ものづくりの未来と経営 | 原価計算システムと原価改善コンサルティングの株式会社アイリンク https://ilink-corp.co.jp 数人の会社から使える原価計算システム「利益まっくす」 Wed, 08 May 2024 22:10:05 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.5.3 https://ilink-corp.co.jp/wpst/wp-content/uploads/2021/04/riekimax_logo.png ものづくりの未来と経営 | 原価計算システムと原価改善コンサルティングの株式会社アイリンク https://ilink-corp.co.jp 32 32 ハッキングから会社を守る1~情報セキュリティ・個人情報保護法の課題~ https://ilink-corp.co.jp/12407.html https://ilink-corp.co.jp/12407.html#respond Thu, 07 Mar 2024 03:54:23 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=12407 No related posts. ]]> 頻発するセキュリティ事故

 

2022年3月1日トヨタ自動車は国内14工場の生産を停止しました。

原因は仕入れ先の小島プレス工業のサーバーがウイルスに感染したため部品供給のめどが立たなかったからです。
 

子会社の脆弱なセキュリティが発端

発端は小島プレス工業の子会社が外部との通信に使用していた機器にセキュリティ上の脆弱性があったことです。

2月27日にそこからウイルス(ランサムウェア)が侵入しました。

その結果、小島プレス工業の約500台のサーバーのうち、受発注や電子カンバンに係るサーバーまでが感染しました。トヨタも100人態勢で支援に乗り出しましたが、28日中には復旧のめどは立ちませんでした。トヨタは週明け3月1日の生産ラインを停止することを決定しました。

たった1台の機器の脆弱性のためトヨタの受けた損害は数億円にもなりました。
 

数億円に達したトヨタの損害

3月2日の午後、小島プレス本社に一人の作業服の男性がいました。トヨタの社長 豊田章男氏でした。トヨタがこの事態をどれほど重く見ていたかがわかります。トヨタのサプライチェーンは6万社もあります。そのうち1社でもセキュリティが破られればどうなってしまうのか、今回の事件は示しました。

今では企業と多数の取引先がネットワークで結ばれ、リアルタイムで情報をやり取りしています。これにより生産の効率は上がり、発注の無駄も減りました。一方それと引き換えに、一旦ネットワークに問題が起きれば、サプライチェーン全体に影響が及ぶようになったのです。
 

内部による情報漏洩

 
ただし情報漏洩事件に限れば、外部からの不正な侵入よりも内部の者による漏洩の方が多いのです。

理由のひとつは、通信販売が発達したためです。顧客名簿の価値が高まり、社内の顧客名簿を名簿業者に売れば多額のお金が入るようになりました。

もうひとつの理由は、設計図面など技術情報が電子化されたことです。膨大な図面や技術情報もUSBひとつで簡単に持ち出せるようになりました。
 

ベネッセの顧客情報流出事件

2014年7月「進研ゼミ」や「こどもちゃれんじ」を運営するベネッセコーポレーションで顧客情報が流出しました。

2014年6月ベネッセコーポレーション(以降、ベネッセ)の複数の顧客に身に覚えのない企業からDMが送られてきました。顧客は個人情報が漏洩したのではないかと思いベネッセに相次いで問い合わせしました。ベネッセで調査した結果、合計3504万件の顧客情報が漏洩したことが判明しました。同社は6月30日、警察に顧客情報漏洩の疑いがあることを報告しました。

名簿が数百万円で売却

調査の結果、同社がデータベースの運用や保守管理を委託していたシンフォームの39歳のシステムエンジニアが顧客情報を持ち出したことが判明、7月17日警察に逮捕されました。彼は派遣会社からシンフォームに派遣され、ベネッセのデータベースの管理を行っていました。そのため顧客情報に容易にアクセスができました。警察の調べに対して「金がなくて生活に困っていたため、名簿業者に売却した。売却の総額は数百万円になった」と供述しました。

失った100億円と90万人の顧客

委託先の派遣社員が数百万円のお金欲しさに起こした個人情報の流出は、ベネッセ100億円以上の損失をもたらしました。この事件が原因で同社は90万人以上の顧客と社会的な信頼も失いました。

一方、昔から企業が所有する技術やノウハウを盗み出す産業スパイはありました。今はUSB 1個で大量の設計情報も持ち出せるため、漏洩リスクは高くなっています。
 

ヤマザキマザックで設計情報が漏洩

2012年3月27日、愛知県警はヤマザキマザックのサーバーから設計情報を漏洩させたとして、同社社員で中国籍の唐博容疑者を逮捕しました。一方、唐容疑者は容疑を否認しています。

アクセス権のない設計情報を大量に複製

唐容疑者は約10年前に来日し日本の大学を卒業後、正社員としてヤマザキマザックに入社しました。事件当時は販売部営業係に所属し、社内の営業部員へ工作機械の説明する業務を行っていました。唐容疑者は設計情報へのアクセス権はありませんでした。

ところが1月から3月にかけ、唐容疑者は相当数の工作機械の図面を私物のハードディスクに複製していました。おそらく何らかの不正な方法でアクセス権を取得したとみられます。そして3月12日に「中国に住む父親の体調が悪い」として退職を申し出ました。しかし大量のデータをダウンロードしているのを見た同僚が不審に思ったことで事件が発覚しました。
 

いたずらから始まった連邦裁判所への不正侵入

 
アメリカのコンピューター好きなティーンエイジャーの2人、マットとコスタは、電話システムのハッキング「フリーキング」でハッキングの技能を高めていました。

そんな二人はある晩、携帯電話会社の中継局に出かけ、ゴミ箱漁りをしていました。そこでゴミ箱から「すべての中継局と電子認識ナンバー(ESN)」を書いたメモを見つけました。このデータを使い、自分の携帯電話に特別なファームウェアを入れるとどこでも無料で電話をかけることができるようになりました。(当時インターネットの接続はLANでなくモデム経由のダイヤルアップ接続でした。)

連邦裁判所のコンピューターに侵入

2人は無料となった通信を使い、ウォー・ダイヤラーを行ってコンピューターに手当たり次第に電話をかけさせました。そこで偶然、連邦地方裁判所のモデムの番号を見つけました。連邦地方裁判所のコンピューターのユーザー名はpublic、パスワードもpublic、あまりにも単純でした。

2人はこの連邦地方裁判所のコンピューターを経由して、このコンピューターが使用しているOSメーカー(仮にA社)のコンピューターにトロイの木馬を送りました。そして、そこに接続されている多くのコンピューターの情報を引き出すことに成功しました。その中にボーイングのコンピューターのログイン情報がありました。
 

オープンになっていたボーイングのネットワーク

ある日、マットとコスタがボーイングのネットワークに侵入した時、彼らの前にUNIXのshellが現れました。どうやらボーイングの社員がそれまでサーバーにアクセスしていたコンピューターをログアウトせずに放置したようです。難なくファイアウォールを突破した2人はボーイングのネットワーク内を自由に行き来しました。

セキュリティ研修中にハッカーの侵入を発見

その頃ボーイングのコンピューターセキュリティの専門家ドン・ボーリングは、ボーイングの社員と連邦法執行官らに情報セキュリティの研修を行っていました。

研修中、ドンは情報システム担当者から、何者かがパスワードをクラックした痕跡があるという報告を受けました。マットとコスタの仕業です。ハッキングの痕跡を印刷するとユーザー名の多くが判事(judge)という文字で始まっていました。

青ざめる判事、逮捕される2人

ドン・ボーリングは研修に参加していた法執行官に向かってユーザー名のリストを見せました。ユーザー名は、連邦地方裁判所の判事のコンピューターでした。こうして連邦地方裁判所へのハッキングが判明し、法執行官たちの顔は真っ青になりました。

その結果、FBIはマットとコスタの電話番号を逆探知しました。そして所在を突き止め、2人を逮捕しました。
 

誰が攻撃者するのか?

攻撃者のタイプ

コンピューターに不正に侵入するハッカーは、全員が犯罪目的ではありません。このハッカーは以下の3つに分類されます。

  1. 政治的、経済的な利益を求める 例 ランサムウェア
  2. 個人の利益のためにデータを盗用 例 顧客名簿の販売
  3. 愉快犯 例 マットとコスタ
図1 ハッカーにもタイプが存在する

図1 ハッカーにもタイプが存在する

①の政治的、経済的な利益のために行われるのは、特定の国や企業へのサイバー攻撃や身代金目的の攻撃です。

②は個人の利益のためのデータの盗用や販売です。内部の者の犯行が多数を占めます。

企業の持つ顧客リストは高い価値があります。ベネッセコーポレーションから流出した顧客リストは複数の名簿事業者が購入し、その名簿はある通信教育の企業が購入していました。こうして犯人は数百万円の利益を得たのです。

③の愉快犯は、マットとコスタのように自らのハッキング能力を磨くために行うものです。

侵入が困難なシステムほど彼らは侵入を試みます。侵入すること自体が目的なので、苦労は厭いません。むしろ侵入が困難なほど挑戦意欲が掻き立てられます。
 

サイバー空間固有の犯罪

企業や個人から情報や企業秘密のような価値のあるものを盗み出す窃盗や強盗は、サイバー空間以外の現実世界にもいます。ただし現実世界にはサイバー空間のような③はいません。会社や住宅に侵入して何も盗ってこなければ、リスクを冒す価値がないからです。

しかしサイバー空間のハッカーたちは「自分の技術を試すため」侵入自体が目的です。

しかし何もしなくても、重要な情報がある部屋をハッカーが自由に出入りする状態は安全とはとても言い難いのです。
 

攻撃手段

では攻撃者はどのような攻撃手段を取るのでしょうか?
代表的な攻撃手段を示します。

注) 使われる用語の意味
ウイルス : プログラムやパソコンに寄生して広がり、システムの挙動に悪影響を及ぼすプログラム
ワーム : 単体で増殖を繰り返し、ネットワークを介して広がり、パソコンや情報に悪影響を及ぼすプログラム
トロイの木馬 : 侵入先のコンピューターで、コンピューターの使用者が意図していない操作を秘密裏に行うプログラム
スパイウェア : 感染先に保存されている情報を盗み、外部に送信するプログラム

 

① 身代金目的のランサムウェア

ネットワークなどを通じて感染を広げるマルウェア(悪意を持ったソフトウェア)の一種です。「ランサム」(Ransom)は英語で「身代金」を意味します。

図2 ランサムウェアの仕組み

図2 ランサムウェアの仕組み

ランサムウェアに感染すると、コンピューターのファイルが暗号化されて復元できなくなったり、端末が起動不能または操作不能になったりします。
前述の小島プレスの子会社が感染したのもランサムウェアです。
 

② 取引先を装う標的型攻撃メール

取引先からのメールと全く同じように見えます。実はこれが攻撃メールなのです。担当者や部署名、連絡先も正しく、メール本文の内容もおかしくありません。日本語も不自然でなく、相手のURLも合っています。ところが添付ファイルがウイルスであったり、メール内のURLをクリックすると問題のあるサイトに誘導されてしまいます。

これは攻撃者は攻撃対象を決めて、攻撃対象から不審に思われないように攻撃メールを送ってくるからです。

この標的型攻撃メールでは、攻撃者は事前に何らかの方法で顧客から攻撃者へのメールを取得しています。もし標的型攻撃メールの攻撃を受けても被害に遭わないようにするには、例え顧客から来たメールでも「不用意に添付ファイルを開かない」、「見覚えのないURLがメールにあってもクリックしない」といった注意が必要です。
 

③ データベースを改ざんするSQLインジェクション

第三者がSQLコマンドを悪用してデータベースに不正にアクセスして、情報の搾取や改ざん、削除を行う手法です。

具体的には、攻撃者はウェブサイトのお問い合わせフォームなどに不正に情報を引き出すSQL文を入力します。例えば、氏名を入力するフォームに「山田太郎」と入力する代わりに「山田太郎+SQLスクリプト」を入力します。このSQLスクリプトを使い、データベースを改ざんしたり削除します。

ECサイトや会員制のウェブサイトは個人情報がデータベースに格納されています。これらはSQLインジェクション攻撃でデータ漏洩の被害を受けやすいのです。あるいはブラウザの画面コントロールに使用されるJavaScriptでも、不正なJavaScriptコマンドを入力するJavaScriptインジェクション攻撃があります。
 

④ アップデートのタイムラグを衝くゼロデイ攻撃

OSやアプリケーションなどソフトウェアのバグを衝く攻撃です。

アプリケーションやOSのバグは、「脆弱性」と呼ばれ、攻撃者に狙われます。攻撃者はこのバグ(脆弱性)を衝いて悪意あるプログラムを実行します。

メーカーはバグを発見すると随時バグを修正した修正パッチを提供します。しかし修正パッチが配布されてもユーザーが修正パッチをインストールするまで時間がかかります。その間に攻撃者が脆弱性を衝いて侵入します。これが「ゼロデイ攻撃」です。あるいは攻撃者自身がアプリケーションやOSの脆弱性を発見すれば、メーカーも知らないため、大きな被害が出ます。

過去のゼロデイ攻撃の例にWannaCryがあります。これはWindows10の脆弱性を衝いたランサムウェアで自己増殖機能を持っていました。2017年には世界中のセキュリティが脆弱な端末が感染しました。

インターネット・エクスプローラーやグーグルクロームのようなブラウザも多くの脆弱性が発見され、そのためアップデートが頻繁に行われています。

2021年にインターネット・エクスプローラーで脆弱性が見つかり、攻撃者が脆弱性を悪用したWEBサイトを作成し、バンキングマルウェア(オンラインバンキングの認証情報を狙い、不正送金を目的としたマルウェア)やランサムウェアに感染させました。

(インターネット・エクスプローラーはすでにサポートが終了しているため、使用すれば脆弱性を攻撃されるリスクがあります。)
 

⑤ パスワードのハッキング

パスワードは以下の方法でハッキングされます。

ネットワークにつながるPCや機器の端末のどれかに脆弱性があり、攻撃者が侵入すれば、攻撃者はその端末のキーボード操作などを盗み見るソフトをインストールしてしまいます。そして端末がサーバーに接続するパスワードをハッキングしてしまいます。

あるいはパスワードをハッキングするソフトを使います。例えば攻撃者がネットワークに侵入するとサーバーが外部と接続するポートを調べます。もし解放されているポートがあれば、それを足掛かりに侵入します。サーバーに侵入するにはサーバーのパスワードが必要です。しかしパスワードをハッキング(クラッキングともいう)するツール(パスワードクラッカー)やパスワードクラッカーの辞書ツールは闇サイト(ダークウェブ)で容易に入手できます。攻撃者はこういったツールを使って総当たり攻撃を行います。

何万回試行してもコンピューターが自動で行えばそれほど時間はかかりません。もし事前にパスワードがpassword○○○○(4桁の数字)と分かっていれば、パスワードのハッキングは極めて容易になります。そしてハッカーたちは後述のソーシャルエンジニアリングの手法を使ってこういった情報を入手します。
 

何を守らなければならないか?

 
かといってセキュリティをいたずらに強化すれば、業務のスピードは低下し、顧客サービスも低下します。そのため情報セキュリティは何を守らなければならないのかを明確にします。

また自社の秘密の漏洩は内部によるものの方が多いのです。社内の人間による機密情報の持ち出しをシステムで完全に防ぐこと困難です。

企業秘密防衛の本の中には防衛策として訴訟が書いてあるものもあります。しかし訴訟は漏洩した後の話です。
 

守るべきものは大きく分ければ以下の2つです。

  1. 顧客情報(中には個人情報)
  2. 自社の機密情報

こうした背景から関心が高まってきたりが「情報セキュリティ」です。

この情報セキュリティとはどのようなものでしょうか?
 

情報セキュリティと関連する法律

 

情報セキュリティ

情報セキュリティとは、JISによれば「コンピューターやインターネットを安全に、安心して使うための対策」のことです。これは以下の3つを維持することです。

  1. 情報にアクセスできる人の制限
  2. 情報の欠損の防止
  3. 情報が必要な時に問題なく使える状況
図3 何らかの攻撃を受けた企業 (総務省の「平成30年度情報通信利用動向調査」引用)

図3 何らかの攻撃を受けた企業 (総務省の「平成30年度情報通信利用動向調査」引用)

総務省の「平成30年度情報通信利用動向調査」によれば企業の約半数が何らかの攻撃を受けています。多いのはウイルスメールや標的型メールですが、不正アクセスや情報漏洩、ホームページ改ざんの被害を受けた企業もあります。
 

① 情報セキュリティの7要素

情報セキュリティの要素は以下の7点があります。

  1. 機密性
  2. 完全性
  3. 可用性
  4. 正真性
  5. 責任追及性
  6. 信頼性
  7. 否認防止

 

(1)機密性(Confidentiality)

機密性とは認められた人だけが情報にアクセスし、操作できるようにすることです。このアクセス制限には、

  • コンピューターの操作ができないようにする
  • 情報そのものを見られないようにする
  • 情報を見られても書き換えられないようにする

などがあります。これらが不十分な場合、情報の改ざんや漏洩が発生します。
 

(2)完全性(Integrity)

情報が正確で改ざんや削除などが行われていない状態を指します。完全性の維持には、

  • 情報にアクセスできる人を制限する
  • 情報の閲覧権限と編集権限を使い分ける
  • 情報に行われた操作のログを残す

などが必要です。
 

(3)可用性(Availability)

情報へのアクセスを認められた人が、必要な時に問題なく情報を見たり、操作できることです。Webサイトがダウンしないようなサーバーの管理など、サービスが正しく提供されるための対策です。

この機密性、完全性、可用性は7つの情報セキュリティの中でも最も重要な内容なため、それぞれの頭文字をとって「情報セキュリティのCIA」とも呼ばれています。
 

(4)真正性

情報を使用する人が間違いなく本人であること、情報そのものも偽物ではないことを確かめます。特定の人しかアクセスできないように、情報システムにログインする際はIDとパスワードを入力するようにします。
 

(5)責任追跡性
誰が情報にアクセスしたのか明確にすることです。アクセスログの記録は責任追跡性の維持に効果的です。
 

(6)信頼性

情報に対し行った操作が正しく、正しい結果が返ってくることや、システムに故障がないことなどです。
 

(7)否認防止

情報の製作者が後で否定することで悪意ある改ざんや破壊を行っても責任を逃れることができないようにすることです。文書ファイルにデジタル署名をつけて制作者を明らかにしたり、情報の変更記録のログが残るようにします。
 

② 情報セキュリティへの脅威は?

脅威は人的脅威、技術的脅威、物理的脅威の3点です。

(1)人的脅威

人のミスや悪意のある行動を指します。ミスにはシステムの誤操作などもあります。例として

  • メールの誤送信やサーバー内のデータの削除
  • パソコンやSD・USBメモリーの紛失
  • システムの脆弱性の見落とし

などです。

悪意のある行動は、情報漏洩やデータの改ざんなどです。IDやパスワードなどを不正に聞き出すソーシャルエンジニアリングは悪意のある人的脅威です。
 

(2)技術的脅威

不正なプログラムなど、技術的に生まれる脅威です。例えばコンピューターウイルスなどです。
 

(3)物理的脅威

情報システムやコンピューターに、物理的に発生する脅威を指します。

  • 機材の老朽化
  • 故障、地震・台風などの自然災害や事故による機材破損
  • 機材の意図的な破壊、盗難
  • パソコンやサーバーがある施設への不正侵入

物理的脅威の防止には機材の定期的なメンテナンスや自然災害を想定した環境整備、パソコンのID・パスワードの認証設定などが必要です。
 

③ 具体的な情報セキュリティ対策1 技術的対策

具体的な情報セキュリティ対策のうち、技術的対策を以下に示します。

【ファイアウォール】

インターネットを経由した不正アクセスに対し、ネットワーク階層を守るセキュリティ機器です。許可された機器やIPアドレスの信号のみを通信可能とし、それ以外の機器からの通信を遮断します。さらに攻撃者がネットワークのポートをスキャンして、ネットワーク上の開放ポートを探るのを防止します。

【IDS(不正侵入検知システム)/IPS(不正侵入検知システム) 】

攻撃者の中にはネットワークサーバーの脆弱性を衝いてDos攻撃などを仕掛ける場合があります。これはファイアウォールでは防げないため、IDS/IPSは通信パターンを調べて異常なパターンの通信を排除します。

【WAF(ウェブ・アプリケーション・ファイヤウォール) 】

Dos攻撃のような明らかに異常なパターンの通信に対し、SQLインジェクション攻撃は通信パターンは正常ですが、不適切なコマンドをウェブアプリケーションに送信する攻撃です。そのためIDS/IPSは検知できません。WAFはウェブアプリケーションの送られるデータ検査することでSQLインジェクションやJavaScriptインジェクション攻撃から防御します。

図4 様々な階層での防御方法

図4 様々な階層での防御方法

【ユーザー認証】

IDとパスワードでアクセス制限をかけるのに加えて、メールアドレスや携帯電話番号を使用した二段階認証も行うことで不正アクセスを防ぎます。
 

④ 具体的な情報セキュリティ対策2 物理的対策

物理的脅威に対してアクセス制限をします。許可された人のみがパソコンやサーバーを使えたり、機材のある建物にアクセスでき、他の人はアクセスできないようにします。

【離席ロック機構】

パソコンなどから一定時間離れる場合、自動的にロックがかかるようにします。組織内で運用する場合は、「〇分経ったらスリープ状態になる」など基準を設けます。

【筐体管理】

パソコン自体が管理されてなく紛失してもわからない職場もあります。そこでパソコンそのものにも破壊や盗難の防止策を施します。本体のカバーが開けられたことを通知する警報設置や、ワイヤーから切断されたときにブザーが鳴るケンジントンロックなどがあります。
 

⑤ 具体的な情報セキュリティ対策3 人的対策

従業員に対して情報セキュリティ教育を行います。

情報を扱う人に対する教育として、パソコン、SD・USBメモリーの取り扱い方法や個人情報の扱い方、情報を使用する際のモラル教育を行います。

これらの対策は相互に効果を高める効果があるため、一つだけに注力しても効果は高くありません。そこで技術的対策、物理的対策、技術的対策を組み合わせることが重要です。

図5 対策と機能の組み合わせ

図5 対策と機能の組み合わせ


 
 

事故対応

情報セキュリティ事故(インシデントという)が起きた時、対処方法を決めておかなければ、初動対応を誤り、被害を拡大させてしまいます。事故対応だけでなく、情報セキュリティに関して問題が発生した時の責任者と連絡方法を決めておきます。

図に例を示します。

図6 事故対応の流れ

図6 事故対応の流れ


 

参考) 情報セキュリティに関する認証制度
【ISMSマーク】

国際規格(JIS Q 27002: ISO/IEC 27002)に従ってすべての情報資産がセキュリティの適切な運用ができているか審査し認証が付与されます。認証にはJIS Q 27002: ISO/IEC 27002が定める要求事故に適合し、情報の機密性・完全性・可用性の維持がなされていることが必要です。

【プライバシーマーク】

個人情報の取り扱いが適切な法人や組織に付与されます。ISMSマークと違いプライバシーマークは個人情報のみを対象としています。
 

情報セキュリティ関連の法律 

サイバーセキュリティ基本法

2014年成立し、2015年1月から施行されています。サイバーセキュリティに関する施策を総合的かつ効率的に推進するため、基本理念や国の責務、サイバーセキュリティ戦略をはじめとする施策の基本となる事項を規定したものです。

具体的な戦略は「内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)」や他の法律にゆだねられます。
 

特定電子メール法

短時間のうちに無差別かつ大量に送信される広告や宣伝メールなど、いわゆる「迷惑メール」を規制し、良好なインターネット環境を保つために2002年に施行されました。2008年に法改正が行われ、オプトイン方式の導入や罰則の強化も盛り込まれました。

特定電子メールとは、

「営利を目的とする団体および営業を営む場合における個人」

である送信者が

「自己又は他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として送信する電子メール」

で、(総務省のガイドラインでは)

「電子メールの内容が営業上のサービス・商品等に関する情報を広告または宣伝しようとするもの」

であれば特定電子メールに該当します。その場合、企業が顧客や見込み客にメールマガジンなどを配信する場合は注意が必要です。この場合、「広告または宣伝」とそれに関するウェブサイトへの誘導の有無で「特定電子メール」に該当するかどうかが決まります。
 

罰則

特定電子メール法に従わず「オプトイン方式」や「送信者の表示義務」を守らず、「送信者情報を偽った電子メールの送信 」や「架空電子メールアドレスあての送信」を行った場合は最高「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」、法人では「行為者を罰する他、法人が3000万円以下の罰金」が科せられます。

オプトイン方式

特定電子メールを送信する際、受信者から事前に同意を得ることです。
一方「オプトアウト」とは、受信者側が特定電子メールを「もう入りませんよ、送らないでください」と受信を拒否することです。オプトアウトの通知が来た場合、送信者は特定電子メールの送信を停止しなければいけません。
 

不正アクセス禁止法

2000年に施行され、サイバー犯罪の深刻化等の事態を受け、2012年に改正された法律です。改正で、フィッシング行為や識別符号(IDやパスワード)の不正取得・不正保管が禁止され、不正アクセス行為に関する法定刑の引き上げが行われました。

不正アクセス禁止法では、不正アクセス行為や不正アクセスを助長する行為、他人の識別符号(IDやパスワード)を不正に取得する行為が禁止されています。
 

個人情報保護法

個人情報とは、生存する個人に関する情報で、氏名、生年月日、住所、顔写真などにより特定の個人を識別できる情報を指します。

生年月日や電話番号は、それ単体では特定の個人を識別できませんが、氏名と組み合わせると特定の個人を識別でき個人情報に該当します。

要配慮個人情報とは、他人に公開されることで、本人が不当な差別や偏見などの不利益を被らないように取扱いに配慮すべき情報です。例えば、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪歴、身体障害・知的障害などの障害などが要配慮個人情報に該当します。「要配慮個人情報」の取得は、本人の同意が必要です。

氏名だけでも個人情報に該当します。企業が個人情報を取得する場合は、あらかじめ利用目的を公表(ホームページ等)する、あるいは取得後速やかに利用目的を本人に通知、又は公表する必要があります。また、取得後利用目的を変更する場合は、本人の同意が必要です。
 

個人データとは、個人情報を検索可能なように分類、整理したものを指します。

顧客が記入したアンケートは個人情報であっても個人データではありません。アンケートを表に整理し、エクセルに入力して顧客を検索できるようにしたものは個人データになります。

個人情報は安全管理の義務は生じませんが、個人データは安全管理が必要です。

安全管理の措置は、個人情報保護委員会「個人情報保護法ガイドライン(通則編)」の「8(別添)講ずべき安全管理措置の内容」に具体的に示されています。

ただし中小事業業者(従業員100人以下)ではそこまでの、そこまでの措置は困難なことから必要な最低限の措置が示されています。
 

個人情報保護法の概要
① 組織的安全管理
  • 組織体制の整備
  • 個人データの取扱いに係る規律に従った運用
  • 個人データの取扱状況を確認する手段の整備
  • 漏えい等の事案に対応する体制の整備
  • 取扱状況の把握及び安全管理措置の見直し

中小規模事業者の場合、個人データを取り扱う社員が複数いる場合は責任者を決めておきます。個人情報保護法に従って社内で定めたルールに従い個人データを取り扱っているか、責任者が確認します。

また、情報漏えい等が発生したときの連絡体制を決めておきます。個人データの取り扱いについて、責任者は年に1回は点検し、必要に応じて見直します。
 

人的安全管理措置

従業者に個人データの適正な取扱いを周知徹底するとともに適切な教育を行わなければなりません。具体的には以下の2点です。

  • 個人データの取り扱いの留意事項について、従業者に定期的な研修等を行う
  • 個人データの秘密保持に関する項目(懲戒等)を就業規則等に盛り込む

図7 機密情報の人的リスク

図7 機密情報の人的リスク


 

③ 物理的安全管理措置

物理的安全管理措置として、次に掲げる措置が必要です。

  • 個人データを取り扱う区域の管理
  • 機器及び電子媒体等の盗難等の防止
  • 電子媒体等を持ち運ぶ場合の漏えい等の防止
  • 個人データの削除及び機器、電子媒体等の廃棄

 

中小規模事業者が個人データを記録したパソコンやUSBメモリ、個人データが記載された書類などを管理する場合、少なくとも次の対応を行います。

  • 個人データを取り扱う従業者以外の者が、のぞき見などをできないようする
  • 施錠できるところに保管し、盗難されないようにする
  • 持ち運ぶときは、パスワードを設定する
  • すぐに情報が漏えいしないように封筒に入れた上で鞄に入れたりする
  • 廃棄するときは、廃棄したことを責任者が確認する

 

④ 技術的安全管理措置

これは前述の情報セキュリティと重複する部分が多くあり、以下の安全管理措置対策が必要です。

  • アクセス制御
  • アクセス者の識別と認証
  • 外部からの不正アクセス等の防止
  • 情報システムの使用に伴う漏えい等の防止

 

中小規模事業者は技術的安全管理措置として、少なくとも次の対応が必要です。

  • 個人データを取り扱うパソコンと、それを使える従業者を決めておく
  • 個人データを扱うパソコンには、ID・パスワードの認証を設定しておく(ID・パスワードの共有はしない)
  • OSは常に最新にしておく
  • セキュリティ対策ソフトなどを導入する
  • メールで個人データの含まれるファイルを送信するときは、そのファイルにパスワードを設定する

図8 個人情報の種類と管理方法

図8 個人情報の種類と管理方法


 

不正競争防止法

営業秘密は、企業が持つ秘密情報の中で、「不正競争防止法」により保護の対象となる秘密情報を指します。社員が営業秘密を持ち出した場合、民事上・刑事上の措置をとることが可能です。
 

① 営業秘密の3要件
1.秘密管理性

秘密管理性とは、情報を秘密として管理されていること。適切に管理されていなければ保護の対象となりません。

2.有用性

事業活動における製品やサービスの生産・販売・研究開発などに役立つ、事業者にとって有用な情報であること。

3.非公知性

非公知性とは、公然と知られていないこと。一般的に入手することができない状態にあること。
 

② 企業に必要な営業秘密の管理

紙やデータディスクは「秘」「社外秘」「Confidential」などの記載をし、秘密とすべき情報であることを表示します。情報を使用する者について制限を行ったり、使用に際して一定の承認行為を設けます。

該当する紙や媒体を、鍵がかけられる棚などの収納設備に収納し、鍵を管理する取扱責任者を置きます。
 

③ 「営業秘密」を漏えいさせた者への罰則

10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金が科せられます。
 

④ 営業秘密の漏えいの原因は「人」

原因の多くは「人」です。従業員、退職者、取引先や共同研究している関係企業、それ以外の第三者などが含まれます。
過去の事例では顧客情報がもっとも多く、次いで設計図や製造装置の情報が多いです。これらの漏えいの多くは人を介して行われていました。

原因が従業員の場合、管理ミスによる事故と悪質な行為の2つがあります。管理ミスによる事故で多いのは、営業秘密が記載されたメールの誤送信、営業秘密が入ったバッグの置き忘れなどです。

悪質な行為としては、高額な報酬との引き換え、転職先への営業秘密の持ち出しなどが挙げられます。
 

⑤ 営業秘密の漏えい防止と管理方法

IT化による情報の取り扱い手法の変化や業務の外部委託化、雇用の流動化などのため情報漏えい事故は後を絶ちません。営業秘密の漏えいを招かないためには、状況に応じて適切な管理を行う必要があります。

1.物理的管理
  • 生体認証による出入管理

部外者の侵入による営業秘密の流出を防ぐため、出入管理が必要です。社員証の場合、紛失やなりすましの恐れもあるため、生体認証の方がより効果的です。

  • 防犯カメラの設置

内部者による情報漏えいの犯行を防ぐには、防犯カメラの設置も効果的です。営業秘密を保管している場所に防犯カメラを設置し、常時監視していることを周知するとともに、万が一漏えいが発覚した場合にすぐ状況を確認できる環境を作りましょう。

図9 防犯カメラの設置は効果的

図9 防犯カメラの設置は効果的


 

  • 機密文書集荷、廃棄処理

機密文書を廃棄する際は、内容の流出を避けるため、機密文書専門の廃棄処理サービスを活用します。
 

2.技術的管理

パソコンやモバイル機器、記憶媒体などのIT資産を適正に管理することは、意外に大変です。具体的には、パソコンやモバイル端末から、それらにインストールされたソフトウェアなどのバージョン・ライセンスに関する情報を一元管理できることが理想的です。

3.組織的管理

営業秘密を適切に管理するためには、以下の5つの措置が必要です。

  • 組織体制を整えること
  • 規程とその運用を整備すること
  • 情報の取扱状況を把握できる手段を整えること
  • 安全管理の見直しや改善
  • 事故や違反への対処

これらの項目の実施により、「組織的安全管理措置」を行うことができます。

4.人的管理

従業員が適切に情報を取扱い保護できるために、機密保持契約を結んだり、社内規程などについて教育や訓練を行ったりすることを「人的管理」と言います。
 

アメリカのトレード・シークレット法

アメリカも同様に企業や個人が不正な手段で企業秘密を取得したり、漏洩することを禁じています。現在は統一トレード・シークレット法として各州が州法として採用することを勧告し、現在41の州が採用しています。

この中でトレード・シークレットは以下のように定義されています。

製法、様式、修正、プログラム、考案、方法またはプロセスなどの情報で

  • 一般には知られていない
  • 現実的または潜在的な経済価値を有している
  • 秘密性を保持するために合理的な努力がなされているもの

またトレード・シークレットに対する侵害行為として

  • 当該トレード・シークレットが不正手段(窃盗、買収、詐欺、守秘義務違反、その他教唆、電子的手段やその他のスパイ行為など)によって取得されたことを知っている者が、そのトレード・シークレットを取得・使用・開示する行為

が定められています。
 

事例 Apple

Appleが、企業秘密を盗んだとして自社の自動運転車チームの元メンバーを刑事告訴しました。Appleの訴えにより、元社員のXiaolang Zhang被告が中国への逃亡を図ろうとしたところ、2018年7月7日にサンノゼ空港で逮捕されました。

Appleの知的財産の窃取に関して米連邦捜査局(以下、FBI)の事情聴取を受け、同氏は罪を認めています。Zhang氏は2015年からAppleで働き、同社の自動運転車プロジェクトで、センサデータを分析する回路基板の設計とテストを担当しました。

2018年4月に休暇を取得して中国に戻り、その後職場に戻り、Appleを退職してXMotors(小鵬汽車)という中国の自動運転車のスタートアップに転職すると上司に告げました。

その際に上司が疑念を持ち、AppleのNew Product Security Teamに連絡したところから、不正行為が明らかになりました。
 

米国における営業秘密等の保護

連邦経済スパイ法 EEA(Economic Espionage Act of 1996)

1980年代初頭のIBM ソフトウェアの窃盗事件の発生、その後の米ソ冷戦構造で軍事技術情報をめぐるスパイ事件の増加という背景と、民事規制では十分ではないという観点から、営業秘密の不正取得等に関して制定された連邦法です。

EEAは、以下の2つの犯罪を禁止しています。

◆外国政府に便益を与えるための経済スパイ:合衆国法典第18巻(EEA)第1831条

本条は、所有者の許可なく営業秘密を取得もしくは他人に譲渡し、又は、その他の方法で所有者から営業秘密を奪うことを禁止しています。

◆営業秘密の不正取得・不正開示: 合衆国法典第18巻(EEA)第1832条

本条は、営業秘密の窃取、獲得、破壊又は伝達に関する同様の行為を禁止していますが、外国主体の便宜に関する規定の代わりに、所有者以外の者の便益のために営業秘密を不正取得するという被告人の意図を要件としています。
 

注意が必要なのは未遂及び共謀でも同じ罰則が科せられることです。

またFBIは不正取得の疑いがあれば、覆面捜査も行います。例えば捜査員が、営業秘密に興味があるふりをして近づいたりします。営業秘密を所有する企業が調査を手助けすることも多いです。海外企業と事業提携を行う場合、提携企業がライバル企業の営業秘密を不正に取得すれば、自社もアメリカでの刑事事件に巻き込まれる恐れがあります。
 

参考文献

「ハッカーズ」ケビン・ミトニック、ウィリアム・サイモン 著 インプレスジャパン
「欺術」ケビン・ミトニック、ウィリアム・サイモン 著 ソフトバンク・パブリッシング
「実務に役立つ改正個人情報保護法速攻対応」 (株)シーピーデザインコンサルティング著 学研
「機密情報の保護と情報セキュリティ」畠中伸敏 著 日科技連
「社長のための情報セキュリティ」日経BPコンサルティング情報セキュリティ研究会 著 日経BPコンサルティング
「サイバー攻撃からあなたの会社を守る方法」藤原礼征 著 中経出版
 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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インターネット以来の大発明ブロックチェーンその1 ~ビットコインの成り立ちと特徴~

2009年、サトシ・ナカモトという人物の書いた9ページの論文から生まれた、ビットコインは多くの人々を熱狂させ、ビットコインバブルを生み出しました。その一方で、彼の考えたブロックチェーン技術は、インターネット以来の発明といわれ、今やメガバンクや各国の中央銀行がその仕組みの導入を検討しています。このブロックチェーンとは何なのか、世界はどう変わるのか2回に分けて考えました。1回目は通貨の役割とビットインについてです。
 

インターネット以来の大発明その2 ~ビットコインの技術、マイニングとプルーフオブワーク~

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インダストリー4.0は、昨年あたりからマスコミにさかんに取り上げられ、「ものづくりが変わる!」とセンセーショナルに書かれています。でも具体的には何なのか、良く分からない方も多いと思います。本当にイノベーションが起きるのか、それともかつてのFMSやCIMのように忘れ去られてしまうものなのか2回に分けて考えました。1回目はインダストリー1.0から4.0までの流れとインダストリー4.0の技術についてです。
 

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ゲームのルールが変わる、コモディティ化 その1

突然ビジネスのゲームのルールが変わり、それまで市場のトップにいた企業が一気に転落することがあります。そのひとつがコモディティ化です。ルールが変わると今まで築いた優位性がなくなります。取引先の商品がコモディティ化すれば業績が急速に悪化し、自社の仕事にも影響します。そこでコモディティ化とは何か、どうしてコモディティ化は起きるのか、どう対処すればよいのか、2回に分けて考えました。1回目はゲームのルールが変わった例とコモディティ化についてです。
 

ゲームのルールが変わる、コモディティ化 その2

コモディティ化とは何か、どうしてコモディティ化は起きるのか、どう対処すればよいのか、2回目はコモディティ化のメカニズムとコモディティ化に陥らないようにする方法についてです。
 

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社会の変革 https://ilink-corp.co.jp/11916.html https://ilink-corp.co.jp/11916.html#respond Tue, 27 Feb 2024 02:11:16 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=11916 No related posts. ]]> 技術だけでなく、人口、国家、金融など様々な面でも変化が起きています。

ここではそういった社会面での変革を取り上げました。

(タイトルをクリックすると記事に移動します。)

社会環境と制度

 

「SDGsの真実1」~環境だけじゃない。17の目標と温暖化対策の目標~

持続可能な開発、低炭素化社会の実現、などSDGsに関して、様々なキーワードが報道されています。しかしSDGsと言われてもピンと来ない方も多いのではないでしょうか?ではSDGsとはどんなものなのでしょうか?

実は、環境問題は背景に政治的、思想的な対立があり、一筋縄ではいきません。しかも二酸化炭素排出削減は、EVや太陽光発電よりももっと大きな問題があるのに、それについてはほとんど報道されていません。そこで地球温暖化と二酸化炭素排出量の関係はあるのか?二酸化炭素排出量削減に本当に必要なことは何か?SDGsと環境問題の本質について2回に分けて考えました。1回目はSDGsの17の目標についてです。
 

「SDGsの真実2」~温暖化に対する様々な意見と温暖化対策の難しさ~

持続可能な開発、低炭素化社会の実現、などSDGsについての2回目は、地球温暖化に関する議論と、発電、自動車以外の二酸化炭素排出問題についてです。
 

組織の進化形『ティール組織』

企業は階層型の組織をつくり「上司と部下」の関係で仕事をマネジメントします。しかしこういった従来のマネジメントはうまく行っているとは言い難く、上司と部下のコミュニケーションは不十分、パワハラの問題、部下の意欲の低下と退職など多くの問題が起きています。この従来の組織に対し「管理をしない」ティール組織が話題になっています。はたしてティール組織は未来の組織なのか、一過性のものなのか。フレデリック・ラルーチ著「ティール組織」から組織と管理について考えます。
 

「思想の対立か、パラダイムの転換か?」 ~脚光を浴びるベーシックインカム

ベーシックインカムは、社会保障として国民1人1人に毎月定額の現金を支給する政策です。この思想は17世紀から既にありましたが、最近になって海外でも様々な学者や団体が導入を提唱しています。ひとつには年金や生活保護などの社会保障制度は行政コストが非常にかかるため、むしろ一律給付の方が効率的だという考えです。さらに非正規雇用など不安定な生活に置かれた人々に安心を提供し、起業に失敗しても生活できるため起業が活発になるといわれています。今提唱されているベーシックインカムはどのような制度で、経済的に成立するのか?その結果社会はどうなるのか?ベーシックインカムについて考えました。
 

世界と経済

 

「中国経済の誤解 ~学ぶべきマクロ経済コントロールと今後の課題~ その1

中国経済については「不動産バブル」「シャドーバンク」などマイナスの面をことさら強調して、危機を煽り立てるような報道や書籍が目につきます。現実には、不動産バブルは崩壊せず、リーマンショックも乗り切って、成長を続けています。どのように中国の指導者層が困難を克服してきたのか、冷静な書籍や報道は多くありません。

今回取り上げるトーマス・オーリック著「中国経済の謎―なぜバブルは弾けないのか?」この本は、あえて政治には触れず、中国の指導者層の経済政策に焦点を当てて詳細に書かれています。この本を取り上げてこれまでの中国経済の巧みな運営と、今後のリスクについて2回に分けて説明します。1回目は中国の政治体制と、日本のバブル崩壊、アジア通貨危機から彼らが何を学んだかについてです。
 

「中国経済の誤解 ~学ぶべきマクロ経済コントロールと今後の課題~ その2

トーマス・オーリック著「中国経済の謎―なぜバブルは弾けないのか?」を取り上げてこれまでの中国経済の巧みな運営と、今後のリスクについて2回に分けて説明します。2回目は中国のこれまでの経済運営と現在の課題です。
 

政府債務がどれだけ増えても破綻しない? 話題の『現代貨幣理論』MMTを考える その1

今回の衆院選では多くの候補者や政党が積極的に財政出動して景気浮揚を訴えました。しかし財政は大丈夫でしょうか?そこで「財政は問題ない」とした拠り所が「自国通貨を発行できる国はいくら財政赤字を拡大してもデフォルトしない」というMMT(現代貨幣理論)です。

MMTはステファニー・ケルトン教授が提唱し、下院議員のオカシオ・コルテス氏が積極的な財政政策の根拠として主張し、日本でも西田昌司参院議員(自民党)などが取り上げました。一方従来の経済学者から「ブードゥ―経済学」とまで言われ、激しく批判されています。MMTの主張は本当なのか?MMT推進派と反対派、双方の主張を取り上げました。1回目はMMTの主張です。

政府債務がどれだけ増えても破綻しない? 話題の『現代貨幣理論』MMTを考える その2

「自国通貨を発行できる国はいくら財政赤字を拡大してもデフォルトしない」というMMT(現代貨幣理論)の2回目は、MMTの主張に対する反論です。
 

世界恐慌 ~金融危機と通貨危機の同時連鎖はなぜ起こったのか?~

リーマンショックは100年に一度の危機と言われました。では100年前の世界恐慌は度のようなものだったのでしょうか?それはリーマンショックよりもはるかに大きなものでした。歴史の教科書には、第一次世界大戦後の好景気に沸くアメリカで投資バブルが発生、バブルがはじけたため、世界恐慌が発生したと書いてあります。当時の世界の置かれた状況は?各国の中央銀行はどう動いたのか?ヨーロッパ、アメリカ、日本の金融政策は?金本位制と金融政策、経済発展と通貨の役割、などを取り上げ、不況を本質について考えました。
 

グローバル資本とデフレの関係

円安で輸出企業の利益が増えても企業は内部留保を積み上げ、賃上げや設備投資は依然低調です。この日本のデフレについて、JPモルガン証券の北野一氏は、「原因は成長余力の乏しい日本企業がその実力以上に利益を出していることにある」と断言します。この北野氏の主張するデフレの原因について深掘りし、借入と資本と費用の関係と、購買力平価でみた時の実質為替レート、そして格差の拡大について考えました。
 

これからの日本

 

「これからの日本の産業を考える」 ~日本の産業の歴史とグローバル環境から次の時代を考える~

紡績・繊維から、鉄鋼・造船、そして電気・半導体から自動車と日本の輸出を支える産業は変化してきました。その過程で多くの企業が栄枯盛衰の憂き目に遭いました。では、これからの日本を支える産業は何でしょうか?医療? 航空機?

これからの産業については情報が少なく、しかも行政やシンクタンクの一方的な情報ばかりです。しかし過去に発展した産業や企業は、常にこうした公の予想の外で起きました。これまでの日本の産業発展の歴史と現在の日本の企業の規模と業界のデータから、今後どのような産業が発展するのか、ディスカッションしました。
 

人口減少社会とこれから起こる変化

統計数値を基にした少子高齢化の実態と、その原因として政策の失敗、そして地方行政の失敗と行政に衝撃を与えた増田レポートから国が日本をどう変えていこうとしているのか学びました。そこから今後の市場の変化について、考えました。

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行動を支配する8つの要素その2 ~人を動かす方法の実践~ https://ilink-corp.co.jp/11908.html https://ilink-corp.co.jp/11908.html#respond Mon, 26 Feb 2024 10:35:05 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=11908 No related posts. ]]>  

顧客との交渉で8つの要素を活用する

 

では、この8つの要素は顧客との交渉にどのように活用できるのでしょうか。

この活用については、様々なセールス・テクニックの本に書かれています。ここでは顧客との交渉に焦点を当ててまとめました。
 

返報性の原理

 

様々な贈り物

相手から無償でもらうことは心理的な負担(借り)です。接待やお歳暮は返報性の原理をうまく活用したものです。しかし今では仕入れ先からの贈り物や接待が規制されている会社もあります。顧客も警戒心を持っているため贈り物や接待は難しくなっています。

一方、新製品の開発などは、顧客からテストや試作を頼まれることがあります。これも接待やお歳暮と同じ効果があります。「これだけ試作してくれたから、そこに出そう」となるわけです。

仕入先も試作やテストを行えば費用がかかります。しかし試作やテスト費用を支払うためには稟議書など特別な手続きが必要な会社もあります。そんな時、無償でやってくれれば顧客はとても助かります。

ここで大切なことは、無償でも見積は出すことです。つまり顧客に「いくらの仕事を無償でやったのか」金額を意識させることです。その金額が大きいほど、顧客の心に大きな借りが生まれます。

あるいは自社で開発した新しい製造方法をPRする場合、顧客にサンプルを渡すのも良い方法です。技術者の中にはこういったサンプルを大切にする人が多くいます。このサンプルは、顧客の引き出しの中に何年も入っていて、サンプルをつくった会社のことを顧客に思い出させます。
 

最初は譲歩する

交渉の場合、最初に自分から譲歩すれば、顧客に返報性の原理が作用します。相手がこれだけ譲歩したのだから、相応の譲歩をしなければならない雰囲気になります。こちらも暗に「こちらがこれだけ譲歩したのだから…」と圧力をかけます。逆に相手が先に譲歩すれば、こちらが同様の圧力を受けます。
 

一貫性の法則

交渉の際、取引条件は必ず仕様書や議事録に記録します。仕様書や議事録に書いたことは「決まったこと」として、その方向に議論を導く「一貫性の法則」が働きます。記録しなければ、話し合った内容をお互いが自分に都合の良いように解釈してしまいます。

また顧客が「今日決めよう」と言えば「例え不利な条件でも今日決めなければならない」という一貫性の法則が働きます。その場合「今日決めよう」と言われても、結果が自分たちに不利ならば「私の一存では決められません」と保留します。

従って、こういった交渉はトップ以外のNO.2以下が行った方が有利です。もし不利な条件を押し付けられた時「これは持ち帰って上司と相談します」と結論を保留できるからです。
 

好意をもってもらうようにする

相手に好意を持ってもらうのはセールスの基本的なテクニックです。これが交渉結果を左右する場合もあります。そこで基本的なテクニックを身につけておきます。

テクニックの例

  • 会話は相手の目を見て、目線を合わせる。時々大きくうなずいて相手の話に同意を示す。
  • 相手は役職や社名でなく、名前で呼ぶ。「○○さんは…」を毎回会話に入れるだけで相手の好感が高まる。
  • できる限り相手の情報を入手し、相手との共通点を探す。初対面では、趣味、出身地、出身校、誕生日や干支などを聞き出して、共通点を探しそれを強調する。
  • 接点を増やす。資料を渡すときはできる限り手渡しをする。メールで連絡した場合も電話をかける。会った後もお礼のメールを送る。季節のあいさつハガキを送る。
  • 誠実さを訴求する。自分たちにとって不利なことでも、最初に正直に顧客に伝える。そうすれば顧客は誠実だと感じ信頼を得られる。
  • お世辞を練習する。お世辞は普段言いなれていないと、とっさに出ない。そこで普段から練習しておく。多少不自然になっても相手は決して悪い気はしない。

 

権威づける

 

専門家の活用

議論が技術になる場合、自社の技術者を連れて行けば、発言の重みが変わります。その際、「○○課のリーダーで経験○○年の○○さんです」と紹介すれば、より強く権威付けされます。
 

自信なさげな専門家

ある調査によれば「○○についてはこうです」と自信たっぷりに話す専門家より、「確かなことは言えませんが、○○のデータを見る限り、私の経験では○○であると思われます」と、不安な点も正直に話す専門家の方が高い信頼が得られました。自社の技術者を連れていく場合も技術者にはこのような伝え方をさせます。
 

外部の権威を活用

自社で取ったデータよりも県の工業試験所など公設試験所のデータの方が顧客の信頼は高くなります。公設試験所の試験費用は比較的安く、顧客の信頼を得るためと考えれば、費用対効果は高いです。
 

注目してももらう

 

質問する

「○○について不満な点は何ですか?」と質問すれば、顧客は不満な点を頭の中で探します。そして意識は不満な点に向かいます。つまり顧客に注目してほしい点、重要だと思って欲しい点を質問して、そこに注意を向けてもらいます。
 

理由を言ってお願いする

コピー待ちの列に「先にコピー取らせてもらえませんか?」とだけ頼むよりも「先にコピー取らせてもらえませんか? コピーを取らなければいけないので」と理由を言った方が、先に取らせてくれる人が増えたという心理学の実験があります。

そこで「ぜひこれを受注させてください」と、その点だけお願いするよりも「前回の○○は失注しました。今回の○○も失注すれば会社が非常に厳しい状況になるため、これだけはぜひ受注させてください」と理由を言えば説得力が増します。
 

言葉を選ぶ

あるシステム会社は「コスト」「価格」という言葉は顧客に損失やマイナスのイメージを抱かせるため、代わりに「購入」「投資」という言葉に言い替えています。製造業であれば「コスト」より「原価」の方がマイナスイメージは低くなります。
 

後から反論する

交渉では最初に出した意見よりも後から出した反論の方が強く印象に残ります。そこでできるだけ最初は相手に条件を提示してもらい、後から反論すれば印象が強くなります。
 

コントラストを活かす

 

対比

メリットだけでなく、メリットとデメリットを両方上げて対比すればメリットがより強調されます。あるいは長所の代わりにその裏返しの短所を強調することで、誠実さと短所の反対の長所を印象付けることができます。

「不格好なのは見た目だけです」

広告代理店DDB(ドイル・ディーン・バーンバック)社のこのコピーにより、フルサイズの大型車が主流の1960年代のアメリカで、フォルクスワーゲン ビートルを大ヒットさせました。

図8 フォルクスワーゲン ビートル

図8 フォルクスワーゲン ビートル


 

より上位の、値段の高い提案を足す

顧客の要求が厳しい場合、自社の提案がより妥当な価格に見えるようにするには、さらに費用のかかる、しかし性能的にはより高い提案を付け加え、そちらを強く推します。これによりこれまでの提案の価格は打倒に感じられます。
 

8つの要素の活用 社員を動かす

 

中小企業は大企業に比べ人材を採用は苦戦します。一方で業務に対する能力は、中小企業の新入社員と大企業の新入社員に大きな差はありません。(まだ業務に就いていないので当然ですが) ところがその後の業務経験と教育によって次第に差が広がります。

中小企業の場合、長期的な社員の能力向上は、主に業務を通じて教育するOJTになります。OJTでは、先輩達が今までやってきた仕事はできるようになります。しかしそれ以上に伸びるのは困難です。むしろ担当した業務だけを長年行うことで、新しいことを学ばずその仕事に固執します。(「タコツボ化する」)

しかしこれまでと同じ業務を繰り返していては、競合との競争に勝つことはできません。現状の殻を打ち破り、組織が進歩するためには、仕事のやり方を改善する必要があります。加えて新しいことを学ぶ必要もあります。しかしタコツボ化した社員に「ああしろ、こうしろ」と言っても言うことを聞きません。このような場合、人を望む方に動かすために、以下の8つの要素が活用できます。
 

下準備をする

業務のやり方を変え、新しいことを学習するには、その前提を整える必要があります。「なぜ、変えなければならないのか」という問いに対する答えです。つまり8つの要素を活用する前の「プリ・スエージョン(下準備)」が必要なのです。

経営者は、企業が今後も発展するために「会社をこう変えたい」「社員にこうなってほしい」という希望があるはずです。これを社員に浸透させるために以下のようなアクションを起こします。

  • 組織をこう変えたいというビジョンを文書化し、社員に何度も語りかける
  • 社員にこうなってほしいという姿を質問の形にして、何度も社員に投げかける
    「○○を実現するためには、仕事のやり方をどのように変えるべきだろうか」
    「新しい仕事のやり方ができるようにするためには、どのような能力が必要だろうか」

 

これは答えを言わせるのでなく、質問することで社員にやるべきことや身に着けるべき能力を自ら意識させることです。こうして質問を繰り返して課題を意識させることは、社員が自ら動くようになるための下準備です。
 

一貫性の法則で積極性を引き出す

社員が自ら1年間、業務上取り組むべきこと、自らの能力を高めるためにやるべきことを紙に書かせます。それを数か月ごとにフォローします。紙に書くことで一貫性の法則が働き、自主的に行うようになります。

これは目標管理制度と同じです。ただし目標管理制度には問題があります。

それは目標管理が評価と結びついていることです。そのため目標を達成できなければ評価が下がります。そうなると無難な目標しか書きません。評価と切り離して、人材育成のツールに限定すれば一貫性の法則という強力な作用を活用できます。

成果主義は社員の業績を評価し優劣をつけて待遇に格差をつけます。しかし業績は担当社員の努力だけではどうにもならないこともあります。さらに行き過ぎた成果主義は、社員の不正を引き起こします。

仕事の成果は、顧客や競合など外部との関係、他部門の高度などもあり、自分が完全にコントロールできません。しかし自らの行動はコントロールできます。

「どのように仕事のやり方を変えたのか」「どのようにスキルアップに取り組んだのか」こうした行動を各社員に公表させます。これは具体的でごまかしはききません。また目に見えてわかるため、他の社員も公平に見ることができます。
 

返報性の原理で継続させる

成果主義では目標を達成すれば報酬が得られます。この報酬は一時的な満足感は得られますが、長期にわたって強いインセンティブは働きません。なぜなら目標が達成できそうもなければ報酬をあきらめればよいからです。一方、完全歩合制のセールスマンのように達成しなければ生活に支障をきたすような場合、社員間の協力はぎくしゃくし、成果の偽装も起きます。

そこで報酬は後でなく、先に渡します。そうすれば返報性の原理が働き、目標に取り組む強いインセンティブになります。つまり社員が目標を設定すれば、それに対して報酬を先に支払うのです。しかも1年後、目標を達成できなくても返すことは許されません。

社員は「ラッキー」と思うでしょうか。

いえ「返報性の原理」が働き、とても気持ち悪く感じます。他の社員が決めたことを実行し目標を達成していれば、なおさらそう感じます。

ここまでやるのは行き過ぎと感じる場合、資格取得など外部教育で「返報性の原理」を活用する方法もあります。資格の取得や教育終了で報奨金を出すのでなく、最初に取組んだ時点で報奨金を出すのです。最初に報奨金を受け取り途中でやめれば、返報性の原理から社員は気持ち悪く感じます。これが取組を継続するインセンティブになります。
 

社会的証明でスキルアップする

社会的証明には良い面と悪い面があります。
 

【良い面】(良いことは全員)

研修やスキルアップは、新入社員や高齢社員も含めて全員で行います。その内容は人によって異なるかもしれませんが、スキルアップをやることに対して例外を作りません。進捗や達成度は全員に公開します。

集団意識の強い日本では、組織の中で自分一人だけやらないのはとても居心地悪いのです。ただしスキルや能力は個人差があるため、カリキュラムはいくつか用意して、本人が選択します。これにより一貫性の原理が働きます。
 

【悪い面】(悪いことには目を光らせる)

服装の乱れ、標準作業の無視、安全ルールからの逸脱などを放置すれば、「ルールを無視してもよい」という悪い社会的証明になります。放置すれば重大な事故や不良が起きかねません。そのため些細な違反も必ず指摘します。

ただし強く叱る必要はありません。悪いことは本人も分かっているからです。「悪いことをすれば必ず指摘される」という文化ができれば、「ルール無視は見過されない」という良い社会的証明になります。
 

嫌われ役をつくって規律を高める

一度決めたルールも時間の経過とともに徐々に守られなくなります。ルールを維持するには、誰かが嫌われ役になって違反したものに対し指摘しなければなりません。

時にはあえてルールを守らずに、それを自己主張と考える社員もいるかもしれません。しかも本人に理由を聞いてもはっきりと言いません。このような場合「良い警官、悪い警官」の手法が使えます。悪い警官役の社員がルール無視した社員を厳しく叱責します。良い警官役の社員が「君が本当はまじめで、仕事もしっかりとやっている」と本人の力を認め共感を示します。その後で「どうして○○のルールを守らないんだ」と質問します。
 

ジグソー教室で協力関係を強化する

新しい仕事に取り組むとき、あるいは研修などでジグソー教室の技法を使えば社員間の協力を高めることができます。

新しい仕事の場合、分野の異なる様々なメンバーを集めて、一つのテーマに取組むようにします。この場合、お互いが協力しなければ目的は達成できません。一定期間お互いが協力して仕事をすることで、お互いのことがよくわかり、好感が高まります。これはその後の円滑な組織運営に効果を発揮します。

研修でもそれぞれの自分の専門分野の内容を他のメンバーに教え合うようにします。お互いが先生になるため、お互いに好感と尊敬が生まれます。

例えば、生産管理の担当が生産管理を、品質管理の担当が品質管理を、他の部署のメンバーに教えます。できれば、グループをつくりお互いが協力しないと達成できないような課題をつくって研修をすると効果的です。一見ムダな研修に見えますが、お互いの業務の理解が深まり、横の連携が強化され、ローテーションも容易になります。
 

参考文献

「影響力の武器」ロバート・B・チャルディーニ 著 誠信書房
「影響力の武器 実践編」ロバート・B・チャルディーニ 著 誠信書房
「影響力の武器 戦略編」ロバート・B・チャルディーニ 著 誠信書房
「プリ・スエージョン」ロバート・B・チャルディーニ 著 誠信書房

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人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

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行動を支配する8つの要素その1 ~心理学・行動経済学から学ぶ人を動かす方法~ https://ilink-corp.co.jp/11898.html https://ilink-corp.co.jp/11898.html#respond Mon, 26 Feb 2024 02:29:39 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=11898 No related posts. ]]> 日常の買い物から経営の意思決定まで、私たちは日常様々な場面で自ら考えて判断をします。しかし冷静に考えて正しい判断をしたはずなのに後から考えるとそう思えないことがあります。

「なぜこれを買ったのだろうか」

そこには第三者の承認への誘導が働いているのです。
 

この承諾誘導は様々なセールスのテクニックとして紹介されています。そして人が承諾誘導に反応してしまうのは、脳が無意識に決定してしまうからです。

逆にこのメカニズムをうまく使えば社員教育やスキルアップに活用できます。社員が積極的に困難な課題に取り組んだり、自らスキルアップに取り組むようにできるのです。

そこで今回は私たちの行動を支配する8つの要素と、社員育成への活用について考えます。
 

なぜ人はだまされるのか

 

なぜ人はだまされるのでしょうか?

それは、人には思慮深いだまされにくい自分と、直感的で簡単にだまされる自分がいるからです。
 

システム1とシステム2

行動経済学では、私たちの脳が意思決定を行う際、無意識に2つのシステムを使い分けていると考えます。これがシステム1とシステム2で、

  • システム1 速い思考
  • システム2 遅い思考

とも呼ばれています。
 

システム1で判断

システム1は、これまでの経験を元に感覚的、直感的な判断です。対してシステム2は、直観に頼らないで論理的、理性的な思考に基づく判断です。

システム1は私たちが祖先から受け継いだ認知・判断システムです。私たちの祖先は常に危険な野生動物に襲われる環境で狩猟採取生活を営んできました。そこでは素早く敵や獲物を判断し行動しなければ生き延びられませんでした。

図1 旧石器時代の人びと(兵庫県立考古博物館)(Wikipediaより)

図1 旧石器時代の人びと(兵庫県立考古博物館)(Wikipediaより)

そのため私たちの祖先は、直感(本能)と経験に基づいて素早く判断するシステム1に頼って生きてきました。
 

システム2で判断

一方、今日の複雑化した社会では、様々な条件を考慮してじっくりと考えなければならない場合があります。その場合、私たちは直感に頼らず、論理的にじっくりと考えるシステム2で判断します。

しかし脳は考える時に非常に多くのエネルギーを消費します。システム2は大量のエネルギーを消費するため、私たちはできればシステム2でなく、システム1で判断しようとします。

そしてトップセールスマン、詐欺師など私たちを洗脳しようとする人たちは、システム1の特徴を巧みに生かして、私たちの判断を誘導するのです。
 

「カチ・サー」意思決定が自動的に操られる

七面鳥の母鳥はひな鳥の「ピーピー」という鳴き声に反応して、ひな鳥を世話します。ひな鳥が「ピーピー」と泣かなければ無視します。

この七面鳥の天敵は毛長イタチです。毛長イタチのぬいぐるみが近づくと母鳥はひなを守ろうと鋭い鳴き声を上げて威嚇します。

ところがこのぬいぐるみにテープレコーダーを埋め込み、ひな鳥のピーピーという鳴き声を流すと、それまで攻撃していたぬいぐるみを、ひな鳥だと思って自分の翼の下に抱き込んでしまうのです。しかしテープを止めると再び攻撃をします。

つまりひな鳥のピーピーは母鳥が母親の行動を開始する「引き金特徴」なのです。

「カチ」でシステム1が起動

ピーピーという引き金特徴が現れると、母鳥の行動のテープが再生されます。「カチ」とボタンを押すことでテープレコーダーは再生を始め、「サー」とテープが回り、あらかじめ持っている母鳥の行動パターンが再生されるのです。

図2 ヒヨコと野生の七面鳥(Wikipediaより)

図2 ヒヨコと野生の七面鳥(Wikipediaより)


 

この行動パターンのテープは私たちも持っています。それがシステム1なのです。

トップセールスマンや詐欺師は、どうすれば私たちのテープレコーダーが「カチ」と押されて、「サー」と意思決定が「自動操縦」されるのかがわかっています。

では、私たちのシステム1の行動パターンにはどのようなものがあるのでしょうか。
 

行動を支配する8つの要素

 

私たちの行動を支配するシステム1は、大きく分けて8つの要素があります。
 

① 返報性

私たちは、人から何かをもらったら、もらいっぱなしにするのはとても気持ちが悪いのです。何かお返しをしないと気が済まないのです。つまり「ギブ・アンド・テイク」です。
 

返報性の原理

例えば、お葬式の香典に対する香典返しなどです。このもらったら何かお返しをしないと気が済まない「返報性の原理」は、私たちに強力に作用します。そのため承諾誘導の手段としては極めて強力な方法です。

従って相手から何かをもらった「借り」があれば、相手から何か要求された時にたとえ不利な条件でも断ることができません。例えば、食品売り場での試食がそうです。多くの人は試食すれば店員のお薦めを断れずに商品を買います。
 

返報性の原理には逆らえない

この返報性は極めて強力に作用するため、国の命運を決める外交交渉から、日用品の販売まで実に様々な場面で使われています。例えば以下のようなものです。

  • 無料試供品の提供
  • 無料点検 (消火器や火災報知器、住宅の耐震、老朽化、給油時のエンジンルーム)
  • レストランの食後のキャンディー(チップの額が増える)

 

妥協の効果「ドア・イン・ザ・フェイス」

販売や交渉の場面で、最初に相手が受け入れられないような要求をして相手に拒否させます。次に最初の要求から譲歩して要求をすると、相手は拒否できず受け入れます。

実は最初の要求(高額な商品やサービスやとても受け入れられない内容)は、はったりなのです。狙いは、最初の条件を拒否したことで「借り」があると顧客に思わせ、次の要求を受け入れることで借りを返した気持ちにさせることです。

返報性の原理は非常に強力なため、この原理を知っていても罠にかかるのを抗うのは困難です。

そこでこういった販売に直面した場合は無料のものは受け取らないことです。日本のことわざにもあります。「タダほど高いものはない」と。

図3 ドア・イン・ザ・フェイス

図3 ドア・イン・ザ・フェイス


 

② 一貫性

自分が言ったこと、決めたことを守ろうとすることです。英語には責任を伴う約束を指すコミットメント(commitment)という言葉があります。

実は本人が意識していなくても、約束を口にした以上、約束を実行しなければ、「言ったこととやることの一貫性が保たれず」とても苦痛なのです。

システム1が一貫性を維持する

「言ったこと」を実行しようとするのはシステム1です。「言ったこと」を実行すれば、それについてこれ以上考える必要はありません。しかし実行しなければ、できなかった理由をあれこれ考え、自分を納得させなければなりません。
 

アメリカの思想家エマソンは「愚かな首尾一貫性は、偏狭な心に住む小鬼である」と言いました。

つまり「『前言を翻すのは格好悪い』といった執着にとらわれると、自由に考えられなくなる。偉大な思想家は過去の自分に縛られない」と説きました。

一貫性は「言ったこと」よりも「やったこと」に対しより強力に作用します。人は「自分がやったことは正しい」と思いたいのです。

例えば競馬場では馬券を買うと、馬券を買った馬が勝つ確率がより高く予想することが、カナダの心理学者が発見しました。「買ったからには、勝つに違いない」というわけです。

しかも言うよりも書く方が一貫性はより強く働きます。これがセールスの場面で使われます。
 

ローボールテクニック (別名 「フット・イン・ザ・ドア」)

ローボールテクニックとは、最初は相手が承諾しやすい条件を出して相手の承諾を得ます。そして徐々に相手に不利な条件を提示し、それを承諾させる手法です。条件をボールに見立て「低いボールから投げる」という意味でこう呼ばれています。

相手は最初にイエスと言うと、イエスと言ったことに対して一貫性を保とうとします。そのため条件が悪くなっても、ノーとはなかなか言いません。

例えば、店頭にあるバーゲン品が気に入って、それを買うつもりで店の中に入ったのに、店内で高額な商品を薦められて買ってしまいます。これは高額な商品という不利な条件に変わっても、最初の「買う決意を変えたくなかった」という一貫性のためです。

契約書に名前を書かせれば勝ち

アメリカでの自動車セールスのポイントは、とにかく顧客に椅子に座ってもらい、契約書に住所と名前を書かせることです。顧客は買う意思を表明しています。その後から条件を変えればいいのです。

チャルディーニ氏はある販売店にセールス訓練生のふりをして紛れ込みました。その販売店は最初に、顧客に「魅力的な他店よりも低い価格」を提示します。そして購入契約書やリース契約書に顧客がサインした後、顧客に計算上のミスがあったと伝えます。

あと400ドルが必要だと。

すでに買うつもりで契約書にサインした顧客にとって、追加の400ドルは出せない金額ではありません。その結果、価格は最初提示された魅力的な価格でなく、他店と同様の「平凡な価格」になってしまいます。

あるいは最初は下取り車にとても高い値段をつけておき、後で上司が「こんな値段では下取りできない」と言います。そして販売員は顧客に400ドル上乗せするようにお願いします。

図4 フット・イン・ザ・ドア

図4 フット・イン・ザ・ドア


 

しごき・いじめ

運動部の新入部員への厳しい練習 通称「しごき」、あるいは心理的に受け入れがたく、しかも意味のないことを強制する「いじめ」、これにはどんな意味があるのでしょうか。

実はつらく苦しいことをさせられた人ほど「こんなに苦しいのだから、それに見合ったものがあるはず」という一貫性が強く働きます。そしてチームの構成員としての忠誠心(チームワーク)が高まります。

この「しごき」は効果がある練習の必要はなく、単につらく苦しければよいのです。

未開部族社会の成人の儀礼やアメリカの高校・大学のフラタニティ(男子学生社交団体)の儀式も同様です。フラタニティへの加入儀式には、山奥に一人で置いてかれて凍死してしまった例や、砂浜に穴を掘らされ中に横たわるように命令されたところ、穴が崩れて窒息死してしまった例など、残酷な儀式による死者も起きています。
 

報酬や圧力よりも一貫性

ジョナサン・フリードマンは、7歳から9歳の男の子に、強く脅せば言うことを聞かせられることができるか実験しました。

22人の男の子の前に5つのおもちゃを与え、その中で高価な電池で動くロボットだけは

「絶対に遊んではいけない」「もし遊んだらすごく怒るからね。

と言い聞かせました。罰を受けることもにおわせました。

その後部屋にいる男の子たちを隠れて観察したところ、脅しを受けた男の子の内20人はロボットでは遊びませんでした。6週間後、今度は一人ずつ5つのおもちゃのある部屋に入れて観察したところ、今度は77%の男の子が禁止されたロボットのおもちゃで遊びました。

今度は、フリードマンは別の男の子たちに脅しは一切しないで

「ロボットで遊ぶのは悪いことだから

という理由を伝えてロボットで遊ばないように警告しました。

6週間後、同様に一人ずつ5つのおもちゃのある部屋に入った男の子たちを観察したところ、ロボットのおもちゃで遊んだ子は33%でした。

何が違ったのでしょうか?
 

1番目のグループでは「遊んではいけない」という脅しによって、責任は外から与えられました。

対して2番目のグループは「ロボットで遊ぶのは悪いこと」という警告によって、男の子たちは自分たちの責任と思ったのです。

その結果、男の子たちは遊ばないという一貫性に従って行動したのです。
 

③ 社会的証明

他人が正しいというものは正しい

私たちは判断の際に他者の行動を参考にします。そして私たちま日常は、自分で判断しなければならないものが多くあります。例えば、買い物は多くの商品を自分で判断し選ばなければなりません。

ひとつひとつの商品に対しシステム2を発動し、商品の価格、量、機能を比較して決断すればとても疲れます。そこでシステム1の出番です。「売れている商品は良い商品」とシステム1が自動的に判断します。

そこでお店は店頭で商品を山積みにして「売れている」というイメージを演出します。さらにポップに「売れています」「大人気」と書きます。他にも「繁盛しているように」偽の客であるサクラを入れたります。募金箱には最初からお金を入れておきます。

図5 みんな買っている

図5 みんな買っている


 

バンドワゴン効果

大勢が支持しているものを支持する心理的効果を指し、アメリカの経済学者ハーヴェイ・ライベンシュタインによって提唱されました。バンドワゴンとはパレードの先頭にいる楽隊車のことです。その後ろに行列ができることからバンドワゴン効果と名付けられました。

例として、流行に乗りたい心理、友達が持っているものと同じものを欲しがる子供の心理が挙げられます。
 

ウェルテル効果

自殺の報道に影響されて、報道の後自殺が増えることです。

ウェルテルとはゲーテの『若きウェルテルの悩み』で最後に自殺した主人公の名前です。『若きウェルテルの悩み』の出版後、これに影響された若者達が彼と同じ方法で自殺したことが起源です。日本でも1986年アイドル歌手の岡田有希子が18歳で飛び降り自殺をすると、その後30名の若者が高所から飛び降りて自殺しました。
 

割れ窓理論

軽微な犯罪を徹底的に取り締まることで、凶悪犯罪を抑止できるとする理論です。アメリカの犯罪学者ジョージ・ケリングが考案しました。

「建物の窓が壊れているのを放置すれば誰も注意を払っていないという象徴になり、やがて他の窓もまもなく全て壊される」

という考え方が元になっています。

逆に社会的証明を誤って使うと

「多くの人が望ましくないことを行っている」

という誤ったメッセージを人々に発信してしまいます。
 

例えば、アメリカの化石の森の公園で、看板に「これまでに公園を訪れた多くの人が化石木を持ち出したため、化石の森の環境が変わってしまいました」と書いたところ、ネガティブな社会的証明の効果で、ますます多くの人が化石木を持ち出しました。持ち出した量は看板を立てなかったときの3倍にもなりました。

ところが別の看板に「公園から化石木を持ち出すのはやめてください。化石の森の環境を守るためです」と書いたところ、持ち出すのは減りました。
 

④ 好意

何か頼まれるとき、嫌いな人から頼まれるよりも、好きな人から頼まれる方が受け入れやすいものです。また知らない人から頼まれるよりも、知っている人から頼まれる方が受け入れやすくなります。

この好意を持っている人と知っている人は似た作用をします。そしてトップセールスマンや詐欺師はこの好意を巧みに操ります。
 

好意を持つ要因
【外見】

私たちは外見の良い人は、「才能、親切心、誠実さ、知性を兼ね備えている」と自動的に判断します。裁判でもかわいい女の子やハンサムな男性は、そうでない人に比べて刑が軽くなる傾向があります。「こんなかわいい子があんなひどいことをするわけがない」と陪審員は思います。本当はそうでなかったとしても。
 

【類似性】

人は自分と似ている点があれば好ましく思います。この似ている点は、生年月日、出身地、大学、趣味、好きな球団など多岐にわたります。

アメリカでは車のセールスマンは、顧客の下取り車を調べている間に自分と顧客の類似点を探すように訓練されます。トランクにキャンプ道具があれば、自分もキャンプが好きだといい、ゴルフボールがあれば、ゴルフの話をします。こうして優秀なセールスマンは短い間に顧客と親密な関係を築き「○○店から買った」のでなく「○○さんから買った」と顧客が感じるようにします。

リック・ファン・パーレンの研究ではウェイターが注文を客の言葉通りに繰り返すとチップが増えることが確認されました。ある調査ではそれだけでチップが70%も増えたのです。単に客の注文を繰り返すだけで、類似性が強まり親近感が生まれました。
 

【お世辞】

世界で最も偉大なセールスマンとしてギネスブックにも載っているジョー・ジラードは、1968年から15年間トップの販売記録を打ち立てました。(その後は執筆や講演を行いセールスからは引退しました。) 

彼の秘訣は、1万3千人以上の顧客に毎月挨拶状を送ったことです。挨拶状には「あなたが好きです」と印刷されていました。このカードが毎月送られると、印刷され機械的に送られたカードでも顧客はジョー・ジラードに好意を感じたのでした。

日本でも手書きのハガキを見込み客に定期的に送って成果を上げているセールスマンがいます。手書きのハガキを受け取った人は、印刷したハガキよりもより好意を感じました。
 

お世辞(称賛)についてミネソタ大学で行われた興味深い研究があります。

最も効果的な称賛は、最初はあまり良いことは言わず、徐々に高まる称賛を何気なく本人に聞かせる方法です。その結果、最初から自分に良い表価を聞かされるよりも、評価者にずっと強い好意を感じました。
 

【接触と協同】

人は何度も会っていると好意が生まれます。これは「ザイアンス効果」と呼ばれます。

この効果は会って会話するだけより、握手などの身体的接触もあった方がより効果があります。選挙で政治家が多くの人と握手をするのも、この効果を狙っているからです。
 

ザイアンス効果 (単純接触効果)

繰り返し接すると好意や印象が高まる効果で、アメリカの心理学者ロバート・ザイアンスが提唱しました。はじめのうちは興味がなくても何度も見たり、聞いたりするうちに好感を持つようになります。

ザイアンス効果の例として、よく会う人や、何度も聞いている音楽などがあります。この効果は、図形や、漢字、衣服、味やにおいなど様々なものにも生じます。広告もこのザイアンス効果を狙ったものです。

より親密な関係をつくる方法として、協同で何かを行う方法があります。
 

学校では、授業は教師が子供たちに教え、教師に指された子供が答えます。こういった関係では、子供同士は良い成績を取るためのライバルです。子供たち同士で協力することはないため、お互いの好意が高まることはありません。

そこでエリオット・アロンソンたちは「ジグソー教室」と呼ばれる方法を、テキサス州とカリフォルニア州で開発しました。これはチームに分かれた生徒たちが試験に向けて勉強します。その際、生徒たちは合格のために必要な情報のうち、それぞれが異なった一部の情報しか与えられません。従って生徒たちはお互いに教えあい、協力しなければ合格できません。良い成績を取るためにはチームのメンバーすべての力が必要です。

この場合、生徒は敵でなく味方同士になります。「ジグソー教室」を行った結果、人種間の友情は深まり偏見も少なくなりました。少数人種の子の自尊心は高まり、成績も向上しました。また白人の生徒の自尊心や好感度も向上し、テストの成績も従来の方法よりも良くなりました。
 

グッドコップ・バッドコップ (良い警官・悪い警官)

尋問に使用される心理学的な戦術で、良い警官役と悪い警官役の2人で行います。「悪い警官」は容疑者に対し、乱暴な言葉や侮辱的な発言、脅迫などを行い、容疑者が強い反感を持つようにします。

その後「良い警官」が容疑者へ理解を示し容疑者への共感を演出します。さらに容疑者を「悪い警官」からかばうようにします。容疑者は悪い警官への畏怖と嫌悪から良い警官を信頼し、良い警官に色々な情報を話すようになります。
 

⑤ 権威

役職、専門性、資格など様々な権威があると人はそれに盲従してしまいます。この権威には以下のようなものがあります。

  • 医師、弁護士、機長、大学教授のような職業(国家資格のあるものとないもの)、肩書
  • 社長、部長など職務上の立場
  • 白衣、スーツ、僧衣、制服(警官、パイロット)などのような服装
  • 車など装飾品「ベンツ=お金持ち」など

 

スタンレー・ミルグラムの服従実験

エール大学の心理学者スタンレー・ミルグラムが「人は権威に盲従するかどうか」を実証するために行った実験です。この実験は被験者を教師役と生徒役に分け、教師役は生徒役に問題を出します。もし解答が間違っていれば教師役は生徒役に電気ショックを与えるように権威ある博士から指示されます。

図6 スタンレー・ミルグラムの服従実験(Wikipediaより)

図6 スタンレー・ミルグラムの服従実験(Wikipediaより)


 

電気ショックの強さは、間違いの数に伴い段階的に強くするように決められました。実際は、生徒役はサクラの役者で電気は流されませんでした。そして電圧が高くなるほど生徒役は痛みを大げさに訴える演技をして被験者の教師役の反応を調べました。

その結果、たまりかねて実験を中止する教師役も出ました。しかしそれでも被験者の65%が、最大電圧450ボルトまで博士に指示されるまま生徒役に加えました。

被験者は権威ある博士の指示に盲従することを示しました。この実験でミルグラムは、人はたとえ良心の呵責があっても、権威者の指図があればそれに従うことを示しました。
 

機長症候群

過去の飛行機事故では、機長の誤った判断を他のクルーが指摘できず重大な事故が起きてしまいました。そこからリーダーの誤った意見に押し切られて他のメンバーが反論できないことを指します。

上司や権威がある人、大きな成果を上げた人の判断は間違っていないと思い込むことが原因です。特にリーダーが絶対的な権力を持つ場合、機長症候群が起きやすくなります。
 

⑥ 希少性

いつでも手に入るものと比べ、今しか手に入らないものの価値は高くなります。

日本でのオリンピック(2021年東京オリンピック)、2025年の大阪の万博(55年前に行った人は別として)などは一生に一度の機会です。個人でも結婚式(その後離婚、再婚があるかもしれませんが)、自分の葬式(本人はもう見ることはできませんが)は、二度とありません。人はこういったものに大金をかけることを厭いません。

そこでセールスでは様々な方法で希少性つくります。例えば季節限定、数量限定などです。「今日まで50%OFF」であれば、顧客は50%OFFのお得を手にできるのか今日しかないと思います。例え来月また50%OFFのセールがあったとしても。

ビンテージカーの価値は、もう新車では手に入らないからです。これまで手に入っていたものでも、もう手に入らないとわかると急に価値が高くなります。
 

大失敗に終わったニューコーク

1985年コカ・コーラ社はペプシコーラに対抗するため甘みの強いニューコークを発売しました。コカ・コーラ社の失敗は、この時従来のコカ・コーラを販売中止にしたことです。その結果顧客から「昔の味を返せ」と抗議が殺到しました。そして3か月後には以前のコカ・コーラをコカ・コーラ・クラシックとして再発売する羽目になってしまいました。ところが猛烈な抗議をした人ですら、ブラインドテストでは以前のコカ・コーラとニューコークの違いは判らなかったのです。

なぜこうなったのでしょうか?
 

原因はこれまで手に入っていたものが手に入らなくなったからです。

これは個人的なコントロールの喪失に対する抵抗感「心理的リアクタンス」によるものです。この心理的リアクタンスは、コロナ禍でのトイレットペーパーの争奪や、両家の反対で燃え上がったロミオとジュリエットの愛など様々な場面で人々に影響を与えます。逆に当たり前になれば欲しくなくなります。

銃規制に揺れるアメリカで、ジョージア州のケニソーは1982年6月ケニソーに住む成人はすべて銃と弾薬を所持しなければならないという法律を制定しました。しかも違反者には200ドルの罰金を課しました。ところがこの法律に従って銃を買ったのは数人でした。みんなが持っている当たり前のものには価値が感じられなくなったのです。
 

⑦ 注目させる

私たちは日常生活で重要だと思うものには注意を向けます。その結果、システム1は逆に「注意を向けたものは重要なもの」だと判定します。

優秀なセールスマンは売り込みの前に、顧客に「重要と思って欲しいこと」に注目するように仕向けます。具体的には、質問をすることで、それまで顧客が意識していなかった「満たされなかった問題」に意識を向けさせます。例えば「○○について不満はありますか?」

これはセールスマンが顧客の不満を知るための質問ではありません。顧客に○○の不満な点に意識を向けさせるための質問です。そうすることで、これからセールスする商品の良さを顧客がより強く感じるための「プリ・スエージョン (下準備)」なのです。

講演会では、巧みな講演者は特に大事な箇所であえて小さな声で、聴衆が耳を澄ませて集中しなければ聞き取れないくらいの声で語りかけます。

集中することで聴衆はそれがとても重要なことだと思うのです。
 

ツァイガルニク効果

ドイツの心理学者クルト・レヴィンは「人は欲求によって目標指向的に行動するとき緊張感が生じ、行動は持続する。しかし目標が達成されると緊張感は解消する」と考えました。

心理学者ブリューマ・ゼイガルニクは実験を行い

「完了していない課題の記憶は、完了した課題の記憶に比べ想起されやすい」

ことを示しました。これは「ツァイガルニク効果」と呼ばれています。

テレビ番組ではクイズの答えやドラマのクライマックスの前に「続きはCMの後で」とCMを挟むのは、CMに入ると視聴者を離れるのを防ぐためです。授業でも最初に「なぜ○○なのか?その理由は後で説明します」と言い、その答えを授業の最後に言えば、生徒は最後まで集中して聞きます。

期限内に必ず原稿が完成する著者がいました。その秘訣は、原稿を書くときに「必ず章や節の途中で終わること」でした。これを応用すれば、重要な仕事を遅れないようにするために「前もって少し手をつけておく」という方法があります。ツァイガルニク効果により、いつも気に留めるため、忘れなくなります。
 

⑧ コントラスト

「最初に見たもの」と「次に見たもの」の違い、このコントラストにより商品や提案が魅力的なものに見えます。ある不動産会社は新しい顧客を連れて家を見て回る時、最初に必ずひどい物件を見せます。これは売るためでなく見せるための物件です。そうするとその後見て回る家がどれも魅力的な物件に感じられます。

逆に最初に価値の高い高額な商品を買うと、次に金額の低い商品を見ても金額の違いに気を留めなくなります。洋服店では、顧客が最初に高い商品を買うように店員に指導します。最初に数万円のスーツを買えば、一緒に買うシャツやベルトの金額は大した金額に感じなくなるからです。

つまり最初に顧客に提示される条件は、その後の意思決定の重要な基準になるのです。これを使って顧客を誘導する方法があります。
 

アンカリング

認知バイアスの一種で、最初に示される値や条件(アンカー)によってその後の判断が歪められることです。その結果、判断は最初に示される値や条件に近づきます。

例えば「国連加盟国のうちアフリカの国の割合はいくらか」と質問します。その時、質問の前に「65%よりも大きいか小さいか」と尋ねると中央値は45%になりました。しかし「10%よりも大きいか小さいか」と尋ねると中央値25%と大きく変わりました。

このアンカリングの効果は、日常の様々な判断に影響します。ある店舗では、これまでの商品の陳列に、それよりも高額な商品を1点追加しました。それだけで今までの商品がたくさん売れるようになりました。高額な商品が加わったことで、今までの商品がお値打ちに見えるようになったのです。
 

採用など様々な場面で行われる面接、最初に面接を受ける場合と後で面接を受ける場合のどちらが有利でしょうか。

最初に受けた方が、まだ面接官の評価基準が定まっていないので評価が甘くなるという説があります。

実際に実験したところ、後に面接を受けた方が有利になるという結果が出ました。これは最初の方の面接者の印象が面接を重ねるに従って薄れていくのに対し、後の方が強い印象を残せるからです。

図7 面接のテクニックは…

図7 面接のテクニックは…


 

では、これを自社のビジネスや教育に(良い意味で)どのように活用できるのでしょうか。これについては別の機会にお伝えします。

参考文献

「影響力の武器」ロバート・B・チャルディーニ 著 誠信書房
「影響力の武器 実践編」ロバート・B・チャルディーニ 著 誠信書房
「影響力の武器 戦略編」ロバート・B・チャルディーニ 著 誠信書房
「プリ・スエージョン」ロバート・B・チャルディーニ 著 誠信書房

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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カネボウもそうですが、1社で様々な事業を行うコングロマリットは、多くの事業があり子会社も多いため、それぞれの事業の収益性が見えにくくなります。

いくつかの事業が悪化してもわからず、気が付けばどうにもならない状況に陥ってしまいます。

これが起きたのが三洋電機でした。
 

三洋電機の経営破綻

 
2011年三洋電機はパナソニックの完全子会社になりました。売上高1兆4千億円(2008年)、グループ10万人の巨大企業が消滅しました。

なぜこのようなことになったのでしょうか。
 

三洋電機の創立

 

三洋電機の創業者 井植歳男氏は、14歳で姉の夫 松下幸之助氏の会社に入りました。依頼30年に渡って創業期の松下電器を支えてきました。

しかし戦後、GHQの公職追放を受けて松下電器を退社することになりました。個人で50万円(現在の2億円)の借り入れをしていた井植氏は、住友銀行の頭取 鈴木剛氏に「一生働いて返す」と頭を下げに行きました。

住友銀行の鈴木氏は「だったらこれで事業を興してはどうか」と350万円(現在の14億円)を融資しました。そして松下幸之助氏も自転車用ランプの事業を井植氏に譲渡し、さらに400万円の手形を裏書きしました。

ここから始まった三洋電機は、数々のユニークな製品で成長し、松下電器、日立、東芝と並ぶ家電企業の一角を占めました。

一方、三洋電機にファミリー企業という特徴もありました。
 

創業家一族と銀行

 
創業時の経緯から三洋電機は住友銀行と深いつながりを保ち、経営者は歳男から弟の拓郎、薫と井植家のファミリーによって経営されました。

このような創業家が経営者の企業は、銀行にとっては優良顧客でした。創業家が保有する株を担保に多額の融資ができたからです。

それは株価が高い時だけでした。株価が下がれば、銀行は態度を変えました。
 

3つだけなら優良企業

 
家電メーカーとしては松下電器の後塵を拝していた三洋電機ですが、業務用の大型空調機器は日立と並んで双璧を成していました。独自のコンプレッサー技術を強みにドーム球場など大規模な建物では高いシェアがありました。

図1 ドーム球場イメージ

図1 ドーム球場イメージ


 

さらに半導体が発明された10年後の1957年に、すでに半導体技術研究所を設立しました。その結果、同社のブラウン管制御用バイポーラ半導体は世界シェア1位でした。

ハイブリッド車にも使用されているニッケル水素電池は、1990年に松下電池工業と三洋電機がそれぞれ独自に開発しました。2005年には家庭用ニッケル水素電池「エネループ」を発売し大ヒットしました。

このように三洋電機は、電池、電子部品、業務用システムの3つなら優良会社と言われていました。

一方、1980年以降は、三洋電機にとって苦難の時代でした。
 

振るわない業績

 
1986年歳男の長男 敏が社長になり1992年までの6年間社長を務めました。

この6年間は、石油ファンヒーター死亡事故、東京三洋電機との合併など、三洋電機にとって苦難の時代でした。

しかも当時は総会屋が全盛の時代でした。業績が芳しくない同社は株主総会では社長の敏が総会屋から罵声を浴びることもありました。利益を創出するため期末に子会社へ押込み販売するのも常態化していました。
 

なにわのジャックウェルチ

 
1992年井植敏氏は60歳で高野泰明氏に社長を交代し、会長へと退きました。高野氏は赤字体質の三洋電機の変革に取り組み、三洋電機はようやく黒字化しました。

社長を高野氏と交代する際、敏氏は三洋電機本体の経営には口を出さないという約束を高野氏と交わしていました。

しかしまだ60歳の敏氏は、会長に退いたといえ事業意欲はあったため、子会社、中でも三洋クレジットの経営に力を入れました。三洋クレジットは商店や飲食店など銀行からの十分な融資を受けられないリスクの高い貸出先に積極的に融資し高い利益を上げました。

2000年代に入ると松下電器、日立など大手電機メーカーが巨額の赤字に陥る中、三洋電機は三洋クレジットのおかげもあって黒字を維持しました。この敏氏の経営手腕にマスコミは、三洋クレジットを「なにわのGEキャピタル」、敏氏を「なにわのジャックウェルチ」と持ち上げました。
 

一方金融業で利益を稼いだことが、本業の改革を先送りしてしまいました。これはゲーム機(プレイステーション)、保険(ソニー生命)が利益を上げていたソニーも同様でした。

さらに敏氏は、将来子供の雅敏氏を社長にする布石として、1998年に敏氏の意向を組む近藤定男氏を社長をしました。その結果高野氏の改革は中途で挫折しました。

雅敏氏は2005年に社長に就任し、元ジャーナリストの野中ともよ氏を取締役に迎えて、財務担当役員の古瀬氏と雅敏氏、野中氏の3人体制で経営にあたりました。

ところが2004年に入ると、それまでうまくいっていた事業が変調をきたします。
 

狂いだす歯車

 
2000年初頭まで好調だった携帯電話、デジカメ市場が2004年突然不調に転じました。電池も利益が減少し、電子部品のCCDデバイスも不振に陥りました。

図2 携帯電話市場は不振に…

図2 携帯電話市場は不振に…

本業が変調をきたすと、今度は三洋クレジットの高リスクの融資の焦げ付きが目立つようになりました。

さらにバブル期に住友銀行が入れ込んで不良債権化した木ノ本開発プロジェクトを敏氏が引き取り、三洋紀洋開発を立ち上げました。この開発は思うように進まず不良債権になりつつありました。ところが土地や設備は簿価のまま計上されていました。
 

その傍らで三洋電機は成長への投資は惜しみませんでした。2000年に鳥取三洋に910億円で大型液晶パネル生産設備へ投資しました。さらに新潟三洋の半導体に230億円、コダックとの有機ELの合弁会社に510億円を投資しました。

ところがこれらの投資は大きな収益を生みませんでした。

こうしていくつもの事業が変調をきたし、コングロマリット全体の経営に暗い影が差していました。

そこに起きたのが地震でした。
 

新潟県中越沖地震と監査法人の姿勢

 
2004年10月新潟県中越沖地震が発生、新潟三洋電子の半導体設備は壊滅的な打撃を受けました。

その後、現場の不休の努力により、わずか2か月で奇跡的に再開にこぎつけました。ところがこの2か月の間に競合に市場を奪われてしまいました。再開後も顧客は戻りませんでした。新潟三洋電子は2005年上期に100億円の赤字を計上しました。

さらに同社の監査法人 中央青山監査法人は、担当したカネボウの粉飾決算の責任を金融庁から厳しく追及されていました。

その結果、2004年の三洋電機の決算に対する中央青山監査法人の姿勢は非常に厳しいものでした。中央青山監査法人は、繰延税金資産の取崩し、在庫評価の見直し、不稼働資産の減損処理に問題があるとして、2004年5月決算報告書の修正を求めました。

監査法人の姿勢の変化もあり三洋電機のバランスシートは急速に悪化しました。

もう事業を切り売りして新たに資金を調達しないと、債務超過は免れない状況になっていました。ところがそう認識していなかった人もいました。
 

身売りしかない

 
同社の有利子負債1兆3千億円、最終損益は1,538億円の赤字になりました。メインバンクの三井住友銀行は、三洋クレジットを売却し身軽になることを要求、、三洋クレジットの三井物産への売却が進められました。

ところがこれに敏氏が難色を示しました。さらに取締役の野中氏がこの売却をマスコミにリークしてしまったことで、三井物産はこの売却に不信感を持ったため、結局、売却が成立しませんでした。(最終的に2007年にゴールドマンサックスに300億円で売却) 
残念ながら、敏氏には三洋電機が危機的な状況という認識がありませんでした。

しかし2006年3月期には自己資本は800億円まで減少し、増資は避けられませんでした。やむを得ず第3者割当増資3,000億円、1株70円で43億株を公募しましたが、当時の株価は304円、市価の1/4での公募は既存株主の激しい怒りを買いました。

こうなった場合、できれば一度倒産して債務を整理して再出発した方がよかったなかもしれません。それができなかったのは大きすぎる規模でした。
 

大きすぎてつぶせない

 
2005年11月に、三洋電機の再建のため三井住友銀行から前田孝一氏が副社長として送り込まれました。

当時の日本は金融機関の不良債権処理がようやく終わったばかりでした。

三洋電機は取引先に5,000億円の売掛金がありました。もし三洋電機が破綻すれば取引先の連鎖倒産が起き、信用不安が再燃しかねない状況でした。

民事再生法も会社更生法も実質的に不可能で、増資しか手段はありませんでした。

最終的に、パナソニックが三洋電機を吸収合併し、三洋電機は解体されました。
 

収益マシンが経営判断を遅らせた

 
三洋電機のようなコングロマリットは、本当の姿は単年度の決算では分かりません。在庫評価、減損会計で数字はいくらでも変わるからです。順調に見えてもある日突然経営破綻していたということもあり得ます。

三井住友銀行傘下の再建会社 大和PIが試算したところ、過去10年間は1538億円の赤字でした。つまりBSを痛めてPLを粉飾していたのです。

1996年には半導体の在庫は2年間で500億円も増加しました。当時は儲かっていたので半導体部門としては在庫と借入金を減らしたかったのですが、本社からの「利益を出せ」という声に抗うことができませんでした。
 

今から見れば、デジカメや携帯電話などデジタル製品は、事業の見極めとすばやい損切が不可欠な事業です。個々の事業を見極め体力のあるうちにに不振になった事業から撤退し、収益の柱である電池、電子部品、空調事業に事業を集約すれば存続できたのもしれません。そうした経営判断を誤らせたのは、三洋クレジットという収益マシンがあったためでした。

これはGEクレジットという収益マシンを生んだジャック・ウェルチのGEも同じだったのです。
 

GEの盛衰

 

ニュートロン・ジャック

GE(ジェネラル・エレクトリック)を成長軌道に乗せたCEOのジャック・ウェルチ氏は、その手腕から伝説の経営者と呼ばれています。

図3 ジャック・ウェルチ氏(Wikipediaより)

図3 ジャック・ウェルチ氏(Wikipediaより)

在任中、1980年から2000年の20年間に売上は5倍、株価は40倍になり、名経営者の名声をほしいままにしました。

官僚主義に陥り停滞していたGEに「1位か2位以外の事業はすべて切る」と従業員の1/4にあたる10万人をリストラ、いつの間にかフロアー全員が消えていたことから「ニュートロン(中性子爆弾)ジャック」と呼ばれました。

業績の振るわない下位10%の社員は解雇され、昇進するかクビになるか(ランク・アンド・ヤンク) という厳しい体制を敷き、その一方20年間で1,000件のM&Aを実施して会社を成長軌道に乗せました。

その中でGEキャピタルをGEの成長エンジンに育て、GE全体の利益の半分を稼ぎ出しました。しかし退任間際、彼が力を入れたハネウェルの買収は失敗に終わりました。そして後任のジェフ・イメルト氏にバトンを渡しました。

しかしGEキャピタルは

自ら利益を作り出す収益マシン

だったのです。
 

GEキャピタルという収益マシン

 
GEキャピタルとは航空機や航空機のエンジンを航空会社にリースするリース会社で、リース会社の規模は世界一でした。その後、不動産など様々な案件に投資するノンバンクに発展しました。投資額の規模はピーク時には全米で7位の銀行に相当しました。
 

GEキャピタルが利益を生む仕組みは以下のようなものでした。

まず、GEから独立した特別目的会社エジソン・コンデュイットがコマーシャルペーパー(CP 短期債券)を発行します。このCPはGEが保証するため、トリプルAの高い格付けでした。

エジソン・コンデュイットはCPで調達した資金で、GEキャピタルから資産を簿価よりも高い金額で購入します。こうしてGEキャピタルは利益を計上します。もし利益が多すぎる場合は将来のリストラ費用を計上し利益を圧縮しました。そうすれば翌年以降必要に応じて利益を引き出すことができました。

この仕組みはGEで「ハニーポット」と呼ばれました。つまり外部から借りてきたお金で自社の売上を増やす仕組みだったのです。しかしCPはいずれ返済しなければなりません。利益を出し続けるにはCPによる資金調達を増やし続けなけるしかないのです。

もうひとつの大きな収益はM&Aです。安く買った会社をリストラして収益力を高め、キャッシュを生むマシンにしました。

ところが順調だったGEキャピタルという収益マシンにブレーキをかけたのは、意外な方向からやってきた事件でした。
 

同時多発テロ

 
ジェフ・イメルト氏がCEOに就任した2000年以降、GEの成長戦略にふたつの大きな壁が立ちはだかりました。

ひとつは2001年の同時多発テロです。航空輸送の市場が大幅に縮小と航空不況に陥ったことで航空機エンジンの受注が減少しました。

もうひとつは2000年のエンロンの破綻です。この事件から企業会計に対する信頼が損なわれました。これに対処するためサーベンス・オクスリー法 (SOX法)クリックするとページ下部の説明へ移動が制定されました。SOX法には財務諸表の信頼性を高めるために財務報告プロセスの厳格化が盛り込まれました。

このSOX法にこれまでGEが行っていたことが一部抵触しました。GEキャピタルが市場から資金を調達して自社の資産を購入して利益を生み出す仕組みが変調をきたしはじめました。SOX法はGEにとって同時多発テロよりも大きな影響があったのです。

こうしたことが重なって2002年秋には中核事業の大半で売上と利益が減少しました。イメルトは電子商取引部門を3憶ドル売却しなければなりませんでした。

CPという収益マシンが変調をきたしたGEキャピタルは、他の大手銀行と同様に収益性の高いサブプライムローンにのめり込んでいきました。

一方イメルトには清算しなければならないウェルチの負の遺産がありました。
 

保険事業の清算

 
ウェルチ氏の残した負の遺産が保険事業でした。中でも保険会社が保険を支払う場合に備えた保険(再保険)は、制度設計が甘かったため、94億ドルもの責任準備金を積まなければなりませんでした。

イメルトは一連の保険事業を2004年から2006年にかけて売却しました。ただし売却をスムーズに進めるため、最も収益性の低い介護保険の再保険だけはGEに残しました。これがのちに火種となってしまいます。

さらに大きな外部環境の変化がGEに襲いかかります。リーマンショックです。

図4 リーマンショック

図4 リーマンショック


 

サブプライムローンから資金難に

 
好調だったサブプライムローンは2008年に破綻しリーマンショックが起きました。2008年にはGEキャピタルは住宅ローンに急ブレーキかけましたが、それでも10億ドルの損失が発生しました。

より大きな痛手はリーマンショックによりCP市場が消失してしまったことです。市場から資金を調達できなくなり、たまらずに投資家のウォーレン・バフェット氏の投資を受けました。

これはとても高いものにつきました。122億ドルの資金を調達(株を購入)するために、1株22.5ドルという市場価格よりも大幅に安い価格で55万株をバフェットに売らなければならなかったからです。
 

その一方、GEは苦労して調達した資金を次の成長のための投資に使わず、自社株買いに充てました。株価を維持するためです。

それでも株価の下落は止まらず、2001年に38ドルだった株価は、2009年には12ドルと1/3以下になりました。2009年2月には2000年から継続していた31セントの配当も10セントに減配しました。その結果、GEの格付けは引き下げられました。

またリーマンショックでリスクマネーにのめり込んだ金融機関に対する批判が強まりました。これを規制するために政府は金融機関に対する監視を強め、その中に全米7位の規模の銀行になるGEキャピタルも含まれました。
 

SECの監視

1920年代の世界大恐慌の教訓からアメリカでは銀行の証券取引に対して様々な規制がかけられていました。しかし1980年代以降規制は徐々に緩和され、その結果大手銀行はサブプライムローンなどリスクの高い投資にのめり込みリーマンショックが起きました。

そこで銀行に対しリスクの高い融資を規制するドッド・フランク法 (クリックするとページ下部に移動)が2010年に制定されました。そうなるとリスクの高いビジネスに巨額の融資を行うGEキャピタルにも政府から注目されました。そして証券取引委員会(SEC)のメンバーがGEに2年半常駐し、不正の調査を行いました。
 

新たな収益エンジン

 
CPによる資金調達が封じられたGEキャピタルは、もうGEの収益エンジンにはならなくなりました。新たな収益エンジンとしてイメルト氏は3つの取組を行いました。

一つ目の取組は、航空機エンジンに多数のセンサーを付けたインダストリアルネットワークとビッグデータ分析を行う「プレディクス」を成長させ、2020年までにトップ10に入るソフトウェア企業を目指すものでした。

二つ目は、油田開発会社、掘削機器、ポンプ、油田設備のメーカーを次々に買収し、GEオイル&ガスを石油コングロマリットに育て、GEの売上の1/4にまで引き上げることでした。

三つ目の取組として、苦境に陥ったフランスのタービン、鉄道のコングロマリット アルストムの買収です。
 

新たな収益エンジンの苦境

 
右から左へお金を動かせば利益が出る金融と異なり、実際の事業は思うようにいきませんでした。

プレディクスは航空機以外に発電所など様々なシステムとつなごうとしたため複雑化し、いつまでたっても未完成の状態のアプリでした。何より顧客から見て「何を売ろうとしているのかわからない製品」だったため、売上は伸び悩みました。

石油コングロマリットを目指したGEオイル&ガスでしたが、原油価格が当初見込んでいた1バーレル100ドルから50ドルに下落したため収益性が大きく低下しました。またコストが下がった太陽光や風力発電との競争にもさらされました。

アルストムの買収は、買収されればリストラによってフランスの雇用が大幅に減ることを恐れたフランス政府の猛反対に遭い、買収までに時間がかかってしまいました。

こうして株価の下落、成長の停滞が起きると、株主の発言力が強くなります。

図5 発言力が強くなる

図5 発言力が強くなる


 

イメルト解任

 
業績の低迷と株価の下落から、GEは取締役会にファンド(トライアン・ファンド・マネジメント)から取締役を受け入れざるを得なくなりました。ファンドから来た取締役はアクティビスト(もの言う株主)として、2017年には業績低迷を理由にジェフ・イメルト氏の解任を求めました。取締役会はジェフ・イメルト氏を解任し、後任にジョン・フラナリー氏を指名しました。

なぜこうなってしまったのでしょうか?
 

原因

 
すでにウェルチの頃から、GE内部では数字が目的化し、事業での実態が正しく数字に反映されなくなっていたのです。
 

利益を決めてから数字をつくる

 
ランク&ヤンクという評価の厳しい中、各事業部のトップにとって「目標数字の未達」とは、自らのキャリアの終わりを意味していました。期末の報告は、最初に利益を決めておき、その利益になるように他の数字は後から調整していました。

例えばジェットエンジンの場合、エンジンの販売自体は赤字です。しかし1度エンジンが売れれば交換部品の注文が継続的に入ります。しかも交換部品は高い利益率でした。そこでエンジンが売れると、将来発生する利益率の高い部品の販売と今期のエンジンの販売と抱き合わせて今期の利益を計算しました。

発電所のタービンを製造するGEパワーでは、5年以内に入金される見込みの売上を債権としてGEキャピタルに売却し、今期の利益をつくりました。
 

GEの好業績の実態は、このように今日の現金を手に入れるために明日の現金を売る「繰延収益化」が常態化していたのです。これはGE内部では「麻薬(ドラッグ)」と呼ばれました。

追い打ちをかけるように新型コロナウイルスで航空業界は大打撃を受けました。加えてボーイング737MAX 2機が墜落事故を起こし、ボーイングは737MAXの生産を停止しました。その一方でコロナによりGE内部のリストラが加速しました。そして25億ドルのキャッシュを手にすることができました。

このように数字をつくることに専念すれば、会計処理は不適切なものにならざるを得ません。
 

指摘された数々の不適切な会計処理

 
2020年9月SECの調査が終了し、GEの会計処理に多くの問題が指摘され、改善命令が出されました。

GEは基本的には製造業で、これはものを作って付加価値を生むことです。しかし、それが思うように利益を上げられなくなった時、それでも数字を出さなければならないという立場に追い込まれれば「数字は作られる」ことになります。

それにより事業の問題は見えなくなり、本来行うべき事業の立て直しが遅れてしまいます。

また製造業でキャリアを積んできたウェルチ氏やイメルト氏は、複雑な金融業がどこまでわかっていたのでしょうか。

三洋電機、GEの事例を見ると、コングロマリットの成長を持続することは難しく、そこに粉飾の誘惑があるのかもしれません。
 

参考文献

「三洋電機井植敏の告白」大西康之 著 日経ビジネス
「GE帝国の盛衰史」 トーマス・グリタ、テッド・マン 著 ダイヤモンド社
 

参考資料

サーベンス・オクスリー法

上場企業会計改革および投資家保護法(サーベンス・オクスリー法、別名SOX法)はエンロン事件やワールドコム事件で問題になった粉飾決算に対し、企業会計・財務諸表の信頼性を向上させるために制定され、2002年7月に成立しました。
 

【概要】
投資家保護のための財務報告の厳格化、会計監査の独立性の強化、コーポレート・ガバナンス(企業統治)改革、情報開示の強化、説明責任などが盛り込まれ、1933年の連邦証券法、1934年の連邦証券取引法の以来の金融ビジネスの最も大きな変更となりました。

経営者に対し年次報告書が適正である旨の宣誓書提出の義務(302条)、財務報告に係る内部統制報告書の義務づけ、公認会計士による内部統制監査の義務づけ(404条)などがあります。一方、条文の文言が曖昧で、解釈による違いが大きいこと、内部統制のため企業は多大なコストが生じる問題があります。
 

ここで内部統制は3つの目的と5つの構成からなります。

3つの目的

  1. 業務の有効性と効率性
  2. 財務報告の信頼性
  3. 関連法規の遵守

 

5つの構成要素

  1. 統制環境
  2. リスク評価
  3. 統制活動
  4. 情報と伝達
  5. 監視活動

 

この内部統制によって財務状況・経営成績が適正であることを示すには、基礎となる各データ(売上に関する項目であれば商品、数量、納品日など)が全て適正でなければなりません。

これらは複数の業務部門にも関わるため、経理部門以外に内部統制整備の影響を広い範囲で受けます。そのためまず内部統制の内容、その有効性の検証方法・結果、問題があった場合の対応などを明確化・文書化しなければなりません。

ERPなどの情報システム、システムの開発・保守・運用といった業務プロセス、外部への委託方法なども含まれるため、各企業が非常な労力を費やしました。

日本も2006年に財務報告の適正性を確保するために上場企業に対して内部統制の構築を義務づける「日本版SOX法」(通称)を含む、「金融商品取引法」が2006年に成立し、2008年から適用されました。
 

ドッド・フランク法

ドッド・フランク法(正式名:ドッド・フランク・ウォールストリート改革および消費者保護法)は、米国の銀行システムの事実上すべての側面に抜本的な改革を行った米国連邦法で2010年7月21日に制定されました。

この法律にはリーマンショックの原因となった虐待的な銀行業務を防ぐため、銀行、ウォールストリート、保険会社、信用格付け機関の規制強化などが含まれ、他にも消費者保護の強化や内部告発者の補償が含まれます。

しかし2018年5月にトランプ大統領は、米国最大の銀行を除くすべての銀行をドッド・フランク法の規制の多くから免除する法案に署名しました。
 

【概要】
ドッド・フランク法には、16の改革分野が含まれます。その特徴を挙げると以下のようなものがあります。

  • 金融安定監視委員会(FSOC)を設立し、銀行業界全体のリスクの高い慣行を監視する
  • FSOCは「大きすぎて潰せない」銀行を解散するよう命じることができ、FSOCはSECを通じてヘッジファンドのようなリスクの高いノンバンク金融機関を規制できる
  • 銀行がヘッジファンド、プライベート・エクイティ・ファンド、またはその他のリスクの高い株式取引業務に関与することを禁じるボルカールールを制定する
  • 銀行は、必要に応じて取引は限定的なものに規制できる
  • ボルカールールにより政府がクレジットデフォルトスワップなどリスクの高いデリバティブの規制が可能になる
  • すべてのヘッジファンドはSECに登録が必要になる
  • サブプライム住宅ローン危機につながったヘッジファンドによるデリバティブ取引を規制できる
  • ムーディーズやスタンダード&プアーズなどの債券格付け機関が住宅ローン担保証券とそのデリバティブを過大評価したこともリーマンショックの一因とし、SECの下に信用格付け局を設立した
  • 債券格付け機関を監視し、必要があれば認証を取り消すことが可能になった
  • 銀行による「悪意のあるビジネス」から消費者を保護するため、消費者金融保護局(CFPB)を設立し、消費者に害を及ぼす取引を防止、また銀行は消費者に住宅ローンやクレジットスコアをわかりやすく説明することを要求した
  • 信用調査機関として、クレジットカードや消費者ローンを監督
  • サーベンス・オクスリー法の内部告発者プログラムを強化した
  • 金融業界内のどこかで詐欺または虐待行為を報告する人は、訴訟和解または裁判所の判決からの収益の10%から30%を受け取る権利を認めた

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

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]]>
https://ilink-corp.co.jp/9104.html/feed 0
粉飾決算と経営破綻 その1~激変する経営環境の変化と業績への圧力~ https://ilink-corp.co.jp/9097.html https://ilink-corp.co.jp/9097.html#respond Mon, 20 Nov 2023 02:26:22 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=9097 No related posts. ]]> 粉飾決算とは、会社の経営を実際より良く見せるために利益を過大に計上することです。

逆に利益を過少に見せようとするのは逆粉飾といいます。

なぜ粉飾決算を行うのでしょうか?

その動機は、金融機関から借入を継続するため、配当や株価の維持するため、さらに経営者自身の地位を保つため、など様々です。

これまで粉飾決算の多くは経営者によるものでした。しかし最近は経営者から厳しい利益目標を要求され役員や管理職が粉飾を行うケースも増えてきました。
 

代表的な粉飾決算は

    売上げの過大・架空計上

  • 費用の過少計上
  • 預金や商品などの過大計上
  • 借入金の過少計上

などです。

こうした粉飾決算は取引先や子会社の協力を得て行うことが多く、連結していない子会社や特定目的会社(SPC)が利用されます。

こうした粉飾を防ぐため、上場会社は公認会計士・監査法人の監査が強制されています。

もし粉飾決算を行った場合、経営者は金融商品取引法違反として10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金が科せられます。会社も7億円以下の罰金と課徴金を納めなければいけません。
 

なぜ粉飾決算をするのか?

このような厳しい罰則があるにも関わらず、なぜ経営者は粉飾決算をするのでしょうか?

経営者は誰に向けて粉飾決算をするのでしょうか?

この場合、企業の利害関係者が誰かということが大きく影響します。
 

利害関係者

企業の利害関係者(ステークホルダー)とは、「企業の活動に対して、直接的・間接的な利害関係を有するグループまたは個人」のことです。

主なステークホルダーは以下の8つです。
■ 株主:配当金が発生したり金額が増加したりする
■ 経営者:役員報酬の増加
■ 従業員:給与・賞与の増加や福利厚生の充実
■ 顧客(消費者):例えば、「スーパーが新規出店することにより、買物の利便性が向上する」など
■ 取引先企業:受注の増加、良好な労働環境の実現
■ 競合企業:「顧客を奪われる」などの不利益が発生
■ 行政機関:税収の増加
■ 地域社会:雇用の創出、公害・環境負荷の発生など
 

このうち直接の「利害関係者」は、株主や銀行、証券会社など金銭的な関係を有する集団です。

  • 株主
  • 銀行
  • 税務署

この3つの利害関係者に対しては、「企業会計原則に基づく公正な財務諸表の作成」が義務付けられています。さらに上場企業は、財務諸表を監査法人が監査して「適正」と判断されなければなりません。
 

中小企業は企業会計原則に従わなくてもかまわない

一方、中小企業には会計監査の義務はありません。不適切な財務諸表を作成しても罰則はありません。ただし税務署に申告する納税額が不正に低ければ脱税になります。

このように中小企業と上場企業では財務諸表に対する要求が違います。また収益、費用の認識も企業会計原則と税法で異なります。

実はかつての粉飾決算の背景には、企業の利害関係者である

「株主」「銀行」の姿勢の変化

がありました。

かつてバブル崩壊、金融ビッグバンなど、企業の経営の環境が激変したのです。

それはどのような変化だったのでしょうか?
 

株式をめぐる環境の変化

バブル以前、日本の企業は金融機関と株式を持ち合っていました。株価は比較的安定していて、企業は株価より配当が重視された時代でした。

ところが1990年以降、資本市場が海外に開放され、海外の機関投資家が日本の株式市場に参入しました。

機関投資家とは、生命保険会社、損害保険会社、信託銀行、普通銀行、信用金庫、年金基金、共済組合、農協、政府系金融機関など多額の資金で株式や債券の運用を行う大口の投資家を指します。

機関投資家は運用益を重要します。そのため一貫して株価が上昇することを求めます。20年先の革新的な製品の開発のように今の株価に影響しない事業は関心がありません。

しかし炭素繊維のような開発に20年以上かかる製品もあります。炭素繊維は、当初は東レ、帝人の他、アメリカの企業も研究していました。しかし株主の強いアメリカでは、短期的な利益が重視されたため、アメリカの企業は開発を断念しました。
 

資本市場の開放により企業の株主が大きく変わりました。企業には短期の収益性と成長が強く求められるようになりました。

さらに欧米企業は、

取締役会の影響があります。

欧米企業の取締役会は、株主の代表で構成され過半数が社外取締役です。取締役会が任命した役員(最高経営責任者CEO)が経営します。株価が低迷し経営状況が思わしくないと判断されれば、取締役会はCEOを解任します。そして新たに業績を改善できる経営者を指名します。

従って欧米企業では、経営者であり続けるためには、常に利益と成長を維持しなければなりません。経営が思わしくなければ経営者は粉飾決算への強い誘引があります。
 

一方、粉飾決算は悪い経営状況をよく見せることです。その結果、悪い経営状態が改善されず、遂には破綻してしまいます。

ただし、経営破綻は、

大企業と中小企業では全く違います。

 

経営破綻

経営破綻は大きく分けて二つあります。

  • 資金の枯渇
  • 資金が枯渇し、支払い不能になれば事業は継続できません。手形を発行している場合、手形が決済できなければ(手形の不渡り)、銀行は取引を停止します。資金ショートのにる破綻は、大企業でも中小企業でも起きます。

  • 債務超過
  • 負債が増え続けて負債が資産を上回れば新規融資が受けられなくなります。上場企業は債務超過に陥った場合、1年以内に解消できなければ上場廃止されます。新規の資金調達ができなくなり、株価は大幅に下落し経営が破綻します。

 

図1 経営破綻

図1 経営破綻


 

ところが非上場の中小企業の場合、債務超過でも経営者が私財を投じて会社を支えます。そしてお金が回れば会社は継続できます。債務超過でも存続している中小企業はたくさんあります。

それなのに

なぜ中小企業は粉飾決算をするのでしょうか?

 

中小企業の粉飾決算

 

中小企業の場合、債務超過の影響は上場企業ほどではありません。それでも新規の融資が受けられないと資金繰りが困難になります。そこで経営者はできるだけ決算をよく見せるため粉飾決算をします。あるいは何年も赤字が続きバランスシートが悪いと融資を引き揚げられる恐れがあります。そこで本当は赤字でも利益があるように粉飾します。

一方で利益が大きいと法人税が増えます。そこで利益を少なく見せる逆粉飾も行われます。

主な中小企業の粉飾は以下の方法です。
 

粉飾の方法

  1. 利益水増し
    架空売上 売上金、仮払金などを架空に計上します。
  2. 在庫水増し
    期末在庫を増やして製造原価を少なくして利益を増やします
  3. 減価償却未計上
    税法では認められています。しかもキャッシュフローには影響しないため、金融機関も問題視しません。

 

粉飾の問題

赤字が続いているのに、毎期架空売上を計上し、在庫の水増しをすれば、売掛金、在庫の金額がどんどん増加します。

従って何年間か複数年間の貸借対照表(BS)を比較すれば粉飾決算はわかります。

では金融機関は粉飾をどこまで見破るのでしょうか?
 

金融機関の財務診断力

金融機関は、融資先の財務諸表を自社のシステムに入力して収益性、健全性を判断します。年々売掛金や在庫が増えていれば怪しいことが分かります。

一方、中小企業の場合、税金や仕入れなどでお金が動くと利益も変わります。金融機関の担当者もそこまで細かな融資先の事情はわからないようです。例えば、

  • 消費税の支払い
    ある会社は、1/4期分の消費税を翌期に支払っていました。そのため先期の売上が多く、今期の売上が少ないと、税金の支払いが多いため、利益が大きく減少しました。しかし金融機関の担当者はこうした減益の原因は分かりませんでした。
  • キャッシュフローを調整
    利益は様々な手法で粉飾できます。「利益つくられるもの」と言われています。しかしキャッシュフローは粉飾が容易゛てなく「利益は意見、キャッシュは真実」と言われています。それでも期末に仕入れを大量に行えばキャッシュは減少します。

 

工事進行基準

受注から完成・納入までの期間が1年以上かかる製品は、工事の進捗に応じて期末に一定額の収益(売上)を計上できます。ただしこれは工事の進捗に応じて収益を合理的に見積ることができなければなりません。

この工事進行基準は2021年度以降、大企業(上場企業・非上場企業とも)、中小企業(のうち上場企業)は「新収益認識基準」を適用しなければなりません。

この工事進行基準は上場企業でも監査法人の考え方により変わります。そして

収益認識のタイミングを変えれば利益も変わります。

 

節税

赤字の期もあれば、黒字になる期もある場合、赤字の時に架空売上や水増しした在庫で利益を粉飾して赤字を少なくします。黒字になった時に粉飾した架空売上や水増しした在庫を解消します。そうすれば税金を少なくできます。

それは黒字の時に不要な在庫や資産を特別損失として計上すれば利益を減らすことができるからです。この黒字の時に不要な資産を処分するのは合法的な会計処理です。

ところが赤字が予想以上に長く続けば、一時のつもりの粉飾が長期化して抜け出せなくなります。

図2 粉飾の長期化に悩むことに

図2 粉飾の長期化に悩むことに


 

会社と個人の一体化

かつては法人税の税率が高かったため、法人税を払って利益を会社に残すよりも、経営者の報酬を増やして所得税を払った方が支払う税金は少なくなりました。利益が多ければ、役員報酬を増やして利益を少なくし、経営者の資産を増やします。あるいは会社の土地や建物を経営者個人の所有にして、会社が経営者に家賃を払います。こういった節税は法人税率が高かった時代の常套手段でした。

しかし現在は法人税の実効税率は33.58%(中小企業 東京23区 2023年)、所得税は所得が695~900万円が23%、900~1800万円が33%、大きな違いはなくなってきています。

このような節税をしてお金を経営者個人に残すのは、個人商店のような

会社=個人

であれば問題はないかもしれません。

しかしある程度の規模の会社でこれを行うと

会社と経営者個人が一体化

します。
 

こうした会社と経営者個人の一体化が債務の個人保証(連帯保証)の一因です。融資が経営者個人に流れる可能性があるからです。個人保証があるため会社が倒産すれば経営者は個人の資産をすべて処分して個人保証した債務を弁済しなければなりません。

この債務の個人保証が、従業員や子供へ事業承継が進まない原因です。その背景には、このような会社と経営者個人の一体化があります。

個人保証があるため、中小企業の経営者にとって「倒産=自己破産」です。それを避けるためなら粉飾も一つの手段です。

これに対して、大企業の粉飾決算の原因に、社会の変化とそれに伴う企業会計ルールの変化がありました。
 

企業会計とその背景の変化

 
粉飾決算の記事を読むと、一方的に粉飾した側の問題点がかかれています。

実際は小さなほころびを繕うために行った粉飾が、いつしか致命的な問題になってしまったのです。

それは企業を取り巻く環境が変化するからです。

最も大きな変化は「バブル崩壊」です。
 

バブル崩壊

1985年のプラザ合意により円高が急速に進みました。日銀は競争力の落ちた輸出産業や製造業を救済する為、1987年2月までの間、公定歩合を引き下げ、公定歩合は戦後最低の2.5%になりました。

その一方で急激な円高で米国債券など海外の投資に大きな為替差損が生じました。その結果、多額の運用資金が国内李株式市場に向かいました。多額の資金は株価や地価を大幅に上昇させ、企業が保有する株や土地の値段も上がりました。担保価値や資産価値が増大し、それに伴い金融機関の融資も拡大、日本は空前の好景気に沸きました。
 

そのバブルは1990年崩壊しました。

株や土地の値段は大幅に下落し、企業のバランスシートは悪化しました。担保価値が下がったため融資の多くは不良債権になってしまいました。

ところが上場企業は、1年以上債務超過になれば上場廃止になってしまいます。そこで親会社の赤字を非連結子会社に移転する、いわゆる「損失飛ばし」が横行しました。この飛ばしは発覚し、1997年11月には山一證券が自主廃業しました。

それまでは単体の財務諸表を重視していましたが、こうしたこともあって連結財務諸表重視に変わりました。

このバブル景気と相前後して大きな影響があったのが、株式市場など資本市場の海外への開放でした。
 

資本市場開放

日本の資本市場開放は、

  • 1970年代前半の資本自由化(対内直接投資、対内外証券投資)
  • 1980年代の東京証券取引所の海外への会員権開放
  • 1971年の外証法(外国証券業者に関する法律)成立

などにより、段階的に海外に門戸を開き、外資系証券会社が参入しました。

1980年代後半には債券発行市場やデリバティブ市場が整備されました。

これは海外からの開放圧力によるものでした。一方、企業がグローバル化する中、日本企業が海外からの資金調達や資本政策が容易になるというメリットもありました。

その一方、株式市場における機関投資家の増加は、上場企業に

株価の持続的な上昇と高い成長を要求

しました。その結果、企業は長期的な成長よりも短期の業績を重視するようになったのです。

この資本市場の開放は、これまで国内中心だった企業会計のルールを海外と整合を取るきっかけにもなりました。

さらにバブル崩壊で起きた損失飛ばしや粉飾決算は、企業会計の厳格化へとつながりました。その中で起きた企業会計の変革が「金融ビッグバン」でした。
 

金融ビッグバン

バブル崩壊後、株や土地の価値の大幅な下落し、バランスシートの悪化による不良債権化、それに伴い生じた損失飛ばしなどが発生し、企業会計の見直しの要求が高まりました。

加えて資本市場の開放、機関投資家の増加により、企業価値の公正な評価、財務諸表の信頼性と国際的な会計基準との整合が求められました。

そこでこれまでの企業会計を見直し、国際的な会計基準と整合する会計ビッグバンが行われました。
 

その主な内容は

  • 有価証券など資産の時価評価
  • 連結財務諸表の義務付け
  • 四半期決算
  • キャッシュフロー計算書
  • 国際会計基準 (企業の海外進出、海外子会社との連結決算)

これと前後してアメリカでも

巨額の粉飾決算を行い破綻したエンロンが大きな問題になりました。

 

2001年エンロン破綻

2001年10月に、アメリカの多角的大企業のエンロン社で不正会計(巨額の粉飾決算)が発覚しました。

総合エネルギー取引とITビジネスを行っていたエンロン社が、特別目的事業体(SPE)を使った簿外取引で決算上の利益を水増し計上していたことが分かったのです。エンロンは2001年12月に経営破綻に追い込まれ、世界の株式市場に大きな衝撃を与えました。

図3 テキサス州ヒューストンのエンロン本社 (Wikipediaより)

図3 テキサス州ヒューストンのエンロン本社 (Wikipediaより)


 

2002年には、エンロン社に続いて、Kマート(小売業、破綻)やグローバルクロッシング(海底ケーブル通信、破綻)、ウェイスト・マネジメント(大手廃棄物処理、存続)など、他の有力企業でも不正会計が次々と明るみに出ました。

その結果、コーポレート・ガバナンス(企業の法令遵守)が強く問われ、2002年に企業の不祥事に対し厳しい罰則を盛り込んだ「サーベンス・オクスレー法(SOX法)」が制定されました。

このように企業不祥事が起きると次々と規制が強化されました。

SOX法でコーポレート・ガバナンスに手は打ったはずなのに、次に起きたのはリスクマネーにのめり込んだ金融機関でした。
 

リーマンショック

サブプライムローンとは、アメリカで信用力の低い借り手向けの住宅ローンです。信用力が低くリスクが高い反面、金利は高く設定されます。

「リーマン・ブラザーズ」は1850年に創立された名門投資銀行で、アメリカ五大投資銀行グループのひとつです。1990年代以降の住宅バブルの波に乗ってサブプライムローンの証券化を積極的に行いました。この証券化した商品を大量に抱えていた時、住宅バブルが崩壊しました。2008年に株価が急落し2008年9月に経営破綻しました。負債総額6130億ドルはアメリカ最大の企業倒産でした。
 

これをきっかけに信用不安が急速に伝搬し、世界的な金融危機と世界同時不況が起きました。ほとんどの国の株式相場は暴落し、世界中で信用収縮が起きました。

この反省から2010年7月21日に制定されたドッド・フランク法は、リーマンショックの元凶となった銀行のリスクマネーへの融資を規制し、銀行システムの抜本的な改革を行いました。

このように企業会計や社会的背景が変化する中、粉飾決算がきっかけとなって経営破綻し、清算した名門企業がありました。

それが戦前には売上高日本一であったカネボウです。
 

カネボウの経営破綻

カネボウは1887年東京の鐘ヶ淵に新設された紡績工場から始まりました。東京綿商社として創業し、地方の繊維工場を吸収して拡大しました。1961年には合成繊維、化粧品業界に進出し、食品、住宅用品、医薬品の5事業に多角化し拡大しました。

しかし2004年に経営破綻し産業再生機構の管理下に置かれました。その後、化粧品は花王、それ以外の事業はホーユー(株)の子会社クラシエホールディングスに、繊維事業はセーレン(株)など各社に吸収され2008年に清算しました。
 

伊藤社長の時代

なぜカネボウは経営破綻したのでしょうか。

始まりは1970年から1992年まで社長を務め、その後2003年まで名誉会長として影響力を行使した伊藤淳二氏の時代からでした。(彼は城山三郎『役員室午後三時』の主人公や山崎豊子『沈まぬ太陽』の国見会長のモデルとも言われています。)

本業の繊維事業は繊維業界の不況により業績が悪化し1975年には経常赤字に転落しました。その後も繊維事業は業績悪化が続きました。中でも子会社の興洋染色(株)は、1997年には売上高250億円に対し実質債務超過が450億円にも上りました。これがそのままカネボウの連結決算に含まれるとカネボウ自身が債務超過になる恐れがありました。

なぜこのようなことが起きたのでしょうか?
 

商社金融

興洋染色の経営悪化の原因は、商社との備蓄取引でした。

かつては中小企業に対する金融機関の資金供給が十分でなく、代わってそれを担ったのが商社金融でした。

興洋染色の主力商品アクリル毛布は、需要が秋から冬に限られています。しかし工場はコストを下げるため通年生産したいと考えます。そこで興洋染色が通年生産した毛布を商社が一旦買い上げ、金利を上乗せして冬に卸していました。当時はどこの商社もこのような商社金融の機能を果たしていました。

問題は売れ残った毛布の処分です。興洋染色はこれを買い戻し、その後再び商社に備蓄しました。しかしこれでは生産調整が効きません。そのため商社の備蓄は増える一方でした。しかも興洋染色は在庫の評価損を計上しませんでした。

図4 カネボウの資金循環取引 (「粉飾の論理」の資料を基に著者作図)

図4 カネボウの資金循環取引 (「粉飾の論理」の資料を基に著者作図)


 

しかも最大の取引先 商社の兼松と興洋染色は決算期が違っていました。興洋染色の決算時に在庫を兼松に引き取ってもらい、見かけの売上と利益を増やすことができました。この再備蓄の増加に伴い興洋染色の売上も増加しました。兼松も備蓄取引が増えれば売上が増えて、その分の口銭(手数料)も入りました。

こうした備蓄取引は兼松の他にトーメン、ニチメンも加わっていました。一方最大の取引先は兼松でした。
 

循環取引

後にこれにカネボウ自身も加わりました。そして興洋染色、兼松、カネボウの間を伝票だけがぐるぐる回る循環取引となっていました。これは「宇宙遊泳」と呼ばれ、カネボウ内部では「資金対策売買」、毛布を「凍結在庫」と呼んでいました。

実はこういった利益操作は多かれ少なかれ他の企業でも行われていました。問題はカネボウは、本業の繊維事業が苦しい時、この「金の成る木」に頼ってしまったことでした。特にのめり込んだのが1978年にカネボウの取締役になった山本吉彦氏でした。その後の八木幸一氏も山本氏に倣いました。

本来は銀行の融資が十分に得られない中小企業へのサービスだった商社金融が、業績を良く見せる手段に変わってしまった時、カネボウの経営者はこれに頼ってしまったのです。

しかしそれも長くは続きませんでした。なぜなら

銀行の姿勢が変わったからです。

 

金融機関再編の影響

きっかけはバブル崩壊による金融機関の再編と不良債権処理でした。

1996年兼松のメインバンク東京銀行は三菱銀行と合併しました。そして商社への融資枠を見直しました。兼松自身も1997年には203億円の赤字を出していました。

このように銀行の姿勢が変化したため、これまでのような手段は難しくなってきました。

実際に興洋染色の問題は、カネボウ内部でも問題視されていました。1997年6月にはKS対策委員会が設立され、内密に興洋染色の債権処理が計画されました。
 

そのスキームは、1998年2月にただ同然の土地と建物を現物出資し、防府興産という会社を設立します。そしてその株式をカネボウ物流に売却し、防府興産をカネボウの連結対象から外します。そして興洋染色から防府興産に売掛債権などを287億円を譲渡します。そうしておいて1998年4月にカネボウは防府興産を吸収合併します。

そうすると防府興産のただ同然の土地、建物は287億円の含み益を生みます。しかも興洋染色は287億円の不良債権をゼロにできます。

これを計画したのは当時の社長帆足氏と銀行出身の宮原氏でした。こうして興洋染色の問題を解決し、カネボウのバランスシートも改善する目論見でした。

ところが興洋染色の本業の毛布販売が急減速し資金繰りがさらに悪化しました。不良債権は計画当初の2倍の427億円に増えていました。
 

連結決算への移行

そうこうするうちにカネボウ自身の自己資本が1999年3月期には連結では213億円の債務超過(単独では463億円のプラス)になってしまいました。

理由は、これまでは単独決算が主でしたが、2000年3月期から有価証券報告書や証券取引所のルールが連結決算に移行したためでした。

それまで赤字を子会社に飛ばしていたカネボウは、新ルールでは2,500億円もの債務超過になることが予測されました。そこで子会社への出資比率を引き下げ、子会社15社を連結対象から外しました。

ここまでくると稼ぎ頭の事業でもなんでも売れる事業を売って現金を手にしなければ会社が存続できません。幸いカネボウには化粧品部門という稼ぎ頭がありました。

ところが化粧品部門の売却に立ちはだかったのが、会社の苦境を知らない人たちでした。
 

化粧品部門売却の失敗

カネボウは、債務超過を解消するためにホームプロダクツ部門、化粧品部門の売却を進めました。ところが労働組合が強いカネボウは、苦境を知らない社員や組合員からの強い反対に遭いました。売却は頓挫し産業再生機構の支援を受けることになりました。

帆足氏ら経営陣は退任し、中嶋章義氏が社長に就任しました。中嶋氏は経営浄化調査委員会を立上げて過去の不正を調査しました。その結果2005年には子会社15社を連結決算に追加し、過去5期分の決算を訂正しました。

粉飾決算の深みにはまったことに気づいた時には、どうすることもできませんでした。

では挽回の最後のチャンスはいつだったのでしょうか?

 

最後のチャンスに権力争いに明け暮れた

実は1992年伊藤社長が退任した時、カネボウは銀行も入って密かに再建策を検討していました。

しかし当時すでに1,700億円に達した不良資産を償却できる体力がカネボウに残っていませんでした。こうしてこの案は封印されました。

最後のチャンスは1980年代の好景気の時だったのです。しかし、この時

カネボウ内部は伊藤氏を中心とした権力争いに明け暮れていたのです。

 

会計の怠慢が招いた悲劇

始まりは備蓄取引でした。

それ備蓄取引自体は違法ではありません。しかし在庫の評価損を計上せずに再備蓄を繰り返し、さらに循環取引になったことで、この備蓄取引は白からグレー、グレーからブラックに変わっていったのです。

そして時代が進み会計基準が変わる中で、社内以外に監査法人も適正な会計処理をしなかった「会計の怠慢」が破綻を招いたのです。
 

その結果、カネボウ元社長、帆足隆氏、元副社長、宮原卓氏は、2005年証券取引法違反罪で起訴されました。さらに監査を担当した中央青山監査法人は、業務停止命令を受けて、後に解散しました。カネボウの監査を担当した公認会計士4人が逮捕されました。

カネボウは、円高、新興国の台頭など繊維業界を取り巻く環境が変化し、抜本的な事業構造の変革が必要な時に、粉飾決算による見かけの利益に頼り、内部で権力抗争に明け暮れ、貴重な時間を失ってしまいました。

一方、バブルの傷跡を直視できなかった経営者もいました。その背景には社会問題にもなった「損失補填」がありました。
 

オリンパス事件

 

1980年代バブル景気に沸く日本では、株などに投資する「財テク」をしない者は愚か者だというムードでした。
 

バブルと特金

その時代、証券会社が企業の財テク商品として積極的に販売したのが特定金銭信託(特金)でした。この商品は簿価分離のため株価が上がっても含み益が出ず、企業にとってうまみの多い商品でした。

こういった金融商品の銘柄の売買は、本来顧客が証券会社に指示をして行うものでした。実際は証券会社に売買を任せる一任売買が横行していました。

他社に負けじと営業をかけていた証券会社は、特金を販売する際、名刺の裏に「(損失を)補填します」と書いて営業しました。

今では考えられないことですが、当時は

「みんなで渡れば怖くない」

とこれが広まっていました。これがバブル崩壊で負の遺産になります。

図5 バブル景気

図5 バブル景気


 

損失補填の問題

特金はバブル崩壊で暴落しました。多くの証券会社は裏書きした名刺に苦しむことになります。

1991年6月には読売新聞は、野村證券が年金福祉事業団に50億円の損失補填があったと発表しました。

こうした損失補填が明るみに出る一方、当時は個人で株式を買った人も多かったのです。中には不動産を担保にお金を借りて株を買った人もいました。彼らの損失は補填されることはなく、多くの人は多額の負債や不動産を失ったのです。

企業向けの特金のみが優遇されたことが明るみに出ると、多くの人から怨嗟の声が上がりました。マスコミも一斉に報道しました。

こうした圧力に負けて1991年7月には四大証券会社が損失補填リストを公表しました。損失補填先は228法人、金額は1,283億円に上りました。これをきっかけに1991年10月には橋本首相が辞任しました。
 

一方、すべての企業の特金の損失が補填されたわけではありませんでした。中には多額の損失を被ったままの企業もありました。

その1社がオリンパスでした。

しかも2000年には会計基準が変更されました。

それまでは株式、土地・建物などの資産は、決算時に(著しい時価下落を除き)取得原価で計上していました。ところが新基準では時価評価になりました。株価の暴落の結果、オリンパスの株の含み損は950億円にもなりました。当時の財務部長 山田秀雄氏は「今さら外に出せるか」と言いました。

こうした外に出せない損失に困った企業に近寄ったのが、

様々な「飛ばし」のノウハウを身に着けた人たちでした。

 

飛ばし

この損失隠蔽の画策に協力したのは、元野村証券の人たちです。損失を隠蔽するため、彼らの手を借りてオリンパスはあるM&Aを実施しました。

2008年にイギリスの医療機器メーカー ジャイラス・グループを買収しました。その際、元野村證券の佐川肇氏が設立したケイマン諸島の投資ファンド「AXAMインベストメント」に買収額2,117億円の32%に当たる687億円を支払いました。

また2006年から2008年の間、元野村證券の横尾宣政氏が設立した「グローバル・カンパニー」を通じて、アルティス、ヒューマラボ、ニューズシェフなど売上高数億円の会社を734億円で買収しました。
 

そうしておいてオリンパスは2009年3月期に557億円の減損処理を行いました。

しかしこういった不自然なM&Aはどこかで情報が漏れます。その情報は、当時のオリンパス社長イギリス人のマイケル・ウッドフォードに渡りました。
 

ウッドフォード社長突然の解任

2011年に6月にオリンパス社長になったマイケル・ウッドフォード氏は、この情報を入手し会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)に独自で調査を依頼しました。その結果、コーポレート・ガバナンスに関して多くの不審な点が見つかりました。

そこでウッドフォード社長は、この不透明なM&Aで会社と株主に損害を与えたとして、菊川会長および森久志副社長の引責辞任を求めました。

ところが逆に10月の取締役会で、ウッドフォード社長は「独断的な経営を行い、他の取締役と乖離が生じた」として解任されてしました。この突然の解任劇は世間の注目を集めました。

こうしてオリンパスの粉飾が明るみに出たのです。
 

発覚した粉飾

この事件によりオリンパスの株価は大幅に下落し、菊川氏は会長兼社長を辞任しました。しかしすでに有価証券報告書の虚偽記載が取り沙汰される事態になっていました。

第三者委員会の調査の結果、1990年代から損失の隠蔽が行われ、その補填のために買収が実施されたことが明らかとなりました。

2これにより11月の期限までに上半期中間決算が提出できなくなり、オリンパスの株は『監理銘柄』になってしまいました。

2012年2月に東京地検特捜部は、菊川前社長(元会長)、森前副社長、前常勤監査役、証券会社の元取締役、また投資会社の社長、取締役、元取締役などを金融商品取引法違反(有価証券報告書虚偽記載罪)で逮捕しました。さらに投資会社の社長と取締役は、詐欺罪で起訴されました。
 

950億円の含み損は決して小さな金額ではありません。しかしオリンパスを経営破綻に追い込むほどではなかったのです。事実、この問題の後もオリンパスは存続しています。

しかし「今さら外に出せるか」と隠蔽に取組んだ代償はとても高いものになりました。

参考文献

「粉飾の論理」 高橋篤史 著 東洋経済新報社
「オリンパス症候群」 チームFACTA  平凡社
「粉飾決算の見分け方」 石田昌宏 著 ビジネス教育出版社
 

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企業の組織と日本の共同体文化の問題 その2~欧米型の組織論と共同体文化の衝突~ https://ilink-corp.co.jp/8972.html https://ilink-corp.co.jp/8972.html#respond Tue, 24 Oct 2023 04:31:26 +0000 https://ilink-corp.co.jp/?p=8972

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ところがこの組織と、古来からの日本の共同体文化は相反するものがあります。これが日本の組織の問題の根源です。

それはどのようなものでしょうか?

山本七平氏の「指導者の条件」を参考に、組織論と日本の共同体文化の衝突について述べます。
 

組織文化と日本人の共同体文化

価値観

企業は「何らかの事業目的のために集まって活動する集団」です。

そして事業の目的、目的の遂行に必要な価値観やビジョン、そして行動原則が大抵の企業にはあります。

こういった概念は経営理念、社是、ミッション、基本となる価値観、行動原則などに明文化されます。

図1 事業目的遂行のための価値観

図1 事業目的遂行のための価値観


 

非公式組織

一方組織には階層構造の公式なメンバーのつながりだけでなく、メンバー相互の非公式なつながり (社会的ネットワーク)もあります。この社会的ネットワークは、組織以外の活動によって自然発生的に生まれ、この社会的ネットワークによって組織のメンバーの行動が変わります。

図2 リーダーとメンバーの非公式ネットワーク

図2 リーダーとメンバーの非公式ネットワーク


 

【結束型ネットワーク】

例えば図2 グループAは、リーダーとメンバー相互に親密な関係が構築され、高い信頼が生まれています。こうしたネットワークの密度が高い状態は、メンバー間の親密さが高まり、情報の共有や互いの協力が得られやすくなっています。

一方グループ内のつながりが強すぎて外部に対して閉鎖的になったり、見方や考え方が偏るリスクがあります。

一方グループBは、メンバー相互の関係が希薄で集団としてのまとまりを欠きます。知識の共有や互いの協力が得られにくい状態です。

グループCは、一部のメンバー間のつながりが強くなっています。集団としてのまとまりを欠く一方、つながりの強いメンバー同士がリーダーに従わず独自に行動するリスクがあります。
 

【橋渡し型ネットワーク】

結束型ネットワークに対し、公式的なつながりのないメンバー同士が非公式なつながりを持つのが橋渡し型ネットワークです。

例えば趣味の活動や社内のプロジェクト活動などの行事を通じて非公式な関係が構築されます。そして組織の枠を超えて情報が伝達されます。結束型ネットワークの強いつながりに比べて、弱いつながりですが公式なルートでは得られない情報が手に入ります。そのため、他の部門の活動を自部門に取り入れるなど思わぬ効果を生むことがあります。

図3 橋渡し型ネットワーク

図3 橋渡し型ネットワーク


 

伝統的共同体

日本の組織のルーツは、農村社会の共同体です。

山本氏によれば、日本の農村社会、その後の荘園制度や武士団などの集団は、純粋な血縁集団や地縁社会ではありませんでした。擬制の血縁原則であり、機能集団でした。そのため、例え地位があっても共同体の中での役割を果たさず機能していない人は特権が認められませんでした。

例えば鎌倉時代 北条氏の百箇条の家訓に荘園内部の経営原則が記されています。そこには「自分の父親と同年代のものはすべて父親と同様に敬い、自分と同年代のものはすべて兄弟として扱う」と記されています。共同体の中で擬制の血縁集団を構成し、それを秩序原則としたのです。

この共同体は、階級がなく各人の能力に応じて地位が上下する機能集団でした。日本の共同体は、この機能原則の集団のため、

「共同体の中である役割を果たしているという精神的な満足がないと日本人は働かない。

つまり純粋な経済原則だけでは働かない」と山本氏は指摘します。
 

そして戦後、農村共同体が崩壊した際、農村共同体に代わって企業が共同体の役割を果たしました。近代にはどの国も農村共同体が崩壊し、農村共同体が雇用契約に置き換わり契約社会へと発展しました。

ところが日本は、契約社会が発展する前に企業が農村共同体に置き換わったという世界でも珍しい例でした。

それが可能だったのは、日本社会が元来地縁社会や血縁社会でなく、機能原則しかない社会だったからです。機能原則しかない社会なので下の者が上に者に反抗する下克上が起きるのです。

このような経緯から日本においては、会社は構成員が所属する社会であり共同体です。従って雇用は必然的に終身雇用になります。そして解雇は共同体からの退出すなわち「勘当」です。定年や出向を含めて退職すれば社員は大きなショックを受けます。この点で解雇が「雇用契約の解除」を意味する欧米と根本的に異なります。
 

世間

伝統的な農村社会では、共同体は擬制の血縁集団であり疑似的な家族でした。共同体の中では価値観は共有され、互いの信頼関係が保たれていました。これが日本人の考える「世間」です。
 

日本人はこの

世間を意識する時、相手への思いやりや礼儀をわきまえます。

対して他の共同体は世間の外です。

かつて他の農村社会とは、水利権を主張して激しく争い、戦いになることもありました。この世間の外に対し、日本人は概してわがままで冷酷です。アジアからの実習生に対し、労働法規を無視して過酷な仕事をさせていた経営者がいました。彼にとって実習生はよそ者であり、世間の外だったのです。
 

やり過ごし

官僚制の元、指示命令は一元化され、上司の指示は部下によって確実に実行されます。

ところが現実の組織では、上司の指示がすべて確実に実行されているわけではありません。上司の指示を部下が放置する「やり過ごし」が起きています。

東京大学教授 高橋伸夫氏は、このやり過ごしをゴミ箱モデルで説明しました。ゴミ箱は組織に問題が投げ込まれる場です。例えば定例会議などです。このゴミ箱に問題が入った時

  • 参加者のエネルギーが十分あれば参加者は問題解決に取り組む
  • 参加者が集まっていないときに問題が投げ込まれれば、問題は見過される
  • 問題に対して参加者のエネルギーが不十分な時、問題は無視される (やり過ごす)

往々にして企業の開発部門や、個人ても能力がある社員には、処理能力を超える業務が入ってきます。全部は対処できません。そこで上記の原則に従って、組織やメンバーは問題をやり過ごして対処します。
 

日本型共同体組織の欠点

日本の組織は、擬制の血縁集団がベースになっています。そのため意思決定は全員一致が原則です。かつて農村社会や武家社会では、リーダーが指示してもメンバーの合意がなければ指示は実行されませんでした。

こういった組織を山本氏は「一揆」と呼びました。一揆ではメンバーの利害が最も重要です。かつて一向一揆では、領民である寺社の僧侶が領主の守護を追い払い、何十年も僧侶が自治を行いました。実は戦国大名も一揆連合で、ピラミッド組織ではありませんでした。リーダーの大名が命令しても、メンバーの家臣が談合し、時には主君の大名の命令をはねつけることもあったのです。

現在の日本企業もこの一揆の構造です。何かを意思決定する場合、管理職を中心にとことん議論し全員の同意を取りつけます。同意を得るまでに時間はかかりますが、同意が得られれば全員が協力してスピーディに実行されます。一方全員が同意して決めたことなので、

決定は誰の責任でもありません。

強いていえば責任は全員に分散されます。
 

こういった一揆に基づく集団主義の特徴は
各集団が我先に自己主張をするため、

攻撃する状況では大きな成果が出ます。

かつの電卓戦争では次々に新しい技術が生まれ各社競って新製品を開発しました。そのような状況では、目的は明確で各社とも一致団結して新製品を短期間に矢継ぎ早に市場に投入しました。

ところが形成が悪くなって撤退しなければならなくなると、

こういった集団は

撤退が苦手です。

軍隊の場合、撤退する際は少数の部隊を殿(しんがり)としておいて起き、殿が戦っている間に主力が撤退します。ところがこういった「一揆」集団は「自分たちだけがワリを食うのは嫌だ」と誰も殿をやろうとしません。

企業においても早く不採算部門を閉鎖すれば損失を抑えることができるのに、閉鎖が決定できず、ずるずると損失を出してしまいます。あげくに倒産することすらあります。
 

リーダーシップと共同体文化

 
集団を統率するリーダーによって、集団は変わります。このリーダーの姿勢「リーダーシップ」は経営組織論の中で述べられています。一方日本の集団の場合、リーダーシップも日本独自のものになっています。

それはどのようなものでしょうか?

まずは経営組織論のリーダーシップについて以下に述べます。

リーダーシップとは?

リーダーシップとは、指導者としての能力・力量・統率力を指します。これは

「自己の理念や価値観に基づいて、魅力ある目標を設定し、またその実現体制を構築し、人々の意欲を高め成長させながら、課題や障害を解決する行動」

と定義されます。

リーダーシップの中でリーダーの資質や人格は古くから注目されました。リーダーが先天的に持つ資質や才能は、リーダーシップの質に影響します。

これに対し経営ではマネジメントという言葉もあります。ではリーダーシップとマネジメントはどのように違うのでしょうか。

リーダーシップとマネジメントの違いを表1に示します。

表1 リーダーシップとマネジメントの違い

リーダーシップ マネジメント
課題 変化の推進 複雑性への対処
実現への取組 進路を設定
人々の連携を図る
モチベーションとインスピレーションの喚起
計画立案と予算の策定
組織編成と人員配置
コントロールと問題解決

これを比較するとマネジメントは技術的要素が大きく、これは習得可能なものです。対してリーダーシップには能力的要素が大きく、個人の資質や才能が大きく影響します。
 

コンティジェンシー理論

状況に応じてリーダーシップのスタイルを変化させるという考え方です。フィドラーは、リーダーのタイプを大きく二つに分けています。

人間関係志向リーダー

 苦手タイプともうまくやっていく

職務(タスク)志向リーダー

 苦手にタイプとうまくやっていくことよりも職務を優先

図4 リーダーシップのスタイルトワーク

図4 リーダーシップのスタイルトワーク


 

フィドラーは組織が置かれた状況によってどちらのリーダーがより成果をあげるのか調査しました。環境について以下の3つを取り上げました。

  1. リーダーが支持されているか
  2. 仕事が構造化されているか
  3. リーダーに権限が与えられているか

その結果、環境がリーダーに

  • とても良い(1.支持されており、2.構造化されており、3.権限がある)場合
  • とても悪い(1.支持されておらず、2.構造化もされておらず、3.権限もない)場合

「職務(タスク)志向」のリーダーが高い成果を上げました
 

  • その中間の良いとも悪いともいえない環境に置かれた場合

「人間関係志向」のリーダーが高い成果を上げました。
 

つまり

どのような状況でも通用する唯一最善なリーダーはいない

ことが証明されました。

一方このリーダーシップ論は、欧米の組織の組織論が前提です。一揆をベースとする日本の共同体組織では、リーダーはメンバーの意向を無視して、独自に意思決定することは困難です。
 

ポリティクス

ポリティクスとは、経営組織論において、正式なルートや指示命令以外で組織内部に影響力を行使することです。影響力を行使する方法は以下の2種類があります。

【正式な手段】

  • 権限に基づく指示命令や合理的な説得

【ポリティクス】

  • 将来の利益提供や過去の貸しを主張
  • 不利な結果をほのめかすなど交換条件の提示
  • 上位の権威者からの非公式な支持
  • 情報の漏洩や隠ぺい
  • 会議の議題や参加者を自分に有利に替える
図5 影響力を行使する

図5 影響力を行使する

メンバーがポリティクスを行使する目的は

  1. 組織に有益な取組が上司の誤った判断で中止されるため
  2. 個人的な評価を高めるため
  3. 自部門の利益を守るために他部門のプロジェクトを中止させる

などです。

こうしたポリティクスが生じるのは、公式な調整では調整がうまくいかなかったり、メンバーが自分の利益のために有利に導こうとしたりするからです。特に成果主義や「業績の低い下位10%の社員は退職させるアップオアアウト」などの制度を取っている組織では、メンバーは自身の存続をかけて様々な働きかけをします。

一方日本企業には「根回し」という文化があります。これも非公式な影響力の行使となるためポリティクスと言えます。

一揆を基本とする組織では会議は全員一致が原則なので、会議の場で反対意見が出ると結論は保留されます。関係者は早く結論を出して業務を進めなければなりません。そのために会議の前に反対意見のある部門のリーダー、時には出席者全員と個別に事前打合せして、予め合意を取りつけておきます。
 

コンフリクト

コンフリクトは、複数の組織や部門の利害の対立です。

コンフリクトには

  • 職務上の調整の困難さから生じる職務コンフリクト
  • 人間慣例の衝突「反りが合わない」関係性コンフリクト

の2種類があります。
 

コンフリクトの原因は

  • 当事者間が相互依存関係にあるため、お互いが有利に事を運ぼうとする
  • 資源の希少性から優先権を得ようとする
  • 役割や責任にあいまいさがあるため、お互いに押し付けあう

などがあります。

コンフリクトには業務上避けられないものもあります。

例えばメーカーの営業、製造、品証は自部門の最適解が他部門の最適解にならないことがあり、コンフリクトが生じます。

顧客から注文の入っている製品が納期に間に合いそうもない場合

【営業】「製造」には無理をしても納期に間に合わせてほしい 

【製造】 現在の工程では間に合わない。「品証」が許可すれば一部検査を省略して間に合わせることができる

【品証】 検査を省略すれば不良品を納める可能性があるため許可できない

こうして3者の喧々諤々の議論になります。

なお、この例では品証は品質の最後の砦として検査省略は許可してはいけません。
 

日本型組織におけるリーダーシップ

日本企業の場合、組織の本質は共同体です。

共同体では一揆、つまり

メンバーの同意がなければ組織は動きません。

組織を束ねるには、メンバーの意見を取りまとめて合意に導くような調整型で世話人型のリーダーが必要です。

しかも共同体の中での上下関係は、必ずしも地位の上下でありません。組織上は顧問や相談役の年配者が純然たる影響力を持っていることもあります。このような閉ざされた共同体をマネジメントするには、共同体の人間関係や文化をよく知っている必要があります。これは外部の人間には容易ではありません。経営が思わしくない時、他社から経営者を招聘して立て直そうとしてもうまくいかない原因がここにあります。
 

かつての自然発生的な村落共同体の場合、一番の目的は共同体の存続です。そして稲作のようにこれまで培ってきたことを今後も滞りなく行うには、人の和を重視します。メンバーは共同体の構成員としての自覚があるため、細かな規則や契約は必要ありません。このような共同体では、欧米のような強いリーダーシップはむしろ有害です。

共同体の存続が最大の目標なので、欧米の組織のようなリーダーの指示の元、目的に応じて組織を解体・再編する、目標を達成したらリーダーは交代し次の目的に合致する組織に再編する、このような発想はありません。

本来、組織が成果を上げるには、明確な目標を設定しそれをメンバーに周知しなければなりません。ところが日本では政治家でも明確な目標を提示するリーダーは限られています。その一因は、日本の組織には有能な参謀(スタッフ)がいないことと、リーダーがそれを使いこなしていないことです。

政治学者モスカによれば、リーダーは攻略型と政略型の2種類があります。

政略型がリーダーになると、指揮権を行使し組織をまとめる力が弱いため、リーダーシップを発揮できません。

一方攻略型のリーダーは、リーダー単独では有効な政策がないため目標が設定でず、リーダーシップを発揮できません。

例えば、創生期のホンダの本田宗一郎と藤沢武夫のような、攻略型のリーダーが政略型のリーダーを参謀として使いこなす組織が理想と言えるでしょう。

このような日本の組織、社会には様々な不条理(問題)があります。
 

集団の中の序列

この日本の組織、社会の不条理な点について、2022年7月戦史・紛争史研究家の山崎雅弘氏と思想家の内田樹氏が対談しました。

山崎氏は「日本の組織は、支配層や上層部の利益が全体の利益になると思わせ、自分たちに都合のいいように人々を従わせている。その結果、SNSの発言を見ても、職場環境や雇用問題について、会社に雇われている側なのに経営者の目線で語る人が少なくない」と言います。
 

これについて内田氏は学校教育の問題を取り上げました。

「何をしたいのか?」より「何をすればほめてもらえるのか」を考えるように教育されている。学校は、先生の出した問題に対し、子どもが答えを書き先生が採点する。その採点が子供の評価となる。そのため子どもたちは「よい点をもらうことが自己実現の方法」と信じている。

しかし相手が問題を出して、自分が答えて、それを採点されるのは、典型的な権力関係です。もし自分が相手より優位に立ちたい場合は、先に相手に質問しなければなりません。武道ではこれを「後手に回る」と言います。そして「後手に回れば必ず敗ける」と内田氏は言います。

山崎氏
なぜ日本の組織は「非効率」で「非倫理的」なのか、それは社会の価値観が反映されている。海外では雇用主と従業員は対等と考え、自分の権利が政府や雇用主に侵害されれば誰もが「自分の権利をちゃんと保障しろ」と主張する。

内田氏
感染症内科の岩田健太郎先生は、エボラ出血熱のときシエラレオネで医療チームに参加しました。「国境なき医師団」とかWHOとか、世界中から来ている混成チームでは、まず問われるのが「おまえは何できるんだ?」だそうです。隔離病室を作れる、感染症の手順を知っている…、自己申告に従って役割分担をする。

日本で最初に聞かれるのは「おまえは何者だ」、医師か看護師か聞かれ、出身大学・医局・卒後年数を聞かれる。つまり誰に対しては敬語を使うのか、上下関係をまず確認する。

コロナによるクラスターが発生した「ダイヤモンド・プリンセス号」に岩田先生が入った時に優先されたのは「誰が一番偉いのか」、あの場では橋本岳という当時の厚生労働副大臣。でも政治家なので感染症のことは知らない。

そこで岩田先生は「やり方が間違っているから、やり直しなさい」と専門家としてアドバイスしましたが、これは「下の人間が上の人間に指示を出す」と捉えられ、これは日本では禁忌なので「出て行け」と言われる。(朱記は筆者)

 

これからの組織を考える

このように組織論における組織の役割と、日本型共同体とは乖離があります。

では、これからはどのような組織が必要なのでしょうか?
 

共同体の解体と帰属意識の希薄化

日本型共同体が成立するためには、共同体の構成員がずっと組織内部にいる必要があります。

構成員にとって共同体からの退出は勘当です。これは構成員のアイデンティティの喪失にもなります。これまで終身雇用が維持できていた時代、構成員は共同体の一員という意識が維持されていました。

しかしバブル崩壊後、非正規雇用の増大や高齢社員のリストラの結果、構成員の「共同体の一員」という意識は解体されつつあります。しかも現在、組織には様々な人がいます。組織に対してそれぞれ異なった意識を持っています。

  1. 正社員として雇用され共同体の構成員の自覚を持っている (多くは中高年)
  2. 共同体を信じていない。しかし追い出されれば経済的に困窮するため、指示には無条件に従う(多くは若者)
  3. 派遣社員として長期間組織で働いているが共同体の一員とは思っていない

 

それぞれの立場によって以下のように行動します。

1.は一揆のメンバーで共同体の価値観に従い行動します。その点でストレスは少ないです。

2.は共同体を信じておらず、押し付けられた価値観を受け入れられません。しかし一揆に反抗すれば不利になることが分かっているため、指示には無条件で従います。その一方で過剰な仕事をやり過ごすことができず、時には体調を崩してしまいます。

3.の派遣社員は価値観を共有できず疎外感を感じています。指示命令には無条件に従うが、それ以上のことはしません。
 

権限と圧力

組織のメンバーがこういった価値観を持つ中で、達成困難な目標が上から与えられればどうなるでしょうか。

2.3.の構成員にとってそれは単なる指示命令でなく、一揆からの無言の圧力となってきます。
 

終身雇用が困難に

今日テレワークが広まり、中にはオフィスを持たない会社もあります。そういった会社は、社員の「共同体の一員としての意識」は希薄化します。

一方、若年人材は不足し、しかも国から70歳まで雇用延長を求められています。そこで企業は中高年を戦力として活用する必要に迫られています。

経営環境は変化し、業務内容も変わってきます。しかし人の能力は簡単には変わりません。特に中高年の場合、訓練により新たな能力を獲得するのは容易ではありません。そうなると中高年の教育訓練の費用対効果は低く、場合によっては既存社員を訓練するよりも専門人材を新たに雇用した方が安上がりです。
 

例えば機械設計は、ドラフターから二次元CAD、二次元CADから三次元CADへ変わりました。中高年の設計者が二次元CADや三次元CADに対応するのは再訓練で可能です。しかし設計者にグラフィックデザインやホームページ制作を教育するのであれば、教育するより外部の専門人材に依頼した方が安上がりです。

もし自社の事業環境が変化して機械設計の業務がゼロになり、グラフィックデザインとホームページ制作の仕事だけになれば中高年の設計者の仕事はなくなってしまいます。このように将来業務内容や必要なスキルが変化すれば、1社が同じ人間を50年雇用し続けるのは困難です。

このように考えると、今後も企業が日本型の共同体であり続けるのは難しくなってきます。

かといって社会、文化が全く異なる欧米型の組織も日本社会にはなじみません。

これからの組織

今後はこれまでの

共同体意識の共有はない

前提で21世紀型の組織をつくる必要があるでしょう。

そのためには以下の課題を解決する必要があります。

  • 一揆に変わる意思決定の仕組み、そしてメンバーが決定に従う仕組み
  • 共同体意識がない時の組織への貢献意欲を引き出す方法
  • 多様な人たちを取りまとめ、成果を上げるリーダー
  • テレワークなどでメンバーの関係性が希薄になっても組織運営や企画・発想できる仕組み
  • 50年間を雇用し続けられない場合、副業などによる生活の安定
  • 中高年の共同体意識の変革、教育訓練を継続する意識

今後は

新しい21世紀型組織を持った企業が従来の共同体文化の企業と静かに入れ替わっていく

かもしれません。
 

参考文献

「はじめての経営組織論」高尾義明 著 有斐閣ストゥディア
「指導者の条件」山本七平 著 文藝春秋
 

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

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頻発する企業不祥事や法令違反、時には社会問題になり、企業には多大な損害が生じます。そこで多くの企業がコンプライアンス遵守に取組んでいます。それでも不祥事は後を絶ちません。

なぜでしょうか?

図1 なくならない不祥事

図1 なくならない不祥事

コンプライアンスの遵守と強化とは、管理と統制の強化です。これは企業の建前の部分です。

一方企業は、組織体であり、また同時に人の集団でもあります。そこには

日本社会特有の共同体文化

があります。

この日本の共同体文化は、社員の行動にどのように影響し、それにより組織はどのように変質したのでしょうか?

山本七平氏(以降 山本氏)の「指導者の条件」にある日本の共同体文化と、経営組織論を対比して、

組織とは何か、

そして

日本の組織の問題点

について考えました。
 

組織とは何か?その目的は?

企業組織の目的、形態、特徴を探求したのが経営組織論です。

経営組織論では、組織とはどのようなもので、その目的や特徴について述べています。

では組織とは何でしょうか?
 

組織とは?

「組織と管理」の著者で組織経営論の大家 チェスター・バーナードによれば
組織とは、「意識的に調整された2人、またはそれ以上の人々の活動や諸力のシステム」です。

この「意識的な調整」とは組織のメンバーがリーダーの指示の元、お互いの行動を調整して目的を達成しようとすることです。

また「組織はシステム」です。お互いが役割分担して、相互に影響しあいながら目的を達成します。

言い換えれば、システムは仕組みのことです。この仕組みに人やモノは含まれません。

システムがちゃんと機能すれば、誰に代わっても(能力が同じであれば)組織の能力は変わらないという考えです。
 

この組織の3要素としてバーナードは

  • 共通目的 同じ目的意識で取り組む
  • コミュニケーション
  • 貢献意欲 助け合いつつ組織に貢献したいという気持ち

を挙げています。

このどれか一つが欠けても組織は健全に機能しなくなります。

経営組織論では組織をこのようにシステムと考えます。

実際の組織は、人の集まりであり、つまり共同体です。

共同体はどういった人で構成されるかによって大きく変わります。
 

組織の目的

ではなぜ組織が生まれたのでしょうか?

経営組織論から離れ「なぜ人は集団をつくるのか」を考えてみます。

人が集団になるのは、集団の方が都合がよいからです。古代の狩猟採取社会では、一人で狩りをするより、何人が協力した方が大きな獲物が捕れます。

その後、定住して農業を営むようになると、農作業はお互いの協力がなければ成り立ちません。

つまり集団の目的は、狩猟や農業など活動の効率化です。

もう一つの側面は安全です。部族間の紛争など太古から集団同士の争いはありました。単独では襲われても集団ならば簡単には襲われません。安全のために人は集団化しました。その一方、集団化すれば武力は強くなります。その結果、他の部族を襲うこともありました。
 

企業経営では組織の共通目的は事業です。個々の企業の事業内容は定款に書かれています。もし定款にない事業を行う場合は定款を変更します。

あるいは組織の目的や目指す姿が経営理念やミッションとして明文化されていることもあります。一方定款や経営理念として明文化されていなくても、組織には固有の共通目的があります。

それは何でしょうか?

企業の目的は

「組織の存続」

です。

定款に書かれた事業が本当に組織の目的であれば、その事業が困難になれば組織を解散するはずです。しかし多くの企業は新たな事業に移行して存続しようと努力します。つまり目的は事業でないのです。
 

なぜ組織化するのか?分業について

人が集団になるのは、活動の効率化や安全のためです。

人が組織化するのは、もう一つの目的があります。それが分業です。

分業して役割分担すれば、個々のメンバーは専門的な能力をより高めることができます。古代社会でも大工、機織り職人、猟師などひとつの仕事に特化することで、人は専門能力を高めました。
 

分業のメリットは

  • 専門的な仕事に専念できる
  • 専念することで短期間に習熟できる
  • 専念することで効率化、低コスト化を実現

です。
 

一方デメリットもあります。

  • 分業した業務同士の調整が必要
  • 専門以外のことが分かなくなる
  • 仕事が単純化しモチベーションが下がる

などです。
 

分業化することで業務間の調整が必要になります。それには管理者が必要です。

では実際の組織にはどのようなものがあるのでしょうか?
 

組織の種類と特徴

組織の種類と特徴について経営組織論から説明します。
 

フラット型組織

図2のように一人のリーダーの指揮下にメンバーが並列でいる組織です。

各メンバーはリーダーから直接指示を受けます。メンバー相互の調整はリーダーが行います。小さい会社の多くはフラット型組織です。

フラット型組織には以下の特徴があります。

【利点】

  • メンバーはリーダーから直接指示を受けるため、指示の伝達が早い
  • リーダーは各メンバーを直接管理するため、きめ細かくスピーディに管理できる
  • リーダーがメンバー間の調整を直接行うため、メンバーの仕事の最適な割当が可能

 

【欠点】

  • メンバーが多くなるとリーダーの管理が不十分になる
  • 統制の幅(スパンオブコントロール)の問題
  • メンバーの業務が分業化・専門化すると、専門性の不足するリーダーは管理が不十分になる

図2 フラット型組織

図2 フラット型組織


 

ピラミッド型組織 (ライン組織)

メンバーが多くなると、フラット型組織ではリーダーがメンバーを十分に管理できなくなり、業務の効率が低下します。

そこで組織を階層化し、部下を直接管理する複数のリーダーを上位のリーダーが管理するビラミット型組織へ移行します。

ピラミッド型組織の階層化には、

  • メンバーの増加による管理の階層化 垂直的分化
  • 業務の分化(専門化)による階層化 水平的分化

の2種類があります。
 

実際には企業は、係(グループ)→課→部 という階層構造を取ります。水平的分化、つまり部門化(専門化)の例は

  • 機能に基づく部門化(専門化)
  • 製品・サービスに基づく部門化
  • 顧客別の部門化
  • 地域別の部門化

があります。

あるいは

  • 製造部門は「機能に基づく部門化」
  • 製造部門の中で設計は「製品・サービスに基づく部門化」
  • 営業は「顧客別の部門化」あるいは「地域別の部門化」

など、部によって異なる要素で分けることもあります。

図3 ピラミッド型組織

図3 ピラミッド型組織

代表的なピラミッド型組織は軍隊です。軍隊は指示命令の徹底が必須です。ピラミッド型組織はトップの指示が一元化されて末端にまで伝わります。

一方軍隊には様々な専門能力が必要です。そのため組織を機能別にも分け、専門能力の育成と管理を行います。

図4は日本陸軍の歩兵師団の組織です。1師団には歩兵連隊3個、砲兵部隊の他に、輸送中隊、偵察中隊、通信中隊、工兵中隊、衛生中隊などがあります。

 図4 日本陸軍の歩兵師団の組織

図4 日本陸軍の歩兵師団の組織


 

ピラミッド型組織の特徴
【利点】

  • 適切な人数の部下を管理するため、リーダーはメンバーの適切な管理と・統制が可能
  • 管理を階層化することで、トップの方針・命令を確実に末端に伝えられる
  • 末端のメンバーの情報は階層を通じてトップに確実に伝えられる
  • 組織を機能別、製品別、顧客別、地域別に分けることで、それぞれの業務に特化して遂行が可能

 

【欠点】

  • 各部門を機能別、製品別、顧客別、地域別に分けるために、部門間で利害が対立した場合、調整はトップが行わなければならない
  • 各部門が自部門の業績の最適化を目指すため部分最適に陥る
  • メンバーは専門的な業務に特化するため、他の業務への対応力が低下
  • 現場の情報がトップに伝えわるまでに何人ものリーダーを経るため伝達に時間がかかり、情報が正確に伝わらない
  • 部門間にまたがる業務や、どの部門にも該当しない業務が適切に遂行されない

 

「職能別組織」や「機能別組織」は、ピラミッド型組織を職能別、機能別に階層化したものです。

例えば多くの企業は開発、製造、販売などの機能別に組織を構成します。(実際の部門は、開発、設計、製造、生産管理、資材、品質保証、営業など)

実際は製品開発、製造・販売に対し、開発、営業、製造ではそれぞれの利害が異なります。そこで対立が生じた場合は、調整は組織のトップの役割です。(日本の企業では、部門間の対立は部門間の話し合いで調整されます。)

こうしたピラミッド型組織は中央集権的な組織です。そのため製品の種類や事業の多角化が進むと、トップの負担が増加し意思決定のスピードが低下します。
 

ライン・アンド・スタッフ組織

ピラミッド型組織では、人員を階層的に管理して適正な管理と命令の一元化を図っています。一方各部門にそれぞれ専任者を置くよりも、会社全体で共通の専任者が担当した方が効率の良い業務があります。

例えば、労務管理や人事など総務、経理、ISO事務局や標準化などです。経営企画など経営者により近い業務も各部門から切り離した方がより広い視点で業務を遂行できます。

そこでこれらの部門をピラミッド型の組織(ライン)から切り離し本社直轄の部門とします。これをスタッフ部門と呼び、こういった組織をライン・アンド・スタッフ組織と言います。特に後述の事業部制をとった場合、各事業部に総務や経理を設けると、各事業部間で重複する業務が多く非効率です。またスタッフ部門の業務は収益を生まないため、事業部として独立させるのは不自然です。そのため事業部とは別に本社直轄の組織とします。
 

あるいは新規事業のプロジェクトチームなども、開発の初期段階では事業化の見通しが立っていないため、事業部でなくスタッフ部門の中に設けます。そうすれば収益性は問われずに一定の予算枠の中で研究開発を行うことができます。そして事業化の目途が立てば、プロジェクトチームごと事業部門に移管します。

図5 ライン・アンド・スタッフ組織

図5 ライン・アンド・スタッフ組織


 

【利点】

  • 専任者が会社全体で業務を行うため、効率が高い
  • 人事、経理などを会社全体でひとつの部署が行うため、やり方が統一される

 

【欠点】

  • 各部門の業務と場所的にも業務的にも切り離されるため、各部門の求めるものと異なる業務を行う可能性がある
  • 収益をもたらさない業務は費用対効果があいまいで、業務が肥大化する

 

軍隊の場合スタッフは参謀部です。欧米の軍隊は、優秀なスタッフを参謀部に集めて優れた作戦を複数立案します。司令官はそのうちのどの作戦かを選択します。現場はその作戦をひたすら忠実に実行します。スタッフに優秀な人材がいれば、現場の人間は優秀である必要はないという考え方です。

ところが同じ軍隊でも日本の軍隊はこれを嫌います。自分に関係がないことでも全部知っていなければ気が済まないのです。山本氏はフィリピンの戦場にいましたが、中国戦線の命令の写しがフィリピンにも来ていました。そのためある司令部が敵に奪われると陸軍全部の作戦が分かってしまいました。

こういった特徴は今の企業でもあります。日本では、入社したての新入社員でも会社の前途を憂い心配します。

これが欧米企業では、会社の前途はスタッフが考えればいい問題で、新入社員は自分には関係ないと考えます。新入社員は自分の担当したラインの仕事だけ専念すればよいと思います。
 

事業部制組織

製品の種類が増えたり事業が多角化すると、ピラミッド型組織では部門間の調整業務が増大します。トップの負担が増えて意思決定のスピードが低下します。

そこで事業毎に事業部をつくり、事業部毎に開発、製造、販売などの機能を持たせます。これにより部門間の利害関係は事業部内で調整できるようになりトップの負担は減少し、意思決定のスピードが早くなります。売上と費用を事業部毎に集計することで、各事業の収益性・採算性も明確になります。

この事業部制は1920年にアメリカのデュポン、続いてゼネラルモータースが導入しました。日本では1933年に松下電器産業が導入しました。現在でも異なる事業や特徴が異なる製品を持つ企業の多くは事業部制を取っています。

実際は、製造は製品毎の事業部でも、販売はひとつの事業部にする場合もあります。どこを事業部として分けて、どこを共通部門にするかは企業により違いがあります。
 

【利点】

  • 事業部毎に収支が明確になり、事業の収益性を適切に評価できる
  • 事業毎に適切な組織にすることができ、組織構成を最適化できる
  • 事業部のトップに責任と権限が委譲されるため、意思決定のスピードが早くなる
  • トップの調整業務・負担が減少する

 

【欠点】

  • 各事業部に販売、開発、製造の部門があるため、部門が重複し効率性が低下
  • 事業部毎に独自のやり方が生まれる
  • 事業部の収益性を追求した結果他の事業部と利害が対立する場合、部分最適に陥る

 

マトリックス組織

事業部制の課題として、事業部毎に製造、開発、販売の機能があるため、事業部独自のやり方が生まれるなど、会社全体では業務が非効率になる点があります。そこで会社全体で製造、開発、販売などを統括するリーダーを決めて、事業部を横断して管理する方法が生まれました。これがマトリックス組織です。

マトリックス組織では、各部門の業務は統括リーダーによって最適化されます。その一方、組織のメンバーは事業部と統括リーダーの二人の上司から指示を受けるため、命令の一元化が保たれません。その結果、混乱が生じやすく、マトリックス組織を採用している企業は多くありません。

一方、ピラミッド組織(あるいは事業部制)の企業でも、各部門からメンバーを集めてプロジェクトチームを作ることがあります。この場合、プロジェクト業務はプロジェクトリーダーの指示で遂行しますが、それ以外の業務はこれまでのラインのリーダーの指示で遂行します。これもある意味マトリックス組織と言えます。

図6 マトリックス組織

図6 マトリックス組織


 

カンパニー制

カンパニー制は、事業部制の独立採算を進めて、人事、経理などスタッフ部門の機能もすべてカンパニー内に持ち、人材、資金調達などもカンパニー内で意思決定できるようにしたものです。その点で後述の分社化に近いのですが、対外的にはひとつの会社である点が分社化と異なります。

各カンパニーが一つの疑似的な会社として、事業運営、投資や資金調達、人材採用を意思決定できます。そのためカンパニーのリーダーは、事業部のリーダーよりも意思決定の裁量範囲が広く、意思決定のスピードも早くできます。このカンパニー制は、ソニー、トヨタ自動車、みずほ銀行など企業が採用しています。

一方で、NEC、富士ゼロックスなどは一度導入したカンパニー制を廃止しました。

図7 カンパニー制

図7 カンパニー制


 

カンパニー制の特徴

【利点】

  • 投資、資金調達、人材など事業部ではスタッフ部門の業務もカンパニー内で意思決定できるため、意思決定のスピードが早く、経営環境の変化に応じて柔軟に対応できる
  • カンパニー毎にバランスシートをつくることで損益だけでなく、資産にまで踏み込んで事業を評価できる
  • カンパニー内ですべて調達できるため完全独立採算となり、収益性や責任が事業部制よりも明確になる
  • カンパニーのリーダーはカンパニーを経営することで経営的視点を持つことができる

 

【欠点】

  • 各カンパニーに人事や経理などがあるため、会社全体で見れば重複する部門が増え、間接費用が増加する
  • 事業部制よりも各カンパニーの独立性が強くなるため、カンパニー間での情報交換、技術やノウハウの共有が弱くなる
  • 短期的には収益を生まない事業をスタッフ部門として事業部から切り離すことができないため、短期的な利益追求に陥る可能性がある

 

分社化

カンパニー制をさら発展させ、事業毎に完全に別会社にして、本社機能は持ち株会社(ホールディングカンパニー)とする方法です。各子会社は、人材、資金を独自に意思決定し、経営状況を評価できます。分社化は1997年純粋持株会社が解禁されたことから広まりました。かつては赤字を子会社に移転して本社の決算をよく見せることも行われていました。しかし現在は、業績は子会社も含めた連結決算で評価されるため、そのような手法はなくなりました。この分社化の特徴を以下に示します。

図8 分社化

図8 分社化


 

【利点】

  • 事業毎に独立した会社のため、経営資源の配分の最適化、意思決定の迅速化が可能になる
  • カンパニー制と異なり、財務諸表を外部に提出するため、公正な業績評価が可能
  • 事業買収や売却が容易になり、環境の変化に応じた事業再編がスピードアップ
  • 子会社毎に賃金水準を変えることができるので、事業に応じた人件費の最適化が可能

 

【欠点】

  • 連結財務諸表の作成や子会社の会計監査など管理業務が増大
  • 子会社間の移動は、出向や転籍になり人事交流が進まなくなる
  • 事業間の交流やコミュニケーションが減少
  • 子会社毎に独自の企業文化が生まれ、グループの求心力が低下

株式会社を設立する際の最低資本金が引き下げられたことで、会社の設立が容易になりました。そのため、中小企業でも事業によって複数の会社を設立し、分社化している企業も多くあります。
 

官僚制

官僚制組織とも言われるため、組織形態の一つのように見えますが、組織としてはピラミッド型組織です。

官僚制 (bureaucracy)はピラミッド型の階層型のシステムで以下の特徴があります。

  • 規則に基づく運営
  • トップダウンの指揮命令系統と命令の一元化
  • 組織への貢献度に応じた昇進や報償
  • 分業による専門分野への分化

 

こういった特徴は行政機関だけでなく、企業や他の団体にも広く見られます。組織が大きくなると、トップの指示が末端にまで浸透するには階層型の組織が必要です。中国では秦の時代からすでに官僚制度がありました。

近代の官僚制はドイツの社会学者マックス・ヴェーバーにより研究されました。ヴェーバーによれば官僚制の元では、メンバーは合理的な規則と役割を体系的に割り当てられて行動します。

そして以下の原則に従います。

  • 権限の原則
  • 階層の原則
  • 専門性の原則
  • 文書主義

 

ヴェーバーは、
「官僚制は合理的な機能を有し、優れた機械のような優れた点がある」
と主張しました。

ただし個人の自由が抑圧される点や組織が巨大になると統制が困難になるなど、

官僚制のマイナス面も指摘しています。

このマイナス面については、アメリカの社会学者ロバート・キング・マートンが

「官僚制の逆機能」

について指摘しました。

この官僚制の逆機能とは

  • 規則万能(例: 規則に無いから出来ないという杓子定規の対応)
  • 責任回避・自己保身(事なかれ主義
  • 秘密主義
  • 前例主義による保守的傾向
  • 画一的傾向
  • 権威主義的傾向(例: 役所窓口などでの冷淡で横柄な対応)
  • 繁文縟礼(はんぶんじょくれい)(例: 膨大な処理済文書の保管を専門とする部署が存在すること)
  • セクショナリズム(例: 縦割り政治、専門外管轄外の業務を避けようとするなどの閉鎖的傾向)

などです。
 

一般にはこれらは官僚主義と呼ばれています。

その特徴は

  • 先例がないからできない
  • 規則にないため判断を避ける
  • 些細な書類の不備で拒絶する
  • 書類の作成自体が目的化する
  • 自分の部署以外の仕事はやらない

などですが、これらは民間企業にも見られ「大企業病」と呼ばれています。
 

官僚制の文書主義や権限の原則は、欧米の企業組織の骨格です。欧米では、これらはち密に体系化されています。その代表的なものがISOなどのマネジメントシステムです。ISOは、規格の最初に「責任と権限を明確にする」ことを要求しています。

この責任と権限の明確化は、契約を基本とする欧米社会の文化です。

山本氏は

「欧米人は契約がないと何もできない。

宗教も神と人間の契約、つまり個人が神と契約を結ぶ。」

と述べています。

かつての欧米人の考えには「他人も同じ宗教を信仰し神と契約を結んでいるから信頼できる」というものがありました。そして「自分たちの信仰する神と契約を結んでいない異教徒は何をするのかわからず信頼できない」というものでした。(今は違っていますが)。
 

ところが日本人は

契約という概念を非常に嫌います。

取引の際、契約を持ち出すと「私が信頼できないのか」とかみつかれます。日本社会は契約の概念が希薄なため、日本では官僚制においても文書化は十分ではありません。

ここまで経営組織論に基づき様々な組織の形態と特徴について述べました。

このように組織は、様々な形態とそれぞれ特徴があります。
 

ところがこの組織と、日本の古来からの共同体文化は、相反するものがあります。

これが企業不祥事など日本の組織の問題の根源にあるのです。

それはどのようなものでしょうか?

これについては、次の経営コラムでお伝えします。

 

経営コラム ものづくりの未来と経営

人工知能、フィンテック、5G、技術の進歩は加速しています。また先進国の少子高齢化、格差の拡大と資源争奪など、私たちを取り巻く社会も変化しています。そのような中

ものづくりはどのように変わっていくのでしょうか?

未来の組織や経営は何が求められるのでしょうか?

経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、こういった課題に対するヒントになるコラムです。

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中小企業でもできる簡単な原価計算のやり方

 
製造原価、アワーレートを決算書から計算する独自の手法です。中小企業も簡単に個々の製品の原価が計算できます。以下の書籍、セミナーで紹介しています。

書籍「中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書」

中小企業の現場の実務に沿ったわかりやすい個別製品の原価の手引書です。

基本的な計算方法を解説した【基礎編】と、自動化、外段取化の原価や見えない損失の計算など現場の課題を原価で解説した【実践編】があります。

ご購入方法

中小企業・小規模企業のための個別製造原価の手引書 【基礎編】

中小企業・小規模企業のための
個別製造原価の手引書 【基礎編】
価格 ¥2,000 + 消費税(¥200)+送料

中小企業・小規模企業のための
個別製造原価の手引書 【実践編】
価格 ¥3,000 + 消費税(¥300)+送料
 

ご購入及び詳細はこちらをご参照願います。
 

書籍「中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!」日刊工業新聞社

書籍「中小製造業の『製造原価と見積価格への疑問』にすべて答えます!」
普段疑問に思っている間接費・販管費やアワーレートなど原価と見積について、分かりやすく書きました。会計の知識がなくてもすらすら読める本です。原価管理や経理の方にもお勧めします。

こちら(アマゾン)から購入できます。
 
 

 

セミナー

原価計算と見積、価格交渉のセミナーを行っています。

会場開催はこちらからお願いします。

オンライン開催はこちらからお願いします。
 

 

簡単、低価格の原価計算システム

 

数人の会社から使える個別原価計算システム「利益まっくす」

「この製品は、本当はいくらでできているだろうか?」

多くの経営者の疑問です。「利益まっくす」は中小企業が簡単に個別原価を計算できるて価格のシステムです。

設備・現場のアワーレートの違いが容易に計算できます。
間接部門や工場の間接費用も適切に分配されます。

クラウド型でインストール不要、1ライセンスで複数のPCで使えます。

利益まっくすは長年製造業をコンサルティングしてきた当社が製造業の収益改善のために開発したシステムです。

ご関心のある方はこちらからお願いします。詳しい資料を無料でお送りします。

 

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