすでに過剰になっていました。これ以上の設備投資の大幅な拡大は困難でした。そのため余剰な資金は不動産市場に流入しました。不動産ブームが中国全土に広がりました。

中国では投資信託など個人向け金融商品はまだ普及していませんでした。また株は価格が乱高下するため、素人は手を出すのを躊躇しました。これに対し、不動産は所有することに夢がありました。しかも個人の投資先としても魅力がありました。政府としても輸出が減少する中、不動産投資の増大は国内成長の下支えが期待できました。

しか不動産市場が加熱すると中国政府は早めに手を打ちました。

2010年4月には人民銀行が金融引き締めに転じ、10項目からなる不動産価格抑制策を施行しました。住宅価格は急落、北京と上海では70%も下落しました。株価も急落し、2010年7月には時価総額の25%が消失しました。

2010年6月、人民元のドルペッグ制が撤廃されたことで、ホットマネーが大量に流入し物価が上昇しました。そこで2010年10月人民銀行は0.25%利上げしました。それでも2011年3月には消費者物価数は5%を超えました。

2012年には欧州の債務危機で輸出が落ち込みました。工業生産、個人消費、投資すべてが落ち込んだため、再び景気刺激策に回帰しました。景気刺激策をやめたもうひとつの理由は、景気刺激策をやめたことで成長が鈍化したためです。つまり景気刺激策をやめるタイミングは非常に難しいのです。

この年、政治体制に大きな変化がありました。
 

2012年11月習近平 総書記就任

総書記に就任した習近平氏は、就任直後から徹底した腐敗退治を行いました。腐敗摘発チーム「虎もハエも叩く」が党最高幹部から下級官吏までくまなく摘発しました。こうして習近平氏は党内に恐怖政治を敷き、権力基盤を確固たるものにしました。一方で腐敗した地方政府ほど成長が遅かったことも判明しました。腐敗は成長の足かせだったのです。

 

図3 習近平
図3 習近平 (Wikipedia


 

2014年5月、習近平は「新常態」を宣言しました。中国はこれまでの二けた成長を断念し、年7~8%の成長の持続を目標としました。

一方、今度は株式市場が過熱し始めました。
 

2015年7月 上海株価指数 3週間で3割下落 11兆元が消失

2007年以降、上海と香港の株式市場での相互乗り入れがありました。こうして国境を超える資本の流れができました

海外からの資本の流入で上海株は上昇を続けました。これに多くの中国人が引き付けられました。多くの株取引の未経験者が株を購入、借金で株を購入する信用取引も増加しました。まさに日本のバブルの様相を呈し始めました。

そこで2015年7月中国証券監督管理委員会は、株式ブローカーが投資家に貸せる金額に上限を設ける方針を示唆しました。これをきっかけに株価が暴落し、11兆元が消失しました。
 

2015年8月 人民元切り下げ1.08%から、大規模な資本逃避

輸出が減少し、しかも上海と香港の株式市場での相互乗り入れによる資本が流出した中国では、人民元は実力よりも割高になっていました。市場は人民元を売り、下げ圧力をかけていましたが、これを人民銀行が買い支えていました。そして2015年8月になってようやく人民銀行は人民元を切り下げ1.08%としました。

これをきっかけに、さらに人民元は下がると予想した市場は、中国の株式市場から大規模な資本逃避を始めました。2016年1月には上海総合指数はピークの1/2に減少し、18兆元が消失しました。ただし企業も家計も資金の運用手段として株式は多くなかったため、株価の暴落による家計や企業活動への影響は限定的でした。
 

サプライサイド改革の実施

2016年1月人民日報は中国でよくつかわれる数字を取り混ぜた記事で「四つの落ち込みと一つの上昇」を開設しました。
4つの落ち込みととは

経済成長の落ち込み
工業品価格の落ち込み
企業利益の落ち込み
財政収入の落ち込み

ひとつの上昇とは「経済リスクの上昇」でした。

これに対し政府は介入を強化し、サプライサイドの改革を実行しました。

大企業の合併を進め、過剰な生産能力に陥っていた工場を閉鎖しました。これにより供給過剰が是正され企業の利益が増加しました。またこれにより雇用が減少したため、公共投資を増加する財政刺激策を行い雇用を吸収しました。人民銀行が2兆元の資金を供給し、スラム街を一掃して住人に住宅ローンを提供しマンションを買うように仕向けました。 

この供給過剰是正策で、

2015年4月に太陽光発電パネル大手保定天威が国有企業初の倒産をしました。

2016年遼寧省の国有企業の東北特殊鋼集団が倒産、負債総額は72億元でした。

過剰債務企業の債務総額は2016年で118兆元(GDPの160%)に上りました。
 

2016年マクロプルーデンス評価とデレバレッジ

こうした政策により、銀行はシャドーバンクを経由した迂回融資で過剰な融資をするのが難しくなりました。加えて銀行は自己資本比率を高めるように圧力をかけられたため、不良債権の処分を推進しました。さらに財務基盤が脆弱な銀行に対しては地方政府が圧力をかけて合併させ、強制的な不良債権の処分をさせた上で公的資金を注入しました。こうして銀行のシャドーバンクに対する融資は2018年半ばにはマイナスに転じました。

実は地方政府が過剰債務に陥った原因は、公共事業の資金を1年以内の短期借入で調達していたためでした。そこでこれを低金利の地方債(5年物)に借り換えさせて返済の負担を低減しました。こうして成長を減速させることなく、貸出のペースを落としてレバレッジの拡大を止めて、リスクを回避したのです。
 

2015年 中国製造2025年 国が主導で技術開発

10の重点分野を定めロードマップを提示し、これに合わせて地方政府も独自に計画を策定し補助金を支給しました。

 

図4 中国製造2025のロードマップ
図4 中国製造2025のロードマップ


 

表 重点10産業・23分野

次世代情報技術①IC・専用設備
②情報通信設備
③OS・産業ソフト
④スマートさ位増のコアとなる情報設備
CNC工作機械・ロボット①CNC工作機械・基板製造設備
②ロボット
航空・宇宙装備①航空機
②航空エンジン
③航空機載設備・システム
④宇宙関連設備(運搬ロケット、衛星など)
海洋エンジニアリング・ハイテク船舶1分野。
製品としては、海洋資源探索、開発設備、
ハイテク船舶、大型低速船舶用エンジンなど
先進軌道交通設備1分野。
製品としては、中国基準の高速鉄道、
中低速リニアなど
省エネ・新エネ自動車①省エネ自動車
②新エネ自動車
③コネクテッドカー
電力設備①発電設備
②送変電設備
農業設備1分野。
製品としては、自動化、情報化、
スマート化した農業機械など
新素材①先進基盤素材
②コア戦略素材
③先端新素材
バイオ医療
高性能医療機器
①バイオ医薬
②高性能医療機器

出典:中国製造2025重点領域技術創新路線図
 

当初は外国の技術をリバースエンジニアリングし、その後は国産化比率を高める計画です。国産化比率は2020年までに主要部品の40%、2025年までに70%に引き上げる計画です。

そのための研究開発投資は、2017年は中国は4440億ドル、アメリカ4830億ドルに肩を並べています。対するEU3660億ドル、日本は1730億ドル(19.1兆円)でした。
 

図5 主要国における研究開発費総額の推移
実質額 (2015年基準、OECD購買力平価換算) 出所:科学技術・学術政策研究所HP
図5 主要国における研究開発費総額の推移
実質額 (2015年基準、OECD購買力平価換算) 出所:科学技術・学術政策研究所HP


 

2017年7月5年に一度の全国金融工作会議

習近平氏は、国有企業の過剰債務の削減(デレバレッジ)を最優先させるように強く指示しました。リーマンショック以降の経済対策で過剰になった債務と膨らんだバランスシートにより、金融システム崩壊のリスクが高まっていました。金融システムの崩壊とそれに続く不況は、社会を不安に陥れ、政治の混乱につながるためでした。

2016年5月人民日報は「天まで伸びる木はない」という記事を掲載しました。「高いレバレッジは不可避的に高いリスクをもたらす。きちんと管理しなければシステム的な金融危機を引き起こし、不況をもたらすだろう」と報じました。
 

中国経済の特徴と世界への影響

この中国経済はどのような特徴があるのでしょうか。
 

高い貯蓄率

改革前の中国ではゆりかごから墓場までの手厚い福祉で「鉄飯碗」と呼ばれました。しかし改革開放により企業の民営化が推進し、社会保障制度が脆弱化しました。加えて一人っ子政策のため、両親の老後の不安が増大しました。子供に頼れなくなった両親は老後のために貯蓄に励みました。また一人っ子政策は最も消費の多い子育て世代の消費が減少します。それもあって中国の貯蓄率は高く、その分消費が弱くなります。

2007年にはGDPの51%が貯蓄されました。この巨額の貯蓄を賄うには莫大な輸出か、莫大な投資が必要です。一方、まだ高い経済成長中の中国では、貯蓄にはインフレ率以上のリターン(収益)が必要です。しかし銀行預金金利は低く、銀行に預金しても価値は目減りしてしまいます。
 

多額の外貨

一方中国自身も貿易黒字が積み上がっていました。外貨残高は1兆,000億ドルに上り、外貨の安全でリターンの高い投資先として多くのアメリカ国債を購入しています。実はこれがアメリカの長期金利に影響していたのです。

FRBベン・バーナンキ議長は、あまりにも長い間金利が低かったため、2004年から金融引き締めに転じました。短期金利は2004年の1%から2006年には5.52%に引き上げられました。しかし長期金利は4.7%から5.2%とわずかしか上がりませんでした。当初はなぜ長期金利が上がらないのかわかりませんでした。

原因は、中国がアメリカ国債を大量に買っていたためでした。
 

過剰設備と不良債権

地方政府にとって地方の雇用の安定と経済の安定化はとても重要です。そのため景気が悪化すれば地方の国有企業に設備投資を促します。地方政府と国有企業は一体化しているため、必要な資金は地方政府が保証し国有銀行から調達します。しかも貯蓄過剰の中国は、国有銀行に潤沢な資金があります。しかも国有銀行は絶対につぶれないと誰もが信じているため審査は甘くなっていました。

こうして国有企業には過剰な設備が積み上がります。もし国有企業の経営が悪化すれば、融資はたちどころに不良債権化します。そのため国有企業の過剰設備の問題に対して共産党も再三通達を出しています。しかし「上に政策あれば、下に対策あり」という国のため改善されていません。
 

為替操作

中国は急激な円高で輸出競争力が一気に低下した日本の失敗を学びました。それもあって為替は市場に自由にさせません。その基本スタンスは以下のものです。

  • 自主性 外圧でなくあくまで中国自身の判断で人民元レートを決定
  • 管理可能性 現行の管理変動相場制を維持
  • 斬新性 急激な切上げは意図していない

中国にとって為替の問題は、国際問題以上に国内問題なのです。

輸出品の多くが価格競争力を武器とした労働集約品です。しかも賃金や原材料価格の上昇という要因にもさらされています。もし人民元の切上げが行われれば輸出は大打撃を受けます。

2010年中国商務部は、南部の輸出企業を中心に人民元が3%上昇すると輸出にどれだけ影響が出るか試算しました。その結果、輸出型企業の収益は30~50%も低下し、大打撃を受けることが判明しました。

2010年6月中国政府は人民元レートの弾力化を発表しました。しかし3か月経っても1~2%しか上昇しませんでした。
 

シャドーバンク

銀行が信用力の低い企業に融資する場合、その融資には相応の引当金を積まなければなりません。このように貸付にコストがかかるため、信用力の低い企業は正規の融資先としてなかなか計上できません。もしその企業の経営が悪化すれば不良債権になってしまうからです。

かといってこういった企業への融資を止めれば破綻してしまいます。そうなればこれまでに融資したお金が回収不能になってしまいます。そこで銀行でなく、シャドーバンク(信託会社や資産運用会社)を介して信用力の低い企業に融資を継続します。そして銀行はシャドーバンクへの資金供給は、シャドーバンクが発行した証券を買って、証券に対する投資として計上します。こうすれば銀行はコストをかけずに経営が悪化した企業を融資で支えることができます。また、企業も融資を受けられます。

しかしこれはリスクの高い企業に融資しているのに銀行は必要な引当金を積んでいないことになります。もし融資が焦げ付けば銀行の経営も一気に悪化します。このシャドー融資の総額は2010年には2兆8千億元でしたが、2016年には27兆元にまで膨らみました。
これは「中国版サブプライムローン」です。

アメリカのサブプライムローンは、2006年に合計2兆4千億ドル、GDPの17%に達しました。これに対し中国のシャドーバンクの負債総額は27兆元、GDPの86%です。それでもユーロ圏の270%、イギリスの263%、アメリカの145%よりは低い状況です。
 

マクロプルーデンス評価

2013年には中国経済全体の負債はGDPの2倍以上に拡大しました。しかも銀行やシャドーバンクは短期資金で借りて長期資産に投資するという運用のミスマッチが起きていました。リーマンショック前の欧米で起きた急激な融資の伸びと短期資金への依存と同じ構図です。

そこで人民銀行は季節的に短期資金が不足する6月、あえて資金の供給を停止しました。市場はパニックを起こし、銀行は資金をため込むために貸し渋りをしました。株価は急激に下落しました。

短期金利が28%という記録的な数値となった6月20日、人民銀行は短期資金の供給を開始し、パニックは収まりました。

つまり人民銀行は「短期で借りて長期で貸す」という無鉄砲な融資を行うシャドーバンクに警告を発したのです。しかしその代償は高くつきました。

かつてニューヨーク連銀の初代総裁ベンジャミン・ストロングは

「国内経済で何か起こるたびに、我々は親の役割を果たさなくてはならないのか?」

「我々には多くの子供ができるだろう。その一人が悪さをしただけなのに、全員にお仕置きをしなければならないのか?」「信用業務には(規制対象を)選択するプロセスがないことだ」と述べました。
 

デレバレッジ(収入に対する負債比率を下げること)のため、人民銀行は2016年に「マクロプルーデンス評価」を導入しました。具体的には各金融機関の貸し出しや財務内容を評価し、格付けを行いました。

格付けの高い銀行は、準備預金の利息を高くし、事業活動の自由度も与えられます。

対して、格付けの低い銀行は、準備預金の利息を下げられ、事業活動にも様々な規制が加わります。

これにより金融システム全体のリスク管理を図りました。つまり「多くの子供の一人が悪さをしただけなのに、全員にお仕置きをしなければならない」というジレンマを解決しました。

金融システム全体のリスク管理は、リーマンショックの後、アメリカの金融安定監視費用議会、欧州システム理事会、イングランド銀行の金融行政委員会などが取組みました。しかしマクロプルーデンス評価のような包括的なツールを開発し、各銀行を明確に差別化して金融システムの安定を脅かすようなリスクに取り組んだのは、人民銀行が初めてでした。
 

これからの中国と世界経済

このようにこれまでにも中国は数々の経済危機がありました。これを巧みに乗り切ることができたのは、日本や韓国といった先例があったためでした。適切な対処を怠ればどんな結果になるのか、彼らはわかっていたのです。そのため、行うべきことをためらわずに実行できました。

しかも中国には、それを実行できる強力な指導力と国の強制力がありました。さらに政権中央部の政策立案者も類い稀な独創性と柔軟性を発揮しました。

今までは答えが分かっていた試験でした。解き方さえ間違わなければ合格点は取れました。

これまで中国の成長は、製造業が牽引するモデル、そしてカギは投資と輸出でした。しかしこれからは違います。
 

今後は個人消費の増加による内需拡大 「投資と輸出と消費」

中国の高官自身も
「我々は多くのマクロコントロールの経験を積んできたが、個人消費の拡大策についてはノウハウがない。」
「現金を配るのは意味がない。アメリカ人はウォルマートに行くかもしれないが、中国人は銀行に行く」

と述べています。

課題は遅れているサービス業の発展です。また米中貿易戦争もあり頭打ちになりつつある経済成長です。また今後は戦争の影響も懸念されます。

しかも例え中国製造2025により先端分野における製造強国となっても、先端分野の雇用創出効果はかつての重工業に比べ高くありません。さらに債務は拡大し続けGDP比で250%を超え、先進国並みになっています。つまり借金は先進国並みで収入は新興国並みが現在の中国です。
 

図6 世界の政府総債務残高(対GDP比)ランキング
出典 : 世界経済のネタ帳 (ecodb.net) IMF - World Economic Outlook Databases (2023年4月版)
図6 世界の政府総債務残高(対GDP比)ランキング
出典 : 世界経済のネタ帳 (ecodb.net) IMF – World Economic Outlook Databases (2023年4月版)
図7 世界の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング
出典 : 世界経済のネタ帳 (ecodb.net)IMF - World Economic Outlook Databases (2023年4月版)
図7 世界の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング
出典 : 世界経済のネタ帳 (ecodb.net)IMF – World Economic Outlook Databases (2023年4月版)


 

このような課題が山積みの中国経済は、「大幅な減速をすることなくソフトランディングできるかどうか」は、指導者と政策立案者にかかっています。

リーマンショックでは、サブプライム問題に直接関係のない日本もアメリカの消費減退で多大な影響を受けました。2021年の世界のGDPに占める中国の比率は18%、世界の経済成長に対する中国の寄与度は30%にも達しています。もし中国の景気が減速すれば世界中に影響が出ます。

中国の需要が1%減少すれば世界のGDPは0.25%減少します。もし中国で危機が起こり、需要がマイナス9%になれば、世界のGDPは2.25%減少し不況の崖っぷちに立たされてしまうでしょう。

アジアに目を向ければ、中国の需要が1%減少すれば韓国のGDPは0.35%減ります。もし中国の需要がマイナス9%になれば、韓国は激しい不況に陥ります。中国と関係の深い日本も無傷ではいられません。しかも中国経済は巨大になりすぎて、どの国も支えることができません。

約100年前の世界恐慌では、オーストリアで通貨危機が起きた時、ドイツの力を削ぎたかったフランスは通貨危機を煽りました。フランスの望み通りオーストリアの通貨危機はドイツに飛び火し、ドイツにも通貨危機が起きました。しかしフランスの予想外なことに、これはドイツに多額の債権を持っていたイギリス経済に打撃を与えました。つまりオーストリア、ドイツ、イギリスは、同じロープで括られた登山者であり、1人が落ちれば他の2人も無事では済みませんでした。そして通貨危機に端を発した世界恐慌はナチスの台頭を引き起こしたのです。
 

図8 1本のザイルにつながった登山者かも
図8 1本のザイルにつながった登山者かも


 

世界各国の指導者に、中国という巨人と自国が複雑に結びついたロープが見えているのでしょうか。
 

参考文献

「中国経済の謎 ~なぜバブルははじけないのか~」トーマス・オーリック著 ダイヤモンド社
「チャイナ・インパクト」柴田聡 著 中央公論新社
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、技術革新や経営、社会の変革などのテーマを掘り下げ、ニュースからは見えない本質と変化を深堀したコラムです。「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しています。過去のコラムについてはこちらをご参照ください。
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https://ilink-corp.co.jp/8834.html/feed 0
「中国経済の誤解 ~学ぶべきマクロ経済コントロールと今後の課題~ その1 https://ilink-corp.co.jp/8755.html https://ilink-corp.co.jp/8755.html#respond Thu, 20 Jul 2023 05:54:39 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8755
【コラムの概要】

中国は共産党独裁ながら「少数の指導者の合議」でスピーディーに意思決定。金融・財政・税制を統合し、強力な国家発展改革委員会や国有銀行を通じて経済を統制。日本のバブル崩壊やアジア通貨危機などの他国の失敗から学び、経済安定を最優先してきた。

今や中国は世界第二位の経済大国、中国経済の世界に対する影響とてもは大きいです。

加えて日本やアジアの国々はグローバルなサプライチェーンの中で中国と密接な関係があります。中国経済失敗のリスクは計り知れないでしょう。

ところが中国に対する正しい情報は意外にありません。マスコミから出てくる情報は、人日の注目を集めるためにある面をだけを強調しています。

中国経済はこれまで何度もピンチになりながら、苦境を乗り切ってきました。一部の評論家は「悪い一面」だけ切り取って「中国経済が崩壊する」と主張していました。実際はどうでしょうか。

そこでトーマス・オーリック著「中国経済の謎 ~なぜバブルははじけないのか~」を参考に、中立的な視点でこれまでの中国の政治・経済の取組と今後について、2回にわたり述べます。
 

中国の政治機構の特徴

「中国は共産党独裁だが、独裁者ではない」

共産党の権限が非常に強く、欧米など民主主義国家ではできないことも短時間に実行できます。その意思決定は「少数の指導者の合議」です。独裁者のように一人で決めているわけではありません。

その点、アメリカや日本など民主主義国家でも、選挙で選ばれた首相や大統領が強い権限を持ち、意思決定をします。

そのリーダーの判断は正しいのでしょうか。

中国の場合「国務院」が非常に強い権限を持っています。その国務院の10人のメンバーで行われる「常務会議」で重要な意思決定がされます。10人が同意すれば実行できるため、意思決定はスピーディーです。

対して日本は全閣僚をメンバーとして閣議が週2回行われます。しかし全会一致がルールで1人でも反対すれば政府決定できません。

一方中国の閣僚は人数が多すぎる(図1参照)ため、常務会議に参加しません。そのため中国の大臣は政治家というより官僚に近い存在です。
 

図1 国務院組織
図1 国務院組織


 

方針の違い

「国家が指導し、企業は国の指導に従う」

という仕組みが国の統治構造の中に組み込まれています。例えば商業銀行法にも「国家の指導」という条文が存在します。「商業銀行は、国民経済及び社会の発展の必要に基づき、国の産業政策の指導の下に貸付業務を営む」と規定されています。
 

政経一体のシステム

中央銀行(人民銀行)は政府の一機関です。欧米のような中央銀行の独立性が保たれていません。そのため税制の変更に法律の改正が不要で(日本は法律の改正が必要)、極めて短い間に税制を変更できます。そのため金融政策と税制改正を政府決定だけで実施できます。金融政策、財政政策、税制を組み合わせて経済をコントロールすることができ、政策の自由度が日本よりも高いのです。
 

強力な役所

日本にはない強い権限を持った「国家発展改革委員会」があります。この委員会は、短期から中長期の経済計画や産業政策、エネルギー政策、物価管理まで担う経済全般にわたる総合的な企画調整機能を持つ機関です。この国家発展改革委員会がリーマンショックの時、4兆元の内需拡大策を取りまとめました。
 

地方政府の力

中国の政治機構の特徴として、地方政府の力がとても強いことが挙げられます。この地方政府は、税収、雇用、地方経済の運営を任されています。一極集中の日本は東京がGDPの19%を占め巨大な経済圏を構成しています。対して中国は北京のGDPに占める比率は3%にすぎません。

中国の各地方には有力な国有企業があります。彼らは地方政府と結びつき、地方の雇用を担っています。地方経済が減速すれば、国有企業は設備投資を増やして地域の経済を活性化させます。地方政府にとって国有企業は、成長、雇用、収賄の源泉です。

一方日本は公共事業は国や自治体が主体となって行いますが、中国ではインフラ整備などの公共事業は収益事業です。そのため第三セクターのような事業会社「地方融資平台(地方融資プラットフォーム)」を設立して行います。
 

国有銀行の存在

中国では銀行の金利は自由化されておらず、金利は何%のスプレッドと決まっています。これまで経済が成長し物価が上昇していた中国では、預金金利が物価上昇率よりも低い場合、資産の目減りを避けるため人々は預金より有利な投資先を探します。

一方、国有銀行は国がバックにあるため、倒産することはありません。その結果、融資審査が甘くなります。景気が減速すると、地方政府からは景気対策のため、採算性の低い国有企業にも設備投資のために融資するように圧力がかかります。これが不良債権の温床になっています。
 

他国の経済政策の失敗

中国にとって幸いなことに、中国が経済成長を遂げる中で様々な問題に直面した時、日本、韓国をはじめとした多くの国で、失敗事例「教科書」があったことです。
 

経済成長の定石

経済的に貧しい発展途上国は、海外からの投資だけでは経済成長はできません。海外から投資を受け工場を建てても、自国にはそこまでの規模の市場がないからです。そこで必要なのは輸出です

海外から投資を受けた工場が製品をつくり、それを輸出すれば多額のお金が国に入ってきます。そのお金を投資に回せばつさらに成長します。こうして成長の歯車が回り始めます。アフリカなど資源があっても貧しい国は、投資による製造業の発展と輸出の歯車が回っていないのです。

一方、成長の歯車が回り始めると海外からお金がどんどん入ってきて賃金が上昇します。これに伴い物価も上がります。この経済成長している国の最大の課題はインフレです。賃金の上昇よりもインフレが高いと、豊かになっている過程にも関わらず人々の生活が苦しくなります。人々の不満がたまって、これが社会不安の引き金となります。
 

日本のバブル崩壊

日本は1985年のプラザ合意で急激に円高が進行しました。これによる景気後退に対処するため、日銀は公定歩合を引き下げました。これにより過剰に流動したお金が株と不動産に向かいました。
「土地の値段は下がらない」
という土地神話があった当時の日本は、銀行は土地を担保に採算性の低い案件まで過剰に融資しました。担保至上主義の銀行は土地があればどんどん貸しました。こうして借りたお金が株価を押し上げました。

日本はこの加熱した経済を冷やすのが遅れました。やうやく大蔵省が総量規制を実施した時にはバブル崩壊というハードランディングになってしまいました。急激な信用収縮が発生しました。土地の値段が大幅に下がり、担保価値は急減し銀行は多額の不良債権を抱えました。

しかしこの時、多くの人々にあったのは、乱脈融資を行った銀行に対する怨嗟の声でした。
「なぜ税金で銀行を救うのか」
及び腰になった大蔵省、政府は金融機関への公的資金の注入が後手にまわりました。景気が急速に悪化した日本経済に対し、財政出動は不十分でこれが不況を長期化させました。こうして日本は失われた20年へ突入しました。
 

図2 バブル崩壊で不景気に
図2 バブル崩壊で不景気に


 

このバブル崩壊はもうひとつ大きな出来事のきっかけになりました。長年続いた自民党政権が下野したのです。

つまり宴はほどほどのところで冷や水を浴びせるべきでした。そして、もし不景気に入ったときは、やるべきことを(公的資金注入、経済対策、ゾンビ企業の退出)躊躇すれば、代償はとても大きいのです。経済の失敗は政治を不安定化させてしまいます。

中国の政策決定者は、経済運営に失敗すれば現体制が揺らぎかねないことを学んだのです。

また彼らは国内市場を安易に外資に開放すればどうなるかも学びました。
 

アジア通貨危機

1990年代、海外からホットマネーが流入し、タイ、インドネシア、韓国などアジアの国々は好景気に沸きました。しかし血縁者を優先する縁故資本主義、巨大財閥が見栄を張るためのプロジェクトに投資するなど、成長のための投資ではない非効率な投資も多くありました。こうして好景気の陰で隠れ不良債権が膨らんでいました。

この時アメリカのヘッジファンドは、アジア諸国の中央銀行が過大に評価されていることに気づきました。そして彼らは「自国通貨を買い支えることはできない」と踏んで大規模な空売りを仕掛けました。1997年5月ヘッジファンドに空売りを仕掛けられたタイバーツは急落し、タイから大規模な資本逃避が発生しました。こうして外貨が枯渇し海外との決済資金が不足したたタイは、8月にIMFの救済を受けました。これは10月にはインドネシア、11月には韓国にも飛び火し、IMFの救済を受けました。

こうしてIMFの管理下に入ると緊縮財政を取らざるを得ません。これにより激しい不況になりました。韓国は通貨ウォンが暴落した中で、IMFの要求により資本市場を外国に開放させられました。その結果、韓国の名門企業が海外から安く買い叩かれました。今でも多くの韓国企業が海外のファンドの傘下に入っています。

このアジア通貨危機でインドネシアは20年以上続いたスハルト政権が退陣、韓国では野党の金大中政権が誕生しました。

中国は、アジア通貨危機から国の資本勘定の解放(自国の金融市場と国際金融市場を隔てる壁の撤廃)は慎重にしなければならないことを学びました。朱鎔基は「国の資本勘定を時期尚早に開放すれば、その国の経済を破壊する恐れがある」と警告しました。
 

リーマンショック

2000年代、低金利、金余りが長期にわたり、欧米の銀行は利幅の高い投資先を求めていました。アメリカでは、世界恐慌の教訓から銀行の証券取引は禁じられていました。(グラス・スティーガル法) 2000年代銀行はこれを骨抜きにし証券取引に参入しました。あふれたマネーは不動産に向かいました。「無収入」「無職」「無資産」の層をターゲットにしたニンジャローンを連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)、連邦住宅抵当貸付公社(フレディマック)が証券化して、投資商品として各国の金融機関に販売しました。

利回りの高い投資商品を求めている金融機関は、レバレッジの大きくかかったリスクの高い商品と気づかずに購入しました。アメリカの住宅会社は、支払い能力の低い人たちに将来住宅価格が上がる前提で住宅を売りまくりました。宴は彼らがローンを払えなくなった時に瓦解しました。世界中で猛烈な信用収縮が発生しました。リーマンショックです。
 

政権の安定に経済の安定が不可欠

中国共産党が重視するのは党が政権を安定して維持することです。そのためには社会・経済の安定が最も重要です。そのため大衆の不満が募りやすい「雇用」「物価」の動向を常に注視し警戒しています。

  • 経済が過熱しバブルが起きるとどうなるのか
  • 金余りの時、大量のホットマネーが入ってくるとどうなるのか
  • バブルの加熱を避けるには、いつ宴に冷水をかけたらいいのか
  • もしバブルがはじけたらどうすればいいのか

目の前で起きたバブルとその後の深刻な不景気を中国は冷静に分析し、対処方法を学びました。 

中国経済の発展 その1

1976年 毛沢東の死

毛沢東時代、毛沢東は文化大革命など政治闘争に終始し、経済派発展しませんでした。

毛沢東の死後、華国鋒首相は毛路線を継承しました。

中国は貧しいままで、華国鋒路線は2年間で失敗しました。
 

1978年 鄧小平

後を引き継いだ鄧小平は改革開放路線に舵を切りました。経済特区を設立し外資を呼び込み、商業銀行(四大銀行)を設立して融資を拡大しました。そして景気が拡大しました。
 

1988年 保守派の巻き返し

1988年8月の価格統制撤廃をきっかけに急速な物価上昇が起こりました。そこで保守的な計画経済派は、価格統制の再導入、投資の抑制という緊縮財政を実施しました。

その結果
「手術は成功したが、患者は死んだ」
状態となりました。

深刻な不況と大量の失業者が出て、経済成長は1988年の11.3%から1989年には4.9%へと落ち込むハードランディングとなりました。民衆の不満がたまり民主化を求める運動が激化し、1989年天安門事件が発生。そこで言論統制の強化がなされました。

過熱した景気にバケツの冷水をいきなりぶっかければ、不況と社会不安が生じることを彼らは学習したのです。
 

1992年 鄧小平 南巡講話

保守派の台頭で不利となった鄧小平は、1992年1月武漢、長沙、深圳、珠海を視察する南巡講話を行いました。「深圳の発展は経済特区を設置する政策が正しかった証拠」として、改革再開にむけてPRしました。政府の統制が取り払われました。地方政府は新たな投資を加速させ、1990年3.9%だった経済成長は1991年には9.2%、1992年には14.3%へと加速しました。
 

1989年ソ連崩壊

1989年ソ連が崩壊しました。これに対し鄧小平氏は
ゴルバチョフはバカだ。政治改革(グラスノチ)と経済改革(ペレストロイカ)を両方やろうとして、どちらもコントロールできなくなり、両方失った」
と述べています。
 

1989年 江沢民とWTO加盟

1989年鄧小平に代わり江沢民が国家主席になり、2001年にはWTOに加盟したことで輸出が急増しました。中国には4つの強みがありました。

  1. 安い人件費
  2. 通貨安
  3. 安い土地
  4. 安い資金調達コスト

 

一方、WTO加盟により圧倒的に低い人件費の中国で作られる製品が世界市場にあふれ出ました。これは先進国の雇用を直撃しました。MITのダレン・アシモグル教授は1999~2011年に中国との競争で失われたアメリカの雇用は200~240万人に上るとと推定しています。

通貨安(安い人民元)に対し、2005年5月アメリカは中国を為替操作国に指定すると脅し、人民元を切上げなければ大幅な追加関税を導入する法案を可決しました。

2005年7月中国は人民元をドルペッグ制から管理変動相場制に移行し人民元を切上げました。しかし切上げ幅はわずか2%でした。プラザ合意による急激な円高で輸出主導経済に終止符を打たれた日本の例から、彼らは学んでいたのです。
 

1995年インフレの抑え込みに成功

過熱する経済とともに物価上昇も加速し、1994年には20%強上昇しました。そこで朱鎔基首相は緩やかに融資と投資を減らすソフトランディングを実施しました。

朱鎔基首相は「中国の人民のためにソフトランディングをもたらす重要性を、我々は十分理解している。…成長が急減速すると、社会の安定が打撃を受ける。社会の安定が打撃を受ければ、改革を始められない」と述べました。

こうしてインフレは抑え込まれ、1996年の初めまで物価上昇率は1桁台に戻りました。
 

国有銀行に資本注入

1990年代から国有銀行の不良債権は増加していました。そこで1999年に不良債権処理会社「金融資産管理公司(AMC)」を設立し、国有銀行の不良債権を買い取りました。

それでも2002年中国四大銀行の不良債権比率は26.1%もありました。日本は金融危機の際も主要行の不良債権比率が最高8.4%だったことと比べれば、国有銀行の危機的状況に変わりはありませんでした。債務超過に陥っていた四大国有銀行に対し、金融システム健全化のため、四行だけでも800億ドル(日本の金融危機の資本注入の2/3の金額)の公的資金を注入しました。その結果、国有銀行の財務は健全化し四大国有銀行は上場することができました。
 

2002年 胡錦涛

2002年江沢民に代わり胡錦涛が国家主席になりました。しかし胡錦涛体制は集団指導体制が強く意思決定に時間がかかりました。

一方、胡錦涛は改革開放による成長で顕著になった格差に対し、より包摂的な発展モデルを目指しました。それまで中国の社会保障制度は「ゆりかごから墓場まで」国家が面倒をみてくれ「鉄飯碗」と呼ばれていました。これが改革開放の結果、弱体化したため補強しました。
 

このように中国は自国の経済成長と政治の安定に苦慮しながら、経済を巧みにコントロールしてきました。

こうした他国の失敗による学習がリーマンショックの時、世界を驚愕させた4兆元の経済政策になったのです。

中国経済のその後の発展と今後の課題については、別のラムでお伝えします。

参考文献

「中国経済の謎 ~なぜバブルははじけないのか~」トーマス・オーリック著 ダイヤモンド社
「チャイナ・インパクト」柴田聡 著 中央公論新社
 

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「SDGsの真実2」~温暖化に対する様々な意見と温暖化対策の難しさ~ https://ilink-corp.co.jp/8459.html https://ilink-corp.co.jp/8459.html#respond Thu, 23 Feb 2023 11:26:22 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8459
【コラムの概要】

本コラムでは、現代のものづくりにおいて、かつての成功体験が通用しない「ゲームのルールの変化」が起きていると指摘しています。特にコモディティ化が進展し、製品が高性能になっても利益に繋がりにくくなっている現状を解説。
かつては「良いものを作れば売れる」という前提があったものの、現在の市場では、製品の差別化が難しく、価格競争に陥りやすい状況にあります。コラムでは、日本の製造業が直面するこの問題に対し、新たな戦略的思考が必要であることを示唆しています。量産が得意だった日本の製造業が、このコモディティ化の波の中でいかに価値を生み出していくかが問われています。

前回、SDGsの取り組みについて説明しました。
「SDGsの真実1」~環境だけじゃない。17の目標と温暖化対策の目標~はこちらをご参照ください。
 

地球温暖化に対し割れる意見

地球温暖化対策はSDGsの17の目標のうちその1テーマにしか過ぎません。しかし経済活動、社会生活に与える影響は他の16テーマと比べて極めて大きいものがあります。しかもその根拠は「地球温暖化」という科学的に完全に解明されているとは言えないものです。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)(注)の報告書は誇張されている」と考える専門家もいます。

図1 地球温暖化とその原因に対する考え
図1 地球温暖化とその原因に対する考え
 

注) IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change : 気候変動に関する政府間パネル)
国際連合環境計画と世界気象機関が1988年に共同で設立。地球温暖化に関する科学的知見の集約と評価が主要業務。地球温暖化に関する「評価報告書」を発行している。本来は世界気象機関(WMO)の一機関で国際連合の気候変動枠組条約とは関係のない組織であったが、条約の交渉にIPCC報告書が活用されたこと、また、条約の実施にあたり科学的調査を行う専門機関の設立が遅れたことから、国際的な地球温暖化問題への対応策を科学的に裏付ける組織として、間接的に大きな影響力を持っている。(Wikipediaより)
 

IPCCによる温暖化と日本の対応

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2018年10月に「1.5℃特別報告書」を発行し、2030年から2050年までの間に1.5度気温が上昇する可能性が高い(ワーストシナリオ) と発表しました。さらにIPCC第5次評価報告書は、今後二酸化炭素排出量を削減できなければ2100年には気球の平均気温は2.6~4.8度上昇する可能性が高い(ワーストシナリオ)と述べました。

温室効果ガスによる地球温暖化は、将来の気候変動に大きな影響をもたらす可能性があります。そして人々や生態系に対し広範囲に深刻な影響が生じる可能性があります。
 

図2は世界の平均地表気温の変化を予測したものです。温暖化の大部分は二酸化炭素の累積排出量によるものとされ、今後21世紀の間、地表気温は上昇すると予測されます。

図2 世界平均地上気温の変化 (出典 環境省ホームページ)
図2 世界平均地上気温の変化 (出典 環境省ホームページ)
 

地球温暖化が進むと多くの地域で熱波が頻繁に、しかも長く発生します。また、集中豪雨のような極端な降雨がより頻繁に発生するようになります。

そうした気候変動の影響は、例え温室効果ガスの排出が停止しても何百年も持続します。

図3 1850~900年を基準とした気温上昇の変化 (出典 環境省ホームページ)
図3 1850~900年を基準とした気温上昇の変化 (出典 環境省ホームページ)
 

各国の首脳は、2030年を目標年とする貢献(NDC)のさらなる引き上げや、2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロ、石炭火力発電のフェードアウトなどについて言及しています。日本では菅総理大臣が「地球規模の課題の解決に大きく踏み出します」と述べ、2030年には2013年比で温室効果ガスを46%削減する目標を表明しました。

図4 我が国の温室効果ガス削減の中期目標と長期目標の推移 (出典 環境省ホームページ)
図4 我が国の温室効果ガス削減の中期目標と長期目標の推移 (出典 環境省ホームページ)
 

温暖化反対派の中には「このまま温暖化が進めば破滅的な未来になる」と警告します。

では地球温暖化は、これまで地球が経験したことのない温度でしょうか?
 

二酸化炭素濃度上昇と地球温暖化は初めてではない

実は気温の測定するようになったのは最近のことです。

1850年頃から温度計による観測が行われ、信頼できる気温が記録されるようになりました。

データから、1910年から1945年、1976年から2000年の間に大規模な温暖化が起こったことがわかっています。

図5 計測器による地球表層の気温データ (Wikipediaより)
図5 計測器による地球表層の気温データ (Wikipediaより)

それ以前の気温の記録は、木の年輪の幅やサンゴの成長線、氷床コアの同位体などから得られます。

この手法により北半球でのヤンガードライアス期(1000年間続いた寒冷期)終了以降のデータが得られました。これによると完新世の1万年の期間のうち最も暖かい時期は、気温が20世よりも高いことが分かりました。

図6 過去1万2000年の気候変化 (Wikipediaより)
図6 過去1万2000年の気候変化 (Wikipediaより)
右が現在。横軸の単位は1000年前
 

さらに南極ボストークの氷床コアの調査から、42万年前まで遡った記録が得られています。またEPICAコアからは80万年前まで掘削・解析が進みました。

これらのデータによると、地球の平均気温が今より3度以上高い期間が複数回あったと推定されます。

図7 南極の2地点で復元された気温と、
氷床体積の地球規模での変動曲線 (Wikipediaより)
図7 南極の2地点で復元された気温と、
氷床体積の地球規模での変動曲線 (Wikipediaより)
右が現在。横軸の単位は1000年前

温暖化派と懐疑派

今後、地球が温暖化しても、その温度は地球が直面する初めての温度ではありません。中世期は今よりも暖かく二酸化炭素も多かったのです。これが巨大な恐竜やその食物となる植物の活発な生育を促しました。

また図3から二酸化炭素濃度は、一定以上増えてもそれ以上気温は上昇せず均衡することがわかります。温暖化反対派の「このまま二酸化炭素排出量が増加すれば『ディッピングポイント(臨界点) 』を超える」という主張に科学的な根拠はありません。この点で「過去にない危機的状況」「環境や健康に大きな懸念」と煽るメディアの姿勢は疑問があります。

ただし、過去の地球温暖化は何千年もかけてゆっくりと変化しました。それが今回はわずか数十年の間に平均気温が1度近く上昇しています。この急激な変化に動物や植物は対応できず、絶滅する種が出るかもしれません。
 

一方地球温暖化は、人為的な二酸化炭素排出が本当に原因かどうかという問題があります。これについては賛成派、懐疑派の激しい議論が交わされています。フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』にも「地球温暖化に対する懐疑論」があり、様々な考え方が示されています。

2009年にはイーストアングリア大学気候研究所のメールがハッキングされ、論文の改ざんをにおわせる記述が流出しました。(クライメートゲート事件) 改ざんの事実は否定されましたが「ネイチャー」に載った(現代になって急激に温度が上昇したとする)「ホッケースティック曲線」は、IPCC第4次評価報告書には使用されなくなり、中世に温暖期(中世気候異常)があったことが明記されました

こういった学術分野の研究は、新たな事実が発見される度に旧来の学説が覆され、激しい議論になります。地球温暖化の問題は、実験で確かめることができないため、観測データの地道な積み重ねから結論を導かなければなりません。そして今後も新たな事実が見つかれば、これまでの学説が覆される可能性もあります。科学の進歩には、こうした多様な研究と健全な議論が不可欠なのです。

地球が温暖化しているのかどうか、その原因は、人為的な二酸化炭素排出がどうかは非常に重要な問題です。なぜなら、二酸化炭素排出量削減は、多くの国に経済的な損失と経済成長の阻害と言う痛みを強いるからです。

しかも空気に国境はありません。一部の国が多額のコストをかけて二酸化炭素排出量を削減しても、他の国が大量に二酸化炭素を排出すれば、一部の国の努力は効果がありません。
 

一方、野心的な温暖化対策を推進するヨーロッパの国々は、地球温暖化を「決まったこと」と考えています。その影響もありヨーロッパの国々の政策や発表は、現状を無視した誇大なものになる傾向があります。

また一部の環境保護団体は、異なる見解を断固として排除する「環境原理主義」の様相を呈しています。2014年にイギリスBBCが「最近の異常気象は人間起源の気候変動が原因か」というラジオ番組を放送した結果、環境団体から「出演者は気候変動対策を否定している。科学者でもない者を番組に出演させるな」という抗議が殺到しました。一部には中世の異端審問の様な状況になっています。

このヨーロッパの動向に対し日本のメディアは「欧州は温暖化対策の優等生であり、欧州に学ぶべき」と迎合的な報道を行っています。

本来は温室効果ガス削減のための政策は、冷静に様々な方法を議論する必要があります。SDGsの17のテーマに示されるように世界には様々な課題があり、各国の事情も異なっています。その上で温暖化対策にどの程度のリソースを割くべきなのか、どの程度のコストを許容するのか、SDGsの他のテーマとの兼ね合いや各国の事情も考慮して、総括的に国際間で話し合わなければなりません。

地球温暖化対策は、複数の答が存在する社会科学的な政策論の問題なのです。

なぜなら二酸化炭素排出量削減とは、経済成長をあきらめることになるからです。

なぜそうなるのか、産業別の二酸化炭素排出量を見てみます。
 

CO₂排出量削減に必要なこと

二酸化炭素の排出量が大きい産業

図8 部門別・業種別にみた我が国のCO₂排出量(2019年度)(出典 環境省資料より著者作成)
図8 部門別・業種別にみた我が国のCO₂排出量(2019年度)(出典 環境省資料より著者作成)

図8は、2019年度における我が国の二酸化炭素排出量を部門別・業種別に見たものです。左の円グラフは部門別のCO₂排出量で、全体の35%を「産業部門」が占めていることが分かります。

その産業部門の二酸化炭素排出量は、鉄鋼業界が40%を占め、2番目の化学工業に3倍の差をつけています。2019年度の鉄鋼業界の二酸化炭素排出量(間接排出)は約1億5500万トンでした。つまり低炭素化社会の実現には、鉄鋼業界の二酸化炭素排出削減が不可欠です。

産業部門の中でも、鉄鋼、化学工業は生産時のエネルギー使用量が多く、二酸化炭素の排出も多くなっています。そして鉄鋼などの生産が活発なのは、中国、韓国、日本などアジアの国々です。アメリカやヨーロッパなど先進国は、中国や日本が二酸化炭素を排出してつくった製品を買っています。二酸化炭素排出量を削減するには、コストをかけて二酸化炭素を排出しない生産をするか(技術的に難しい)、生産を縮小しなければなりません。その影響は、アメリカやヨーロッパなど先進国にも及びます。
 

私たちが消費する様々な商品は、企業が多くのエネルギーを使用して生産したものです。さらに流通や販売活動でも二酸化炭素は消費します。つまり二酸化炭素の排出は、生産と消費活動そのものです。

ところが二酸化炭素排出量削減というと、私たちは太陽光発電や電機自動車の問題と考えています。決してそうではなく、個人の消費の問題です。

しかも商品は生産時だけでなく、廃棄の際も焼却炉で燃やされ、二酸化炭素を排出します。

これはリサイクルすれば解決するのでしょうか。
 

リサイクルでは解決しない

現在、プラスチックのリサイクルの大半はサーマルリサイクル、つまり燃料として燃やしています。中でも一部の質の高いプラスチックは、ペレットに加工されて製鉄所の燃料になります。一方質の良くないプラスチックは自治体や廃棄物処理業者が焼却処分します。

つまりマテリアルリサイクルを実現しない限り、プラスチックや化学繊維を製造すれば最後には二酸化炭素を排出して熱になるのです。

図9 我が国における物質フロー(2018年度)(環境省ホームページより)
図9 我が国における物質フロー(2018年度)(環境省ホームページより)
注:含水等:廃棄物等の含水等(汚泥、家畜ふん尿、し尿、廃酸、廃アルカリ)及び経済活動に伴う土砂等の随伴投入(工業、建設業、上水道業の汚泥及び鉱業の鉱さい)

図9で我が国における物質のフローを示しました。二酸化炭素排出削減のためには、生産プロセスにおける二酸化炭素排出量を削減するとともに、最終処分で廃棄されるものを減らすことが必要です。
ただし、プラスチックはリサイクルされたものが回収業者に引き渡されればリサイクルしたものと扱われます。実際はその中で海外に輸出される、または廃棄されるものもあります。
 

経済成長に伴い今後排出量は増加

しかも二酸化炭素排出削減どころか、今後も経済成長に伴い、二酸化炭素の排出はまだまだ増えるのです。

なぜなら新興国の人口は増加し、GDPも増加するからです。GDPの増加に伴い、二酸化炭素の排出も増えます。図10に2050年GDP予測と人口のデータを示しました。

図10 2050年のGDP順位出典:2019年のGDP、2020年の人口(国連統計)
図10 2050年のGDP順位
出典:2019年のGDP、2020年の人口(国連統計)
2050年のGDP(Pwc調査レポート「世界の経済秩序は2050年までにどう変化するのか?」)

2050年の世界の人口は97億人、現在の1.24倍と予想されています。これに伴いGDPも増加します。これまでは開発途上国だった国が人口増加と共に経済も成長します。GDP4兆ドル以上の国は、欧米に加えて、インドネシア、ブラジル、メキシコ、サウジアラビア、ナイジェリア、エジプト、パキスタンが加わります。

そこで現在の各国のGDP当たりの二酸化炭素排出量を元に、2050年の二酸化炭素排出量を私の方で計算したものを図11に示します。

図11 各国のGDP当たりの二酸化炭素排出量から換算した2050年の二酸化炭素排出量
図11 各国のGDP当たりの二酸化炭素排出量から換算した2050年の二酸化炭素排出量
 

GDPに対する二酸化炭素排出量を現状と同じとすると、

2050年の二酸化炭素排出量は2020年の約4倍

にもなります。もし現状と同程度の二酸化炭素排出量に抑えるには、

GDP当たりの二酸化炭素排出量を現在の1/4にしなければなりません。

それでも現在と同等の二酸化炭素が排出されるのです。

一方2019年のGDP当たりの二酸化炭素排出量は国によって大きな違いがあります。これはその国の産業構造が

  • 製造業主体か、サービス業主体か
  • 製造業の中でも鉄鋼、化学の比率が高いかどうか

で変わります。ただしそれを抜きにしてもイラン、ベトナム、ロシア、サウジアラビアなどは、GDP当たりの二酸化炭素排出量が高いため、改善の余地は大きいでしょう。
 

開発途上国の声

コロラド大学の気象学者ロジャー・ピールキ・ジュニア教授は、欧米の環境保護団体を「途上国を貧困のままにおこうとする『グリーン(緑)帝国主義』の活動家だ」と批判しました。

「グローバル開発センターの報告によれば、1000億円をつぎ込むサヘル地域(サハラ砂漠南部)の再生可能エネルギー事業は、3000万の住民に電気を送ることができます。しかし、同じ1000億円で天然ガス火力発電をしたら、9000万の住民に送電できます」

インド政府は国連の二酸化炭素削減に反発して、2009年に国連にこう申し入れました。

「国民の40%が電気を使えない現在、二酸化炭素排出削減に努めよとは、無慈悲というものだろう」

途上国の開発を願って活動する南アフリカの作家レオン・ルーは、以下のように発言しています。
「第三世界は、先進国がやったのと同じことをしていい。天然資源を活用して都市を作り、湿地帯を住宅地に変え、木材の生産・利用を進め、鉱物資源を掘り、天然資源を利用する。

先進国を豊かにしたそんな政策が、いま貧困国には閉ざされているのだ」

 

環境活動家のビル・マッキベン氏は、貧困国は「化石資源時代を通らず、一足飛びに再生可能エネルギー時代になるべきだ」と主張します。そして太陽光や風力など再生可能エネルギーが「持続可能な開発」に役立つと言います。本当にそうでしょうか。

エネルギー関連の活動家スティーブ・ミロイ氏は「通信の分野であれば、電話線の時代無しに携帯電話時代を迎えた貧困国もある。しかしエネルギーだと、化石資源の時代無しにはすまない。

火力のバックアップがなければ無風の夜に電気は来ない。

また、再生可能エネルギーの電気は高いので、先進国なら莫大な補助金を使って運用できる。しかし貧困国にはそんなお金はない」
と述べています。

環境論の始祖、かつては温暖化の恐怖を煽ったジェームス・ラブロック氏は「持続可能な開発」を戯言と斬り捨てます。今では

「私たちは、よくも考えずに再生可能エネルギーに走った。絶望的に非効率だし悪趣味、とりわけ風力は許しがたい」

と発言しています。実は電力が安定して供給されている先進国の人々は問題がわかりません。しかし新興国の脆弱な電力インフラは、しばしば停電を起こします。停電しないまでも電圧が不安定な国も多く、そうした不安定な電源では先進国の製品や装置は正しく動作しません。外国資本の工場すら誘致できないのです。ジェームス氏は

「フラフラ電源でも構わない用途ならローカル電源として役に立つ。だが、基盤電源の補佐役でしかない風力をどしどし建てる欧州のやり方は、極悪の蛮行として人類史に残る」

と指摘しています。
 

低炭素製鉄とCO2貯留と回収技術

それでは、産業界で最も二酸化炭素排出量の多い鉄鋼業界ではどのような取組がされているのでしょうか。

鉄鋼メーカーは、以下のようなCO₂排出量削減の取組を行っています。

  • 高炉の割合を減らして、スクラップを溶かす電炉製鉄の比率を増やす
  • 高炉でのプロセスに水素還元方法を導入
  • 発生した二酸化炭素を分離・回収する

国際エネルギー機関(IEA)は、製造工程のCO2排出量が実質ゼロとなる「グリーンスチール」の市場が、2050年時点では約5億トンになり、2070年には生産される鉄鋼のほとんどが、グリーンスチールにかわると予測しています。
 

環境への負荷を抑えるなら、鉄鉱石から鉄をつくるよりも、スクラップを活用すればよいです。しかし鉄鋼は自動車や各種インフラ、電子電気機器などの需要が2050年以降も大きく、それを十分に満たすだけのスクラップはありません。従って高炉による製鉄は将来も不可欠です。

日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所の高炉3社と、日鉄エンジニアリングがNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)委託事業として行う「COURSE50」が取組んでいるのが、この水素還元法と二酸化炭素の分離回収の2つの技術です。2016年には日本製鉄・君津製鉄所に小型試験高炉を建設し、実証試験を進めてきました。
 

水素還元法

高炉内に水素を吹き込むことで水素還元の比率を増やして二酸化炭素を削減します。さらに、炉に入れるコークスを必要最小限度に抑え、製鉄過程で発生する水素以外に、外部からも水素を取り入れて投入量を大幅に増やし、より大規模な水素還元を行います。

製鉄方法には、「高炉法」のほかに「直接還元法」という方法もあります。直接還元法は、天然ガスを使用して鉄鉱石を固体のまま還元し、そのあとで電炉に移して溶解をおこなう方法です。コークスを使わないため、高炉よりもCO2の発生を低く抑えることができます。海外では天然ガスを用いた直接製鉄法(鉄鉱石から固体還元鉄を直接製造する方法)がすでに稼動しています。
 

二酸化炭素の分離回収

化学吸収法とは、「吸収塔」でアミン等のアルカリ性水溶液(吸収液)とCO2含有ガスとを接触させ、吸収液にCO2を選択的に吸収させた後、「再生塔」で吸収液を加熱して、高純度のCO2を分離・回収する技術です。

化学吸収法は、常圧のガスから大量のCO2を分離・回収するのに適していますが、これまで製鉄プロセスへの応用した実績がなく、新吸収液の開発やプロセスの最適化により、これまでの方法よりCO2分離・回収に要するエネルギーが約40%低い方法を実現しました。

さらに物理吸着法を製鉄プロセスに組み込み、高炉ガスから二酸化炭素を分離吸着して二酸化炭素回収率≧80% 、または二酸化炭素濃度≧90%を達成しました。

注) 「CCS」とは、「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、日本語では「二酸化炭素回収・貯留」技術と呼ばれます。発電所や化学工場などから排出されたCO2を、ほかの気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入するというものです。
「CCUS」は、「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略で、分離・貯留したCO2を利用しようというものです。たとえば米国では、CO2を古い油田に注入することで、油田に残った原油を圧力で押し出しつつ、CO2を地中に貯留するというCCUSがおこなわれており、全体ではCO2削減が実現できるほか、石油の増産にもつながるとして、ビジネスになっています。

図17 CCSの流れ

最も冷静な議論が必要な課題なのに、冷静な議論ができていない

 
地球温暖化の問題は過去の省エネと違い、日本だけが努力しても効果はありません。世界中で協調して取り組まなければなりません。これは二酸化炭素排出削減にかかるコストと経済成長の問題なのです。SDGsの他のテーマも合わせて、今後どのように進めていくのか、各国が冷静に議論を行い協調して取り組む必要があります。加えて途上国の負担するコストや成長の阻害をどうするのかも考えなければなりません。

残念ながらこうした問題に対し、今ある技術でどこまで二酸化炭素排出量を抑えられるのか、数値目標ばかり先行して冷静な議論が進みません。菅政権の46%削減にしてもどこまで技術的な裏付けがあるのか不明です。

リスクマネジメントの世界では、ある問題事象に対し対策費用が過大であれば、その問題を受け入れる選択もあります。

地球温暖化のリスクは、対策可能なのか、受入ざるを得ないのか、冷静が議論が求められます。
 

参考文献

「環境問題のウソとホントがわかる本」杉本裕明 著 大和書房
「図解SDGs入門」 村上芽 著 日本経済新聞出版
「異常気象と地球温暖化」鬼頭昭雄 著 岩波新書
「地球温暖化の不都合な真実」マーク・モラノ 著 日本評論社
「地球温暖化 そのメカニズムと不確実性」日本気象協会 朝倉書店
「SDGsとは何か 世界を変える17のSDGs目標」安藤 顯 著 三和書籍
「不都合な真実」アル・ゴア 著 ランダムハウス講談社
 

本コラムは「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。

経営コラム ものづくりの未来と経営

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https://ilink-corp.co.jp/8459.html/feed 0
「SDGsの真実1」~環境だけじゃない。17の目標と温暖化対策の目標~ https://ilink-corp.co.jp/8448.html https://ilink-corp.co.jp/8448.html#respond Thu, 23 Feb 2023 11:25:55 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8448
【コラムの概要】

本コラムでは、SDGs(持続可能な開発目標)が、環境問題だけでなく多岐にわたる17の目標から構成されることを解説しています。
SDGsは、2030年までに達成を目指す国際社会共通の目標であり、「貧困をなくす」や「飢餓をゼロに」といった社会・経済的課題から、「クリーンな水と衛生」「エネルギーをみんなに」といったインフラ整備、さらに「働きがいも経済成長も」のような経済発展に関する目標まで、幅広い分野を網羅しています。特に、地球温暖化対策を示す目標13「気候変動に具体的な対策を」もその一つとして存在しますが、SDGs全体としては、環境問題のみならず、より包括的な持続可能な社会の実現を目指すものであることを明確に示しています。企業活動がSDGsの多様な目標にどのように貢献できるかを考えるきっかけを提供する内容です。

SDGsとは

SDGsという言葉を報道などで耳にする機会が増えています。「SDGs登録制度」を設けている県もあり、国はSDGs達成に向けた取組を行っている企業を増やし、SDGsの普及を目指しています。

では、SDGsとはどのような取組なのでしょうか。

私たちは何をすればいいのでしょうか。

SDGsを環境問題と思っている人もいます。しかしSDGsは環境だけではありません。しかもSDGsの中には、矛盾する内容もあるのです。

このSDGsについて、詳しく調べました。
(本コラムは、未来戦略ワークショップのテキストから作成しました。)

図1 SDGs 17の目標
図1 SDGs 17の目標
 

SDGsの成り立ち

SDGs(Sustainable Development Goals)とは

「持続可能な開発目標」

のことです。2016年から2030年までの15年間で世界が達成すべき

17の目標と169のターゲット

で構成されています。

このSDGsは、これまでの【MDGs(ミレニアム開発目標)】と、【リオ+20(国連持続可能な開発会議)】という2つの大きな流れが融合し、作られました。
 

【MDGs】
MDGsは、2000年9月の国連ミレニアム・サミットで採択された【国連ミレニアム宣言】と、1990年代に国際会議やサミットで採択された【国際開発目標】を統合したものです。以下の8つのゴールが設定されました。

1 極度の貧困と飢餓の撲滅
2 初等教育の完全普及の達成
3 ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上
4 幼児死亡率の削減
5 妊産婦の健康の改善
6 HIV/エイズ、マラリア、そのほかの疾病の蔓延の防止
7 環境の持続可能性確保
8 開発のためのグローバルなパートナーシップの推進

そのテーマ、「経済成長を通じて貧困を削減する」ものです。その結果、極度の貧困に苦しむ人々の割合は、1990年には世界の人口の36%だったものが、2015年には12%(3分の1)まで減少しました。これにより10億人以上が極度の貧困から脱し、子供の死亡率は半分以下に減少しました。

こうして一定の目標は達成しましたが、その一方で格差の拡大、特に女性、子供、障害者、高齢者、難民など立場の弱い人たちへの格差がクローズアップされています。
 

【リオ+20】
1992年にブラジル・リオデジャネイロで開催された「国連環境開発会議」(地球サミット)では、「環境と開発に関するリオ宣言」が採択されました。

さらにその行動計画「アジェンダ21」が採択され、気候変動枠組条約や生物多様性条約の署名が行われました。

その20年後、2012年6月に開催された「国連持続可能な開発会議」(リオ+20)では、グリーン経済への移行、「持続可能な開発」のための新たな枠組みの議論が行われました。そして「我々の求める未来」がまとめられました。この議論がMDGsと統合され、SDGsになりました。
 

SDGs 17の目標

SDGsには、17の目標と169のターゲットがあります。全部紹介するのは大変なので、169のターゲットの要点のみ解説します。
(詳細は、末尾の参考文献やSDGsの解説本を参照してください。


1.貧困をなくそう
あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ

 

《ターゲットの概要》
2030年までに

  • 極度の貧困(1日1.25ドル未満で生活)をなくす
  • 極度の貧困以外でも貧困状態にある人を半減させる
  • 貧困層への《社会保障制度、権利(財産・相続、金融サービスを受ける権利)》を確保する
  • 病気、失業、災害など予期せぬ事態に対する個人の強靱性(レジリエンス)を強化する。そのために途上国支援や開発投資を促進する

 

表1 日本の貧困率の推移

199120032006
相対的
貧困率(%)
13.514.915.7
中央値
(万円)
270260254
貧困値
(万円)
135135127
200920122015
相対的
貧困率(%)
16.016.115.6
中央値
(万円)
250244245
貧困値
(万円)
125122122

 

表2 世界の地域別貧困率の変化

【1990】

貧困率(%)貧困層の人数(百万人)
東アジア
太平洋地域
60.23965.9
ラテンアメリカ
カリブ海地域
15.8471.21
南アジア地域44.58505.02
サブサハラ
アフリカ地域
54.28276.08
途上国全体42.011840.47
世界全体34.821840.47

【2013】

貧困率(%)貧困層の人数(百万人)
東アジア
太平洋地域
3.5471.02
ラテンアメリカ
カリブ海地域
5.4033.59
南アジア地域15.09256.24
サブサハラ
アフリカ地域
40.99388.72
途上国全体12.55766.01
世界全体10.67766.01

 
1990年に比べ世界全体の貧困率は大きく改善されました。特に東アジア、南アジアの貧困率の改善は大きく、世界全体でも貧困者数は2013年には766万人と1990年の半数以下になりました。

その一方アフリカ地域の貧困率は2014年でも40%もあり、大きな問題となっています。


2.飢餓をゼロに
飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 国際間の種子の適正管理と、野生種の遺伝的多様性の維持

 

2030年までに

  • 飢餓の撲滅と5歳未満の子供の栄養不良を解消
  • 小規模食料生産者の生産性及び所得倍増
  • 災害への適応能力を高め、土壌を改善し強靭(レジリエント)な農業を実践

 

その他

  • 開発途上国の農村インフラ投資の拡大、農産物輸出補助金を撤廃し貿易制限や歪みを是正、食料市場及びデリバティブ市場への規制

 

表3 熱量消費量(単位 kCal/人・日)

20012009
日本27462723
インド24872321
フィリピン23722580
アメリカ37663688
イタリア36803627
ギリシア37543611
スーダン22882326

1日のカロリー摂取量でみると、アメリカ、イタリアなど先進国は過剰摂取、対してインド、スーダンなどは2,500kcalを下回り、生存に必要な最低限のエネルギーしかありません。これは先の貧困問題とも関係しています。
 

表4 主要各国の自給率(2009年 単位 %)

穀類野菜類肉類
日本23.283.256.1
中国103.4101.897.4
アメリカ124.892.3113.4
イギリス101.043.468.0
オランダ19.8302.9187.7
ドイツ124.133.4114.4
フランス174.162.6100.5
ロシア128.976.872.0
オーストラリア242.387.8162.7

穀物は広い土地を必要とし、収穫量に比べ金額は低いため、国土の狭い国では生産量は多くありません。一方野菜や果物は、狭い土地でも収穫でき金額も高いため、日本でも自給率は高く、オランダは野菜の多くを輸出しています。

国により国土や経済力が違うため、農産物の生産性は国により異なります。関税を完全に撤廃したり、先進国が輸出補助金で農産物の輸出を促進したりすれば、生産性の低い国の農業は壊滅的な打撃を受けます。
 


3.すべての人に健康と福祉を
あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 交通事故による死傷者を半減

 

2030年までに

  • 妊産婦の死亡率を出生10万人当たり70人未満
  • 新生児死亡率を出生1,000件中12件以下、5歳以下死亡率を出生1,000件中25件以下
  • 新生児及び5歳未満児の予防可能な死亡を根絶
  • エイズ、結核、マラリアなどの伝染病を根絶
  • 非感染性疾患による若年死亡率を3分の1減少、精神保健及び福祉を促進
  • 性と生殖に関する保健サービスを全ての人々が利用可能に
  • 有害化学物質、大気、水質及び土壌汚染による死亡や疾病を大幅に減少

 

その他

  • 全ての人々に質の高い保健サービスや安全で安価な必須医薬品とワクチンの利用を実現
  • 薬物乱用やアルコール依存症の予防や治療の強化
  • 全ての国々でたばこの規制の強化
  • 開発途上国の感染性及び非感染性疾患のワクチン及び医薬品の研究開発を支援
  • 開発途上国において保健人材の採用、能力開発・訓練及び定着の大幅な拡大
  • 全ての国々の国家・世界規模な健康危険因子の早期警告と管理能力を強化
図2 自殺死亡率の国別比較 (出所 : OECD)
図2 自殺死亡率の国別比較 (出所 : OECD)


今回の新型コロナウイルス感染症は、一旦感染症が拡大すれば被害を免れる国はないことを示しました。感染症の予防と撲滅は人類共通の課題です。

その一方、不十分な衛生環境や不十分な予防接種のため、先進国では抑えられている結核やマラリヤなどの病気が新興国では問題となっています。安全な飲み水の確保など衛生環境の整備や予防接種などの充実が新興国にも必要です。

一方先進国では、若年者の自殺は大きな問題です。日本は人口10万人当たりの自殺死亡率は15.2人と世界でも高い数字です。

日本の15~39歳の死因の第1位(2019年)は自殺です。G7の中で若者の死因の第1位が「自殺」なのは日本だけで、これは社会問題となっています。
 


4.質の高い教育をみんなに
すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 職業訓練、情報通信技術(ICT)、技術・工学・科学プログラムなど高等教育の奨学金の件数を全世界で大幅に増加

2030年までに

  • 全ての子供が、無償かつ質の高い初等教育及び中等教育を修了できる
  • 全ての子供が、乳幼児の発達・ケア及び就学前教育を受け、初等教育を受ける準備が整う
  • 全ての人々が、質の高い技術・職業教育及び高等教育(大学)を受けることが可能
  • 技術的・職業的スキルを習得し、仕事や起業に必要な技能を備えた若者を大幅に増加
  • 教育におけるジェンダー格差を無くす。障害者、先住民など脆弱層も教育や職業訓練受けることが可能
  • 全ての若者及び大多数の成人が、読み書き及び基本的計算能力を身に付けられる
  • 質の高い教員の数を大幅に増加

 

その他

  • 子供、障害及びジェンダーに配慮した安全で非暴力的な教育施設を提供

 

表5 初等教育修了率(2014年 単位 %)

男子女子
欧・米・日本99.699.4
南アジア91.592.0
アフリカ(サブサハラ)72.068.0

先進国では99%の子供が基本的な読み書きを習得する初等教育を受けています。しかしアフリカでは約70%、つまり3割の子供が初等教育を受けていません。

読み書きができないことが、職業選択を制限し、貧困から抜け出せない原因となっています。
 


5.ジェンダー平等を実現しよう
ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る

 

《ターゲットの概要》

  • 女性及び女児に対するあらゆる差別を撤廃
  • 人身売買や性的搾取などあらゆる形態の暴力を排除
  • 早期結婚、強制結婚及び女性器切除など有害な慣行を撤廃
  • 無報酬の育児・介護や家事労働を評価
  • 政治、経済などあらゆるレベルで公平な女性の参画の機会を確保
  • 女性に対し、所有権、土地、財産など経済的資源の権利を与えるための改革に着手
  • 女性の能力強化促進のため、ICTをはじめとする技術の活用
  • ジェンダー平等の促進のための政策や法規を導入・強化

 


6.安全な水とトイレを世界中に
すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する

 

《ターゲットの概要》
2030年までに

  • 全ての人々の安全で安価な飲料水へのアクセスを達成
  • 全ての人々の適切な下水施設へのアクセスを達成、野外での排泄をなくす
  • 排水の浄化と汚染の減少により水質を改善
  • 淡水の持続可能な供給を確保、水不足に悩む人々の数を大幅に減少
  • 国境を越えた協力を含む、統合水資源管理を実施
  • 山地、森林、河川を含む生態系の保護・回復を行う
  • 開発途上国における水と衛生分野の国際協力と能力構築支援を拡大

 

表6 世界の降水量、水資源量、取水量の関係
(単位 降水量mm/年 1人当り水資源量&1人当り取水量立方メートル/人、年)

降水量1人当たり水資源量1人当たり取水量
世界平均7807800560
日本15603030680
サウジアラビア300720
インド10801700580
フランス7603000570
インドネシア26801450380

世界の一人当たりの水資源量は、地域によって大きく異なります。世界平均では7,800立方メートル/年ですが、利用できない地域の工数もあるため、国別では日本は3,030立方メートル/年で世界で96位です。

農業や工業などに必要な水資源量は、1,700立方メートル/年とされ、これに満たない国が世界では55カ国もあります。
 


7.エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する

 

《ターゲットの概要》
2030年までに

  • 安価かつ信頼できるエネルギーサービスを利用可能
  • 世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大
  • 世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増
  • エネルギー効率向上のための国際協力の強化、エネルギー技術への投資を促進
  • 開発途上国の全ての人々に持続可能なエネルギーサービスを供給できるようにインフラ拡大と技術向上

 

表7 世界の1人当り消費エネルギー(単位 kg/年)
(総務省統計局の資料 2013年)

199920082009
世界全体135814931465
アジア72110421077
アメリカ797368666486
南アメリカ86510291004
ヨーロッパ285332313018
アフリカ347356353
オセアニア426940984108
日本366532103003

 


8.働きがいも経済成長も
すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 就労、就学及び職業訓練のいずれも行っていない若者の割合を大幅に減らす

 

2025年までに

  • 児童兵士の募集と使用を含むあらゆる形態の児童労働を撲滅

2030年までに

  • 持続可能な消費と生産に関する10年計画に従い経済成長と環境悪化の分断を図る
  • 若者や障害者を含む全ての男女の、完全な雇用及び人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成
  • 持続可能な観光業を促進する政策を立案し実施

 

その他

  • 強制労働を根絶
  • 移住労働者など不安定な雇用形態の労働者の権利を保護
  • 一人当たり経済成長率を持続、後発開発途上国は少なくとも年率7%の成長率
  • 多様化、イノベーションを通じた高いレベルの生産性を達成
  • 開発重視型の政策を促進するとともに、中小零細企業の設立や成長を奨励する
  • 国内の金融機関の能力を強化し、全ての人々の金融サービスへのアクセスを促進・拡大
  • 開発途上国に対する貿易の援助を拡大

 


9.産業の技術革新の基礎を作ろう
強靭なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、技術革新の拡大を図る

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 開発途上国において普遍的かつ安価なインターネットアクセスを提供

 

2030年までに

  • 雇用及びGDPに占める産業セクターの割合を大幅に増加。後発開発途上国については同割合を倍増
  • 資源利用効率の向上とクリーン技術及びインフラ改良により持続可能性を向上
  • イノベーションを促進させることや100万人当たりの研究開発従事者数を大幅に増加させ、科学研究を促進し、技術能力を向上

 

その他

  • 質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを開発
  • 開発途上国における小規模の製造業その他の企業への金融サービスへの利用可能性を拡大
  • アフリカ諸国への金融・テクノロジー・技術の支援強化を通じて、インフラ開発を促進
  • 産業の多様化や商品への付加価値創造などを通じて、開発途上国の技術開発、研究及びイノベーションを支援

 


10.人や国の不平等をなくそう
国内および国家間の格差を是正する

 

《ターゲットの概要》
2030年までに

  • 各国の所得下位40%の所得成長率の国内平均を上回る数値を達成
  • 年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教に関わりなく、能力強化を促進
  • 移住労働者による送金コストを3%未満に引き下げ、コストが5%を越える送金経路を撤廃

 

その他

  • 差別的な法律、政策及び慣行の撤廃、並びに適切な関連法規、政策などを通じて、機会均等を確保し、成果の不平等を是正
  • 税制、賃金、社会保障政策をはじめとする政策を導入し、平等の拡大
  • 世界金融市場と金融機関に対する規制とモニタリング
  • 国際経済・金融制度の意思決定に開発途上国の参加や発言力の拡大
  • 秩序のとれた、安全で規則的かつ責任ある移住や流動性を促進
  • 世界貿易機関(WTO)協定に従い、開発途上国に対する特別かつ異なる待遇の原則を実施
  • 政府開発援助(ODA)及び海外直接投資を含む資金の流入を促進

 


11.住み続けられる街づくりを
都市と人間の居住地を包摂的、安全、強靭かつ持続可能にする

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施

 

2030年までに

  • 安全かつ安価な住宅へのアクセスを確保しスラムを改善
  • 全ての人々に、安全かつ安価で持続可能な輸送システムを提供
  • 都市化を促進し、全ての国々が持続可能な人間居住計画・管理能力を強化
  • 世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する
  • 水関連災害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減
  • 都市の一人当たりの環境上の悪影響を軽減
  • 人々に安全で利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供

 

その他

  • 開発計画を通じて、都市部、都市周辺部及び農村部間の良好なつながりを支援
  • 財政的及び技術的な支援などを通じて、後発開発途上国の持続可能かつ強靱(レジリエント)な建造物の整備を支援

 


12.つくる責任つかう責任
持続可能な消費と生産のパターンを確保する

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減

 

2030年までに

  • 人々が持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つ
  • 天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成
  • 世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させる
  • 廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減

 

その他

  • 持続可能な消費と生産に関する10年計画(10YFP)を実施し全ての国々が対策を講じる
  • 大企業や多国籍企業などは持続可能な取り組みを導入し、持続可能性に関する情報を定期報告に盛り込むよう奨励
  • 持続可能な公共調達の慣行を促進
  • 開発途上国に対し持続可能な消費・生産形態の促進のため科学的・技術的能力の強化を支援
  • 持続可能な観光業に対して開発がもたらす影響を測定する手法を開発・導入

 


13.気候変動に具体的な対策を
気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 開発途上国のニーズに対応するため年間1,000億ドルを共同で動員するUNFCCCのコミットメントを実施し、速やかに資本を投入して緑の気候基金を本格始動させる

 

その他

  • 気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化
  • 気候変動対策を国別の政策、戦略及び計画に盛り込む
  • 気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する

※国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が、気候変動への世界的対応について交渉を行う一義的な国際的、政府間対話の場であると認識している。

表8 主な国・地域の温室効果ガス削減目標

削減比率と期限備考
日本2013年比 2030年までに26%2050年に80%削減を閣議決定
アメリカ2005年比 2030年までに26~28%2017年6月にパリ協定離脱
推移目標も取り消し
EU1990年比 2030年までに40% 
中国2005年比 2030年までに60~65%GDP当りのCO₂排出量
インド2005年比 2030年までに33~35%GDP当りのCO₂排出量

 


14.海の豊かさを守ろう
海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 強靱性(レジリエンス)の強化などによる持続的な管理と保護を行い、海洋及び沿岸の生態系の回復のための取組を行う
  • 漁獲を効果的に規制し、過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業及び破壊的な漁業慣行を終了
  • 国内法及び国際法に則り、少なくとも沿岸域及び海域の10パーセントを保全
  • 過剰漁獲能力や過剰漁獲につながる漁業補助金を禁止し、違法・無報告・無規制(IUU)漁業につながる補助金を撤廃

 

2025年までに

  • 海洋ごみや富栄養化を含むあらゆる種類の海洋汚染を防止し大幅に削減

 

2030年までに

  • 漁業、水産養殖及び観光の持続可能な管理などを通じ、後発開発途上国の海洋資源の持続的な利用による経済的便益を増大

 

その他

  • 海洋酸性化の影響を最小限化し、対処する
  • 水産資源を、実現可能な最短期間で少なくとも各資源の生物学的特性によって定められる最大持続生産量のレベルまで回復させる
  • 開発途上国に対する適切かつ効果的な待遇が、世界貿易機関(WTO)漁業補助金交渉の不可分の要素であるべきことを認識した上で、海洋の健全性の改善と、開発途上国の開発における海洋生物多様性の寄与向上のために、科学的知識の増進、研究能力の向上、及び海洋技術の移転を行う
  • 小規模・沿岸零細漁業者に対し、海洋資源及び市場へのアクセスを提供する
  • 海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)に反映されている国際法を実施することにより、海洋及び海洋資源の保全及び持続可能な利用を強化する

 


15.陸の豊かさも守ろう
陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る

 

《ターゲットの概要》
2020年までに

  • 森林、湿地、山地及び乾燥地をはじめとする陸域生態系と内陸淡水生態系の保全、回復及び持続可能な利用を確保
  • 森林減少を阻止し、劣化した森林を回復し、世界全体で新規植林及び再植林を大幅に増加
  • 外来種の侵入を防止し、これらによる陸域・海洋生態系への影響を大幅に減少させるための対策を導入
  • 生態系と生物多様性の価値を、国や地方の計画策定、開発プロセス及び貧困削減のための戦略及び会計に組み込む
  • 絶滅危惧種を保護し、絶滅防止するための緊急かつ意味のある対策を講じる

 

2030年までに

  • 砂漠化に対処し、砂漠化、干ばつ及び洪水の影響を受けた土地などの劣化した土地と土壌を回復
  • 生物多様性を含む山地生態系の保全を確実に行う

 

その他

  • 国際合意に基づき、遺伝資源への適切なアクセスを推進
  • 保護の対象となっている動植物種の密猟及び違法取引を撲滅するための緊急対策を講じる
  • 生物多様性と生態系の保全と持続的な利用のために、あらゆる資金源からの資金の動員及び大幅な増額を行う
  • 保全や再植林を含む持続可能な森林経営を推進するため、持続可能な森林経営のための資金の調達と開発途上国への十分なインセンティブ付与のための資源を動員
  • 地域コミュニティ経済能力を高め、密猟及び違法な取引を防ぐための支援を強化

 


16.平和と公正をすべての人に
持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する

 

《ターゲットの概要》
2030年までに

  • 違法な資金及び武器の取引を大幅に減少させ、あらゆる形態の組織犯罪を根絶
  • 全ての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供

 

その他

  • 全ての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少
  • 子供に対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅
  • 国家及び国際的な法の支配を促進し、全ての人々に司法への平等なアクセスを提供
  • あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少
  • 有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展
  • 対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定を確保
  • グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化
  • 国内法規及び国際協定に従い、情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障
  • 特に開発途上国において、暴力の防止とテロリズム・犯罪の撲滅に関する能力構築のため、国際協力などを通じて関連国家機関を強化
  • 持続可能な開発のための非差別的な法規及び政策を推進、実施

 


17.パートナーシップで目標を達成しよう
持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

 

《ターゲットの概要》
【資金】

  • 課税及び徴税能力の向上、国内資源の動員を強化
  • 先進国は、開発途上国に対するODAをGNI比0.7%に、後発開発途上国に対するODAをGNI比0.15~0.20%という目標を完全に実施する。少なくともGNI比0.20%のODAを後発開発途上国に供与するという目標を奨励
  • 複数の財源から、開発途上国のための追加的資金源を動員
  • 必要に応じた負債による資金調達、債務救済及び債務再編の促進を目的とした政策により、開発途上国の長期的な債務の持続可能性の実現を支援し、重債務貧困国(HIPC)の対外債務への対応により債務リスクを軽減する
  • 後発開発途上国のための投資促進枠組みを導入及び実施する

 

【技術】

  • 科学技術イノベーション(STI)及びこれらへのアクセスに関する南北協力、南南協力及び地域的・国際的な三角協力を向上
  • 開発途上国に対し、譲許的・特恵的条件などの相互に合意した有利な条件の下で、環境に配慮した技術の開発、移転、普及及び拡散を促進
  • 2017年までに、後発開発途上国のための技術バンク及び科学技術イノベーション能力構築メカニズムを運用し、情報通信技術(ICT)をはじめとする実現技術の利用を強化

 

【キャパシティ・ビルディング】

  • 開発途上国における持続可能な開発目標を実施するための効果的かつ的をしぼった国際的な支援を強化

 

【貿易】

  • WTOの下での普遍的でルールに基づいた、公平な貿易体制を促進
  • 開発途上国による輸出を大幅に増加させ、特に2020年までに世界の輸出に占める後発開発途上国のシェアを倍増
  • 世界貿易機関(WTO)の決定に矛盾しない形で、全ての後発開発途上国に対し、永続的な無税・無枠の市場アクセスを適時実施

 

【体制面】

  • 政策協調や政策の首尾一貫性などを通じて、世界的なマクロ経済の安定を促進
  • 持続可能な開発のための政策の一貫性を強化する
  • 貧困撲滅と持続可能な開発のため政策の確立・実施にあたっては、各国の政策空間及びリーダーシップを尊重

 

【マルチステークホルダー・パートナーシップ】

  • 全ての国々、特に開発途上国での持続可能な開発目標の達成を支援すべく、知識、専門的知見、技術及び資金源を動員、共有するマルチステークホルダー・パートナーシップによって補完しつつ、持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップを強化する
  • さまざまなパートナーシップの経験や資源戦略を基にした、効果的な公的、官民、市民社会のパートナーシップを奨励・推進する

 

【データ、モニタリング、説明責任】

  • 2020年までに、開発途上国に対する能力構築支援を強化し、所得、性別、年齢、人種、民族、居住資格、障害、地理的位置及びその他各国事情に関連する特性別の質が高く、タイムリーかつ信頼性のある非集計型データの入手可能性を向上させる
  • 2030年までに、持続可能な開発の進捗状況を測るGDP以外の尺度を開発する既存の取組を更に前進させ、開発途上国における統計に関する能力構築を支援する

 

環境だけでなく、世界が直面する様々な問題への取組

このようにSDGsは、環境だけでなく世界が直面している様々な問題を解決するための取組を低減しています。

その一方、経済発展と環境のように相反するテーマもあります。その中で、どのように折り合いをつけてそれぞれの問題を解決するのか、それには各国の知恵と、世界での協調が不可欠です。
 

地球温暖化とパリ協定

パリ協定

パリ協定とは、2015年にパリで開かれた「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で合意された、温室効果ガス削減に関する国際的取り決めのことです。
パリ協定では、次のような世界共通の長期目標を掲げています。

  • 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
  • できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる

日本も批准手続きを経て、パリ協定の締結国となりました。この国際的な枠組みの下、主要排出国が排出削減に取り組むよう国際社会を主導し、地球温暖化対策と経済成長の両立を目指すとしています。

最大の二酸化炭素排出国アメリカは、ドナルド・トランプ米大統領が2017年6月にパリ協定から離脱を宣言し、2020年11月4日に正式離脱しました。その後、バイデン大統領に変わった2021年2月19日正式に復帰しました。
 

パリ協定が画期的といわれる2つのポイント

パリ協定は歴史的に重要な取組で、特に画期的な点は、途上国を含む全ての参加国に、排出削減の努力を求めたことです。

京都議定書では、排出量削減の法的義務は先進国のみ課せられました。しかし2016年の温室効果ガス排出の国別シェアは、中国が23.2%で1位、米国が13.6%で2位、EUが10.0%で3位、インドが5.1%でロシアと並んで同率4位です。日本の温室効果ガス排出量シェアは2.7%で8位です。

図3 世界のエネルギー起源Co²排出量(2018年)に占めるG20諸国の割合 (環境省ホームページより)
図3 世界のエネルギー起源Co²排出量(2018年)に占めるG20諸国の割合 (環境省ホームページより)

パリ協定では、途上国を含む全ての参加国と地域に、2020年以降の「温室効果ガス削減・抑制目標」を定めることを求めています。加えて、長期的な「低排出発展戦略」を作成することも求められています。

一方パリ協定は、各国が自主的に取り組むことが求められています。この自主的な取組はこれまでの国際交渉で日本が提唱してきたものです。その結果、各国が自国の国情を織り込み、削減・抑制目標を自主的に策定することが認められました。
 

日本の削減目標とビジネスへの影響

日本では、中期目標として、2030年度の温室効果ガスの排出を2013年度の水準から26%削減することが目標として定められました。「この目標は低いのではないか」という声もありますが、各国が自主的に定めた目標は基準年度や指標などがバラバラなので比較するには注意が必要です。表9は主要排出国の削減・抑制目標を比較したものです。日本の数値は一見低いように見えて、かなり高い目標だと分かります。

図4 各国の二酸化炭素排出削減目標(出典)主要国の約束草案(温室効果ガスの排出削減目標)の比較(経済産業省 作成)
図4 各国の二酸化炭素排出削減目標
(出典)主要国の約束草案(温室効果ガスの排出削減目標)の比較(経済産業省 作成)

・日本は2013年と比べた場合の数値、米国は2005年と比べた場合の数値、EUは1990年と比べた場合の数値を削減目標として提出
・比較する年度を「2013年」に合わせて数値を比べてみると、日本の目標は高いことが分かる
 

経済と両立しながら低排出型社会を目指す

経済産業省はこうした野心的な目標を達成するため、再生可能エネルギー(再エネ)の導入量を増やすなど低排出なエネルギーミックスの推進と、エネルギー効率化を追求しています。政府の2030年のエネルギーミックスは、再エネを22~24%、原子力を22~20%とするなどの電源構成を見通しています。

図5 エネルギーミックスにおける2030年の電源構成(出典)長期エネルギー需給見通し(経済産業省 作成)
図5 エネルギーミックスにおける2030年の電源構成
(出典)長期エネルギー需給見通し(経済産業省 作成)


 

地球温暖化対策はSDGsの17の目標のうちその1テーマにしか過ぎません。

しかし経済活動、社会生活に与える影響は他の16テーマと比べて極めて大きいものがあります。

ところがその根拠は「地球温暖化」という科学的に完全に解明されているとは言えない現象です。実際、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)(注)の報告書は誇張されていると考える専門家もいます。

なにより現在の地球温暖化の議論には重大な問題があります。

これについては、別の経営コラムでお伝えします。
 

参考文献

「環境問題のウソとホントがわかる本」杉本裕明 著 大和書房
「図解SDGs入門」 村上芽 著 日本経済新聞出版
「異常気象と地球温暖化」鬼頭昭雄 著 岩波新書
「地球温暖化の不都合な真実」マーク・モラノ 著 日本評論社
「地球温暖化 そのメカニズムと不確実性」日本気象協会 朝倉書店
「SDGsとは何か 世界を変える17のSDGs目標」安藤 顯 著 三和書籍
「不都合な真実」アル・ゴア 著 ランダムハウス講談社
 

本コラムは「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。

経営コラム ものづくりの未来と経営

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、技術革新や経営、社会の変革などのテーマを掘り下げ、ニュースからは見えない本質と変化を深堀したコラムです。「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しています。過去のコラムについてはこちらをご参照ください。
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カオス理論が常識を覆す~バブルは再発し、野生動物は激減する、難解なカオス理論を易しく解説~ https://ilink-corp.co.jp/8086.html https://ilink-corp.co.jp/8086.html#respond Fri, 21 Oct 2022 13:46:08 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8086
このコラムの概要

本コラムでは、一見すると複雑で予測不可能な現象の背後にある「カオス理論」について、身近な例を交えながら分かりやすく解説しています。
「バタフライ効果」に代表されるように、ごくわずかな初期条件の違いが、時間とともに予測不能な大きな結果をもたらすカオス理論の本質を説明。経済におけるバブルの再発や野生動物の個体数激減といった現象も、カオス的な振る舞いとして捉えられる可能性を示唆しています。「決定論的」でありながら「非周期的」というカオス理論の特性を通じて、これまで単純な因果関係では説明が難しかった現象に新たな視点を提供し、複雑系の理解を深める重要性を提唱しています。

金融工学の理論上、バブルは起きないことになっています。ではなぜ起きないはずのバブルが起きるのでしょうか?
あるいは、近年のカツオやサンマの不漁が話題になっていますが、これは中国など他国の乱獲が原因なのでしょうか?
私たちの身近に起きる問題について、様々な原因が報道されています。

しかし、問題を解明する理論の前提が違っていたら、どうなるのでしょうか?

例えば、かつては地球を中心として太陽や惑星が回っていると考えられていました(天動説)。しかし天動説では惑星の動きを正確に表すことができませんでした。

そして現在は地球が太陽の周りを回っている地動説に置き換わりました。

同様に私たちの身近にある様々な現象は、天動説のような古い考え方で捉えようとしているのかもしれません。
 

1960年代に生まれ、1990年代以降注目されている「カオス理論」があります。

カオス理論では経済や自然現象に対し、それまで正しいとされてきた前提条件が違っていることが分かってきました。

カオス理論に照らすと世界はどのように見えるのでしょうか。
 

近代科学の成立と無視された世界

17世紀以前、世界は神話に支配されていました。
様々な物理現象は神によるものでした。

しかし17世紀にはいるとニュートンをはじめとする多くの科学者が様々な原理や法則を発見し、近代科学は大きく進歩しました。
こうして世界は神による神秘的なものから、様々な理論や数式で表すことができる時計仕掛けの世界に変わったのです。
 

時計仕掛けの世界観と自然界への応用

ニュートンの功績は、物理上の様々な運動法則を解き明かしたことと、微分・積分を確立したことです。
これにより物体の衝突から振り子の振動、天体の動きを数式で表すことができるようになりました。つまり様々な物理現象の結果が計算できるようになったのです。

20世紀にアインシュタインが相対性理論を確立するまで、ニュートンの物理学が唯一でした。今でもほとんどの物理現象はニュートンの理論で解くことができます。今の高校生や大学生が勉強しているのもニュートンの理論なのです。

このニュートンの理論は、それまでの神話から始まる神秘に満ちた世界観を、神秘性の全くない時計仕掛けの世界に変えました。
 

そしてニュートン(とライプニッツら)の打ち立てた微分・積分は、天体の運動以外にも様々な物理現象を微分方程式と数式で表すことを可能にしました。こうしてニュートンが開いた科学の扉から、多くの科学者が様々な自然現象に微分・積分を応用しました。

イギリスの数学者ブルック・テイラーは、微分方程式を使って振動が正弦波であることを発見しました。さらにフランスの数学者ジャン・ル・ロン・ダランベールは2つ以上の変数の現象を解く偏微分方程式を考えました。そしてこれを使って2つ以上の振動の重なりを解きました。
 

ジョゼフ・ルイ・ラグランジュはこの振動理論を音響学に発展させ、レオンハルト・オイラーはニュートンの理論を応用して水などの液体(流体)の流れを解き明かしました。(二人は18世紀最大の数学者と呼ばれています。)

ジョゼフ・フーリエは熱の流れに微分方程式を応用しました。ピエール・シモン・ド・ラプラスやシメオン・ドゥニ・ポアソンは、構造物(弾性体)の変形を解き明かしました。

こうした科学者の自然現象に対する解析と理解は急速に深まり、それを元に蒸気機関、発電所、モーターなどの技術は急速に進歩し、産業は大いに発展しました。
 

無視された世界

一方様々な物理現象を微分方程式で表すことができても、そこからその現象の結果を定量的に把握するには、その微分方程式を解いて数値解を出さなければなりません。
物理現象を微分方程式で表すことと、その微分方程式を解くことは別なのです。
例えば、微分方程式とは以下の式です
式1

当時、微分方程式を解いて数値解を出すには、この微分方程式を展開して(解析的に)解かなければなりませんでした。これは今でも工学部の学生が試験でやっていることです。
一方、今では解析的に解かなくても、コンピューターを使って微分方程式の数値解を計算することができます。
 

しかし当時、例え自然現象を微分方程式で表すことができても、その微分方程式が複雑で解析的に解けなければ、その理論は現実には使えませんでした。そこでこのような場合、解析的に解けるように微分方程式の前提条件を変えました。

例えば物体の衝突を計算する場合、衝突する物体は

  • 弾性変形や塑性変形が一切ない完全な剛体で
  • 衝突の際に摩擦の影響も全くない

という条件です。
 

従ってパチンコ玉のような硬い物体が衝突した後の軌跡は、ニュートン力学では高い精度で計算できます。(それでも弾性変形が皆無ではないため誤差は生じます。) しかし車と車が衝突した場合、衝突後の2台の運動はニュートン力学では解けません。

また物体の衝突自体も物体が2つの場合はニュートン力学で計算できますが、3つ以上の場合は計算できません。

図1 2つの衝突は計算できる
図1 2つの衝突は計算できる

 

天体のような互いに引力が作用する場合も同様で、これは「三体問題」として現在でも物理学の大きなテーマとなっています。
 

また当時は微分方程式を解析的に解くには、微分方程式が「線形」である必要がありました。微分方程式の線形と非線形の違いは以下のようなものです。

線形微分方程式の例 以下のバネの運動方程式、非線形微分方程式の例 以下の振り子の運動方程式

微分方程式が線形であれば、解はひとつだけ存在します。これに対して非線形微分方程式では、解が存在するかどうか、また解が存在してもその解が一つかどうかわかりません。

そこで当時の科学者は、自然現象を少々無理をしてでも線形微分方程式で表しました。しかし実際は自然界の現象の多くは、正確に表すためには非線形微分方程式が必要でした。
 

注記) 微分方程式の数値解
多くの数学者が微分方程式の解法を探求しましたが、手計算で解析的に解ける微分方程式は限界がありました。そこでコンピューターを使って数値解を求める方法が研究され、コンピューターの進歩と共に発展しました。数値解を求める方法にはルンゲ・クッタ法、線形多段法、オイラー法などがあり、今でも多くの解法が研究されています。この方法であれば非線形微分方程式も数値解が得られます。
 

確率論とランダムさとは?

実は天体の運動は軌跡が一つしかありません。そのためニュートン力学で表すことができます。
では常に起きるとは限らないような物理現象は、どうやって数学で表すのでしょうか。
 

確率論の確立

決まって起きるとは限らない現象、その代表がルーレットやサイコロ、つまりギャンブルです。
このギャンブルを16世紀から17世紀にかけてカルダーノ、パスカル、フェルマー、ホイヘンスらが数学の一分野として研究しました。

そして、その結果「確率論」が生まれました。
 

イタリアの数学者カルダーノは、賭博師でもありました。彼は1560年代『さいころあそびについて』で初めて確率論を系統的に論じました。

ラプラスは1814年に『確率の哲学的試論』でそれまでの様々な確率論を統合し、古典的確率論にまとめました。さらにベルヌーイは完全にバランスの取れたコインを投げた場合、回数が多くなれば表と裏の確率が半々になることを「大数の法則」で証明しました。

試行回数が非常に多い場合、その分布はつりがね型の「ベル・カーブ」になります。このベル・カーブは1733年アブラーム・ド・モアブルによって定義されました。

カール・フリードリッヒ・ガウスは、誤差の多い測定結果の修正に最小二乗法を用いました。そして真の値を計算する際に、誤差の分布を正規分布として計算しました。

1812年にピエール・シモン・ラプラスは最小二乗法、帰納的確率論、仮説の検証といった確率や統計の基礎を統合しました。「正規分布」という言葉はチャールズ・サンダース・パース、フランシス・ゴルトン、ヴィルヘルム・レキシスの3人によって1875年頃に導入されました。
 

正規分布は以下の式で表されます。図2に正規分布曲線を、表1に正規分布における信頼区間と誤差を示します。

信頼区間と誤差の理論は、今でも品質管理やシステムの信頼性の基本として広く用いられています。
 

例えば、目標値に対し測定結果の標準偏差が0.01ミリでした。

このとき信頼区間1σ、つまり±0.01ミリの誤差は31.7%
測定結果の31.7%は±0.01ミリの範囲外、つまり不合格になります。

このとき信頼区間3σ、つまり±0.03ミリの誤差は0.27%
測定結果の0.27%は±0.03ミリの範囲外、つまり不合格になります。

このとき信頼区間5σ、つまり±0.05ミリの誤差は0.000057%
測定結果の0.000057%は±0.05ミリの範囲外、つまり不合格になります。
 

このようにして品質管理では製品の信頼度を評価しています。そして高度な信頼性が求められる製品では、0.000057%の誤差でさえ問題になるのです。

式2

図2 正規分布曲線
図2 正規分布曲線

表1 信頼区間と誤差(σは標準偏差)

信頼区間発生確率(%)誤差(%)
68.268949231.7310508
95.44997364.5500264
99.73002040.2699796
99.9936660.006334
99.99994266970.0000573303

 

ランダムさとは?

確率論の対象となる、このように必ずしも結果が決まっていない現象をランダム(random)といいます。これは以下のように定義されます。
「事象の発生に法則性(規則性)がなく、予測が不可能(英語版)な状態で、無作為性ともいう」

ランダムの例としてコイン投げやサイコロがあります。
実際は完全なサイコロやコイン投げは存在しません。そのため必ず結果に偏りが出ます。ただし物理では、予測が不可能であればランダムとします。
 

実際のカジノのルーレットも完全にランダムではありません。

1964年リチャード・ヤレキ氏は、記録係を8人雇い、ヨーロッパの何か所かのカジノに行かせました。そしてルーレットの出た数字をひたすら記録させました。そしてそれぞれのルーレットのくせを完全に把握すると、3,000万円の資金を借りてカジノに出かけました。

図3 ルーレットのくせを見抜くと…
図3 ルーレットのくせを見抜くと…

ヤレキ氏の荒稼ぎは半年続き、その間に7億4,000万円を手にしました。
カジノ側も荒稼ぎをするヤレキ氏に気づき、毎日ルーレット盤を変えました。しかしヤレキ氏はルーレット盤の僅かなキズや変色も記録しておいたので目当ての台を見つけました。
 

この一見ランダムな事象も長いスパンではあるパターン(傾向)がみられます。ひょっとするはこれがギャンブルの「運」なのかもしれません。
 

1950年フェラーはコイン投げを1万回行い、表と裏の出現頻度にパターンがあることを発見しました。
単純なコイン投げでも回数が多いと長期的なパターンがみられるのです。
 

数学者のベノワ・B・マンデルブロ氏は、このランダムさには複数の「状態」又は型があると言います。

  • マイルド型
    コイン投げなど、平均値から一定の範囲内でゆらぐものです。自然界でもこれが正常な状態とされてきました

  • ワイルド型
    極めて不規則に変化し、予測が困難

  • スロー型
    マイルド型とワイルド型の中間

 

予想以上にランダム

19世紀の数学者コーシーは、ガウスとは異なった誤差理論(コーシー曲線)を考えました。

目隠しをしたアーチェリー選手の撃った結果は、時には外れ方が半端なく大きくなります。そして誤差は正規分布になりません。

たった1回でも大きく外すと平均値が大きく書き換わるため平均値は一定に収束せず、標準偏差は無限大になります。
 

ガウスは大きな変化はたくさんの小さな変化の結果と考えました。しかしコーシーは大きな変化は意外に高い確率で発生すると考えたのです。

式3

図4 正規分布とコーシーの分布曲線
図4 正規分布とコーシーの分布曲線


 

図4で、最も背の低い曲線が正規分布、最も背が高い曲線がコーシー分布の曲線です。

その中間の高さの曲線はマンデルブロ氏が調べた実際の市場における綿花の価格の変動の分布です。

当時は、多くの学者がガウスの理論はシンプルで現実的であると考えました。しかしマンデルブロ氏はむしろコーシーの理論の方が自然に見えると言います。
 

金融工学の誕生とその土台

確率論がギャンブルを出発点に発達しました。逆にギャンブル要素の高い金融市場(株式市場)に確率論を持ち込んだ人たちがいました。
 

株式市場は確率的?

フランスの数学者ルイ・バシュリエは、株式や債券の価格の変動がランダムウォークであると考えました。

この価格の変動に確率論を適用して1900年に論文「投機の理論」を書きました。ランダムウォークとは価格動向が確率的に等しく上下する(ボラティリティ)場合の振る舞いです。このランダムウォークの分布は正規分布で表現できます。

さらにバシュリエは債券価格の値動きに微粒子の不規則な動き「ブラウン運動」の理論を応用しました。
 

当時フランスでは株式以外にオプションやワラント債などが活発に取引されていました。バシュリエは実際にオプション取引や先物取引の価格付けに自分の理論を当てはめてみたところ、利益を上げた人の割合はバシュリエの理論と一致しました。

このときバシュリエは以下の2つを仮定しました。

  • 価格の変化は過去の変化の影響を受けない
  • 価格の変化は正規分布に従う

これを前提としてバシュリエのモデルに従って、逆の方向の値動きをする株式や債券を組み合わせれば、リスクに応じた収益性の高い金融商品の組合せ(ポートフォリオ)をつくることができます。これは現代の金融商品(例えば投資信託)そのものです。
 

しかし、不幸なことにバシュリエは生まれたのが早すぎました。生前は全く評価されませんでしたが、彼の理論は彼の死後、1950年代になってハリー・マーコヴィッツ、ウイリアム・シャープ、ポール・サミュエルソン、ユージン・ファーマらが取り上げました。
より洗練され高度化し、これが現代のファイナンス理論の基礎となりました。

ファイナンス理論は次の「効率的市場仮説」を前提としています。

  • 常に多数の投資家が収益の安全性を分析・評価している
  • 新しいニュースは常に他のニュースと独立してランダムに市場に届く
  • 株価は新しいニュースによって即座に調整される
  • 株価は常に全ての情報を反映している

現実はこの前提を完全に満たしておらず、金融理論は現実を一部無視した主観的な面があります。

一方、この理論はシンプルで使いやすく、大半の市場にはよく適合します。そのため、現在も金融業界で広く用いられています。

ところが稀に、現実はこの前提から外れ、大きな変動が発生します。
 

マーコヴィッツとCAPM

シカゴ大学のマーコヴィッツは、リスクとリターンの関係を表す数式に確率論を用いました。これを元に現代ポートフォリオ理論を考え現代の金融工学を確立しました。

また企業の株式のパフォーマンスを定量化するためにCAPM(資本資産価格モデル、Capital Asset Pricing Model)を考案しました。このCAPMは今も企業が投資先としての自社の価値を示すのに使用しています。
 

CAPMでは、ある株式に期待されるリターンは個別の株式が持つβ値とリスクフリー・レートから計算します。
E(r) = rf + β(rM-rf)
E(r): 任意の株式の期待リターン
rf: リスクフリー・レート(実際は国債の利回り)
β: 任意の株式のβ値
rM:マーケットが期待するリターン

CAPMから計算した株式投資期待収益率E(r)は、企業側から見れば株主コストです。
 

この株主コストと負債コストを加重平均すると企業が調達している資本のコスト(WACC、加重平均資本コスト)が計算できます。 このWACCで個別案件が生み出す将来のフリー・キャッシュフローを割り引けば、個別の投資案件の採算性が評価できます。

このβ値は企業の株式が市場全体の株価の動きよりも大きく変動するか、小さく変動するかを表します。つまりその株式のリスクを示します。大きなリターンを求める投資家はβの高い株式を狙い、リスクを嫌う投資家はβの低い株式を選択します。

図5 株式のねらい目は…?
図5 株式のねらい目は…?

1960年ウイリアム・シャープはマーコヴィッツに
「効率的市場仮説が正しいのであれば、効率的なポートフォリオは一つだけになるのではないか」
と尋ねたところ、彼の答えはイエスでした。これを実現したのがインデックス・ファンドです。
 

ブラック=ショールズの公式

デリバティブなどオプションの価格は、すでにバシュリエが1900年の論文でオプションの評価式を考案しました。しかしオプションの価格評価の中で、リスクの市場価格を明示できなかったため実用性は乏しいままでした。

1965年にハーバード大学からアーサー・D・リトルに移ったフィッシャー・ブラックは、ワラント債の評価式を研究しました。そして1969年にワラントの評価式を導出しました。しかしブラックは方程式を解くことができませんでした。
 

ところが同じ1969年マサチューセッツ工科大学(MIT)に移籍すると、ブラックはこれが熱伝導方程式の一種であることには気付きました。そしてMITのマイロン・ショールズと共に評価式を完成させました。そして実際にこの評価式を使って割安なワラント債を買ってみたところ、この評価式はオプションの評価に十分使えることが分かりました。

そして1970年オプションの評価式としてこのブラック=ショールズの公式を発表しました。これにより市場で取引されていたオプションやワラント債などデリバティブの適正な価格が算出できるようになりました。
 

ブラックショールズの偏微分方程式

S : 原資産である株式価格
N(α) : 正規分布に従う確率変数がα以下の値をとる確率、すなわち正規分布の累積分布関数
K : コール・オプションの行使価格
t : 満期時点(年単位)
r : オプションの満期に対応する無リスク金利(連続複利ベース)
e-rt : 時点tで発生するキャッシュ・フローを、連続複利金利rで現在価値に引き直すための割引係数(ディスカウント・ファクター)
σ : ボラティリティ(原資産の収益率の標準偏差)
 

【背景】

1950年代、60年代はアメリカの黄金時代でした。企業は年々成長し株価は多くの銘柄で値上がりが続きましたしかし1971年ドルは変動相場制に移行し、その後到来したオイルショックの影響もあり、アメリカは長い不況に見舞われました。企業の成長も鈍化しました。一方1973年にはシカゴにオプション取引所が開設され、株式以外の金融商品の取引が活発になりました。そこでオプション価格の算定のニーズが高まりました。

1993年にショールズはロバート・マートンと共にヘッジファンド「ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)」に参画しました。LTCMは当初4年間に40%を超える平均年間利回りという驚異的な成績を上げました。そして各国の金融機関の資金など合わせて1000億ドルを運用しました。

しかしアジア通貨危機によるロシア債券価格の急落により経営破綻しました。ブラック=ショールズの公式にはアジア通貨危機は盛り込まれていなかったようです。
 

経済学の流行

金融工学や経済学に対し、マンデルブロ氏は「伝統的な金融工学は以下の仮定に基づいている」と言います。

  1. 人間は合理的に考え、豊かになることだけを目的としている
    《理論上は》 合理的に意思決定する
    《現実は》 意思決定は時には非合理(これは行動経済学で明かされた)

  2. 投資家の行うことは全て似たり寄ったり
    《理論上は》 同じように行動する
    《現実は》 投資家の行動は同じではない

  3. 株式や債券の価格が急変することはない
    《理論上は》 少しずつ変化する
    《現実は》 時には激しく変化する

 

金融工学が価格の変動をブラウン運動とみなして価格を算定するためには、以下の3つの理論上の仮定があります。

  • 過去の価格は現在の価格に影響しない
  • 価格の変動は統計的には定常性がある
  • 価格の変動は正規分布に従う

しかし現実はそれほど単純ではありません。
 

ところが多くの経済学者は、単純なモデルを使ってきれいな結果を出すことを重視しています。そしてモデルが現実に合わない時は「アノマリー」(異常)とし、モデルを見直そうとはしません。

  1. 金融モデルは市場の動きを正確に予想できるか
  2. 現代ポートフォリオ理論に従えば安全で利益を出せる投資戦略が立てられるか
  3. 金融アナリストやCFOはCAPMを利用して正しい判断をしているか

 

「この3つ問いの答えがイエスならモデルの妥当性に文句をつけるべきではない」
とアメリカの経済学者ミルトン・フリードマンは述べています。

稀に起こる突発的な変化を「アノマリー」として除外すれば金融工学のモデルは実用的で現実に十分適合します。

ただし、それは「突発的な変化による被害が自分に及ばない時」に限ります。
 

カオス理論が明かす想定外の変化

カオスとは「混沌」を意味する英語で、語源はギリシャ語のkhaosです。

これは宇宙が成立する以前の秩序なき状態を意味します。
 

カオス理論のカオスは、数学用語です。これは「決定論的システムにおける確率論的なふるまい」を意味します。

これはどういうことでしょうか?
 

カオス理論とフラクタル

フランスの数学者アンリ・ポアンカレは、
微分方程式の解が一つだけ決まるということは、その運動が何度も繰り返す、つまり周期性を持っている
ということを発見しました。
 

トポロジー(位相幾何学)

トポロジーは数学の一分野です。
何らかの形(又は「空間」)を曲げたり伸ばしたり(切ったり貼ったりはしない)しても保たれる性質のことです。このトポロジーは、空間、次元、変換といった概念の研究から生まれました。

オイラーの多面体公式が知られ、20世紀中頃には数学の著名な一分野になりました。

図6 トポロジー(位相幾何学)
図6 トポロジー(位相幾何学)


 

位相空間の中でひとつの点が閉曲線に従って運動すれば、その点は同じ運動を永久に繰り返します。

図7 振り子の位相空間線図
図7 振り子の位相空間線図


 

図7は理想化された線形運動である振り子の位相空間線図です。振り子の振動は円を描きます。この円の大きさは、初期条件によって変わります。

実際の振り子の運動の位相空間線図は非線形のため、理想化された線形運動のものとは大きく異なります。
 

ポアンカレ断面

微分方程式の解が一つだけ決まる場合、その運動は周期性があります。その場合、曲線は必ず出発点に戻ってきます。

ポアンカレは、位相空間の中で、周期運動する軌跡が出発点と同じ位置に戻ってくる断面をポアンカレ断面と呼びました。つまりポアンカレ断面があれば、その運動方程式は周期解が必ず存在するということです。

図8 ポアンカレ断面
図8 ポアンカレ断面


 

カオス理論

決定論とは
「初期値を与えると必然的に未来での振る舞いが与えられる」
ことです。

決定論的なふるまいをする事象が非線形の場合、初期値がわずかに異なっただけで予想できない不規則な現象が起きます。
これをカオスと呼びます。

図9 カオス理論
図9 カオス理論


 

ある事象がカオスかどうかの判定はフラクタル次元というものを使用します。

フラクタルは、カオスの逆プロセスのことです。そしてある事象のフラクタル次元が「非整数」であればカオスです。
 

例えば生物の数の増加を示す微分方程式の解は、最初急激に増加した後、ある値に収束します。

しかし実際の生物の増加は、連続的でなく離散的です。そこでこの微分方程式を差分方程式に変換します。すると解は、定常状態から周期状態、さらに不規則な状態へ変化を続けます。
これがカオスです。
 

ストレンジ・アトラクター

アトラクターとは「何かを引きつけたり、吸い寄せたりする」という意味です。
カオス軌道を位相空間にプロットすると不思議な形になります。ループやらせんが合流せず、決して交わりません。これをストレンジ・アトラクターと呼びます。

ストレンジ・アトラクターは無限の細部構造を持っています。その一部を拡大すると同じ様な細部構造が現れます。つまり自己相似性質があります。(フラクタル)

図10 ストレンジ・アトラクター (Wikipediaより)
図10 ストレンジ・アトラクター (Wikipediaより)


 

バタフライ効果

バタフライ効果とは、力学系のわずかな変化により、その後の系の状態が大きく異なってしまうことです。

気象学者のエドワード・ローレンツの
「蝶がはばたく程度の非常に小さな撹乱でも遠くの場所の気象に影響を与えるか?」
という問いからバタフライ効果と呼ばれるようになりました。

ローレンツの研究では観測誤差をゼロにしない限り正確な長期予測は困難という結論に達しました。

図11 初期値鋭敏性(バタフライ効果)の例
図11 初期値鋭敏性(バタフライ効果)の例


 

ローレンツ方程式における初期値鋭敏性(バタフライ効果)の例。横軸は時間、縦軸はある変数の変化を示す。水色は初期値 1.001、紫は 1.0001、朱色は 1.00001 で、最初のころはほとんど同じ動きだが、ある程度時間が過ぎたところで全く違った動きになる。(Wikipediaより)
 

バタフライ効果の例
一方バタフライ効果は、ローレンツが研究・発表した3元連立非線形常微分方程式(ローレンツ方程式)が生み出すストレンジ・アトラクターの形状に由来するという意見もあります。
式

図12 ローレンツ方程式とロレンツ・アトラクタ (Wikipediaより)
図12 ローレンツ方程式とロレンツ・アトラクタ (Wikipediaより)


 

フラクタル

フランスの数学者ブノワ・マンデルブロが提唱した幾何学の概念です。図形の部分と全体が自己相似になっているものを指します。
 

具体的な例に海岸線の形があります。一般的の地形は複雑な図形でも拡大すれば滑らかな形状になりますが、海岸線はどれだけ拡大しても同じように複雑な形状が現れます。

そのため海岸線の長さは、小さい物差しで測れば測るほど微細な凹凸が測定されて長くなります。つまり図形の長さは無限大になってしまい、無限の精度を要求されれば測ることはできません(海岸線のパラドックス)。

フラクタル次元はこの様な図形を評価するためのものです。
 

比較的滑らかな海岸線のフラクタル次元は線の次元1に近く、リアス式海岸のような複雑な海岸線のフラクタル次元はより大きな値になります。なお、実際の海岸線のフラクタル次元は1.1 – 1.4程度とされています。以下はフラクタル図形の例です。これらの図形はすべて数式が表されています。

図13 フラクタルの例 マンデルブロ集合 (Wikipediaより)
図13 フラクタルの例 マンデルブロ集合 (Wikipediaより)


 

自然界の不均衡

生態学のA・J・ニコルソンはアオバエの個体群の大きさを研究しました。
容器の中でアオバエを繁殖させると、1万匹まで増えて容器は一杯になります。個体数は急激に減少します。

そしてある程度減少すると空間に余裕ができ、個体数は再び増加します。
 

このサイクルは38日で繰り返されますが、前と同じになることはなく、周期的に揺らぎます。
伝染病の流行もカオス的なものが見られました。イングランドとウェールズの風疹患者の時系列(1948-1966年)での増減もカオスとしてモデル化できました。
 

カオス理論で品質を改善

1994年SRAMA(バネ研究製造協会)のレン・レイノルズは、バネの品質を安定させるには素材の加工性が重要だと考えました。

そこでバネのテストサンプルをつくり、出来上がったバネのピッチを測定しました。この測定データが時系列に変化することに着目して、カオス理論のリュエル・ターケンスの位相空間再構成を使ってアトラクターを図式化しました。

このアトラクターには、巻取り性の良い線材とそうでない線材の違いをはっきりと示しました。
 

そこで新たに補助金を使ってSRAMAとウォーリック大学数学研究所は共同でFRACMATテストマシンを開発しました。

このテストマシンは、コンピューターによってデータを統計分析、およびカオス理論分析を行い、弾性/摩擦線の連続変動を定量化しました。

これによりワイヤー製造者は高品質のワイヤーを確実に顧客に提供できました。スプリングメーカーは、一貫性のないワイヤーを排除したことでセットアップの時間が短縮されました。
 

想定外に戸惑わないために

近代科学の幕開けは、ニュートンによって世界をシンプルな数学で表したことです。
しかしその過程で複雑な自然現象を解析的に解くために、現実から乖離したモデルに修正しなければなりませんでした。

この前提条件に気づかずに複雑なシステムを構成すると、自然界本来の姿がモデルと違った姿を現した時、モデルは瓦解し、私たちは戸惑います。

「想定外!」、これが原因かもしれません。

 

もっと安全が必要

マンデルブロ氏は、金融工学が前提となっている正規分布にも疑問を持っています。
そして実際に正規分布でないものはとても多く存在します。

図14 日本の世帯の所得分布
図14 日本の世帯の所得分布


 

イタリアの経済学者パレートはスイス、ドイツ、イギリスなど様々な国の税金の記録などを調べ、所得の分布をグラフ化しました。

驚くべきことにどのデータも偏っていて正規分布ではありませんでした。図15は日本の世帯ごとの所得分布です。
 

いつの時代も富は一部の特権層に集中していて、最も多い中間層は上に上がる可能性もあれば、最下層に落ちる可能性もあります。そして一定の最下層は劣悪な環境に置かれます。これは正規分布でなくべき乗分布です。その結果、所得の平均値はわれわれの実感とは乖離しています。
 

長期にわたる価格変動のデータとして、マンデルブロはアメリカの綿花の価格に注目し、100年分のデータを分析しました。その結果、価格のゆらぎ(ボラリティ)はバシュリエの理論とは大きく異なっていました。

データを増やすと標準偏差は大きくなりました。つまり正規分布よりも大きなゆらぎがあったのです。

そこで対数でプロットすると直線状になりました。つまりこれもべき乗分布でした。
また価格の日次、月次、年次の変化をプロットするとか、どれも似ていました。つまり大きな変動が発生する割合はどの時間スケールでも同じでした。このような変化はフラクタル的、つまりカオス的でした。
 

1906年ハロルド・エドウィン・ハーストはナイル川の水不足に対処するために過去の洪水の記録を調べました。そして、どのくらいの容量のダムが必要か調査しました。

調査の結果、洪水と干ばつはランダムに起きるのでなく、洪水が起きれば翌年も洪水が起きる「長期記憶性」がありました。ハーストは他の河川のデータも調べて、どの河川にもある公式が当てはまることを発見しました。その結果、変動の幅は、時間の平方根(0.5乗)で広がるのでなく、3/4乗(0.75乗)で広がりました。

図15 洪水にも公式が当てはまる
図15 洪水にも公式が当てはまる


 

これをハーストは自然の本質的な性質と断定しました。
 

マンデルブロ氏の金融への提言

マンデルブロ氏は、市場価格は乱高下するものと考え、以下のように提言しています。

  • 金融市場の価格は正規分布でなく、ワイルド型で変動する乱流であり、変動は集中し不連続で急激に変化する。変化が大きければ市場のリスクは極めて高くなる。
  • 市場が乱流のため、既存の金融理論(正規分布)では起こるはずのないリスクが現実には起こる。従ってどの株式に投資するかよりも、株式、債券、現金にどのように配分するかの方が重要。
  • 特に市場のタイミングは重要。巨額の利益と損失は極めて短時間に起きるため、「すぐに買って、すぐに売る」ことが良い結果を生む。
  • 価格は不連続にジャンプし、それがリスクをより高くする。些細な情報で投資家が行動するとそれが大きな変動をもたらす(バタフライ効果)。そのため価格は不連続に大きく変動する。
  • 市場における価値は限定された価値。経済アナリストは企業の年次報告書から企業の価値を推定し、あるいはそれぞれの国のインフレ率や金利から為替レートを推測する。しかしワイルドに価格が変動するものの価値を算出できるだろうか。

実は固有の価値の根拠はありません。それなのにあたかも価値が算定できるかのような取組は、多くの問題を抱えることとなります。
 

自然界の予測不可能性

金融工学では、前提条件が現実と合ってなく、前提条件を正規分布と仮定したため、実際の価格の変動はもっと大きくなります。さらに価格の変動は長期記憶性があるため、長いスパンで増加や減少が続きます。そしてこれがバブルを引き起こします。
 

これを自然界に当てはめて考えると、我々が解き明かしたと思っていた自然現象、例えば、
音響、振動、運動、流体、物体の変形なども、現実を無理に線形微分方程式に置き換えたものが多いことに気付かされます。しかし実際の自然現象は非線形が多くあります。つまり使っているモデルが現実に合いません。

こういった非線形の問題を解決するアプローチとしてカオス理論は今後有望です。

 

特に長い期間の変動には長期記憶性があるため、正規分布モデルは不十分です。十分に安全を確保するならば、堤防はもっと高く、ダムの水はもっと多く、防潮堤はもっと高くしなければなりません。また例え解くことができた線形微分方程式でも、初期条件のわずかな変動により結果が大きく変わることがあります。
 

工学でも誤差の解析は正規分布を前提としています。では、その前提条件は本当に合っているのでしょうか。分布が異なれば、結果は違うものとなります。

長期的に堅牢なシステムをつくるには

  • 長期スパンでの変動を考慮
  • 僅かな初期条件の違いによる結果の影響を考慮
  • 正規分布などの前提条件が間違いないか、検証

このような取組が必要です。
 

参考文献

「禁断の市場」 ベノワ・B・マンデルブロ 著 東洋経済新報社
「カオス的世界像」 イアン・スチュワート著 白揚社
「複雑系を超えて」 上田 睆亮、稲垣 耕作、西村 和雄著 筑摩書房
 

本コラムは「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。

経営コラム ものづくりの未来と経営

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、技術革新や経営、社会の変革などのテーマを掘り下げ、ニュースからは見えない本質と変化を深堀したコラムです。「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しています。過去のコラムについてはこちらをご参照ください。
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