製造業の個別原価計算19 「原価計算基準」に則った個別原価計算(人と設備を分けた場合)

製造業の個別原価計算18 事例1『原価計算基準』に則った個別原価計算との比較」で、従来の原価計算基準に従って、個別原価を計算した場合を示しました。
 

個別原価の計算に使用するアワーレートは、

  • 人のアワーレートは、製造に直接かかわる人の作業時間と労務費から計算します。
  • 設備のアワーレートは、製造に直接用いられる設備の稼働時間と費用 (減価償却費とランニングコスト) から計算します。

 

これらの計算の元となる金額は決算書からわかります。
 

問題はそれ以外の費用です。
消耗品や水道光熱費などの費用は、何らかの基準で部門毎に分配 (注1) します。
 

生産管理や資材調達などの間接部門の費用は、それぞれの部門の費用 (人件費) を各直接製造部門に分配します。分配基準は計画回数や手配回数などです。

原価計算の本にはこのように書いてありますが、これはやってみると大変です。
 

「製造業の個別原価計算18 事例1『原価計算基準』に則った個別原価計算との比較」では、この方法で個別原価を計算しました。
 

この時は、人の作業時間と設備の稼働時間は同じ時間として計算しましたが、実際は設備だけで無人で加工する場合もあります。そうなると人の作業時間と設備の稼働時間が一致しなくなり、計算が合わなくなります。
 

このコラムでは、そのような場合にどうなるのか計算してみました。
 

注1) 会計では費用の分配は、配賦、賦課などと呼びます。しかしここでは工場の方がわかりやすいように難しい会計用語はあえて使わずに分配と呼ぶことにします。)
 

人と設備の時間が異なる場合

「製造業の個別原価計算18 事例1『原価計算基準』に則った個別原価計算との比較」で取り上げたA社は、図1に示すような設備があります。このうちNC旋盤は加工開始すると作業者は設備を離れ、設備は自動で加工します。その場合、加工中は人の費用はかかってなく、設備の費用のみです。
 

図1 各現場の段取と加工の人と設備の時間の組合せ

図1 各現場の段取と加工の人と設備の時間の組合せ
 

この場合、設備と人のアワーレートを別々に計算し、さらに間接費用のアワーレートを計算します。
 

設備と人の間接費の分配

人だけで製造する場合、費用はアワーレート(人)+アワーレート(間接費)
設備だけで製造する場合、費用はアワーレート(設備)+アワーレート(間接費)
人と設備で製造する場合、費用はアワーレート(人)+ アワーレート(設備)+アワーレート(間接費)

から計算します。
 

稼働時間の問題

アワーレート(間接費)を計算する際、間接費を分配する基準が問題になります。A社の人と設備の稼働時間は表1のようになっていました。
 

表1 実稼働時間      単位 時間

設備 分配用
マシニングセンタ 9,120 10,320 9,120
NC旋盤 5,200 10,000 10,000
平面研削盤 2,150 2,688 2,150
その他汎用 2,464 1,232 2,464
組立 9,459 0 9,459

 

NC旋盤は自動で加工を行うので設備の加工時間は人に比べて長くなっています。これに対して組立は設備を使用しないので設備の時間はゼロです。従って、人の時間、設備の時間のどちらかを間接費の分配に使用すると、間接費の分配がアンバランスになります。
 

人の時間で分配すればNC旋盤の時間が少なくなり、間接費の分配も少なくなって他の現場の間接費が相対的に高くなります。

設備の時間で分配すれば、組立は設備の時間がゼロなので間接費の分配もゼロになります。

どちらかの時間で分配するとこのような問題が生じるため、今回は便宜的にNC旋盤のみ設備の時間を使用し、他の工程は人の時間を使用しました。
 

アワーレート(間接費)の計算

この時間からアワーレート(間接費)を計算したものを表2に示します。
 

表2 アワーレートの計算結果    単位 円/h

設備 間接
マシニングセンタ 2,628 1,091 1,351
NC旋盤 3,202 427 865
平面研削盤 4,911 1,641 2,801
その他汎用 3,166 3,856 3,890
組立 2,854 0 2,089

 

表3にこの人と設備と間接費のアワーレートを合計したものを示します。右隣に「製造業の個別原価計算18 事例1『原価計算基準』に則った個別原価計算との比較」で計算した「人の時間のみで計算したアワーレート」を示します。
 

表3 加工と段取のアワーレート     単位 円/h

人+設備+間接費 人の時間のみで計算
マシニングセンタ 5,070 5,324
NC旋盤 4,494 5,627
平面研削盤 9,352 10,258
その他汎用 10,911 9,281
組立 4,943 4,679

 

アワーレートを計算する時間が異なるので、そのまま比較はできませんが近い数字になってることがわかります。
 

個別原価の計算

このアワーレートを使って前回個別原価を計算した製品の原価を再度計算します。
 

販管費レートは同じ値を使用します。
 

製品1
機械加工製品 1ロット100個 受注金額2,100円
加工工程
1. マシニング
2. NC旋盤
3. 平面研削盤
4. その他汎用
 

材料費
使用材料 S45C-D 材料単価310円/kg  使用量1kg
材料費=310×1=310円
製造時間と工程別の原価を表4に示します。
 

表4 製造時間と工程別の原価1

工程順 現場 製造時間 製造費用
(人と設備)
製造費用
(人の時間のみ)
合計
1 マシニングセンタ 0.06 304 372
2 NC旋盤 0.085 126 506
3 平面研削盤 0.033 309 369
4 その他汎用 0.0201 219 187
合計 958 1,435

 

NC旋盤の費用が大幅に下がったこともあり、製造費用は大きく低下しました。
 

製造原価=材料費+製造費用
=310+958=1,267円
 

販管費=製造原価×販管費レート
=1,267×0.137=174
 

総費用=製造原価+販管費
=1,267+174=1,441円
 

利益=受注金額-総費用
=2,100-1,441=659円
 

製品2
組立製品 1ロット25個 受注金額400,000円
工程は、組立のみ
材料費
外注加工品、購入品合わせて 材料費 240,000円
製造時間と工程別の原価を表5に示します。
 

表5 製造時間と工程別の原価2

工程順 現場 製造時間 製造費用
(人と設備)
製造費用
(人の時間のみ)
合計
1 組立 16.04 79,137 74,906

 

今回の計算の方が組立のアワーレートが高くなったため、製造費用は高くなりました。
 

製造原価=材料費+製造費用
=240,000+79,137=319,137円
 

販管費=製造原価×販管費レート
=319,137×0.137=43,722円
 

総費用=製造原価+販管費
=319,137+43,722=362,859円
 

管理会計での個別原価

このようにアワーレートの計算では、間接部門の労務費や、消耗品費や水道光熱費など、その他の費用を各現場に分配するやり方で結果に差が出ます。
 

実はこれらの費用の多くは固定費のため、あらかじめ総額は決まっていて生産が多くても少なくても変わりません。このように個別原価を計算する過程において、固定費の分配の仕方が原価に影響します。
 

そこで管理会計では、図2に示すように、あえて固定費を分配せず、変動費のみで個別原価を計算します。
 

図2 管理会計での個別製造原価

図2 管理会計での個別製造原価
 

この方法は直接製造費用という確実な数値のみで原価を計算するため、上記のように間接製造費用の分配の仕方で原価が変わることはありません。
 

一方目標限界利益が比較的大きな金額になるため、利益管理が甘くなるという欠点があります。特に顧客からの値下げの要求が厳しい場合、限界利益があるからと値下げしてしまうと赤字になってしまいます。
 

一般消費者向けの商品のように市場価格で価格が決まってしまう場合は、細かく原価を計算しても意味がない (販売価格を変えられない) ので上記の方法で十分です。

しかし個別受注生産で、個々に見積を出して顧客と価格交渉をする場合、見積に占める製造原価、販管費、利益の割合を知り、毎回顧客と粘り強く交渉しなければなりません。製造原価だけを見て粗利があるからと安く受注し、販管費がマイナスになるようでは利益が確保できません。
 

図3 受注活動における個別原価の役割

図3 受注活動における個別原価の役割
 

図3で受注価格8,200円、利益1,000円です。この場合、製造原価6,000円、販管費1,200円、利益1,000円と分かっていれば、少なくとも7,200円以上の価格で受注しようと頑張ると思います。
 

しかし変動費4,000円、限界利益4,200円しかわからなければ、1,200円値下げしても限界利益が3,000円もあると考えるかもしれません。

あるいは製造原価6,000円、粗利2,200円しかわからなければ、1,200円値下げしても粗利が1,000円あると考えるかもしれません。
 

従って、個別受注生産では製造原価、販管費、目標利益は必要と考えます。

それではどうすればもっと簡単に計算できるでしょうか?

これについては次回ご説明します。

 
 

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