Posts Tagged ‘特許’

技術革新

AI、IoTなど様々な技術革新やそれによるイノベーションは今後どのよう変革をもたらすのでしょうか?

そこで最新の様々な技術やこれまでのイノベーションや技術革新の歴史、発想法など様々なテーマを取り上げました。
 

イノベーションとは何だろうか?それを実現する方法はあるのだろうか?

 

イノベーションを実現する組織とは?その1 ~イノベーションとルーンショット~

イノベーションを起こすような革新的な技術やアイデア「LOON SHOT」は、生まれた直後は実現できるとは思えない「醜い赤ん坊」 です。これを育み育てるのがルーンショット養成所です。アメリカでは国防高等計画局(国防高等計画局(DARPA))がこの役割を果たし、インターネット、GPS、音声認識などのイノベーションが生まれました。

このルーンショット養成所について、サフィ・バーコールの「LOON SHOTS」から2回に分けて説明します。1回目は、王立協会、OSRDの果たした役割についてです。
 

イノベーションを実現する組織とは?その2 ~新しいアイデアを実現する仕組み~

イノベーションを実現する組織について2回目は、イノベーションで起きる偽の失敗とこれを乗り越える方法、そしてルーンショット養成所の考えを中小企業に活かす方法についてです。
 

これから10年で起こる、社会の劇的変化

コンピューターの進歩、SNSの発達により、今日では情報は急速に拡散します。市場の変化も早くなり、人気の商品が短期間に陳腐化してしまいます。この市場の変化は、私たちの仕事や事業にどのような影響をあたえるのでしょうか?そして、人ができる仕事、働き方はどうなるのでしょうか?社会の変化と格差の拡大について考えました。
 

これから10年で起こる、ものづくりの劇的変化

コンピューターの急速な進歩により今まで何十年も研究し、コンピューターには困難と考えられていた音声認識、翻訳、自動運転の実現が目前に迫ってきました。その結果、ものづくりはどう変わるのか?人ができる仕事、働き方はどうなるのか?人工知能やロボットの進化と雇用、社会での格差の拡大について考えました。
 

イノベーターの敗北、真の勝者は模倣者か?

優れたイノベーターが画期的な製品を開発して市場を占有するという話はドラマチックです。しかし実際は、新たな技術を開発してイノベーションを起こした企業が、後から参入した模倣者に市場を奪われてしまうことも多いのです。はたしてイノベーションは企業を強くするのか、モルモットに終わるのか。企業の模倣戦略について考えました。
 

デジタルトランスフォーメーションの真実と本当の怖さ

昨今マスコミに頻繁に登場するデジタルトランスフォーメーション(DX)、どんな意味なのか、漠然としか理解していない方も多いのではないでしょうか?その一方、 「DXに乗り遅れるな!」と多くの企業がDX推進部をつくり予算を投入しています。はたしてDXとは何でしょうか?そこで今回は、DXを取り上げ、DXの話題と実体、そして静かに進行する本当の変革について考えます。
 

「事務ロボットがホワイトカラーの仕事を奪う!」~話題のRPAの特徴と課題~

2015年野村総研とマイケルAオズボーン氏の研究によれば、日本では49%の仕事がロボットやAIに代替可能ということです。今、定型業務を自動的に処理する事務ロボットRPAが大きな話題となっています。このRPAによりどこまでの仕事がコンピューターに代替できるのか?話題のRPAの特徴とその課題について考えました。
 

「人工知能AIの発達で仕事はどう変わるのか」  ~その1 知能とは何か?AIの知能は人を超えるのか?~

AIが進化すれば、なんでもできるようになるかのようにマスコミは報道しています。しかし、知性や感情、人の意識とは何なのか、我々はよくわかりません。知性と感情、意識について、認知心理学とサイバネティクスの観点から、将来AIで世界はどう変わるのか、AIとは何なのか2回に分けて考えました。1回目は意識と知性についてです。
 

「人工知能AIの発達で仕事はどう変わるのか」  ~その2 第三次人口知能ブームの技術とシンギュラリティ~

知性と感情、意識について、認知心理学とサイバネティクスの観点から、将来AIで世界はどう変わるのか、AIとは何なのか2回に分けて考えた2回目、今のAI技術と知性の発達、シンギュラリティについてです。
 

発想法と特許

 

独創的な考えを生み出す柔軟的思考

独創的なアイデアを出すには頭がぼーっとしている方がよいと言われています。脳が疲れて左脳が働かない時の方が右脳が活発に働き革新的なアイデアを出るからです。レナード・ムロディナウ著「柔軟的思考」を元に独創的なアイデアを出す方法について考えました。
 

なぜアイデアが出ないのか?製品開発と発想法の関係

新しいアイデアを出すための発想法は、ブレインストーミングやKJ法など様々な方法が紹介されています。実は創造的な活動は「アイデア出し」に入る前の活動が重要なのです。東京大学 中尾教授の「システムで思考する」、京都大学 逢沢気陽樹の「結果が出る発想法」から、新しいものを生み出すアイデア出しと発想プロセスについて考えました。
 

独創的なアイデアを生み出すための発想法 その1

新製品や新事業だけでなく、日常起きる問題点の解決や改善など様々な場面でアイデアが求められます。そのためには新しいアイデアを生み出す方法が必要です。そこでアイデア発想法を学ぶとともに、偉大な発明家の成功から、ひらめきに加えて必要なことを考え、どのように自分達が発想力を豊かにするかを2回に分けて考えました。1回目はひらめきを生み出す手順についてです。
 

独創的なアイデアを生み出すための発想法 その2

アイデア発想法を学ぶとともに、偉大な発明家の成功から、ひらめきに加えて必要なことを考え、どのように自分達が発想力を豊かにするかを2回に分けて考えた2回目、予想外の事態に対処する柔軟さとコラボレーションの力についてです。
 

リチウムイオン電池における特許をめぐる戦い

特許を取っても技術を独占使用できるとは限りません。後発企業がより良い製品を開発して市場に参入するからです。そこで世界に先駆けリチウムイオン電池を実用化した旭化成の吉野氏の著作から、どうして特許で防ぐことができないのか悪魔のサイクルについて考えました。さらに特許から見た次世代電池開発競争についても考えました。
 

その他先端技術や知識

 

カオス理論が常識を覆す~バブルは再発し、野生動物は激減する、難解なカオス理論を易しく解説~

金融工学は様々なリスクを最小にして利益を最大化するようつくられてます。しかし本当は証券や通貨の変動は金融工学が考える前提より激しく変動していたのです。なぜなら多くの事象は金融工学が前提とする確率と統計よりも、カオス理論に従うからです。そこでマンデルブロ氏の「禁断の市場」より、現在の金融工学の問題点と、難解でわかりにくいカオス理論について説明しました。
 

次世代移動体通信5Gでビジネスはどう変わるか?

ZTE、ファーウェイに対するアメリカの厳しい措置を発端とした米中貿易摩擦は、次世代通信規格5Gの普及とその機器メーカーの問題と合わせて、日本、ヨーロッパを巻き込んだ争いになりました。この5Gとはどのようなものか、その特徴と可能性について考えました。
 

インターネット以来の大発明ブロックチェーンその1 ~ビットコインの成り立ちと特徴~

2009年、サトシ・ナカモトという人物の書いた9ページの論文から生まれた、ビットコインは多くの人々を熱狂させ、ビットコインバブルを生み出しました。その一方で、彼の考えたブロックチェーン技術は、インターネット以来の発明といわれ、今やメガバンクや各国の中央銀行がその仕組みの導入を検討しています。このブロックチェーンとは何なのか、世界はどう変わるのか2回に分けて考えました。1回目は通貨の役割とビットインについてです。
 

インターネット以来の大発明その2 ~ビットコインの技術、マイニングとプルーフオブワーク~

ブロックチェーンとは何なのか、世界はどう変わるのか2回に分けて考えた2回目は、ビットコインの革新的なところ、セキュリティの仕組みとマイニングについてです。
 

インターネット以来の大発明、ブロックチェーンその3 ~フィンテックとスマートコントラクト~

ブロックチェーンとは何なのか、世界はどう変わるのか2回に分けて考えた3回目は、ブロックチェーン技術の将来性と中央銀行が暗号通貨に取り組む理由、そして最新のフィンテックについてです。

インダストリー4.0はものづくりを変えるのか? その1

インダストリー4.0は、昨年あたりからマスコミにさかんに取り上げられ、「ものづくりが変わる!」とセンセーショナルに書かれています。でも具体的には何なのか、良く分からない方も多いと思います。本当にイノベーションが起きるのか、それともかつてのFMSやCIMのように忘れ去られてしまうものなのか2回に分けて考えました。1回目はインダストリー1.0から4.0までの流れとインダストリー4.0の技術についてです。
 

インダストリー4.0はものづくりを変えるのか? その2

インダストリー4.0でイノベーションが起きるのか、それともかつてのFMSやCIMのように忘れ去られてしまうものなのか2回に分けて考えました。2回目はインダストリー4.0の実例と課題についてです。
 

ゲームのルールが変わる、コモディティ化 その1

突然ビジネスのゲームのルールが変わり、それまで市場のトップにいた企業が一気に転落することがあります。そのひとつがコモディティ化です。ルールが変わると今まで築いた優位性がなくなります。取引先の商品がコモディティ化すれば業績が急速に悪化し、自社の仕事にも影響します。そこでコモディティ化とは何か、どうしてコモディティ化は起きるのか、どう対処すればよいのか、2回に分けて考えました。1回目はゲームのルールが変わった例とコモディティ化についてです。
 

ゲームのルールが変わる、コモディティ化 その2

コモディティ化とは何か、どうしてコモディティ化は起きるのか、どう対処すればよいのか、2回目はコモディティ化のメカニズムとコモディティ化に陥らないようにする方法についてです。
 


リチウムイオン電池における特許をめぐる戦い

リチウムイオン電池開発の歴史

電池は、内部の物質に電子を放出させ、その電子が正極から負極へ回路を通って流れることで、電気を発生します。高性能な容量の大きい電池は、より多くの電子を蓄えることのできる材料を使用します。今までに様々な元素が電池の材料に使用されてきました。その中でリチウム元素は非常に多くの電子を蓄えることができ、非常に有望な電池材料でした。
 

図1 リチウムイオン電池の構造
図1 リチウムイオン電池の構造
 

リチウムイオン電池の成功は多くの研究者の努力の結果

 リチウムを使用して電池をつくるアイデアは、1960年代からありました。

  • 1976年
  •  エクソンのマイケル・スタンリー・ウィッティンガム氏は、正極に硫化チタン、負極に金属リチウムを使用した二次電池を考案しました。しかし反応性に問題があり実用化できませんでした。

  • 1976年
  •  ミュンヘン工科大学のベーゼンハルト氏は黒鉛とリチウムの反応 (インターカレーション) を発見し、黒鉛を使ったリチウムイオン電池を提案しました。

  • 1978年
  •  ペンシルベニア大学のサマーバス氏も黒鉛とリチウムの反応を実証しました。しかし黒鉛を用いると負極側で電解液が分解してしまう問題があり、実用化は困難でした。

  • 1980年
  •  オックスフォード大学のジョン・グッドイナフ氏と水島公一氏は、コバルト酸リチウムをリチウムイオン電池の正極材料として提案しました。

  • 1981年
  •  三洋電機から黒鉛炭素質を負極材料とする二次電池の特許が出願されました。

  • 1982年
  •  ラシド・ヤザミ氏らは固体電解質を用いて黒鉛内のリチウムイオンを反応させることを実証しました。

  • 1981年
  •  鐘紡の矢田静邦氏が、黒鉛化炭素の一種ポリアセン系有機半導体(PAS)を用いて2種類のバッテリーを開発しました。これにより炭素材でも安定して反応することがわかり、電極用炭素材料の開発が活発になりました。

  • 1983年
  •  サッカレー氏とグッドイナフ氏らは、正極材料にマンガン酸リチウムを使って反応することを実証しました。(1996年に正極材料として実用化され、今日一般的に使われています。)

  • 1986年
  •  カナダのモリエナジーにより、正極に硫化モリブデン、負極に金属リチウムを使用した金属リチウム二次電池が製品化さました。しかし、金属リチウムは活性が高いため、充電中にリチウムが析出し、これが短絡を引き起こし発火するなどの問題がありました。そのため二次電池として普及しませんでした。

  • 1990年
  •  ジェフ・ダーン氏らは、電解液にエチレンカーボネートを用いることで電解液の分解反応を抑えられることを発見しました。
    (1994年に松下電池工業に採用され、現在も広く電解液として使われています。)

  • 1997年
  •  バシー氏とグッドイナフ氏らはコバルト酸リチウムと比較して安全で長寿命という特徴があるリン酸鉄リチウムを正極材料として提案しました。
    (リン酸鉄リチウムは2009年にソニーが商品化し、現在では各社から販売されています。)

 

吉野氏の功績

1982年旭化成の吉野氏は、オックスフォード大学のグッドイナフ氏の論文を読んで、コバルト酸リチウムは4V以上の高い起電力を有し、二次電池の正極として有望であることを知りました。同時に組み合わせる負極材料が見つかっていないこともわかりました。
吉野氏は当時ポリアセチレンを二次電池材料に使えないかと研究しており、そこでコバルト酸リチウムを正極に、ポリアセチレンを負極に用いた電池を試作しました。この電池はスムーズに充電・放電ができました。吉野氏は、ポリアセチレン負極、コバルト酸リチウム正極という基本概念の特許を出願しました。

しかし実験を進めていくとポリアセチレンは電池材料としては二つの欠点がありました。ひとつは熱に弱いということ、もうひとつは比重が軽いため電池が大きくなってしまうことです。そこで吉野氏は、ポリアセチレンと同じような構造を持ち比重の重い材料を探しました。
 

1985年、吉野氏は気相成長法で製造した炭素材(カーボン)が、負極材料として適していることを発見しました。そして炭素材料を負極とし、コバルト酸リチウムを正極とするリチウムイオン二次電池が完成し、吉野氏はカーボンを負極とする二次電池の基本特許を出願しました。
さらに吉野氏は、アルミ箔を正極集電体に用いる技術や、安全性を確保するための機能性セパレータなど、リチウムイオン電池の構成要素に関して多くの技術を確立しました。加えて保護回路・充放電回路、電極構造、電池構造等の技術を開発し、リチウム二次電池の実用化を実現しました。
 

こうして開発されたリチウムイオン電池は、広く世の中に使われ、今日なくてはならなないものになりました。
 

リチウムイオン電池をめぐる特許

こうして吉野氏(旭化成)が基本特許を押さえ、発明者として独占権を行使できればハッピーエンドです。しかし現実は違いました。それが「悪魔のサイクル」です。
 

最初に開発したメーカーがシェアを失う

悪魔のサイクルとは、吉野氏が提言した言葉で、以下のような現象です。

  1. 新技術が開発され、製品が実用化すると、新たな市場が創出されます。
  2. 関連する部材や部品メーカーは、新たなビジネスに積極的に参入します。
  3. 新規参入するメーカーは採用してもらうために、より性能の高い部材や部品を開発し、先行メーカーと差別化を図ります。
  4. こうした研究開発の成果により技術革新が起こり、性能が飛躍的に向上します
  5. 性能が向上することで、さらに市場が拡大します
  6. 拡大する市場を見て、さらに新たな企業が参入します。
  7. 新たな技術が開発され市場が急拡大すると、競合メーカーが次々とやってきます。そして最初に開発した企業は、先行者のメリットを失っていきます。

 

8年で主要メーカーが入れ替わった

リチウムイオン電池では、負極のカーボン材料でこの悪魔のサイクルが回りました。
カーボン材料が新たな電池の材料となると分かったため、カーボンに関係する多くのメーカーが参入しました。カーボンの専門家たちがリチウムイオン電池のために開発に専念するので、新たなカーボン材料が次々と生まれました。
 

その結果、電池の性能はますます向上し、それによって市場が拡大するという好循環が生まれました。その反面、負極カーボン材料の技術はどんどん変わり、1995年と2003年でカーボン材料のメーカーほとんど入れ替ってしまいました。さらに2016年には主要メーカーは4社に絞られました。
 

図2 主要負極材メーカーの変化
図2 主要負極材メーカーの変化
 

こういった悪魔のサイクルに対抗するためにはどうしたら良いのでしょうか
 

ニッチ分野で市場が小さいときは、競合は参入しない反面、市場も急には拡大しないので、大きな投資をしないことです。投資の回収期間を考えて、少ない投資で短い期間に回収します。
 

もうひとつは、市場の拡大規模が大きく悪魔のサイクルが回る場合は、悪魔のサイクルを止めようとせず、むしろ悪魔のサイクルを自らの手のひらで回すようにします。
 

図3 正極材メーカー
図3 正極材メーカー
 

つまり積極的に投資を行い、顧客(電池メーカー)が不満持たないようにします。顧客の不満がたまると、顧客から技術が流出して競合が参入し、悪魔のサイクルが回り始めます。
 

特許から見たリチウムイオン電池の主要メーカー

実際にリチウムイオン電池に関する開発がどのように行われていたのか、特許出願の状況から調べてみます。リチウムイオン電池に関する特許は、1993年から増加し、2001年のピークには年間1900件が出願されました。2002年以降は年間1400~1700件ペースで出願され、現在も多くの特許が出願されています。ただし、2000年にはリチウムイオン電池の発火事故が相次いて発生し、販売数量、販売金額が低下しました。
 

このリチウムイオン電池の出願件数ランキングを見ると、上位はエレクトロニクスメーカー、材料メーカー、自動車メーカーなど様々な企業です。1位はパナソニック、2位三洋電機、3位ソニー、4位 ジーエス・ユアサグループとなっています。
 

一方、特許出願件数の推移から、各メーカーがリチウムイオン電池にどのように注力してきたかが分かります。
例えば、富士フィルムは2008年に電池事業から撤退し、富士フィルムが出願した公報の多くが宇部興産に出願人名義変更/権利譲渡が行われました。
トヨタ自動車は2004~2007年、日産自動車は2002~2006年、SAMSUNG SDIは2002~2005年に年間50件以上の特許出願を行っています。
 

一方GSユアサは1997~2002年の間には100件以上の特許を出願していたものの2003年以降は著しく減少しました。同様に新神戸電機は1998~2004年には年間30件以上の特許を出願しましたが、2005年には年間10件以下に減少しました。
東芝電池は1994~2000年に年間20件以上の特許を出願しましたが、2001年以降は減少し、東芝電池自体も2009年末に閉鎖されました。対して東芝は1998年以降30件以上の出願が継続しており、事業自体も東芝に移管された可能性もあります。
 

リチウムイオン電池の商品化

  • 1991年
  •  ソニー・エナジー・テックは世界で初めてリチウムイオン電池を商品化しました。1993年 エイ・ティーバッテリー(旭化成工業と東芝との合弁会社)がリチウムイオン電池を商品化しました。

  • 1994年
  •  三洋電機は黒鉛炭素質を負極材料とするリチウムイオン電池を商品化しました。

  • 1997年
  •  松下電器、松下電池工業とトヨタ自動車の三社は共同出資で「パナソニックEVエナジー」を設立し、EV用のニッケル水素蓄電池の開発に取り組みました。対してソニーは日産自動車と共同でEV用のリチウムイオン電池の商品化に取り組みました。

  • 1999年
  •  ソニー・エナジー・テックと松下電池工業は電解質にゲル状のポリマーを使うリチウムイオンポリマー電池を商品化しました。電解質が液体から準固体のポリマーになったことで薄型化・軽量化と同時に外力や短絡にも強くなりました。

  • 2008年
  •  東芝は負極にチタン酸リチウムを使った電池を商品化しました。これはスズキ・ワゴンRや電力貯蔵用などに使われています。

    一方2011年にはリチウムイオン電池における日本のメーカーのシェアは低下し、2008年の50%弱に対し、2011年には34%にまで減少しました。対して韓国企業がシェアを伸ばし、2012年はパナソニックが23.5%で首位でしたが、2位は23.2%でサムスンSDIでした。

  • 2017年
  •  ソニーは電池事業を村田製作所に売却しました。世界で初めてリチウムイオン電池を商品化したソニーは、2005年まで世界シェア上位にいましたが、2006年発火事故による大規模なリコールのため、拡大路線から転換し投資を抑えたことと、韓国メーカーの攻勢によりシェアを失い、収益が悪化していました。

  • 2016年
  •  パナソニックは車載・産業用二次電池の売上高を2015年の2.5倍5,000億円を目指すと発表しました。うち車載用は4,000億円でテスラ・モーターズを中心にEV需要を取り込む計画です。2019年にはエネルギー密度を5割以上高めた角形リチウムイオン電池を投入する計画です。

 

自動車用が拡大

2009年頃から本格的にハイブリッドカーに採用されホンダ・フィットハイブリッドやトヨタ・プリウスなどに採用されたことで需要が急増しました。自動車メーカーと電池メーカーの合弁会社(プライムアースEVエナジー、オートモーティブエナジーサプライ、リチウムエナジージャパン、ブルーエナジー)に加えて、パナソニック、東芝、日立ビークルエナジーなどの電機メーカーも供給しています。
 

シェアを失った日本メーカー

かつては日本メーカー9割以上のシェアを占めていました。主なメーカーとして三洋電機、三洋GSソフトエナジー、ソニー、パナソニック エナジー社、日立マクセル、NECトーキンなどがあります。対して韓国(サムスンSDI、LG化学)、中国 (BYD)、台湾などの生産量が増えていて、2013年にはメーカー別でサムスンが1位、国別でも韓国が1位になりました。
 

電池戦国時代、どのようにして知財を守るか

自社のノウハウを守る代表的なものが特許です。特許とは、山の頂上に到達するための道です。従って同じ目的のためでも上る道が異なれば、特許に抵触せず、さらにその新たな道も特許になります。
 

そして大抵の特許には、これに代わる別の方法があります。
 

その中で山頂を権利とした特許が基本特許です。リチウムイオン電池の場合は負極をカーボン材料とすることです。
 

一方で最初に登頂すると、他の人たちが別の登頂ルートを探し始めます。そうすると最初の登頂ルートは一番良いルートではなく、他のルートが主流になります。こうして最初の発明者の努力は効果がなくなります。
 

一方でどのルートを通るにしてもどうしても通らなければならない箇所があります。ここを抑えた特許を関所特許と吉野氏は呼んでいます。ここを抑えられるとどうしてもそこを通らないと頂上に達することができないため、かの人は必ず通行料(ライセンス料)を払わなくてはなりません。
 

図4 基本特許と関所特許
図4 基本特許と関所特許
 

リチウムイオン電池の場合、実は正極電極材にアルミ箔を用いることがそれにあたります。どのような正極材料を開発してもアルミ箔にコーティングしなければならず、ここを避けて通ることはできません。
 

リチウムイオン電池は起電力が4Vと高いため、アルミ以外の金属では電解液中に金属が溶け出してしまい、アルミ以外では金か白金しか使用できませんでした。となると価格的に考えてアルミしか選択肢はありません。
 

こうした基本特許を押さえるチャンスは、開発していると何度もめぐってきます。そしてそのチャンスが他社のこともあります。他社に基本特許や関所特許を押さえられないためには、開発を継続し、これはと思われる発明はどんどん出願して権利化しておく必要があります。なぜならその特許が関所特許になるかどうかは、発明した時点でわからないことが多いからです。
 

実際に頂上だと思って登ったところ、そこは頂上でなく、さらに別の頂上があったということはよくあることです。そうなると基本特許が変わってしまいます。悪魔のサイクルのために技術がより良い方向に進化すると、新たな材料が出てきたり、別の方法が考案されたりします。そうして新たな頂上が見えても、そこに至るためには必ず通らなければならない関所特許を押さえておけば、有利になります。「関所特許は基本特許よりも強い」と吉野氏は語っています。
 

特許調査から次世代電池の動向を見る

最後に特許庁が行った平成25年度 特許出願技術動向調査(2002年~2011年)から、次世代電池の動向を考えます。調査対象は、日本、アメリカ、韓国、中国、台湾、ヨーロッパ、カナダです。
電池の詳細については「EVの時代は本当に来るのか?二次電池の進化とEVを取り巻く環境」を参照願います。
 

全個体電池

件数はトヨタ自動車が群を抜いており、他の企業を合わせて日本企業が全体の60%を占めています。2020年代前半に登場するといわれている全個体電池は当初は日本企業が圧倒的に優位となると思われます。一方2位に住友電気工業、出光興産、オハラ、日本硝子、ナミックス、アルバック、村田製作所など意外な企業が開発に取り組んでいることが分かります。

注) 全個体電池とは、従来の液体の電解質の代わりに樹脂やセラミックなどの固体を電解質にすることで短絡や熱暴走を抑えられ、その結果正極、負極ともリチウムにできるので性能がアップした電池です。
 

空気電池

全個体電池の次の世代の電池といわれる空気電池も、トヨタ自動車が件数トップです。対して、空気電池では、アメリカのエバレディ・バッテリー、ポリプラスバッテリーが2位と4位、アイルランド、ドイツ、フランス、韓国などの企業も出願しており、積極的に技術開発を行っていることが分かります。

注) 空気電池は、正極活物質に酸素、負極に金属を用いる電池で、正極が酸素のため、大半の空間に負極物質を充填できます。そのため原理的には最も大きなエネルギー密度が実現できます
 

ナトリウムイオン電池

ナトリウムイオン電池は、住友化学と住友電気工業が1位と2位を占めています。一方トヨタ自動車も出願しており、同社が様々な幅広いタイプの二次電池を全方位的に研究開発していることが分かります。

注) ナトリウムイオン電池は正極にナトリウム金属酸化物を用い、負極にグラファイトなどの炭素材を用いた二次電池で、リチウムイオン電池以上の高エネルギー密度と、リチウムを使用しないため低コストが可能で、大型電池用として研究されています。
 

多価イオン電池

多価イオン電池の出願件数は212件で2009年に著しく増加しています。件数ランキング1位はソニー、2位が米国トヨタです。

注) 多価イオン電池は、多電子移動が可能な負極を用いた、多価イオンをキャリアとする二次電池で、中でも二価のカチオンであるマグネシウムイオンをキャリアとするマグネシウム二次電池が有望視されています。高エネルギー密度とリチウムを使用しないため低コスト、そして安定性の実現を目指しています。
 

硫黄系電池

硫黄系電池の出願件数は2002年以降減少傾向でしたが、2008年以降再び増加しています。国別では韓国が28.9%、日本が20.9%、米国が18.6%、欧州が18.4%と他の次世代二次電池と比べて日本の割合が低い特徴があります。件数ランキングは、1位サムスンSDI、シオン・パワー(米国)、オクシス・エナジー(英国)、ボッシュ(ドイツ)となっています。

注) アルカリ金属を負極、硫黄を正極としたアルカリ金属-硫黄電池で、理論容量がリチウム二次電池の10倍で、しかも低コストという利点があります。リチウム-硫黄電池とナトリウム-硫黄電池があります。
 

有機系電池

有機系電池の出願件数は113件で、2009年に一度減少したものの2010年からは再び増加しています。日本の出願が66.4%と他国に比べて突出して高い特徴があります。件数ランキングでは、日本電気がトップで次いでBASF(ドイツ)です。

注) 酸化還元活性のある有機系材料を正極に用いた電池で、キノンやインディゴなどの誘導体が研究され、コバルト酸リチウムの2倍以上の容量のものも発見されています。
 

参考文献

「リチウムイオン電池物語」 吉野彰 著 シーエムシー出版

「リチウムイオン二次電池 特許で見る技術競争力(1) ~市場背景と出願件数の推移~」

ウェブサイト https://www.patentresult.co.jp/column/2009/10/1.html
 

本コラムは2018年2月18日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

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経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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発明を守る方法と、権利を守る戦い その2 知財により優位を維持した例

発明を守る方法と、権利を守る戦い その1 特許とは何か、本当に知財を守れるのかで、特許、実用新案、商標の特徴と現在の特許制度の問題点について述べました。

現在の特許制度は、先進国の大企業が互いに技術開発を競っている状況に適した制度です。その場合、大抵は双方が多数の特許を権利化し、互いの特許を侵害し合っている状態となっていて、クロスライセンス契約により侵害の程度によりライセンス料を払っています。

これに対して、特許の権利を持つが事業を営んでいない場合、相手は一方的に特許を侵害している状態となり、訴訟は不利になります。近年はこういった特許を買って、メーカー相手に訴訟を起こすパテントトロールという人たちもいます。

一方、画期的な技術を開発しても、同時期に他の企業も開発していることも多く、双方がクロスライセンス契約する中で技術が拡散していきます。近年は日本企業が新製品を開発しても、後発の韓国、中国メーカーがより低価格の製品を市場に大量に投入し、結果的に市場を奪われるケースが多くあります。
 

世界市場で技術やノウハウを守る戦い

 
画期的な技術を開発しても、製品が市場に広がる過程でクロスライセンスや設備を通じて技術が流出し、日本メーカーはその優位性を失いました。半導体や液晶テレビ、DVDプレーヤーなどは、日本が多くの技術を開発したにも関わらず、現在は日本以外のメーカーが主に製造しています。
 
その中で、自社の技術やノウハウを戦略的に守り、利益を確保している2社の例をご紹介します。
 

三菱化学のDVD技術

DVDは日本がその大半の技術を開発し、特許の95%を日本企業が押えていました。しかし日本企業のシェアは下がり、今では家電製品売り場で日本製のDVDプレーヤーはほとんどありません。(最近はDVDプレーヤー自体をあまり見ませんが)
 
しかし日本企業が特許を押さえ、他国のメーカーがDVDプレーヤーを製造するには ライセンス料を払う必要があり日本製より高くなるはずです。なぜ日本メーカーより安い価格で売られているのでしょうか。

 

DVDプレーヤーのカギとなる技術は、ピックアップヘッドとディスク(メディア)です。海外メーカーは日本メーカーからピックアップヘッドを購入し、自社で開発したディスクドライブと制御基板をオリジナルデザインの筐体に組み込んでDVDプレーヤーを製造しています。つまりDVDプレーヤーは、モジュール型のものづくりです。
 
図5 DVDプレーヤーの内部(Wikipediaより)

図5 DVDプレーヤーの内部(Wikipediaより)
 

そしてピックアップヘッドなどのモジュール部品メーカーは、モジュール部品メーカー同士でし烈な争いをしています。競合に勝つためには、少しでも多く販売してコストを削減しなければなりません。そのため中国や台湾メーカーにも積極的に販売します。

そして中国や台湾の企業は、人件費が安く開発や管理などの間接部門が少ないため、元々の製造コストが低く、日本メーカーより低価格なDVDプレーヤーを大量に生産し、市場を席巻しました。
 
DVDメディアもかつては日本メーカーが市場を席巻していました。
「こんな難しいものアジアではできない」といわれていましたが、装置メーカーが設備一式を供給することで、アジアのメーカーが一斉に参入し価格競争に陥りました。
 
その結果、DVDメディアメーカーの三菱化学メディアは累積損失が1000億円になっていました。
 
【三菱化学メディア 製造から素材販売へ】
そこで同社はビジネスモデルを転換して利益の改善を図りました。まずDVDメディアの自社生産は中止し、台湾メーカーとパートナーを組んで生産を委託しました。
 
そして台湾メーカーが生産したDVDを三菱化学のブランドで販売しました。また技術のない新興国の企業には、製造レシピなどの製造基盤も販売しました。
 
三菱化学は、DVDメディアの記録層を構成する素材のAZO色素を自社で開発していました。高品質のDVDを製造するためには、AZO色素が不可欠でした。

まずAZO色素単体では販売せず、装置と合わせてセットで販売しました。さらにAZO色素を使用した時の製造条件を、レシピとして新興国に提供しました。さらに国際標準に働きかけ、DVDの互換性の基準にAZO色素を使ったものを組み込みました。

その結果、他の色素材料を使って製造した場合は、互換性を保証するための検証が必要になりました。そこで多くのDVDメディアメーカーはそのような手間を避け、AZO色素を使用しました。

つまり三菱化学は、AZO色素と設備をセットにしてブラックボックス化する反面、メディアの生産はオープンにしたのです。そしてメディアメーカーは、DVDメディアの生産に余力があれば、三菱化学のライバル企業にもDVDメディアを売ることを認めました。

その結果、AZO色素の販売が増え、三菱化学の利益が増える仕組みになりました。その2年後には同社の売上高営業利益率は15%に達しました。
 

日亜化学の知財戦略

【青色LEDの開発】
1993年日亜化学工業株式会社(以下、日亜化学)は、窒化ガリウムを用いて世界で初めて青色LEDを開発しました。この日亜化学は、四国の徳島県で蛍光灯やTVブラウン管の蛍光発光体をつくっている従業員350人、売上高170億円の中堅企業でした。
 
LEDは消費電力が非常に小さく寿命が長いことから、それまでも動作表示ランプなどに使用されていました。しかし赤と黄緑色しかありませんでした。青色ができればRGBの三原色が揃い、カラー照明ができます。そのため青色LEDの開発は世界中の企業や研究者が取り組んでいました。しかし次元は困難をきわめ、今世紀中の実用化は無理とまでいわれていました。
 
その青色LEDを四国の中小企業 日亜化学が実用化しました。青色LEDができれば、その補色の緑色と赤を組合せれば、白色をつくることができます。
 
【青色LEDから白色LEDへ】
しかし純粋な緑色発行する蛍光体の開発は困難を極めました。日亜化学は、あらゆる蛍光体を試してようやくYAG(Yttrium Aluminum Garnet)系蛍光体にたどり着きました。そして1996年世界に先駆けて白色LEDを発売しました。
今日では白色LEDの世界市場は4,782億円(2012年)に上ります。また使用用途も照明向けが年々増加しています。
 
図6 白色LED照明の世界市場(Wikipediaより)

図6 白色LED照明の世界市場(Wikipediaより)

 

今日では、白熱電球や蛍光灯に変わり広く使用されている白色LEDも、発売当初はオーディオなどの液晶表示のバックライト光源として売れる程度でした。白色LEDを使用することで液晶表示がカラーになるからです。それが携帯電話の普及に伴い、携帯電話の液晶のバックライト光源として急速に市場が拡大しました。
 

【市場が急激に拡大】
白色LEDの市場は大きく成長し、同社の売上高は、1995年から2005年までの10年間で10倍以上増加しました。
 
同社にとって幸運だったのは、最初から大きな市場があったわけではなく、白色LEDというイノベーションにより、カラー液晶や照明など新たな市場が形成され、それに伴い同社が成長できたことでした。もし最初から大きな市場があった場合、大手が積極的に参入して市場を奪われていた可能性もあります。
 
2018年の日亜化学のLEDの売上高は、24億ドルで世界シェア1位です。対して同時期に白色LEDの開発に成功した豊田合成のLEDの売上高は1.4億ドルで世界シェアは8位です。世界シェア2位以下には、ドイツのオスラム、アメリカのクリーなど日亜化学と同時期に白色LEDの開発に成功したメーカーの他に韓国や台湾の後発メーカーがあります。
 
日亜化学が激しい競争を勝ち抜いてシェア1位を維持しているのは同社の周到な戦略の結果でした。
 

【日亜化学の周到な戦略】
同社は、かつて市場の拡大期にそれに対応した多額の投資をためらって韓国勢に敗北した日本のDRAMから学びました。そしてイノベーションが繰り返される事業分野では、市場の拡大に対応した積極的な供給能力の増強が最も重要と考えました。そして白色LEDの発売当初から売上高の10%以上という台湾や中国企業に見られる果敢な設備投資を行いました。
 
その上で、いくら特許で技術を囲い込んでもいずれ競合メーカーがライセンス供与すると予想しました。そして白色LEDを安価に製造するメーカーが多数出現し価格競争に陥ると考えました。そこで市場の成長に合わせて、同社は3段階の戦略を立案しました。
 

  • 第一段階 黎明期

まだ白色LEDが市場に出回らず貴重で付加価値の高い黎明期は、技術を囲い込み、高い利益を上げて、その利益を研究開発と設備投資に投入しました。

具体的には、自社内で特許を保有し、ライセンスは供与しない、そしてダイス(半導体チップ単体)販売は行わず、パッケージ製品として自社で販売しました。大手にライセンスを供与しライセンス料で儲けるよりも、市場を独占しできる限り大きな利益を上げることを目指しました。
 
一方で同社は積極的に特許出願すると同時に豊田合成やアメリカの競合クリー等に対して、特許侵害訴訟を起こしました。四国の一中小企業の日亜化学が豊田合成に対して40件もの侵害訴訟を起こしました。その狙いは他の競合に対して日亜化学は怖い会社と思わせ、市場参入を思いとどまらせることを狙ったものでした。
 

  • 第二段階 市場拡大期

携帯電話の爆発的な普及により白色LEDの市場は急速に拡大し、需要を自社だけではまかないきれなくなってきました。アメリカのクリーやドイツのオスラムなど日亜化学と異なる方式で白色LEDを製造する企業が現れ、これらの企業が台湾や韓国メーカーにライセンス供与し、台湾や韓国で大量生産するようになりました。
 
この段階で日亜化学は、市場を独占することが困難になったと判断し、各社とクロスライセンスを締結しました。
 

  • 第三段階 普及期

白色LEDが携帯電話のバックライトから、液晶テレビ、自動車のヘッドランプ、照明器具へと用途が広がり、市場は急速に拡大しました。
 
図7 普及するLED照明
図7 普及するLED照明
 
その結果、価格競争が激しくなり、高性能なハイエンド製品でも年率10~20%のペースで市場価格が下落するようになりました。
 
その結果、携帯電話のテンキーや玩具など品質の要求されないものには台湾、韓国メーカー、携帯電話のバックライトや液晶テレビなど高輝度と均一性が要求される箇所に日亜化学が使われました。しかしこれも台湾、韓国メーカーの技術力が向上し、携帯電や液晶テレビにも使用されるようになりました。
 

  • 研究開発の強化

そこで日亜化学は、研究開発を強化しLEDの発光効率を高めて自動車のヘッドライトや工場の天井用照明など、より高付加価値な製品を開発しました。

さらに白色LEDの後の製品として、ハイパワー紫外光LED、車載用LD(レーザダイオード)の開発を強化し、産業機械やプロジェクター用、車載用など付加価値の高い分野の開発に取り組みました。
 
日亜化学の売上高は、2013年には3,096億円(連結)になりました。しかしLED市場は2009年から2016年にかけて約2倍近く拡大したため、日亜化学のシェアは2008年の19%から、2010年には15%に低下しました。しかし事業の主力を利益の低い普及品から高付加価値品にシフトすることで、利益を維持するとともに、世界シェアでトップを維持しています。
 
対して競合の豊田合成のLED事業の売上高は、2012年度の550億円から2014年度に約400億円に低下し、2016年には佐賀工場(佐賀県武雄市)での生産を終了しました。
 
多くの日本企業は、画期的な製品を開発してもグローバルでの技術流出を防ぐことができず、短期間で事業価値を失いました。日亜化学は、事前にそれを見越し、逆算して経営戦略や知財戦略を構築、一見無謀とも思える投資を行い、リーダー企業としての存在感を維持することに成功しました。
 

本コラムは2017年2月15日「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しました。
 

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