改善は、頑張り方を間違えると“忙しくなっただけ”になりがちです。 工程・設備・人のコスト構造を押さえると、改善テーマの優先順位がはっきりします。 まずは考え方を確認し、必要なら30分で現状の整理から始められます。
※このページでは、売り込みではなく「現状の整理」と「次にやることの明確化」までを目的にします。
値上げは“思いつき”では通りません。材料費・電気代・人件費の上昇を、社内と取引先が納得できる形に整えると、 交渉のストレスは大きく下がります。
※「試算に必要な数字が揃っていない」場合は、先にガイドで整理してから進むのがおすすめです。
人為的なミスであるヒューマンエラーを防ぐために、チェックリストの活用が有効です。複雑な手順を記憶に頼らず確実にするため、航空業界では古くから重大事故の教訓からチェックリストが使われてきました。また、医療現場でも感染防止や手術の安全確保、チーム内のコミュニケーション向上に役立っています。良いチェックリストは、マニュアルとは異なり、致命的な項目に絞り、シンプルで明確な文章で記述し、作業の一時停止点を設けて確実に確認することが重要です。
あっ忘れ物!
作業ミス!
私たちは普段から多くのヒューマンエラーを起こしています。時にはこれが深刻な不良や重大事故につながります。
どうすればヒューマンエラーを防ぐことができるのでしょうか?
そのヒントは私たちが普段使っているツールにあります。
「チェックリスト」です。
チェックリストはこれまで多くの事故やトラブルを防いできました。
今回はこのチェックリストについて取り上げました。
ひとつのミスが重大な事故につながる飛行機の運行、
そこには多くの事故を教訓としてチェックリストの活用が進められてきました。
1935年アメリカ陸軍は次世代の長距離爆撃機の開発をマーチン社、ダグラス社、ボーイング社に提示し、各社はプランを示しました。
ボーイングのブランは全長31メートル、4基のエンジンを搭載したこれまでにない大型の機体でした。他社よりも高速で長距離を飛行できるモデル299でしたが、試作機が離陸直後に墜落し、2人の乗員が亡くなりました。
原因は「パイロットのミス」、
パイロットはモデル299の複雑な操作に気を取られ、昇降舵と方向舵のロック解除を忘れました。
ある新聞は「一人で飛ばすには大きすぎる飛行機だった」と評しました。
しかし陸軍はあきらめずにモデル299の開発を継続しました。
陸軍の取った解決策は「チェックリスト」でした。
亡くなったパイロットは熟練のテストパイロットでした。これ以上の技量をパイロットに求めるのは現実的ではありませんでした。

彼らは、ハガキ大のカードに、離陸、飛行、着陸などそれぞれのチェック項目を書きました。
「ドアと窓は閉じられているか」
「昇降舵のロックは解除されているか」
項目は当たり前のことばかりでした。
しかしその効果は絶大でした。試験飛行は成功し、モデル299は「B-17」、別名「空飛ぶ要塞」として正式採用されました。
モデル299は「一人のパイロットが飛ばすには大きすぎる飛行機」ではなかったのですが、
1989年1月8日、ヒースロー空港を出発したブリティッシュミッドランド航空92便(ボーイング737-400型)は、高度8500mの地点で左エンジンが損傷しました。
しかしパイロットは右エンジンの火災と判断し、右エンジンを停止させました。そして緊急着陸のためイーストミッドランズ空港に向かいました。
その結果、着陸態勢中に損傷した左エンジンがついに停止しました。推力を失った機体は地面に激突。乗客118名の内47名が犠牲になりました。
従来の機種は、空調システムの吸気口が右エンジンコンプレッサーにありました。そのため、副操縦士は機内が焦げ臭いことから、右エンジンが損傷したと判断しました。しかしこの新型機(ボーイング737-400型)は、両側のエンジンから空気を取り込むようになっていました。そして火災を起こしたのは左エンジンでした。
客室内から右のエンジンから炎が上がっているのが見えたのですが、そのことを副操縦士は確認しませんでした。
飛行機でチェックリストが活用されているのは、限られた時間の中で確実な手順が求められるからです。
「急いでいるからこそ、確実であるべき」
墜落か生還か、生死がかかっている場面で、同じことを何度も繰り返す余裕はありません。
2009年1月15日 ニューヨーク発USエアウェイズ1549便がカナダ雁の群れに遭遇しました。不幸ことにふたつのエンジンがカナダ雁を吸い込んでします、エンジンが停止しました。
しかし機体はハドソン湾に無事不時着、乗客・乗員合わせて155名は無事でした。

| 図2 不時着水したUSエアウェイズ1549便 |
エンジンが停止してから着水するまでの時間は3分しかありませんでした。しかも着水時の衝撃で後部貨物室ドアが破損しました。そのため機体は1時間後には水没してしまいました。
しかし機内には
エンジン再始動のチェックリスト
不時着水のためのチェックリスト
緊急脱出のチェックリスト
がありました。チェックリストに従い必要な手順を確実に実行できました。
機長は機内に取り残されている人がいないか、機体最後部まで確認した後、最後に機内を出ました。
切羽詰まった状況では、人間の記憶力と集中力はあてになりません。一つ手順を忘れればすべてが台無しになってしまうような場面で、記憶力に頼るのはとても危険です。
いつ沈むかもしれない機内で、乗客を確実に脱出させる際、その場で正しいやり方を考えている時間はありません。あるいは、ずいぶん前に行った脱出訓練の記憶に頼っていては、大事な手順を飛ばすかもしれません。そんな時、チェックリストがあれば確実に行動できます。
例えば車の運行前点検、令和4年の法改正で、社用車・事業用車の運行前点検が義務付けられました。
では「どこをどう点検するのか」わかるでしょうか?
運行前点検は、運転免許取得時に誰もが学んだはずです。ですが
このチェックリストを使って安全を確実にしているミュージシャンがヴァン・ヘイレンです。彼らの地方巡業には機材を満載した9台のトラックも随行します。しかし地方のステージが機材の重さに耐えられないなどトラブルが多発します。そのため彼らの契約書は電話帳並みに分厚いものです。そこには奇妙な項目があります。
「楽屋にボウル一杯のM&M’sチョコレートを用意すること。ただし、茶色のM&M’sはすべて取り除いておくこと。もし違反があった場合はコンサートを中止し、バンドには報酬を満額支払うこと」
実際、ボーカルのデビッド・リー・ロスはコロラド州のイベントで茶色のM&M’sを見つけて中止しました。ヴァン・ヘイレンのメンバーは、茶色のM&M’sがそれほど嫌いなのでしょうか。
ボーカルのデビッド・リー・ロスは、次のように語っています。
「もし楽屋で茶色のM&M’sを見つけたら、全てを点検しなおすんだ。すると必ず問題が見つかる。」
事実、コロラド州のイベントでは興行主が重量制限を確認しておらず大事故になるところでした。
チェックリストに頼ると
「チェックリストに従うだけになり、自分で考えなくなる。硬直化する」
と考える人もいます。しかし現実は逆です。チェックリストを使うと
「何をチェックするか」
といった単純なことはチェックリストに任せることができます。そして
「チェックした結果がどうだったか」
といったもっと難しい問題に注意を集中できます。
単発のセスナ機のチェックリストには、飛行中にエンジンが停止した場合のエンジン再始動の方法が6つの手順に凝縮して書かれています。ただし最初の手順は1つだけ、「飛行機を飛ばせ」。 パイロットはエンジンの再始動や原因の分析に一生懸命になり、最も大事なことを忘れてしまいます。それは
多くのパイロットが問題解決に気を取られて墜落したことをこのチェックリストは伝えています。
チェックリストの効果があるからといって、すべての作業でチェックリストを使うようにすれば誰も使わなくなります。日々行う作業は誰でも覚えています。だから作業者はチェックリストの必要性を感じません。
ではどんな時にチェックリストは効果があるのでしょうか。それは、
です。航空機のエンジン再始動は、運行中に一度もそんな場面に遭遇しないパイロットも多くいます。だからこそチェックリストが役に立ちます。
手順を省く誘惑は常に存在します。確認作業の大半は、その結果は問題ありません。だからといって「今回ぐらいやらなくても問題は起きないだろう」といった怠惰が続けば、いつか惨事が起きます。チェックリストは、そういった誘惑に負けないツールでもあります。
そしてリーダーの判断がおかしいと思ったとき、その判断項目がチェックリストにあれば、スタッフは声を上げることもできます。
1977年テネリフェ空港で起きた航空機事故では、KLMオランダ航空の機長は管制塔の指示を勘違いし、離陸許可が出たと思ってしまいました。疑問に思った機関士は「パンアメリカン航空がまだ滑走路にいるのでは?」と機長に聞きましたが、「大丈夫だ」と機長は言い切り離陸を開始しました。その結果、2機のボーイング747は衝突し、583名がなくなるという史上最悪の航空機事故が発生しました。
飛行機の操縦が1人の人間が記憶するには複雑すぎるのであれば、医療現場も1人の人間が行うにはあまりにも複雑です。外科医アトゥール・ガワンデは、1人の医師が1年に平均何種類の病気を診ているのか調べたところ、
250種類の病気を診断し、300種類の薬を処方し、100種類の検査を行っていた
ことが分かりました。
そのどれもミスがあれば命に関わります。
静脈カテーテルの挿入では、挿入時の細菌感染が問題でした。2001年にジョンズ・ホプキンス病院のICU(集中治療室)のピーター・プロノボスト医師は、中心静脈カテーテルの挿入のチェックリストをつくってみました。リストは5つの手順が記載されました。
1か月観察したところ、1/3以上の患者で1つ以上の手順が省略されていました。そこで医師が1つでも手順を飛ばした場合
その後1年間でカテーテル挿入から10日間の感染率が10%から0%に低下し、カテーテルの感染は15か月間で2件しか起きませんでした。
オーストリアの心臓外科医マーカス・テールマン医師は、これまで雪崩や水難事故による心肺停止の患者の蘇生を何度も試みましたが、しかし1人も助けることができませんでした。わずかながら助かる可能性が見えても、必要なものがすべて揃っていることはなく何かが足りませんでした。
そこでレスキュー隊と電話オペレーターにチェックリストを渡し、事故現場に到着する前にチェックリストに従って機器の準備をしてから病院に連絡を入れるよう頼みました。
ある日、3歳の少女が氷の張った池に落ちてしまいました。両親が池の底で彼女を発見したのは30分後、テールマン医師の病院に運び込まれた時には、すでに2時間以上経過し、少女は仮死状態でした。彼女はすぐにICUに運ばれ、人工呼吸器やECMO(体外膜型肺)など幾多の治療を行いました。こうして数千もの手順を経て、2週間後、彼女は退院しました。
専門家が集まり、お互いが協力して行う手術は、複雑で一度に多くのことを行わなければなりません。そのためこれまでも少なからずミスが起きていました。
こういったミスに対してチェックリストを導入した病院がスタッフにアンケートを取りました。その結果、80%のスタッフが「チェックリストは短時間で簡単に使え、手術をより安全にしてくれた」と答えました。
そして「もしあなたが手術を受けるとしたら、その時にチェックリストを使って欲しいと思いますか」という質問には93%がイエスと答えました。
つまり93-80=13%、この人たちは、
と考える人たちでした。
様々な専門家が協力して行う手術は、大きな病院の中ではメンバーがそれまで全く面識がないこともあります。メンバーの名前も知らない中で、予期せぬ事態が手術中に起きればどうなるのでしょうか。こんな時、チームワークの良し悪しは患者の命に関わるかもしれません。
そのためチェックリストに自己紹介の項目があります。
お互いが名前と担当を言います。手術室で自己紹介なんて奇妙に思うかもしれません。しかし実際、その効果はてきめんでした。手術を終えたスタッフに手術中のコミュニケーションについて評価をしてもらうと、自己紹介をしたチームはコミュニケーション項目が高く評価されました。
そして手術開始前に自己紹介と、この手術についての懸念を話す機会があると、手術中もお互いに問題を提起したり、解決策を出しやすくなることが分かりました。
患者の立場で考えると、麻酔をかけられ開腹された自分の体越しに、手術スタッフが意見交換しているのは、あまりいい気がしないかもしれません。しかしお互いがよそよそしく、しかるべき確認をせず、懸念事項があっても気が付かないふりをされるよりは、はるかに良いのではないでしょうか。
事実、南カリフォルニアの病院ではチェックリストと手術前の話し合いで、塩化カリウムのバイアルと抗生物質のバイアルの取り違えに気づきました。(もし塩化カリウムを投与したら患者は亡くなっていたかもしれません。) また書類の記入ミスで「ソラコスコピー」(胸腔鏡化手術)でなく「ソラコトミー」(開胸術)の準備をしていたことにも気づくことができました。
チェックリストはマニュアルではありません。マニュアルは必要な手順が全部記載され、往々にして膨大な量になります。また作業中にマニュアルを読むこともありません。
では「なぜマニュアルを作るのか」と言えば、
正しく教えるためです。
マニュアルという基準となる文書から正しい作業を教えます。もし現実の作業内容が違っていればマニュアルを改訂します。
しかしチェックリストは作業中に毎回使用します。毎回使用するだけに内容はシンプルなものでなければなりません。
いつチェックを行うのか、作業の一時停止点を明確にします。「行動したのち、チェックをするのか」、「チェックリストを見て行動するの」を決めておきます。
そして一時停止点では、行動を一旦停止して確実に確認します。ぱっと見て
「やってあるから大丈夫だろう」では不十分です。
確実に行われていることを確認したから、次の行動に移行しても問題ないのです。
ただしチェックリストが長すぎて、一時停止点が1分~1分半もかかるとチェックリストを邪魔に感じるようになります。そしてチェックリストを使うのを省いてしまいます。そのため、チェックリストの項目は
に絞ります。心配だからとあれもこれも入れてはいけません。
ボーイングがつくる非常用のチェックリストには、管制塔への連絡などパイロットが行うべきことが書かれていません。それは非常時では管制塔への連絡をパイロットは忘れないことがわかっているからです。
従ってチェックリストは長すぎず、原則として5~9項目、1枚の紙に書ける程度にします。
また文章はシンプルで明確なもので、誰が読んでも同じ解釈になるものでなければいけません。よく見かけるチェックリストに「○○を確認したか」があります。確認すれば結果はどうでもよいのでしょうか? これでは誰が見ても同じ結果は得られません。確認した結果、問題があるかどうか、結果を適切に判定し記入するようなチェックシートが望ましいでしょう。

チェックリストはつくれば終わりではありません。実践の場で問題ないか、実際に使ってみて改良が必要です。特に非常時には想定外のことが起こります。チェックリストが思ったように機能しないかもしれません。この非常時用のチェックリストをどうやってテストするのでしょうか。
ボーイングは実機のコックピットさながらの精巧なフライト・シミュレーターで様々な非常事態を再現します。その結果、最初に作ったチェックリストが思ったように機能しかったこともありました。そこから改良に改良を重ねて、必要なことを網羅したシンプルなチェックリストをつくります。
実際には、飛行中にトラブルが起きればパイロットに入る情報は限られています。「警告灯の原因は何なのか」、「どこまで損傷したのか」様々な現象が考えられます。しかし彼らはコックピットで意見を戦わせるよりも、まずチェックリストを手に取ります。それほどチェックリストは信頼されているのです。
では、このチェックリストの考え方をものづくりに生かして、ミスを防ぎ100%安全・良品を実現することはできるのでしょうか。
チェックリストに従ってチェックしたのにもかかわらずチェック漏れが発生しました。チェック漏れの対策は難しいため、やむなくダブルチェックを行うこともあります。しかしこれにはダブルチェックは2つの問題があります。
こうした問題を避けるため、1回目と2回目でチェックの方法を変えます。検算する場合、1回目は上から検算し、2回目は下から検算します。
あるいは2人がチェックするのであれば、一人が数字を読み上げ一人が数字を確認することで責任の分散を防ぐことができます。
データの集計の多くはエクセルなど表計算ソフトで行います。表計算ソフトだから計算間違えはないはずですが、元々の計算式が違っていたため誤った結果が出ることがあります。表計算ソフトだからと信用せず、チェック機構を組み込みます。例えば、表に入力する場合、図のように行から合計したものと、列から合計したものを表記します。もし違っていれば、表のどこかの値が間違っている可能性があります。

エクセルで複雑な計算をする場合、関数で一度に計算せず、あえて計算を分けて途中過程の値を表示します。これにより「計算式が正しいか、結果が合っているか」確認が容易になります。
例えば設備Aから設備Dまでの4台の設備の製品毎の特性値を以下の表のように測定しました。設備毎の工程能力指数Cpkを計算したい場合、Cpkの計算式は以下の式で表されます。

この場合、Cpkの計算式を下のようなエクセル関数をつくれば一度で計算できます。しかし計算式に間違いがあった場合、確認が容易ではありません。

そこで手間がかかりますが、下表のように平均値、標準偏差、かたより係数と順に計算します。

そうすれば途中過程の平均値や標準偏差の値が、ある設備だけが大きければ、Cpkが悪い時もそれが原因だとわかります。
作業標準書には正しい手順が書かれていますが、やってはいけないことまでは書かれていません。しかし作業者は知らないうちに、やってはいけないことをやってしまうことがあります。そこで作業標準書にやってはいけないことも書いておきます。特に過去に「こうしたら、このような問題が起きた」そういった実例があれば記載します。NG作業とその結果、起きることを書いておけば、
1999年9月30日、茨城県那珂郡東海村にある株式会社ジェー・シー・オー(住友金属鉱山の子会社。以下「JCO」)の核燃料加工施設で、原子力発電所の核燃料を製造中に核分裂反応が起きるという臨界事故が発生し、作業員2人が死亡、1名が重傷を負い、667名が被ばくしました。
JCOは作業の効率化のため、国の規定に反した独自のマニュアルを作成していました。さらに当日、被爆した作業員は、そのマニュアルとも違う方法(バケツと沈殿槽と呼ばれる容器で混合する)で核燃料を製造し、核分裂反応を起こしてしまいました。

JCOは、製造しているものが「一歩扱い方を間違えれば核分裂反応を起こす核燃料」で、「どうすれば核分裂反応をおこすのか」、「なぜこのような手順を決めたのか」その理由を作業員に説明していませんでした。
核燃料のように見ただけでは危険なものに見えないものは、工場には多く存在しています。化学薬品には触れば化学やけどを起こす危険なものもありますが、見た目は透明な液体にすぎません。
また「稼働している設備の回転部に巻き込まれればどうなるのか」初心者は具体的にイメージできません。
そんな場合、実験して危険を実感してもらう方法があります。化学薬品であれば、「買ってきた鶏肉や豚足に薬品をかけてみる」、設備であれば「稼働している部位に木の棒や豚のスペアリブを入れてみる」などです。
その結果どうなるのか、赤くただれたもも肉や砕け散ったスペアリブを目の前で見れば、保護メガネや手袋もせず化学薬品を扱ったり、稼働中の設備に手を入れようとは思わないでしょう。
1955年、雪印乳業北海道八雲工場で停電と機械故障のため、製品の牛乳で食中毒菌が繁殖し、小学生1936人が食中毒になりました。当時の社長 佐藤貢は以下の文を全社員に向けて発信しました。
「当社の事業において唯―人の怠る者があり、責任感に欠ける者がある場合、それが社会的に如何なる重大事件を生じ、社業に致命的影響を与えるものであるかは、今回の問題が何より雄弁にこれを物語っており、われわれは痛切にこれを体験したのである。
(中略)
信用を得るには永年の歳月を要するが、これを失墜するのは実に一瞬である。
(中略)
われわれ全社員がこの問題を徒らに対岸の火災視することなく、各々の尊い反省の資料としてこれを受入れ、全員が一致団結し、真に謙虚な気持をもって愈々技を錬り職務に精励し、誠意と奉仕の精神とをもって、生産者と顧客に接する努力を続けるならば、必ずや従来の信用を取戻すことが出来るばかりでなく、ますます将来発展への契機となることを信じて疑はない。」
全文はこちらから
残念ながらこの教訓はいつしか風化し、2000年に14,780人もの食中毒事件を起こし、雪印乳業は解体されました。
事故や失敗は誰でも思い出したくない出来事です。しかも世代交代で、当時を知る人は徐々に会社にいなくなっていきます。それを風化させないためには、あえて何度でも学ぶ姿勢が必要なのではないでしょうか。
日本航空が2006年にオープンした安全啓発センターには、1985年に御巣鷹山に墜落した123便の機体が展示されて、事故から30年を迎えた2015年には2万人が訪れています。当初、日本航空はフライトレコーダーのみを社員教育用に残し、他は廃棄する予定でした。しかし遺族の強い要望により機体の一部が展示されています。
安心とは「危険源が存在しない状態」です。現実には、様々な活動の中で危険源が存在しない状態はあり得ません。従って安全を達成するには、「安心はあり得ない」と考えるひつようがあります。「安心はあり得ない」のだから、安全は信頼によって得るしかないのです。
この信頼とは、中谷内 一也によれば、
の双方が必要です。安全を確保するための能力は、チェックリストなどの手法や仕組みで整備しても、
がなければ、安全を確保する文化は培われず、チェックリストや仕組みの適切な運用は得られないでしょう。
経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、技術革新や経営、社会の変革などのテーマを掘り下げ、ニュースからは見えない本質と変化を深堀したコラムです。「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しています。過去のコラムについてはこちらをご参照ください。
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なぜこのように違いが生じたのでしょうか。そこには新商品・新事業の陥る典型的な失敗と、錬金術が欠けていたためでした。
トーマス・エジソン、グラハム・ベルなど有名な発明者の名前が歴史に残るため、彼らが画期的な発明が起きて新製品ができたように思われています。しかし現実には、単一の発明だけでは製品化は困難でした。これらの製品は多くの人々の度重なる試行錯誤の結果、製品が実現しました。

こうした試行錯誤が生まれたのは、その製品を必要する状況、つまりニーズがあったからです。ニーズを満たそうとして多くの人が度重なる改良を行い、製品は完成されたのです。実際に電球や電話は多くの人たちが改良に取組み様々な技術が開発されました。
蒸気機関は、最初は炭鉱の水のくみ上げ用のポンプに使用されました。幾多の改良を経て、効率は高まり、その結果、蒸気機関車に応用されました。炭鉱や製鉄所では鉄鉱石の運搬用にすでにレールが敷かれていて、運搬のために馬車が使われていました。
このニーズとは、顧客が不便に感じていること「不」にあります。大事なのは、この「不」は誰に対してかと言うことです。蒸気機関という技術ができた後、最初の「不」は炭鉱に湧き出る水の排水でした。労働者がポンプを動かして1日中排水するのは大変なので、蒸気機関が使われました。
こういった新しい技術を採用するのは、リスクがあっても新しいものを好む人たちです。これはアーリーアダプタと呼ばれます。彼らが新しい技術を採用して、それが順調なことが分かります。すると後からより慎重な層が採用します。これをアーリーマジョリティと呼びます。

このアーリーアダプタとアーリーマジョリティの間には大きなギャップがあります。そして画期的な製品の多くがこのギャップを超えられずに事業化に失敗しました。このギャップをジェフリー・ムーアは「キャズム」と呼びました。
つまりアーリーアダプタとアーリーマジョリティでは、「不」に対する考え方が違うのです。そのため製品がキャズムを超えるには、アーリーアダプタから、アーリーマジョリティに変わる顧客に合わせて製品やサービスを進化させなければならないのです。
製品やサービスを進化させる過程で、多額の資金や体制が必要なこともあります。中小企業の場合、時には自社で太刀打ちできる規模を超えることもあります。そうなると新規事業を自社が独占できません。競合が現われ、自社の資本が競合に比べて不十分であれば、キャズムを超える段階で競合に敗れてしまいます。
それを避けるには、市場を自社の規模に合った市場に限定することです。最初は小さな池で大きな魚を目指します。逆にこれから新製品や新事業に取り組む場合、自社が大きな魚になることかできる事業や製品を考えます。
現実には「満たされていない、○○がない」という状況はそれほど多くありません。ものがあふれる今、人々は大抵のものを持っています。さらに買ってもらうためには「欲しい気持ち」が必要があります。
「必要なもの」と「欲しいもの」では価格に対する反応が違います。必要なものは「やむなく買うもの」です。そのためできる限り安いものを買います。当然、価格競争は激しくなります。 欲しいものを買うときはワクワクします。欲しいから買う時、価格は重要ではありません。

| 図3 欲しいものはわくわくする |
そういう気持ちになってもらうには販売促進が不可欠です。スーパーの特売チラシは「今しかない」特売品を買うことで、顧客はお得感を感じワクワクします。対して特売をしないエブリディロープライス戦略は、特売でのコスト、販促費をなくし、店舗を効率的に運営できます。その分を価格に反映しいつでも安く売ることができます。これは理論上は正しい戦略ですが、特売がなければ顧客のワクワク感はありません。買いたいという感情が起きず、買い物は必要なものを買うという作業になってしまいます。
高度成長期の日本は、買うことで生活に大きな変化を起こしました。
例
今日では新たな製品を買っても、高度成長期の製品のような大きな変化は起きません。車を持っていなければ、好きな時間に自由に生きたいところに行ける車は「欲しい」ものです。しかしすでに車を持っている人にとって、車を買い替えても生活の質が変わるわけではありません。
このように新たな消費による変化は小さくなっています。だから何らかの「欲しい」気持ちを強く起こさせなければなかなか買ってくれません。
一方、それまでないこと「不」が日常だった場合、顧客は「不」を意識していません。車を持っていない人にとって、車がないことは当たり前です。そのことでさほど不便は感じていません。ところが周りの人が車を買って、その人の車に乗せもらうと、その便利さに欲しいと感じます。そういう感情を起こすのが販売促進です。逆にそういった感情が起きなければ市場は広がらないのです。
例えば、男性のメイクは20世紀から化粧品会社が幾度も挑戦しました。しかし大きな市場にはなっていません。
なぜ男性のメイク市場は広がらないのでしょうか?
もし人が何事もすべて合理的かつ経済的に考えれば、以下の商品は誰も選択しないはずです。
そしてこのような人は経済学では想定していません。なぜなら経済学で想定する合理的経済人は、以下のような人だからです。
現実には人は非合理な存在だから先に挙げたものを消費します。非合理な感情は論理では刺激できないのです。そこには不合理なアイデアが必要です。
人はとびきり高いものには興味と関心を示します。対してとびきり安いものはお値打ち感とお得を感じます。しかし高くもなく安くもないものは感情が動きません。だから買おうとしません。
人の感情を揺さぶり記憶にとどめるのに「物語」は大きな力を発揮します。
例)友人の友人の話
彼は出張である地方都市を訪れました。地元のバーで一杯飲んでいると魅力的な女性が近づいてきて
「もう一杯いかが。ごちそうするわ」
彼女は飲み物を2杯取り、1杯を彼に渡しました。その一杯に口をつけたところで記憶が飛びました。
目覚めたとき、ホテルのプールで氷水に浸かっていました。メモには「動くな!救急車を呼べ!」と。
そばの携帯電話から消防署に電話すると、消防署には彼の状況がわかっているようでした。
「いいですか、ゆっくりと背中に手をまわしてください。腰のあたりからチューブが出ていませんか」
確かにチューブがあります。
「落ち着いてください。あなたは腎臓を一つ取られたのです。この町で暗躍する臓器狩り組織の犯行ですね。今救急車がそちらに向かっています。動かずに待っていてください。」
これは「臓器狩り」の都市伝説です。これは一度聴いたら忘れられない「記憶に焼き付く話」です。これを聞いた人は、旅先で見知らぬ女性から飲み物をおごってもらうのはためらうでしょう。
このように物語はとても大きな力を持っています。しかし多くの販促は商品を「説明」し「物語」はありません。そうした販促を手掛ける人たちは、顧客は説明を聞けば買ってくれると信じているようです。しかし欲しいものがない顧客、または「不」に気づいていない顧客に欲しいと思ってもらうには、説明でなく感情に訴える物語が必要です。それが後述の錬金術なのです。
ただし、それには「顧客が誰なのか」明確にする必要があります。ところが新製品では製品が浸透する段階によって顧客が変わるのです。
ジェフリー・ムーアは彼の著作「キャズム」「キャズム2」で、アーリーアダプタとアーリーマジョリティの顧客層には違いがあり、企業がそれに対応できなければ失速してしまうと述べました。
特にソフトウェアなどハイテク製品の場合、メーカーが新しい製品を発売すると、新しい製品や技術に熱心な層が顧客となり初期市場が形成されます。この初期市場を形成する顧客がアーリーアダプタです。彼らは以下の特徴があります。
初期市場からメインストリーム市場へと移行すると顧客がアーリーアダプタからアーリーマジョリティに変わります。アーリーマジョリティはアーリーアダプタに比べ非常に多く市場は大きく広がります。アーリーマジョリティは以下の特徴があります。
アーリーアダプタとアーリーマジョリティの差を比較すると、2025年にEV市場が失速した原因が分かります。費用対効果が低かったのです。アーリーマジョリティ層は内燃機関より価格が高く、性能も高くないEVには飛びつかなかったのです。
これまでのやり方を重視し不連続なイノベーションを受け入れない人たちです。彼らは市場の1/3を占めます。従来、多くの企業がないがしろにしてきた市場ですが、その大きさを考えると無視できません。レイトマジョリティは以下の特徴があります。
多くのハイテク製品がキャズムを超えられなかったのは、実は超えようとしなかったからです。アーリーアダプタとアーリーマジョリティは客層が違い、製品に求めるものも違います。初期市場で成功し、足掛かりをつかんだら、メインストリーム市場で成功するための製品の開発に、ただちに取り掛からなければなりません。
初期市場で成功するためには
これがメインストリーム市場では
従って初期市場からメインストリーム市場へ発展するためには、ホールプロダクトをいち早く開発しなければいけません。
例
1990年にゼロックス社からスピンアウトした文書管理技術のドキュメンタム社は、売上が低迷しキャズムに落ち込んでいました。そこで顧客の声を調べなおし、製薬会社の薬事規制担当というとてもニッチな市場をターゲットとしました。対象市場をこれまでの大手企業の複雑な文書管理に携わる人たちから、すべてを合計しても千人足らずのニッチな市場に絞ったのです。
製薬会社の新薬認可申請書は25~50ページに及び、膨大な情報を必要とします。そのため申請書の作成に数か月の期間と多額の費用がかかっていました。ドキュメンタムの文書管理技術は、申請書の作成期間を短縮し、問題を解決することができました。その結果、製薬会社40社の内30社が同社の製品を使用しました。そこから製薬会社の研究所、製造工場、そして化学薬品や石油精製工場へと市場を拡大しました。こうして同社はキャズムを超え売上1億ドルに成長しました。
初期市場を定める時、ドキュメンタム社は市場の大きさでなく、顧客の感じている痛みの大きさで決めたのです。
キャズムに似たものに魔の川、死の谷、ダーウィンの海があります。これは新規事業が成功するまでの3つの障壁です。

基礎研究で技術は確立しても、具体的な市場のニーズに結びつかず製品に出来ずに終わってしまうことです。
製品は出来ても、事業として収益を得ることができずに終わってしまうことです。事業化には、製造、流通、販売などの体制が必要で、そのためには資金も必要です。また全く新しい製品の場合、市場がないことも多く、製品ができても市場をつくることができずに終わってしまうこともあります。
事業化ができて収益が得られるようになっても、競合との競争に勝たなければいけません。新しい技術の場合、既存の技術と置き換えることの意義やメリットが市場に認知され、製品が市場に浸透しなければいけません。この競争に勝てなければパイオニアとして市場に参入したのにも関わらず、退出を余儀なくされます。
ベンチャー起業家は投資家の求めに応じて、売上、利益が増加し続けるホッケースティック曲線を描くことが多いです。しかし現実にはそのようになりません。

キャズムの前に売上はしばらく停滞し、投資がかさみます。しかしキャズムを超えれば売上は増加し始めます。その後はメインストリーム市場の他のセグメントに顧客が拡大するに従い、成長と停滞を繰り返し、階段状に成長します。
投資家がホッケースティック曲線の事業計画を信じていればキャズムに陥り停滞が続くと、そこでその事業を見放してしまうかもしれません。
広告会社オグルヴィUK副会長ローリー・サザーランドは、著書「欲望の錬金術」で新製品や新事業が成功するかどうかは、錬金術の有無にあると言います。
彼のいう錬金術の根本には「人はロジック(論理)でなく心理(サイコ)ロジックで動く」と言うものです。しかし事業に関わる人の多くが論理で事業を進めようとして失敗します。
現に成功しているビジネスモデルのすべては、合理的な理由から人気があるふりをしていても、成功の大半は心理的な魔法のトリックを偶然発見したことによります。
例えば、グーグルやダイソン、ウーバー、レッドブル、コカ・コーラ、マクドナルド、アップル、スターバックス、アマゾンなどです。そしてこれらの企業のライバルが失敗した原因の多くは、ビジネスのアイデアはロジカルだったが、錬金術がなかったためうまくいかなかったからです。
投資家、金融機関、管理部門などの人は、合理的な考え方を望みます。しかし錬金術は常軌を逸した非合理なものです。
「人々が欲しているのはうんとクールな掃除機です」ダイソン
「…そしてこれが最高なのはあらゆる人々が無償で書いてくれることです」ウィキペディア
「とりわけそのドリンクは消費者がひどくまずいという味をしています」レッドブル
「…完全に正気の人々が、家で作れば数十円しかしない飲み物を500円払うと期待しましょう」スターバックス
どの投資家がこんな話を理解するでしょうか。
リスクを回避したい官僚や重役にとっても、狭量で型にはまったロジックは自然な思考法です。しかもロジカルな取り組みであれば失敗しても責めを負うことはなく、解雇されません。
2016年のアメリカの大統領選挙では、トランプもヒラリー・クリントンもアメリカに製造業の雇用を取り戻したいと考えていました。ヒラリーの解決策はアメリカ、メキシコ、カナダの三国間貿易交渉という論理的なものでした。しかしトランプの解決策は「国境に壁をつくってメキシコ人にその費用を払わせる」でした。
まさに職を失った中間層が望んでいた言葉です。トランプは実現する必要はありません。彼らの感情に訴えるだけで十分なのです。そして不合理な人たちは合理的な人たちよりはるかに強力です。
広告業界最大の発見の中で、「キュートな動物が呼び物の広告はそうでない広告よりも成功する」というものがあります。
ある電気会社のキャンペーンでは、1年分の光熱費が無料(17万円相当)の景品より、ペンギン型ナイトスタンド(2600円相当)に5倍以上の応募がありました。
広告にかわいらしい動物を使うのは、ばかばかしい(ナンセンス)と思われがちですが、実は理解不能(ノンセンス)な方が広告として有利なのです。
錬金術をうまく働かせるには本当はばかげているべきです。
値段が高くて、量が少なくて、まずい飲み物の方が顧客は効果が高いと感じます。もし医者が「悪性のがんを治療する薬を処方します」と言い、「好きなだけ飲んで構いません。味はいちご味とカシス味のどちらがいいですか」と言ったらあなたはどう思うでしょうか。
ある犯罪多発地域では、店の金属製シャッターは、「この地域が無法地帯というメッセージ」になっているのではないかという仮説を立てました。そしてシャッターにかわいらしい幼児や赤ん坊のイラスト(心を落ち着かせる効果)を描いたところ、犯罪が減少しました。これは経済学では説明できません。
保険商品のパンフレットを以下の二種類用意しました。
すると、そのどちらも効果がありました。案内書を短いものにするというアイデアはよいアイデアでしたが、案内書を長いものにするという逆のアイデアもよいアイデアでした。

経済学者にとって1×10と10×1は同じです。期待値を計算すれば同じだからです。実際は1×10と10×1は同じではありません。1回で1,000万円もらえるロシアンルーレットは10人くらいはやるかもしれません。しかしその10倍の1億円もらえても1人で10回のロシアンルーレットはやらないでしょう。
アマゾンは47人の顧客に1つの品物を売ることができます。しかし1人の顧客に47の品物を売ることは容易ではありません。一度に47回も品物を買えば、47回も配送の対応をしなければならず、1回くらいは誤配送があるかもしれません。(まとめて配送を選択すればいいのかもしれませんが)
多くの企業は正しい決定のため、市場調査を行います。
しかし、「市場調査の問題は、人々が何を感じているのか考えないこと、何を考えているのかを言わないこと、そして言う通りの行動をとらないことだ」と、広告産業に多大な影響を及ぼした「広告の父」、デイヴィッド・オグルヴィ氏は述べています。
実は正しいプロセスで決定することはさほど重要ではありません。iPhoneは顧客のニーズに従ってつくられたわけでも、フォーカスグルーブと繰り返し相談して開発されたわけでもありません。1人の精神が錯乱した男による偏執狂的な構想のたまものでした。
彼はこうスピーチしました。
「ハングリーであれ、愚かであれ(Stay hungry, stay foolish)」
起業家の本質です。
意思決定に論理を用いる必要はありません。最も貴重な発見は、最初は筋が通らないものです。筋が通ったものなら他の誰かがとっくに試しているでしょう。むしろ直感に反したものを試してみるべきです。
以下は隠れた目的を暴く偽の広告スローガンです。
国家運営も同様です。共産主義国の計画経済がうまくいくには、人々が何を求め、何を必要としているかを官僚はすべて知っていて、その要望を適切に実現できるのが自要件です。現実にはそれは不可能です。人々の欲望を知るには試行錯誤が不可欠だからです。
女性の化粧、ファッション、美容に多額のお金が費やされています。これが異性へのアピールでないことは明白です。異性へのアピールであれば体を覆う布が少なければいいだけです。その真の目的は、他人と比較して自分に自信と言うプラシーボを与えるためです。だから誰にも会わない自宅では、すっぴんにジャージなのです。
男性の化粧品市場は広がらないのは、男性の自信に美容(化粧)という価値観がないからです。男性の自信は容姿でなく財力や権力だからです。それを象徴するのが高級車や高級腕時計です。これは女性にラグジュアリーカーやヨットの市場が広がらないのと同じです。
最高級のワインのビジネスに関わる専門家も同じように考えています。実は最高級のワインとは典型的なプラシーボ市場です。ワインビジネスの専門家は自分が売っている商品には関心がありません。彼らは自らを「売春宿の去勢男」と表現します。「宣伝している商品に免疫があるから、自分は価値があるのだ」と。
効果的なプラシーボのルールは
などが挙げられます。
格安航空会社は、自社にないものとして「事前に割り当てられた座席、機内食、無料の飲み物、無料の機内預かり荷物」を丁寧に説明します。そして交換条件を明確に定義することで、顧客に格安航空券を受け入れてもらいます。その裏の意味は、運行はちゃんとしていて危険はないことを示すためです。
スタンフォード大学教授チップ・ハースとコンサルタントのダン・ハースは、著書「アイデアのちから」で記憶に焼き付くアイデアの原則を挙げています。
1992年のアメリカ大統領選挙では、ビル・クリントンも政策通でなんでも答えたがったため、争点がぼけていました。選挙参謀ジェームズ・カービルは選挙スタッフに向けて「経済なんだよ、馬鹿(It’s the economy, stupid) 」と伝え、これにより争点は絞られました。対立候補の持ち出した財政再建は話題にならなくなりました。
トバースキーとシェイファーの実験に以下のようなものがあります。
学生に格安のハワイ旅行があると伝えて、期末試験の結果をその場で告げると、合格者の57%が「格好のお祝いだ」とハワイ旅行を決定し、また、不合格者の54%が「自分を元気づけるのによい機会だ」とハワイ旅行を決定しました。つまり格安のハワイ旅行があれば、合格しても不合格になっても半分以上はハワイに行くことを決断したのです。
しかし、試験結果を知らせない場合は、61%が旅行を決断しませんでした。つまり不確実性があると、人は決断しなくなります。
読者をひきつける優れた文章はすべて謎かけで始まっています。つじつまの合わない問題を提示し、状況を書いた上で、読者を謎解きの世界に誘います。
1953年アメリカからトランジスタのライセンスを取得した東京通信工業の井深大は、世界初のトランジスタラジオを開発しようとしていました。当時できたばかりのトランジスタは出力が弱く、補聴器ぐらいしかできないと言われていました。そこで井深が掲げた言葉は「ポケットに入るラジオ」。この言葉に技術者は奮起し、4年後に本当にポケットに入るラジオTR-55を発売、東京通信工業はソニーという世界的企業になりました。
バム・ラフィンは10歳で煙草を吸い始め、24歳で肺気腫を患いました。禁煙を訴える公共キャンペーンCMは彼女を起用し、自らの体験談を語ってもらいました。肺気腫のせいで呼吸困難になった姿や背中の手術跡、辛い気管支鏡検査などを放映しました。この物語は多くの人の心をとらえ彼女は禁煙運動のヒロインになりました。彼女は31歳で亡くなりました。

煙草の害を論理的、医学的に説明するよりも、実際のこの物語の方が見ている人の感情に強く訴えたのです。
「私がピアノの前に座るとみんな笑った…でも弾き始めるとみんな黙った」
ジョン・ケープルズの1925年のコピーです。多くのすぐれたコピーにより伝説のコピーライターと言われた彼は
「広告が成功しない理由で一番多いのは、自分たちの達成したことで頭が一杯なあまり、なぜ相手がそれを買わなければならないのかを言い忘れてしまうことだ」
と語りました。広告は相手のメリットを中心に組み立てるべきなのに、大多数の広告はそうではないのです。
この記事を書いた人
経営コラム「ものづくりの未来と経営」は、技術革新や経営、社会の変革などのテーマを掘り下げ、ニュースからは見えない本質と変化を深堀したコラムです。「未来戦略ワークショップ」のテキストから作成しています。過去のコラムについてはこちらをご参照ください。
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経済学者ゴードンは、20世紀の経済成長は特別な期間であり、今後は低成長が続くと主張。製造業の自動化やアウトソーシングで中間層の仕事が減少し、格差が拡大していると指摘します。また、IT革命は生産性向上に限界があり、AIが仕事を破壊しても新たな雇用を生み出していないため、政府の関与が不可欠だと論じています。
『アメリカ経済 成長の終焉』の著者であるロバート・J・ゴードンは、20世紀の100年間、経済が大きく成長したのは特別な期間であり、今後はこれまでのような成長は望めないと主張します。
なぜ20世紀の100年が特別な期間だったのかについては、「なぜ経済は成長し続けたのか?これからどうなるのか?その1」で、イギリスの産業革命とアメリカの工業化、戦後のアメリカの黄金期について述べました。
また、「なぜ経済は成長し続けたのか?これからどうなるのか?その2」では、新興国が貧しいままである理由や、日本が先進国の仲間入りができた理由について述べました。
今回は、これからどうなっていくのか、格差の拡大とIT・AIの寄与について述べます。
生産性が向上すれば製品の価格は低下し、より多くの人が多くの商品を手に入れることができます。こうして消費は拡大し、経済は成長します。そして、多額の資本を製造設備に投入すれば能率は上がり、生産性は大幅に向上します。工場で働く人の賃金も上げることができます。
製造業の賃金が上がれば、それはサービス業の賃金にも影響します。発展途上の低賃金国では、中間層(中流の家庭)でもメイド、門番、運転手など、さまざまなサービスをする人を雇っています。30年前、中国に旅行に行った際、空港のトイレに「トイレットペーパーを渡す係」がいました。それだけのことで人を雇えるほど、当時の中国は賃金が安かったのです。
しかし、経済が成長し賃金が高くなれば、こうしたサービスの価格は相対的に高くなります。賃金が上がれば、相対的に製品の価格は安くなる一方、修理などのサービスは高くなります。こうして経済が成長すれば、壊れた電化製品は修理するより新しく買った方が安くなります。
こうした現象を経済学者ウィリアム・ボウモルは、サービス業の「コスト病」と呼びました。なぜなら、多くのサービス業は生み出す価値が変わっていないからです。ウェイトレスの生み出す価値は、1870年と1970年で同じです。しかし、賃金は大きく違います。ウェイトレスが生み出す価値は変わらなくても、ウェイトレスをやめて他の仕事に就いたときに生み出す価値は違うからです。だから、製造業の賃金が上がれば、ウェイトレスの賃金も上げなければ誰もウェイトレスをやらなくなります。しかし、生み出す価値は変わらないため、雇用主はできるだけ賃金を抑えようとします。
その結果、サービス業は常に賃金に下方圧力がかかります。また、サービス業の多くは労働組合がないか、あっても非常に力が弱いため、労働者は賃金の交渉力がありません。こうした理由から、サービス業の賃金は多くの国で横ばい、もしくは低下しています。

そして、多くの先進国で雇用が増加しているのはサービス業です。先進国では製造業の雇用が減少し、その受け皿がサービス業です。その結果、ウェイトレスや美容師だけでなく、役所、教育、医療・介護など、あらゆるサービス業で賃金が伸び悩んでいます。
一方、世界の人口は増加し続けています。過去30年で世界の労働人口は10億人増加しました。これから30年でさらに10億人増加すると予想されます。この労働力をどうやって吸収するのかが大きな課題です。
製造業は自動化が進み、多くの工程を機械やロボットが行っています。自動車工場でボディをプレスし、溶接するのは自動プレス機や溶接ロボットです。人が主役となるのは最後の組立工程ぐらいです。
こうした工場で働く社員の多くが、生産計画や生産設備を考える事務職(ホワイトカラー)です。ホワイトカラーが高い賃金を得る一方で、かつて中間層を構成していた工場労働者の職は少なくなっています。
格差が拡大するもうひとつの原因は、企業がコア業務以外をアウトソーシングするようになったことです。
「会社はなんのために存在するのか」について、ロナルド・コースは、「市場を通じてすべてやろうとすると手間がかかりすぎるようになったときに会社が組織される」と述べました。
それぞれの仕事を外部の人間に頼むと、仕事をうまくやってもらうための調整作業(取引コスト)がかかります。そのため、すべてを社外に委託すると、調整作業が多すぎて非効率になります。社員を雇用して自発的に仕事をするようにすれば、この取引コストが削減できます。
ただし、その仕事がずっとあればよいのですが、仕事のある時とない時があれば、社員を雇用すると問題があります。仕事のない時、社員を他の仕事に回さなければならないからです。変化の激しい今日、ある仕事がずっとあるとは限りません。しかも、インターネットにより外部に依頼する手間は少なくなり、外部に依頼する取引コストは低くなりました。こうして、仕事の外部への委託や派遣社員が増加しました。アウトソーシング先の社員や派遣社員は賃金が低いことが多く、格差拡大の原因になりました。
このサービス業の賃金下方圧力は、アメリカの格差を拡大させています。それは製造業の衰退と関係しています。
1950年〜1970年のアメリカの黄金時代は、第二次世界大戦中の高圧経済と、その後の高賃金による活発な設備投資によるものでした。1970年代以降、石油ショックもあってアメリカの製造業は苦境に陥ります。
ひとつは、第二次世界大戦中に政府の資金で大規模な投資をした設備が老朽化したことです。また、日本のような新興国が力をつけてきたため、競争力が低下しました。また、復員軍人の大学教育無償化のような教育補助がなくなり、教育の格差が拡大しました。しかも、アメリカは国家が予算を地方に配分するのではなく、地方自治体が独自に予算を獲得します。そのため、豊かな地域とそうでない地域でも、行政サービスや教育に格差が生じました。
また、戦時中は軍需生産のため、多くの労働者(その多くは黒人)が南部から北部の工業地帯に移住しました。しかし、1980年代に入り、北部の工業地帯の製造業が衰退すると、それに代わる新たな雇用が生み出せませんでした。
アメリカの黄金時代である1948年から1972年の間、所得下位90%の実質所得の伸びは上位10%を上回りました。そのため、格差が縮小しました。それが一転して、1972年から2013年の間は下位90%の所得の伸びはマイナスに転じ、格差は拡大しました。
しかも、1950年から2010年の60年間に、シカゴは25.5%、クリーヴランドは56.1%、デトロイトは62.7%も人口が減少しました。これは、2001年以降、アメリカの製造業の雇用が600万人も減少したためでした。しかも、2009年から2013年の景気回復期に戻った人は60万人に過ぎず、その賃金は2001年より低い水準でした。
こうした格差の拡大によって、大半のアメリカ人はもう豊かではなくなっています。アメリカとフランスで比較すると、所得上位1%を除けば、残りの99%の世帯の所得の伸びは、アメリカよりもフランスの方がはるかに多いのです。
日本では巨額の国の借金(公的債務)が話題になっています。しかし、アメリカも政府債務が上昇しています。議会予算局(CBO)の予想では、2038年には政府債務はGDPの100%に達します。図はアメリカの政府債務総額の推移(2001年〜2025年)を示すグラフです。右肩上がりで一貫して増加していることが分かります。
また、民間企業の設備投資も減少しています。資本ストックに対する純投資の比率は、1950年から2007年の間は平均3.2%です。しかし、2000年以降は低迷し、2013年は1.3%でした。アメリカ全体で見れば、生産性を高めるための必要な投資が行われていないのです。


では、少子高齢化が進む日本の課題は何でしょうか。
この少子高齢化は、若年者の割合が減少する「少子化」と、高齢者の割合が相対的に増加する「高齢化」が同時に進行していることです。これによって、日本はさまざまな問題に直面しています。
具体的には以下の問題があります。
2007年には団塊の世代が定年を迎えることで、シニア消費が活発になることが予想されました。しかし、現実にはシニア消費は盛り上がらず、高齢化の進展とともに消費は低迷しています。
多くの日本人は年金生活に入ると、収入が限られることから消費を控えます。この点は、死ぬまでに財産を使い切るイタリアの老人たちと違います。多くの日本人にとって、お金が入ってくるから使うのであって、貯金を切り崩す生活は不安でしかありません。だから、少子高齢化は消費の低迷と経済の縮小をもたらします。
そこで期待されるのは、高齢者の労働参加やイノベーションです。
従って、少子高齢化でも経済成長するためには、イノベーションが重要であるといわれています。本当にイノベーションは成長をもたらすのでしょうか。
ロバート・J・ゴードンのいう「1870年から1970年までの100年が特別な世紀」だったこの時代、電気、蒸気機関、自動車の発明は、私たちに物質的な豊かさをもたらしました。そして、生活や社会は大きく変わりました。鉄道や自動車は物流を大きく変えました。紡績の機械化により生産性を飛躍的に向上させ、安価になった綿製品が世界中に輸出されました。つまり、技術革新により、人々の賃金が増加するとともに消費が大きく増加しました。そして、こうした機械化を促したのは、イギリスやアメリカの高賃金でした。
鉄道や紡績の機械化などの新たな技術は、設備投資(資本)に対する効率を高めます。この経済成長は以下の式で表されます。
GDP増加率 = 労働投入量の増加率 + 資本投入量の増加率 + それ以外の要素の増加率(TFP)
ここで
一方、人口や設備投資は変わらなくても、産出量(GDP)は増加します。これは技術革新があったためです。これをTFP(全要素生産性)、またはソロー残差と呼びます。
アメリカは、大戦中の大幅な設備投資の貯金が戦後の黄金時代を築きました。日本も戦後は荒廃した国土を立て直すために社会資本の整備に多額の税金を投入しました。しかし、1980年以降は設備投資は減少しています。しかし、設備投資の増加がなくても、技術革新があればGDPは増加します。この技術革新とはイノベーションです。
アメリカのTFPの伸び(成長率)について、ゴードン氏は次のように述べています。
つまり、技術革新による成長は、1920年〜1970年の間は経済成長をもたらしましたが、1970年〜1994年は大きく減速しました。1994年〜はITの発達で再び成長しましたが、2004年以降は減速したのです。
なぜIT革命の果実が2000年代前半に終焉を迎えたのでしょうか。 このIT革命についてソローは、「コンピューターは至るところで目にするが、生産性統計には見当たらない」と言います。つまり、コンピューターは食べられないし、どこかに連れていってくれません。1990年に読んでいた雑誌は、2020年にはスマートフォンになりました。しかし、読んでいる内容に変わりはありません。
ICT技術の進歩によって、物流、在庫管理、社内の業務(基幹システム)などは変わり、効率は改善され、これまで以上に多様な商品を短期間に提供できるようになりました。こうした経済効果は、1990年代のICT革命でほぼ出尽くしました。 一方、セルフレジやATMなど、これまで人が行っていた業務が無人化されました。飲食店ではタッチパネルによる注文が一般的になってきました。しかし、これによる生産性向上は、人件費の削減に限られています。今後、飲食店などサービス業でもロボットやAIが導入されても、だからといって顧客が2倍に増えたり、2倍の料理を注文するわけではないのです。
そして、ICT技術自体も頭打ちになってきました。これまで半導体の集積度は「ムーアの法則」に従い、2年間で2倍に増加してきました。

2010年以降、トランジスタの数の増加率はムーアの法則を下回るようになりました。(それでも増加しているので、半導体の性能自体は向上していますが)また、コンピューターの速度を表すクロックスピードは2003年以降変化していません。理由は、これ以上高速・高性能なコンピューターに対するニーズが減少し、多額の資金を投じて開発するメリットが弱くなっているからです。
このように、第二次産業革命のような大きな経済成長をもたらすイノベーションは、今のところ見当たりません。先進国は今後も低成長が続くと考えられます。その一方、新興国は工業化と輸出による成長モデルに乗り切れず、先進国に追いつけずに終わる可能性があります。
ITによる社会の変化に関して
今のところ、AIは新たな雇用を生み出すより、雇用を破壊する傾向が出ているようです。オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授は論文「雇用の未来」で、アメリカの雇用のうち、47%が今後10年~20年以内にコンピューター化(AIやロボットによる自動化)されるリスクが高いと述べました。そこで代替リスクの高い職業として、定型的な作業の職種、事務員、レジ係、運転手、警備員、製造業の単純作業などが挙げられました。現実には、むしろ代替リスクが低いとみられていた創造性を必要とする職業、プログラマー、デザイナー、ライター、電話オペレーターなどがAIによって仕事を奪われています。しかも、奪われた仕事に代わるような雇用をAIは生み出していません。
アメリカの失業率は、2009年10%だったものが2016年には5%まで低下しました。しかし、労働生産性の伸びは2015年までの5年間で0.3%と低いままでした。労働生産性は時間当たりの生み出す付加価値なので、賃金が上がらなければ伸びは限られます。
問題は、良質で安定的な中間レベルの仕事が消えていったことです。ITの進歩やグローバル化の影響もあって、誰でもできる仕事は増えています。しかし、その賃金は低下しています。これが格差の拡大につながっています。
こうした状況を企業が変えるのは困難で、政府の役割が重要です。ロバート・J・ゴードン氏は以下のように主張します。
雇用主の力が強く、非正規雇用が多いサービス業は賃金が常に低いところに留め置かれます。だから、賃金の引き上げには政府による強制力が必要です。一般には最低賃金を引き上げれば失業率が増加すると言われます。しかし、労働需要があれば高い賃金でも雇用します。実際、最低賃金の引き上げが失業率を上げる兆候は見られません。
このような環境では、格差は放置すれば拡大します。これを縮小するには、政府の関与が不可欠です。
例えば、累進課税のような所得税の税率の累進性を高めて、高所得者への課税を強化することです。
また、最低賃金を引き上げれば、企業は省人化・自動化を促進します。これは生産性をさらに高めます。しかし、サービス業ではロボット化による人の削減効果は低いため、雇用の減少は抑えられますが、それでも社会全体の雇用は減少します。そのため、政府による失業対策が必要です。失業者を政府が雇用したり、失業保険や休業補償を行ったりします。給付コストを抑えるために、全員に一律支給するベーシックインカムという方法もあります。
『アメリカ経済 成長の終焉』ロバート・J・ゴードン著(日経BP社)
『資本主義が嫌いな人のための経済学』ジョセフ・ヒース著(NTT出版)
『なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか』ロバート・C・アレン著(NTT出版)
『新自由主義の暴走』ビンヤミン アッペルバウム著(早川書房)
『デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか』ライアン エイヴェント著(東洋経済新報社)
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「中小製造業の『原価計算と値上げ交渉への疑問』にすべて答えます!」
原価計算の基礎から、原材料、人件費の上昇の値上げ計算、値上げ交渉についてわかりやすく解説しました。
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【基礎編】アワーレートや間接費、販管費の計算など原価計算の基本
【実践編】具体的なモデルでロットの違い、多台持ちなど実務で起きる原価の違いや損失を解説
経営コラム【製造業の値上げ交渉】【製造業の原価計算と見積】【現場で役立つ原価のはなし】の過去記事は、下記リンクからご参照いただけます。
]]>発展途上国の貧困の原因は、私有財産制度や支配者の不在、植民地化と部族間の対立、豊富な鉱物資源に依存したため工業化が進まないなどがあります。対して日本を含むアジアの国々は政府主導による「ビッグプッシュ型工業化」により製造業を中心に経済成長を遂げました。
日本では政府主導による「富国強兵」政策によりインフラ整備と教育の充実が図られ、政府の介入で産業が育成されました。また高度経済成長期の需要の高まりが経済成長を支えましたが、バブル崩壊により低成長時代に突入しました。前回、高賃金がイギリス、アメリカの設備投資を誘引し、それが生産性の向上を実現し、イギリス、アメリカは世界屈指の工業国になりました。
では発展途上国はなぜ貧しいままなのでしょうか?
ヨーロッパやアメリカに比べ、新興国はなぜこうした発展の道筋に至らないのか、西アフリカの歴史を振り返ってみます。
アフリカが貧しいのは、アフリカに農耕文明がなかったためです。1500年の時点で、農耕文明があったのは、西ヨーロッパ、中東、インドの一部、中国、そして日本のみでした。農耕文明には、私有財産制度と支配者の権力と徴税、そして社会体制が必須でした。さらに農耕文明を維持するためには、生産性の高い農業や商業を必要とし、そのためには読み書きや貨幣も必要としました。
アフリカは8世紀までの間にバナナ、ヤムイモ、タロイモ、豆などの作物がアジアからもたらされ、16世紀にはアメリカ大陸からトウモロコシ、落花生、タバコなどが入りました。こうして定住農村化し、出生率は上昇しました。しかし熱帯病のため死亡率は高く、人口は低いまま、中東、インドの一部、中国でしたなどのように増えませんでした。人口は低く、広大な土地は誰でも利用可能なため、土地の私有財産や土地の支配者の争いもありませんでした。皮肉なことに大規模な争いがなかったため、支配体制を基礎とする農耕文明に至らなかったのです。アフリカでは部族社会以上の大きな社会集団にはなりませんでした。
こうしたアフリカの部族社会にヨーロッパ人がやってきました。彼らの持ってきた綿布、工芸品、そして銃などの武器にアフリカの人々は引き付けられました。そしてこういった商品を手に入れるために、金を採掘したり、ヤシの木を育ててヤシ油を搾ったりしました。
その後もっと手っ取り早い方法があることに気が付きました。奴隷です。元々アフリカでは強い部族が弱い部族を捕らえて奴隷とする文化がありました。そこで沿岸の部族は、こぞって他の部族を襲撃し捕らえた人々をヨーロッパ人に売り渡しました。こうして1500年から1850年の間に1千万人以上のアフリカ人が捕らえられて新大陸、あるいはアジアへと売られていきました。
こうしたアフリカの部族たちは19世紀に入るとヨーロッパの国々の植民地にされます。ヨーロッパの宗主国は植民地を一部の部族に統治させました。これは同じアフリカ人の中で支配する層と支配される層の対立を生み、部族間の対立を助長しました。しかもアフリカの失業と低賃金は兵士の調達を容易にしました。こうした地域紛争が経済の発展を阻害し、低賃金化を一層進める悪循環に陥りました。
かつて奴隷、鉱物資源以外、アフリカの主要産品であったヤシ油は、アジアの国々がヤシ油に参入したため価格が下落しました。チョコレート原料のカカオもアフリカ各国が生産を拡大することで価格が下落しました。しかも国家は農民から低い価格で強制的に買い上げ農民はずっと貧困のままでした。ヤシ油の生産には圧搾などの加工が必要ですが、低賃金のアフリカでは機械化しても効果がないという「技術の罠」に陥っていたのです。低賃金でしかも不十分な教育のため生産は非効率でした。内陸部では物流コストも高く、企業同士のネットワークが不十分なため、たとえ製造業を立地してもアジアの国々には太刀打ちできなかったのです。
後述の日本は政府主導による「ビッグプッシュ型工業化」で先進国仲間入りをしました。これを見た韓国、台湾、中国が続きました。しかし国民1人当たりのGDPが先進国並みの豊かな国になるためには、新興国は先進国を上回る経済成長が長期間必要です。
それを実現する唯一の方法は、工業化を進め製造業を盛んにして輸出を拡大することです。これによって外貨の獲得と国内での再投資、雇用の拡大、賃金の上昇が実現します。しかし製造業が発展するには、単独企業でなく多くの企業のサプライチェーンが必要です。
しかし国際的な物流網やサプライチェーンが発展し、様々なものがグローバルに調達できるようになったため、自国のサプライチェーンが構築される前に、すでに工業化のピークを迎える懸念が出てきました。経済学者ダニ・ロドリックはこれを「早すぎる脱工業化」と呼びました。
国際的な物流の発展と物流コスト減少により、「ベトナムで作った部品を中国で組立、それをメキシコの工場で自動車にする」こうしたことが日常的に行われています。ベトナムは部品の製造のみで、サプライチェーンの一部を担うにすぎません。そうこうするうちにベトナムの賃金が上昇すれば、企業は工場は他の低賃金国に移動します。これでは新興国は先進国に追いつくための経済成長が持続できません。
韓国の総付加価値における製造業の割合は1988年にピークに達しました。1人当たりのGDPは1万ドル、当時のアメリカの半分程度でした。インドネシアは2002年にピークに達し、その時の1人当たりのGDPは6,000ドル、インドは2008年にピークに到達し、1人当たりのGDPは3,000ドルでした。これらの国々は今後は製造業以外の産業で先進国に追いつくだけの経済成長を成し遂げなければなりません。しかし製造業以外の産業でこれだけの経済成長を実現できるでしょうか。
ではなぜ日本はいち早く先進国の仲間入りができたのでしょうか?
江戸時代を通じて日本の賃金は低く、資本を投じて生産性を高める意欲はありませんでした。幕末の江戸を訪れたヨーロッパ人は、なぜ馬車を使わないのか疑問に思いました。その理由は当時の江戸には低賃金で荷物を運ぶ人足に事欠かなかったのです。
当時農業の生産性を高める方法は、労働投入量を増やして、米の収穫後に小麦、綿、桑、菜種などを収穫することでした。一方周りが海に囲まれた日本は海運が発達しました。こうして安定した物流が実現し商業が発展しました。商業は読み書きの需要を高め、多くの子供が寺子屋で学びました。その結果、江戸時代の成人男性の識字率は50%を超え、世界トップクラスでした。
列強の脅威の中で船出した明治政府は「富国強兵」をスローガンに欧米諸国に追いつくことが第一の目的でした。そこで工業化を実現するため、内国税を撤廃し鉄道網を整備して単一の全国市場を創出しました。初等教育を義務化することで教育を浸透させました。
一方近代的な銀行制度の確立には時間がかかりました。しかも不平等条約のため関税で国内産業を保護することもできませんでした。そこで政府自らがベンチャー資本家となり、直接経済に介入し、多くの官営工場が設立されました。設備は欧米から導入されましたが、それは低賃金の日本には高すぎました。そこで低賃金の日本で採算がとれるように欧米の技術を作り変えました。築地製糸場ではヨーロッパ式の機械を木製に作り変え、動力は蒸気機関でなく人力にした「諏訪式座繰機」が使われ、これは国内に広く普及しました。

ミュール紡績機の代わりに地元の大工がつくることのできる「ガラ紡」が使われ、昼夜2交代で操業しました。

こうして資本を節約し、労働を増やすことで日本の綿紡績は20世紀には世界で最も安価になりました。
1905年に官営八幡製鉄所が創業しました。しかし利益が出るようになるまで補助金が必要でした。その後第一次世界大戦でヨーロッパの造船需要が増大し、特需に沸きました。工業化を進み、1人あたりのGDPは大きく成長しました。大企業の賃金も上昇しましたが、農村や零細企業の賃金は低いままでした。
第二次世界大戦で軍事産業に重点を置いた工業生産は大きく破壊され、企業は解体されました。戦後、国は西洋との格差を縮めるため政府が主導する「ビッグプッシュ型工業化」を推進しました。かつてのような欧米の近代技術を日本の実情に合わせる資本節約型でなく、近代的な資本集約型を採用、1970年代には投資率が国民所得の1/3に達しました。こうして急速に資本ストックが整備され、日本は短期間に高賃金経済に転換しました。
鉄鋼業は代表的な資本集約型の産業です。戦前は最大でも八幡製鉄所の180万トン、アメリカよりも規模が小さく、低賃金の日本でも鉄はアメリカやヨーロッパよりも高価でした。通産省の指導により日本製鉄と八幡製鉄所の合併など鉄鋼業界が再編されました。鉄鋼業界の効率の高い最小生産規模は当時700万トンになっていましたが、新しくつくられた日本の製鉄所はこの規模を超えたため、効率でアメリカの製鉄所を超えていました。鉄鋼メーカーも積極的に設備投資や技術革新を行った結果、1975年には日本は最も安価で高品質な鉄を年間で1億トン以上生産しました。こうした鉄の1/3は輸出され、これがアメリカの鉄鋼業に大きなダメージを与えました。
こうした鉄の利用先に自動車産業がありました。1960年代、日本はモータリゼーションが活況となって自動車の生産は拡大しました。日本の自動車メーカーは大規模な設備投資を行い、プレス加工から塗装、組立てまで一貫生産できる工場をつくりました。こうした工場では年間80万台の規模があり、高度に資本集約的な生産で高賃金でも低価格の自動車をつくれました。
一方で国内消費は、年功序列賃金、終身雇用など日本独自の慣行により、大企業の社員は賃金が増加し、これが住宅、自動車などの消費を押し上げました。さらに1960~1970年代高度成長期には経済の拡大に労働力の供給が追い付かず、人手不足から賃金が上昇しました。これにより大企業と中小零細企業の賃金格差が縮小しました。
日本の好景気は1991年の不動産と株のバブル崩壊で終わりを告げ、長いデフレの時代に入りました。ただしバブル崩壊はきっかけに過ぎません。低成長の真の原因は高度成長を可能にした条件がなくなったためでした。それは欧米との以下の3つの格差によるものでした。
この格差は1990年代までに解消されました。日本は欧米各国と同じになり、以降は欧米各国の技術進歩に伴う成長と同じ水準、毎年1~2%でしか成長できませんでした。
参考文献
「アメリカ経済 成長の終焉」ロバート・J・ゴードン著 日経BP社
「資本主義が嫌いな人のための経済学」ジョセフ・ヒース著 NTT出版
「なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか」ロバート・C・アレン著 NTT出版
この記事を書いた人
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企業不祥事と組織の問題 その3で日野自動車の排ガス・燃費不正問題、その4で三菱自動車の燃費不正問題を取り上げました。これらに共通するのは不正以外に方法がないところまで担当者を追い込んだ組織と管理者の問題でした。第三者委員会の報告書には従業員アンケートの結果、そこには無理な目標やできないとは言えない企業風土がありました。内向き組織の組織や現場を顧みないリーダーがどんな結果を招くのか、過去には挑戦戦争のマッカーサー元帥もそうでした。
企業不祥事にについて、以下のコラムで取り上げました。
コンプライアンスと内部統制について、「企業不祥事と組織の問題 その1 ~コンプライアンスと内部統制~」
技術者に求められる倫理観と組織の問題について「企業不祥事と組織の問題 その2~工学倫理と問題を起こす組織~」
日野自動車で起きた排気ガス・燃費不正問題について第三者委員会の調査報告書から、「企業不祥事と組織の問題 その3 ~日野自動車の排気ガス、燃費不正~」
三菱自動車の燃費不正問題について、第三者委員会の調査報告書から企業不祥事と組織の問題 その4 ~三菱自動車の燃費不正~
スバル・日産の完成車検査不正について、第三者委員会の調査報告書から企業不祥事と組織の問題 その5 ~スバル・日産の完成検査不正~
組織の問題について、日野自動車、三菱自動車の不正問題の第三者委員会の報告書では従業員アンケートの結果を掲載しています。社員が自社をどのように見ていたのでしょうか。
リーダーの問題について取り上げました。
日野自動車特別調査委員会は従業員9,232名にアンケートを行い、2,084通(22.6%)の回答を得ました。その中のいくつか抜粋します。
アンケートの結果から、困難な目標や日程に対し、管理者は担当者をサポートするどころか、叱責して追い詰めるばかりで、具体的な解決策を提示になかった様子が伺えます。
特別調査委員会は2026年三菱自動車の開発本部及びMAEの社員4500人にアンケートを行い、849通の回答を得ました。主な意見を以下に示します。

図9 正しい情報が上がってこない
2011年に従業員に対して行ったコンプライアンスアンケートの結果、コンプライアンス問題としてアンケートに記載されていたことには以下のものがありました。
また2009年から2015年にかけて行われた性能実験及び認証部における技術倫理問題検討会では以下の指摘がありました
技術開発の現場ではうまくいかないことや失敗は常に起きます。それを一人で解決するのは限りがあります。
多くの企業はこうした困難に対し、様々な部署や人が協力して克服しました。それがお互いに背を向けて自分の問題だけ見ていれば、組織の力が発揮できません。
過去にリコール隠しというコンプライアンス違反があった同社は、コンプライアンスに対するアンケートや企業倫理問題検討会を実施してきましたが。そこでは今回の不祥事の原因となるような問題も報告されていました。しかしこうした組織や管理者の問題は改善されませんでした。
これまで見てきた日野自動車、三菱自動車、日産、スバルで起きた問題は、それぞれ企業固有の問題でしょうか。これらの問題は、経営陣や幹部社員が現場や社員を置き去りにして、業績や生産性を追求した結果、必然的に発生したものではないでしょうか。
そうならばこうした不祥事は、どこの企業でも起きるのではないでしょうか。
日野自動車、三菱自動車では、経営陣が技術的な知見に照らして実現可能性を再考することなく、担当部門や担当者に目標実現のプレッシャーを強くかけました。その結果、担当者を不正しか方法がない状況に追い込まれました。その背景に実力以上の製品ラインナップや開発期間の短縮がありました。そしてこうしたことが常態化したため、現場は疲弊し声を上げることもなくなっていました。
完成車検査制度や惰行法による排ガス測定は、当時の自社のリソースから見れば無理な状況でした。にもかかわらず現場だけで解決しようとして、法規から逸脱してしまいました。スバルや日産の不正は、わずか数十人の完成検査員の不足が原因です。もし不正の影響の大きさ、発覚した場合の損失金額を考えれば、少なくとも経営者ならばいくらでも手を打つことができた問題でした。しかし経営者は問題を適切に把握できていませんでした。そして問題は現場から経営者に伝わらず、発覚して初めて経営者は知りました。その原因に以下の2つの要素が考えられます。
日本社会はムラ社会といわれます。そして企業もムラ社会であると同時に、企業内部の組織もムラ社会を形成します。ムラの中では、ムラ(組織)を守ることが優先されます。時には会社全体の利益よりもムラが優先されます。例えばスバルでは老朽化した設備の更新は経営陣に訴えられず、現場が工夫して何とかしようとします。その結果が不適切な検査でした。
三菱自動車の性能実験部は、会社の中で、自分たちのムラの立場でもできないと言えませんでした。その結果楽観的な回答を経営陣にしていました。
こうした価値観の中に、こうした結果からもたらされる“性能の出ていない車”を買う顧客のことはあったのでしょうか。
製品全体を取りまとめるプロジェクト責任者が「担当した製品がどのようなもので、試験評価の結果がどうなっているのか」関心を持つのは当然です。評価は担当部署が行うとしても、評価状況を実際に見て、評価の担当者から直接話を聞き、情報を得るのはリーダーとして必要なことです。
それは職制を通じて上がってくる情報には様々なフィルターがかかっているからです。自分の目で見たことと、報告される情報を突き合わせて、初めて適切な判断ができるのではないでしょうか。
「できない」という報告をリーダーはどう理解したのでしょうか。燃費や排ガス性能にはトレードオフの要素があります。それでもチューニングによって改善できる余地はあるかもしれません。しかしそれは頑張ってできるのか、その判断は容易ではありません。それでも物理的な制約を超えて、「できない」ことが「できる」ようになりません。どれだけ頑張っても、船は空を飛べないし、飛行機は水に潜ることはできないのです。燃費に不利なスクエアストロークのエンジンで、他社のロングストロークのエンジンと同等の燃費性能を出すの、現実には可能だったのでしょうか。不可能を強要したのであれば、担当者に残された手段は不正しかありません。
官僚組織ではリーダーには部下から情報が自然と集まってきます。それに対し個々に指示を下せばリーダーの仕事はできます。しかし部下の報告だけで行う判断と、自ら現場を訪れ、現場の空気感に触れた判断は異なります。
北朝鮮の金日成が突如38度線を越えて始まった朝鮮戦争で国連軍を指揮したのはGHQのダグラス・マッカーサーでした。彼はずっと東京のGHQ本部で指揮を執り、朝鮮半島の戦場を訪れたのは1度だけ、しかも日帰りでした。彼には、夏服しか支給されず、氷点下の冬の朝鮮半島で戦うアメリカ兵のつらさをわかっていたのでしょうか。
朝鮮戦争では、突如北朝鮮軍の侵攻を受けた韓国軍は総崩れとなり国連軍(実態はアメリカ軍)も釜山にまで追い詰められました。しかしその後の仁川上陸作戦をきっかけに国連軍は反攻に転じ、北進を続けた国連軍はトルーマン大統領の意に反して中国国境付近まで進軍しました。この時、中国の周恩来首相はアメリカに「これ以上の進軍は許さない」と警告しました。しかし側近はマッカーサーの機嫌を損なうことを恐れ都合のいい情報しか報告せず、マッカーサーも中国の介入はないという思い込みがありました。そのため中国軍の行動を知らせる情報が入っても、よもや中国が参戦するとは思いませんでした。
11月1日彭徳懐が率いる30万人の中国軍が突如攻撃を開始、国連軍は多大な損害を出しました。国連軍は38度線まで後退し、マッカーサーはトルーマン大統領に原爆の使用許可を求めるほどうろたえました。
花王のエコナクッキングオイル(以降エコナ)は特定保健用食品の許可を得たこともあり、年間売上が200億円、他社にはない強力な商品でした。グリシドールという物質には発がん性がありますが、エコナに含まれるグリシドール脂肪酸エステルは全く別の物質です。そしてグリシドール脂肪酸エステルがグリシドールになるという科学的な根拠はありません。
ところが2009年消費者団体が「エコナ=発がん性」と主張したことで、エコナの発売停止とトクホの取り消しを求める運動を展開しました。マスコミもこれを大きく取り上げました。花王はエコナの販売を自粛し、安全性の説明を続けましたが、報道は更に過熱しました。
花王の尾崎社長は、自らコールセンターに行って、電話が鳴りっぱなしの現場を見ました。「大量の電話がきて、その状態が続くのは異常なことだと。電話の中身はさまざまだったが、社員がかかりきりになるような事態は経営者として続けさせるわけにはいかない。いったん撤退して事を収め、そのうえで再出発しようと決めた。
…社長として安全かどうかという議論よりも、まずこの流れを止めないと会社の存続にもかかわると判断した。」
もし尾崎社長がコールセンターを訪れていなかったら、判断はどうなったのでしょうか。
「調査報告書」2022年8月1日日野自動車(株)特別調査委員会
三菱自動車「燃費不正問題に関する調査報告書」 2016年8月1日特別調査委員会
日産自動車「調査報告書」2017年11月17日西村あさひ法律事務所
スバル「完成車検査の実態に関する調査報告書」2017年12月19日長島・大野・常松法律事務所
「それでも企業不祥事が起こる理由」國廣正 著 日本経済新聞社
「ザ・コールデスト・ウィンター」デビッド・ハルバースタム 著 文藝春秋
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イギリスが19世紀に世界最大の経済大国になったのは、科学技術の進歩に加えて、高賃金と豊富な石炭があったためでした。これにより紡績の自動化や蒸気機関が発展しました。19世紀後半にはアメリカも賃金が上昇し機械化が進展しました。第二次世界大戦では軍需生産に多額の投資が行われ、これが戦後は消費の増加や民間製品へ転換され、1950年代以降の経済成長になりました。しかし1960年以降は、製品やサービスの質は向上しましたが生活に劇的な変化はあまり見られなくなりました。
イギリスは19世紀の産業革命によって世界最大の経済大国になりました。当時、イギリスのGDPは世界の20%を占めていました。なぜイギリスはそのような大国になったのでしょうか。
イギリスで産業革命が起きたひとつの原因は高度な科学技術があったからです。ロバート・ボイル、ロバート・フックやアイザック・ニュートンなどの科学者が数学、化学、物理で最先端の研究を行っていました。
しかしこうした科学技術があっただけでは、イノベーションを起こすことはできません。イギリスが産業革命の主役となったのは、他にも理由がありました。
17世紀、綿製品は中国とインドが最大の産地でした。そこでつくられた綿製品はヨーロッパに送られ、ヨーロッパではそれまで主流だった亜麻織物や毛織物に綿製品が取って代わりました。綿糸は細いほど時間がかかるため、賃金の高いイギリスでインド製品と競合できたのは太糸の綿製品だけでした。
18世紀にはリチャード・アークライトが紡績の自動化に取り組みました。そして1760年代にはジェイムズ・ハーグリーヴズがジェニー紡績機を開発しました。さらにクロンプトンのミュール紡績機は、より細糸の自動化に成功し、細糸の低コストの製品が可能になりました。ただし当時紡績機を動かす動力は水車でした。そのため工場は川のある所にしか建てられませんでした。
この機械化した工場は当初は赤字でした。しかし粘り強く機械を改良した結果、低賃金のインドと価格で競争できるようになりました。1780年代アークライト型の工場がイギリスは約150ありました。対してフランスは4、インドは0でした。イギリスではアークライト型の紡績工場の収益率は40%もあり、投資しても十分な見返りがありました。こうしてイギリスでは工場の機械化が進みました。

実はイギリスが高賃金だった原因は、伝染病の流行で人口が減少したためでした。対するフランスは人口が多く十分な労働力がありました。そのため機械化は採算が合わなかったのです。こうして綿工業はイギリス最大の工業部門になり、1830年にはGDPの8%を占めるまでになりました。
1685年フランス人ドゥニ・パパンが世界最初の蒸気機関を試作しました。1712年にはトマス・ニューコメンがこれを実用的な装置として完成させました。この蒸気機関は当時炭鉱で排水ポンプとして使われました。売れないくず炭が豊富にあった炭鉱では燃料には事欠かなかったからです。

こうして使われ始めた蒸気機関をジェイムズ・ワットらが改良を重ねました。19世紀の終わりには、同じ馬力を得るのに必要な石炭の消費量は当初の1/44にまで減少しました。こうして少ない石炭で動くようになった蒸気機関は経済的な動力源になりました。そして紡績工場で水力に代わって広く使われるようになりました。
紡績機も蒸気機関もできた当初、性能は低く、綿織物は人でつくつた方が、工場の動力は水車の方が優れていました。それを改良し続けたのは、綿織物は高賃金のイギリスは低賃金のインドに勝てなかったこと、蒸気機関は炭鉱の排水ポンプという用途があったためでした。
蒸気で動力が取り出せれば、次には蒸気で動く乗り物が考えられます。しかし重い蒸気機関は、舗装されてない悪路を走ることはできません。その一方鉱山や製鉄所は、鉱石や石炭を運ぶためにレールを引き、貨車を馬が引っ張っていました。
ウェールズのペナダレン製鉄所で1804年最初の蒸気機関車が使われました。蒸気機関車はその後改良されていき、1830年最初の一般用の鉄道リヴァプール・マンチェスター鉄道が開通しました。20年後の1850年には鉄道の総延長は1万キロメートル、1880年には2万5千キロメールになっていました。

一方蒸気機関の船舶への応用は、当初から世界各国で取り組まれました。1774年には最初の蒸気船がフランスで作られ、1807年にはアメリカのハドソン川で定期運航が始まりました。その後、蒸気機関が進歩し石炭の消費量が少なくなるに従い、遠距離航路で運用できるようになりました。それでも中国からイギリスへの航路は19世紀末までは帆船が使われていました。
ニューコメンが蒸気機関を発明してから100年経った1800年ですら、蒸気機関のイギリス経済への貢献はわずかなものでした。しかし19世紀にはいると蒸気機関は広く使われるようになりました。この時期イギリスの労働生産性の伸びの50%は蒸気機関によるものでした。
今では世界屈指の工業国であるアメリカも19世紀には工業化でイギリスに及びませんでした。なぜアメリカの工業が発展したのでしょうか?
18 世紀当時、最先端機器のひとつが銃でした。この銃の部品はやすりなどの手作業で製造していました。部品同士の互換性はなく、戦場で部品が1つ壊れればその銃はもう使えませんでした。
1760 年代、銃が火縄(マッチロック 式)から火打ち式(フリントロック式)に変わった頃、フランスのオノレ・ブランは、戦場で発火装置が壊れても交換できるように発火装置に“互換性”を持たせることを考えました。試行錯誤の末、ブランは発火装置の互換性を実現しました。しかしフランスでは職人の強い反対に遭い、互換性を持った銃の製造は普及しませんでした。
1785 年、(後のアメリカ大統領となる)トーマス・ジェファーソンはパリの銃工場を訪れました。そこで互換性を持たせたブランの製造方法を見ました。イギリスとの独立戦争が迫っていたアメリカは銃を大量に必要としていました。
1774 年、ジェファーソンはアメリカのスプリングフィールドに銃を製造する工廠を設立しました。この工廠ではブランの製造方法で部品同士に互換性を持たせました。加えてフライス盤、ならい旋盤、水力式プレスなどの工作機械を開発し、品質の安定と高い生産性を実現しました。
この互換性を持った「標準化された製品」を大量生産する「アメリカン・システム」は、その後ミシンや自転車などの工業製品の製造に用いられ、アメリカの製品が世界中で求められる原動力になりました。
1851年ロンドン博覧会で、ヨーロッパの人々から辺境の地と思われていたアメリカから、芝刈り機など数々の機械や拳銃などの工業製品が展示されました。サミュエル・コルトの拳銃は、部品同士完全な互換性があり、バラバラにして他の拳銃と部品を替えても復元できたため、ヨーロッパで高い関心を集めました。
イギリスの例でわかるように、賃金が高ければ機械化への意欲が高まります。設備投資が行われ、資本集約的な生産になります。これがさらなる高賃金を引き起こします。こうして19世紀から20世紀初頭にかけて、イギリス、アメリカの生産性は高くなり、1人当たりのGDPは大きく増加しました。対して日本、韓国などアジアの国々は1950年以降活発な設備投資を追い風に1人当たりのGDPが大きく増加し、2000年代にはアメリカ、イギリスに肩を並べるまでになりました。
表 各国の一人当たりのGDPの変化 単位 : ドル
| 1820年 | 1870年 | 1913年 | 1950年 | 1973年 | 1990年 | 2010年 | |
| イギリス | 1,706 | 3,190 | 5,130 | 6,939 | 11,116 | 18,714 | 36,120 |
| アメリカ | 1,257 | 2,445 | 5,301 | 9,561 | 16,689 | 23,214 | 48,112 |
| 日本 | 669 | 737 | 1,387 | 1,926 | 11,439 | 25,268 | 42,831 |
| 韓国 | 576 | 658 | 945 | 854 | 2,824 | 9,745 | 29,745 |
| シンガポール | 688 | 1,025 | 1,387 | 2,292 | 8,722 | 24,161 | 62,792 |
| 中国 | 600 | 530 | 552 | 439 | 978 | 2,016 | 7,569 |
| インド | 533 | 533 | 673 | 619 | 853 | 1,359 | 3,176 |
逆に貧しい国が貧しいままなのは、賃金が低いためです。賃金が低ければ設備投資をするよりも人が行った方が低コストです。そのため設備投資が行われず、生産性は上がりません。
19世紀後半人手不足だったアメリカはイギリスよりも賃金が高くなりました。広大な国土のアメリカはまだまだ人が足りていなかったのです。1890年代ジェイムズ・ヘンリー・ノースロップは高度に自動化した自動織機を発明しました。高度に自動化された織機は賃金の高いアメリカでは十分な利益を上げましたが、イギリスでは高すぎ普及しませんでした。
19世紀から20世紀にかけて、アメリカ人発明家の活躍も際立っていました。トーマス・エジソン、ライト兄弟、他にもモールス信号を発明したサミュエル・モールス、電気を発明したグラハム・ベル、草刈り機を発明したサイラス・マコーミックなど、優れた個人発明家がイノベーションをけん引しました。
アメリカに優れた発明家が多かった原因にアメリカの特許制度がありました。ヨーロッパと違いアメリカの特許制度は発明者の権利が強く守られていました。
イギリスでは発明内容の詳細な公開が義務付けられ、特許料も発明の5%に抑えられていました。対するアメリカでは発明者はライセンス供与による特許技術の売買が広く行われていました。そのためたとえ資本がなくても特許を元に資金を集めて事業を起こすことができました。
これにより1860年から1880年にかけて特許件数は急増し、その後1940年頃まで特許件数は高止まりしていました。
ダイムラーが発明したガソリンエンジンで動く車は、ヘンリーフォードの大量生産システムにより劇的にコストを下げました。1910年人々の移動や物流は主に馬車でした。それが1910年から1930年の20年間で自動車が馬車にとって代わりました。馬糞が点々と残る泥の道が舗装した道路に代わり、1929年には世界の自動車登録台数の90%がアメリカでした。
移動の自由度が拡大したことでアメリカ人の生活は大きく変わりました。
① 都市間の鉄道の開設で物流が大きく改善されました。
② 都市内の移動は鉄道馬車から電気鉄道へと急速に移行しました。1904年にはすでにニューヨークで地下鉄が走っていました。
③ 自動車が普及したため、人々は職場から離れた郊外に家を買うようになりました。そして休日には 遠く離れた店に買い物に行くようになりました。
こうして世界で最も進歩した工業国となったアメリカは1950年代から1960年代にかけて、その黄金時代を迎えました。その一因は戦争にありました。
第二次世界大戦は国を挙げての総力戦でした。そのためアメリカ政府は軍需生産の拡大に大量の資金を投じ、政府の資金で各地に工場が建てられました。ミシガン州フォードの工場では5万人が働き、最盛期には1か月で432機のB-24爆撃機が作られました。戦時下の愛国心のため労働者の意欲は高く、労働者は効率が上がることなら、どんどん提案しまし、工場は高い生産性を実現しました。カイザーの造船所でつくられた戦時輸送船は、当初1隻に8か月と見込まれていた期間が、数週間に短縮されました。最短では4日で完成しました。こうした軍需生産と輸出の拡大による経済の急速な成長を、アメリカの経済学者 アルヴィン・ハンセンは「高圧経済」と呼びました。
戦後、軍需生産は急速に減少しましたが、多くの軍需工場はいち早く民需製品に転換しました。戦時中、消費を我慢した国民の消費(繰延需要)への欲求は高く、さらにヨーロッパは生産設備が破壊されたため、アメリカ製品の格好の輸出先となりました。
一方政府は戦時中に導入した所得税や消費税などの課税制度を戦後も維持しました。高い税収を背景に財政支出も高水準を維持しました。さらに連邦準備制度(FRB)が金利を低く抑え、民間の投資や消費を促進しました。これら一連の政策によりアメリカは1950年代から1960年代にかけて高い経済成長率を維持したのです。
このアメリカの黄金時代「大躍進(グレート・リープ)」は、格差の縮小「大圧縮(グレート・コンプレッション)」をもたらしました。政府は復員軍人の大学教育を無償化、多くの若者が高等教育を受けました。加えて労働運動の高まりもあって賃金が上昇、これが設備投資を拡大させました。こうした設備投資の拡大と生産性の向上は商品の価格を低下させ、それがさらに消費を拡大する好循環が生まれました。
アメリカ人の生活を1900年、1960年、2000年を下記の表で比較しました。1900年から1960年の間に、第二次産業革命により自動車、冷暖房、テレビ、ラジオなど様々な製品やサービスが現れました。これにより人々の生活は大きく変わりました。
一方1960年から2000年にかけては、製品やサービスの質は向上したものの、生活を大きく変えるような製品は多くありません。2000年以降スマートフォンが出現し、私たちの生活は大きく変わりました。しかしスマートフォンによるGDPへの直接的な影響は限られています。
表 1900年、1960年、2000年の生活の違い
| 1900年 | 1960年 | 2000年 | |
| 移動手段 | 馬、鉄道馬車 | 自動車 | 自動車・飛行機 |
| 住居 | 戸建(冷暖房なし、薪、井戸) | 戸建(冷暖房、ガスレンジ、水道) | |
| 食事 | 肉、野菜を自宅で調理 | プラス 多様な加工食品 | 格差(貧困層の肥満) |
| 娯楽・通信 | 劇場(富裕層、都市) | テレビ、ラジオ、映画 | プラス 携帯・ネット |
| 健康 | 37%が感染症で死ぬ | 死因の60%が三大慢性病 | |
一方1900年から1960年の間の人々の生活の変化の中にもGDPに現れないものもあります。例えば
つまり1870年から1970年までの100年間の発展は、GDPの大きさで評価すれば、過小評価してしまいます。実際はこの100年間、金銭的な変化に加えて質的な変化も伴っていました。人々にもっと大きな豊かさをもたらしたのです。
情報通信技術の発展は、企業の生産性向上や新しいビジネスなど、様々な変化をもたらしました。例えば1990年代の米国経済では、ITを中心とした設備投資の拡大が長期的な成長の要因と言われています。これは産業革命に匹敵する変化として「IT革命」と呼ばれました。
本当にICT革命は豊かさをもたらしたのでしょうか。これについては、別の機会にお伝えします。
「アメリカ経済 成長の終焉」ロバート・J・ゴードン著 日経BP社
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